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特開2023-109495自己潤滑性複合材、ショットピーニング用粉末、及び加熱加工用粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109495
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】自己潤滑性複合材、ショットピーニング用粉末、及び加熱加工用粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/17 20220101AFI20230801BHJP
   B22F 1/18 20220101ALI20230801BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230801BHJP
【FI】
B22F1/17
B22F1/18
B22F1/00 L
B22F1/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011041
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 初彦
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BA20
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC22
4K018BC26
4K018BD09
(57)【要約】
【課題】簡便に、自己潤滑性を有する成分を基材の表面に定着させる技術を提供する。
【解決手段】自己潤滑性複合材40は、自己潤滑性を有する第1の成分と、第1の成分を基材11に接着する第2の成分と、を含む自己潤滑性複合材であって、第1の成分及び第2の成分が金属の場合には、第2の成分の硬度は、第1の成分の硬度よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己潤滑性を有する第1の成分と、前記第1の成分を基材に接着する第2の成分と、を含む自己潤滑性複合材であって、
前記第1の成分及び前記第2の成分が金属の場合には、前記第2の成分の硬度は、前記第1の成分の硬度よりも小さい自己潤滑性複合材。
【請求項2】
前記第2の成分は、前記自己潤滑性複合材の表面に露出している請求項1に記載の自己潤滑性複合材。
【請求項3】
前記第1の成分は、亜鉛、金、銀、スズ、銅、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、フッ化炭素、六方晶窒化ホウ素、セリサイト、及び金属硫化物からなる群より選ばれた1種以上である、請求項1又は請求項2に記載の自己潤滑性複合材。
【請求項4】
前記第2の成分は、スズ、銅、亜鉛、銀、鉛、ニッケル、及び金からなる群より選ばれた1種以上である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の自己潤滑性複合材。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の自己潤滑性複合材を用いたショットピーニング用粉末。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の自己潤滑性複合材を用いた加熱加工用粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己潤滑性複合材、ショットピーニング用粉末、及び加熱加工用粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、摺動面を構成する基材上に、基材とは異なる材質の中間層を有し、その中間層の表層に固体潤滑剤からなる表面層を有する摺動部品が開示されている。この表面層は、中間層の表面に固体潤滑剤粒子を配置した後で、ローラバニシングによって中間層の表面に固体潤滑剤の粒子を埋没させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-217580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、自己潤滑性を有する成分を基材の表面に定着させる工程が煩雑であった。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、簡便に、自己潤滑性を有する成分を基材の表面に定着させる技術を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自己潤滑性複合材は、自己潤滑性を有する第1の成分と、前記第1の成分を基材に接着する第2の成分と、を含む自己潤滑性複合材であって、前記第1の成分及び前記第2の成分が金属の場合には、前記第2の成分の硬度は、前記第1の成分の硬度よりも小さい。
【0007】
上記の自己潤滑性複合材によれば、第2の成分によって、好適に第1の成分を基材に接着できる。この結果、簡便に、自己潤滑性を有する成分を基材の表面に定着できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1(Cu-Sn 7:3)を模式的に表した模式図である。
図2】実施例3(C-Sn 0.2%)を模式的に表した模式図である。
図3】ショットピーニング用粉末を用いた、摺動部材の表面加工方法を説明するための説明図である。
図4】加熱加工用粉末を用いた、摺動部材の表面加工方法を説明するための説明図である。
図5】(A)自己潤滑性複合材を用いたテクスチャの平面図である。(B)B-B線断面図である。
図6】実施例1(Cu-Sn 7:3)のSEM-EDXによる観察像である。
図7】実施例2(Zn-Sn 1:1)のSEM-EDXによる観察像である。
図8】実施例3(C-Sn 0.2%)のSEM-EDXによる観察像である。
図9】実施例4(C-Sn 2%)のSEM-EDXによる観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
前記第2の成分は、前記自己潤滑性複合材の表面に露出しているとよい。この構成によれば、表面に露出した第2の成分によって、第1の成分を基材に対して接着し易い。
【0010】
前記第1の成分は、亜鉛、金、銀、スズ、銅、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、フッ化炭素、六方晶窒化ホウ素、セリサイト、及び金属硫化物からなる群より選ばれた1種以上であるとよい。この構成によれば、第1の成分の自己潤滑性によって、摺動部材の摺動面の摩擦抵抗を低減できる。
【0011】
前記第2の成分は、スズ、銅、亜鉛、銀、鉛、ニッケル及び金からなる群より選ばれた1種以上であるとよい。この構成によれば、第2の成分によって、第1の成分を基材に対して良好に接着できる。
【0012】
ショットピーニング用粉末は、上記の自己潤滑性複合材を用いるとよい。この構成によれば、第2の成分を塑性変形させて、第1の成分を基材に対して良好に接着できる。
【0013】
加熱加工用粉末は、上記の自己潤滑性複合材を用いるとよい。この構成によれば、第2の成分を溶融させて、第1の成分を基材に対して良好に接着できる。
【0014】
以下、実施形態に係る自己潤滑性複合材、ショットピーニング用粉末、及び加熱加工用粉末を詳しく説明する。
【0015】
1.自己潤滑性複合材
自己潤滑性複合材は、自己潤滑性を有する第1の成分と、第1の成分を基材に接着する第2の成分と、を含む自己潤滑性複合材である。第1の成分及び第2の成分が金属の場合には、第2の成分の硬度は、第1の成分の硬度よりも小さい。
【0016】
自己潤滑性複合材は、摺動部材の摺動面の表面加工に好適に用いられる。表面加工の手法は特に限定されないが、ショットピーニング、レーザー加工、光加熱加工等の加熱加工、公知の溶接技術等が挙げられる。これらの手法によれば、第1の成分を摺動面に好適に定着させることができ、摺動面の摩擦抵抗を低減できる。
【0017】
自己潤滑性複合材の形状及び大きさは特に限定されない。ショットピーニング、加熱加工等に用いられる場合には、自己潤滑性複合材は、粉末であることが好ましい。自己潤滑性複合材が粉末である場合において、粒子の形状は、球状、扁平状、及び棒状のいずれであってもよい。自己潤滑性複合材の大きさは、特に限定されず、表面加工の手法に応じて適宜設定すればよい。自己潤滑性複合材の粒子が球状である場合において、粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。自己潤滑性複合材の粒子が扁平状又は棒状である場合において、最大の径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。粒子の粒径又は最大の径は、走査型電子顕微鏡観察により20個の粒子を観察して、その平均として算出できる。
【0018】
(1)第1の成分
第1の成分は、自己潤滑性を有し、摺動面の摩擦抵抗を低減する機能を有している。第1の成分は、軟質金属又は固体潤滑剤が好適である。軟質金属としては、例えば、亜鉛、金、銀、スズ、及び銅等が挙げられる。固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)等)、二硫化モリブデン、フッ化炭素、六方晶窒化ホウ素、セリサイト、及び金属硫化物等が挙げられる。
【0019】
第1の成分の含有量は、自己潤滑性複合材全体を100質量%とした場合に、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上80質量%以下がより好ましく、50質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
(2)第2の成分
第2の成分は、第1の成分を基材に接着するバインダー(結合剤)としての機能を有している。第2の成分は、自己潤滑性複合材において、第1の成分同士を結着するバインダー(結合剤)としても機能し得る。第2の成分は、金属又は樹脂が好適である。金属としては、例えば、スズ、銅、亜鉛、銀、鉛、ニッケル及び金等が挙げられる。これらの中でも、スズであることが好ましい。樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び紫外線硬化性樹脂のいずれであってもよい。樹脂としては、ポリアミドイミド、エポキシ、及びポリエチレン等が挙げられる。また、流動パラフィンも適用できる。
【0021】
第2の成分の硬度は、第1の成分の接着性を向上する観点から、第1の成分の硬度よりも小さいことが好ましい。特に、第1の成分及び第2の成分が金属の場合には、第2の成分の硬度は、第1の成分の硬度よりも小さいものとされる。例えば、第1の成分として銅を選択した場合には、第2の成分として、銅よりも硬度の小さいスズ等を選択すればよい。なお、第1の成分又は第2の成分が金属以外の場合には、第1の成分の硬度及び第2の成分の硬度は特に限定されない。また、第2の成分の硬度は、基材の硬度よりも小さいことが好ましい。各成分及び基材の硬度は、JIS Z2243-1:2018に準じて測定される、ブルネル硬さとして求めることができる。第2の成分のブルネル硬さは、例えば、10HBW以上100HBW以下が好ましく、20HBW以上80HBW以下がより好ましい。具体的には、炭素鋼やSUSなどからなる基材の硬さは一般にHBW150~300であるのに対し、銅の硬さはHBW50~150であり、スズの硬さはHBW10程度である。
【0022】
自己潤滑性複合材が加熱加工等の熱処理による加工に用いられる場合には、第2の成分の溶融温度は、第1の成分の溶融温度よりも低いことが好ましい。第2の成分の溶融温度は、例えば、150℃以上1000℃以下が好ましく、180℃以上600℃以下がより好ましい。
【0023】
第2の成分の含有量は、特に限定されないが、第1の成分と不可避不純物の合計(質量%)の残部であってもよい。不可避不純物の含有率は1質量%以下とすることができる。
【0024】
(3)第2の成分の分布
第2の成分は、自己潤滑性複合材の表面に露出していることが好ましい。図1の自己潤滑性複合材40は後述する実施例1(Cu-Sn 7:3)を模式的に表した模式図である。第1の成分(銅)に符号41を付し、第2の成分(スズ)に符号42を付している。図2の自己潤滑性複合材140は後述する実施例3(C-Sn 0.2%)を模式的に表した模式図である。第1の成分(黒鉛)に符号141を付し、第2の成分(スズ)に符号142を付している。第2の成分は、図1に示されるように、自己潤滑性複合材において、不均一に分布していることが好ましい。例えば、自己潤滑性複合材の表面は、局所的に第2の成分の濃度が高い領域と第2の成分の濃度が低い領域を有しているとよい。また、第2の成分は、自己潤滑性複合材の表面に偏在する(付着する)態様で分布していてもよい。
【0025】
自己潤滑性複合材において、第2の成分の分布をコントールする手法は特に限定されない。例えば、第2の成分と第1の成分の硬度の差を利用して、メカニカルミリング処理等によって第2の成分を第1の成分よりも微細に粉砕して、第1の成分の表面に第2の成分を付着させてもよい。それ以外にも、例えば、第2の成分と第1の成分の配合割合を調整したり、第2の成分と第1の成分の材料の混合条件を調整したりして、第2の成分の分布をコントールしてもよい。
【0026】
(4)基材(摺動部材の基材)
基材の材質は特に限定されない。基材の材質は、金属が好適である。基材の材質としては、鉄系金属、銅系金属、チタン系金属、ステンレス系金属、亜鉛系金属、アルミニウム系金属、マグネシウム系金属、ニッケル系金属等が挙げられる。金属は、純金属であってもよく、または、二種以上の金属成分を含む合金であってもよい。これらの中でも、汎用性の観点から、炭素鋼(S45C)及び鋳鉄(FC250)等の鉄系金属であることが好ましい。また、人工関節などの生体適合摺動部材として用いられる場合には、耐食性、生体適合性の観点から、チタン系金属を用いてもよい。基材の形状及び大きさは、摺動部材の用途に応じて適宜選択される。
【0027】
(5)自己潤滑性複合材の製造方法
自己潤滑性複合材は、第1の成分の材料と、第2の成分の材料を混合し、第1の成分と第2の成分を複合化して製造できる。第1の成分と第2の成分を複合化する手法は特に限定されない。第2の成分が金属である場合には、第1の成分の材料と第2の成分の材料を混合し、遊星ミル等を用いたメカニカルミリング処理により複合化すればよい。第2の成分が熱可塑性樹脂である場合には、溶融した第2の成分に第1の成分を添加して、射出成形等により自己潤滑性複合材を成形すればよい。第2の成分が硬化性樹脂である場合には、未硬化の第2の成分に第1の成分を配合したものを自己潤滑性複合材とすればよい。
【0028】
2.自己潤滑性複合材の用途
(1)ショットピーニング用粉末50
自己潤滑性複合材は、ショットピーニング用粉末50(投射粒子)として好適である。ショットピーニングは、投射粒子を基材11の表面に高速で吹き付ける表面改質法である。
【0029】
ショットピーニング用粉末50は、上記の第1の成分と、上記の第2の成分を適宜組み合わせて用いることができる。ショットピーニング用粉末50は、第2の成分の硬度は、第1の成分の硬度及び基材11の硬度よりも小さいことがより好ましい。
【0030】
ショットピーニング用粉末50は、図3に示すように、摺動部材110の表面加工に用いることができる。具体的には、摺動部材110の表面加工方法は、ショットピーニング法によって、基材11の表面にショットピーニング用粉末50を投射し、第1の成分が基材11の表面に接着した接着部122を形成する。基材11の表面における接着部122以外の領域が非接着部121である。なお、摺動部材110の表面加工方法は、基材11の表面にショットピーニング用粉末50を投射した後に、第2の成分が溶融する温度で熱処理を更に行うとよい。
【0031】
自己潤滑性複合材を用いたショットピーニング用粉末50によれば、衝撃によって第2の成分を塑性変形させることができ、自己潤滑性を有する第1の成分を基材11の表面に良好に接着できる。
【0032】
(2)加熱加工用粉末
自己潤滑性複合材は、レーザー加工、光加熱加工等の加熱加工用粉末60として好適である。レーザー加工及び光加熱加工は、光を集束して得られる高エネルギー密度を利用し、材料の溶融等を行う加工法である。
【0033】
加熱加工用粉末60は、上記の第1の成分と、上記の第2の成分を適宜組み合わせて用いることができる。加熱加工用粉末60は、第2の成分の溶融温度は、第1の成分の溶融温度及び基材11の溶融温度よりも低いことがより好ましい。
【0034】
加熱加工用粉末60は、図4に示すように、摺動部材210の表面加工方法に用いることができる。具体的には、摺動部材210の表面加工方法は、基材11の表面に加熱加工用粉末60を配置する工程と、レーザー加工又は光加熱加工による加熱によって、基材11が溶融しない条件で基材11の表面を局所的に加熱して、加熱加工用粉末60の第2の成分を溶融させる工程と、を有している。第2の成分を溶融させる工程において、第1の成分が基材11の表面に接着した接着部222を形成する。基材11の表面における接着部222以外の領域が非接着部221である。基材11が溶融しない条件とは、例えば、レーザー照射面の最高到達温度が基材11の溶融温度を超えないように、レーザー、光加熱ビームのパルス幅、及び基材11の表面におけるパルスエネルギ密度を適宜設定した条件である。
【0035】
自己潤滑性複合材を用いた加熱加工用粉末60によれば、レーザー加工や光加熱加工等によって第2の成分を溶融させて、自己潤滑性を有する第1の成分を基材11の表面に良好に接着できる。
【0036】
3.摺動部材10
自己潤滑性複合材を用いて表面加工が施される摺動部材10は特に限定されない。摺動部材10は、図示しない相手材の摺動面に対して摺動する摺動面10Aを有している。摺動部材10の摺動面10Aと相手材の摺動面との間には、潤滑油が存在していてもよい。
【0037】
摺動部材10は、図5に示すように、自己潤滑性複合材によって、テクスチャ20が形成されてもよい。テクスチャ20は、自己潤滑性を有する第1の成分が接着された接着部22と、接着部22を囲んで設けられた非接着部21と、を有している。接着部22は、摺動面10Aにおいてドット状に複数設けられている。図5の接着部22における破線の各粒子は、第1の成分を模式的に表している。接着部22は、受圧面部を構成する。非接着部21は、連続した形状をなしている。相手材の摺動面との間に潤滑油が存在する場合には、非接着部21は油溜まり部を構成する。
【0038】
4.本実施形態の作用及び効果
本実施形態の自己潤滑性複合材によれば、第2の成分によって、好適に第1の成分を基材に接着できる。この結果、簡便に、自己潤滑性を有する成分を基材の表面に定着させることができる。
【0039】
本願発明者は、自己潤滑性材料を摺動面に定着させることで摩擦抵抗を大幅に低減できることを確認し、本実施形態の自己潤滑性複合材を開発するに至った。特に、自己潤滑性材料を摺動面に薄く斑状に設けて、摺動面にテクスチャを施すことが摩擦抵抗を低減する上で有効であった。本実施形態の自己潤滑性複合材は適用する成膜技術に応じて、種々の形態で用いることができ、汎用性の高い技術である。本実施形態の自己潤滑性複合材を用いた成膜技術は、大量生産のみならず複雑形状の小ロット部品にも効率的に適用可能である。本実施形態の自己潤滑性複合材は、多様な摺動部材の摺動面に適用可能であり、その波及効果が非常に高い。
【0040】
<他の実施形態>
本開示は実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0041】
(1)自己潤滑性複合材が溶接等のロウ材として用いられる場合には、自己潤滑性複合材は線はんだ、ソルダペースト、および成形はんだ等の形態であってもよい。
(2)自己潤滑性複合材は、摺動部材の摺動面に略均一に積層されて、皮膜を形成してもよい。特に、ショットピーニング用粉末によって接着部を形成する場合において、接着部は、摺動部材の摺動面の略全域に、略均一な厚さで形成されていることが好ましい。
(3)自己潤滑性複合材によって形成されるテクスチャは、非接着部が摺動面においてドット状に複数設けられていてもよい。すなわち、接着部は、連続した形状をなしていてもよい。それ以外にもテクスチャのパターンは適宜設計可能である。
【実施例0042】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
1.実施例1~4の自己潤滑性複合材の作製
(1)実施例1(Cu-Sn 7:3)
第1の成分の材料として、平均粒径30μmの銅粉末を用いた。第2の成分の材料として、平均粒径10μmのスズ粉末を用いた。銅粉末とスズ粉末を、銅:スズの質量比が7:3になるように混合した。この混合粉末を、遊星ボールミルを用いて、乾式で回転数600rpm、1時間の条件で粉砕した後、湿式で回転数60rpm、4時間の条件で粉砕して、実施例1の自己潤滑性複合材を得た。
【0044】
(2)実施例2(Zn-Sn 1:1)
第1の成分の材料として、平均粒径50μmの亜鉛粉末を用いた。第2の成分の材料として、平均粒径10μmのスズ粉末を用いた。亜鉛粉末とスズ粉末を、亜鉛:スズの質量比が1:1になるように混合した。得られた混合物に対して、実施例1と同様の条件でメカニカルミリングを行って、実施例2の自己潤滑性複合材を得た。
【0045】
(3)実施例3(C-Sn 0.2%)
第1の成分の材料として、平均粒径5μmの黒鉛粉末を用いた。第2の成分の材料として、平均粒径10μmのスズ粉末を用いた。黒鉛粉末とスズ粉末を、黒鉛の含有量が自己潤滑性複合材全体に対して0.2質量%になるように混合した。得られた混合物に対して、実施例1と同様の条件でメカニカルミリングを行って、実施例2の自己潤滑性複合材を得た。
【0046】
(4)実施例4(C-Sn 2%)
第1の成分の材料として、平均粒径5μmの黒鉛粉末を用いた。第2の成分の材料として、平均粒径10μmのスズ粉末を用いた。黒鉛粉末とスズ粉末を、黒鉛の含有量が自己潤滑性複合材全体に対して2質量%になるように混合した。得られた混合物に対して、実施例1と同様の条件でメカニカルミリングを行って、実施例2の自己潤滑性複合材を得た。
【0047】
2.SEM-EDX分析
実施例1~4の自己潤滑性複合材について、SEM-EDXによる分析を行った。その結果を図6図9に示す。各図の左はSEM像であり、中央は第2の成分(スズ)の分布を示す像であり、右は第1の成分(銅、亜鉛、黒鉛)の分布を示す像である。各図の左、中央、右の像は、同じ視野の像である。中央の像では、第2の成分が少ない部分は比較的暗く(黒く)、第2の成分が多い部分は比較的明るく(白く)なっている。同様に、右の像では、第1の成分が少ない部分は比較的暗く(黒く)、第2の成分が多い部分は比較的明るく(白く)なっている。
【0048】
実施例1(Cu-Sn 7:3)の自己潤滑性複合材は、略板状の粒子からなる粉末であった。自己潤滑性複合材の粒子の最大径は約100μmであった。図6の中央の像と右の像を比較すると、スズの配合割合が銅の配合割合よりも少ないにも関わらず、自己潤滑性複合材の表面にスズが露出して分布することが確認された。また、図6の中央の像より、自己潤滑性複合材の表面において、局所的にスズの濃度が高い領域とスズの濃度が低い領域が存在することが確認された。
【0049】
実施例2(Zn-Sn 1:1)の自己潤滑性複合材は、略球状の粒子からなる粉末であった。自己潤滑性複合材の粒子の粒径は50μm以下であった。図7の中央の像と右の像を比較すると、自己潤滑性複合材の表面にスズが露出して分布することが確認された。
【0050】
実施例3(C-Sn 0.2%)の自己潤滑性複合材は、略板状の粒子からなる粉末であった。自己潤滑性複合材の粒子の最大径は約500μmであった。図8の中央の像と右の像を比較すると、自己潤滑性複合材の表面にスズが露出して分布することが確認された。
【0051】
実施例4(C-Sn 2%)の自己潤滑性複合材は、略板状の粒子からなる粉末であった。自己潤滑性複合材の粒子の最大径は約500μmであった。図9の中央の像と右の像を比較すると、自己潤滑性複合材の表面にスズが露出して分布することが確認された。図9の右の像より、スズと黒鉛が均一に混ざりあっておらず、視野の右上に黒鉛が多く分布することが確認された。
【0052】
3.加熱加工
実施例4(C-Sn 2%)の自己潤滑性複合材を用いて、摺動部材の表面加工を行った。摺動部材の基材として、無酸素銅からなる基材を準備した。準備した基材の表面に自己潤滑性複合材を満遍なく振りかけた。自己潤滑性複合材が配置された基材の表面に、ドット状のテクスチャのパターンでレーザー加工を施した。各ドットの径は、1mmとした。レーザー加工には、COレーザー加工機(Flux Japan社製、型番:Beamo 30W)を用いた。レーザー加工の条件は、強度70%(21W)、速度5mm/s、照射回数2回とした。
【0053】
レーザー加工によって、自己潤滑性複合材のスズが溶融して、黒鉛が基材に接着している様子が確認された。このレーザー加工によって、自己潤滑性を有する第1の成分が接着された接着部と、接着部を囲んで設けられた非接着部と、を有するテクスチャが得られた。このようなテクスチャを有する摺動面は、摩擦抵抗が低いことが確認される。
【0054】
4.実施例の効果
本実施例によれば、摺動面に接着部を形成できることが確認された。接着部は自己潤滑性を有する成分を含むから、摺動面の摩擦抵抗を低減できる。
【0055】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10,110,210…摺動部材、10A…摺動面、11…基材、20…テクスチャ、21,121,221…非接着部、22,122,222…接着部、40,140…自己潤滑性複合材、50…ショットピーニング用粉末、51…接着部、52…非接着部、60…加熱加工用粉末、61…接着部、62…非接着部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9