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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109166
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】酸化物の製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
C23C16/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008114
(22)【出願日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2022009874
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊介
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA09
4K030AA14
4K030BA10
4K030BA20
4K030BA42
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA04
4K030EA06
4K030FA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA16
4K030JA18
4K030JA20
(57)【要約】
【課題】カーボンフリーの酸化物を効率よく製造する方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の酸化物製造方法は、荷電粒子線誘起蒸着法により、基材の表面で酸化物を製造する方法であって、酸素元素を含むプラズマガスの存在下、基材の表面に滞留させた、酸化物の前駆体からなる前駆体ガスに、荷電粒子線を照射する工程を備える。本発明の酸化物製造装置1は、その内部で基材3の表面に酸化物が作製されるチャンバー11と、前駆体ガス5をチャンバー11の内部に供給する前駆体ガス供給部13と、プラズマガス7をチャンバー11の内部に供給するプラズマガス供給部15と、チャンバー11内に載置した基材3の表面に滞留する前駆体ガス5に荷電粒子線を放射する線源17とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線誘起蒸着法により、基材の表面で酸化物を製造する方法であって、
酸素元素を含むプラズマガスの存在下、前記基材の前記表面に滞留させた、前記酸化物の前駆体からなる前駆体ガスに、荷電粒子線を照射する工程を備えることを特徴とする酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマガスが、水、酸素、オゾン及び空気から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1に記載の酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体が、前記酸化物を構成する金属元素と、炭素元素とを含む化合物である請求項1又は2に記載の酸化物の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の酸化物の製造方法に用いる製造装置であって、
その内部に基材が載置され、該基材の表面に酸化物が作製されるチャンバーと、
前記酸化物の前駆体からなるガスを、前記チャンバーの内部に供給する前駆体ガス供給部と、
酸素元素を含むプラズマガスを、前記チャンバーの内部に供給するプラズマガス供給部と、
前記チャンバー内に載置した前記基材の表面に滞留する前駆体ガスに荷電粒子線を放射する線源と、
を備えることを特徴とする酸化物製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線誘起蒸着法によりカーボンフリーの酸化物を製造する方法、及び、この方法に用いる製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線誘起蒸着法は、目的の無機材料を構成することとなる金属元素を含む前駆体のガスを基板の表面に滞留させ、そこへ、収束させた電子線等の荷電粒子線を照射することにより前駆体ガスを分解させて基板上に、金属、無機化合物等の無機材料を蒸着させる方法である。
金属元素を含む前駆体として、有機金属化合物が広く使用されるが、この場合には、得られる蒸着膜に炭素成分(以下、「カーボン」という)が含まれる不具合があることが知られていた。そこで、例えば、非特許文献1~6には、電子線誘起蒸着の際に、HOアシスト又はレーザーアシストの利用、あるいは、基板を加熱しておく等の措置がとられていた。また、特許文献1には、櫛状のPt/Ti電極が形成されたSiO基板の該電極表面にMoOを形成するために、製造装置内の真空度を2×10-6Pa以下に調整した状態で、基板上に、前駆体ガスとしてのMo(CO)ガスと、酸素ガスとを導入して、基板に向けて電子線を照射し、カーボンがほとんど含有されないMoO0.4が得られたものの、酸化物の酸素不足のために、更に、空気中、300℃で2時間熱処理して、MoO0.8に酸化させたことが記載されている。
更に、非特許文献7には、水素-アルゴンのマイクロプラズマジェットと、前駆体であるCu(OH)とを共注入する集束電子ビーム誘起蒸着法を適用したものの、カーボン含有量の大幅な削減は認められなかったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-80852号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Shimojo, et al., Nanotechnology 17, 3637-3640, (2006)
【非特許文献2】M. M. Shawrav, et al., Scientific reports 6, 34003, (2016)
【非特許文献3】N. A. Roberts, et al., Nanoscale 5, 408-415, (2013)
【非特許文献4】R. Cordoba, et al., Microelectron. Eng. 87, 1550-1553, (2010)
【非特許文献5】J. J. Mulders, et al., Nanotechnology 22, 055302, (2011)
【非特許文献6】A. V. Riazanova, et al., Langmuir 28, 6185-6191, (2012)
【非特許文献7】H. Miyazoe, et al., J. Vac. Sci. Technol. B 28(4), 744-750, (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、電子線誘起蒸着を行う際に、チャンバー内の真空度を2×10-6Pa以下の高真空にする必要があり、経済的ではなかった。また、MoOの製造において、電子線誘起蒸着により得られたMoO0.4が酸素不足であったため、更に熱処理を行ってMoO0.8としており、結果として多工程を要することとなった。一方、非特許文献6では、低真空で電子線誘起蒸着法を行ったものの、微量のカーボンが含まれたため、加熱処理を行ってカーボンを除去しており、カーボンフリーの目的物が得られるまでに多工程を要し、やはり経済的ではなかった。
本発明の目的は、カーボンフリーの酸化物を効率よく製造する方法及びその製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、酸素元素を含むプラズマガスの存在下、製造しようとする酸化物の前駆体からなる前駆体ガスを基材の表面に滞留させて、該前駆体ガスに、荷電粒子線を照射すると、基材の表面でカーボンフリーの酸化物が効率よく製造されるという知見を得た。
本発明は、以下に示される。
(1)荷電粒子線誘起蒸着法により、基材の表面で酸化物を製造する方法であって、
酸素元素を含むプラズマガスの存在下、基材の表面に滞留させた、酸化物の前駆体からなる前駆体ガスに、荷電粒子線を照射する工程(以下、「荷電粒子線照射工程」という)を備えることを特徴とする酸化物の製造方法。
(2)上記プラズマガスが、水、酸素、オゾン及び空気から選ばれた少なくとも1種からなる上記(1)に記載の酸化物の製造方法。
(3)上記前駆体が、上記酸化物を構成する金属元素と、炭素元素とを含む化合物である上記(1)又は(2)に記載の酸化物の製造方法。
(4)上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の酸化物の製造方法に用いる製造装置であって、
その内部に基材が載置され、該基材の表面に酸化物が作製されるチャンバーと、上記酸化物の前駆体からなるガスを、チャンバーの内部に供給する前駆体ガス供給部と、酸素元素を含むプラズマガスを、チャンバーの内部に供給するプラズマガス供給部と、チャンバー内に載置した上記基材の表面に滞留する前駆体ガスに荷電粒子線を放射する線源とを備えることを特徴とする酸化物製造装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸化物製造方法は、酸素元素を含むプラズマガスの存在下、基材の表面に滞留させた、酸化物の前駆体からなる前駆体ガスに、荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射工程を備える方法であり、その後、他の工程を必要としなくても、この荷電粒子線照射工程のみにより、カーボンフリーの所望の酸化物を効率よく製造することができる。
本発明の酸化物製造装置によれば、カーボンフリーの所望の酸化物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の酸化物製造装置の一例を示す概略図である。
図2】実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物の断面を表すものであり、(a)は走査透過電子顕微鏡(STEM)画像であり、(b)及び(c)は、それぞれ、電子エネルギー損失分光法(EELS)による、炭素原子及びハフニウム原子に係るマッピング画像である。
図3】実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物の酸化ハフニウム膜におけるEELSスペクトルであり、(A)は、炭素-K吸収端及び酸素-K吸収端が検出される領域のスペクトルであり、(B)は、ハフニウム-M吸収端が検出される領域のスペクトルである。
図4】実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物の断面の、STEMによる環状暗視野像である。
図5】実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物の表面の、走査電子顕微鏡(SEM)による二次電子像である。
図6】参考例1で得られた酸化ハフニウム積層物の断面を示すSTEM画像である。
図7】実施例2及び比較例3で得られた各酸化タングステン堆積物の表面の、SEMによる二次電子像である。
図8】実施例2、比較例2及び3で得られた各酸化タングステン堆積物の酸化タングステン膜におけるEELSスペクトルであり、(A)は、炭素-K吸収端及び酸素-K吸収端が検出される領域のスペクトルであり、(B)は、タングステン-M吸収端が検出される領域のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における酸化物の製造方法(以下、「酸化物製造方法」という)は、荷電粒子線誘起蒸着法により、基材の表面で、酸化物を製造する方法であり、酸素元素を含むプラズマガスの存在下、基材の表面に滞留させた、酸化物の前駆体からなる前駆体ガスに、荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射工程を備える。本発明の酸化物製造方法によると、荷電粒子線照射工程のみにより、カーボンフリーの酸化物を製造することができるが、この荷電粒子線照射工程の後、必要に応じて、他の工程(各種雰囲気(酸化雰囲気、還元雰囲気等)における熱処理工程、各種の酸又はアルカリを用いた処理液接触工程、各種エネルギー線を用いたエッチング工程等)を備えることができる。
【0010】
上記のように、荷電粒子線誘起蒸着法は、基材の表面に、目的の酸化物を構成することとなる金属元素を含む前駆体のガス(前駆体ガス)を滞留させ、そこへ、荷電粒子線を照射することにより前駆体ガスを分解させて基材の表面で酸化物を作製する方法である。本発明においては、酸素元素を含むプラズマガスの存在下、前駆体ガスに荷電粒子線を照射するため、カーボンフリーの酸化物を効率よく製造することができる。本発明に係る荷電粒子線としては、電子線;B、C、Al、Si、Cu、Ag、Au、Ar、N、O、Ge、H、Cs、P、Ga、As、Er、Eu、Sm、Nd、Sb、Sn、In、Br、Be、Ca、Cl、Cr、Cd、Fe、F、I、K、Li、Na、Mg、Pd、Pt、S、Se、Ti、Te、V、W、Zn、He、Kr、Ne若しくはXe元素のイオン又は該元素を少なくとも一つ含む分子のイオン等を用いることができる。これらのうち、電子線が好ましい。
【0011】
本発明の酸化物製造方法で用いる基材は、荷電粒子線により材料の変質若しくは分解又は損傷を引き起こさないものであれば、その構成材料又は構造が限定されるものではない。好ましい材料は無機材料であり、製造しようとする酸化物と同一であってよいし、異なってもよい。好ましい構成材料は、Si、GaN、SrTiO、Ga、SiO、Al等である。
また、基材の構造は、中実体、凹凸を有する物体、多孔体等のいずれでもよい。
【0012】
製造原料である前駆体は、所望の酸化物を構成する金属元素(例えば、Hf、Zr、Al、Ti、Co、W、Mo、Ba、Nb、Pb、Mg、Mn、Ta、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、B、Si、Ge、Sr、La、Y、Ir、Pt、Au、Pd、Rh、Ru、In、Sn、Bi、Y、Ce、Pr、Eu、Er、Yb、Lu、Dy等)を含み、気化可能な化合物である。
具体的には、テトラ-tert-ブトキシハフニウム、HfCl、Hf[N(CH]、テトラキスジメチルアミノハフニウム、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム、ZrCl、テトラ-tert-ブトキシジルコニウム、テトラキスエチルメチルアミノジルコニウム、テトラジメチルアミノジルコニウム、AlCl、TiCl、テトラキスエチルメチルアミノチタン、テトラ-tert-ブトキシチタン、W(CO)、WCl、WCl、NbCl、NbF、Mo(CO)、MoOCl、MoCl、MoF、シクロペンタジエニルマンガントリカルボニル、Fe(CO)、Cr(CO)、ビス(シクロペンタジエニル)クロム、Co(CO)、Co(CO)、AuCl(PF)、Au(CH、(CHAuC、(CHAuCH、CPt(CH、C(CH)Pt(CH、ZrCl、B(OCH、P(OCH、B(OC、Si(OC、PO(OCH、PO(OC、SiH[N(CH、Zr[N(C)CH、Ta(N-t-C11)[N(CH、Ta(N-t-C)[N(C)CH等が挙げられる。
【0013】
用いる前駆体ガスは、所望の酸化物の構成に合わせて、1種又は2種以上とすることができる。基材の表面に前駆体ガスを滞留させる際に2種以上の前駆体ガスを用いる場合、各前駆体ガスを別々に用いる方法、及び、全ての前駆体ガスからなる混合ガスを用いる方法のいずれを適用してもよい。尚、「前駆体ガスを基材の表面に滞留させる」とは、前駆体ガスを基材に接触(吸着)させること、及び、前駆体ガスが基材に接触しないが基材に接近した状態にすること、の少なくとも一方を意味する。
【0014】
本発明では、カーボンフリーの酸化物を、基材の表面で製造するため、荷電粒子線照射工程において、酸素元素を含むプラズマガス、具体的には、原子状酸素のラジカルを含むプラズマガスの存在下、前駆体ガスに荷電粒子線を照射する。原子状酸素のラジカルは、不安定な状態にあるため、酸化還元反応によって、エネルギー的に他の原子又は分子と結合して安定化しようとする。本発明では、酸素元素を含むプラズマガスの存在下、基材表面に滞留する前駆体ガスに荷電粒子線を照射して、前駆体に由来する物質が形成された場合に、例えば、CO、CO等の副生成物とすることができる。
上記プラズマガスとしては、水、酸素、オゾン及び空気から選ばれた少なくとも1種により形成されたものが好ましい。
【0015】
荷電粒子線照射工程において、基材の表面に前駆体ガスを滞留させる一方、プラズマガスの配置場所は、特に限定されない。即ち、プラズマガスを、前駆体ガスとともに基材の表面に滞留させてもよいし、基材の表面に滞留させる前駆体ガスの存在領域の周りに存在させてもよい。尚、用いる前駆体ガス及びプラズマガスの使用比率は、特に限定されないが、両者の合計体積を100体積%とした場合、前駆体ガス及びプラズマガスの使用量は、それぞれ、好ましくは0.01~50体積%及び50~99.99体積%、より好ましくは0.1~10体積%及び90~99.9体積%である。
【0016】
荷電粒子線照射工程において、基材表面に滞留する前駆体ガスに電子線を照射する場合、電界放出型電子銃、ショットキー電子銃、熱電子銃等を用いることができる。
電子線の照射条件は、特に限定されない。加速電圧は、好ましくは0.1~30kV、より好ましくは1~10kVである。
また、荷電粒子線照射時において、基材及び前駆体ガスを加熱してもしなくてもよいが、酸化物の収率の観点から、これらの温度は、好ましくは30℃~400℃、より好ましくは30℃~120℃である。
【0017】
酸化物を大量に製造する場合、前駆体ガス及びプラズマガスのうちの少なくとも前駆体ガスを連続的に又は間欠的に基材表面に供給することが好ましい。そして、荷電粒子線をスキャンさせながら照射する方法、又は、基材を移動させながら、光路を固定した荷電粒子線を照射する方法を適用することができる。
【0018】
荷電粒子線照射工程において、前駆体ガス及びプラズマガスを用いることから、基材を載置した密閉空間にプラズマガスを存在させ、基材の表面に前駆体ガスを滞留させて荷電粒子線を照射する装置を用いることが好ましい。このような装置を用いて、前駆体ガスに荷電粒子線を照射すると、所望の酸化物が製造されるものの、前駆体に由来する物質が形成されることがある。本発明では、プラズマガスの存在下、荷電粒子線を照射するため、前駆体に由来する物質をプラズマガスの成分と反応させて、例えば、CO、CO等の副生成物とすることができる。このような副生成物が酸化物に混在することを確実に防ぐため、密閉空間を減圧条件として、副生成物を排出(除去)することが好ましい。この場合、密閉空間の真空度は、好ましくは1×10-8~10Pa、より好ましくは1×10-6~1×10-1Paである。このような条件で酸化物を製造する場合、プラズマガス及び前駆体ガスを供給前の密閉空間の圧力に対して、プラズマガス及び前駆体ガスは、それぞれ、好ましくは0.001~500000倍及び0.00001~10000倍、より好ましくは1~1000倍及び1~1000倍高い圧力となるように導入することが好ましい。
【0019】
本発明の酸化物製造方法により得られた酸化物は、カーボンフリーの高純度物質であり、各種の元素分析機器(電子エネルギー損失分光法等)により炭素分析をした場合に、検出限界を超える等により、炭素元素が検出されない。
【0020】
本発明の酸化物製造装置は、上記本発明の酸化物製造方法で用いる装置、具体的には、荷電粒子線照射工程を反映する装置であり、例えば、図1に示される構成を有する。
図1の酸化物製造装置1は、その内部に基材3が載置され、該基材3の表面に酸化物が作製されるチャンバー11と、酸化物の前駆体からなる前駆体ガス5を、チャンバー11の内部に供給する前駆体ガス供給部13と、酸素元素を含むプラズマガス7を、チャンバー11の内部に供給するプラズマガス供給部15と、基材3の表面に滞留する前駆体ガス5に荷電粒子線を放射する線源17とを備える。
尚、図1は、本発明において好ましい態様を示し、チャンバー11の内部を減圧条件とする真空ポンプ19を備える。即ち、図1の酸化物製造装置1は、チャンバー11に連絡された真空ポンプ19を備える。前駆体ガス5に荷電粒子線が照射されると、所望の酸化物だけでなく、前駆体ガス5に由来する副生成物9が生じることがあるので、前駆体が炭素原子を含む化合物である場合、副生成物9は、炭素化合物を含むことがある。そこで、真空ポンプ19を駆動させると、このような副生成物9を排除(排気)することができ、カーボンフリーの酸化物を確実に得ることができる。
【0021】
前駆体ガス供給部13は、酸化物の製造原料となる前駆体ガス5を、チャンバー11の内部に供給する。
図1の前駆体ガス供給部13は、本発明において好ましい態様を示し、前駆体収容部(図1中、符号なし)に収容された前駆体14を気化させ、作製された前駆体ガス5を、配管(図1中、符号なし)を通し、配管の先端からチャンバー11の内部に供給する。配管の先端は、ノズル形状とすることができる。また、前駆体ガス供給部13は、ガス量の調整又は管理を行うための流量計、加熱手段等を備えてもよい(図示せず)。
本発明の酸化物製造装置における前駆体ガス供給部の数は、特に限定されず、製造しようとする酸化物の構成に従って1又は2以上とすることができる。
【0022】
プラズマガス供給部15は、酸素元素を含むプラズマガス7を、チャンバー11の内部に供給する。
プラズマガス供給部15は、通常、プラズマ発生装置(図示せず)により作製されたプラズマガスをチャンバー11の内部に供給する。プラズマガスの供給手段は、ノズル等によるものとすることができるが、特に限定されない。また、前駆体ガス供給部13は、基材3の表面に前駆体ガス5が滞留するように供給するために、配管の先端の向きが調整されるが、プラズマガス供給部15は、チャンバー11の内部全体にプラズマガスが充満するように供給する構造のプラズマガス供給口を有することが好ましい。
本発明の酸化物製造装置におけるプラズマガス供給部の数は、特に限定されず、1又は2以上とすることができる。
【0023】
ここで、プラズマ発生装置は、通常、プラズマガス源、即ち、原料ガス貯蔵部(図示せず)から供給された原料ガス(酸素元素含有ガス)に対して、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)、容量結合プラズマ(CCP)、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECRP)、ヘリコン波プラズマ(HP)、表面波プラズマ(SWP)、マイクロ波プラズマ等を利用したプラズマ発生装置とすることができる。これらのうち、3~100MHzの周波数領域のRFプラズマであって、原子状酸素のラジカルを含むプラズマガスを効率よく発生させる、誘導結合プラズマ(ICP)、容量結合プラズマ(CCP)等を利用するRFプラズマ発生装置が好ましい。
【0024】
線源17は、荷電粒子線を放射するものであれば、特に限定されない。荷電粒子線が電子線の場合、例えば、電界放出型電子銃、ショットキー電子銃、熱電子銃等を用いることができる。これらのうち、所望の構成を有する酸化物が容易に得られることから、電界放出型電子銃が好ましい。また、B、C、Al、Si、Cu、Ag、Au、Ar、N、O、Ge、H、Cs、P、Ga、As、Er、Eu、Sm、Nd、Sb、Sn、In、Br、Be、Ca、Cl、Cr、Cd、Fe、F、I、K、Li、Na、Mg、Pd、Pt、S、Se、Ti、Te、V、W、Zn、He、Kr、Ne若しくはXe元素のイオン又は該元素を少なくとも一つ含む分子のイオンからなる荷電粒子線を用いる場合には、イオン銃を用いることができる。
【0025】
本発明の酸化物製造装置は、上記の真空ポンプ19に加えて、更に、基材3に対して荷電粒子線の入射角若しくは照射位置を変更又は調整する基材位置調整手段、チャンバー11の内部の温度又は基材の温度を調整する温度調整手段、レーザー照射手段、各種ガスアシスト手段等を備えることができる(いずれも図示せず)。
本発明の酸化物製造装置は、電子顕微鏡を改良して構成されたものであってもよい。
【実施例0026】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0027】
1.製造装置
日立ハイテクノロジーズ社製卓上顕微鏡「Miniscope TM4000」(型式名)に、そのチャンバー内に前駆体ガスを供給する前駆体ガス供給部、及び、プラズマガスを供給するプラズマガス供給部、並びに、真空ポンプを配設した酸化物製造装置を用いた。
図1は、この酸化物製造装置の概略図であり、シリコン板(サイズ:5mm×5mm×0.5mm、以下、「Si基板」という)からなる基材3の表面で、前駆体から酸化物を合成、堆積させる装置である。図1の製造装置1は、基材3に向けて前駆体ガス5を供給する前駆体ガス供給部13と、卓上顕微鏡のチャンバー11内を満たすためにプラズマガス7を供給するプラズマガス供給部15と、真空ポンプ19とを備える。尚、電子銃17は、卓上顕微鏡に備えられている。また、前駆体ガス5は、前駆体ガス供給部13において、前駆体14を蒸発させて調製した。
【0028】
2.酸化物の製造例
以下、酸化ハフニウム及び酸化タングステンの製造例を示す。
【0029】
実施例1(酸化ハフニウムの製造)
真空度が2×10-3Paのチャンバー内に、13.56MHzにおけるRF出力40Wで発生させた空気からなるプラズマガスを供給し、チャンバー内を満たしたところに、35℃で揮発させてなる、テトラ-tert-ブトキシハフニウム(Hf(O-tert-C)からなる前駆体ガスを、内径0.25mmのノズルを用いて、25℃のSi基板の表面に向けて供給した。ノズル及びSi基板の角度は30°であり、ノズルとSi基板との距離は1.4mmである。前駆体ガス供給後のチャンバー内の真空度は8×10-1Paであった。
尚、プラズマガスのみ、及び、前駆体ガスのみをチャンバー内に供給した後の真空度は、それぞれ、8×10-1Pa、及び、2×10-2Paであった。
次に、前駆体ガスが滞留するSi基板の表面に向けて、電子線を、加速電圧5kV及びワーキングディスタンス7mmで照射した。このとき、電子線を3.3μsec/pixelで3分間スキャンさせ、Si基板表面の7μm×3μmの領域に、厚さ150nmの酸化ハフニウム堆積物を形成させた(図2図5参照)。
【0030】
比較例1(酸化ハフニウムの製造)
プラズマガスを不使用とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、酸化ハフニウム堆積物を形成させた(図2図5参照)。
【0031】
図2は、実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物の、走査透過電子顕微鏡による断面画像(a)、並びに、電子エネルギー損失分光法により取得したマッピング画像(炭素原子(b)及びハフニウム原子(c))である。これらの撮影に際しては、予め、酸化ハフニウム膜の表面にカーボン保護層を施した。この図2のマッピング画像(b)によると、酸化ハフニウム膜においてカーボンのシグナルが確認されず、得られた酸化ハフニウム堆積物に不純物が含まれないことが分かる。
【0032】
図3は、図2において「HfO」で示した部分(酸化ハフニウム膜)の内部に対して電子エネルギー損失分光測定して得られたスペクトル(EELSスペクトル)である。この図3の(A)によると、比較例1では、炭素-K吸収端が検出されているため、形成された酸化ハフニウム堆積物は、カーボンを含有することが明らかである。一方、実施例1では、炭素-K吸収端が検出されないため、カーボンを含まないことが明らかである。尚、図3の(B)から明らかなように、実施例1及び比較例1のいずれにおいても、Hf-M,M吸収端が検出された。
更に、電子エネルギー損失分光法による各酸化ハフニウム膜の組成分析結果は、下記の表1に示される。
【表1】
【0033】
図4は、実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物断面の、走査透過電子顕微鏡による環状暗視野(ADF)像である。この図4における実施例1の画像と、比較例1の画像とを比べると、後者の酸化ハフニウム堆積物は、暗いコントラストを有することから、上記のように検出された炭素が含まれていると考えられる。
更に、図5は、実施例1及び比較例1で得られた各酸化ハフニウム堆積物表面の、走査電子顕微鏡による二次電子像である。この図5における実施例1の画像と、比較例1の画像とを比べると、後者の酸化ハフニウム膜は、暗いコントラストを有することから、上記のように検出された炭素が含まれていると考えられる。
【0034】
参考例1(酸化ハフニウム積層物の製造)
実施例1の操作及び比較例1の操作をこの順に行って、Si基板の表面に、カーボンフリーのHfO膜及び炭素含有HfO膜が、順次、形成されてなる酸化ハフニウム積層物を得た(図6参照)。
図6は、得られた酸化ハフニウム積層物断面の、走査透過電子顕微鏡による環状暗視野(ADF)像であり、Si基板の表面に、明るいコントラストを有するHfO膜(カーボンフリーのHfOからなる膜)及び暗いコントラストを有する炭素含有HfO膜が観察された。
【0035】
実施例2(酸化タングステンの製造)
真空度が8×10-4Paのチャンバー内に、13.56MHzにおけるRF出力45Wで発生させた空気からなるプラズマガスを供給し、チャンバー内を満たしたところに、60℃で揮発させてなる、ヘキサカルボニルタングステン(W(CO))からなる前駆体ガスを、内径0.25mmのノズルを用いて、25℃のSi基板の表面に向けて供給した。ノズル及びSi基板の角度は30°であり、ノズルとSi基板との距離は1.4mmである。前駆体ガス供給後のチャンバー内の真空度は4×10-1Paであった。
尚、プラズマガスのみ、及び、前駆体ガスのみをチャンバー内に供給した後の真空度は、それぞれ、4×10-1Pa、及び、2×10-3Paであった。
次に、前駆体ガスが滞留するSi基板の表面に向けて、電子線を、加速電圧5kV及びワーキングディスタンス7mmで照射した。このとき、電子線を50μsec/pixelで20分間スキャンさせ、Si基板表面の5μm×3.5μmの領域に、酸化タングステン堆積物を形成させた(図7参照)。
【0036】
比較例2(酸化タングステンの製造)
プラズマガスを不使用とした以外は、実施例2と同様の操作を行って、酸化タングステン堆積物を形成させた。
【0037】
比較例3(酸化タングステンの製造)
空気に代えて窒素ガスを用い、そのプラズマガスを供給した以外は、実施例2と同様の操作を行って、酸化タングステン堆積物を形成させた(図7参照)。
【0038】
図7は、実施例2及び比較例2で得られた各酸化タングステン堆積物表面の、走査電子顕微鏡による二次電子像である。この図7における実施例2の画像と、比較例2の画像とを比べると、後者の酸化タングステン膜は、暗いコントラストを有することが明らかである。
【0039】
図8は、実施例2、比較例2及び3で得られた各酸化タングステン堆積物表面の酸化タングステン膜の内部に対して電子エネルギー損失分光測定して得られたスペクトル(EELSスペクトル)である。この図8の(A)によると、比較例2及び3では、炭素-K吸収端が検出されているため、形成された酸化タングステン堆積物は、カーボンを含有することが明らかである。一方、実施例2では、炭素-K吸収端が検出されないため、カーボンを含まないことが明らかである。尚、図8の(B)から明らかなように、実施例2、比較例2及び3のいずれにおいても、W-M,M吸収端が検出された。
更に、電子エネルギー損失分光法による各酸化タングステン膜の組成分析結果は、下記の表2に示される。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の酸化物製造方法及び酸化物製造装置により、カーボンフリーの高純度酸化物を得ることができる。本発明では、電子線等の荷電粒子線を用いることから、その照射方法を改良して、微細なパターン、薄膜、造形物等を作製することができ、あるいは、互いに異なる材料どうしを積み上げて複合化させることもできる。従って、本発明は、例えば、電子部品、電池材料、触媒材料、コーティング材料等の製造に好適に利用される。
【符号の説明】
【0041】
1:酸化物製造装置
3:基材
5:前駆体ガス
7:プラズマガス
9:副生成物
11:チャンバー
13:前駆体ガス供給部
14:前駆体
15:プラズマガス供給部
17:線源
19:真空ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8