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▶ 黒崎播磨株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109590
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】マグクロれんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/047 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
C04B35/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011178
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 公一
(57)【要約】
【課題】ダイレクトボンド質マグクロれんがあるいはセミリボンド質マグクロれんがの熱間強度を向上するための製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシアクリンカーを40~78質量%、クロム鉱を22~60質量%、マグクロクリンカーを15質量%以下(0を含む)、及び酸化クロムを8質量%以下(0を含む)含有し、かつマグネシアクリンカーとクロム鉱の合量が77質量%以上である耐火原料配合物100質量%に対して、ホウ素含有物をB換算値として0.1~1質量%添加し、混練後、成形し、1700℃以上で焼成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシアクリンカーを40~78質量%、クロム鉱を22~60質量%、マグクロクリンカーを15質量%以下(0を含む)、及び酸化クロムを8質量%以下(0を含む)含有し、かつマグネシアクリンカーとクロム鉱の合量が77質量%以上である耐火原料配合物100質量%に対して、ホウ素含有物をB換算値として0.1~1質量%添加し、混練後、成形し、1700℃以上で焼成するマグクロれんがの製造方法。
【請求項2】
ホウ素含有物の添加量がB換算値として0.3~0.6質量%である、請求項1に記載のマグクロれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼産業におけるRH、DHあるいはAODなどの真空脱ガス炉の内張材として好適に使用されるマグクロれんが(マグネシアクロムれんが)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RH、DHあるいはAODなどの真空脱ガス炉には、内張材としマグクロれんが汎用されている。例えばRH真空脱ガス炉では、真空容器内を環流する溶鋼流による摩耗によりマグクロれんがが侵食される。また、RH真空脱ガス炉の操業は、溶鋼に浸漬しないときは大気中で待機する間欠操業となるため、マグクロれんがはスポーリングを受ける。このため、マグクロれんがの寿命のネックのほとんどはマグクロれんがの溶鋼摩耗あるいは間欠操業に起因するスポーリングによる損傷であり、耐溶鋼摩耗性と耐スポーリング性の改善が課題となっている。
【0003】
マグクロれんがは、れんが製造時の使用原料の組合せによって、ダイレクトボンド質マグクロれんが、リボンド質マグクロれんが、及びセミリボンド質マグクロれんがの3種類に分類できる。すなわち、ダイレクトボンド質マグクロれんがは、マグネシアクリンカーとクロム鉱を主原料とする配合物を混練、成形、焼成して得られるれんがで、耐スポーリング性に優れている。リボンド質マグクロれんがは、マグネシアクリンカーとマグクロクリンカー( マグネシアクロムクリンカー) のみ、あるいは酸化クロムを添加した配合物を混練、成形、焼成して得られるれんがで、熱間強度が高く耐溶鋼摩耗性に優れている。セミリボンド質マグクロれんがは、ダイレクトボンド質マグクロれんがとリボンド質マグクロれんがの中間的な特性を有するれんがで、マグクロクリンカーとマグネシアクリンカー及び/ 又はクロム鉱とを併用している。
通常、RH真空脱ガス炉においては操業条件に合わせて、これらのマグクロれんがが使い分けられているが、ダイレクトボンド質やセミリボンド質においては、溶鋼摩耗による損耗がネックとなっており、耐溶鋼摩耗性を改善することすなわち熱間強度の向上が求められている。
【0004】
この点、特許文献1には、マグクロクリンカーとB含有マグネシアクリンカーとを併用し、れんが中のB量を0.05~0.25重量%にすることで、高い熱間強度と耐消化性及びクリープ性とを両立したセミリボンド質マグクロれんがが開示されている。
また、特許文献2には、B含有量が0.2~1.0質量%、CaO含有量が0.8質量%以下、及びかさ密度が3.20g/cm以上であるマグネシアクリンカー20~80質量%と、クロム鉱20~60質量%との2種のみからなり、かつ耐火原料配合物中のCaO含有量が0.8質量%以下でSiO含有量が2.5質量%以下である、ダイレクトボンド質マグクロれんがが開示されている。そして特許文献2には、Bを含有するマグネシアクリンカー中のCaO量を少なくし、かつかさ密度を高くすることで、マグネシアクリンカーを使用したマグクロれんがの熱間強度が向上することも開示されている。
【0005】
これら特許文献1及び2のマグクロれんがによって、ある程度熱間強度は改善されたが、未だにマグクロれんがの寿命のネックは激しい溶鋼流のもとでのれんがの溶損であり、さらなる熱間強度の向上が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-182218号公報
【特許文献2】特許第5448144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ダイレクトボンド質マグクロれんがあるいはセミリボンド質マグクロれんがの熱間強度を向上するための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
詳細は後述するが本発明者らは、ダイレクトボンド質及びセミリボンド質のマグクロれんがにおいて、耐火原料配合物にホウ素含有物を適量添加することで、得られるマグクロれんがの熱間強度が格段に向上することを知見した。
【0009】
すなわち、本発明の一観点によれば次のマグクロれんがの製造方法が提供される。
マグネシアクリンカーを40~78質量%、クロム鉱を22~60質量%、マグクロクリンカーを15質量%以下(0を含む)、及び酸化クロムを8質量%以下(0を含む)含有し、かつマグネシアクリンカーとクロム鉱の合量が77質量%以上である耐火原料配合物100質量%に対して、ホウ素含有物をB換算値として0.1~1質量%添加し、混練後、成形し、1700℃以上で焼成するマグクロれんがの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダイレクトボンド質及びセミリボンド質のマグクロれんがの熱間強度が向上する。そのため、例えばこれらのれんがを内張材として使用した真空脱ガス炉の寿命を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述の通り本発明者らは、ダイレクトボンド質及びセミリボンド質のマグクロれんがにおいて、耐火原料配合物にホウ素含有物を適量添加することで、得られるマグクロれんがの熱間強度が格段に向上することを知見した。
その理由は、れんがの焼成中にホウ素含有物からBが生成し、そのBが周囲のマグネシアクリンカーと反応してマグネシアクリンカー表面にMgを含む液相を生成し、さらにその液相が周囲に分布するクロム鉱の構成成分(Cr等)を溶解してマグネシアクリンカー表面への固溶促進に寄与することで二次スピネルを析出させ、強固な結合組織を形成するためと考えられる。
【0012】
一方で特許文献1及び2に開示されているように、Bを含有するマグネシアクリンカーをれんがの出発原料として使用した場合、Mgを含む液相の多くはマグネシアクリンカー粒内に閉じ込められており、この液相は焼成工程におけるクロム鉱構成成分のマグネシアクリンカー表面への固溶促進には寄与しないと考えられる。
【0013】
本発明において耐火原料配合物には、真空脱ガス炉等の内張れんがとして十分な耐スラグ性を確保するためにマグネシアクリンカーを40~78質量%配合する。マグネシアクリンカーの配合量が40質量%未満では高塩基度スラグに対して耐食性が低下し、78質量%を超えると耐熱衝撃性が低下し、また2次スピネルによる耐スラグ性向上の効果が発揮されなくなる。耐火原料配合物中のマグネシアクリンカーの配合量は40~65質量%とすることが好ましい。
本発明で使用するマグネシアクリンカーとしては、電融マグネシアや焼結マグネシア等、耐火物の原料として一般的に使用されているものを使用できる。
【0014】
クロム鉱は焼成中にマグネシアクリンカーと反応して(Mg,Fe)O・(Al,Fe,Cr)組成の複合スピネルを生じさせるために22~60質量%配合する。なお、これら複合スピネルの中でもMgO・Crスピネルは融点が高く、スラグに対する耐食性も高いことから、マグクロれんがの熱間強度、耐食性の向上のためにはこのスピネルの生成が重要となる。
クロム鉱の配合量が22質量%未満では低塩基度スラグに対する耐食性が低下し、60質量%を超えると原料由来の低融点物質による熱間強度の低下や耐食性の低下が生じる。耐火原料配合物中のクロム鉱の配合量は30~60質量%とすることが好ましい。
クロム鉱は、クロマイト{(Mg,Fe)(Cr,Al)}の集合体であるクロミタイトを破砕した天然産の耐火原料であり、一般的に使用されているものを使用することができる。
【0015】
本発明において耐火原料配合物中のマグネシアクリンカーとクロム鉱の合量は、真空脱ガス炉等の内張れんがとして十分な熱間強度及び耐スポーリング性を具備するために77質量%以上とする。
【0016】
ホウ素含有物はれんがの焼成中にBとなり、耐火原料配合物にホウ素含有物を適量添加することで、上述のようにマグネシアクリンカーの表面へのクロム鉱中のCrなどの成分の固溶を促進するために焼結が進み熱間強度に優れる組織を得ることができる。
本発明においてホウ素含有物の添加量は、B換算値として、耐火原料配合物100質量%に対し0.1~1質量%とする。ホウ素含有物の添加量がB換算値として0.1質量%未満では熱間強度が不十分となり、1質量%を超えるとれんが中の他の不純物と反応して生成する低融点物質が多くなりすぎて耐食性が低下する。ホウ素含有物の添加量はB換算値として0.3~0.6質量%とすることが好ましい。
ここで、ホウ素含有物のB換算値とは、ホウ素含有物が酸化してBを生成する場合には酸化反応後の量(計算値)である。また、ホウケイ酸ガラス等のようにホウ素が酸化物(B)として含有される場合には含有されるBの量である。
【0017】
本発明においてホウ素含有物は、混練中に耐火原料配合物中に均一に分散させるために、微粉で添加することが好ましく、具体的には0.5mm未満、より好ましくは0.1mm未満の粒度のものを使用することができる。
また、ホウ素含有物としては例えばホウ酸、ホウ砂、ホウケイ酸ガラス、炭化ホウ素、及び酸化ホウ素のうち1種以上を使用することができる。
【0018】
本発明において耐火原料配合物には、酸化クロムは配合しなくてもよいが、より組織の緻密化を優先したい場合には8質量%以下で配合することもできる。酸化クロムの配合量が8質量%を超えると、焼成時のスピネル生成に起因する膨張量が増加することで緻密な焼結体が得られにくくなり、耐食性が低下する。
酸化クロムとしては、耐火物の原料として一般的に使用されているものを使用することができる。また、酸化クロムは、微粉で配合することが好ましく、例えば0.1mm未満の粒度のものを使用することができる。
【0019】
本発明において耐火原料配合物には、マグクロクリンカーは配合しなくてもよいが、耐食性を向上したい場合には15質量%以下で配合することもできる。マグクロクリンカーの配合量が15質量%を超えると耐スポーリング性が低下する。マグクロクリンカーの配合量は10質量%以下(0を含む)とすることが好ましい。
マグクロクリンカーは、マグネシアとクロム鉱等とをアーク炉で溶融して得られる合成原料であり、電融マグネシアクロムクリンカー、電融マグクロクリンカー、溶融マグクロ、電融マグクロなどとも称されており、耐火物の原料として一般的に使用されているものを使用できる。
【0020】
本発明のマグクロれんがの製造方法は、上記組成の耐火原料配合物にホウ素含有物を添加すること以外は、通常のマグクロれんがの製造方法と同じとすることができる。すなわち、耐火原料配合物に適量のバインダーを添加して混練し、加圧成形後に焼成する。焼成温度は1700~1900℃とすることができる。
【実施例0021】
表1に、本発明の実施例によるマグクロれんがの原料構成(耐火原料配合物及びホウ素含有物)と得られたマグクロれんがの評価結果を比較例と共に示している。また、表2には、使用した原料の化学成分を示している。
表1に示す各例の原料構成(耐火原料配合物及びホウ素含有物)にバインダーを添加して混練後、オイルプレスで並型形状のれんがを成形し、1750℃で焼成することでそれぞれマグクロれんがを得た。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
得られたマグクロれんがからサンプルを切り出し、見掛気孔率及び熱間曲げ強さを測定すると共に、急冷スポーリング試験及び回転侵食試験を実施し、総合評価を行った。
見掛気孔率はJISR2205に準拠し、熱間曲げ強さは、JISR2656に準拠し大気雰囲気下、1480℃で測定した。
急冷スポーリング試験では、一辺の長さが50mmの立方体のサンプルを1400℃に加熱した電気炉に入れて、15分後に取り出して空冷する操作を15回繰り返した。耐スポーリング性の評価は、15回目までにサンプルの一部が剥落したものは×(不可)とし、15回目後に目視により大きな亀裂が発生したものを△(可)、小さな亀裂が観察されたものを○(良)と評価し、○(良)と△(可)を合格とした。
回転侵食試験では、上底45×下底105×高さ60×長さ120mmの台形れんが形状の試料を用い、回転スラグ侵食試験法により、1750℃×1時間侵食を5回繰り返し、試験前後の試料中心線厚さの差異(mm)から侵食量(mm)を求めた。侵食剤としてCaO/SiOの比であるC/S=1.5のスラグを使用した。表1において耐食性は比較例1の侵食量(mm)を100として指数で表示した。この指数が小さいほど耐食性に優れるということである。
総合評価は表3に示す評価基準に基づき、◎(優)、○(良)、×(不良)の3段階で評価した。
【0025】
【表3】
【0026】
ホウ素含有物を添加していない比較例1の熱間曲げ強さ5.8MPaに対し、ホウ素含有物であるホウ酸を0.2質量%(B換算値で0.1質量%)添加した実施例1の熱間曲げは8.8MPaとなり熱間強度向上効果が表れている。ホウ酸添加量を増加した実施例2~4では実施例1より高い熱間曲げ強さの値を示すが、ホウ酸添加量がB換算値で1質量%を超える比較例2では溶損指数が125となり、耐食性低下の弊害が目立つようになるため不適である。
【0027】
実施例5,6及び比較例3,4において、ホウ酸添加量を0.5質量%(B換算値で0.3質量%)に固定し、マグネシアクリンカー及びクロム鉱の配合量の影響を検討した。いずれも比較例1よりも高い熱間曲げ強さの値を示すが、マグネシアクリンカー及びクロム鉱の配合量が本発明の範囲内である実施例5,6において10MPa以上の高強度を示す。一方、マグネシアクリンカー配合量の上限値及びクロム鉱配合量の下限値を外れる比較例3では低塩基度(CaO/SiO=1.5)スラグに対する耐食性が著しく低下し、耐スポーリング性にも劣る。また、マグネシアクリンカー配合量の下限値及びクロム鉱配合量の上限値を外れる比較例4ではSiOなど高温で液相を生成する成分が増え過ぎるため、熱間曲げ強さの値も6.3MPaとなり比較例1とあまり変わらない水準まで低下し、耐食性もかなり低下する。
【0028】
実施例2,7~9及び比較例5において、ホウ酸添加量を0.5質量%(B換算値で0.3質量%)に固定し、酸化クロム配合量の影響を検討した。配合量8質量%までの範囲では見掛気孔率がやや低下し耐食性の向上がみられるが、配合量10質量%の比較例5では、熱間曲げ強さの値の低下は明確にはみられないものの、見掛気孔率の上昇及び耐食性の低下が確認される。
【0029】
実施例10及び比較例6において、Bを0.3質量%含有するマグネシアクリンカーを使用した場合の特性への影響を検討した。マグネシアクリンカーによって配合中に持ち込まれるB量は0.165質量%であるが、比較例6の熱間曲げ強さの値は7.8となり、ホウ酸をB換算で0.1質量%添加した実施例1の値に及ばない。この理由は先に述べた通り、マグネシアクリンカー内部に存在するBはクロム鉱成分のマグネシアクリンカー表面への固溶を促進させる働きを持たないことにあると考えられる。一方、Bを0.3質量%含有するマグネシアクリンカーを使用し、かつホウ酸を0.5質量%(B換算値で0.3質量%)添加した実施例10は、マグネシアクリンカーの種類のみ異なる実施例2と同等の熱間曲げの値を示す。
【0030】
実施例2,11~13において、添加するホウ素含有物の量をB換算値で0.3質量%に固定し、ホウ素含有物の種類による特性への影響を検討した。いずれのホウ素含有物においても、焼成後のれんがは類似した特性を示しており、ホウ素含有物の種類によらず焼結促進効果が得られることが明らかである。
【0031】
実施例2,14,15及び比較例7において、マグクロクリンカー配合による特性への影響を検討した。マグクロクリンカーの配合量を増やすほど耐食性向上がみられるが、配合量が15質量%を超える比較例7では耐スポーリング性低下が大きい。