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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109399
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20230801BHJP
   G01N 21/35 20140101ALI20230801BHJP
【FI】
G01N21/03 B
G01N21/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010889
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池原 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】古宮 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】東條 公資
(72)【発明者】
【氏名】富田 英生
【テーマコード(参考)】
2G057
2G059
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AB02
2G057AB04
2G057AB06
2G057AC03
2G057BA01
2G057BA05
2G057BB08
2G057DA03
2G057EA06
2G057EA07
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059GG01
2G059GG09
2G059HH01
2G059JJ14
2G059KK02
2G059LL03
2G059NN02
(57)【要約】
【課題】光共振器内の温度を目標温度まで加熱または冷却して測定を行うことに適した測定装置を提供する。
【解決手段】ガス測定装置100は、光を共振させる光共振器3と、光共振器3に照射するための光を発生させる光発生器1と、光共振器3から取り出された光を検出する光検出器6と、を備える。光共振器3は、複数のミラー31,32と、保持部材33,34と、円筒部材36と、円筒部材37と、温度調節器38と、を備える。保持部材33,34は、円筒部材36より熱膨張率が低い。円筒部材36は、保持部材33,34より熱伝導率の高い部分と、第1部分に比べて伸縮性の高いベローズ36a,36bと、を有する。円筒部材37は、円筒部材36と同等以上の熱伝導率を持ち、ベローズ36a,36bの内側を含む複数のミラー31,32の位置まで設けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を共振させる光共振器と、前記光共振器に照射するための光を発生させる光発生器と、前記光共振器から取り出された光を検出する光検出器と、を備えた測定装置であって、
前記光共振器は、
複数のミラーと、
前記複数のミラーを保持する保持部と、
前記保持部とそれぞれ接する両端部を有し、前記複数のミラーを含む空間を形成する第1筒部と、
前記第1筒部に沿って、該第1筒部の内側に設けられる第2筒部と、
前記第1筒部の内側の温度を調節する温度調節部と、を備え、
前記保持部は、前記第1筒部より熱膨張率が低い材料で構成られ、
前記第1筒部は、
前記保持部より熱伝導率の高い材料で構成された第1部分と、
前記第1部分に比べて伸縮性の高い第2部分と、を有し、
前記第2筒部は、
前記第1部分と同等以上の熱伝導率を持つ材料で構成され、前記第2部分の内側を含む前記複数のミラーの位置まで設けられる、測定装置。
【請求項2】
前記第2部分は、前記第1筒部の少なくとも一方の端部に設けられる、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記第2部分は、ベローズである、請求項1または請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記複数のミラーをそれぞれ保持する複数の保持部材を有し、
各保持部の相対位置を固定する固定部をさらに備えた、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記複数のミラーは、第1のミラーと、第2のミラーとを有し、
前記保持部は、前記第1のミラーを保持した第1保持部と、前記第2のミラーを保持した第2保持部とを少なくとも有し、
前記固定部は、前記第1保持部と前記第2保持部との距離を一定に保つ、請求項4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記固定部は、フランジ形状の前記第1保持部および前記第2保持部を固定する3本以上のロッドであり、前記ロッドは、前記第1筒部より熱膨張率が低い材料で構成される、請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記保持部は、保持するミラーを変位させるピエゾ素子を有する、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光共振器を備える測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の環境汚染物質などの測定において、ガス吸収分光法などの測定原理を利用するガス測定装置が広く使用されている。このガス測定装置では、測定対象のガスに光を照射し、当該ガスに含まれる物質の共鳴周波数と同じ周波数で吸収される光の強度から物質を定量する。
【0003】
例えば、測定対象のガスに含まれる揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)または極微量の気体(一酸化炭素、二酸化炭素の同位体、など)を測定する場合、ガス測定装置は、検出感度を高めるために光共振器を用いて測定対象のガスを測定する必要がある。光共振器を用いたガス測定装置については、例えば、非特許文献1に開示がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Development of a low-temperature cavity Ring-Down Spectrometer for the detection of CarBon-14", McCartt, Stanford University, July 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光共振器は、2枚以上の高反射率ミラーの間で光を反射させることで、ガスの測定に利用できる実効光路長をキロメートルオーダーまで長くすることができる。そのため、光共振器が熱によって大きく変形すると、ガス測定装置の検出感度に大きな影響を与える。そこで、光共振器は、熱膨張率の低い材料(例えば、インバー合金、または超低膨張ガラス)で構成することが考えられる。
【0006】
しかし、光共振器を熱膨張率の低い材料で構成した場合、当該材料の熱伝導率が低いため、光共振器内の温度を目標温度まで加熱または冷却するのに長い時間が必要となる。さらに、光共振器を熱伝導率の低い材料で構成すると、光共振器内の温度分布に偏りが生じやすく、ガス測定装置においてガスを測定する際に、この温度分布の偏りが検出誤差の要因となる。さらに、熱膨張率の低い材料は、加工し難い材料で、価格も高い。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、光共振器内の温度を目標温度まで加熱または冷却して測定を行うことに適した測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の態様に係る測定装置は、光を共振させる光共振器と、光共振器に照射するための光を発生させる光発生器と、光共振器から取り出された光を検出する光検出器と、を備える。光共振器は、複数のミラーと、複数のミラーを保持する保持部と、保持部とそれぞれ接する両端部を有し、複数のミラーを含む空間を形成する第1筒部と、第1筒部に沿って、該第1筒部の内側に設けられる第2筒部と、第1筒部の内側の温度を調節する温度調節部と、を備える。保持部は、第1筒部より熱膨張率が低い材料で構成られ、第1筒部は、保持部より熱伝導率の高い材料で構成された第1部分と、第1部分に比べて伸縮性の高い第2部分と、を有する。第2筒部は、第1部分と同等以上の熱伝導率を持つ材料で構成され、第2部分の内側を含む複数のミラーの位置まで設けられる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、光共振器は、第1筒部より熱膨張率が低い材料で構成られた保持部で複数のミラーを保持し、第1部分と同等以上の熱伝導率を持つ第2筒部が、第2部分の内側を含む複数のミラーの位置まで設けられているので、光学的安定性を確保しつつ、内側に生じる温度分布の偏りを抑えて目標温度まで加熱または冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るガス測定装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る光共振器の構成を示す概略図である。
図3】比較対象の光共振器の構成を示す概略図である。
図4】変形例に係るガス測定装置の全体構成を示すブロック図である。
図5】別の変形例に係るガス測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0012】
[実施の形態]
<測定装置の構成>
図1は、実施の形態に係るガス測定装置100の全体構成を示すブロック図である。図1に示すガス測定装置100は、光共振器3を用いて測定対象であるガス(サンプルガス)に含まれる目的成分の光吸収を測定する。ガス測定装置100は、レーザ光源である光発生器1と、光共振器3と、光検出器6と、コントローラ10とを備える。
【0013】
光発生器1は、光共振器3に照射するためのレーザ光を発する。光発生器1は、コントローラ10からの指令に従ってレーザ光の発振周波数を可変することができる。例えば、光発生器1は、量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)のレーザ光源であって、中赤外(波長5μm程度)のレーザ光を発する。コントローラ10は、光発生器1の駆動電流を変更することにより、レーザ光の発振周波数を変化させることができる。
【0014】
光共振器3は、測定対象のサンプルガスを封入可能な容器であり、例えば円筒形状を有する。光共振器3には、測定開始前にサンプルガスを導入するための導入管41と、導入管41に設けられる電磁弁42と、測定終了後にサンプルガスを排出するための排出管43と、排出管43に設けられる電磁弁44とを設けてある(図2参照)。ガス測定装置100は、測定する毎に電磁弁42,44を開いて、導入管41から測定するサンプルガスを光共振器3に封入し、測定後に電磁弁42,44を開いて、排出管43から測定が終わったサンプルガスを光共振器3から排出する。
【0015】
光共振器3は、光発生器1と光検出器6との間に設けられている。光共振器3は、一対のミラー31,32を含む。ミラー31,32は、光共振器3の内側において光が互いの間で反射するように対向して配置されている。各ミラー31,32には、光共振器3の外部に漏れ出す光が極めて微弱になるように高反射率(たとえば99.98%程度)のものを採用することが好ましい。
【0016】
本実施の形態において、光共振器3の共振器長L1は、ミラー31とミラー32とを結ぶ方向(光軸方向)におけるミラー31とミラー32との間の距離である。共振器長L1は、たとえば数十cm(この例では約30cm)である。
【0017】
図1に示す例では、ミラー31,32は、いずれも凹面鏡である。しかし、両方のミラー31,32が凹面鏡であることは必須ではない。ミラー31,32のうちの少なくとも一方が凹面鏡であればよい。たとえば、ミラー31,32のうちの一方が凹面鏡であり、他方が平面鏡であってもよい。
【0018】
光検出器6は、フォトダイオードまたはイメージセンサなどの検出器である。光検出器6は、ミラー32から取り出された微弱な透過光を検出し、その検出結果を示す信号(検出信号)をコントローラ10に出力する。
【0019】
コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサ101と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ102と、入出力ポート(図示せず)とを含む。コントローラ10は、ガス測定装置100を構成する各機器を制御する。より具体的には、コントローラ10は、レーザ光の発振周波数を走査するための指令を光発生器1に出力したり、光検出器6からの検出信号を受け取ったりする。また、コントローラ10は、光検出器6からの検出信号をA/D変換した後、当該A/D変換したデータに基づいてサンプルガスに含まれる目的成分の濃度(絶対濃度)などの情報を解析する各種データ処理を実行する。
【0020】
なお、コントローラ10は、機能毎に2以上のユニットに分割して構成されていてもよい。たとえば、コントローラ10は、各機器を制御するユニットと、各種データ処理を実行するユニットとに分割されていてもよい。
【0021】
<測定原理>
光共振器3を用いた吸収分光法による測定原理について簡単に説明する。一般に、光共振器3には、光共振器3に照射される光の周波数が特定の周波数である場合に共振が生じるとの共振条件が存在する。以下、光共振器3に照射されるレーザ光の周波数を「レーザ周波数」と呼ぶ。光共振器3により共振が生じ得る光の周波数を「モード周波数」と呼ぶ。
【0022】
レーザ周波数がいずれかのモード周波数と一致することで、光共振器3内にレーザ光のパワーが蓄えられる。レーザ光のパワーが光共振器3内に十分に蓄積された後、光共振器3に照射されるレーザ光を遮断する。遮断前に光共振器3内に蓄えられていた光は、ミラー31とミラー32との間を多数回(通常、数千~数万回)往復する。この光は、ミラー31,32の間を往復するうちにサンプルガス中の目的成分による吸収により徐々に減衰する。その際に、ミラー32から漏れ出る透過光の減衰を光検出器6によって検出する。光共振器3を用いた吸収分光法では、光がサンプルガスを通過する距離(実行光路長)を光共振器3により長くすることで、目的成分による光吸収が極めて僅かであっても、その光吸収を検出することができる。
【0023】
コントローラ10は、光検出器6からの検出信号に基づいて光の減衰の時定数を求める。この時定数から、そのときのレーザ周波数における目的成分の吸収係数を算出できる。レーザ周波数を走査して同様の測定を繰り返すことにより、目的成分の吸収スペクトルを作成することも可能である。さらに、吸収係数から目的成分の濃度を算出できる。
【0024】
<光共振器>
ガス測定装置100において、測定対象のガスに含まれる揮発性有機化合物または極微量の気体を測定するためには、光共振器3内の温度を低温にする必要がある。そのため、光共振器3には、内側の温度を調節する温度調節器が設けられている。図2は、実施の形態に係る光共振器3の構成を示す概略図である。一方、図3は、比較対象の光共振器3aの構成を示す概略図である。
【0025】
まず、比較対象の光共振器3aでは、図3に示すように、ミラー31を保持する保持部材33と、ミラー32を保持する保持部材34とが円筒部材39の両端において接続された構造である。光共振器3aは、ミラー31とミラー32との間の距離(共振器長L1)が変化しないように、保持部材33,34および円筒部材39に熱膨張率の低い材料で構成している。
【0026】
さらに、光共振器3aでは、内側の温度を低温にするため、円筒部材39の側面に光共振器3a内の温度を調節する温度調節器38が設けられている。しかし、温度調節器38を設けた円筒部材39に熱膨張率の低い材料で構成されているので熱伝導率が低く、光共振器3a内の温度を目標温度まで冷却するのに長い時間が必要であった。さらに、光共振器3aを熱伝導率の低い材料で構成すると、光共振器3a内の温度分布に偏りが生じやすく、ガス測定装置においてガスを測定する際に、この温度分布の偏りが検出誤差の要因となる。
【0027】
そこで、本実施の形態に係る光共振器3では、図2に示すように、ミラー31(第1のミラー)を保持する保持部材33(第1保持部)と、ミラー32(第2のミラー)を保持する保持部材34(第2保持部)との距離(共振器長L1)が一定となるように複数のロッド35で固定する構造を採用している。さらに、光共振器3では、ミラー31,32を含む空間を形成するための円筒部材36(第1筒部)を設け、円筒部材36の端部の各々が保持部材33,34と接している。なお、円筒部材36の側面には、光共振器3内の温度を調節する温度調節器38が設けられている。
【0028】
光共振器3は、円筒部材36の両端に設けたフランジ形状の保持部材33,34を3本以上のロッド35で固定する構造である。この保持部材33,34およびロッド35は、円筒部材36より熱膨張率の低い材料(例えば、インバー合金、または超低膨張ガラス)で構成し、温度変化が生じた場合であってもミラー31とミラー32との間の距離(共振器長L1)が変化し難くなっている。一方、円筒部材36は、光共振器3内を加熱または冷却しやすいように保持部材33,34およびロッド35より熱伝導率の高い材料(例えば、アルミニウム、銅など)で構成する。
【0029】
ただし、保持部材33,34およびロッド35より熱伝導率の高い部分(第1部分)のみで円筒部材36を構成した場合、温度調節器38の温度変化によって生じる円筒部材36の変形により保持部材33,34およびロッド35に力が加わり、ミラー31とミラー32との間の距離(共振器長L1)に影響を与える可能性がある。そこで、円筒部材36は、図2に示すように、両端部にベローズ36a,36bを設けている。ベローズ36a,36bは、円筒部材36の他の部分(第1部分)に比べて伸縮性が高い部分(第2部分)である。ここで、伸縮性とは、円筒部材36の延在方向に引っ張り応力または圧縮応力を加えたときに当該延在方向に生じる変形量であって、弾性コンプライアンス定数で定義することができる。そのため、温度調節器38の温度変化によって生じた熱伝導率の高い部分(第1部分)の変形を、ベローズ36a,36b(第2部分)の伸縮で相殺または低減している。これにより、光共振器3は、温度調節器38による温度調節を容易にしつつ、保持部材33,34およびロッド35により保持されたミラー31とミラー32との間の距離に与える影響を低減している。なお、円筒部材36の変形は、温度調節器38の温度変化以外に、ガスを封入している部分の熱的なゆらぎによっても生じる可能性がある。
【0030】
なお、ベローズ36a,36bは、円筒部材36の両端に設けられているが、熱伝導率の高い部分で生じた変形を相殺または低減できればベローズ36a,36bのうち、いずれか一方のベローズのみ円筒部材36に設けてもよい。さらに、ベローズを設ける位置は、円筒部材36の端部に限定されず、中央部など他の位置に設けてもよい。また、円筒部材36は、熱伝導率の高い部分(第1部分)とベローズ36a,36bの部分(第2部分)とを別部材で作製し組み合わせて構成してもよいが、1つの部材の一部をベローズの形状に加工して第1部分と第2部分とを一体で構成してもよい。
【0031】
ここで、温度調節器38は、円筒部材36,39の内側の温度を調節する温度調節部であり、例えばヒータ、ペルチェ素子などを含む。コントローラ10は、円筒部材36,39の内側の温度が目標温度となるように温度調節器38を制御する。
【0032】
円筒部材36は、前述したように、熱伝導率の高い部分(第1部分)のみで構成されているのではなく、ベローズ36a,36bの部分(第2部分)を有している。そのため、ベローズ36a,36bの部分が熱抵抗として機能し、温度調節器38からの熱量の円筒部材36内への伝搬を妨げる場合がある。つまり、円筒部材36にベローズ36a,36bの部分を設けることで、円筒部材36内の温度分布に偏りが生じやすくなる。
【0033】
そこで、本実施の形態に係る光共振器3では、図2に示すように、円筒部材36に沿って内側に円筒部材37(第2筒部)をさらに設けている。円筒部材37は、円筒部材36と同等以上の熱伝導率を持つ材料(例えば、アルミニウム、銅など)で構成してあり、ベローズ36a,36bの内側を含むミラー31,32の位置まで設けられる。そのため、熱抵抗を持たない円筒部材37により、ベローズ36a,36bの内側を含む円筒部材36内の全体に、温度調節器38からの熱量を伝搬させることができる。つまり、円筒部材37を設けることで、円筒部材36内の温度分布に偏りを抑えることができる。
【0034】
なお、円筒部材36は、内側にサンプルガスを封止する必要があるため、気密性を確保しつつ保持部材33,34と接続する必要がある。一方、円筒部材37は、内側にサンプルガスを封止する必要がないため、ミラー31,32を保持している保持部材33,34の近傍まで設けてあればよく、保持部材33,34と接続する必要はない。そのため、円筒部材37には、円筒部材36のように熱抵抗となるベローズを設ける必要がない。
【0035】
以上のように、本実施の形態に係るガス測定装置100は、光を共振させる光共振器3と、光共振器3に照射するための光を発生させる光発生器1と、光共振器3から取り出された光を検出する光検出器6と、を備える。光共振器3は、複数のミラー31,32と、複数のミラー31,32を保持する保持部材33,34と、保持部材33,34とそれぞれ接する両端部を有し、複数のミラー31,32を含む空間を形成する円筒部材36と、円筒部材36に沿って、該円筒部材36の内側に設けられる円筒部材37と、円筒部材36の内側の温度を調節する温度調節器38と、を備える。保持部材33,34は、円筒部材36より熱膨張率が低い材料で構成られる。円筒部材36は、保持部材33,34より熱伝導率の高い材料で構成された部分(第1部分)と、該部分に比べて伸縮性の高いベローズ36a,36b(第2部分)と、を有する。円筒部材37は、円筒部材36と同等以上の熱伝導率を持つ材料で構成され、ベローズ36a,36bの内側を含む複数のミラー31,32の位置まで設けられる。これにより、本実施の形態に係る光共振器3は、保持部材33,34でミラー31,32の位置を固定して光学的安定性を確保しつつ、円筒部材37で内側に生じる温度分布の偏りを抑えて目標温度まで加熱または冷却することができる。
【0036】
ベローズ36a,36bは、円筒部材36の少なくとも一方の端部に設けられること、ミラー31,32をそれぞれ保持するフランジ形状の保持部材33,34を3本以上のロッド35(固定部)で保持部材33,34の相対位置を固定することで、ミラー31とミラー32との間の距離(共振器長L1)を一定に保つことができる。
【0037】
[変形例]
(1)図4は、変形例に係るガス測定装置200の全体構成を示すブロック図である。図4に示すガス測定装置200は、光発生器1と光共振器3との間に光スイッチ2が設けられている点、およびミラー32を変位させるためのピエゾ素子4が保持部材34に設けられている点において、実施の形態に係るガス測定装置100(図1参照)と異なる。つまり、ガス測定装置200は、ミラー32を変位させることで共振器長L1を変化させることが可能である。
【0038】
光スイッチ2は、コントローラ10からの指令に従って、光発生器1から光共振器3へのレーザ光の照射と遮断とを切り替える。光スイッチ2としては、例えば音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)を採用できる。光スイッチ2は、光発生器1からのレーザ光のパワーが光共振器3内に十分に蓄積された後に、光共振器3に照射されるレーザ光を遮断する。
【0039】
ピエゾ素子4は、光を通過させるための穴がドーナツ状に形成され、ミラー32を光軸方向に変位させる。コントローラ10がピエゾ素子4を制御することでミラー32を変位させ、それにより共振器長L1を変化させることが可能である。コントローラ10は、共振器長L1が所定量だけ変化するようにミラー32を走査する。なお、ピエゾ素子をミラー31側の保持部材33に設けてもよく、ミラー31を光軸方向に変位させてもよい。また、ミラー32を変位させる構成は、ピエゾ素子4に限定されず、光軸方向に変位させることができるアクチュエータであればよい。
【0040】
以上のように、変形例に係るガス測定装置200では、保持部材34が、保持するミラー32を変位させるピエゾ素子4を有する。これにより、ガス測定装置200は、共振器長L1を所定量だけ変化させて、測定を行うことができる。
【0041】
(2)図5は、別の変形例に係るガス測定装置300の全体構成を示すブロック図である。図5に示すガス測定装置300は、2枚のミラーを含むファブリペロー型の光共振器ではなく、3枚のミラーを含むリング型の光共振器を採用している点において、実施の形態に係るガス測定装置100(図1参照)と異なる。
【0042】
光共振器8は、内側に配置された3枚のミラー81~83を含む。光共振器8に照射されたレーザ光は、ミラー81-ミラー82-ミラー83-ミラー81-ミラー82-ミラー83-・・・と順に反射を繰り返す。ミラー81,82は平面鏡である。ミラー83は凹面鏡である。ミラー81とミラー82との間の距離と、ミラー83とミラー82との間の距離とは等しい。この距離を「共振器長L2」と記載する。
【0043】
ミラー83にはピエゾ素子9が設けられている。ピエゾ素子9は、コントローラ10からの指令に従ってミラー83を変位させる。これにより、共振器長L2を変化させることが可能である。なお、ミラー83を変位させる必要がなければミラー83にピエゾ素子9を設けなくてもよい。
【0044】
図示していないが、ミラー81~83を保持する保持部材、および保持部材の位置を固定するロッドは、熱膨張率の低い材料(例えば、インバー合金、または超低膨張ガラス)で構成される。また、ミラー81~83を含む空間を形成する円筒部材(第1筒部)は、高い熱伝導率を持つ材料(例えば、アルミニウム、銅など)で構成される。円筒部材(第1筒部)は、ベローズを有し、内側に同等以上の熱伝導率を持つ円筒部材(第2筒部)がさらに設けられている。
【0045】
(3)前述の実施の形態では、ファブリペロー型の光共振器について説明した。しかし、光共振器は、2枚以上のミラーで構成されたヘリオットセル(多重反射型セル)を採用してもよい。
【0046】
(4)前述の実施の形態では、光共振器3に円筒部材36,37を用いると説明した。しかし、光共振器は、円柱形状の円筒部材36,37に限定されず、筒状であれば三角柱、四角柱などの角柱形状の筒部材を採用してもよい。
【0047】
(5)前述の実施の形態では、円筒部材36の変形を相殺または低減するためにベローズ36a,36bを設けると説明した。しかし、光共振器3は、円筒部材36にベローズを設ける構成に限定されず、伸縮性の高い部材(例えば、樹脂、ゴムなど)をベローズに代えて採用してもよい。また、前述の実施の形態では、保持部材33,34の位置を固定する固定部としてロッド35を採用すると説明した。しかし、固定部はロッド35に限定されず、保持部材33,34の位置を固定できれば、板部材、他の装置の一部などであってもよく、ガス測定装置自体に保持部材33,34を固定すれば固定部自体を設けなくてもよい。
[態様]
上述した実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0048】
(第1項)
一態様に係る測定装置は、光を共振させる光共振器と、光共振器に照射するための光を発生させる光発生器と、光共振器から取り出された光を検出する光検出器と、を備えた測定装置であって、光共振器は、複数のミラーと、複数のミラーを保持する保持部と、保持部とそれぞれ接する両端部を有し、複数のミラーを含む空間を形成する第1筒部と、第1筒部に沿って、該第1筒部の内側に設けられる第2筒部と、第1筒部の内側の温度を調節する温度調節部と、を備え、保持部は、第1筒部より熱膨張率が低い材料で構成られ、第1筒部は、保持部より熱伝導率の高い材料で構成された第1部分と、第1部分に比べて伸縮性の高い第2部分と、を有し、第2筒部は、第1部分と同等以上の熱伝導率を持つ材料で構成され、第2部分の内側を含む複数のミラーの位置まで設けられる。
【0049】
第1項に記載の測定装置によれば、第1筒部より熱膨張率が低い保持部で複数のミラーを保持し、第1部分と同等以上の熱伝導率を持つ第2筒部が、第2部分の内側を含む複数のミラーの位置まで設けられているので、光学的安定性を確保しつつ、内側に生じる温度分布の偏りを抑えて目標温度まで加熱または冷却することができる。また、第1項に記載の測定装置によれば、光共振器内の温度を制御して、高い検出感度を得ることができる。
【0050】
(第2項)
第2項に記載の測定装置であって、第2部分は、第1筒部の少なくとも一方の端部に設けられる。第2項に記載の測定装置によれば、熱伝導率の高い第1部分で生じた変形を相殺または低減することができる。
【0051】
(第3項)
第3項に記載の測定装置であって、第2部分は、ベローズである。第3項に記載の測定装置によれば、熱伝導率の高い第1部分で生じた変形を相殺または低減することができる。
【0052】
(第4項)
第4項に記載の測定装置であって、保持部は、複数のミラーをそれぞれ保持する複数の保持部材を有し、各保持部の相対位置を固定する固定部をさらに備えた。第4項に記載の測定装置によれば、固定部で保持部の相対位置を固定することで、ミラーの間の距離を一定に保つことができる。
【0053】
(第5項)
第5項に記載の測定装置であって、複数のミラーは、第1のミラーと、第2のミラーとを有し、保持部は、第1のミラーを保持した第1保持部と、第2のミラーを保持した第2保持部とを少なくとも有し、固定部は、第1保持部と第2保持部との距離を一定に保つ。
【0054】
第5項に記載の測定装置によれば、温度調節部で温度調節を行う場合でも、第1のミラーと第2のミラーとの距離を一定に保つことができる。
【0055】
(第6項)
第6項に記載の測定装置であって、固定部は、フランジ形状の第1保持部および第2保持部を固定する3本以上のロッドであり、ロッドは、第1筒部より熱膨張率が低い材料で構成される。
【0056】
第6項に記載の測定装置によれば、製造コストを低減しつつ、第1のミラーと第2のミラーとの距離を一定に保つことができる。
【0057】
(第7項)
第7項に記載の測定装置であって、保持部は、保持するミラーを変位させるピエゾ素子を有する。第7項に記載の測定装置によれば、ミラーを変位させて共振器長を変化させることができる。
【0058】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 光発生器、2 光スイッチ、3,3a,8 光共振器、4,9 ピエゾ素子、6 光検出器、10 コントローラ、31,32,81,82,83 ミラー、33,34 保持部材、35 ロッド、36,37,39 円筒部材、36a,36b ベローズ、38 温度調節器、100,200,300 ガス測定装置、101 プロセッサ、102 メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5