(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109174
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸含有点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/728 20060101AFI20230731BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20230731BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230731BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230731BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230731BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230731BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
A61K31/728
A61P27/04
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009095
(22)【出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2022010130
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390031093
【氏名又は名称】テイカ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 研二
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22D
4C076DD22Q
4C076DD22R
4C076DD22Z
4C076DD38G
4C076DD43G
4C076DD48R
4C086AA01
4C086EA25
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA03
4C086NA10
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する点眼剤の粘度低下、好ましくは経時による粘度低下の抑制を課題とする。
【解決手段】ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の当該粘度低下を、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩とプロピレングリコールと、さらに、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩を組み合わせることによって、上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)点眼剤全体に対して、0.1%(w/v)又は0.3%(w/v)のヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩、
(b)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩、
(c)プロピレングリコール、
(d)クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩及び
(e)ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩
を含有する、ヒアルロン酸の粘度低下抑制用点眼剤。
【請求項2】
クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩が、クエン酸ナトリウム又はその水和物である、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
0.1%(w/v)のヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項4】
点眼剤全体に対して、0.3~0.9%(w/v)のクエン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項5】
点眼剤全体に対して、0.05~0.5%(w/v)のプロピレングリコールを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項6】
浸透圧比が0.8~1.2である、請求項1~4のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項7】
pHが6.5~7.5である、請求項1~4のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項8】
クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩及びプロピレングリコールと、さらに、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩により、ヒアルロン酸又はその塩を含有する点眼剤において、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の粘度低下を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸含有点眼剤の粘度低下抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、分子内に多数の水分子保持機能があり、涙を保持し安定させて、目の乾燥を防ぐ作用を有するため、角膜上皮障害治療用の点眼剤等に用いられる。しかしながら、ヒアルロン酸は、点眼液中で分解し易く、経時により粘度が低下することがある。ヒアルロン酸の粘度が低下すると、十分な薬理効果が得られないため、点眼剤におけるヒアルロン酸の粘度低下を効果的に抑制する方法が求められている。
【0003】
現在、角膜上皮障害の治療に使用されているヒアルロン酸含有点眼剤のヒアルロン酸の濃度は0.1w/v%及び0.3w/v%であり、第十八改正日本薬局方に「精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液」として記載されている。日本薬局方には動粘度の規格が記載されており、ヒアルロン酸ナトリウムを点眼剤として含有する場合、動粘度は記載の規格の範囲内でなくてはならない。
【0004】
ヒアルロン酸塩の粘度低下を抑制した点眼剤として、グリセリンやプロピレングリコール等のポリオール及びリン酸系緩衝液を含有する点眼液(特許文献1)やホウ酸を含有する点眼液が知られている(特許文献2)。しかしながら、これらの点眼剤は、粘度低下を抑制するものの、調整時の粘度は上昇しており、日本薬局方の規格範囲を超えているため、医薬品としての規格に適合しない。
【0005】
これまでに、ヒアルロン酸含有点眼剤において、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩とプロピレングリコールを含有する点眼剤は知られておらず、しかも、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩を加えることで点眼剤調整時の粘度上昇を抑えられること、特に、好ましい浸透圧比を有する点眼剤の調整の際、極めて効果的にヒアルロン酸又はその塩の粘度低下を抑制出来ることなどは全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-72376号公報
【特許文献2】特開平11-43446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の粘度低下抑制用点眼剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の粘度低下、好ましくは経時による粘度低下を、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩とプロピレングリコールの組み合わせによって、効果的に抑制出来ることを見出した。さらに、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩を加えることで調整時の粘度上昇を抑えられること、特に、好ましい浸透圧比を有する点眼剤の調整の際、極めて効果的に粘度低下を抑制出来ることを見出した。本発明者らは、上記知見に基づき、更に研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]~[8]に関する。
[1](a)点眼剤全体に対して、0.1%(w/v)又は0.3%(w/v)のヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩、
(b)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩、
(c)プロピレングリコール、
(d)クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩及び
(e)ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩
を含有する、ヒアルロン酸の粘度低下抑制用点眼剤。
[2]クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩が、クエン酸ナトリウム又はその水和物である、前記[1]に記載の点眼剤。
[3]0.1%(w/v)のヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する、前記[1]又は[2]に記載の点眼剤。
[4]点眼剤全体に対して、0.3~0.9%(w/v)のクエン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載の点眼剤。
[5]点眼剤全体に対して、0.05~0.5%(w/v)のプロピレングリコールを含有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載の点眼剤。
[6]浸透圧比が0.8~1.2である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の点眼剤。
[7]pHが6.5~7.5である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の点眼剤。
[8]クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩及びプロピレングリコールと、さらに、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩により、ヒアルロン酸又はその塩を含有する点眼剤において、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の粘度低下を抑制する方法。
[9]前記[1]~[7]のいずれかに記載の点眼剤が、電子線又はガスで滅菌処理された保存容器に収容されている、医薬品。
[10]前記ガスが、過酸化水素ガス又は酸化エチレンガスである、前記[9]に記載の医薬品。
[11]前記保存容器が、ポリオレフィン又はPETである、前記[9]又は[10]に記載の医薬品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する点眼剤において、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の粘度低下を抑制することができる。さらに、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩とプロピレングリコールを含むヒアルロン酸含有点眼剤において、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩を加えることで、極めて効果的に粘度低下を抑制出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩]
本発明におけるヒアルロン酸は、点眼剤として使用され得るヒアルロン酸であればよい。ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩は、1種又は2種以上を使用することができる。このようなヒアルロン酸の薬学的に許容可能な塩の例としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等が好ましく挙げられ、ヒアルロン酸ナトリウムがより好ましいが、これらに限定されない。
【0012】
ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の質量平均分子量は、好ましくは、約30万~400万であり、より好ましくは約50万~120万であるが、これらに限定されない。
本発明の点眼剤において、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の配合量は、点眼剤全体に対して0.1w/v%又は0.3w/v%である。好ましくは、0.1w/v%であり、別の好ましい例としては、0.3w/v%である。
【0013】
本発明のヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する点眼剤は、通常、角膜上皮障害の治療等に用いられるが、これらに限定されない。「治療」とは、症状又は疾患及び/又はその付随する症候を緩和し、又は治癒すること、及び緩和することを意味する。
また、「角膜上皮傷害」は、臨床上、欠損部位や病態所見等により細かく分類されるが、本明細書中では角膜上皮傷害と診断される疾患、コンタクトレンズの装用、薬剤性、外傷、手術等により一時的に角膜表面に生じた傷、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、ドライアイ等の眼の乾燥、紫外線やX線等の光線の曝露など、様々な外的要因により角膜上皮のバリア機能が損なわれることで生じる眼の不快症状が挙げられるが、これらに限定されない。不快症状の例としては、例えば、眼の不快感、眼の乾き、眼の痒みなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
[クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩]
本発明において、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩は、点眼剤の調整時の粘度を調整するために使用される。
本発明の点眼剤において、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩は、点眼剤全体に対して、約0.01~3.5w/v%であることが好ましく、点眼剤全体に対して、約0.2~1.0w/v%含有されることがより好ましく、点眼剤全体に対して、約0.6w/v%含有されることがより好ましいが、これらに限定されない。また、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩が水和物である場合、水和数は0~2であることが好ましく、さらに、二水和物であることが好ましいが、これらに限定されない。また、本発明において、クエン酸として、好ましくは、クエン酸水和物、無水クエン酸であるがこれらに限定されない。また、本発明において、クエン酸の薬学的に許容可能な塩として、好ましくは、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなどが挙げられ、好ましくは、クエン酸ナトリウム一水和物、クエン酸ナトリウム二水和物、クエン酸ナトリウムであるがこれらに限定されない。
【0015】
[プロピレングリコール]
本発明の点眼剤において、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩とプロピレングリコールは、点眼剤の粘度を調整するため、好ましくは、経時(好ましくは、約50~70度の過酷条件下で約1~2週間、より好ましくは、約60度の過酷条件下で約2週間などであって、これらに限定されない)による粘度低下を抑制するために使用される。
本発明の点眼剤において、プロピレングリコールは、点眼剤全体に対して、0.05~0.5w/v%であることが好ましく、点眼剤全体に対して、約0.2~0.4w/v%含有されることがより好ましく、点眼剤全体に対して、約0.3w/v%含有されることがより好ましいが、これらに限定されない。
なお、本発明において、プロピレングリコール以外の多価アルコール(例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、キシリトール、ジエチレングリコール、マンニトール、ソルビトール、ポリビニルアルコール等)がさらに含まれていてもよい。
【0016】
[ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩]
本発明の点眼剤において、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩の用途は、安定化剤、緩衝液、等張化剤、pH調整剤、防腐剤、保存剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明の点眼剤において、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩は、点眼剤全体に対して、約0.01~1.0w/v%であることが好ましく、点眼剤全体に対して、約0.02~0.3w/v%含有されることがより好ましいが、これらに限定されない。また、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩が水和物である場合、水和数は0~10であることが好ましく、さらに、十水和物であることが好ましいが、これらに限定されない。また、本発明において、ホウ酸の薬学的に許容可能な塩として、好ましくは、ホウ砂(Na2B4O7・10H2O(ホウ酸ナトリウムとも呼ばれる)、ホウ酸アンモニウムなどが挙げられ、より好ましくは、ホウ砂(ホウ酸ナトリウム)であるがこれらに限定されない。
【0017】
[クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩]
本発明において、クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩は、防腐剤として、点眼剤が一定の保存効力を有するために使用される。クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩は、1種又は2種以上を使用することができる。このような塩として、例えば、グルコン酸塩、塩酸塩、酢酸塩等が挙げられ、グルコン酸塩が好ましいが、これらに限定されない。
クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩の配合量は、製剤全体に対して0.0001~0.01w/v%であることが好ましい。より好ましくは、0.0005w/v%~0.01w/v%である。さらに好ましくは、0.0005w/v%~0.01w/v%未満であり、さらにより好ましくは0.001w/v%~0.01w/v%未満であり、特に好ましくは、0.0009~0.002w/v%である。クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩の配合量が前記範囲であると、点眼剤が、一定の保存効力を有するため、有用である。
【0018】
[緩衝液]
本発明において、好ましくは、ホウ酸系の緩衝液、好ましくは、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩が用いられる。ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩は、点眼剤として使用され得るものであればよい。本発明においては、ホウ酸として、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸の塩の1種又は2種以上を使用してもよいが、これらに限定されない。また、ホウ酸は水和物であってもよい。
【0019】
本発明においては、緩衝液はホウ酸とホウ酸の薬学的に許容可能な塩を併用することが好ましい。ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩の配合量が前記範囲であると、より効果的に、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の粘度低下を効果的に抑制することができる他、低刺激であるため使用感が良好となる。また、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩は、それ自体が防腐効果も有するので、例えば、クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩などの防腐剤の配合量を低減出来ることにより、細胞毒性を低く出来る利点があり、好ましい。
本発明においては、さらに、リン酸系の緩衝液が含まれていても良いが、含まれていないことが好ましい。このようなリン酸系の緩衝液としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられ、水和物も含まれるが、これらに限定されない。また、本発明においては、イプシロン-アミノカプロン酸が含まれないことが好ましい。
【0020】
本発明の点眼剤は、さらに、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩を含有することが好ましい。より好ましくは、ナトリウム塩及びカリウム塩を用いる。
ナトリウム塩として、塩化ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、塩化ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムであり、より好ましくは、塩化ナトリウムである。
カリウム塩としては、塩化カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。好ましくは、塩化カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウムであり、より好ましくは、塩化カリウムである。ナトリウム塩及び/又はカリウム塩は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
本発明において、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩が含まれる場合、等張化(浸透圧)調整に都合がよいという好ましい利点がある。
【0021】
本発明で用いる、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩、プロピレングリコール、クエン酸又はその薬学的に許容可能な塩、クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩、ホウ酸又はその薬学的に許容可能な塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等は、例えば、市販品などを容易に入手し、用いることができる。
【0022】
本発明の点眼剤は、さらに、pH調整剤として、希塩酸、硫酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の点眼剤には、上記成分の他に本発明の効果を損なわない範囲で、水等の基剤、他の有効成分や他の公知の添加剤(安定化剤、等張化剤、溶解補助剤、酸化防止剤、溶剤、可溶化剤、懸濁剤、着香剤・香料、清涼化剤、着色剤、界面活性剤、粘稠化剤)等を添加することができる。これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量配合することができる。
なお、基剤として点眼剤の製造に用いる水は、眼科用剤に使用可能な水であれば特に限定されず、例えば、精製水等を用いることができる。各成分の混合順序、混合方法等は特に限定されず、公知の調製法により各成分を水に溶解させればよい。
【0024】
本発明の点眼剤には、本発明の効果を奏する限り、クロルヘキシジン又はその薬学的に許容可能な塩以外の防腐剤が配合されていてもよい。また、エデト酸(EDTA)及びその薬学的に許容可能な塩は、眼への刺激があるので、本発明の点眼剤は、EDTA又はその薬学的に許容可能な塩を実質的に含有しないことが好ましい。
【0025】
[粘度(動粘度)低下の抑制]
本発明において、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩を含有する点眼剤の粘度(動粘度)は、日本薬局方(第十八改正)2.53 粘度測定法に記載の方法で測定することが出来る他、当分野で公知の方法で測定してもよい。
本発明の点眼剤の粘度は、例えば、上記の日本薬局方において、上記方法で測定した場合に、3.0~4.0mm2/s((a):ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の配合量が点眼剤全体に対して0.1w/v%の場合)又は17~30mm2/s((b):ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の配合量が点眼剤全体に対して0.3w/v%の場合))の範囲であることが規定されているので、この範囲内が好ましい。そして、(a)については、3.2~4.0mm2/sの範囲であることがより好ましく、3.5~4.0mm2/sの範囲であることがさらに好ましいが、これらに限定されない。(b)については、22~30mm2/sの範囲であることがより好ましく、25~29mm2/sの範囲であることがさらに好ましいが、これらに限定されない。
そして、本発明において、粘度低下の抑制が、好ましくは、例えば、50~70度程度の過酷試験の条件下において、1~2週間経過後に、もとの点眼剤の粘度に対して、5~30%程度低下が抑制されていること、より好ましくは、1~2週間経過後に、もとの点眼剤の粘度に対して、10~25%程度低下が抑制されていること、さらに好ましくは、約60度の過酷試験の条件下において、約2週間経過後に、もとの点眼剤の粘度に対して、20%程度低下が抑制されていることであるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の点眼剤は、浸透圧比が、0.8~1.2であることが好ましい。より好ましくは、約0.9~1.1であり、さらに好ましくは、約1である。浸透圧の測定は、日本薬局方(第十八改正)一般試験法 浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に記載の方法で測定することが出来る他、当分野で公知の方法で測定してもよい。
また、本発明の点眼剤は、pHが、約6~8であることが好ましい。より好ましくは、6.5~7.5であり、さらに好ましくは、約7.3~7.4である。
浸透圧比やpHの調整は、既述のpH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0027】
本発明の点眼剤は、通常、前記成分を含有する溶液が長期間の反復使用に適したマルチドーズ型点眼容器に収納される。容器の内容積は、通常5mL~20mL程度である。容器の形状、材質等は特に限定されず、通常、点眼剤に使用される保存容器を使用することができる。容器は、遮光である必要はないが、遮光容器であってもよい。容器は、滅菌されてなくても良いが、滅菌されている方がより好ましい。容器の滅菌方法は、好ましくは、電子線(EB)滅菌、酸化エチレンガス(EOG)滅菌、過酸化水素(H2O2)ガス滅菌、γ線滅菌等であり、より好ましくは、電子線(EB)滅菌、酸化エチレンガス(EOG)滅菌、過酸化水素(H2O2)ガス滅菌であるが、これらに限定されない。
上記した保存容器の材質として、好ましくは、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)等のポリオレフィン、PET(ポリエチレンテレフタレート)などが挙げられ、より好ましくは、ポリオレフィン、さらに、PE又はPPが好ましいが、これらに限定されない。PEは、LDPE(低密度ポリエチレン)でもよく、HDPE(高密度ポリエチレン)でもよい。
なお、本発明の保存容器には、本体(ボトル)、中栓(ノズル)及び蓋(キャップ)のいずれも包含される。好ましくは、本体を指すが、これらに限定されない。また、中栓又は蓋の材質としては、PE又はPPがより好ましいが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の点眼剤は、通常、前述した成分とその他の必要な成分を、所定量の水に溶解させ、得られた溶液を点眼容器に充填することにより調製される。各成分を水に溶解後に、得られた溶液のpHや浸透圧を公知の方法により適宜調整することが好ましい。通常、前述した成分とその他の必要な成分を含有する溶液の浸透圧及びpH調整後、無菌環境下、ろ過滅菌処理し、洗浄滅菌済みの点眼容器に無菌充填することにより、本発明の点眼剤を製造できる。点眼容器はマルチドーズ型が好ましいが、これに限定されない。なお、「マルチドーズ型点眼剤」とは、マルチドーズ型点眼容器に収納されている点眼剤を意味し、「マルチドーズ型点眼容器」は、点眼剤を反復使用する期間、例えば数日間~数ヶ月間(好ましくは数日~1ヶ月程度)、同一容器からの多数回、反復使用が可能なように、開封後も携帯が可能な程度に密閉状態を復元できる保存容器を意味する。
なお、本明細書において、「医薬品」は、点眼剤が保存容器に収容されている製品を指すことがある。
【0029】
本発明の点眼剤の好ましい投与対象は、前記角膜上皮傷害を有する又は発症するおそれのある個体(動物)である。好ましくは、前記角膜上皮傷害を有する個体である。個体としてはヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等の哺乳類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0030】
本発明の点眼剤の投与量及び投与回数は、投与対象の症状等に応じて適宜選択することができる。通常、成人に対し1回につき1~3滴程度を一日あたり1~6回程度点眼すればよい。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0032】
[実験例1]クエン酸塩とプロピレングリコールによる効果の確認
(実施例1の点眼剤の製造) 精製水80gにヒアルロン酸ナトリウム0.1gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化ナトリウム0.33g、塩化カリウム0.15g、クエン酸ナトリウム水和物を0.6g、プロピレングリコール0.3g及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)5μLを加えて溶解させた。これに精製水を加え、適量の塩酸と水酸化ナトリウムを加え、pHが6.5となるように調整して全量を100mLとし、実施例1の点眼剤を得た。
【0033】
(実施例2~6の点眼剤及び比較例1~9の点眼剤の製造) 下記の表1(ヒアルロン酸ナトリウム濃度:0.1w/v%)、表2(ヒアルロン酸ナトリウム濃度:0.3w/v%)に記載の各成分の配合量及びpH以外は、上記点眼剤1と同様の方法で実施例2~6の点眼剤及び比較例1~9の点眼剤を製造した。
【0034】
日本薬局方(第十八改正)一般試験法 粘度測定法 第1法 毛細管粘度計法に記載の方法に従い、測定温度30℃における動粘度を測定することにより動粘度測定試験を行って、各点眼液の動粘度(開始時動粘度)を測定した。さらに、約60度の過酷試験の条件でも同様の下において、2週間経過後の動粘度を測定して、粘度保持率を算出した。粘度測定には株式会社相互理化学硝子製作所製(TOP)のウベローデ型粘度計を使用した。実験例2~3においても同様の方法及び計算を用いた。
【0035】
以下、表1~4中の成分についての数値単位は、w/v%であり、動粘度についての数値単位は、mm
2/sである。
【表1】
【0036】
【0037】
(実験例1の結果と考察) 表1の比較例1~3と比べ、表1の比較例4~6では、リン酸塩の代わりに、ホウ酸及びホウ砂を用いており、初期の動粘度及び動粘度保持率がいずれも向上している。ここで、比較例4~6(表1)及び比較例7~9(表2)の点眼剤に、それぞれ、プロピレングリコールのみ加えた場合、初期の動粘度及び動粘度保持率はさらに向上する(データ非記載。後述の実験例3の参考例2及び4も参照)。しかし、製品とする際には、点眼剤の浸透圧比を調整する必要がある。医薬品用点眼剤製品の浸透圧比は1が好ましく、高張又は低張の場合、角膜損傷を起こす恐れもあるためである。本願の発明者は、比較例4~6(表1)及び比較例7~9(表2)の点眼剤に、さらに、クエン酸またはその塩を加えることで、この問題が解消出来ることを見出した。すなわち、実施例1~3(表1)及び実施例4~6(表2)に記載の組成の点眼剤では、比較例4~6(表1)及び比較例7~9(表2)の点眼剤と比較して、初期動粘度が向上し過ぎない点で優れると考えられる。
【0038】
[実験例2]浸透圧比を1に調整した場合の効果の確認
(実施例7の点眼剤の製造) 精製水80gにヒアルロン酸ナトリウム0.1gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、クエン酸ナトリウム水和物を0.966g、プロピレングリコール0.811g及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)5μLを加えて溶解させた。これに精製水を加え、適量の塩酸と水酸化ナトリウムを加え、pHが7.3となるように調整して全量を100mLとし、実施例7の点眼剤を得た。
【0039】
(比較例10の点眼剤の製造) 下記の表3に記載の各成分の配合量及びpH以外は、上記実施例7の点眼剤と同様の方法で比較例10の点眼剤を製造した。
【0040】
【0041】
(実験例2の結果と考察) プロピレングリコールのみを含む比較例10の点眼剤では、塩化ナトリウム及び塩化カリウムの量を調整して、浸透圧比を1.0とした際の動粘度が4.24となり、ヒアルロン酸又はその薬学的に許容可能な塩の配合量が点眼剤全体に対して0.1w/v%の場合、3.0~4.0mm2/sという日本薬局方(第十八改正)の規定を満たさないものであったが、プロピレングリコールとクエン酸塩とを含む実施例7の点眼剤では、浸透圧比を1.0に調整した際の動粘度は、3.0~4.0mm2/sであり、好ましいものであった。
【0042】
[実験例3]クエン酸塩の代わりにエデト酸塩を用いた場合の効果の確認
(実施例8の点眼剤の製造) 精製水80gにヒアルロン酸ナトリウム0.1gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化ナトリウム0.33g、塩化カリウム0.15g、クエン酸ナトリウム水和物を0.6g、プロピレングリコール0.3g及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)5μLを加えて溶解させた。これに精製水を加え、適量の塩酸と水酸化ナトリウムを加え、pHが6.5となるように調整して全量を100mLとし、実施例8の点眼剤を得た。
【0043】
(実施例9の点眼剤、参考例1~4の点眼剤及び比較例11~12の点眼剤の製造)
下記の表4に記載の各成分の配合量及びpH以外は、上記点眼剤8と同様の方法で実施例9の点眼剤、参考例1~4の点眼剤及び比較例11~12の点眼剤を製造した。
【0044】
【0045】
(実験例3の結果と考察) プロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含む実施例8及び実施例9の点眼剤は、それぞれ、参考例1~2及び参考例3~4の点眼剤と比較して、初期動粘度が上がり過ぎず、好ましかった。また、プロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含む実施例8及び実施例9の点眼剤は、それぞれ、比較例11及び12のプロピレングリコールとエデト酸を含む点眼剤と比較しても、初期動粘度が上がりすぎないことから、好ましかった。なお、実施例8及び実施例9の点眼剤は、動粘度保持率においても優れていた。
【0046】
[実験例4]保存容器の材質と滅菌方法の影響についての検討
(実施例10の点眼剤の製造) 精製水80gにヒアルロン酸ナトリウム0.1gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化ナトリウム0.33g、塩化カリウム0.15g、クエン酸ナトリウム水和物を0.6g、プロピレングリコール0.3g及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)5μLを加えて溶解させた。これに精製水を加え、適量の塩酸と水酸化ナトリウムを加え、pHが7.0となるように調整して全量を100mLとし、実施例10の点眼剤を得た。
そして、得られた点眼剤を、表5に記載の材質(PP)であり、かつ、表5に記載の方法(EOG)で滅菌された保存容器に充填して、医薬品を得た。
【0047】
(実施例11~15の点眼剤及び比較例12~17の点眼剤の製造)
下記の表5及び表6に記載の各成分の配合量、pH、容器の材質及び滅菌方法以外は、上記実施例10の点眼剤と同様の方法で、実施例11~15の点眼剤及び比較例12~17の点眼剤を製造し、得られた点眼剤を保存容器に充填して、医薬品を得た。
【0048】
【0049】
【0050】
(実験例4の結果と考察) 試験例1~3にて、好ましい結果が得られた、本発明のプロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含む点眼剤について、さらに、保存容器の材質と滅菌方法を変更した場合にも、同様の効果が得られるかについて確認した。
得られた結果は、以下の通りであった。
(1)材質がPP(ポリプロピレン)であり、EOG(酸化エチレンガス)滅菌された保存容器を用いる場合:
プロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含まないこと以外は同じ条件である、比較例12の医薬品よりも、本発明の実施例10の医薬品のほうが、初期動粘度が上がり過ぎず、また、動粘度保持率においても優れていた(表5)。
(2)材質がPPであり、滅菌されていない保存容器を用いた場合:
プロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含まないこと以外は同じ条件である、比較例13の医薬品よりも、本発明の実施例11の医薬品のほうが、初期動粘度が上がり過ぎず、また、動粘度保持率においても優れていた(表5)。
(3)材質がPET(ポリエチレンテレフタレート)であり、EB(電子線)滅菌された保存容器を用いた場合:
クエン酸塩を含まないこと以外は同じ条件である、比較例14の医薬品よりも、本発明の実施例12の医薬品のほうが、初期動粘度が上がり過ぎず、また、動粘度保持率においても優れていた(表5)。
(4)材質がPPであり、EB滅菌された保存容器を用いた場合:
クエン酸塩を含まないこと以外は同じ条件である、比較例15の医薬品よりも、本発明の実施例13の医薬品のほうが、初期動粘度が上がり過ぎず、また、動粘度保持率においても優れていた(表6)。
(5)材質がLDPE(低密度ポリエチレン)であり、滅菌されていない保存容器を用いた場合:
プロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含まないこと以外は同じ条件である、比較例16の医薬品よりも、本発明の実施例14の医薬品のほうが、初期動粘度が上がり過ぎず、また、動粘度保持率においても優れていた(表6)。
(6)材質がLDPEであり、H2O2(過酸化水素)ガス滅菌された保存容器を用いた場合:
プロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含まないこと以外は同じ条件である、比較例17の医薬品よりも、本発明の実施例15の医薬品のほうが、初期動粘度が上がり過ぎず、また、動粘度保持率においても優れていた(表6)。
上記(1)~(6)の結果より、本発明のプロピレングリコールとクエン酸またはその塩とを含むヒアルロン酸含有点眼剤を充填した医薬品は、様々な容器及び滅菌方法を用いた場合にも優れた動粘度を有するため、有用であることが示された。