(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109051
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】超音波診断装置、超音波診断方法、及び超音波診断プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010425
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】長野 玄
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DE09
4C601DE10
4C601DE13
4C601DE14
4C601DE15
4C601EE04
4C601GB06
4C601JB31
4C601JB36
4C601JB40
4C601JB47
(57)【要約】
【課題】飽和信号の弁別精度を向上させることである。
【解決手段】実施形態に係る超音波診断装置は、抽出部と、判定部と、生成部とを具備する。抽出部は、超音波プローブの各素子により受信された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。判定部は、前記抽出された奇数次高調波成分を用いて、前記反射波信号が飽和しているか否かを判定する。生成部は、飽和していると判定された素子の前記反射波信号に対して重み係数を乗算し、前記重み係数が乗算された前記反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブの各素子により受信された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する抽出部と、
前記抽出された奇数次高調波成分を用いて、前記反射波信号が飽和しているか否かを判定する判定部と、
飽和していると判定された素子の前記反射波信号に対して重み係数を乗算し、前記重み係数が乗算された前記反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する生成部と、
を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記抽出された奇数次高調波成分の振幅が閾値以上である場合に、前記反射波信号が飽和していると判定する、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記抽出された奇数次高調波成分の振幅をゲイン値で増幅する増幅部と、
をさらに具備し、
前記判定部は、前記増幅された奇数次高調波成分の振幅が閾値以上である場合に、前記反射波信号が飽和していると判定する、
請求項1又は請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記増幅部は、前記抽出された奇数次高調波成分の振幅に応じて前記ゲイン値を決定し、前記決定されたゲイン値で前記振幅を増幅する、
請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記抽出部は、前記超音波プローブの各素子により受信された前記反射波信号に対して奇数次高調波帯域を通過させる周波数フィルタリング処理を適用することにより、前記反射波信号から前記奇数次高調波成分を抽出する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
第1送信超音波と、前記第1送信超音波の位相を反転させた第2送信超音波とを1組とする超音波走査を前記超音波プローブに実行させる制御部と、
をさらに具備し、
前記抽出部は、前記超音波プローブの各素子により受信された、前記第1送信超音波の反射波信号と、前記第2送信超音波の反射波信号とを加算し、前記加算された反射波信号に対して奇数次高調波帯域を通過させる周波数フィルタリング処理を適用することにより、前記加算された反射波信号から前記奇数次高調波成分を抽出する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
第1送信超音波と、前記第1送信超音波の位相を正の方向にN度変調させた第2送信超音波と、前記第1送信超音波の位相を負の方向にN度変調させた第3送信超音波とを1組とする超音波走査を前記超音波プローブに実行させる制御部と、
をさらに具備し、
前記Nは、0<N<180を満たす実数であって、
前記抽出部は、前記超音波プローブの各素子により受信された、前記第1送信超音波の反射波信号と、前記第2送信超音波の反射波信号と、前記第3送信超音波の反射波信号とを加算し、前記加算された反射波信号に対して奇数次高調波帯域を通過する周波数フィルタリング処理を適用することにより、前記加算された反射波信号から前記奇数次高調波成分を抽出する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記超音波プローブの各素子により受信された前記反射波信号をベースバンド信号に変換する変換部と、
前記変換されたベースバンド信号に対して補間処理及び整相処理を実行する補間整相部と、
をさらに具備し、
前記抽出部は、前記補間及び整相されたベースバンド信号から奇数次高調波成分を抽出し、
前記判定部は、前記抽出された奇数次高調波成分を用いて、前記補間及び整相されたベースバンド信号が飽和しているか否かを判定し、
前記生成部は、飽和していると判定された素子の前記補間及び整相されたベースバンド信号に対して重み係数を乗算し、前記重み係数が乗算された前記補間及び整相されたベースバンド信号を整相加算することにより、反射波データを生成する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
超音波プローブの各素子により受信された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出し、
前記抽出された奇数次高調波成分を用いて、前記反射波信号が飽和しているか否かを判定し、
飽和していると判定された素子の前記反射波信号に対して重み係数を乗算し、
前記重み係数が乗算された前記反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する、
超音波診断方法。
【請求項10】
コンピュータに、
超音波プローブの各素子により受信された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する抽出機能と、
前記抽出された奇数次高調波成分を用いて、前記反射波信号が飽和しているか否かを判定する判定機能と、
飽和していると判定された素子の前記反射波信号に対して重み係数を乗算し、前記重み係数が乗算された前記反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する生成機能と、
を実現させる超音波診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、超音波診断装置、超音波診断方法、及び超音波診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な超音波診断装置において、生体からの超音波の反射波信号(エコー信号)を映像化するために、アナログ回路が各種処理を実行する。アナログ回路は、生体深部等からの微弱な反射波信号を映像化するために該信号を大きく増幅する場合(例:ハーモニックイメージング、散乱係数の小さい血流の映像化)がある。この場合、増幅された信号がアナログ回路のダイナミックレンジを上回り、信号飽和が発生する。信号飽和が発生すると受信エコーの位相が変調されるため、その影響は例えば映像中のサイドローブアーチファクトの増大や非線形成分(高輝度点)の出現として観察される。したがって、映像の視認性を向上させる目的から、生体情報を十分に維持しつつ映像化に対する信号飽和の影響を低減することが求められる。
【0003】
本目的を達成するため、例えば超音波プローブの各素子によって受信された反射波信号が飽和しているか否かを閾値に基づき判定した後、飽和と判定された反射波信号の寄与を低下させて映像化する手法がある。しかしながら、当該手法では閾値処理において、実際には飽和していない信号(非飽和信号)も飽和した信号(飽和信号)と誤って判定され、非飽和信号の寄与が低下するおそれがある。これにより、映像化に寄与する素子数(実効開口)が縮小し、前述の目的を十分に達成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、飽和信号の弁別精度を向上させることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る超音波診断装置は、抽出部と、判定部と、生成部とを具備する。抽出部は、超音波プローブの各素子により受信された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。判定部は、前記抽出された奇数次高調波成分を用いて、前記反射波信号が飽和しているか否かを判定する。生成部は、飽和していると判定された素子の前記反射波信号に対して重み係数を乗算し、前記重み係数が乗算された前記反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示す図。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る超音波診断装置の動作例を示す図。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示す図。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る超音波診断装置の動作例を示す図。
【
図5】
図5は、第2実施形態及び従来構成に係る各超音波診断装置の各素子におけるベースバンド信号の飽和の判定結果を示す図。
【
図6】
図6は、第2実施形態及び従来構成に係る各超音波診断装置の中心素子におけるベースバンド信号の振幅を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら実施形態に係る超音波診断装置、超音波診断方法、及び超音波診断プログラムについて説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作を行うものとして、重複する説明を適宜、省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示す図である。超音波診断装置1は、装置本体100及び超音波プローブ101を有する。装置本体100は、入力装置102及び出力装置103と接続される。また、装置本体100はネットワークNWを介して外部装置104と接続される。外部装置104は、例えばPACS(Picture Archiving and Communication Systems)を搭載したサーバである。
【0010】
超音波プローブ101は、装置本体100による制御に従い、被検体である生体P内のスキャン領域について超音波スキャンを実行する。超音波プローブ101は、例えば複数の圧電振動子(「素子」とも称す)、複数の圧電振動子とケースとの間に設けられる整合層、及び複数の圧電振動子からの超音波の送信方向に対し、後方への超音波の伝播を防止するバッキング材を有する。超音波プローブ101は、例えば第1の素子配列方向(エレベーション方向)と第2の素子配列方向(アジマス方向)とに沿って複数の圧電振動子が配列された二次元アレイプローブである。超音波プローブ101は、装置本体100と着脱自在に接続される。なお、超音波プローブ101はオフセット処理及び超音波画像をフリーズさせる操作(フリーズ操作)等の際に押下されるボタンを備えてもよい。
【0011】
複数の圧電振動子は、装置本体100が有する超音波送信回路110から供給される駆動信号に基づいて超音波を発生する。これにより、超音波プローブ101から生体Pへ超音波が送信される。送信された超音波は、生体Pの体組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として複数の圧電振動子にて受信される。受信された反射波信号の振幅は、不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。また、送信された超音波が移動体(例:赤血球、心臓壁、造影剤)の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により移動体の超音波送信方向の速度成分に依存して周波数偏移を受ける。超音波プローブ101は、生体Pからの反射波信号を受信して電気信号に変換する。
【0012】
本実施形態では、装置本体100には一つの超音波プローブ101が接続される。他の実施形態では、装置本体100には複数の超音波プローブ101が接続される。接続された複数の超音波プローブ101のうちいずれが超音波スキャンに使用されるかは、タッチパネル上のソフトウェアボタンによって任意に選択され得る。
【0013】
装置本体100は、超音波プローブ101により受信された反射波信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体100は、超音波送信回路110、超音波受信回路120、内部記憶回路130、画像メモリ140、入力インタフェース150、出力インタフェース160、通信インタフェース170、及び処理回路180を有する。
【0014】
超音波送信回路110は、超音波プローブ101に駆動信号を供給するプロセッサである。超音波送信回路110は、例えばトリガ発生回路、遅延回路及びパルサ回路により構成される。トリガ発生回路は、送信超音波を形成するためのレートパルスを所定のレート周波数で繰り返して発生する。遅延回路は、発生されたレートパルスに対し圧電振動子ごとの遅延時間を与える。圧電振動子ごとの遅延時間を変化させることで、複数の圧電振動子からの超音波の送信方向が任意に調整される。すなわち、遅延回路は超音波プローブ101から発生される超音波の送信指向性を決定する。パルサ回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ101に設けられる複数の圧電振動子へ駆動信号(駆動パルス)を印加する。
【0015】
また、超音波送信回路110は駆動信号によって送信超音波の出力強度を任意に変更する。例えば、超音波診断装置1は出力強度を増大させることにより、生体P内での超音波の減衰の影響を低減する。これにより、超音波診断装置1は受信時においてS/N(Signal/Noise)比の大きい反射波信号を取得することができる。
【0016】
超音波が生体P内を伝播すると、出力強度に相当する超音波の振動の強さ(「音響パワー」とも称す)が減衰する。音響パワーの減衰は、吸収、散乱及び反射などにより引き起こされる。音響パワーの減衰の度合いは、超音波の周波数及び伝播距離に依存する。例えば、超音波の周波数を上昇させるほど、減衰の度合いは増大する。また、超音波の伝播距離が長いほど、減衰の度合いは増大する。
【0017】
超音波受信回路120は、超音波プローブ101が受信した反射波信号に対して各種処理を施し、反射波データを生成するプロセッサである。具体的には、超音波受信回路120は、例えばアンプ回路、A/D(Analog/Digital)変換回路、直交検波(IQ)回路、及び生成回路(「ビームフォーマ」とも称す)により実現される。アンプ回路は、超音波プローブ101が受信した反射波信号を素子ごとに増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換回路は、ゲイン補正された反射波信号をデジタル信号に変換する。直交検波回路は、デジタル信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-phase)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。I信号及びQ信号は、それぞれベースバンド信号の一例である。生成回路は、ベースバンド信号に受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与えて、遅延時間が与えられた複数のベースバンド信号(すなわち、I信号及びQ信号)を整相加算する。生成回路による整相加算処理により、受信指向性に応じた方向からの信号成分が強調された反射波データが生成される。生成された反射波データは、処理回路180に転送される。
【0018】
超音波受信回路120は、アナログ回路の一例である。超音波受信回路120は、各素子についてそれぞれ設置されてもよいし、全ての素子に対して1つの超音波受信回路120が設置されてもよい。
【0019】
本実施形態において、超音波受信回路120は少なくとも一つのプロセッサを含む。「プロセッサ」という文言は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例:単純プログラマブル論理デバイス(SPLD:Simple Programmable Logic Device)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:Complex Programmable Logic Device)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサがCPUである場合、プロセッサは内部記憶回路130に記憶されたプログラムを読み出して実行することで各機能を実現する。一方、プロセッサがASICである場合、プログラムが内部記憶回路130に記憶される代わりに、各機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。プロセッサは、単一の回路として構成されてもよいし、複数の独立した回路を組み合わせて構成されてもよい。超音波受信回路120は、各機能(例:抽出機能120A、増幅機能120B、判定機能120C、生成機能120D)を実現する。
【0020】
抽出機能120Aは、超音波プローブ101の各素子により受信された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。例えば、抽出機能120Aは超音波プローブ101の各素子により受信された反射波信号に対して奇数次高調波帯域を通過させる周波数フィルタリング処理を適用することにより、反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。抽出機能120Aは、フィルタ回路により実現され得る。
【0021】
増幅機能120Bは、抽出された奇数次高調波成分の振幅をゲイン値で増幅する。ゲイン値は所定の値でもよい。また、増幅機能120Bは抽出された奇数次高調波成分の振幅に応じてゲイン値を決定し、決定されたゲイン値で振幅を増幅してもよい。増幅機能120Bは、アンプ回路により実現され得る。
【0022】
判定機能120Cは、抽出された奇数次高調波成分を用いて、反射波信号が飽和しているか否かを判定する。例えば、判定機能120Cは、抽出された奇数次高調波成分の振幅が閾値以上である場合に、反射波信号が飽和していると判定する。特に、抽出された奇数次高調波成分が増幅されている場合、判定機能120Cは増幅された奇数次高調波成分の振幅が閾値以上である場合に、反射波信号が飽和していると判定する。判定機能120Cは、比較回路により実現され得る。
【0023】
生成機能120Dは、飽和していると判定された素子の反射波信号に対して重み係数を乗算する。また、生成機能120Dは重み係数が乗算された反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する。生成機能120Dは、超音波受信回路120の生成回路により実現され得る。
【0024】
内部記憶回路130は、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体(例:磁気的記憶媒体、光学的記憶媒体、半導体メモリ)を有する。内部記憶回路130は、超音波送受信や画像生成処理に関するプログラムを含む各種データを記憶する。各種データは、内部記憶回路130に予め記憶されていてもよい。また、各種データは、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されて内部記憶回路130にインストールされてもよい。また、内部記憶回路130は、入力インタフェース150を介して入力された操作に従い、処理回路180で生成された各種データ(例:Bモード画像データ、造影画像データ、血流映像に関する画像データ、三次元データ)を記憶する。内部記憶回路130は、各種データを通信インタフェース170経由で外部装置104に転送してもよい。
【0025】
なお、内部記憶回路130は、可搬性記憶媒体(例:CDドライブ、DVDドライブ、フラッシュメモリ)との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。内部記憶回路130は、記憶しているデータを可搬性記憶媒体へ書き込み、可搬性記憶媒体を介してデータを外部装置104に記憶させてもよい。
【0026】
画像メモリ140は、プロセッサにより読み取り可能な記憶媒体(例:磁気的記憶媒体、光学的記憶媒体、半導体メモリ)を有する。例えば、画像メモリ140は入力インタフェース150を介して入力されたフリーズ操作の直前の複数フレームに対応する画像データを記憶する。画像メモリ140に記憶されている画像データは、連続表示(シネ表示)され得る。画像メモリ140は、画像データに限らず三次元データを記憶してもよい。
【0027】
内部記憶回路130及び画像メモリ140は、必ずしもそれぞれが独立した記憶装置により実現されなくてもよい。内部記憶回路130及び画像メモリ140は、単一の記憶装置により実現されてもよい。また、内部記憶回路130及び画像メモリ140は、それぞれが複数の記憶装置により実現されてもよい。
【0028】
入力インタフェース150は、入力装置102を介して操作者からの各種指示を受け付ける。入力装置102は、例えば、マウス、キーボード、パネルスイッチ、スライダースイッチ、トラックボール、ロータリーエンコーダ、操作パネル、及びタッチパネルである。入力インタフェース150は、例えばバスを介して処理回路180に接続され、操作者から入力される操作指示を電気信号へ変換し、電気信号を処理回路180に出力する。なお、入力インタフェース150は、マウス及びキーボード等の物理的な操作部品と接続するものだけに限られない。例えば、超音波診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力される操作指示に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を処理回路180に出力する回路も入力インタフェース150の例に含まれる。操作者は、例えば医師、看護師、准看護師、診療放射線技師及び臨床検査技師である。
【0029】
出力インタフェース160は、例えば処理回路180からの電気信号を出力装置103へ出力するためのインタフェースである。出力装置103は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRTディスプレイ等の任意のディスプレイである。出力装置103は、入力装置102を兼ねたタッチパネル式のディスプレイでもよい。出力装置103は、ディスプレイの他に、音声を出力するスピーカでもよい。出力インタフェース160は、例えばバスを介して処理回路180に接続され、処理回路180からの電気信号を出力装置103に出力する。
【0030】
通信インタフェース170は、例えばネットワークNWを介して外部装置104と接続され、外部装置104との間でデータ通信を行う。
【0031】
処理回路180は、超音波診断装置1の全体の動作を制御する。本実施形態において、処理回路180は少なくとも一つのプロセッサを含む。前述の通り、「プロセッサ」という文言は、CPU、GPU、特定用途向け集積回路等の回路を意味する。具体的には、処理回路180は各機能(例:Bモード処理機能181、ドプラ処理機能182、画像生成機能183、三次元データ生成機能184、表示制御機能185、システム制御機能186)を実現する。
【0032】
Bモード処理機能181は、超音波受信回路120から転送された反射波データに基づき、Bモードデータを生成する機能である。具体的には、処理回路180はBモード処理機能181により、反射波データに対して包絡線検波処理及び対数圧縮処理などを施し、反射波データの信号強度を輝度値で表現したBモードデータを生成する。生成されたBモードデータは、二次元的な超音波走査線(ラスタ)上のBモードRAWデータとして、不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0033】
また、処理回路180はBモード処理機能181により、ハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)を実行することができる。ハーモニックイメージングは、超音波の反射波信号に含まれる種々の周波数成分のうち、高調波成分(ハーモニック成分)を利用する。ハーモニックイメージングは、造影剤を使用しないティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)と、造影剤を使用するコントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)とに分類される。
【0034】
THIでは、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法や位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法及びPM法を組み合わせたAMPM法と称される映像法を用いて、高調波成分を抽出する。
【0035】
AM法、PM法及びAMPM法では、振幅や位相を変調させた超音波の送信を同一の走査線に対して複数回行う。これにより、超音波受信回路120は各走査線で複数の反射波データを生成し、生成した反射波データを出力する。処理回路180は、Bモード処理機能181により、各走査線の複数の反射波データに対し、変調法に応じた加減算処理を行うことで高調波成分を抽出する。そして、処理回路180は高調波成分の反射波データに対して包絡線検波処理などを行って、Bモードデータを生成する。
【0036】
CHIでは、例えば、周波数フィルタを用いて高調波成分を抽出する。処理回路180は、Bモード処理機能181により、生体P内の組織を反射源とする反射波データ(基本波成分)と、造影剤を反射源とする反射波データ(高調波成分)とを分離する。これにより、処理回路180は、周波数フィルタを用いて造影剤からの高調波成分を選択して、造影画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
【0037】
例えば、超音波診断装置1はBモード処理機能181(制御部の一例)により、第1送信超音波と、第1送信超音波の位相を反転させた第2送信超音波とを1組とする超音波走査を超音波プローブ101に実行させてもよい。続いて超音波診断装置1は抽出機能120Aにより、超音波プローブ101の各素子により受信された、第1送信超音波の反射波信号と、第2送信超音波の反射波信号とを加算し、加算された反射波信号に対して奇数次高調波帯域を通過する周波数フィルタリング処理を適用することにより、加算された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出してもよい。これにより、超音波診断装置1は反射波信号から奇数次高調波成分を抽出することができる。
【0038】
また、超音波診断装置1はBモード処理機能181(制御部の一例)により、第1送信超音波と、第1送信超音波の位相を正の方向にN(Nは0<N<180を満たす実数)度変調させた第2送信超音波と、第1送信超音波の位相を負の方向にN度変調させた第3送信超音波とを1組とする超音波走査を超音波プローブ101に実行させてもよい。続いて超音波診断装置1は抽出機能120Aにより、超音波プローブ101の各素子により受信された、第1送信超音波の反射波信号と、第2送信超音波の反射波信号と、第3送信超音波の反射波信号とを加算し、加算された反射波信号に対して奇数次高調波帯域を通過する周波数フィルタリング処理を適用することにより、加算された反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。これにより、超音波診断装置1は反射波信号から奇数次高調波成分を抽出することができる。
【0039】
造影画像データを生成するためのBモードデータは、造影剤を反射源とするエコー反射強度を輝度値で表したデータとなる。また、処理回路180は、生体Pの反射波データから基本波成分を抽出して、組織画像データを生成するためのBモードデータを生成することもできる。
【0040】
ドプラ処理機能182は、超音波受信回路120から転送された反射波データを周波数解析することで、スキャン領域に設定されるROI(Region Of Interest:関心領域)内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報を抽出したデータ(ドプラ情報)を生成する機能である。生成されたドプラ情報は、二次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータ(ドプラデータとも称す)として不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0041】
具体的には、処理回路180はドプラ処理機能182により、例えば移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値、平均パワー値などを複数のサンプル点それぞれで推定し、推定した運動情報を示すドプラデータを生成する。処理回路180はドプラ処理機能182により、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流速度の分散値、血流信号のパワー値などを、複数のサンプル点それぞれで推定し、推定した血流情報を示すドプラデータを生成する。
【0042】
画像生成機能183は、Bモード処理機能181により生成されたBモードデータに基づいて、Bモード画像データを生成する機能である。例えば、処理回路180は画像生成機能183により、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の画像データ(表示用画像データ)を生成する。具体的には、処理回路180は、RAWデータメモリに記憶されたBモードRAWデータに対してRAW-ピクセル変換、例えば、超音波プローブ101による超音波の走査形態に応じた座標変換を実行することで、ピクセルから構成される二次元Bモード画像データ(超音波画像データとも称す)を生成する。換言すれば、処理回路180は画像生成機能183により、超音波の送受信によって、連続する複数のフレームにそれぞれ対応する複数の超音波画像(医用画像)を生成する。
【0043】
また、処理回路180は、例えばRAWデータメモリに記憶されたドプラRAWデータに対してRAW-ピクセル変換を実行することで、血流情報が映像化されたドプラ画像データを生成する。ドプラ画像データは、平均速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又はこれらを組み合わせた画像データである。処理回路180は、ドプラ画像データとして、血流情報がカラーで表示されるカラードプラ画像データ、及び一つの血流情報がグレースケールで波形状に表示されるドプラ画像データを生成する。
【0044】
三次元データ生成機能184は、超音波受信回路120から受け取った反射波データに基づき、三次元のBモードデータ(三次元データ)を生成する機能である。三次元データ生成機能184において処理回路180は、Bモード処理機能181によって生成したBモードデータを用いて、三次元空間中に配置したボクセルに輝度値を割り当てることによって三次元データを生成する。この三次元データは、ボリュームデータと呼ばれてもよい。なお、輝度値がエコー反射強度に対応していることから、ボリュームデータのボクセルには、エコー反射強度が割り当てられていると解釈してもよい。
【0045】
表示制御機能185は、画像生成機能183により生成された各種超音波画像データに基づく画像を、出力装置103としてのディスプレイに表示させる機能である。例えば、処理回路180は表示制御機能185により、画像生成機能183により生成されたBモード画像データ、ドプラ画像データ、又はこれらの両方を含む画像データに基づく画像のディスプレイにおける表示を制御する。
【0046】
より具体的には、処理回路180は表示制御機能185により、例えば超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用画像データを生成する。また、処理回路180は、表示用画像データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、及びγカーブ補正、並びにRGB変換等の各種処理を実行してもよい。また、処理回路180は、表示用画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディマーク等の付帯情報を付加してもよい。また、処理回路180は、操作者が入力装置により各種指示を入力するためのユーザインタフェース(GUI:Graphical User Interface)を生成し、GUIをディスプレイに表示させてもよい。
【0047】
システム制御機能186は、超音波診断装置1全体の動作を統括して制御する機能である。例えば、システム制御機能186において処理回路180は、超音波の送受信に関するパラメータに基づいて超音波送信回路110及び超音波受信回路120を制御する。
【0048】
図2は、第1実施形態に係る超音波診断装置1の動作例を示す図である。本動作例において、超音波の送信及び受信はそれぞれ1回ずつ行われる。すなわち、1回の超音波の送受信における反射波データの生成処理が記述される。本動作例は、1回の平面波送信又は平面波送信に類似する広範囲に亘る送信を行って、1回の送信で超音波スキャン範囲内の全受信ラスタをリアルタイムで得るスキャン方式(全ラスタ並列同時受信)に対応する。
【0049】
ステップS101において、超音波診断装置1は各素子により超音波を送信する。具体的には、超音波診断装置1は超音波プローブ101の各素子において、超音波送信回路110から供給される駆動信号に基づいて超音波を発生させる。続いて超音波診断装置1は、発生させた超音波を生体に送信する。前述の通り、送信された超音波は、生体の体組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射されることで、次々に反射波が発生する。発生した反射波は、生体内を伝播して超音波プローブ101の各素子に到達する。
【0050】
ステップS102において、超音波診断装置1は各素子により反射波信号を受信する。具体的には、超音波診断装置1は超音波プローブ101の各素子において生体からの反射波を圧電変換することで反射波信号を受信する。これにより、各素子において生体の深さ(あるいは、時間)ごとの反射波信号が受信される。受信した反射波信号は、超音波プローブ101の各素子から装置本体100の超音波受信回路120に転送される。前述の通り、超音波は伝播距離が長いほど大きく減衰するため、生体深部からの反射波信号ほど微弱となる。したがって、特定の用途(例:ハーモニックイメージング、散乱係数の小さい血流の映像化)においては、映像化のために反射波信号を大きく増幅する必要がある。
【0051】
ステップS103において、超音波診断装置1は反射波信号を増幅する。具体的には、超音波診断装置1の超音波受信回路120は、各素子からの反射波信号を深さごとに増幅してゲイン補正処理を行う。一例によれば、超音波受信回路120は反射波信号を18dB増幅した後、0乃至-24dBの可変減衰回路に通す。これにより、生体深部からの微弱な反射波信号を映像化することが可能となる。なお、超音波受信回路120が反射波信号を増幅する必要がない場合、本ステップは省略されてもよい。
【0052】
しかしながら、超音波受信回路120のダイナミックレンジには限界(通常60dB程度)がある。このため、例えば強反射体(例:血管壁、横隔膜)からの反射波信号は、主に超音波受信回路120のアンプ回路にて飽和する。すなわち、同一の素子で受信される反射波信号であっても、強反射体が存在する深さからの反射波信号は飽和する一方、強反射体が存在しない深さからの反射波信号は飽和しないことがある。また、カラードプラモードでは、微弱な血流信号をより良いS/N比で得るために高いゲイン値で反射波信号が受信される。斯くして、反射波信号が超音波受信回路120のダイナミックレンジを超えている場合、反射波信号は超音波受信回路120にて飽和し、信号飽和が発生する。
【0053】
ここで、飽和した反射波信号(飽和信号)には、超音波が生体中を伝播するにつれて波形が歪む現象(「非線形効果」とも称す)により発生した2次以上の高調波成分に加えて、飽和により増大した奇数次高調波成分が含まれる。増幅回路は、性能および回路保護等のため、その増幅特性の限界を超えた強度の信号が通る場合には信号がクリッピングされるよう設計される。受信信号s、およびクリッピングされた受信信号sclipを次式で表す。
【0054】
【数1】
ここでaを振幅係数、ωを受信角周波数、A
thをクリッピングされる閾値、sign()を符号を返す関数とする。受信信号の振幅が非常に大きい場合、すなわちa≫A
thであり全ての時間区間で|s(t)|≧A
thであるときのクリッピングされた受信信号は次式で表される。
【0055】
【数2】
これは、クリッピングされた信号はその飽和度に従って矩形波に近づいていくことを示しており、矩形波はその周期の奇数倍の周波数成分を持つことが知られている。したがって、飽和した信号の周波数特性は、受信周波数に加えて、クリッピングによってその奇数倍の周波数成分も持つことが分かる。一方、飽和していない反射波信号(非飽和信号)には、当該現象により発生した2次以上の高調波成分が主に含まれる。したがって、反射波信号が飽和しているか否かは、反射波信号に含まれる奇数次高調波成分に基づき高精度で弁別することができる。そこで超音波診断装置1は、反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。
【0056】
ステップS104において、超音波診断装置1は抽出機能120Aにより、反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。具体的には、超音波診断装置1の超音波受信回路120は、反射波信号に対して奇数次高周波帯域を通過する周波数フィルタリング処理を適用することにより、反射波信号から奇数次高調波成分を抽出する。周波数フィルタリング処理は、特定の周波数成分を通過させるフィルタ回路により実現され得る。例えば、抽出される周波数成分が3次高調波成分である場合、3次以上の周波数成分を通過させるフィルタ回路(ハイパスフィルタ)を用いればよい。超音波受信回路120は、当該フィルタ回路に反射波信号を通過させることで、3次の奇数次高調波成分を抽出する。同様な手法で、5次以上の奇数次高調波成分が抽出されてもよい。もちろん、複数種類の奇数次高調波成分が抽出されてもよい。また、ハーモニックイメージングにおけるAM法およびPM法で用いられるように、位相あるいは振幅を変調した複数回の送信で得られる受信信号を演算処理することによって奇数次高調波成分が抽出されてもよい。なお、奇数次高調波成分の抽出は、A/D変換される前後の反射波信号(すなわち、アナログ信号又はデジタル信号)に対して実行されてもよい。
【0057】
ステップS105において、超音波診断装置1は増幅機能120Bにより、奇数次高調波成分を増幅する。具体的には、超音波診断装置1の超音波受信回路120は、抽出された奇数次高調波成分の振幅をゲイン値で増幅する。例えば、超音波受信回路120は抽出された奇数次高調波成分の振幅に応じてゲイン値を決定し、決定されたゲイン値で振幅を増幅する。なお、ゲイン値は、超音波診断装置1の操作者により任意の値に設定可能であってもよいし、超音波受信回路120の回路設計にハードウェア的に組み込まれていてもよい。増幅により、飽和した反射波信号の奇数次高調波成分の振幅と、飽和していない反射波信号の高調波成分の振幅との間の振幅差が増大する。超音波診断装置1は、閾値処理において、例えば当該振幅差の中間値に閾値を設定することで、飽和信号と非飽和信号とをより精度良く弁別することができる。斯くして、超音波診断装置1は飽和信号を特異的に検出することができる。なお、超音波受信回路120が奇数次高調波成分を増幅する必要がない場合、本ステップは省略されてもよい。
【0058】
ステップS106において、超音波診断装置1は判定機能120Cにより、抽出された奇数次高調波成分を用いて、反射波信号が飽和しているか否かを判定する。具体的には、超音波診断装置1の超音波受信回路120は、抽出された奇数次高調波成分の振幅が閾値以上である場合に、反射波信号が飽和していると判定する。閾値は、超音波診断装置1の操作者により任意の値に設定可能であってもよいし、超音波受信回路120の回路設計にハードウェア的に組み込まれていてもよい。なお、複数種類の奇数次高調波成分が抽出されている場合、超音波受信回路120はそれぞれの種類の奇数次高調波成分について設定された閾値に基づき飽和の有無を判定してもよい。
【0059】
ステップS107において、超音波診断装置1は生成機能120Dにより、飽和していると判定された素子の反射波信号に重み係数を乗算する。具体的には、超音波診断装置1の超音波受信回路120は、飽和していると判定された素子の反射波信号に、0乃至1の範囲における重み係数を乗算することで、当該反射波信号の寄与を低下させる。もちろん、超音波受信回路120は、飽和していると判定された反射波信号の値を0にしてもよい。これにより、超音波受信回路120は、各素子からの反射波信号を整相加算した際に、加算された反射波信号が飽和する可能性を低減することができる。
【0060】
ステップS108において、超音波診断装置1は生成機能120Dにより、重み係数が乗算された反射波信号を整相加算することにより、反射波データを生成する。前述の通り、生成された反射波データは処理回路180に転送される。
【0061】
整相加算処理の後、処理回路180はBモード処理機能181により、転送された反射波データからBモードデータを生成する。続いて、処理回路180は画像生成機能183により、BモードデータからBモード画像データを生成する。その後、処理回路180は表示制御機能185により、Bモード画像データに基づく超音波画像を、ディスプレイとしての出力装置103に表示させる。表示された超音波画像は、例えば超音波診断装置1の操作者により観察されて医学的診断等に用いられる。
【0062】
以上、第1実施形態に係る超音波診断装置1について説明した。第1実施形態によれば、超音波診断装置1は反射波信号に含まれる奇数次高調波成分を用いて、飽和信号及び非飽和信号のうち飽和信号を特異的に検出する。続いて超音波診断装置1は、飽和信号に重み係数を乗算することで、飽和信号の寄与を選択的に低下させる。斯かる構成により、超音波診断装置1は非飽和信号を飽和信号と誤って判定する可能性を低減することで、非飽和信号の寄与を低下させる可能性を低減することができる。結果として、超音波診断装置1は信号飽和の影響を低減しつつ、より広範な規模の実効開口を用いて反射波信号を映像化するので、映像の視認性を向上させることができる。特に、反射波信号に含まれる3次高調波成分の映像化において、上記の構成はより効果を発揮する。
【0063】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示す図である。第2実施形態に係る超音波診断装置1の構成は、第1実施形態に係る超音波診断装置1の構成と概ね同一である。第2実施形態に係る超音波診断装置1は、超音波受信回路120の機能として変換機能120E、補間整相機能120Fをさらに備える。
【0064】
変換機能120Eは、超音波プローブ101の各素子により受信された反射波信号をベースバンド信号に変換する。変換機能120Eは、直交検波回路により実現され得る。
【0065】
補間整相機能120Fは、変換されたベースバンド信号に対して補間処理及び整相処理を実行する。補間整相機能120Fは、超音波受信回路120の生成回路により実現され得る。
【0066】
図4は、第2実施形態に係る超音波診断装置1の動作例を示す図である。第1実施形態とは異なり、第2実施形態において超音波診断装置1は、反射波信号をベースバンド信号に変換する。すなわち、ベースバンド信号に基づく反射波データの生成処理が記述される。なお、ステップS201乃至S203は、ステップS101乃至S103と同様であるため説明を省略する。
【0067】
ステップS204において、超音波診断装置1は変換機能120Eにより、反射波信号をベースバンド信号に変換する。
【0068】
ステップS205において、超音波診断装置1はベースバンド信号に対して間引き処理を行う。
【0069】
ステップS206において、超音波診断装置1は補間整相機能120Fにより、ベースバンド信号を補間して整相する。
【0070】
ステップS207において、超音波診断装置1は抽出機能120Aにより、ベースバンド信号から奇数次高調波成分を抽出する。ステップS207は、ステップS104と同様である。
【0071】
ステップS208において、超音波診断装置1は増幅機能120Bにより、抽出された奇数次高調波成分を増幅する。ステップS208は、ステップS105と同様である。
【0072】
ステップS209において、超音波診断装置1は判定機能120Cにより、奇数次高調波成分を用いて、ベースバンド信号の飽和を判定する。ステップS209は、ステップS106と同様である。
【0073】
ステップS210において、超音波診断装置1は生成機能120Dにより、飽和していると判定された素子のベースバンド信号に重み係数を乗算する。ステップS210は、ステップS107と同様である。
【0074】
ステップS211において、超音波診断装置1は生成機能120Dにより、ベースバンド信号を整相加算し、反射波データを生成する。ステップS211は、ステップS108と同様である。
【0075】
以上、第2実施形態に係る超音波診断装置1の動作例について説明した。本動作例に基づく超音波診断装置1によるベースバンド信号の飽和判定結果と、比較対象として、従来構成に係る超音波診断装置によるベースバンド信号の飽和判定結果とを以下に示す。
【0076】
図5は、第2実施形態及び従来構成に係る各超音波診断装置の各素子におけるベースバンド信号の飽和の判定結果を示す図である。第2実施形態に係る超音波診断装置1は、ベースバンド信号から奇数次高調波成分を抽出し、抽出された奇数次高調波成分の振幅に基づき、当該信号の飽和を判定した。一方、従来構成に係る超音波診断装置は、ベースバンド信号の振幅に基づき、当該信号の飽和を判定した。飽和の判定に先立って、各超音波診断装置は同一の実験系において超音波の送受信を行った。
【0077】
前述の実験系において、各超音波診断装置の超音波プローブに配列された各素子のうち、中心となる一つの素子(中心素子)からの超音波送信方向(深さ方向)に対し垂直な方向に6本のワイヤを配置した。各ワイヤは、水で満たした水槽内において、中心素子からの深さ方向に概ね一定の間隔ごとに配置された。ただし、中心素子から近い順に深さ方向に4番目のワイヤと5番目のワイヤとの間の間隔は、他のワイヤ間の間隔に比べて約2倍の長さを有する。斯かる実験系において、各超音波診断装置は超音波プローブを当該水槽の水面に当接した状態で超音波を送信した後、各ワイヤからの反射波を各素子で受信し、反射波信号を得た。各超音波診断装置は、反射波信号をベースバンド信号に変換した後、各素子における深さごとのベースバンド信号について飽和を判定した。なお、6本のワイヤのうち浅い方から2本のワイヤに関する反射波信号は非飽和信号となるように、残りの4本のワイヤに関する反射波信号は飽和信号となるように、超音波の送受信条件を設定した。
【0078】
図5(A)は、第2実施形態に係る超音波診断装置1による飽和の判定結果である。
図5(B)は、従来構成に係る超音波診断装置による飽和の判定結果である。各図において、横軸は超音波プローブの各素子の「素子番号」を示し、縦軸は各素子からの「深さ」を示す。各素子は超音波プローブの配列方向に約200個配置されており、中心素子は約100番目の素子に相当する。深さ「0」は、超音波プローブの各素子が配列される面(音響放射面)が位置する深さに概ね相当する。ここでは、飽和していると判定された各素子におけるベースバンド信号が深さごとに黒色で示される。
【0079】
各図から理解される通り、ベースバンド信号の飽和は、中心素子を中心として深さ方向に湾曲する6つの円弧状に分布する。円弧状の分布は、各ワイヤにて発生した反射波が中心素子に最も早く到達する一方、中心素子から離れた素子ほど遅く到達したことを意味する。各円弧状の分布は、各ワイヤからの反射波によるベースバンド信号の飽和を示す。ここでは、整相処理の前の素子信号において飽和判定を行ったが、ステップS206で示される補間整相処理の後に飽和判定を行ってもよい。
【0080】
ここで、
図5(A)及び
図5(B)の間で、深さ「200乃至400」の範囲を示す領域200に囲まれる2つの分布を比較する。当該2つの分布は、中心素子から近い順に深さ方向に1番目及び2番目のワイヤからの各反射波によるベースバンド信号の飽和を示す。具体的には、
図5(A)では1番目の分布が認められず、2番目の分布が僅かに認められる。一方、
図5(B)では1番目の分布が僅かに認められ、2番目の分布が十分に認められる。すなわち、第2実施形態に係る超音波診断装置1は、従来構成に比して、非飽和信号を飽和信号と誤って検出する頻度を低減していることが分かる。
【0081】
図6は、第2実施形態及び従来構成に係る各超音波診断装置の中心素子におけるベースバンド信号の振幅を示す図である。具体的には、
図6(A)及び
図6(B)はそれぞれ、
図5(A)及び
図5(B)のそれぞれの中心素子における深さごとのベースバンド信号の振幅を示す。各図において、横軸は超音波プローブの各素子からの「深さ」(すなわち、
図5(A)及び
図5(B)の縦軸に対応)を示し、縦軸は振幅をデシベル単位で示す。なお、
図5の領域200は、
図6における領域200に対応する。
【0082】
各図から理解される通り、深さ「200」以降に6つの山なりの波形が認められる。各波形は、各ワイヤからの反射波によるベースバンド信号の振幅を示す。ここで、深さ方向に最も浅い位置(最も左側)の波形のピークにおける振幅値と、最も深い位置(最も右側)の波形のピークにおける振幅値との間の振幅差に注目する。当該振幅差は、
図6(A)では「d1」で表され、
図6(B)では「d2」で表される。すなわち、第2実施形態に係る超音波診断装置1による処理結果が「d1」に対応し、従来構成に係る超音波診断装置の処理結果が「d2」に対応する。具体的には、d1は約「0乃至-10dB」の範囲を示し、d2は約「0乃至-5dB」の範囲を示す。すなわち、d1はd2に比して約5dB増加していることが分かる。
【0083】
第2実施形態に係る超音波診断装置1は、例えばd1の振幅差の中間値である「約-5dB」に閾値を設定することで、
図5(A)に示すように、飽和信号と非飽和信号とを精度良く弁別することができる。一方、従来構成に係る超音波診断装置では、d2の振幅差はd1に比べて狭いため、当該振幅差の中間値に閾値を設定しても、
図5(B)に示すように、飽和信号と非飽和信号とを精度良く弁別することが困難となる。
【0084】
以上、第2実施形態に係る超音波診断装置1について説明した。第2実施形態によれば、反射波信号をベースバンド信号に変換した場合であっても第1実施形態と同様な効果が得られる。
【0085】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、飽和信号の弁別精度を向上させることができる。
【0086】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0087】
1 超音波診断装置
100 装置本体
101 超音波プローブ
102 入力装置
103 出力装置
104 外部装置
110 超音波送信回路
120 超音波受信回路
120A 抽出機能
120B 増幅機能
120C 判定機能
120D 生成機能
120E 変換機能
120F 補間整相機能
130 内部記憶回路
140 画像メモリ
150 入力インタフェース
160 出力インタフェース
170 通信インタフェース
180 処理回路
181 Bモード処理機能
182 ドプラ処理機能
183 画像生成機能
184 三次元データ生成機能
185 表示制御機能
186 システム制御機能
200 領域