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特開2023-109131ポリオレフィンフィルムおよび離型用フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109131
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ポリオレフィンフィルムおよび離型用フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230731BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094098
(22)【出願日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2022009923
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 渉
(72)【発明者】
【氏名】名倉 伸之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA77X
4F071AC11
4F071AE05
4F071AF19Y
4F071AF28
4F071AG17
4F071AG28
4F071AG29
4F071AH01
4F071AH03
4F071AH04
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC02
4F071BC12
4F071BC14
4F071BC16
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA16
4F100DD07A
4F100EH20
4F100EJ38
4F100JA04
4F100JA06
4F100JK06A
4F100JK16
4F100JL14A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】 本発明は、離型性、表面均一性(品位)に優れたポリオレフィンフィルムを提供することをその課題とする。
【解決手段】 山の頂点密度Spdが100(1/mm)以上1000(1/mm)以下であり、かつ山頂点の算術平均曲Spcが-200(1/mm)以上-10(1/mm)以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山の頂点密度Spdが100(1/mm)以上1000(1/mm)以下であり、かつ山頂点の算術平均曲Spcが-200(1/mm)以上-10(1/mm)以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルム。
【請求項2】
少なくとも一方の前記A面において、平均粗さSaが200nm以上600nm以下である、請求項1に記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
フィルム厚みをt(μm)、前記A面にポリエステル粘着テープを積層し、剥離速度300mm/minかつ剥離角度180°の条件で剥離させたときの剥離力をN(N/19mm)としたときに、N/tが0.06以上0.20以下である、請求項1または2に記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
少なくとも2層以上の積層構成を有する、請求項1または2に記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリオレフィンフィルムを用いてなる、離型用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性、品位に優れたポリオレフィンフィルム、及びこれを用いた離型用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等の種々の特性に優れるため、包装用途、離型用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。特に、表面の剥離特性や機械特性に優れることから、プラスチック製品や建材や光学部材など、様々な部材の離型用フィルムや工程フィルムとして好適に用いられる。
【0003】
近年、ポリオレフィンフィルムは、感光性樹脂層のような粘着性を有する樹脂層のカバーフィルムとして用いられる場合がある。このようなカバーフィルムとして使用する場合、離型性が悪いと被着体からポリオレフィンフィルムを剥がす際にきれいに剥離できず、被着体の樹脂層の形状が変化することや、被着体の樹脂層に剥離痕が残ることがある。このような問題点を解消するため、フィルム表面を粗面化して樹脂層との接触面積を低減することにより、離型性を向上させる手法が用いられる。一方で、カバーフィルム表面の粗度を高めると粗大突起が形成されやすくなり、粗大突起によるカバーフィルムの表面凹凸が被着体の樹脂層に転写して、製品の視認性等に影響を及ぼす場合がある。
【0004】
以上のことから、剥離性や表面均一性に関する要求特性の高い光学部材等の分野において、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いるためには、粗大突起が少なく、均一かつ微細に粗面化された表面を有することが求められる。このような緻密粗面を有するポリオレフィンフィルムを得るための手段として、例えば、以下の方法が知られている。
【0005】
特許文献1、2には、ポリオレフィンフィルムの一種であるポリプロピレンフィルムの表面を緻密粗面とする方法が示されている。具体的には、ポリプロピレンの結晶形態の一つであるβ晶の球晶を形成して延伸することにより、フィルム表面にクレーターを形成させて粗面化し、工程搬送性を高めた例が記載されている。また、特許文献3には、フィルム内に粒子を添加して一軸延伸することで粗面化し、工程搬送性を高めた例が記載されている。また、特許文献4には、フィルムの内層に粒子を添加して延伸することにより、表面を粗面化した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/006578号公報
【特許文献2】特開2017-125184号公報
【特許文献3】特開2005-138386号公報
【特許文献4】特開2017-077752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら前述の特許文献1~3に記載の方法では、表面粗度が不十分である問題があった。また、特許文献4に記載の方法は、硬度の高い粒子によって粗大突起が形成され、離型フィルムとして用いたときに、粗大突起に起因する凹凸が被着体である光学用部材の樹脂層に転写される場合があった。
【0008】
そこで本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、本発明は、離型性、表面均一性(品位)に優れたポリオレフィンフィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明のポリオレフィンフィルムは以下の構成よりなる。すなわち、本発明のポリオレフィンフィルムは、山の頂点密度Spdが100(1/mm)以上1000(1/mm)以下であり、かつ山頂点の算術平均曲Spcが-200(1/mm)以上-10(1/mm)以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルムである。
【0010】
また、本発明のポリオレフィンフィルムは下記の態様とすることができ、また下記の通り離型フィルムとすることもできる。
(1) 山の頂点密度Spdが100(1/mm)以上1000(1/mm)以下であり、かつ山頂点の算術平均曲Spcが-200(1/mm)以上-10(1/mm)以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする、ポリオレフィンフィルム。
(2) 少なくとも一方の前記A面において、平均粗さSaが200nm以上600nm以下である、(1)に記載のポリオレフィンフィルム。
(3) フィルム厚みをt(μm)、前記A面にポリエステル粘着テープを積層し、剥離速度300mm/minかつ剥離角度180°の条件で剥離させたときの剥離力をN(N/19mm)としたときに、N/tが0.06以上0.20以下である、(1)または(2)に記載のポリオレフィンフィルム。
(4) 少なくとも2層以上の積層構成を有する、(1)~(3)のいずれかに記載のポリオレフィンフィルム。
(5) (1)~(4)のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムを用いてなる、離型用フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、離型性と品位に優れ、離型フィルムとして好適に用いることができるポリオレフィンフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリオレフィンフィルムは、山の頂点密度Spdが100(1/mm)以上1000(1/mm)以下であり、かつ山頂点の算術平均曲Spcが-200(1/mm)以上-10(1/mm)以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面が前記A面であることを特徴とする。以下、本発明のポリオレフィンフィルムについて具体的に説明する。
【0013】
ポリオレフィンフィルムとは、ポリオレフィン樹脂を主成分とするシート状の成形体をいう。主成分とは、対象物(ここではフィルム)の全構成成分を100質量%としたときに、50質量%より多く100質量%以下含まれる成分をいい、以下、主成分については同様に解釈することができる。なお、ポリオレフィン樹脂に該当する成分が複数含まれる場合は、その合計量が50質量%より多ければポリオレフィン樹脂を主成分とするものとみなす。ポリオレフィン樹脂とは、主たる構成単位がオレフィン単位である樹脂をいい、主たる構成単位とは、全構成単位を100mol%としたときに、50mol%を超えて100mol%以下含まれる構成単位をいう。
【0014】
本発明のポリオレフィンフィルムは、離型性の観点から、山の頂点密度Spdが100(1/mm)以上1000(1/mm)以下であり、かつ山頂点の算術平均曲Spcが-200(1/mm)以上-10(1/mm)以下である面をA面としたときに、少なくとも一方の面がA面であることが重要である。山の頂点密度Spdは、表面の粗さを表す指標の一つであり、単位面積当たりの山の頂点の数を表す。山頂点の算術平均曲Spcは、山のピークの曲率半径の平均値である。なお、以下「山の頂点密度Spd」を単に「Spd」ということがあり、「山頂点の算術平均曲Spc」を単に「Spc」ということがある。このような態様とすることにより、A面を被着体と接するように貼り合わせたときに、優れた剥離性を実現することができる。
【0015】
SpdやSpc、及び後述する平均粗さSaは公知の層断面形状測定装置を用いて測定することができ、測定装置としては、例えば株式会社菱化システム社製非接触表面・層断面形状測定システム“VertScan”(登録商標)2.0を用いることができる。なお、同装置を用いたときのSpdやSpc、及び平均粗さSa(後述)の具体的な測定方法は後述する。
【0016】
A面を有さないポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いた場合、以下に述べるとおり、離型性の面で様々な不具合が生じる。被着体と貼り合わせる面のSpdが100(1/mm)未満であると、被着体とポリオレフィンフィルムの接触面積が過度に大きくなり、被着体の粘着性が強いと両者の密着が過度に強固になる。そのため、被着体からポリオレフィンフィルムをきれいに剥離できず、被着体表面の形状が変化することや、被着体表面に剥離痕が残ることがある。一方、被着体と貼り合わせる面のSpdが1000(1/mm)を超えると、被着体とポリオレフィンフィルムの接触面積が不足して両者の密着が弱くなり、貼り合わせ工程の搬送中に被着体からポリオレフィンフィルムが剥離してしまう場合がある。
【0017】
また、被着体と貼り合わせる面のSpcが-200(1/mm)未満であると、突起部の曲率が不足して被着体とポリオレフィンフィルムの接触面積が増加することにより、両者の密着が過度に強固になり、ポリオレフィンフィルムの剥離性が悪化する場合がある。一方、被着体と貼り合わせる面のSpcが-10(1/mm)を超えると、ポリオレフィンフィルム表面の突起部が過度に鋭くなって被着体へ食い込み、両者の剥離性が悪化する場合がある。
【0018】
すなわち、本発明のポリオレフィンフィルムは、SpdとSpcが共に上記範囲内の値であるA面を有することにより、A面を被着体に貼り合わせたときに被着体への突起の食い込みや打痕を軽減できるため、離型性と品位に優れ、離型フィルムとして好適に用いることができるものとなる。
【0019】
上記観点からA面のSpdは、好ましくは200(1/mm)以上800(1/mm)以下、より好ましくは400(1/mm)以上600(1/mm)以下である。また、同様の観点から、A面のSpcは、好ましくは-100(1/mm)以上-10(1/mm)以下、より好ましくは-80(1/mm)以上-10(1/mm)以下である。
【0020】
少なくとも一方の面をA面とするには、ポリオレフィンフィルムの原料組成を後述する範囲とし、製膜条件を後述する範囲とすることが効果的である。より具体的には、後述する好ましい量の分岐鎖状ポリプロピレン樹脂を含有させた樹脂組成物を表層(単層フィルムの場合はフィルム自体)の形成に用い、かつキャスティングドラムの表面温度を後述する好ましい範囲とした上で、長手方向に延伸する際のフィルム温度(予熱温度)を後述する範囲内とすることによって、SpdとSpcを好ましい範囲に制御することができる。ここで長手方向とは、フィルムの製造工程においてフィルムが走行する方向をいい、フィルムロールとなったときはその巻き方向をいう。また、長手方向にフィルム面内で直交する方向を幅方向という。
【0021】
本発明のポリオレフィンフィルムは、少なくとも一方の面がA面であれば他方の面は特に制限されないが、背面の打痕転写抑制や、ポリオレフィンフィルム自体の搬送性と巻取性改善の観点から、ポリオレフィンフィルムの両面共にA面であることが好ましい。なお、両方がA面であるポリオレフィンフィルムにおいて、SpdやSpcの値は両面で同じでも異なっていてもよい。
【0022】
本発明のポリオレフィンフィルムは、打痕転写抑制や、フィルムの搬送性と巻取性改善の観点から、少なくとも一方のA面において、平均粗さSaが200nm以上600nm以下であることが好ましく、より好ましくは300nm以上500nm以下である。ここで「少なくとも一方のA面」とは、片面のみがA面である場合はその面をいい、両面がA面である場合は両面若しくは片面をいう。なお、以下「平均粗さSa」を単に「Sa」ということがある。A面においてSaが200nm以上であることにより、被着体とポリオレフィンフィルム(A面)の接触面積が過度に大きくならず、被着体との密着性を適度に抑えることができる。そのため、被着体からポリオレフィンフィルムをきれいに剥離でき、被着体表面の形状変化や、被着体表面における剥離痕の発生を軽減できる。一方、A面のSaが600nm以下であることにより、被着体とポリオレフィンフィルムの接触面積が不足せず、貼り合わせ工程の搬送中に被着体からポリオレフィンフィルムが剥離することを抑制できる。
【0023】
A面のSaを200nm以上600nm以下の範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とすることが効果的である。より具体的には、SpdとSpcを好ましい範囲に制御する方法と同様の方法を用いることができる。また、背面の打痕転写抑制や、フィルムの搬送性や巻取性の観点から、ポリオレフィンフィルムの両面共にSaが200nm以上600nm以下であることが好ましく、300nm以上500nm以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明のポリオレフィンフィルムは、適度な離型性を実現する観点から、フィルム厚みをt(μm)、A面にポリエステル粘着テープを積層し、剥離速度300mm/minかつ剥離角度180°の条件で剥離させたときの剥離力をN(N/19mm)としたときに、N/tが0.06以上0.20以下であることが好ましい。上記観点からN/tは、より好ましくは0.08以上0.18以下、さらに好ましくは0.10以上、0.16以下である。両面ともA面である場合、少なくとも一方の面でN/tが0.06以上0.20以下であれば、上記要件を満たすものとする。なお、以下「A面にポリエステル粘着テープを積層し、剥離速度300mm/minかつ剥離角度180°の条件で剥離させたときの剥離力」を単に「剥離力N」ということがある。なお、フィルム厚みtと剥離力Nは、それぞれ公知の電子マイクロメーター、公知の引張試験機で測定することができ、その詳細は後述する。
【0025】
ポリオレフィンフィルムの当該面に被着体を貼り合わせるように離型フィルムとして用いた場合、A面のN/tが0.06以上であると、被着体の粘着力に対してフィルム厚みが過度に大きくならずポリオレフィンフィルムのコシを抑えられるため、意図しない剥離の発生リスクが軽減される。一方、A面のN/tが0.20以下であると、被着体の粘着力に対してフィルム厚みが十分に確保され、容易に剥離できる程度のコシを確保できるため、きれいな剥離が可能となり、被着体表面の形状変化や剥離痕が軽減される。
【0026】
本発明のポリオレフィンフィルムのフィルム厚みtは、特に限定はされないが、1μm以上100μm以下であることがハンドリング性の観点から好ましく、より好ましくは5μm以上50μm以下であり、10μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。フィルム厚みtは、押出機のスクリュー回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
【0027】
剥離力Nは、特に限定はされないが、0.01N/19mm以上9.0N/19mm以下であることがハンドリング性の観点から好ましく、より好ましくは0.1N/19mm以上5.0N/19mm以下であり、1.2N/19mm以上2.7/19mm以下であることがさらに好ましい。剥離力Nは離型フィルムの表面自由エネルギーなどによって調整可能であり、ここでいう表面自由エネルギーとは、表面積を小さくしようと物質に働く表面張力のことをいう。表面自由エネルギーは、例えばコロナ放電処理等の表面処理を施すこと等により大きくすることができる。
【0028】
また、本発明のポリオレフィンフィルムは、フィルムの搬送、巻き取り、巻き出し時の蛇行やシワ等の不具合を軽減する観点から、摩擦係数が0.20以上1.00以下であることが好ましく、より好ましくは0.40以上0.60以下である。ここでいう摩擦係数とは、温度が23±3℃、湿度が65±5%である環境下で異なる面同士が接触するようにフィルムを重ね、その上から200gの荷重をかけ、上側のフィルムをスライドさせたときの抵抗値から次式にて算出した値をいう。摩擦係数が0.20以上であることにより、フィルムやロールとの間にある程度の摩擦力が確保されるため、搬送や巻き取り時にフィルムの滑りが軽減される。その結果、滑りに伴って生じる傷やシワ、巻きズレや蛇行等の発生を軽減することができる。一方、摩擦係数が1.00以下であることにより、摩擦力が過剰とならず、摩擦による走行障害や傷の発生を軽減することができる。
摩擦係数 =抵抗値(g)/荷重(g)。
【0029】
摩擦係数は例えばA面のSaの調整等により調節することができ、より具体的にはA面のSaを低くすること等により摩擦係数を高くすることができる。なお、A面のSaの調整方法は前述のとおりである。
【0030】
また、本発明のポリオレフィンフィルムの摩擦係数が好ましい範囲であれば適度な摩擦力と易滑性を具備するため、フィルム表面にキズが発生し難い。通常、延伸ロールの周速差を利用した延伸方法を用いた場合、フィルムは、フィルムを予熱する予熱ロール、フィルムを延伸する延伸ロール、および、フィルムを冷却する冷却ロールと接触するため、フィルム表面にキズが発生するという問題を抱えている。また、延伸工程に関わらず、フィルムをロールで搬送する場合においても同様の問題を抱えている。表面が平滑なフィルムは易滑性に劣るため、走行性が安定せず、上記のフィルム表面とロールとの擦れによるキズが発生しやすい。そのため、摩擦係数を上記の好ましい範囲とすることによって、適度な易滑性が確保され、フィルム表面にキズが発生しにくくなる。
【0031】
次に、本発明のポリオレフィンフィルムの層構成や原料について説明するが、本発明のポリオレフィンフィルムの層構成や原料は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0032】
本発明のポリオレフィンフィルムは、透明性、耐熱性の観点から、ポリプロピレン樹脂を主成分とすること、すなわちポリプロピレンフィルムであることが好ましい。ここでポリプロピレン樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位を100mol%としたときに、50mol%を超えて100mol%以下がプロピレン単位である樹脂をいう(以下、ポリエチレン等他のポリオレフィン樹脂についても同様に解釈することができる。)。本発明のポリオレフィンフィルムがポリプロピレンフィルムである場合、フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、ポリプロピレン樹脂の含有量が95質量%以上100質量%以下であることが好ましく、より好ましくは96質量%以上100質量%以下、更に好ましくは97質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは98質量%以上100質量%以下である。
【0033】
本発明のポリオレフィンフィルムは、耐熱性と離型性を両立する観点から、少なくとも2層以上の積層構成を有することが好ましい。このような態様とすることで、ポリオレフィンフィルムとしての熱寸法安定性を確保する役割を担う層(以下、基層(A)ということがある。)と、被着体と貼り合わせたときに優れた離型性を実現する役割を担う層(以下、表層(B)ということがある。)を設けることができるため、耐熱性と離型性を兼ね備えたポリオレフィンフィルムとすることが容易となる。また、「少なくとも2層以上の積層構成」とは、少なくとも2種類以上の層が、合計で2層以上積層された状態をいう。このような態様の具体例としては、基層(A)/表層(B)の2種2層構成、表層(B)/基層(A)/表層(B)の2種3層構成等が挙げられる。
【0034】
本発明のポリオレフィンフィルムの基層(A)の主成分は、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。以下、ポリオレフィンフィルムの基層(A)の主成分のポリオレフィン樹脂を、ポリオレフィン樹脂Iということがある。基層(A)のポリオレフィン樹脂Iは、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは95質量%以上100質量%以下、より一層好ましくは96質量%以上100質量%以下、特に好ましくは97質量%以上100質量%以下、最も好ましくは98質量%以上100質量%以下である。
【0035】
本発明のポリオレフィンフィルムにおけるポリオレフィン樹脂Iは、強度や耐熱性の観点からポリプロピレン樹脂が好ましく、ホモポリプロピレンが好ましい。ホモポリプロピレンとは、ポリプロピレン樹脂のうち、樹脂を構成する全構成単位を100mol%としたときに、99mol%以上100mol%以下がプロピレン単位であるものをいう。
【0036】
ポリオレフィン樹脂Iは、融点が155℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上である。融点が155℃以上であることにより、ポリオレフィンフィルムの耐熱性が向上する。そのため、ポリオレフィンフィルムを例えば離型フィルムとして用いた際に、被着体と貼り合わせた後の熱がかかる工程でのポリオレフィンフィルムの軟化や、軟化に伴う張力方向への伸長が抑えられ、被着体の変形が軽減される。また、融点が200℃以下であることが好ましく、より好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。ポリオレフィン樹脂Iの融点が200℃以下であることにより、溶融押出時の設備上の制約が発生し難い。
【0037】
ポリオレフィン樹脂Iがポリプロピレン樹脂である場合、そのメソペンタッド分率は0.90以上であることが好ましく、より好ましくは0.93以上、さらに好ましくは0.94以上である。メソペンタッド分率は、核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、一般に、該数値が高いものほど結晶化度や融点が高くなる。そのため、ポリオレフィン樹脂Iとしてメソペンタッド分率の高いポリプロピレンを用いることにより、フィルムとしたときに高温での寸法安定性が高くなる。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではないが、フィルム製膜に用いる観点から0.99となる。
【0038】
このようにメソペンタッド分率の高いポリプロピレンを得るには、得られた樹脂パウダーをn-ヘプタン等の溶媒で洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。通常、触媒はシクロペンタジエニル骨格を分子内に持つメタロセン化合物を含む重合触媒が好ましく用いられる。
【0039】
また、ポリオレフィン樹脂Iがポリプロピレン樹脂である場合、製膜性やフィルムとしたときの強度の観点から、そのメルトフローレート(MFR)が1~10g/10分であることが好ましく、より好ましくは1~8g/10分であり、さらに好ましくは2~5g/10分である。ここでいうMFRは、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFRをいい、以下MFRについては同様である。ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)を上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。より具体的には、数平均や重量平均の分子量や分子量分布を小さくすることで、MFRを高くすることができる。
【0040】
ポリオレフィン樹脂Iは本発明の目的を損なわない範囲で、主たる構成単位以外の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよい。このような共重合成分を構成する単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量は、フィルムとしたときの寸法安定性の点から1mol%未満が好ましい。
【0041】
また、基層(A)は主成分であるポリオレフィン樹脂I以外のポリオレフィン樹脂を含んでもよい。ここでポリオレフィン樹脂I以外のポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂Iとは主たる構成単位が異なるポリオレフィン樹脂をいう。ポリオレフィン樹脂I以外のポリオレフィン樹脂の主たる構成単位としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどに由来する構成単位が挙げられる。ポリオレフィン樹脂I以外のポリオレフィン樹脂の含有量は、基層(A)を構成する全成分を100質量%としたときに、10質量%未満とするのが好ましい。
【0042】
ポリオレフィン樹脂Iがポリプロピレン樹脂であり、ポリオレフィン樹脂I以外のポリオレフィン樹脂としてポリエチレンを含む場合、基層(A)中に含まれるポリエチレン樹脂は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。ポリエチレン樹脂の含有量が多いほど、フィルムとしたときの結晶性が低下するため、透明性を向上させやすい。一方で、ポリエチレン樹脂の含有量を10質量%以下とすることにより、フィルムとしたときの強度や耐熱性の低下を軽減できる他、押出工程中での樹脂の劣化が軽減され、フィルムとしたときのフィッシュアイの発生も抑えることができる。
【0043】
次に、本発明のポリオレフィンフィルムの表層(B)に用いられるポリオレフィン樹脂について説明する。本発明の表層(B)には、ポリオレフィン樹脂Iに分岐鎖状ポリプロピレン樹脂を含有させた樹脂組成物を用いることが好ましい。表層(B)における分岐鎖状ポリプロピレン樹脂は、層を構成する全成分中、5.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上27.0質量%以下がより好ましく、15.0質量%以上24.0質量%以下がさらに好ましい。
【0044】
分岐鎖状ポリプロピレン樹脂は結晶核剤として働くため、表層(B)における分岐鎖状ポリプロピレン樹脂の含有量が5.0質量%以上であることにより、表面にポリオレフィン樹脂の結晶が生成しやすくなる。一方、分岐鎖状ポリプロピレン樹脂の含有量が30.0質量%以下であることにより、表面における過剰な結晶生成を抑えることができる。すなわち、表層(B)が分岐鎖状ポリプロピレン樹脂を5.0質量%以上30.0質量%以下含むことで、表面の結晶生成に起因する突起の密度が適切な範囲となるため、表面のSpdを好適な範囲とすることができる。
【0045】
分岐鎖状ポリプロピレン樹脂としては、分子鎖中に分岐構造を有するポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。なお、「分子鎖中に分岐構造を有するポリプロピレン樹脂」とは、分子鎖におけるカーボン原子10,000個中に5箇所以下の内部3置換オレフィンを有するポリプロピレン樹脂であり、この内部3置換オレフィンの存在は、H-NMRスペクトルのプロトン比により確認することができる。また、分岐鎖状ポリプロピレン樹脂のMFRは、製膜安定性の観点から1.0g/10分以上10.0g/10分以下であることが好ましい。
【0046】
本発明のポリオレフィンフィルムの表層(B)に好適に用いることができる分岐鎖状ポリプロピレン樹脂としては、例えば、Lyondell Basell社製“Profax”(登録商標)(PF-814など)、Borealis社製“Daploy”(商標)(WB130HMS、WB135HMSなど)、日本ポリプロ社製“WAYMAX”(登録商標)(MFX3、MFX6、MFX8、EX6000、EX8000等)等が挙げられる。なお、分岐鎖状ポリプロピレン樹脂は、それ自体がα晶またはβ晶の結晶核剤効果を有するが、本発明の目的に反しない範囲で、別種のα晶核剤(例えば、ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等)、β晶核剤(例えば、1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド等のアミド系化合物、キナクリドン系化合物等)等の結晶核剤を添加してもよい。なお、これらの結晶核剤は、基層(A)、表層(B)のいずれに添加してもよく、両方に添加してもよい。
【0047】
但し、上記別種の核剤の過剰な添加は、フィルムの延伸性の低下やボイド形成等による透明性や強度の低下を引き起こす場合があるため、添加量はフィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、通常0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
【0048】
本発明のポリオレフィンフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることもできる。これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は酸化防止剤のブリードアウトの観点から重要である。かかる酸化防止剤としては、立体障害性を有するフェノール系のものが好ましく、複数種類の酸化防止剤を併用する場合、少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに、1,3,5-トリメチル- 2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。
【0049】
これら酸化防止剤の総含有量は、ポリマーの劣化による着色や酸化防止剤のブリードアウトによる透明性低下を軽減する観点から、ポリオレフィンフィルムを得るための原料全体を100質量%としたときに、0.03~1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が0.03質量%以上であることにより、押出工程でのポリマーの劣化に起因するフィルムの着色や、長期耐熱性の低下を軽減できる。一方、酸化防止剤が1.0質量%以下であることにより、酸化防止剤のブリードアウトによる透明性の低下が抑えられる。上記観点から、酸化防止剤のより好ましい含有量は0.05~0.9質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.8質量%である。なお、これらの酸化防止剤は、基層(A)、表層(B)のいずれに添加してもよく、両方に添加してもよい。
【0050】
また、本発明のポリオレフィンフィルムは、有機粒子および無機粒子を含まないことが好ましい。例えば、本発明のポリオレフィンフィルムに好適に使用できるポリプロピレン樹脂は、有機粒子や無機粒子との親和性が低いため、製造過程でこれらの粒子が脱落して製造ラインや製品を汚染する場合や、硬度の高い粒子によって形成される粗大突起が被着体の樹脂層に凹凸として転写される場合がある。そのため、ディスプレイ部材など高品位が求められる製品に用いられる光学部材の保護フィルムや製造用基材フィルムとして用いる際は、ポリオレフィンフィルムが有機粒子や無機粒子等の滑剤を含有しないことが好ましい。
【0051】
本発明のポリオレフィンフィルムは、二軸配向フィルムであることが好ましい。二軸配向フィルムとは、直交する2方向に分子が配向したフィルムであり、通常、直交する2方向(例えば、長手方向と幅方向)に延伸することにより得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれを採用してもよいが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。ここでステンター逐次二軸延伸法とは、長手方向と幅方向への延伸を別々の工程で行い、少なくとも幅方向への延伸をステンターにより行う方法をいう。
【0052】
次に本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法の一態様を、ポリプロピレンフィルムを具体例として説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。まず、ポリプロピレン樹脂を基層(A)用の単軸押出機に供給し、ポリプロピレン樹脂と分岐鎖状ポリプロピレン樹脂の混合物を表層(B)用の単軸押出機に供給した後、それぞれ200~280℃、より好ましくは220~280℃、更に好ましくは240~270℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、マルチマニホールド型の複合Tダイにて表層(B)/基層(A)/表層(B)の構成となるように積層し、キャスティングドラム上に吐出して冷却固化することにより、表層(B)/基層(A)/表層(B)の層構成を有する未延伸シートを得る。
【0053】
このとき、キャスティングドラムは表面温度が40~100℃、好ましくは50~100℃、更に好ましくは60~100℃である。キャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、フィルムの平面性を良好にし、かつ表面粗さの制御を容易にする観点からエアナイフ法が好ましい。エアナイフのエア温度は40~80℃が好ましく、吹き出しエア速度は130~150m/sが好ましい。また、シートの振動を生じさせないために、製膜下流側にエアが流れるようにエアナイフの位置を適宜調整することも好ましい。また、キャスト速度は5m/min以上16m/min以下が好ましく、より好ましくは8m/min以上14m/min以下である。キャスト速度が5m/min以上であることにより、ポリオレフィンフィルムの生産速度を確保することができる。一方、キャスト速度が16m/min以下であることにより、キャスト時間が十分に確保されるためポリオレフィン樹脂の粗大な結晶の生成や、それに伴うSpdやSpcの低下が軽減されるため、剥離抵抗の上昇を抑えることができる。
【0054】
次に、得られた未延伸シートを二軸延伸し、二軸配向せしめる。具体的な延伸条件としては、まず、未延伸シートを長手方向に延伸する温度に予熱する。予熱の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを単独で若しくは適宜組み合わせて採用することができる。長手方向に延伸する際のフィルム温度(予熱温度)としては、高温延伸することによってフィルム表面に突起を好ましい範囲に制御する観点も考慮すると、130℃以上160℃以下、好ましくは140℃以上160℃以下、更に好ましくは145℃以上154℃以下である。延伸倍率としては、機械特性や熱特性を好ましい範囲に制御するために3.0倍以上6.0倍以下であると好ましく、より好ましくは4.0倍以上5.7倍以下であり、さらに好ましくは4.5倍以上5.5倍以下である。延伸倍率が3.0倍以上の場合、より均一な延伸ができ、厚み斑が抑えられる。一方、延伸倍率が6.0倍以下であると、縦延伸工程や次の横延伸工程でのフィルム破断が軽減される。
【0055】
次いで、長手方向への延伸で得られた縦一軸延伸フィルムを一旦10℃以上70℃以下に冷却する。冷却温度が10℃以上の場合、フィルムのカールを抑制することができる。一方で、冷却温度が70℃以下の場合、熱結晶化が促進されることを抑制することができる。その後、テンターに導いて、その幅方向両端部をクリップで把持して予熱した後、幅方向に7.0~13倍に横延伸する。高温延伸によりフィルム表面の突起を好ましい範囲に制御する観点も考慮すると、予熱、及び延伸温度は156~166℃であり、より好ましくは159~165℃、更に好ましくは160~164℃である。さらに、そのままテンター内で熱処理を行ってもよく、このとき幅方向の熱収縮率を制御するために、熱処置温度は110℃以上170℃未満であることが好ましく、150℃以上165℃以下であるとより好ましい。また、熱処理は幅方向にフィルムを弛緩させながら行ってもよく、特に、幅方向の弛緩率を2.0%以上20.0%以下、より好ましくは7.0%以上15.0%以下とすることで、幅方向の熱収縮率を適切な範囲とし、寸法安定性のバランスを適切化できる。
【0056】
以上のようにして得られたポリオレフィンフィルムは、包装用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることができるが、特に表面平滑性に優れることから、表面保護フィルム、工程フィルム、離型用フィルムとして好ましく用いることができる。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明のポリオレフィンフィルムについてより詳細に説明するが、ポリオレフィンフィルムは係る態様に限定されるものではない。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0058】
(1)フィルム厚み、厚み斑
ポリオレフィンフィルムを5枚重ねて測定サンプルとし、電子マイクロメーター(TESA社製 TT80)を用いて測定サンプルの厚みを測定した。次いで、得られた値を5で除してポリオレフィンフィルム1枚当たりの厚みを算出した。さらに幅方向に50mmずらした位置を測定点として同様の測定を行い、同様の測定を合計5回繰り返した。得られた測定結果より、ポリオレフィンフィルム1枚当たりの厚みの最大値、最小値、平均値を求め、平均値をフィルム厚み(t:μm)とし、下記式より厚み斑(%)を求めた。
厚み斑(%)=((厚み最大値-厚み最小値)/厚み平均値)×100 。
【0059】
(2)山の頂点密度(Spd)、山頂点の算術平均曲(Spc)、平均粗さ(Sa)
株式会社菱化システム社製非接触表面・層断面形状測定システム“VertScan”(登録商標)2.0(型式:R3300GL-Lite-AC)を用いて下記手順、条件で測定した。まず、フィルムロールよりポリオレフィンフィルムを巻き出し、幅方向中央部を通りかつ長手方向に平行な直線上に無作為に定めた10箇所が測定箇所となるように測定サンプルを採取し、その10箇所においてSpd、Spc、Saを測定した。得られた各測定値の平均値を算出し、その当該ポリオレフィンフィルムのSpd、Spc、Saとした。なお、1回の測定においては、1視野(視野面積:縦939μm×横1,252μm=1,175,628μm)の測定を行った。
【0060】
A.測定条件
CCDカメラ:SONY HR-57 1/2
対物レンズ:10X
鏡筒:0.5X BODY
波長フィルター:530 white
測定モード:Wave
視野サイズ:640×480
スキャンレンジ:(スタート)5μm、(ストップ)-5μm。
【0061】
B.測定サンプルの固定方法
測定サンプルの固定には専用のサンプルホルダーを使用した。サンプルホルダーは中心に円形の穴が空いた脱着可能な2枚の金属板であり、その間にシワがない状態で測定サンプルを挟み固定し、円形の穴部分に位置する測定サンプルについて測定した。
【0062】
C.解析方法
上記測定により得られたデータを“VertScan”(登録商標)2.0の画像解析ソフトVS-Viewerで解析した。まず、メディアンフィルター(5×5)によりノイズを除去し、カットオフ値250μmのガウシアンフィルターによりうねり成分を除去した。次いで、「ISOPara」機能により、ISO25178(2012)で定義されるSpd、Spc、Saを測定した。なお、「ISOPara」機能において、S-Filterを6.0μmに設定した。
【0063】
(3)粘着テープとの離型性評価
ポリオレフィンフィルムに日東電工(株)製ポリエステル粘着テープNO.31Bをローラーで貼付し、それを19mm幅にカットしてサンプルを作製した。そのサンプルを、引張試験機を用いて剥離速度300mm/minかつ剥離角度180°の条件で剥離して、剥離力N(N/19mm)を測定し、さらに以下の基準で評価した(○、△1、△2であれば離型フィルムとして問題なく使用でき、これらを合格とした。)。なお、ポリエステル粘着テープはフィルムロールの状態で内側にあった面に貼り付けた。
○:表層と基層間で層間剥離が生じず、一定速度で剥離が可能であった。
△1:表層と基層間で層間剥離が生じなかったが、剥離抵抗がやや強く、剥離が不安定であった。
△2:粘着テープと表層の貼り付きが不足し、層間剥離は生じないものの、剥離抵抗がやや弱く、剥離が不安定であった。
×:表層と基層間で層間剥離が生じた、または、剥離が非常に重く、被着体表面に剥離痕が残った。
【0064】
(4)摩擦係数
規定環境下(温度:23±3℃、湿度:65±5%)で調温、調湿された試験片(測定基準長:幅75mm×長さ100mm)を異なる面同士が接するように重ね合わせて、測定器(スリップテスター)へセットした。重ね合わせた2枚の試験片の上に200gの荷重を置き、上側の試験片を測定器にてスライドさせることで抵抗値を測定し、次式にて摩擦係数を算出した。
摩擦係数 =抵抗値(g)/荷重(g)。
【0065】
(5)製品ロール巻き姿
製品ロールの巻き取り後に製品ロールにおけるシワや巻きズレを目視で確認し、以下の基準で評価した。なお、評価結果が○又は△の場合を合格とした。
○:製品ロールにシワや巻きズレが発生しなかった。
△:製品ロールにシワや巻きズレが発生したが、加工上実害がない軽微なレベルであった。
×:製品ロールにシワや巻きズレが発生し、加工上実害がある過度なレベルであった。
【0066】
(6)フィルム表面のキズ
先ず、1m(長手方向)×1m(幅方向)の正方形状にサンプリングしたフィルム試料を用意した。次いで、暗室にて該フィルム試料の一方の面(任意)に、入射角を30°~90°の範囲で変えながら2000lxのLEDライト(OHM社製EB-10KM)の光を照射した。LEDライトを照射しながら、照射面側から該フィルム試料を観察し、目視で確認出来たキズをサンプリングした。その後、サンプリングしたキズを顕微鏡で観察し、長さ1mm以上かつ幅0.1mm以下であるキズをカウントした。同様の測定を、フィルム試料を変えて合計5回実施し、得られたキズの個数の平均値を求め、以下の基準にて評価を行った。
〇:キズの個数≦10個/m
△:10個/m<キズの個数≦30個/m
×:キズの個数>30個/m
【0067】
(7)N/t
(3)に記載の方法で測定した剥離力N(N/19mm)を、(1)に記載の方法で測定したフィルム厚みt(μm)で除して算出した。
【0068】
[原料]
実施例及び比較例のポリオレフィンフィルムを製造するために、以下の原料を使用した。
【0069】
(1)樹脂
ポリオレフィン樹脂I(ホモポリプロピレン樹脂):(株)プライムポリマー社製、MFRが2.9g/10分、融点が164℃、メソペンタッド分率が0.94である高立体規則性のホモポリプロピレン樹脂。
分岐鎖状ポリプロピレン樹脂:日本ポリプロ社製“WAYMAX”(登録商標)(MFX3) MFRが9.0g/10分である分岐鎖状ポリプロピレン樹脂。
ポリメチルペンテン樹脂(PMP):三井化学社製“TPX”(登録商標)MX004
エチレン・プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、MFR=4.0g/10分かつエチレン含有量1.1質量%であるエチレン・プロピレンランダム共重合体。
【0070】
(2)酸化防止剤
酸化防止剤1:BASFジャパン社製“Irganox”(登録商標)1010。
酸化防止剤2:ADEKA社製2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)。
【0071】
(実施例1)
基層(A)用の原料として、ポリオレフィン樹脂Iを単軸押出機に供給し、表層(B)用の原料として、ポリオレフィン樹脂I80質量部と分岐鎖状ポリプロピレン樹脂20質量部とをドライブレンドして別の単軸押出機に供給し、それぞれ260℃で溶融押出を行った。次いで、20μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型の複合Tダイにて表層(B)/基層(A)/表層(B)が1/8/1の厚み比となるように各原料を積層してシート状に成形し、90℃に表面温度を制御したキャスティングドラムに吐出してエアナイフによりキャスティングドラムに密着させた。その後、キャスティングドラム上のシートの非冷却ドラム面に、圧空エアを噴射させて冷却し、未延伸シートを得た。続いて、搬送ロールを用いて未延伸シートを155℃に予熱し、周速差を設けたロール間で長手方向に5.0倍延伸し、延伸後に40℃のロールで一軸延伸フィルムを冷却した。次に幅方向両端部をクリップで把持して一軸延伸フィルムをテンター式延伸機に導入し、162℃で3秒間予熱後、162℃で8.8倍に延伸し、幅方向に10.5%の弛緩を与えながら163℃で熱処理を行った。その後135℃の冷却工程を経てテンター式延伸機の外側へ導き、幅方向端部のクリップを解放してロール内面となる面にコロナ放電処理を施した。続いて、幅方向両端部(クリップが把持していた部分)をスリッターで切除したフィルムを巻取機で巻き取り、厚み15μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2~8、比較例1~5)
実施例1において、層構成、各層の組成、及び製膜条件を表1のとおりとした以外は実施例1と同様の方法で表1に示す厚みの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、単膜の例については、1台の単軸押出機を使用し、厚みの調整は押出機の回転数によって樹脂吐出量を制御すること、また、キャスト速度や縦延伸倍率および横延伸倍率を制御することにより行った。得られたフィルムの物性および各項目の評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
なお、比較例5は単膜構成のため、表層はなく基層のみが存在するものとして、層の組成を記載した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
上述のとおり、本発明のポリオレフィンフィルムは、離型性と品位に優れるため、離型フィルムや工程フィルムとして好適に用いることができ、粘着性樹脂層のカバーフィルムなどの離型フィルムとして特に好適である。さらに本発明のポリオレフィンフィルムは表面平滑性にも優れるため、製品の表面平滑性が要求される用途の離型フィルム、工程フィルムとしても好ましく用いることができる。また、上記特性を具備する本発明のポリオレフィンフィルムは、包装用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることもできる。