(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109417
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】複合紡績糸、繊維構造物及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20230801BHJP
D06M 14/24 20060101ALI20230801BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20230801BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20230801BHJP
D03D 15/208 20210101ALI20230801BHJP
D03D 15/233 20210101ALI20230801BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20230801BHJP
【FI】
D02G3/36
D06M14/24
D04B1/14
D04B21/00 B
D03D15/208
D03D15/233
D03D15/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010913
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】山内 一平
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA03
4L002AB01
4L002AB04
4L002AC00
4L002BA00
4L002CA00
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4L033BA19
4L033CA18
4L036MA09
4L036MA10
4L036MA35
4L036PA31
4L036UA25
4L048AA07
4L048AA08
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4L048AA11
4L048AA34
4L048AA54
4L048AB01
4L048AB05
4L048AB11
4L048AC15
4L048CA07
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】吸湿発熱性を高く維持できる複合紡績糸、繊維構造物及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸であって、獣毛繊維はセルロース系繊維を含む繊維で被覆されており、前記紡績糸を100質量%としたとき、ナトリウムの割合が0.5質量%以上であり、吸湿発熱性を有する。本発明の繊維構造物は本発明の複合紡績糸を含む。複合紡績糸または繊維構造物は、精練・漂白、染色及び中和ソーピング工程の後に、ナトリウム置換処理を行い、ナトリウムの割合が0.5質量%以上とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸であって、
前記獣毛繊維は、前記セルロース系繊維を含む繊維で被覆されており、
前記紡績糸を100質量%としたとき、ナトリウムの割合が0.5質量%以上存在し、吸湿発熱性を有する複合紡績糸。
【請求項2】
前記獣毛繊維は、繊維表面に活性基を付与及び/又はラジカルを発生させ、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を前記繊維の表面に化学結合させた請求項1に記載の複合紡績糸。
【請求項3】
前記獣毛繊維は、さらにカルボキシル基またはスルホン基にナトリウムが結合している請求項2に記載の複合紡績糸。
【請求項4】
前記獣毛繊維は吸湿発熱加工されており、前記セルロース系繊維は吸湿発熱加工されていない請求項1~3に記載の複合紡績糸。
【請求項5】
前記複合紡績糸は、獣毛繊維がウールであり、前記ウールを被覆する繊維がコットンである請求項1~4のいずれか1項に記載の複合紡績糸。
【請求項6】
獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸からなる繊維構造物であって、
前記獣毛繊維は、前記セルロース系繊維を含む繊維で被覆されており、
前記紡績糸を100質量%としたとき、ナトリウムの割合が0.5質量%以上存在し、吸湿発熱性を有する繊維構造物。
【請求項7】
前記獣毛繊維は、繊維表面に活性基を付与及び/又はラジカルを発生させ、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を前記繊維の表面に化学結合させた請求項6に記載の繊維構造物。
【請求項8】
前記獣毛繊維は、さらにカルボキシル基またはスルホン基にナトリウムが結合している請求項7に記載の繊維構造物。
【請求項9】
前記獣毛繊維は吸湿発熱加工されており、前記セルロース系繊維は吸湿発熱加工されていない請求項6~8に記載の繊維構造物。
【請求項10】
前記複合紡績糸は、獣毛繊維がウールであり、前記ウールを被覆する繊維がコットンである請求項6~9のいずれか1項に記載の繊維構造物。
【請求項11】
前記繊維構造物は、編み物または織物である請求項6~10のいずれか1項に記載の繊維構造物。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載の複合紡績糸又は請求項6~10のいずれか1項に記載の繊維構造物の製造方法であって、精練・漂白、染色及び中和ソーピング工程の後に、ナトリウム置換処理をすることを特徴とする複合紡績糸又は繊維構造物の製造方法。
【請求項13】
前記ナトリウム置換処理は、酸処理、水洗、アルカリ処理、水洗、乾燥の各工程を含む請求項12に記載の複合紡績糸又は繊維構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸、繊維構造物及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸湿発熱性は、乾燥した繊維が湿気(水分)を吸収する際に発熱する性質であり、例えば昼間天日に当てた布団を室内に取り込んで、数時間経過し室温と同じ温度になっていても、人体の皮膚を当てると暖かく感ずる現象として知られている。
従来から発熱性、保温性を特徴として持つ繊維素材として獣毛が知られ、これらの特性を生かし寒冷期に着用する保温衣類に採用されている。寒冷期以外でも夏季に汗を吸収して快適な着用感を保持するような紡績糸が提案されている。特許文献1には 汗を吸着除去するとともに発熱保温性に優れ、且つ天然繊維の風合いを備えた紡績糸として、公定水分率が10~19重量%で吸湿発熱特性を有する獣毛繊維を芯成分とし、天然セルロース系繊維を鞘成分としてなる芯鞘型吸湿発熱性複合紡績糸が提案されている。特許文献2及び3には、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をセルロース系繊維にグラフト重合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-293235号公報
【特許文献2】再表2010-018792号公報
【特許文献3】特開2021-025135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の前記複合紡績糸の吸湿発熱性は十分ではなく、更に高い吸湿発熱性が求められていた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、吸湿発熱性を高く維持できる複合紡績糸、繊維構造物及びこれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸であって、前記獣毛繊維は、前記セルロース系繊維を含む繊維で被覆されており、前記紡績糸を100質量%としたとき、ナトリウムの割合が0.5質量%以上存在し、吸湿発熱性を有する複合紡績糸である。
【0007】
本発明の繊維構造物は、獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸からなる繊維構造物であって、前記複合紡績糸は、獣毛繊維が前記セルロース系繊維を含む繊維で被覆されており、前記紡績糸を100質量%としたとき、ナトリウムの割合が0.5質量%以上存在し、吸湿発熱性を有する繊維構造物である。
【0008】
本発明の複合紡績糸又は繊維構造物の製造方法は、精練・漂白、染色及び中和ソーピング工程の後に、ナトリウム置換処理をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を前記繊維の表面に化学結合させた獣毛繊維を含む複合紡績糸又は繊維構造物の最終工程でナトリウム置換処理し、ナトリウムの割合が0.5質量%以上存在していることで、吸湿発熱性を高く維持できる複合紡績糸、繊維構造物を提供できる。また、本発明は、獣毛繊維は前記セルロース系繊維を含む繊維で被覆されていることにより、獣毛繊維のチクチク感がなく、肌にやさしい吸湿発熱性生地及び吸湿発熱性衣類を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における複合紡績糸又は繊維構造物の製造方法を示す工程図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例と比較例の吸湿発熱性試験のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、獣毛繊維とセルロース系繊維を含む複合紡績糸であって、前記獣毛繊維は前記セルロース系繊維を含む繊維で被覆されている。この構造は紡績糸の前駆体のスライバー(繊維束)を製造する際、一例として、セルロース系繊維のスライバー獣毛繊維のスライバーを芯鞘構造となるように配列し、粗紡工程、精紡工程を経て芯鞘構造紡績糸とすることにより得られる。
【0012】
前記複合紡績糸にはナトリウムが存在しており、紡績糸を100質量%としたとき、ナトリウムの割合が0.5質量%以上であり、吸湿発熱性を有する。これは複合紡績糸を糸染めした場合の最終工程でナトリウム置換処理することにより得られる。本発明の繊維構造物も同様に生地染めした場合の最終工程でナトリウム置換処理することにより、ナトリウムの割合及び高い吸湿発熱性が得られる。好ましいナトリウムの割合は、0.5~2.0質量%であり、より好ましくは0.5~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.6~1.0質量%である。
【0013】
前記獣毛繊維は、繊維表面に活性基を付与及び/又はラジカルを発生させ、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を前記繊維の表面に化学結合させているのが好ましい。繊維表面に活性基を付与及び/又はラジカルを発生させ、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を前記繊維の表面に化学結合させる方法としては電子線照射によるグラフト結合がある。前記グラフト結合は、電子線を照射することにより、繊維表面にラジカルを発生させる反応、発生したラジカルに官能基(-OH、-NH2、-COOH、-SO3H等)を含むエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を接触させることで繊維の表面にグラフト結合する反応、前記官能基が他の官能基と反応して共有結合する反応等、様々な反応が関与して形成される。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物は獣毛繊維に対して1~30質量%の範囲付与されているのが好ましく、さらに好ましくは5~25質量%付与されている。前記の範囲であれば、セルロース系繊維で外側を被覆しても吸湿発熱機能を発揮できる。
【0014】
エチレン性不飽和二重結合を含む化合物は、吸湿発熱性を有する官能基をもつ化合物、例えば、1つのエチレン性不飽和二重結合と、1または2つのカルボキシル基とを含む化合物が挙げられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸から選ばれる少なくとも一つのカルボン酸、又はこれらのエステル若しくは塩であることが好ましい。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物としてアクリル酸又はメタクリル酸を使用するとカルボキシル基が結合する。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物としてスルホン基を有する化合物を使用するとスルホン基が結合する。これらの化合物を繊維表面に化学結合させると、耐洗濯性のある吸湿発熱機能を付与できる。
【0015】
前記獣毛繊維は、カルボキシル基またはスルホン基にナトリウムが結合しているのが好ましい。カルボキシル基またはスルホン基は酸の形もしくはナトリウム塩の形で存在しているが、酸またはナトリウム塩がカルシウム、マグネシウムなどでブロックされると吸湿発熱性は消失してしまうため、ナトリウムに置換されている状態が好ましい。カルボキシル基を有する化合物をグラフト結合させている場合、ナトリウム置換処理により、繊維表面のグラフト結合物のいずれかの部分をカルボン酸基(-COOH)又はそのNa塩の形で存在させることができ、吸湿発熱性を維持できる。グラフト重合によりエチレン性不飽和二重結合を含む化合物が前記繊維の表面に化学結合した獣毛繊維は、グラフト重合していない獣毛繊維よりもカルボキシル基等の官能基の数が多く、ナトリウム置換処理により、グラフト重合していない獣毛繊維よりもナトリウムの存在量が多くなる。
【0016】
獣毛繊維と、セルロース系繊維の割合は、獣毛繊維5~50質量%、セルロース系繊維50~95質量%が好ましく、より好ましくは獣毛繊維10~45質量%、セルロース系繊維55~90質量%、さらに好ましくは獣毛繊維15~40質量%、セルロース系繊維60~85質量%である。
【0017】
本発明のセルロース系繊維は、天然セルロース繊維系繊維、再生セルロース系繊維またはそれらと合成繊維との混紡が好ましい。天然セルロース繊維系繊維はコットン、麻などがある。再生セルロース系繊維は普通レーヨン、キュプラ、溶剤系レーヨンなどがある。合成繊維は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル系繊維などがある。
【0018】
複合紡績糸は、獣毛繊維は吸湿発熱加工されており、セルロース系繊維は吸湿発熱加工されていないものが好ましい。獣毛繊維を吸湿発熱加工することで、前記獣毛繊維を被覆するセルロース系繊維を吸湿発熱加工しなくとも良好な吸湿発熱性を有する複合紡績糸を得られる。
【0019】
獣毛繊維はウール、カシミヤ、モヘアなどがあるが、ウールが好ましい。また、ウールを被覆する繊維がコットンであることが好ましい。ウールを被覆する繊維がコットンであると、ウールのチクチク感がなく、コットンは肌にやさしいことから肌触りが良い衣類となる。
【0020】
本発明の繊維構造物は、本発明の複合紡績糸を含む繊維構造物である。前記繊維構造物も生地染めした場合の最終工程でナトリウム置換処理することにより、高い吸湿発熱性が得られる。繊維構造物の形態はナトリウム置換処理を容易に行うことができる。前記繊維構造物が前記複合紡績糸を含むことで獣毛繊維のチクチク感がなく、肌にやさしい吸湿発熱性の繊維構造物が得られる。
【0021】
前記繊維構造物は編み物又は織物が好ましい。編み物及び織物はインナー衣類にするのに好適である。とくに編み物は伸縮性があり、柔軟でインナー衣類に好適である。編み物は、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織、及びこれらを組み合わせた織物等いずれの織組織でもよい。編地を作製するには種々の交編方法が用いられる。交編編地は、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダブルアトラス編み、ダブルデンビー編み、及びこれらを組み合わせた編み物等いずれの編組織でもよい。織物組織としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織、またはこれらを組み合わせた組織がある。この中でも丸編みを含む緯編み生地、又は経編み生地が好ましい。
【0022】
前記生地の単位面積当たりの質量は80~300g/m2が好ましく、より好ましくは90~250g/m2であり、さらに好ましくは100~200g/m2である。前記の範囲であればインナー衣類として好適である。
【0023】
前記生地は、ポリウレタン糸及び異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸から選ばれる少なくとも一つの弾性糸を加えてもよい。例えばポリウレタン弾性糸は、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。前記コンジュゲート糸とは、異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸であり、原糸の段階からクリンプ(捲縮)を発現しているが、熱が加わることにより、さらに大きいクリンプ(捲縮)を発現する。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とのコンジュゲート糸(バイコンポーネント糸)が好ましい。このような潜在捲縮型ストレッチ糸として、例えば東レ・オペロンテックス社製、商品名”ライクラT400”、KBセーレン社製、商品名”エスパンディ”、ユニチカ社製、商品名”Z10”などがある。通常使用される弾性糸はポリウレタン糸である。
【0024】
弾性糸は、例えば緯編み生地、丸編み生地の場合、スパンデックス裸糸をループ糸の添え糸として入れることが好ましく、経編み生地の場合、スパンデックス裸糸を挿入組織、又は緯糸挿入によって入れる。いわゆるインナー衣類の場合は、通常丸編みが採用され、弾性糸特にポリウレタン弾性糸はループ糸の添え糸として用いられる。ポリウレタン弾性糸は、通常20~40decitexの糸が2.5倍程度に引き延ばされた状態で添え糸として挿入される。
【0025】
本発明の吸湿発熱性生地で縫製した衣類は、弾性糸が身体の周囲方向に配置されている。いわゆるワンウェイストレッチ生地が好ましい。身体の周囲方向とは、胴体の周囲方向、及び腕の周囲方向のことである。これにより着心地が良く、洗濯を繰り返しても型崩れしにくいインナー衣類となる。この衣類は、シャツ又はパンツが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法は、精練・漂白、染色及び中和ソーピング工程の後に、ナトリウム置換処理をする。前記ナトリウム置換処理は、酸処理、水洗、アルカリ処理、水洗、乾燥の各工程を含むことが好ましい。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態における複合紡績糸又は繊維構造物の製造方法を示す工程図である。まず、精練・漂白、染色、中和ソーピング工程及びFIX処理は通常工程である。本発明はその後に、ナトリウム置換処理をする。ナトリウム置換処理は、酸処理、水洗、アルカリ処理、水洗、乾燥の各工程を含むのが好ましい。従来はナトリウム置換処理をしていなかった。各工程の具体的条件は実施例で説明する。ナトリウム置換処理の後は通常の仕上げ工程とする。
【実施例0028】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
<吸湿性試験>
絶乾処理:105℃で2時間置く。
吸湿条件:
(1)20℃、40%RH
(2)20℃、65%RH
(3)20℃、90%RH
(4)30℃、90%RH
前記(1)~(4)の順に,各2時間ずつ槽内に試料を静置した。
1.試料を秤量瓶に入れて、乾燥機にて乾燥した。条件は105℃、2時間とした。
2.乾燥後、デシケーター内で常温(25℃)に戻した。
3.秤量瓶ごと重量を測定した。絶乾重量(W0)とする。
4.前記(1)に調整した恒温恒湿機内に静置し、2時間経過時に試料を取出し秤量瓶に入れて、その重量(W1)を測定した。
5.以下、前記(2)~(4)の順に調整した恒温恒湿機内に静置し、2時間経過時に試料を取出し秤量瓶に入れて、その重量(W2~4)を測定した。
試料形状:タテ12cm、ヨコ12cmとし、絶乾後、または各吸湿条件後の重量を測定し、下記式にて吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=[(吸湿時の重量(W1~4)-絶乾重量(W0))/絶乾重量(W0)]×100
<吸湿発熱性>
(1)試料生地(編み物生地)をタテ20cm、ヨコ20cmにカットした後、二つ折りにし(約10cm四方になる)縁の3辺をミシンで縫った。
(2)試料を2時間乾燥器で乾燥させ、デシケーター内に試料を入れ、一昼夜放置した。
(3)恒温恒湿機の温湿度を20℃、90%にセットし、30分待機した。
(4)恒温恒湿機の温湿度を20℃、40%にセットし、庫内の温湿度がセット状態になったところで、各熱電対センサーへ試料をセットし、そのまま50分待機した。
(5)50分待機後、恒温恒湿機内の温湿度を20.0℃、80%へ変更させ、1分毎の温度変化を1分毎に15分間測定する。
(6)測定15分間における基準生地の最高温度と、同じく実施例生地の最高温度との差を、最大温度差(℃)として算出した。
<元素分析>
波長分散型X線分析(WDX)装置を用いて元素分析した。
【0030】
(実施例1)
<ウールの改質>
アクリル酸32質量%水溶液にシート状に成形したワタ状のウールを含浸し、マングルで絞り率100質量%(ワタ1kgに対し1000gの水溶液が付与)となるように絞った。その後、電子線照射装置で前記ウールに対し電子線照射を行い、前記ウールを水洗、乾燥し改質ウールを得た。グラフト率は20.4%だった。
<糸の作成>
芯成分として改質したウールと鞘成分としてコットンとを、ウール:コットン=20:80(重量比)の割合で用い、次のようにして40番手(綿番手)の芯鞘型吸湿発熱性複合紡績糸を作成した。
鞘成分となるコットンを混打綿、梳綿工程を通過させ、芯成分の改質ウールは練条工程にて所定の混率になるように且つ、芯鞘構造となるようにコットンのスライバーとウールのスライバーを配列し、粗紡工程、リング精紡工程を経て芯鞘型吸湿発熱性複合紡績糸を得た。
<試料の作成>
得られた芯鞘型吸湿発熱性複合紡績糸を用い、フライス編み生地を作成した。前記生地を
図1に示すように、晒(精錬・漂白)、染色、ナトリウム置換処理、仕上げ処理を行い実施例1の生地を得た。ナトリウム置換処理はウール繊維にグラフト結合したカルボキシル基をナトリウム塩型に変換するために行った。
図1に示すナトリウム置換処理の具体的条件を説明する。
(1)酸処理工程は、クエン酸6g/L、pH5以下の水溶液を用いて、40℃で20分処理した。
(2)次の水洗工程は、常温(25℃)で5分処理した。
(3)次のアルカリ処理は、重曹(炭酸水素ナトリウム:NaHCO
3) 9g/L、キレート剤1g/L、pH7.5以上の水溶液を用いて、40℃で20分処理した。
(4)次の水洗工程は、キレート剤1g/L、pH7.5~8の水溶液を用いて、常温(25℃)で5分処理を2回した。
(5)最後に乾燥とともに仕上げ工程を行った。
【0031】
(比較例1)
未改質のウールを用い同様の工程で複合紡績糸を作成したのち、フライス編み生地を作成した。この生地は
図1に示す処理を行った。
以上の編み物生地を用いて吸湿性試験及び吸湿発熱性試験をした。その結果を表1~2及び
図2に示す。また、元素分析結果を表3に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
表1~3及び
図2から明らかとおり、実施例1の編み物生地は吸湿率が高く、吸湿発熱温度が高く、ナトリウム存在量も高かった。
【0036】
(比較例2)
次に実施例1の編み物生地を用いて、ナトリウム置換処理をしない生地を作成した。具体的には、
図1に示す精練・漂白、染色、中和ソーピング、FIX処理をした後、仕上げ工程を通過させた生地を作成した。
この生地を用いて吸湿発熱性試験をした。その結果を表4に示す。また、元素分析結果を表5に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
表4及び表5から明らかとおり、実施例1の編み物生地は吸湿発熱温度が高く、ナトリウム存在量も高かった。とくに表5のNaは、実施例1は比較例2に比べて9.3倍であり、Caは1/3.5であった。これはナトリウム置換処理の効果である。
すなわち、グラフト重合させた化合物にカルボキシル基等にアルカリ金属を結合させても、精練・漂白、染色、中和ソーピング工程等において、水に含まれるカルシウム成分により、アルカリ金属はカルシウム成分に置き換わってしまい、吸湿発熱性は低下してしまう。
以上のとおり、ナトリウム置換処理を実施すると、吸湿発熱性は高く維持できることが確認できた。
本発明の吸湿発熱性生地及びこれを用いた吸湿発熱性衣類は、シャツ、パンツなどのインナー衣類に好適である。また、肌にやさしいことからTシャツなどにも好適である。