(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109672
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】水硬性組成物および壁部材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20230801BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20230801BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20230801BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20230801BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/28
C04B22/06 Z
C04B18/14 A
C04B16/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110367
(22)【出願日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2022011086
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優志
(72)【発明者】
【氏名】今井 和正
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112PA10
4G112PA24
4G112PA29
4G112PB03
(57)【要約】
【課題】CO2排出量の低減化を図り、かつ、CO2の安定した保持や貯蔵を図り、なおかつ、耐火性能の向上を図ることを可能とした水硬性組成物および壁部材を提案する。
【解決手段】水と、結合材と、炭酸カルシウムと、骨材と、有機繊維とを含む水硬性組成物である。結合材は、高炉スラグと、膨張材と、消石灰のうち少なくとも1種類を含み、結合材と炭酸カルシウムとからなる粉体中の炭酸カルシウムの割合が8.6質量%~45質量%の範囲内である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体と、水と、を含む水硬性組成物であって、
前記粉体は、
炭酸カルシウムと、
高炉スラグ、膨張材、消石灰のうちの少なくとも1種類と、
有機繊維と、を含み、
前記粉体中の前記炭酸カルシウムの割合が、8.6質量%~45質量%の範囲内であることを特徴とする、水硬性組成物。
【請求項2】
前記炭酸カルシウムは、軟質炭酸カルシウムであることを特徴とする、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムの割合が、33質量%~45質量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記有機繊維が、前記粉体1m3あたり1.0~3.0kgの範囲内で添加されていることを特徴とする、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
JIS A 1150に準じて測定されるスランプフロー値が40cm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の水硬性組成物の硬化体で形成されていることを特徴とする、壁部材。
【請求項7】
壁厚が150mm以上であることを特徴とする、請求項6に記載の壁部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムを含有する水硬性組成物、およびこの水硬性組成物により形成された壁部材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル等の水硬性組成物の結合材を構成するポルトランドセメントは、製造時に二酸化炭素(CO2)を排出する。そのため、ポルトランドセメントに代えて、高炉スラグやフライアッシュなどを使用することで、CO2排出量の削減を図る場合がある(例えば、特許文献1参照)。
近年、CO2を回収して炭酸カルシウムを製造する技術が開発されている。この技術によって製造された炭酸カルシウムは、大気や排気ガス中のCO2を固定している。水硬性組成物中に上記の炭酸カルシウムを含有させれば、CO2を固定あるいは貯蔵することができ、CO2収支のマイナス化を図ることができる。
ところで、コンクリート部材が高温に曝されると、コンクリート中の水分が気化して膨張することで、表面が剥落する現象(爆裂現象)が生じる場合がある。特に、強度が高いコンクリートは、通常のコンクリートよりも組織が緻密であるため爆裂する可能性が高いことが知られている。コンクリート部材が爆裂すると、断面が細くなり、内部温度が早期に上昇するため、耐荷能力・耐久性が低下する。
爆裂の発生を抑制する技術として、例えば、特許文献2には、ポルトランドセメントを含有する設計基準強度が60N/mm2を超える超高強度コンクリートについて、有機繊維を含有させる耐爆裂性コンクリートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-148434号公報
【特許文献2】特開2017-124958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭酸カルシウムを含有し、ポルトランドセメントを含まないコンクリートでも爆裂のリスクがある。
本発明は、CO2排出量の低減化を図り、かつ、CO2の安定した保持や貯蔵を図り、なおかつ、耐火性能の向上を図ることを可能とした水硬性組成物と、この水硬性組成物を利用した壁部材を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、高炉スラグ、膨張材、消石灰のうちの少なくとも1種類を含む結合材と、炭酸カルシウムとを含む水硬性組成物について、有機繊維、炭酸カルシウムの含有量を調整することで、硬化後に高温に曝された場合であっても、爆裂の発生を抑制できることを見出し、本発明を創案するに至った。すなわち、本発明は、高炉スラグ、膨張材、消石灰のうちの少なくとも1種類を含む結合材と、有機繊維、炭酸カルシウムとを含む水硬性組成物であって、粉体中の前記炭酸カルシウムの割合が8.6質量%~45質量%の範囲内、より好ましくは33質量%~45質量%の範囲内である。
かかる水硬性組成物によれば、CO2排出量の低減化が可能となり、また、炭酸カルシウムの使用によりCO2の安定した保持や貯蔵が可能となる。また、有機繊維を含有していることにより、高温に曝された際の爆裂を抑制できる。この水硬性組成物の硬化体で形成された壁部材を利用すれば、火災時等において高温に曝された場合であっても、爆裂による被害が抑制される。このような壁部材は、厚さが150mm以上であるのが望ましい。
炭酸カルシウムには、軟質炭酸カルシウムを使用するのが望ましい。
なお、このような水硬性組成物としては、前記有機繊維が前記粉体1m3あたり1.0kg以上3.0kg以下の範囲内で添加されているのが好ましい。
また、硬化前に良好な流動性を確保する観点から、「JIS A 1150(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準じて測定されるスランプフロー値が40cm以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水硬性組成物および壁部材によれば、CO2排出量の低減化とCO2の安定した保持や貯蔵を可能とし、なおかつ、耐火性能の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】加熱実験の炉と供試体の配置を示す図であって、(a)は正面図、(b)断面図である。
【
図2】加熱実験時の炉内の温度を示すグラフであって、(a)は調合A、(b)は調合Bを示す。
【
図3】調合Cの加熱実験時の炉内の温度を示すグラフである。
【
図4】加熱実験後の供試体を示す写真であって、(a)は調合A、(b)は調合B、(c)は調合Cである。
【
図5】加熱実験前後の供試体の重量比を示すグラフであって、(a)は調合A、(b)は調合Bである。
【
図6】調合Cの加熱実験前後の供試体の重量比を示すグラフである。
【
図7】小型壁試験体を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)の断面図である。
【
図8】小型壁試験体に対する加熱実験の炉と小型壁試験体の配置を示す図であって、(a)は正面図、(b)断面図である。
【
図9】(a)は実施例A-21の加熱実験時の炉内の時間毎の平均温度を示すグラフ、(b)は実施例A-21の加熱実験時の小型壁試験体の時間毎の非加熱面温度を示すグラフであるである。
【
図10】(a)は実施例A-22の加熱実験時の炉内の時間毎の平均温度を示すグラフ、(b)は実施例A-22の加熱実験時の小型壁試験体の時間毎の非加熱面温度を示すグラフであるである。
【
図11】(a)は実施例A-23の加熱実験時の炉内の時間毎の平均温度を示すグラフ、(b)は実施例A-23の加熱実験時の小型壁試験体の時間毎の非加熱面温度を示すグラフであるである。
【
図12】(a)は実施例B-21の加熱実験時の炉内の時間毎の平均温度を示すグラフ、(b)は実施例B-21の加熱実験時の小型壁試験体の時間毎の非加熱面温度を示すグラフであるである。
【
図13】(a)は実施例A-21の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真、(b)は実施例A-21の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真である。
【
図14】(a)は実施例A-22の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真、(b)は実施例A-22の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真である。
【
図15】(a)は実施例A-23の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真、(b)は実施例A-23の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真である。
【
図16】(a)は実施例B-21の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真、(b)は実施例B-21の加熱実験前の小型壁試験体の加熱面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、鉄筋コンクリート造建物を構築する際に使用するコンクリートについて説明する。
本実施形態のコンクリート(水硬性組成物)は、水と、結合材と、炭酸カルシウムと、骨材と、ポリプロピレン繊維とを混錬してなる。
コンクリートは、JIS A 1150に準じて測定されるスランプフロー値が40cm以上になるように配合する。
【0009】
結合材は、高炉スラグと、膨張材と、消石灰とを含有してなり、ポルトランドセメントは含んでいない。
高炉スラグには、JIS(日本工業規格)R5211「高炉セメント」で使用される高炉スラグ微粉末またはJIS A6206「コンクリート用高炉スラグ」に適合する高炉スラグ微粉末を使用するのが望ましい。また、高炉スラグは、比表面積が2000~10000cm2/gのもの、好ましくは3500~7000cm2/gのものを使用するのが望ましい。
膨張材には、例えば、JIS A6202「コンクリート用膨張材」に規定される膨張材を使用すればよい。膨張材は、水硬性組成物全体に対して2~9質量%割合で添加するのが望ましい。
消石灰には、例えば、JIS R9001「工業用石灰」に規定されるものを使用すればよい。また、生石灰は水と接触すると消石灰になるため、例えば、JIS R9001「工業用石灰」に規定される生石灰を消石灰の代わりに使用することができる。なお、この場合には、生石灰が消石灰に変化する際に必要な水の量を補正しておくとよい。
【0010】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、結合材と炭酸カルシウムとからなる粉体中の割合が、8.6質量%~45質量%の範囲内になるように添加する。炭酸カルシウムとして、例えば、石灰石を粉砕、分級した重質炭酸カルシウムと呼ばれる天然炭酸カルシウム、および化学反応で微細な結晶を析出させた軽質炭酸カルシウムと呼ばれる合成炭酸カルシシウムを使用可能である。なお、CO2を回収して製造された炭酸カルシウムも、カルシウムとCO2の反応により合成されていることから、軽質炭酸カルシウムとして扱うことができる。
ポリプロピレン繊維は、粉体(結合材+炭酸カルシウム)1m3あたり1.0~3.0kgの範囲内で添加されている。ポリプロピレン繊維の繊維長は、限定されるものではないが、例えば、15mm以下、好ましくは、10~12mmの範囲内とする。また、ポリプロピレン繊維の繊度は、例えば、35デシテックス以下、好ましくは25~35デシテックスの範囲内もしくは2~2.5デシテックスの範囲内とする。ここで、デシテックスは、10000mの糸の質量をグラム単位であらしたものである。このような繊維としては、例えば、バルチップPw・Jr(萩原工業株式会社製)や、ダイワボウPZ(ダイワボウポリテック株式会社製)を用いることができる。
【0011】
本実施形態のコンクリートによれば、産業副産物である高炉スラグを使用しているので、資源の有効利用が図られ、環境負荷の低減に貢献できる。
また、炭酸カルシウムとして、大気や排気ガス中のCO2を回収して製造されたものを使用すれば、CO2の安定した保持や貯蔵が可能となり、ゆえに、CO2収支をマイナスにすることが可能である。
また、ポリプロピレン繊維を含有しているため、高温に曝された際の爆裂を抑制できる。本実施形態のコンクリートにより構成されたコンクリート部材が火災時等において高温に曝されると、ポリプロピレン繊維が溶融してコンクリート部材内に空隙が形成される。そのため、高温により蒸発したコンクリート内の水分(蒸気)の逃げ道となる。ゆえに、コンクリート部材の内部における水蒸気圧の上昇を抑制し、表面の剥落を抑制できる。なお、本実施形態では有機繊維としてポリプロピレン繊維を使用した場合を説明しているが有機繊維の種類は限定されるものではない。すなわち、高温により繊維が溶融してコンクリート部材内に空隙を形成し、水分(蒸気)の逃げ道となる有機繊維であれば、同様の効果を得ることができる。有機繊維としては、100~200℃程度の高温で融解した時に効果が期待できればよく、ビニロンやアクリルの有機繊維でもよい。
スランプフロー値で40cm以上を確保しているため、施工に必要な流動性を確保している。
本実施形態のコンクリートを鉄筋コンクリート造建物に使用すれば、火災時等における爆裂を抑制できるとともに、二酸化炭素排出量削減に貢献できる。また、本実施形態のコンクリートを使用すれば、耐火性能を有する壁部材(例えば、カーテンウォールや間仕切壁)を構築できる。
【0012】
以下、ポルトランドセメントを含んでおらず、粉体中の炭酸カルシウムの割合が、8.6質量%~45質量%の範囲内である本実施形態のコンクリートのワーカビリティおよび耐火性能を確認するために実施した実験結果を示す。表1に実験に使用したコンクリートの配合表を示す。なお、調合Aは粉体中の炭酸カルシウムの割合を45質量%とし、調合Bは粉体中の炭酸カルシウムの割合を33質量%、調合Cは粉体中の炭酸カルシウムの割合を8.6質量%とした。
【0013】
実験には、以下の材料を使用した。
高炉スラグ BFS:高炉スラグ微粉末 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4410cm2/g、JIS A6206に適合
膨張材 EX:膨張材30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積4040cm2/g、JIS A6202に適合
消石灰 CH:消石灰特号,密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001に適合
軽質炭酸カルシウム Ac: 密度2.64g/cm3,ブレーン比表面積3560 cm2/g
重質炭酸カルシウム LSP:密度2.72g/cm3,ブレーン比表面積4850 cm2/g
細骨材 S1:山砂 千葉県市原市産 表乾密度2.60g/cm3
細骨材 S2:砕砂(石灰岩) 高知県鳥形山産 表乾密度2.67g/cm3
粗骨材 G:砕石(石灰岩) 北海道峩朗産 表乾密度2.70g/cm3
水 W:上水道水
ポリプロピレン繊維 PP:密度0.91g/cm3、2.2dtex×10mm、含水率25%
【0014】
【0015】
まず、各調合にポリプロピレン繊維を添加したコンクリートについて、試験練りを行った結果を示す。
練り混ぜは、公称容量55Lの強制二軸練りミキサで実施した。試し練り時の量は30Lとした。
試験練りにより製造したフレッシュコンクリートについて、JISA1150「コンクリートのスランプフロー試験」に準じてスランプフローを測定し、スランプフロー試験後の材料分離の有無を目視により確認した(ペーストの分離を目視で評価)。
表2に試し練りの結果を示す。
【0016】
【0017】
表2中の分離抵抗性の欄には、分離が全く見られなかった場合「◎」、わずかにペーストの滲み出しが見られた場合「〇」、ペーストの明らかな分離が見られた場合は「△」と表記している。表2に示すように、スランプフロー40cm以上という条件でペーストの明らかな分離を生じずに製造できるポリプロピレン繊維の添加量は、調合Aで3.0kg/m3以下、調合Bで3.0kg/m3以下、調合Cで2.0kg/m3以下が望ましいと考えられる。
【0018】
次に、本実施形態のコンクリートにより製造した供試体(径100mm×高200mm)に対して加熱試験を実施し、爆裂の発生の有無を確認した。実験では、3種類の配合(調合A,B,C)のコンクリートに対して、ポリプロピレン繊維を外割で異なる量(1kg/m
3、2kg/m
3または3kg/m
3)を添加した供試体を作製した。また、比較例(比較例A-0,B-0,C-0)として、各配合(調合A,B,C)にポリプロピレン繊維を添加しなかった場合についても同様の実験を行った。表3に供試体のポリプロピレン繊維の添加量を示す。
加熱試験は、建築火災(IS0834)の加熱曲線で、
図1に示すように、炉1の内部において耐火煉瓦3上に設置した供試体2を片側から1時間加熱するものとした。
図2(a)に調合Aの炉1内の温度(IS0834の加熱曲線と、加熱試験時の炉内平均温度)、
図2(b)に調合Bの炉1内の温度、
図3に調合Cの炉1内の温度を示す。
供試体を形成する際のコンクリートの練り混ぜは、公称容量55Lの強制二軸練りミキサを用いて50L練りで実施した。
【0019】
【0020】
図4~6に実験結果を示す。
図4(a)は、左から順に比較例A-0,実施例A-2,実施例A-3の加熱後の供試体を示す写真である。また、
図4(b)は、左から順に比較例B-0,実施例B-2,実施例B-3の加熱後の供試体を示す写真である。また、
図4(c)は、左から順に比較例C-0,実施例C-1,実施例C-2の加熱後の供試体を示す写真である。さらに、
図4(a)は、比較例A-0,実施例A-2および実施例A-3の加熱前後に重量の比率、
図4(b)は、比較例B-0,実施例B-2,実施例B-3の加熱前後の重量の比率、
図5は、比較例C-0,実施例C-1,実施例C-2の加熱前後の重量の比率を示すグラフである。
【0021】
調合Aについては、
図4(a)に示すように、ポリプロピレン繊維が添加されていない比較例A-0には爆裂が生じたのに対し、実施例A-2および実施例A-3では、爆裂が生じなかった。また、
図5(a)に示すように、実施例A-2および実施例A-3では、加熱後の供試体の重量が、加熱前の重量の約9割であったのに対し、比較例A-0では、爆裂によってコンクリートが剥落したため、加熱前の重量の6割弱となった。
調合Aに比べて、炭酸カルシウムの含有量が少ない調合Bについては、
図4(b)に示すように、ポリプロピレン繊維が添加されていない比較例B-0は、爆裂が生じたのに対し、実施例B-2および実施例B-3では、爆裂が生じなかった。また、
図5(b)に示すように、実施例B-2および実施例B-3では、加熱後の供試体の重量が、加熱前の重量の約9割であったのに対し、比較例B-0では、爆裂によってコンクリートが剥落したため、8割程度まで低下した。
調合A,Bより炭酸カルシウムの含有量が少ない調合Cについては、
図4(c)に示すように、ポリプロピレン繊維が添加されていない比較例C-0は、爆裂が生じたのに対し、実施例C-1および実施例C-2では、爆裂が生じなかった。また、
図6に示すように、実施例B-2および実施例B-3では、加熱後の供試体の重量が、加熱前の重量の約9割であったのに対し、比較例B-0では、爆裂によってコンクリートが剥落したため、8割程度まで低下した
【0022】
したがって、高炉スラグ、膨張材、消石灰のうちの少なくとも1種類を含む結合材と、炭酸カルシウムとを含む水硬性組成物であって粉体中に炭酸カルシウムを8.6質量%~45質量%の範囲内で含有しポリプロピレン繊維を添加すること、好ましくは、粉体1m3あたり1.0~3.0kgの範囲内でポリプロピレン繊維を添加することで、フレッシュコンクリートの材料分離抵抗性および流動性を確保し、かつ、硬化後のコンクリート部材としての耐火性能の向上を図ることが可能であることが確認できた。
【0023】
ここで、比較例A-0、B-0、C-0について、JISA1108「コンクリート圧縮強度試験」に準じた圧縮強度試験を行った結果を表4示す。
圧縮強度試験は、それぞれ3つの供試体を作成し、各供試体の圧縮強度の測定を行った。圧縮強度を表4に示す。
【0024】
【0025】
表4に示すように、比較例A-0のコンクリートの圧縮強度が49.2N/mm2、比較例B-0のコンクリートの圧縮強度は42.8N/mm2、比較例C-0のコンクリートの圧縮強度は53.1N/mm2であり十分に実用的である。
【0026】
続いて、本実施形態のコンクリートを使用して、壁の加熱試験を実施した。本加熱試験では、正方形状の試験体(小型壁試験体4)に対して加熱試験を実施し、爆裂の発生の有無を確認した。
図7に小型壁試験体4を示す。小型壁試験体4は、
図7に示すように、幅1300mm×高さ1300mm×厚さ150mmに形成し、表面側と裏面側に縦筋5(D10@150)と横筋6(D10@200)を配筋した。表5にコンクリートの配合を示す。
【0027】
実験には、以下の材料を使用した。
高炉スラグ BFS:高炉スラグ微粉末 密度2.89g/cm3
膨張材 EX:膨張材30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3
消石灰 CH:消石灰特号,密度2.20g/cm3
軽質炭酸カルシウム Ac: 密度2.56g/cm3
細骨材 S1:山砂 表乾密度2.60g/cm3
細骨材 S2:砕砂(石灰岩) 表乾密度2.66g/cm3
粗骨材 G:砕石(石灰岩) 表乾密度2.69g/cm3
水 W:上水道水
ポリプロピレン繊維 PP:密度0.91g/cm3、2.2dtex×10mm、含水率15.6%(実験前実測値)
【0028】
【0029】
実験では、2種類の配合(調合A,B)のコンクリートを使用した。調合Aについては、ポリプロピレン繊維を外割で異なる量(1kg/m3、2kg/m3または3kg/m3)を添加し、3種類の小型壁試験体4(実施例A-21,A-22,A-23)を作製した。一方、調合Bについては、ポリプロピレン繊維を外割で2kg/m3を添加し、1種類の小型壁試験体4(実施例B-21)を作成した。
【0030】
まず、各実施例のコンクリートについて、試験練りを行った結果を示す。
試験練りにより製造したフレッシュコンクリートについて、JISA1150「コンクリートのスランプフロー試験」に準じてスランプフローを測定し、スランプフロー試験後の材料分離の有無を目視により確認した(ペーストの分離を目視で評価)。
表6に試し練りの結果を示す。
【0031】
【0032】
加熱試験は、建築火災(IS0834)の加熱曲線で、
図8に示すように、炉1の開口部7を遮蔽するように設置した小型壁試験体4を片側から1時間加熱するものとした。
図9~
図16に実験結果を示す。
図9(a)は、実施例A-21に係る加熱試験における炉1内の平均温度、(b)は実施例A-21に係る小型壁試験体4の非加熱面温度と時間との関係を示す。同様に、
図10、
図11、
図12にそれぞれ実施例A-22、実施例A-23、実施例B-22に係る加熱試験における炉1内の平均温度および小型壁試験体4の非加熱面温度と時間との関係を示す。防火区画を形成する壁(例えばカーテンウォールや耐火壁)では、壁の非加熱面で最高温度の規定(遮熱性:加熱開始時よりも140℃以上上昇してはいけない)があるが、
図9(b)~
図12(b)に示すように、いずれの実施例においても遮熱性を満足していた。
【0033】
図13(a)は実施例A-21の加熱前の小型壁試験体4を示す写真、(b)は実施例A-21の加熱後の小型壁試験体4を示す写真である。同様に、
図14は実施例A-22、
図15は実施例A-23、
図16は実施例B-22の小型壁試験体4の加熱前後の写真である。
図13~16に示すように、いずれの小型壁試験体4においても、爆裂の発生、壁を貫通するような剥落は生じなかった。
したがって、本実施形態のコンクリートを使用すれば、耐火性能を有する壁部材(例えば、カーテンウォールや間仕切壁)を構築できることが確認できた。
【0034】
ここで、実施例A-21、A-22、A-23、B-22について、JISA1108「コンクリート圧縮強度試験」に準じた圧縮強度試験を行った結果を表7示す。
圧縮強度試験は、実施例A-21、A-22、A-23、B-22のコンクリートによりそれぞれ3つの供試体を作成し、各供試体の圧縮強度の測定を行った。
【0035】
【0036】
表7に示すように、実施例A-21のコンクリートの圧縮強度が49.5N/mm2、実施例A-22のコンクリートの圧縮強度は50.4N/mm2、実施例A-23のコンクリートの圧縮強度は43.7N/mm2、実施例B-22のコンクリートの圧縮強度は27.1N/mm2であり、壁部材としての強度を確保している。
【0037】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 炉
2 供試体
3 耐火煉瓦
4 小型壁試験体
5 縦筋
6 横筋
7 開口部