(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109290
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】電極、全固体電池、および、全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230801BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20230801BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0585
H01M10/0562
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010724
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】坂本 竜斗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博友
(72)【発明者】
【氏名】深川 聡一郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ12
5H029HJ14
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA18
5H050FA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA12
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】本開示は、高温時における集電体および活物質層の密着性が良好な電極を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、全固体電池に用いられる電極であって、上記電極は、集電体と、接着性を有する炭素材料層と、活物質層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記炭素材料層は、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する、電極を提供することにより、上記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる電極であって、
前記電極は、集電体と、接着性を有する炭素材料層と、活物質層とを、厚さ方向において、この順に有し、
前記炭素材料層は、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する、電極。
【請求項2】
前記炭素材料層における前記分散材の割合が、1重量%以上である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記炭素材料層における前記分散材の割合が、35重量%以下である、請求項1または請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記炭素材料層において、前記炭素材料に対する前記分散材の重量割合が、0.05以上、1.2以下である、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項5】
前記炭素材料層は、前記バインダーを主成分として含有する、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項6】
前記炭素材料層における前記バインダーの割合が、50重量%以上である、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項7】
前記炭素材料層において、前記炭素材料に対する前記バインダーの重量割合が、2.0以上である、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項8】
前記炭素材料層において、前記炭素材料に対する前記バインダーの重量割合が、2.8以上である、請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項9】
前記分散材が、ビニル系樹脂およびセルロース誘導体の少なくとも一方を含む、請求項1から請求項8までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項10】
前記分散材が、ポリビニルアルコールを含む、請求項1から請求項9までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項11】
前記バインダーが、アクリル系バインダーおよびメタクリル系バインダーの少なくとも一方を含む、請求項1から請求項10までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項12】
前記炭素材料の吸油量が、175cm3/100g以上である、請求項1から請求項11までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項13】
前記炭素材料が、カーボンブラックを含む、請求項1から請求項12までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項14】
前記バインダーが、前記炭素材料層の前記集電体側の表面に、少なくとも存在する、請求項1から請求項13までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項15】
前記集電体および前記活物質層の剥離強度が、80℃において、0.10N/cm以上である、請求項1から請求項14までのいずれかの請求項に記載の電極。
【請求項16】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極の間に配置された固体電解質層と、を備える全固体電池であって、
前記第1電極および前記第2電極の少なくとも一方が、請求項1から請求項15までのいずれかの請求項に記載の電極である、全固体電池。
【請求項17】
前記全固体電池は、前記第1電極として、第1電極Aおよび第1電極Bを備え、かつ、前記固体電解質層として、固体電解質層Aおよび固体電解質層Bを備え、
前記第2電極は、第2集電体と、前記第2集電体の一方の面に形成された第2活物質層Aと、前記第2集電体の他方の面に形成された第2活物質層Bと、を有し、
前記全固体電池は、前記第1電極A、前記固体電解質層A、前記第2電極、前記固体電解質層Bおよび前記第1電極Bを、厚さ方向において、この順に有し、
前記第1電極Aおよび前記第1電極Bの少なくとも一方が、前記電極である、請求項16に記載の全固体電池。
【請求項18】
第1活物質層A、固体電解質層A、第2活物質層A、第2集電体、第2活物質層B、固体電解質層Bおよび第1活物質層Bを、厚さ方向において、この順に有する前駆積層体を準備する準備工程と、
前記前駆積層体における前記第1活物質層A上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第1炭素材料層を介して、第1集電体Aを配置する第1配置工程と、
を有する、全固体電池の製造方法。
【請求項19】
前記前駆積層体における前記第1活物質層B上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第2炭素材料層を介して、第1集電体Bを配置する第2配置工程を有する、請求項18に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極、全固体電池、および、全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極および負極の間に、固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1の集電箔、第1の合材層、固体電解質層、第2の合材層、第2の集電箔を備え、第2の集電箔の第2の合材層側の面に、接着機能を有する炭素材料層を設けた全固体電池が開示されている。また、特許文献2には、第1の集電体層、第1の活物質層、固体電解質層、第2の活物質層、第2の集電体層、第2の活物質層、固体電解質層、第1の活物質層、及び第1の集電体層がこの順に積層された積層電池ユニットを備え、隣接して積層されている第1の集電体層と第1の活物質層とが、接着材によって互いに接着された全固体電池が開示されている。
【0004】
特許文献3には、第1の電極の集電体、第1の電極の活物質層、固体電解質層、第2の電極の活物質層、第2の電極の集電体、第2の電極の活物質層、固体電解質層、および第1の電極の活物質層がこの順に積層された電池ユニットを2つ以上備え、電池ユニットの第1の電極の集電体と、この集電体に隣接して積層された電池ユニットとを接着するための接着手段を有する全固体電池が開示されている。また、電池とは分野が異なるものの、特許文献4には、特定の導電性粒子がバインダー樹脂中に分散された異方性導電材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-129485号公報
【特許文献2】特開2020-140932号公報
【特許文献3】特開2017-204377号公報
【特許文献4】特開2019-021635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、集電体および活物質層の間に、接着性を有する炭素材料層を設けることが知られている。一方、全固体電池が高温(例えば80℃)になると、炭素材料層の接着性が低下し、集電体および活物質層の密着性が低下する場合がある。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高温時における集電体および活物質層の密着性が良好な電極を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示においては、全固体電池に用いられる電極であって、上記電極は、集電体と、接着性を有する炭素材料層と、活物質層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記炭素材料層は、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する、電極を提供する。
【0009】
本開示によれば、集電体および活物質層の間に特定の炭素材料層を配置することで、高温時における集電体および活物質層の密着性が良好な電極となる。
【0010】
上記開示において、上記炭素材料層における上記分散材の割合が、1重量%以上であってもよい。
【0011】
上記開示において、上記炭素材料層における上記分散材の割合が、35重量%以下であってもよい。
【0012】
上記開示において、上記炭素材料層において、上記炭素材料に対する上記分散材の重量割合が、0.05以上、1.2以下であってもよい。
【0013】
上記開示において、上記炭素材料層は、上記バインダーを主成分として含有していてもよい。
【0014】
上記開示において、上記炭素材料層における上記バインダーの割合が、50重量%以上であってもよい。
【0015】
上記開示において、上記炭素材料層において、上記炭素材料に対する上記バインダーの重量割合が、2.0以上であってもよい。
【0016】
上記開示において、上記炭素材料層において、上記炭素材料に対する上記バインダーの重量割合が、2.8以上であってもよい。
【0017】
上記開示において、上記分散材が、ビニル系樹脂およびセルロース誘導体の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0018】
上記開示において、上記分散材が、ポリビニルアルコールを含んでいてもよい。
【0019】
上記開示において、上記バインダーが、アクリル系バインダーおよびメタクリル系バインダーの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0020】
上記開示において、上記炭素材料の吸油量が、175cm3/100g以上であってもよい。
【0021】
上記開示において、上記炭素材料が、カーボンブラックを含んでいてもよい。
【0022】
上記開示において、上記バインダーが、上記炭素材料層の上記集電体側の表面に、少なくとも存在していてもよい。
【0023】
上記開示において、上記集電体および上記活物質層の剥離強度が、80℃において、0.10N/cm以上であってもよい。
【0024】
また、本開示においては、第1電極と、第2電極と、上記第1電極および上記第2電極の間に配置された固体電解質層と、を備える全固体電池であって、上記第1電極および上記第2電極の少なくとも一方が、上述した電極である、全固体電池を提供する。
【0025】
本開示によれば、第1電極および第2電極の少なくとも一方が、上述した電極であるため、高温時の耐久性が良好な全固体電池となる。
【0026】
上記開示において、上記全固体電池は、上記第1電極として、第1電極Aおよび第1電極Bを備え、かつ、上記固体電解質層として、固体電解質層Aおよび固体電解質層Bを備え、上記第2電極は、第2集電体と、上記第2集電体の一方の面に形成された第2活物質層Aと、上記第2集電体の他方の面に形成された第2活物質層Bと、を有し、上記全固体電池は、上記第1電極A、上記固体電解質層A、上記第2電極、上記固体電解質層Bおよび上記第1電極Bを、厚さ方向において、この順に有し、上記第1電極Aおよび上記第1電極Bの少なくとも一方が、上記電極であってもよい。
【0027】
また、本開示においては、第1活物質層A、固体電解質層A、第2活物質層A、第2集電体、第2活物質層B、固体電解質層Bおよび第1活物質層Bを、厚さ方向において、この順に有する前駆積層体を準備する準備工程と、上記前駆積層体における上記第1活物質層A上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第1炭素材料層を介して、第1集電体Aを配置する第1配置工程と、を有する、全固体電池の製造方法を提供する。
【0028】
本開示によれば、第1活物質層A上に、第1炭素材料層を介して、第1集電体Aを配置することで、高温時の耐久性が良好な全固体電池が得られる。
【0029】
上記開示においては、上記前駆積層体における上記第1活物質層B上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第2炭素材料層を介して、第1集電体Bを配置する第2配置工程を有していてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本開示においては、高温時における集電体および活物質層の密着性が良好な電極を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本開示における電極を例示する概略断面図である。
【
図2】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図3】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図4】本開示における全固体電池の製造方法を例示する概略断面図である。
【
図5】本開示における全固体電池を例示する概略平面図である。
【
図6】実施例1~7および比較例1、2で得られた全固体電池に対する剥離強度測定の結果である。
【
図7】実施例1~7および比較例1、2で得られた全固体電池に対する抵抗測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本開示における電極、全固体電池、および、全固体電池の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0033】
A.電極
図1は、本開示における電極を例示する概略断面図であり、具体的には、本開示における正極を例示する概略断面図である。
図1に示す正極10は、正極集電体1と、接着性を有する炭素材料層3と、正極活物質層2とを、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する。
図1において、正極集電体1および炭素材料層3は、互いに接触している。同様に、炭素材料層3および正極活物質層2は、互いに接触している。炭素材料層2は、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する。
【0034】
本開示によれば、集電体および活物質層の間に特定の炭素材料層を配置することで、高温時における集電体および活物質層の密着性が良好な電極となる。上述したように、全固体電池が高温(例えば80℃)になると、炭素材料層の接着性が低下し、集電体および活物質層の密着性が低下する場合がある。例えば、全固体電池が発電反応により発熱が生じるため、全固体電池の作動状況によっては、全固体電池の温度が高温に達する場合がある。また、集電体および活物質層の密着性が低下する理由は、高温時にバインダーが軟化するためであると推測される。
【0035】
本開示においては、炭素材料層に、炭素材料の分散性を向上させる分散材を添加する。これにより、炭素材料層において、炭素材料は高度に分散される。その結果、高温時にバインダーが軟化した場合であっても、高度に分散された炭素材料により、粘度が高く維持され、集電体および活物質層の密着性の低下も抑制されると推定される。また、炭素材料の分散性が向上することで、炭素材料層におけるバインダーの割合を高くしても、良好なイオン伝導パスが維持される。その結果、抵抗の増加が抑制される。すなわち、炭素材料層におけるバインダーの割合を高くした場合に、集電体および活物質層の密着性向上と、抵抗の増加抑制とを両立できる。また、炭素材料層におけるバインダーの割合を高くした場合、集電体および活物質層の密着性の低下を、より抑制できるという利点もある。
【0036】
1.炭素材料層
本開示における炭素材料層は、集電体および活物質層の間に配置される。炭素材料層は、集電体および活物質層の密着性を向上させる程度の接着性を有する。また、炭素材料層は、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する。一方、炭素材料層は、活物質を含有しないことが好ましい。同様に、炭素材料層は、固体電解質を含有しないことが好ましい。
【0037】
(1)分散材
炭素材料層における分散材は、炭素材料層における炭素材料の分散性を向上させる。分散材は、例えば、水溶性材料である。水溶性材料とは、25℃で水99g中に、対象となる材料1gを入れて撹拌し、25℃で24時間放置した場合に、分離および析出をせずに水中に完全に溶解する材料をいう。水溶性材料は、水溶性樹脂であることが好ましい。分散材としては、例えば、ビニル系樹脂およびセルロース誘導体が挙げられる。ビニル系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラールが挙げられる。セルロース誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。炭素材料層は、分散材を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0038】
炭素材料層における分散材の割合は、例えば1重量%以上であり、5重量%以上であってもよい。分散材の割合が少なすぎると、分散材による炭素材料の分散効果が十分に得られない可能性がある。一方、炭素材料層における分散材の割合は、例えば50重量%以下であり、35重量%以下であってもよい。分散材の割合が多すぎると、炭素材料およびバインダーの割合が相対的に低くなり、抵抗が高くなったり、接着性が低くなったりする場合がある。
【0039】
炭素材料層において、炭素材料に対する分散材の重量割合は、例えば0.01以上であり、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。分散材の重量割合が少なすぎると、分散材による炭素材料の分散効果が十分に得られない可能性がある。一方、炭素材料層における分散材の重量割合は、例えば1.5以下であり、1.2以下であってもよく、1.0以下であってもよい。分散材の重量割合が多すぎると、炭素材料およびバインダーの割合が相対的に低くなり、抵抗が高くなったり、接着性が低くなったりする場合がある。
【0040】
(2)炭素材料
炭素材料層における炭素材料は、炭素材料層に電子伝導性を付与する。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック(FB)、ケッチェンブラック(KB)が挙げられる。炭素材料は、粒子状炭素材料であってもよく、繊維状炭素材料であってもよい。炭素材料の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上、50μm以下であり、100nm以上20μm以下であってもよい。
【0041】
炭素材料の吸油量は、特に限定されないが、例えば68cm3/100g以上であり、175cm3/100g以上であってもよい。炭素材料の吸油量は、炭素材料の粒子同士が融着したストラクチャの発達の程度を示す指標であり、一般的に、炭素材料の吸油量が大きいほど、ストラクチャが発達していることを意味する。高温時にバインダーが軟化した場合であっても、炭素材料のストラクチャが発達していることで、炭素材料層に強度を付与でき、集電体および活物質層の密着性の低下を抑制できる。炭素材料の吸油量は、吸収量測定器を用い、炭素材料にDBP(フタル酸ジブチル)を吸収させることで求めることができる。
【0042】
炭素材料層における炭素材料の割合は、例えば10重量%以上であり、15重量%以上であってもよい。炭素材料の割合が少なすぎると、電子伝導パスが十分に形成されず、抵抗が高くなる可能性がある。一方、炭素材料層における炭素材料の割合は、例えば50重量%以下であり、35重量%以下であってもよい。炭素材料の割合が多すぎると、分散材およびバインダーの割合が相対的に低くなり、炭素材料の分散効果が低くなったり、接着性が低くなったりする場合がある。
【0043】
(3)バインダー
炭素材料層におけるバインダーは、炭素材料層に接着性を付与する。バインダーとしては、例えば、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリ2-エチルヘキシルアクリレート、ポリデシルアクリレート、ポリアクリル酸等のアクリル系バインダー;ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリラート、ポリブチルメタクリレート、ポリ2-エチルヘキシルメタクリレート、ポリメタクリル酸等のメタクリル系バインダー;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ化物系バインダー;ブタジエンゴム、水素化ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等のゴム系バインダーが挙げられる。
【0044】
上記バインダーは、アクリル系バインダーおよびメタクリル系バインダーの少なくとも一方を含むことが好ましい。アクリル系バインダーおよびメタクリル系バインダーは、温度による弾性率の変化が大きく、炭素材料層を介して集電体および活物質層を接着する際の作業性が高いからである。上記バインダーは、水溶性材料であってもよい。
【0045】
上記バインダーのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば30℃以下であり、25℃以下であってもよい。一方、上記バインダーのガラス転移温度(Tg)は、例えば-35℃以上である。バインダーのガラス転移温度(Tg)は、JISK7121およびJISK7122に基づいて求めることができる。
【0046】
炭素材料層におけるバインダーの割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、50重量%以上であってもよい。バインダーの割合が少なすぎると、集電体および活物質層の密着性が低くなる可能性がある。一方、炭素材料層におけるバインダーの割合は、例えば90重量%以下であり、80重量%以下であってもよい。バインダーの割合が多すぎると、炭素材料および分散材の割合が相対的に低くなり、抵抗が高くなったり、炭素材料の分散効果が低くなったりする場合がある。
【0047】
炭素材料層は、バインダーを主成分として含有していてもよい。「主成分」とは、炭素材料層において、重量割合が最も高い成分をいう。例えば、炭素材料層において、バインダーの割合が40重量%であり、炭素材料の割合が30重量%であり、分散材の割合が30重量%である場合、炭素材料層はバインダーを主成分として含有すると判断される。一方、炭素材料層は、バインダーを主成分として含有していなくてもよい。その場合、炭素材料層は、炭素材料および分散材の少なくとも一方を主成分として含有することが好ましい。
【0048】
炭素材料層において、炭素材料に対するバインダーの重量割合は、例えば0.8以上であり、1.5以上であってもよく、2.0以上であってもよく、2.4以上であってもよく、2.8以上であってもよい。バインダーの重量割合が少なすぎると、集電体および活物質層の密着性が低くなる可能性がある。一方、炭素材料層におけるバインダーの重量割合は、例えば7.0以下であり、5.0以下であってもよい。バインダーの重量割合が多すぎると、炭素材料および分散材の割合が相対的に低くなり、抵抗が高くなったり、炭素材料の分散効果が低くなったりする場合がある。
【0049】
(4)炭素材料層
本開示における炭素材料層は、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する。バインダーは、炭素材料層の集電体側の表面に、少なくとも存在することが好ましい。集電体に対する炭素材料層の接着性が向上するからである。バインダーは、炭素材料層に、均一に存在していてもよい。
【0050】
炭素材料層は、集電体および活物質層の密着性を向上させる。炭素材料層を介して配置された集電体および活物質層の剥離強度は、80℃において、例えば0.05N/cm以上であり、0.10N/cm以上であってもよく、0.30N/cm以上であってもよく、0.60N/cm以上であってもよい。集電体および活物質層の剥離強度は、80℃において、例えば1N/cm以下である。剥離強度の測定方法について、後述する実施例で説明する。
【0051】
炭素材料層の電子伝導度(25℃)は、例えば20S/cm以上、200S/cm以下である。また、炭素材料層の厚さは、例えば0.5μm以上であり、1μm以上であってもよく、2μm以上であってもよい。一方、炭素材料層の厚さは、例えば15μm以下であり、12μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、8μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。
【0052】
炭素材料層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、炭素材料と、分散材と、バインダーと、分散媒とを含有するスラリーを、集電体上に塗工し、乾燥する方法が挙げられる。分散媒は、例えば、親水性を有することが好ましい。炭素材料は、通常、疎水性を有しているため、親水性を有する分散媒との親和性が低い。これに対して、炭素材料および分散媒の間に、親水性を有する分散材が介在することで、炭素材料の凝集が解消され、炭素材料の分散性が向上すると推測される。親水性を有する分散媒としては、例えば、水、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類が挙げられる。分散媒は、少なくとも水を含むことが好ましい。
【0053】
2.集電体
本開示における集電体は、炭素材料層を介して活物質層の集電を行う。本開示における電極が正極である場合、上記集電体は正極集電体であり、本開示における電極が負極である場合、上記集電体は負極集電体である。
【0054】
正極集電体に含まれる金属元素としては、例えばAl、Ni、Feが挙げられる。正極集電体は、上記金属元素の単体であってもよく、上記金属元素を主成分として含有する合金であってもよい。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0055】
負極集電体に含まれる金属元素としては、例えばCu、Ni、Feが挙げられる。負極集電体は、上記金属元素の単体であってもよく、上記金属元素を主成分として含有する合金であってもよい。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0056】
集電体の厚さは、例えば、0.1μm以上、500μm以下であり、1μm以上、100μm以下であってもよい。
【0057】
3.活物質層
本開示における活物質層は、少なくとも活物質を含有する。本開示における電極が正極である場合、上記活物質は正極活物質であり、本開示における電極が負極である場合、上記活物質は負極活物質である。
【0058】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の岩塩層状型活物質、LiMn2O4、Li(Ni0.5Mn1.5)O4、Li4Ti5O12等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4等のオリビン型活物質が挙げられる。また、正極活物質として、硫黄(S)または硫化リチウム(Li2S)を用いてもよい。
【0059】
また、正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えばLiNbO3が挙げられる。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上、100nm以下であり、1nm以上、20nm以下であってもよい。
【0060】
負極活物質としては、例えば、金属活物質、カーボン活物質、酸化物活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、金属単体、金属合金が挙げられる。金属活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Si、Sn、Li、In、Al等が挙げられる。金属合金は、上記金属元素を主成分として含有する合金であることが好ましい。金属合金は、2成分系合金であってもよく、3成分系以上の多成分系合金であってもよい。カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。また、酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12等のチタン酸リチウムが挙げられる。
【0061】
活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上、50μm以下であり、100nm以上20μm以下であってもよい。活物質層における活物質の割合は、例えば50重量%以上であり、60重量%以上99重量%以下であってもよい。
【0062】
活物質層は、固体電解質をさらに含有していてもよい。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質は、Li、A(Aは、P、Si、Ge、AlおよびBの少なくとも一種である)、およびSを含有することが好ましい。また、硫化物固体電解質は、オルト組成のアニオン構造(PS4
3-構造、SiS4
4-構造、GeS4
4-構造、AlS3
3-構造、BS3
3-構造)をアニオンの主成分として有することが好ましい。オルト組成のアニオン構造の割合は、硫化物固体電解質における全アニオン構造に対して、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよい。また、硫化物固体電解質はハロゲン化リチウムを含有していてもよい。ハロゲン化リチウムとしては、例えば、LiCl、LiBr、LiIが挙げられる。また、固体電解質は、ガラスであってもよく、結晶化ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、結晶材料であってもよい。固体電解質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。
【0063】
活物質層は、導電材およびバインダーの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。導電材としては、例えば、上記「1.炭素材料層」に記載した炭素材料が挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ化物系バインダー;ブタジエンゴム、水素化ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等のゴム系バインダーが挙げられる。活物質層に用いられるバインダーは、炭素材料層に用いられるバインダーとは、種類が異なることが好ましい。例えば、活物質層に用いられるバインダーは、フッ化物系バインダーまたはゴム系バインダーであり、炭素材料層に用いられるバインダーは、アクリル系バインダーまたはメタクリル系バインダーであることが好ましい。
【0064】
活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上500μm以下であり、1μm以上100μm以下であってもよい。
【0065】
4.電極
本開示における電極は、集電体と、接着性を有する炭素材料層と、活物質層とを、厚さ方向において、この順に有する。また、本開示における電極は、通常、全固体電池に用いられる。全固体電池の詳細については、後述する。また、本開示においては、全固体電池に用いられる集電体であって、一方の表面に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有し、かつ、接着性を有する炭素材料層を備える、集電体を提供することもできる。
【0066】
B.全固体電池
図2は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図2に示す全固体電池100は、第1電極である正極10と、第2電極である負極20と、正極10および負極20の間に配置された固体電解質層30と、を備える。正極10は、上記「A.電極」に記載した電極に該当する。すなわち、正極10は、正極集電体1、炭素材料層3および正極活物質層2を、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する。一方、負極20は、上記「A.電極」に記載した電極に該当しない。負極20は、負極集電体11および負極活物質層12を、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する。固体電解質層30は、正極10における正極活物質層2と、負極20における負極活物質層12との間に配置される。
【0067】
本開示によれば、第1電極および第2電極の少なくとも一方が、上述した電極であるため、高温時の耐久性が良好な全固体電池となる。
【0068】
1.第1電極および第2電極
本開示における全固体電池は、第1電極と、第1電極とは逆の極性を有する第2電極と、を有する。例えば、第1電極が正極である場合、第2電極が負極となる。逆に、第1電極が負極である場合、第2電極が正極となる。厚さ方向において全固体電池を平面視した場合に、負極活物質層は、正極活物質層の外縁を包含するように配置されていることが好ましい。デンドライトによる短絡が生じにくくなるからである。
【0069】
第1電極は、第1集電体および第1活物質層を有する。第1電極が上記「A.電極」に記載した電極に該当する場合、第1電極は、第1集電体および第1活物質層の間に、第1炭素材料層を有する。一方、第2電極は、第2集電体および第2活物質層を有する。第2電極が上記「A.電極」に記載した電極に該当する場合、第2電極は、第2集電体および第2活物質層の間に、第2炭素材料層を有する。
【0070】
本開示においては、(i)第1電極が「A.電極」に記載した電極に該当し、第2電極が「A.電極」に記載した電極に該当しなくてもよく、(ii)第1電極および第2電極が、それぞれ「A.電極」に記載した電極に該当してもよい。(i)の場合、第1電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。
【0071】
2.固体電解質層
固体電解質層は、第1電極および第2電極の間に配置される層である。固体電解質層は、固体電解質を少なくとも含有し、さらにバインダーを含有していてもよい。固体電解質およびバインダーについては、上記「A.電極」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層は、硫化物固体電解質を含有することが好ましい。硫化物固体電解質は、イオン伝導性が高いからである。
【0072】
固体電解質層における固体電解質の割合は、例えば、10重量%以上、100重量%以下であり、50重量%以上、100重量%以下であってもよい。また、固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、500μm以下であり、1μm以上、100μm以下であってもよい。
【0073】
3.全固体電池
本開示における全固体電池は、第1電極と、第2電極と、上記第1電極および上記第2電極の間に配置された固体電解質層と、を備える。ここで、第1電極、第2電極および固体電解質層のセットを、発電単位とした場合、全固体電池は、発電単位を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。後者の場合、複数の発電単位は、それぞれ、直列接続されていてもよく、並列接続されていてもよい。
【0074】
図3は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図であり、具体的には、複数の発電単位が並列接続された全固体電池である。また、
図3においては、第1電極が正極であり、第2電極が負極である。
図3に示す全固体電池100は、正極10として、正極A(正極10A)および正極B(正極10B)を備える。また、全固体電池100は、固体電解質層30として、固体電解質層A(固体電解質層30A)および固体電解質層B(固体電解質層30B)を備える。また、負極20は、負極集電体11と、負極集電体11の一方の面に形成された負極活物質層A(負極活物質層12a)と、負極集電体11の他方の面に形成された負極活物質層B(負極活物質層12b)とを有する。固体電解質層A(固体電解質層30A)は、負極活物質層12aおよび正極活物質層2aの間に配置され、固体電解質層B(固体電解質層30B)は、負極活物質層12bおよび正極活物質層2bの間に配置されている。
【0075】
図3に示す全固体電池100は、負極集電体11を基準にして、厚さ方向D
Tにおいて対称的な構造を有するため、活物質層の伸縮性の違いにより生じるひずみの発生を抑制できる。例えば、集電体の一方の面に正極活物質層を配置し、他方の面に負極活物質層を配置したバイポーラ電極を採用した場合、プレス条件によっては、正極活物質層と負極活物質層との伸縮性の違いにより、集電体にひずみが生じ、正極活物質層または負極活物質層に割れが発生する場合がある。これに対して、
図3に示すように、集電体の両面に、それぞれ、同じ極性を有する活物質層を配置することで、活物質層の伸縮性の違いにより生じるひずみの発生を抑制できるという利点がある。
【0076】
図3に示す全固体電池100は、正極A(正極10A)、固体電解質層A(固体電解質層30A)、負極20、固体電解質層B(固体電解質層30B)および正極B(正極10B)を、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する。
図3においては、正極Aおよび正極Bの両方が、上記「A.電極」に記載した電極に該当する。すなわち、正極A(正極10A)は、正極集電体1aと、第1炭素材料層3aと、正極活物質層2aとを、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する。同様に、正極B(正極10B)は、正極集電体1bと、第2炭素材料層3bと、正極活物質層2bとを、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する。
【0077】
図3においては、正極Aおよび正極Bの両方が、上記「A.電極」に記載した電極に該当するが、正極Aおよび正極Bの一方のみが、上記「A.電極」に記載した電極に該当してもよい。また、
図3においては、第1電極が正極であり、第2電極が負極であるが、この関係が逆であってもよい。すわなち、
図3における正極が負極であり、
図3における負極が正極であってもよい。その場合、負極Aおよび負極Bの両方が、上記「A.電極」に記載した電極に該当してもよく、負極Aおよび負極Bの一方のみが、上記「A.電極」に記載した電極に該当してもよい。
【0078】
本開示における全固体電池は、発電要素(第1電極、第2電極および固体電解質層)を収容する外装体を備えていてもよい。外装体としては、例えば、ラミネート型外装体、ケース型外装体が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、拘束治具により拘束圧が付与されていてもよく、拘束治具により拘束圧が付与されていなくてもよい。本開示における炭素材料層は、高温時において良好な接着性を有するため、拘束治具により拘束圧が付与されていなくても、抵抗が低い全固体電池となる。一方、拘束治具により拘束圧を付与する場合、その拘束圧は、例えば、1MPa以上、50MPa以下であり、5MPa以上、20MPa以下であってもよい。
【0079】
本開示における全固体電池の種類は特に限定されないが、典型的には、リチウムイオン二次電池である。さらに、本開示における全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0080】
C.全固体電池の製造方法
図4は、本開示における全固体電池の製造方法を例示する概略断面図である。
図4においては、第1電極が正極であり、第2電極が負極である場合を例示している。
図4に示す全固体電池の製造方法においては、まず、負極集電体11を準備する(
図4(a))。次に、負極集電体11の一方の面に、負極活物質層A(負極活物質層12a)を形成し、負極集電体11の他方の面に、負極活物質層B(負極活物質層12b)を形成する。これにより、負極20が得られる(
図4(b))。負極活物質層の形成方法としては、例えば、負極活物質層を形成するためのスラリーを、負極集電体11上に塗工し、その後、乾燥する方法が挙げられる。必要に応じて、負極20に対して、プレスを行ってもよい。
【0081】
次に、負極活物質層A(負極活物質層12a)上に、固体電解質層A(固体電解質層30A)を形成し、負極活物質層B(負極活物質層12b)上に、固体電解質層B(固体電解質層30B)を形成し、積層体Xを得る(
図4(c))。固体電解質層の形成方法としては、例えば、転写法が挙げられる。転写法としては、例えば、基材および固体電解質層を有する転写部材を準備し、転写部材における固体電解質層と、負極活物質層とを、対向するように配置した状態でプレスを行い、その後、固体電解質層から基材を剥離する方法が挙げられる。
【0082】
次に、積層体Xにおける固体電解質層A(固体電解質層30A)上に、第1活物質層A(第1活物質層2a)を形成し、積層体Xにおける固体電解質層B(固体電解質層30B)上に、第1活物質層B(第1活物質層2b)を形成し、積層体Yを得る(
図4(d))。第1活物質層の形成方法としては、例えば、転写法が挙げられる。転写法としては、例えば、基材および第1活物質層を有する転写部材を準備し、転写部材における第1活物質層と、固体電解質層とを、対向するように配置した状態でプレスを行い、その後、第1活物質層から基材を剥離する方法が挙げられる。その後、特に図示しないが、積層体Yを緻密化するために、プレス処理を行う。これにより、第1活物質層A(第1活物質層2a)、固体電解質層A(固体電解質層30A)、負極活物質層A(負極活物質層12a)、第2集電体11、負極活物質層B(負極活物質層12b)、固体電解質層B(固体電解質層30B)および第1活物質層B(第1活物質層2b)を、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有する前駆積層体が得られる。
【0083】
次に、前駆積層体における第1活物質層A(第1活物質層2a)上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第1炭素材料層3aを介して、第1集電体A(第1集電体1a)を配置する(
図4(e))。同様に、前駆積層体における第1活物質層B(第1活物質層2b)上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第2炭素材料層3bを介して、第1集電体B(第1集電体1b)を配置する(
図4(e))。これにより、全固体電池100が得られる。
【0084】
本開示によれば、第1活物質層A上に、第1炭素材料層を介して、第1集電体Aを配置することで、高温時の耐久性が良好な全固体電池が得られる。例えば、上述した
図4においては、積層体Yを緻密化するために、高い圧力でプレスを行う(緻密化プレス)。その際、積層体Yが、第1集電体Aを有していると、第1活物質層Aが十分に緻密化されなかったり、第1集電体Aに破損が生じたりする可能性がある。そのため、積層体Yは、第1集電体Aを有しない状態で、緻密化プレスされることが好ましい。また、緻密化プレス後に、第1活物質層A上に、第1集電体Aを配置することが好ましい。本開示においては、第1活物質層A上に、第1炭素材料層を介して、第1集電体Aを配置することで、高温時の耐久性が良好な全固体電池が得られる。
【0085】
1.準備工程
本開示における準備工程は、第1活物質層A、固体電解質層A、第2活物質層A、第2集電体、第2活物質層B、固体電解質層Bおよび第1活物質層Bを、厚さ方向において、この順に有する前駆積層体を準備する工程である。
【0086】
前駆積層体を準備する方法は、特に限定されないが、例えば、上述した
図4(a)~(d)に示した方法が挙げられる。また、前駆積層体を構成する各層については、上記「B.全固体電池」に記載した内容と同様である。
【0087】
2.第1配置工程
本開示における第1配置工程は、上記前駆積層体における上記第1活物質層A上に、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第1炭素材料層を介して、第1集電体Aを配置する工程である。
【0088】
第1炭素材料層は、予め第1集電体A上に形成されていてもよく、予め第1活物質層A上に形成されていてもよい。また、基材および第1炭素材料層を有する転写部材を用い、第1活物質層Aおよび第1集電体Aを対向させる直前に、第1活物質層Aまたは第1集電体Aに、第1炭素材料層を転写してもよい。第1炭素材料層および第1集電体Aについては、上記「B.全固体電池」に記載した内容と同様である。
【0089】
3.第2配置工程
本開示における全固体電池の製造方法は、通常、上記前駆積層体における上記第1活物質層B上に、第1集電体Bを配置する第2配置工程を有する。第1活物質層B上に、第1集電体Bを直接配置してもよく、第1活物質層B上に、別の層を介して第1集電体Bを配置してもよい。別の層としては、例えば、炭素材料と、分散材と、バインダーとを含有する第2炭素材料層が挙げられる。
【0090】
第2炭素材料層は、予め第1集電体B上に形成されていてもよく、予め第1活物質層B上に形成されていてもよい。また、基材および第2炭素材料層を有する転写部材を用い、第1活物質層Bおよび第1集電体Bを対向させる直前に、第1活物質層Bまたは第1集電体Bに、第2炭素材料層を転写してもよい。第2炭素材料層および第1集電体Bについては、上記「B.全固体電池」に記載した内容と同様である。
【0091】
4.全固体電池
上述した各工程により得られる全固体電池については、上記「B.全固体電池」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0092】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0093】
[実施例1]
(被覆層を有する正極活物質の作製)
正極活物質(Li1.15Ni1/3Co1/3Mn1/3O2を主相とする粒子)に、転動流動式コーティング装置(パウレック社製)を用いて、大気雰囲気下においてニオブ酸リチウムをコーティングし、大気雰囲気下で焼成を行った。これにより、ニオブ酸リチウムの被覆層を有する正極活物質を得た。
【0094】
(正極活物質層の作製)
ポリプロピレン製容器に、正極活物質、硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミック)、バインダー(PVDF)、導電材(VGCF、昭和電工社製)および分散媒を加え、超音波分散装置(エスエムテー社製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう機(柴田科学社製TTM-1)で3分間振とうさせ、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌した。次に、振とう機で3分間振とうさせ、スラリーを得た。得られたスラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて基材(アルミニウム箔)上に塗工した。次に、自然乾燥し、さらに、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、基材としてのアルミニウム箔上に、正極活物質層を形成した。スラリーの塗布量は、後述する緻密化後の状態で、正極活物質層の厚さが15μmになるように調整した。
【0095】
(負極の作製)
ポリプロピレン製容器に、負極活物質(LTO粒子)、硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミック)、バインダー(PVDF)、導電材(VGCF、昭和電工社製)および分散媒を加え、超音波分散装置(エスエムテー社製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう機(柴田科学社製TTM-1)で3分間振とうさせ、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌した。次に、振とう機で3分間振とうさせ、スラリーを得た。得られたスラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて負極集電体(銅箔)上に塗工した。次に、自然乾燥し、さらに、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、負極集電体(銅箔)の一方の表面上に負極活物質層を形成した。同様の操作により、負極集電体(銅箔)の他方の表面上にも、負極活物質層を形成した。このようにして、負極集電体(銅箔)の両面に、それぞれ負極活物質層が配置された負極を得た。
【0096】
(固体電解質層の作製)
ポリプロピレン製容器に、硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミック)、バインダー(BR)および分散媒(ヘプタン)を加え、超音波分散装置(エスエムテー社製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう機(柴田科学社製TTM-1)で30分間振とうさせ、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌した。次に、振とう機で3分間振とうさせスラリーを得た。得られたスラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて基材(アルミニウム箔)上に塗工した。次に、自然乾燥し、さらに、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、基材としてのアルミニウム箔上に、固体電解質層を形成した。
【0097】
(炭素材料層を有する正極集電体の作製)
導電材(アセチレンブラック、AB、吸油量:175cm3/100g)と、バインダー(アクリル系バインダー、Tg:-30℃)と、分散材(ポリビニルアルコール)とを、重量比で、導電材:バインダー:分散材=25:50:25になるように秤量した。次に、これらに分散媒(水)を加え、炭素材料層用のスラリーを得た。得られたスラリーを、アプリケーターを使用してブレード法にて正極集電体(アルミニウム箔)上に塗工した。次に、120℃で乾燥させた。これにより、炭素材料層を有する正極集電体を得た。
【0098】
(全固体電池の作製)
負極の両面に、それぞれ、固体電解質層を配置し、線圧1.6t/cmでプレスした。次に、固体電解質層から基材(アルミニウム箔)を剥がし、固体電解質層A、負極および固体電解質層Bを有する積層体Xを得た。次に、固体電解質層Aおよび固体電解質層Bの表面に、それぞれ、正極活物質層を配置し、線圧1.6t/cmでプレスした。次に、正極活物質層から基材(アルミニウム箔)を剥がし、積層体Yを得た。次に、積層体Yを線圧5t/cmでプレスして緻密化した。これにより、正極活物質層A、固体電解質層A、負極、固体電解質層Bおよび正極活物質層Bを有する前駆積層体を得た。次に、正極を70.0mm×70.0mmになるようにレーザートリミングし、負極を72.0mm×72.0mmになるように裁断した。次に、正極活物質層Aおよび正極活物質層Bに、それぞれ、炭素材料層を有する正極集電体を配置し、その積層体を10個積層し、140℃、5MPa、1時間の条件でプレスし、発電要素を得た。得られた発電要素に、溶接により端子を設置し、ラミネートセルに封入することで、全固体電池を得た。
【0099】
[実施例2~7]
アクリル系バインダーの種類、および、炭素材料層用のスラリーの組成を、表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0100】
[比較例1、2]
アクリル系バインダーの種類、および、炭素材料層用のスラリーの組成を、表2に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、全固体電池を得た。
【0101】
[評価]
(抵抗測定)
実施例1~7および比較例1、2で得られた全固体電池の抵抗を測定した。具体的には、電流値0.3Cで2.85VまでCCCV充電を行い、次に、電流値0.3Cで2.5VまでCCCV放電を行った。その後、15C、2秒間、25℃の条件でCC放電し、そのときの電圧変化から抵抗を算出した。その結果を表1および表2に示す。
【0102】
(剥離強度測定)
実施例1~7および比較例1、2で得られた全固体電池を用いて、正極集電体および正極活物質層の剥離強度を測定した。
図5に示すように、全固体電池を幅20mmに切断し、裏面側を台座に固定し、JIS Z 0237に準拠して、正極集電体1のタブ1tを90°方向に持ち上げるように剥離する剥離試験を行い、80℃における剥離強度を測定した。その結果を表1、表2および
図6に示す。
【0103】
(高温保存試験)
実施例1~7および比較例1、2で得られた全固体電池に対して、高温保存試験を行った。具体的には、80℃の温度環境に全固体電池を3ヶ月間保存した。保存前後における80℃での抵抗を測定した。その結果を表1、表2および
図7に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
表1、表2および
図6に示すように、分散材を用いた実施例1~7は、分散材を用いない比較例1、2よりも、80℃における剥離強度が高いことが確認された。また、炭素材料に対するバインダーの重量割合が2.0以上になると、剥離強度の増加が顕著になった。特に、炭素材料に対するバインダーの重量割合が2.8以上である場合に、非常に高い剥離強度が得られた。このように、炭素材料層に分散材を添加することで、高温時における集電体および活物質層の密着性が良好な電極が得られることが確認された。
【0107】
また、
図7に示すように、高温保存試験前において、実施例1~7および比較例1、2は、いずれも抵抗は同程度であった。一方、高温保存試験後において、実施例1~7は、比較例1、2よりも、抵抗の増加を抑制できた。実施例1~7において、炭素材料に対するバインダーの重量割合が多くなると、抵抗が増加することが予想されたが、意外にも、抵抗の増加は確認されなかった。これは、炭素材料層における炭素材料の分散性が向上することで、バインダーの重量割合が多くなっても、良好なイオン伝導パスが維持されたためであると推測される。