(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109069
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】電動チャック装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 31/28 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
B23B31/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010452
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】316000286
【氏名又は名称】町田 昌弘
(71)【出願人】
【識別番号】514238825
【氏名又は名称】吉徑科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】町田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】町田 善弘
【テーマコード(参考)】
3C032
【Fターム(参考)】
3C032KK08
3C032KK16
(57)【要約】
【課題】 簡便な構成でありながら、良好にチャック動作を行うことができる電動チャック装置及び工作機械を提供する。
【解決手段】
ドローバー駆動体120をドローバー110と主軸210との間に設け、かつ、ドローバー駆動体120を主軸210に対してドローバー駆動体軸受け220で回転可能に支持することとしたので、ドローバー駆動時を除いて、ドローバー110・ドローバー駆動体120・主軸210が一体に回転するようになり、ドローバー駆動体軸受け220に対する負荷が良好に低減され、簡便な構成でありながら、長寿命化を図ることができ、良好にチャック動作を行うことができるので、旋盤などに好適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に沿ってドローバーが設けられており、このドローバーを、前記主軸の軸方向に進退移動させることで、チャックの開閉を行う電動チャック装置であって、
回転することによって、前記ドローバーの進退移動を行うドローバー駆動体を備えており、
このドローバー駆動体を、前記主軸と前記ドローバーとの間に配置するとともに、前記主軸に対して回転可能に支持したことを特徴とする電動チャック装置。
【請求項2】
前記ドローバー駆動体の回転によって前記ドローバーを進退移動を行う進退手段を、前記ドローバー駆動体と前記ドローバーとの間に設けたネジ手段により構成したことを特徴とする請求項1記載の電動チャック装置。
【請求項3】
前記ドローバー駆動体の回転駆動を行う電動駆動手段と前記ドローバー駆動体との間に電動クラッチ・ブレーキ手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の電動チャック装置。
【請求項4】
前記電動クラッチ・ブレーキ手段は、
ONのときは、前記電動駆動手段の駆動力を前記ドローバー駆動体に伝達して前記ドローバーの進退移動を行い、
OFFのときは、前記主軸にブレーキとして作用し、前記主軸が、前記ドローバー及び前記ドローバー駆動体と同期して動作することを特徴とする請求項3記載の電動チャック装置。
【請求項5】
前記電動クラッチ・ブレーキ手段のON・OFFを行う電磁石を、前記電動駆動手段側に設けたことを特徴とする請求項3又は4記載の電動チャック装置。
【請求項6】
前記主軸に対して前記ドローバー駆動体を回転可能に支持する軸受手段を、ラジアル軸受けとスラスト軸受けで構成したことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の電動チャック装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電動チャック装置と、
この電動チャック装置によって対象物の把持・離脱を行うチャック手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤などの工作機械で使用するチャック装置及び工作機械にかかり、特に電動式のチャック装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
チャック装置としては、従来油圧アクチュエータを使用するものがあるが、機構が複雑となるとともに、温度管理や廃油処理といった課題がある。そこで、電動式のチャック装置が要望されるに至っている。
【0003】
電動式のチャック装置としては、例えば、下記特許文献記載のものがある。特許文献1には、安定したチャッキング圧力を得るとともに、小型軽量化と、部品点数の少ない旋盤の実現を目的とした「電動式パワーチャック装置」が開示されている。これは、コレットが設けられた軸方向に移動可能な第1の主軸と、チャックが設けられた軸方向に移動不能な第2の主軸を備えており、前記コレットが、前記第1の主軸の軸方向への移動が妨げられることなく前記チャックに係合され、前記コレットの軸方向への移動によりワークが把持または離脱されることを特徴としている。
【0004】
特許文献2には、主軸の回転中にも把持爪の位置および把持力を制御して開閉駆動を行うことが可能であり、低コストで振動や摩耗が発生しにくいことを目的とした「電動チャック装置」が開示されている。これは、被把持物を把持する把持爪を開閉するための開閉機構が設けられたチャックが主軸の先端に設けられており、主軸の軸線方向に進退移動可能に設けられて前記開閉機構を作動する進退移動部材と、前記把持爪を開閉駆動する駆動用モータの駆動力を、変換機構により主軸の軸線方向に直接運動させる変換機構を介して前記進退移動部材に係合部材で伝達するようにしたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-232505号公報
【特許文献2】特開2002-192410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した背景技術では、主軸及びドローチューブ(ないし第二の主軸)が同軸で近接しており、それらの外側にチャックの進退機構が設けられているため、構造が非常に複雑となる。また、進退機構を保持する軸受けにかかる負荷が大きく、摩耗が激しい。また、進退機構を駆動するクラッチに対する送電・受電の機構も複雑となる。
【0007】
本発明は、かかる点に着目したもので、簡便な構成でありながら、良好にチャック動作を行うことができ、長寿命化を図ることができる電動チャック装置及び工作機械を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電動チャック装置は、工作機械の主軸に沿ってドローバーが設けられており、このドローバーを、前記主軸の軸方向に進退移動させることで、チャックの開閉を行う電動チャック装置であって、回転することによって、前記ドローバーの進退移動を行うドローバー駆動体を備えており、このドローバー駆動体を、前記主軸と前記ドローバーとの間に配置するとともに、前記主軸に対して回転可能に支持したことを特徴とする。
【0009】
主要な形態の一つによれば、前記ドローバー駆動体の回転によって前記ドローバーを進退移動を行う進退手段を、前記ドローバー駆動体と前記ドローバーとの間に設けたネジ手段により構成したことを特徴とする。
【0010】
他の形態によれば、前記ドローバー駆動体の回転駆動を行う電動駆動手段と前記ドローバー駆動体との間に電動クラッチ・ブレーキ手段を設けたことを特徴とする。例えば、前記電動クラッチ・ブレーキ手段は、ONのときは、前記電動駆動手段の駆動力を前記ドローバー駆動体に伝達して前記ドローバーの進退移動を行い、OFFのときは、前記主軸にブレーキとして作用し、前記主軸が、前記ドローバー及び前記ドローバー駆動体と同期して動作することを特徴とする。更には、前記電動クラッチ・ブレーキ手段のON・OFFを行う電磁石を、前記電動駆動手段側に設けたことを特徴とする。
【0011】
更に他の形態によれば、前記主軸に対して前記ドローバー駆動体を回転可能に支持する軸受手段を、ラジアル軸受けとスラスト軸受けで構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明の工作機械は、前記いずれかの電動チャック装置と、この電動チャック装置によって対象物の把持・離脱を行うチャック手段と、を備えたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ドローバー駆動体をドローバーと主軸との間に設け、かつ、ドローバー駆動体を主軸に対してドローバー軸受けで回転可能に支持することとしたので、ドローバー駆動時を除いて、ドローバー・ドローバー駆動体・主軸が同期して動作(回転・停止)するようになり、ドローバー軸受けに対する負荷が良好に低減される。このため、簡便な構成でありながら、長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】前記実施例の主要構成要素を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0016】
図1は、本実施例の電動チャック装置の主軸方向(
図1の左右方向)に沿った主要断面を示し、中心から上半分はクラッチONの状態を示し、下半分はクラッチOFFの状態を示す。また、主要部の概略構成を、
図2にブロック図として示す。
【0017】
まず、
図2を参照して、全体の概略を説明すると、電動チャック装置100は、旋盤のチャック200の開閉機構202を開閉駆動するためのドローバー110と、このドローバー110を旋盤(図示せず)の主軸(スピンドル)210の軸方向に進退移動させるためのドローバー駆動体120と、このドローバー駆動体120を回転させるための動力ユニット130と、前記ドローバー駆動体120に対する動力ユニット130の動力の伝達・遮断(ON・OFF)を行うための電動クラッチ・ブレーキ140によって構成されている。
【0018】
電動クラッチ・ブレーキ140がOFFのときは、動力ユニット130の駆動力のドローバー駆動体120への伝達が遮断されるのみならず、ドローバー駆動体120と主軸210とにブレーキをかけて、一体に回転するように作用する。ドローバー110は、後述するように主軸210と一体に回転するので、結果的に、ドローバー110,ドローバー駆動体120,主軸210が同期して一体に回転することとなる。
【0019】
一方、電動クラッチ・ブレーキ140がONのときは、動力ユニット130の駆動力がドローバー駆動体120に伝達され、後述するように、ドローバー110が主軸方向に進退移動する。これにより、チャック200の開閉機構202が開閉し、対象物を挟んだり、逆に挟んでいる対象物を解放するといった動作が行われる。なお、開閉機構202としては、例えば前記特許文献に記載のものなど、公知のものを適用してよい。
【0020】
旋盤の主軸210の回転がチャック200に伝達され、これによってチャック200が回転するようになっている。上述したドローバー駆動体120は、ドローバー駆動体軸受け220を介して前記主軸210に回転自在に設けられている。
【0021】
次に、
図1を参照して、詳細な構造を説明すると、上述した電動チャック装置100は、旋盤のハウジング500に設けられている。ハウジング500の図の左側には、側面部材502がボルトナット手段502Aによって取り付けられており、側面部材502の外側には、動力ユニット130のケース504が、ボルトナット手段504Aによって取り付けられている。動力ユニット130は、ケース504外に設けられたサーボモータ132の出力が、ケース504内のベルトないし歯車による動力伝達機構134に伝達されており、この動力伝達機構134の出力側には、ボルトナット手段137で出力軸138が取り付けられており、その出力は、軸受け136A~136Cで受けて、電動クラッチ・ブレーキ140に出力されている。また、出力軸138の表面には摩擦材139が設けられており、この摩擦材139を介して、動力伝達機構134の出力が電動クラッチ・ブレーキ140側に伝達されるようになっている。
【0022】
一方、側面部材502の内側には、電動クラッチ・ブレーキ140の磁石保持部材142がボルトナット手段142Aによって取り付けられており、磁石保持部材142には電磁石144が収納されている。電磁石144には、可動部材146が対峙して設けられている。可動部材146は、部材146Aに部材146Bをボルトナット手段146Cで接合した構造となっており、部材146Aと部材146Bの間にドローバー駆動体120の端部が挟まれている。可動部材146とドローバー駆動体120の間には、バネ122が設けられており、電動クラッチ・ブレーキ140がOFFの状態ではバネ122は伸びており、電動クラッチ・ブレーキ140がONとなると、バネ122は縮むようになる。
【0023】
ドローバー駆動体120は、全体が円環形状となっており、厚肉部124Aと薄肉部124Bを有している。厚肉部124Aと可動部材146の間には、キー溝146Dにキー124Cが設けられており、ドローバー駆動体120と可動部材146とが一体に回転・停止するようになっている。一方、薄肉部124Bの外側には突起124Dが設けられており、これがドローバー駆動体軸受け220に支えられている。薄肉部124Bの内側には、ドローバー110との間に進退ネジ部126が設けられている。この進退ネジ部126により、ドローバー駆動体120が回転すると、ドローバー110が主軸210の回転軸方向に進退移動可能となっている。
【0024】
次に、ドローバー駆動体軸受け220は、ドローバー駆動体120と主軸210との間に設けられている。ドローバー駆動体軸受け220は、ラジアル軸受け220Aと、それを挟むスラスト軸受け220Bによって構成されており、ラジアル軸受け220Aはドローバー駆動体120の周面に対して荷重を受けるようになっており、スラスト軸受け220Bはドローバー駆動体120の突起124Dに対して荷重を受けるようになっている。主軸210は、部材210Aに対して部材210B,210Cがボルトナット手段210D,210Eによって設けられており、これらによって主軸210にドローバー駆動体軸受け220が取り付けられている。
【0025】
次に、ドローバー110は、上述したドローバー駆動体120の厚肉部124A,薄肉部124Bに対応する薄肉部110A,厚肉部110Bを有しており、更に厚肉部110Bには、キー溝110Cが形成されている。上述した進退ネジ部126は、ドローバー110の厚肉部110Bに形成されている。一方、主軸210の部材210Aには、キー222がボルトナット手段222Aによって設けられており、キー222は、前記ドローバー110のキー溝110Cに嵌まり込んでいる。これにより、ドローバー110と主軸210は、同時に回転することとなる。
【0026】
次に、本実施例の動作を説明する。
図3(A)には電動クラッチ・ブレーキ140がOFFの状態が示されており、同図(B)には電動クラッチ・ブレーキ140がONの状態が示されている。
【0027】
<クラッチOFF> まず、クラッチOFFの状態から説明すると、電動クラッチ・ブレーキ140の電磁石144には通電されていない。このため、バネ122は伸びた状態となり、図中に示すように隙間ΔCが形成されている。従って、動力ユニット130の駆動力は遮断され、ドローバー駆動体120には伝達されない。一方、電動クラッチ・ブレーキ140の可動部材146は主軸210に接触しており、ブレーキとして作用する。このため、主軸210の回転・停止が、ドローバー駆動体120に伝達され、ドローバー駆動体120と主軸210は一体となって同期して動作する。加えて、主軸210とドローバー110は、上述したようにキー222によって結合しているので、主軸210とドローバー110は一体に動作する。これらにより、ドローバー110,ドローバー駆動体120,主軸210が一体となって同期して回転・停止するようになる。主軸210とドローバー駆動体120との間にはドローバー駆動体軸受け220があるが、主軸210とドローバー駆動体120とが同時に回転するため、ドローバー駆動体軸受け220には全く負荷がかからない。従って、ドローバー駆動体軸受け220の摩耗が低減されるようになる。
【0028】
<クラッチON> 次に、クラッチONの状態を説明する。電動クラッチ・ブレーキ140の電磁石144に通電されると、可動部材146が電磁石144に吸引され、バネ122が縮んで隙間ΔCがない状態となる。このため、動力ユニット130の駆動力が出力軸138から、摩擦材139を介してドローバー駆動体120に伝達されるようになる。同時に、可動部材146と主軸210との間に隙間ΔDが形成され、可動部材146と主軸210との間のブレーキは解除される。すると、ドローバー駆動体120は、動力ユニット130のサーボモータ132の回転に応じて回転するようになる。ドローバー駆動体120が回転すると、ドローバー110との間に進退ネジ部126が設けられているため、ドローバー110が主軸210の回転軸方向に進退移動するようになる。これにより、チャック200の開閉機構202が開閉することとなる。
【0029】
ところで、開閉機構202における爪の開閉方向,開閉量,開閉速度,開閉時間などの開閉動作の態様は、ドローバー110の移動方向,移動量,移動速度,移動時間などの移動動作の態様に対応し、更にはサーボモータ132の回転方向,回転量などの回転動作の態様に対応している。このため、サーボモータ132の回転動作を制御すれば、開閉機構202の開閉動作を制御することができる。このような動作を行うための制御装置150を
図2のように設け、これによってサーボモータ132や電動クラッチ・ブレーキ140の動作を制御するようにしてよい。
【0030】
以上のように、本実施例によれば、次のような効果が得られる。
a,ドローバー駆動体120を、ドローバー110と主軸210との間に設け、かつ、ドローバー駆動体120を主軸に対して回転可能にドローバー駆動体軸受け220で支持することとしたので、ドローバー駆動時を除いて、ドローバー110・ドローバー駆動体120・主軸210を同期して一体で回転させることができる。これにより、ドローバー駆動体軸受け220に対する負荷が良好に低減され、長寿命化を図ることができる。
b,ハウジング側の動力ユニット130とドローバー駆動体120との間に電動クラッチ・ブレーキ140を設けることとしたので、電動クラッチ・ブレーキ140のON・OFFを制御する電磁石144が回転しない。このため、電磁石144に対する通電を通常の配線で行うことができ、例えば前記特許文献2のような複雑な送受信コイルを必要としない。
c,電動チャック装置の構造が、全体として簡略化される。
【0031】
<他の実施例> なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状・寸法は一例であり、必要に応じて同様の機能を奏するように適宜変更してよい。
(2)前記実施例では、本発明を旋盤に適用したが、本発明の電動チャック装置は、加工対象の把持・離脱のみならず工具の把持・離脱などにも適用可能である。また、NC旋盤や加工ロボットなどにも適用可能である。
(3)前記実施例では、主軸210の内側にドローバー110を設けたが、逆の構成とすることを妨げるものではない。
本発明によれば、ドローバー駆動体をドローバーと主軸との間に設け、かつ、ドローバー駆動体を主軸に対してドローバー軸受けで回転可能に支持することとしたので、ドローバー駆動時を除いて、ドローバー・ドローバー駆動体・主軸が同期して動作(回転・停止)するようになり、ドローバー軸受けに対する負荷が良好に低減される。このため、簡便な構成でありながら、長寿命化を図ることができ、旋盤などに好適である。