(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109251
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】インキ追従体
(51)【国際特許分類】
B43K 7/08 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
B43K7/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010663
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】夫馬 猛志
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏輝
(72)【発明者】
【氏名】木村 洋介
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KC01
2C350NA10
2C350NA11
(57)【要約】
【課題】掻き取り性を向上させることが可能なインキ追従体を提供することが目的である。
【解決手段】本発明におけるインキ追従体は、難揮発性基油と、球状粒子(ただし、中空粒子を含まない)と、を含むことを特徴とする。本発明では、前記球状粒子は、球状シリカ粒子、球状アクリル樹脂粒子、及び球状PTFE粒子のうち少なくもいずれか1種を含むことが好ましい。本発明では、前記球状粒子の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。本発明では、前記球状粒子は、0.2質量%以上20質量%以下含まれることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難揮発性基油と、球状粒子(ただし、中空粒子を含まない)と、を含むことを特徴とするインキ追従体。
【請求項2】
前記球状粒子は、球状シリカ粒子、球状アクリル樹脂粒子、及び球状PTFE粒子のうち少なくもいずれか1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のインキ追従体。
【請求項3】
前記球状粒子の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインキ追従体。
【請求項4】
前記球状粒子は、0.2質量%以上20質量%以下含まれることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のインキ追従体。
【請求項5】
前記難揮発性基油は、合成炭化水素油、鉱油、及びシリコーン油のうち、少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のインキ追従体。
【請求項6】
更に、増ちょう剤及び増粘剤の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のインキ追従体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンなどの筆記用具のインキ追従体に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンのインキ収容管(リフィル)中のインキ上部には、インキ追従体が充填されている。インキ追従体は、インキ溶媒の蒸発を防止し、インキの漏れを抑制し、リフィル内壁のインキ付着を減少させる役割を有している。
【0003】
特許文献1には、基油及び増ちょう剤からなる半固体状物質に、スチレン系熱可塑性エラストマーが0.1~10重量%配合されていることを特徴とするボールペン用インキ逆流防止剤組成物に関する発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤と、該有機溶剤に可溶若しくは膨潤する非スチレン系熱可塑性エラストマーとを含有し、弾性応答が優位の粘弾性を示すことを特徴とするインキ追従体に関する発明が開示されている。
【0005】
特許文献3には、難揮発性有機溶剤および不揮発性有機溶剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の溶剤、ゲル化剤としての微粒子シリカおよびシラン系の表面改質剤を含むボールペンインキ逆流防止体に関する発明が開示されている。
【0006】
特許文献4には、比重が0.8~0.9の範囲の炭化水素系有機溶剤より選ばれる1種または2種以上の混合物と、ゲル化剤と、前記炭化水素系有機溶剤に対して実質的に溶解または膨潤しなく、前記炭化水素系有機溶剤よりも比重の小さい粒子とより少なくともなるインキ追従体組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-239933号公報
【特許文献2】特開2004-142323号公報
【特許文献3】特開平7-242093号公報
【特許文献4】特開2005-239918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ボールペンにて筆記した際の性能として、グリースによるインキの良好な掻き取り性が求められた。すなわち、掻き取り性が劣ると、速い筆記速度では、リフィル内にてグリースがインキに接しながら追従した際、インキがリフィルの内壁を伝って、グリースの横をすり抜け上部に漏れ出す問題があった。リフィルを収容する軸筒が透明或いは半透明である場合、インキ漏れが透けて見えてしまい、見栄えが悪化した。また、インキ漏れによりインキ残量の視認ができなくなった。
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、掻き取り性を向上させることが可能なインキ追従体を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明におけるインキ追従体は、難揮発性基油と、球状粒子(ただし、中空粒子を含まない)と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明では、前記球状粒子は、球状シリカ粒子、球状アクリル樹脂粒子、及び球状ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)粒子のうち少なくもいずれか1種を含むことが好ましい。
本発明では、前記球状粒子の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。
本発明では、前記球状粒子は、0.2質量%以上20質量%以下含まれることが好ましい。
【0011】
本発明では、前記難揮発性基油は、合成炭化水素油、鉱油、及びシリコーン油のうち、少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。
本発明では、更に、増ちょう剤及び増粘剤の少なくとも一方を含んでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインキ追従体によれば、掻き取り性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態(以下、「実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<本実施形態に至る経緯>
従来、ボールペンのインキ上部に充填されるインキ追従体は、例えば、基油にポリブテン又は炭化水素油を用い、増ちょう剤としてシリカなどの無機物質や、熱可塑性樹脂、或いは石けんなどを添加していた。
【0016】
ボールペンにて筆記した際に求められる性能の中で、本発明者らは、特に、インキ追従体によるインキの掻き取り性に着目した。すなわち、インキ追従体は、インキ上部に接した状態で充填されており、インキの使用により、インキの高さが下がるとインキ追従体もそれに追従する。
【0017】
しかしながら、掻き取り性が劣ると、特に、筆記速度が速い場合、インキがリフィルの壁面を伝って、インキ追従体の横をすり抜け上部へ漏れ出す問題が生じた。内部のインキが透けて見える透明或いは半透明な軸筒を備えたボールペンでは、掻き取り性が劣りインキが上部に漏れた状態は、見栄えが悪化した。また、インキ漏れによりインキ残量の視認ができなくなった。
そこで、本発明者らは、インキ追従体に添加する成分について鋭意研究を重ねた結果、球状粒子を含むことで、掻き取り性を向上させるに至った。
【0018】
<本実施形態のインキ追従体>
本実施形態におけるインキ追従体は、難揮発性基油と、球状粒子(ただし、中空粒子を含まない)と、を含むことを特徴とする。
このように、本実施形態では、少なくとも難揮発性基油と球状粒子との2成分を含んでいる。
【0019】
本実施形態では、インキ追従体に球状粒子を含むことで、掻き取り性を向上させることができる。その原理は定かではないが、インキ追従体とリフィルとの間の潤滑性が向上することで、インキ追従体が形状を維持したまま追従するため、インキがインキ追従体の横をすり抜ける現象を抑制できることが一因であると考えられる。
【0020】
(球状粒子)
本実施形態に使用される「球状粒子」とは、本実施形態の掻き取り性を得ることが可能な形状を意味し、真球状であっても、真球状以外であってもよい。一例であるが、真球度は、0.8以上1.0以下であることが好ましい。なお、真球度は、走査型電子顕微鏡により写真撮影して得られる写真投影図における粒子の最大径(DL)と、これと直交する短径(DS)との比(DS/DL)で測定される。
また、本実施形態に使用される球状粒子の真密度は、1以上である。なお、真密度と比重は定義が異なるものの、数値上、真密度と比重は、ほぼ同じとなる。
【0021】
本実施形態に使用される球状粒子は、中空粒子を含まない。本実施形態の球状粒子は、一例として、内部に密閉空間がなく、粒子内部が詰まった中実粒子や多孔質粒子である。或いは、中実粒子や多孔質粒子といった表面や内部形状で限定するものでなく、例えば、上記したように、本実施形態の球状粒子の真密度は、1以上であり、一方、中空粒子の真密度は1より小さいため、真密度により、中空粒子か否かを判別できる。後述する実験で示すように、中空粒子を使用した場合、掻き取り性が不良になることがわかっている。
【0022】
また、本実施形態に使用される球状粒子には、フュームドシリカ等の集塊粒子や鱗片状粒子を含まない。集塊粒子や鱗片状粒子を含む場合、掻き取り性が不良になることが後述する実験によりわかっている。
【0023】
一方、本実施形態に使用される球状粒子は、多孔質の球状粒子であってもよい。「多孔質」とは、粒子表面に多数の細孔を有する状態を指し、上記した真球度や真密度を満たすことが好適である。多孔質の球状粒子を使用した場合でも、良好な掻き取り性が得られることが後述する実験によりわかっている。
【0024】
本実施形態で使用される球状粒子の材質を限定するものではなく、本実施形態の掻き取り性を得ることが可能であれば、無機材料及び有機材料の別を問わない。具体的には、球状粒子として、球状シリカ粒子、球状アクリル樹脂粒子(アクリルビーズ)、及び球状PTFE粒子のうち少なくもいずれか1種を含むことが好ましい。このうち、特に、球状シリカ粒子を用いることが、より良好な掻き取り性を得ることができ好適である。
【0025】
本実施形態で使用される球状粒子の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。「平均粒子径」とは、例えば、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した際の体積基準の累積50%粒子径(メジアン径(D50))を意味する。或いは、球状粒子が購入品であればパンフレットや粒子データに記載の粒子径を意味する。
また、平均粒子径は、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
本実施形態では、球状粒子の平均粒子径を上記範囲内に調整することで、インキ追従体によるインキ追従性を向上させることができ、より良好な掻き取り性を得ることができる。
【0027】
また、本実施形態で使用される球状粒子の含有量は、インキ追従体全体を100質量%としたとき、0.2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。また、本実施形態では、球状粒子の含有量は、0.3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。このように、球状粒子の含有量を調整することで、掻き取り性の向上のみならず、インキ追従体のリフィルへの付着を効果的に抑制できる。
【0028】
(難揮発性基油)
本実施形態で使用される難揮発性基油は、難揮発性液体の基油であり、本実施形態の掻き取り性を得ることが可能であれば、特に成分や動粘度などを限定するものではない。本実施形態では、インキ追従体に難揮発性基油を含むことで、長寿命のインキ追従体を得ることができ、また高温環境下でもグリースの状態を適切に保つことができる。
【0029】
本実施形態で使用される難揮発性基油は、合成炭化水素油、鉱油、及びシリコーン油のうち、少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。難揮発性基油は、複数種の難揮発性基油を混合したものであってもよい。
【0030】
また、難揮発性基油の含有量は、インキ追従体全体を100質量%としたとき、83質量%以上98質量%以下であることが好ましく、86質量%以上97質量%以下であることがより好ましく、87質量%以上96質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
また、本実施形態に使用される難揮発性基油の動粘度を限定するものではないが、例えば、40℃粘度が7000mm2/s以下であることが好ましく、5000mm2/s以下であることがより好ましく、3000mm2/s以下であることが更に好ましい。難揮発性基油の動粘度の範囲を調整することで、難揮発性基油に球状粒子を混合したことにより、掻き取り性をより効果的に向上させることができる。
【0032】
(増ちょう剤及び増粘剤)
本実施形態のインキ追従体は、少なくとも、難揮発性基油と、球状粒子(ただし、中空粒子を含まない)を含めば足りるが、更に、増ちょう剤や増粘剤を含めることができる。これにより、インキ追従体をグリースとして構成できる。増ちょう剤及び増粘剤は、本実施形態の掻き取り性を得ることが可能であれば、特に成分や含有量を限定するものではない。
【0033】
増ちょう剤の具体例として、アルミニウム石けんや、リチウム石けんを例示できる。また、増粘剤はポリマーであり、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマーを例示できる。
【0034】
また、増ちょう剤及び増粘剤の含有量は、インキ追従体全体を100質量%としたとき、1質量%以上8質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
(その他の添加物)
その他の添加剤としては、当該技術分野で既知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤等を含むことができる。
【0036】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン等から選択することができる。防錆剤としては、ステアリン酸などのカルボン酸、ジカルボン酸、金属石けん、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、または多価アルコールのカルボン酸部分エステル等から選択することができる。腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールまたはベンゾイミダゾール等から選択することができる。油性剤としては、ラウリルアミンなどのアミン類、ミリスチルアルコール等の高級アルコール類、パルミチン酸などの高級脂肪酸類、ステアリン酸メチル等の脂肪酸エステル類、またはオレイルアミドなどのアミド類等から選択することができる。耐摩耗剤としては、亜鉛系、硫黄系、リン系、アミン系、またはエステル系等から選択することができる。また、固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート等から選択することができる。
【0037】
<本実施形態のインキ追従体の性能>
本実施形態のインキ追従体を用いることで、掻き取り性、筆記性、インキ追従体のリフィルへの非付着性、及び加温保管性をいずれも良好な性能として得ることができる。
【0038】
掻き取り性は、後述の実験で詳細に説明するが、インキの掻き取り不良部分が、インキ追従体の高さの60%以下であれば良好とし、60%を越えたら不良として判別したところ、本実施形態では、いずれのインキ追従体の構成であっても優れた掻き取り性を得ることができた。
【0039】
また、筆記性は、本実施形態のインキ追従体を充填したボールペンを用いて筆記した際にインキにかすれが生じるか否かで判別したところ、本実施形態では、いずれのインキ追従体の構成であっても優れた筆記性を得ることができた。
また、本実施形態では、いずれのインキ追従体の構成であっても、インキ追従体のリフィルへの付着を抑制できた。
【0040】
また、60℃にて3か月間保管した加温試験を行い、インキ追従体の色や硬さの変化を測定したところ、本実施形態では、いずれのインキ追従体の構成であっても、色及び硬さに変化は見られなかった。
【0041】
<用途>
本実施形態のインキ追従体は、ボールペンに使用されるインキの上部に充填される。本実施形態では、優れた掻き取り性を有しているため、インキの漏れを抑制でき、ボールペンの寿命を延ばすことができる。また、本実施形態では、リフィル内でのインキ漏れを抑制でき、インキとインキ上部に接触するインキ追従体との間がきれいな界面状態を保ちやすい。したがって、ボールペンのリフィルを収容する軸筒が透明であっても、インキ漏れが抑制されているため、外側から透けて見える内部状態の見栄えが良く、インキ残量も視認でき、快適な使用感を与えることができる。
【0042】
また本実施形態のインキ追従体は、加温保管性に優れるため、ボールペンを自動車内等の高温になり得る空間に置いても、掻き取り性等の性能を維持でき、長寿命を得ることができる。
【実施例0043】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
まずは、実験に使用した難揮発性基油、増ちょう剤、球状粒子等の種類及びその物性値等を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0045】
<球状粒子を添加したことの効果実験、及び球状粒子の添加量に関する実験>
以下の表2に示す配合からなる各試料を用意した。実験では、難揮発性基油として、合成炭化水素油A、増ちょう剤として、Al石けん、及び球状粒子として、球状シリカ粒子Aを添加した。
【0046】
【0047】
表2に示すように、実施例1~実施例3では、難揮発性基油、増ちょう剤、及び球状粒子を、夫々添加したインキ追従体を得た。実施例1~実施例3では、球状粒子の含有量を変化させた。また、比較例1では、球状粒子を添加せず、難揮発性基油と増ちょう剤からなるインキ追従体を得た。
実施例1~実施例3及び比較例1の各インキ追従体の不混和ちょう度(25℃)を、JIS K 2220により測定した。
【0048】
実験では、リフィル径が4mmの市販のボールペンを用意し、該ボールペンに充填されている既存のインキ追従体(グリース)を除去した。石油ベンジンで洗浄した後、実施例1~実施例3及び比較例1の各インキ追従体(グリース)を充填した。このとき、各インキ追従体の高さが1cmになるように充填量を調整した。そして、遠心分離して脱泡した。
インキ追従体の走行試験として、筆記性、掻き取り性及びインキ追従体のリフィルへの非付着性を測定した。
【0049】
走行試験は、試験機として、ペンプロッター(Evil Mad Scientist社製:Axi Draw V3)を用いた。ボールペンの設置角度は垂直とし、筆記速度を毎秒約14cmとし、走行時間を60分間とした。
【0050】
上記の走行試験による筆記性は、筆記した際に、インキにかすれが生じるか否かで判別した。インキにかすれが生じない場合は〇の評価にし、インキにかすれが生じた場合は×の評価にした。
【0051】
上記の走行試験による掻き取り性は、
図1に示すように、インキ追従体(グリース)の高さT1に対して、インキの掻き取り不良の高さT2が60%を下回った場合、掻き取り性は良好であるとして〇の評価にし、60%を超えた場合、掻き取り性は不良であるとして×の評価にした。なお、
図1のAは、インキ追従体を示し、Bは、インキを示し、Cは掻き取り不良のインキを示す。
【0052】
上記の走行試験によるインキ追従体の非付着性は、インキ追従体(グリース)がインキの減りに追従できず、その場のリフィル壁面に付着した状態のまま残っているか否かを目視で判断し、付着していない場合を〇の評価にし、付着している場合を×の評価にした。
【0053】
表2に示すように、実施例1~実施例3では、いずれも、筆記性、掻き取り性及び、非付着性が〇であった。一方、比較例1では、掻き取り性及び、非付着性が×であった。
【0054】
この実験から、インキ追従体に球状粒子を含むことで、優れた掻き取り性を得ることができ、更に、インキ追従体のリフィルへの非付着性の向上を図ることができた。
【0055】
また、この実験から球状粒子の含有量を、0.2質量%以上20質量%以下とし、好ましくは、0.3質量%以上15質量%以下とし、より好ましくは、0.5質量%以上10質量%以下とした。
【0056】
<球状粒子の種類に関する実験>
以下の表3に示す配合からなる各試料を用意した。実験では、難揮発性基油として、合成炭化水素油A、増ちょう剤として、Al石けんを含有し、更に表3に示す各種粒子を添加した。
【0057】
球状粒子として、球状アクリル樹脂粒子、球状シリカ粒子A、球状シリカ粒子B、球状シリカ粒子C、球状PTFE粒子を使用した。球状粒子以外として、フュームドシリカ、鱗片状シリカ粒子、中空粒子を使用した。
【0058】
【0059】
実験では、インキ追従体(グリース)の状態で、不混和ちょう度及び60℃での加温保管性を調べた。加温保管性の実験では、60℃のまま3か月間保管し、グリースの硬さ或いは色の少なくともいずれか一方に変化が見られるか調べた。変化が見られない場合は、〇の評価にし、変化が見られた場合は、×の評価にした。
また、実施例4~実施例8及び、比較例2~比較例4の各試料を用いて、筆記性、掻き取り性、及び非付着性を測定した。
【0060】
表3に示すように、実施例4~実施例8では、筆記性、掻き取り性、非付着性及び加温保管性はいずれも〇であった。一方、比較例2では、掻き取り性、非付着性及び加温保管性がいずれも×であった。比較例2では、球状粒子でなく、フュームドシリカを用いた。また、比較例3では、掻き取り性及び加温保管性がいずれも×であった。比較例3では、球状粒子でなく、鱗片状シリカ粒子を用いた。また、比較例4では、掻き取り性が×であった。
【0061】
表3に示す実験結果から球状粒子として、球状シリカ粒子、球状アクリル樹脂粒子、及び球状PTFE粒子のうち少なくもいずれか1種を含むことが好ましいとわかった。また、球状粒子としては、多孔質であってもよいことがわかった。一方、比較例4のように、中空粒子であると、掻き取り性が悪化することから、本実施例の球状粒子には中空粒子を含めないこととした。
【0062】
<難揮発性基油の種類に関する実験>
以下の表4に示す配合からなる各試料を用意した。実験では、増ちょう剤として、Al石けん、及び、球状粒子として、球状シリカ粒子A、又は、球状シリカ粒子Cを含有し、更に表4に示す各種の難揮発性基油を添加した。
【0063】
難揮発性基油として、合成炭化水素油A、鉱油、ポリブテンA、ポリブテンB、及びアルキル変性シリコーン油を使用した。
【0064】
【0065】
表4に示すように、実施例9~実施例14では、いずれも、筆記性、掻き取り性、非付着性及び加温保管性が〇であった。
【0066】
表4に示すように、難揮発性基油として、合成炭化水素油、鉱油、及びシリコーン油のうち、少なくともいずれか1種を含むことが好ましいとわかった。また、実施例11~実施例14のように、複数種の難揮発性基油を含んでいても良好な特性を得ることができた。
【0067】
<増ちょう剤の種類に関する実験>
以下の表5に示す配合からなる各試料を用意した。実験では、難揮発性基油として、合成炭化水素油A、合成炭化水素油B、及び、合成炭化水素油Cを用い、球状粒子として、球状シリカ粒子A、球状シリカ粒子C、及び、球状シリカ粒子Dを用いた。そして、増ちょう剤として、Li石けん、或いは、増粘剤として、スチレン系熱可塑性エラストマーを添加した。
【0068】
【0069】
表5に示すように、実施例15~実施例17では、いずれも、筆記性、掻き取り性、非付着性及び加温保管性が〇であった。実施例15では、増ちょう剤としてLi石けんを用い、実施例16では、増粘剤(ポリマー)を添加した。一方、実施例17では、増ちょう剤及び増粘剤を添加せず、難揮発性基油と球状粒子の2種類のみでインキ追従体を構成した。
これに対し、比較例5及び比較例6は、いずれも、球状粒子を含まず、掻き取り性が悪化した。
本発明のインキ追従体によれば、優れた掻き取り性を得ることができる。本発明のインキ追従体をボールペンのリフィルに充填することで、掻き取り性、筆記性、及びインキ追従体の非付着性の優れた各性能を得ることができる。また、本発明のインキ追従体は、加温保管性にも優れるため、自動車内など高温環境下になりやすい場所に保管しても長寿命を得ることができる。