(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109352
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ウイルス濃縮システムおよびウイルス濃縮方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20230801BHJP
G01N 1/40 20060101ALI20230801BHJP
G01N 1/02 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
G01N1/10 H
G01N1/40
G01N1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010814
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 滋久
(72)【発明者】
【氏名】胡 錦陽
(72)【発明者】
【氏名】小原 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】田中 夕佳
(72)【発明者】
【氏名】大月 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 勝也
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AA36
2G052AA40
2G052AC18
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD46
2G052BA03
2G052BA21
2G052CA03
2G052CA11
2G052CA38
2G052ED01
2G052ED17
2G052GA09
2G052GA28
2G052GA29
2G052HA19
2G052JA07
2G052JA08
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】 高い濃縮効率でウイルスを濃縮できるウイルス濃縮装置を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、ウイルス濃縮装置は、サンプルを受け取るサンプル受取部と、受け取られたサンプルに、サンプルに含まれるウイルスを析出させる薬剤を供給する薬剤供給部と、薬剤を供給されたサンプルに遠心力を与えることによって、ウイルスを濃縮する遠心濃縮部と、薬剤を供給されたサンプルを、遠心濃縮部へ供給するサンプル供給部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを受け取るサンプル受取部と、
前記受け取られたサンプルに、前記サンプルに含まれるウイルスを析出させる薬剤を供給する薬剤供給部と、
前記薬剤を供給されたサンプルに遠心力を与えることによって、前記ウイルスを濃縮する遠心濃縮部と、
前記薬剤を供給されたサンプルを、前記遠心濃縮部へ供給するサンプル供給部とを備えた、ウイルス濃縮装置。
【請求項2】
前記遠心濃縮部は、液体サイクロンを備える、請求項1に記載のウイルス濃縮装置。
【請求項3】
前記サンプル供給部は、前記薬剤を供給されたサンプルを昇圧して前記液体サイクロンに供給するポンプである、請求項2に記載のウイルス濃縮装置。
【請求項4】
前記遠心濃縮部は、複数の前記液体サイクロンから構成される、請求項2または3に記載のウイルス濃縮装置。
【請求項5】
前記複数の液体サイクロンは、カスケード状に配置される、請求項4に記載のウイルス濃縮装置。
【請求項6】
前記薬剤は、アルコール類および塩を含む、請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載のウイルス濃縮装置。
【請求項7】
前記サンプル供給部は、前記サンプル受取部と、前記遠心濃縮部との間に設けられる、請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のウイルス濃縮装置。
【請求項8】
サンプルを受け取り、
前記受け取られたサンプルに、前記サンプルに含まれるウイルスを析出させる薬剤を供給し、
前記薬剤を供給されたサンプルを、遠心濃縮部へ供給し、
前記遠心濃縮部において、前記薬剤を供給されたサンプルに遠心力を与えることによって、前記ウイルスを濃縮する、ウイルス濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サンプル中のウイルスを濃縮するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)は、ワクチン投与などが開始されるもなかなか沈静化せず、人命・健康の被害や社会経済活動への長期・甚大な影響を与えている。
【0003】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主伝播経路はヒト-ヒト間の飛沫感染や接触感染だが、発症前のヒト糞便からもSARS-CoV-2ウイルス遺伝子が検出されることから、下水からの検出(下水疫学調査)が試みられ、その情報活用も検討されている。
【0004】
下水中のウイルス濃度の定量は感染者の検査に行われる方法と同様に、リアルタイムPCR(Polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)法にて実施されている。
【0005】
下水中のウイルス濃度の定量手順としては、「下水の採水→検査機関への輸送→封入・冷却→梱包(三重梱包)→冷却・運搬→濃縮→遺伝物質(核酸)抽出→対象となるウイルスを検出するためのプライマー・PCR試薬調合→リアルタイムPCR装置による定量→結果の解析」という手順となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/189064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、糞便中に排出されたウイルスは、大量の下水で希釈されており、非常に低濃度である。このため、PCRにて増幅するにしても、PCR検査にかけるサンプル中に、一定濃度以上のウイルスが含まれていないと検出できない。このため、PCR検査を行う前に、ウイルスを濃縮することが必要とされる。
【0008】
したがって、高い濃縮効率でウイルスを濃縮できるウイルス濃縮装置およびウイルス濃縮方法が望まれている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高い濃縮効率でウイルスを濃縮できるウイルス濃縮装置およびウイルス濃縮方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態のウイルス濃縮装置は、サンプルを受け取るサンプル受取部と、受け取られたサンプルに、サンプルに含まれるウイルスを析出させる薬剤を供給する薬剤供給部と、薬剤を供給されたサンプルに遠心力を与えることによって、ウイルスを濃縮する遠心濃縮部と、薬剤を供給されたサンプルを、遠心濃縮部へ供給するサンプル供給部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、遠心分離実験によって得られたウイルスの濃縮倍率および回収率の結果を示す表である。
【
図3】
図3は、遠心分離実験によって得られたウイルスの濃縮倍率および回収率の別の結果を示す表である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第2の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の機能構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施形態を、図面を参照して説明する。以下の各実施形態では、同一部分については、同一符号を用いて示し、重複説明を避ける。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の機能構成例を示すブロック図である。
【0014】
ウイルス濃縮装置10は、ウイルスVを、液体サイクロン16による遠心力によって濃縮する装置であり、液体サイクロン16の他に、薬剤供給ユニット11と、サンプルタンク12と、サンプル供給ポンプ15と、廃液タンク19とを備えている。
【0015】
サンプルタンク12は、ウイルスVを含んでいるサンプルS0を受け取る部位である。サンプルS0は、容器に封入され、冷却された状態で、ウイルス濃縮装置10に搬入される。サンプルS0は、ウイルス濃縮装置10に搬入されると、容器からサンプルタンク12に移される。
【0016】
ウイルスVは通常、非常に微小で、水溶性であるために、通常の遠心力(1万g程度)では分離できない。そのため、液体サイクロン16でなされる遠心分離効率を高めるために、サンプルタンク12では、サンプルS0に薬剤Yが供給され、ウイルスVの析出が行なわれる。
【0017】
サンプルタンク12には、薬剤Yを供給する薬剤供給ユニット11が接続されている。
【0018】
薬剤供給ユニット11は、サンプルタンク12に、アルコール類および塩を含む薬剤Yを供給する。これによって、サンプルタンク12内のサンプルS0に、薬剤Yが添加される。
【0019】
また、サンプルタンク12の内部には、撹拌機13が設けられている。撹拌機13は、サンプルタンク12内で、サンプルS0と薬剤Yとを十分に混合する。
【0020】
薬剤Yのアルコール類には、PEG(ポリエチレングリコール)を、塩には、NaCl(塩化ナトリウム)を用いることが好適である。サンプルS0に、薬剤Yとして、PEGとNaClを添加することで、PEGによってウイルスVの水和力を奪い、塩によってウイルスVを析出させる、いわゆるPEG沈殿法を実施できる。
【0021】
なお、薬剤供給ユニット11から供給される薬剤Yは、所定濃度に予め調整されている。
【0022】
サンプルS0に薬剤Yを添加することによって、ウイルスVが析出する。これによって、後述するように、通常の遠心力(1万g程度)でもウイルスVを濃縮することが可能となる。
【0023】
サンプル供給ポンプ15は、サンプルタンク12と液体サイクロン16とを接続する配管L1上に設けられ、ウイルスVが析出したサンプルS1を、サンプルタンク12から、配管L1を介して、液体サイクロン16へ供給する。
【0024】
配管L1には、弁14も設けられており、弁14の開閉によって、サンプルタンク12からサンプル供給ポンプ15へのサンプルS1の流量を調整できる。
【0025】
液体サイクロン16は、逆円錐形状からなり、サンプル供給ポンプ15の吐出圧によって昇圧されたサンプルS1が、接線方向に沿って、上側から圧入される。
【0026】
上側から圧入されたサンプルS1は、液体サイクロン16の内部を、内壁に沿って高速回転しながら下降する。液体サイクロン16の内径は、下側に行くにしたがって小さくなるので、サンプルS1は、液体サイクロン16の内部を下降するにつれて、より高速で回転運動するようになる。これに伴い、サンプルS1に含まれるウイルスVは、より強い遠心力を受けるようになり、液体サイクロン16内部の周壁部に集まる一方、サンプルS1からウイルスVが希釈された液体であるサンプルS2は、液体サイクロン16内部の中心部へと集まる。
【0027】
液体サイクロン16は、2つの排出口、すなわち下部排出口16aと上部排出口16bとを有する。下部排出口16aでは、下降流れが発生し、ウイルスVが濃縮されたサンプルS3が流出される為、上部排出口16bに向かう上昇流が発生する。この各流れにのって、下部排出口16aからは、ウイルスVが濃縮されたサンプルS3が、逆に、上部排出口16bからは、ウイルスVが希釈されたサンプルS2が排出される。
【0028】
上部排出口16bから排出されたサンプルS2の一部は、配管L2を介してサンプルタンク12に戻され、サンプルタンク12から、サンプル供給ポンプ15によって、再び液体サイクロン16へと供給される。このように、サンプルS2は、液体サイクロン16中の遠心力が増大するまで、サンプルタンク12と液体サイクロン16との間を循環される。この循環によって、サンプルS2は、より遠心力を受けるようになり、下部排出口16aから排出されるサンプルS3中のウイルスVの濃縮度も高められる。
【0029】
以上のように、液体サイクロン16による遠心力によって、ウイルスVが、高い濃縮効率で濃縮される。
【0030】
図2は、遠心分離実験によって得られたウイルスの濃縮倍率および回収率の結果を示す表である。
【0031】
図3は、遠心分離実験によって得られたウイルスの濃縮倍率および回収率の別の結果を示す表である。
【0032】
図2に示す実験および
図3に示す実験ともに、サンプルS0として、以下の2種類を準備した。
【0033】
第1のサンプルS0(#1)には、SARS-CoV-2の検出におけるコントロールとして使用するために、ATCC(American Type Culture Collectin)によって開発された「熱変性による不活性化コロナウイルス」の原液を、環境水に、5,000倍に希釈したものを用いた。
【0034】
第2のサンプルS0(#2)には、環境中に含まれるトウガラシ微斑ウイルス(PMMoV)を用いた。
【0035】
SARS-CoV-2と、PMMoVとは、ともにRNAウイルスに分類される。さらに、SARS-CoV-2は、エンベロープありウイルス、PMMoVは、エンベロープなしウイルスに分類される。
【0036】
薬剤Yには、アルコール類としてPEGを、塩としてNaClを用い、PEGの粉末を添加する場合(ケース1)と、PEGを含む溶液を添加する場合(ケース2)との2のケースにおいて実施した。
【0037】
ケース1では、8%の粉末状のPEG8,000を添加し、さらに、NaClを、最終濃度が0.4Mになるまで添加した。
【0038】
ケース2では、40%のPEG8,000と2MのNaClとの混合液を、体積比で1/5になるまで添加した。さらに、添加した薬剤Yが、サンプルS0に完全に溶けるまで混合した後、低温(例えば、4℃)で一晩(例えば、12時間以上)静置した。
【0039】
図2は、サンプルS0(#1)とサンプルS0(#2)との両方に対して、ケース2の薬剤Yを添加してウイルスVを析出させ、遠心分離を行った結果得られたウイルスVの濃縮倍率および回収率を、2つの実験条件(a)、(b)毎に比較して示している。また、ケース1、ケース2の比較において、同程度の濃縮効果があることは確認済である。
【0040】
図2に示す第1の実験条件(a)は、10,000gの遠心力で30分間の遠心分離を実施する場合であり、第2の実験条件(b)は、1,500gの遠心力で30分間の遠心分離を実施する場合である。実験条件(a)は、標準的な条件であり、実験条件(b)は、遠心力を下げた場合の比較用の条件である。
【0041】
図2は、実験条件(a)で得られた濃縮倍率および回収率は、サンプルS0(#1)およびサンプルS0(#2)ともに、実験条件(b)で得られた濃縮倍率および回収率と同等という結果を示している。すなわち、30分間の遠心分離を実施するのであれば、遠心力を、標準的な条件よりも1桁程度低くしても、同程度の濃縮効果が得られることがわかった。
【0042】
また、同じ実験条件において、サンプルS0(#1)で得られた濃縮倍率および回収率と、サンプルS0(#2)で得られた濃縮倍率および回収率と比較しても、同程度の濃縮効果が得られていることから、エンベロープの有(サンプルS0(#1))/無(サンプルS0(#2))に依存することなく、同程度の濃縮効果が得られることもわかった。
【0043】
図3に示す第1の実験条件(c)は、1,500gの遠心力で30分間の遠心分離を実施する場合であり、第2の実験条件(d)は、13,100gの遠心力で1分間の遠心分離を実施する場合である。
【0044】
図3は、実験条件(c)で得られた濃縮倍率および回収率は、サンプルS0(#1)およびサンプルS0(#2)ともに、実験条件(d)で得られた濃縮倍率および回収率と同等という結果を示している。すなわち、実験条件(c)から実験条件(d)のように、遠心力を1桁程度高くすれば、回転時間を1桁程度短縮しても、同程度の濃縮効果が得られることがわかった。なお、
図3に示す実験においても、ケース2の薬剤Yを添加している。
【0045】
また、同じ実験条件において、サンプルS0(#1)で得られた濃縮倍率および回収率と、サンプルS0(#2)で得られた濃縮倍率および回収率と比較しても、同程度の濃縮効果が得られていることから、エンベロープの有(サンプルS0(#1))/無(サンプルS0(#2))に依存することなく、同程度の濃縮効果が得られることもわかった。
【0046】
図1に戻って説明するように、液体サイクロン16の下部排出口16aからは、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3が排出される。下部排出口16aの下には回収容器17が配置されており、下部排出口16aから排出されたサンプルS3は、回収容器17に収集される。回収容器17に回収された、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3は、分析に供される。
【0047】
配管L2には、廃液タンク19へ向かう配管L3が接続された三方弁18も設けられている。
【0048】
三方弁18は、液体サイクロン16から、配管L2を介してサンプルタンク12へ戻るサンプルS2の流量と、液体サイクロン16から、配管L3を介して廃液タンク19へ送られるサンプルS2の流量とを調整できる。これによって、例えば、サンプルS2のほとんどを、配管L3へ送り、廃液タンク19でサンプルS2を回収し、廃液タンク19が満杯になって、廃液タンク19からサンプルS2を回収している間は、サンプルS2を、配管L2を介してサンプルタンク12へ戻すことができる。
【0049】
下部排出口16aに設けられた弁20は、開閉可能であり、サンプルS3を回収容器17に回収する際には開かれ、回収容器17の交換時等、サンプルS3を下部排出口16aから排出させない場合には、閉じられる。
【0050】
このような一連のウイルス濃縮処理は、バッチ処理で行われる。例えば、サンプルタンク12と、廃液タンク19との容量を100リットルとすることにより、100リットルのサンプルS0を対象にウイルス濃縮処理を行い、それが終了したら、回収容器17と廃液タンク19の中身を回収し、サンプルタンク12に、次のバッチの100リットルのサンプルS0を導入して、前述したような一連のウイルス濃縮処理を行うという具合である。
【0051】
回収容器17に収集された、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3は、後述するように、従来技術を使って分析される。
【0052】
次に、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の動作例について説明する。
【0053】
図4は、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の動作例を示すフローチャートである。
【0054】
サンプルS0が、容器に封入され、冷却された状態で、ウイルス濃縮装置10に搬入される。サンプルS0は、ウイルス濃縮装置10に運搬されると、容器からサンプルタンク12に移される(ST1)。
【0055】
薬剤供給ユニット11から、サンプルタンク12に、アルコール類および塩を含む薬剤Yが供給される。これによって、サンプルタンク12内のサンプルS0に、薬剤Yが添加される。さらに、撹拌機13によって、サンプルS0と薬剤Yとが十分に混合される(ST2)。
【0056】
これによって、サンプルS0に含まれているウイルスVが析出する(ST3)。薬剤YとしてPEGおよびNaClが適用された場合、PEG沈殿法によってウイルスVが析出される。
【0057】
次に、このようにウイルスVが析出したサンプルS1が、サンプル供給ポンプ15によって、サンプルタンク12から液体サイクロン16へ供給され、液体サイクロン16において、ウイルスVが濃縮される(ST4)。
【0058】
濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3は、液体サイクロン16の下部排出口16aから排出され、回収容器17に回収される(ST5)。回収容器17に回収された、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3は、分析に供される(ST6)。
【0059】
なお、
図4のフローチャートには示していないが、ステップST5において、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3が回収容器17に回収されると同時に、ウイルスVが希釈されたサンプルS2が、廃液タンク19に回収される。
【0060】
また、液体サイクロン16の上部排出口16bから排出されたサンプルS2の一部は、配管L2を介してサンプルタンク12に戻される。このサンプルS2は、サンプル供給ポンプ15によって、サンプルタンク12から、再び液体サイクロン16へと供給される。このような循環が、液体サイクロン16中の遠心力が増大するまで、サンプルタンク12と液体サイクロン16との間で繰り返しなされることで、サンプルS2は、液体サイクロン16において、より強い遠心力を受けるようになり、液体サイクロン16によるウイルスVの濃縮効果が高められる。
【0061】
ステップST6でなされる分析は、一般的な分析方法を用いて行うことが可能である。ここでは、そのいくつかの例を紹介する。
【0062】
先ず、回収容器17に回収されたサンプルに含まれるウイルスVを、例えば80℃以上の温度で5分間加熱すること等によって破壊し、遺伝物質(DNAまたはRNA)を抽出する。
【0063】
なお、濃縮後のウイルスVから遺伝物質を抽出する方法も、特に限定されず、例えば、濃縮されたウイルスVに、ウイルス溶解液を作用させることにより行うことが可能である。この場合、ウイルス溶解液には、核酸抽出キットに含有されている試薬を使用できる。核酸抽出キットによる遺伝物質取り出しは、すでに自動化されており、その方法を利用できる。
【0064】
次に、抽出した遺伝物質を鋳型にして、検出したい配列のプライマー、DNAポリメラーゼ、その他の必須試薬と混合し、PCR装置を使ってポリメラーゼ連鎖反応を起こし、検出したい遺伝子配列部分のみを対数的に増幅させ、PCR法を使って分析する。なお、遺伝物質を鋳型にする際、抽出された遺伝物質がDNAの場合はそのままでよいが、RNAの場合は、逆転写を行い、DNAに変換する。
【0065】
次に、PCR法による分析について説明する。
【0066】
一般的なPCR法では、ポリメラーゼ連鎖反応で得られた反応物を回収し、染色薬品で染色し、アガロースゲルによる電気泳動で増幅されたDNA断片を分離する。そして、得られたDNA断片の濃度を測定することで、鋳型のDNA濃度を逆算し、さらに濃縮した倍率を使って、環境水サンプル中のウイルス濃度を算出する。
【0067】
このような一般的なPCR法に代えて、リアルタイムPCR法を用いることも可能である。リアルタイムPCR法では、PCRで使われるプライマーに、蛍光物質(例えば、Fam、Cy5、Cy3、sybr green等)を付与し、蛍光分析計をPCR装置内に設置することで、ポリメラーゼ連鎖反応の際に、標的DNA断片の増幅を、リアルタイムで監視できるとともに、増幅断片の精製や、電気泳動をも行うことなく、反応終了直後に定量データを得ることも可能である。
【0068】
このように、前述した各実施形態のウイルス濃縮装置10で濃縮されたウイルスVは、一般的なPCR法で分析可能である。しかしながら、例えば、抗原抗体法、DNAアプタマー法等のように、PCR法以外の任意の手法でも分析可能である。
【0069】
以上説明したように、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置によれば、液体サイクロン16を使って、遠心力によって、高い濃縮効率でウイルスVを濃縮することができる。
【0070】
測定したいウイルスVによっては、公共用水域および地下水のような環境水中のウイルス濃度が非常に低い場合があるため、濃縮効率が低い場合は、リアルタイムPCR法で検出できるだけの遺伝物質(DNAまたはRNA)を得られない恐れもある。
【0071】
しかしながら、第1の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置によれば、高い濃縮効率でウイルスVを濃縮することができるので、環境水に含まれるウイルスVを分析するために、測定したいウイルスVを高い濃縮効率で濃縮できる。
【0072】
これによって、リアルタイムPCR法で検出するために必要な遺伝物質(DNAまたはRNA)を容易に提供できるようになるので、環境水中の感染性ウイルスの早期検出にも寄与でき、特に、パンデミックを起こすような感染性のウイルスの流行兆候の迅速な把握に資することができる。
【0073】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置の機能構成例を示すブロック図である。
【0074】
ここでは、
図5を用いて、第2の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置を、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0075】
すなわち、第2の実施形態のウイルス濃縮装置10Aは、第1の実施形態のウイルス濃縮装置10のように、1つの液体サイクロン16しか備えていないのではなく、
図5に例示するように、多段状に、すなわちカスケード状に配置された複数の液体サイクロン16(
図5の例の場合、7つの液体サイクロン16(#1)~(#7))を備えている。
【0076】
図5の例の場合、サンプル供給ポンプ15から供給されたサンプルS1は、先ず最上流側に設けられた第1段目の4つの液体サイクロン16(#1)~(#4)に供給される。
【0077】
液体サイクロン16(#1)では、第1の実施形態で説明したように、サンプルS1内のウイルスVが濃縮され、下部排出口16aから、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS3が排出される。同様に、液体サイクロン16(#2)、(#3)、(#4)でも、サンプルS1内のウイルスVが濃縮され、下部排出口16aからサンプルS3が排出される。
【0078】
また、液体サイクロン16(#1)~(#4)では、ウイルスVが濃縮されるのに伴い、サンプルS1からウイルスVが希釈されたサンプルS2も発生する。このため、液体サイクロン16(#1)~(#4)には、上部排出口16bに、サンプルS2を回収するための配管L2も接続されている。さらに、配管L2は、サンプルS2を廃液タンク19へ送液するための配管L7に接続されている。
【0079】
このようにして第1段目の液体サイクロン16(#1)~(#4)から排出されたサンプルS3は、配管L3を介して、第1段目よりも少数の液体サイクロン16が配置された第2段目の液体サイクロン16に供給される。
図5に示す例では、第2段目には2つの液体サイクロン16(#5)~(#6)が配置されており、第1段目の2つの液体サイクロン16(#1)、(#2)から排出されたサンプルS3は、第2段目の1つの液体サイクロン16(#5)へ、第1段目の別の2つの液体サイクロン16(#3)、(#4)から排出されたサンプルS3は、第2段目のもう1つの液体サイクロン16(#6)へ供給される。
【0080】
第2段目の液体サイクロン16(#5)では、サンプルS3内のウイルスVが濃縮され、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS5が、下部排出口16aから排出される。同様に、液体サイクロン16(#6)でも、サンプルS3内のウイルスVが濃縮され、濃縮されたウイルスを含むサンプルS5が、下部排出口16aから排出される。
【0081】
また、液体サイクロン16(#5)~(#6)では、ウイルスVが濃縮されるのに伴い、サンプルS3からウイルスVが希釈されたサンプルS4も発生する。このため、液体サイクロン16(#5)~(#6)の上部排出口16bには、サンプルS4を回収するための配管L4も接続されている。さらに、配管L4もまた、前述した配管L7に接続されている。
【0082】
第2段目の液体サイクロン16(#5)~(#6)から排出されたサンプルS5は、配管L5を介して、第2段目よりも少数の液体サイクロン16が配置された第3段目の液体サイクロン16に供給される。
図5に示す例では、第3段目には1つの液体サイクロン16(#7)が配置されており、第2段目の2つの液体サイクロン16(#5)、(#6)から排出されたサンプルS5は、第3段目の液体サイクロン16(#7)へ供給される。
【0083】
第3段目の液体サイクロン16(#7)では、サンプルS5内のウイルスVが濃縮され、濃縮されたウイルスVを含むサンプルS7が下部排出口16aから排出される。
【0084】
また、液体サイクロン16(#7)では、ウイルスVが濃縮されるのに伴い、サンプルS5からウイルスVが希釈されたサンプルS6も発生する。このため、液体サイクロン16(#7)の上部排出口16bには、サンプルS6を回収するための配管L6も接続されている。配管L6もまた、前述した配管L7に接続されている。
【0085】
配管L7は、廃液タンク19に接続されているので、ウイルスVが希釈されたサンプルS2、S4、S6は、配管L7を介して、廃液タンク19に送られ、廃液タンク19によって回収される。
【0086】
なお、各液体サイクロン16(#1)~(#7)の下部排出口16aには、弁20(#1)~(#7)がそれぞれ設けられている。これら弁20(#1)~(#7)は、開閉可能であり、ウイルスVが濃縮されたサンプルを下部排出口16aから排出する際には開かれ、そうでない場合には、閉じられる。
【0087】
以上のような第2の実施形態のウイルス濃縮方法が適用されたウイルス濃縮装置によれば、多段状に、すなわちカスケード状に配置された複数の液体サイクロン16によってウイルスVを濃縮することによって、第1の実施形態で奏される作用効果に加えてさらに、よりウイルス濃縮度の高いサンプルを回収することが可能となる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
10、10A・・ウイルス濃縮装置、11・・薬剤供給ユニット、12・・サンプルタンク、13・・撹拌機、14・・弁、15・・サンプル供給ポンプ、16a・・下部排出口、16b・・上部排出口、17・・回収容器、18・・三方弁、19・・廃液タンク、20・・弁、L1~L7・・配管、S0~S7・・サンプル、V・・ウイルス、Y・・薬剤。