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特開2023-109148タコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法
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  • 特開-タコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109148
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】タコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20230731BHJP
   A01K 61/80 20170101ALI20230731BHJP
【FI】
A23K50/80
A01K61/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189915
(22)【出願日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022010383
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラムA-STEP企業主導フェーズNexTEP-Aタイプ課題事業「マダコ完全養殖と高度食品加工技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515171880
【氏名又は名称】有限会社グルメイト
(71)【出願人】
【識別番号】599132007
【氏名又は名称】株式会社ホットランド
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正美
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】西川 正純
(72)【発明者】
【氏名】片山 亜優
(72)【発明者】
【氏名】グレドル・イアン
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
【Fターム(参考)】
2B005GA09
2B005HA02
2B005JA04
2B005LA05
2B104AA13
2B104CF01
2B104CF05
2B104CG22
(57)【要約】
【課題】水中における餌などの給餌物の分散を抑えて給餌物の無駄および水質の悪化を抑えることができるタコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法を提供する。
【解決手段】タコ用給餌物体100は、ケーシング101内に給餌物103を収容して構成されている。ケーシング101は、筒状のフィルムの両端部が閉じ具102によってそれぞれ縛られて閉塞されている。給餌物103は、流動性給餌物104と固体性給餌物105とで構成されている。流動性給餌物104は、流動性を有する餌で構成されている。固体性給餌物105は、餌と栄養補助剤とを混ぜて構成されている。このタコ用給餌物体100は、屈曲自在に構成されている。作業者は、タコOを飼育する水槽内にタコ用給餌物体100を投入することで給餌することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タコに食べさせる給餌物がケーシング内に収容されていることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項2】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記ケーシングは、
フィルムによって袋状に形成されていることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項3】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記タコ用給餌物体の大きさは、
給餌対象となる前記タコの口の大きさよりも大きいことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項4】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記タコ用給餌物体は、
給餌対象となるタコの腕の力によって押し潰しまたは屈曲自在な柔らかさに形成されていることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項5】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記タコ用給餌物体は、
棒状に延びて形成されていることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項6】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記給餌物は、
流動体で構成された流動性給餌物を含むことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項7】
請求項6に記載したタコ用給餌物体において、
前記ケーシングは、
内部に収容する前記流動性給餌物が外部に滲出するように構成されていることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項8】
請求項6に記載したタコ用給餌物体において、
前記流動性給餌物は、
薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項9】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記給餌物は、
固体で構成された固体性給餌物を含むことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項10】
請求項9に記載したタコ用給餌物体において、
前記固体性給餌物は、
ドライフード、薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項11】
請求項9に記載したタコ用給餌物体において、
前記固体性給餌物は、粒状または粉状であることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項12】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記給餌物は、
流動体で構成された流動性給餌物と、
固体で構成された固体性給餌物とを含むことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項13】
請求項12に記載したタコ用給餌物体において、
前記流動性給餌物は、
前記固体性給餌物よりも給餌対象となるタコが好んで食べるもので構成されていることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項14】
請求項12に記載したタコ用給餌物体において、
前記流動性給餌物は、
前記ケーシングの内壁面に接触していることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項15】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記ケーシングは、給餌対象となるタコが食べることができる可食性であることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項16】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記ケーシングは、
外表面の少なくとも一部に給餌対象となるタコが食べるものが付着していることを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項17】
請求項1に記載したタコ用給餌物体において、
前記給餌物は、
イカおよびエビのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とするタコ用給餌物体。
【請求項18】
請求項1ないし請求項17のうちのいずれか1つに記載したタコ用給餌物体をタコに与えてタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タコの飼育に用いるタコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タコの養殖が試みられている。例えば、下記特許文献1には、筒体内で個別飼育するタコに対して生または冷凍の甲殻類または軟体動物のほか、半湿または乾燥飼料を与えてタコを養殖する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-262488号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたタコの養殖方法においては、タコに生餌または人工飼料などの給餌物を与えると、タコの摂食前、摂食中または摂食後に給餌物が水中に分散して給餌物の無駄が生じるとともに水質を悪化させるという問題がある。ここで、タコの摂食前の分散としては、水中に投入した給餌物がタコの摂食前に溶けたり腐敗したりして分散することがある。また、タコの摂食中の分散としては、タコが給餌物をバラバラに千切って食べることによる分散がある。また、タコの摂食後の分散としては、タコの給餌物の食べ残しによる分散がある。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、水中における餌などの給餌物の分散を抑えて給餌物の無駄および水質の悪化を抑えることができるタコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法を提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、タコに食べさせる給餌物がケーシング内に収容されていることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、タコ用給餌物体は、タコに食べさせる給餌物がケーシング内に封入されているため、水中に投入した給餌物がタコの摂食前、摂食中または摂食後に水中に分散して給餌物の無駄が生じるとともに水質を悪化させることを抑制することができる。また、タコ用給餌物体は、給餌物の変質も抑制することができる。
【0008】
また、本発明者らによる実験によれば、タコがタコ用給餌物体を摂食する際にケーシング内に消化酵素を注入して給餌物を摂食していることを確認した。一般に、タコは、甲殻類または貝類を摂食する際に、甲羅または殻(以下、「甲羅等」という)に開けた小さな孔を介して甲羅等の内側にチラミンなどの毒素を注入して生体部分を麻痺させた後、消化酵素を注入してこの生体部分を軟化させて吸い取るなどして摂食することが知られている。
【0009】
すなわち、本発明に係るタコ用給餌物体によれば、タコに給餌物を軟化させて食べさせることで摂食物を食べ易くしてまたは摂食時間を短くして摂食効率を向上させることができる。例えば、タコ用給餌物体は、給餌物として甲羅等で覆われている可食部(身または内蔵)は当然、本来的に甲羅等で覆われていない可食部(例えば、イカまたは魚などの身または内蔵)、非可食部が一体的に付随する可食部(例えば、骨の付いた身または内蔵)、更には、人工飼料(例えば、硬質な固体状の飼料)を給餌物としてケーシング内に封入することで摂食効率を向上させることができる。なお、タコは、甲羅等で覆われていない摂食物に対しても消化酵素を分泌しながら摂食しているかもしれないが、この場合であっても、本発明に係るタコ用給餌物体によれば、タコが分泌する消化酵素が水中に分散することを防いで給餌物を軟化させて食べさせることができるものである。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、ケーシングは、フィルムによって袋状に形成されていることにある。
【0011】
これによれば、タコ用給餌物体は、ケーシングがフィルムによって袋状に形成されているため、ケーシングの肉厚を薄く形成し易くできる。これにより、タコ用給餌物体は、タコの噛み付き易さ、腕による折り曲げのし易さ、または給餌物の漏出の程度などをコントロールし易くすることができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、タコ用給餌物体の大きさは、給餌対象となるタコの口の大きさよりも大きいことにある。
【0013】
これによれば、タコ用給餌物体は、タコ用給餌物体の大きさが給餌対象となるタコの口の大きさよりも大きく形成することで摂食性を向上させることができる。すなわち、本発明者らの実験によれば、タコは、自らの口の大きさ以下の大きさの餌をあまり食べようとしない一方で、自らの口の大きさ以上の大きさのタコ用給餌物体を積極的に摂食することを確認した。この場合、タコ用給餌物体の大きさは、本発明者らの実験によれば、タコの口の周囲に円環状に配置されている吸盤群の仮想円の直径以上の大きさに形成することでタコがタコ用給餌物体を把持し易くなって積極的に摂食させることができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、タコ用給餌物体は、給餌対象となるタコの腕の力によって押し潰しまたは屈曲自在な柔らかさに形成されていることにある。
【0015】
これによれば、タコ用給餌物体は、タコ用給餌物体が給餌対象となるタコの腕の力によって押し潰しまたは屈曲自在な柔らかさに形成されているため、タコは自然界で捕らえた獲物のように自らの腕でタコ用給餌物体を押し潰したり、屈曲させたり、抱き抱えてタコ用給餌物体を隠しながら摂食させることができる。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、タコ用給餌物体は、棒状に延びて形成されていることにある。
【0017】
これによれば、タコ用給餌物体は、タコ用給餌物体が棒状に延びて形成されているため、タコが腕でタコ用給餌物体を巻き付けて掴み易くできるとともに口元で抱き抱え易くすることができ積極的な摂食を促すことができる。この場合、タコ用給餌物体の長さは、上記したように、本発明者らの実験によれば、タコの口の周囲に円環状に配置されている吸盤群の仮想円の直径以上の長さに形成することでタコがタコ用給餌物体を把持し易くなって積極的に摂食させることができる。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、給餌物は、流動体で構成された流動性給餌物を含むことにある。
【0019】
これによれば、タコ用給餌物体は、給餌物が流動体で構成された流動性給餌物を含んで構成されているため、流動性のある流動性給餌物の水中での分散または溶解を抑えることができるとともにタコ用給餌物体に噛み付いたタコに給餌物の味を素早く感じさせて摂食性を向上させることができる。
【0020】
この場合、流動性給餌物は、タコに摂食させる餌、薬剤または栄養補助剤などを流動体状に加工したものである。ここで、タコの餌には、魚介類(イカ、エビまたはカニなどの甲殻類、イカナゴ、タラまたはアジなどの魚類)、海藻類、肉類(豚肉、豚脂、牛肉、牛脂または鶏肉など)、野菜または果物のほか、これらを直接またはこれらに含まれる栄養素を人工的に合成したペレット状の人工飼料がある。また、薬剤には、麻酔薬または抗生物質などがある。また、栄養補助剤には、各種ビタミン剤または各種ミネラルがある。また、流動体とは、液体のほか、液体よりも粘性または弾性を有しつつ流動性を有した状態(例えば、すり身、ミンチ状、スラリー状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、粘土状またはゼリー状など)を含むものである。つまり、流動性給餌物は、水中で分散または溶解する状態に加工したものである。なお、ミンチ状は、すり身よりも元の素材が粒状に残っている状態である。
【0021】
本発明者らによる実験によれば、タコは、魚介類の固形または軟質の身または内蔵をそのまま給餌するよりも、これら部位をペースト状にしてケーシングに詰めて給餌した方が増重率(飼育しているタコの体重の増加率)が高いことを確認した。特に、ガザミなどのカニ類は、イカ類に比べて増重率が高いことを確認した。したがって、本願発明に係るタコ用給餌物体によれば、固体の餌を流動性給餌物にすることで飼料効率を向上させることもできる。
【0022】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、ケーシングは、内部に収容する流動性給餌物が外部に滲出するように構成されていることにある。
【0023】
これによれば、タコ用給餌物体は、ケーシングが流動性給餌物を外部に滲出するように構成されているため、タコにタコ用給餌物体を食べ物としてアピールすることができ摂食性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、流動性給餌物は、薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つを含むことにある。
【0025】
これによれば、タコ用給餌物体は、流動性給餌物が薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つを含んでいるため、タコに薬剤または栄養補助剤を効果的に食べさせることができる。この場合、流動性給餌物は、タコの餌に薬剤または栄養補助剤を混ぜて構成することで効果的に摂食させることができる。
【0026】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、給餌物は、固体で構成された固体性給餌物を含むことにある。
【0027】
これによれば、タコ用給餌物体は、給餌物が固体で構成された固体性給餌物を含んで構成されているため、流動性給餌物よりも水中での散逸を防止して摂食性を向上させることができる。
【0028】
この場合、固体性給餌物は、タコに摂食させる餌、薬剤または栄養補助剤などの固体物である。タコの餌には、魚介類(イカ、エビまたはカニなどの甲殻類、イカナゴ、タラまたはアジなどの魚類)、海藻類、肉類(豚肉、豚脂、牛肉、牛脂または鶏肉など)、野菜または果物のほか、これらを直接またはこれらに含まれる栄養素を人工的に合成したペレット状の人工飼料がある。また、薬剤には、麻酔薬または抗生物質などがある。また、栄養補助剤には、各種ビタミン剤または各種ミネラルがある。また、固体性給餌物は、ブロック状、礫状、粒状または粉状がある。
【0029】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、固体性給餌物は、ドライフード、薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つを含むことにある。
【0030】
これによれば、タコ用給餌物体は、固体性給餌物がドライフード、薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つを含んで構成されているため、これらのドライフード、薬剤および栄養補助剤を効果的にタコに摂食させることができる。なお、ドライフードには、モイストペレット、ドライペレットまたはエクストルーデッドペレットが含まれる。
【0031】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、固体性給餌物は、粒状または粉状であることにある。
【0032】
これによれば、タコ用給餌物体は、固体性給餌物が粒状または粉状であるため、タコ用給餌物体を小型化または任意の形状に形成し易くなるとともに、固体性給餌物のケーシング内への混合量を調整することで流動性給餌物の粘度または含水率を調整することもできる。
【0033】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、給餌物は、流動体で構成された流動性給餌物と、固体で構成された固体性給餌物とを含むことにある。
【0034】
これによれば、タコ用給餌物体は、タコの摂食性が低い固体性給餌物をケーシング内に流動性給餌物とともに収容することで固体性給餌物の摂食性を向上させながら流動性給餌物の使用量を減らすことができる。
【0035】
この場合、本発明者らの実験によれば、タコはペレットなどの人工飼料、薬剤または栄養補助剤を好んで食べない。しかし、本発明に係る給餌物は、固体性給餌物に対して摂食性のよい流動性給餌物を含んで構成することで、固体状の人工飼料、薬剤または栄養補助剤をタコに効果的に摂食させることができることを確認した。すなわち、本発明に係るタコ用給餌物体は、固体性給餌物の摂食率(タコに与えた給餌物の量と実際に摂食した量との比)を効果的に向上させることでコストおよび管理の負担が重い生の練り餌(流動性給餌物)の使用量を減らすことができる。この場合、固体性給餌物は、流動性給餌物が水分を含んだ生重量基準で流動性給餌物の重量の300%以下が好ましく、5%以上かつ200%以下がより好ましく、50%以上かつ150%以下が更に好適である。
【0036】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、流動性給餌物は、固体性給餌物よりも給餌対象となるタコが好んで食べるもので構成されていることにある。
【0037】
これによれば、タコ用給餌物体は、流動性給餌物が固体性給餌物よりも給餌対象となるタコが好んで食べるもので構成されているため、タコがタコ用給餌物体におけるケーシングを破って食べ始めた際にタコの口に最初に入り易い流動性給餌物によってタコの食欲を増進させることができる。なお、この場合、タコ用給餌物体は、ケーシングを流動性給餌物が滲み出す透過性を有するフィルムで構成することでタコ用給餌物体に興味を示さないタコに対しても食欲を掻き立てることができる。
【0038】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、流動性給餌物は、ケーシングの内壁面に接触していることにある。
【0039】
これによれば、タコ用給餌物体は、流動性給餌物がケーシングの内壁面に接触しているため、タコがタコ用給餌物体におけるケーシングを破って食べ始めた際にタコの口に最初に流動性給餌物が入り易くなってタコの食欲を増進させることができる。なお、この場合、タコ用給餌物体は、ケーシングを流動性給餌物が滲み出す透過性を有するフィルムで構成することでタコ用給餌物体に興味を示さないタコに対して食欲を掻き立てることができる。
【0040】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、ケーシングは、給餌対象となるタコが食べることができる可食性であることにある。
【0041】
これによれば、タコ用給餌物体は、ケーシングが給餌対象となるタコが食べることができる可食性で構成されているため、ケーシングをタコが摂食した場合のほか、仮にケーシングを食べ残した場合においても後日タコまたはその他の生物によって食べられることで給餌によるゴミの発生を最小限に抑えることができる。この場合、ケーシングは、ゼラチン、プルラン、デンプン、アルギン酸、カラギーナン、寒天、コラーゲン、動物の腸、またはセルロースの薄膜で構成することができる。
【0042】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、ケーシングは、外表面の少なくとも一部に給餌対象となるタコが食べるものが付着していることにある。
【0043】
これによれば、タコ用給餌物体は、ケーシングの外表面の少なくとも一部に給餌対象となるタコが食べるものが付着しているため、タコにタコ用給餌物体が食べ物であることを早期に認識させることができタコの食欲を増進させて摂食性を向上させることができる。
【0044】
また、本発明の他の特徴は、前記タコ用給餌物体において、給餌物は、イカおよびエビのうちの少なくとも一方を含むことにある。
【0045】
これによれば、タコ用給餌物体は、給餌物がイカおよびエビのうちの少なくとも一方を含んで構成されているため、本発明者らの実験によれば、効率的にタコを飼育することができる。この場合、給餌物は、イカまたはエビをそのまま使用してもよいが、これらをすり身またはミンチで用いるとよい。また、この場合、給餌物は、すり身よりも元の素材が粒状で残るミンチの方が好ましい。
【0046】
また、本発明は、タコ用給餌物体の発明として実施できるばかりではなく、このタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法の発明としても実施できるものである。
【0047】
具体的には、タコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法は、上記したタコ用給餌物体をタコに与えるようにすればよい。これによれば、タコ用給餌物体をタコに与えてタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法は、上記タコ用給餌物体と同様の作用効果によってタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療することができる。この場合、本発明に係るタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法は、1g以上の稚タコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法としても実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施形態に係るタコ用給餌物体の内部構成を示す断面図である。
図2図1に示すタコ用給餌物体が給餌されるタコを口側から見た状態を示した説明図である。
図3】本発明の変形例に係るタコ用給餌物体の内部構成を示す断面図である。
図4】本発明の他の変形例に係るタコ用給餌物体の外観構成を示す正面図である。
図5】本発明の他の変形例に係るタコ用給餌物体の内部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明に係るタコ用給餌物体およびタコを養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るタコ用給餌物体100の内部構成を示す断面図である。また、図2は、図1に示すタコ用給餌物体100が給餌されるタコOを口M側から見た状態を示した説明図である。
【0050】
なお、ここで、養殖はタコOを食材として成長させるための飼育を想定している。また、飼育は、養殖のほかに試験、研究、展示、趣味による飼育を想定している。また、保管は、試験研究または食材としてのタコOを一時的に飼育することを想定している。また、運搬は、タコOを活魚車などを用いて生きたまま輸送することを想定している。また、治療は、病気、体調不良または怪我したタコOの回復のための飼育を想定している。
【0051】
(タコ用給餌物体100の構成)
タコ用給餌物体100は、タコO(主として、マダコ、イイダコまたはミズダコ)を養殖、飼育または治療する際に与える餌である。このタコ用給餌物体100は、ケーシング101を備えている。
【0052】
ケーシング101は、給餌物103を収容するための部品であり、薄膜状のフィルムで構成されている。このケーシング101は、薄膜状のフィルムを筒状に形成して構成されている。この場合、ケーシング101は、給餌物103を充填して筒状体の両端部が閉じ具102によって閉塞されている。このケーシング101は、タコOが好んで摂食する大きさに形成される。
【0053】
具体的には、ケーシング101は、タコ用給餌物体100全体としてタコOの口Mの開口部の大きさ(直径)よりも大きな大きさとなる大きさに形成される。この場合、タコ用給餌物体100は、タコOの口Mの周囲に隣接して環状に配置された複数の吸盤Kをそれぞれ通る仮想円KCを仮定したとき、この仮想円KCの直径以上の大きさに形成するとよい。本発明者らの実験によれば、タコ用給餌物体100は、タコOの口Mの大きさよりも小さく形成してもよいが、口Mの大きさより大きい大きさ、さらには、タコOの口Mの周囲に環状に配置された複数の吸盤Kをそれぞれ通る仮想円KCの直径以上の大きさに形成することで摂食率を各段に向上させることができることを確認した。
【0054】
また、ケーシング101は、タコOが食べることができる材料またはタコOが食べない材料で構成することができる。具体的には、タコOが食べることができる材料は、タコOが好んで食べる材料のほか、タコOが食べても問題ない材料があり、例えば、ゼラチン、プルラン、デンプン、アルギン酸、カラギーナン、寒天、コラーゲン、動物の腸(例えば、羊腸または豚腸など)、またはセルロースなどの自然由来の材料がある。また、タコOが食べない材料は、例えば、塩化ビニルまたはナイロンなどの各種樹脂材料がある。これらの場合、ケーシング101は、生分解性の材料を用いるとよい。
【0055】
また、ケーシング101を構成するフィルムの厚さは、タコOが歯で食い千切ることができる厚さに形成される。具体的には、ケーシング101を構成するフィルムの厚さは、0.03mm以上かつ0.5mm以下が好適である。また、ケーシング101は、不透明または半透明に構成されていてもよいが、給餌物103の視認性を考慮すると透明に構成されているとよい。
【0056】
本実施形態においては、ケーシング101は、厚さ0.1mmの牛由来のコラーゲン製の透明なフィルムを直径が25mmで長さが35mmの筒状に形成して構成されている。つまり、ケーシング101は、ソーセージのように棒状に延びて形成されている。なお、ケーシング101の長さは、タコOの大きさに応じて適宜設定されるが概ね20mm以上かつ80mm以下が好適である。また、ケーシング101の直径は、タコOの大きさに応じて適宜設定されるが概ね10mm以上かつ30mm以下が好適である。
【0057】
閉じ具102は、筒状に形成されたケーシング101の両端部をそれぞれ縛って給餌物103が露出することを防止するための部品であり、糸状または紐状に形成されている。この場合、閉じ具102は、ケーシング101と同様に、タコOが食べることができる材料またはタコOが食べない材料で構成することができる。本実施形態においては、閉じ具102は、太さが0.05mmの植物繊維製の糸で構成されている。
【0058】
給餌物103は、タコOに食べさせるものであり、タコOの餌、薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも1つを含んで構成されている。ここで、タコOの餌は、タコOを成長させるために与える食べ物であり、天然または養殖した魚介類、海藻類または肉類で構成された所謂生飼料(冷蔵、冷凍を含む)のほか、天然または養殖した魚介類、海藻類、肉類、野菜または果物を加熱、発酵、乾燥または混合など人工的に加工した人工飼料がある。この場合、魚介類には、イカ、エビまたはカニなどの甲殻類、イカナゴ、タラまたはアジなどの魚類がある。海藻類には、ワカメ、コンブ、テングサ、ノリなどがある。また、肉類には、豚肉、豚脂、牛肉、牛脂または鶏肉などがある。また、野菜には、穀物またはマメ類がある。また、果物には、クリ、ドリアン、アボガドなどがある。また、人工飼料には、必要な栄養素を人工的に合成したものも含まれる。
【0059】
薬剤は、タコOの病気、怪我または体調を回復させるために用いる物質であり、麻酔薬または抗生物質などがある。また、栄養補助剤には、生飼料または人工飼料では不足するビタミン類またはミネラル分を補うために人工的に合成されたものである。
【0060】
この給餌物103は、流動性給餌物104と固体性給餌物105とで構成されている。この場合、流動性給餌物104は、流動体で構成された餌(上記餌を練ったり、磨り潰したりしたもの)、薬剤または栄養補助剤である。ここで、流動体は、液体を除外するものではないが、液体よりも粘性または弾性を有しつつ流動性を有した状態(例えば、スラリー状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、粘土状またはゼリー状など)が好ましい。
【0061】
また、固体性給餌物105は、ブロック状、礫状、粒状または粉状の餌、薬剤または栄養補助剤である。この場合、固体性給餌物105は、モイストペレット、ドライペレットまたはエクストルーデッドペレットなどのドライフードで構成することができる。この固体性給餌物105は、本発明者らの実験によれば、流動性給餌物104が水分を含んだ生重量基準で流動性給餌物104の重量に対して300%以下、好ましくは5%以上かつ200%以下、より好ましくは50%以上かつ150%以下の分量でケーシング101内に収容されるとよい。なお、固体性給餌物105としては、生または加熱した魚介類をそのまま、または適当な大きさに切ったものを使用できることは当然である。
【0062】
(タコ用給餌物体100の製造方法)
次に、上記のように構成したタコ用給餌物体100の製造過程について説明する。まず、作業者は、ケーシング101を用意する。具体的には、作業者は、コラーゲン製のフィルムを連続する筒状に形成した市販の筒状フィルムを用意する。
【0063】
次に、作業者は、閉じ具102を用意する。具体的には、作業者は、市販の植物繊維製の糸を用意する。
【0064】
次に、作業者は、給餌物103を用意する。この場合、作業者は、流動性給餌物104および固体性給餌物105をそれぞれ用意する。具体的には、作業者は、流動性給餌物104としてイカのすり身(ミンチ)を用意する。また、作業者は、固体性給餌物105としてモイストペレットを用意する。この場合、モイストペレットは、生餌にタコOの生育に必要な栄養素を配合した半固形状の飼料である。そして、作業者は、流動性給餌物104と固体性給餌物105とを混ぜ合わせる。本実施形態においては、作業者は、固体性給餌物105を流動性給餌物104が水分を含んだ生重量基準で流動性給餌物104の重量の50%の重量で流動性給餌物104と混ぜ合わせて給餌物103を製造する。
【0065】
次に、作業者は、給餌物103をケーシング101に詰める。具体的には、作業者は、ミンチ肉を豚腸などのケーシング内に詰めてソーセージを形作るスタッファーなどの練り物を吐出する器具を用いて長尺のケーシング101内に給餌物103を詰める。この場合、作業者は、タコ用給餌物体100がタコOの腕Aの力で押し潰したり折り曲げたり可能となる分量で給餌物103をケーシング101内に注入する。具体的には、作業者は、ケーシング101の容積の30%以上かつ80%以下の分量で給餌物103をケーシング101内に注入する。そして、作業者は、給餌物103が詰められた長尺のケーシング101を所定の長さ位置で閉じ具102で縛った後に切断して棒状のタコ用給餌物体100を得る。
【0066】
この場合、作業者は、給餌するタコOの大きさに応じた長さのタコ用給餌物体100を得ることができる。なお、作業者は、スプーンまたはヘラを用いて手作業にて給餌物103をケーシング101内に詰めてもよいことは当然である。このように製造したタコ用給餌物体100は、製造後直ちにタコOに給餌してもよいし、冷蔵または冷凍保存することもできる。
【0067】
(タコ用給餌物体100の作動)
次に、このように構成したタコ用給餌物体100の使用方法について説明する。まず、タコOを養殖、飼育、運搬、保管または治療する作業者は、給餌物103を詰めたケーシング101の外表面に給餌物103を付着させる。具体的には、作業者は、給餌物103に接触させた手、刷毛または布などをケーシング101の外表面に接触させることで給餌物103をケーシング101の外表面に付着させることができる。
【0068】
また、作業者は、タコ用給餌物体100自体の外表面を直接給餌物103に接触させることで給餌物103をケーシング101の外表面に付着させることができる。この場合、作業者は、手、刷毛、布またはタコ用給餌物体100を流動性給餌物104または固体性給餌物105に接触させてもよい。また、作業者は、タコOへの給餌時ではなく、タコ用給餌物体100の完成時に給餌物103をケーシング101の外表面に付着させてもよい。
【0069】
次に、作業は、タコOを飼育する図示しない水槽(または海上養殖施設)内にタコ用給餌物体100を投入する。この場合、作業者は、飼育するタコOの大きさに応じたタコ用給餌物体100を給餌する。これにより、水槽内に投入されたタコ用給餌物体100は、水槽の底部に向かって沈降していく過程でタコOによって掴まれる。
【0070】
タコOは、腕Aで掴んだタコ用給餌物体100を自らの口Mに運んで摂食する。この場合、タコOは、タコ用給餌物体100を抱き抱えた状態でタコ用給餌物体100に噛み付くことでケーシング101を破って給餌物103をケーシング101とともに摂食する。なお、タコOは、ケーシング101が可食性であっても必ずしも給餌物103とともに摂食するとは限らず、給餌物103のみを摂食する場合もある。
【0071】
作業者は、タコOの摂食状況を確認できる場合には、摂食状況に応じて追加のタコ用給餌物体100を水槽内に投入する。また、作業者は、タコOがタコ用給餌物体100を摂食しない場合には、タコ用給餌物体100を水槽内に沈めた状態で留置して摂食を待つこともできる。この場合、タコ用給餌物体100は、給餌物103がケーシング101によって包まれているため、飼育水を汚すことを防止することができる。
【0072】
また、作業者は、タコOがタコ用給餌物体100を食べ残した場合には、食べ残したタコ用給餌物体100を水槽内から回収することができる。この場合、タコ用給餌物体100は、給餌物103がケーシング101によって包まれているため、給餌物103が直ちに飼育水中に散乱して飼育水を汚すことを抑制することができる。また、作業者は、回収したタコ用給餌物体100を計量することでタコOの摂食量を把握することもできる。
【0073】
なお、本発明者らの実験によれば、タコOは、体重が1gの大きさの稚ダコの状態からタコ用給餌物体100の継続的な摂食を確認した。この場合、稚ダコであるタコOには、太さが17mm、長さが20~30mm、重さが5gに形成したタコ用給餌物体100を給餌した。すなわち、本発明者らは、稚ダコであるタコOに対して自身の重さよりも重いタコ用給餌物体100を給餌できることを確認した。つまり、本件発明は、体重が1g以上の稚ダコの養殖、飼育、保管、運搬または治療する方法として実施することができる。
【0074】
また、本発明者らは、下記の実験を行った。
(実験1)
本発明者らは、重さが10~20gの複数のタコOに対して、冷凍エビを給餌して飼育する槽(第1区)と、冷凍エビのミンチを給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100を給餌して飼育する槽(第2区)とで増重率、増肉係数および飼料転換効率の比較実験を行った(飼育期間60日)。この実験の結果、第1区と第2区とで増重率の顕著な相違は確認できなかったが、増肉係数および飼料転換効率においては第2区がそれぞれ優位であった。すなわち、冷凍エビを給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100の方が冷凍エビを直接給餌するよりも優位であることが確認できた。
【0075】
(実験2)
本発明者らは、重さが10~20gの複数のタコOに対して、冷凍エビのミンチを給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100を給餌して飼育する槽(第1区)と、冷凍サバのミンチを給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100を給餌して飼育する槽(第2区)と、冷凍エビ(ミンチ)と大豆粕とを7:3の割合で混ぜた混合飼料を給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100を給餌して飼育する槽(第3区)と、冷凍サバ(ミンチ)と大豆粕とを7:3の割合で混ぜた混合飼料を給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100を給餌して飼育する槽(第4区)とで増重率、増肉係数および飼料転換効率の比較実験を行った(飼育期間180日)。この実験の結果、第1区の増重率、増肉係数および飼料転換効率が第2区、第3区および第4区の各増重率、増肉係数および飼料転換効率に対してそれぞれ優位であった。すなわち、冷凍エビを給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100が冷凍サバ、冷凍エビの混合飼料および冷凍サバの混合飼料よりも優位であることが確認できた。
【0076】
(実験3)
本発明者らは、重さが60~450gの複数のタコOに対して、イカナゴの躯幹部を給餌して飼育する槽(第1区)と、スルメイカの外套膜を給餌して飼育する槽(第2区)と、ガザミの筋肉を給餌して飼育する槽(第3区)と、むき身アサリを給餌して飼育する槽(第4区)と、スルメイカの外套膜のすり身を給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100を給餌して飼育する槽(第5区)とで増重率、増肉係数および飼料転換効率の比較実験を行った(飼育期間7日)。この実験の結果、第2区および第5区の飼料転換効率が第1区、第3区および第4区の各飼料転換効率に対してそれぞれ優位であった。すなわち、イカまたはイカのペースト物を給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100がイカナゴ、ガザミおよびむき身アサリよりも優位であることが確認できた。これらの実験1~実験3の結果から、エビまたはイカを給餌物103としてケーシング101内に充填したタコ用給餌物体100がイカの混合飼料、サバ、サバの混合飼料、イカナゴ、ガザミおよびむき身アサリよりも優位であることが確認できた。
【0077】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、タコ用給餌物体100は、タコOに食べさせる給餌物103が袋状に構成されたケーシング101内に封入されているため、水中に投入した給餌物103がタコOの摂食前、摂食中または摂食後に水中に分散して給餌物103の無駄が生じるとともに水質を悪化させることを抑制することができる。また、タコ用給餌物体100は、給餌物103の変質も抑制することができる。
【0078】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、各変形例の説明で参照図においては、上記実施形態と同様の部分については同じ符号を付している。
【0079】
例えば、上記実施形態においては、作業者は、ケーシング101内にケーシング101の容量の限界まで給餌物103を詰め込まずタコOの腕Aの力でタコ用給餌物体100を押し潰したり折り曲げたり可能となる分量で給餌物103をケーシング101内に注入した。しかし、作業者は、図3に示すように、ケーシング101内にケーシング101の容量の限界(容積の90%以上)まで給餌物103を充填することもできる。これによれば、タコ用給餌物体100は、押し潰したり屈曲させたりすることが困難な棒状に形成されるが、タコOへのアピール力が向上するとともに給餌量を最大化することができる。また、タコ用給餌物体100は、ケーシング101が給餌物103を外部に滲出可能に形成されている場合には給餌物103の滲出量を増加させてタコOの食欲を促すことができる。
【0080】
また、上記実施形態においては、給餌物103を詰めたケーシング101の外表面に給餌物103を付着させた。これにより、タコ用給餌物体100は、ケーシング101の外表面の少なくとも一部に給餌対象となるタコOが食べるものが付着しているため、タコOにタコ用給餌物体100が食べ物であることを早期に認識させることができタコOの食欲を増進させて摂食性を向上させることができる。しかし、タコ用給餌物体100は、ケーシング101の外表面に給餌物103を付着させることなく構成することもできる。
【0081】
また、上記実施形態においては、ケーシング101は、給餌物103が外部に滲出しないように不透水性の材料で構成した。これによれば、タコ用給餌物体100は、ケーシング101内の流動性給餌物104の水中への散逸を防止することができる。しかし、ケーシング101は、給餌物103が外部に滲出するように透水性を有する材料で構成することもできる。これによれば、タコ用給餌物体100は、タコOにタコ用給餌物体100を食べ物としてアピールすることができ摂食性を向上させることができる。なお、給餌物103の外部への漏出は、ケーシング101の透水性の有無のほかに、閉じ具102による閉塞の程度を緩くすることもでも実現することができる。
【0082】
また、上記実施形態においては、タコ用給餌物体100は、棒状に形成した。しかし、タコ用給餌物体100は、給餌物103がケーシング101内に収容されていればよい。したがって、タコ用給餌物体100は、例えば、図4に示すように、平らなシート状のケーシング101の中央部に給餌物103を配置してこのケーシング101の周囲を束ねて閉じ具102で綴じた巾着状に形成することもできる。この場合、平らなシート状のケーシング101は、平面視で円形のほか、三角形、方形または六角形などの多角形状、または異形形状で構成することができる。また、この場合、ケーシング101は、平らなシート状に代えて、筒体における一方の端部が閉塞するとともに他方の端部が開口した袋体を用いることもできる。
【0083】
また、上記実施形態においては、ケーシング101は、柔軟に屈曲する薄膜状のフィルムで構成した。しかし、ケーシング101は、変形に対してフィルムより剛性を有するカプセルで構成することもできる。つまり、ケーシング101は、エビまたはカニの甲羅程度の剛性を有して容易に変形または破壊ができない剛体で構成することもできる。これにより、タコ用給餌物体100は、タコOの吸盤Kによる吸着性を向上させることができるとともにタコOの腕力によって容易に損傷してしまうことを抑制できるため、タコOが摂食ではなくイタズラによってタコ用給餌物体100を破損して給餌物103が漏出することを抑制することができる。
【0084】
また、上記実施形態においては、給餌物103は、流動性給餌物104と固体性給餌物105とで構成した。しかし、給餌物103は、流動性給餌物104および固体性給餌物105のうちの少なくとも一方で構成することができる。例えば、タコ用給餌物体100は、図5に示すように、給餌物103を流動性給餌物104のみで構成することができる。
【0085】
また、本発明者らによる実験によれば、タコOは、魚介類の固形または軟質の身または内蔵をそのまま給餌するよりも、これら部位をペースト状にしてケーシングに詰めて給餌した方が増重率(飼育しているタコの体重の増加率)が高いことを確認した。したがって、本願発明に係るタコ用給餌物体100によれば、固体の餌を流動性給餌物104にすることで飼料効率を向上させることもできる。
【0086】
また、上記実施形態においては、タコ用給餌物体100は、ケーシング101内に流動性給餌物104と固体性給餌物105とを混ぜた給餌物103を収容して構成した。これにより、タコ用給餌物体100は、ケーシング101の内壁面に流動性給餌物104が接触した状態で収容されるため、タコOがタコ用給餌物体100におけるケーシング101を破って食べ始めた際にタコOの口Mに最初に流動性給餌物104が入り易くなってタコOの食欲を増進させることができる。しかし、タコ用給餌物体100は、ケーシング101内において、流動性給餌物104と固体性給餌物105と分けて収容することもできる。
【0087】
例えば、タコ用給餌物体100は、ケーシング101内における外側に固体性給餌物105を配置するとともに、この固体性給餌物105の内側に流動性給餌物104を配置して流動性給餌物104がケーシング101の内壁面に接触しないように構成することができる。これによれば、タコ用給餌物体100は、タコ用給餌物体100の外表面の剛性を向上させることができる。また、タコ用給餌物体100は、棒状に形成されたケーシング101内における一方の端部側に流動性給餌物104を配置するとともに他方の端部側に固体性給餌物105を配置するなどケーシング101内において流動性給餌物104と固体性給餌物105とを偏在させることもできる。これによれば、タコ用給餌物体100は、水中での沈降時または浮遊時における姿勢を規定することができる。
【0088】
また、上記実施形態においては、給餌物103は、流動性給餌物104をタコOの餌で構成するとともに固体性給餌物105をタコOの餌と栄養補助剤とで構成した。しかし、流動性給餌物104および固体性給餌物105は、タコOの餌、薬剤および栄養補助剤のうちの少なくとも一つで構成することができる。この場合、給餌物103は、薬剤を含むことでタコOの治療を行うことができる。この場合、給餌物103は、薬剤単体で構成する場合と比べて薬剤とタコOの餌とをそれぞれ含んだ状態で構成することでタコOに効果的に投薬することができる。すなわち、給餌物103は、流動性給餌物104および固体性給餌物105のうちの一方を薬剤を含んで構成するとともに、他方をタコOが好んで食べるもので構成するとよい。
【0089】
また、上記実施形態においては、タコ用給餌物体100は、水中で沈む沈性で構成した。これにより、タコ用給餌物体100は、底棲性であるタコOに対して一早くタコ用給餌物体100を供給することができる。しかし、タコ用給餌物体100は、水中で浮く不沈性で構成することもできる。これによれば、タコ用給餌物体100は、水底または穴内に潜むタコOを水面付近までおびき寄せて捕獲または観察することができるとともに食べ残したタコ用給餌物体100を容易に回収することができる。
【0090】
また、上記実施形態においては、ケーシング101は、糸状または紐状の閉じ具102で閉塞するように構成した。しかし、ケーシング101は、接着剤、カシメ、溶着または縫合などの手法を用いて閉塞することもできる。
【0091】
また、本発明者らによる実験によれば、タコOがタコ用給餌物体100を摂食する際においては、タコOがケーシング101内に消化酵素を注入して給餌物103を摂食していることを確認した。すなわち、タコ用給餌物体100によれば、タコOに給餌物103を軟化させて食べさせることで給餌物103を食べ易くしてまたは摂食時間を短くして摂食効率を向上させることができる。したがって、タコ用給餌物体100は、給餌物103として甲羅等で覆われている可食部(身または内蔵の部分)は当然、本来的に甲羅等で覆われていない可食部(例えば、イカまたは魚などの身または内蔵)、非可食部が一体的に付随する可食部(例えば、骨の付いた身または内蔵)、更には、人工飼料(例えば、硬質な固体状の飼料)を給餌物103としてケーシング101内に封入することで摂食効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0092】
O…タコ、A…腕、M…タコの口、K…タコの吸盤、KC…タコの口の周りに形成されている吸盤を通る仮想円、
100…タコ用給餌物体、
101…ケーシング、102…閉じ具、103…給餌物、104…流動性給餌物、105…固体性給餌物。
図1
図2
図3
図4
図5