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特開2023-109622浸水情報生成装置、浸水情報生成方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109622
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】浸水情報生成装置、浸水情報生成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08B 21/10 20060101AFI20230801BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20230801BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
G08B21/10
G01W1/00 Z
G08B31/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011240
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津口 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 龍也
(72)【発明者】
【氏名】島崎 康信
【テーマコード(参考)】
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
5C086AA15
5C086AA22
5C086AA48
5C086CA28
5C086CB36
5C086DA14
5C086DA33
5C086FA17
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA04
5C087AA10
5C087BB73
5C087BB74
5C087DD02
5C087EE08
5C087EE18
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG02
5C087GG08
5C087GG70
5C087GG84
(57)【要約】
【課題】これまで浸水情報を生成することが難しかったエリアに対して効果的に浸水情報を生成することのできる浸水情報生成装置、浸水情報生成方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】浸水情報生成装置は、道路(R)が撮影された道路画像及び道路画像の撮影位置の情報を取得する画像取得手段と、道路画像から道路(R)の水没部分である水没領域(F)を検出する領域検出手段と、道路(R)の横断方向における水没の範囲を表す指標(Dmin)を算出する指標算出手段と、指標(Dmin)に応じて撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する危険判定手段と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路が撮影された道路画像及び当該道路画像の撮影位置の情報を取得する画像取得手段と、
前記道路画像から前記道路の水没部分である水没領域を検出する領域検出手段と、
前記道路の横断方向における水没の範囲を表す指標を算出する指標算出手段と、
前記指標に応じて前記撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する危険判定手段と、
を備えることを特徴とする浸水情報生成装置。
【請求項2】
前記危険判定手段は、前記水没の範囲が前記道路の中央のより近くまで広がっているほど前記危険度が高いと判定することを特徴とする請求項1記載の浸水情報生成装置。
【請求項3】
前記領域検出手段は、前記道路の縁に位置する物体である道路縁物体領域、及び前記道路の両側にそれぞれ位置する一対の前記道路縁物体領域により挟まれた道路領域を検出し、
前記指標算出手段は、前記道路縁物体領域の一方から他方へ前記道路領域を横切る方向に前記横断方向を定める
ことを特徴とする請求項1又は2記載の浸水情報生成装置。
【請求項4】
前記撮影位置に基づいて前記対応付けられたエリアを取得するエリア情報取得手段を備え、
前記対応付けられたエリアは、前記道路の部分よりも標高が低く、当該道路に傾斜地を介して隣り合って位置している浸水危険エリアを含み、
前記危険判定手段は、前記部分の道路画像から得られた前記指標に応じて前記浸水危険エリアにおける前記危険度を判定する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の浸水情報生成装置。
【請求項5】
前記水没領域を含む道路画像の事例である事例画像を複数用いて、道路画像の入力に対して前記水没領域及び前記道路縁物体領域を検出して出力するように予め学習された学習済モデルを記憶するモデル記憶手段を備え、
前記領域検出手段は、前記画像取得手段が取得した前記道路画像を前記学習済モデルに入力して当該道路画像における前記水没領域及び前記道路縁物体領域を検出する
ことを特徴とする請求項3記載の浸水情報生成装置。
【請求項6】
道路が撮影された道路画像及び当該道路画像の撮影位置の情報を取得する画像取得ステップ、
前記道路画像から前記道路の水没部分である水没領域を検出する領域検出ステップ、
前記道路の横断方向における水没の範囲を表す指標を算出する指標算出ステップ、
前記指標に応じて前記撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する危険判定ステップ、
を含むことを特徴とする浸水情報生成方法。
【請求項7】
コンピュータを、
道路が撮影された道路画像及び当該道路画像の撮影位置の情報を取得する画像取得手段、
前記道路画像から前記道路の水没部分である水没領域を検出する領域検出手段、
前記道路の横断方向における水没の範囲を表す指標を算出する指標算出手段、
前記指標に応じて前記撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する危険判定手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浸水情報生成装置、浸水情報生成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大雨などによる浸水害の被害が拡大している。建物などへの浸水が生じた場合、浸水範囲や水深を速やかに把握することで、災害対策を速やかに立案して実行することができる。従来、ヘリコプターなどの飛行体を用いた上空からの撮影画像を用いて浸水範囲を特定する技術がある。また、近年、SNS(Social Network Service)への投稿画像を浸水範囲の推定に利用して、最も標高の高い浸水地点と周囲の地形とに基づいてレベル湛水法により浸水範囲を推定するという技術がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】国土交通省国土地理院、令和2年7月豪雨に関する情報、[令和3年12月20日検索]インターネット<URL:https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R2_kyusyu_heavyrain_jul.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の手法による浸水範囲の推定は、レベル湛水法が適用可能な地形を前提としており、地形に応じて浸水の可能性があっても浸水情報を迅速に提供できない場合があるという課題がある。
【0005】
本開示の目的は、これまで浸水情報を生成することが難しかったエリアに対して効果的に浸水情報を生成することのできる浸水情報生成装置、浸水情報生成方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示は、
道路が撮影された道路画像及び当該道路画像の撮影位置の情報を取得する画像取得手段と、
前記道路画像から前記道路の水没部分である水没領域を検出する領域検出手段と、
前記道路の横断方向における水没の範囲を表す指標を算出する指標算出手段と、
前記指標に応じて前記撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する危険判定手段と、
を備えることを特徴とする浸水情報生成装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従うと、これまで浸水情報を生成することが難しかったエリアに対して効果的な浸水情報を生成することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】浸水情報生成システムの構成を示すブロック図である。
図2】道路面の冠水状況の例を示す図である。
図3】道路画像から道路の冠水を検出した例を示す図である。
図4】道路の端及び中央の特定について説明する図である。
図5】道路の冠水状況の変化の例を模式的に示す図である。
図6】危険度の通知がなされる急傾斜エリアの例を示す図である。
図7】浸水情報生成制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
図8】領域検出処理の制御手順を示すフローチャートである。
図9】浸水評価地点特定処理の制御手順を示すフローチャートである。
図10】浸水危険度評価処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の浸水情報生成システム100の構成を示すブロック図である。
【0010】
浸水情報生成システム100は、本実施形態の浸水情報生成装置である解析サーバ10と、画像データサーバ20と、気象情報配信サーバ30と、人流情報提供サーバ40と、エリア情報データサーバ50と、地形情報データサーバ60と、車載端末71、会員端末72及び固定カメラ73などを含む撮影装置70と、配信先端末80などを備える。これらはネットワークN1、N2を介して接続されている。ネットワークN1、N2は、インターネットやLAN(Local Area Network)などであり、別個のものである必要はない。
【0011】
解析サーバ10は、道路が撮影された画像データである道路画像を取得、解析して浸水範囲を推定したり、浸水の発生に係る危険度(浸水危険度)を算出したりする。解析サーバ10は、得られた浸水範囲や浸水危険度などの情報を設定されている宛先へ配信する。
【0012】
解析サーバ10は、CPU11(Central Processing Unit)と、RAM12(Random Access Memory)と、記憶部13と、通信部14などを備える。CPU11は、演算処理を行って解析サーバ10の動作を統括制御するハードウェアプロセッサである。CPU11は、単一でなくてもよく、複数のCPUが並列に又は用途ごとに独立して演算処理を行うのであってもよい。
【0013】
RAM12は、CPU11に作業用のメモリ空間を提供し、一時データを記憶する。RAM12は、例えばDRAMであるがこれに限られない。
少なくともCPU11及びRAM12は、本実施形態のコンピュータに含まれる。
【0014】
記憶部13は、プログラムや設定データなどを記憶する不揮発性のメモリである。不揮発性のメモリは、例えばフラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)などである。記憶部13は、モデル記憶手段として、学習済モデル131を記憶している。また、記憶部13には、この学習済モデル131を用いた浸水情報の生成の制御に係るプログラム132が記憶されている。
【0015】
通信部14は、外部機器との間での通信(データの送受信)に係る動作を制御する。通信動作は、予め定められた通信規格に従って制御される。通信規格には、例えば、LAN(Local Area Network)の規格や無線LANの規格などが含まれ得る。
解析サーバ10は、その他、表示部や操作受付部などを備え、オペレータが処理状況を確認したり、入力操作を行ったりすることが可能であってもよい。
【0016】
画像データサーバ20は、車載端末71、会員端末72及び固定カメラ73から道路画像のデータを撮影日時及び少なくともその撮影位置を含むカメラパラメータの情報とともに取得して保持する。道路画像は、撮影日時や撮影位置に応じて分類されて記憶されてもよい。画像データサーバ20は、解析サーバ10に送信した道路画像のデータを消去してもよい。
【0017】
気象情報配信サーバ30は、気象情報、ここでは特に降雨状況、すなわち、雨が降ったエリア、時間帯及び雨量のデータを外部へ配信している。
人流情報提供サーバ40は、人流情報として、スマートフォンなどの携帯端末やカーナビゲーション装置などから得られる歩行者や車の位置情報、及び/又はこれら位置情報を解析して得られる人の流れの異常、例えば、人が集中(混雑)、車が渋滞している範囲や、反対にこれらが避けている範囲の情報を外部へ配信している。
【0018】
気象情報配信サーバ30及び人流情報提供サーバ40は、営利企業を含む団体や個人が生成した情報を配信するものであってよく、情報を配信する団体や個人は、解析サーバ10及び画像データサーバ20を運用、利用する団体や個人と異なっていてもよい。配信される情報は、制限なく一般公開されるものであってもよいし、契約者や会員に対して限定的に有償又は無償で提供されるものであってもよい。
【0019】
エリア情報データサーバ50は、解析サーバ10による解析範囲内における後述のレベル湛水法適用エリアや浸水危険度の評価対象となる急傾斜エリア(対応付けられたエリア)などのエリア情報51を記憶保持している。レベル湛水法適用エリアは、レベル湛水法が適用可能な地理的範囲であり、大雨の水が排出し切れずに集まることによる氾濫(内水氾濫)や河川からの洪水による氾濫(外水氾濫)が生じ得るエリアに対して各々設定されている。急傾斜エリアは、例えば、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)に基づいて定められた警戒区域とすることができる。本実施形態においては急傾斜地と当該急傾斜地に下側で接するエリア(浸水危険エリア。すなわち急傾斜面の流水により浸水害が想定される領域)とを含む警戒区域を急傾斜エリアとして設定する。なお、警戒区域には急傾斜地に上側で接するエリアが含まれる場合があり、そのエリアは下側で接するエリアの浸水によって孤立などの被害を受け得る。このことに鑑み、浸水危険エリアとして急傾斜地に上側で接するエリアを含めた急傾斜エリアを設定してもよい。
また、エリア情報データサーバ50には、レベル湛水法適用エリア及び急傾斜エリアの各々に対して、浸水の発生や危険度の上昇を示す情報を配信する送信先(配信先)がそれぞれ対応付けられて保持されている。また、レベル湛水法適用エリア及び急傾斜エリアのいずれでもない場合でも当該エリアが属する自治体などが配信先として対応付けられて保持されてもよい。
【0020】
地形情報データサーバ60は、解析サーバ10による解析範囲内の道路及びその周辺エリアの地形データ61を記憶している。地形データ61は、例えば、DEMデータ(Digital Elevation Model;数値標高モデルなどと呼ばれる)を含む。DEMデータは、適宜なサイズで二次元マトリクス状に区切られた単位領域(グリッド、セル又はメッシュ)のそれぞれについて三次元座標が定められたものである。また、道路の路面データには、更に、光切断法を用いてレーザスキャン(レーザ点群計測)により得られた凹凸情報に基づく標高データが含まれていてもよい。あるいは、道路の延在方向についての勾配、当該延在方向に垂直な横断方向についての勾配及び道路の幅員の情報などが道路台帳に基づいて予め取得されて路面データとして保持されていてもよい。
これらエリア情報51や地形データ61は、解析サーバ10の記憶部13に記憶されていてもよい。
【0021】
撮影装置70は、道路を撮影してその道路画像のデータを生成出力する。撮影装置70は、少なくとも撮影日時及び撮影位置の情報を道路画像とともに生成出力する。撮影位置は少なくとも緯度と経度を含み、好適にはさらに高度を含む。撮影位置は、特には限られないが、衛星測位などにより撮影装置70自身が取得するものであってもよい。車載端末71及び固定カメラ73が撮影位置以外のカメラパラメータ(撮影方向や画角など)を取得可能な場合には、それらも含めたカメラパラメータを出力する。
車載端末71や固定カメラ73は、例えば、定期的に(車載端末71は、搭載車両の走行時やエンジン動作時などに限定してもよい)撮影を行って自動で画像データを画像データサーバ20に送信してもよい。このような車載端末71及び固定カメラ73は、予め契約された撮影装置であってもよい。
【0022】
会員端末72は、主に自機での撮影動作により得られた道路画像を浸水情報生成システム100へ提供する契約を行った又は提供に同意したユーザの端末装置である。会員端末72は、当該会員端末72の利用者(まとめて会員と称す)の撮影操作により得られた道路画像のデータを画像データサーバ20へ送信する。会員端末72は、撮影機能を有する携帯端末、例えばスマートフォンやポッド端末などを含み、上記契約に係る専用の端末装置である必要はない。したがって、各会員端末72での撮影画像は道路画像に限られないので、道路画像が選択的に画像データサーバ20に送信される。道路画像の送信は、例えば、当該道路画像が特定のSNSへアップロードされるのに応じて、又は会員の直接的な送信操作により行われればよい。会員の一例は、ナビゲーションサービスなどの会員である。また、アクティビティ(運動量、バイタル情報)の管理といった会員端末72の機能を利用したアプリケーションプログラム(アプリ)の利用者(利用許諾及び道路画像の提供に同意した者)や、浸水情報の配信サービス会社の社員なども上記の会員に含まれ得る。あるいは、利用規約に道路画像の提供への同意を含む特定のSNSに対して道路画像を投稿した端末装置が全て会員端末72に含まれてもよい。
【0023】
配信先端末80は、解析サーバ10により得られた浸水情報や浸水危険度の情報の配信先(宛先)となる端末装置である。この配信先端末80は、例えば、PCや汎用の各種携帯端末などであってよい。また、情報の配信が電子メールである場合には、電子メールのアドレスが仮想的な配信先である。配信先端末80には、地方公共団体、所定の官公庁、物流会社といった、浸水害に対処する団体の端末装置が含まれていてもよい。配信先端末80による配信情報の取得は、上記のように電子メールにより行われてもよいし、専用のアプリなどによりプッシュ型で受信されて即座に報知動作がなされてもよい。浸水情報や浸水危険度の情報は、例えば、浸水が発生したり浸水危険度が上昇したりしたエリアに各々対応付けられた配信先に対して配信されればよく、また、解析サーバ10により生成された全ての情報(複数のエリアに対応する情報)が配信されるように契約がなされた団体や個人があってもよい。
【0024】
次に、本実施形態の浸水範囲の算出について説明する。
水面は、静的かつ局所的には同一標高の範囲に広がるので、窪地や河川周辺などの限られた範囲ごとに区分けされた各エリア内では、このような浸水面の広がりが成立しやすい。この条件で流入した水の量が貯留される容積に応じて水没する地表面の標高の最高地点を推定する手法をレベル湛水法と称する。
【0025】
実際に水没している状態を撮影した画像から局所的な浸水面の標高が特定されれば、この標高と地形データ61とに基づいて、浸水している範囲を推定することができる。このように浸水面の標高を特定する場合に、道路面、特に舗装道路の路面は、標高を特定しやすいことから、道路面の冠水状況の計測が周囲の浸水面の推定に好適に利用される。道路面は、通常、延在方向について高さが連続的である。また同時に、道路面には、当該延在方向と交差する(ここでは垂直な)横断方向についても勾配が存在している。道路面の横断方向についての勾配は、道路面の中央で最も高く、両端が低くなるような緩い勾配であり、これにより道路の中央に水が溜まらずに両側へ排水されやすくなっている。
【0026】
図2は、道路面の冠水状況の例を示す図である。
図2(a)に示すように、道路Rでは、標高の低い範囲が先に冠水して水没することから、横断方向について中央では、横断方向について両端よりも冠水範囲Afが狭くなる。なお、この図では道路Rの横断方向について中央に中央線(センターライン)が位置しているが、これに限られない。
【0027】
浸水が上記よりも軽微な場合には、図2(b)に示すように、道路Rの横断方向について中央では冠水せず、道路幅員Wのうち両端から一部のみがそれぞれ冠水範囲Afとなっている。
【0028】
次に、浸水範囲の算出について説明する。
図3は、道路画像から道路Rの冠水を検出した例を示す図である。
【0029】
図3(a)に示すように、道路面の冠水が発生した当初は、勾配を有する道路Rの相対的に標高が低い部分で局所的に冠水範囲Afが生じる。
道路画像から浸水面の標高を得るために、解析サーバ10では、道路画像を画像処理して領域分割する。領域分割に係る画像認識技術としては、例えば、ディープラーニングにおけるセマンティックセグメンテーションが利用される。ここでは、図3(b)に示すように、分類される領域(クラス)として、冠水範囲Afに対応する水没領域F、道路縁物体Aeに対応する道路縁物体領域E、道路Rの冠水していない部分に対応する路面領域Rn及びその他の領域が定められる。また、道路上に位置する他の車両が画像に含まれている場合には、車両領域を別途分類可能としてもよい。
【0030】
セマンティックセグメンテーションによる道路画像における各領域の検出には、機械学習させた学習済モデル131が用いられる。道路画像の入力に対して少なくとも水没領域F及び道路縁物体領域Eを検出して出力する学習済モデルの生成は、学習用データを用いて予め任意のコンピュータで行われる。冠水範囲Afを含む道路Rが撮影された道路画像と冠水範囲Afを含まない道路画像とを適宜組み合わせた複数の学習用画像(事例画像)と、当該学習用画像の各画素がいずれの領域に属しているかを示す正解データとを用意して、学習させる対象の機械学習モデルへの学習用画像の入力に対して得られる出力が正解データに一致するように、機械学習モデルのパラメータを更新していくことで、学習済モデルが得られる。
【0031】
このようにして分類される上記領域のうち、道路縁物体領域Eは、道路の縁に位置する特徴的な物体(立体、すなわち道路面から垂直な方向についての高さを有するもの)である道路縁物体Aeの特徴を有する領域である。このような道路縁物体Aeには、例えば、歩道、ガードレール、縁石、トンネルの側壁などが含まれる。道路Rの冠水時でも、道路縁物体Aeは浸水面上に一部が露出されやすい。
【0032】
水没領域Fは、道路面のうち冠水範囲Af(水没している)の特徴を有する領域である。路面領域Rnは、道路面のうち冠水していない(水没していない)部分の特徴(道路面が乾いている場合と濡れている場合とを含む)を有する領域である。道路面又は道路縁物体Aeではない領域は、その他の領域とされ、すなわち、道路脇の建物、草木、地面、塀、柵、信号機、標識、看板、電柱や電線、道路外の水面(川や池などを含む)などは、いずれもその他の領域に含まれる。また、道路面上であっても、障害物や光の反射などに応じて路面の特徴が得られなかった部分については、その他の領域に分類され得る。
【0033】
図4は、道路の端及び中央の特定について説明する図である。
道路縁物体Aeは、水没に加えて標識、車両、通行人や道路脇の植物(植樹帯の植え込みなども含む)などにより、道路画像においてその全てが見えているとは限らない。また、ガードレールなどはもともと途切れている部分もあり得る。これらの場合を考慮して、道路縁物体領域Eを左右の2グループに分割したうえで、各グループの内側(道路側。反対側のグループや水没領域Fに近い側)の境界線Leを近似により求める。
【0034】
例えば、道路縁物体領域Eと認識された画素同士で隣接するものをグループ化して道路縁物体領域Eの画素のグループを生成する。こうして得られたグループごとにグループに含まれる画素の平均位置(座標)を算出して、算出された平均位置間を互いに結ぶ線分を得る。そして、当該線分上の画素に水没領域F又は路面領域Rnが含まれる場合には、線分で結ばれた画素のグループは道路Rの異なる側の道路縁物体Aeに対応し、線分上の画素に水没領域F及び路面領域Rnがいずれも含まれない場合には、当該線分で結ばれた画素のグループは、道路Rの同一の側の道路縁物体Aeに対応するものとする。これにより、3以上のグループは道路の両端に沿った2グループに集約される。なお、基準画素数未満の画素のグループは上記の処理から除外されて、その他の領域に変更されてもよい。撮影画像では、光学系の歪みを無視すると道路勾配が一様であれば境界線Leが直線となるが、部分的に冠水した道路の撮影画像では、しばしば勾配が途中で変化する場合が含まれる。したがって、境界線Leは、曲線、例えば、二次曲線により近似されることとしてもよい。
【0035】
境界線Leは、例えば、集約された2グループのそれぞれについて、道路縁物体領域Eの外周上の画素のうち道路に面している画素の並びに近似する曲線として求められる。道路縁物体領域Eの外周上の各画素と、当該画素に最も近い水没領域F又は路面領域Rnの画素とを線分でつなぎ、当該線分上に他の道路縁物体領域Eの画素がない場合には、この画素が道路に面していると判定する。道路に面していると判定された画素群の座標に対して二次関数の回帰曲線を最小二乗法などにより求めることで、境界線Leが得られる。なお、ガードレールのように道路面から所定の高さに位置する道路縁物体Aeの場合には、そのままでは見かけ上道路領域が広く定まるので、得られた境界線Leをガードレールの高さに応じて内側にシフトさせてもよい。左右いずれもガードレールなど同一種類の道路縁物体Aeの場合には、そのまま見かけ上の境界線Leが利用されてもよい。
【0036】
上記のようにして得られた道路縁物体領域Eの境界線Le(内側境界)の対に挟まれた領域が本実施形態の浸水情報生成システム100における道路領域である。この道路領域内の水没領域Fは正常に認識されたものとして特定され、当該水没領域F以外の領域が冠水していない路面領域として特定される。ただし、画像認識では正しく認識できなかった領域が、認識された水没領域Fや路面領域Rnに囲まれる範囲に残っている場合には、これらがそれぞれ水没領域や路面領域に包含されてよい。また、水没領域Fや路面領域Rnが道路領域外に認識されている場合には、これらの分類が取り消されてよい。
【0037】
境界線Leは、道路画像の撮影方向に応じて左右非対称となる場合がある。道路内のある一点を通り道路を横切る(横断する)方向は、例えば、当該一点を通る適宜な直線Lcと2本の境界線Leとのなす角度θR、θLを求め、当該角度θR,θLの大小に応じて、角度差|θR-θL|が最小(極小)になるように直線Lcの向きを変化させていくことで漸近的に求められる。また、単純に直線Lcの向きを一方向に微小角度ずつ変化させてゆき、最小角度差が得られた向きを横断方向として特定してもよい。また、横断方向は、道路上の線(中央線や車線境界線など)に垂直なことが多いので、これらの線に対する角度に基づいて横断方向を見積もって、見積もられた方向近傍の狭い範囲内で微小角度ずつ変化させながら角度θR、θLの差が最小となる向きを特定してもよい。特定された向きの線分の中点を求めることで、道路端が全て見えていなくても道路の中央位置Cが得られる。
【0038】
この横断方向に伸びる直線Lcと、水没領域Fの外縁との交点が外周点Pbであり、外周点Pbと中央位置Cとの距離Dが求められる。水没領域Fの外縁上に位置する各画素のうち、境界線Leに面する点を除外した残りの各外周点Pbをそれぞれ通り横断方向に伸びる直線Lcと、当該直線Lc上の中央位置Cとを求めることで、各々距離Dが得られる。得られた距離Dのうち最小値が距離Dminとされて、この距離Dminをなす、すなわち中央位置Cに最も近い外周点Pbが浸水評価地点Pfとして定められる。図2で示したように、道路の冠水が部分的な場合には、冠水範囲Afが広がるほど浸水評価地点Pfが道路の中央に近づき、距離Dminが0に近づく。道路の全幅に亘って冠水している場合には、浸水評価地点Pfは中央に位置し、距離Dmin=0となる。図4の例では、距離Dmin=0となる浸水評価地点Pfが2点存在する。道路の幅(車道幅員W、車線幅員W/2)などは、道路台帳などに基づくデータとして予め別途保持されていればよい。
【0039】
撮影位置を少なくとも含むカメラパラメータの情報は道路画像に対応付けられて保持されており、このカメラパラメータと、撮影された道路領域の地形データとにより、浸水評価地点Pfの地理的位置(三次元座標)が特定、抽出される。例えば、撮影位置からの方向と画角とをそれぞれ微小角度ずつ変化させながら、地形データに基づいて道路の範囲及び可能であればその周囲(建築物、標識、周囲の地形など)の見え方を仮想的に定め、得られている道路画像との一致度合が最大(極大)となる方向と画角の組み合わせを道路画像の撮影方向及び画角として特定する。道路の範囲に関する一致度合は、例えば、地形データにおいて路面データが表す道路領域の見え方を仮想的に定めた領域と、道路画像から抽出された道路領域との重なり度合とすることができる。この特定結果に基づいて、道路画像内における浸水評価地点Pfに投影される三次元座標を逆算することで、当該浸水評価地点Pfの地理的位置を特定する。なお、受信した撮影位置に高度が含まれていない場合には、緯度と経度と地形データとにより地表面の標高を特定し、撮影装置70の種類に応じて予め定めた地表面からの撮影装置70の高さ(例えば、会員端末72であれば平均的な肩の高さ)を加算して高度を補完することができる。また、カメラパラメータとして撮影方向と画角が得られている道路画像については、上記の方法における撮影方向と画角の特定を省略することができる。また、上記方法で得られた道路の範囲に関する一致度合が予め定めた閾値に達しない場合には、オペレータが道路画像と撮影位置が特定された地形データとに基づいて、手作業で浸水地点Pfの三次元座標を特定してもよい。
また、道路画像が動画である場合又は撮影位置が近接する複数の静止画である場合には、複数のフレーム画像又は複数の静止画にSfM(Structure from Motion)法を適用して浸水評価地点Pfの地理的位置を特定することもできる。例えば、SfMによりフレーム画像又は静止画における浸水評価地点Pfへの視線方向を特定し、当該画像の撮影位置と当該撮影位置から浸水評価地点Pfへの視線方向と地形データとから、浸水評価地点Pfの地理的位置を特定する。あるいは、SfMにより道路画像に撮影された道路の3次元点群を算出するとともに当該3次元点群の座標系における浸水評価地点Pfを算出し、当該3次元点群を地形データにフィッティングさせることによって浸水評価地点Pfの地理的位置を特定する。
撮影位置や浸水評価地点Pfがレベル湛水法適用エリア内の場合には、この座標の高さ成分である標高値が浸水面の標高となる(算出手段としての動作)。レベル湛水法適用エリアの地形データに基づいて、求められた標高より地表面の標高が低い範囲が浸水範囲として推定される。推定された浸水範囲に応じた浸水情報が生成、出力される。
【0040】
一方で、山や丘の斜面などの傾斜面を横切って伸びる道路では、レベル湛水法が適用される範囲には含まれにくいが、斜面に沿って上方から水流が下って下方側で建物などへの浸水を生じさせる場合がある。このような道路の特に局所的に標高が低い部分において、水流が増加すると、横断方向への勾配に従って斜面上方に接する側が部分的に冠水し始め、その後、冠水部分が中央の最も高い部分を超えると(道路の構造によっては斜面下方側の縁石や歩道なども乗り越えると)斜面下方に水流が下ることになる。また、道路が完全に冠水すると、車両の通行に支障を来すことになる。
【0041】
そこで、解析サーバ10では、このような道路における浸水評価地点Pfの位置の変化を追うことで、斜面下方への水流の発生に伴う浸水危険度を評価する。
【0042】
図5は、道路の冠水状況の変化の例を模式的に示す図である。
図5(a)に示すように道路の冠水の初期では、浸水評価地点Pfが道路の中央よりも道路縁に近い位置にあり、距離Dminは道路幅員Wの半値W/2に近い値となる。
【0043】
冠水が進行すると、浸水評価地点Pfが道路の中央に近づく。図5(b)に示す状況では、浸水評価地点Pfは道路の中央の直前であり、距離Dminはゼロに近い値となっている。距離Dminがゼロとなると、水は道路の中央の最も高い部分を超えて反対側へ流出する。すなわち、浸水評価地点Pfが道路の横断方向についての中央に近いほど(水没領域Fが中央のより近くまで広がっているほど)危険度が高くなる。この危険度の評価には、浸水評価地点Pfと中央との距離が直接用いられてもよいし、この距離を道路幅員Wで正規化した値Rmin=Dmin/W(水没の範囲を表す指標)などが用いられてもよい。
【0044】
図6は、危険度の通知がなされる急傾斜エリアの例を示す図である。
斜面(急傾斜地)の中腹に道路Rが伸びており、道路Rの一部分に対して斜面下方側(標高の低い側)に住居などの施設Hが隣り合って位置している場合に、斜面上方からの流水により道路Rが冠水するようになると、水は更に斜面に沿って下方に流れて施設Hへの浸水を生じさせ得る。そこで、道路Rの撮影データに基づいて施設Hを含むエリア(浸水危険エリア)への浸水の危険度を評価して、当該危険度を施設Hの配信先端末80などに配信する。これにより、施設Hからの早期の避難や撤収などが可能となる。なお、浸水の危険度の情報の配信対象は、道路下方の浸水危険エリア内の施設Hの配信先端末80に限られなくてもよい。例えば、この急傾斜エリア、特に浸水危険エリアが属する自治体、当該エリアの管理や災害対策を司る官公庁の部署、道路R自体を定期的に利用したり、施設Hやその周囲を定期的に行き来したりする運送会社やバス会社などの配信先端末80が含まれていてもよい。
【0045】
図7は、本実施形態の解析サーバ10で実行される浸水情報生成制御処理のCPU11による制御手順を示すフローチャートである。また、図8図9及び図10は、それぞれ浸水情報生成制御処理内で実行される領域検出処理、浸水評価地点特定処理及び浸水危険度評価処理の制御手順を示すフローチャートである。本実施形態の浸水情報生成方法を含むこの浸水情報生成制御処理は、ユーザの開始命令に係る入力操作などにより開始された後、継続的に実行される。
【0046】
CPU11(画像取得手段、画像取得ステップ)は、道路画像及び撮影位置を少なくとも含むカメラパラメータのデータを取得する(ステップS101)。CPU11は、撮影位置が現在水没領域の検出対象であるか否かを判別するための検出対象判定情報を取得する(ステップS102)。この検出対象判定情報には、上記の気象情報、人流情報及びエリア情報が含まれる。
【0047】
CPU11は、撮影位置が水没領域の検出対象エリアであるか否かを判別する(ステップS103)。すなわち、CPU11は、撮影位置が降雨領域(雨が止んだのち所定時間が含まれていてもよい。また、実際の降雨領域よりも河川流域の下流側の領域などを含んでもよい)又は人流の異常な領域(工事や事故などの人為的な異常に係る情報は別途入手されて除外されてもよい)であって、かつレベル湛水法適用エリア、急傾斜エリア又は浸水害が想定されるなどとして配信先が設定されているエリアであるか否かを判別する。
【0048】
撮影位置が検出対象エリアではないと判別された場合には(ステップS103で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS101へ戻る。
【0049】
撮影位置が検出対象エリアであると判別された場合には(ステップS103で“YES”)、CPU11(領域検出手段、領域検出ステップ)は、領域検出処理を実行する(ステップS104)。図8に示すように、ステップS104の領域検出処理では、領域検出手段は、解析対象の道路画像を学習済モデル131へ入力して、当該学習済モデル131から出力される当該画像における各領域の範囲の認識結果を取得する(ステップS141)。領域検出手段は、水没領域Fが認識、検出されているか否かを判別する(ステップS142)。水没領域Fが検出されていないと判別された場合には(ステップS142で“YES”)、領域検出手段は、領域検出処理を終了して処理を浸水情報生成制御処理に戻す。
【0050】
水没領域Fが検出されていると判別された場合には(ステップS142で“YES”)、領域検出手段は、道路縁物体領域Eが2グループ(一対)検出されているか否かを判別する(ステップS143)。ここでいう2グループは、上記のように、道路の両側の道路縁物体Aeのそれぞれを意味する。
【0051】
2グループの道路縁物体領域Eが検出されていないと判別された場合には(ステップS143で“NO”)、領域検出手段は、領域検出処理を終了して処理を浸水情報生成制御処理に戻す。2グループの道路縁物体領域Eが検出されていると判別された場合には(ステップS143で“YES”)、CPU11は、2グループの道路縁物体領域Eのそれぞれ内側、すなわち、水没領域Fや路面領域Rnに面する側の境界を推定する(ステップS144)。領域検出手段は、上記のように境界線Leを二次曲線でフィッティングすることにより推定する。
【0052】
領域検出手段は、推定された2本の境界線Leの間の領域を道路領域として特定する(ステップS145)。この道路領域外の水没領域Fは除外され、道路領域内の水没領域F以外の領域が路面領域Rnとして特定される。そして、領域検出手段は、領域検出処理を終了して処理を浸水情報生成制御処理に戻す。
【0053】
図7の浸水情報生成制御処理に戻って、CPU11は、水没領域F及び一対の道路縁物体領域Eが検出されたか否かを判別する(ステップS105)。水没領域F及び一対の道路縁物体領域Eのうちすくなくとも一方が検出されていないと判別された場合には(ステップS105で“NO”)、CPU11の処理は、ステップS101に戻る。
【0054】
水没領域F及び一対の道路縁物体領域Eが検出されたと判別された場合には(ステップS105で“YES”)、CPU11(抽出手段、抽出ステップ)は、浸水評価地点特定処理を実行する(ステップS106)。
【0055】
図9の浸水評価地点特定処理において、抽出手段は、特定されている水没領域Fの外周上の画素(外周点)Pbを選択する(ステップS161)。抽出手段は、選択した画素Pbを通り横断方向に伸びる直線Lcを、2本の境界線Leとのなす角度に基づいて推定し、道路領域の横断方向について中央(中央位置C)と選択した画素Pbとの距離Dを算出する(ステップS162)。抽出手段は、算出した距離Dがこの道路画像の水没領域Fの外周について算出された距離Dの中で最小値であるか否か、すなわち、この時点で設定されている最小の距離Dminより小さいか否かを判別する(ステップS163)。算出された距離Dの最小値であると判別された場合には(ステップS163で“YES”)、抽出手段は、選択している画素Pbを浸水評価地点Pfに設定するとともにその距離Dを中央位置Cから最小の距離Dminに設定する(ステップS164)。既に浸水評価地点Pf及び中央位置Cからの最小距離Dminが設定されている場合には、設定が上書きされる。抽出手段は、水没領域Fの外周上の全画素を選択したか否かを判別する(ステップS165)。全画素を選択していないと判別された場合には(ステップS165で“NO”)、抽出手段の処理は、ステップS161に戻る。全画素を選択したと判別された場合には(ステップS165で“YES”)、抽出手段は、浸水評価地点特定処理を終了して、処理を浸水情報生成制御処理に戻す。
【0056】
ステップS163の判別処理で、算出した距離が最小値ではないと判別された場合には(ステップS163で“NO”)、抽出手段は、処理をステップS165に移行させる。
【0057】
処理が浸水評価地点特定処理から浸水情報生成制御処理に戻ると、図7に戻って、CPU11は、エリア情報データサーバ50からエリア情報51を取得する(ステップS107)。
【0058】
CPU11は、撮影位置がレベル湛水法適用エリア内であるか否かを判別する(ステップS108)。レベル湛水法適用エリア内であると判別された場合には(ステップS108で“YES”)、CPU11(地形情報取得手段)は、地形情報データサーバ60から撮影位置に係るレベル湛水法適用エリアを含む地形データ61を取得する(ステップS109)。CPU11は、地形データ61に基づいて、道路画像の撮影方向を特定する(ステップS110)。このとき、CPU11は、撮影されている周囲との位置関係から、撮影位置を衛星測位などで特定されている撮影位置よりも更に細かく特定、調整してもよい。
【0059】
CPU11(算出手段)は、地形データ61から浸水評価地点Pfの座標を特定し、その標高を算出する(ステップS111)。算出手段は、レベル湛水法を適用して、算出された標高以下の範囲の閉領域を浸水範囲として推定する(ステップS112)。算出手段は、推定された浸水範囲を示す浸水情報を生成する(ステップS113)。CPU11は、浸水範囲に応じた配信先を選択し、生成した浸水情報を通信部14により選択された配信先端末80へ出力する(ステップS114)。その後、CPU11の処理は、ステップS101へ戻る。
【0060】
ステップS108の判別処理で、撮影位置がレベル湛水法適用エリアではないと判別された場合には(ステップS108で“NO”)、CPU11は、浸水危険度評価処理を実行する(ステップS121)。
【0061】
図10に示すように、浸水危険度評価処理では、CPU11(指標算出手段、指標算出ステップ)は、浸水評価地点Pfの中央位置Cからの距離Dminを道路幅員Wで正規化した値Rmin=Dmin/Wを算出する(ステップS201)。
【0062】
CPU11(危険判定手段、危険判定ステップ)は、値Rminが基準値T1未満であるか否かを判別する(ステップS202)。値Rminが基準値T1未満であると判別された場合には(ステップS202で“YES”)、危険判定手段は、浸水の危険度を「大」に設定する(ステップS211)。それから、危険判定手段は、処理をステップS221へ移行させる。
【0063】
値Rminが基準値T1未満ではない(以上である)と判別された場合には(ステップS202で“NO”)、危険判定手段は、値Rminが、基準値T1よりも大きい基準値T2未満であるか否かを判別する(ステップS203)。値Rminが基準値T2未満であると判別された場合には(ステップS203で“YES”)、危険判定手段は、浸水の危険度を「中」に設定する(ステップS212)。それから、危険判定手段は、処理をステップS221へ移行させる。
【0064】
値Rminが基準値T2未満ではない(以上である)と判別された場合には(ステップS203で“YES”)、危険判定手段は、浸水の危険度を「小」に設定する(ステップS213)。それから、危険判定手段は、処理をステップS221へ移行させる。
【0065】
ステップS211~S213の各処理からステップS221の処理へ移行すると、CPU11(エリア情報取得手段)は、撮影位置が急傾斜エリア内(撮影位置に対応付けられたエリア)であるか否かを判別する(ステップS221)。撮影位置が急傾斜エリア内であると判別された場合には(ステップS221で“YES”)、危険判定手段は、当該急傾斜エリア(特に、浸水危険エリア)の浸水危険度情報を生成して出力、予め設定された宛先に配信する(ステップS222)。それから、危険判定手段は、浸水危険度評価処理を終了して処理を浸水情報生成制御処理へ戻す。図7に戻って、CPU11の処理は、ステップS101へ戻る。
【0066】
撮影位置が急傾斜エリア内ではないと判別された場合には(ステップS221で“NO”)、CPU11は、撮影箇所の道路の浸水情報(冠水情報)を生成して出力、予め定められた宛先へ配信する(ステップS223)。そして、CPU11は、浸水危険度評価処理を終了して処理を浸水情報生成制御処理へ戻す。図7に戻って、CPU11の処理は、ステップS101へ戻る。
【0067】
なお、ステップS101~S103の処理は、画像データサーバ20で随時実行されて、予め解析サーバ10へ送信する画像データをフィルタリングしておくのであってもよい。すなわち、解析サーバ10は、水没領域Fの検出処理を行う必要のある領域や期間の道路画像データのみを画像データサーバ20から取得するのであってもよい。これにより、解析サーバ10の負荷を前処理で上昇させるのを低減させる。また、画像データサーバ20において、浸水状況の解析にとって明らかに不要な画像データを速やかに消去して、記憶領域を開放することができる。さらに、固定カメラ73の撮影データなどは、雨天など特定の天気状況でのみ画像データサーバ20に送信されるのであってもよい。
【0068】
[変形例]
なお、本開示は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記では、道路画像の各々について浸水情報を生成したが、レベル湛水法適用エリア内など、同一のエリア(ある地理的エリア)における複数の道路画像データからそれぞれ浸水評価地点Pfが得られてから浸水情報を生成してもよい。例えば、ステップS111の処理が同一エリア内で基準回数(例えば、2回)以上実施された場合に、当該同一エリア内で最高標高の浸水評価地点の当該標高に応じてステップS112~S114の処理がなされてもよい。
【0069】
1回目の基準時間内に基準回数以上の浸水評価地点の標高が得られなかった場合には、基準回数未満の浸水評価地点の最高標高に基づいてステップS112~S114の処理が実行されてもよいし、ステップS112~S114の処理がなされずに、得られている浸水評価地点が削除されてもよい。
【0070】
また、浸水評価地点が得られた場合には、続けて同一エリアの道路画像データを優先的にステップS101の処理で取得することとしてもよい。
【0071】
また、上記実施の形態では、道路の横断方向として、道路の延在方向に垂直な方向を規定したが、道路の延在方向と交差する他の方向、例えば、道路画像の縁の一辺に平行な方向などが規定されてもよい。これにより、撮影位置から撮影対象面までの距離の差をより小さくすることができる。
【0072】
また、上記実施の形態では、道路両側の道路縁物体領域Eが認識できなかった場合には、浸水範囲の推定や危険度の判定に係る処理を終了することとしたが、このような場合に限ってオペレータによる手動で境界線Leが設定可能とされてもよい。反対に、2本の境界線Leが特定された場合に、特定位置を表示させてオペレータによる承認を行わせてもよい。また、オペレータに承認を行わせる道路画像を一部選択してもよい。これにより、誤った浸水情報が配信されるのを抑制することができる。
【0073】
また、上記実施の形態では、セマンティックセグメンテーションを用いて水没領域Fや道路縁物体領域Eを認識するものとしたが、他の画像認識技術が用いられてもよい。例えば、勾配ブースティング、ランダムフォレストなどでモデル化した学習済モデルを用いて水没領域Fや道路縁物体領域Eを認識してもよい。この場合、CPU11は、領域検出手段として、例えば、画像をメッシュ分割して各メッシュでのRGB輝度値の平均と標準偏差を求め、求めた値を説明変数として用いる。CPU11は、多数の学習用画像それぞれから求めた説明変数を入力して得られる出力値を当該学習用画像の正解データに一致させるようにパラメータを更新することで学習済モデルを生成する。
【0074】
また、上記実施の形態では、レベル湛水法を用いた浸水範囲の推定と、急傾斜エリアでの浸水危険度の判定とをいずれも行うこととして説明したが、これに限られない。前者の推定処理はなされなくてもよい。
【0075】
また、浸水危険度の判定では、道路領域の横断方向における浸水評価地点Pfの相対位置が指標として用いられるものとして説明したが、指標はこれに限られるものではない。例えば、道路領域の横断方向について水没領域Fが検出された範囲(画素数)のヒストグラムなどが生成され、当該ヒストグラムの形状など(ヒストグラムの特性を示すパラメータに変換されて用いられてもよい)に応じて浸水の危険度が評価されてもよい。
【0076】
また、上記では浸水の危険度評価を土砂災害防止法に基づいて定められた警戒区域に含まれる急傾斜地を対象として行う説明をしたが、これに限られるものではない。土砂崩れなどが想定されづらい緩斜面であっても水流などに応じて適宜設定されてもよい。また、危険度の評価に係る浸水情報の配信は、土砂崩れや土石流などの災害危険度とは切り離されて、単純に浸水危険度の情報のみが配信されてもよいし、他の災害危険度の情報と合わせて配信されてもよい。
【0077】
また、以上の説明では、浸水情報の生成制御に係るプログラム132を記憶するコンピュータ読み取り可能な媒体としてHDDやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどからなる記憶部13を例に挙げて説明したが、これらに限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、MRAMなどの他の不揮発性メモリや、CD-ROM、DVDディスクなどの可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、通信回線を介して本発明に係るプログラムのデータを提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
【0078】
以上のように、本実施形態の浸水情報生成装置である解析サーバ10は、CPU11を備える。CPU11は、画像取得手段として、道路Rが撮影された道路画像及び当該道路画像の撮影位置の情報を取得し、領域検出手段として、道路画像から道路Rの水没部分である水没領域Fを検出し、指標算出手段として、道路Rの横断方向における水没の範囲を表す指標である浸水評価地点Pfを特定し、危険判定手段として、特定された指標に応じて撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する。
このように、道路面の勾配の特性を利用して、その冠水範囲の状況から浸水の危険度を評価するので、実際に浸水する前に浸水の危険についての情報を生成して配信することができる。また、このような判定方法により、レベル湛水法が適用可能な地形を有する場所以外でも浸水の危険性を判定し、その危険度を対象エリアの関係者などに伝えることができるので、浸水被害を低減させやすくすることができる。
【0079】
また、CPU11は、危険判定手段として、水没の範囲が道路Rの中央のより近くまで広がっているほど危険度が高いと判定する。車道は、道路領域の中央から両側へ下る緩やかな勾配となっているので、この特性を利用することで、簡易に定めることが可能なパラメータにより容易に道路の冠水の進行状況を判定することができる。したがって、複雑な処理や時間を必要とせずに浸水の危険度に係る情報を生成することができる。
【0080】
また、CPU11は、領域検出手段として、道路Rの縁に位置する物体である道路縁物体領域E、及び道路Rの両側にそれぞれ位置する一対の道路縁物体領域Eにより挟まれた道路領域を検出し、指標算出手段として、道路縁物体領域Eの一方から他方へ道路領域を横切る方向に横断方向を定める。
このように道路縁物体を用いて道路領域を規定するので、道路の冠水時でも道路領域が適切に定まる。また、この道路縁物体領域の延在方向に対して横断方向が定められるので、容易かつ適切に冠水状況を定量評価することができる。
【0081】
また、CPU11は、エリア情報取得手段として、撮影位置に基づいて、当該撮影位置に対応付けられたエリアを取得する。このエリアは、道路Rの部分よりも標高が低く、当該道路Rに傾斜地を介して隣り合って位置している浸水危険エリアを含む。CPU11は、危険判定手段として、この道路部分の道路画像から得られた上記指標(道路領域の横断方向における浸水評価地点Pfの相対位置)に応じて上記浸水危険エリアにおける浸水の危険度を判定する。
このように傾斜地に沿った道路Rにおいて当該道路Rに沿った方向への排水がなされない又は追いつかない場合には、当該傾斜地の斜面下方への水流が生じることになるので、道路上が冠水するほどになった場合に、容易に斜面下方への水流と浸水が想定される。したがって、この冠水状況の度合を指標として取得することで、道路Rを挟んでどの程度の水量が下方に流れるかが推定可能となり、適切に浸水の危険度が得られる。
なお、ここでいう傾斜地は、道路Rの部分の横断方向についての延長線上で標高が全て単調減少しているものに限定されるものではない。全体の傾向として、道路Rの一部分とその当該一部分の下方に位置する浸水危険エリアとの間に水流が生じるのに十分な傾斜地があれば、畝、突出部や凹凸など(自然地形や人工的な地形を問わない)があってもよい。
【0082】
また、記憶部13は、モデル記憶手段として、水没領域Fを含む道路画像の事例である事例画像を複数用いて、道路画像の入力に対して水没領域F及び道路縁物体領域Eを検出して出力するように予め学習された学習済モデル131を記憶する。CPU11は、領域検出手段として、画像取得手段が取得した前記道路画像を学習済モデルに入力して当該道路画像における水没領域F及び道路縁物体領域Eを検出する。このように、水没領域や道路領域は、道路画像に対する画像認識技術を用いることで、道路画像の数が多くても手間をかけずに速やかに道路の冠水状況を特定することが可能になる。
【0083】
また、本実施形態の浸水情報生成方法は、道路Rが撮影された道路画像及び当該道路画像の撮影位置の情報を取得する画像取得ステップ、道路画像から道路Rの水没部分である水没領域Fを検出する領域検出ステップ、道路Rの横断方向における水没の範囲を表す指標を算出する指標算出ステップ、算出した指標に応じて撮影位置に対応付けられたエリアにおける浸水の危険度を判定する危険判定ステップ、を含む。
このように、道路面の勾配の特性を利用して、その冠水範囲の状況から浸水の危険度を評価するので、実際に浸水する前に浸水の危険についての情報を生成して配信することができる。また、このような判定方法により、レベル湛水法が適用可能な地形を有する場所以外でも浸水の危険性を判定し、その危険度を対象エリアの関係者などに伝えることができるので、浸水被害を低減させやすくすることができる。
【0084】
また、上記の浸水情報生成方法に係るプログラム132をコンピュータにインストールし、CPU11により実行させることで、浸水情報の生成可能範囲がレベル湛水法適用エリアよりも広げることができる。これにより、浸水対策をより適切に実行可能となり、浸水による被害の低減を図ることができる。
【0085】
上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0086】
10 解析サーバ
11 CPU
12 RAM
13 記憶部
131 学習済モデル
132 プログラム
14 通信部
20 画像データサーバ
30 気象情報配信サーバ
40 人流情報提供サーバ
50 エリア情報データサーバ
51 エリア情報
60 地形情報データサーバ
61 地形データ
70 撮影装置
71 車載端末
72 会員端末
73 固定カメラ
80 配信先端末
100 浸水情報生成システム
Af 冠水範囲
Ae 道路縁物体
E 道路縁物体領域
F 水没領域
Le 境界線
Pf 浸水評価地点
Rn 路面領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10