(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109678
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】吸音構造施工方法、積層体、積層体の製造方法、吸音材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/162 20060101AFI20230801BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20230801BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
G10K11/162
G10K11/168
B32B5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137300
(22)【出願日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022011242
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 大生
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】大田 英生
【テーマコード(参考)】
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
4F100AK01B
4F100AK03B
4F100AK21B
4F100AK41B
4F100AK46B
4F100AK51B
4F100AT00A
4F100CB03B
4F100DG01B
4F100EC03B
4F100EH61B
4F100JA05B
4F100JA06B
4F100JB16B
4F100JH01B
4F100JK07B
5D061AA07
5D061AA16
5D061AA22
5D061BB21
5D061DD11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた性能を有する吸音構造施工方法、積層体、積層体の製造方法及び吸音材を提供する。
【解決手段】吸音構造施工方法は、積層体の製造方法において、積層体の基材を吸音性付与の対象物とした方法であって、対象物または基材に、180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下である溶融状態のホットメルト樹脂をスプレー塗布し、吸音材である樹脂繊維層を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に、180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下である溶融状態のホットメルト樹脂をスプレー塗布し、吸音材である樹脂繊維層を形成することを特徴とする、吸音構造施工方法。
【請求項2】
基材と樹脂繊維層とを含む積層体の製造方法であって、
前記基材上に、180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下である溶融状態のホットメルト樹脂をスプレー塗布し、前記樹脂繊維層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂繊維層が吸音材である、請求項2記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下であるホットメルト樹脂により形成された樹脂繊維層を備えることを特徴とする、吸音材。
【請求項5】
180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下であるホットメルト樹脂により形成された樹脂繊維層と、基材と、を含み、
前記樹脂繊維層が前記基材上に融着していることを特徴とする、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造施工方法、積層体、積層体の製造方法及び吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、騒音(外部騒音や走行時の振動由来の騒音)を抑制するために、各所に吸音材を配することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、不織布ウェブを吸音材として使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術に係る吸音部材や吸音構造施工方法は、十分な性能を満たすものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、優れた性能を有する吸音構造施工方法を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、吸音材として好ましく使用可能な積層体及び積層体の製造方法並びに吸音材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行い、特定の成分により形成した構造体(層)を有する積層体によって前記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は下記の通りである。
【0009】
本発明のある態様は、
対象物に、180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下である溶融状態のホットメルト樹脂をスプレー塗布し、吸音材である樹脂繊維層を形成することを特徴とする、吸音構造施工方法である。
【0010】
また、本発明の他の態様は、
基材と樹脂繊維層とを含む積層体の製造方法であって、
前記基材上に、180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下である溶融状態のホットメルト樹脂をスプレー塗布し、前記樹脂繊維層を形成する工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法である。
前記樹脂繊維層が吸音材であってもよい。
【0011】
また、本発明の他の態様は、
180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下であるホットメルト樹脂により形成された樹脂繊維層を備えることを特徴とする、吸音材である。
【0012】
また、本発明の他の態様は、
180℃における溶融粘度が200,000mPa・s以下であるホットメルト樹脂により形成された樹脂繊維層と、基材と、を含み、
前記樹脂繊維層が前記基材上に融着していることを特徴とする、積層体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた性能を有する吸音構造施工方法を提供可能である。
【0014】
また、本発明によれば、吸音材として好ましく使用可能な積層体及び積層体の製造方法並びに吸音材を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る積層体の概念側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、吸音材とするのに適した積層体、並びに、積層体の製造方法及び吸音構造施工方法等について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0017】
本明細書において、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が本明細書に記載されているものとする。
【0018】
<<<<積層体>>>>
本実施形態に係る積層体は、樹脂繊維層と、基材と、を備える(
図1参照)。
【0019】
<<<樹脂繊維層>>>
<<成分>>
樹脂繊維層は、ホットメルト樹脂(ホットメルト接着剤ともいう。)により形成された繊維構造体である。樹脂繊維層(ホットメルト樹脂)が基材上に融着することで、基材上に樹脂繊維層が固定されている。
【0020】
ホットメルト樹脂は、熱可塑性樹脂成分を主成分として含む。また、ホットメルト樹脂は、その他の成分を含んでいてもよい。
【0021】
<熱可塑性樹脂成分>
樹脂繊維層を構成するホットメルト樹脂の主成分である熱可塑性樹脂成分は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0022】
熱可塑性樹脂成分は、基材(対象物)の材質との相性を考慮して選択することが可能である。例えば、基材がポリプロピレン等のポリオレフィンである場合には、熱可塑性樹脂成分がポリオレフィンを含むことで、基材と繊維構造体との接合強度を高めることができる。
【0023】
繊維構造体の吸音効果や施工性等を高める観点から、熱可塑性樹脂成分がポリオレフィンであることが好ましい。
【0024】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、及びこれら相互のポリマーブレンドが例示される。
【0025】
吸音性や基材への接着性を高めるという観点から、ポリオレフィンは、ポリαオレフィンであることが好ましく、非晶性ポリαオレフィンであることがより好ましい。
【0026】
ポリαオレフィンとは、αオレフィンを重合させることにより得られるポリマーを示す。また、非晶性ポリαオレフィンとは、ポリαオレフィンの中でも、明確な融点を有しないものを示す。
【0027】
非晶性ポリαオレフィンは、公知のもの、例えば、特許第6001685号公報、特許第3153648号公報等に記載されたものを使用可能である。非晶性ポリαオレフィンは、例えば、プロピレン、エチレン、及び1-ブテンを単独で、又は、複数を組み合せて重合(又は共重合)させた非晶性のオレフィン系樹脂等とすることができる。
【0028】
<その他の成分>
その他の成分としては、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、光安定剤、安定剤、分散剤、溶剤、親水性付与剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0029】
その他の成分は、ホットメルト樹脂100質量部に対して、例えば、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下、又は、0.1質量部以下とすることができる。
【0030】
<<<物性/性質>>>
<<溶融粘度>>
樹脂繊維層を構成するホットメルト樹脂の180℃における溶融粘度は、200,000mPa・s以下、100,000mPa・s以下、50,000mPa・s以下、20,000mPa・s以下、15,000mPa・s以下、又は、10,000mPa・s以下であることが好ましい。
また、ホットメルト樹脂の180℃における溶融粘度は、1,000mPa・s以上、2,000mPa・s以上、又は、5,000mPa・s以上であることが好ましい。
【0031】
樹脂繊維層を構成するホットメルト樹脂の200℃における溶融粘度は、100,000mPa・s以下、50,000mPa・s以下、25,000mPa・s以下、15,000mPa・s以下、又は、10,000mPa・s以下であることが好ましい。
また、ホットメルト樹脂の200℃における溶融粘度は、500mPa・s以上、1,000mPa・s以上、1,500mPa・s以上、又は、3,000mPa・s以上であることが好ましい。
【0032】
ホットメルト樹脂の溶融粘度をこのような範囲とすることで、ホットメルト樹脂のスプレー塗布が容易であり、且つ、吸音性に優れた樹脂繊維層を得やすい。
【0033】
溶融粘度は、所定の温度に加温されたホットメルト樹脂について、平行平板レオメータを用い、振り角10%、角周波数1rad/sの条件で測定したものとする。
【0034】
<<結晶化温度/結晶化エネルギー>>
樹脂繊維層を構成するホットメルト樹脂の結晶化温度は、50~150℃、75~125℃、又は、90~110℃であることが好ましい。このような範囲とすることで、作業容易性や吸音性等をバランスよく高めることができる。
【0035】
ホットメルト樹脂の結晶化エネルギー(結晶化熱)は、0.1~50mJ/mg、0.5~25mJ/mg、又は、5~15mJ/mgであることが好ましい。このような範囲とすることで、作業容易性や吸音性等をバランスよく高めることができる。
【0036】
また、ホットメルト樹脂の結晶化エネルギー(結晶化熱)は、吸音性や形状保持性(例えば、後述する厚み減少率)等をバランスよく高めるという観点からは、ホットメルト樹脂の結晶化エネルギー(結晶化熱)は、0.1~150mJ/mg、20~140mJ/mg、50~130mJ/mg、又は、60~120mJ/mgであることが好ましい。
【0037】
結晶化温度及び結晶化エネルギーは、JIS K 7121に準じて測定したものとする。
【0038】
<<貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接、ガラス転移温度>>
ホットメルト樹脂の貯蔵弾性率G’の下限値は、10MPa以上、20MPa以上、50MPa以上、75MPa以上、90MPa以上、100MPa以上、200MPa以上、又は、500MPa以上であることが好ましい。ホットメルト樹脂の貯蔵弾性率G’の上限値は、例えば、2000MPa以下、1500MPa以下、1000MPa以下、又は、750MPa以下である。
【0039】
ホットメルト樹脂の損失弾性率G’’は、50MPa以下、又は、40MPa以下であることが好ましい。
【0040】
ホットメルト樹脂の損失正接tanδ(損失弾性率G’’/貯蔵弾性率G’)は、1.00以下、又は、0.50以下であることが好ましい。
【0041】
ホットメルト樹脂は、ガラス転移温度が、-30~60℃、又は、-25~40℃であることが好ましい。
【0042】
貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’は、以下のように測定する。
測定方法:レオメーター
装置名:MCR302(アントンパール)
振り角:0.8°
周波数:10Hz
変形モード:剪断モード
温度:-50~110℃
サンプルサイズ:幅5mm×20mm×厚み1mm
貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’は、23℃における数値とする。
【0043】
前述した損失正接tanδのピーク値に対応する温度をガラス転移温度とする。
【0044】
ホットメルト樹脂の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’、損失正接tanδ、或いは、ガラス転移温度をこのような範囲とすることで、吸音性、形状保持性、作業容易性等に優れた樹脂繊維層を得やすい。
特に、ホットメルト樹脂の貯蔵弾性率G’をこのような範囲とすることで、高い吸音性を備え、且つ、形状保持性に非常に優れた樹脂繊維層を得やすい。
【0045】
<<通気度>>
樹脂繊維層の通気度は、10.0cm3/cm2/s以上、15.0cm3/cm2/s以上、20.0cm3/cm2/s以上、30.0cm3/cm2/s以上、40.0cm3/cm2/s以上、50.0cm3/cm2/s以上、52.5cm3/cm2/s以上、又は、55.0cm3/cm2/s以上であることが好ましい。
また、樹脂繊維層の通気度は、200cm3/cm2/s以下、150cm3/cm2/s以下、100cm3/cm2/s以下、95.0cm3/cm2/s以下、85.0cm3/cm2/s以下、又は、80.0cm3/cm2/s以下であることが好ましい。
樹脂繊維層の通気度をこのような範囲とすることで、優れた吸音効果が得られる。
【0046】
特に、ホットメルト樹脂によって形成された樹脂繊維層において、好ましい繊維径を有する繊維を用いつつも通気度をこのような範囲とすることで、空隙及び繊維の分布が適切なものとなり、非常に優れた吸音効果が得られる。
【0047】
樹脂繊維層の通気度は、JIS L 1096の通気性試験に従って測定されたものである。
【0048】
なお、樹脂繊維層が基材に接合している場合、樹脂繊維層の通気度は、離型フィルム上に同一の樹脂繊維層(成分、構造、厚み等が等しい樹脂繊維層)を形成し、離型フィルムを除去して単層の樹脂繊維層を製造し、この樹脂繊維層について測定した数値とすることができる。
【0049】
<<<構造>>>
<<繊維径>>
樹脂繊維層を構成する繊維の繊維径は、例えば、1~100μm、5~50μm、又は、10~40μmとすることができる。繊維径がこのような範囲である場合、優れた吸音効果が得られる。繊維径の算出方法は以下のとおりである。まず、樹脂繊維層をSEMで撮影し、得られた画像に含まれる繊維の繊維径(短軸の幅)を10本分測定し、それを平均したものを繊維径とする。
【0050】
<<厚み>>
樹脂繊維層の厚みは、例えば、0.1~500mm、1~100mm、5~50mm、又は、10~30mmとすることができる。樹脂繊維層の厚みをこのような範囲とすることで、製造容易でありつつも優れた吸音効果が得られる。
【0051】
樹脂繊維層の厚み減少率は、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は、5%以下であることが好ましい。樹脂繊維層の厚み減少率がこのような範囲となることで、高い吸音性が長期間に亘って発揮され易い。
ここで、樹脂繊維層の厚み減少率は、以下の方法で測定される。
製造直後の樹脂繊維層(ただし、ホットメルト樹脂が十分に固化した状態の樹脂繊維層とする。)の厚みを、初期厚みTAとする。
恒温恒湿条件(25℃、50%RH)で樹脂繊維層を1週間(168時間)保持した後の厚みを、保持後厚みTBとする。
厚み減少率を[(TA-TB)/TA]として算出する。
【0052】
なお、樹脂繊維層を吸音材とした場合、樹脂繊維層の厚みにより吸音され易い周波数帯が変化する(例えば、樹脂繊維層の厚みを増すことで、吸音周波数のピークが低音側へシフトする)ため、樹脂繊維層の用途(使用される環境)に応じて厚みを調整することも可能である。
【0053】
<<目付>>
樹脂繊維層の目付は、例えば、100~2,000g/m2、200~1,000g/m2、又は、300~750g/m2とすることができる。樹脂繊維層の目付をこのような範囲とすることで、優れた吸音効果が得られる。
【0054】
繊維径、目付、厚み、通気度等は、ホットメルト樹脂の溶融粘度、ホットメルト樹脂をスプレー塗布する際に使用するノズルの種類及びスプレー塗布条件(圧力や時間等)によって調整することができる。
【0055】
本実施形態に係る樹脂繊維層は、優れた吸音性を有することから、吸音材として好ましく使用することができる。
【0056】
<<<基材>>>
基材の形状は特に限定されず、適宜のものを用いることができる。特に本実施形態に係る樹脂繊維層は、ホットメルト樹脂をスプレー塗布するのみで形成可能なことから、複雑形状を有する部材(屈曲部を有する部材等)を基材とした場合でも、優れた吸音性を付与することができる。
【0057】
また、基材の材質は特に限定されず、適宜のものを用いることができる。例えば、基材は、2種類以上の材料(例えば、樹脂及び金属)の複合体等であってもよい。
【0058】
<<<<積層体の製造方法及び吸音構造施工方法>>>>
以下、積層体の製造方法及び吸音構造施工方法について説明する。なお、積層体の製造方法において、積層体の基材を吸音性付与の対象物とした方法を、吸音構造施工方法とすることができる。
【0059】
積層体は、溶融状態で保持されたホットメルト樹脂を基材上に直接スプレー塗布することで得られる。スプレー塗布により繊維状となったホットメルト樹脂が溶融乃至は軟化状態で基材上に接触することで基材と融着し、ホットメルト樹脂が冷却固化されることで、樹脂繊維層が形成される。
【0060】
スプレー方法としては、公知の方法、例えば、カーテンスプレー、オメガスプレー、スパイラルスプレー、サミットスプレー等を適用可能である。
【0061】
なお、スプレー塗布に使用するホットメルト樹脂は、公知の方法により製造可能である。例えば、一軸又は二軸押出機等の連続混練機、もしくは、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー、高剪断Z翼ミキサー等のバッチ式混練機に、前述した原料を投入し、所定温度にて所定時間混練すればよい。
【0062】
基材への樹脂繊維層の接合強度を高めること等を目的として、基材に表面処理(洗浄、平滑化、粗面化、放電処理、UV処理等)を実施してもよい。
【0063】
本実施形態に係る積層体の製造方法及び吸音構造施工方法によれば、繊維シートを熱溶着して積層体を製造する場合と異なり、樹脂層繊維が形成された後に加熱処理等を行う必要がない。
【0064】
ここで、熱可塑性樹脂からなる繊維シートを基材上に積層し、熱付与及び加圧して各層を接合する従来技術においては、熱付与及び加圧によって繊維構造が潰れてしまい、所望の吸音効果を得ることが困難であった。
【0065】
また、接着剤や熱溶着によってスポット的に繊維シートを基材に接合する場合、接合部において繊維構造が潰れてしまい所望の吸音効果を得ることができず、また、非接合部分における剥離が生じ易かった。
【0066】
更に、これらの方法では、樹脂繊維層を所定の手段で基材上に積層させる工程のみならず、打ち抜き等によって基材に適した繊維シートの形状を加工する工程等を含むことから、作業が煩雑であり、且つ、繊維シートの保管時にへたりが生じることで吸音性が低下すること等があった。
【0067】
本実施形態に係る吸音構造施工方法によれば、ホットメルト樹脂を基材上にスプレー塗布して樹脂繊維層を形成するという簡易な工程のみで施工が完了し、且つ、ホットメルト樹脂自体が基材に付着する機能を有する(不織布を加熱溶着する工程や不織布に対して粘着加工を行う工程が不要である)。そのため、ホットメルト樹脂由来の優れた吸音性を有する樹脂繊維層を容易に形成することができ、且つ、樹脂繊維層が均一に面接着されることから剥離が生じ難い。
【0068】
ここで、本実施形態に係る積層体の製造方法乃至は吸音構造施工方法と、従来技術に係る、特開2017-160575号公報等に開示された吸音構造施工方法(メルトブローン法により形成した不織布ウェブを吸音材として使用する吸音構造施工方法)と、の更なる対比を行う。
特開2017-160575号公報に記載のメルトブローン法では、樹脂繊維吹付後に吹付繊維を集積させる集積装置が必要である。かかる集積装置は、飛散防止を目的として、一般的に孔を備えた回転ロールやベルトコンベアからなる吸引装置を備える。
本実施形態に係る積層体の製造方法乃至は吸音構造施工方法は、集積装置や吸引装置等を使用せずに、簡便な装置のみで実施することができる。また、集積装置や吸引装置等を使用しないことで、対象物へ吸音材原料を直接塗布し、積層体を得ることができる。そのため、例えば、スプレーノズルをロボットアーム先端に装着する等し、複雑な形状(例えば3D形状)への直接塗布を実施することも可能となる。
【0069】
なお、前述したように、ホットメルト樹脂を基材にスプレー塗布して得られる本実施形態に係る積層体と、予め準備した繊維シートを基材にスポット溶着して得られた積層体は、接着面積が異なると考えられる。
【0070】
より具体的には、本実施形態に係る積層体は、基材に対する樹脂繊維層の接着面積が、50%以上、60%以上、70%以上、又は、80%以上となる。なお、基材に対する樹脂繊維層の接着面積は、例えば、99%以下、95%以下、又は、90%以下とすることができる。本実施形態に係る積層体は、繊維構造を維持しながらも基材と樹脂繊維層とが十分に接着されており、優れた吸音性を発揮することができる。
【0071】
一方で、繊維シートをスポット溶着して得られた積層体は、通常、繊維シートの接着面積が1%以下等であり、容易に剥離し、優れた吸音性を発揮し難い。
【0072】
なお、樹脂繊維層の接着面積は、基材から接着部分以外の繊維を剥がし、マイクロスコープにより接着部分(繊維を剥がした後に残った部分)を解析して算出することができる。
【0073】
本実施形態に係る吸音構造施工方法における適用箇所(樹脂繊維層を適用する箇所乃至は積層体の基材となる部材)は特に限定されず、吸音が求められる箇所であればよい。例えば、建築物の他、飛行機、船、車両(自動車、鉄道車両)等の乗物における内装部材や外装部材に対して適用することができる。
【0074】
特に、本実施形態に係る吸音構造施工方法は、複雑な形状を有する部材に対して吸音性を付与可能であり、振動に対して剥離が生じ難く、且つ、作業性が良好である。そのため、吸音構造施工方法によって得られた樹脂繊維層は、自動車を構成する部材(ピラー、デッキサイド、フロアサイレンサー、バックドアトリム等)に対して好ましく適用可能である。
【実施例0075】
以下、実施例により、本発明の積層体を具体的に説明するが、本発明はこれらには限定されない。
【0076】
<<積層体/樹脂繊維層の製造>>
樹脂繊維層を構成するホットメルト樹脂として、以下のものを使用した。
VESTOPLAST 807(エボニック社製、ポリαオレフィン)
PES120L(東亜合成社製、ポリエステル)
PPET(東亜合成社製、ポリオレフィン)
ダイアボンドDH-672(ダイアボンド社製、ポリアミド)
PP(東昌化学社製、ポリプロピレン、MFR:1500g/10min)
PP(Xiamen Keyuan Plastic社製、ポリプロピレン、MFR:1500g/10min)
【0077】
ポリプロピレン(PP)である基材に対して、180℃で保持され溶融しているホットメルト樹脂をスプレー塗布し、ホットメルト樹脂を常温で冷却固化し、基材と樹脂繊維層を備える、実施例1~5に係る積層体を得た。
【0078】
各実施例における樹脂繊維層の、成分(ホットメルト樹脂)、樹脂繊維層の厚み、目付、繊維径、通気度、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’、損失正接tanδ、ガラス転移温度を各表に示す。また、各実施例における樹脂繊維層の繊維のSEM写真を各表中に示す。
なお、樹脂繊維層の厚み、目付、繊維径、通気度は、スプレー塗布の条件(塗布時間)及びノズル径を変更することで調整した。
樹脂繊維層の厚みについては、前述した方法に従って、初期厚みTAと、保持後厚みTBとを測定し、あわせて厚み減少率を算出した。
【0079】
なお、樹脂繊維層を設けず、基材のみの単層としたものを、比較例1とした。
【0080】
<<評価>>
実施例1~5の各積層体について、基材と樹脂繊維層との接着性及び吸音率を評価した。また、比較例1について、吸音率を評価した。
【0081】
<基材と樹脂繊維層との接着性(PPとの接着性)>
基材から接着部分以外の繊維(ホットメルト樹脂)を剥がし、マイクロスコープにより接着部分(繊維を剥がした後に残った部分)の面積を算出し、以下のように評価した。
A:接着面積が80%以上
B:接着面積が50%以上80%未満
C:接着面積が10%以上50%未満
D:接着面積が10%未満
【0082】
<吸音率>
JIS A 1405-2に準拠し、サンプルサイズ:28.9φ、入射面:繊維面、対象周波数:4000Hz、n=2の平均値として吸音率を測定し、以下のように評価した。
A:0.6以上1.0以下
B:0.5以上0.6未満
C:0.1以上0.5未満
D:0.1未満
【0083】
【0084】
【0085】
上記結果より、各実施例に係る、樹脂繊維層を備える積層体は、優れた吸音性を有することが理解される。また、この優れた吸音性を有する樹脂繊維層は、溶融状態にあるホットメルト樹脂を対象物にスプレー塗布するのみで得られたものであることから、作業性に優れる吸音構造施工方法であることが理解される。