IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

特開2023-109558熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドおよびフィラメント状成形体
<>
  • 特開-熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドおよびフィラメント状成形体 図1
  • 特開-熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドおよびフィラメント状成形体 図2
  • 特開-熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドおよびフィラメント状成形体 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109558
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドおよびフィラメント状成形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20230801BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230801BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230801BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20230801BHJP
   C08G 69/34 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y80/00
C08G69/26
C08G69/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011125
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八木 優介
【テーマコード(参考)】
4F213
4J001
【Fターム(参考)】
4F213AA29
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL27
4F213WL93
4F213WL96
4J001DA01
4J001DB04
4J001EB10
4J001EB35
4J001EB36
4J001EB37
4J001EB71
4J001EC08
4J001EC09
4J001EC10
4J001EC81
4J001EE75D
4J001EE76D
4J001EE77D
4J001FB06
4J001FC06
4J001GA12
4J001HA10
4J001JA01
4J001JA20
4J001JB06
4J001JB08
4J001JB21
4J001JB23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた耐熱性を有し、複層にする等の複雑な装置を用いることなく比較的簡単な装置で製造可能である、熱溶融積層法3Dプリンタの造形材料用のポリアミドを提供する。
【解決手段】熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドであって、
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位と、炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)からなる単位と、炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)からなる単位とを含有し、融点が240℃以上であるポリアミド。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドであって、
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位と、炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)からなる単位と、炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)からなる単位とを含有し、融点が240℃以上であるポリアミド。
【請求項2】
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)がダイマー酸である請求項1に記載のポリアミド。
【請求項3】
炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)がダイマージアミンである請求項1または2に記載のポリアミド。
【請求項4】
炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)がテレフタル酸である請求項1~3いずれかに記載のポリアミド。
【請求項5】
炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)が1,10-デカンジアミンである請求項1~4いずれかに記載のポリアミド。
【請求項6】
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位の合計の含有量が30~90質量%である請求項1~5いずれかに記載のポリアミド。
【請求項7】
結晶融解エンタルピーが20J/g以上である請求項1~6いずれかに記載のポリアミド。
【請求項8】
ヒステリシス試験における伸長回復率が50%以上である請求項1~7いずれかに記載のポリアミド。
【請求項9】
熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用成形体であって、請求項1~8いずれかに記載のポリアミドで構成され、直径が0.2~5.0mmであるフィラメント状成形体。
【請求項10】
請求項9に記載のフィラメント状成形体を造形してなる造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドおよびフィラメント状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
3DCADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物(3次元のオブジェクト)を作製する3Dプリンタは、近年、産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンタの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶解積層造形等の方法がある。
【0003】
個人向け等の低価格の3Dプリンタの多くは、熱溶解積層法を採用している。この熱溶解積層法3Dプリンタにおいては、造形材料として、ポリ乳酸やABS樹脂が用いられることが多いが、これらの樹脂は、得られる造形物の耐熱性が低かった。
【0004】
近年、造形材料として、耐熱性が高いポリアミド樹脂等のエンジニアリングプラスチックが検討されている。しかしながら、汎用樹脂として一般的に用いられるポリアミドは、結晶化速度が速すぎるため、造形物の層間接着性が低かったり、造形時に結晶化収縮による反りが大きかったりする等、造形性が悪いものであった。前記問題点を改良する造形材料として、特許文献1は、外層が結晶性ポリアミド系樹脂で、内層が前記結晶性ポリアミド系樹脂の結晶化を遅延する成分を含有する造形材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2019/235104号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の造形材料は、芯部に結晶性ポリアミド系樹脂の結晶化を遅延する成分を含有させる必要があるため耐熱性が不十分であったり、複層にする必要があるため製造装置が複雑になったりするという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、優れた耐熱性を有し、複層にする等の複雑な装置を用いることなく比較的簡単な装置で製造可能である、熱溶融積層法3Dプリンタの造形材料用のポリアミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用ポリアミドであって、
炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位と、炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)からなる単位と、炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)からなる単位とを含有し、融点が240℃以上であるポリアミド。
(2)炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)がダイマー酸である(1)に記載のポリアミド。
(3)炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)がダイマージアミンである(1)または(2)に記載のポリアミド。
(4)炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)がテレフタル酸である(1)~(3)いずれかに記載のポリアミド。
(5)炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)が1,10-デカンジアミンである(1)~(4)いずれかに記載のポリアミド。
(6)炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位の合計の含有量が30~90質量%である(1)~(5)いずれかに記載のポリアミド。
(7)結晶融解エンタルピーが20J/g以上である(1)~(6)いずれかに記載のポリアミド。
(8)ヒステリシス試験における伸長回復率が50%以上である(1)~(7)いずれかに記載のポリアミド。
(9)熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料用成形体であって、(1)~(8)いずれかに記載のポリアミドで構成され、直径が0.2~5.0mmであるフィラメント状成形体。
(10)(9)に記載のフィラメント状成形体を造形してなる造形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、複層にする等の複雑な装置を用いることなく比較的簡単な装置で製造可能である、熱溶融積層法3Dプリンタの造形材料用のポリアミドを提供することができる。
本発明の造形物は、柔軟性にも優れている。
また、本発明の造形物は、層間接着性が高く、造形時の結晶化収縮による反りが小さい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のヒステリシス曲線を示す図である。
図2】実施例5のヒステリシス曲線を示す図である。
図3】ヒステリシスロス率の算出方法を説明するためのヒステリシス曲線を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリアミドは、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位と、炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)からなる単位と、炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)からなる単位とを含有する。
【0012】
本発明のポリアミドに用いる炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)としては、カルボキシル基以外は全て炭化水素からなる脂肪族ジカルボン酸が好ましく、例えば、ヘキサデカンジカルボン酸(炭素数18)、オクタデカンジカルボン酸(炭素数20)、ダイマー酸(炭素数36)が挙げられる。中でも、柔軟性が高くなることから炭素数20以上の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、ダイマー酸がより好ましい。ダイマー酸は、不飽和結合を有するジカルボン酸であってもよいが、着色しにくいことから、水添してすべての結合が飽和結合であるジカルボン酸が好ましい。(A)は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0013】
本発明のポリアミドに用いる炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)としては、アミノ基以外は全て炭化素からなる脂肪族ジカルボン酸が好ましく、例えば、オクタデカンジアミン(炭素数18)、エイコサンジアミン(炭素数20)、ダイマージアミン(炭素数36)が挙げられる。中でも、ダイマージアミンが好ましい。ダイマージアミンを用いることにより、他のモノマーより比較的少ない樹脂組成でもポリマー全体の柔軟性を効果的に向上させることができる。通常、ダイマージアミンは、ダイマー酸をアンモニアと反応させたのち、脱水し、ニトリル化し、還元することにより製造される。ダイマージアミンは、不飽和結合を有するジアミンであってもよいが、着色しにくいことから、水添してすべての結合が飽和結合であるジアミンが好ましい。(B)は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0014】
本発明のポリアミドに用いる炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)としては、例えば、セバシン酸(炭素数10)、アゼライン酸(炭素数9)、アジピン酸(炭素数6)、テレフタル酸(炭素数8)、イソフタル酸(炭素数8)、オルトフタル酸(炭素数8)が挙げられる。中でも、耐熱性、柔軟性、ゴム弾性を向上させやすいことから、炭素数8以上の芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。(C)は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0015】
本発明のポリアミドに用いる炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)としては、例えば、1,12-ジアミン(炭素数12)、1,10-デカンジアミン(炭素数10)、1,9-ノナンジアミン(炭素数9)、1,8-オクタンジアミン(炭素数8)、1,6-ヘキサンジアミン(炭素数6)が挙げられる。中でも、耐熱性、柔軟性、ゴム弾性を向上させやすいことから、炭素数8以上のジアミンが好ましく、1,10-デカンジアミンがより好ましい。(D)は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0016】
本発明のポリアミドにおいては、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)からなる単位は、ソフトセグメントを形成し、炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)からなる単位と、炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)からなる単位は、ハードセグメントを形成するものと推定される。本発明のポリアミドにおいては、ハードセグメントがゴムのように架橋点の役割を果たし、ソフトセグメントが自由に伸縮できるため、ゴム弾性が発現する。(C)と(D)の組み合わせとしては、例えば、テレフタル酸とブタンジアミン、テレフタル酸と1,9-ノナンジアミン、テレフタル酸と1,10-デカンジアミン、テレフタル酸と1,12-ドデカンジアミンが挙げられ、中でも、テレフタル酸と1,10-デカンジアミンが好ましい。テレフタル酸と1,10-デカンジアミンを用いることにより、ハードセグメントが高結晶性のセグメントになりやすいので、ハードセグメントとソフトセグメントの相分離構造の形成が促進され、優れた柔軟性やゴム弾性を発現する。その結果、本発明のポリアミドを用いて造形した造形物は、層間接着性を低下させることなく、造形時の結晶化収縮による反りを小さくすることができる。
【0017】
本発明のポリアミドには、重合時に分解しやすいポリエーテルやポリエステルを用いないことが好ましい。ポリエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコールが挙げられ、ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリエチレンセバケートが挙げられる。ポリエーテルやポリエステルを用いた場合、重合温度が高いと、分解が生じる場合がある。
【0018】
本発明のポリアミドには、重合度調整や、製品の分解抑制や着色抑制等のため、末端封鎖剤を含有してもよい。末端封鎖剤としては、例えば、酢酸、ラウリル酸、安息香酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ステアリルアミン等のモノアミンが挙げられる。末端封鎖剤は上記のうち1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。末端封鎖剤の含有量は、特に限定されないが、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モル量に対して0~10モル%である。
【0019】
本発明のポリアミドには、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状補強材;タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイト等の充填材;酸化チタン、カーボンブラック等の顔料;酸化防止剤;帯電防止剤;難燃剤;難燃助剤が挙げられる。添加剤は、重合時に含有させてもよいし、重合後溶融混練等により含有させてもよい。
【0020】
ポリアミド中の炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)からなる単位と、炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)の合計の含有量は、30~90質量%であることが好ましく、35~90質量%であることがより好ましく、35~80質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のポリアミドの製造方法は特に限定されないが、例えば、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)と炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)と炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)と炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)とをまとめて反応させる方法(以下、「一工程法」ということがある)、または成分(C)と成分(D)とを、成分(A)および成分(B)とは別に反応させる方法(以下、「二工程法」ということがある)により得ることができる。ポリアミドは、二工程法により製造されることが好ましい。ポリアミドを二工程法により製造することにより、当該ポリアミドはより好ましい結晶融解エンタルピーを有するようになる。その結果、本発明のポリアミドを用いて造形した造形物は、層間接着性がより向上し、造形時の結晶化収縮による反りをより小さくすることができる。
【0022】
一工程法においては、所定の全成分を混合し、重合をおこなう。重合方法は特に限定されないが、例えば、得られるポリアミドの融点以下の温度に加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、当該温度を維持することにより重合する方法が挙げられる。「得られるポリアミドの融点」とは「目的とするポリアミドの融点」のことであり、例えば、後述する二工程法において説明される「ハードセグメントポリマーの融点」であってもよい。
【0023】
従って、一工程法によりポリアミドを製造するに際しては、例えば、まず、後述する二工程法において説明される製造方法によりハードセグメントポリマーを得る。次いで、得られたハードセグメントポリマーの融点を測定する。融点の測定方法は特に限定されず、例えば、示差走査型熱量計により測定することができる。その後、モノマー(またはプレポリマー)を含む混合物を、当該「融点」以下の温度(特に当該融点未満の温度)で重合反応に供することにより、ポリアミドを製造することができる。例えば、成分(A)~(D)それぞれとしてダイマー酸、ダイマージアミン、テレフタル酸および1,10-デカンジアミンを用いる場合、「目的とするポリアミド」の融点(例えば「ハードセグメントポリマーの融点」)は315℃であり、一工程法における重合温度は220~300℃(特に240~280℃)であってもよい。この場合、一工程法における重合時間は、十分な重合がおこなわれる限り特に限定されず、例えば、1~10時間(特に3~7時間)であってもよい。
【0024】
二工程法においては、成分(C)と成分(D)とを、成分(A)および成分(B)とは別に反応させて重合をおこなう。例えば、成分(C)と成分(D)とを反応させ反応生成物を得たのち、当該反応生成物を、成分(A)および成分(B)と、さらに反応させて重合する。詳しくは、成分(A)と、成分(B)と、成分(C)と成分(D)との反応生成物と、を反応させて重合する。
【0025】
このような二工程法において、成分(A)および成分(B)は、相互に反応していない状態で用いられてもよいし、または相互に反応した状態(すなわち、それらの反応生成物の形態)で用いられてもよい。例えば、本発明のポリアミドは、成分(A)と成分(B)を予め反応させたのち、得られた成分(A)と成分(B)との反応生成物と、成分(C)と成分(D)との反応生成物を反応させて重合することにより得てもよい。詳しくは、本発明のポリアミドは、成分(A)と成分(B)との反応生成物と、成分(C)と成分(D)との反応生成物と、を反応させて重合することにより得てもよい。成分(A)および成分(B)は、造形した造形物の層間接着性がより向上し、造形時の結晶化収縮による反りをより小さくすることができるため、相互に反応した状態(すなわち、それらの反応生成物の形態)で用いることが好ましい。
【0026】
二工程法により重合したポリアミドは、一工程法により重合したポリアミドとは異なり、成分(C)と(D)からなるハードセグメントおよび成分(A)と(B)からなるソフトセグメントから構成されるポリアミドとして得られる。従って、一工程法により重合したポリアミドが「ランダム型ポリアミド」であることに対して、二工程法により重合したポリアミドは、ハードセグメントおよびソフトセグメントの含有の観点から、「ブロック型ポリアミド」と称することができる。
【0027】
二工程法においては、用いる炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)と炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)のモノマー比率[(C)/(D)]を調整することにより、得られる反応生成物の連鎖長を制御することができ、その結果、得られるポリアミドの柔軟性やゴム弾性を制御することができる。柔軟性やゴム弾性がより十分に向上することから、モル比[(C)/(D)]は、45/55~60/40とすることが好ましく、45/55~55/45とすることがより好ましい。
【0028】
二工程法において、炭素数12以下の芳香族ジカルボン酸(C)と炭素数12以下の脂肪族ジアミン(D)を含有する反応生成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、成分(D)の融点以上、かつ成分(C)の融点以下の温度に加熱し、成分(C)の粉末の状態を保つように、成分(D)を添加する方法が挙げられる。例えば、成分(C)および(D)それぞれとしてテレフタル酸および1,10-デカンジアミンを用いる場合、加熱温度は100~240℃(特に140~200℃)であってもよい。成分(D)の添加は連続的におこなうことが好ましく、例えば、1~10時間(特に1~5時間)かけておこなうことが好ましい。
【0029】
成分(C)と成分(D)との反応生成物は、成分(C)と成分(D)との塩の形態を有していてもよいし、それらの縮合物(またはオリゴマーもしくはプレポリマー)の形態を有していてもよいし、またはこれらの複合形態を有していてもよい。
【0030】
成分(A)と成分(B)を予め反応させる場合、炭素数18以上の脂肪族ジカルボン酸(A)と炭素数18以上の脂肪族ジアミン(B)とを反応させる方法は特に限定されないが、例えば、80~150℃(特に100~150℃)の温度で0.5~3時間反応させる方法が挙げられる。
【0031】
成分(A)と成分(B)との反応生成物もまた、成分(C)と成分(D)との反応生成物と同様に、塩の形態を有していてもよいし、それらの縮合物(またはオリゴマーもしくはプレポリマー)の形態を有していてもよいし、またはこれらの複合形態を有していてもよい。
【0032】
二工程法において、重合方法は特に限定されないが、例えば、ハードセグメントポリマー(すなわちハードセグメントを構成する成分(C)および(D)のみから構成されるポリアミド)の融点以下の温度(好ましくは当該融点未満の温度)で重合する方法が挙げられる。詳しくは、ハードセグメントポリマー(すなわちハードセグメントを構成する成分(C)および(D)のみから構成されるポリアミド)の融点以下の温度に加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、当該温度を維持することにより重合する。このように重合することにより、ハードセグメントは溶融することなく、ソフトセグメントだけが溶融した状態で重合することができる。ハードセグメントポリマーの融点以下の温度で重合する方法は、重合温度が高くなり分解しやすい280℃以上の高融点のポリアミドの重合において、特に効果的である。
【0033】
本発明のポリアミドの製造方法においては、必要に応じて、触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。触媒の含有量は、特に限定されないが、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モル量に対して0~2モル%である。
【0034】
本発明のポリアミドの製造方法においては、必要に応じて、有機溶媒や水を加えてもよい。
【0035】
本発明のポリアミドの製造方法においては、重合は、密閉系でおこなってもよいし、常圧でおこなってもよい。密閉系でおこなう場合、モノマーの揮発や縮合水の発生等で圧力が上昇することがあるので、適宜圧力を制御することが好ましい。一方、用いるモノマーの沸点が高く、加圧しなくてもモノマーが系外に流出しない場合、常圧で重合することができる。例えば、ダイマー酸、ダイマージアミン、テレフタル酸、デカンジアミンの組み合わせの場合、常圧で重合することができる。
【0036】
本発明のポリアミドの製造方法においては、酸化劣化を防ぐため、窒素雰囲気下または真空下で重合をおこなうことが好ましい。
【0037】
重合したポリアミドは、ストランド状に押出しペレットとしてもよいし、ホットカット、アンダーウォーターカットしてペレットとしてもよい。
【0038】
本発明のポリアミドの製造方法においては、重合後、さらに高分子量化するために、固相重合をおこなってもよい。固相重合は、重合時の粘度が高粘度で操業が困難になる場合等に、特に効果的である。固相重合は、不活性ガス流通下または減圧下で、ポリアミドの融点未満の温度で30分以上加熱することによりおこなうことが好ましく、1時間以上加熱することによりおこなうことがより好ましい。
【0039】
本発明のポリアミドを加熱溶融する場合、十分に乾燥されたペレットを用いることが好ましい。ペレットは、含有する水分量が多いと、押出機のシリンダー内で発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。溶融混練に用いるペレットの水分率は、ポリアミド100質量部に対して、0.3質量部未満とすることが好ましく、0.1質量部未満とすることがより好ましい。
【0040】
本発明のポリアミドの耐熱性の指標となる融点は、240℃以上であることが必要で、270℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。
【0041】
ハードセグメントの結晶性の指標となる結晶融解エンタルピーは、20J/g以上であることが好ましく、25J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましい。ハードセグメントの結晶性が高いほど、ハードセグメントとソフトセグメントの相分離構造の形成が促進され、柔軟性が向上する。
【0042】
柔軟性の指標となる曲げ弾性率は100~2,000MPaであることが好ましく、300~2,000MPaであることがより好ましく、300~1,500MPaであることがさらに好ましい。
【0043】
柔軟性の指標となる伸長回復率は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。伸長回復率は、ポリアミドのモノマー組成にも依存するため、本発明においては、モノマー組成が同様であるブロック型ポリアミドとランダム型ポリアミドを対比して、柔軟性を評価することも有効である。モノマー組成が同一である場合、ブロック型ポリアミドの伸長回復率は、ランダム型ポリアミドの伸長回復率よりも大きい。伸長回復率の増加率、すなわち、ブロック型ポリアミドの伸長回復率をX1で表し、ランダム型ポリアミドの伸長回復率をY1で表したとき、「{(X1-Y1)/Y1}×100」で表される値(%)は、10%以上があることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
ゴム弾性の指標であるヒステリシスロス率は、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、80%以下であることがさらに好ましい。ヒステリシスロス率は、ポリアミドのモノマー組成にも依存するため、本発明においては、モノマー組成が同様であるブロック型ポリアミドとランダム型ポリアミドを対比して、ゴム弾性を評価することも有効である。モノマー組成が同一である場合、ブロック型ポリアミドのヒステリシスロス率は、ランダム型ポリアミドのヒステリシスロス率よりも大きい。ヒステリシスロス率の減少率、すなわち、ブロック型ポリアミドのヒステリシスロス率をX2で表し、ランダム型ポリアミドのヒステリシスロス率をY2で表したとき、「{(X2-Y2)/Y2}×100」で表される値(%)は、2%以上があることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、5.5%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
次に、本発明のフィラメント状成形体は、本発明のポリアミドで構成されてなるものである。ポリアミドをフィラメントの形状とすることで、熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料として好適に用いることができる。フィラメント状成形体は、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよいが、モノフィラメントが好ましい。またこれらは未延伸のものであっても延伸したものであってもよい。
【0046】
フィラメント状成形体は、直径が0.2~5.0mmであることが好ましく、1.5~3.2mmであることがより好ましく、中でも1.6~3.1mmであることがさらに好ましい。フィラメント状成形体の直径とは、フィラメント状成形体の長手方向に対して垂直に切断した断面における、最大長径と最小短径の平均である。フィラメント状成形体は、直径が0.2mm未満であると、細くなりすぎて、汎用の熱溶解積層法3Dプリンタに適さないことがある。なお、汎用の熱溶解積層法3Dプリンタに適したフィラメント状成形体の直径の上限は、5.0mm程度である。
【0047】
モノフィラメントからなるフィラメント状成形体を作製する方法としては、本発明のポリアミドを、300~340℃で溶融し、定量供給装置でノズル孔から押出し、これを20~60℃の液浴中で冷却固化後、紡糸速度1~50m/分で引き取り、ボビンに巻き取る方法等が挙げられる。なお、モノフィラメントの形状にする際、ある程度の範囲内の倍率で延伸を施してもよい。モノフィラメントの延伸は、紡糸後のモノフィラメントを一度巻き取ってからおこなってもよく、また、モノフィラメントは、紡糸後に巻き取らず、紡糸に続いて、連続的に延伸してもよい。延伸に際して、適度な加熱延伸、熱処理を施すと、より安定したフィラメントが形成され、形成されたフィラメントは、フィラメント強度が増加し、フィラメント表面の平滑性、耐屈曲性が向上する。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例のポリアミドおよびフィラメント状成形体の評価に用いた測定法は、次のとおりである。
(1)樹脂組成
得られたペレットや粉末について、高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製ECA-500NMR)を用いて、H-NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸と重水素化クロロホルムとの容量比が4/5の混合溶媒、温度:23℃)。
【0049】
(2)融点(耐熱性の指標)、結晶融解エンタルピー(ハードセグメントの結晶性の指標)
得られたペレットや粉末から数mg採り、示差走査熱量計DSC-7型(パーキンエルマー社製)用いて、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、昇温速度20℃/分で再昇温した。
再昇温時の熱ピークのトップを融点とし、吸熱ピークの熱量を結晶融解エンタルピーとした。結晶融解エンタルピーは、融解開始から終了までの温度範囲のピーク面積から求められる。
【0050】
(3)伸長回復率(柔軟性の指標)、ヒステリシスロス率(ゴム弾性率の指標)
得られたペレットや粉末を65~120℃×12~48時間の条件で十分に乾燥した後、水分率を0.01%とし、射出成形機(日精樹脂社製、NEX-110型)を用いて、シリンダー温度250~340℃、金型温度50℃の条件にて成形し、ISO準拠の一般物性測定用試験片(ダンベル片)を作製した。
得られたダンベル試験片を、INTESCO社製2020型試験機を用いて伸長回復率及びヒステリシスロス率の測定をおこなった。23℃環境下、チャック間距離55mm、引張試験速度5mm/分の条件で、11mm引張り、直ちに同じ速度で元に戻し、応力がゼロになった時の残留歪A(mm)を求めた。実施例1および5のヒステリシス曲線をそれぞれ図1および図2に示す。
伸長回復率は、残留歪Aを用いて下記式により算出した。
伸長回復率(%)=(11-A)/11×100
さらに、得られたヒステリシス曲線から、下記式により算出した。
ヒステリシスロス率(%)=面積(Oabcd)/面積(OabeO)×100
例えば、図3において、面積(Oabcd)は破線(縦破線)により示される領域の面積のことであり、面積(OabeO)は実線(横実線)により示される領域の面積のことである。図3は、ヒステリシスロス率の算出方法を説明するためのヒステリシス曲線を示す模式図である。
【0051】
(4)曲げ弾性率(柔軟性の指標)
(3)で作製したISO準拠の一般物性測定用試験片(ダンベル片)を用いて、INTESCO社製2020型試験機を用いて、曲げ弾性率を測定した。
【0052】
(5)製糸性
紡糸速度10m/分にて24時間、繊経1.75mmのモノフィラメントを採取した際の糸切れ回数を計測し、以下の3段階で評価した。
〇:糸切れが0回
△:糸切れ回数が1~3回
×:糸切れ回数が4回以上、もしくはフィラメントの引取不可
【0053】
(6)モノフィラメントの直径
得られたモノフィラメントを、20cm毎に、モノフィラメントの長手方向に対して垂直に切断し、測定サンプルを30個得た。各サンプルにおいて、断面における最大長径と最小短径を、マイクロメーターを用いて測定し、その平均を各サンプルの直径とした。全30サンプルの直径を平均して、モノフィラメントの直径を算出した。
【0054】
(7)モノフィラメントの直径のばらつき
上記(6)において算出した、全サンプルの直径の最大値(M1)と最小値(M2)を用いて、モノフィラメントの直径バラツキを算出した。
直径バラツキ=(M1-M2)/2
【0055】
(8)造形性
得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンタ(Flashforge社製CREATOR PRO)を用いて、ノズル温度250~340℃、テーブル温度50℃の条件で、ISOダンベル片を造形し、以下の3段階で評価した。
○:問題なく造形可能
△:気泡を含有し造形性やや難(実用上問題なし)
×:造形不可
【0056】
(9)3Dプリンタのノズル汚れ
(8)の評価に用いた方法で、ISOダンベル片の造形を10回繰り返しおこない、その間のノズルの汚れを観察し、以下の3段階で評価した。
○:10回造形後もノズルに汚れが付着していなかった。
△:10回造形後にノズルに少量汚れが付着していた。(実用上問題なし)
×:ノズルに付着した汚れが、造形したISOダンベル片にも付着していた。
【0057】
(10)造形物の反り
(8)と同様の方法でISOダンベル片を造形し、そのダンベル片を水平面に置いた。水平面から最も浮いている部分の浮きを測定し、
以下の3段階で評価した。
○:0.1mm未満
△:0.1mm以上0.2mm未満(実用上問題なし)
×:0.2mm以上
【0058】
(11)造形物の層間接着性
(8)と同様の方法でISOダンベル片を10本作製し、手で湾曲させ、積層した樹脂層の間の様子を目視で観察し、ダンベル片に割れや隙間が生じた本数により、以下の3段階で評価した。
○:2本以下
△:3~4本(実用上問題なし)
×:5本以上
【0059】
実施例1
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器に、ダイマー酸26.7質量部、ダイマージアミン25.3質量部、テレフタル酸23.5質量部、1,10-デカンジアミン24.4質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入した。
その後、撹拌しながら260℃まで加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、260℃で、5時間重合をおこなった。重合中、系は懸濁状態であった。
重合終了後、払い出し、これを切断し、ペレットを得た。
得られたペレットを乾燥して、水分率を0.01%とし、乾燥ペレットを得た。
乾燥ペレットを、モノフィラメント製造装置(単軸押出機(日本製鋼所社製、スクリュー径60mm、溶融押出しゾーン1200mm))を用い、紡糸温度340℃の条件で、得られるモノフィラメントの直径が1.75mmになるように吐出量を調整して、孔径5mmで1孔有する丸断面の紡糸口金から押出した。引き続き、押し出されたモノフィラメントを紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、引き取り速度30m/分で調整しながら引き取り、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0060】
実施例2~4
ダイマー酸、ダイマージアミン、テレフタル酸、1,10-デカンジアミンの投入量を表1の投入量に変更する以外は、実施例1と同様に、重合、乾燥、紡糸し、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0061】
実施例5
リボンブレンダー式の反応装置にテレフタル酸23.5質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入し、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温した1,10-デカンジアミン24.4質量部を、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、テレフタル酸:1,10-デカンジアミン=50.0:50.0であった。
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器にダイマー酸26.7質量部、ダイマージアミン25.3質量部を投入した。100℃で1時間撹拌した後に上記反応生成物を47.9質量部撹拌しながら投入した。
その後260℃まで撹拌しながら加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、260℃で、5時間重合をおこなった。重合中、系は懸濁溶液の状態であった。
重合終了後、払い出し、これを切断し、ペレットを得た。
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、ペレットを乾燥、紡糸し、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0062】
実施例6~8
反応容器に投入するモノマーを表1のように変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこない、ペレットを得た。
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、ペレットを乾燥、紡糸し、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0063】
比較例1
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器に、ダイマー酸51.3質量部、ダイマージアミン48.6質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入した。
その後、撹拌しながら、260℃まで加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、260℃で、5時間重合をおこなった。重合中、系は均一な溶融状態であった。
重合終了後、払い出し、これを切断し、ペレットを得た。
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、ペレットを乾燥、紡糸しようとしたが、紡糸性が悪く、切断し、モノフィラメントを得ることができなかった。
【0064】
比較例2
加熱機構を備えた粉末撹拌装置に、テレフタル酸49.0質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を投入した。170℃加熱下、撹拌しながら、1,10-デカンジアミン50.9質量部を3時間かけて少量ずつ加え、ナイロン塩を得た。その後、攪拌しながら前記ナイロン塩を250℃まで加熱し、縮合水を系外に除去しながら、窒素気流下、常圧、250℃で7時間重合をおこなった。重合中、系は粉末の状態であった。
重合終了後、払い出し、粉末を得た。
得られた粉末を用いて、実施例1と同様に、粉末を乾燥し、紡糸し、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0065】
比較例3
ポリアミド6(ユニチカ社製「A1030BRL」、融点225℃)ペレットを用いて、実施例1と同様に、ペレットを乾燥、紡糸し、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0066】
比較例4
加熱機構、撹拌機構を備えた反応容器に、アジピン酸25.0質量部、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.1質量部を仕込み、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下にて180℃に昇温し、アジピン酸を均一に溶融させた後、系内を撹拌しつつ、これにメタキシリレンジアミン46.5質量部を滴下した。この間、内温は連続的に245℃まで上昇させた。なお重縮合により生成する水は、分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温をさらに260℃まで昇温し、1時間反応を継続した後、ポリマーを反応缶下部のノズルからストランドとして取り出し、水冷後ペレット化し、90℃×24時間乾燥させ、非晶ポリアミドを得た。
ポリアミド6(東レ社製「アミランCM1017」、融点225℃)35質量部と、得られた非晶ポリアミド65質量部をブレンドしたのち、二軸押出機に供給し、押出機先端から吐出されたストランドを、水冷後ペレット化した。
得られたペレットを用いて、実施例1と同様に、ペレットを乾燥、紡糸し、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0067】
実施例1~8、比較例1~4で得られたポリアミドの仕込組成、(C)と(D)のモル比、重合方法、最終組成および得られたポリアミドの評価、モノフィラメントの評価、造形物の評価を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1~8のポリアミドは、優れた耐熱性を有しており、複層にする等の複雑な装置を用いることなく比較的簡単な装置でフィラメントを作製し造形することができた。
また、実施例1~8のポリアミドは、製糸性に優れ、得られたモノフィラメントは、3Dプリンタにおける造形性に優れていた。このため、これらのポリアミドは、熱溶解積層法3Dプリンタの造形材料として、好適に用いることができるものであった。
実施例1~4のポリアミドと実施例5~8のポリアミドを対比することにより、二工程法で製造した実施例5~8のポリアミドの方が、一工程法で製造した実施例1~4のポリアミドよりも、結晶融解エンタルピー、伸長回復率が大きく、ヒステリシスロス率が小さく、造形物の反りが小さく、層間接着性が高いことがわかる。
【0070】
比較例2のポリアミドは、ソフトセグメント成分である(C)と(D)を有していなかったため、結晶化速度が速く、柔軟性が大幅に劣り、製糸性、造形性に劣っていた。また、得られた造形物は、反りが大きく、層間接着性が悪かった。
比較例3のポリアミドは、ポリアミド6を用いたため、結晶化速度が速く、柔軟性が劣り、造形性に劣っていた。また、得られた造形物は、反りが大きく、層間接着性が悪かった。
比較例4のポリアミドは、結晶性ポリアミドと非晶性ポリアミドをアロイすることで結晶化速度が遅くなり、製糸性はやや良くなったが、非晶性ポリアミドをアロイしているため耐熱性が劣っていた。
図1
図2
図3