(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109042
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ハンドルの芯金
(51)【国際特許分類】
B62D 1/06 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
B62D1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010411
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】小見山 将彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 康悟
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DA55
3D030DA56
3D030DA70
3D030DA76
3D030DE05
3D030DE32
(57)【要約】
【課題】簡素な構成で、加わった荷重に対しリム芯金部を適切に変形させることが可能なステアリングホイールの芯金を提供する。
【解決手段】芯金10は、車両のステアリングシャフトと接続されるボス芯金部と、ボス芯金部を囲んで位置するリム芯金部17と、ボス芯金部とリム芯金部17とを連結するスポーク芯金部と、を備える。リム芯金部17は、正面から見て下端部を含む範囲にスポーク芯金部と連結されない下側非連結部25を有する。下側非連結部25は、ステアリングシャフトの軸方向と直交する方向の厚みの中心Cが、リム芯金部17の正面側から背面側に向かいステアリングシャフトの軸方向に対して傾斜している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操向用シャフトと接続されるボス芯金部と、
このボス芯金部を囲んで位置するリム芯金部と、
これらボス芯金部とリム芯金部とを連結するスポーク芯金部と、を備え、
前記リム芯金部は、正面から見て下端部を含む範囲に前記スポーク芯金部と連結されない下側非連結部を有し、
前記下側非連結部は、前記操向用シャフトの軸方向と直交する方向の厚みの中心が、前記リム芯金部の正面側から背面側に向かい前記操向用シャフトの軸方向に対して傾斜している
ことを特徴とするハンドルの芯金。
【請求項2】
リム芯金部は、操向用シャフトの軸方向に対して直交しかつ水平方向に対し傾斜する仮想面に沿って位置し、
下側非連結部は、前記操向用シャフトの軸方向と直交する方向の厚みの中心が、前記リム芯金部の正面側から背面側に向かい前記操向用シャフト側に傾斜している
ことを特徴とする請求項1記載のハンドルの芯金。
【請求項3】
仮想面は、水平方向に対し45°未満で傾斜している
ことを特徴とする請求項2記載のハンドルの芯金。
【請求項4】
下側非連結部は、正面側の厚みが背面側の厚みより大きい
ことを特徴とする請求項2または3記載のハンドルの芯金。
【請求項5】
下側非連結部は、操向用シャフトの軸方向と直交する方向の剛性が前記軸方向と平行な方向の剛性よりも小さい
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載のハンドルの芯金。
【請求項6】
スポーク芯金部は、ボス芯金部の両側部とリム芯金部の両側部とを連結する
ことを特徴とする請求項1ないし5いずれか一記載のハンドルの芯金。
【請求項7】
リム芯金部は、正面から見てスポーク芯金部の上側に前記スポーク芯金部と連結されない上側非連結部を有し、
下側非連結部は、前記上側非連結部よりも操向用シャフトの軸方向と直交する方向の剛性が小さい
ことを特徴とする請求項6記載のハンドルの芯金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボス芯金部とリム芯金部とをスポーク芯金部により連結したハンドルの芯金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両において、ステアリングシャフトと接続されるボス部と、円環状をなしボス部の周囲に位置して乗員に把持操作されるリム部と、これらボス部とリム部とを連結する複数のスポーク部と、を備えたハンドルであるステアリングホイールが用いられている。ステアリングホイールは、金属製の芯金を備えている。この芯金には、リム部、ボス部及び各スポーク部のそれぞれに対応するリム芯金部、ボス芯金部及び複数のスポーク芯金部が設定されている。
【0003】
このような芯金は、車両衝突時などに乗員を保護できるように、乗員側からの接触に対してリム芯金部が変形して衝撃を吸収するように構成されている。特に、トラック、あるいはバスなど、通常の乗用車と比較してリム部が水平面に近い状態で設置される車両用のステアリングホイールにおいては、通常の状態で乗員が侵入する方向と、車両の前方が潰れてステアリングシャフトが起きてきた状態で乗員が侵入する方向と、のそれぞれに対して衝撃を吸収できることが望ましい。そのため、車載角度での乗員の侵入方向と、リム部に対してステアリングシャフトに直交する方向と、のそれぞれからの荷重入力に対してリム芯金部を変形しやすくすることが求められる。
【0004】
例えば、中実材をダイカスト被覆層によって被覆してリム芯金部を形成する芯金において、ダイカスト被覆層の乗員側、つまり正面から見て下側となる車両後側の部分にリブを形成するとともに、一部を薄肉とし、かつ、他の一部を、中実材を被覆しない構成とすることで、剛性を調整したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6-75952号公報 (第6-8頁、
図1-4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の芯金の場合、ダイカスト被覆層の構造が複雑となる。そのため、より簡素な構成で、加わった荷重に対してリム芯金部を適切に変形させることが可能な構成が望まれている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、簡素な構成で、加わった荷重に対しリム芯金部を適切に変形させることが可能なハンドルの芯金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のハンドルの芯金は、車両の操向用シャフトと接続されるボス芯金部と、このボス芯金部を囲んで位置するリム芯金部と、これらボス芯金部とリム芯金部とを連結するスポーク芯金部と、を備え、前記リム芯金部は、正面から見て下端部を含む範囲に前記スポーク芯金部と連結されない下側非連結部を有し、前記下側非連結部は、前記操向用シャフトの軸方向と直交する方向の厚みの中心が、前記リム芯金部の正面側から背面側に向かい前記操向用シャフトの軸方向に対して傾斜しているものである。
【0009】
請求項2記載のハンドルの芯金は、請求項1記載のハンドルの芯金において、リム芯金部は、操向用シャフトの軸方向に対して直交しかつ水平方向に対し傾斜する仮想面に沿って位置し、下側非連結部は、前記操向用シャフトの軸方向と直交する方向の厚みの中心が、前記リム芯金部の正面側から背面側に向かい前記操向用シャフト側に傾斜しているものである。
【0010】
請求項3記載のハンドルの芯金は、請求項2記載のハンドルの芯金において、仮想面は、水平方向に対し45°未満で傾斜しているものである。
【0011】
請求項4記載のハンドルの芯金は、請求項2または3記載のハンドルの芯金において、下側非連結部は、正面側の厚みが背面側の厚みより大きいものである。
【0012】
請求項5記載のハンドルの芯金は、請求項1ないし4いずれか一記載のハンドルの芯金において、下側非連結部は、操向用シャフトの軸方向と直交する方向の剛性が前記軸方向と平行な方向の剛性よりも小さいものである。
【0013】
請求項6記載のハンドルの芯金は、請求項1ないし5いずれか一記載のハンドルの芯金において、スポーク芯金部は、ボス芯金部の両側部とリム芯金部の両側部とを連結するものである。
【0014】
請求項7記載のハンドルの芯金は、請求項6記載のハンドルの芯金において、リム芯金部は、正面から見てスポーク芯金部の上側に前記スポーク芯金部と連結されない上側非連結部を有し、下側非連結部は、前記上側非連結部よりも操向用シャフトの軸方向と直交する方向の剛性が小さいものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のハンドルの芯金によれば、簡素な構成で、例えばハンドルへの乗員の侵入により加わった荷重に対し下側非連結部の位置でリム芯金部を適切に変形させることが可能になる。
【0016】
請求項2記載のハンドルの芯金によれば、請求項1記載のハンドルの芯金の効果に加えて、例えば乗員が侵入する方向に対してリム芯金部を下側非連結部の位置で適切に変形させることができる。
【0017】
請求項3記載のハンドルの芯金によれば、請求項2記載のハンドルの芯金の効果に加えて、下側非連結部の構成により、例えば通常の車載状態で乗員が侵入する方向と、車両の前方が潰れて操向用シャフトが起きてきた状態で乗員が侵入する方向と、のそれぞれに対してリム芯金部を下側非連結部の位置で適切に変形させて衝撃を吸収できるので、実際の車両の衝突などに対する乗員保護に適した芯金を提供できる。
【0018】
請求項4記載のハンドルの芯金によれば、請求項2または3記載のハンドルの芯金の効果に加えて、加わった荷重に対しリム芯金部を下側非連結部の位置で適切に変形させることが可能になるとともに、下側非連結部の正面側の厚みと背面側の厚みとの差に応じて、下側非連結部の操向用シャフトの軸方向と直交する方向の厚みの中心を容易に傾斜させることができる。
【0019】
請求項5記載のハンドルの芯金によれば、請求項1ないし4いずれか一記載のハンドルの芯金の効果に加えて、通常時には十分な剛性を得つつ、荷重が加わったときにはリム芯金部を下側非連結部の位置で適切に変形させることが可能になる。
【0020】
請求項6記載のハンドルの芯金によれば、請求項1ないし5いずれか一記載のハンドルの芯金の効果に加えて、スポーク芯金部がボス芯金部の両側部とリム芯金部の両側部とを連結する2本スポークの構造に対して、加わった荷重に対し下側非連結部の位置でリム芯金部を適切に変形させることが可能となる。
【0021】
請求項7記載のハンドルの芯金によれば、請求項6記載のハンドルの芯金の効果に加えて、2本スポークの構造においても、芯金としての剛性を確保しつつ、加わった荷重に対してはリム芯金部を下側非連結部の位置で適切に変形させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施の形態のハンドルの芯金の下側非連結部の下端部を示す断面図である。
【
図2】(a)は同上ハンドルの芯金の正面図、(b)は(a)のI-I相当位置の断面図である。
【
図3】(a)は同上ハンドルの芯金を備えるハンドルを示す正面図、(b)はハンドルの車載状態を模式的に示す説明図である。
【
図4】(a)は衝突直後の車内の状態を模式的に示す説明図、(b)は(a)から所定時間後の車内の状態を模式的に示す説明図である。
【
図5】(a)は同上ハンドルの芯金に対応するハンドルの実施例の下側非連結部の断面図、(b)は第1の比較例の下側非連結部の断面図、(c)は第2の比較例の下側非連結部の断面図である。
【
図6】同上実施例と、第1の比較例と、第2の比較例と、の車載状態での水平方向の荷重に対するリム芯金部の下側非連結部の曲げ特性の例を示すグラフである。
【
図7】同上実施例と、第1の比較例と、第2の比較例と、の操向用シャフトの軸方向と直交する方向の荷重に対するリム芯金部の下側非連結部の曲げ特性の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
図3(a)及び
図3(b)において、1は自動車部品としてのハンドル(ステアリングハンドル)であるステアリングホイールである。ステアリングホイール1は、自動車の運転席の乗員の前方に配置される。本実施の形態において、ステアリングホイール1は、例えばトラックやバスなどの、中型ないし大型の車両に搭載されるものを例に挙げて説明する。
【0025】
ステアリングホイール1は、ハンドル本体であるステアリングホイール本体2と、このステアリングホイール本体2の乗員側に取り付けられるエアバッグ装置などの設置体であるモジュール3と、ステアリングホイール本体2の乗員側とは反対側、すなわちモジュール3と反対側に取り付けられる図示しない被覆部材としてのカバー体であるバックカバーとなどから構成されている。また、ステアリングホイール1には、必要に応じて、ステアリングホイール本体2の乗員側に図示しない装飾部材としてのフィニッシャ(ガーニッシュ)などが取り付けられる。
【0026】
ステアリングホイール1は、操縦装置としての操向用シャフトであるステアリングシャフト5に装着され、水平方向に対して傾斜した状態で車載される。以下、ステアリングシャフト5の軸方向において乗員側を正面側、手前側あるいは後側(矢印RR方向)、その反対側を車体側、背面側あるいは前側(矢印FR方向)とし、その他、このステアリングホイール1が備えられる車体の直進方向を基準として、左右方向(矢印L,R方向)を説明するとともに、ステアリングホイール1を正面から見た状態を基準として上下方向(矢印U,D方向)を説明する。また、ステアリングホイール1は、特記しない限り操舵基準状態、すなわち中立(ニュートラル)状態として説明する。
【0027】
ステアリングホイール本体2は、ステアリングシャフト5に装着されるハブ部であるボス部(マウント部)6と、ボス部6の周辺に位置するリム部(リング部)7と、これらボス部6とリム部7とを連結するスポーク部8と、から構成されている。
【0028】
ボス部6には、モジュール3が取り付けられている。
【0029】
リム部7は、乗員がステアリングホイール1を操作するために把持する部分である。リム部7は、ステアリングシャフト5の軸方向と直交する仮想面Pに沿って位置する。本実施の形態において、仮想面Pは、水平方向(前後方向)に対する傾斜が45°未満、つまり水平に近い角度に設定されている。リム部7は、円弧状または楕円弧状に形成されている。本実施の形態において、リム部7は、円環状または楕円環状に連なって形成され、ボス部6の外方を囲んで位置している。
【0030】
スポーク部8は、複数設定されている。本実施の形態において、スポーク部8は、左右両側に設定されている。図示される例では、スポーク部8は、左右1本ずつ、計2本設定されている。すなわち、スポーク部8は、左右方向に延びて、ボス部6の左右両側部とリム部7の左右両側部とを連結するように左右方向に延びている。スポーク部8は、ステアリングホイール本体2の中心に対し、左右対称または略左右対称に配置されている。
【0031】
ステアリングホイール本体2は、芯金(アーマチュア)10の一部が合成樹脂製などの被覆部11により被覆されて構成されている。被覆部11の表面は、皮革や合成樹脂などの表皮体により覆われていてもよい。
【0032】
図2(a)、
図2(b)及び
図3(a)に示す芯金10は、例えばアルミニウム、マグネシウム、あるいは鉄などの金属により一体に成形された、金属製のものである。芯金10は、図示しない成形型を用いて鋳造(ダイカスト成形)される。芯金10は、ボス部6と、リム部7と、スポーク部8と、に対応して、ボス芯金部16と、リム芯金部17と、スポーク芯金部18と、を有する。したがって、本実施の形態において、リム芯金部17は、ボス芯金部16の周辺に位置し、スポーク芯金部18は、ボス芯金部16の左右両側部に設定されている。芯金10は、概略として、略左右対称に形成されている。
【0033】
ボス芯金部16は、ボス部6の芯を構成し、モジュール3を支持する。ボス芯金部16は、モジュール3の背面側に位置し、モジュール3とバックカバーとの間に配置される。ボス芯金部16は、モジュール3の大きさに応じた面状に拡がって位置する。また、ボス芯金部16は、ステアリングシャフト5と連結されるボス開口部20を有する。ボス開口部20は、ステアリングシャフト5とスプライン結合され、ステアリングホイール1の回転中心となる。ボス開口部20は、ボス芯金部16の左右方向の中央部に位置するとともに、ボス芯金部16の上側寄りにある。つまり、ボス芯金部16は、ステアリングホイール本体2の中央部に対して、上側よりも下側に広く配置されている。
【0034】
ボス芯金部16の両側部に連なるスポーク芯金部18は、スポーク部8の芯を構成する。スポーク芯金部18は、ボス芯金部16の両側部とリム芯金部17の両側部とを連結する。本実施の形態において、スポーク芯金部18は、ボス芯金部16からリム芯金部17に亘り、左右方向に直線状に延びている。図示される例では、スポーク芯金部18は、ボス開口部20、すなわちステアリングホイール1の回転中心、換言すればステアリングシャフト5の中心軸に対し、下側寄りの位置にある。
【0035】
リム芯金部17は、リム部7の芯を構成する。すなわち、本実施の形態のリム芯金部17は、仮想面P(
図3(b))に沿って位置する。リム芯金部17は、リム部7の形状に応じて円弧状または楕円弧状に形成されている。本実施の形態において、リム芯金部17は、円環状または楕円環状に連なって形成され、ボス芯金部16を囲んでいる。リム芯金部17は、スポーク芯金部18と連結されるスポーク連結部22を有する。リム芯金部17の全体からスポーク連結部22を介してスポーク芯金部18の一部に亘る範囲が、被覆部11により被覆される。
【0036】
スポーク連結部22は、リム芯金部17の左右両側部に設定されている。左右のスポーク連結部22間において、リム芯金部17の上側に、スポーク芯金部18と非連結の上側非連結部24が設定され、リム芯金部17の下側に、スポーク芯金部18と非連結の下側非連結部25が設定されている。すなわち、上側非連結部24の左端部と下側非連結部25の左端部との間に左側のスポーク連結部22が位置し、上側非連結部24の右端部と下側非連結部25の右端部との間に右側のスポーク連結部22が位置する。本実施の形態では、スポーク連結部22は、リム芯金部17を正面から見てアナログ時計の8時ないし9時位置と、4時ないし3時位置と、に設定されている。つまり、スポーク連結部22は、リム芯金部17の中央部よりも下側寄りにある。そのため、スポーク連結部22を境として、上側非連結部24が、下側非連結部25よりも緯線方向(矢印LT方向)の長さである周長が長く、すなわちリム芯金部17の緯線方向において広い範囲に設定されている。そこで、ボス部6と上側のリム部7との間の開口部を大きく形成して、インストルメントパネルのメータなどの視認性を向上している。
【0037】
上側非連結部24は、リム芯金部17を正面から見て、上端部を含む範囲に亘り形成される。つまり、上側非連結部24は、リム芯金部17において、アナログ時計の12時位置を含む範囲に形成されている。すなわち、上側非連結部24は、リム芯金部17において、乗員から最も離隔する位置を含む範囲に形成されている。上側非連結部24は、リム芯金部17の少なくとも上側の半分を構成する。本実施の形態では、上側非連結部24は、リム芯金部17の上側の半分よりも下側寄りの範囲までを構成する。上側非連結部24は、円弧状に連なって形成されている。上側非連結部24は、任意の断面形状としてよいが、本実施の形態では、背面側に開口するまたは背面側が窪んだU字状の断面形状を有する。
【0038】
下側非連結部25は、リム芯金部17を正面から見て、下端部を含む範囲に亘り形成される。つまり、下側非連結部25は、リム芯金部17において、アナログ時計の6時位置を含む範囲に形成されている。すなわち、下側非連結部25は、乗員に最も近接する位置を含む範囲に形成されている。下側非連結部25は、乗員側つまり正面から見て下側から荷重が加わったときにスポーク連結部22及びスポーク芯金部18とともに変形する(
図2(a)の二点鎖線に示す)ことで衝撃を吸収し、乗員を保護する部分である。
【0039】
下側非連結部25は、円弧状に連なって形成されている。下側非連結部25は、上側非連結部24と略同径に形成され、上側非連結部24と一体的に円環状のリム芯金部17を構成する。下側非連結部25は、スポーク連結部22及び上側非連結部24と比較して、ステアリングシャフト5の軸方向と直交する方向の厚みが小さく形成されている。すなわち、正面から見て、下側非連結部25は、スポーク連結部22及び上側非連結部24よりも細く形成されている。
【0040】
下側非連結部25は、中実な略平板状となっている。
図1に示すように、下側非連結部25は、断面が略四角形状に形成されている。本実施の形態において、下側非連結部25は、乗員側すなわち正面側を構成する正面部30と、乗員側とは反対側すなわち背面側を構成する背面部31と、を有し、正面部30と背面部31とが、リム芯金部17の内周側に位置する内面部32と外周側に位置する外面部33とで連なっている。正面部30及び背面部31と、内面部32及び外面部33と、が連なる位置は、それぞれ面取り部34となっている。本実施の形態において、面取り部34は、曲面状に湾曲されている。
【0041】
図示される例では、正面部30及び背面部31は、それぞれ平面状に形成されている。正面部30及び背面部31は、ステアリングシャフト5(
図2(b))の軸方向と直交する方向、すなわちリム芯金部17が配置される仮想面P(
図3(b))と平行な方向(
図1中の上下方向)に沿って平面状となっている。正面部30と背面部31とは、互いに平行または略平行に配置される。なお、以下、ステアリングシャフト5(
図2(b))の軸方向と直交する方向を単に軸直交方向と言う。
【0042】
本実施の形態において、正面部30と背面部31とは、断面における互いの中心位置が軸直交方向に互いにずれており、正面部30の断面中心に対し、背面部31の断面中心がステアリングシャフト5(
図2(b))側、すなわち
図1中の上側にある。したがって、本実施の形態の下側非連結部25は、軸直交方向の厚みの中心C(正面部30の断面中心と背面部31の断面中心とを結ぶ仮想線)が、リム芯金部17の正面側から背面側に向かい(
図1中の左側から右側に向かい)ステアリングシャフト5(
図2(b))側、すなわち
図1中の上側へと傾斜している。そのため、内面部32及び外面部33も、リム芯金部17の正面側から背面側に向かいステアリングシャフト5(
図2(b))側へとそれぞれ傾斜している。中心Cの傾斜角度θは、所望する下側非連結部25の軸直交方向の強度チューニング時に調整される。すなわち、傾斜角度θは、所望する下側非連結部25の軸直交方向の強度に応じて設定される。基本的に、傾斜角度θは、45°に近づくほど下側非連結部25の軸直交方向の強度が大きくなる。
【0043】
また、下側非連結部25は、軸直交方向の厚みに対して、ステアリングシャフト5(
図2(b))の軸方向と平行な方向、すなわちリム芯金部17が配置される仮想面P(
図3(b))と直交する方向(
図1中の左右方向)の厚みが大きく設定されている。なお、以下、ステアリングシャフト5(
図2(b))の軸方向と平行な方向を単に軸平行方向と言う。
【0044】
下側非連結部25は、軸直交方向の剛性が、軸平行方向の剛性よりも小さい。つまり、下側非連結部25は、正面背面方向である前後方向よりも上下方向に変形しやすく構成されている。また、好ましくは、下側非連結部25は、軸直交方向の剛性が、上側非連結部24よりも小さい。
【0045】
さらに、好ましくは、下側非連結部25は、正面側の軸直交方向の厚みが背面側の軸直交方向の厚みより大きく形成されている。図示される例では、軸直交方向において、正面部30の幅が背面部31の幅よりも広く形成されている。本実施の形態において、下側非連結部25の軸直交方向の厚みは、正面側から背面側に向かい、漸減するように設定されている。すなわち、下側非連結部25は、軸直交方向の厚みが、背面側で最も小さく形成されている。
【0046】
そして、芯金10は、所定の成形型を用いてダイカスト成形され、成形型から脱型された芯金10に対して、例えばRIM成形などを用いて被覆部11が形成されることで、ステアリングホイール本体2を形成する。形成したステアリングホイール本体2は、ボス開口部20をステアリングシャフト5と連結して車体側に取り付けた後、ボス芯金部16にモジュール3を取り付ける。そして、必要に応じて被覆部11を表皮体で覆うとともに、スポーク部8にフィニッシャなどを取り付けることで、ステアリングホイール1が車体に取り付けられた状態で完成する。この状態で、
図3(b)に示すように、ステアリングホイール1は、リム部7が仮想面Pに沿って位置する。
【0047】
例えば、車両の衝突などの直後は、
図4(a)に示すように、運転者である乗員Aがステアリングホイール1に対して水平方向に侵入し、その腹部がステアリングホイール1のリム部7の下端部に接触する。この後、
図4(b)に示すように、車両の前部が潰れることでステアリングシャフト5が起き上がることにより、ステアリングホイール1のリム部7が水平方向に近い角度となり、乗員Aがリム部7の下端部を、ステアリングシャフト5の軸方向と直交する方向に近い角度で押し込むこととなる。なお、乗員Aの頭部は、例えばモジュール3に搭載されたエアバッグABの膨張展開によって拘束保護される。
【0048】
このとき、本実施の形態によれば、リム部7を構成するリム芯金部17の正面から見て下端部を含む範囲にスポーク芯金部18と連結されない下側非連結部25を形成し、この下側非連結部25の軸直交方向の厚みの中心Cを、リム芯金部17の正面側から背面側に向かいステアリングシャフト5の軸方向に対して傾斜させたことで、他部材をインサートしたり特殊で複雑な形状に形成したりすることなく簡素な構成で、ステアリングホイール1への乗員の侵入により加わった荷重に対し下側非連結部25の位置でリム芯金部17(及びスポーク芯金部18)を適切に変形させることが可能となり、十分なエネルギー吸収を可能とするストロークと剛性とが確保できる。
【0049】
例えば、本実施の形態に対応する
図5(a)に示す下側非連結部25の実施例と、
図5(b)に示す下側非連結部25aの第1の比較例と、
図5(c)に示す下側非連結部25bの第2の比較例と、について、車載状態のステアリングホイール1への水平方向の荷重(ステアリングシャフト5の軸方向に対し傾斜した方向(例えば65°方向)の荷重)に対する曲げ特性を
図6に示す。また、ステアリングホイール1へのステアリングシャフト5の軸方向と直交する方向の荷重に対する曲げ特性を
図7に示す。
【0050】
このように、本実施の形態に対応する実施例では、第1の比較例及び第2の比較例に対し曲げ剛性が大きくなっている。したがって、下側非連結部25のステアリングシャフト5の軸方向と直交する方向の厚みの中心Cの傾斜角度θを適宜調整することで、下側非連結部25の断面積を大きく増減させることなくその曲げ剛性(断面2次モーメント)を容易に調整できるので、スポーク芯金部18(スポーク部8)のレイアウトや強度への影響を抑制しつつ、複雑な変更を施すことなく、乗員の保護に適した所望の特性を容易に得ることができる。
【0051】
また、リム芯金部17がステアリングシャフト5の軸方向に対して直交しかつ傾斜する仮想面Pに沿って位置するため、下側非連結部25の軸直交方向の厚みの中心Cを、リム芯金部17の正面側から背面側に向かいステアリングシャフト5側に傾斜させることで、例えば乗員が侵入する方向に対してリム芯金部17を下側非連結部25の位置で適切に変形させることができる。
【0052】
特に、本実施の形態では、仮想面Pが水平方向に対し45°未満で傾斜している状態で車載されるため、上記の下側非連結部25の構成により、通常の車載状態で乗員が侵入する方向と、車両の前方が潰れてステアリングシャフト5が起きてきた状態で乗員が侵入する方向と、のそれぞれに対してリム芯金部17を下側非連結部25の位置で適切に変形させて衝撃を吸収できる。したがって、実際の車両の衝突などに対する乗員保護に適した芯金10(ステアリングホイール1)を提供できる。
【0053】
また、リム芯金部17の下側非連結部25の正面側の厚みを背面側の厚みより大きくすることで、ステアリングホイール1への乗員の侵入により加わった荷重に対しリム芯金部17を下側非連結部25の位置で適切に変形させることが可能になるとともに、下側非連結部25の正面側の厚みと背面側の厚みとの差に応じて、下側非連結部25のステアリングシャフト5の軸方向と直交する方向の厚みの中心Cを容易に傾斜させることができる。
【0054】
さらに、下側非連結部25は、軸直交方向の剛性を軸平行方向の剛性よりも小さくすることで、通常時には十分な剛性を得つつ、ステアリングホイール1に対する乗員の侵入時など荷重が加わったときにはリム芯金部17を下側非連結部25の位置で適切に変形させることが可能になる。
【0055】
特に、スポーク芯金部18がボス芯金部16の両側部とリム芯金部17の両側部とを連結する2本スポークの構造に対して、上記の下側非連結部25の構成により、加わった荷重に対し下側非連結部25の位置でリム芯金部17を適切に変形させることが可能となる。
【0056】
リム芯金部17の正面から見てスポーク芯金部18の上側にスポーク芯金部18と連結されない上側非連結部24を設定し、下側非連結部25を、上側非連結部24よりも軸直交方向の剛性を小さくすることで、2本スポークの構造においても、芯金10(ステアリングホイール1)としての剛性を確保しつつ、乗員の侵入により加わった荷重に対してはリム芯金部17を下側非連結部25の位置で適切に変形させることが可能になる。
【0057】
また、本実施の形態では、上側非連結部24が下側非連結部25よりも周長が長いため、相対的に短く設定される下側非連結部25の剛性が上がりやすい構造である。そのため、上記の下側非連結部25の構成により、下側非連結部25における剛性を過剰に上げることなく、加わった荷重によりリム芯金部17を適切に変形させることが可能な芯金10(ステアリングホイール1)を実現できる。
【0058】
なお、上記の一実施の形態において、ステアリングホイール1のリム部7の仮想面Pの傾斜角度によっては、下側非連結部25の軸直交方向の厚みの中心Cは、リム芯金部17の正面側から背面側に向かいステアリングシャフト5から離れる方向に傾斜していても、同様の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば自動車などの車両用のステアリングホイールの芯金として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ハンドルであるステアリングホイール
5 操向用シャフトであるステアリングシャフト
10 芯金
16 ボス芯金部
17 リム芯金部
18 スポーク芯金部
24 上側非連結部
25 下側非連結部
C 中心
P 仮想面