(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109349
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】味残りが良くなる惣菜用醤油含有調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/50 20160101AFI20230801BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230801BHJP
A23L 7/10 20160101ALN20230801BHJP
A23L 35/00 20160101ALN20230801BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20230801BHJP
A23L 13/70 20230101ALN20230801BHJP
【FI】
A23L27/50 E
A23L27/00 D
A23L7/10 E
A23L7/10 F
A23L35/00
A23L13/00 A
A23L13/70
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010809
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】照井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】安田 晋之介
(72)【発明者】
【氏名】沖村 麻衣子
【テーマコード(参考)】
4B023
4B036
4B039
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LE14
4B023LE21
4B023LG01
4B023LK01
4B023LK02
4B023LK03
4B023LK07
4B023LK20
4B023LL01
4B023LP07
4B023LP10
4B023LP20
4B036LC01
4B036LF15
4B036LF19
4B036LH04
4B036LH05
4B036LH06
4B036LH10
4B036LH13
4B036LH29
4B036LH38
4B036LH44
4B036LK01
4B036LP01
4B039LB14
4B039LC06
4B039LR12
4B039LR30
4B042AC01
4B042AC03
4B042AD08
4B042AD18
4B042AG02
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK02
4B042AK03
4B042AK06
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK11
4B042AK17
4B042AP02
4B042AP05
4B042AP07
4B047LB07
4B047LB09
4B047LF01
4B047LF02
4B047LF04
4B047LF10
4B047LG03
4B047LG05
4B047LG07
4B047LG23
4B047LG60
4B047LG64
4B047LP02
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】
醤油を使用した惣菜では、調理した直後は醤油の風味を強く感じられるが、時間が経つにつれ、醤油の風味などの作り立ての味が弱くなるという問題があった。本発明は、醤油を含有する調味料で調理された惣菜において、醤油の風味が弱くならず、調理後に時間が経っても、作りたてと同様の味わいが保持されることを課題とする。
【解決手段】
フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満である惣菜用醤油含有調味料を調製し、該惣菜用醤油含有調味料で惣菜を調味する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満である惣菜用醤油含有調味料。
【請求項2】
請求項1に記載の惣菜用醤油含有調味料で調味された味残りの良い惣菜。
【請求項3】
フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満の惣菜用醤油含有調味料を調製し、該惣菜用醤油含有調味料で惣菜を調味することを特徴とする、味残りの良い惣菜の製造方法。
【請求項4】
フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満である惣菜用醤油含有調味料を調味に使用することを特徴とする、惣菜の味残り改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、惣菜用醤油含有調味料、味残りの良い惣菜、その製造方法及び惣菜の味残り改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜炒めなどの炒め物、焼鳥などの焼き物、から揚げなどの揚げ物、牛丼などの丼もの、焼そばなどの麺類、サンドイッチ、和え物など、そのまま食事として食べられる状態に調理された惣菜が、惣菜店、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの店頭で販売されている。惣菜は調理されて店頭に並べられてから消費者の手に渡るまでに時間がかかり、その間に風味が低下する。そのため、できるだけ作り立ての風味を保つことが求められている。しかし、醤油を使用した惣菜では、調理した直後は醤油の風味を強く感じられるが、時間が経つにつれ、醤油の風味などの作り立ての味が弱くなるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、フェネチルアセテートの含有量が十分な量に達した酵母発酵物を火入れすることで、30ppb以上のフェネチルアセテートを含む火入れ醤油が得られることが記載されている。また、フェネチルアセテートは、加熱劣化を起こしにくく、保香性及び保存性に優れ、結果として醤油自体の風味、食材及び調理物の風味をより良いものとすることができる作用を有することが記載されている。しかし、従来の醤油を使用した惣菜において、時間が経つにつれ、醤油の風味などの作り立ての味が弱くなるという問題は解決されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2021/193925A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、醤油を含有する調味料で調理された惣菜において、醤油の風味が弱くならず、調理後に時間が経っても、作りたてと同様の味わいが保持されることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、フェネチルアセテート濃度が2ppb以上である惣菜用醤油含有調味料を惣菜の調味に使用すると、製造日の翌日でも風味の低下が少なくなることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示す惣菜用醤油含有調味料、味残りの良い惣菜、その製造方法及び惣菜の味残り改善方法である。
(1)フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満である惣菜用醤油含有調味料。
(2)上記(1)に記載の惣菜用醤油含有調味料で調味された味残りの良い惣菜。
(3)フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満の惣菜用醤油含有調味料を調製し、該惣菜用醤油含有調味料で惣菜を調味することを特徴とする、味残りの良い惣菜の製造方法。
(4)フェネチルアセテート濃度が2ppb以上20,000ppb未満である惣菜用醤油含有調味料を調味に使用することを特徴とする、惣菜の味残り改善方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、醤油を含有する調味料で調理された惣菜において、醤油の風味が弱くならず、調理後に時間が経っても、作りたてと同様の味わいが保持される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するには、フェネチルアセテート濃度を2ppb以上となるように惣菜用醤油含有調味料を調製する。前記特許文献1のフェネチルアセテートを30ppb以上含有する火入れ醤油を惣菜用調味料の原材料として使用してもよい。該惣菜用醤油含有調味料で調味された惣菜は、醤油の風味が弱くならず、調理後に時間が経っても、作りたてと同様の味わいを保持することができる。
【0010】
本発明において「味残りの良い」とは、醤油を含有する調味料で調理された惣菜において、醤油の風味が弱くならず、調理後に時間が経っても、作りたてと同様の味わいを保持することを言う。
【0011】
本発明の惣菜用醤油含有調味料におけるフェネチルアセテート濃度は、風味改善作用が認められる程度の量であり、具体的には、2ppb以上の濃度であり、優れた風味改善作用を奏するという観点から3ppb以上であることが好ましく、5ppb以上であることがより好ましい。ただし、フェネチルアセテートは、それ自体でバラの香りを有し、香りの閾値は約3,000ppbとされている。そこで、フェネチルアセテートの含有量が十分に多い場合、具体的には20,000ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、喫食時に所望としない花様の異質な香りを付与する可能性がある。そこで、フェネチルアセテートの含有量の上限は、20,000ppbよりも少ない量であることが好ましく、15,000ppb以下であることがより好ましく、10,000ppb以下であることがさらに好ましく、3,000ppb以下であることがなおさらに好ましい。
【0012】
本発明の惣菜用醤油含有調味料は、フェネチルアセテートを2ppb以上の濃度となるようにフェネチルアセテート添加することで得られるが、フェネチルアセテートを含有する醤油を原料として使用してもよい。フェネチルアセテートを2ppb以上の濃度含有する醤油のみでも惣菜用調味料として使用することができる。
【0013】
フェネチルアセテートを含有する醤油は、国際公開公報WO2021/193925A1に記載されているように、例えば、乳酸発酵後の醤油諸味の液汁を酵母で発酵させて火入れすることにより、30ppb以上のフェネチルアセテートを含む火入れ醤油が得られる。フェネチルアセテート含有量は、国際公開公報WO2021/193925A1に記載の方法でGC-MSにより測定することができる。
【0014】
本発明の惣菜用醤油含有調味料に含有される醤油は、こいくちしょうゆ、うすくちしょうゆなど、通常知られているとおりの調味料として用いられる醤油を意味する。液体の醤油だけでなく、濃縮した醤油、ペースト状の醤油、粉末醤油も使用することができる。
【0015】
本発明の惣菜用醤油含有調味料において醤油以外に使用する原材料としては、砂糖や果糖ぶどう糖液糖などの糖類、みりんや酒精含有調味料などの酒類調味料、たん白加水分解物、酵母エキス、昆布エキス、魚介エキス、野菜エキス、畜肉エキスなどのうまみ原料、キサンタンガムなどの増粘剤、唐辛子、胡椒、ターメリックなどの香辛料、食塩などが挙げられる。また、ネギ、ショウガやニンニクなどの具材を加えてもよい。
【0016】
本発明の惣菜とは、そのまま食べられるように調理された料理のことである。料理のジャンルは限定されず、和え物など和風の惣菜だけでなく、麻婆豆腐、チャーハンなどの中華風惣菜、ハンバーグ弁当、サンドイッチなどの洋風惣菜でもよい。
【0017】
肉野菜炒めや焼きそばのように肉や野菜などの食材を鉄板やフライパンなどで加熱調理した炒め物の惣菜、焼きおにぎり、焼鳥、鶏の照り焼きなど炭火やオーブンなどで加熱して調理した焼き物の惣菜、肉じゃが、筑前煮、麻婆豆腐、おでんなど肉や野菜を調味液で煮込んだ煮物の惣菜、天ぷらや唐揚げのように肉や野菜などの食材を油で加熱調理した揚げ物の惣菜などが挙げられる。
【0018】
また、例えば、焼き肉弁当は、焼き物の焼肉を炊飯米に載せた惣菜であり、牛丼、親子丼は、煮物を炊飯米に載せた惣菜であるが、このように惣菜を組み合わせたものも惣菜として挙げられる。
【0019】
以下、実施例を示して本発明の効果をより具体的に説明する。
【実施例0020】
(フェネチルアセテート添加試験)
調味液中のフェネチルアセテート濃度と調理翌日の味残り効果の関係について検討した。
【0021】
(1ppmフェネチルアセテート溶液の調製)
100ml容メスフラスコに純度98%フェネチルアセテート(シグマアルドリッチ社製)1gを入れ、95%エタノールでメスアップして、フェネチルアセテート原液を調製した。さらに蒸留水で適宜希釈して、1ppmのフェネチルアセテート溶液を調製した。
【0022】
(炊き込みご飯用調味液の調製)
キッコーマン食品社製、特選丸大豆しょうゆ582.5mlにグラニュー糖30gと水を加えて1Lにメスアップし混合溶解して炊き込みご飯用調味液原液を調製した。炊き込みご飯用調味液原液に前記1ppmフェネチルアセテート溶液を下記表1に示した量添加し、水で200mlになるように調整して、フェネチルアセテートの含有量の異なる炊き込みご飯用調味液を得た。なお、上記特選丸大豆しょうゆはフェネチルアセテートが検出されなかった。
【0023】
【0024】
(炊き込みご飯の調製)
無洗米160gに上記表1の炊き込みご飯用調味液200mlを混合し10分間浸漬した後、常法に従って炊飯した。炊飯した後10分間蒸らして、炊き込みご飯を調製した。
【0025】
(炊き込みご飯の評価)
炊き込みご飯の風味の経時変化を官能検査により評価した。フェネチルアセテート濃度の異なる炊き込みご飯用調味液を用いて調製した炊き込みご飯について、当日調製した炊き込みご飯を基準として、前日(評価の約24時間前)に調製した炊き込みご飯の風味を10名の官能検査パネルが評価した。なお、前日に調製した炊き込みご飯は調理後に約10℃の冷蔵庫で保存し、評価前に電子レンジで温めて評価した。
【0026】
評価は次の5段階の基準で評価点を付け、10名の官能検査パネルの平均値をとった。結果を表2に示した。
5:作りたてとほとんど風味が変わらない
4:味残り効果をとても感じる
3:味残り効果を感じる
2:味残り効果を少し感じる
1:味残り効果を全く感じない
【0027】
【0028】
フェネチルアセテート濃度2ppbの炊き込みご飯用調味液では、味残り効果が少し感じられた。3ppbでは、味残り効果がはっきりと感じられ、5ppbでは、10名中6名のパネルが、作りたてとほとんど風味が変わらないと評価した。
調味液Aで調味した焼きおにぎり(A)について、前日に調製した焼きおにぎり(A1)と当日調製した焼きおにぎり(A0)を比較した。同様に対照調味液Bで調味した焼きおにぎり(B)について、前日に調製した焼きおにぎり(B1)と当日調製した焼きおにぎり(B0)を比較した。風味の差が少ない方を味残りが良いと評価した。
上記調製した焼きおにぎりを10名のパネルで評価したところ、9名のパネルが、対照調味液Bで調味した焼きおにぎり(B)に比べて、調味液Aで調味した焼きおにぎり(A)の方が、前日に調製した焼きおにぎり(A1)と当日調製した焼きおにぎり(A0)の風味の差が少なく味残りが良いと評価した。