(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109040
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ポータブル・ベクレル計
(51)【国際特許分類】
G01T 1/167 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
G01T1/167 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010407
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】512029630
【氏名又は名称】株式会社日本遮蔽技研
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝央
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴浩
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA06
2G188AA23
2G188BB04
2G188CC20
2G188EE14
2G188EE25
2G188FF28
2G188GG02
2G188GG05
2G188GG06
(57)【要約】
【課題】持ち運び可能な且つ現場で放射能測定が可能なポータブル・ベクレル計を提供する。
【解決手段】放射線検出器で検出した放射線の計数率に基づいて線量率を求める第1演算部と、測定対象物までの距離Lを測定する測距処理部と、線量率に対応する1cm線量当量率定数Γを記憶したデータメモリと、下記の式に基づいて放射能Aを求める第2演算部とを有する。
A=(DL
2)/Γ
A:測定対象物の放射能(MBq)
D:サーベイメータで測定された線量率(μSv/h)
L:距離計で測定された距離(m)
Γ:1cm線量当量率定数(μSv・m
2/MBq/h)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物からの放射線を検出する放射線検出器と、
該放射線検出器で検出した放射線の計数率に基づいて線量率を求める第1演算部と、
前記測定対象物までの距離Lを測定する測距処理部と、
前記線量率に対応する1cm線量当量率定数Γを記憶したデータメモリと、
下記の式に基づいて放射能Aを求める第2演算部とを有することを特徴とするポータブル・ベクレル計。
A=(DL2)/Γ
A:測定対象物の放射能(MBq)
D:サーベイメータで測定された線量率(μSv/h)
L:距離計で測定された距離(m)
Γ:1cm線量当量率定数(μSv・m2/MBq/h)
【請求項2】
請求項1に記載のポータブル・ベクレル計において、
放射能(Bq)表示の機能を拡張した表示部を更に有し、
該表示部の表示モードとして、
測定した放射能の数値を表示する基本表示モードと、
前記第1演算部で求めた線量率又は線量を数値表示する線量表示モードと、
前記測定対象物までの距離を数値表示する距離表示モードとを備え、
これら基本表示モード、線量表示モード、距離表示モードがユーザにより選択可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはベクレルモニタに関連した技術であり、詳しくは携帯して現場で放射能測定が可能なポータブル・ベクレル計に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の原子力事故の後、原子炉廃止措置や放射能汚染物貯蔵サイトなどの作業現場では、周辺環境の放射線量測定(μSv、μSv/h)や汚染土壌などの放射能測定(Bq、Bq/kg)が行われている。
【0003】
放射線量測定では、線量計(以下、「サーベイメータ」という。)が用いられる(特許文献1)。サーベイメータは、一般的には、小型軽量であり、また、持ち運びが容易であると共に、取り扱いもそれほど難しくはないことから、作業現場において作業員が、各自、比較的自由に使用することができる。
【0004】
一方、放射能測定では、ベクレルモニタが用いられる(特許文献2)。ベクレルモニタは、放射能測定に特化した装置であり、遮蔽体を含む大がかりな重量物である。このことから、多くのベクレルモニタは、専用の施設や部屋(測定室)に設置され、そして、特定の担当者によって測定が実行される。
【0005】
作業員は、現場でサーベイメータを使って放射線量をリアルタイムに測定する一方で、必要に応じて、放射性物質、すなわち放射性核種を含む、あるいはその恐れのある測定対象物(汚染土壌等)を採取し、採取した測定対象物を放射能測定施設に持ち込んで放射能測定を依頼する事が行われている。
【0006】
サーベイメータとベクレルモニタとは、性能の維持/確認のための校正においても異なっている。サーベイメータの場合、照射線量率の分かった照射線源が作る放射線場を利用して校正が行われる。これに対しベクレルモニタでは、標準線源が用いられる。この標準線源は、測定容器等に採取した測定対象物と物理化学的形状が同じか類似した材料で製作され、その含有放射能は、信頼できる機関によって値付けがされている。
【0007】
また、照射線源と標準線源は、ワーキングライフ(使用可能期間)の点でも、大きく異なる。照射線源のワーキングライフは例えば15年であり、標準線源は例えば3年である。
【0008】
以上のことから分かるように、作業現場では、放射線量測定と放射能測定とは別の分野であると理解されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-109120号公報
【特許文献2】特開2020-193811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
福島第一原発事故から10年を経過した現在、事故に関連する中間貯蔵施設などの作業現場では、主としてCs-137から放出されるγ線の場が形成される(γ線場)。こうしたγ線場の放射線量を測定するのに適した携帯可能なサーベイメータが用いられている。例えばSi半導体を用いたサーベイメータ、ガス検出器を用いたサーベイメータ、固体シンチレータを用いたサーベイメータ(以下、「シンチレーション式サーベイメータ」という)を例示的に挙げることができ、特にシンチレーション式サーベイメータがよく用いられている。サーベイメータによって現場でリアルタイムに放射線量を測定できる。作業現場では、このサーベイメータの利便性と同等の利便性でリアルタイムに放射能を測定したいという要請がある。
【0011】
本発明の目的は、持ち運び可能な且つ現場で放射能測定が可能なポータブル・ベクレル計を提供することにある。
【0012】
本発明の更なる目的は、持ち運び可能なサーベイメータと同様の簡便さで且つ現場で迅速に放射能測定が可能なポータブル・ベクレル計を提供することにある。
【0013】
本発明の更なる目的は、相対的に短期なワーキングライフの標準線源を必要としないポータブル・ベクレル計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
汎用のサーベイメータによりCs-137を含むか、その恐れのある測定対象物(以下、「Cs-137線源」という)が作るγ線場(以下、「Cs-137γ線場」という)における放射線量を求める場合を典型例として、以下に本発明の概念を説明する。この例において、サーベイメータでは、Cs-137γ線場の放射線量として「1cm線量当量率(以下、「線量率」という)」が次の式1で求められる。
【0015】
(式1) D=CND×N
D:Cs-137γ線場の線量率(μSv/h)
N:Cs-137γ線場の計数率(cps)
CND:Cs-137のND係数(μSv/h/cps)
(ND係数は計数率を線量率に変換するための係数である)
【0016】
変形例として、線量率に代えて1cm線量当量(以下、「線量」という)を測定する場合がある。このとき測定で得られるオリジナルのデータは、計数率ではなく積算計数になる。積算計数の値を、機械的に積算時間で割り算することにより、式1の計算に必要な計数率Nを得ることができる。このことから、線量率と線量とは実質的に等価である。
【0017】
本発明に従うポータブル・ベクレル計は、サーベイメータとの関係で説明すれば、次の式2で放射能量を求める。
【0018】
(式2) A=(DL2)/Γ
A:Cs-137線源の放射能(MBq)
D:サーベイメータで測定されたCs-137γ線場の線量率(μSv/h)
L:距離計で測定された距離(m)
Γ:Cs-137の1cm線量当量率定数(μSv・m2/MBq/h)
【0019】
上記式2に含まれる3つのパラメータのうち、線量率Dは既存のサーベイメータと同じ手法により求めることができる。また、Cs-137の1cm線量当量率定数Γは、内部データとして、あらかじめポータブル・ベクレル計の「データメモリ」(
図1の144を参照)に登録しておくのが良い。1cm線量当量率定数Γはアイソトープ手帳など、よく知られた文献から入手することができる。
【0020】
現在、福島の作業現場で測定対象物に含まれる放射性核種は主としてCs-137と考えられる。そのため式1と式2では、ND係数CNDと1cm線量当量率定数Γに、Cs-137の値を用い、測定対象物に含まれるCs-137の放射能を求める場合を想定したが、測定対象物に含まれる核種がCs-137とは異なる場合、それぞれの核種のND係数CNDと1cm線量当量率定数Γを用いることにより、同様に測定原理を説明することができる。
【0021】
また、多くの現場においてサーベイメータで測定している放射線量は、「1cm線量当量率」である。このことから、上記式2において、Γを「1cm線量当量率定数」と定義できる。しかし、それ以外の単位の放射線量を測定するサーベイメータでは、その測定線量に応じた係数および定数を用いる必要がある。例えば、「実効線量率」を放射線量として測定するサーベイメータが存在すれば、そのサーベイメータで測定を行う場合、ND係数CNDには計数率を実効線量率に変換する係数、またΓには実効線量率定数を用いる必要がある。すなわち、測定されるそれぞれの放射線量に応じた係数および定数がCNDおよびΓの値として用いられる。
【0022】
本発明に従うポータブル・ベクレル計は測定対象物までの距離を測定する距離計を含む。距離計は、例えば超音波、赤外線、レーザー光を用いた既知の距離計を例示的に採用することができる。
【0023】
本発明のポータブル・ベクレル計の機能ブロック図を
図1に示す。本発明のポータブル・ベクレル計2は、第1に、Cs-137などの放射性核種を含むか、その恐れのある測定対象物(
図1に限定して、以下、「線源」という)から放出された放射線を捉えて計数し、その計数率を線量率に変換して数値化(デジタル化)する放射線量処理部10を有し、第2に、測定対象物までの距離を測定する測距処理部12とを有する。
【0024】
放射線量処理部10は、線源からの放射線を検出する「放射線検出器」102と、「放射線検出器」102で検出した放射線の計数率に基づいて線量率を演算する「信号処理/線量演算回路」104とを有し、好ましくは、放射線量測定結果として「信号処理/線量演算回路」104で得た線量率(μSv/h)の表示データを生成する「μSv/h表示」106を有する。
【0025】
測距処理部12は、線源までの距離を測定するために投光と受光との時間差や位相差を検出する「距離検出器」122と、「距離検出器」122で得た時間差や位相差に基づいて距離を算出する「信号処理/距離演算回路」124とを有し、好ましくは距離測定結果として「信号処理/距離演算回路」124で得た距離の表示データを生成する「距離(m)表示」126を有する。
【0026】
本発明のポータブル・ベクレル計2は、放射線量処理部10、測距処理部12から線量率データ、ならびに距離データを得て線源の放射能を求める放射能処理部14を更に有する。この放射能処理部14は、上述した具体例で説明した式2に基づく演算によって線源の放射能を求める「放射能・演算及び・評価回路」142を有する。線源の放射能を求めるのに必要とされる、上述した具体例で説明すれば、1cm線量当量率定数Γは、放射能処理部14の一部を構成する定数Γを記憶する「データメモリ」144に登録される。
【0027】
ポータブル・ベクレル計2は、好ましくは、「放射能・演算及び・評価回路」142で求めた放射能の表示データを生成する「放射能(Bq)表示」146、「測定結果通知」148、「アラーム発信」150を有する。
【0028】
本発明のポータブル・ベクレル計は点線源に関しては、理論上、正確な放射能を測定することができるが面線源や体積線源に関する測定値はおおよその値となる。しかし、持ち運び可能な且つ現場で放射能測定が可能であり、持ち運び可能なサーベイメータと同様の簡便さで且つ現場で迅速に放射能測定が可能である。
【0029】
本発明の作用効果、本発明の他の目的は、以下の実施例の詳細な説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のポータブル・ベクレル計の機能ブロック図である。
【
図2】実施例のポータブル・ベクレル計のハード構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0031】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
図2を参照して、実施例のポータブル・ベクレル計20は、汎用されているシンチレーション式サーベイメータ4に、測定対象物(
図1では線源、
図2では
137Cs点線源)までの距離を測定する距離計6を付加したハード構造を備え、また、表示部8を備えている。既知のように距離計6では距離測定のために、例示的には、超音波、赤外線、レーザー光が用いられる。
【0032】
シンチレーション式サーベイメータ4(
図2)は、既に知られているように、シンチレータが放射線を検出することにより発光した蛍光を光電変換・増幅することにより、測定対象物(
図1では線源、
図2では
137Cs点線源)から入射された放射線の計数率又は計数に基づいて線量率又は線量が求められる。
【0033】
ポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2の20に対応)は、更に、距離計6(
図2)を有し、距離計6によって測定対象物(
図1では線源、
図2では
137Cs点線源)までの距離Lが測定される。
【0034】
図1を参照して、ポータブル・ベクレル計2は、上記式2に基づいて放射能Aを求める第2演算部(142に内蔵)を有する。第2演算部は線量率D、距離Lを取り込み且つ「データメモリ」144に登録されている1cm線量当量率定数Γを取り込んで、放射能A(MBq)を求める。
【0035】
上記式2は厳格に言うと、点状の線源に対して有効である。一方、実際の測定対象物は面積あるいは体積を有する。このことから、作業現場の測定対象物に対して、ポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2では20に対応)は厳格な意味で正しい放射能量を測定することができない。しかし、ポータブル・ベクレル計2は、おおよその放射能量を測定することができる。作業現場では、おおよその数値でよいから、リアルタイムに放射能量を知りたいという要望がある。この要望は、汚染物質の搬送を伴う処理が増加してきた昨今、強まっている。本発明のポータブル・ベクレル計2はこの要請に適合することができる。
【0036】
ポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2では20に対応)に含まれる誤差は、測定実験やシミュレーションによって補完することが可能である。例えば広く汚染された壁は無限に近いn個の点線源で構成されているとみなすことができる。したがって、各点線源の放射能量A1、A2、・・・Anが作るγ線場の線量率DをD1、D2、・・・Dnとすると、その総和から面/体積線源全体の放射能量を特定することができる。
【0037】
ポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2では20に対応)は表示部8(
図2)を備え、測定結果は表示部8にリアルタイムに表示される。これにより、ユーザは、現場において、表示部8を見ることで、放射能の値をリアルタイムに読み取ることができる。
【0038】
ポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2では20に対応)は、測定した放射能の数値を表示部8(
図2)に表示する基本表示モードと、線量率又は線量を表示部に数値表示する線量表示モードと、測定対象物(
図1では線源、
図2では
137Cs点線源)までの距離を表示部に数値表示する距離表示モードとを備えているのがよい。そして、ユーザの選択により、放射能量、線量率又は線量、距離を択一的に表示部8に表示するのが良い。
【0039】
変形例として、放射能量と線量率又は線量とを同時に表示してもよいし、放射能量と距離とを同時に表示してもよいし、放射能量、線量率又は線量、距離との3つの値を同時に表示してもよい。
【0040】
本発明のポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2では20に対応)は、ユーザの選択により放射能量、線量率又は線量、距離を択一的に表示部8(
図2)に表示可能にすることで、ベクレル計、サーベイメータ、距離計として利用することができる。
【0041】
表示部8(
図2)に数値表示した場合、ユーザは測定対象物から目線をポータブル・ベクレル計2(
図1、
図2では20に対応)の表示部8に移動させて測定値を認識することができる。作業現場において、測定対象物から目を離すことができない状況の場合、例えば、測定対象物を見ながら連続的に測定作業を進行させる場合、表示部8の表示を目で確認することができない。この状況を想定したときに、本発明のポータブル・ベクレル計2は、測定値のレベルに応じた数のクリック音(カウント/sec)を発生させる、または、測定値を音声で読み上げる付加的機能を提供するために「測定結果通知」148(
図1)を備えているのがよい。「アラーム発信」150(
図1)についても同様である。
【0042】
「測定結果通知」148の他のオプションとして、上記の音による通知に代えて、又は、音による通知に加えて、測定値のレベルに応じた数の光の点滅、振動の強弱による通知を備えているのがよい。これにより、作業者は、目線を移動させて「放射能(Bq)表示」146を目視し、測定値を確認しなくても、音、光、振動を通じて、おおよその測定値を察知することができる。「アラーム発信」150についても同様である。