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特開2023-109410TSV用モールドアンダーフィル組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109410
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】TSV用モールドアンダーフィル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20230801BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230801BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230801BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230801BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20230801BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C08G59/24
C08L63/00 C
C08K3/013
C09K3/10 L
H01L23/30 R
H01L21/56 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010900
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】310024033
【氏名又は名称】エスケーハイニックス株式会社
【氏名又は名称原語表記】SK hynix Inc.
【住所又は居所原語表記】2091, Gyeongchung-daero,Bubal-eub,Icheon-si,Gyeonggi-do,Korea
(71)【出願人】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ミンソク,キム
(72)【発明者】
【氏名】テホン,キム
(72)【発明者】
【氏名】チョンヒョク,パク
(72)【発明者】
【氏名】上村 剛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洋介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
4J036
4M109
5F061
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB08
4H017AC10
4H017AC19
4H017AD02
4H017AE05
4J002CC042
4J002CD021
4J002CD061
4J002CD081
4J002CD131
4J002CP053
4J002DA038
4J002DJ017
4J002EU159
4J002EU186
4J002EX068
4J002FB187
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD142
4J002FD209
4J002GJ00
4J002GJ02
4J002GQ05
4J036AA05
4J036AB01
4J036AB09
4J036AB10
4J036AD08
4J036AE00
4J036AH01
4J036AH02
4J036AH07
4J036DB06
4J036DB15
4J036DC02
4J036FA03
4J036FA05
4J036FA13
4J036FB08
4J036JA07
4M109AA01
4M109BA03
4M109CA04
4M109DB17
4M109EA02
4M109EA10
4M109EB02
4M109EB06
4M109EB07
4M109EB08
4M109EB09
4M109EB13
4M109EB16
4M109EC01
4M109EC09
5F061AA01
5F061BA03
5F061CA04
5F061FA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な注入性を示すと共に、バイアスHAST試験において短絡を起こさない電子部品をもたらす硬化物を与え、TSVなどの技法によって形成される高密度の配線を含む電子部品に、十分な信頼性を付与することができる液状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)フィラー及び(D)カーボンブラックを含み、前記(A)エポキシ樹脂が特定の脂肪族エポキシ樹脂を含み、前記(C)フィラーが特定の粒度分布を有し、前記カーボンブラック及び塩化物イオン(Cl)の含有量が所定の範囲内である。本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品は、所定の条件下で行われるバイアスHAST試験において、長時間にわたり短絡を起こさない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TSV用モールドアンダーフィル組成物であって、下記(A)~(D):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;
(C)フィラー;及び
(D)カーボンブラック
を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、下記式(I):
【化4】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂を含み、
前記(C)フィラーが平均粒径0.1μm~1.0μmのフィラーを含み、
前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、前記(D)カーボンブラックの含有量が0.1質量部以上、1.5質量部以下であり、かつ
塩化物イオン(Cl)の含有量が、前記TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量に対して0.1ppm以上、11.0ppm未満である、TSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項2】
(C)フィラーの総質量を100質量部とするとき、(C)フィラーにおける粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満である、請求項1記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項3】
TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、(C)フィラーの含有量が65~90質量部である、請求項1又は2記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項4】
(A)エポキシ樹脂が、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を更に含む、請求項1~3のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項5】
(B)硬化剤が、フェノール化合物、酸無水物、非環状アミン化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項6】
(E)シリコーン系添加剤を更に含む、請求項1~5のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項7】
(F)カップリング剤を更に含む、請求項1~6のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項8】
(G)マイグレーション抑制剤を更に含む、請求項1~7のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項9】
TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満である、請求項1~8のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物により封止された半導体素子を有する、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TSV用モールドアンダーフィル組成物としての使用に適した液状エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の性能を更に高めるために、電子機器を構成する電子部品内のチップ上の配線をより高密度化することが求められている。しかし、チップの単位面積当たりの配線密度を、配線の更なる微細化によって高めることは限界に近づいている。そこで、複数のチップを三次元的に積層することによって、チップの単位面積当たりの配線密度を更に高めることが一般的になってきている(例えば特許文献2を参照)。
【0003】
このような技法においては、積層されたチップ間の接続が必要になる。そのような接続にシリコン貫通電極(Through Silicon Via(TSV))技術が採用されることが多くなりつつある。TSV技術とは、シリコン製半導体チップをその厚み方向に貫通する電極を設け、積層されたチップ間の接続をこの電極によって行う技術である。
【0004】
このような積層された複数のチップを含む電子部品の製造においては、従来、各チップを積層する毎に、ウェハーとチップの間、又はチップ同士の間の封止を行った後、積層されたチップ全体を液状の硬化性樹脂組成物で覆ってチップごと圧縮成型に付すことにより、電子部品の外形の成形(オーバーモールディング)を行う、という工程が用いられていた。しかし近年は、製造効率を向上させるため、全てのチップを封止を行わずに積層した後、積層されたチップ全体を液状の硬化性樹脂組成物で覆ってチップごと圧縮成型に付すことにより、ウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を一工程で行う、という技法が用いられることが多くなりつつある。このような技法に用いる硬化性樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル組成物又はTSV用モールドアンダーフィル材と称する(例えば特許文献1を参照)。TSV用モールドアンダーフィル組成物としては、主として液状エポキシ樹脂組成物が用いられている。
【0005】
このようなモールドアンダーフィル組成物は屡々、フィラー及び/又は着色剤を含有する。前者は主に、モールドアンダーフィル組成物が与える硬化物における熱膨張率の低下、強度の向上等を目的として添加される。後者は、電子部品内の配線への光の影響を低減するために添加されるが、前者が後者と組み合わせて添加され、後者の機能を補助する場合もある(例えば特許文献4及び5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開第WO2019/146617号明細書
【特許文献2】特開2010-074120
【特許文献3】特開平2-88629
【特許文献4】特開2020-015873
【特許文献5】特許5579764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル組成物として用い、このような技法で製造された電子部品は、信頼性が低いことが判明した。
電子部品の信頼性試験は種々知られているが、その一つとして、電子部品内部(特に金属部分)の腐食が加速される高温・高湿度条件下(例えば130℃、相対湿度85%)で行われる信頼性試験である、高速加速寿命試験(HAST試験)がある。HAST試験には、試験される電子部品にバイアス電圧を印加しない条件下で行うもの(バイアス無印加HAST試験)と、印加する条件下で行うもの(バイアスHAST試験)がある。従来の液状エポキシ樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル組成物として用い、ウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を一工程で行う技法により製造された電子部品を信頼性試験、特にバイアスHAST試験に付すと、短時間で短絡を起こしやすいことが判明した。このような問題は従来知られておらず、本発明者らによって初めて見出されたものである。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、良好な注入性を示し、バイアスHAST試験において短絡を起こさない電子部品をもたらす硬化物を与え、TSVなどの技法によって形成される高密度の配線を含む電子部品の効率的な製造を可能にすると共に、そのような電子部品に十分な信頼性を付与することができる、TSV用モールドアンダーフィル組成物としての使用に適した液状エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
【0011】
1.TSV用モールドアンダーフィル組成物であって、下記(A)~(D):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;
(C)フィラー;及び
(D)カーボンブラック
を含み、
前記(A)エポキシ樹脂が、下記式(I):
【化1】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂を含み、
前記(C)フィラーが平均粒径0.1μm~1.0μmのフィラーを含み、
前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、前記(D)カーボンブラックの含有量が0.1質量部以上、1.5質量部以下であり、かつ
塩化物イオン(Cl)の含有量が、前記TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量に対して0.1ppm以上、11.0ppm未満である、TSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0012】
2.(C)フィラーの総質量を100質量部とするとき、(C)フィラーにおける粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満である、前項1記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0013】
3.TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、(C)フィラーの含有量が65~90質量部である、前項1又は2記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0014】
4.(A)エポキシ樹脂が、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を更に含む、前項1~3のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0015】
5.(B)硬化剤が、フェノール化合物、酸無水物、非環状アミン化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、前項1~4のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0016】
6.(E)シリコーン系添加剤を更に含む、前項1~5のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0017】
7.(F)カップリング剤を更に含む、前項1~6のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0018】
8.(G)マイグレーション抑制剤を更に含む、前項1~7のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0019】
9.TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満である、前項1~8のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物。
【0020】
10.前項1~9のいずれか1項記載のTSV用モールドアンダーフィル組成物により封止された半導体素子を有する、半導体パッケージ。
【発明の効果】
【0021】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、良好な注入性及び適切な封止性を示す。また、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品は、バイアスHAST試験において長時間にわたり短絡を起こさない。したがって、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を用いると、TSVなどの技法によって形成される高密度の配線を含む電子部品に、十分な信頼性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】TSV用モールドアンダーフィル組成物による封止及びオーバーモールディングの手順を示す図である。
図2】TSV用モールドアンダーフィル組成物の注入性を評価するために使用したシリコンウェハー、シリコンチップ及びスペーサーの位置を示す模式図である。(A)シリコンウェハー上に配置されたシリコンチップの位置を示す模式図である。(B)シリコンウェハー上のシリコンチップ及びスペーサーの位置を示す模式図である。
図3】TSV用モールドアンダーフィル組成物の注入性の評価の結果を示す顕微鏡写真である。(A)注入性の不十分なTSV用モールドアンダーフィル組成物を用いて作成された試験片の研磨面の顕微鏡写真である。(B)注入性の良好なTSV用モールドアンダーフィル組成物を用いて作成された試験片の研磨面の顕微鏡写真である。
図4】バイアスHAST試験に用いた櫛形電極の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は、下記(A)~(D):
(A)エポキシ樹脂;
(B)硬化剤;
(C)フィラー;及び
(D)カーボンブラック
を含むTSV用モールドアンダーフィル組成物に関する。この組成物において、前記(A)エポキシ樹脂は、下記式(I):
【化2】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂を含む。前記(C)フィラーは、平均粒径0.1μm~1.0μmのフィラーを含む。前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、前記(D)カーボンブラックの含有量は0.1質量部以上、1.5質量部以下である。また、塩素イオン(Cl)の含有量は、前記TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量に対して0.1ppm以上、11.0ppm未満である。本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物に含まれる上記成分(A)~(D)に関し、以下に説明する。
【0024】
(A)エポキシ樹脂
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂は、常温で液状のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、液状のエポキシ樹脂は粘度が10~5000mPa・sの範囲内のものを用いることが好ましい。液状のエポキシ樹脂を用いることで、低粘度で流動性に優れたTSV用モールドアンダーフィル組成物を得ることができる。
また、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、10~35質量部であることが好ましく、12~32質量部であることがより好ましく、15~30質量部であることが特に好ましい。この範囲にすることにより、TSV用モールドアンダーフィル組成物の粘度上昇を抑制し、かつTSV用モールドアンダーフィル組成物の硬化物の熱膨張係数を低減することができる。
このエポキシ樹脂は、下記式(I):
【化3】

[式中、nは、1~15の整数である。]
で示される脂肪族エポキシ樹脂((ポリ)テトラメチレングリコールのジグリシジルエーテル)を含む。この脂肪族エポキシ樹脂におけるnは、同エポキシ樹脂の分子量(溶出溶媒にテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の数平均分子量)から算出することができる。この脂肪族エポキシ樹脂を含むことにより、半導体チップが搭載されたウェハーに塗布されたTSV用モールドアンダーフィル組成物が硬化した後の、反りの発生を抑制することができる。
【0025】
前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂として、商品名「YX7400」(三菱ケミカル株式会社製)、商品名「エポゴーセーPT(一般グレード)」(四日市合成株式会社製)等の市販品を使用してもよい。
【0026】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、エポキシ樹脂は、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂に加え、他のエポキシ樹脂を含んでいてもよい。他のエポキシ樹脂としては、封止材料として用いられるエポキシ樹脂を使用することができる。このエポキシ樹脂は、2官能以上の多官能エポキシ樹脂であることが好ましい。多官能エポキシ樹脂の例としては、
カテコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、2,5-ジイソプロピルヒドロキノンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル等の単環芳香族エポキシ樹脂;
3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、ジエポキシリモネン等の脂環式エポキシ樹脂;
ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;
ビスフェノール型エポキシ樹脂の部分重合によって得られるオリゴマーの混合物;
環が水素添加されたビスフェノール型エポキシ樹脂;
テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル;テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルジグリシジルエーテル;
ビフェニル型又はテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂及びこれらの環が水素添加された樹脂;
ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂等のフルオレン型エポキシ樹脂;
ナフタレン型エポキシ樹脂
等を挙げることができる。
【0027】
さらに、多官能エポキシ樹脂としては、例えば、
トリグリシジル-p-アミノフェノールなどのアミノフェノール型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリンなどのアニリン型エポキシ樹脂、ジグリシジルオルトトルイジンなどのトルイジン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等の、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂;
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールメタントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル等のトリメチロールアルカン型エポキシ樹脂等の、多官能グリシジルエーテル
が挙げられる。
【0028】
また、その他のエポキシ樹脂、例えば脂肪族エポキシ樹脂、シリル化エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリアリーレンエーテルジグリシジルエーテル等を併用することもできる。
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記他のエポキシ樹脂は、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。本発明の一実施形態において、エポキシ樹脂は、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂に加え、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を更に含む。分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂を用いることにより、TSV用モールドアンダーフィル組成物の硬化性が向上し、耐熱性が向上することでバイアスHAST試験結果が良好になる。
また、前記式(I)で示される脂肪族エポキシ樹脂と芳香環を有するエポキシ樹脂との質量比は、5:95~50:50が好ましく、10:90~45:55がより好ましく、20:80~40:60が特に好ましい。上記の質量比をこの範囲にすることにより、半導体チップが搭載されたウェハーに塗布されたTSV用モールドアンダーフィル組成物が硬化した後の反りの発生を抑制し、かつ良好なバイアスHAST試験結果を得ることができる。
分子中に芳香環を有するエポキシ化合物としては、公知乃至慣用の芳香族エポキシ化合物を使用することができ、特に限定されない。
分子中に芳香環を有するエポキシ化合物の具体例としては、
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、カテコール、レゾルシノール等のフェノール類のグリシジルエーテル:
p-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸のグリシジルエーテルエステル;
安息香酸、フタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸のモノグリシジルエステル又はポリグリシジルエステル;
ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン等のグリシジルアミン型エポキシ化合物;
ナフトールのグリシジルエステル、β-ヒドロキシナフトエ酸等のグリシジルエーテルエステル等の、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物
などが挙げられる。また、フェノール、カテコール、レゾルシノール等のフェノール類をノボラック化したノボラック化合物を用いてもよい。これらの中でも、グリシジルアミン型エポキシ化合物が好ましい。
【0030】
(B)硬化剤
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、硬化剤を含有する。この硬化剤は、上記(A)エポキシ樹脂を硬化させることができることができる限り特に限定されない。本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において使用しうる硬化剤の例としては、フェノール化合物、酸無水物、アミン化合物(特に非環状アミン化合物)、含窒素複素環化合物(特にイミダゾール化合物)、リン化合物及び有機金属化合物等が挙げられる。ある態様においては、これらの中でも塩基性のものが用いられる。
【0031】
上記フェノール化合物の例としては、フェノール樹脂、特に、フェノール類またはナフトール類(例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、アルキルフェノール、ビスフェノール、テルペンフェノールなど)とホルムアルデヒドを縮合させて得られるノボラック樹脂が好ましく用いられる。ノボラック樹脂の例としては、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、α-ナフトールノボラック樹脂、β-ナフトールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、キシリレン変性ノボラック樹脂、デカリン変性ノボラック樹脂等が挙げられる。他のフェノール樹脂の例としては、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン及びポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。
【0032】
上記酸無水物の例としては、無水フタル酸;ヘキサヒドロ無水フタル酸;メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などのアルキルヘキサヒドロ無水フタル酸;テトラヒドロ無水フタル酸;トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、3-メチルテトラヒドロ無水フタル酸などのアルキルテトラヒドロ無水フタル酸;無水ハイミック酸;無水コハク酸;無水トリメリット酸;無水ピロメリット酸等を挙げることができる。これらのうち、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が好ましい。
【0033】
上記(非環状)アミン化合物の例としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラメチルジアミノジフェニルメタン、テトラエチルジアミノジフェニルメタン、ジエチルジメチルジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノトルエン、ジアミノジブチルトルエン、ジアミノジプロピルトルエン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジトリルスルホン、ジエチルジアミノトルエン、ビス(4-アミノ-3-エチルフェニル)メタン、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート及び4,4-ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。アミン化合物はアミンアダクトであってもよい。
【0034】
含窒素複素環化合物の例としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-〔2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、DBU-フェノール塩、DBU-オクチル酸塩、DBU-p-トルエンスルホン酸塩、DBU-ギ酸塩、DBU-オルソフタル酸塩、DBU-フェノールノボラック樹脂塩、DBU系テトラフェニルボレート塩、ジアザビシクロノネン(DBN)、DBN-フェノールノボラック樹脂塩、ジアザビシクロオクタン、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピラジン、モルホリン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジンなどが挙げられる。含窒素複素環化合物は、エポキシ樹脂若しくはイソシアネート化合物とのアダクトを形成しているもの、又はマイクロカプセル化されたものを使用することができる。
【0035】
上記リン化合物としては、トリブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン化合物、トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン化合物が挙げられる。
【0036】
上記有機金属化合物としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナトコバルト(II)及びトリスアセチルアセトナトコバルト(III)等が挙げられる。
【0037】
本発明においては、硬化剤が、フェノール化合物、酸無水物、非環状アミン化合物及び含窒素複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、含窒素複素環化合物を含むことがより好ましい。含窒素複素環化合物は、潜在化されていてもよく、マイクロカプセル型の潜在化硬化剤を用いることもできる。
含窒素複素環化合物は、イミダゾール化合物であることが特に好ましい。イミダゾール化合物の例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1-イソブチル2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等の2-置換イミダゾール化合物;1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト等のトリメリット酸塩;2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン等のトリアジン化合物;2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物及び2-フェニル-4-メチル-5-ジヒドロキシメチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0038】
上記マイクロカプセル型硬化剤としては、例えば、アミン化合物(含窒素複素環化合物を含む)の粉末が、液状エポキシ樹脂中に分散された分散液を使用することができる。このアミン化合物は、例えば脂肪族第一アミン、脂環式第一アミン、芳香族第一アミン、脂肪族第二アミン、脂環式第二アミン、芳香族第二アミン、イミダゾール化合物及びイミダゾリン化合物から選択すればよい。このアミン化合物は、カルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、エポキシド等との反応生成物の形態で用いてもよい。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。例えば、上記アミン化合物を、そのカルボン酸、スルホン酸、イソシアネート、又はエポキシドとの反応生成物を組み合わせて使用することができる。上記アミン化合物の粉末の体積平均粒径は、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、上記アミン化合物の粉末は、融点又は軟化点が60℃以上であることが、25℃での増粘を抑える観点から好ましい。
【0039】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において、硬化剤は、イミダゾール化合物であることが好ましく、イミダゾール化合物とフェノール化合物を併用することがより好ましい。イミダゾール化合物とフェノール化合物を併用することにより、保存安定性を向上しつつ硬化性を高めることができる。
【0040】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、硬化剤の含有量は、(A)エポキシ樹脂に対して1~20質量%であることが好ましく、2~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることが特に好ましい。この範囲にすることにより、TSV用モールドアンダーフィル組成物の硬化時間が長くなりすぎず、TSVなどの技法によって形成される、高密度の配線を含む電子部品の生産性が向上し、半導体チップが搭載されたウェハーに塗布されたTSV用モールドアンダーフィル組成物が硬化した後の反りの発生が抑制され、かつTSV用モールドアンダーフィル組成物の保存安定性が向上する。
【0041】
(C)フィラー
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、フィラーを含有する。
本発明に用いられるフィラーの例としては、シリカ(溶融シリカ、結晶性シリカ等)、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素(BN)、ガラスビーズ等からなるフィラーが挙げられるが、これらに限定されない。ただし本発明において、カーボンブラックはフィラーではない。本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、フィラーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
またフィラーは、表面処理剤、例えばシランカップリング剤(フェニル基、ビニル基、メタクリロイル基等の置換基を有していてもよい)で表面処理されていてもよい。表面処理されたフィラーを用いることで、TSV用モールドアンダーフィル組成物の粘度が低下し、注入性を向上することができる。
【0042】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物が与える硬化物の熱線膨張係数を低減させるという観点から、フィラーとしてシリカ粉末を用いることが好ましく、溶融シリカ粉末を用いることがより好ましい。溶融シリカ粉末としては、球状溶融シリカ粉末、破砕溶融シリカ粉末等が挙げられるが、TSV用モールドアンダーフィル組成物の流動性の観点から、球状溶融シリカ粉末(特に、真球度の高い粒子からなるもの)をフィラーとして用いることがより好ましい。
【0043】
本発明において用いるフィラーは、平均粒径0.1μm~1.0μm、好ましくは0.1μm~0.6μm、より好ましくは0.1μm~0.3μmのフィラーを含む。フィラーが平均粒径0.1μm~1.0μmのフィラーを含まないと、モールドアンダーフィル組成物が不適切な粘度及び/又は注入性を示す。なお、モールドアンダーフィル組成物は、回転粘度計を用いて測定される、回転数20rpmで測定された25℃における粘度は20~400Pa・sが好ましく、40~300Pa・sがより好ましく、60~200Pa・sが特に好ましい。粘度がこの範囲であることにより、TSV用モールドアンダーフィル組成物の注入性が向上し、かつ圧縮成形時の金型からのTSV用モールドアンダーフィル組成物の流出を抑制することができる。また、本願における「注入性」とは、圧縮成形時におけるシリコンチップ-シリコンウェハー間へのTSV用モールドアンダーフィル組成物の充填の容易さの程度を示す。
フィラーの平均粒径は、体積粒度分布の累計体積50%における粒径(D50)として求められる。より具体的には、母集団から任意に抽出される試料を用い、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって粒度分布を測定し、この粒度分布に基づいて平均粒径等を求めることができる。
本発明においては、注入性の観点から、フィラーの総質量を100質量部とするとき、フィラーにおける粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満であることが特に好ましい。なお、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、任意成分として、同組成物の特性に悪影響を及ぼさない範囲で、平均粒径0.1μm未満のフィラーを更に含んでも良い。
【0044】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、フィラーの含有量は、TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、65~90質量部であることが好ましく、68~88質量部であることがより好ましく、70~85質量部であることが特に好ましい。
【0045】
(D)カーボンブラック
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、カーボンブラックを含有する。電子部品内の配線が光の影響を受ける可能性を考慮すると、カーボンブラックの使用は重要である。カーボンブラックは特に限定されず、エポキシ樹脂組成物に含まれるカーボンブラックとして通常用いられるものを適宜選択して採用することができる。そのようなカーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明においては、カーボンブラックを他の黒色顔料と組み合わせて用いてもよい。他の黒色顔料としては、黒色有機顔料、混色有機顔料、黒色無機顔料等を用いることができる。黒色有機顔料の例としては、ペリレンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。混色有機顔料の例としては、赤、青、緑、紫、黄色、マゼンダ、シアン等から選ばれる少なくとも2種類以上の顔料を混合して、疑似黒色化されたものが挙げられる。黒色無機顔料の例としては、グラファイト、ならびに金属およびその酸化物(複合酸化物を含む)、硫化物、窒化物等の微粒子が挙げられる。この金属の例としては、チタン、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等が挙げられる。
また、カーボンブラックを染料などの他の着色剤と組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物において、カーボンブラックの含有量は、前記(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部とするとき、0.1質量部以上、1.5質量部以下である。カーボンブラックの含有量は、好ましくは0.1質量部以上、1.3質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上、1.1質量部以下である。また、カーボンブラックの含有量は、TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、0.01質量部以上、0.60質量部以下が好ましく、0.01質量部以上、0.45質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上、0.30質量部以下であることが更に好ましい。
カーボンブラックの含有量が上記の範囲に満たないと、遮光が不十分となり、電子部品内の配線が光の影響を受ける恐れがある。カーボンブラックの含有量が上記の範囲を超えていると、TSV技術を用いて積層された複数のチップを、TSV用モールドアンダーフィル組成物を用いてパッケージ化して得られる電子部品が、バイアスHAST試験において短絡を起こしやすくなる。即ち、そのような電子部品の信頼性が低下する。TSV用モールドアンダーフィル組成物におけるカーボンブラックの含有量が、TSV技術を用いて製造された電子部品の信頼性に影響を及ぼすことは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0048】
また、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物においては、塩化物イオン(Cl)の含有量が、前記TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量に対して0.1ppm以上、11.0ppm未満である。この含有量は、好ましくは0.1ppm以上、10.8ppm未満であり、より好ましくは0.1ppm以上、10.0ppm未満、更に好ましくは0.1ppm以上~7.0ppm未満である。塩化物イオンの含有量が11.0ppm以上であると、TSV技術を用いて積層された複数のチップを、TSV用モールドアンダーフィル組成物を用いてパッケージ化して得られる電子部品が、バイアスHAST試験において短絡を起こしやすくなる。即ち、そのような電子部品の信頼性が低下する。一方、商業上の入手可能性の観点からは、塩化物イオンの含有量は0.1ppm以上であることが好ましい。
【0049】
先に述べたように、積層された複数のチップを含む電子部品の製造においては、従来、各チップを積層する毎に、ウェハーとチップの間、又はチップ同士の間の封止を行った後、オーバーモールディングを行う、という工程が用いられていた。このような工程では、オーバーモールディングに用いる樹脂組成物に比して塩化物イオンの含有量が低い樹脂組成物を、封止に用いていた。
【0050】
これに対し、TSV用モールドアンダーフィル組成物を用い、封止とオーバーモールディングを一工程で行う場合、封止とオーバーモールディングに同じ樹脂組成物を使用せざるを得ない。従来の封止用の樹脂組成物は、耐湿性および耐イオン溶出性等の理由で、TSV用モールドアンダーフィル組成物としては不適切である。一方、従来のオーバーモールディング用の樹脂組成物をTSV用モールドアンダーフィル組成物として用い、積層された複数のチップを含む電子部品を製造した場合、得られる電子部品が、バイアスHAST試験において短絡を起こしやすくなる。即ち、そのような電子部品は低い信頼性を示す。
【0051】
かかる状況下、本発明者らは、種々検討の結果、TSV用モールドアンダーフィル組成物において、上記カーボンブラックの含有量に加え、塩化物イオンの含有量が上記の範囲内であるとき、TSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品が、バイアスHAST試験において長時間にわたり短絡を起こさないこと、及び上記のような低い信頼性が、従来のTSV用モールドアンダーフィル組成物における高すぎる塩化物イオン含有量に起因することを見出した。このことは、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0052】
塩化物イオンの含有量は、試料を高熱・高圧下(例えば、121℃、2気圧下で20時間)に純水で抽出し、得られた抽出物をイオンクロマト法にて分析することにより測定することができる。ただし、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物について塩化物イオンの含有量を測定することが困難な場合には、この含有量が、このTSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させて得られる硬化物について、上記方法で測定された塩化物イオンの含有量に等しいと見なす。
【0053】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、所望であれば、必須成分である上記成分(A)~(D)に加え、任意成分、例えば以下に述べるものを必要に応じて含有してもよい。
【0054】
(E)シリコーン系添加剤
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、所望であれば、シリコーン系添加剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、シリコーン系添加剤を更に含む。シリコーン系添加剤が含まれることは、TSV用モールドアンダーフィル組成物の流動性向上の観点から好ましい。シリコーン系添加剤は、ジアルキルポリシロキサン(Siに結合するアルキル基としては、メチル、エチル等が挙げられる)、特にジメチルポリシロキサンであることが好ましい。またシリコーン系添加剤は、変性ジアルキルポリシロキサン、例えばエポキシ変性ジメチルポリシロキサンであってもよい。シリコーン系添加剤の具体的な例としては、KF69(ジメチルシリコーンオイル、信越シリコーン製)、SF8421(エポキシ変性シリコーンオイル、東レダウシリコーン製)等が挙げられる。シリコーン系添加剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0055】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物がシリコーン系添加剤を含む場合、シリコーン系添加剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.1~1.0質量部であることが好ましく、0.25~1質量部であることがより好ましい。
【0056】
(F)カップリング剤
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、所望であれば、カップリング剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、カップリング剤を更に含む。カップリング剤、特にシランカップリング剤が含まれることは、接着強度向上の観点から好ましい。カップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体的な例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物がカップリング剤を含む場合、カップリング剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0058】
(G)マイグレーション抑制剤
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、所望であれば、マイグレーション抑制剤を含んでいてもよい。一実施形態において、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、マイグレーション抑制剤を更に含む。マイグレーションとは、配線パターンの金属が、電気化学反応によって溶出し、抵抗値低下が生じる現象である。マイグレーション抑制剤が含まれることは、電子部品における信頼性向上の観点から好ましい。マイグレーション抑制剤の具体的な例としては、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチン等のキサンチン類;5,7,8-トリメチルトコール(α-トコフェロール)、5,8-ジメチルトコール(β-トコフェロール)、7,8-ジメチルトコール(γ-トコフェロール)、8-メチルトコール(δ-トコフェロール)等のトコール類;5,7,8-トリメチルトコトリエノール(α-トコトリエノール)、5,8-ジメチルトコトリエノール(β-トコトリエノール)、7,8-ジメチルトコトリエノール(γ-トコトリエノール)、8-メチルトコトリエノール(δ-トコトリエノール)等のトコトリエノール類;ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール-1-メタノール、アルキルベンゾトリアゾール類等のベンゾトリアゾール類;2,4-ジアミノ-6-ビニル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾール-(1)]-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン等のトリアジン類;上記ベンゾトリアゾール類又はトリアジン類のイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらのマイグレーション抑制剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物がマイグレーション抑制剤を含む場合、マイグレーション抑制剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0060】
(H)安定剤
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、所望であれば、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物に、その貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くするために含まれていてもよい。エポキシ樹脂を主剤とする一液型接着剤の安定剤として公知の種々の安定剤を使用することができるが、貯蔵安定性を向上させる効果の高さから、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート及び有機酸からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0061】
液状ホウ酸エステル化合物の例としては、2,2'-オキシビス(5,5'-ジメチル-1,3,2-オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。液状ホウ酸エステル化合物は常温(25℃)で液状であるため、TSV用モールドアンダーフィル組成物の粘度を低く抑えられるので好ましい。アルミキレートとしては、例えばアルミキレートAを用いることができる。有機酸としては、例えばバルビツール酸を用いることができる。
【0062】
安定剤が含まれる場合、安定剤の量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して、0.01~30質量部であることが好ましく、0.05~25質量部であることがより好ましく、0.1~20質量部であることが更に好ましい。
【0063】
(I)その他の添加剤
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、所望であれば、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えばイオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、揺変剤、粘度調整剤、難燃剤、溶剤等を含んでいてもよい。各添加剤の種類、量は常法通りである。
【0064】
なお、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物においては、それに含まれる成分(成分(A)~(D)を含む)のうち1種以上が、微粒子状の固体として存在しうる。本発明においては、注入性の観点から、TSV用モールドアンダーフィル組成物の総質量を100質量部とするとき、粒径が1μmより大きい粒子の含有量が1.0質量部未満であることが好ましい。
【0065】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、成分(A)~(D)及び所望であればその他の成分を、適切な混合機に同時に、または別々に導入して、必要であれば加熱により溶融しながら撹拌して混合し、均一な組成物とすることにより、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を得ることができる。この混合機は特に限定されないが、撹拌装置及び加熱装置を備えたライカイ機、ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0066】
このようにして得られたTSV用モールドアンダーフィル組成物は熱硬化性であり、温度100~170℃の条件下では、0.1~3時間で硬化することが好ましく、0.25~2時間で硬化することがより好ましい。
【0067】
本発明の組成物は、例えば、種々の電子部品を含む半導体装置や、電子部品を構成する部品同士を固定、接合又は保護するための、接着剤、封止材、又はその原料として用いることができる。本発明の組成物は、電子部品などを保護したり、基板に固定したりするためのアンダーフィル材、特に、ウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を一工程で行う技法で用いられるTSV用モールドアンダーフィル組成物として好適である。そのような技法による電子部品製造プロセスの例として、圧縮成形プロセスを図1に示す。積層された複数の半導体チップが載せられたウェハー(図1(A))を、金型が装着された圧縮成形装置内に配置し、このウェハーにTSV用モールドアンダーフィル組成物を塗布する(図1(B))。このウェハーを加熱下で圧縮成形に付し、次いでモールドアンダーフィル組成物を加熱により硬化させる(図1(C))。このようなプロセスにより、半導体チップが搭載されたウェハーとチップの間及び各チップ間の封止、並びに電子部品の外形の成形を、一工程で達成することができる。
【0068】
また本発明においては、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させることにより得られる硬化物も提供される。本発明においてはさらに、本発明の硬化物を含む電子部品も提供される。
【0069】
本発明においては、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物により封止された半導体素子も提供される。本発明においてはさらに、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物により封止された半導体素子を有する、半導体パッケージも提供される。
【実施例0070】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下の記載において、部、%は、断りのない限り質量部、質量%を示す。
【0071】
実施例1~6、比較例1~5
表1に示す配合に従って、3本ロールミルを用いて所定の量の各成分を混合することにより、樹脂組成物を調製した。表1において、各成分の量は質量部(単位:g)で表されている。
【0072】
(A)エポキシ樹脂
実施例及び比較例において、(A)エポキシ樹脂として用いた化合物は、以下の通りである。
(A-1):アミノフェノール型エポキシ樹脂(商品名:jER630、三菱ケミカル株式会社製)(芳香環を有するエポキシ樹脂)
(A-2):アミノフェノール型エポキシ樹脂(商品名:jER630LSD、三菱ケミカル株式会社製)(芳香環を有するエポキシ樹脂)
(A-3):脂肪族エポキシ樹脂(商品名:YX7400、三菱ケミカル株式会社製)
【0073】
(B)硬化剤
実施例及び比較例において、(B)硬化剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(B-1):液状フェノールノボラック樹脂(商品名:MEH-8005、明和化成株式会社製)
(B-2):2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン(商品名:キュアゾール2MZ-A、四国化成工業株式会社製)
【0074】
(C)フィラー
実施例及び比較例において、(C)フィラーとして用いた化合物は、以下の通りである。
(C-1):シリカフィラー(商品名:SE2200SME、株式会社アドマテックス製、平均粒子径:0.6μm、最大粒子径:3μm)
(C-2):シリカフィラー(商品名:SE1050SMO、株式会社アドマテックス製、平均粒子径:0.3μm、最大粒子径:1μm)
(C-3):シリカフィラー(商品名:アドマナノYA050C、株式会社アドマテックス製、平均粒子径:50nm 表面処理されている)
(C-4):シリカフィラー(商品名:SE5200SME、株式会社アドマテックス製、平均粒子径:1.5μm、最大粒子径:10μm)
【0075】
(D)カーボンブラック
実施例及び比較例において、(D)カーボンブラックとして用いた化合物は、以下の通りである。
(D-1):カーボンブラック(商品名:Special Black 4、オリオン エンジニアドカーボンズ株式会社製)
表1において「(D)カーボンブラック含有量」は、(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部としたときの、(D)カーボンブラックの量(質量部)を表す。
【0076】
(E)シリコーン系添加剤
実施例及び比較例において、(E)シリコーン系添加剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(E-1):エポキシ変性シリコーンオイル(商品名:SF8421、東レダウコーニングシリコーン株式会社製)
【0077】
(F)カップリング剤
実施例及び比較例において、(F)カップリング剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(F-1):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学工業株式会社製)
【0078】
(G)マイグレーション抑制剤
実施例及び比較例において、(G)マイグレーション抑制剤として用いた化合物は、以下の通りである。
(G-1):カフェイン(富士フィルム和光純薬株式会社製)
【0079】
(I)イオントラップ材
実施例及び比較例において、(I)イオントラップ材として用いた化合物は、以下の通りである。
(I-1):Zr・Bi系イオントラップ材(商品名:IXE6136、東亞合成株式会社製)
【0080】
実施例及び比較例においては、樹脂組成物及び硬化物の特性を以下のようにして測定した。
【0081】
(組成物の粘度)
Brookfield社のHB型粘度計(スピンドルSC4-14使用)を用いて、調製した各樹脂組成物について、25℃、10回転/分の条件で粘度(単位:Pa・s)を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
(組成物のゲルタイム)
120±2℃に加熱されたステンレス板上に、調製した各樹脂組成物を約5mmΦの大きさに滴下し、金属製ニードルを樹脂組成物に一定時間毎に付着させ糸引きがなくなるまでの時間(単位:秒)を、ストップウォッチにより測定した。また、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物においてゲルタイムは、30~600秒であることが好ましく、60~570秒であることがより好ましく、90~540秒であることが特に好ましい。ゲルタイムがこの範囲内であると、TSV用モールドアンダーフィル組成物のゲル化による注入性不良を抑制することができ、また圧縮成形時の成型時間が長くなりすぎず、生産性を向上することができる。
【0083】
(TSV用モールドアンダーフィル組成物の注入性の評価)
シリコンウェハー(直径300mm、厚さ760μm)上に、9個のスペーサー(直径1~2mm、厚さ20μmの円盤状)を介して、シリコンチップ(縦:18mm、横:18mm、厚さ:300μm)を載せた。スペーサーは、シリコンチップの対角線上に、等間隔に配置した(図2(B)参照)。以上の要領で、シリコンチップ4つを、シリコンウェハーの外周近傍に、等間隔に配置した(図2(A)参照)。
【0084】
このシリコンウェハーを、シリコンチップ及びスペーサー共々、金型が装着された圧縮成形装置(型番:WCM-300、アピックヤマダ株式会社製)内に配置した。次いで、金型内にTSV用モールドアンダーフィル組成物を充填し、温度120℃、圧力250kNの条件下で圧縮成形を行い、その後この温度で400秒間加熱してTSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させることにより、上記シリコンウェハー全体を被覆する、厚さ500μmのTSV用モールドアンダーフィル組成物の硬化物の層(その中に上記シリコンチップ及びスペーサーが封入されている)を形成した。
【0085】
圧縮成型装置から取り出した、硬化物の層で被覆されたシリコンウェハーを、シリコンチップの外縁から若干離れた位置で切断することにより、封止物を得た。シリコンウェハーから測定した硬化物の層の厚さが約10μmとなるまで、シリコンチップ、硬化物及びスペーサーを平面研磨により封止物から除去して、注入性評価用の試験片を得た。
得られた試験片の研磨された側を、目視、または顕微鏡下(倍率:100倍)で観察した。試験片にボイドが確認されなかった場合、又は試験片に確認されたボイドの最大幅が100μm未満であった場合、注入性を○と評価し(図3(B)参照)、試験片に確認されたボイドの最大幅が100μm以上であった場合、注入性を×と評価した(図3(A)参照)。
【0086】
(硬化物の作製)
調製した各樹脂組成物を、乾燥機を用いて150℃で1時間加熱することにより、硬化物を得た。
【0087】
(硬化物のバイアスHAST試験)
バイアスHAST試験による絶縁信頼性の評価に用いた櫛形電極の模式図を、図4に示す。この櫛形電極は、ポリイミドフィルム基材(厚さ38μm)及びその上にパターニングされた銅配線(配線幅15μm、線間ピッチ30μm、厚さ8μm、スズメッキされている(厚さ0.2±0.05μm))からなる。この櫛形電極に、厚さが150μmとなるようにTSV用モールドアンダーフィル組成物を塗布し、乾燥機を用いて150℃で1時間加熱することにより、櫛形電極上のモールドアンダーフィル組成物を硬化させて、試験片を得た。この試験片をHAST装置(型番:PC-422R8、株式会社平山製作所製)に装着して、相対湿度85%、温度130℃の条件下、3Vのバイアス電圧を印加した状態で継続的に電気抵抗値をモニターし、試験開始から短絡が起こる(電気抵抗値が10kΩ以下になる)までの時間(単位:hr)を測定した。結果を表1に示す。ただし、168時間以内に短絡が起こらなかった場合は「Pass」と示す。
【0088】
(硬化物における塩化物イオン(Cl)の含有量)
調製した樹脂組成物を150℃で60分間加熱することにより硬化させて得られた試料を、5mm角程度に粉砕した。この試料2.5gにイオン交換水25cmを加え、PCT試験槽(エスペック株式会社製EHS-221M、121℃±2℃/湿度100%/2atmの槽)中に20時間置いた後、室温まで冷却して得た抽出液を試験液とした。上記の手順で得られた試験液の塩化物イオン濃度を、イオンクロマトグラフ(株式会社島津製作所製CLASS-VP、カラムIC-A3使用)を用いて測定した。塩化物イオン含有量の評価結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より明らかなように、(i)(A)エポキシ樹脂の質量を100質量部としたときの、(D)カーボンブラックの含有量が0.1質量部以上、1.5質量部以下であり、かつ(ii)塩化物イオンの含有量が、モールドアンダーフィル組成物の総質量に対して0.1ppm以上、11.0ppm未満である実施例1~6のいずれにおいても、上記の条件下で行ったバイアスHAST試験において、試験開始から168時間以内に短絡が起こらなかった。また、これらの実施例ではいずれも、モールドアンダーフィル組成物が良好な注入性を示した。
これに対し、上記要件(i)及び(ii)のいずれか又は両方を満足しない比較例1~3ではいずれも、バイアスHAST試験において、試験開始から168時間以内に短絡が起こった。
また、(C)フィラーが平均粒径0.1μm~1.0μmのフィラーを含まない比較例4では、モールドアンダーフィル組成物の注入性が劣っていた。比較例5でもモールドアンダーフィル組成物の注入性が劣っていたが、これは(I)イオントラップ材に粒径が1μmより大きい粒子が多く含まれるためと考えられる。なお比較例5では、カ―ボンブラックの含有量が過剰であるにもかかわらず、バイアスHAST試験において168時間以内に短絡が起こらなかった。これは、塩化物イオンが(I)イオントラップ材に採捕されたためと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物は、良好な注入性及び適切な封止性を示す。また、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を硬化させて得られる硬化物を含む電子部品は、バイアスHAST試験において長時間にわたり短絡を起こさない。したがって、本発明のTSV用モールドアンダーフィル組成物を用いると、TSVなどの技法によって形成される高密度の配線を含む電子部品を効率的に製造することができる上、そのような電子部品に十分な信頼性を付与することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 シリコンウェハー
11 シリコンチップ
12 バンプ
13 TSV用モールドアンダーフィル組成物
14 金型
20 シリコンウェハー(直径300mm)
21 シリコンチップ
22 スペーサー(厚さ20μm)
23 TSV用モールドアンダーフィル組成物の硬化物
30 TSV用モールドアンダーフィル組成物の硬化物
31 スペーサー
32 ボイド
図1
図2
図3
図4