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特開2023-109710微細加工処理剤、及び微細加工処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109710
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】微細加工処理剤、及び微細加工処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20230801BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01L21/308 E
H01L21/306 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003026
(22)【出願日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022010664
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000162847
【氏名又は名称】ステラケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003764
【氏名又は名称】弁理士法人OMNI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】伊達 和哉
(72)【発明者】
【氏名】中田 和
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 類
(72)【発明者】
【氏名】二井 啓一
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲郎
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA35
5F043BB23
5F043DD07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に於いて、シリコン酸化膜に対する微細加工を抑制しながら、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工を良好に行うことが可能な微細加工処理剤及び微細加工処理方法を提供する。
【解決手段】微細加工処理剤は、所定の化学式で表される化合物、無機リン酸、ヘキサフルオロケイ酸化合物及び水を少なくとも含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜の微細加工に用いる微細加工処理剤であって、
以下の化学式(1)で表される化合物と、
無機リン酸と、
ヘキサフルオロケイ酸化合物と、
水とを少なくとも含み、
前記シリコン酸化膜に対して前記シリコン窒化膜を選択的に微細加工する微細加工処理剤。
【化1】
(Xは、水素原子、ケイ素原子、又は前記化学式(2)~(4)で表される官能基の何れかである。前記化学式(2)~(4)に於けるR、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が2~20のアルケニル基、炭素数が2~20のアルキニル基、炭素数が1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数が1~20のアルコキシ基、炭素数が1~20のアミノアルコキシ基、ホスフェート基、サルフェート基、ニトリル基、カルボキシル基又はアセトキシ基の何れかを表す。nは1~4の整数を表す。)
【請求項2】
前記化学式(1)で表される化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.001質量%以上、0.1質量%以下である請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項3】
前記無機リン酸の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し50質量%以上、90質量%以下である請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項4】
前記ヘキサフルオロケイ酸化合物が、ヘキサフルオロケイ酸及びヘキサフルオロケイ酸アンモニウムの少なくとも何れかを含む請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項5】
前記ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.01質量%以上、0.3質量%以下である請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項6】
前記微細加工処理剤が、前記シリコン窒化膜に対して、180℃以下で1nm/分以上のエッチレートを有する請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項7】
前記シリコン酸化膜は、自然酸化膜、ケミカル酸化膜、シリコン熱酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、窒素含有シリコン酸化膜、SOG膜、又はSOD膜の何れかである請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項8】
前記シリコン窒化膜は、シリコン窒化膜、酸素含有シリコン窒化膜、又は炭素含有シリコン窒化膜の何れかである請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項9】
シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に対する微細加工処理方法であって、
以下の化学式(1)で表される化合物と、
無機リン酸と、
ヘキサフルオロケイ酸化合物と、
水とを少なくとも含む微細加工処理剤を用いて、
前記シリコン酸化膜に対して前記シリコン窒化膜を選択的に微細加工する微細加工処理方法。
【化2】
(Xは、水素原子、ケイ素原子、又は前記化学式(2)~(4)で表される官能基の何れかである。前記化学式(2)~(4)に於けるR、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が2~20のアルケニル基、炭素数が2~20のアルキニル基、炭素数が1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数が1~20のアルコキシ基、炭素数が1~20のアミノアルコキシ基、ホスフェート基、サルフェート基、ニトリル基、カルボキシル基又はアセトキシ基の何れかを表す。nは1~4の整数を表す。)
【請求項10】
前記化学式(1)で表される化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.001質量%以上、0.1質量%以下である請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項11】
前記無機リン酸の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し50質量%以上、90質量%以下である請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項12】
前記ヘキサフルオロケイ酸化合物が、ヘキサフルオロケイ酸及びヘキサフルオロケイ酸アンモニウムの少なくとも何れかを含む請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項13】
前記ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.01質量%以上、0.3質量%以下である請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項14】
前記微細加工処理剤が、前記シリコン窒化膜に対して、180℃以下で1nm/分以上のエッチレートを有する請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項15】
前記微細加工処理剤は180℃以下の温度を有する請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項16】
前記シリコン酸化膜は、自然酸化膜、ケミカル酸化膜、シリコン熱酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、窒素含有シリコン酸化膜、SOG膜、又はSOD膜の何れかである請求項9に記載の微細加工処理方法。
【請求項17】
前記シリコン窒化膜は、シリコン窒化膜、酸素含有シリコン窒化膜、又は炭素含有シリコン窒化膜の何れかである請求項9に記載の微細加工処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、液晶表示装置、マイクロマシン(micro electro mechanical systems;MEMS)デバイス等の製造に於いて、エッチング及び洗浄処理等を含む微細加工に用いる微細加工処理剤、及び微細加工処理方法に関し、特にシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜の微細加工に用いる微細加工処理剤、及び微細加工処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造プロセスに於いて、ウェハ表面に成膜されたシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン合金、ポリシリコン膜及び金属膜等を目的の形状にパターニングし、エッチングする工程がある。そのエッチング手法は、ドライエッチング法とウェットエッチング法とに大別される。
【0003】
ドライエッチング法は異方性エッチングとも呼ばれ、反応性ガスを用いてウェハ上の対象膜を除去する。ドライエッチング法は対象膜の膜面に対し垂直な方向にのみ進むため、微細加工が可能になる。その一方、ドライエッチング装置は高価なうえ、基本的には反応装置内を真空状態にしてウェハを一枚ずつバッチ式処理するため、製造コストが高くスループットが低いというデメリットがある。
【0004】
ウェットエッチング法は等方性エッチングとも呼ばれ、液体状の薬液を用いて対象膜を除去する。ウェットエッチング法は一度に大量のウェハを処理することができるため、コストを低減することができ、スループットの向上が図れるというメリットがある。その一方、ウェットエッチング法は、パターン下部にもエッチングが及ぶため形成したパターンサイズよりも大きな加工寸法となってしまうというデメリットがある。
【0005】
製造プロセスに於いてウェットエッチング法が適用される半導体素子としては、例えば3D-NAND型不揮発性メモリが挙げられる。従来のNAND型不揮発性メモリは、プレーナ型で微細化により大容量化してきたが、電気的な信頼性低下を招来し、微細化には限界が訪れた。そこで、メモリセルを縦方向に積み重ねることでメモリセルを小さくせず大容量化したのが3D-NAND型不揮発性メモリである。
【0006】
3D-NAND型不揮発性メモリのメモリセル部は、シリコン窒化膜とシリコン酸化膜が交互に積層されて形成されている。そして交互に積層されたシリコン窒化膜及びシリコン酸化膜に対しドライエッチング法により、微細なホールを形成する。このホールは断面視に於けるエッチング幅が数百ナノメートル、エッチング深さが数マイクロメートルの高アスペクト比を有している。そして、このホール内においてシリコン窒化膜にリセス構造を形成する際に、当該シリコン窒化膜のみをエッチングするためにウェットエッチング法が適用される。
【0007】
また、ロジック及びメモリなどの半導体素子のトランジスタに於いて、素子間を電気的に絶縁(分離)するために埋込絶縁膜(シリコン酸化膜)を形成するSTI(Shallow Trench Isolation)プロセスでもウェットエッチング法が適用される。具体的には、STIプロセスに於いて、埋込絶縁膜をCMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨により平坦化した後、シリコン酸化膜を残してシリコン窒化膜を選択的に除去する工程でウェットエッチング法が適用される。
【0008】
前記3D-NAND型不揮発性メモリにおけるリセス構造の形成や、トランジスタに於けるSTIプロセスを用いた素子分離のためには、シリコン酸化膜のエッチングを可能な限り抑制しつつ、シリコン窒化膜を良好に選択エッチングすることが求められる。
【0009】
ここで、シリコン窒化膜を選択的にエッチングするウェットエッチング法としては、エッチング液として高温のリン酸を用いる方法が挙げられる。しかしこのウェットエッチング法であると、シリコン酸化膜が幾分かエッチングされ、その結果、目的とする形状に微細加工することが困難な場合がある。
【0010】
この様な問題に対し、例えば特許文献1には、リン酸液、シリコンを含む化合物(シリカ又はポリシロキサン)及び溶媒を含むエッチング液が開示されている。また特許文献2には、F/Si原子比が6.0未満のケイ素とフッ素の化合物及び/又は混合物に、さらにリン酸を含んでなるエッチング用組成物が開示されている。しかし、特許文献1のエッチング液や特許文献2のエッチング用組成物では、シリコン酸化膜上にシリコン由来の析出物が発生するという問題がある。
【0011】
また特許文献3には、リン化合物、ホウ素化合物及び/又はそれらのフッ化物、並びに水を含んでなる窒化ケイ素のエッチング用組成物が開示されている。この特許文献3によれば、エッチング用組成物はシリコン酸化膜に対するダメージを抑制すると共に析出物の発生を抑制することができるとされている。しかし特許文献3のエッチング用組成物では、シリコン酸化膜に対するダメージを十分に抑制することができず、十分な選択的エッチング特性が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-58500号
【特許文献2】特開2007-12640号
【特許文献3】特開2009-21538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に於いて、シリコン酸化膜に対する微細加工を抑制しながら、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工を良好に行うことが可能な微細加工処理剤及び微細加工処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の微細加工処理剤は、前記の課題を解決するために、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜の微細加工に用いる微細加工処理剤であって、以下の化学式(1)で表される化合物と、無機リン酸と、ヘキサフルオロケイ酸化合物と、水とを少なくとも含み、前記シリコン酸化膜に対して前記シリコン窒化膜を選択的に微細加工することを特徴とする。
【0015】
【化1】
(Xは、水素原子、ケイ素原子又は前記化学式(2)~(4)で表される官能基の何れかを表す。前記化学式(2)~(4)に於けるR、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が2~20のアルケニル基、炭素数が2~20のアルキニル基、炭素数が1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数が1~20のアルコキシ基、炭素数が1~20のアミノアルコキシ基、ホスフェート基、サルフェート基、ニトリル基、カルボキシル基又はアセトキシ基の何れかを表す。nは1~4の整数を表す。)
【0016】
前記構成によれば、ヘキサフルオロケイ酸化合物を含有することにより、シリコン酸化膜に対する微細加工を抑制し、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工を向上させることができる。また、例えば、シリカ又はポリシロキサンを含む従来の微細加工処理剤と比較して、シリコン窒化膜のエッチングレートを向上させることができる。さらに化学式(1)で表される化合物を含有することにより、ヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物(例えば、シリコン酸化物等)が析出(生成)するのを低減又は防止することができる。これにより、シリコン化合物がシリコン酸化膜の表面に付着してシリコン酸化膜が膜成長するのを、低減又は防止することができる。
【0017】
前記構成に於いては、前記化学式(1)で表される化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.001質量%以上、0.1質量%以下であることが好ましい。化学式(1)で表される化合物の含有量を0.001質量%以上にすることにより、ヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物が析出(生成)するのを一層低減又は防止し、シリコン酸化膜に当該シリコン化合物が付着するのを低減又は防止することができる。その結果、シリコン酸化膜が膜成長するのを一層低減又は防止することができる。その一方、化学式(1)で表される化合物の含有量を0.1質量%以下にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制を良好に維持することができる。
【0018】
また前記構成に於いては、前記無機リン酸の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し50質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。無機リン酸の含有量をこの数値範囲内にすることにより、シリコン窒化膜に対するエッチングレートを良好に維持することができる。
【0019】
さらに前記構成に於いては、前記ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.01質量%以上、0.3質量%以下であることが好ましい。ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量を0.01質量%以上にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制効果を維持することができ、これによりシリコン窒化膜のエッチレートを良好にすることができる。その一方、ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量を0.3質量%以下にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制を良好に維持することができる。
【0020】
前記構成に於いては、前記微細加工処理剤が、前記シリコン窒化膜に対して、180℃以下で1nm/分以上のエッチレートを有することが好ましい。これにより、微細加工処理が長時間になるのを抑制し、処理(生産)効率の低下の抑制が図れる。
【0021】
前記の構成に於いて、前記シリコン酸化膜は、自然酸化膜、ケミカル酸化膜、シリコン熱酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、窒素含有シリコン酸化膜、SOG膜、又はSOD膜の何れかであってもよい。
【0022】
また前記の構成に於いて、前記シリコン窒化膜は、シリコン窒化膜、酸素含有シリコン窒化膜、又は炭素含有シリコン窒化膜の何れかであってもよい。
【0023】
本発明の微細加工処理方法は、前記の課題を解決するために、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に対する微細加工処理方法であって、以下の化学式(1)で表される化合物と、無機リン酸と、ヘキサフルオロケイ酸化合物と、水とを少なくとも含む微細加工処理剤を用いて、前記シリコン酸化膜に対して前記シリコン窒化膜を選択的に微細加工することを特徴とする。
【0024】
【化2】
(Xは、水素原子、ケイ素原子又は前記化学式(2)~(4)で表される官能基の何れかを表す。前記化学式(2)~(4)に於けるR、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が2~20のアルケニル基、炭素数が2~20のアルキニル基、炭素数が1~20のヒドロキシアルキル基、炭素数が1~20のアルコキシ基、炭素数が1~20のアミノアルコキシ基、ホスフェート基、サルフェート基、ニトリル基、カルボキシル基又はアセトキシ基の何れかを表す。nは1~4の整数を表す。)
【0025】
前記構成によれば、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に対し、前述の微細加工処理剤を用いてシリコン酸化膜の微細加工を抑制しながら、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工を良好に行うことができる。また、ヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物(例えば、シリコン酸化物等)が析出(生成)するのを低減又は防止するので、当該シリコン化合物がシリコン酸化膜に付着してシリコン酸化膜が膜成長するのを低減又は防止することもできる。その結果、前記の構成であると、例えば、3D-NAND型不揮発性メモリにおけるリセス構造の形成や、トランジスタに於けるSTIプロセスを用いた素子分離の形成などの半導体製造プロセスに於いて、シリコン酸化膜の微細加工を抑制しながらシリコン窒化膜を選択的に微細加工することができ、歩留まりの向上を図ることができる。
【0026】
前記構成に於いては、前記化学式(1)で表される化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.001質量%以上、0.1質量%以下であることが好ましい。化学式(1)で表される化合物の含有量を0.001質量%以上にすることにより、ヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物が析出(生成)するのを一層低減又は防止し、シリコン酸化膜に当該シリコン化合物が付着するのを低減又は防止することができる。その結果、シリコン酸化膜が膜成長するのを一層低減又は防止することができる。その一方、化学式(1)で表される化合物の含有量を0.1質量%以下にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制を良好に維持することができる。
【0027】
また前記構成に於いては、前記無機リン酸の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し50質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。無機リン酸の含有量をこの数値範囲内にすることにより、シリコン窒化膜に対するエッチングレートを良好に維持することができる。
【0028】
さらに前記構成に於いては、前記ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量が、前記微細加工処理剤の全質量に対し0.01質量%以上、0.3質量%以下であることが好ましい。ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量を0.01質量%以上にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制効果を維持することができ、これによりシリコン窒化膜のエッチレートを良好にすることができる。その一方、ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量を0.3質量%以下にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制を良好に維持することができる。
【0029】
前記の構成に於いて、前記微細加工処理剤は180℃以下の温度を有することが好ましい。これにより、微細加工処理剤の蒸発を抑制することができ、微細加工処理剤の組成変化を防止することができる。また、微細加工処理剤の蒸発によりエッチレートの制御が困難になるのを防止することができる。
【0030】
前記の構成に於いて、前記シリコン酸化膜は、自然酸化膜、ケミカル酸化膜、シリコン熱酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、窒素含有シリコン酸化膜、SOG膜、又はSOD膜の何れかであってもよい。
【0031】
また前記の構成に於いて、前記シリコン窒化膜は、シリコン窒化膜、酸素含有シリコン窒化膜、又は炭素含有シリコン窒化膜の何れかであってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に於いて、シリコン酸化膜に対する微細加工やシリコン酸化膜の膜成長を防止しながら、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工が可能な微細加工処理剤及び微細加工処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(微細加工処理剤)
本発明の実施の一形態に係る微細加工処理剤について、以下に説明する。
本実施の形態に係る微細加工処理剤は、以下の化学式(1)で示される化合物と、無機リン酸と、ヘキサフルオロケイ酸化合物と、水とを少なくとも含む。本実施の形態の微細加工処理剤は、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に於いて、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の選択的な微細加工に好適である。
【0034】
尚、本明細書に於いて「微細加工」とは、積層膜の表面を微細加工するエッチング処理、及び積層膜の表面のクリーニング処理等を含む意味である。積層膜に対しエッチング処理を施す場合、本実施の形態の微細加工処理剤はエッチング液として機能する。また、積層膜に対しクリーニング処理を施す場合、本実施の形態の微細加工処理剤は洗浄液として機能する。
【0035】
【化3】
【0036】
本実施の形態の微細加工処理剤は、化学式(1)で示される化合物を含有することで、ヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物(例えば、シリコン酸化物等)が析出(生成)するのを低減又は防止することができる。その結果、当該シリコン化合物がシリコン酸化膜に付着するのを防止し、シリコン酸化膜が膜成長するのを低減又は防止することができる。
【0037】
化学式(1)に於いて、Xは水素原子、ケイ素原子、又は前記化学式(2)~(4)の何れかで表される官能基である。化学式(2)~(4)に於けるR、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アミノアルコキシ基、ホスフェート基、サルフェート基、ニトリル基、カルボキシル基又はアセトキシ基の何れかを表す。尚、Xがケイ素原子である場合、n=4であり、Xが水素原子又は化学式(2)で表される官能基である場合、n=1であり、Xが化学式(3)で表される官能基である場合、n=2であり、Xが化学式(4)で表される官能基である場合、n=3である。
【0038】
前記R、R及びRに於けるアルキル基は、それぞれ独立して直鎖状及び分岐状の何れでもよい。アルキル基の炭素数は1~20であり、好ましくは1~8、より好ましくは1~4である。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、及びエイコシル基等が挙げられる。これらのアルキル基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基等が好ましい。
【0039】
尚、本明細書に於いて炭素数の範囲を表す場合、その範囲は当該範囲に含まれる全ての整数の炭素数を含むことを意味する。従って、例えば「炭素数1~3」のアルキル基とは、炭素数が1、2及び3の全てのアルキル基、すなわちメチル基、エチル基及びプロピル基を意味する。
【0040】
前記R、R及びRに於けるアルケニル基は、それぞれ独立して直鎖状及び分岐状の何れでもよい。アルケニル基の炭素数は2~20であり、好ましくは2~8、より好ましくは2~4である。アルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、及び7-オクテニル基等が挙げられる。これらのアルケニル基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、及び3-ブテニル基等が好ましい。
【0041】
前記R、R及びRに於けるアルキニル基は、それぞれ独立して直鎖状及び分岐状の何れでもよい。アルキニル基の炭素数は2~20であり、好ましくは2~8、より好ましくは2~4である。アルキニル基の具体例としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、及び5-ヘキシニル基等が挙げられる。これらのアルキニル基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基、及び3-ブチニル基等が好ましい。
【0042】
前記R、R及びRに於けるヒドロキシアルキル基は、それぞれ独立して直鎖状及び分岐状の何れでもよい。ヒドロキシアルキル基の炭素数は1~20であり、好ましくは1~8、より好ましくは1~4である。ヒドロキシアルキル基の具体例としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシノニル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシウンデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシトリデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシペンタデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシヘプタデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシノナデシル基、及びヒドロキシエイコシル基等が挙げられる。これらのヒドロキシアルキル基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、及びヒドロキシブチル基等が好ましい。
【0043】
前記R、R及びRに於けるアルコキシ基は、それぞれ独立して直鎖状及び分岐状の何れでもよい。アルコキシ基の炭素数は1~20であり、好ましくは1~8、より好ましくは1~4である。アルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、及びラウリルオキシ基等が挙げられる。これらのアルコキシ基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、及びtert-ブチルオキシ基等が好ましい。
【0044】
前記R、R及びRに於けるアミノアルコキシ基は、直鎖状及び分岐状の何れでもよい。アミノアルコキシ基の炭素数は1~20であり、好ましくは1~8、より好ましくは1~4である。アミノアルコキシ基の具体例としては、例えば、アミノメトキシ基、アミノエトキシ基、アミノプロピルオキシ基、アミノブチルオキシ基、アミノペンチルオキシ基、アミノヘキシルオキシ基、アミノヘプチルオキシ基、アミノオクチルオキシ基、アミノノニルオキシ基、アミノデシルオキシ基、及びアミノラウリルオキシ基等が挙げられる。これらのアミノアルコキシ基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、アミノメトキシ基、アミノエトキシ基、アミノプロピルオキシ基、及びアミノブチルオキシ基等が好ましい。
【0045】
前記R、R及びRに於けるサルフェート基の具体例としては、例えば、-SO基、-OS(=O)OCH基、及び-SO(=O)OCHCH基等が挙げられる。これらのサルフェート基のうち、水に対する溶解性を良好にするとの観点からは、-SO基等が好ましい。
【0046】
化学式(1)で表される化合物の含有量は、微細加工処理剤の全質量に対し0.001質量%以上、0.1質量%以下の範囲内が好適であり、0.005質量%以上、0.05質量%以下の範囲内がより好適である。化学式(1)で表される化合物の含有量を0.001質量%以上にすることにより、ヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物が析出(生成)してシリコン酸化膜に付着するのを低減又は防止することができる。その結果、シリコン酸化膜が膜成長するのを一層低減又は防止することができる。その一方、化学式(1)で表される化合物の含有量を0.1質量%以下にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートを一層良好に抑制することができる。
【0047】
本実施の形態に於いて無機リン酸は、シリコン窒化膜に対するエッチングレートが小さくなるのを防止するために微細加工処理剤中に含有される。
【0048】
無機リン酸としては特に限定されず、例えば、リン酸(オルトリン酸、HPO)、二リン酸(ピロリン酸、H)、三リン酸(トリポリリン酸、H10)、メタリン酸(HPO)、ヘキサメタリン酸等が挙げられる。これらの無機リン酸は一種単独で、又は二種以上を併用することができる。これらの無機リン酸のうち、入手の容易さの観点からは、リン酸(オルトリン酸、HPO)が好ましい。
【0049】
無機リン酸の含有量は、微細加工処理剤の全質量に対し50質量%以上、90質量%以下の範囲内が好適であり、55質量%以上、85質量%以下の範囲内がより好適である。無機リン酸の含有量をこの数値範囲にすることにより、シリコン窒化膜のエッチングレートを良好に維持することができる。
【0050】
本実施の形態に於いてヘキサフルオロケイ酸化合物は、シリコン酸化膜に対する微細加工を抑制し、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工を向上させることを可能にする。またヘキサフルオロケイ酸化合物は、例えばシリカ又はポリシロキサンを含む従来の微細加工処理剤と比較して、シリコン窒化膜のエッチングレートを向上させることもできる。
【0051】
ここで、本明細書に於いて「ヘキサフルオロケイ酸化合物」とは、ヘキサフルオロケイ酸及びその塩(例えば、アンモニウム塩等)の総称を意味する。本実施の形態のヘキサフルオロケイ酸化合物としては、具体的には、ヘキサフルオロケイ酸(HSiF)及びヘキサフルオロケイ酸アンモニウム((NHSiF)の少なくとも何れかを含むものが好ましい。
【0052】
ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量は、微細加工処理剤の全質量に対し0.01質量%以上、0.3質量%以下の範囲内が好適であり、0.05質量%以上、0.15質量%以下の範囲内がより好適である。ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量を0.01質量%以上にすることにより、シリコン酸化膜のエッチングレートの抑制効果を良好に維持し、その結果、シリコン窒化膜のエッチレートを良好にすることができる。その一方、ヘキサフルオロケイ酸化合物の含有量を0.3質量%以下にすることにより、シリコン酸化膜に対するエッチングレートの抑制効果を良好に維持することができる。
【0053】
本実施の形態の微細加工処理剤に含まれる水としては特に限定されないが、純水、超純水等が好ましい。
【0054】
水の含有量は、微細加工処理剤の全質量に対し5質量%以上、50質量%以下の範囲内が好適であり、10質量%以上、40質量%以下の範囲内がより好適である。
【0055】
本実施の形態の微細加工処理剤は化学式(1)で表される化合物、無機リン酸、ヘキサフルオロケイ酸化合物及び水のみからなる態様の場合の他、本願発明の効果を阻害しない範囲内で他の添加剤を添加することも可能である。他の添加剤としては、例えば、公知の界面活性剤等が例示できる。
【0056】
本実施の形態に係る微細加工処理剤の製造方法は特に限定されず、種々の方法を採用することができる。例えば、水に化学式(1)で表される化合物、ヘキサフルオロケイ酸化合物及び無機リン酸を任意の順序で、又は同時に添加して本実施の形態の微細加工処理剤を作製することができる。
【0057】
求められる微細加工処理剤の純度によっては、化学式(1)で表される化合物、無機リン酸、ヘキサフルオロケイ酸化合物及び水の少なくとも何れかを蒸留、イオン交換樹脂を用いた精製、イオン交換膜、電気透析、濾過等を用いて精製してもよく、また微細加工処理剤の循環濾過等を行って精製してもよい。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係る微細加工処理剤は、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に於いて、シリコン酸化膜の微細加工を抑制しながらシリコン窒化膜に対し選択的な微細加工を良好に行うことができる。また、微細加工処理剤中に含まれるヘキサフルオロケイ酸化合物由来のシリコン化合物が析出(生成)しシリコン酸化膜に付着して膜成長するのを低減又は防止しながら微細加工を施すことができる。そのため本実施の形態の微細加工処理剤は、高集積化及び微細化の進む半導体素子や液晶表示素子及びマイクロエレクトロニクスデバイス等の製造プロセスに於いて、ウェットエッチング等の微細加工処理に好適である。
【0059】
(微細加工処理方法)
次に、本実施の形態の微細加工処理剤を用いた微細加工処理方法について以下に説明する。
本実施の形態の微細加工処理方法は、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を少なくとも含む積層膜に対して微細加工を施すのに好適である。
【0060】
本実施の形態の微細加工処理剤は、種々のウェットエッチング法に採用される。ウェットエッチング方法としてはバッチ式及び枚葉式等があるが、何れの方法にも本発明の微細加工処理剤を採用することができる。バッチ式のウェットエッチング方法の場合、大量のウェハを一度にウェットエッチング処理できるため、スループットの面で優れている。枚葉式のウェットエッチング方法の場合、エッチング槽内でのクロスコンタミネーションの問題を低減し、又は防止することができる。
【0061】
また、微細加工処理剤を積層膜に接触させる方法として、浸漬式及びスプレー式等が挙げられる。これらの接触方法のうち浸漬式は、工程中に微細加工処理剤が蒸発することによる組成変化を低減又は抑制できるので好適である。
【0062】
微細加工処理剤をエッチング液として使用する場合、エッチング温度(すなわち、微細加工処理剤の液温)は180℃以下であることが好ましく、100℃以上、160℃以下であることがより好ましく、105℃以上、150℃以下であることがさらに好ましく、115℃以上、140℃以下であることが特に好ましい。エッチング温度を180℃以下にすることにより、微細加工処理剤の蒸発を抑制することができ、微細加工処理剤の組成変化を防止することができる。また、微細加工処理剤の蒸発によりエッチレートの制御が困難になるのを防止することができる。
【0063】
また本実施の形態の微細加工処理剤をエッチング液として使用する場合、例えば、エッチング温度180℃以下、好ましくは100℃以上、160℃以下、より好ましくは105℃以上、150℃以下、特に好ましくは115℃以上、140℃以下に於けるシリコン窒化膜に対するエッチレートは、1nm/分以上であることが好ましく、2nm/分以上であることがより好ましく、3nm/分以上であることがさらに好ましく、4nm/分以上であることが特に好ましい。エッチレートを1nm/分以上にすることにより、エッチング等の微細加工処理の時間が長くなるのを防止し、処理(生産)効率の低下を抑制することができる。
【0064】
さらに本実施の形態の微細加工処理剤をエッチング液として使用する場合、例えば、エッチング温度180℃以下、好ましくは100℃以上、160℃以下、より好ましくは105℃以上、150℃以下、特に好ましくは115℃以上、140℃以下に於けるシリコン酸化膜に対するエッチレートは、0nm/分以上、0.1nm/分未満であることが好ましい。エッチレートを0nm/分以上にすることにより、シリコン酸化膜の膜成長を防止することができる。その一方、エッチレートを0.1nm/分未満にすることにより、シリコン酸化膜に対するエッチング等の微細加工を抑制し、シリコン窒化膜に対する選択的な微細加工を一層向上させることができる。
【0065】
ここで、シリコン酸化膜は、シリコン(Si)と酸素(O)を含有するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、自然酸化膜、ケミカル酸化膜、シリコン熱酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS(Tetraethyl Orthosilicate)膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、窒素含有シリコン酸化膜、SOG(Spin on glass)膜、SOD(Spin on dielectroric)膜等が挙げられる。
【0066】
前記シリコン酸化膜における、自然酸化膜とは、室温で大気暴露中にシリコン上に形成されるシリコン酸化膜である。また、ケミカル酸化膜とは、例えば、硫酸・過酸化水素水洗浄中にシリコン上に形成される膜である。シリコン熱酸化膜とは、水蒸気又は酸素ガスを供給し、800~1000℃の高温下で形成される膜である。ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、フッ素含有シリコン酸化膜、炭素含有シリコン酸化膜、及び窒素含有シリコン酸化膜に於いては、シラン等の原料ガスを供給し、CVD(化学気相成長、Chemical vapor deposition)法によりシリコン酸化膜を堆積して成膜することができる。SOG膜及びSOD膜については、スピンコーターなどの塗布方式により形成することができる。
【0067】
前記シリコン窒化膜としては、シリコン(Si)と窒素(N)を含有するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、シリコン窒化膜、酸素含有シリコン窒化膜、炭素含有シリコン窒化膜等が挙げられる。
【0068】
前記シリコン窒化膜の成膜方法としては特に限定されず、例えば、シランガスやアンモニアガス、その他の原料ガスを用いたCVD法やPVD(Physical Vapor Deposition)法等が挙げられる。
【0069】
尚、前記CVD法としては、PECVD(Plasma enhanced Chemical vapor deposition)、ALD(原子層堆積、Atomic layer deposition)、MOCVD(有機金属気相成長)、Cat-CVD(触媒化学気相成長)、熱CVD、エピタキシャルCVD等の成膜方法が挙げられる。また、前記PVD法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンビームデポジション、スパッタリング等の成膜方法が挙げられる。
【実施例0070】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0071】
(実施例1~5)
リン酸(HPO)、ヘキサフルオロケイ酸、前述の化学式(1)で表される化合物及び水を、表1に示す配合割合となるように混合して撹拌した。この混合液に対しその液温が表1に示す温度となるようにそれぞれ調温して、各実施例に係るエッチング液(微細加工処理剤)を調製した。尚、化学式(1)で表される化合物としては、以下の化学式(5)で表される化合物A又は化学式(6)で表される化合物Bの何れかを用いた。
【0072】
【化4】
【0073】
(比較例1~3)
リン酸(HPO)、ヘキサフルオロケイ酸及び水を、表1に示す配合割合となるように混合して撹拌した。この混合液を液温が表1に示す温度となる様にそれぞれ調温して、各比較例に係るエッチング液(微細加工処理剤)を調製した。
【0074】
(シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜のエッチレート)
光学式膜厚測定装置(ナノメトリクスジャパン(株)製、NanospecM6100)を用いてエッチング前のシリコン窒化膜、及びシリコン酸化膜の膜厚を測定した。
【0075】
次に、実施例1~5及び比較例1~3に係るエッチング液を用いて、表1に示す各エッチング温度でシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜に対しエッチングを行った。エッチング後のシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜の膜厚について、3つの異なるエッチング時間に於ける測定を繰り返し行ってエッチレートを算出した。結果を表1に示す。尚、エッチングは各エッチング液にシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜を浸漬して行った。
【0076】
続いて、エッチレートの選択比(シリコン窒化膜/シリコン酸化膜)も算出し評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(結果)
表1の結果から分かる通り、比較例1~3のエッチング液では、シリコン酸化膜のエッチレートがマイナスとなっており、ヘキサフルオロケイ酸由来のシリコン酸化物が析出してシリコン酸化膜に付着し、膜成長していることが確認された。その一方、実施例1~5のエッチング液では、シリコン酸化物の析出を抑制し、シリコン酸化膜のエッチレートを0.1nm/分未満にまで抑制することができた。さらに、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜のエッチレート選択比(シリコン窒化膜/シリコン酸化膜)も良好な値を示し、何れもシリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の選択的なエッチングを向上させることができた。
【0078】
【表1】