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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109268
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】圧力式流量制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010689
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(72)【発明者】
【氏名】滝本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】平田 薫
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
【テーマコード(参考)】
5H307
【Fターム(参考)】
5H307AA02
5H307BB01
5H307DD01
5H307DD17
5H307EE02
5H307EE07
5H307FF12
5H307FF15
(57)【要約】
【課題】自己診断結果に基づいて流量補正が可能な圧力式流量制御装置を提供する。
【解決手段】圧力式流量制御装置10は、絞り部2と、上流側のコントロール弁6と、上流側圧力P1を検出する上流側圧力センサ3と、上流側圧力の圧力降下データと基準圧力降下データとを用いて診断する自己診断機能を有する制御機構とを備え、複数の圧力降下データ及び補正値から重みを計算し構築した、圧力降下データから補正値を求める数値予測計算式を用い、稼働中の任意のタイミングで取得する運用中圧力降下データから運用中補正データを計算しコントロール弁6を制御する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞り部と、
該絞り部の上流側に設けられたコントロール弁と、
前記絞り部と前記コントロール弁との間の流路の圧力である上流側圧力を検出する上流側圧力センサと、
該上流側圧力センサによって測定される上流側圧力の圧力降下データを用いて診断する自己診断機能を有する制御機構とを備える圧力式流量制御装置であって、
前記制御機構は、
複数の圧力式流量制御装置から取得した、コントロール弁の開度を決定する初期設定値に対し、実測した流量誤差から求めた補正値及び所定圧からコントロール弁を閉じた後の上流側圧力の経時的変化データを用い、回帰型ニューラルネットワークを構成する複数のノード間を接続する重みの値に基づいて構築した圧力降下データから補正値を求める数値予測計算式を実行する計算部を備え、
稼働中の任意のタイミングでコントロール弁を閉じた後に取得する上流側圧力の経時的変化の運用中圧力降下データから、前記計算部によって、運用中補正データを計算するようにした圧力式流量制御装置。
【請求項2】
前記絞り部の下流側流路の圧力である下流側圧力を検出する下流側圧力センサを更に備え、
前記運用中圧力降下データは、前記コントロール弁を閉鎖してから、前記下流側圧力に対する前記上流側圧力の圧力比が規定値以上であることを示す臨界膨張条件を満足している期間において取得するようにした請求項1に記載の圧力式流量制御装置。
【請求項3】
前記制御機構は、
前記運用中圧力降下データ及び運用中補正データを記録するデータ記録部を備え、前記計算部が更に前記重みの値を計算し更新するようにした請求項1又は2に記載の圧力式流量制御装置。
【請求項4】
前記制御機構は、他の圧力制御装置の運用中圧力降下データ及び/又は補正データを取得し、前記重みの値を更新するようにした請求項3に記載の圧力式流量制御装置。
【請求項5】
前記制御機構は、複数の圧力制御装置を制御するようにした請求項3又は4に記載の圧力式流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造設備や化学プラント等に使用される圧力式流量制御装置に関し、特に、自己診断機能を備える圧力式流量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、材料ガスやエッチングガス等の流量を制御するために、種々の流量計及び流量制御装置が利用されている。このなかで圧力式流量制御装置は、コントロール弁と絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)とを組み合せた比較的簡単な機構によって各種流体の質量流量を高精度に制御することができるので広く利用されている。圧力式流量制御装置は、熱式流量制御装置とは異なり、一次側供給圧(コントロール弁の上流側の圧力)が大きく変動しても、安定した流量制御が行えるという、優れた流量制御特性を有している。
【0003】
圧力式流量制御装置には、絞り部の上流側の流体圧力(以下、上流側圧力P1と呼ぶことがある)を制御することによって流量を調整するものがある。上流側圧力P1は、通常、絞り部上流側に設けたコントロール弁の開度を調整することによって制御される。臨界膨張条件(上流側圧力P1/下流側圧力P2≧約2:アルゴンガスの場合)を満たすとき、絞り部を流れるガスの速度は音速に固定され、絞り部の下流側に流れるガスの質量流量は、絞り部下流側の下流側圧力P2の大きさにかかわらず上流側圧力P1に比例することが知られており、上流側圧力P1を制御することによって流量の制御が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/170174号
【特許文献2】国際公開第2021/111979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、長期間の使用等、特に使用するガス種によって、圧力式流量制御装置の絞り部には、腐食や目詰まり等が生じることがある。この場合、絞り部の開口面積が変化してしまい、上流側圧力P1から算出される流量と、当初は適合していた実際の流量とがずれたものとなる。また、圧力式流量制御装置は、典型的には、サーマルセンサなどの流量計を有していないので、絞り部の開口変動後に流路を流れるガスの実際の流量を直接的に測定することはできない。このため、圧力式流量制御装置の構成を利用して、絞り部に異常が生じていないかどうかを判断するための自己診断機能を備えた圧力式流量制御装置が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載の圧力式流量制御装置では、臨界膨張条件を満足する期間において、コントロール弁を閉じた後の上流側圧力の降下が測定され、これを基準値と比較することによって自己診断が行われる。また、圧力降下期間において、ln(P1(t)/P1i)=-α・tの関係(ここでP1(t)は時間tに対する上流側圧力P1の関数、P1iは初期上流側圧力)が成り立つことがわかり、圧力測定結果から得られた傾きαを基準傾きα0と比較することによって、絞り部に異常が生じているか否かを判定できることが開示されている。特許文献1に記載の自己診断方法は、半導体製造プロセスの終了時等において、そのときの流量にかかわらず、任意の流量または任意の初期上流側圧力から自己診断を開始することができるという利点を有する。
【0007】
ただし、自己診断を行った結果、絞り部に詰まりや開口拡大が生じていることが判明したとしても、使用者に警告を与えることは可能であるが、そのまま装置の使用を続けることは困難である。このため、従来、絞り部の異常が検知されたときは、絞り部の交換を必要としていたが、絞り部のみの交換は容易ではなかった。そこで、現実的な対応としては、圧力式流量制御装置の全体を新しいものと交換することが多かった。
【0008】
このように圧力式流量制御装置を都度取り換えるとなると、コストが大幅にかさみ、また、利便性も低下する。特に、使用するガスの腐食性が高い場合など、絞り部の口径が変化しやすい使用環境にあっては、圧力式流量制御装置の取り換えの頻度が高くなるので大きな問題となる。したがって、絞り部の口径が変化しやすい場合にも、より長期間にわたって安定的に使用することができる圧力式流量制御装置への要望があった。
【0009】
本件出願人は、初期の基準となる圧力降下データと、装置稼働中の圧力降下データを比較し、機銃力の誤差を加味して流量制御を行う行う手法を開発し製品展開を行なうこととともに、回帰型ニューラルネットワークを用いたAI制御を使って、装置稼働中の圧力降下データから最適な流量補正値を計算する手法に着目した。
【0010】
本発明は、係る点に鑑みなされたもので、AI制御を使いより安定的に継続的に使用できる圧力式流量制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態による圧力式流量制御装置は、
絞り部と、
前記絞り部の上流側に設けられたコントロール弁と、
前記絞り部と前記コントロール弁との間の流路の圧力である上流側圧力を検出する上流側圧力センサと、
該上流側圧力センサによって測定される上流側圧力の圧力降下データを用いて診断する自己診断機能を有する制御機構とを備える、圧力式流量制御装置であって、
前記制御機構は、
複数の圧力式流量制御装置から取得した、コントロール弁の開度を決定する初期設定値に対し、実測した流量誤差から求めた補正値及び所定圧からコントロール弁を閉じた後の上流側圧力の経時的変化データを用い、回帰型ニューラルネットワークを構成する複数のノード間を接続する重みの値に基づいて構築した圧力降下データから補正値を求める数値予測計算式を実行する計算部と、
稼働中の任意のタイミングでコントロール弁を閉じた後に取得する上流側圧力の経時的変化の運用中圧力降下データから、前記計算部によって、運用中補正データを計算するようにしている。
【0012】
出荷時の検査で取得する圧力降下データと補正値からAI予測の計算式を構築し、運用中の圧力式流量制御装置の圧力降下データから補正値を求め直し正確な流量制御を行う。
【0013】
上記構成において、前記絞り部の下流側流路の圧力である下流側圧力を検出する下流側圧力センサを更に備え、前記運用中圧力降下データは、前記コントロール弁を閉鎖してから、前記下流側圧力に対する前記上流側圧力の圧力比が規定値以上であることを示す臨界膨張条件を満足している期間において取得する。
【0014】
また、この場合において、前記制御機構は、前記運用中圧力降下データ及び運用中補正データを記録するデータ記録部を備え、前記計算部が更に前記重みの値を計算し更新することができる。
【0015】
さらに、これらの場合において、前記制御機構は、他の圧力制御装置の運用中圧力降下データ及び/又は補正データを取得し、前記重みの値を更新することもできる。
【0016】
さらに、これらの場合において、前記制御機構は、複数の圧力制御装置を制御することもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態の圧力式流量制御装置によれば、複数の圧力式流量制御装置から取得した圧力降下データ及び補正値を用いて重みを決定し導いた計算式を用い、可動中の圧力式流量制御装置の圧力降下データから最適な補正値を計算することができ、より継続的に精度よく流量制御を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による圧力式流量制御装置を示す模式図である。
図2】ガス供給状態から閉弁動作を行ったときの、上流側圧力P1及び下流側圧力P2の変化を示すグラフである。
図3】開口部に異常が生じている場合の上流側圧力の圧力降下の変化を示すグラフである。
図4】AIによる補正値の計算式の求め方に関し、(a)は、各流量設定に対する補正の初期値を、(b)は初期補正値で値で実際の流量を、(c)は実際の流量から計算した流量制御の補正値を示す。
図5】ニューラルネットワークの概要図を示す。
図6】本発明の実施形態による流量自己診断及び補正値決定の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態による圧力式流量制御装置10を示す。圧力式流量制御装置10は、流路1に設けられた絞り部2と、絞り部2の上流側に設けられたコントロール弁6と、絞り部2とコントロール弁6との間の上流側圧力P1を検出する上流側圧力センサ3と、絞り部2の下流側の下流側圧力P2を検出する下流側圧力センサ4と、絞り部2とコントロール弁6との間の温度を検出する温度センサ5とを備えている。
【0021】
上流側圧力センサ3及び下流側圧力センサ4としては、例えば、半導体ピエゾ抵抗拡散圧力センサやキャパシタンスマノメータが用いられ、温度センサ5としては、例えば測温抵抗体やサーミスタが用いられる。コントロール弁6としては、例えば金属製ダイヤフラム弁体をピエゾアクチュエータによって開閉するピエゾ素子駆動型バルブ(以下、ピエゾバルブと称することがある)が用いられる。ピエゾバルブは、ピエゾ素子に印加する駆動電圧を調整することによって任意開度に開くことができる弁(比例弁)である。また、絞り部2としては、例えばオリフィスプレートや臨界ノズルが用いられ、絞り部2の開口径は、例えば10~2000μmに設定される。
【0022】
圧力式流量制御装置10はまた、各センサ3、4、5及びコントロール弁6に接続された制御機構(または制御回路)7を備えている。制御機構7は、半導体製造装置のプロセス終了時(プロセスチャンバへのガス供給停止時)にコントロール弁6を閉鎖し、じょぷ流圧力の圧力を測定する、自己診断機能を実行することができるように構成されている。本実施形態の制御機構7は、回路基板上に設けられたCPU、メモリ、A/Dコンバータ等を内蔵し、後述する動作を実行するためのコンピュータプログラムを含んでおり、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって実現される。本実施形態では、制御機構7は圧力式流量制御装置10の内部に配設された例を示すが、制御機構7の一部または全ての構成要素は、圧力式流量制御装置10の外部に設けられていても良い。
【0023】
圧力式流量制御装置10の上流側は図示しないガス供給源に接続されており、下流側は遮断弁11(典型的にはオンオフ弁)を介して半導体製造装置のプロセスチャンバ12に接続されている。プロセスチャンバ12には真空ポンプ13が接続されており、圧力式流量制御装置10の上流側から供給されるガスの供給時にプロセスチャンバ12の内部を真空引きすることができる。なお、図1に示す態様では、遮断弁11が圧力式流量制御装置10の外側に配置されているが、遮断弁11は圧力式流量制御装置10に内蔵されていてもよい。遮断弁11としては、例えばAOV(空気駆動弁)や電磁弁が用いられる。
【0024】
半導体製造プロセスにおいて、プロセスチャンバ12にガスを供給するとき、制御機構7は、上流側圧力センサ3(及び下流側圧力センサ4や温度センサ5)の出力を用いて、演算により流量を求めるとともに、絞り部2を通過する流量が設定流量になるようにコントロール弁6を制御する。演算により求められた流量は、外部制御装置の表示部に流量出力値として表示されてもよい。
【0025】
より具体的には、臨界膨張条件(P1/P2≧約2:アルゴンガスの場合)を満たすときには、流量Q=K1P1(K1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数)の関係にしたがって上流側圧力センサ3の出力から演算流量を求め、演算流量が設定流量と同じになるようにコントロール弁6をフィードバック制御する。また、非臨界膨張条件下では、流量Q=K2P2(P1-P2)(K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、指数m、nは実際の流量から導出された値)の関係にしたがって演算流量を求め、演算流量が設定流量と同じになるようにコントロール弁6をフィードバック制御する。
【0026】
また、本実施形態の圧力式流量制御装置10は、コントロール弁6が閉状態へと移行してガス供給を停止するプロセス終了時において、圧力降下データを取得する自己診断を行うように構成されている。プロセス終了時においてコントロール弁6に加えて遮断弁11をも閉じて自己診断を行うこともでき、この場合には、任意のガス供給ラインにおいて、他のガス供給ラインを用いた半導体製造に影響を及ぼすことなく自己診断工程を実行することができる。
【0027】
図2の実線で示すグラフは、コントロール弁6を閉じたときの、上流側圧力P1及び下流側圧力P2の変化を示すグラフである。図2に示すように、コントロール弁6が、時刻t1に閉命令を受け、その後も閉状態に維持されているとき、上流側圧力P1はガス流通時の初期上流側圧力P1iから降下し、下流側圧力P2も初期下流側圧力P2iから降下する。
【0028】
そして、本実施形態では、臨界膨張条件を満足する時刻t1~t2の間の臨界膨張期間Δt、すなわち、P1/P2≧約2(アルゴンガスの場合)が成立する期間内において測定したP1(t)に基づく自己診断を行う。このように、実際に臨界膨張条件下であるかどうかを確認しながら自己診断を行うことによって、流体供給制御系の設計や半導体製造プロセスの内容にかかわらず、診断に有効な最大限の圧力降下データ取得期間を確保することが可能になる。また、近年では、ガス供給時の下流側圧力P2(すなわち、図2のおける初期下流側圧力P2i)が比較的高いときもあるが、実際に臨界膨張条件下であるか否かを判定したうえで自己診断を行うので、診断精度を向上させることができるとともに、コントロール弁6のみを閉じることで、臨界膨張条件を維持できる期間がより長くなるため、より容易に自己診断を行い得る。
【0029】
一方、図2の破線で示すグラフは、コントロール弁6と同時に遮断弁11を閉じたときの、上流側圧力P1及び下流側圧力P2の変化を示すグラフである。上流側圧力P1はガス流通時の初期上流側圧力P1iから降下し、下流側圧力P2はガス流通時の初期下流側圧力P2iから上昇する。すなわち、絞り部2の上流側と下流側とで差圧が解消するように圧力変動が生じ、上流側圧力P1と下流側圧力P2とは、時間の経過とともに実質的に同じ平衡圧力値P’’へと収束する。臨界膨張条件を満足する時刻t1~t2‘の間の臨界膨張期間Δt’は、実線の場合と比べ短いものの、遮断弁11を閉じているので、他のガス供給ラインを用いた半導体製造に影響を及ぼすことなく自己診断工程を実行することができる。
【0030】
臨界膨張条件の下限を示す圧力比P1/P2は、ガス種によって異なり、例えば、アルゴンガスの場合は2.05であるが、水素では1.90、窒素では1.89というように、ガス種それぞれで決まった値がある。また、臨界膨張条件は、上流ガス温度によっても変化する。このため、制御機構7は、ガスの種類及びガス温度のうちの少なくとも一方に基づいて、自己診断時における臨界膨張条件の判定式を決定するように構成されていてもよい。
【0031】
以下、自己診断の具体例を説明する。制御機構7は、コントロール弁6を閉じた後、測定された上流側圧力P1及び下流側圧力P2から臨界膨張条件下であるか否かを確認するとともに、臨界膨張期間Δtにおいて測定された上流側圧力P1の圧力降下データP1(t)と、予め記憶された基準圧力降下データY(t)とを比較する。基準圧力降下データY(t)は、一般には、工場出荷前に予め計測され、制御機構7のメモリに記憶されている。基準圧力降下データY(t)は、ここでは工場出荷前に予め計測された正常時の圧力降下データであるが、異常状態時の測定データ、前回測定データ、または、測定によらない設定データなどであってもよい。
【0032】
図3は、コントロール弁6を閉じた後の、正常時の上流側圧力P1の圧力降下曲線A1、絞り部に目詰まりが生じているときの圧力降下曲線A2、及び、絞り部に腐食等による開口拡大が生じているときの圧力降下曲線A3を示す。
【0033】
図3からわかるように、絞り部2に目詰まりが生じている場合、ガスがより流れにくくなっているので、正常時の圧力降下曲線A1に対して圧力降下曲線A2は上側にずれる。このとき、上流側圧力P1が所定値まで低下するまでに必要な時間がより長くなる。また、コントロール弁6を閉じた後の所定時間経過後の上流側圧力P1が正常時に比べて高くなる。
【0034】
一方、絞り部2の開口拡大が生じている場合、ガスがより流れやすくなっているので、正常時の圧力降下曲線A1に対して圧力降下曲線A3は下側にずれる。このとき、上流側圧力P1が所定値まで低下するまでに必要な時間がより短くなる。また、コントロール弁6を閉じた後の所定時間経過後の上流側圧力P1が正常時に比べて低くなる。
【0035】
次に、本発明での回帰型ニューラルネットワークを用いたAIによる補正値の計算式の求め方について説明する。
【0036】
通常、圧力式流量制御装置では、装置の出荷前試験として、流量の校正作業を行う。具体的には、上流側圧力を制御するために、コントロール弁6の開閉制御を行う設定値の補正を行うものである。圧力式流量制御装置を使用する場合、圧力式流量制御装置が制御できる最大流量を100%として、外部(例えば、半導体製造設備)からの流量設定値の要求(例えば、最大流量の50%流量が必要なときは50%)に応じて制御機構7が上流側圧力を設定する。これは、例えば、外部からの要求が設定100%のとき、制御機構7の演算部(例えば、CPU等)は48000digitsとしてコントロール弁6の開度指令を発信する。この48000digitsという値は、制御機構7内でのデジタル信号の値で、臨界膨張条件を満たす場合、上流側圧力を制御することで流量は制御され、絞り部2であるオリフィス径等によって異なるが、例えば、100%の流量を流す際には、上流側圧力を300kPaに設定するようにコントロール弁6を制御するために便宜的に内部指令用の値として決められた値ある。更に、具体的には、コントロール弁6がピエゾバルブの場合、48000digitsでは、例えば、ピエゾ電圧を80Vに設定するように指令を出すものである。また、図4(a)に示すように、設定10%流量の場合は、4800digits、1%流量の場合は、480digitsの指令を発信して上流側圧力を制御するためにコントロール弁6を制御する。
【0037】
圧力式流量制御装置の種類によって異なるものの、本実施形態で使用した圧力式流量制御装置では、100%設定の時、600sccm流れるよう設計されている(以下、設計された流量値を基準値という)。実際に制御機構7から表に示す1、3、5、10、20、40、60、100%設定値に応じた指令を受けることで上流側圧力を制御するために図4(a)に示す右欄のdigitsに応じてコントロール弁6を制御する。この際に、実際に流れる流量を測定すると基準値に対して、図4(b)に示すように、±0.1~0.4程度の誤差が生じる。これは、機器ごとに絞り部であるオリフィス径が径寸法の誤差範囲で若干異なることや、装置毎の器差があるために発生するものである。そして、設定値毎に生じた誤差を加味して図4(c)に示す補正値を決定する。ついで、絞り部2であるオリフィスの特性を知るために、上流側圧力が300kPa(制御機構の内部では48000digits)のときコントロールバルブを閉じて、図4(d)に示す、上流側圧力の経時的変化の圧力降下データを記録する。
【0038】
この圧力降下データ及び補正値をワンセットとして、例えば1000件のデータを使用し、回帰型ニューラルネットワークを構成する複数のノード間を接続する重みの値を計算する。
【0039】
図5は、回帰型ニューラルネットワークの模式図である。入力層80は、本実施形態では圧力降下データ、出力層82は補正値である。入力層の数は49個であり、49個の圧力降下データから、図4(c)の補正値の数である9個の出力層の値を計算により求めるものである。中間層81の数は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、a層に64node、b層128node、c層256node、d層128node、e層64nodeの例を示す。(xnのnは48、anのnは63となり以下、nの数はnode数に応じて変化する。)
【0040】
中間層の各nodeの数によりnode間を結ぶ重みの数が変化する。重みの数(中間層の層数と各層のnodeの数)が増えるほどニューラルネットワークの表現力が向上するが計算に多大な時間を要する。近年のコンピュータの高速化により中間層の数を大幅に拡大が可能となっている。入力層80に値を入力し、出力層82に出力値を得るためには、まず重みを決定する必要がある。この重みの値を学習することで、良好な予測が可能となる。本実施形態では、事前に出荷前試験で入手した約1000件の圧力降下データ及び補正値(入力層の値(圧力降下データ)と出力層の値(補正値))から各node間を接続する重みを計算し、中間層での数値予測計算式y=f(x)を構築する。
【0041】
以下、本実施形態における流量制御の具体例について説明する。図6は圧力式流量制御装置10で行った自己診断の結果である圧力降下データに基づき、上述した数値予測計算式y=f(x)を用いて補正値を導出する工程を示すフローチャートである。
【0042】
図6に示すように、圧力式流量制御装置10では絞り部2の状態を判定するための自己診断が行われる。まずステップS1に示すように、設定流量、例えば100%設定流量でガスが流されている状態で制御機構7がガス供給の停止命令を受け取り、コントロール弁6に閉命令(例えば流量0%命令)を出す。
【0043】
次に、ステップS2に示すように、上流側圧力センサ3の出力に基づいて、上流側圧力の圧力降下データ(運用中圧力降下データ)を計測する。運用中圧力降下データは、上流側圧力センサ3及び下流側圧力センサ4の出力に基づいて臨界膨張条件を満たしているか否かを判定しながら、上流側圧力センサ3の出力をサンプリングし、圧力降下データP1(t)を取得することが好ましい。臨海膨張条件を満足していない場合、圧力が抜けにくくなり、降下特性が変化することから、ニューラルネットワークの学習と予測に不都合が生じる可能性があるためである。
【0044】
次に、ステップS3に示すように、制御機構7に運用中圧力降下データを送信し、出荷時に記録した初期の圧力降下データ(データ更新されていた場合、その更新データ)と比較し、その変化が許容範囲か否かを判定する。送信された圧力降下データP1(t)が許容範囲と判定した場合、ステップS7に示すように、絞り部に異常が発生しておらず、流量制御信号の補正は必要ないものと判断して診断工程を終了する。
【0045】
一方、ステップS4において、変化が許容範囲ではないと判断されたときは、ステップS5に示すように、回帰型ニューラルネットワークの入力層80のx0~x48に49個のP1(t)(tは、例えば、測定開始時を0として、2秒ごとに取得した上流側の圧力値)を入力し、入力層80、中間層81及び出力層82を構成する複数のノード間を接続する重みの値に基づいて構築した数値予測計算式を実行する計算部によって、出力層82から9つの補正値y0~y8が出力される。出力された補正値(運用中補正データ)は、出荷時に設定されている補正値(例えば、図4(c)に示す補正値)を更新し、ステップS6に示すように、新たな補正値として制御機構7の記憶部に記憶される。
【0046】
このようにして、自己診断工程の結果である圧力降下データP1(t)から補正値が求められる。そして、次回以降の流量制御で用いる内部流量制御信号を生成するための補正式が決定される。
【0047】
また、制御機構7は、運用中圧力降下データ及び運用中補正データを記録するデータ記録部を備え、計算部が更に重みの値を計算し更新することで、ニューラルネットワークによるAI予測の正確性が向上する。更に、ネットワークで接続された他の圧力制御装置の運用中圧力降下データ及び/又は補正データを取得し、重みの値を更新することでAI予測の正確性はより向上する。ネットワークで接続された他の圧力制御装置は同じ工場内に設置されている圧力制御装置のみならず、他工場に設置されている圧力制御装置のデータを用いることもできる。
【0048】
また、制御機構7は、複数の圧力制御装置を制御するように高速CPU、大容量メモリ及び大容量記憶装置を備えたコンピュータシステムを用いることもできる。この場合も、同じ工場内のみならず、ネットワーク接続された他工場に配置される圧力制御装置を一元的に管理することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の実施形態による圧力式流量制御装置は、半導体製造設備等において供給するガスの流量を長期間にわたり精度よく制御するための好適に利用される。
【符号の説明】
【0050】
1 流路
2 絞り部
3 上流側圧力センサ
4 下流側圧力センサ
5 温度センサ
6 コントロール弁
7 制御機構
10 圧力式流量制御装置
11 遮断弁
12 プロセスチャンバ
13 真空ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6