(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109344
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】金属用塗料、金属塗装物及び金属キャップ
(51)【国際特許分類】
C09D 167/00 20060101AFI20230801BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230801BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230801BHJP
C09D 123/02 20060101ALI20230801BHJP
C09D 123/30 20060101ALI20230801BHJP
C09D 161/04 20060101ALI20230801BHJP
C09D 161/20 20060101ALI20230801BHJP
B65D 41/04 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D7/63
C09D201/00
C09D123/02
C09D123/30
C09D161/04
C09D161/20
B65D41/04 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010799
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 好樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 武
【テーマコード(参考)】
3E084
4J038
【Fターム(参考)】
3E084AA12
3E084AA22
3E084AB01
3E084BA01
3E084CA01
3E084CC01
3E084DA01
3E084DB12
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3E084GA04
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3E084HA02
3E084HB07
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3E084HD01
3E084LD01
4J038CB001
4J038CB061
4J038CB181
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4J038DA111
4J038DD041
4J038DG262
4J038KA03
4J038KA06
4J038MA09
4J038MA13
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA04
4J038PA06
4J038PA19
4J038PB04
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】金属との密着性、加工性、耐食性に優れ、特に金属キャップ内面用塗料としてライナー材との接着性が良好な金属用塗料を提供する。
【解決手段】 以下を満たす金属用塗料。
(1)ガラス転移温度10℃以上90℃以下のポリエステル樹脂を含有する。
(2)硬化樹脂を含有する。
(3)ポリオレフィン系樹脂をポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し10質量%以上25質量%以下含有する。
(4)ポリオレフィン系樹脂として、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂を併用し、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂の質量比「酸化ポリオレフィン系樹脂:非酸化ポリオレフィン系樹脂が 40:60 ~ 65:35の範囲である。
(5)融点が0℃~50℃の脂肪酸エステルを、ポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し1質量%~10質量%含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属用塗料であって、以下を満たすことを特徴とする金属用塗料。
(1)ガラス転移温度10℃以上90℃以下のポリエステル樹脂を含有する。
(2)硬化樹脂を含有する。
(3)ポリオレフィン系樹脂をポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し10質量%以上25質量%以下含有する。
(4)ポリオレフィン系樹脂として、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂を併用し、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂の質量比「酸化ポリオレフィン系樹脂:非酸化ポリオレフィン系樹脂」が 40:60 ~ 65:35の範囲である。
(5)融点が0℃~50℃の脂肪酸エステルを、ポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し1質量%~10質量%含有する。
【請求項2】
前記(1)ガラス転移温度10℃以上90℃以下のポリエステル樹脂が、水酸基を含有する請求項1に記載の金属用塗料。
【請求項3】
前記(2)硬化樹脂が、アミノ樹脂又はフェノール樹脂である請求項1又は2に記載の金属用塗料。
【請求項4】
前記(5)融点が0℃以上50℃以下の脂肪酸エステルが、動植物由来の脂肪酸エステルである請求項1~3の何れかに記載の金属用塗料。
【請求項5】
金属キャップ用である請求項1~4の何れかに記載の金属用塗料。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の金属用塗料を、金属に塗布後、100℃~280℃の範囲で焼き付けることを特徴とする金属塗装物。
【請求項7】
請求項1~5の何れかに記載の金属用塗料を、金属板に塗布後、100℃~280℃の範囲で焼き付けた後成形された金属キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製素材との密着性、耐食性、金属キャップの開栓性及びライナーとの付着性に優れた塗膜を形成するキャップ用塗料組成物及びキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、飲料用缶として、蓋が再栓可能なネジ加工されたキャップ付きボトル缶が使用されている。キャップ付きボトル缶の原料となる金属缶の内外面用塗料、蓋内外面用、さらには金属キャップ内外面用塗料としては、ポリエステル樹脂を主樹脂として、メラミン樹脂やフェノール樹脂などの硬化剤を配合した熱硬化塗料が使用されている(例えば特許文献1、2、3参照)
【0003】
キャップ付きボトル缶には、金属キャップの開栓の容易さに加え、再度閉栓した際の確実な漏れ防止と再栓の容易さが求められる。更に近年は、特許文献1に記載されたような、金属キャップ裏にライナーと称するポリオレフィン系樹脂等のポリエチレンシートを有するライナー付きキャップの他、開栓トルクを低減させる目的でライナー材が接着していないキャップも開発されている。従って、前記キャップ付きボトル缶の原料となる金属缶用の塗料、特に金属キャップ用の塗料には、開栓、再栓といったライナー材の有無に関係なく要求される特性の他、特にライナー材が接着したキャップの場合は、ライナー材との接着性までもが要求される。一方で、前記特許文献1,2,3に記載の熱硬化塗料では、必ずしもこれらの要求特性を全て満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-112889号公報
【特許文献2】特開2007-138011号公報
【特許文献3】特開2007-138012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、金属との密着性、耐食性に優れ、且つ、特に金属キャップ内面用塗料として使用した場合に、開栓、再栓といったライナー材の有無に関係なく要求される特性の他、特にライナー材が接着したキャップの場合は、ライナー材との接着性が良好な金属用塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、 金属用塗料であって、以下を満たす金属用塗料を提供する。
(1)ガラス転移温度10℃以上90℃以下のポリエステル樹脂を含有する。
(2)硬化樹脂を含有する。
(3)ポリオレフィン系樹脂をポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し10質量%以上25質量%以下含有する。
(4)ポリオレフィン系樹脂として、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂を併用し、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂の質量比「酸化ポリオレフィン系樹脂:非酸化ポリオレフィン系樹脂」が 40:60 ~ 65:35の範囲である。
(5)融点が0℃~50℃の脂肪酸エステルを、ポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し1質量%~10質量%含有する。
【0007】
また本発明は、前記(1)ガラス転移温度10℃以上90℃以下のポリエステル樹脂が、水酸基を含有する金属用塗料を提供する。
【0008】
また本発明は、前記(2)硬化樹脂が、アミノ樹脂又はフェノール樹脂である金属用塗料を提供する。
【0009】
また本発明は、前記(5)融点が0℃以上50℃以下の脂肪酸エステルが、動植物由来の脂肪酸エステルである金属用塗料を提供する。
【0010】
また本発明は、金属キャップ用である金属用塗料を提供する。
【0011】
また本発明は、前記記載の金属用塗料を、金属に塗布後、100℃~280℃の範囲で焼き付ける金属塗装物を提供する。
【0012】
また本発明は、前記記載の金属用塗料を、金属板に塗布後、100℃~280℃の範囲で焼き付けた後成形された金属キャップを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗料によれば、金属との密着性、耐食性に優れ、且つ、特に金属キャップ内面用塗料として使用した場合に、開栓、再栓といったライナー材の有無に関係なく要求される特性の他、特にライナー材が接着したキャップの場合は、ライナー材との接着性が良好な金属用塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ガラス転移温度10℃以上90℃以下のポリエステル樹脂)
本発明で使用するポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(以後Tgと称する場合がある)10℃~90℃の範囲のポリエステル樹脂であれば特に限定無く使用することができる。
尚本発明において、ガラス転移温度とは、示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)により測定した値であり、具体的には、ポリエステル樹脂の試料5mgをアルミニウム製の抑え蓋型容器に入れて密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却し、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させ、この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)としている。
【0015】
ガラス転移温度は、中でも10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましい。一方上限は、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明で使用するポリエステル樹脂は、具体的には、多塩基酸と多価アルコールとをエステル化させて得られる。
多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸等の芳香族2塩基酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、無水ヘット酸等の脂環族2塩基酸、マロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、ジメチルコハク酸、無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水ハイミック酸等の脂肪族2塩基酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水メチルシクロヘキシルヘキセントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の多塩基酸等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールF、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられ1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
硬化塗膜の加工性を良好なものとするため、ポリエステル樹脂の数平均分子量は5,000以上とすることが好ましく、10,000以上とすることがより好ましい。また、塗工時に粘度が高くなりすぎて作業性が悪化しないよう、数平均分子量は100,000以下とすることが好ましく、50,000以下とすることがより好ましい。なお本発明における数平均分子量は、GPCのポリスチレン換算による値である。
【0019】
本発明においては、前記ポリエステル樹脂が水酸基を有することが好ましい。水酸基量は、水酸基価に換算し3mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましい。下限は中でも5mgKOH/g以上であることが好ましい。一方上限は20mgKOH/g以下であることが好ましく10mgKOH/g以下であることが最も好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂の酸価は特に限定されないが、一例として0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。
【0021】
本発明の塗料に耐レトルト性が必要な場合には、上述した多塩基酸、多価アルコールに加えて、フェノール性の水酸基を備える化合物を用いて得られるポリエステル樹脂を用いてもよい。ポリエステル樹脂の調整に用いられる、フェノール性の水酸基を備える化合物としては、例えばジフェノール酸(4,4-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-ペンタン酸)、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、m-ヒドロキシフェニル酢酸、o-ヒドロキシフェニル酢酸、p-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、m-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、o-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-ヒドロキシフェネチルアルコール、m-ヒドロキシフェネチルアルコール、o-ヒドロキシフェネチルアルコール、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、4-ヒドロキシメチル安息香酸、ホモバニリン酸、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3-ヒドロキシイソフタル酸等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ジフェノール酸、p-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸が好ましく、ジフェノール酸が特に好ましい。
【0022】
フェノール性の水酸基を備える化合物が、ポリエステル樹脂の合成に用いられる多塩基酸、多価アルコール、フェノール性の水酸基を備える化合物の総量に占める割合は0.1質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましい。これにより、確実に耐レトルト性、耐食性、反応性、加工性に優れた塗料とすることができる。
【0023】
フェノール性の水酸基を備える化合物を用いてポリエステル樹脂を合成する場合、多塩基酸と多価アルコールとをエステル化させる際に同時に反応させてもよいし、多塩基酸と多価アルコールをエステル化させた後、フェノール性の水酸基を備える化合物を反応させてもよい。
【0024】
(硬化剤)
本発明で使用する硬化剤は、特に限定されず、通常食品用途としての金属用塗料に使用される硬化剤を適宜使用することができる。具体的には、アミノ樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート化合物等の硬化剤が挙げられる。中でもアミノ樹脂またはフェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
硬化剤として用いることができるフェノール樹脂としては、石炭酸、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等の3官能のフェノール化合物、もしくはp-クレゾール、o-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等の2官能性のフェノール化合物と、ホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で合成したものや、そのメチロール基の一部ないしは全部を低級アルコールによってエーテル化したものが挙げられる。
またアミノ樹脂としては、尿素、メラミン、ベンゾグアナミンのホルマリン付加物やこれらと低級アルコールとの反応によりエーテル化したものが挙げられる。イソシアネート化合物としては、脂肪族、芳香族のポリイソシアネートやその3量体、ブロック化したものなどが挙げられる。
【0026】
これらの硬化剤は、塗料の反応性を良好なものとする一方、含有量が多すぎると塗膜が硬くなりすぎ、加工性が低下するおそれがある。このため、これらの硬化剤の含有量は、本発明に含まれる樹脂固形分中の30質量%以下に留めることが好ましい。
【0027】
(ポリオレフィン系樹脂)
本発明においては、(3)ポリオレフィン系樹脂をポリエステル樹脂固形分と硬化樹脂固形分の和に対し10質量%~25質量%含有し、且つ、(4)ポリオレフィン系樹脂として、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂を併用し、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂の質量比「酸化ポリオレフィン系樹脂:非酸化ポリオレフィン系樹脂」が 40:60 ~ 65:35の範囲であることが特徴である。
前記(3)及び(4)を満たすことで、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィンの塗膜への被表面積が増え、接着力が安定すると推定される。また本発明においては、酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂とを前記ポリエステル樹脂等に混合するだけで、本発明の効果を満たす金属用塗料を得ることができる。
【0028】
(酸化ポリオレフィン系樹脂)
本発明で使用する酸化ポリオレフィン系樹脂とは、酸価を有するポリオレフィン系樹脂である。
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体(以下「オレフィン-酸共重合体」と称することがある)を含むことが好ましく、オレフィン-酸共重合体から構成されることがより好ましい。樹脂成分がオレフィン-酸共重合体を含むことにより、耐塩水性や摺動性が向上する。
【0029】
(オレフィン-酸共重合体)
オレフィン-酸共重合体は、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸とを既知の方法で共重合させることにより製造でき、また市販されている。オレフィン-酸共重合体は、1種または2種以上を使用することができる。
【0030】
オレフィン-酸共重合体の製造に使用できるオレフィンとしては、特に限定はないが、エチレン、プロピレン等が好ましく、エチレンがより好ましい。オレフィン-酸共重合体は、オレフィン構成単位が1種のオレフィンのみに由来するものであってもよいし、2種以上のオレフィンに由来するものであってもよい。
【0031】
オレフィン-酸共重合体の製造に使用できるα,β-不飽和カルボン酸も、特に限定はなく、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸が好ましい。オレフィン-酸共重合体は、α,β-不飽和カルボン酸の構成単位が、1種のα,β-不飽和カルボン酸のみに由来するものであってもよいし、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸に由来するものであってもよい。
【0032】
上記オレフィン-酸共重合体は、その他の単量体に由来する構成単位を有していても良い。オレフィン-酸共重合体中において、その他の単量体に由来する構成単位量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、最も好ましいオレフィン-酸共重合体は、オレフィン-およびα,β-不飽和カルボン酸のみから構成されるものである。好ましいオレフィン-酸共重合体として、エチレン-アクリル酸共重合体が挙げられる。
【0033】
上記オレフィン-酸共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは1,000~10万、より好ましくは3,000~7万、さらに好ましくは5,000~3万である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
【0034】
(α,β-不飽和カルボン酸重合体)
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン-酸共重合体及びα,β-不飽和カルボン酸重合体(以下「カルボン酸重合体」と称することがある)を含むことが好ましく、オレフィン-酸共重合体及びカルボン酸重合体から構成されることがより好ましい。
【0035】
上記カルボン酸重合体としては、1種または2種以上のα,β-不飽和カルボン酸の単独重合体もしくは共重合体、またはさらに他の単量体(オレフィンを除く)を共重合させた共重合体が挙げられる。このようなカルボン酸重合体は、既知の方法で製造でき、また市販されている。カルボン酸重合体は、1種または2種以上を使用することができる。
【0036】
カルボン酸重合体の製造に使用できるα,β-不飽和カルボン酸には、上記オレフィン-酸共重合体の合成に使用できるものとして例示したα,β-不飽和カルボン酸がいずれも使用可能である。これらの中でもアクリル酸又はマレイン酸が好ましく、マレイン酸がより好ましい。
【0037】
カルボン酸重合体は、α,β-不飽和カルボン酸以外の単量体に由来する構成単位を含有していても良いが、その他の単量体に由来する構成単位量は、重合体中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下であり、α,β-不飽和カルボン酸のみから構成されるカルボン酸重合体がより好ましい。
【0038】
好ましいカルボン酸重合体として、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-マレイン酸共重合体、ポリマレイン酸等を挙げることができ、これらの中でも塗膜密着性、樹脂皮膜と金属板との密着性等の観点から、ポリマレイン酸がより好ましい。ポリマレイン酸を使用することにより、生成する樹脂エマルションの粒子径が小さくなり(20~60nm)、造膜して得られる皮膜が緻密になるため、摺動性等が向上する。また、ポリマレイン酸はカルボキシル基量が多いため、樹脂皮膜と金属板との密着性が向上する。
【0039】
上記カルボン酸重合体の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは500~3万、より好ましくは800~1万、さらに好ましくは900~3,000、最も好ましくは1,000~2,000である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
【0040】
前記酸化ポリオレフィン系樹脂は市販品を使用することもできる。例えばハネウェル社製のA-Cシリーズ等が挙げられる。
【0041】
(非酸化ポリオレフィン系樹脂)
本発明において、非酸化ポリオレフィン系樹脂は、酸価を有さないポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。中でも、ポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メタアクリル酸共重合体等が挙げられ、中でも直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等の低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0042】
前記非酸化ポリオレフィン系樹脂は市販品を使用することもできる。例えば三菱ケミカル(株)のモディックシリーズ、住友化学のスミカセンシリーズ等が挙げられる。
【0043】
前記(3)ポリオレフィン系樹脂を前記ポリエステル樹脂固形分と前記硬化樹脂固形分の和に対し10質量%以上25質量%以下含有し、前記酸化ポリオレフィン系樹脂と非酸化ポリオレフィン系樹脂との和として、前記ポリエステル樹脂固形分と前記硬化樹脂固形分の和に対し10質量%~25質量%含有することを示す。下限は中でも11質量%以上であることが好ましい。一方上限は23質量%以下であることが好ましい。
【0044】
(脂肪酸エステル)
本発明においては、(5)融点が0℃以上50℃以下の脂肪酸エステルを、前記ポリエステル樹脂固形分と前記硬化樹脂固形分の和に対し1質量%~10質量%含有することも特徴である。脂肪酸エステルを当該範囲に含有することで滑り性に優れる。
【0045】
脂肪酸エステルは、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物であり、具体的には例えば、椿油、マカデミアナッツ油、シア油、オリーブ油、メドウフォーム油、ヤシ油、オリーブ油などの植物油やラノリンなどの動物油、グリセリンと脂肪酸の合成油などを挙げることができる。食缶用に適したものとして、酸化による変質の少なく臭気のできるだけ少ないものを考慮して選択することができる。中でも、脂肪酸エステル中の不飽和二重結合含有量の目安となるヨウ素価が小さいものが酸化されにくく好ましく、一般に不乾性油と呼ばれるヨウ素価が100以下、好ましくは50以下のものが適している。また、臭気の点からは植物性油や合成油が適している。酸化されにくく臭気の少ない代表的な脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリンと飽和脂肪酸の合成油、精製オリ-ブ油、精製椿油等を挙げることができる。中でも、植物由来の脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0046】
前記脂肪酸エステルの融点は、中でも0℃以上が好ましく5℃以上が最も好ましい。一方上限は50℃以下であることが好ましく45℃以下であることが最も好ましい。
【0047】
前記脂肪酸エステルの含有量は、中でも、前記ポリエステル樹脂固形分と前記硬化樹脂固形分の和に対し1質量%以上であることが好ましく2質量%以上であることが最も好ましい。一方上限は10質量%以下であることが好ましく8質量%以下であることが最も好ましい。
【0048】
(その他の成分)
さらに、本発明の塗料は酸触媒、顔料、滑剤、消泡剤、レベリング剤等を含んでいてもよい。
酸触媒としては、アルキルリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸、これらの化合物とナトリウム、カリウム、亜鉛、アンモニア、トリエタノールアミン等との塩等が挙げられる。これらの酸触媒を併用することにより反応性を向上させることができるが、含有量が多すぎると硬化塗膜と基材との密着性が低下するおそれがある。このため酸触媒の含有量は塗料に含まれる樹脂固形分100質量部に対して1質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部以下とすることが好ましい。酸触媒を含まなくてもよい。
【0049】
顔料としては、従来公知の無機顔料、有機顔料を特に制限なく用いることができ、無機顔料としてはクロム酸塩(黄鉛、クロムバーミリオン)フエロシアン化物(紺青)、硫化物(カドミウムエロー、カドミウムレッド)、酸化物(酸化チタン、ベンガラ、鉄黒、酸化亜鉛)硫酸塩(硫酸バリウム、硫酸鉛)、珪酸塩(群青、珪酸カルシウム)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)燐酸塩(コバルトバイオレット)金属粉末(アルミニウム粉末、ブロンズ)炭素(カーボンブラック)等が挙げられる。有機顔料としてはアゾ系(ベンジジンイエロー、ハンザエロー、バルカンオレンジ、パーマネントレッドF5R、カーミン6B、レーキレッドC、クロモフタールレッド、クロモフタールエロー)、フタロシアニリン系(フタロシアニンブルー、フタロシアニリングリーン)、建染染料系(インダスレンブルー、チオインジゴボルドー)染付レーキ系(エオシンレーキ、キノリンエロー、ローダミンレーキ、メチルバイオレットレーキ)、キナクドリン系(シンカシアレッド、シンカシアバイオレット)ジオキジシン系(PVファストバイオレットBL)等が挙げられる。これらの顔料は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
滑剤、消泡剤、レベリング剤等は従来公知のものを用いることができ特に制限はない。
【0051】
本発明の金属用塗料は、エアースプレー、エアレススプレー、静電スプレー等の各種スプレー塗装、浸漬塗装、ロールコーター塗装、グラビアコーターならびに電着塗装等公知の手段により、鋼板、缶用アルミニウム板等の金属基材やPETペットフィルム等に塗装し、金属塗装物を得ることができる。塗布量は、硬化塗膜の膜厚が0.1~20μm程度となるよう調整すればよい。焼付け条件は用途により適宜調整すればよいが、一例として、缶用塗料として用いる場合には、100℃~280℃で1秒~30分程度焼き付けることで良好な硬化塗膜を得ることができる。
【0052】
本発明の金属用塗料は、金属の飲料缶や食缶の缶胴や缶蓋、金属キャップの内面や外面用塗料、アルミニウムや錫メッキ鋼板、前処理した金属やスチール等の各種金属素材の被覆用塗料、木材やフィルムやその他加工品の被覆剤として用いることができる。本発明の金属用塗料を塗装した金属塗装物は、中でも、飲料缶・食缶の内外面用塗料、金属キャップ内面用塗料として好ましく用いることができる。
【実施例0053】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。配合組成その他の数値は特記しない限り質量基準である。
【0054】
(実施例1)
(金属用塗料の製造方法)
ポリエステル樹脂(商品名:「バイロン330」東洋紡(株)製)20部をメチルエチルケトン/シクロヘキサノン=50/50の比率からなる混合溶剤80部に溶解しポリエステル樹脂溶液(A)を得た。
上記ポリエステル樹脂溶液(A)100部に対し以下原料(B)~(E)を混合し、金属用塗料を得た。
(B)硬化樹脂:アミノ樹脂(商品名:「サイメル325N」オルネクス社製)3部
(C)酸化ポリオレフィン樹脂:酸化ポリエチレン樹脂(商品名:「A-C392」ハネウェル社製)15%ブチルセロソルブ分散液9部
(D)ポリオレフィン樹脂:ポリエチレン樹脂(商品名:「スミカセンFV401」住友化学(株)製 7%ブチルセロソルブ分散液20部
(E)脂肪酸エステル:パーム油0.6部
【0055】
(実施例2~6 比較例1~4)
組成を表1~表5に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、金属用塗料を得た。部の欄において空欄は未配合を表す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
表中、略語等は以下の通りである。
バイロン330 (Tg 16℃) ポリエステル樹脂 東洋紡(株)製
バイロン360(Tg 56℃) ポリエステル樹脂 東洋紡(株)製
バイロン880(Tg 84℃) ポリエステル樹脂 東洋紡(株)製
サイメル325N アミノ樹脂 オルネクス社製
スミライトレジンPR55317 フェノール樹脂 住友ベークライト(株)製
ハネウェルA-C392 酸化ポリオレフィン樹脂 ハネウェル社製
スミカセンFV401 非酸化ポリオレフィン樹脂 住友化学(株)製
スミカセンL-405 非酸化ポリオレフィン樹脂 住友化学(株)製
スミカセンL-705 非酸化ポリオレフィン樹脂 住友化学(株)製
精製パーム油(融点 27~50℃)
オリーブ油(融点 0~6℃)
【0062】
(金属塗装物の製造方法)
得られた金属用塗料を、板厚0.26mmのアルミニウム板上に、乾燥膜厚が4~6μmとなるように、バーコーターを用いて塗工した。次いでガスオーブンを用いて180℃、10分間で焼付硬化し、試験用の金属塗装物を得た。
【0063】
(試験方法)
(ポリオレフィン接着性試験)
試験用の金属塗装物を、7cm×2cmの大きさに切断し、試験用塗装板とした。一方、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物(SEBS 、SEPS等)と結晶化ポリプロピレン樹脂等を主成分とするエラストマーを厚さ1mmに加工したポリプロピレンライナー材を、5cm×1.5cmの大きさに切断し、接着用基材とした。
前記試験用塗装板と、前記ポリプロピレンライナー材である接着用基材を重ね合わせ、接着温度155℃、接着時圧力0.5MPa、接着時間5秒の条件で、ヒートシールを行い、接着性試験用の試料片を得た。
【0064】
(ポリオレフィン接着性試験(常温接着強度測定))
接着性試験用の試料片を1cmの幅となるように切断し、100mm/分の引っ張り速度で接着強度(kgf/cm)を測定した。得られたチャートより、接着強度の最小値を読み取った。最小値1.0kgf/cm以上が実用レベルである。
(接着力評価基準)
◎:2.0kgf/cm以上
○:1.5~1.9kgf/cm
△:1.0~1.4kgf/cm
×:0.9kgf/cm以下
【0065】
(動摩擦係数試験)
試験用の金属塗装物の硬化塗膜上に、荷重1kg引張り速度1000cm/ 分における鋼球三点支持法による動摩擦係数測定を行い評価した。動摩擦係数が小さいほどキャップの開栓性は良好となる。
(評価基準)
◎:動摩擦係数 0.03以下
〇: 0.04~0.07
△: 0.08~0.1
×: 0.11以上
【0066】
(レトルト白化試験)
試験用の金属塗装物を、125℃/30分間のレトルト処理した後、塗膜の白化の程度を目視で判定した。○以上が実用レベルである。
(評価基準)
◎:白化が全くない。
○:若干白化が認められる
△:白化がやや多い。
×:白化が著しい。
【0067】
これらの試験結果を、表6に示す。
【0068】
【0069】
以上より、実施例の金属用塗料は、ライナー材として多用されるポリオレフィン系樹脂との接着性が良好であることが明らかである。比較例1,2は、酸化オレフィン系樹脂:非酸化オレフィン系樹脂の比が本発明の範囲を満たない例であるが、ポリオレフィン系樹脂との接着性に劣った。また比較例3は硬化樹脂を含有しない場合、比較例4は融点が0℃~50℃の脂肪酸エステルを含有しない場合であるが、いずれも所望する物性を満たさないものであった。