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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109339
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】地物種類推定システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20230801BHJP
   G06N 3/02 20060101ALI20230801BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230801BHJP
【FI】
G06T7/00 650Z
G06T7/00 350B
G06N3/02
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010792
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 亮
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA09
5L096BA04
5L096FA09
5L096FA64
5L096GA30
5L096JA11
5L096KA04
5L096KA15
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、3次元座標を具備する複数の構成点を利用することで、その計測点によって構成される地物の種類を推定することができる地物種類推定システムを提供することにある。
【解決手段】本願発明の地物種類推定システムは、3次元座標を具備する複数の構成点に基づいて地物の種類を推定するシステムであって、3次元地形モデル記憶手段と学習手段、地物種類出力手段を備えたものである。入力用データセットは入力用着目領域に含まれる構成点の高さ情報を含む。学習手段は学習用データセットに含まれる地物の種類と構成点の高さ情報を機械学習することによって地物推定モデルを生成し、地物種類出力手段は入力用データセットに含まれる構成点の高さ情報を入力値として地物の種類を出力する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元座標を具備する複数の構成点に基づいて、地物の種類を推定するシステムであって、
複数の前記構成点に基づく3次元地形モデルを記憶する3次元地形モデル記憶手段と、
複数の学習用データセットを機械学習することによって、地物の種類を出力するための地物推定モデルを生成する学習手段と、
入力された入力用データセットと、前記地物推定モデルと、に基づいて、該入力用データセットに係る地物の種類を出力する地物種類出力手段と、を備え、
前記学習用データセットは、地物の種類と、該地物に係る学習用領域に含まれる複数の前記構成点の高さ情報と、を含み、
前記入力用データセットは、入力用着目領域に含まれる複数の前記構成点の高さ情報を含み、
前記学習用領域は、地物から選択される学習用基準点を基準とする領域であって、あらかじめ定められた大きさと形状を有する2次元の領域であり、
前記入力用領域は、オペレータによって指定された入力用基準点を基準とする領域であって、前記学習用領域と同一の大きさと形状を有する2次元の領域である、
ことを特徴とする地物種類推定システム。
【請求項2】
前記学習用データセットは、複数の前記構成点のうちあらかじめ定められた複数の選出用統計値に相当する該構成点の高さ情報を含み、
前記入力用データセットは、複数の前記構成点のうち前記選出用統計値に相当する該構成点の高さ情報を含み、
前記選出用統計値は、複数の構成点の高さ情報に基づいて求められるパーセンタイル値である、
ことを特徴とする請求項1記載の地物種類推定システム。
【請求項3】
1の前記学習用基準点に対して形状が異なる2以上の前記学習用領域を設定することによって、1の該学習用基準点に対して2以上の前記学習用データセットが用意され、
1の前記入力用基準点に対して形状が異なる2以上の前記入力用領域が生成されることによって、1の該入力用基準点に対して2以上の前記入力用データセットが入力される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の地物種類推定システム。
【請求項4】
前記学習用領域、及び前記入力用領域は、円形であり、
1の前記学習用基準点に対して半径が異なる2以上の前記学習用領域を設定することによって、1の該学習用基準点に対して2以上の前記学習用データセットが用意され、
1の前記入力用基準点に対して半径が異なる2以上の前記入力用領域が生成されることによって、1の該入力用基準点に対して2以上の前記入力用データセットが入力される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の地物種類推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地物を構成する点であって3次元座標を具備する点(以下、「構成点」という。)の集合(以下、「構成点群」という。)を利用してその地物の種類を推定する技術に関するものであり、より具体的には、所定領域内に含まれる構成点の高さ情報に基づいて地物の種類を推定する地物種類推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、計測技術の進歩とともに地形情報(空間情報)の需要が高まっており、道路上や沿道に設置された施設をより高度に管理することを目的にその形状や設置位置といった施設の空間情報を要望する管理者が増加している。また現在、官民一体となって推進しているSociety5.0の実現にとっても、社会インフラストラクチャー(以下、単に「社会インフラ」という。)の高度な維持管理が重要な課題とされており、そのためにも施設等の空間情報は欠くことのできない極めて重要な情報となっている。
【0003】
従前、道路施設の空間情報を取得するには、目的の地物に対してTS(Total Station)等を用いた直接的な測量を行っていたが、近時では特定の地物を対象にすることなく網羅的に空間情報を取得する計測手法が採用されることも多い。例えば、航空写真測量やMMS(Mobile Mapping System)などが、網羅的に空間情報を取得する代表的な計測手法である。このうちMMSは、レーザースキャナやカメラ、自己位置を取得するための衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)、IMU(Inertial Measurement Unit)、オドメトリなどのセンサを搭載した移動車両を利用する手法であり、すなわち車道上を移動しながらレーザースキャナによって大量の計測点を得ることができる計測技術である。
【0004】
レーザースキャナによる計測(以下、単に「レーザー計測」という。)は、計測したい対象にレーザーパルスを照射し、その反射信号を受けて計測する手法である。より詳しくは、照射時刻と受信時刻の時間差を計測することで照射位置から計測点(レーザーパルスが反射した地点)までの距離を求め、さらにGNSSといった測位手段によってレーザーパルスの照射位置(x,y,z)を取得するとともに、IMUといった慣性計測手段によって照射姿勢(ω,φ,κ)を取得することで、計測点の3次元座標を得ることができる。MMSによるレーザー計測では、レーザースキャナのレーザー発射部が内部で回転しながらレーザーを照射する機構とされ、その結果、車両の走行に伴って車道軸に対して斜方向にレーザーが照射されて大量の計測点が取得される。
【0005】
ところで、航空写真測量やMMSによって得られるそれぞれ計測点は、基本的には座標値という情報のみを具備するだけであって、その計測点によって構成される地物の種類を理解することは容易ではない。例えば従来では、オペレータが対応範囲の写真や映像と既存の平面図とを見比べながら、あるいは作業者が既存の平面図を持参して現地調査を行うことによって、計測点によって構成される地物の種類を特定していた。しかしながらこのような手法では、地物の種類を特定するためのコストが増大するうえ、オペレータによる誤判断(ヒューマンエラー)が避けられない。
【0006】
大量のレーザー計測データの中から地物の種類を自動的に特定することができれば、オペレータによる作業は著しく軽減され、ヒューマンエラーも排除できる。そこで特許文献1では、レーザー計測で得られた大量の計測データから、街灯、電柱、標識といった柱状の地物を自動抽出することができる発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-9616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で開示される発明によれば、MMSによって得られた計測点群から自動的に柱状の地物を抽出できるうえ、柱状物が有する面状物(標識や看板など)や立体物なども選別することができる。そのためオペレータの労力は大幅に低減され、その作業時間を短縮することができ、しかもオペレータの個性に伴うばらつきや誤りを回避することができる。しかしながら、特許文献1の発明では自動抽出することができる対象は柱状の地物に限られ、すなわち柱状の地物であればその種類について推定できるものの、柱状の地物を含む多種多様な地物に対してそれぞれ種類を推定することは難しい。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、3次元座標を具備する複数の構成点を利用することで、その計測点によって構成される地物の種類を推定することができる地物種類推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、地物ごとにその構成点の高さ情報のパターンが異なるということに着目し、地物を基準とする所定領域内にある複数の構成点の高さ情報の組み合わせに基づいて、その地物の種類を推定する、という従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0011】
本願発明の地物種類推定システムは、3次元座標を具備する複数の構成点に基づいて地物の種類を推定するシステムであって、3次元地形モデル記憶手段と学習手段、地物種類出力手段を備えたものである。このうち3次元地形モデル記憶手段は、複数の構成点に基づく3次元地形モデルを記憶する手段であり、学習手段は、複数種類の地物ごとに用意された学習用データセットを機械学習することによって地物の種類を出力するための地物推定モデルを生成する手段、地物種類出力手段は、入力された入力用データセットと地物推定モデルに基づいて入力用データセットに係る地物の種類を出力する手段である。なお入力用データセットは、入力用着目領域に含まれる複数の構成点の高さ情報を含み、この学習用領域は、地物から選択される学習用基準点を基準とする領域であってあらかじめ定められた大きさと形状を有する2次元の領域であり、入力用領域は、オペレータによって指定された入力用基準点を基準とする領域であって学習用領域と同一の大きさと形状を有する2次元の領域である。そして学習手段は、学習用データセットに含まれる地物の種類、及び複数の構成点の高さ情報を機械学習することによって地物推定モデルを生成し、地物種類出力手段は、入力用データセットに含まれる複数の構成点の高さ情報を入力値として地物の種類を出力する。
【0012】
本願発明の地物種類推定システムは、学習用データセットが、複数の構成点のうちあらかじめ定められた複数の選出用統計値に相当する構成点の高さ情報を含み、入力用データセットが、複数の構成点のうち選出用統計値に相当する構成点の高さ情報を含むものとすることもできる。なお選出用統計値は、複数の構成点の高さ情報に基づいて求められるパーセンタイル値とすることができる。
【0013】
本願発明の地物種類推定システムは、1の入力用基準点に対して形状が異なる2以上の学習用領域を設定することもできる。この場合、1の学習用基準点に対して2以上の入力用データセットを用意することができる。さらに、1の入力用基準点に対して形状が異なる2以上の入力用領域が生成されることによって、1の入力用基準点に対して2以上の入力用データセットを入力することもできる。
【0014】
本願発明の地物種類推定システムは、学習用領域と入力用領域を円形として設定することができる。この場合、1の学習用基準点に対して半径が異なる2以上の学習用領域を設定することによって、1の学習用基準点に対して2以上の入力用データセットを用意することができる。さらに、1の入力用基準点に対して半径が異なる2以上の入力用領域が生成されることによって、1の入力用基準点に対して2以上の入力用データセットを入力することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の地物種類推定システムには、次のような効果がある。
(1)写真等と既存の平面図とを見比べながら地物の種類を特定したり、平面図を持参して現地調査を行うことで地物の種類を特定したりする必要がなく、つまり人の判断を介することなく地物の種類を推定することから、人為的なミスが排除され、しかも短時間で結果を得ることができる。
(2)1の学習用基準点に対して2以上の種類の学習用領域を設定することによって、さらに多くの学習用データセットを学習した地物推定モデルを生成することができ、その結果、より精度よく地物の種類を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明の地物種類推定システムの主な構成を示すブロック図。
図2】学習用データセットと学習用基準点、学習用領域、学習用構成点を模式的に示すモデル図。
図3】地物の1種である道路縁上に設定された学習用基準点と、その学習用基準点に基づいて設定された円形の学習用領域を模式的に示すモデル図。
図4】1の学習用基準点について設定された円形の学習用領域と、右半円の学習用領域、左半円の学習用領域を模式的に示すモデル図。
図5】1の学習用基準点について設定された大円の学習用領域と、中円の学習用領域、小円の学習用領域を模式的に示すモデル図。
図6】入力用データセットと入力用基準点、入力用領域、入力用構成点を模式的に示すモデル図。
図7】入力用データセット生成手段によって入力用データセットが生成される手順を模式的に示すステップ図。
図8】地物種類推定システムの主な処理の流れの一例を示すフロー図。
図9】高架橋上の道路縁の標高パターンを示すモデル図。
図10】付近にビルがある高架橋上の道路縁の標高パターンを示すモデル図。
図11】付近に街路樹がある道路縁(街路樹の直下)の標高パターンを示すモデル図。
図12】付近に街路樹がある道路縁(街路樹の隙間)の標高パターンを示すモデル図。
図13】起伏の大きな道路縁の標高パターンを示すモデル図。
図14】パターン化された地物の分布を示すモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の地物種類推定システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本願発明の地物種類推定システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の地物種類推定システム100は、学習手段101と地物種類出力手段102、3次元地形モデル記憶手段105を含んで構成され、さらに基準点入力手段103、入力用データセット生成手段104、学習用データセット記憶手段106、地物推定モデル記憶手段107を含んで構成することもできる。
【0019】
本願発明の地物種類推定システム100を構成する学習手段101と地物種類出力手段102、基準点入力手段103、入力用データセット生成手段104は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイ等の表示手段を含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0020】
また、3次元地形モデル記憶手段105と学習用データセット記憶手段106、地物推定モデル記憶手段107は、汎用的コンピュータ(例えば、PC)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0021】
以下、第1の実施形態における本願発明の地物種類推定システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0022】
(各種記憶手段)
3次元地形モデル記憶手段105は、3次元地形モデル(以下、「3D地形モデル」という。)を記憶する手段である。ここで3D地形モデルとは、地物を含む地形を3次元座標(つまり、構成点)で表したものであって、DSM(Digital Surface Model)やDEM(Digital Elevation Model)に代表される地形モデルである。通常、3D地形モデルは、対象とする平面範囲を複数分割した小領域によって構成される。この小領域は、メッシュとも呼ばれ、例えば直交するグリッドに区切られて形成されるもので、それぞれの小領域は代表点を備えている。計測によって得られる3次元点群(つまり、構成点群)はランダムデータ(平面的に不規則な配置のデータ)であることが多いため、小領域の代表点に高さを与えるには幾何計算されることが多い。この計算方法としては、ランダムデータから形成される不整三角網によって高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による手法、最も近いレーザー計測点を採用する最近傍法(Nearest Neighbor)による手法のほか、逆距離加重法(IDW:Inverse Distance Weighting)、Kriging法、平均法などを挙げることができる。
【0023】
学習用データセット記憶手段106は、「学習用データセット」を記憶する手段であり、地物推定モデル記憶手段107は、「地物推定モデル」を記憶する手段である。この学習用データセットは、後述するように学習手段101が機械学習を行うためのいわゆる教師データであり、少なくとも地物の種類と、その地物に係る領域(以下、「学習用領域」という。)に属する(含まれる)複数の構成点の高さ情報を含むもので、当然ながら複数の地物種類ごとに数多くの学習用データセットが用意される。なお、ここでいう「学習用領域に属する」とは、構成点を着目領域に平面投影したときに、その構成点が学習用領域の領域内に含まれる状態を意味する。一方、地物推定モデルは、同じく後述するように学習手段101が機械学習を行った結果得られるモデルであって、「入力用データセット」をこの地物推定モデルに入力すると地物の種別を出力する(返す)ものである。ここで入力用データセットとは、所定の領域(以下、「入力用領域」という。)に属する(含まれる)複数の構成点の高さ情報を含むものである。また学習用領域とは、地物に係る点(以下、「学習用基準点」という。)を基準として設定される所定の領域であり、入力用領域とは、例えばオペレータが指定した点(以下、「入力用基準点」という。)を基準として設定される所定の領域であり、学習用領域と入力用領域はいずれもあらかじめ定められた大きさ(寸法)と形状を有する2次元の領域である。なお、高さ情報とはある基準高からの比高差を表す種々の概念であるが、便宜上ここでは高さ情報を「標高」とした例で説明する。
【0024】
(学習手段)
学習手段101は、学習用データセットを教師データとする機械学習(例えば、ディープラーニング等)を行うことによって、地物推定モデルを生成する手段である。発明者は、地物を構成する複数の構成点、あるいは地物とその周辺に配置された複数の構成点からなる標高の組み合わせ(パターン)が、地物の種類によって傾向が異なることを見出した。例えば、同じ道路縁であっても、平坦な道路縁と、付近に高架橋がある道路縁、付近に街路樹がある道路縁では、それぞれ構成点からなる標高パターンが異なる一方で、同じ平坦な道路縁であればその標高パターンには一定の傾向がみられるわけである。そこで本願発明では、学習手段101に学習用データセット(地物の種類と構成点の標高)を機械学習させることによって地物推定モデルを生成し、そして地物推定モデルに入力用データセット(入力用領域に含まれる構成点の標高)を入力することで地物の種類を推定することを可能とした。
【0025】
学習用データセットは、図2に示すように地物の種類と構成点CPの標高を含むものである。ただし、この図に示すように学習用データセットが対象とする構成点CPは、学習用領域LRGに含まれる構成点CP(以下、特に「学習用構成点LCP」という。)である。なお学習用領域LRGは、地物に係る特徴的、あるいは代表的な点を学習用基準点LSPとしたうえで、その学習用基準点LSPを基準としてあらかじめ定められた大きさと形状で設定される。例えば図3では、道路縁EL(地物)上に位置する点を学習用基準点LSPとし、その学習用基準点LSPを中心とする所定の半径(あらかじめ定められた半径)の円形となるように学習用領域LRGが設定されている。もちろん学習用領域LRGは、円形に限らず多角形や楕円形、その他任意の形状で設定することができ、また学習用基準点LSPはオペレータ操作によって(つまり、手入力によって)指定することもできるし、画像認識技術等を利用して自動的(機械的)に設定することもできる。
【0026】
また学習用データセットは、1の学習用基準点LSPに対して複数種類の学習用領域LRGを設定したうえで生成することもできる。例えば図4では、道路縁EL上の学習用基準点LSPを中心とする「円形の学習用領域LRG11」と、この学習用領域LRG1を道路縁ELで分割した「右半円の学習用領域LRG12」、「左半円の学習用領域LRG13」が設定されている。この場合、1の学習用基準点LSPに対して3種類の学習用データセットが生成され、いずれも地物の種類は「道路縁」とされるが、円形の学習用領域LRG11に含まれる学習用構成点LCP、右半円の学習用領域LRG12に含まれる学習用構成点LCP、左半円の学習用領域LRG13に含まれる学習用構成点LCPは、当然ながらそれぞれ異なる。このように、1学習用基準点LSPに対して形状が異なる2以上の学習用領域LRGを設定することによって、1の学習用基準点LSPについて2以上の学習用データセットを用意することができる。
【0027】
あるいは、形状は同じであるが大きさ(寸法)を変えることによって、1の学習用基準点LSPに対して複数種類の学習用領域LRGを設定することもできる。例えば図5では、道路縁EL上の学習用基準点LSPを中心とする円形の学習用領域LRGが設定されているが、半径を変えることによって「大円の学習用領域LRG21」、「中円の学習用領域LRG22」、「小円の学習用領域LRG23」が設定されている。この場合も、1の学習用基準点LSPに対して3種類の学習用データセットが生成され、いずれも地物の種類は「道路縁」とされるが、大円の学習用領域LRG21に含まれる学習用構成点LCP、中円の学習用領域LRG22に含まれる学習用構成点LCP、小円の学習用領域LRG23に含まれる学習用構成点LCPは、当然ながらそれぞれ異なる。このように、1学習用基準点LSPに対して寸法が異なる2以上の学習用領域を設定することによって、1の学習用基準点について2以上の学習用データセットを用意することができる。
【0028】
もちろん、1学習用基準点LSPに対して形状が異なる2以上の学習用領域LRGを設定するとともに、1学習用基準点LSPに対して寸法が異なる2以上の学習用領域を設定することによって、1の学習用基準点LSPについて2以上の学習用データセットを用意することもできる。例えば図4のケースと図5のケースでは、1の学習用基準点LSPに対して9種類(3形状×3半径)が用意される。いずれにしろ学習手段101は、用意された複数の学習用データセットで機械学習を行うことによって地物推定モデルを生成する。
【0029】
(地物種類出力手段)
地物種類出力手段102は、入力用データセットと、学習手段101によって生成された地物推定モデルに基づいて、その入力用データセットに係る地物の種類を出力する手段である。入力用データセットは、図6に示すように構成点CPの標高を含むものである。ただし、この図に示すように入力用データセットが対象とする構成点CPは、入力用領域NRGに含まれる構成点CP(以下、特に「入力用構成点NCP」という。)である。なお入力用領域NRGは、オペレータによって指定された(あるいは、事前に設定された)入力用基準点NSPを基準とし、学習用領域LRGを設定する大きさと形状(以下、「領域諸元」という。)と同一の領域諸元で設定される。例えば、学習用領域LRGが図3に示す円形で設定された場合、入力用領域NRGも入力用基準点NSPを中心とする円形であって学習用領域LRGと同径の円形として設定される。
【0030】
図7は、入力用データセット生成手段104によって入力用データセットが生成される手順を模式的に示すステップ図である。入力用データセットを生成するにあたっては、図7(a)に示すようにまずは入力用基準点NSPを指定する。このとき、オペレータが表示手段(ディスプレイなど)に表示された3D地形モデルを目視しながら、ポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボードといった基準点入力手段103を利用して所望の入力用基準点NSPを指定する仕様とすることもできるし、あらかじめ設定された複数の点を入力用データセット生成手段104が順次選択していくことで入力用基準点NSPを設定する仕様とすることもできる。
【0031】
入力用基準点NSPが指定されると、図7(b)に示すように入力用データセット生成手段104が入力用基準点NSPを基準とする入力用領域NRGを設定し、さらに図7(c)に示すように入力用データセット生成手段104が入力用領域NRGに含まれる入力用構成点NCPを抽出してこれらの標高を入力用データセットとする。
【0032】
ところで学習用データセットは、図4に示すように1の学習用基準点LSPについて形状が異なる2以上の学習用領域LRG(つまり、学習用データセット)を用意することができ、図5に示すように1の学習用基準点LSPについて大きさが異なる2以上の学習用領域LRG(つまり、学習用データセット)を用意することができると説明した。このように、1の学習用基準点LSPについて複数種類の学習用領域LRGが設定されている場合、全種類の学習用領域LRGに対応する(つまり、全種類の学習用領域LRGと同じ領域諸元で)入力用領域NRGを設定したうえで入力用データセットを生成する仕様とすることができる。例えば、学習用データセットが図4のケースで設定されている場合は、入力用データセット生成手段104が学習用領域LRGに対応するように「円形の入力用領域NRG」と、「右半円の入力用領域NRG」、「左半円の入力用領域NRG」を設定したうえで入力用データセットを生成し、学習用データセットが図5のケースで設定されている場合は、入力用データセット生成手段104が学習用領域LRGに対応するように「大円の入力用領域NRG」と、「中円の入力用領域NRG」、「小円の入力用領域NRG」を設定したうえで入力用データセットを生成し、学習用データセットが図4図5を組み合わせたケースで設定されている場合は、入力用データセット生成手段104が学習用領域LRGに対応するように9種類の入力用領域NRGを設定したうえで入力用データセットを生成するわけである。
【0033】
あるいは1の学習用基準点LSPについて複数種類の学習用領域LRGが設定されている場合であっても、いくつかの種類の学習用領域LRGに対応する入力用領域NRGを設定したうえで入力用データセットを生成する仕様とすることもできる。例えば、学習用データセットが図4のケースで設定されている場合は、入力用データセット生成手段104が「右半円の入力用領域NRG」と「左半円の入力用領域NRG」のみを設定したうえで入力用データセットを生成し、学習用データセットが図5のケースで設定されている場合は、入力用データセット生成手段104が「大円の入力用領域NRG」のみを設定したうえで入力用データセットを生成し、学習用データセットが図4図5を組み合わせたケースで設定されている場合は、入力用データセット生成手段104が「大円の入力用領域NRG」と、「大円を分割した右半円の入力用領域NRG」、「大円を分割した左半円の入力用領域NRG」のみを設定したうえで入力用データセットを生成するわけである。
【0034】
地物種類出力手段102は、入力用データセットが入力されると、地物推定モデルによってその入力用データセットに係る地物の種類を出力する。具体的には、入力用データセットに含まれる入力用構成点NCPの標高の組み合わせ(パターン)と学習済み標高パターンとを照合し、近似する(あるいは一致する)標高パターンを選出するととともに、その標高パターンに対応づけられた地物の種類を出力する。
【0035】
(データセットの標高)
ここまで、学習用データセットには複数の学習用構成点LCPの標高が含まれ、入力用データセットには複数の入力用構成点NCPの標高が含まれると説明した。もちろん、すべての学習用構成点LCPの標高を学習用データセットに含め、すべての入力用構成点NCPの標高を入力用データセットに含める仕様にすることもできる。あるいは、あらかじめ定めた要件に基づいて学習用構成点LCPと入力用構成点NCPを抽出したうえで、それぞれのデータセットに含める仕様にすることもできる。より詳しくは、あらかじめ設定された統計値(以下、「選出用統計値」という。)にしたがって学習用構成点LCPと入力用構成点NCPを抽出し、その抽出された学習用構成点LCPの標高のみを学習用データセットに含めるとともに、抽出された入力用構成点NCPの標高のみを入力用データセットに含める。例えば、標高を小さい(低い)方から並べたときのパーセンタイル値を用い、0パーセンタイル(この場合は最小標高)、5パーセンタイル、10パーセンタイル、・・・100パーセンタイルと5%刻みのパーセンタイル値を選出用統計値として設定し、すべての学習用構成点LCPや入力用構成点NCPのなかからこれら選出用統計値(0パーセンタイル、5パーセンタイル、・・・)に相当する学習用構成点LCPや入力用構成点NCPの標高のみをそれぞれのデータセットに含めるわけである。なお、学習用構成点LCPを抽出するための選出用統計値と、入力用構成点NCPを抽出するための選出用統計値は、それぞれ同じ値で設定するとよい。このように、学習用データセットや入力用データセットに含まれる複数の標高をいわば定型化することによって、学習済み標高パターンと入力用データセットの標高パターンが照合しやすくなる。
【0036】
(処理の流れ)
以下、図8を参照しながら地物種類推定システム100の主な処理について詳しく説明する。図8は、地物種類推定システム100の主な処理の流れの一例を示すフロー図であり、中央の列に実行する処理を示し、左列にはその処理に必要なものを、右列にはその処理から生ずるものを示している。
【0037】
図8に示すように地物種類推定システム100による処理は、地物推定モデルを生成するまでの「学習ステップ」と、実際に入力用データセットに係る地物の種類を推定する「出力ステップ」に大別される。学習ステップでは、まず学習用データセットを作成するために地物を指定し(図8のStep211)、その地物に係る特徴的(あるいは代表的)な点を学習用基準点LSPとして設定する(図8のStep212)。このとき、オペレータ操作によって地物や学習用基準点LSPを指定することもできるし、画像認識技術等を利用して自動的(機械的)に地物や学習用基準点LSPを設定することもできる。
【0038】
学習用基準点LSPが設定されると、この学習用基準点LSPを基準とし、あらかじめ定められた領域諸元にしたがって学習用基準点LSPを生成する(図8のStep213)。次いで、この学習用基準点LSPに含まれる学習用構成点LCPの標高と、学習用基準点LSPに係る地物の種類によって、学習用データセットを作成する(図8のStep214)。ここまでの一連の処理(図8のStep211~Step214)を繰り返すことによって、様々な種類の地物ごとにそれぞれ数多くの学習用データセットを用意する。そして、これらの学習用データセットを学習手段101に機械学習させることによって、地物推定モデルを生成する(図8のStep215)。
【0039】
出力ステップでは、まず入力用データセットを生成するために入力用基準点NSPを指定する(図8のStep221)。このとき、オペレータが表示手段に表示された3D地形モデルを目視しながら基準点入力手段103を利用して所望の入力用基準点NSPを指定することもできるし、あらかじめ設定された複数の点を入力用データセット生成手段104が順次選択していくことで入力用基準点NSPを設定することもできる。
【0040】
入力用基準点NSPが設定されると、この入力用基準点NSPを基準とし、あらかじめ定められた領域諸元にしたがって入力用着目領域NRGを生成する(図8のStep222)。次いで、この入力用着目領域NRGに含まれる学習用構成点LCPの標高によって、入力用データセットを生成する(図8のStep223)。そして、地物種類出力手段102が、入力された入力用データセット、及び地物推定モデルに基づいて、その入力用データセットに係る地物の種類を出力する(図8のStep224)。
【0041】
(検証結果)
既述したとおり発明者は、地物を構成する複数の構成点CP(あるいは地物とその周辺に配置された複数の構成点CP)からなる標高パターンが、地物の種類ごとに特定の傾向があること見出した。図9図13は、地物の種類ごとに特定の標高パターンを示すモデル図である。このうち図9は、地物が「高架橋上の道路縁」の例であり、12種類の標高パターン(右側のグラフ)を示している。なお、この例では5%刻みのパーセンタイル値を(0パーセンタイル、5パーセンタイル、10パーセンタイル、・・・100パーセンタイル)を選出用統計値として設定しており、そのため標高パターンは横軸のパーセンタイル値と縦軸の標高で表している。また、図4の例のように1の基準点に対して円形と右半円、左半円の種類の形状で領域を設定し、しかも4種類の(図中では、size0.5とsize1、size2、size4)半径で領域を設定しており、上方から円形、右半円、左半円の順で、左側からsize0.5、size1、size2、size4の順で、それぞれ12種類の標高パターンを示している。また、図10は地物が「付近にビルがある高架橋上の道路縁」の例、図11は地物が「付近に街路樹がある道路縁(ただし、街路樹の直下)」の例、図12は地物が「付近に街路樹がある道路縁(ただし、街路樹の隙間)」の例、図13は地物が「起伏の大きな道路縁」の例であり、いずれも図9と同様の要領で12種類の標高パターンを示している。これら図9図13から分かるように、地物を構成する複数の構成点CP(あるいは地物とその周辺に配置された複数の構成点CP)からなる標高パターンは、それぞれ地物の種類ごとに特定の傾向がある。また、図11図12を見比べると分かるように、領域の大きさとして適切なものを選定することによって(この場合はsize4を選定することによって)標高パターンの類似性がより向上し、すなわち地物の種類ごとの傾向が強調される。
【0042】
図9図13に示す標高パターンは、3種類の形状からなる領域と4種類の寸法からなる領域を組み合わせた12種類あり、それぞれ21種類のパーセンタイルに係る標高を表していることから、いわば252次元(3×4×21)のデータと考えることができる。これを従来技術の次元削減手法によって2次元化し、図14に示すようなグラフで表した。この図から概ね6~10にグルーピングできることが認められ、すなわち標高パターンにはそれぞれ地物の種類ごとに特定の傾向があることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明の地物種類推定システムは、平坦な道路、高架橋付近の道路、ビル沿いの道路といったように、同じ道路でも様々な種類の道路を推定するなど、種々の地物の種類を推定する場合に利用することができる。本願発明によれば、地物の空間情報を好適に提供し、ひいては社会インフラの高度な維持管理につながることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0044】
100 本願発明の地物種類推定システム
101 (地物種類推定システムの)学習手段
102 (地物種類推定システムの)地物種類出力手段
103 (地物種類推定システムの)基準点入力手段
104 (地物種類推定システムの)入力用データセット生成手段
105 (地物種類推定システムの)3次元地形モデル記憶手段
106 (地物種類推定システムの)学習用データセット記憶手段
107 (地物種類推定システムの)地物推定モデル記憶手段
CP 構成点
EL 道路縁
LCP 学習用構成点
LRG 学習用領域
LSP 学習用基準点
NCP 入力用構成点
NRG 入力用着目領域
NSP 入力用基準点
図1
図2
図3
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図5
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図8
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図10
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図14