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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109360
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】水素リークディテクタ
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/20 20060101AFI20230801BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230801BHJP
   H01J 49/30 20060101ALI20230801BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
G01M3/20 B
G01N27/62 B
H01J49/30
H01J49/14 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010826
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】591159619
【氏名又は名称】島津産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(72)【発明者】
【氏名】井川 秋夫
【テーマコード(参考)】
2G041
2G067
5C038
【Fターム(参考)】
2G041AA07
2G041CA01
2G041DA13
2G041EA05
2G041FA03
2G041GA02
2G041GA26
2G067AA44
2G067BB02
2G067BB03
2G067BB30
2G067CC11
2G067DD17
2G067EE02
5C038HH12
5C038HH30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】試験体からリークする水素ガスを分析管に導入して検出するリークディテクタにおいて、バックグラウンドの安定化を容易とし、またバックグラウンドの回復にかかる時間を大幅に短縮して、十分な測定精度を短時間で得ることができるようにする。
【解決手段】分析管100が、その内部に導入された水素ガスをイオン化して水素イオンを生成するイオンソース部1と、水素イオンの電流量を検出するイオンコレクタ部2と、イオンコレクタ部2でイオンから無電荷になった水素ガスがイオンソース部1に再流入することを抑制する再流入抑制構造71、72、73とを備えるようにした。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体からリークする水素ガスを分析管に導入して検出するものであって、
分析管が、その内部に導入された水素をイオン化して水素イオンを生成するイオンソース部と、イオンソース部から射出された水素イオンの電流量を検出するイオンコレクタ部と、イオンコレクタ部でイオンから無電荷になった水素がイオンソース部に再流入することを抑制する再流入抑制構造とを備えていることを特徴とするリークディテクタ。
【請求項2】
前記再流入抑制構造が、分析管内面に設けられた水素トラップ部材を備えたものである請求項1に記載のリークディテクタ。
【請求項3】
前記分析管を構成するケースがアルミニウム製であり、前記水素トラップ部材がステンレス製のものである請求項2に記載のリークディテクタ。
【請求項4】
前記水素トラップ部材が、前記イオンソース部と前記イオンコレクタ部との間の磁場空間の内面、前記イオンソース部から水素イオンが射出されるイオンソーススリットが形成された第1仕切り壁の表面、前記磁場空間における水素イオンの軌道上に設けられた中間スリットを形成する中間仕切り壁の表面のうちの少なくもいずれかに設けられている請求項2または3に記載のリークディテクタ。
【請求項5】
前記再流入抑制構造が、前記イオンコレクタ部と前記イオンソース部とを結ぶ、分析管内面での跳ね返りも含めた直線で示される再流入経路上、かつ、水素イオンの軌道外に設けられた遮蔽壁を備えたものである請求項1~4のいずれかに記載のリークディテクタ。
【請求項6】
前記イオンソース部が水素イオンを射出するイオンソーススリットを備えたものにおいて、前記遮蔽壁が前記イオンソーススリットの周縁部から起立するように設けられている請求項5記載のリークディテクタ。
【請求項7】
前記遮蔽壁もしくは遮蔽壁の表面部分が水素トラップ部材で構成されている請求項5または6記載のリークディテクタ。
【請求項8】
前記イオンソース部に第1排気口が設けられているものにおいて、前記再流入抑制構造が、前記イオンソース部よりも前記イオンコレクタ部側に設けられた第2排気口を備えたものである請求項1~7のいずれかに記載のリークディテクタ。
【請求項9】
前記第1排気口および第2排気口が、前記分析管を構成するケースの同一面に設けられている請求項8記載のリークディテクタ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器の気密性の検査等に用いられる水素リークディテクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析計型水素リークディテクタは、試験体のリーク箇所より流入した水素ガスを分析管に導いて、そのリーク量を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-180633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素リークディテクタにおいては、ヘリウムリークディテクタに比べ、バックグラウンドの安定化が難しいうえ、例えば、大きなリークを測定した後、次の測定が可能となるレベルにバックグラウンドが回復するまでの時間が相当な時間を要するため、十分な測定精度を短時間で得ることが困難となる場合がある。
【0005】
本発明は、特に水素リークディテクタにおいてバックグラウンドの安定化を容易とし、またバックグラウンドの回復にかかる時間を大幅に短縮して、十分な測定精度を短時間で得ることができるようにすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るリークディテクタは、試験体からリークする水素ガスを分析管に導入して検出するものであって、分析管が、その内部に導入された水素ガスをイオン化して水素イオンを生成するイオンソース部と、このイオンソース部から射出された水素イオンの電流量を検出するイオンコレクタ部と、イオンコレクタ部でイオンから無電荷になった水素ガスがイオンソース部に再流入することを抑制する再流入抑制構造とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようなものであれば、 測定によって水素イオンから無電荷状態となった再生無電荷水素のイオンソースへの還流による再度のイオン化を再流入抑制構造が抑制し、その確率を減少させるので、測定後のバックグラウンド回復時間を実用上、十分に短くすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】比較例における偏向角270度タイプの分析管の内部構造を示すとともに、再生無電荷水素のイオンソース部への再流入経路を説明するための模式的断面図である。
図2】比較例における偏向角90度タイプの分析管の内部構造を示すとともに、再生無電荷水素のイオンソース部への再流入経路を説明するための模式的断面図である。同実施形態における処理レシピの一例を示すデータ説明図である。
図3】比較例における偏向角180度タイプの分析管の内部構造を示すとともに、再生無電荷水素のイオンソース部への再流入経路を説明するための模式的断面図である。
図4】本発明の一実施形態におけるリークディテクタの全体を示す模式図である。
図5】同実施形態における分析管の内部構造を示す模式的断面図である。
図6】本発明の他の実施形態における分析管の内部構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について説明する前に、比較例の分析管について説明を行い、その課題について詳述する。図1図3は、比較例の分析管を示す図である。
図1に例示する分析管100は、イオンチャンバ(アノード)11、フィラメント12およびイオンソーススリット13を備えたイオンソース部1と、セクター型偏向電極21、MCPやファラデーカップ等のイオン捕集デバイス22およびイオンコレクタスリット23を備えたイオンコレクタ部2と、前記イオンソース部1およびイオンコレクタ部2を収容するとともに、それらの間に中間スリット31が設けられた磁場空間32を形成するケース3と、紙面垂直方向に磁場を発生させる磁石4とを備えた磁場偏向型質量分析計である。
【0010】
この分析管100は、排気口51に接続された高真空ポンプで常に高真空に排気された状態で、分析管100内に導かれた水素ガスを、フィラメントから放出される熱電子によってイオンチャンバ(アノード)11内でイオン化する。
【0011】
生成されたイオンは、イオンソーススリット13から磁場空間32に射出される。イオンはフレミングの法則に従って円弧を描くが、その半径はイオンの質量によって異なり、水素イオンは質量数2となる固有の軌道を描く。
【0012】
中間スリット31は、水素イオンの軌道S1上に配置されており、水素イオンのみが、中間スリット31を通りイオンコレクタスリット23に到達する。水素イオンは、セクター型偏向電極21にて静電界による作用で偏向され、イオン捕集デバイス22で自由電子の供給を受けて無電荷の水素に戻る。
このとき、水素イオン数に比例して自由電子が供給されるが、この自由電子の供給量を電流として測定し、水素のリーク量に換算・出力する装置が水素リークディテクタである。
【0013】
測定手順としては、分析管100内が所定のバックグラウンド以下になるまで待ち、試験体のリーク試験箇所に水素ガスを吹き付けることにより測定が開始される。
【0014】
しかしながら、水素リークディテクタにおいては、ヘリウムリークディテクタに比べ、バックグラウンドの安定化が難しいうえ、例えば、大きなリークを測定した後、次の測定が可能となるレベルにバックグラウンドが回復するまでの時間が相当な時間を要するため、十分な測定精度を短時間で得ることが困難となる場合がある。
【0015】
この現象について本願発明者は、水素はヘリウムに比べて排出に時間がかかるため、分析管内に流入しイオン化された後、検出された水素、すなわちイオン捕集デバイスで自由電子の供給を受けてイオンから無電荷状態に戻った測定済みの水素(以下、再生無電荷水素ともいう。)が、再度イオンソース部に戻ってイオン化される現象がヘリウムに比べて非常に多く発生することが原因の一つと考えている。
【0016】
また、大きなリークの場合、大量のエアーを吸引するため、エアーに含まれる水分子がイオン化の際に分解されて水素イオンとなり、それによって想定以上の再生無電荷水素が発生して再度イオンソースに流入することも原因の一つと考えている。
そこで、本願発明者は考察を進め、再生無電荷水素が、どの経路でイオンソース部に再流入するのかを検討した。
その内容を理解の容易のため、以下にやや定性的に説明する。
【0017】
この種の分析管には、偏向角が異なるいくつかの種類がある。前述した図1の分析管は偏向角が270度のタイプであるが、その他に、例えば、図2に示すような偏向角が90度のタイプや、図3に示すような180度のタイプなどといった分析管も存在する。なお、各図において互いに対応する構成要素には同一の符号を付している。
【0018】
イオン捕集デバイス22に到達し、自由電子の供給を受けてイオンから無電荷状態となった再生無電荷水素は、磁場・電場の影響を受けず、四方八方に直線的に拡散する。したがって、再生無電荷水素が再度イオンソース部1に戻る再流入経路は、ケース内面(底面など)等で衝突し、そこで拡散して種々の方向に跳ね返る場合も含めた1本以上の直線で近似できると考えられる。この再流入経路を進む水素分子の一部は、ケース内壁等に衝突する毎に化学反応を起こし内壁内にトラップされるから、当該再流入経路において、跳ね返り回数が多ければ多いほど、イオンソース部に戻る水素分子の量(数)は減少すると想定される。
【0019】
この前提の下、図1図3のそれぞれにおける再生無電荷水素の再流入経路S2を矢印で、また、イオンソース部1に再流入する再生無電荷水素の量を矢印の太さで定性的に示す。
【0020】
図2は、前述したように、偏向角90度の分析管100であるが、再生無電荷水素の極めて多くがイオンソース部1に直接再流入する構造であることを示す。これはイオンコレクタスリット23とイオンソーススリット13との間に遮蔽物がなく、再流入経路S1がそれらを結ぶ1本の直線で形成されるからである。
【0021】
図3は偏向角180度の分析管100であるが、この構造では、ケース内壁等に少なくとも1回衝突した水素分子がイオンソース部1に再流入する可能性があることがわかる。
【0022】
図1は偏向角270度の分析管であるが、この構造では、ケース内壁等に少なくとも2回衝突した水素分子がイオンソース部1に再流入する可能性があることがわかる。
【0023】
以上から、図1の構造がイオンソース部1に再流入する水素分子の量を最も減少させ得ることがわかるものの、いずれにせよ、イオンソース部1に再流入する水素分子の量を十分に低減できないことが把握できる。
【0024】
そして、このようにイオンソース部1に再流入する水素分子の量が多いと、イオン化が繰り返し行われ、それが電流として検出されるから、前述したように、バックグラウンドの安定化やバックグラウンドの回復までに相当なる時間を要する要因となっていると考えられる。
【0025】
次に、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態にかかるリークディテクタXは、図4に模式的に示すように、テストポートPを介してリーク検査対象である真空容器等の試験体Wに配管接続されている。
このリークディテクタXは、低真空ポンプ(例えば油回転ポンプ)P3、第1高真空ポンプ(例えばターボ分子ポンプ)P1および第2高真空ポンプ(例えば機械式ドライポンプ)P2の3台の排気ポンプと、排気経路を開閉する3つのバルブV1、V2、V3と、分析管100とを備えている。尚、P1とP2が1台の複合型ポンプにて構成される場合もある。
【0026】
分析管100は、第1高真空ポンプP1、第2高真空ポンプP2、バルブV2を介して低真空ポンプP3に配管接続されている。
真空容器100は、テストポートP、バルブV1を介して低真空ポンプP3に配管接続されている。
試験体のリーク検査は、以下の手順で行う。
【0027】
(1)バルブV1、V3を閉じるとともに、バルブV2を開いて、分析管100内を第1高真空ポンプP1、第2高真空ポンプP2および低真空ポンプP3の直列構成で所定のバックグランド値になるまで排気する。
【0028】
(2)分析管100内が所定のバックグランド値まで低下した後に、バルブV2を閉じるともにバルブV1を開いて、試験体W内を低真空ポンプP3で排気(粗引き排気)する。
【0029】
(3)バルブV1を閉じるともにバルブV2とバルブV3を開き、試験体Wのリーク試験箇所に水素(H)ガスを吹き付けることにより、分析管100によるリークガス検出を開始する。このとき、各排気ポンプP1~P3は動作し続ける。
【0030】
(4)試験体Wのリーク試験箇所にリークがあると、試験体W内に水素ガスが入り、その分圧に比例した量の水素ガスが、バルブV3、ターボ分子ポンプP1を経て分析管100に進入する。この水素ガスを分析管が検出することにより、試験体Wのリーク量が測定される。
【0031】
分析管100は、図5にその概略側断面図を示すように、ケース3と、ケース3内に設けられたイオンソース部1、イオンコレクタ部2およびこれらの間に形成された磁場空間32とを備えたものである。なお、図1で述べた分析管に対応する構成要素には同じ符号を付している。
【0032】
ケース3は、例えば正面、背面、左右側面、上面および底面を有する直方体形状をなす金属製(ここではアルミニウム製)のものである。なお、以下で言及する上下左右などといった方向は、説明便宜上の相対的なものであって絶対的な方向を示すものではない。このケース3の形状は直方体には限られない。
【0033】
このケース3には、その背面側上部に第1室61、正面側上部に第2室62、およびこれら第1室61と第2室62との下方にわたって第3室63が形成されている。そして、第1室61と第3室63との境界には第1仕切り壁14が設けてあり、第2室62と第3室63との境界には、第2仕切り壁24が設けてある。
【0034】
イオンソース部1は、第1室61内に配置されたイオンチャンバ(アノード)11およびフィラメント12と、第1仕切り壁14に貫通するイオンソーススリット13とを備えたものである。そして、第1室61内の水素分子をフィラメントから出る電子でイオン化し、その水素イオンをイオンソーススリット13からその下方の第2室62に向かって射出する。
【0035】
磁場空間32は、第3室63に形成されている。具体的には、第3室63の外側に磁石4が配置されており、この磁石4によって第3室63に磁場が形成されている。前記イオンソース部1から磁場空間32に射出された水素イオンは、磁場によって所定の軌道S1で曲げられる。この第3室63の中央部には中間仕切り壁33が設けられており、この中間仕切り壁33における前記軌道S1と交差する部位には、中間スリット31が貫通させてある。他のイオンは、水素イオンとは軌道が異なるため、この中間スリット31には水素イオンのみが通過することとなる。
【0036】
イオンコレクタ部2は、第2室62内に配置されたセクター型偏向電極21およびMCPやファラデーカップ等のイオン捕集デバイス22と、第2仕切り壁24に貫通するイオンコレクタスリット23とを備えたものである。イオンコレクタスリット23は、水素イオンの軌道S1上に設けられており、前記イオンソーススリット13から射出された水素イオンは、前記第2室62の磁場空間32で180度偏向し、このイオンコレクタスリット23を通過した後、セクター型偏向電極21でさらに90度偏向してイオン捕集デバイス22に照射される。そして、このイオン捕集デバイス22で水素イオンは自由電子を与えられ、無電荷の水素分子に戻る。その際にイオン捕集デバイス22に流れる電流を検出することによって水素のリーク量が測定される。
【0037】
しかして、この実施形態では、イオンコレクタ部2でイオンから無電荷になった水素(以下、再生無電荷水素ともいう。)がイオンソース部1に再流入することを抑制する3種類の再流入抑制構造71、72、73を設けている。
第1の再流入防止機構71は、ケース3の内部の所要箇所に設けた水素トラップ部材71aによって構成されている。
【0038】
この水素トラップ部材71aの素材としては、ケース3の素材よりも水素吸着性に優れたものを採用している。ここでは、ケース3がアルミニウム製なので、アルミニウムよりも水素吸着性に優れたステンレスが用いられている。なお、水素吸着性とは、水素の吸着および/または吸収と解離と差で定まるものである。
【0039】
水素トラップ部材71aの配設箇所は、図5に示すように、第2室62(磁場空間32)の底面、中間仕切り壁33および第1仕切り壁14の表面である。
【0040】
第2室62の底面に設けられた水素トラップ部材71aは、板状をなすものであり、より具体的には、イオンソーススリット13と中間スリット31とを結んだ直線(再流入経路S2の一部)と第2室62の底面との交差部位を含む箇所に交換可能に取り付けられている。
中間仕切り壁33および第1仕切り壁14は、水素トラップ部材71aであるステンレス板で構成されており、これらも取り外しが可能となっている。
【0041】
この構成によって、ケース3の内面やイオンソーススリット13、あるいは中間スリット31で跳ね返る再生無電荷水素の割合を減少させることができ、その結果、イオンソース部1に再流入する再生無電荷水素の量を減少させることができる。
【0042】
また、水素トラップ部材71aがケース3から取り外し可能に構成されているので、水素吸着能が飽和等により劣化しても、水素トラップ部材71aを交換するだけで元の性能に戻すことが容易にできる。
【0043】
なお、水素トラップ部材としてはステンレスに限られない。アルミニウムよりも水素吸着性に優れたものであればよく、チタン、銅、鉄などの単一金属および種々の合金なども利用することができる。
【0044】
ケース3自体を水素トラップ部材で構成してもかまわないし、水素トラップ部材の配置箇所は、前述した個所に限られず、例えばイオンコレクタスリット23に設定してもよい。
【0045】
第2の再流入防止機構72は、水素イオンの軌道S1外であって再流入軌道S2上に設けられた遮蔽壁72aを備えたものである。ここでの遮蔽壁72aは、第1仕切り壁14におけるイオンソーススリット13の外周縁部から第3室62に向かって起立するように突出した鍔状をなすものである。
【0046】
この構成によって、イオンソース部1への再生無電荷水素の流入量を減少させることができる。この遮蔽壁72aは、第1仕切り壁14以外にも設けることはできる。例えば、図6に示すように中間仕切り壁33における中間スリット31の周縁部に設けてもよいし、流入軌道S2上に仕切り壁とは独立して設けてもかまわない。また、この遮蔽壁を前記水素トラップ部材で構成してもよいし、その表面に水素トラップ部材を貼り付けてもよい。
【0047】
第3の再流入防止機構73は、前記第3室63(磁場空間32)に開口する第2排気口73aを備えたものである。この第2排気口73aは、前記高真空ポンプP1に配管接続されている。
この構成により、イオンコレクタ部2で生成された再生無電荷水素をイオンソース部1の手前で排出することができるので、イオンソース部1に流入する再生無電荷水素の量を減少させることができる。また、他の分子(例えば、水分子)などの重い分子を積極的に排気して、それによる水素イオンの生成を抑制することも可能となる。
【0048】
なお、第2排気口73aを設ける箇所は、イオンソース部1よりもイオンコレクタ部2側であればどこでもよい。前述の例では第2排気口73aを、ケース3における第1排気口51が設けられている面と同じ面(裏面)に設けて配管取り回しを簡単化できるようにしてあるが、例えば、第3室63の中間スリット31よりイオンコレクタ部2側に第2排気口を設けても構わないし、ケース3の底面や側面に開口させてもよい。さらに、イオンコレクタ部2が形成されている第2室62に第2排気口を開口させてもよい。
上述したリークディテクタXの特徴をまとめると以下のようになる。
【0049】
(1)分析管100が、その内部に導入された水素ガスをイオン化して水素イオンを生成するイオンソース部1と、イオンソース部1から射出された水素イオンの電流量を検出するイオンコレクタ部2と、イオンコレクタ部2でイオンから無電荷になった水素がイオンソース部1に再流入することを抑制する再流入抑制構造71、72、73とを備えていることを特徴とする。
このようなものであれば、測定によって水素イオンから無電荷状態となった再生無電荷水素がイオンソース部1へ還流することによる再度のイオン化を抑制できるので、従来のヘリウム法と比較しても、十分に早いバックグラウンド回復時間を実現することが可能になる。また、水素はヘリウム等に比べ潤沢で安価なため、資源の枯渇や高価格化の恐れを回避できる。
【0050】
(2)前記再流入抑制構造71が、分析管100の内面に設けられた水素トラップ部材71aを備えたものであることを特徴とする。
このようなものであれば、分析管100の内面で跳ね返る再生無電荷水素の割合を減少させることができ、跳ね返りによってイオンソース部1に再流入する再生無電荷水素の量を減少させることができる。
【0051】
(3)前記分析管100を構成するケース3がアルミニウム製であり、前記水素トラップ部材71aがステンレス製のものであることを特徴とする。
このようなものであれば、例えば、従来通り、ケース3を加工容易なアルミニウムで製作しながら、内面の所要箇所にステンレス板を貼り付けることによって、製造に大きな負担をかけることなく安価に再流入抑制構造71を構成することができる。
【0052】
(4)前記水素トラップ部材71aが、前記イオンソース部1と前記イオンコレクタ部2との間の磁場空間32の内面、前記イオンソース部1から水素イオンが射出されるイオンソーススリット13を形成する第1仕切り壁14の表面、前記磁場空間32における水素イオンの軌道S1上に設けられた中間スリット31を形成する中間仕切り壁33の表面のうちの少なくもいずれかに設けられていることを特徴とする。
このようなものであれば、より効果的にイオンソース部1に再流入する再生無電荷水素の量を減少させることができる。
【0053】
(5)前記再流入抑制構造72が、前記イオンコレクタ部2と前記イオンソース部1とを結ぶ、分析管内面での跳ね返りも含めた直線で表される再流入経路S2上かつ水素イオンの軌道S1外に設けられた遮蔽壁72aを備えたものであることを特徴とする。
このようなものであれば、遮蔽壁72aによって再生無電荷水素のイオンソース部1への流入を防止できる。
【0054】
(6)前記イオンソース部1が水素イオンを射出するイオンソーススリット13を備えたものにおいて、前記遮蔽壁72aが前記イオンソーススリット13の周縁部から起立するように設けられていることを特徴とする。
このようなものであれば、既存のイオンソーススリット13を改変することによって容易に遮蔽壁72aを設けられる。
【0055】
(7)前記遮蔽壁72aもしくは遮蔽壁72aの表面部分が水素トラップ部材71aで構成されていることを特徴とする。
このようなものであれば、遮蔽壁72aと水素トラップ部材71aとの相乗効果によって、イオンソース部1への流入する再生無電荷水素の量を飛躍的に減少させることができる。
【0056】
(8)前記イオンソース部1に第1排気口51が設けられているものにおいて、前記再流入抑制構造73が、前記イオンソース部1よりも前記イオンコレクタ部2側に設けられた第2排気口73aを備えたものであることを特徴とする。
このようなものであれば、イオンソース部1に戻る前の再生無電荷水素を第2排気口73aから効率的に排出できるので、イオンソース部1への流入する再生無電荷水素の量を減少させることができる。また、他の分子(例えば、水分子)などの重い分子を積極的に排気して、それによる水素イオンの生成を抑制することも可能となる。
【0057】
(9)前記第1排気口51および第2排気口73aが、前記分析管100を構成するケース3の同一面に設けられていることを特徴とする。
このようなものであれば、排気口51、73aに接続する配管構造を簡略化できる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。例えば、前述した偏向角が90度のタイプや180度のタイプの分析管に本発明を適用しても同様の作用効果を奏し得る。再流入抑制構造は、前述した3つをすべて用いることなく、いずれか1つまたは2つを用いてもかまわない。
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
X・・・リークディテクタ
100・・・分析管
1・・・イオンソース部
13・・・イオンソーススリット
14・・・第1仕切り壁
2・・・イオンコレクタ部
3・・・ケース
31・・・中間スリット
32・・・磁場空間
33・・・中間仕切り壁
71、72、73・・・再流入抑制構造
71a・・・水素トラップ部材71a
72a・・・遮蔽壁
73a・・・第2排気口
S1・・・水素イオンの軌道
S2・・・再流入経路


図1
図2
図3
図4
図5
図6