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特開2023-109342微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109342
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
C08B15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010797
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】八木 智弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸治
(72)【発明者】
【氏名】安井 皓章
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA10
4C090BA34
4C090BB52
4C090BB65
4C090BD02
4C090CA06
4C090DA02
4C090DA03
4C090DA23
4C090DA26
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】 微細繊維状セルロースを乾燥させた場合であっても、乾燥状態を経ずに調製した場合と同様に、水系溶媒に微細繊維状セルロースとして短時間で再分散させることができ、多量の微細繊維状セルロースを効率良く再分散させることができる方法を提供する。
【解決手段】 微細繊維状セルロースの乾燥固形物と水系溶媒とを含む混合物を、タンク型ミキサーを用いて、周速50m/s以上で撹拌する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造された微細繊維状セルロース分散液を乾燥させて得られた微細繊維状セルロースの乾燥固形物を水系溶媒に微細繊維状セルロースとして再分散させる方法であって、
前記微細繊維状セルロースの乾燥固形物と前記水系溶媒とを含む混合物を、タンク型ミキサーを用いて、周速50m/s以上で撹拌することを特徴とする微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法。
【請求項2】
前記微細繊維状セルロースが化学変性されている微細繊維状セルロースであることを特徴とする請求項1に記載の微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法。
【請求項3】
前記タンク型ミキサーは、回転する上羽根および下羽根を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース(以下「MFC」という)及びセルロースナノファイバー(以下「CNF」という)を包含する。微細繊維状セルロースは、約1nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維であり、水系分散性に優れることから、食品、化粧品、医療品、または塗料等の分野への応用が期待されている。具体的には、塗料の粘度保持、食品原料生地の強化、水分の保持、食品安定性向上、低カロリー添加物、または乳化安定化助剤等への応用が期待されている。
【0003】
微細繊維状セルロースは、通常、水に分散している状態で得られ、固形分濃度が0.1~5%程度と非常に低い。そのため、微細繊維状セルロースの水分散液を輸送する際には、大量の水を運ぶこととなり輸送に係る費用が高いという問題がある。また、水分散液の状態であると、微生物対策や防腐処理が必要といった問題もある。そのため、乾燥品とすることが好ましい。しかしながら、微細繊維状セルロースは、一旦乾燥させると、高回転数かつ長時間の撹拌により分散処理を行わない限りは、微細繊維状セルロースとして再分散させることが難しかった。そのため、特許文献1には、微細繊維状セルロースの乾燥固形物に熱水処理を行ってから溶媒に再分散させる方法等が提案されている。しかしながら、この方法では熱水処理の工程が別途必要であるため、工程が煩雑になっていた。
【0004】
また、微細繊維状セルロースの乾燥品を輸送先で水系媒体に再分散させるために、回転式ミキサー等の撹拌機を用いたバッチ処理が一般に行われている。しかしながら、回転式ミキサーを用いてバッチ処理を行った場合には、少量の再分散液を得るために数十分~数時間の調製時間がかかるため、効率が悪いものであった。
【0005】
上記の問題を解決するため、インライン型ミキサーを用いて少量の再分散液を効率よく製造する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、インライン型ミキサーを用いる方法で、多量の再分散液(例えば1トン程度)を生産しようとした場合には、調製時間が2~10時間以上かかるため、効率が悪かった。
【0006】
したがって、微細繊維状セルロースを乾燥させた場合であっても、乾燥状態を経ずに調製した場合と同様に、水系溶媒に微細繊維状セルロースとして短時間で再分散させることができ、多量の微細繊維状セルロースを効率良く再分散させることができる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-2136号公報
【特許文献2】国際公開第2020/080119号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、微細繊維状セルロースを乾燥させた場合であっても、乾燥状態を経ずに調製した場合と同様に、水系溶媒に微細繊維状セルロースとして短時間で再分散させることができ、多量の微細繊維状セルロースを効率良く再分散させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の混合装置を用い、特定の条件で撹拌することが極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は以下を提供する。
(1) 製造された微細繊維状セルロース分散液を乾燥させて得られた微細繊維状セルロースの乾燥固形物を水系溶媒に微細繊維状セルロースとして再分散させる方法であって、 前記微細繊維状セルロースの乾燥固形物と前記水系溶媒とを含む混合物を、タンク型ミキサーを用いて、周速50m/s以上で撹拌することを特徴とする微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法。
(2) 前記微細繊維状セルロースが化学変性されている微細繊維状セルロースであることを特徴とする(1)に記載の微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法。
(3) 前記タンク型ミキサーは、回転する上羽根および下羽根を備えることを特徴とする(1)または(2)に記載の微細繊維状セルロースの乾燥固形物の再分散方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細繊維状セルロースを乾燥させた場合であっても、乾燥状態を経ずに調製した場合と同様に、水系溶媒に微細繊維状セルロースとして短時間で再分散させることができ、多量の微細繊維状セルロースを効率良く再分散させることができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の(a)1分後、及び(b)3分後の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図2】実施例1の再分散液の粘度特性を示すグラフである。
図3】実施例3の(a)1分後、及び(b)3分後の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図4】実施例3の再分散液の粘度特性を示すグラフである。
図5】比較例1の(a)1分後、及び(b)3分後の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図6】比較例1の再分散液の粘度特性を示すグラフである。
図7】比較例2の(a)1分後、及び(b)3分後の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図8】比較例2の再分散液の粘度特性を示すグラフである。
図9】比較例3の(a)1パス、(b)5パス、及び(c)10パスの再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図10】比較例3の再分散液の粘度特性を示すグラフである。
図11】比較例4の(a)1パス、(b)5パス、及び(c)10パスの再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
図12】比較例4の再分散液の粘度特性を示すグラフである。
図13】参考例1の再分散液の光学顕微鏡観察結果の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0014】
本発明は、製造された微細繊維状セルロース分散液を乾燥させて得られた微細繊維状セルロースの乾燥固形物を水系溶媒に微細繊維状セルロースとして再分散させる方法であって、前記微細繊維状セルロースの乾燥固形物と前記水系溶媒とを含む混合物を、タンク型ミキサーを用いて、周速50m/s以上で撹拌する。
【0015】
(微細繊維状セルロース)
本発明で用いる、微細繊維状セルロースは、セルロースを原料とする微細繊維である。微細繊維状セルロースの平均繊維径は、特に限定されないが、1nm~10μm程度である。微細繊維状セルロースの平均繊維径および平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによって得ることができる。微細繊維状セルロースは、セルロースを解繊することによって製造することができる。
【0016】
本発明に用いる微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0017】
セルロース原料は、セルロースを含んでいればよく、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、晒クラフトパルプ(BKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。セルロース原料としては、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0018】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0019】
セルロースは、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性を行うことが可能である。本発明においては、解繊の進行を促進するという観点から、化学変性して得られたセルロース原料(化学変性セルロース)を解繊して製造された化学変性微細繊維状セルロースを用いることが好ましい。
【0020】
化学変性としては、例えば、カルボキシメチル化、酸化(カルボキシル化)、カチオン化、エステル化等が挙げられる。中でも、カルボキシメチル化、酸化(カルボキシル化)がより好ましい。
【0021】
(化学変性)
(カルボキシメチル化)
本発明において、カルボキシメチル化したセルロースを解繊して得られたカルボキシメチル化微細繊維状セルロース用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるものが好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロースを発底原料にし、溶媒として3~20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍molの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍mol添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0022】
なお、本明細書において、微細繊維状セルロースの調製に用いる化学変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化したセルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化したセルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化したセルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0023】
(酸化)
本発明において、酸化(カルボキシル化)したセルロースを解繊して得られた酸化微細繊維状セルロースを用いる場合、酸化セルロース(カルボキシル化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法で酸化(カルボキシル化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、酸化の際には、化学変性微細繊維状セルロースの絶乾質量に対して、カルボキシル基の量が0.6~2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0024】
酸化(カルボキシル化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0025】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0026】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度が好ましい。
【0027】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0028】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量としては、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0029】
セルロースの酸化は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱容易性や、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0030】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
【0031】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0032】
酸化(カルボキシル化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/mであることが好ましく、50~220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0033】
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0034】
(カチオン化)
本発明において、前記カルボキシル化セルロースをさらにカチオン化したセルロースを解繊して得られたカチオン化微細繊維状セルロースを使用することができる。当該カチオン変性されたセルロースは、前記カルボキシル化セルロース原料に、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライトまたはそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と、触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を、水または炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって得ることができる。
【0035】
グルコース単位当たりのカチオン置換度は0.02~0.50であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たカチオン変性されたセルロース原料は洗浄されることが好ましい。当該カチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水または炭素数1~4のアルコールの組成比率によって調整できる。
【0036】
(エステル化)
本発明において、エステル化したセルロースを解繊して得られたエステル化微細繊維状セルロースを使用することができる。当該エステル化セルロースは、前述のセルロース原料にリン酸系化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法により得られる。
【0037】
リン酸系化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用できる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩がより好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0038】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例として以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料の分散液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるのでコスト面から好ましくない。
【0039】
この際、セルロース原料、リン酸系化合物Aの他に、これ以外の化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0040】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、微細繊維状セルロースとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。
【0041】
(解繊)
本発明において、化学変性セルロースを解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて前記水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、上記の微細繊維状セルロースに予備処理を施すことも可能である。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0042】
分散処理においては通常、溶媒に化学変性セルロースを分散する。溶媒は、化学変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
【0043】
分散体中の化学変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0044】
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0045】
解繊工程を経て得られた化学変性微細繊維状セルロースが塩型の場合は、そのまま用いても良いし、鉱酸を用いた酸処理や、陽イオン交換樹脂を用いた方法等により酸型として用いても良い。また、カチオン性添加剤を用いた方法により疎水性を付与して用いても良い。
【0046】
(乾燥固形物)
本発明において用いる微細繊維状セルロースの乾燥固形物は、上記のようにして製造された微細繊維状セルロースの分散液を乾燥し、溶媒を蒸発させることにより得ることができる。微細繊維状セルロースの乾燥固形物としては、市販品を用いてもよい。
【0047】
本発明において、乾燥固形物とは、水分量が20質量%以下になるように乾燥させた状態をいう。水分量は0~20質量%であることが好ましく、0~12質量%であることがさらに好ましい。乾燥時に、水分量0%(絶乾)まで乾燥させたものでもよい。例えば、105℃で3時間の乾燥により、絶乾させることができる。
【0048】
乾燥の方法は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥、圧搾、風乾、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥などが挙げられる。乾燥装置も特に制限されず、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
(水系溶媒)
本発明において、水系溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、セルロース原料が親水性であるため、分散時に良好な分散状態を取りやすいという観点から水を用いることが好ましい。
【0050】
水溶性有機溶媒とは、水に溶解する有機溶媒である。その例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、およびこれらの組合せが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数が1~4の低級アルコールが好ましく、安全性および入手容易性の観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
【0051】
混合溶媒とする場合には、混合溶媒中の水溶性有機溶媒の量は、10質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。当該量の上限は限定されないが95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。また、発明の効果を損なわない程度で、当該水系溶媒は非水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0052】
(混合物)
タンク型ミキサーで撹拌する微細繊維状セルロースと水系溶媒との混合物は、タンク型ミキサーに投入する前に、乾燥固形物と水系溶媒とを予備撹拌したものであってもよい。予備撹拌の条件は特に制限されないが、例えば、500~1000rpmで、30秒~120秒程度である。また、予備撹拌の装置としては、例えば、ホモディスパー、ホモミクサー等を用いることができる。
なお、インライン型ミキサーを用いて微細繊維状セルロースの再分散液を得る場合は、インライン型ミキサーに投入する前に、配管内でのサンプルによる詰まりを防止するために予備撹拌を行うことが推奨される。一方、本発明では、タンク型ミキサーで撹拌するため、ミキサーの構成が異なり配管の詰まりの問題が生じず、予備撹拌の工程は、通常不要である。
【0053】
混合物における微細繊維状セルロースの固形分濃度は、特に限定されないが、0.1~5.0質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がより好ましい。
【0054】
(タンク型ミキサー)
本発明に用いることができるタンク型ミキサーとしては、微細繊維状セルロースの乾燥固形物と水系溶媒とを含む混合物を、周速50m/s以上で撹拌できるものであれば特に制限なく用いることができる。効率良く短時間で多量の再分散液を製造でき、再分散性に優れる観点から、タンク型ミキサーの一種であるヘンシェルミキサーを用いることが好ましい。
【0055】
ヘンシェルミキサーは、典型的には、上方に材料供給口を、側方に材料排出口を有する縦型の缶体、缶体の底部に配置された、下羽根及び当該下羽根の上に配置された上羽根を備える。また、任意に温度調節機構、減圧機構を備えるものであってもよい。微細繊維状セルロースの乾燥固形物と水系溶媒とを含む混合物を材料供給口から缶体内に投入すると、混合物は、回転する下羽根によって撹拌されて上昇し、更に回転する上羽根によっても強力なせん断力を受けることで、撹拌されながら分散される。
【0056】
本発明の再分散方法においては、せんだん力確保の観点から、タンク型ミキサーに備えられた羽根の周速を50m/s以上、好ましくは70m/s以上、100m/s以下として混合物の撹拌を行う。羽根の周速が上記下限値よりも低すぎる場合は、再分散にかかる時間が長くなる虞があり、上記上限値よりも高すぎる場合は、液はねが増えて分散不良の試料が増える虞がある。ここで、羽根の周速は、羽根の直径と回転数から算出することができる。上羽根と下羽根を備える場合は、両者のうちで大きい方の羽根の直径と回転数から計算すればよい。
【0057】
羽根の回転数は、特に制限がないが、液の循環の増加を促す観点から、例えば、好ましくは1000~4000rpm、より好ましくは2000~4000rpmである。
【0058】
タンク型ミキサーとして、上羽根および下羽根を備えるヘンシェルミキサーを用いる場合、羽根の形状としては特に限定されないが、分散性向上や生産性向上の観点から、上羽根としては、SR羽根:粉砕用や、CK羽根:大量処理用を用いることが好ましく、下羽根としては、S0羽根:高循環・高負荷用を用いることが好ましい。
【0059】
本発明の再分散方法によれば、タンク型ミキサーを用いて周速50m/s以上で撹拌するため、例えば1トン程度と多量の再分散液を製造する場合に、インライン型ミキサーを用いて再分散を行うために必要な2~10時間以上の調製時間を大幅に短縮することができ、効率に優れる。
【0060】
本発明の再分散方法において、タンク型ミキサーとしてヘンシェルミキサーを用いると、周速を上げることができるため、せん断速度が上がり、結果として、せん断応力(せん断時にかかる力)が上がることにより、高効率で微細繊維状セルロースの再分散液を得ることができる。なお、せん断応力は、せん断粘度にせん断速度を乗じた値で評価される。
【0061】
本発明の再分散方法により得られた再分散液について、微細繊維状セルロースが水系溶媒に微細繊維状セルロースとして再分散しているか否かは、電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等を用いて幅1nm~10μm程度のセルロースが観察できるか否かにより確認することができる。また、例えば、固形分濃度1.0質量%に調整した再分散液に墨汁等の色材を添加したものを、光学顕微鏡を用いて100倍の倍率で観察し、画像中に白く見える塊の大きさや数を、乾燥前の分散液の観察画像と比較する等して確認することができる。
【0062】
さらに、本発明の再分散方法により得られた再分散液について、微細繊維状セルロースが水系溶媒に微細繊維状セルロースとして再分散しているか否かは、レオメータ等を用いて再分散液の粘度特性と乾燥前の分散液の粘度特性とを測定し、これらを比較する等して確認することができる。
【実施例0063】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
【0064】
(実施例1)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの乾燥固形物(水分量8.8%)、及び水を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業製、FM150L/I)に投入し、回転数2730rpm、周速80m/sの条件で、冷却しながら撹拌し、CNF固形分濃度1.0質量%の再分散液を45L作製した。なお、経時(1分、3分、5分、10分、20分)で再分散液のサンプリングを行った。
【0065】
さらに、上記のようにしてサンプリングしたCNF再分散液1gに墨滴(株式会社呉竹製、固形分10%)を2適垂らし、ボルテックスミキサー(IUCHI社製、機器名:Automatic Lab-mixer HM-10H)の回転数の目盛りを最大に設定して1分間撹拌した。次に、墨滴を含有するセルロースナノファイバー分散液の膜厚が0.15mmになるように二枚のガラス板に挟み、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープKH-8700(株式会社ハイロックス製))を用いて倍率100倍で観察した。1分後および3分後にサンプリングした再分散液の観察結果の画像を図1(a)、(b)にそれぞれ示した。
【0066】
また、上記のようにしてサンプリングしたCNF再分散液の粘度特性を、レオメータ(アントンパール社製、レオメータMCR301)を用いて、せん断速度10-3~10(1/s)、温度25℃の条件で測定した。得られた粘度特性を参考例1の粘度特性とあわせ、グラフで図2に示した。
【0067】
(実施例2)
CNF固形分濃度を2.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてCNF再分散液を得た。このようにして得られたCNF再分散液は、固形分濃度を1質量%に調整した後に、実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。
【0068】
(実施例3)
CNF固形分濃度を3.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてCNF再分散液を得た。このようにして得られたCNF再分散液は、固形分濃度を1質量%に調整した後に、実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。1分後および3分後にサンプリングした再分散液の観察結果の画像を図3(a)、(b)にそれぞれ示した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。得られた粘度特性のグラフを図4に示した。
【0069】
(比較例1)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの乾燥固形物(水分量8.8%)に水を加えて、予備撹拌(500rpm、30秒間)を行い、CNF固形分1.0質量%のスラリーを27.5L作製した。このスラリーを、熱交換器を取り付けたホモミックラインミル(プライミクス株式会社製、LM-V型)に送液し、回転数3600rpm及び38.2L/分の条件で、水道水によりサンプルを冷却しながら30分間(41.7パス)処理することにより、CNF再分散液を得た。なお、経時(1分、3分、10分、20分、30分)で再分散液のサンプリングを行った。このようにして得られたCNF再分散液を実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。1分後および3分後にサンプリングした再分散液の観察結果の画像を図5(a)、(b)にそれぞれ示した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。得られた粘度特性のグラフを図6に示した。
【0070】
(比較例2)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの乾燥固形物(水分量8.8%)に水を加えて、予備撹拌(500rpm、30秒間)を行い、CNF固形分1.0質量%のスラリーを5L作製した。このスラリーをスーパーシェアミキサー(佐竹化学機械工業株式会社製、SDCS型)に送液し、回転数3000rpm及び26L/分の条件で10分間(50パス)処理することにより、CNF再分散液を得た。なお、経時(1分、3分、5分、10分)で再分散液のサンプリングを行った。このようにして得られたCNF再分散液を実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。1分後および3分後にサンプリングした再分散液の観察結果の画像を図7(a)、(b)にそれぞれ示した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。得られた粘度特性を参考例1の粘度特性とあわせ、グラフで図8に示した。
【0071】
(比較例3)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの乾燥固形物(水分量8.8%)に水を加えて、予備撹拌(500rpm、30秒間)を行い、CNF固形分1.0質量%のスラリーを10L作製した。このスラリーを渦流ポンプ(株式会社ニクニ製、20NED04Z-V)を使用して5.69m/秒で全量送液し、接続したOHRミキサー(株式会社OHR流体工学研究所製、MX-F8、出口断面積:50.2mm)を20パスさせ(約11.7分)、CNF再分散液を得た。スラリーの出口流量は、17.1L/分であった。なお、経時(1パス、2パス、3パス、5パス、10パス、20パス)で再分散液のサンプリングを行った。このようにして得られたCNF再分散液を実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。1パス、5パス、および10パス後にサンプリングした再分散液の観察結果の画像を図9(a)、(b)、(c)にそれぞれ示した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。得られた粘度特性を参考例1の粘度特性とあわせ、グラフで図10に示した。
【0072】
(比較例4)
CNF固形分濃度を2.0質量%としたこと以外は、比較例3と同様にしてCNF再分散液を得た。スラリーの出口流量は、14.1L/分であった。このようにして得られたCNF再分散液は、固形分濃度を1質量%に調整した後に、実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。1パス、5パス、および10パス後にサンプリングした再分散液の観察結果の画像を図11(a)、(b)、(c)にそれぞれ示した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。得られた粘度特性のグラフを図12に示した。
【0073】
(参考例1)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの乾燥固形物(水分量8.8%)に水を加えて、予備撹拌(500rpm、30秒間)を行い、CNF固形分1.0質量%のスラリーを0.3L作製した。このスラリーをホモディスパー(2.5型)に投入し、回転数3000rpm、周速3.9m/sの条件で60分間撹拌し、CNF再分散液を得た。このようにして得られたCNF再分散液を実施例1と同様にして光学顕微鏡を用いて観察した。この再分散液の観察結果の画像を図13に示した。また、得られたCNF再分散液の粘度特性を実施例1と同様にしてレオメータで測定した。
【0074】
(分散状態の評価方法)
実施例および比較例で得られた再分散液の画像を観察し、画像中にみられる白い塊(ゲル粒)の大きさや量が、参考例1で得られた画像と近い様相かどうかを比較することにより分散状態を判断した。さらに、実施例および比較例で得られた再分散液の粘度特性を確認し、参考例1と濃度が同じ実施例1、比較例1~3については参考例1で得られた再分散液の粘度特性と比較した。参考例1と濃度が異なる実施例2~3および比較例4については、処理時間を増やした場合における粘度特性の変化の有無を確認した。これらの結果を総合し、下記の基準で評価した。結果を表1に示した。
○:画像は参考例1に近い様相である。粘度特性は、参考例1の特性と近い特性を示している、もしくは、処理時間を増やしても粘度特性に変化が少ない。総合すると、分散状態が良好である。
△:画像は参考例1に近い様相であるが、粘度特性は、低せん断速度領域における粘度が参考例1よりも低い、もしくは、処理時間を増やすとさらに粘度特性が変化する場合。他にも、画像が参考例1よりは大きなゲル粒が多少みられるが、粘度特性は、処理時間を増やすことによる低せん断速度領域における粘度について明確な傾向がみられない場合も含む。総合すると、分散状態が、良好と悪いの中間である。
×:画像では参考例1よりも大きなゲル粒が多数みられる。粘度特性は、少なくとも低せん断速度領域における粘度が参考例1よりも低い、もしくは、処理時間を増やすと粘度特性が大きく変化する。総合すると、分散状態が悪い。
【0075】
(電力原単位)
消費電力及び分散状態が良好となる時間から、CNF固形分1kgを含む分散液を分散状態が良好となるまで処理するのに要する電力原単位を求めた。この値が低いほど、製造に要する電力のコストが低くなることを示す。結果を表1に示した。
【0076】
(生産性)
サンプル量及びCNF濃度と、分散状態が良好となる時間から、1時間当たりに処理可能な分散液に含まれるCNFの固形分(kg)を求めた。なお、生産性には、バッチ交換時間は考慮していない。結果を表1に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
(評価結果)
実施例1~3では、分散状態が良好(○)となるまでの処理時間が1分であった。比較例1では3分、比較例2では3分、比較例3では5.8分、比較例4では7.1分であった。比較のため、サンプル量を1tにスケールアップした場合に分散状態が良好となるまでの想定処理時間を算出し、表1に記載した。
【0079】
実施例1~3では、1回のバッチ交換にかかる時間(装置を停止し、サンプル入れ替える時間)として2分を考慮すると、サンプル1tを処理するために要する時間は、合計66分となった。これは、比較例1~4のインライン型ミキサーを用いた場合の想定処理時間の109~710分よりも大幅に短縮されたものであった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13