(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109681
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】結晶膜、積層構造体、電子デバイス、電子機器及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/079 20230101AFI20230801BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20230801BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20230801BHJP
H10N 30/078 20230101ALI20230801BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230801BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230801BHJP
C30B 29/22 20060101ALI20230801BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01L41/319
H01L41/047
H01L41/187
H01L41/318
C23C14/06 N
C23C14/34 Z
C30B29/22 Z
C30B23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】37
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138835
(22)【出願日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022011346
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】721011637
【氏名又は名称】株式会社Gaianixx
(72)【発明者】
【氏名】木島 健
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BC60
4G077DA02
4G077ED04
4G077ED06
4G077HA12
4K029AA06
4K029BA13
4K029BA50
4K029CA05
4K029DC03
4K029DC05
4K029EA01
4K029EA03
4K029EA08
4K029EA09
4K029FA01
(57)【要約】
【課題】良好な密着性及び結晶性を有するエピタキシャル膜からなる結晶膜、前記結晶膜を含む積層構造体、電子デバイス、電子機器及びこれらを工業的有利に得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】結晶基板上に少なくとも酸化膜を形成し、ついで結晶性酸化物を含むエピタキシャル膜を積層し、さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜を積層して積層構造体を製造する際に、前記エピタキシャル膜の積層を、前記酸化膜中の酸素原子を用いて前記エピタキシャル膜を形成することにより行って、前記エピタキシャル膜と前記第2のエピタキシャル膜との界面において、互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なる山谷構造を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の結晶面及び前記第1の結晶面の反対側に第2の結晶面を含む単層の結晶膜であって、前記第1の結晶面に、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なることを特徴とする結晶膜。
【請求項2】
前記第1の結晶面が、前記第2の結晶面とは異なる一定の格子定数となるように前記山谷構造が設けられている請求項1記載の結晶膜。
【請求項3】
前記角が30°~45°の範囲内である請求項1又は2に記載の結晶膜。
【請求項4】
前記第1の結晶面と、前記第2の結晶面との格子定数差が0.1%~20%の範囲内である請求項1~3のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項5】
1種又は2種以上のdブロック元素を含む請求項1~4のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項6】
周期律表dブロック元素から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含む請求項1~5のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項7】
周期律表第3族、第4族及び第13族から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含む請求項1~6のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項8】
周期律表第4族から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含む請求項1~7のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項9】
立方晶系結晶構造を有する請求項1~8のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項10】
結晶性化合物を含む単結晶膜である請求項1~9のいずれかに記載の結晶膜。
【請求項11】
結晶基板上にエピタキシャル膜が積層されている積層構造体であって、前記エピタキシャル膜が、第1の結晶面及び前記第1の結晶面の反対側に第2の結晶面を含む単層の結晶膜であり、かつ前記第1の結晶面に、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なることを特徴とする積層構造体。
【請求項12】
前記結晶基板が、結晶性Si基板である請求項11記載の積層構造体。
【請求項13】
前記エピタキシャル膜が、前記結晶基板上に積層された化合物膜中の化合物元素が前記結晶性化合物に組み込まれてなる請求項11又は12に記載の積層構造体。
【請求項14】
前記化合物膜が、前記結晶基板の化合物材料を含む請求項13記載の積層構造体。
【請求項15】
前記化合物膜の膜厚が、1nmを超え100nm未満である請求項13又は14に記載の積層構造体。
【請求項16】
さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜が積層されている請求項11~15のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項17】
前記エピタキシャル膜が誘電体であり、前記第2のエピタキシャル膜が導電性金属の単結晶膜である請求項16記載の積層構造体。
【請求項18】
前記第1の結晶面が、前記第2のエピタキシャル膜の格子定数と略同一である請求項16又は17に記載の積層構造体。
【請求項19】
さらに、前記第2のエピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜及び前記第2のエピタキシャル膜とは異なる組成の第3のエピタキシャル膜が積層されている請求項16~18のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項20】
前記第3のエピタキシャル膜が圧電体である請求項19記載の積層構造体。
【請求項21】
結晶基板上に少なくとも化合物膜を形成し、ついで結晶性化合物を含むエピタキシャル膜を積層し、さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜を積層する積層構造体の製造方法であって、前記エピタキシャル膜の積層を、前記化合物膜中の化合物元素を用いて前記エピタキシャル膜を形成することにより行って、前記エピタキシャル膜と前記第2のエピタキシャル膜との界面において、互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なる山谷構造を設けることを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項22】
前記化合物膜中の化合物元素を用いた後、化合物元素ガスを導入して前記化合物元素ガスの存在下、前記エピタキシャル膜を成膜する請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
結晶膜又は積層構造体を含む圧電素子であって、前記結晶膜が請求項1~10のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が請求項11~20のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする圧電素子。
【請求項24】
結晶膜又は積層構造体を用いる圧電素子の製造方法であって、前記結晶膜が請求項1~10のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が請求項11~20のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項25】
結晶膜又は積層構造体を含む電子デバイスであって、前記結晶膜が請求項1~10のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が請求項11~20のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする電子デバイス。
【請求項26】
圧電デバイスである請求項25記載の電子デバイス。
【請求項27】
結晶膜又は積層構造体を用いる電子デバイスを製造する方法であって、前記結晶膜が請求項1~10のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が請求項11~20のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項28】
結晶膜、積層構造体又は電子デバイスを含む電子機器であって、前記結晶膜が請求項1~10のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が請求項11~20のいずれかに記載の積層構造体であり、前記電子デバイスが、請求項26又は27に記載の電子デバイスであることを特徴とする電子機器。
【請求項29】
結晶膜、積層構造体又は電子デバイスを用いて電子機器を製造する方法であって、前記結晶膜が請求項1~10のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が請求項11~20のいずれかに記載の積層構造体であり、前記電子デバイスが、請求項26又は27に記載の電子デバイスであることを特徴とする電子機器の製造方法。
【請求項30】
電子機器を含むシステムであって、前記電子機器が、請求項24記載の電子機器であることを特徴とするシステム。
【請求項31】
前記結晶基板と前記エピタキシャル膜との間に、前記エピタキシャル膜及び/又は前記結晶基板の構成金属を含むアモルファス薄膜及び/又は前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記構成金属を含む埋込層を有している請求項11記載の積層構造体。
【請求項32】
前記結晶基板と前記エピタキシャル膜との間に、前記エピタキシャル膜の構成金属を含むアモルファス薄膜及び/又は前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記エピタキシャル膜の構成金属を含む埋込層を有している請求項31記載の積層構造体。
【請求項33】
前記結晶基板と前記エピタキシャル膜との間に、前記エピタキシャル膜及び/又は前記結晶基板の構成金属を含むアモルファス薄膜と、前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記構成金属を含む埋込層とを有している請求項31記載の積層構造体。
【請求項34】
前記構成金属がHfを含む請求項31~33のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項35】
前記アモルファス薄膜の膜厚が1nm~10nmである請求項31~34のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項36】
前記埋込層の形状が略逆三角形の断面形状を有する請求項31~35のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項37】
積層構造体を含む電子デバイス、電子機器又はシステムであって、前記積層構造体が、請求項31~36のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする電子デバイス、電子機器又はシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル膜からなる結晶膜、積層構造体、電子デバイス、電子機器及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた圧電性、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下、PZTともいう)からなる薄膜は、その強誘電性を生かし、不揮発性メモリ(FeRAM)等のメモリ素子、インクジェットヘッドや加速度センサ等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術に応用されている。
【0003】
近年においては、(100)に配向したSi基板上に、(200)に配向したZrO2膜等を介して、(200)に配向したPt膜を形成することで、Pt膜上に、良好な圧電特性を有する圧電体膜を成膜することが検討されている(特許文献1)。しかしながら、界面での密着性や結晶性においてまだまだ満足のいくものではなく、界面での密着性や結晶性を向上させ、さらには、圧電体膜の圧電特性をより向上させることができるような方策が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、良好な密着性及び結晶性を有するエピタキシャル膜からなる結晶膜、前記結晶膜を含む積層構造体、電子デバイス、電子機器及びこれらを工業的有利に得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、結晶基板上に少なくとも化合物膜を形成し、ついで結晶性酸化物を含むエピタキシャル膜を積層し、さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜を積層して積層構造体を製造する際に、前記エピタキシャル膜の積層を、前記化合物膜中の化合物元素を用いて前記エピタキシャル膜を形成することにより行うことで、前記エピタキシャル膜と前記第2のエピタキシャル膜との界面において、互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なる山谷構造を設けることができることを知見し、このように前記エピタキシャル膜と前記第2のエピタキシャル膜との界面において、互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なる山谷構造を設けることによって、異なる組成であっても、優れた密着性及び結晶性を有するエピタキシャル膜を含む積層構造体が容易に得られること等を知見し、このような積層構造体及びその製造方法が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 第1の結晶面及び前記第1の結晶面の反対側に第2の結晶面を含む単層の結晶膜であって、前記第1の結晶面に、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なることを特徴とする結晶膜。
[2] 前記第1の結晶面が、前記第2の結晶面とは異なる一定の格子定数となるように前記山谷構造が設けられている前記[1]記載の結晶膜。
[3] 前記角が30°~45°の範囲内である前記[1]又は[2]に記載の結晶膜。
[4] 前記第1の結晶面と、前記第2の結晶面との格子定数差が0.1%~20%の範囲内である前記[1]~[3]のいずれかに記載の結晶膜。
[5] 1種又は2種以上のdブロック元素を含む前記[1]~[4]のいずれかに記載の結晶膜。
[6] 周期律表dブロック元素から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含む前記[1]~[5]のいずれかに記載の結晶膜。
[7] 周期律表第3族、第4族及び第13族から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含む前記[1]~[6]のいずれかに記載の結晶膜。
[8] 周期律表第4族から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含む前記[1]~[7]のいずれかに記載の結晶膜。
[9] 立方晶系結晶構造を有する前記[1]~[8]のいずれかに記載の結晶膜。
[10] 結晶性化合物を含む単結晶膜である前記[1]~[9]のいずれかに記載の結晶膜。
[11] 結晶基板上にエピタキシャル膜が積層されている積層構造体であって、前記エピタキシャル膜が、第1の結晶面及び前記第1の結晶面の反対側に第2の結晶面を含む単層の結晶膜であり、かつ前記第1の結晶面に、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なることを特徴とする積層構造体。
[12] 前記結晶基板が、結晶性Si基板である前記[11]記載の積層構造体。
[13] 前記エピタキシャル膜が、前記結晶基板上に積層された化合物膜中の化合物元素が前記結晶性化合物に組み込まれてなる前記[11]又は[12]に記載の積層構造体。
[14] 前記化合物膜が、前記結晶基板の化合物材料を含む前記[13]記載の積層構造体。
[15] 前記化合物膜の膜厚が、1nmを超え100nm未満である前記[13]又は[14]に記載の積層構造体。
[16] さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜が積層されている前記[11]~[15]のいずれかに記載の積層構造体。
[17] 前記エピタキシャル膜が誘電体であり、前記第2のエピタキシャル膜が導電性金属の単結晶膜である前記[16]記載の積層構造体。
[18] 前記第1の結晶面が、前記第2のエピタキシャル膜の格子定数と略同一である前記[16]又は[17]に記載の積層構造体。
[19] さらに、前記第2のエピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜及び前記第2のエピタキシャル膜とは異なる組成の第3のエピタキシャル膜が積層されている前記[16]~[18]のいずれかに記載の積層構造体。
[20] 前記第3のエピタキシャル膜が圧電体である前記[19]記載の積層構造体。
[21] 結晶基板上に少なくとも化合物膜を形成し、ついで結晶性化合物を含むエピタキシャル膜を積層し、さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜を積層する積層構造体の製造方法であって、前記エピタキシャル膜の積層を、前記化合物膜中の化合物元素を用いて前記エピタキシャル膜を形成することにより行って、前記エピタキシャル膜と前記第2のエピタキシャル膜との界面において、互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なる山谷構造を設けることを特徴とする積層構造体の製造方法。
[22] 前記化合物膜中の化合物元素を用いた後、化合物元素ガスを導入して前記化合物元素ガスの存在下、前記エピタキシャル膜を成膜する前記[21]記載の製造方法。
[23] 結晶膜又は積層構造体を含む圧電素子であって、前記結晶膜が前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が前記[11]~[20]のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする圧電素子。
[24] 結晶膜又は積層構造体を用いる圧電素子の製造方法であって、前記結晶膜が前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が前記[11]~[20]のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする圧電素子の製造方法。
[25] 結晶膜又は積層構造体を含む電子デバイスであって、前記結晶膜が前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が前記[11]~[20]のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする電子デバイス。
[26] 圧電デバイスである前記[25]記載の電子デバイス。
[27] 結晶膜又は積層構造体を用いる電子デバイスを製造する方法であって、前記結晶膜が前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が前記[11]~[20]のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
[28] 結晶膜、積層構造体又は電子デバイスを含む電子機器であって、前記結晶膜が前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が前記[11]~[20]のいずれかに記載の積層構造体であり、前記電子デバイスが、前記[26]又は[27]に記載の電子デバイスであることを特徴とする電子機器。
[29] 結晶膜、積層構造体又は電子デバイスを用いて電子機器を製造する方法であって、前記結晶膜が前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶膜であり、前記積層構造体が前記[11]~[20]のいずれかに記載の積層構造体であり、前記電子デバイスが、前記[26]又は[27]に記載の電子デバイスであることを特徴とする電子機器の製造方法。
[30] 電子機器を含むシステムであって、前記電子機器が、前記[24]記載の電子機器であることを特徴とするシステム。
[31] 前記結晶基板と前記エピタキシャル膜との間に、前記エピタキシャル膜及び/又は前記結晶基板の構成金属を含むアモルファス薄膜及び/又は前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記構成金属を含む埋込層を有している前記[11]記載の積層構造体。
[32] 前記結晶基板と前記エピタキシャル膜との間に、前記エピタキシャル膜の構成金属を含むアモルファス薄膜及び/又は前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記エピタキシャル膜の構成金属を含む埋込層を有している前記[31]記載の積層構造体。
[33] 前記結晶基板と前記エピタキシャル膜との間に、前記エピタキシャル膜及び/又は前記結晶基板の構成金属を含むアモルファス薄膜と、前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記構成金属を含む埋込層とを有している前記[31]記載の積層構造体。
[34] 前記構成金属がHfを含む前記[31]~[33]のいずれかに記載の積層構造体。
[35] 前記アモルファス薄膜の膜厚が1nm~10nmである前記[31]~[34]のいずれかに記載の積層構造体。
[36] 前記埋込層の形状が略逆三角形の断面形状を有する前記[31]~[35]のいずれかに記載の積層構造体。
[37] 積層構造体を含む電子デバイス、電子機器又はシステムであって、前記積層構造体が、前記[31]~[36]のいずれかに記載の積層構造体であることを特徴とする電子デバイス、電子機器又はシステム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の結晶膜、積層構造体、電子デバイス及び電子機器は、良好な密着性及び結晶性を有するエピタキシャル膜を含んでおり、本発明の製造方法によれば、前記結晶膜、前記積層構造体、前記電子デバイス及び前記電子機器を工業的有利に得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の積層構造体の好適な実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の積層構造体の好適な別の実施態様の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の積層構造体の好適な製造方法の酸化膜形成工程の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の積層構造体の好適な製造方法のエピタキシャル膜形成工程の一例を模式的に示す図である。
【
図5】実施例において観察された断面STEM像を示す。
【
図6】実施例において観察された断面STEM像を示す。
【
図7】実施例において観察されたSTEM像を示す。
【
図8】実施例において観察されたSTEM像を示す。
【
図9】本発明においてMEMSトランスデューサの実施態様の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図10】本発明の流体排出装置への好適な適用例として、圧電アクチュエータを備えているウエハの一部の断面図の一例を模式的に示す図である。
【
図11】実施例における結晶対称性を示すXRD測定結果である。
【
図12】実施例における結晶対称性を示すXRD測定結果である。
【
図13】実施例において好適に用いられる成膜装置を模式的に示す図である。
【
図14】実施例で測定された断面STEM像を示す。
【
図16】実施例で測定された埋込層のSTEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の結晶膜は、第1の結晶面及び前記第1の結晶面の反対側に第2の結晶面を含む単層の結晶膜であって、前記第1の結晶面に、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なることを特長とする。
【0011】
本発明においては、前記第1の結晶面が、前記第2の結晶面とは異なる一定の格子定数となるように前記山谷構造が設けられているのが好ましく、また、前記角が30°~45°の範囲内であるのも好ましい。また、本発明においては、前記第1の結晶面と、前記第2の結晶面との格子定数差が0.1%~20%の範囲内であるのが好ましい。このような好ましい範囲によれば、前記結晶膜と基板又は前記結晶膜上に結晶成長にて設けられる、異なる組成の結晶膜との密着性及び前記結晶膜の結晶性をより優れたものとすることができるのみならず、前記結晶膜等の機能膜としての特性をより優れたものとすることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記結晶膜が、1種又は2種以上のdブロック元素を含むのが好ましく、周期律表dブロック元素から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物を含むのも好ましい。前記金属化合物は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、周期律表第3族、第4族及び第13族から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物であるのが好ましく、周期律表第4族から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属化合物であるのがより好ましい。また、前記結晶膜の結晶構造も特に限定されないが、立方晶系結晶構造を有するのが好ましい。なお、前記結晶膜は、結晶性化合物を含む単結晶膜であるのが好ましく、エピタキシャル膜であるのも好ましい。
【0013】
本発明の積層構造体は、結晶基板上にエピタキシャル膜が積層されている積層構造体であって、前記エピタキシャル膜が、第1の結晶面及び前記第1の結晶面の反対側に第2の結晶面を含む単層の結晶膜であり、かつ前記第1の結晶面に、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なることを特長とする。前記結晶性化合物は、特に限定されず、公知の結晶性化合物であってよいが、本発明においては前記結晶性化合物が金属化合物であるのが好ましく、前記金属化合物の金属も公知の金属であってよい。前記金属としては、周期律表のdブロック元素を含む金属などが挙げられる。前記金属化合物の化合物も、公知の化合物であってよく、前記結晶性化合物における化合物としては、例えば、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、オキシ硫化物、ホウ化物、オキシホウ化物、炭化物、オキシ炭化物、ホウ炭化物、ホウ窒化物、ホウ硫化物、炭窒化物、炭硫化物又は炭ホウ化物等が挙げられるが、本発明においては、酸化物又は窒化物であるのが、例えばヘテロエピタキシャル成長における応力緩和及び反り低減をバッファ層としてより優れたものとすることができ、さらに電気特性(特に導電体層と絶縁層との界面)をより優れたものとすることができるので好ましい。前記結晶性化合物は結晶性酸化物であるのが好ましく、前記かご応物膜は酸化膜であるのが好ましく、前記化合物元素が酸素であるのが好ましい。また、本発明においては、前記結晶性化合物が結晶性窒化物であるのが好ましく、前記化合物膜が窒化膜であるのが好ましく、前記化合物元素が窒素であるのが好ましい。
前記積層構造体の製造方法は、特に限定されないが、結晶基板上に少なくとも化合物膜を形成し、ついで結晶性酸化物を含むエピタキシャル膜を積層し、さらに、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜を積層する積層構造体の製造方法であって、前記エピタキシャル膜の積層を、前記化合物膜中の化合物元素を用いて前記エピタキシャル膜を形成することにより行って、前記エピタキシャル膜と前記第2のエピタキシャル膜との界面において、互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なる山谷構造を設ける方法が好ましく、このような製造方法も本発明に包含される。
【0014】
以下、本発明の好適な態様を、図面を用いて説明するが、本発明はこれら好適な態様に限定されるものではない。
図1は、前記積層構造体の好適な例を示しており、
図1の積層構造体は、結晶基板1上に酸化膜2を用いてエピタキシャル層3が積層されており、さらにエピタキシャル層3の上に第2のエピタキシャル層4が積層されている。なお、本明細書中、「膜」及び「層」の各用語は、それぞれ場合によって、又は状況に応じて、互いに入れ替えてもよい。また、前記積層構造体の好適な例として、酸化物の例を挙げているが、本発明は、これら好適な例に限定されるものではなく、窒化物等の各種化合物においても好適に本発明を適用することができる。
前記積層構造体は、例えば
図3に示すように、結晶基板1上に、前記結晶基板1の酸化膜2を形成し、ついで前記酸化膜2中の酸素を用いて、
図4に示すように、結晶基板1上に結晶性酸化物からなるエピタキシャル膜3を形成した後、さらに前記エピタキシャル膜3の上に前記第2のエピタキシャル膜を形成することにより容易に製造することができる。本発明においては、前記積層構造体が、前記結晶基板1上に前記酸化膜2を有していてもよいが、前記エピタキシャル膜3形成時に前記酸化膜2中の酸素が全て取り込まれて前記酸化膜2が消失していてもよい。以下、それぞれについてより具体的に説明するが、本発明は、これら具体例に限定されるものではない。
【0015】
前記結晶基板(以下、単に「基板」ともいう)は、基板材料等、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の結晶基板であってよい。有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。本発明においては、前記結晶基板が無機化合物を含んでいるのが好ましい。本発明においては、前記基板が、表面の一部または全部に結晶を有するものであるのが好ましく、結晶成長側の主面の全部または一部に結晶を有している結晶基板であるのがより好ましく、結晶成長側の主面の全部に結晶を有している結晶基板であるのが最も好ましい。前記結晶は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、結晶構造等も特に限定されないが、立方晶系、正方晶系、三方晶系、六方晶系、斜方晶系又は単斜晶系の結晶であるのが好ましく、(100)又は(200)に配向している結晶であるのがより好ましい。また、前記結晶基板は、オフ角を有していてもよく、前記オフ角としては、例えば、0.2°~12.0°のオフ角などが挙げられる。ここで、「オフ角」とは、基板表面と結晶成長面とのなす角度をいう。前記基板形状は、板状であって、前記エピタキシャル膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいが、本発明においては、前記基板が、Si基板であるのが好ましく、結晶性Si基板であるのがより好ましく、(100)に配向している結晶性Si基板であるのが最も好ましい。なお、前記基板材料としては、例えば、Si基板の他に周期律表第3族~第15族に属する1種若しくは2種以上の金属又はこれらの金属の酸化物等が挙げられる。前記基板の形状は、特に限定されず、略円形状(例えば、円形、楕円形など)であってもよいし、多角形状(例えば、3角形、正方形、長方形、5角形、6角形、7角形、8角形、9角形など)であってもよく、様々な形状を好適に用いることができる。また、本発明においては、大面積の基板を用いることもでき、このような大面積の基板を用いることによって、エピタキシャル膜の面積を大きくすることができる。
【0016】
また、本発明においては、前記結晶基板が平坦面を有するのが好ましいが、前記結晶基板が表面の一部または全部に凹凸形状を有しているのも、前記エピタキシャル膜の結晶成長の品質をより良好なものとし得るので、好ましい。前記の凹凸形状を有する結晶基板は、表面の一部または全部に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されていればそれでよく、前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凹凸部が周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ドット状またはストライプ状が好ましく、ドット状がより好ましい。また、凹凸部が周期的かつ規則的にパターン化されている場合には、前記凹凸部のパターン形状が、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの形状であるのが好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、ドットの格子形状を、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子形状にするのが好ましく、三角格子の格子形状にするのがより好ましい。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは100~1000μmである。
【0017】
前記酸化膜は、前記エピタキシャル膜に酸素原子を組み込むことができる酸化膜であれば特に限定されず、通常、酸化材料を含む。前記酸化材料は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の酸化材料であってよい。前記酸化材料としては、金属又は半金属の酸化物等が挙げられる。本発明においては、前記酸化膜が、前記結晶基板の酸化材料を含むのが好ましく、このような酸化膜としては、例えば前記結晶基板の熱酸化膜、自然酸化膜等が挙げられる。また、本発明においては、前記酸化膜は、酸素原子が取り込まれると膜の一部若しくは全部が消失又は破壊される犠牲層であってよく、本発明においては、前記酸化膜が、前記エピタキシャル層の結晶成長の際に、酸素原子が取り込まれて酸化膜自体は消失する酸素供給犠牲層であるのが好ましい。また、前記酸化膜は、パターン化されていてもよく、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状にパターン化されていてもよい。なお、前記酸化膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは、1nmを超え100nm未満である。
【0018】
前記エピタキシャル層は、前記酸化膜中の酸素原子が組み込まれているエピタキシャル膜を含んでいるのが好ましい。なお、「前記酸化膜中の酸素原子が組み込まれているエピタキシャル膜」は、前記エピタキシャル膜の結晶成長において、前記酸化膜中の酸素原子が前記エピタキシャル膜に奪われたことを意味する。前記エピタキシャル膜は、前記酸化膜中の酸素原子を組み込んで結晶成長したエピタキシャル膜であれば特に限定されないが、本発明においては、金属又は金属酸化物を含むのが好ましい。前記金属としては、好適には例えば周期律表dブロックに属する1種又は2種以上の金属が挙げられる。前記金属酸化物としては、好適には例えば周期律表dブロックに属する1種又は2種以上の金属の酸化物が挙げられる。本発明においては、前記エピタキシャル膜が誘電体を含むのが好ましい。また、本発明においては、前記エピタキシャル膜が中性子吸収材を含むのが好ましい。前記中性子吸収材は、公知の中性子吸収材であってよく、本発明においては、このような中性子吸収材を用いて、前記酸化膜の酸素を取り込むことにより、密着性及び結晶性、さらに機能性膜の特性等をより優れたものとすることができる。なお、前記中性子吸収材としては、例えば、ハフニウム(Hf)等が好適な例として挙げられる。また、前記エピタキシャル層は、1種又は2種以上のエピタキシャル膜から構成されていてもよく、本発明においては、前記エピタキシャル層が2種以上の前記エピタキシャル膜を含むのが好ましい。より具体的に例えば、前記エピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜とは異なる組成の第2のエピタキシャル膜が積層されているのが好ましい。このように積層することにより、前記エピタキシャル層と前記第2のエピタキシャル層との界面において、前記エピタキシャル層(以下、「第1のエピタキシャル層」ともいう」)と前記第2のエピタキシャル層との界面において、前記第2のエピタキシャル層の格子定数と略同一になるように第1のエピタキシャル層を規則的に変態させることができる。前記の規則的な変態の態様としては、例えば、山谷構造に形状が変形する変態等が好適な例として挙げられ、本発明においては、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角がそれぞれ異なるのが好ましく、前記角がそれぞれ30°~45°の範囲内であるのがより好ましい。ここで、前記エピタキシャル層は、通常第1の結晶面と第2の結晶面とを有するが、前記変態によって、前記第1の結晶面と、前記第2の結晶面との格子定数差が生じ得るので、前記第1の結晶面と、前記第2の結晶面との格子定数差が0.1%~20%の範囲内とするのが好ましい。本発明では、前記第1の結晶面が、前記第2のエピタキシャル膜の格子定数と略同一とすることができるので、第1のエピタキシャル層と第2のエピタキシャル層との格子定数差を0.1%~20%の範囲内とすることを容易に実現できる。
【0019】
また、本発明においては、前記エピタキシャル膜が誘電体であり、前記第2のエピタキシャル膜が電極であるのがより好ましい。第2のエピタキシャル層を電極とすることにより、界面における密着性や結晶性等をより向上させることができるのみならず、例えば素子の特性をより優れたものとすることができる。また、本発明によれば、前記第2のエピタキシャル層が導電性金属の単結晶膜からなる場合には、大面積の無欠陥膜を容易に得ることができ、電極としての機能のみならず、素子等の特性をもより優れたものとすることができる。前記導電性金属としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銀パラジウム、銅、ニッケル、又はこれらの合金等が挙げられるが、本発明においては、白金を含むのが好ましい。なお、本発明においては、前記の製造方法によれば、好適には100nm2以上の面積において無欠陥の単結晶膜を電極として得ることができ、より好適には1000nm2以上の面積において無欠陥の単結晶膜を容易に得ることができる。また、厚さも好適には100nm以上の単結晶膜を電極として容易に得ることができる。
【0020】
また、本発明においては、さらに、前記第2のエピタキシャル膜上に、直接又は他の層を介して、前記エピタキシャル膜及び前記第2のエピタキシャル膜とは異なる組成の第3のエピタキシャル膜及び/又は第4のエピタキシャル膜が積層されているのが好ましい。
図2は、前記第2のエピタキシャル層4上に、前記第3のエピタキシャル層5及び前記第4のエピタキシャル層6が積層されている積層構造体の好適な一例を示す。
図2の積層構造体は、結晶基板1上に、酸化膜を用いて第1のエピタキシャル層3が積層されており、さらに、第1のエピタキシャル層3上に第2のエピタキシャル層4が積層され、第2のエピタキシャル層4上には第3のエピタキシャル層5が積層され、第3のエピタキシャル層5上に第4のエピタキシャル層6が積層されている。なお、前記第3のエピタキシャル層における第3のエピタキシャル膜は、誘電体、半導体又は導体であるのが好ましく、誘電体であるのがより好ましく、圧電体であるのが最も好ましい。また、前記第4のエピタキシャル層における第4のエピタキシャル膜は、誘電体、半導体又は導体であるのが好ましく、誘電体であるのがより好ましく、圧電体であるのが最も好ましい。前記エピタキシャル膜のそれぞれの膜厚は、特に限定されないが、好ましくは、10nm~100μmであり、より好ましくは50nm~30μmである。
【0021】
前記積層構造体は、結晶基板上に少なくとも酸化膜を介してエピタキシャル層を積層する積層構造体の製造方法において、前記の積層を、350℃~700℃にて、前記酸化膜中の酸素原子を用いてエピタキシャル膜を形成することにより行うことで容易に得ることが可能である。350℃~700℃の範囲であると、容易に、前記酸化膜中の酸素原子を前記エピタキシャル膜に取り込んで結晶成長させることができる。
【0022】
本発明においては、前記の積層を、前記酸化膜中の酸素原子を用いた後、酸素ガスを用いて前記エピタキシャル膜を成膜するのが好ましく、このように成膜することにより、成膜レート等がより優れたものとなる。また、このように成膜することにより、結晶基板上にエピタキシャル層が積層されている積層構造体であって、前記結晶基板と前記エピタキシャル層との間に、前記エピタキシャル層及び/又は前記結晶基板の構成金属を含むアモルファス薄膜及び/又は前記結晶基板の一部に1又は2以上埋め込まれており且つ前記構成金属を含む埋込層を有している積層構造体を容易に得ることができる。本発明においては、前記アモルファス層及び前記埋込層の両方を前記積層構造体が有しているのが前記エピタキシャル膜の機能性等をさらに優れたものとすることができるので好ましい。また、前記アモルファス層及び前記埋込層は、それぞれ前記エピタキシャル層の構成金属を含むのが前記エピタキシャル膜等の結晶性がより優れたものとなるので好ましい。また、本発明においては、前記構成金属がHfを含むのが、より応力緩和等を促進し、さらには多段階での応力緩和等も実現可能とすることから好ましい。また、本発明においては、前記アモルファス薄膜の膜厚が1nm~10nmであるのが前記エピタキシャル膜の結晶性等をより向上させることができるので好ましく、このような好ましい膜厚のアモルファス薄膜を本発明の好ましい製造方法によれば容易に得ることができる。また、本発明においては、前記埋込層の形状が略逆三角形の断面形状を有するのが、前記エピタキシャル膜の機能性をより向上させることができるので好ましい。なお、これら好ましい積層構造体は、前記酸化膜の膜厚及び前記酸素ガスの導入時期等を適宜調整することによって、容易に得ることが可能である。
【0023】
前記積層において用いられる積層手段としては、通常、前記エピタキシャル膜の成膜手段が好適に用いられ、前記成膜手段は公知の成膜手段であってよい。本発明においては、前記成膜手段が、蒸着又はスパッタであるのが好ましく、蒸着であるのがより好ましい。
【0024】
以上のようにして得られた結晶膜又は積層構造体は、常法に従い、電子デバイスに好適に用いられる。例えば、前記積層構造体を、圧電素子として、電源や電気/電子回路と接続し、回路基板に搭載したり、パッケージしたりすることにより様々な電子デバイスを構成することができる。本発明においては、前記電子デバイスが、圧電デバイスであるのが好ましく、例えば、インクジェットプリンタヘッド、マイクロアクチュエータ、ジャイロスコープ、モーションセンサ等の電子機器における圧電デバイスとして利用可能である。また、例えば、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサなどの各種センサに利用可能である。また、定電圧駆動のメモリにも適用できるし、例えば、蓄電素子と整流電力管理回路を接続すれば、外部からの磁場や振動から電力を発電するエネルギー変換デバイス(エネルギーハーベスタ)となる。なお、前記エネルギー変換デバイスは、電源システムやウェアラブル端末(イヤホン/ヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス(眼鏡)、スマートコンタクトレンズ、人工内耳、心臓ペースメーカーなど)などに組み込まれ利用される。本発明においては、前記積層構造体を、例えばスマートグラス、ARヘッドセット、LiDARシステム向けのMEMSミラー、先端医療向けの圧電MEMS超音波トランスデューサ(PMUT)、商工業用3Dプリンタ向けのピエゾヘッド等に用いることが好ましい。
【0025】
前記電子デバイスは、常法に従い電子機器に好適に用いられる。前記電子機器としては、上記した電子機器以外にも様々な電子機器に適用可能であり、より具体的に例えば、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、撮像装置、圧電音響部品や該圧電音響部品を有する音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、各種情報端末等が好適な例として挙げられる。
【0026】
また、前記電子機器は、常法に従いシステムにも適用され、かかるシステムとしては、例えばセンサーシステム等が挙げられる。
【実施例0027】
(実施例1)
Si基板(100)の結晶成長面側をRIEで処理し、酸素の存在下、加熱して熱酸化膜を形成した後、酸素を用いずに、蒸着法にて、蒸着源の金属と、Si基板上の酸化膜中の酸素とを熱反応させ、結晶性金属酸化物の単結晶をSi基板上に形成した。ついで、酸素を流し、温度を下げ、かつ圧力を上げて、蒸着法にて、結晶性金属酸化物の単結晶膜を成膜した。なお、この成膜時の蒸着法の各条件は次の通りであった。
蒸着源 : Hf、Zr
電圧 : 3.5~4.75V
圧力 : 3×10-2~6×10-2Pa
基板温度 : 450~700℃
【0028】
次に、結晶性金属酸化物の単結晶膜の上に、導電膜として、白金(Pt)の金属膜をスパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
圧力 : 1.20×10-1Pa
ターゲット : Pt
電力 : 100W(DC)
厚さ : 100nm
基板温度 : 450~600℃
【0029】
次に、導電膜上に、SRO膜を、スパッタリング法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
装置 : ULVAC社製スパッタリング装置QAM-4
パワー : 150W(RF)
ガス : Ar
圧力 : 1.8Pa
基板温度 : 600℃
厚さ : 20nm
【0030】
次に、SRO膜上に、圧電膜として、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3膜(PZT膜)を、塗布法により形成した。この際の条件を、以下に示す。
【0031】
Pbの原料として酢酸鉛を用い、Zrの原料として硝酸ジルコニルを用い、Tiの原料としてチタンイソプロポキシドを用いた。また、Pb、Zr及びTiの各原料を、Pb:Zr:Ti=100+δ:52:48の組成比になるように混合し、溶媒は原料の溶解性を考慮して純水とし、加水分解を制御するため酢酸を添加した。更に、粘度調整用にポリビニルピロリドン粉末を混合溶解させたエタノール(PZT1molに対し0.5~3.0mol)を添加して用いた。最後に、塗布時の濡れ性調整用に、2nブトキシエタノールを適量混合し、原料溶液としてのゾル・ゲル溶液を調製した。
【0032】
次に、調製したゾル・ゲル溶液を、基板上に滴下し、2000rpmで1分間回転させ、基板上にゾル・ゲル溶液をスピンコート(塗布)することにより、前駆体を含む膜を形成した。そして、150℃の温度のホットプレート上に、基板を載置し、更に350℃の温度のホットプレート上に、基板を載置することにより、溶媒を蒸発させて膜を乾燥させた。この工程を5回繰り返して5層を同条件で積層した後、酸素(O2)雰囲気中、650℃で3分間熱処理して前駆体を酸化して結晶化させた。以上のプロセスを10回繰り返し、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3膜(PZT膜)を作製した。この時の総膜厚は10μmであった。
【0033】
得られた積層構造体は、良好な密着性及び結晶性を有するエピタキシャル膜を含む積層構造体であった。また、得られた積層構造体の断面STEM像を
図5及び
図6に示す。
図6から非常に良質な積層構造体が得られていることが分かり、特に、
図5では、結晶性金属酸化物の単結晶膜と導電膜との界面において、規則的な山谷構造が設けられており、前記山谷構造の互いに隣り合う頂点及び底点のなす角が30°~45°の範囲内でそれぞれ異なっていることが分かる。また、導電膜のX線結晶格子像を
図7及び
図8に示す。
図7及び
図8から、無欠陥の大面積導電膜が分かり、電極特性及びその上に積層される圧電膜の圧電特性において優れた効果を発揮することが分かる。従来、スピンコートによって成膜した圧電膜は圧電特性を発現することが困難であったが、本実施例においてスピンコートによって成膜した圧電膜(PZT膜)は、良好な圧電特性を有していた。また、積層構造体の結晶基板、結晶性金属酸化物の単結晶膜及び導電膜につき、X線回折装置を用いて、それぞれの結晶を測定した。
図11に、XRD測定結果を示す。
図11から明らかなように、Si結晶基板上に、良好な結晶性を有する(Hf、Zr)O
2膜及びPt単結晶膜が形成されていた。
【0034】
(実施例2)
酸素ガスに代えて窒素ガスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、結晶性金属窒化物の単結晶膜の上に、導電膜として、白金(Pt)の金属膜を形成した。そして、積層構造体の結晶基板、結晶性金属窒化物の単結晶膜及び導電膜につき、X線回折装置を用いて、それぞれ測定した。
図12に、XRD測定結果を示す。
図12から明らかなように、Si結晶基板上に、良好な結晶性を有する(Hf、Zr)N膜及びPt単結晶膜が形成されていた。なお、四端子法で測定したところ、得られた結晶性金属窒化物の単結晶膜は良好な導電性を有していた。
【0035】
実施例1において用いた蒸着成膜装置を
図13に示す。
図13の成膜装置は、ルツボに金属源101a~101b、アース102a~102h、ICP電極103a~103b、カットフィルター104a~104b、DC電源105a~105b、RF電源106a~106b、ランプ107a~107b、Ar源108、反応性ガス源109、電源110、基板ホルダー111、基板112、カットフィルター113、ICPリング114、真空槽115及び回転軸116を少なくとも備えている。なお、
図13のICP電極103a~103bは基板112の中心側に湾曲した略凹曲面形状又はパラボラ形状を有している。
【0036】
図13に示すように、基板112を基板ホルダー111上に係止する。ついで、電源110と回転機構(図示せず)とを用いて回転軸116を回転させ、基板112を回転させる。また、基板112をランプ107a~107bによって加熱し、真空ポンプ(図示せず)によって真空槽115内を排気により真空又は減圧下にする。その後、真空槽115内にAr源108からArガスを導入し、DC電源105a~105b、RF電源106a~106b、ICP電極103a~103b、カットフィルター104a~104b、及びアース102a~102hを用いて基板112上にアルゴンプラズマを形成することにより、基板112の表面の清浄化を行う。
【0037】
真空槽115内にArガスを導入するとともに反応性ガス源109を用いて反応性ガスを導入する。このとき、ランプヒーターであるランプ107a~107bのオンとオフとを交互に繰り返すことで、より良質な結晶成長膜を形成することができるように構成されている。
【0038】
実施例1と同様にして得られた積層構造体につき、STEM解析を行った。結果を
図14~16に示す。
図14から、結晶基板1011とエピタキシャル層1001との間に、埋込層1004が形成され、さらに、アモルファス層1002、1003が形成されていることが分かる。また、
図15から、結晶基板上1011の第1のアモルファス層1002には、結晶基板のSiと、エピタキシャル層1001の構成金属であるZrが含まれていることがわかる。また、第2のアモルファス層には、結晶基板のSiと、エピタキシャル層1001の構成金属であるHf及びZrとが含まれていることがわかる。また、
図16から、埋込層1004が、略逆三角形の断面形状を有しており、Hf及びSiが含まれている酸化物であることがわかる。
【0039】
(適用例)
得られた積層構造体の適用例を、以下、図を用いてより具体的に説明するが、本発明は、これら適用例に限定されるものではない。なお、本発明においては、特に断りがない限り、公知の手段を用いて、前記積層構造体から圧電デバイス等を製造することができる。
【0040】
図9は、本発明において前記積層構造体が好適に用いられるMEMSマイクロフォンを構成する音響MEMSトランスデューサの実施態様を示す。なお、前記MEMSトランスデューサは、音響放出機器(例えば、スピーカー等)を構成することができる。
【0041】
図9の音響MEMSトランスデューサにて構成されるMEMSマイクロフォンは、カンチレバータイプのMEMSマイクロフォンを示しており、2つのカンチレバー・ビーム28A、28Bと空洞30とを有するSi基板21を備えている。各カンチレバー・ビーム28A、28Bは、それぞれの端部で基板21に固定されており、カンチレバー・ビーム8A、8Bの間には隙間9が設けられている。なお、カンチレバー・ビーム8A、8Bは、例えば、複数の圧電層(PZT膜)26a、26bを含む積層構造体によって形成され、複数の電極層すなわちPt膜24a、24b、24c及びSRO膜25a、25b、25c、25dと交互になっている。誘電体層(結晶性酸化物の単結晶膜)23は、カンチレバー・ビーム8A、8Bを結晶基板21から電気的に絶縁する。
図9では、誘電体層(結晶性酸化物の単結晶膜)23に中性子吸収材(例えばHfO
2又はその混晶)が用いられており、SiO
2やSiN等を用いた場合に比べ、Si基板との密着性及び結晶性に優れており、さらには、圧電特性や耐久性にも優れている。
【0042】
図10は、本発明において前記積層構造体が好適に用いられる印刷用途、特にインクジェットプリントヘッドの態様で使用することができる流体排出装置への適用例を示し、具体的には、電極層として、Pt膜34a、34b及びSRO膜35a、35bを含み、かつ圧電膜としてPZT膜36を含む圧電アクチュエータを備えているウエハの一部の断面図を示す。
図10のウエハは、前記圧電アクチュエータの他に、流体を収容するためのチャンバー41を備えている。チャンバー41は、タンク(図示せず)から流路40を介して流体を取り込めるように構成されている。また、
図10のウエハは、Si基板31を含み、その上に、第1のエピタキシャル層として、誘電体層(結晶性酸化物の単結晶膜)33が設けられており、チャンバー41に面している。
図10では、誘電体層(結晶性酸化物の単結晶膜)23に中性子吸収材(例えばHfO
2又はその混晶)が用いられており、SiO
2やSiN等を用いた場合に比べ、Si基板との密着性及び結晶性に優れており、さらには、圧電特性や耐久性にも優れている。なお、結晶性酸化物の単結晶膜33は、例えば、上面図(図示せず)において四角形の形状を有しており、かかる形状は、例えば、正方形、長方形、角が丸い長方形、平行四辺形等のいずれであってもよい。
【0043】
結晶性酸化物の単結晶膜33の上には、Pt膜34a、SRO膜35a、圧電膜(PZT膜)36、SRO膜35b、及びPt膜34bが順に積層されており、圧電アクチュエータを構成している。また、前記圧電アクチュエータは、電極34a及び35a、圧電膜36、並びに電極34b及び35b上に延びる絶縁膜37をさらに備えている。絶縁膜37は、電気絶縁に使用される誘電体材料を含むが、かかる誘電体材料は公知の誘電体材料であってよく、例えばSiO2層、SiN層又はAl2O3層であってよい。なお、絶縁膜を構成材料として含む絶縁層の厚さは特に限定されないが、好ましくは、約10nm~約10μmの間の厚さである。また、導電路39は、絶縁層(絶縁膜)37上に設けられ、それぞれ電極34a及び35a並びに電極34b及び35bに接触し、使用時に選択的アクセスを可能にしている。なお、導電路の構成材料は、公知の導電材料であってよく、このような導電材料としては、例えば、アルミニウム(Al)等が好適な例として挙げられる。また、パッシベーション層42は、絶縁層37、電極34b及び35b、並びに導電路39上に設けられている。パッシベーション層42は、前記圧電アクチュエータのパッシベーションに使用される誘電体材料から構成されていればよく、かかる誘電体材料も特に限定されず、公知の誘電体材料であってよい。前記誘電体材料としては、例えば、SiNまたはSION(シリコンオキシナイトレート)等が好適な例として挙げられる。前記パッシベーション層の厚さは特に限定されないが、好ましくは約0.1μm~約3μmの間の厚さである。また、導電パッド38も同様に前記圧電アクチュエータに沿って設けられ、導電路39に電気的に接続されている。なお、パッシベーション層42は、圧電体を湿度等から守るバリア層として機能する。