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特開2023-109056導電性ダイヤモンド電極を用いたギ酸製造方法及び装置
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  • 特開-導電性ダイヤモンド電極を用いたギ酸製造方法及び装置 図1
  • 特開-導電性ダイヤモンド電極を用いたギ酸製造方法及び装置 図2-1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109056
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】導電性ダイヤモンド電極を用いたギ酸製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20230731BHJP
   C25B 11/043 20210101ALI20230731BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230731BHJP
   C25B 11/083 20210101ALI20230731BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20230731BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230731BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B11/043
C25B11/052
C25B11/083
C25B3/07
C25B9/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010435
(22)【出願日】2022-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業、カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発「ダイヤモンド電極を用いた石炭火力排ガス中のCO2からの基幹物質製造開発事業」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 敦
(72)【発明者】
【氏名】杜 京倫
(72)【発明者】
【氏名】栄長 泰明
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA23
4K011AA69
4K011BA12
4K011DA10
4K021AC09
4K021BB03
4K021BC09
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】効率的なギ酸の製造方法及び装置を提供すること。
【解決手段】活性化されている導電性ダイヤモンド電極を使用し、二酸化炭素を電解還元する、ギ酸の製造方法及び装置を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極とを備えた電解槽を用いて二酸化炭素を電解還元するギ酸の製造方法であって、
前記陰極が導電性ダイヤモンド電極であり、
二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって前記導電性ダイヤモンド電極を活性化することを含む活性化工程と、
前記活性化された導電性ダイヤモンド電極を陰極として、二酸化炭素と支持電解質を含む電解質溶液中で参照電極に対する陰極電位が-1.5Vから-2.2Vの電位で電解還元を行うことを含むギ酸生成工程と、
を含むギ酸の製造方法。
【請求項2】
前記活性化工程に用いる支持電解質及び前記ギ酸生成工程に用いる支持電解質のいずれもが、ハロゲン化物を含む支持電解質であることを特徴とする請求項1に記載のギ酸の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化物を含む支持電解質が、塩化カリウムであることを特徴とする請求項2に記載のギ酸の製造方法。
【請求項4】
陽極と陰極とを備えた電解槽を用いて二酸化炭素を電解還元するギ酸の製造方法であって、
前記陰極が導電性ダイヤモンド電極であり、
二酸化炭素とハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって前記導電性ダイヤモンド電極を活性化することを含む活性化工程と、
前記ハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液を、ハロゲン化物を含まない支持電解質を溶解した電解質溶液に入れ替えることを含む溶液交換工程と、
前記ハロゲン化物を含まない支持電解質と二酸化炭素を溶解した電解質溶液で電解還元を行うことを含むギ酸生成工程と、
を含むギ酸の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化物を含む支持電解質が塩化カリウムであり、前記ハロゲン化物を含まない支持電解質が硫酸カリウムであることを特徴とする請求項4に記載のギ酸の製造方法。
【請求項6】
活性化工程を30分以上行う、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
活性化工程において印加される陰極電位の電流密度が
-0.5 mA/cm2以上~-5.0mA/cm2以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
二酸化炭素を陰極で還元してギ酸を生成するギ酸製造装置であって、
陽極と陰極とを備えた電解槽を有し、
前記陰極が導電性ダイヤモンド電極であり、
前記導電性ダイヤモンド電極が、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で二酸化炭素を電解することによって活性化されている、
前記ギ酸製造装置。
【請求項9】
前記導電性ダイヤモンド電極が、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で30分以上、二酸化炭素を電解することによって活性化されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記導電性ダイヤモンド電極が、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上~-5.0mA/cm2以下の電流密度で二酸化炭素を電解することによって活性化されている、請求項8又は9に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性ダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元によるギ酸の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ギ酸は重要な工業原料であり、ギ酸ソーダの酸分解法、炭化水素の酸化法、ギ酸メチルの直接加水分解法などにより製造されてきた。近年、地球温暖化防止や石油資源保護の観点、さらにはサスティナブルで持続可能な社会の実現という観点から、二酸化炭素を原料としたギ酸製造が注目されている。
【0003】
特許文献1は二酸化炭素の電解還元装置を記載している。特許文献1の方法では7M程度の高濃度の炭酸カリウム水溶液に二酸化炭素を飽和させて電解還元を行っている。生成物は酢酸やギ酸と記載されている。
【0004】
特許文献2は、ダイヤモンド電極を用いる電気化学的還元装置を記載している。特許文献2の方法では、高圧下で二酸化炭素をメタノール溶液に飽和させて電解還元を行っている。
【0005】
特許文献3は、ダイヤモンド電極を使用し二酸化炭素から高い選択性でギ酸を製造する方法及び装置を記載している。特許文献3では、塩化カリウムや塩化ルビジウム、塩化セシウムを、比較的高い電流密度にて使用する方法及び装置が開示されている。
【0006】
非特許文献1は、ダイヤモンド電極を使用し二酸化炭素から高い選択性でギ酸を製造する方法及び装置を記載している。
【0007】
効率的なギ酸の製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-174139号公報(特許第5368340号公報)
【特許文献2】特開2014-167151号公報(特許第6042749号公報)
【特許文献3】特開2018-141220号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. Kaneko, R. Iwao, K. IIba, K. Ohta and T. Mizuno, Energy, 23 (1998) No. 12, pp. 1107-1112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載のダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元によるギ酸製造方法では、実用的な量のギ酸を得るためには作用電極の電位を参照電極に対して-2.2Vよりも大きくする必要があり、消費電力の観点から改善が求められていた。また、特許文献3に記載のダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元により得られたギ酸は、電解質の塩化カリウム等に由来するハロゲン化物を含んでいる。これらの方法により得られたギ酸は、ハロゲン化物による金属触媒の不活性化のため、燃料電池や水素貯蔵のような金属触媒と接触させる用途には利用できないという問題点があった。
【0011】
本開示は、従来技術の問題点を少なくとも部分的に解決するギ酸の製造方法及び装置を提供することを課題とする。特定の実施形態において、本開示は、二酸化炭素を原料とするギ酸製造において、低い消費電力でギ酸を製造する装置及び方法を提供する。また、特定の実施形態において、本開示は、ハロゲン化物を含まない電解質を用いてギ酸を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特定の実施形態において、本開示は、ダイヤモンド電極を活性化することによって、二酸化炭素の電解還元において、低い消費電力でギ酸を製造することができる装置及び方法を提供する。また、特定の実施形態において、本開示は、ダイヤモンド電極を活性化することによって、二酸化炭素の電解還元においてハロゲン化物を含まない電解質を用いてギ酸を製造する方法を提供する。
【0013】
すなわち本開示は、以下の実施形態を包含する:
[1] 陽極と陰極とを備えた電解槽を用いて二酸化炭素を電解還元するギ酸の製造方法であって、
前記陰極が導電性ダイヤモンド電極であり、
二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって前記導電性ダイヤモンド電極を活性化することを含む活性化工程と、
前記活性化された導電性ダイヤモンド電極を陰極として、二酸化炭素と支持電解質を含む電解質溶液中で参照電極に対する陰極電位が-1.5Vから-2.2Vの電位で電解還元を行うことを含むギ酸生成工程と、
を含むギ酸の製造方法。
[2]前記活性化工程に用いる支持電解質及び前記ギ酸生成工程に用いる支持電解質のいずれもが、ハロゲン化物を含む支持電解質であることを特徴とする実施形態1に記載のギ酸の製造方法。
[3] 前記ハロゲン化物を含む支持電解質が、塩化カリウムであることを特徴とする実施形態2に記載のギ酸の製造方法。
[4] 陽極と陰極とを備えた電解槽を用いて二酸化炭素を電解還元するギ酸の製造方法であって、
前記陰極が導電性ダイヤモンド電極であり、
二酸化炭素とハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって前記導電性ダイヤモンド電極を活性化することを含む活性化工程と、
前記ハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液を、ハロゲン化物を含まない支持電解質を溶解した電解質溶液に入れ替えることを含む溶液交換工程と、
前記ハロゲン化物を含まない支持電解質と二酸化炭素を溶解した電解質溶液で電解還元を行うことを含むギ酸生成工程と、
を含むギ酸の製造方法。
[5] 前記ハロゲン化物を含む支持電解質が塩化カリウムであり、前記ハロゲン化物を含まない支持電解質が硫酸カリウムであることを特徴とする実施形態4に記載のギ酸の製造方法。
[6] 活性化工程を30分以上行う、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 活性化工程において印加される陰極電位の電流密度が
-0.5 mA/cm2以上~-5.0mA/cm2以下である、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 二酸化炭素を陰極で還元してギ酸を生成するギ酸製造装置であって、
陽極と陰極とを備えた電解槽を有し、
前記陰極が導電性ダイヤモンド電極であり、
前記導電性ダイヤモンド電極が、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で二酸化炭素を電解することによって活性化されている、
前記ギ酸製造装置。
[9] 前記導電性ダイヤモンド電極が、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で30分以上、二酸化炭素を電解することによって活性化されている、実施形態8に記載の装置。
[10] 前記導電性ダイヤモンド電極が、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上~-5.0mA/cm2以下の電流密度で二酸化炭素を電解することによって活性化されている、実施形態8又は9に記載の装置。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、導電性ダイヤモンド電極を活性化することによって、低い消費電力でギ酸を製造する装置及び方法を提供し、また、導電性ダイヤモンド電極を活性化することによって、ハロゲン化物を含まないギ酸を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の装置の例を図1に示す。
図2-1】活性化工程における電流密度と電位の変化を示した図である。
図2-2】ギ酸生成工程における電流密度の変化を示した図である。
図3】ギ酸生成工程におけるギ酸生成のファラデー効率を図3に示す。
図4】液交換を行った場合の、活性化された電極(b)と活性化されていない電極(a)との、ギ酸生成工程におけるギ酸生成のファラデー効率を示した図である。液交換後の電解質溶液は0.25M K2SO4とした。
図5】活性化あり(下)及び活性化なし(上)の導電性ダイヤモンド電極を使用し、-1.8Vの陰極電位を印加して定電位電解にてギ酸生成を行ったときの電流密度変化を示す。
図6】活性化あり(下)及び活性化なし(上)の導電性ダイヤモンド電極を使用し、-1.9Vの陰極電位を印加して定電位電解にてギ酸生成を行ったときの電流密度変化を示す。
図7】活性化あり(下)及び活性化なし(上)の導電性ダイヤモンド電極を使用し、-2.2Vの陰極電位を印加して定電位電解にてギ酸生成を行ったときの電流密度変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ギ酸製造装置
ある実施形態において本開示は、二酸化炭素を陰極で還元してギ酸を生成するギ酸製造装置を提供する。本実施形態のギ酸製造装置は、陽極と陰極とを備えた電解槽を有し、前記陰極が導電性ダイヤモンド電極である。特定の実施形態において、前記導電性ダイヤモンド電極は、活性化されている導電性ダイヤモンド電極である。ある実施形態において、活性化されている導電性ダイヤモンド電極は、二酸化炭素と支持電解質とを溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.8Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上、例えば-1.0 mA/cm2以上の電流密度にて二酸化炭素を電解することにより活性化されている。
【0017】
導電性ダイヤモンド電極は、薄膜或いはバルク状のダイヤモンドに導電性が付与されて電極として構成されたものとして定義される。ダイヤモンドに導電性を付与する方法としては特に限定されないが、ダイヤモンドに微量の不純物をドープすることができる。不純物としては、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)等が挙げられる。例えば、薄膜又はバルク上のダイヤモンドは気相合成法によって得られるが、炭素源を含む原料ガスに、ホウ素をドープするためにはジボラン、トリメトキシボラン、酸化ホウ素を、硫黄をドープするためには酸化硫黄、硫化水素を、酸素をドープするためには酸素もしくは二酸化炭素を、窒素をドープするためにはアンモニア若しくは窒素を、ケイ素をドープするためには、シラン等を加えることができる。特にホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極は、他の電極材料と比較して広い電位窓とバックグラウンド電流が小さいという利点を有するため、有利である。以下、特に導電性ダイヤモンド電極を単にダイヤモンド電極と記載することがあり、ホウ素ドープダイヤモンド電極を、ボロンドープダイヤモンド電極、或いはBDD電極と記載することがある。
【0018】
ある実施形態において導電性ダイヤモンド電極は、基板上に成膜した薄膜状であり得る。導電性ダイヤモンドを基板に製膜する際には基盤が高温になることが多いため、基板としてはシリコン等の半導体やタングステン、ニオブ、モリブデン、チタンといった高融点金属を用いることができる。導電性ダイヤモンド電極の薄膜を、基板上に製膜する方法としては、公知の方法を用いることができる、例えば後述の実施例に記載したように化学気相合成法(CVD法)を用いることができる。
【0019】
ある実施形態において陽極としては、プラチナ、ニッケル等の金属電極を用いることができ、グラッシーカーボン、グラファイト等の一般的な炭素電極を用いることができ、導電性ダイヤモンド電極を用いることができる。ある実施形態において電解槽はバッチセル型、フローセル型など様々な形態をとることができる。例えばある実施形態では、電解槽は、連続的にギ酸を得ることができるフローセル型電解槽であり得る。
【0020】
本開示において電解槽の構成は特に限定されず、様々な構成であり得る。ある実施形態において電解槽は参照電極を有し得る。これにより電位を正確に制御することができる。参照電極としては、標準水素電極、銀塩化銀電極、飽和カロメル電極等の公知の電極が挙げられる。電解槽に使用する参照電極の種類によって電極電位が変動するが、本明細書では、特に断らない限り、電極電位は銀塩化銀電極に対する陰極の電位とする(vs Ag/AgCl)。
【0021】
ある実施形態において電解槽は、隔膜を有する二室型電解槽であり得る。隔膜で電解槽を陽極室と陰極室とに隔てることにより、陽極室と陰極室とでそれぞれ独立した電気化学反応を行うことができ、反応の制御が容易になる。隔膜としては、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、バイポーラ膜等のイオン交換膜を用いることができるがこれに限らない。特定の実施形態では隔膜は陽イオン交換膜であり得る。
【0022】
ある実施形態において、ギ酸製造装置には、ギ酸の原料となる二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液を用いることができる。電解質溶液は、入手が容易であり導電性に優れる、水溶液とすることができる。二酸化炭素は、例えば、電解質溶液に二酸化炭素ガスをバブリングすることで溶解させることができる。特定の実施形態では、二酸化炭素ガスをバブリングする前に、電解質溶液中に含まれる溶存酸素等の溶存ガスを除去するため、窒素やアルゴンといった不活性ガスでバブリングをしておくことができる。
【0023】
活性化工程の支持電解質としては、ハロゲン化物を含む電解質、例えば塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、等のハロゲン化物を含む電解質が挙げられるがこれに限らない。ハロゲン化物を含む電解質を用いることで、導電性ダイヤモンド電極から二酸化炭素への電子移動が活発に起こり、高い活性化効果を得ることができる。
【0024】
ある実施形態において本開示の導電性ダイヤモンド電極は、二酸化炭素と支持電解質とを溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.8Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上、例えば-1.0 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって活性化されているものであり得る。活性化は、二酸化炭素を含む電解質溶液中で比較的高い電位で二酸化炭素を電解させる、すなわち陰極であるダイヤモンド電極から、電解質溶液に溶解した二酸化炭素への電子移動を積極的に起こすことで電極自体を活性化するものである。本発明者らは、導電性ダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元について種々の試みを行う中で、活性化を行っていない電極をそのまま用いて電解を行った場合と比較して、活性化された電極を用いた場合に電解がより活発に進行することを思いがけず見出した。理論に拘泥されるものではないが、本発明者らは、二酸化炭素の炭素原子と導電性ダイヤモンド電極の表面に存在する炭素原子との間に結合が生じ、導電性ダイヤモンド電極表面に二酸化炭素に由来するカルボキシル基を生じることで、電極表面と二酸化炭素分子との親和性が向上することが導電性ダイヤモンド電極を活性化する要因の一つと考えている。ただし本開示はかかる機序に何ら限定されるものではない。
【0025】
本発明者らは、活性化された導電性ダイヤモンド電極を、その表面の吸着分子や官能基の種類によって特定することを試みた。現時点での本発明者らの試みについて説明する。表面から数μm以下の表面近傍の吸着分子や官能基の種類を文言により一概に特定することは、導電性ダイヤモンド電極の各々によってその構造やそれに伴う特性が異なることに照らせば不可能である。また、活性化された導電性ダイヤモンド電極の構造又は特性を、測定に基づき解析することにより特定することも、本願出願時における解析技術では、不可能又はほぼ不可能である。材料の存在状態を詳細に測定する手法として、走査型電子顕微鏡(SEM)、X線光電子分光法(XPS)等があるが、このような測定装置は測定対象物を超高真空チャンバー内で観察する必要があり、そのような環境では表面の吸着分子の脱離が起こるため、導電性ダイヤモンド電極が活性化された状態を保つことができない。また、真空条件を必要としない測定装置としては、フーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR)やラマン分光装置等が挙げられるが、これらの装置は表面構造を特定するための空間分解能に欠けるため、活性化された導電性ダイヤモンド電極の表面構造を特定することはできない。
【0026】
ある実施形態において、ダイヤモンド電極を活性化する際に陰極に印加する電位は、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲、-2.1Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.0Vから-2.9Vの範囲、例えば-2.1Vから-2.9Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.9Vの範囲、例えば-2.0Vから-2.8Vの範囲、例えば-2.1Vから-2.8Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.8Vの範囲、例えば-2.0Vから-2.7Vの範囲、例えば-2.1Vから-2.7Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.7Vの範囲、例えば-2.0Vから-2.6Vの範囲、例えば-2.1Vから-2.6Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.6Vの範囲、例えば-2.0Vから-2.5Vの範囲、-2.1Vから-2.5Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.5Vの範囲であり得る。特定の実施形態において、導電性ダイヤモンド電極を活性化するための陰極電位は-2.0Vより大きく、-2.5Vよりも小さい。陰極電位が小さすぎるとダイヤモンド電極から二酸化炭素への電子移動が起こらないため十分な活性化効果が得られないことがある。また、陰極電位が大きすぎるとダイヤモンド電極から水への電子移動が優先されてしまい、水素が発生することがある。この場合でも電極から二酸化炭素への電子移動が起こらず、十分な活性化効果が得られない。
【0027】
ある実施形態においてダイヤモンド電極を活性化する際の電流密度は、-0.5 mA/cm2以上、-0.6 mA/cm2以上、-0.7 mA/cm2以上、-0.8 mA/cm2以上、-0.9 mA/cm2以上、例えば-1.0 mA/cm2以上であり得る。電流密度が小さすぎるとダイヤモンド電極から二酸化炭素への電子移動が起こらないため十分な活性化効果が得られないことがある。また、電流密度の上限は限定されないが、電流密度が高くなると、陰極電位が大きくなる。そのため、前述の陰極電位の範囲を超えない範囲で適宜調整することが好ましい。特定の実施形態において、ダイヤモンド電極を活性化する際の電流密度は、-5.0 mA/cm2以下、-4.5 mA/cm2以下、-4.0 mA/cm2以下、-3.5 mA/cm2以下、-3.0 mA/cm2以下、-2.5 mA/cm2以下、-2.0 mA/cm2以下、-1.5 mA/cm2以下、例えば-0.5 mA/cm2~-5.0 mA/cm2、-0.6 mA/cm2~-4.0 mA/cm2、-0.7 mA/cm2~-3.0 mA/cm2、-0.8 mA/cm2~-2.0 mA/cm2、例えば-0.9 mA/cm2~-1.5 mA/cm2であり得る。
【0028】
ある実施形態においてダイヤモンド電極の活性化工程において、外部電源機構を用いて陰極と陽極の間に電圧を印加することができる。外部電源機構は、特に限定されないが、ポテンショ・ガルバノスタットを用いることができる。ポテンショ・ガルバノスタットは電解液中の作用電極の電気化学反応を制御して、その電位及び電流を測定する。ポテンショ・ガルバノスタットを用いて参照電極に対する陰極電位及び電流密度を前述の範囲にするためには、定電位電解方式により所望の電流密度が得られるように電位を制御してもよく、定電流電解方式により、所望の電流値が得られるように電流値を制御してもよい。外部電源機構として、ポテンショスタット、又はガルバノスタットを使用してもよい。
【0029】
ある実施形態において、ダイヤモンド電極の活性化工程に必要な時間は適宜設定することができる。ある実施形態において活性化工程は、30秒以上、1分以上、5分以上、10分以上、15分以上、例えば30分以上、90分以下、例えば60分以下、例えば1~90分、10~60分、例えば30~60分とすることができるがこれに限らない。活性化時間が短すぎると十分な活性化効果が得られないことがあり、長すぎるとギ酸製造装置の生産性や消費電力の観点から不利となることがある。
【0030】
なお、本開示のダイヤモンド電極を活性化する工程における陰極に印加する電位及び電流密度に関し、従来技術におけるギ酸製造法が、当該印加電位及び電流密度よりも大きな印加電位及び電流密度を教示している場合があり得る。そのような場合、従来技術におけるギ酸製造法が、瞬間的に本開示のダイヤモンド電極を活性化する工程における陰極印加電位及び電流密度を跨ぐことがあり得る。しかしながら、瞬間的に本開示のダイヤモンド電極を活性化する工程における陰極印加電位及び電流密度を跨いだだけでは、十分な活性化効果は得られないものと考えられる。したがって、従来のギ酸製造法におけるそのような瞬間的な陰極印加電位及び電流密度は、本開示のダイヤモンド電極を活性化する工程における陰極に印加する電位及び電流密度に該当しないものとする。
【0031】
ギ酸の製造方法
ある実施形態において本開示は、陽極と陰極とを備えた電解槽を用いて二酸化炭素を電解還元するギ酸の製造方法を提供する。本実施形態のギ酸の製造方法は、活性化工程と、ギ酸生成工程とを含む。特定の実施形態において、活性化工程は、陰極である前記導電性ダイヤモンド電極を、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.8Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上、例えば-1.0 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって活性化する工程である。特定の実施形態において、ギ酸生成工程は、二酸化炭素と支持電解質とを含む電解質溶液中で参照電極に対する陰極電位が-1.5Vから-2.2Vの電位、-1.5Vから-2.0Vの電位、例えば-1.8Vから-2.0Vの電位で電解還元を行う工程である。活性化工程については前述のとおりである。
【0032】
ある実施形態において本開示は、二酸化炭素を電解還元することによりギ酸を製造するための導電性ダイヤモンド電極を活性化する方法であって、二酸化炭素と支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を前記導電性ダイヤモンド電極に印加し、-0.5 mA/cm2以上の電流密度で二酸化炭素を電解することにより前記導電性ダイヤモンド電極を活性化する工程、を含む活性化方法を提供する。この方法により活性化された導電性ダイヤモンド電極は、ギ酸製造に用いることができる。
【0033】
本実施形態のギ酸生成工程では、前記活性化工程により活性化された導電性ダイヤモンド電極を用いる。陰極として、活性化された導電性ダイヤモンド電極を備えた電解槽を用いて二酸化炭素の電解還元を行うと、活性化されていない導電性ダイヤモンド電極を用いた場合と比べて小さい陰極電位で二酸化炭素への電子移動が起こるようになる。これにより、参照電極に対して例えば-1.5Vから-2.0Vといった範囲の小さい陰極電位でギ酸製造が可能となり、電解還元に必要な消費電力を低下させることができる。
【0034】
ある実施形態において、ギ酸生成工程における陰極電位は、例えば-1.5V以上、-1.6V以上、-1.7V以上、-1.8V以上、例えば-2.2V以下、-2.1V以下、-2.0V以下、例えば-1.5V~-2.2V、-1.6V~-2.1V、-1.7V~-2.0V、-1.8V~-2.0Vであり得る。電極電位が小さすぎると二酸化炭素の電解還元によって得られるギ酸の生成量が低下することがある。電極電位が大きすぎると、ギ酸の生成量は増加するが、電解に必要な消費電力が大きくなることがある。
【0035】
ギ酸生成工程における電流密度は、特に限定されないが、小さすぎても大きすぎても前述の陰極電位の範囲から外れることがあるため好ましくない。ギ酸の生成量の観点から、前述の陰極電位が得られる範囲で最大化するように調整することが好ましい。
【0036】
なお、特定の実施形態において、本開示の活性化されたダイヤモンド電極を用いるギ酸製造方法は、従来技術におけるギ酸製造法と比較して、ギ酸生成工程における陰極電位を小さくすることができる。すなわち、ギ酸生成工程における陰極に印加する電位に関し、従来技術におけるギ酸製造法が、本開示の印加電位よりも大きな印加電位を教示している場合があり得る。そのような場合、従来技術におけるギ酸製造法において、電位を印加する開始時又は終了時に、とりわけ装置の運転終了時に、瞬間的に本開示のギ酸生成工程における陰極印加電位を跨ぐことがあり得る。しかしながら、瞬間的に本開示のギ酸生成工程における陰極印加電位を跨いだだけでは、ギ酸生成に必要な消費電力は低下されず、従来どおりの消費電力である。したがって、従来のギ酸製造法におけるそのような瞬間的なギ酸生成工程における陰極印加電位を跨いだものは、本開示のギ酸生成工程における陰極に印加する電位に該当しないものとする。
【0037】
本実施形態のギ酸生成工程に用いる支持電解質としては、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、等のハロゲン化物を含む電解質が挙げられるがこれに限らない。ハロゲン化物を含む電解質は、導電性ダイヤモンド電極から二酸化炭素への電子移動が活発に起こり得るため、ダイヤモンド電極の活性化工程においても用いることができる。活性化工程後のギ酸生成工程においてハロゲン化物を含む電解質を用いると、小さい陰極電位でギ酸を製造することができるようになる。特定の実施形態において、活性化工程で使用した電解質溶液を、引き続くギ酸生成工程においても同じ電解質溶液をそのまま継続して使用することにより、工程を簡略化することができる。
【0038】
本実施形態のギ酸生成工程においても、ダイヤモンド電極の活性化工程と同様に外部電源機構を用いて陰極と陽極の間に電圧を印加することができる。外部電源機構は、特に限定されないが、ポテンショ・ガルバノスタットを用いることができる。ポテンショ・ガルバノスタットを用いて所望の電位を得るためには、定電位方式により直接電位を制御しても良いし、定電流方式により、所望の電位を与えるように電流値を制御しても良い。外部電源機構として、ポテンショスタット、又はガルバノスタットを使用してもよい。
【0039】
本実施形態において、ギ酸製造工程を行う時間は適宜設定することができる。特定の実施形態において、ギ酸製造工程を行う時間は、10分以上、30分以上、60分以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、24時間以上、48時間以上、例えば72時間以上であり得るがこれに限らない。ギ酸製造工程を行う時間は、原料である二酸化炭素の供給や、生成するギ酸の生成速度が低下しない範囲で、できる限り長くすることでギ酸の生産量を増大させることができる。特定の実施形態において、ギ酸製造工程を行う時間は、144時間以下、72時間以下、48時間以下、24時間以下であり得るがこれに限らない。
【0040】
ある実施形態において本開示は、陽極と陰極とを備えた電解槽を用いて二酸化炭素を電解還元するギ酸の製造方法を提供する。本実施形態のギ酸の製造方法は、活性化工程と、液交換工程と、ギ酸生成工程とを含む。活性化工程では、二酸化炭素とハロゲン化物とを含む支持電解質を溶解した電解質溶液中で、参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-3.0Vの範囲、例えば-2.2Vから-2.8Vの範囲で陰極電位を印加し、-0.5 mA/cm2以上、例えば-1.0 mA/cm2以上の電流密度で電解することによって前記導電性ダイヤモンド電極を活性化することができる。液交換工程では、前記ハロゲン化物イオンを含む支持電解質を溶解した電解質溶液を、ハロゲン化物イオンを含まない支持電解質を溶解した電解質溶液に交換することができる。ギ酸生成工程では、前記ハロゲン化物イオンを含まない支持電解質と二酸化炭素とを溶解した電解質溶液で電解還元を行うことができる。活性化工程については前述のとおりである。
【0041】
本実施形態の液交換工程は、活性化工程で用いたハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液を、ギ酸生成工程で用いるハロゲン化物を含まない支持電解質を溶解した電解質溶液に交換する工程である。活性化工程により活性化された導電性ダイヤモンド電極に関し、活性化状態を保ちつつ電解質溶液を交換するために、活性化された導電性ダイヤモンド電極の表面を乾燥させることなく電解質溶液を交換することが好ましい。電極表面を乾燥させてしまうと、活性化工程により生じた表面の活性化効果が失われ得るためである。
【0042】
電極表面を乾燥させることなく電解質溶液を交換する方法は、任意の方法を選択することができるが、特定の実施形態では例えば、活性化工程で用いたハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液の残存を防止するため、前記ハロゲン化物を含む支持電解質を純水と交換してから、前記純水をギ酸生成工程で用いるハロゲン化物を含まない支持電解質を溶解した電解質溶液に交換することができる。例えば、フローセル型電解槽を用いる場合には、送液ポンプを用いて、電解質溶液タンクから活性化工程に用いた電解質溶液を抜き出し、次に電解質溶液タンクを純水で満たした後、電解槽に純水を循環させることで電解槽及び電解質溶液タンクを洗浄するという手順により、電解槽から活性化工程に用いたハロゲン化物を含む支持電解質を溶解した電解質溶液を、電極表面を乾燥させることなく純水と交換することができる。また、同様の手順で、電解質溶液タンクの純水を、後のギ酸生成工程で用いるハロゲン化物を含まない支持電解質を溶解した電解質溶液に交換することができる。ある実施形態において送液ポンプは蠕動ポンプなどの間欠的な送液を行うポンプであり得る。これはギ酸生成工程でも使用し得る。ある実施形態において、電解質溶液は、電極表面を乾燥させることなく交換しうる。別の実施形態において、電解質溶液を交換する際に、電極表面の全部又は一部が一時的に乾燥してもよい。
【0043】
液交換後のギ酸生成工程では、ハロゲン化物イオンを含まない支持電解質と二酸化炭素とを溶解した電解質溶液で電解還元を行うことができる。ハロゲン化物を含まない支持電解質は特に限定されず、例えば硫酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム(TBABF4)、過塩素酸カリウムが挙げられるがこれに限らない。
【0044】
本実施形態のギ酸生成工程においても、ダイヤモンド電極の活性化工程と同様に外部電源機構を用いて陰極と陽極の間に電圧を印加することができる。外部電源機構は、特に限定されないが、ポテンショ・ガルバノスタットを用いることができる。ポテンショ・ガルバノスタットを用いて所望の電位を得るためには、定電位方式により直接電位を制御してもよく、定電流方式により、所望の電位を与えるように電流値を制御してもよい。外部電源機構として、ポテンショスタット、又はガルバノスタットを使用してもよい。
【0045】
本実施形態において、ギ酸製造工程を行う時間は適宜設定することができる。特定の実施形態において、ギ酸製造工程を行う時間は、10分以上、30分以上、60分以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、24時間以上、48時間以上、例えば72時間以上であり得るがこれに限らない。ギ酸製造工程を行う時間は、原料である二酸化炭素の供給や、生成するギ酸の生成速度が低下しない範囲で、できる限り長くすることでギ酸の生産量を増大させることができる。特定の実施形態において、ギ酸製造工程を行う時間は、144時間以下、72時間以下、48時間以下、24時間以下であり得るがこれに限らない。
【0046】
本開示において、電解還元は、参照電極に対する陰極電位を一定にして行う定電位方式、陰極陽極間の電圧を一定にして行う定電圧方式、陰極の電流密度を一定にして行う定電流方式としてもよい。ある実施形態において電流は直流であり得る。
【0047】
本開示において定電位方式を採用する場合において、ギ酸製造装置は、陰極、陽極及び参照電極を有する三電極構成とすることができる。また、定電圧方式或いは定電流方式を採用する場合において、ギ酸製造装置は、陰極、陽極及び参照電極を有する三電極構成としても良いし、陰極及び陽極を有し、参照電極を有さない二電極構成としても良い。本開示は、前記三電極構成を採用する場合は、参照電極の電位が本開示に記載の範囲にあることを含む。また本開示は、前記二電極構成を採用する場合は、参照電極に対する陰極電位は測定されないが、測定したならば参照電極の電位が本開示に記載の範囲にあることを含む。別の言い方をすると、本開示のギ酸の製造方法に関し、例えば参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加し、とは必ずしも三電極構成として参照電極を基準とした陰極電位を測定しなければならないことを規定しているわけではなく、二電極構成として陰極陽極間に電圧を印加した場合において、陰極電位を参照電極を基準として測定したならば、その電位が結果的に本開示に記載の範囲にあるのであれば、当該印加電圧は実質的に、本開示における参照電極に対して-2.0Vから-3.0Vの範囲で陰極電位を印加することに該当するものとする。
【0048】
ある実施形態において、ギ酸生成反応における、導電性ダイヤモンド電極の電流を-0.1mA~-50mA、-0.5mA~-40mA、-1mA~-30mA、-2mA~-20mA、例えば-15mA、-10mA、-5mA又は-2mAとすることができる。
【0049】
ある実施形態において、ギ酸生成反応における、導電性ダイヤモンド電極の電流密度を-0.5mA/cm2~-5mA/cm2、-0.6mA/cm2~-4.5mA/cm2、-0.7mA/cm2~-4.0mA/cm2、-0.8mA/cm2~-3.5mA/cm2、-0.9mA/cm2~-3.0mA/cm2、-1.0mA/cm2~-2.5mA/cm2、-1.5mA/cm2~-2.0mA/cm2、例えば-0.5mA/cm2、-1.0mA/cm2、-2.0mA/cm2、-3mA/cm2、-4mA/cm2、又は-5mA/cm2とすることができる。
【0050】
ある実施形態において、BDD電極は、基板表面に0.01~8%w/wホウ素原料混入ダイヤモンドを蒸着したダイヤモンド層を有する。基板はSi基板、SiO2等のガラス基板や石英基板、Al2O3、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス基板、タングステン、モリブデン、ニオブ、チタン等の金属でありうる。基板表面の全部又は一部をダイヤモンド層とすることができる。別の実施形態において、BDD電極の電極部は、バルク状のダイヤモンドを有し得る。
【0051】
導電性ダイヤモンド電極の電極部の大きさは特に限定されないが、1cm2以上、5cm2以上、10cm2以上、50cm2以上の面積とすることができる。ダイヤモンド層の全部又は一部を二酸化炭素を含む溶液に接触させてギ酸生成反応に用いることができる。電極部の面積や形状は装置の構成に応じて適宜決定することができる。
【0052】
ある実施形態において、BDD電極は、Si基板表面が高ホウ素原料混入(原料仕込みとして0.01~8%w/wホウ素原料)ダイヤモンドで蒸着されたダイヤモンド層を有する。ホウ素原料混入率は例えば0.01~5%w/w、0.02~4%w/w、0.03~3%w/w、0.04~2%w/w、0.05~1%w/w、例えば0.1~1.0%w/w程度である。
【0053】
基板へのホウ素原料混入ダイヤモンドの蒸着処理は、例えば700~900℃で2~12時間行うことができる。導電性ダイヤモンド薄膜は化学気相成長法(CVD)、例えばマイクロ波プラズマ化学気相成長法(MPCVD)で作製されうる。例えばシリコン単結晶(100)等の基板を成膜装置内にセットし、高純度水素ガスを担体ガスとした成膜用ガスを流す。成膜用ガスには、炭素、ホウ素を含む気体成分が含まれている。成膜用ガスを流している成膜装置内にマイクロ波を与えてプラズマ放電を起こさせると、成膜用ガス中の炭素源から炭素ラジカルが生成し、Si単結晶上にsp3構造を保ったまま、かつホウ素を混入しながら堆積してダイヤモンドの薄膜が形成される。特に断らない限り、本開示の導電性ダイヤモンド、特にホウ素ドープ導電性ダイヤモンドはsp3構造である。特定の実施形態において、本開示の導電性ダイヤモンド、特にホウ素ドープ導電性ダイヤモンドはsp2構造を有しない。
【0054】
ダイヤモンド薄膜の膜厚は成膜時間の調整により制御することができる。ダイヤモンド薄膜の厚さは、例えば100nm~1mm、1μm~0.1mm、1μm~10μm、2μm~20μm等とすることができる。
【0055】
基板表面へのホウ素ドープダイヤモンドの蒸着処理の条件は基板材料に応じて決定すればよい。一例としてプラズマ出力は500W~7000W、例えば3kW~5kWとすることができ、好ましくは5kWとしうる。プラズマ出力がこの範囲であれば、合成が効率よく進行し、副生成物の少ない、品質の高い導電性ダイヤモンド薄膜が形成される。
【0056】
BDD電極の製造方法としては、公知のあらゆる手法を用いることができ、CVD手法(ホットフィラメント法を用いるものを含む)の他に、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオン注入法等の方法を用いることもできる。
【0057】
ある実施形態において、BDD電極は、水素終端化又は陰極還元されていてもよい。ある実施形態において、BDD電極は、酸素終端化又は陽極酸化されていてもよい。水素終端化の具体的な方法としては、導電性ダイヤモンド電極を水素雰囲気下でアニーリング(加熱)又は水素プラズマ処理することが挙げられる。陰極還元の具体的な方法としては、例えば、0.1M過塩素酸ナトリウム溶液中で-3Vの電位を5~10分間印加して水素を連続発生させること、などが挙げられる。酸素終端化の具体的な方法としては、前記導電性ダイヤモンド電極を酸素雰囲気下(空気中)でアニーリング(加熱)又は酸素プラズマ処理することが挙げられる。陽極酸化の具体的な方法としては、例えば、0.1M過塩素酸ナトリウム溶液中で+3Vの電位を5~10分間印加して酸素を連続発生させること、などが挙げられる。
【0058】
上記の電極は、特開2006-98281号公報、特開2007-139725号公報、特開2011-152324号公報、特開2015-172401号公報、又は特開2018-141220号公報等に開示されており、これらの公報の記載に従って作製することができる。
【0059】
本開示の導電性ダイヤモンド電極は、熱伝導率が高く、硬度が高く、化学的に不活性であり、電位窓が広く、バックグラウンド電流が低く、電気化学的安定性に優れている。
【0060】
本開示の装置の例を図1に示す。装置は、陰極(カソード電極)、陽極(アノード電極)、陰極槽(カソード槽)、陽極槽(アノード槽)、固体電解質膜、外部電源機構、二酸化炭素供給部、送液ポンプ、第1貯留槽、及び第2貯留槽を有する。図1では陰極はBDD電極である。陽極は金属電極であり、銀、金、白金、炭素、ステンレス鋼、イリジウム、パラジウム、オスミウム、ロジウム、ルテニウム等を使用しうる。図1では陽極は白金電極である。二酸化炭素供給部から二酸化炭素が第1貯留槽に供給される。場合により第1貯留槽には気体成分を捕集するためのサンプリングバッグを接続し得る。サンプリングバッグは、アルミニウム製、フッ素樹脂製、ポリフッ化ビニル製、ポリエステル製の袋等でありうるがこれに限らない。固体電解質膜は陰極槽と陽極槽との間に挟まれている。固体電解質膜は、例えばナフィオン(登録商標)膜(THE CHEMOURS COMPANY FC LLC)等のスルホン酸基を持ったフッ素系ポリマー膜、スルホ系イオン交換樹脂膜、Flemion(商標)イオン交換膜、Aciplex(商標)イオン交換膜等でありうるがこれに限らない。固体電解質膜が陰極槽と陽極槽とを仕切っているため、陰極で生成したギ酸は陽極で酸化されない。陰極槽は、二酸化炭素を含有し得る第一電解質溶液を収容する。第一電解質溶液は送液ポンプにより第1貯留槽から供給される。図1では参照電極は陰極槽に配置されている。陽極槽は第二電解質溶液を収容する。第二電解質溶液は送液ポンプにより第2貯留槽から供給される。BDD電極は第一電解質溶液に接触するように陰極槽に設置される。陽極は第二電解質溶液に接触するように陽極槽に設置される。第一電解質溶液と第二電解質溶液は同一でも異なってもよい。
【0061】
ある実施形態において、本開示の装置は、場合により、電流を一定に制御する手段(ガルバノスタット、アンペロスタットともいう)をさらに備え得る。ガルバノスタット等により、ギ酸生成反応時に電流を一定に制御することができる。ある実施形態において、本発明の装置は、さらに参照電極を有し得る。参照電極としては、銀-塩化銀電極等があげられる。この場合において、本発明の装置は、さらにポテンショスタットを有し得る。
【0062】
ある実施形態において、二酸化炭素の電解還元は次の手順にて行うことができる:
(1) 作用電極をBDD電極とし、電解セルにBDD電極及び対極を設ける。また必要に応じて参照電極を設ける。
(2) 電解質溶液を反応装置内に注入する。陽極(アノード)用の電解質溶液と陰極(カソード)用の電解質溶液とは同一でも異なってもよい。
(3) 場合により、水溶液中の酸素を除去するために窒素をバブリングする。
(4) 水溶液中に二酸化炭素をバブリングする。
(5) 場合により、電解質溶液のpHをギ酸生成反応に適したpHに調整する。
(6) BDD電極を活性化する(活性化工程)。
(7) 炭酸ガスの電解還元を行う(ギ酸生成工程)。
【0063】
特定の実施形態において、工程(6)と(7)の間に、液交換工程を行うことができる。電解還元は常温、室温又は低温で行い得る。電解還元は常圧又は高圧で行い得る。
【0064】
ある実施形態において、本開示の装置は使用説明書を有しうる。使用説明書は、導電性ダイヤモンド電極を活性化する活性化条件(例えば印加電位、電流密度等)を本明細書に記載の条件とする説明を含みうる。本開示の装置は、そのような条件で導電性ダイヤモンド電極の活性化及びギ酸生成反応を行うよう制御するプログラム又は該プログラムを実装するソフトウェアを備え得る。すなわち、ある実施形態において本開示は、導電性ダイヤモンド電極の活性化及びギ酸生成反応を行う制御プログラム又は該プログラムを実装するソフトウェアを提供する。また、ある実施形態において本開示は、導電性ダイヤモンド電極の活性化及びギ酸生成反応を行う制御プログラム又は該プログラムを実装するソフトウェアを備えた、ギ酸製造装置を提供する。ある実施形態において、プログラム又はソフトウェアは、記録媒体に格納され得る。ある実施形態において、プログラム又はソフトウェアは、クラウドアプリケーションであり得る。別の実施形態において、プログラム又はソフトウェアは、クラウド上に格納され、適当な実装手段により、本開示のギ酸製造装置を制御し得る。これらの実施形態も、当該プログラム又はソフトウェアは、本開示のギ酸製造装置のハードウエア、例えばメモリに一時的に格納され、本開示のギ酸製造装置を制御しうる。したがってこれらの実施形態も、本開示のギ酸製造装置が該プログラム又はソフトウェアを備えている場合に該当するものとする。
【0065】
本開示の方法又は装置により高いファラデー効率にてギ酸を生成することができる。ファラデー効率は、全反応電荷量に対する反応生成物の生成に用いられた電荷量の割合(パーセンテージ)である:
ファラデー効率(%)=100×(反応生成物の生成に用いられた電荷量)/(全反応電荷量)
本明細書においてギ酸の生成効率と言う場合、特に断らない限り、これは生成するギ酸についてのファラデー効率をいう。
【0066】
二酸化炭素と塩化カリウムを含む電解質溶液中で電解還元を行う工程により、導電性ダイヤモンド電極表面を活性化することができる。この活性化工程により、-2.2V以下という小さい電極電位でも、十分な量のギ酸の生成量が得られるようになる。また、この活性化工程により、二酸化炭素と硫酸カリウムを含み、塩化カリウムを含まない電解質溶液で電解還元を行う工程でのギ酸生成のファラデー効率が大幅に向上する。
【実施例0067】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
ホウ素ドープダイヤモンド電極をマイクロ波プラズマCVD装置(コーンズテクノロジー社製、モデルAX5400)により作製した。具体的には前処理としてシリコン基板Si(100)表面をダイヤモンドパウダーで核付けし、次に炭素源としてアセトン50mlとトリメトキシボレート0.4ml(ホウ素濃度0.1%)を用いて、プラズマ出力5000Wで6時間、圧力115Torrの条件で基板上に製膜した。また、電解槽には図1に記載の二室型フローセル電解槽を用いた。
【0069】
活性化工程
活性化工程として、陰極に導電性ダイヤモンド電極(電極面積9.62cm2)、陽極に白金電極(電極面積9.62cm2)、参照極として銀塩化銀電極、隔膜として陽イオン交換膜であるナフィオン膜を備えた電解槽を用いた。陰極液として窒素を30分バブリングした後に二酸化炭素を60分バブリングすることで二酸化炭素を飽和させた0.5M塩化カリウム水溶液50ml、陽極液として1.0M水酸化カリウム水溶液50mlを用いて、二酸化炭素の電解還元を行った。電解還元中は、送液ポンプを用いて陰極液及び陽極液の電解液を送液ポンプを用いて循環させた。電解還元は、陰極液である0.5M塩化カリウム水溶液中への二酸化炭素バブリングを継続しながら、電流密度-1.0 mA/cm2で定電流電解を60分間行った。活性化工程後の陰極液である0.5M塩化カリウム水溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、ギ酸生成量を求めた。
【0070】
ギ酸生成工程
ギ酸生成工程として、陰極液である0.5M塩化カリウム水溶液中への二酸化炭素バブリングを継続しながら、銀塩化銀参照電極に対し、-2.0Vの陰極電位を印加して定電流電解を3時間行った。ギ酸生成工程後の陰極液である0.5M塩化カリウム水溶液を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、活性化工程後のギ酸生成量との差分からギ酸生成量を求めた。
【0071】
[実施例2]
活性化工程における電流密度を-2.0 mA/cm2にした以外は実施例1と同様の方法で二酸化炭素の電解還元によるギ酸生成を行った。
【0072】
[比較例1]
活性化工程を省略し、導電性ダイヤモンド電極の活性化を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で二酸化炭素の電解還元によるギ酸生成を行った。
【0073】
[比較例2]
活性化工程における電流密度を-0.1 mA/cm2にした以外は実施例1と同様の方法で二酸化炭素の電解還元によるギ酸生成を行った。
【0074】
結果を図2-1及び2-2に示す。電解を定電位方式で行っていることから、図中で電流密度の増大が大きいほどギ酸が生成している。比較例1の導電性ダイヤモンド電極の活性化を行わなかった場合と比較して、実施例1、2に示すように活性化工程により電流密度が増大していることが分かる。比較例2は活性化工程を行ってはいるが、電流密度の増大が小さいことから、活性化効果が必ずしも十分ではないと言える。
【0075】
さらに、ギ酸生成工程におけるギ酸生成のファラデー効率を図3に示す。ファラデー効率は、実施例1、2及び比較例1、2において流れた電流が、どれほどギ酸生成に使われたかを示すものであり、ファラデー効率は、高いほどギ酸生成の選択性が高いと言える。
【0076】
図3の結果から、比較例1の導電性ダイヤモンド電極の活性化を行わなかった場合と比較して、実施例1、2に示すように活性化工程により電流密度が増大しているとともに、ファラデー効率も向上していることが分かる。これにより、活性化工程によりギ酸生成量が大きく増加していることが分かる。なお、比較例2は活性化工程を行ってはいるが、電流密度の増大とファラデー効率の向上が小さいことから、活性化効果が必ずしも十分ではないと判断した。
【0077】
[実施例3]
次に、活性化工程と、ギ酸生成工程とで、異なる電解質溶液を用いた場合について調べた。実施例1と同様に導電性ダイヤモンド電極を作製し、実施例1と同様の電解槽を用いた。
【0078】
活性化工程
活性化工程として、陰極に導電性ダイヤモンド電極(電極面積9.62cm2)、陽極に白金電極(電極面積9.62cm2)、参照極として銀塩化銀電極、隔膜として陽イオン交換膜であるナフィオン膜を備えた電解槽を用いた。陰極液として窒素を30分バブリングした後に二酸化炭素を30分バブリングすることで二酸化炭素を飽和させた0.5M塩化カリウム水溶液50ml、陽極液として0.5M水酸化カリウム水溶液50mlを用いて二酸化炭素の電解還元を行った。電解還元は、陰極液である0.5M塩化カリウム水溶液中への二酸化炭素バブリングを継続しながら、電流密度-2.0 mA/cm2で定電流電解を60分間行った。
【0079】
液交換工程
液交換工程として、陰極である導電性ダイヤモンド電極を乾燥させないよう注意しながら、送液ポンプを用いて、陰極液タンクの0.5M塩化カリウム水溶液中を純水50mlに交換し、電解槽に純水を循環させた。この操作を3回繰り返した後、送液ポンプを用いて陰極液タンクの純水を0.25M硫酸カリウム水溶液50mlに交換し、電解槽に0.25M硫酸カリウム水溶液を循環させた。この操作を2回繰り返した後、陰極液タンクの0.25M硫酸カリウム水溶液50mlに対して、窒素バブリングを30分、二酸化炭素バブリングを30分行うことで二酸化炭素を飽和させた。
【0080】
ギ酸生成工程
ギ酸生成工程として、陰極液である0.25M硫酸カリウム水溶液50ml中への二酸化炭素バブリングを継続しながら、銀塩化銀参照電極に対し、電流密度-2.0 mA/cm2で定電流電解を4時間行った。一時間ごとに陰極液のサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィーにより分析し、ギ酸生成量を求めた。
【0081】
[比較例3]
活性化工程を省略し、導電性ダイヤモンド電極の活性化を行わなかった以外は実施例3と同様の方法で二酸化炭素の電解還元によるギ酸生成を行った。
【0082】
結果を図4に示す。ファラデー効率が高いほどギ酸生成の選択性が高いと言え、実施例3及び比較例3においては定電流方式を採用しているためファラデー効率が高いほどギ酸の生成量が高いと言える。
【0083】
比較例3の導電性ダイヤモンド電極の活性化を行わなかった場合は、ギ酸のファラデー効率は1時間の電解でわずか10%である。時間経過とともにファラデー効率は徐々に増大しているが、4時間の電解後であっても20%程度である。実施例3に示すように導電性ダイヤモンド電極の活性化により、1時間後のギ酸のファラデー効率は95%となり、ギ酸の生成量が飛躍的に増大した。
【0084】
[実施例4]
次に、ギ酸生成工程における印加電位について調べた。実施例1でギ酸生成工程の陰極電位を-2.0V印加したところを、本実施例では、-1.8V、-1.9V、及び-2.2Vとして定電流電解を3時間行った。他の条件は実施例1と同様とした。
【0085】
-1.8Vの陰極電位を印加した場合を図5に示し、-1.9Vの陰極電位を印加した場合を図6に示し、-2.2Vの陰極電位を印加した場合を図7に示す。いずれの印加条件でも、活性化された電極を用いた場合には、ギ酸が効率的に生成された。なお、これらの結果から、ギ酸生成を-1.5Vで行う場合にも、同様にギ酸が高いファラデー効率にて生成すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のギ酸生成装置及び方法により、効率的にギ酸を生成することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 陰極
2 陽極
3 参照電極
4 固体電解質膜
5 陰極槽
6 陽極槽
7 二酸化炭素供給部
8 送液ポンプ
9 第1貯留槽
10 第2貯留槽
11 外部電源機構
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7