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特開2023-109404レーザースキャンデータ処理装置、レーザースキャン方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109404
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】レーザースキャンデータ処理装置、レーザースキャン方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010894
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(57)【要約】
【課題】極力少ないスキャン量によりトンネルの横断面のレーザースキャンを行う。
【解決手段】水平回転部と、前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部とを備えたレーザースキャン装置を用いたトンネル100内でのレーザースキャン方法であって、トンネル100の左右の壁面のレーザースキャンデータを取得し、前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置Pを通る垂線と交差する直線を求め、更に前記直線に水平面内で直交する方向を求め、前記方向を回転軸として前記鉛直回転部を回転させつつレーザースキャンを行うことで、トンネル100の横断面のレーザースキャンを行う。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの左右の壁面のレーザースキャン装置によるレーザースキャンデータを取得するレーザースキャンデータ取得部と、
前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求め、更に前記直線Aに水平面内で直交する方向を求める演算部と
を備え、
前記直線Aは、前記左右の壁面の間を最短の距離で結ぶ直線または前記左右の壁面の少なくとも一方に垂直な直線であるレーザースキャンデータ処理装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面を算出し、前記算出された前記左右の壁面に基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求める請求項1に記載のレーザースキャンデータ処理装置。
【請求項3】
前記レーザースキャン装置は、
水平回転部と、
前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、
前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部と
を備え、
前記レーザースキャンデータは、前記水平回転部を限られた範囲で回転させ、且つ、前記鉛直回転部を回転させつつのレーザースキャンにより得られる請求項1または2に記載のレーザースキャンデータ処理装置。
【請求項4】
前記レーザースキャン装置は、
水平回転部と、
前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、
前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部と
を備え、
前記レーザースキャンデータは、前記光学部の光軸を水平方向に固定した状態で前記水平回転部を回転させつつのレーザースキャンにより得られる前記左右の壁面のそれぞれに沿った線状に分布する第1のレーザースキャン点群と第2のレーザースキャン点群であり、
前記演算部は、前記第1のレーザースキャン点群にフィッティングする第1の線と前記第2のレーザースキャン点群にフィッティングする第2の線を算出し、前記第1の線と前記第2の線の間を最短の距離で結ぶ直線または前記第1の線と前記第2の線の少なくとも一方に垂直な直線を前記直線Aとして算出する請求項1に記載のレーザースキャンデータ処理装置。
【請求項5】
前記レーザースキャン装置は、
水平回転部と、
前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、
前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部と
を備え、
前記レーザースキャンデータは、前記光学部の光軸を水平方向に固定した状態で前記水平回転部を回転させつつのレーザースキャンにより得られる前記左右の壁面の一方に沿った線状に分布する第1のレーザースキャン点群であり、
前記演算部は、前記第1のレーザースキャン点群にフィッティングする第1の線の算出と、前記第1の線に垂直な直線を直線Aとして算出する請求項1に記載のレーザースキャンデータ処理装置。
【請求項6】
水平回転部と、
前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、
前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部と
を備えたレーザースキャン装置を用いたトンネル内でのレーザースキャン方法であって、
前記トンネルの左右の壁面のレーザースキャンデータを取得し、
前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求め、更に前記直線Aに水平面内で直交する方向Bを求め、
前記方向Bを回転軸として前記鉛直回転部を回転させつつレーザースキャンを行うことで、前記トンネルの横断面のレーザースキャンを行い
前記直線Aは、前記左右の壁面の間を最短の距離で結ぶ直線または前記左右の壁面の少なくとも一方に垂直な直線であるレーザースキャン方法。
【請求項7】
コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
コンピュータを
トンネルの左右の壁面のレーザースキャンデータを取得するレーザースキャンデータ取得部と、
前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求め、更に前記直線Aに水平面内で直交する方向を求める演算部と
して動作させ、
前記直線Aは、前記左右の壁面の間を最短の距離で結ぶ直線または前記左右の壁面の少なくとも一方に垂直な直線であるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザースキャンの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事において、作業が図面通り行われたか否かを確認する作業が必要となる。この作業をレーザースキャンを用いて行う方法が考えられる。トンネルの内壁に対するレーザースキャンの技術については、例えば特許文献1や特許文献2に記載されたものが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-188956号公報
【特許文献2】特許第5648831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トンネル工事の現場では、トンネルの断面形状を確認する作業が行われる。トンネルの断面形状をレーザースキャンにより取得する方法として、トンネル内壁全体をレーザースキャンする方法が考えられる。しかしながらこの方法は、レーザースキャン作業に要する時間が長くなり、また扱うデータ量が多くなる。
【0005】
このような背景において、本発明は、極力少ないスキャン量によりトンネルの横断面のレーザースキャンを行う技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は。トンネルの左右の壁面のレーザースキャンデータを取得するレーザースキャンデータ取得部と、前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求め、更に前記直線Aに水平面内で直交する方向を求める演算部とを備え、前記直線Aは、前記左右の壁面の間を最短の距離で結ぶ直線または前記左右の壁面の少なくとも一方に垂直な直線であるレーザースキャンデータ処理装置である。
【0007】
本発明において、前記演算部は、前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面を算出し、前記算出された前記左右の壁面に基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求める態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記レーザースキャン装置は、水平回転部と、前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部とを備え、前記レーザースキャンデータは、前記水平回転部を限られた範囲で回転させ、且つ、前記鉛直回転部を回転させつつのレーザースキャンにより得られる態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記レーザースキャン装置は、水平回転部と、前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部とを備え、前記レーザースキャンデータは、前記光学部の光軸を水平方向に固定した状態で前記水平回転部を回転させつつのレーザースキャンにより得られる前記左右の壁面のそれぞれに沿った線状に分布する第1のレーザースキャン点群と第2のレーザースキャン点群であり、前記演算部は、前記第1のレーザースキャン点群にフィッティングする第1の線と前記第2のレーザースキャン点群にフィッティングする第2の線を算出し、前記第1の線と前記第2の線の間を最短の距離で結ぶ直線または前記第1の線と前記第2の線の少なくとも一方に垂直な直線を前記直線Aとして算出する態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、前記レーザースキャン装置は、水平回転部と、前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部とを備え、前記レーザースキャンデータは、前記光学部の光軸を水平方向に固定した状態で前記水平回転部を回転させつつのレーザースキャンにより得られる前記左右の壁面の一方に沿った線状に分布する第1のレーザースキャン点群であり、前記演算部は、前記第1のレーザースキャン点群にフィッティングする第1の線の算出と、前記第1の線に垂直な直線を直線Aとして算出する態様が挙げられる。
【0011】
本発明は、水平回転部と、前記水平回転部に配置された鉛直回転部と、前記鉛直回転部に配置されたレーザースキャン光の照射と受光を行う光学部とを備えたレーザースキャン装置を用いたトンネル内でのレーザースキャン方法であって、前記トンネルの左右の壁面のレーザースキャンデータを取得し、前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求め、更に前記直線Aに水平面内で直交する方向Bを求め、前記方向Bを回転軸として前記鉛直回転部を回転させつつレーザースキャンを行うことで、前記トンネルの横断面のレーザースキャンを行い、前記直線Aは、前記左右の壁面の間を最短の距離で結ぶ直線または前記左右の壁面の少なくとも一方に垂直な直線であるレーザースキャン方法である。
【0012】
本発明は、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータをトンネルの左右の壁面のレーザースキャンデータを取得するレーザースキャンデータ取得部と、前記レーザースキャンデータに基づき、前記左右の壁面の間を結び、且つ、前記レーザースキャンデータを得たレーザースキャン装置の設置された位置を通る垂線と交差する直線Aを求め、更に前記直線Aに水平面内で直交する方向を求める演算部として動作させ、前記直線Aは、前記左右の壁面の間を最短の距離で結ぶ直線または前記左右の壁面の少なくとも一方に垂直な直線であるプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、極力少ないスキャン量によりトンネルの横断面のレーザースキャンを行う技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】発明の原理を示す概念図である。
図2】発明の原理を示す概念図である。
図3】発明の原理を示す概念図である。
図4】レーザースキャン装置の外観を示す図である。
図5】レーザースキャン装置およびデータ処理装置のブロック図である。
図6】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.第1の実施形態
(概要)
ここでは、図1の点Pに設置されたレーザースキャン装置200(図4参照)により、トンネル100の横断面のレーザースキャンを行う場合を考える。なお、点Pは測量機器の機械点にあたる点であり、この場合、レーザースキャン装置200の光学原点(測距と方位測定の原点)、あるいは当該光学原点から設置面に垂線を下ろした設置面上の点である。図1図3には、レーザースキャン装置200の光学原点から設置面(トンネルの路面)に垂線を下ろした設置面上の点をPとした場合が示されている。
【0016】
まず、トンネルの横断面を定義する。トンネルの横断面は、トンネルの軸線方向に直交する断面として定義される。トンネルの軸線は、トンネルの軸を示す線であり、トンネルが延長する方向に延在する。トンネルがまっすぐであれば、当該トンネルの軸線は直線となる。
【0017】
図1には、少し湾曲しているトンネル100が示されている。この場合、トンネル100の軸線120は曲線となる。この場合、ある場所におけるトンネルの軸線120の方向は、その場所における軸線120の接線の方向となる。なお、トンネル100がその延長方向において傾斜している場合(道路でいうと坂道の場合)は、軸線が上下に傾く。その場合は、軸線の水平方向の成分をトンネルの軸線の方向と考える。
【0018】
点Pにおけるトンネルの横断面のレーザースキャンデータを得るには、点Pにおける軸線120の接線の方向を取得し、その方向に直交する方向にレーザースキャンを行えばよい。これにより、横断面で切断されたトンネル内壁のレーザースキャン点群が得られる。例えば、トンネル100が馬蹄形であれば、馬蹄形のレーザースキャン点群が得られる。
【0019】
ここでは、以下の方法により、点Pの軸線120の方向を取得する。図3は、図1のトンネル100から天井部分を取り除き、路面(下面)と左右の側壁の部分を示した概略図である。図3に示すように、点Pを通る垂線と交差し、トンネルの左右の壁面S1とS2の間を最短で結ぶ直線(これが横断面に沿った直線となる)L3を求め、この直線L3に水平方向で直交するベクトルVを求める。
【0020】
そして、このベクトルVの方向を点Pにおける軸線120(図1参照)の方向として取得する。軸線120の方向が判れば、その方向に直行する方向に鉛直スキャン(Vスキャン)を行うことで、点Pにおけるトンネル100の横断面のレーザースキャン点群が得られる。
【0021】
(ハードウェアの構成)
図1には、レーザースキャン装置(レーザースキャナ)200の外観が示されている。レーザースキャン装置200は、三脚211、三脚211の上部に固定されたベース部212、ベース部212上で水平回転が可能な回転体である水平回転部213、水平回転部213に対して鉛直回転が可能な回転体である鉛直回転部214を備えている。
【0022】
鉛直回転部214は、レーザースキャン光の放射と受光を行う光学部215を備えている。光学部215からレーザースキャン光がパルス発光される。このパルス発光は、鉛直回転部214が回転しながら、その回転軸(水平方向に延長する軸)に直交する方向(面)に沿って行われる。この場合、光学部215から鉛直角の方向に沿ってレーザースキャン光がパルス発光される。
【0023】
水平回転部213を水平回転させ、且つ、鉛直回転部214を鉛直回転させながら、光学部215からレーザースキャン光をパルス発光させ、対象物からのその反射光を光学部215で受光することで、周囲に対するレーザースキャンが行われる。
【0024】
すなわち、鉛直回転部214を鉛直回転させながら、光学部215からレーザースキャン光をパルス発光させることで、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦方向のスキャン)が行われ、同時に水平回転部213が水平回転することで、この鉛直角方向に沿ったスキャン線(走査線)が水平角方向に沿ってずれるようにして移動する。なお、鉛直回転時に水平回転も同時に行った場合、鉛直角方向に沿ったスキャンは完全に鉛直方向に沿っておらず、僅かであるが少し斜めの線に沿って行われる。なお、水平回転部213が回転しなければ、鉛直角方向に沿ったスキャンは鉛直方向に沿ったものとなる。
【0025】
また、光学部215の光軸の方向が水平となるように鉛直回転部214を固定し、その状態で水平回転部213を回転させながら、光学部215からレーザースキャン光をパルス発光させることで、水平方向に絞ったレーザースキャンを行うことができる。この時、水平回転部213の回転角の範囲を360°とすれば、周囲360°の範囲の水平レーザースキャンが行われる。また、水平回転部213の回転角の範囲を特定の角度範囲に絞れば、その水平角度範囲における水平レーザースキャンが行われる。
【0026】
水平回転部213と鉛直回転部214の回転は、モータにより行われる。水平回転部213の水平回転角と、鉛直回転部214の鉛直回転角は、エンコーダにより精密に計測さる。
【0027】
レーザースキャン光は、1条のパルス測距光であり、一つのレーザースキャン光により、当該レーザースキャン光が当たった反射点であるスキャン点の測距が行われる。この測距値とレーザースキャン光の照射方向から、レーザースキャン装置200に対するスキャン点(レーザースキャン光の反射点)の位置が算出される。
【0028】
ここで、絶対座標系におけるレーザースキャン装置200の外部標定要素(位置と姿勢)が既知であれば、絶対座標系におけるスキャン点の位置が判明する。絶対座標系は、地図やGNSSで利用される座標系である。絶対座標系では、例えば、緯度、経度、標高によって位置が記述される。レーザースキャン装置200の光学原点を原点とするローカル座標系におけるレーザースキャン点群を得ることもできる。
【0029】
レーザースキャン装置200から出力されるレーザースキャン点群の形態としては、各点(各スキャン点)に係る距離と方向のデータを出力する形態が挙げられる。レーザースキャン装置200の内部において、特定の座標系における各点の位置を計算し、各点の3次元座標位置を点群データとして出力する形態も可能である。また、レーザースキャン点群のデータには、各スキャン点の輝度(反射光の強度)の情報も含まれている。
【0030】
図5は、レーザースキャン装置200およびトンネル軸方向算出装置300のブロック図である。レーザースキャン装置200は、発光部201、受光部202、測距部203、方向取得部204、発光制御部205、駆動制御部206、マーキング光制御部207、通信装置208を備える。
【0031】
発光部201は、レーザースキャン光の発光を行う発光素子、発光に関係する光学系と周辺回路を有する。発光部201からのレーザースキャン光は、光学系を介して光学部215から外部に出射される。受光部202は、レーザースキャン光の受光を行う受光素子、受光に関係する光学系と周辺回路を有する。光学部215から取り込まれたレーザースキャン光の反射光は、光学系を介して受光部202に導かれる。
【0032】
測距部203は、レーザースキャン装置200からレーザースキャン光の反射点までの距離を算出する。この例では、レーザースキャン装置200の内部に基準光路が設けられている。発光素子から出力されたレーザースキャン光は2分岐され、一方がレーザースキャン光として光学部215から対象に照射され、他方が参照光として上記基準光路に導かれる。
【0033】
対象から反射され、光学部215から取り込まれたレーザースキャン光と上記基準光路を伝搬した参照光とが合成され、受光部202に入力される。レーザースキャン光と参照光は、伝搬距離が異なり、最初に参照光が受光素子で検出され、次いでレーザースキャン光が受光素子で検出される。
【0034】
ここで、受光素子の出力波形を見ると、参照光の検出波形が最初に出力され、ついで時間差をおいてレーザースキャン光の検出波形が出力される。この2つの波形の位相差(時間差)からレーザースキャン光の反射点までの距離が算出される。なお、レーザースキャン光の飛翔時間から距離を算出する形態も可能である。
【0035】
方向取得部204は、レーザースキャン光の光軸の方向を取得する。光軸の方向は、水平方向の光軸の角度と鉛直方向の光軸の角度を計測することで得る。方向取得部204は、水平角検出部204aと鉛直角検出部204bを有する。
【0036】
水平角検出部204aは、水平回転部213の水平回転角を検出する。水平回転は、鉛直方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。鉛直角検出部204bは、鉛直回転部214の鉛直回転角を検出する。鉛直回転は、水平方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。
【0037】
水平回転部213の水平回転角と鉛直回転部215の鉛直回転角を計測することで、レーザースキャン装置200から見たレーザースキャン光の光軸の方向、すなわちスキャン点の方向が判る。発光制御部205は、発光部201におけるレーザースキャン光の発光タイミングの制御を行う。
【0038】
駆動制御部206は、水平回転部213を水平回転させるための駆動制御を行う水平回転駆動制御部206aと、鉛直回転部214を鉛直回転させるための駆動制御を行う鉛直回転駆動制御部206bを備える。
【0039】
マーキング光制御部207は、指定された点に発光部202からレーザー光を照射するための制御を行う。これにより、レーザーポインタとしての機能が得られる。通信装置208は、トンネル軸方向算出装置300や他の装置との間で通信を行う。通信は、無線LANや携帯電話回線が利用される。
【0040】
トンネル軸方向算出装置300は、レーザースキャンによって得た点群データの処理装置の一例であり、トンネル内のある点におけるトンネルの軸線の方向を算出する。
【0041】
トンネル軸方向算出装置300は、コンピュータにより構成されている。当該コンピュータは、例えばPC(パーソナル・コンピュータ)であり、CPU、記憶装置、ユーザーインターフェース、通信インターフェース、その他通常のPCが備える機能を有する。トンネル軸方向算出装置300として、専用のコンピュータを用意する形態も可能である。また、データ処理サーバを用いてトンネル軸方向算出装置300を実現することも可能である。トンネル軸方向算出装置300をレーザースキャン装置200に内蔵する形態も可能である。
【0042】
トンネル軸方向算出装置300は、点群データ取得部301、壁面に沿った水平方向に延長する線の算出部302、レーザースキャン装置の設置位置におけるトンネルの軸方向の算出部304を備える。これら機能部は、使用するPCにインストールされたアプリケーションプログラムを当該PCのCPUにより実行することでソフトウェア的に構成されている。これら機能部の一部または全部を専用のハードウェアで構成することもできる。また、トンネル軸方向算出装置300は、使用するPCの通信インターフェースを利用した通信装置304を備える。
【0043】
点群データ取得部301は、レーザースキャン装置200が取得したレーザースキャン点群のデータ(点群データ)を受け付け取得する。
【0044】
壁面に沿った水平方向に延長する線の算出部302とレーザースキャン装置の設置位置におけるトンネルの軸方向の算出部303は、点Pにおけるトンネル100の軸方法を算出する演算部310を構成している。
【0045】
壁面に沿った水平方向に延長する線の算出部302は、図3の線L1とL2を算出する。処理の詳細は後述する。
【0046】
レーザースキャン装置の設置位置におけるトンネルの軸方向の算出部303は、図3の点PにおけるベクトルVの方向を算出する。ベクトルVの方向の算出の詳細は後述する。
【0047】
通信装置304は、レーザースキャン装置200や他の装置との間で通信を行う。通信は、無線LANや携帯電話回線が利用される。
【0048】
(処理の一例)
図6に処理の手順の一例を示す。図6に示す処理を実行するプログラムは、トンネル軸方向算出装置300を構成するPCの記憶装置に記憶され、当該PCのCPUにより読み出されて実行される。当該プログラムを適当な記憶媒体に記憶させ、そこから読み出して利用する形態も可能である。
【0049】
まず点Pにレーザースキャン装置200を設置する。ここでは、水平面(X-Y平面)において、点Pの位置とレーザースキャン装置200の光学原点の位置を一致させた状態とする。また、点Pにおいて、レーザースキャナ200は水平に設置されているが、水平方向における正確な姿勢は未知であるとする。勿論、目測により、凡その姿勢は判っているものとする。
【0050】
この状態において、レーザースキャン装置200の水平回転部213を、トンネル100の凡その延長方向(トンネル軸の方向)に直交する方向を中心に水平角を±θの範囲で振り、鉛直回転部214を鉛直回転させて鉛直スキャンを行う。θは5°~30°とする。
【0051】
このレーザースキャンによって、図2に示すように、トンネル100の壁面S1とS2のレーザースキャン点群が得られる(ステップS101)。壁面S1は、Y軸正の方向で見た場合の左側の壁面であり、壁面S2は、Y軸正の方向で見た場合の右側の壁面である。なお、天井面や床面のレーザースキャン点群は利用しない。
【0052】
次に、壁面S1とS2のレーザースキャン点群にフィッティングする面を求める。すなわち、壁面S1とS2の面の方程式を得る。なお、対象となる面は平面とは限らず、曲面の場合も有り得る。よって得られる面の方程式は、平面または曲面の方程式となる。壁面S1とS2の面の方程式を得たら、壁面S1を水平方向に横断する線L1と、壁面S2を水平方向に横断する線L2を求める(ステップS102)。ステップS102の処理が「壁面に沿った水平方向に延長する線の算出部302」において行われる。なお、L1とL2のZ方向の位置(高さ位置)は同じとする。
【0053】
トンネル100がまっすぐであれば、L1とL2は直線になる。トンネル100がまっすぐでなければ、L1とL2はトンネル100の湾曲の程度に対応した曲線となる。
【0054】
他の方法として、壁面S1のレーザースキャン点群に水平方向でフィッティングする線L1と壁面S2のレーザースキャン点群に水平方向でフィッティングする線L2を求めることで、L1とL2を求める方法も可能である。また例えば、同一の高さ位置と見なせる上下方向における幅の狭い範囲(例えば、上下±1cmの幅)の点群を抽出し、このリボン状の領域(幅のある線状の領域)をL1とL2とする方法もある。
【0055】
L1とL2を求めたら、図3に示すように、点Pを通る垂線を設定し、この垂線と交差し、L1とL2を最短で結ぶ直線L3を求める(ステップS103)。この直線L3に水平面内で直交する方向が点Pにおけるトンネル100の軸線120の方向121となる(ステップS104)。ステップS103とS104の処理が「レーザースキャン装置の設置位置におけるトンネルの軸方向の算出部303」において行われる。
【0056】
点Pにおけるトンネル100の軸線120の方向121(ベクトルVの方向)を得たら、レーザースキャン装置200を用いて、方向121に直交する方向の鉛直レーザースキャンを行う(ステップS105)。
【0057】
具体的には、まず水平回転部213を水平回転させて、鉛直回転部214の回転軸の軸方向を方向121に合わせる。そして、その状態において、水平回転部213を固定して鉛直回転部214を回転させ、レーザースキャンを行う。すなわち、方向121の方向を回転軸として鉛直回転部214を回転させ、レーザースキャンを行う。これにより、点Pにおけるトンネル100の横断面のレーザースキャン点群のデータが得られる。
【0058】
(捕捉説明)
以下、点Pを選択する方法の一例を説明する。まず、トンネル入り口の手前の部分の位置の精密な測位を行う。この測位は、既知の基準点を用いた測位やGNSSの相対測位によって行う。この位置を起点P0とし、そこから見えるトンネル内の位置P1を定める。P1の位置は、図面上で予め定められている。これは、P1以降のP2,P3,P4,・・・Pnについても同じである。
【0059】
例えば、利用するレーザースキャン装置200のレーザーポインタ機能を用い、P0に設置したレーザースキャン装置200を用いてP1の位置をマーキングする。勿論、他の測量手段を用いてP1の位置を決めてもよい。
【0060】
P1の位置を決めたら、そこにレーザースキャン装置200を設置し、図6の処理を行い、その地点でのトンネルの横断面のレーザースキャンデータを得る。
【0061】
同じ処理をP2以降も繰り返し、P1,P2,P3,P4,・・・Pnにおけるトンネルの横断面のレーザースキャンデータを得る。
【0062】
(優位性)
図2に示す壁面S1とS2のレーザースキャンは、部分的なレーザースキャンであり、スキャン量は大きく増大しない。そのため、極力少ないスキャン量によりトンネルの横断面のレーザースキャンを行うことができる。
【0063】
なお、レーザースキャナを設置する点Pは、トンネルの幅方向における中央でなくてもトンネルの軸方向を算出できる。
【0064】
2.第2の実施形態
図6のステップS101において、レーザースキャン装置200の鉛直回転部214を水平方向に指向させた状態で固定し、水平回転部213のみを回転させつつレーザースキャンを行う。この場合、水平方向のみに線状のレーザースキャンが行われ、壁面S1,S2における線状に分布したレーザースキャン点群が得られる。この線状に分布したレーザースキャン点群にフィッティングする線を求めることで図3のL1とL2が得られる。他は、第1の実施形態と同じである。本実施形態を実施する場合、演算部310として上記で説明した演算を行うものを用意する。これは他の実施形態でも同じである。
【0065】
ここで、水平回転部213の水平角のスキャン範囲は、限定された範囲、例えば60°や90°の範囲とすることは好ましい。具体的には、以下のようにする。まず、レーザースキャン200の光軸を壁面に向ける。この時、目測でよいので、光軸の向きを壁面S1またはS2に対して垂直になるように努める。そして、その状態から±30°といった範囲の水平スキャンを行う。こうすることで、無駄なスキャンを減らし、またデータ量を削減できる。
【0066】
3.第3の実施形態
鉛直回転部214を複数の角度で固定した状態での水平回転部213の回転によるスキャンを行い、壁面S1とS2を求める方法もある。例えば、光学部215を仰角0°(水平)に向けた状態で鉛直回転部214を固定しての水平回転部213の回転によるレーザースキャン、光学部215を仰角10°に向けた状態で鉛直回転部214を固定しての水平回転部213の回転によるレーザースキャン、光学部215を仰角20°に向けた状態で鉛直回転部214を固定しての水平回転部213の回転によるレーザースキャンを行う。
【0067】
このレーザースキャンにより、壁面に対して3条の水平スキャンが行われ、3条のレーザースキャン点群が得られる。この3条のレーザースキャン点群にフィッティングする面を求めることで、壁面S1とS2の面の方程式を算出する。なお、仰角0°以外の水平スキャンにより得られるレーザースキャン点群の壁面における軌跡は、直線とはならない。
【0068】
鉛直角(上記の場合は仰角)の選択は、上記の3段階に限定されず、2段階あるいは4段階以上であっても良い。また、角度の間隔の選択も上記の10°毎に限定されず、5°毎や15°毎といった数値が選択可能である。
【0069】
この方法によれば、レーザースキャンデータのデータ量を削減できる。この場合も水平回転部213の水平角のスキャン範囲を限定することで、無駄なスキャンとデータ量を減らすことができる。
【0070】
また上記の水平方向のみのレーザースキャンの変形例として、壁面S1とS2のいずれか一方のみに水平スキャンを行い、L1とL2の一方のみを取得する形態が挙げられる。この場合、L1またはL2に水平方向で直交し、点Pの鉛直上方を通る(点Pを通る垂線と交わる)直線L3を求める。
【0071】
4.第4の実施形態
ステップS103において、直線L3を、L1および/またはL2に水平方向で直交し、点Pを通る垂線と交わる線として求めることもできる。
【0072】
5.第5の実施形態
直線L3を、壁面S1とS2の少なくとも一方に水平方向で垂直で(直交し)、点Pを通る垂線と交わる線として求めることもできる。
【0073】
6.第6の実施形態
単純に設計データからその場所における断面方向を割り出し、その向きにスキャンを行う方法もある。この場合、まず他の実施形態で述べた方法による最初のレーザースキャンを行う。なお、レーザースキャン装置200は、点Pに設置されているとする。
【0074】
そして最初のレーザースキャンによって得た点群データとトンネル100の設計図面の3Dデータとを比較し、設計データ上で点群データがフィッティングする部分を探索する。この際、設計データ上における点Pの位置、および他の実施形態に示す方法により得たトンネルの軸方向のデータを利用して、上記の探索を行う。
【0075】
点群データにフィッティングする図面データを得たら、その図面データを用いた後方交会法により、レーザースキャン装置200のトンネル100に対する姿勢を求める。なお、この際に位置Pも求まるが、位置Pは設計データ上で定めているので、この段階において既知である。
【0076】
次に、位置Pにおけるトンネル100の断面の方向を設計データから取得し、その方向のレーザースキャンを行う。これにより、点Pにおけるトンネル100の横断面のレーザースキャンデータを得る。
【0077】
7.第7の実施形態
レーザースキャン装置200において、鉛直回転軸の微妙な傾きにより、鉛直スキャンが鉛直面に対して少し傾いている場合がある。この傾きは、レーザースキャン装置の工場出荷時の最終調整の段階で把握され、レーザースキャナ点群の計算時にその影響が補正されるようになっている。
【0078】
しかしながら、この補正は取得した点群データに対して行われるものであり、トンネル横断面を正確にスキャンしたい場合に適切でない。
【0079】
そこで、上記の傾きの影響を抑えるために、上記の事前に得ている傾きのデータに基づき、それがキャンセルされるようにレーザースキャン装置200を僅かに傾けて設置する。
【0080】
例えば、鉛直回転部214の回転軸が水平回転部213に対して完全な水平ではなく、水平から0.05°傾いているとする。この場合、レーザースキャン装置200を0.05°傾けて設置し、上記の傾をキャンセルさせることで、上記鉛直回転部214の回転軸の水平からの傾きを極力0°に近づける。
【0081】
通常、ベース部212には、姿勢を微調整する整準機構が配置されており、レーザースキャン装置200の傾きの微調整が可能である。この調整機構を用いて、上記傾きの調整を行う。
【符号の説明】
【0082】
100…トンネル、120…トンネルの軸線、200…レーザースキャン装置、211…三脚、212…ベース部、213…水平回転部、214…鉛直回転部、215…光学部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6