(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109337
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】コイル及びこれを備えた電磁誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
H05B6/12 308
H05B6/12 309
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010789
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】董 宇
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151BA01
3K151BA03
3K151BA06
(57)【要約】
【課題】ビア又はスルーホールの数を低減し、交流抵抗が増加、コストの増加を抑制する。
【解決手段】基板10の両面に配置されたコイルパターン11とコイルパターン12は、スルーホールTHを介して電気的に接続される。コイルパターン11及びコイルパターン12は、内周側コイルターン(第1コイルターン110)と、外周側コイルターン(第6コイルターン160)と、中間コイルターン(第3コイルターン130)を備え、それぞれ導体パターンを備える。コイルパターン11に備えた導体パターンは、所定の撚りピッチで径方向内側から径方向外側に遷移し、遷移後、スルーホールTHを介してコイルパターン12に備えた導体パターンに接続される。中間コイルターンの導体パターンの撚りピッチは、内周側コイルターン及び外周側コイルターンの導体パターンの撚りピッチよりも大きくした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に渦巻状に配置された第1コイルパターンと、前記基板の他方の面に渦巻状に配置された第2コイルパターンとを備え、前記第1コイルパターンと前記第2コイルパターンはスルーホール若しくはビアを介して電気的に接続されたコイルにおいて、
前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンは、巻回された複数のコイルターンをそれぞれ備え、
前記複数のコイルターンは、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンの内周側に位置する内周側コイルターンと、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンの外周側に位置する外周側コイルターンと、前記内周側コイルターンと前記外周側コイルターンとの間に位置する中間コイルターンを備え、前記内周側コイルターン、前記外周側コイルターン、前記中間コイルターンのそれぞれに前記コイルの径方向に分割された複数の導体パターンを備え、
前記第1コイルパターンに備えられた前記導体パターンは、所定の撚りピッチで径方向内側から径方向外側若しくは径方向外側から内側に遷移すると共に、外側若しくは内側に遷移後、前記スルーホール若しくは前記ビアを介して前記第2コイルパターンに備えられた前記導体パターンに接続され、
前記中間コイルターンの導体パターンの撚りピッチは、前記内周側コイルターン及び前記外周側コイルターンの導体パターンの撚りピッチよりも大きくしたことを特徴とするコイル。
【請求項2】
請求項1において、
前記内周側コイルターンの導体パターンの撚りピッチと前記外周側コイルターンの導体パターンの撚りピッチは、等しくしたことを特徴とするコイル。
【請求項3】
請求項2において、
前記中間コイルターンの導体パターンの撚りピッチは、前記内周側コイルターン及び前記外周側コイルターンの導体パターンの撚りピッチの2倍であることを特徴とするコイル。
【請求項4】
請求項1において、
前記内周側コイルターンの導体パターンの数と前記中間コイルターンの導体パターンの数は異なることを特徴とするコイル。
【請求項5】
請求項4において、
前記内周側コイルターンの導体パターンの数は、前記中間コイルターンの導体パターンの数よりも多くしたことを特徴とするコイル。
【請求項6】
請求項4において、
前記中間コイルターンの導体パターンの幅は、前記内周側コイルターン及び前記外周側コイルターンの導体パターンの幅よりも広くしたことを特徴とするコイル。
【請求項7】
請求項1において、
前記中間コイルターンは、複数ターンに跨り撚りを1回形成することを特徴とするコイル。
【請求項8】
請求項1において、
前記内周側コイルターン若しくは前記外周側コイルターンと前記中間コイルターンとを接続する接続パターンを備えたことを特徴とするコイル。
【請求項9】
基板の一方の面に渦巻状に配置された第1コイルパターンと、前記基板の他方の面に渦巻状に配置された第2コイルパターンとを備え、前記第1コイルパターンと前記第2コイルパターンはスルーホール若しくはビアを介して電気的に接続されたコイルにおいて、
前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンは、巻回された複数のコイルターンをそれぞれ備え、
前記複数のコイルターンは、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンの内周側に位置する内周側コイルターンと、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンの外周側に位置する外周側コイルターンと、前記内周側コイルターンと前記外周側コイルターンとの間に位置する中間コイルターンを備え、前記内周側コイルターン、前記外周側コイルターンのそれぞれに前記コイルの径方向に分割された複数の導体パターンを備え、
前記第1コイルパターンに備えられた前記内周側コイルターンの導体パターン及び前記外周側コイルターンの導体パターンは、所定の撚りピッチで径方向内側から径方向外側若しくは径方向外側から内側に遷移すると共に、外側若しくは内側に遷移後、前記スルーホール若しくは前記ビアを介して前記第2コイルパターンに備えられた前記導体パターンに接続され、
前記内周側コイルターンの導体パターン及び前記外周側コイルターンの導体パターンは、前記中間コイルターンの1本の導体パターンと接続されたことを特徴とするコイル。
【請求項10】
請求項9において、
前記中間コイルターンには、前記基板の一方の面及び前記基板の他方の面のそれぞれに1本の導体パターンが配置され、
前記基板の一方の面及び前記基板の他方の面のそれぞれに配置された1本の導体パターンは、前記スルーホール若しくはビアを介して並列接続されたことを特徴とするコイル。
【請求項11】
鍋を載置するトッププレートと、前記トッププレートの下方に位置し、前記鍋を加熱するコイルとを備えた電磁誘導加熱装置において、
請求項1乃至10の何れか1項のコイルを備えたことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項12】
請求項11において、前記コイルを支持するフェライトコアを備え、
前記フェライトコアは、前記スルーホール若しくは前記ビアが形成されていない領域に配置したことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面導体によるコイルパターンを基板上に形成したコイル及びこれを備えた電磁誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火を使わずに鍋などの被加熱物を加熱し調理を行う装置として、インバータ方式のIHクッキングヒータ(以下、「電磁誘導加熱装置」とも称する)が広く用いられるようになってきている。IHクッキングヒータは、ガラス製のトッププレートの直下に配置した加熱コイルに高周波電流を流し、トッププレート上に載置した金属鍋に渦電流を発生させ、鍋自体の電気抵抗により発熱させるものである。このように、IHクッキングヒータは、火を使わずに調理でき、安全性や調理環境の快適性が高いため、ガスレンジに代わって普及が急速に進んでいる。
【0003】
IHクッキングヒータでは、インバータから加熱コイルに数十kHzの高周波電流が供給されるため、高周波磁界の影響により表皮効果や近接効果に起因した高周波交流損失が発生する。加熱コイルは導体を渦巻状に巻回して構成されており、内周側及び外周側に位置するコイルは磁界の影響を強く受ける。このため、加熱コイルを形成する導体には高周波交流損失の抑制を目的に,絶縁された素線を複数撚り合わせたリッツ線が用いられている。しかし、リッツ線を用いたコイルは、撚り加工、巻回、端子処理など複数の製造工程が必要となるため、量産時において電気特性のバラつきの管理が難しいといった課題がある。
【0004】
コイルなど磁性部品の電気特性のバラつきを抑制する手段として、プリント基板上にコイルパターンを形成する手法が提案されている。プリント基板を用いることで、撚り加工などの製造工程が不要となるため電気特性のバラつきを低減することが可能となる。しかし、単純な平面導体パターンにより渦巻状のコイルを形成した場合、磁界が集中する内周側及び外周側に位置する導体パターンの損失が大きくなるといった課題がある。
【0005】
この課題を解決する手段として、例えば特許文献1に記載の技術がある。
【0006】
特許文献1では、複数の層に配置された複数の平面導体をビア又はスルーホールを介して接続することで導体パターンを構成し、複数の導体パターンを用いて渦巻状のコイルを形成している。このような構成とすることで、プリント基板上の平板導体パターンを用いた場合においても、リッツ線のような撚り構造を実現することが可能となり、高周波磁界に起因する高周波交流損失の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0085706号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、複数の層に配置された平面導体を接続するために、多数のビア又はスルーホールが必要となる。一般的にビア又はスルーホールは電流密度が高くなるため交流抵抗が増加する要因となる。
【0009】
また、ビア又はスルーホールの実装には、穴あけ加工及びメッキ処理の工程が必要となるため、ビア又はスルーホールの数が増え、製造工数に起因するコストが増加するといった課題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決し、ビア又はスルーホールの数を低減し、交流抵抗が増加、コストの増加を抑制したコイル及びこれを用いた電磁誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、基板の一方の面に渦巻状に配置された第1コイルパターンと、前記基板の他方の面に渦巻状に配置された第2コイルパターンとを備え、前記第1コイルパターンと前記第2コイルパターンはスルーホール若しくはビアを介して電気的に接続されたコイルにおいて、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンは、巻回された複数のコイルターンをそれぞれ備え、前記複数のコイルターンは、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンの内周側に位置する内周側コイルターンと、前記第1コイルパターン及び前記第2コイルパターンの外周側に位置する外周側コイルターンと、前記内周側コイルターンと前記外周側コイルターンとの間に位置する中間コイルターンを備え、前記内周側コイルターン、前記外周側コイルターン、前記中間コイルターンのそれぞれに前記コイルの径方向に分割された複数の導体パターンを備え、
前記第1コイルパターンに備えられた前記導体パターンは、所定の撚りピッチで径方向内側から径方向外側若しくは径方向外側から内側に遷移すると共に、外側若しくは内側に遷移後、前記スルーホール若しくは前記ビアを介して前記第2コイルパターンに備えられた前記導体パターンに接続され、前記中間コイルターンの導体パターンの撚りピッチは、前記内周側コイルターン及び前記外周側コイルターンの導体パターンの撚りピッチよりも大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ビア又はスルーホールの数を低減し、交流抵抗が増加、コストの増加を抑制したコイル及びこれを用いた電磁誘導加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1に係るコイルパターン11を上方から見た平面図である。
【
図2】コイルパターン11及び基板10を取り除いた状態でコイルパターン12を上方から見た平面図である。
【
図3】
図1及び
図2に示すA-A´線~H-H´線に沿った内周側からの1ターン目を示す断面図である。
【
図4】
図1及び
図2に示すA-A´線~H-H´線に沿った内周側からの3ターン目を示す断面図である。
【
図5】
図1及び
図2に示すA-A´線~H-H´線に沿った内周側からの4ターン目を示す断面図である。
【
図6】比較例に係るコイルパターン21を上方から見た平面図である。
【
図7】コイルパターン21及び基板を取り除いた状態でコイルパターン22を上方から見た平面図である。
【
図8】比較例と実施例1を比較したコイルのスルーホール数の低減効果を示す図である。
【
図9】本発明の実施例2に係るコイルパターン31を上方から見た平面図である。
【
図10】コイルパターン31及び基板10を取り除いた状態でコイルパターン32を上方から見た平面図である。
【
図11】
図9及び
図10に示すA-A’線~H-H’線に沿った第3コイルターン130の断面図である。
【
図12】比較例と実施例2を比較したコイルのスルーホール数の低減効果を示す図である。
【
図13】本発明の実施例3に係るコイルパターン41を上方から見た平面図である。
【
図14】コイルパターン41及び基板10を取り除いた状態でコイルパターン42を上方から見た平面図である。
【
図15】比較例と実施例3を比較したコイルのスルーホール数の低減効果を示す図である。
【
図16】本発明の実施例4に係るコイルパターン51を上方から見た平面図である。
【
図17】コイルパターン51及び基板10を取り除いた状態でコイルパターン52を上方から見た平面図である。
【
図18】比較例と実施例4を比較したコイルのスルーホール数の低減効果を示す図である。
【
図19】本発明の実施例5に係るIHクッキングヒータを上下方向に断面した概略構成図である。
【
図20】
図19からトッププレート7及び鍋8を取り除いた状態における上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0015】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【実施例0016】
本発明の実施例1について、
図1~
図7を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例1に係るコイルパターン11を上方から見た平面図である。
図2は、コイルパターン11及び基板10を取り除いた状態でコイルパターン12を上方から見た平面図である。
図3は、
図1及び
図2に示すA-A’線~H-H’線に沿った内周側からの1ターン目を示す断面図である。
図4は、
図1及び
図2に示すA-A’線~H-H’線に沿った内周側からの3ターン目を示す断面図である。
図5は、
図1及び
図2に示すA-A’線~H-H’線に沿った内周側からの4ターン目を示す断面図である。
【0017】
実施例1のコイル1は、
図3~
図5に示すように、1層目のコイルパターン11(第1コイルパターン)と、2層目のコイルパターン12(第2コイルパターン)が基板10の両表面に形成されている。すなわち、基板の一方(上方)の面にはコイルパターン11が配置され、基板の他方(下方)の面にはコイルパターン12が配置される。基板10は、紙やガラス布にフェノール樹脂やエポキシ樹脂などを含侵した材料が用いられる。コイルパターン11とコイルパターン12は、後述するスルーホール若しくはビアを介して電気的に接続され、コイル1を形成する。
【0018】
図1及び
図2に示すように、コイル1は、複数ターンに亘って渦巻状に巻回されたコイルパターン11、12によって構成される。コイル1は、第1コイルターン110~第6コイルターン160からなる6コイルターンで構成され、第1コイルターン110が最内周コイルターンを構成し、第6コイルターン160が最外周コイルターンを構成する。また、第1コイルターン110及び第2コイルターン120が内周側コイルターンを構成し、第5コイルターン150及び第6コイルターン160が外周側コイルターンを構成し、内周側コイルターンと外周側コイルターンとの間に位置する第3コイルターン130及び第4コイルターン140が中間コイルターンを構成している。換言すると、中間コイルターンは、内周側コイルターンと外周側コイルターンとの間に位置している。
【0019】
第1コイルターン110~第6コイルターン160は、
図3及び
図4に示すように、分割された5本の導体パターン111~115で構成されている。導体パターン111~115は、基板10を挟んで複数の層に分割して配置された複数の平面導体をスルーホール(例えば
図1及び
図2に示すスルーホールTH11、TH12、TH31、TH41)を用いて接続することで形成される。
【0020】
コイルパターンの終端は平面パターン211及び221により1層目及び2層目に位置する全ての導体パターンを接続した後に、外部回路と接続される。導体パターンの厚みは、コイルに供給される電流の周波数により決まる表皮深さ以下とすることが好ましい。表皮深さdは下記式で表すことができる。
【0021】
d=√(2ρ/ωμ)
上記式中のρは電気抵抗率、ωはコイルに流れる電流の角周波数を、μは導体パターンの絶対透磁率を示している。各周波数ωはコイルに流れる電流の周波数をfとした場合、2πfで表される。
【0022】
上記式より、例えば導体パターンの材料に銅を用いた場合の電流の周波数が20kHzにおける表皮深さは約0.46mmとなるため、導体パターンの厚みは表皮深さ以下となる0.4mmが好ましい。
【0023】
次に、
図3を用いて第1コイルターン110を構成する導体パターンの遷移を導体パターン111に着目して説明する。ここでは、第1コイルターン110を構成する導体パターン111~115の位置を、基板10の1層目の最内周側から外周側に向かって、レーン1、レーン2、レーン3、と定義し、基板10の2層目の最外周側から内周側に向かってレーン4、レーン5、レーン6と定義する。State11~State18は、
図1及び
図2に示すA-A’線~H-H’線の位置に該当した第1コイルターン110の状態を示している。
【0024】
<State11~State13>
State11において、導体パターン111は、1層目の最内周側に位置するレーン1を始点として、所定の遷移角θごとに外周側に向かって順次レーンを遷移する。ここでは所定の遷移角θを撚りピッチと定義する。導体パターン111がレーン2に達するとState12に移行し(B-B’線)、レーン3に到達するとState13に移行し(C-C’線)、D-D’線においてState14に移行する。
【0025】
このとき、所定の角度θは式1、式2を参考に決定される。式1中のN1は1層目又は2層目に位置する導体パターンの最大値を意味しており、式2で求められる。また、式1中のNpは1コイルターン中の撚り回数を示している。式2中のNstdはコイルパターンを構成する導体パターンの数を、NLayerは平板導体の層数を示しており、式2により求められたN1は小数点以下を切り上げた1以上の自然数となる。
【0026】
θ=180/N1/Np・・・・式1
N1=Nstd/NLayer・・・・式2
実施例1のコイル1において、第1コイルターン110の遷移角θはNstd=5、Np=1、NLayer=2より式1、式2を用いてθ=60度と求めることができる。
【0027】
<State14>
導体パターン111は、1層目の最外周側に位置するレーン3に位置しており、スルーホールTH11を介して1層目から2層目に位置するレーン4に接続される。すなわち、コイルパターン11に備えられた導体パターン111は、所定の撚りピッチで径方向内側から外側に遷移し、外側に遷移後、スルーホール若しくはビアを介してコイルパターン12に備えられた導体パターン111に接続される。
【0028】
<State15~State17>
State15において導体パターン111は、2層目のレーン4を始点として、State11~13と同様に所定の遷移角θごとに内周側に向かって順次レーンを遷移する。導体パターン111がレーン6に到達すると、State18に移行する。
【0029】
<State18>
導体パターン111は、2層目の最内周側に位置するレーン6に位置しており、スルーホールTH12により1層目の最内周側に位置するレーン1に接続される。そして、1層目に配置された第2コイルターン120の導体パターン111(
図1参照)に接続される。
【0030】
このように、本実施例に記載のコイル1では、複数の層に分割して配置された導体パターンをスルーホールにより接続することでプリント基板上において撚り線構造を形成している。また、実施例1のコイル1では、第1コイルターン110において1ターン中に導体パターン111~115の位置を遷移させて元のレーンに戻るように構成されており、これは1ターン中に撚りを1回形成していることを意味している。
【0031】
次に、
図4及び
図5を用いて第3コイルターン130、第4コイルターン140を構成する導体パターンの遷移を導体パターン111に着目して説明する。
【0032】
<State31~State37>
State31において、導体パターン111は、1層目の最内周側であるレーン1を始点として、所定の遷移角θごとに外周側に向かって遷移する。導体パターン111は、B-B’線とC-C’線の間でレーン2に遷移してState33に移行し、E-E’線とF-F’線の間でレーン3に遷移してState36に移行する。さらにレーン3に遷移した状態でState37、38へと移行する。State31~32、State33~35、State36~38では、導体パターン111のレーン遷移が発生していないが、その他の導体パターンでレーン遷移が発生している。
【0033】
なお、実施例1のコイル1において、第3コイルターン130の遷移角θはNstd=5、Np=0.5、NLayer=2より、上述した式1、式2を用いてθ=120度と求めることができる。
【0034】
<State38>
導体パターン111は、1層目の最外周側であるレーン3に位置しており、スルーホールTH31により、2層目の最外周側に位置するレーン4と接続される。
【0035】
<State41~State47>
図5において、導体パターン111は、2層目の最外周側であるレーン4に位置しており、レーン4を始点として、所定の遷移角θごとに内周側に向かって順次レーンを遷移する。導体パターン111がレーン6に到達すると、State48に移行する。
【0036】
<State48>
導体パターン111は、2層目の最内周側のレーン6に位置しており、スルーホールTH41を介して1層目の最内周側に位置する第5コイルターン150のレーン1と接続される。
【0037】
このように、実施例1のコイル1では、第3コイルターン130及び第4コイルターン140において2ターンの間に導体パターン111~115の位置を遷移させて元のレーンに戻るように構成されており、これは2ターンで撚りを1回形成していることを意味している。
【0038】
以上のように、実施例1のコイル1では、コイルパターンの径方向の位置によって撚りピッチを変えている。具体的には、内周側と外周側に位置するそれぞれ2ターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120、第5コイルターン150、第6コイルターン160)の撚りピッチを60度として、1ターンで撚りを1回形成しているのに対して、中間に位置する2ターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140)の撚りピッチを120度として、2ターンで撚りを1回形成する構成としている。換言すると、中間コイルターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140)の導体パターンの撚りピッチは、内周側コイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120)及び外周側コイルターン(第5コイルターン150、第6コイルターン160)の導体パターンの撚りピッチの2倍となっている。また、内周側コイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120)と外周側コイルターン第5コイルターン150、第6コイルターン160)の導体パターンの撚りピッチは、等しくしている。
【0039】
実施例1のコイル1では、コイルを貫く磁束密度が高い内周側及び外周側に位置するコイルターンの撚りピッチを密とし、コイルを貫く磁束密度が低い中間に位置するコイルターンの撚りピッチを疎としている。換言すると、中間コイルターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140)の導体パターンの撚りピッチは、内周側コイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120)及び外周側コイルターン(第5コイルターン150、第6コイルターン160)の導体パターンの撚りピッチよりも大きくしている。実施例1では、上記のように構成することにより、高周波磁界に起因する高周波損失の増加を抑制しながら、スルーホール又はビアの数を低減することが可能となる。
【0040】
次に、
図6及び
図7を用いて比較対象とする比較例のコイル2の構成について説明する。
図6は、比較例に係るコイルパターン21を上方から見た平面図である。
図7は、コイルパターン21及び基板を取り除いた状態でコイルパターン22を上方から見た平面図である。上述したコイル1の説明と重複する部分は記載を省略する。
【0041】
コイル2は、コイル1と同様に、複数ターンに亘って渦巻状に巻回されたコイルパターン21、22によって構成される。コイル2は、第1コイルターン110~第6コイルターン160からなる6コイルターンで構成され、第1コイルターン110が最内周コイルターンを構成し、第6コイルターン160が最外周コイルターンを構成する。また、第1コイルターン110及び第2コイルターン120が内周側コイルターンを構成し、第5コイルターン150及び第6コイルターン160が外周側コイルターンを構成し、内周側コイルターンと外周側コイルターンとの間に位置する第3コイルターン130及び第4コイルターン140が中間コイルターンを構成している。換言すると、中間コイルターンは、内周側コイルターンと外周側コイルターンとの間に位置している。
【0042】
第1コイルターン110~第6コイルターン160は、分割された5本の導体パターン111~115で構成されている。導体パターン111~115は、基板を挟んで複数の層に分割して配置された複数の平面導体をスルーホール(例えばTH11、TH12)を用いて接続することで形成される。コイル2では、全てのターンにおいて撚りピッチは固定であり、1コイルターン中に撚りを1回形成する構成となっている。
【0043】
図8は、比較例と実施例1を比較したコイルのスルーホール数の低減効果を示す図である。
図8に記載の比較例は、
図6及び
図7のコイル2の例を示している。
【0044】
図8に示すように、比較例の構造ではスルーホールの数が59カ所となる。これに対し実施例1の構造では、スルーホールの数が49カ所となる。すなわち、実施例1の構造では、比較例に対し、スルーホールの数を約17%低減することができる。
【0045】
このように、実施例1に記載のコイルでは、コイルパターンの径方向の位置に応じて導体パターンの撚りピッチを変えることでスルーホールの数を低減することが可能となる。
【0046】
なお、実施例1では、内周側と外周側のそれぞれに位置するコイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120、第5コイルターン150、第6コイルターン160)を1ターンごとに撚り1回を形成し、中間に位置する2つのコイルターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140)で撚り1回を形成するように構成しているが、内周側の2つコイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120)と外周側の1つのコイルターン(第6コイルターン160)を1ターンで撚り1回を形成し、残りの3つのコイルターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140、第5コイルターン150)で撚り1回を形成するように構成してもよい。
【0047】
さらに、実施例1では、第3コイルターン130と第4コイルターン140で撚りピッチを一定としているが、円周方向の位置に応じて撚りピッチを可変してもよい。例えば、内周側及び外周側のレーンに位置する導体パターン111~115の線長が等しくなるように撚りピッチを可変することにより、導体パターンのインピーダンス差により生じる電流のアンバランスを抑制し、損失の偏りを低減する効果が期待できる。
【0048】
実施例1では、コイルパターン11の導体ターンを所定の撚りピッチで径方向内側から径方向外側に遷移させ、コイルパターン12の導体パターンを所定の撚りピッチで径方向外側から径方向内側に遷移させたが、コイルパターン11の導体ターンを所定の撚りピッチで径方向外側から径方向内側に遷移させ、コイルパターン12の導体パターンを所定の撚りピッチで径方向内側から径方向外側に遷移させるようにしても良い。
実施例2のコイル3は、実施例1に記載のコイル1と同様に、複数ターンに亘って渦巻状に巻回されたコイルパターン31(第1コイルパターン)、コイルパターン32(第2コイルパターン)によって構成される。コイル3は、第1コイルターン110~第6コイルターン160からなる6コイルターンで構成され、第1コイルターン110が最内周コイルターンを構成し、第6コイルターン160が最外周コイルターンを構成する。また、第1コイルターン110及び第2コイルターン120が内周側コイルターンを構成し、第5コイルターン150及び第6コイルターン160が外周側コイルターンを構成し、内周側コイルターンと外周側コイルターンとの間に位置する第3コイルターン130及び第4コイルターン140が中間コイルターンを構成している。換言すると、中間コイルターンは、内周側コイルターンと外周側コイルターンとの間に位置している。
実施例1のコイル1と異なる点は、各コイルターンを形成する導体パターンの数が、コイルパターンの径方向の位置によって異なるように構成された点である。具体的には、磁界が集中する内周側の第1コイルターン110、第2コイルターン120と外周側の第5コイルターン150、第6コイルターン160は5つの導体パターン(例えば第1コイルターン110は導体パターン111~115)で構成されているのに対して、内周側及び外周側と比較して磁界の集中が抑制される第3コイルターン130、第4コイルターン140は3つの導体パターン(例えば第3コイルターン130は導体パターン131~133)で構成されている。換言すると、内周側コイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120)及び外周側コイルターン(第5コイルターン150、第6コイルターン160)の導体パターンの数は、中間コイルパターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140)の導体パターンの数よりも多くしている。
なお、本実施例では、各コイルターンを構成する導体パターンの合計断面積が等しくなるように、第3コイルターン130、第4コイルターン140を構成する導体パターンの幅は、第1コイルターン110、第2コイルターン120、第5コイルターン150、第6コイルターン160を構成する導体パターンの幅よりも広くしている。換言すると、中間コイルパターン(第3コイルターン130、第4コイルターン140)の導体パターンの幅は、内周側コイルターン(第1コイルターン110、第2コイルターン120)及び外周側コイルターン(第5コイルターン150、第6コイルターン160)の導体パターンの幅よりも広くしている。
以上のように、実施例2に記載のコイル3では、コイルパターンの径方向の位置に応じて導体パターンの数を変えることで、実施例1と同様にコイル2(比較例)と比較してスルーホールの数を低減することが可能となる。