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特開2023-109654CFRP筋及びCFRP筋による補強コンクリート構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109654
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】CFRP筋及びCFRP筋による補強コンクリート構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/07 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
E04C5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011339
(22)【出願日】2022-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智大
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 浩也
(72)【発明者】
【氏名】平田 隆祥
(72)【発明者】
【氏名】野村 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA05
2E164BA50
(57)【要約】
【課題】従来よりも施工性に優れたCFRP筋及びCFRP筋を使用して構築される補強コンクリート構造を提供する。
【解決手段】CFRPによって形成されるCFRP筋であって、前記CFRP筋は、該CFRP筋に隣接して設けられるCFRP筋と嵌合して接続することが可能な嵌合溝部を有し、前記嵌合溝部は、前記CFRP筋の接続方向に平行な端面の内の少なくとも一方の端面に形成されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CFRPによって形成されるCFRP筋であって、
前記CFRP筋は、該CFRP筋に隣接して設けられるCFRP筋と嵌合して接続することが可能な嵌合溝部を有し、
前記嵌合溝部は、前記CFRP筋の接続方向に平行な端面の内の少なくとも一方の端面に形成される
ことを特徴とするCFRP筋。
【請求項2】
前記CFRP筋は、環状、弧状、矩形状、多角形状およびく字状のうち、いずれかの形状を有する
請求項1に記載のCFRP筋。
【請求項3】
前記CFRP筋は、複数の前記嵌合溝部が形成されるとともに少なくとも1の嵌合溝部は他の嵌合溝部の反対方向に開口している
請求項1又は2に記載のCFRP筋。
【請求項4】
前記CFRP筋は、該CFRP筋を貫通するジベル孔を備えている
請求項1乃至3のいずれかに記載のCFRP筋。
【請求項5】
前記CFRP筋は、中空断面を有するCFRP製の製品を切断加工したものである
請求項1乃至4のいずれかに記載のCFRP筋。
【請求項6】
主筋と、CFRPによって形成された複数のCFRP筋と、前記主筋及び前記CFRP筋を覆うコンクリートと、を有し、
複数の前記CFRP筋は、該CFRP筋に形成された嵌合溝部を介して連続して接続され、前記主筋の軸方向に配置される
ことを特徴とするCFRP筋による補強コンクリート構造。
【請求項7】
複数の前記CFRP筋は、環状に連続して接続され、前記主筋の軸方向に配置される
請求項6に記載のCFRP筋による補強コンクリート構造。
【請求項8】
前記CFRP筋の接続部と、該接続部と対向する位置にあるCFRP筋の接続部とに渡って、前記環状に連続して接続されたCFRP筋が外側に広がることを抑制可能な拘束部材が設けられる
請求項7に記載のCFRP筋による補強コンクリート構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)筋及びCFRP筋を使用して構築される補強コンクリート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木構造物の配筋において、柱の座屈防止とせん断補強のために、主筋群の一部を囲む環状帯筋を使用して、環状帯筋の投影断面の一部が重なるように複数の環状帯筋を配置する場合がある。このような配筋は「インターロッキング配筋」と呼ばれ、図12の破線部からもわかるように、配筋には手間がかかり、作業効率が悪いという課題があった。
【0003】
上記のような課題を解決するために、特許文献1では、環状帯筋群と、別の環状帯筋群とを断面が重ならないように配置し、これらの環状帯筋群を相互に接続する「リンク筋」を設置する構造が提案されている(図12の中央部分を参照)。これにより、構築物のせん断強度を損ねることなく、施工手間の軽減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-316180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来技術において、個別の環状帯筋群を見たとき、環状帯筋同士が物理的に接続されていないため、1つずつの環状帯筋の投影断面が重なる部分に複数の主筋を配置し、1つの環状帯筋が負担する荷重を、別の環状帯筋に伝達することが必要となる。そのため、曲げ耐力の観点から構造上必要とされる主筋の数よりも多くの主筋を設置する必要があり、依然として大きな施工手間を要するものとなっていた。
【0006】
そこで、本願発明は、上記した問題点等に鑑み、従来よりも施工性に優れたCFRP筋及びCFRP筋を使用して構築される補強コンクリート構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)CFRPによって形成されるCFRP筋であって、前記CFRP筋は、該CFRP筋に隣接して設けられるCFRP筋と嵌合して接続することが可能な嵌合溝部を有し、前記嵌合溝部は、前記CFRP筋の接続方向に平行な端面の内の少なくとも一方の端面に形成されることを特徴とするCFRP筋である。
【0008】
上記(1)に係る発明によれば、CFRPによって形成されるCFRP筋を、嵌合溝部を介して容易に接続することが可能となる。このような接続態様により、CFRP筋全体に一体的で高い強度を付与することが可能となり、さらに、種々の大きさの断面を有する構造物に対して手間なく配筋することが可能となる。また、CFRP筋の高い強度特性により、従来のせん断補強鉄筋、横拘束鉄筋の配筋量を低減することが可能となり、施工性の向上を図ることも可能となる。
【0009】
(2)前記CFRP筋は、環状、弧状、矩形状、多角形状およびく字状のうち、いずれかの形状を有する上記(1)に記載のCFRP筋である。
【0010】
上記(2)に係る発明によれば、図12に示されるような「インターロッキング配筋」の環状帯筋が重なる部分に従来配置していた主筋を、例えば図7に示されるように省略することが可能となる。すなわち、従来補強のために配筋していた鉄筋を省略しても、高い強度特性を得ることが可能となるとともに、施工性の向上を図ることが可能となる。また、種々の形状を有する本発明のCFRP筋を、任意の数で連続して接続することが可能となるため、様々な構造物の断面に対応して本発明のCFRP筋を使用することが可能となり、施工性の向上を図ることが可能となる。
【0011】
(3)前記CFRP筋は、複数の前記嵌合溝部が形成されるとともに少なくとも1の嵌合溝部は他の嵌合溝部の反対方向に開口している上記(1)又は(2)に記載のCFRP筋である。
【0012】
上記(3)に係る発明によれば、少なくとも1の嵌合溝部を他の嵌合溝部とは反対の方向に開口するように形成することで、接続された複数のCFRP筋が外れ難くなり、より一体的にすることが可能となる。
【0013】
(4)前記CFRP筋は、該CFRP筋を貫通するジベル孔を備えている上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のCFRP筋である。
【0014】
上記(4)に係る発明によれば、CFRP筋の外周面から内周面に貫通するジベル孔によってコンクリートジベルが形成され、コンクリートとの極めて高い付着強度を確保することが可能となる。
【0015】
(5)前記CFRP筋は、中空断面を有するCFRP製の製品を切断加工したものである上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のCFRP筋である。
【0016】
上記(5)に係る発明によれば、例えば、廃棄予定のCFRP製高圧ガスタンクなど、中空断面を有するCFRP製の製品を切断加工することでCFRP筋を製造することが可能となり、安価に資材を調達することができるとともに、資源の有効活用に繋げることができる。
【0017】
(6)主筋と、CFRPによって形成された複数のCFRP筋と、前記主筋及び前記CFRP筋を覆うコンクリートと、を有し、複数の前記CFRP筋は、該CFRP筋に形成された嵌合溝部を介して連続して接続され、前記主筋の軸方向に配置されることを特徴とするCFRP筋による補強コンクリート構造である。
【0018】
上記(6)に係る発明によれば、CFRPによって形成される複数のCFRP筋を、嵌合溝部を介して容易に接続することが可能となる。このような接続態様により、CFRP筋全体に一体的で高い強度を付与することが可能となる。さらに、種々の大きさの断面を有する構造物に対応して手間なく配筋することが可能となる。また、CFRP筋の高い強度特性により、従来のせん断補強鉄筋、横拘束鉄筋の配筋量を低減することが可能となり、施工性の向上を図ることも可能となる。
【0019】
(7)複数の前記CFRP筋は、環状に連続して接続され、前記主筋の軸方向に配置される上記(6)に記載のCFRP筋による補強コンクリート構造である。
【0020】
上記(7)に係る発明によれば、複数のCFRP筋を、環状に連続して接続し、主筋の軸方向に配置することで帯筋として使用することが可能となる。
【0021】
(8)前記CFRP筋の接続部と、該接続部と対向する位置にあるCFRP筋の接続部とに渡って、前記環状に連続して接続されたCFRP筋が外側に広がることを抑制可能な拘束部材が設けられる上記(7)に記載のCFRP筋による補強コンクリート構造である。
【0022】
上記(8)に係る発明によれば、CFRP筋の接続部に拘束部材を設けることで、弧状のCFRP筋が外側に広がることを抑制することが可能となり、特にじん性能が要求される場所に設けることでその効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態におけるCFRP筋の接続態様を示した斜視図である。
図2】本発明の一実施形態において、(a)は弧状のCFRP筋の接続態様を、(b)は環状のCFRP筋の接続態様を示した斜視図である。
図3】本発明の一実施形態において、(a)はCFRP筋の断面構成を説明する図であり、(b)はCFRP筋の製造方法の一例を説明する図である。
図4】CFRP筋の製造方法の一例であって、CFRP筋の切り出し方法を説明する図である。
図5】CFRP筋の製造方法の一例であって、(a)は弧状のCFRP筋における嵌合溝部の形成位置を、(b)は環状のCFRP筋における嵌合溝部の形成位置を説明する図である。
図6】本発明のCFRP筋による効果の一例を説明する図である。
図7】(a)~(c)は、本発明のCFRP筋をフープ筋とした場合の配筋態様を示した平面図である。
図8】(a)及び(b)は、本発明のCFRP筋をフープ筋とした場合の配筋態様を示した平面図である。
図9】(a)及び(b)は、本発明のCFRP筋をフープ筋とした場合の配筋態様であって、拘束部材の配置態様を示した平面図である。
図10】(a)は、本発明の別実施形態におけるCFRP筋の接続態様を示した斜視図であり、(b)は、本発明の別実施形態におけるCFRP筋の形状を示した斜視図である。
図11】本発明の別実施形態におけるCFRP筋の製造方法を説明する図である。
図12】従来技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明のCFRP筋及びCFRP筋を使用して構築される補強コンクリート構造の一実施形態について説明する。なお、本実施形態のCFRP筋は、炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」と称す。)を主構成材としたものである。
【0025】
図1には、本発明の実施形態における、CFRP筋1の接続態様が示されており、環状のCFRP筋1aに対して、複数の弧状のCFRP筋1bが連続して接続されている様子が斜視図で示されている。
【0026】
また図2(a)には、弧状のCFRPフープ筋1bの構成及び接続方法が示され、図2(b)には、環状のCFRP筋1aの構成及び接続方法が示されている。図2(a)に図示されるように、本実施形態の弧状のCFRP筋1bには、当該弧状のCFRP筋1bに隣接して設けられる弧状のCFRP筋1bや環状のCFRP筋1aと嵌合して接続することが可能な嵌合溝部11が形成され、弧状のCFRP筋1bの接続方向に平行な端面に当該嵌合溝部11が形成されている。
【0027】
本実施形態の上記弧状のCFRP筋1bに形成される嵌合溝部11は、弧状のCFRP筋1bの接続方向に平行な両端面にそれぞれ1つの嵌合溝部11が形成され、互いに反対方向に開口するように形成されている。なお、2つの嵌合溝部11を一方の端面に形成し、それぞれの嵌合溝部11の開口方向が同一方向となるように嵌合溝部11を形成してもよいが、互いに反対方向に開口させることで、嵌合溝部11に嵌合する他の弧状のCFRP筋1bや環状のCFRP筋1aが外れ難くなり、より一体的にすることができる。また、嵌合溝部11に公知の接着剤を塗布することにより、弧状のCFRP筋1aを強固に接続することができる。
【0028】
また図2(b)に図示されるように、本実施形態の環状のCFRP筋1aには4つの嵌合溝部11が形成されている。すなわち、当該環状のCFRP筋1aに隣接して設けられる弧状のCFRP筋1bや環状のCFRP筋1aと嵌合して接続することが可能な嵌合溝部11が形成され、環状のCFRP筋1aの接続方向に平行な端面に当該嵌合溝部11が形成されている。
【0029】
本実施形態の上記環状のCFRP筋1aに形成される嵌合溝部11は、環状のCFRP筋1aの中心線上と当該中心線と直交する中心線上の対向する位置にそれぞれ形成されている。さらにそれぞれの嵌合溝部11が、各中心線上の一方の端面と他方の端面に互いに反対方向に開口するように形成されている。
【0030】
なお、4つの嵌合溝部11を一方の端面に形成し、嵌合溝部11の開口方向を全て同一方向としてもよいが、少なくとも1つの嵌合溝部11の開口方向を他の嵌合溝部11の反対方向に開口させることで、嵌合溝部11に嵌合する他の弧状のCFRP筋1bや環状のCFRP筋1aが外れ難くなり、より一体的にすることができる。また、嵌合溝部11に公知の接着剤を塗布することにより、環状のCFRP筋1aを強固に接続することができる。
【0031】
また、環状のCFRP筋1a同士を嵌合して接続する場合は、少なくとも接続部の嵌合溝部11の開口方向は、同一方向とする必要がある。
【0032】
図3(a)には、本実施形態のCFRP筋1(1a、1b、1b’を含む)の断面構成が示されている。すなわち、CFRP筋1の内周面13側には、所定の厚みを有する樹脂製のライナー15が形成されており、その外周にはCFRP16による層が形成されている。さらにその外周にはガラス繊維強化プラスチック(以下、「GFRP」と称す。)17による層が形成されている。
【0033】
CFRPの材料強度は、一般に異形鉄筋SD345の6~10倍にもなるため、本実施形態のCFRP筋1を使用することにより、従来のせん断補強鉄筋や横拘束鉄筋等の配筋量を低減することが可能となり、施工性を向上させることが可能となる。
【0034】
次に、図3(b)には、本実施形態のCFRP筋1の製造方法の一例が示されている。より詳細に説明すると、まず、金型に樹脂等を流し込んで所定の内径及び所定の長さを有する円筒形のライナー15を形成する。そして、その外周面にエポキシ樹脂を含浸したCFRP16をヘリカル巻によって巻き回す。
【0035】
さらに、CFRP16の外周面にエポキシ樹脂を含浸したGFRP17の炭素繊維束を巻き回し、熱風をあてることによってCFRP16及びGFRP17を硬化させている。このような構成により、CFRP16によって非常に高い強度を発揮し、さらにその外周にあるGFRP17がCFRP16を強固に保護している。
【0036】
以上のようにして、図3(b)に図示されるような3層構造の円筒体20が形成される。そして、硬化した円筒体20を、必要なCFRP筋1、1aの幅寸法に応じた所定の間隔(図示一点鎖線の切断ライン参照)で輪切りして切り出す。このようにして、1本の円筒体20からCFRP筋1を複数個製造することができる。
【0037】
図4には、幅(D)50mmで切り出された厚み(t)25mm、直径(W)300mmのCFRP筋1の斜視図が示されている。そして、図示されるCFRP筋1に嵌合溝部11を形成することで本実施形態の環状のCFRP筋1aを得ることができる。また、CFRP筋1の中心から見て120°となる位置(図示破線部)で切断して3等分し、嵌合溝部11を形成することで、本実施形態の弧状のCFRP筋1bを得ることができる。
【0038】
なお、本実施形態の弧状のCFRP筋1bは必ずしも環状のCFRP筋を3等分して切断するものに限定されるものではなく、任意の位置で切断するようにしてもよい。例えば、図8(a)に示されるC型に形成されたCFRP筋1b’も、本発明の弧状のCFRP筋1bに含まれるものである。
【0039】
続いて、図5(a)には弧状のCFRP筋1bに形成される嵌合溝部11の位置関係が図示されており、CFRP筋1を3等分する前、又は、3等分した後に切削して嵌合溝部11を形成する。本実施形態の嵌合溝部11は、幅、深さともに25mmとしている。また、各弧状のCFRP筋1bに形成される2つの嵌合溝部11の開口方向は、前述したように、互いに反対方向に開口するように形成されている。
【0040】
図示されるように、各弧状のCFRP筋1bに形成される2つの嵌合溝部11は、環状のCFRP筋1の中心から見て90°となる位置に形成されており、複数の弧状のCFRP筋1bを接続したときに、常に2つの弧状のCFRP筋1bが直交して定着を大きくとることが可能となっている。以上のようにして形成された本実施形態の弧状のCFRP筋1bは、嵌合溝部11の切削部分のみが廃棄されるため、材料のロスを抑えて経済的に弧状のCFRP筋1bを作製することが可能である。
【0041】
また、図5(b)には環状のCFRP筋1aに形成される嵌合溝部11の位置関係が図示されており、切削して嵌合溝部11が形成され、幅、深さともに25mmとしている。前述したように、環状のCFRP筋1aに形成される嵌合溝部11は、環状のCFRP筋1aの中心線(図示一点鎖線)上と当該中心線と直交する中心線(図示二点鎖線)上の対向する位置にそれぞれ形成されている。さらにそれぞれの嵌合溝部11が、各中心線上の一方側の端面(図示実線部)と他方側の端面(図示破線部)に互いに反対方向に開口するように形成されている。
【0042】
図6に示されるように、嵌合溝部11を介して連続して接続される弧状のCFRP筋1bは、それぞれ円弧状となっているため、効率よく構造体50のコンクリートを拘束することができる。加えて、接続部となる嵌合溝部11から弧状のCFRP筋1bの側端部にかけては、接続したときに図示されるような定着部14が形成されるため、コンクリートとの付着を十分に取ることが可能となる。
【0043】
次に、前述したCFRP筋1(1a、1b、1b’を含む)を使用して構築される補強コンクリート構造の実施の態様について説明する。
【0044】
図7(a)~(c)には、構造体50におけるCFRP筋1の配筋態様の一例が断面図で示されている。図7(a)及び(b)に図示されるように、環状のCFRP筋1aと複数の弧状のCFRP筋1bを、嵌合溝部11を介して環状に連続して接続し、主筋2の軸方向に帯筋として所定間隔で配置することができる。
【0045】
また、図7(c)に図示されるように、環状のCFRP筋1a同士を、嵌合溝部11を介して連続して接続し、主筋2の軸方向に帯筋として所定間隔で配置することも可能である。このように、本発明のCFRP筋1を使用して構築される補強コンクリート構造では、図12の従来技術のような「インターロッキング配筋」や「リンク筋」の設置を必要としないため、大幅に配筋量を低減することが可能となり、施工性の向上を図ることも可能となる。
【0046】
また、図8(a)には、さらに大きな断面を有する構造体50におけるCFRP筋1の配筋態様の一例が断面図で示されている。図8(a)の破線部に示されるように、C型に形成された弧状のCFRP筋1b’を使用することも可能であり、このような構成により、接続された複数のCFRP筋1の一体性と強度の向上を図ることが可能となる。
【0047】
図8(b)には図8(a)よりもさらに大きな断面(2m×1.2m程度)を有する構造体50におけるCFRP筋1の配筋態様の一例が断面図で示されている。図示されるように、断面の中間部分にCFRP筋1を配筋することで、大断面の構造体50に対応することが可能となる。なお、破線部で示されるように、弧状のCFRP筋1bを両方に配筋してもよいし、一方側のみに配筋するようにしてもよい。このように、環状のCFRP筋1aや複数の弧状のCFRP筋1bを、環状に連続して接続し、不図示の主筋の軸方向に帯筋として所定間隔で配置することが可能である。
【0048】
以上のように、本発明のCFRP筋による補強コンクリート構造では、図7図8に示されている環状のCFRP筋1a同士が、嵌合溝部11を介して噛み合うように物理的に接続されるので、1つの環状のCFRP筋1aが負担する荷重が、他の環状のCFRP筋1aにも弧状のCFRP筋1bを介して伝達することが可能となる。したがって、図12に示されるような、従来、荷重伝達のために必要だった主筋を設置する必要がなくなり、配筋における施工手間を大幅に低減することが可能となる。
【0049】
加えて、本発明のCFRP筋は炭素繊維強化プラスチックから構成されており、当該炭素繊維強化プラスチックは鋼材よりも強度が高いため、その使用量が軽減され、その分、材料コストや施工手間を大幅に軽減することが可能となる。
【0050】
(別実施形態)
以上、本発明のCFRP筋及びCFRP筋を使用して構築される補強コンクリート構造について説明したが、本発明は必ずしも前述した実施形態に限定されるものではなく、以下のような変更が可能である。
【0051】
例えば、図9(a)及び(b)に示されるように、弧状のCFRP筋1bの接続部と、当該接続部と対向する弧状のCFRP筋1bの接続部に渡って、弧状のCFRP筋1bが外側に広がることを抑制可能な拘束部材30を設けることが可能である。もちろん、環状のCFRP筋1aを連続して接続した場合も同様に、その接続部に渡って、上記拘束部材30を設けることが可能である。
【0052】
拘束部材30としては、鉄筋やPC鋼棒のほか、棒状のCFRP筋を使用することができる。また、拘束部材30の端部は機械式定着とするのが望ましいが、フックとすることも可能である。拘束部材30は特にじん性能が要求される場所に設けることでその効果をより発揮することができる。
【0053】
また、図10(a)に示されるように、弧状のCFRP筋1bの接続部に対して補強シート19を設けることが可能である。例えば、CFRPシートを配置してエポキシ樹脂を含浸・硬化させることで接続部を補強することが可能である。もちろん、環状のCFRP筋1aの接続部を、上記補強シート19によって補強することも可能である。
【0054】
加えて、図10(a)に示されるように、CFRP筋1(1a、1b、1b’を含む)に、当該CFRP筋1の外周面12から内周面13に貫通するジベル孔18を形成してもよい。これにより、躯体コンクリートが打設された後、当該ジベル孔18によってコンクリートジベルが形成される。
【0055】
より詳細に説明すると、前述した製造方法によって得られる本実施形態のCFRP筋1は、切断面や外周面12及び内周面13が滑らかに形成されている。そこで、CFRP筋1にジベル孔18を削孔して形成し、コンクリートとの付着強度を向上させることが可能となる。
【0056】
なお、前述したように、本実施形態のCFRP筋1はCFRP16をヘリカル巻によって巻き回した円筒体20から切り出されているため、ジベル孔18を削孔しても、縦横無尽に入った繊維によって、その形状を強固に維持することが可能である。
【0057】
また、前述した実施形態では、CFRP筋1の製造からコンクリート構造への適用方法について記載した。しかし、必ずしもCFRP製に限定されるものではなく、例えば、主構成材を強度の高いガラス繊維やアラミド繊維などとすることも可能であり、前述したCFRP筋1と同様の製造方法やコンクリート構造への適用が実現可能である。
【0058】
また、前述したCFRP筋1は、ライナー15と、CFRP16と、GFRP17による3層構造を有したものであったが、必ずしもこのような断面構成に限定されるものではなく、少なくともCFRP16を主とした構造であれば、本発明の作用効果を得ることが可能である。同様に、CFRP16をヘリカル巻によって巻き回すことについても、言うまでもなく、必ずしもヘリカル巻によって巻き回さなければ本発明のCFRP筋1が得られないわけではない。
【0059】
また、ライナー15は必ずしも樹脂製に限定されるものではなく、金属製などの樹脂以外のもので構成することも可能である。加えて、ライナー15は必ずしも金型によって作製されものに限られるものではなく、押出し成形によって作製されるものであってもよい。なお、本発明のCFRP筋において、ライナー15は必須のものではなく、取り除いて使用することも可能であるし、ライナー15なしで成形されたものであってもCFRP筋として使用することが可能である。
【0060】
また、CFRP筋1とコンクリートとの付着強度の向上を図る方法として、CFRP筋1の外周面12や内周面13、CFRP筋1の接続方向に平行な端面(輪切りした切断面)を表面目荒しすることや、凹凸部を設けるようにしてもよい。なお、繊維方向が周方向に存在するので、CFRP筋1の接続方向に平行な端面(輪切りした切断面)に表面目荒しや凹凸部を設けるなどの加工を施す方が容易であり、且つ、付着性能を担保できるので、CFRP筋1の接続方向に平行な端面(輪切りした切断面)への加工がより好ましい。
【0061】
また、図7図8に示された実施形態では、複数の弧状のCFRP筋1bを環状に接続し、帯筋として使用したが、必ずしもこのような配筋態様に限定されるものではない。例えば、複数の弧状のCFRP筋1bを直線状に接続して、棒鋼の代替材料として配筋することも可能である。
【0062】
図1図2に示された前述の実施形態では、弧状のCFRP筋1bに2つの嵌合溝部11を形成し、環状のCFRP筋1aには4つの嵌合溝部11を形成したが、必ずしもこのような態様に限定されるものではなく、嵌合溝部11の形成位置や形成箇所数は、適宜変更することが可能である。
【0063】
本発明のCFRP筋1(1a、1b、1b’を含む)は、図7図8に示されるような断面を有する柱や壁のほか、梁やスラブ等、種々の構造体にも適用することが可能であり、前述したような配筋量を低減や、施工性の向上を図ることが可能となる。
【0064】
また、前述した実施形態では、硬化した円筒体20を成形し、これを切断加工してCFRP筋1を製造したが、必ずしもこのような実施形態に限定されるものではなく、最初から所望の形状にCFRP筋1を成形するようにしてもよい。もちろん、円形断面を有する円筒体20に限らず、矩形断面や多角形断面を有する中空体を成形し、これを切断加工してCFRP筋1を製造してもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、環状及び弧状のCFRP筋1(1a、1b、1b’)を例示したが、必ずしもこのような形状に限定されるものではなく、図10(b)に示されるようなく字状のCFRP筋1cとすることも可能であるし、環状に限らず、矩形や多角形状のCFRP筋1(不図示)とすることも可能である。
【0066】
(CFRP製高圧ガスタンクの再利用)
前述した実施形態では、CFRP筋1を新規に製造する形態について記載したが、本発明のCFRP筋は、水素などを充填可能な廃棄予定のCFRP製高圧ガスタンク(廃高圧タンク)を再利用することによって製造することも可能である。
【0067】
図11には、CFRP製高圧ガスタンク100の模式断面図が示されている。CFRP製高圧ガスタンク100は、前述した実施形態と同様に、図3(a)に示されるような断面構成を有している。したがって、CFRP筋1として必要な幅寸法に応じて、図示一点鎖線の切断ラインで輪切りし、複数のCFRP筋1を切り出し、さらに切断加工することで弧状のCFRP筋1bを製造することが可能である。
【0068】
CFRP製高圧ガスタンク100は、高圧ガス基本法により、劣化がなくとも15年で廃棄しなければならない。そこで、上記したように廃棄予定のCFRP製高圧ガスタンク100から、CFRP筋1を製造することで、安価に資材を調達することができるとともに、資源の有効活用に繋げることができる。
【0069】
一方で、様々な大きさ(直径)を有したCFRP製高圧ガスタンク100があるわけではなく、廃棄予定のCFRP製高圧ガスタンク100を輪切りして環状のCFRP筋1を切り出すという製造方法であるが故に、ある一定の大きさ(直径)の環状のCFRP筋1しか切り出すことはできない。しかし、前述したように、環状のCFRP筋1aを切断して弧状のCFRP筋1bを切り出し、これらを複数接続することにより、任意の大きさの断面を有する構造体50に適用することが可能となる。
【0070】
上記した実施形態では、CFRP製高圧ガスタンク(廃高圧タンク)を再利用する一態様について記載した。しかし、CFRP筋1として再利用できるのは、必ずしもCFRP製高圧ガスタンク(廃高圧タンク)のみに限定されるものではない。すなわち、高圧ガスを貯留するものに限らず、低圧のガスや、液体などを貯留するタンク製品、さらには、タンク製品に限らず、中空円筒形状を有する製品であり、その主構成材がCFRP製であれば、上記したCFRP製高圧ガスタンク(廃高圧タンク)と同様の再利用方法によってCFRP筋1を製造することが可能である。加えて、断面形状も円筒形に限らず、中空断面を有するものであれば、楕円・矩形・多角形・小判形などの形状でも、同様に切断加工して本発明のCFRP筋を製造することが可能である。また、中空断面を有するものに限らず、ドーム状、板状のものなどの様々な形状のCFRP製品を切断加工して、本発明のCFRP筋を製造することも当然可能である。
【0071】
また、本発明の範囲は、上記した各実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施形態に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 CFRP筋
2 主筋
1a 環状のCFRP筋
1b 弧状のCFRP筋
1b’ C型に形成された弧状のCFRP筋
1c く字状のCFRP筋
11 嵌合溝部
12 外周面
13 内周面
14 定着部
15 ライナー
16 CFRP
17 GFRP
18 ジベル孔
19 補強シート
20 円筒体
30 拘束部材
50 構造体
100 CFRP製高圧ガスタンク(廃高圧タンク)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12