(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109055
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】熱抵抗測定装置、熱抵抗測定方法および熱抵抗測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
G01N25/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010432
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋稔
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB08
2G040BA25
2G040CB04
2G040CB09
2G040DA15
2G040EA02
2G040HA05
(57)【要約】
【課題】測定対象物の熱抵抗をより正確に測定することができるようにする。
【解決手段】テストヘッドに取り付けられた複数の温度センサにより測定される実測温度を入力する温度情報入力部31と、測定対象物の熱抵抗および投入熱量を変数として与えながら、当該変数およびテストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値を項として含む計算式により、複数の温度センサが取り付けられている位置に対応する温度をそれぞれ算出し、算出した計算温度と実測温度とが所定の整合条件を満たすときに与えた変数の値を測定対象物の熱抵抗の解として出力する熱抵抗特定部32とを備え、測定対象物の周囲における熱流に影響を受けて変動するテストヘッドから空気への熱漏れの値を用いた最適化計算によって測定対象物の熱抵抗を算出することにより、周囲の影響を考慮に入れて熱抵抗をより正確に測定することができるようにする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱を行うヒーター部および測定対象物が接触する接触部を含むテストヘッドと、
上記テストヘッドの上記ヒーター部と上記接触部との間における所定の位置に取り付けられた複数の温度センサと、
上記複数の温度センサにより上記テストヘッドについて測定される温度情報を用いて上記測定対象物の熱抵抗を算出する演算装置とを備え、
上記演算装置は、
上記複数の温度センサにより上記テストヘッドについて測定される実測温度の上記温度情報を入力する温度情報入力部と、
上記測定対象物の熱抵抗および上記ヒーター部からの投入熱量を変数として与えながら、当該変数および上記テストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値を項として含む所定の計算式により、上記複数の温度センサが取り付けられている位置に対応する温度をそれぞれ算出し、算出した計算温度と上記実測温度とが所定の整合条件を満たすときに与えた上記変数の値を上記測定対象物の熱抵抗の解として出力する熱抵抗特定部とを備えた
ことを特徴とする熱抵抗測定装置。
【請求項2】
上記テストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値は、上記実測温度を項として含む所定の計算式により算出される値であることを特徴とする請求項1に記載の熱抵抗測定装置。
【請求項3】
テストヘッドのヒーター部によって、上記テストヘッドの接触部に接触されている測定対象物を加熱する第1のステップと、
演算装置の温度情報入力部が、上記テストヘッドの上記ヒーター部と上記接触部との間における所定の位置に取り付けられた複数の温度センサにより上記テストヘッドについて測定される実測温度の温度情報を入力する第2のステップと、
上記演算装置の熱抵抗特定部が、上記測定対象物の熱抵抗および上記ヒーター部からの投入熱量を変数として与えながら、当該変数および上記テストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値を項として含む所定の計算式により、上記複数の温度センサが取り付けられている位置に対応する温度をそれぞれ算出し、算出した計算温度と上記実測温度とが所定の整合条件を満たすときに与えた上記変数の値を上記測定対象物の熱抵抗の解として出力する第3のステップとを有する
ことを特徴とする熱抵抗測定方法。
【請求項4】
テストヘッドの接触部に接触されている測定対象物が上記テストヘッドのヒーター部により加熱されたときに複数の温度センサにより上記テストヘッドについて測定される温度情報を用いて上記測定対象物の熱抵抗を算出する処理を演算装置に実行させる熱抵抗測定プログラムであって、
上記ヒーター部と上記接触部との間における所定の位置に取り付けられた上記複数の温度センサにより上記テストヘッドについて測定される実測温度の上記温度情報を入力する温度情報入力手段、および
上記測定対象物の熱抵抗および上記ヒーター部からの投入熱量を変数として与えながら、当該変数および上記テストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値を項として含む所定の計算式により、上記複数の温度センサが取り付けられている位置に対応する温度をそれぞれ算出し、算出した計算温度と上記実測温度とが所定の整合条件を満たすときに与えた上記変数の値を上記測定対象物の熱抵抗の解として出力する熱抵抗特定手段
として上記演算装置のコンピュータを機能させるための熱抵抗測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱抵抗測定装置、熱抵抗測定方法および熱抵抗測定プログラムに関し、特に、測定対象物に熱流を与えて測定対象物の熱抵抗を測定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱電対付きの2つのロッドによってサンプルを挟み、サンプルに生じる温度差を計測しながら、サンプルの熱特性を測定する技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1に記載された熱伝導率測定装置では、加熱側ロッドと冷却側ロッドとの間に被測定体を挟持し、加熱側ロッド、被測定体および冷却側ロッドを通して熱量を流入・流出させることにより、両ロッドと被測定体との間の接触熱抵抗を測定する。
【0003】
特許文献2に記載された熱伝導測定装置では、加熱側挟持部材(上部ロッドおよび上側試料ブロック)と冷却側挟持部材(下部ロッドおよび下側試料ブロック)とによって測定対象物を挟み込み、加熱側挟持部材から冷却側挟持部材に熱を流す。この状態で、上下試料ブロック間の温度差を測定するとともに、上部ロッドでの温度勾配および下部ロッドでの温度勾配を測定し、これらの測定結果と測定対象物の厚みとに基づいて測定対象物の熱伝導率を導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-145446号公報
【特許文献2】特開2012-32196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2のように、加熱ロッドと冷却ロッドによって上下からサンプルを挟み、ロッド間に生じる温度差からサンプルの熱特性を測定する従来技術は、ロッド間の温度差が全てサンプルの熱抵抗により生じることを前提としている。しかし、実際は、ロッド間の温度差は、ロッドの熱抵抗だけでなく空気への熱漏れによる周囲の影響も受けて変動する。特に、空気への熱漏れの大きさは、測定対象とするサンプルの形状によって変動する。このため、上記の従来技術では、周囲における熱流の影響を考慮してサンプルの熱抵抗を正確に測定することができないという問題があった。また従来技術は、ロッド間に挟持できる形状のサンプルしか測定できず、回路基板などの実際の製品形状における熱抵抗測定ができない課題もある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、測定対象物の周囲における熱流の影響を考慮に入れた測定系を構築し、測定対象物の熱抵抗をより正確に測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明の熱抵抗測定装置は、ヒーター部および測定対象物が接触する接触部を含むテストヘッドと、当該テストヘッドのヒーター部と接触部との間における所定の位置に取り付けられた複数の温度センサと、当該複数の温度センサによりテストヘッドについて測定される温度情報を用いて測定対象物の熱抵抗を算出する演算装置とを備える。演算装置は、複数の温度センサによりテストヘッドについて測定される実測温度の温度情報を入力する一方で、測定対象物の熱抵抗およびヒーター部からの投入熱量を変数として与えながら、当該変数およびテストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値を項として含む所定の計算式により、複数の温度センサが取り付けられている位置に対応する温度をそれぞれ算出し、算出した計算温度と実測温度とが所定の整合条件を満たすときに与えた変数の値を測定対象物の熱抵抗の解として出力する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した本発明によれば、測定対象物の熱抵抗とテストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値とを項として含む所定の計算式を用いた演算により、測定対象物の熱抵抗が求められる。テストヘッドから空気への熱漏れの大きさを表す値は、測定対象物の周囲における熱流の影響を受けて変動する値である。このため、本発明によれば、測定対象物の周囲における熱流の影響を考慮に入れて、測定対象物の熱抵抗をより正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態による熱抵抗測定装置の全体構成例を示す図である。
【
図2】本実施形態による演算装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図3】テストヘッドおよび測定対象物を含む等価的な熱回路網を示す図である。
【
図4】本実施形態による熱抵抗測定装置の動作例(熱抵抗測定方法の処理手順)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による熱抵抗測定装置の全体構成例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の熱抵抗測定装置1は、テストヘッド10、複数の温度センサ20
-1~20
-4(以下では、何れかの温度センサを特に区別しないときは単に温度センサ20と記すことがある)および演算装置30を備えて構成される。なお、
図1はテストヘッド10、温度センサ20、演算装置30および測定対象物100を模式的に示したものであり、それぞれの実際の形状や接続状態などを図において再現したものではない。
【0011】
テストヘッド10は、加熱を行うヒーター部11と、測定対象物100が接触する接触部12と、ヒーター部11と接触部12との間の熱伝導部13とを有する。なお、接触部12と測定対象物100との間は、図示しない放熱グリスが介在した状態で接触される。ヒーター部11は、熱伝導部13を介して、接触部12に接触している測定対象物100に対して熱流を与える。これにより、測定対象物100は加熱され、その熱抵抗Rth_sに応じて温度が上昇する。
【0012】
複数の温度センサ20-1~20-4は、テストヘッド10のヒーター部11と接触部12との間の熱伝導部13における所定の位置に取り付けられており、各位置の温度T1~T4をそれぞれ測定する。温度センサ20は、例えば熱電対を用いたセンサにより構成することが可能である。複数の温度センサ20-1~20-4を取り付ける位置は、熱伝導部13の何れかの位置であればよく、特別な設置条件はない。例えば、複数の温度センサ20-1~20-4を等間隔に設けるようにしてもよい。
【0013】
ヒーター部11の加熱によって熱伝導部13の温度は上昇するが、その上昇温度は測定対象物100の熱抵抗Rth_sの影響を受ける。すなわち、測定対象物100の熱抵抗Rth_sが大きい場合には熱伝導部13の上昇温度は比較的高くなり、熱抵抗Rth_sが小さい場合には熱伝導部13の上昇温度は比較的低くなる。これにより、温度センサ20により測定されるテストヘッド10の温度T1~T4は、テストヘッド10に接触する測定対象物100の熱抵抗Rth_sに応じた値になる。
【0014】
また、熱伝導部13の上昇温度は、測定対象物100から空気への熱漏れの量にも影響を受ける。すなわち、測定対象物100から空気への熱漏れが多い場合には熱伝導部13の上昇温度は比較的低くなり、測定対象物100から空気への熱漏れが少ない場合には熱伝導部13の上昇温度は比較的高くなる。これにより、温度センサ20により測定されるテストヘッド10の温度T1~T4は、テストヘッド10に接触する測定対象物100から空気への熱漏れの量に応じた値になる。
【0015】
また、熱伝導部13にも熱抵抗が存在し、温度センサ20により測定される各位置の温度T
1~T
4は、熱伝導部13の熱抵抗の影響も受ける。
図1に示すように、本実施形態では、第1の温度センサ20
-1と第2の温度センサ20
-2との間の熱抵抗をr
12で表し、第2の温度センサ20
-2と第3の温度センサ20
-3との間の熱抵抗をr
23で表し、第3の温度センサ20
-3と第4の温度センサ20
-4との間の熱抵抗をr
34で表し、第4の温度センサ20
-4と測定対象物100との間の熱抵抗をr
4tで表している。各位置の温度T
1~T
4は、これらの熱抵抗r
12,r
23,r
34,r
4tに応じた値となる。
【0016】
演算装置30は、複数の温度センサ20によりテストヘッド10について測定される各位置の温度T
1~T
4を用いて、測定対象物100の熱抵抗Rth_sを算出する。
図2は、この演算装置30の機能構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、演算装置30は、機能構成として、温度情報入力部31および熱抵抗特定部32を備えている。熱抵抗特定部32は、より具体的な機能構成として、固定値設定部32A、変数設定部32B、温度算出部32C、整合条件判定部32Dおよび熱抵抗出力部32Eを備えている。
【0017】
上記機能ブロック31,32は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記機能ブロック31,32は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記憶媒体に記憶された熱抵抗測定プログラムが動作することによって実現される。
【0018】
温度情報入力部31は、複数の温度センサ20によりテストヘッド10について測定される熱伝導部13の各位置の実測温度T1~T4の温度情報を入力する。ここで、温度情報入力部31は、ヒーター部11により加熱を開始してから所定時間後に熱伝導部13の温度が定常状態になったときに温度センサ20により測定される温度情報を入力するのが好ましい。例えば、温度情報入力部31は、ヒーター部11により加熱を開始した時点から温度センサ20より入力される温度情報を監視し、温度変化が殆どなくなって温度が定常状態になったと判定されたときの温度を各位置の実測温度T1~T4として入力する。
【0019】
熱抵抗特定部32は、測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよびヒーター部11からの投入熱量Qinを変数として与えながら、当該変数Rth_s,Qinおよびテストヘッド10から空気への熱漏れQlossの大きさを表す値を項として含む所定の計算式により、複数の温度センサ20が取り付けられている位置に対応する温度(以下、これを計算温度t1~t4という)をそれぞれ算出する。そして、算出した計算温度t1~t4と実測温度T1~T4とが所定の整合条件を満たすときに変数として与えたRth_sの値を測定対象物100の熱抵抗Rth_sの解として出力する。
【0020】
以下に、この熱抵抗特定部32の具体的な機能構成について説明する。固定値設定部32Aは、テストヘッド10の熱抵抗r
12,r
23,r
34,r
4tと、テストヘッド10から空気への熱漏れQlossと、測定対象物100の外部温度Taとを設定する。
図3は、テストヘッド10および測定対象物100を含む等価的な熱回路網を示す図である。この
図3の中に、固定値設定部32Aにより設定される固定値が示されている。空気への熱漏れQlossについては、複数の温度センサ20
-1~20
-4のそれぞれの間および第4の温度センサ20
-4と接触部12との間でそれぞれ生じるものと想定し、それぞれの熱漏れQlossをQ
12loss,Q
23loss,Q
34loss,Q
4tlossで表すものとする。
【0021】
外部温度Taは、図示しない温度センサにより実測した値をユーザが手動で設定する。テストヘッド10の熱抵抗r12,r23,r34,r4tは、例えばテストヘッド10についてあらかじめ測定した熱伝導部13の全体の熱抵抗をユーザが手動で設定し、固定値設定部32Aがこの全体の熱抵抗から論理的に算出される値を自動で設定する。例えば、複数の温度センサ20-1~20-4のそれぞれの間の距離および第4の温度センサ20-4と接触部12との間の距離の比率に応じて、熱伝導部13の全体の熱抵抗を按分した値を熱抵抗r12,r23,r34,r4tに設定することが可能である。
【0022】
空気への熱漏れQloss(Q12loss,Q23loss,Q34loss,Q4tloss)は、例えば次の(式1)に示す論理式によって算出される値を固定値設定部32Aが自動で設定する。ここで、(式1)に示すように、固定値設定部32Aは熱漏れQlossを算出する際に、温度情報入力部31により入力される実測温度T1~T4を用いる。一方、(式1)は熱抵抗Rth_sをパラメータとして含まない式であり、熱抵抗Rth_sが未知でも熱漏れQlossを論理的に計算することが可能である。なお、ここに示した論理式は一例であり、これに限定されるものではない。
【0023】
【0024】
上述したように、温度センサ20により測定される実測温度T1~T4は、テストヘッド10に接触する測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよび測定対象物100から空気への熱漏れの影響を受けて、これらの影響に応じて変動する値になる。テストヘッド10から空気への熱漏れQlossは、この実測温度T1~T4をパラメータとする(式1)により計算されるので、測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよび測定対象物100での熱漏れに応じた値になる。つまり、テストヘッド10での熱漏れQlossは、測定対象物100の周囲における熱流の影響を受けて変動する値と言える。
【0025】
変数設定部32Bは、測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよびヒーター部11からの投入熱量Qinを変数として設定する。これらの変数Rth_s,Qinとしてランダムな値を変数設定部32Bが任意に自動設定するようにしてもよいが、それぞれ所定範囲内の値に限定して設定するのが好ましい。これは、設定する変数Rth_s,Qinの組み合わせに一定の制限を設けることにより、解が見つかるまでの計算時間を短くすることができるようにするためである。なお、変数として設定可能な所定範囲は、測定対象物100に応じて変えてもよい。
【0026】
温度算出部32Cは、固定値設定部32Aにより設定された固定値(テストヘッド10の熱抵抗r
12,r
23,r
34,r
4t、テストヘッド10から空気への熱漏れQ
12loss,Q
23loss,Q
34loss,Q
4tloss、測定対象物100の外部温度Ta)と、変数設定部32Bにより設定された変数(測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよびヒーター部11からの投入熱量Qin)を用いて、
図3に示す熱回路網から導かれる次の(式2)に示す計算式により、複数の温度センサ20が取り付けられている位置に対応する計算温度t
1~t
4をそれぞれ算出する。
【0027】
【0028】
整合条件判定部32Dは、温度算出部32Cにより算出された計算温度t1~t4と、温度情報入力部31により入力された実測温度T1~T4とが所定の整合条件を満たすか否かを判定する。整合条件を満たさないと判定された場合、変数設定部32Bにより設定する変数Rth_s,Qinの値を変更し、温度算出部32Cおよび整合条件判定部32Dの処理を再実行する。熱抵抗出力部32Eは、整合条件判定部32Dにより整合条件を満たすと判定されたときに変数として設定していたRth_sの値を測定対象物100の熱抵抗Rth_sの解として出力する。
【0029】
整合条件判定部32Dが用いる整合条件は、計算温度t1~t4と実測温度T1~T4との差分が最小化されるという条件であり、例えば次の(式3)で示す指標値αが最小化されることを整合条件とすることが可能である。
α=(T1-t1)2+(T2-t2)2+(T3-t3)2+(T4-t4)2 ・・・(式3)
最小化されたかどうかの判定は、例えば、指標値αが所定値以下になったか否かによって行うことが可能である。あるいは、指標値αが極小値になったか否かによって行うようにしてもよい。あるいは、指標値αが所定値以下になることが所定回数以上発生したか否かによって行うようにしてもよい。
【0030】
図4は、以上のように構成した本実施形態による熱抵抗測定装置1の動作例(熱抵抗測定方法の処理手順)を示すフローチャートである。
【0031】
まず、テストヘッド10のヒーター部11によって、テストヘッド10の接触部12に接触されている測定対象物100を加熱する(ステップS1)。そして、演算装置30の温度情報入力部31は、複数の温度センサ20によりテストヘッド10について測定される各位置の実測温度T1~T4の温度情報を入力する(ステップS2)。
【0032】
次いで、演算装置30の固定値設定部32Aは、(式2)の計算式で用いる固定値(テストヘッド10の熱抵抗r12,r23,r34,r4t、テストヘッド10から空気への熱漏れQ12loss,Q23loss,Q34loss,Q4tloss、測定対象物100の外部温度Ta)を設定する(ステップS3)。また、変数設定部32Bは、(式2)の計算式で用いる変数(測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよびヒーター部11からの投入熱量Qin)を設定する(ステップS4)。
【0033】
次に、温度算出部32Cは、(式2)に示す計算式により、複数の温度センサ20が取り付けられている位置に対応する計算温度t1~t4をそれぞれ算出する(ステップS5)。そして、整合条件判定部32Dは、温度算出部32Cにより算出された計算温度t1~t4と、温度情報入力部31により入力された実測温度T1~T4とが所定の整合条件を満たすか否かを判定する(ステップS6)。
【0034】
ここで、所定の整合条件を満たさないと整合条件判定部32Dにより判定された場合、処理はステップS4に戻る。そして、変数設定部32Bにより設定する変数Rth_s,Qinの値を変更し、ステップS5,S6の処理を再実行する。ステップS6において、所定の整合条件を満たすと整合条件判定部32Dにより判定された場合、熱抵抗出力部32Eは、整合条件を満たすと判定されたときにステップS4で変数として設定していたRth_sの値を測定対象物100の熱抵抗Rth_sの解として出力する(ステップS7)。これにより、
図4に示すフローチャートの処理が終了する。
【0035】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、測定対象物100の熱抵抗Rth_sおよびヒーター部11からの投入熱量Qinを変数として与えながら、当該変数Rth_s,Qinおよびテストヘッド10から空気への熱漏れQlossを含む(式2)の計算式により、複数の温度センサ20が取り付けられている位置に対応する計算温度t1~t4をそれぞれ算出し、算出した計算温度t1~t4と複数の温度センサ20による実測温度T1~T4とが所定の整合条件を満たすときに与えた変数Rth_sの値を測定対象物100の熱抵抗Rth_sの解として出力するようにしている。このように構成した本実施形態によれば、熱漏れQlossを通じて測定対象物100の周囲における熱流の影響を考慮に入れて、測定対象物100の熱抵抗Rth_sをより正確に測定することができる。これにより、テストヘッド10の先端に接触させた測定対象物100の熱抵抗Rth_sを測定することができる。つまり、従来技術における下部ロッドを測定系から排除でき、ロッド形状に合わせたサンプル以外の測定も可能になる。
【0036】
なお、上記実施形態では、4つの温度センサ20-1~20-4により4ヵ所の温度T1~T4を測定する例について説明したが、この数は一例に過ぎない。
【0037】
また、上記実施形態では、所定の整合条件を満たすまで変数設定部32B、温度算出部32Cおよび整合条件判定部32Dの処理を繰り返す例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、それぞれ所定範囲内の値によって熱抵抗Rth_sおよび投入熱量Qinの組み合わせを総当たりで設定し、全ての組み合わせについて指標値αを算出して、その中で指標値αが最小値となる組み合わせを整合条件として用いるようにしてもよい。
【0038】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 熱抵抗測定装置
10 テストヘッド
11 ヒーター部
12 接触部
13 熱伝導部
20-1~20-4 温度センサ
30 演算装置
31 温度情報入力部
32 熱抵抗特定部
32A 固定値設定部
32B 変数設定部
32C 温度算出部
32D 整合条件判定部
32E 熱抵抗出力部