(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109722
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ブドウ評価デバイス及びその方法。
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009729
(22)【出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2022011331
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載年月日:2022年10月4日、掲載アドレス:https://www.jst.go.jp/tt/fair/ 2.掲載年月日:2022年11月29日、掲載アドレス:https://shingi.jst.go.jp/list/list_2022/2022_yamanashi.html#20221129A-001
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓
(72)【発明者】
【氏名】黄瀬 佳之
(72)【発明者】
【氏名】加々見 拓
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA03
2G043BA14
2G043EA01
2G043FA06
2G043HA05
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA02
2G043NA01
2G043NA11
(57)【要約】
【課題】ブドウの出荷時期の判断は困難であった。
【解決手段】本発明の目的は、少なくとも1つの光発生装置と、検出部と、算出手段と、決定手段と、を備える、ブドウ評価デバイスであって、上記少なくとも1つの光発生装置は、ブドウに励起光を照射するように構成され、上記検出部は、上記ブドウに照射された上記励起光に起因して発せられた蛍光を受光するように構成され、上記算出手段は、上記蛍光における第一波長に対応する第一蛍光強度と、上記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出されるように構成され、上記決定手段は、上記第一指標に基づいて上記ブドウの特性値を決定するように構成されている、デバイスを提供することである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光発生装置と、
検出部と、
算出手段と、
決定手段と、
を備える、ブドウ評価デバイスであって、
前記少なくとも1つの光発生装置は、ブドウに励起光を照射するように構成され、
前記検出部は、前記ブドウに照射された前記励起光に起因して発せられた蛍光を受光するように構成され、
前記算出手段は、前記蛍光における第一波長に対応する第一蛍光強度と、前記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出されるように構成され、
前記決定手段は、前記第一指標に基づいて前記ブドウの特性値を決定するように構成されている、
デバイス。
【請求項2】
前記第一波長は、660nmから695nmであり、
前記第二波長は、720nmから750nmである、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記励起光の波長は、紫外域から緑色域までの波長である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第一指標は、前記第一蛍光強度の前記第二蛍光強度に対する比である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
判定手段を更に備え、
前記判定手段は、前記特性値に基づいて前記ブドウの収穫時期を判定するように構成されている、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記特性値は、糖度、カラーチャート値及びクロロフィル濃度からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
励起工程と、
検出工程と、
算出工程と、
決定工程と、を有する、ブドウ評価方法であって、
前記励起工程において、ブドウに励起光が照射され、
前記検出工程において、前記ブドウから発せられた蛍光が検出され、
前記算出工程において、前記蛍光における第一波長に対応する第一蛍光強度と、前記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出され、
前記決定工程において、前記第一指標に基づいて前記ブドウの特性値が決定される、
方法。
【請求項8】
前記第一波長は、660nmから695nmであり、
前記第二波長は、720nmから750nmである、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記励起光の波長は、紫外域から緑色域までの波長である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第一指標は、前記第一蛍光強度の前記第二蛍光強度に対する比である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
判定工程を更に備え、
前記判定工程において、前記特性値に基づいて前記ブドウの収穫時期が判定される、
請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記特性値は、糖度、カラーチャート値及びクロロフィル濃度からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7から11のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実、特にブドウを評価するためのデバイス及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シャインマスカットの人気が高まっている。シャインマスカットは、成熟するにつれてクロロフィルが分解され果皮色が緑色から黄色に変化していく特徴があり、黄色の方が糖度が高く美味しい。
【0003】
しかしながら、シャインマスカットは、一般的に黄緑色のイメージがあることや、かすり症と呼ばれる茶色のシミが出やすくなるため、黄色の果実の市場価値が低く、黄緑色で糖度が高い状態での出荷が必要である。
【0004】
これまでシャインマスカットを含むブドウの収穫時期の判定には,目視による果皮色のカラーチャート(例えば、
図1に示す5段階色見本)との比較、糖度計もしくは携帯型の簡易糖度計を使用していた。
【0005】
リンゴではあるものの、非特許文献1には、蛍光を利用してリンゴ果実の評価をすることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Noh, H.K. and Lu, R. (2007) ‘Hyperspectral laser-induced fluorescence imaging for assessing apple fruit quality’, Postharvest Biology and Technology, 43(2), pp. 193-201. doi:10.1016/j.postharvbio.2006.09.006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カラーチャートとの目視による比較では、熟練者でないとその判断が難しく、また、カラーチャートが経年により退色するので定期的な交換が必要であった。
【0008】
糖度計は、糖度を正確に測ることができるが、ブドウの果実を破壊して測定する必要があった。
【0009】
携帯型の簡易糖度計の測定原理は、蛍光ではなく、可視光の吸光度によるものであり、非破壊で糖度を測定できるが、果実の温度の影響を受けやすいことや、外光の影響を排除する必要があった。そのため、携帯型の糖度計は、その糖度計を果実に密着させて糖度を測定する必要があり、測定値のバラツキが大きい問題がある。また、袋掛けしたぶどうの測定は、面倒であった。
【0010】
非特許文献1は、蛍光と糖度については相関が低いことが開示されており、蛍光からでは果実の糖度の測定は困難であることが予想されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者達は、シャインマスカットの果皮色や糖度などを非破壊で効率よく測定できるデバイスを鋭意研究した。励起光をブドウの果実に照射することにより生じる2波長の蛍光強度に基づいてブドウの収穫時期の判断および糖度の判定を非破壊且つ非接触で行うことができることを明らかにし、本発明は完成した。
【0012】
本発明の目的は、
少なくとも1つの光発生装置と、
検出部と、
算出手段と、
決定手段と、
を備える、ブドウ評価デバイスであって、
上記少なくとも1つの光発生装置は、ブドウに励起光を照射するように構成され、
上記検出部は、上記ブドウに照射された上記励起光に起因して発せられた蛍光を受光するように構成され、
上記算出手段は、上記蛍光における第一波長に対応する第一蛍光強度と、上記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出されるように構成され、
上記決定手段は、上記第一指標に基づいて上記ブドウの特性値を決定するように構成されている、
デバイス
を提供することである
【0013】
これにより、ブドウの特性を非破壊的且つ非接触的に決定することができ、更には、ブドウの収穫時期も判断することができる。
【0014】
また、本発明は、励起光を照射し発した蛍光を測定するため、測定に経験は必要がない、ブドウの温度の影響をほとんど受けないといった特徴がある。
【0015】
また、上記第一波長は、660nmから695nmであってもよい。上記第二波長は、720nmから750nmであってもよい。
【0016】
上記励起光の波長は、紫外域から緑色域までの波長であってもよい。
【0017】
上記第一指標は、上記第一蛍光強度の上記第二蛍光強度に対する比であってもよい。
【0018】
上記デバイスは、判定手段を更に備えていてもよい。上記判定手段は、上記特性値に基づいて上記ブドウの収穫時期を判定するように構成されていてもよい。
【0019】
上記特性値は、糖度、カラーチャート値及びクロロフィル濃度からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0020】
また、本発明の別の目的は、
励起工程と、
検出工程と、
算出工程と、
決定工程と、を有する、ブドウ評価方法であって、
上記励起工程において、ブドウに励起光が照射され、
上記検出工程において、上記ブドウから発せられた蛍光が検出され、
上記算出工程において、上記蛍光における第一波長に対応する第一蛍光強度と、上記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出され、
上記決定工程において、上記第一指標に基づいて上記ブドウの特性値が決定される、
方法
を提供することである。
【0021】
また、上記第一波長は、660nmから695nmであってもよい。上記第二波長は、720nmから750nmであってもよい。
【0022】
上記励起光の波長は、紫外域から緑色域までの波長であってもよい。
【0023】
上記第一指標は、上記第一蛍光強度の上記第二蛍光強度に対する比であってもよい。
【0024】
上記方法は、判定工程を更に備えていてもよい。上記判定工程において、上記特性値に基づいて上記ブドウの収穫時期が判定されてもよい。
【0025】
上記特性値は、糖度、カラーチャート値及びクロロフィル濃度からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、ブドウ用カラーチャートを示している。
【
図2】
図2は、ブドウ評価デバイスの模式図を示している。
【
図3】
図3は、ブドウ評価デバイスの処理の流れを示している。
【
図4】
図4は、ブドウ評価デバイスを模式的に示している。
【
図5】
図5は、
図4に示すブドウ評価デバイスをより詳細に示している。
【
図6A】
図6Aは、光源が照射する励起光と、ブドウで生じた蛍光が同一の光学系を介して導光される構成のデバイスを模式的に示している。
【
図7】
図7は、本実施例で使用したデバイスの構成を示している。
【
図8】
図8は、得られた蛍光スペクトルの測定結果を示す。
【
図9】
図9は、
図8のグラフを波長740nmにおける相対的蛍光強度に基づいて正規化したグラフを示している。
【
図10】
図10は、685nm/740nmの相対的蛍光強度とカラーチャート値との比較に関するグラフである。
【
図11】
図11は、685nm/740nmの相対的蛍光強度と糖度(BRIX)との比較に関するグラフである。
【
図12】
図12は、685nm/740nmの相対的蛍光強度と果皮のクロロフィル濃度との比較に関するグラフである。
【
図13】
図13は、青色域の波長(470nm)と緑色域の波長(525nm)を励起波長として使用した場合の蛍光強度に関するグラフである。
【
図14】
図14は、屋外光下でブドウの果実の表面に励起光をパルス照射して得られた750蛍光強度と685蛍光強度をプロットしたグラフである。
【
図15】
図15は、同一のブドウの果実に対する屋外光下における蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)と暗室における蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)の散布図を示している(n=5)。
【
図16】
図16は、ブドウの果実の表面と受光用集光部との間に一定の間隔を開けて、ブドウの果実の表面に励起光をパルス照射して得られた蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)を示したバーグラフである。
【
図17】
図17は、ブドウの果実を覆う緑色又は白色の袋の上からブドウの果実の表面に励起光をパルス照射して得られた蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)を示したバーグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0028】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0029】
本発明で使用する「第一波長」及び「第二波長」は、別途規定されない限り、「蛍光中心波長」を意味する。
【0030】
本明細書で使用する「ブドウ」は、例えば、シャインマスカット、マスカットオブアレキサンドリア、ネオマスカット、巨峰、デラウェア、ピオーネ及びグローコールマンであってもよい。「ブドウ」は、緑色の果皮を有するブドウであってもよい。
【0031】
本明細書で使用する「ブドウの特性値」は、ブドウの品質や出荷時期を判断するために使用されるブドウの特徴を示す数値であり、例えば、ブドウの糖度、ブドウの果皮の色に対応するカラーチャート値及びクロロフィルの濃度を挙げることができる。
【0032】
カラーチャートは、ブドウの成熟の各段階に対応するブドウの果皮の色に染色された複数のカラーシートを備える。
図1は、5つのカラーシート(黄緑から)を備える(5段階の)カラーチャートを示している。ブドウの果皮の色から対応するカラーシートの色を決定し、各カラーシートの色に対応するカラーチャート値からブドウの成熟の程度や出荷時期を判断することができる。カラーシートの数は、ブドウの種類によって変更可能であり、例えば、山梨県総合理工学研究機構が開発したシャインマスカットのカラーチャートでは、5段階(1~5が深緑~黄色(黄土色))であり、カラーチャート値が3を超えると、シャインマスカットにかすり症が発生しやすくなる。
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、適宜説明を省略する。
【0034】
2.本実施形態にかかるブドウ評価デバイス及び方法の概要
本発明は、励起光をブドウに照射することにより生じる赤色域(例えば、685nm)および近赤外域(例えば、740nm)の2波長の蛍光強度の比がブドウの糖度などと高い相関があるという知見も基づくものである。
図2は、本実施形態にかかるブドウ評価デバイス1を模式的に示している。ブドウ評価デバイス1は、光発生装置10からブドウ2に励起光3を照射し、ブドウ2に照射された励起光3に起因して発せられた蛍光4を検出部20が検出し、検出された蛍光4を制御部100が処理し、ブドウを評価するように構成されている。
【0035】
図3は、本実施形態にかかるブドウ評価デバイス1の処理の流れを示している。励起工程S1は、光発生装置10からブドウ2に励起光3を照射する。
【0036】
検出工程S2は、ブドウ2に照射された励起光3に起因して発せられた蛍光4を検出部20が検出する。
【0037】
算出工程S3は、上記蛍光における第一波長に対応する第一蛍光強度と、上記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標(例えば、赤色域(685nm)および近赤外域(740nm)の2波長の蛍光強度の比)を算出する。
【0038】
決定工程S4は、第一指標に基づいてブドウ2の特性値(例えば、糖度)を決定する。判定工程S5は、ブドウ2の特性値に基づいてブドウ2の収穫時期を判定する。
以下で、本発明の実施形態について詳述する。
【0039】
3.ブドウ評価デバイス1
本実施形態によれば、ブドウ評価デバイス1が提供される。
図4は、ブドウ評価デバイス1を模式的に示している。以下、このような機能を実現するブドウ評価デバイス1の各構成について
図4及び5に基づいて説明する。
【0040】
光発生装置10
光発生装置10は、
図4に示す通り、励起光3を出射する光源11と、出射光用導光路12と、出射光用集光部13と、を備える。
【0041】
励起光3の波長は、当該波長に対応する出射光用光学フィルターを光源11に備えることで変更することができる。
【0042】
出射光用導光路12は、光源11が出射する励起光3をブドウ2の付近まで導光させる。出射光用導光路12は、プラスチックやガラス、石英等の透明材質でできていてもよい。透明材質の外周は、光漏れを防ぐためにミラーコーティングされていることが好ましい。出射光用導光路12は、ライトパイプのようなミラーで囲まれた中空の導光路又は光ファイバーであってもよい。
【0043】
出射光用集光部13は、出射光用導光路12を伝搬する励起光3を所定の大きさに集光するためのレンズである。
【0044】
励起光3の波長は、紫外域から緑色域までの波長であってもよく、青色域から緑色域までの波長(青色域-緑色域の波長)又は紫外域の波長であってもよい。
【0045】
紫外域から緑色域までの波長は、10nmから550nmであってもよく、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、125nm、150nm、175nm、200nm、225nm、250nm、275nm、300nm、325nm、350nm、355nm、360nm、365nm、370nm、375nm、380nm、390nm、400nm、410nm、420nm、430nm、435nm、440nm、445nm、450nm、455nm、460nm、465nm、470nm、475nm、480nm、485nm、490nm、495nm、500nm、505nm、510nm、515nm、520nm、525nm、530nm、535nm、540nm、545nm及び550nmからなる群より選択される任意の波長であってもよく又は任意2つの波長の範囲内であってもよい。
【0046】
青色域-緑色域の波長は、可視光域の波長であることから、青色域-緑色域の光を使用することでブドウ評価デバイス1を使用する者(使用者)及び使用者を補助する者(補助者)の目に悪影響が生じることを防ぐことができる。青色域-緑色域の波長は、430nmから550nmであってもよい。青色域-緑色域の波長は、430nm、435nm、440nm、445nm、450nm、455nm、460nm、465nm、470nm、475nm、480nm、485nm、490nm、495nm、500nm、505nm、510nm、515nm、520nm、525nm、530nm、535nm、540nm、545nm及び550nmからなる群より選択される任意の波長であってもよく又は任意2つの波長の範囲内であってもよい。青色域-緑色域の波長は、470nm±10nm、470nm±5nm、525nm±10nm又は525nm±5nmであってもよい。
【0047】
紫外域の波長は、UV波長とも称され、10nmから400nmであってもよい。紫外域の波長は、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、125nm、150nm、175nm、200nm、225nm、250nm、275nm、300nm、325nm、350nm、355nm、360nm、365nm、370nm、375nm、380nm、390nm及び400nmからなる群より選択される任意の波長であってもよく又は任意2つの波長の範囲内であってもよい。紫外域の波長は、365nm±10nm又は365nm±5nmであってもよい。
【0048】
検出部20
検出部20は、
図4に示す通り、受光用集光部21と、受光用導光路22と、少なくとも1つの受光用光学フィルター23と、少なくとも1つの光検出器24と、を備える。
【0049】
受光用集光部21は、ブドウ2で生じた蛍光4を集光する。受光用導光路22は、受光用集光部21で集光された蛍光4を光検出器24まで導光させる。
【0050】
受光用導光路22は、プラスチックやガラス、石英等の透明材質でできていてもよい。透明材質の外周は、光漏れを防ぐためにミラーコーティングされていることが好ましい。受光用導光路22は、ライトパイプのようなミラーで囲まれた中空の導光路又は光ファイバーであってもよい。
【0051】
少なくとも1つの受光用光学フィルター23は、受光用導光路22と少なくとも1つの光検出器24の間に備わるが、受光用集光部21と受光用導光路22の間に備わっていてもよく、受光用集光部21の表面又はその近傍に備わっていてもよい。少なくとも1つの受光用光学フィルター23は、測定する蛍光以外の波長成分をカットするためのフィルター(例えば、ブドウ2で生じた蛍光の波長の領域を除く波長領域をカットするバンドパスフィルター)を用いることができる。少なくとも1つの受光用光学フィルター23は、後述する第一波長以外の波長成分をカットするためのフィルターと、後述する第二波長以外の波長成分をカットするためのフィルターであってもよい。第一波長以外の波長成分をカットするためのフィルターと、第二波長以外の波長成分をカットするためのフィルターを使用する場合、少なくとも1つの光検出器24は、第一波長に対応する光検出器と第二波長に対応する光検出器であってもよい。このほか、バンドパスフィルターに代えて分光器を用いてもよい。光検出器24は、蛍光強度を検出し、蛍光強度に応じた信号を算出手段120(後述)に出力する。
【0052】
ブドウ2の果実の表面と受光用集光部21との間に間隔は、ブドウ2の特性値を決定できる程度に蛍光4を検出することができる間隔であれば、特に限定されない。ブドウ2の果実の表面と受光用集光部21との間に間隔は、0.5mm、10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、70mm、80mm、90mm及び100mmからなる群より選択される任意の間隔であってもよく又は任意2つの間隔の範囲内であってもよい(例えば、30mmから60mm)。
【0053】
制御部100
図5は、制御部100をより詳細に表したブドウ評価デバイス1の模式図を示している。制御部100は、算出手段120と、決定手段130と、を備える。また、制御部100は、判定手段140と、制御回路110と、を更に備えていてもよい。
図5に示す制御部100の各機能は、CPUやROM、RAM等各種のメモリー及び信号の入出力端子などを備えて構成されるマイクロコンピューターによって実現することができる。CPUがROMなどのメモリーに格納されたプログラムを実行することにより、制御部100の各機能を実現し、この際CPUは、RAMなどのメモリーを用いてデータ処理を実行する。制御部100は、パーソナルコンピューターとして構成することもできる。制御部100の一部の機能は、CPUやROM、RAM等各種のメモリー及び信号の入出力端子などを備えて構成されるパーソナルコンピューターによって実現することもできる。
【0054】
制御回路110は、光源11の励起光の明るさと点灯時間を制御することができる。光源11の出力を高めることで、ブドウ2を含む袋の外から励起光3を照射し蛍光4を測定することもできる。制御回路110は、励起光3が連続照射及び/又はパルス照射されるように光源11の点灯時間を制御する。制御回路110は、手動又は自動で励起光3の連続照射とパルス照射を切り替えることができるように構成されていることが好ましい。光源11としてLEDを使用して励起光3をパルス照射すると、連続照射に比べて強度が高い励起光3を照射することが可能になり、これによって、蛍光4の強度も高くなる。すなわち外光の影響も受けにくくなるので測定精度が上がる。また、ブドウ2を含む袋の外から励起光3を照射しても蛍光4を測定することができる。さらに、パルス照射によって消費電力を低減させることができるので、内部電源を備えるブドウ評価デバイスの駆動時間を延ばすことが可能になる。袋の色は、当該技術分野で使用される通常の色(例えば、白及び緑)であれば、特に限定されない。
【0055】
励起光3のパルス照射における周波数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10Hzからなる群より選択される任意の周波数であってもよく(例えば、5Hz)又は任意2つの周波数の範囲内であってもよい(例えば、4から6Hz)。
【0056】
励起光3のパルス照射におけるディーティサイクルは、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10%からなる群より選択される任意のディーティサイクルであってもよく(例えば、5%)又は任意2つのディーティサイクルの範囲内であってもよい(例えば、4から6%)。なお、ディーティサイクルは、1周期のパルスにおける次の式により算出することができる。
ディーティサイクル(%)=(光源11の点灯継続時間/(光源11の点灯継続時間+光源11の消灯継続時間))×100
従って、励起光3が連続照射される場合、ディーティサイクルは100%である。
【0057】
また、制御回路110は、励起光3の点灯時間を商用電源の周期とは異なる時間に設定することができる。これによって、ぶどう畑以外の作業場の室内光(例えば、蛍光灯)が検出に与える影響を抑えることができる。
【0058】
算出手段120
算出手段120は、蛍光4における第一波長に対応する第一蛍光強度と、蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出されるように構成されている。算出手段120は、光検出器24から蛍光4のスペクトルを受け取るように構成されている。
【0059】
第一波長は、660nmから695nmであってもよい。第一波長は、660nm、665nm、670nm、675nm、680nm、685nm、690nm及び695nmからなる群より選択される任意の波長であってもよく又は任意2つの波長の範囲内であってもよい。第一波長は、685nm±10nm又は685nm±5nmであってもよい。
【0060】
第二波長は、720nmから750nmであってもよい。第二波長は、720nm、725nm、730nm、735nm、740nm、745nm及び750nmからなる群より選択される任意の波長であってもよく又は任意2つの波長の範囲内であってもよい。第二波長は、740nm±10nm又は740nm±5nmであってもよい。
【0061】
第一指標は、第一蛍光強度の第二蛍光強度に対する比(第一蛍光強度/第二蛍光強度)であってもよい。後述する実施例の通り、励起光をブドウに照射することにより生じる第一波長(例えば、685nm)および第二波長(例えば、740nm)の2波長の蛍光強度の比は、ブドウの特性値(糖度など)と高い相関がある。従って、蛍光強度比からブドウの特性値に変換可能な指標を予め作成しておくことによって、当該蛍光強度比から糖度などの特性値を導き出すことができる。また、第一指標として第一蛍光強度の第二蛍光強度に対する比を用いることにより、天候などの環境に対する耐性が強くなるほか、ブドウと光源11又はブドウと光検出器24との距離が特性値の導出に影響せず、非接触の測定が可能となる。
【0062】
算出手段120は、蛍光4のスペクトル及び第一指標を格納するメモリーを備える。算出された第一指標は、データ保管装置(後述)、決定手段130、決定手段130を備える他のデバイス、表示装置(後述)又は印刷装置(後述)に転送される。
【0063】
決定手段130
決定手段130は、第一指標に基づいて上記ブドウの特性値を決定するように構成されている。特性値は、糖度、カラーチャート値及びクロロフィル濃度からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0064】
決定手段130は、第一指標をブドウの特性値に変換することができる指標(第二指標)を用いて、第一指標から上記ブドウの特性値を決定することができる。第二指標は、ブドウの特性値と第一指標との関数であってもよい。当該関数を用いることで、第一指標からブドウの特性値を数学的処理により算出することができる。関数は、例えば、第一指標とブドウの特性値に関する散布図から求めた回帰直線であってもよい。関数として回帰直線を用いる場合は、決定係数(R2)は、0.8以上であることが好ましい。また、第二指標は、第一指標とブドウの特性値との対応関係が記載されている表であってもよい。
【0065】
第二指標は、予め作成しておくことが好ましい。第二指標は、本実施形態にかかるブドウ評価デバイス1を用いて得られたブドウの第一指標と、当該第一指標を取得したブドウの特性値に基づいて作成することができる。第二指標におけるブドウの特性値が糖度(例えば、Brix)の場合は、糖度計を用いてブドウの糖度を測定することできる。第二指標におけるブドウの特性値がカラーチャート値の場合は、ブドウ用カラーチャートからブドウの果皮の色に対応するカラーシートを選択することよって、カラーチャート値を求めることができる。第二指標におけるブドウの特性値がクロロフィル濃度(クロロフィルaとクロロフィルbの和の濃度)の場合は、例えば吸光光度法を用いてブドウのクロロフィル濃度を測定することできる。
【0066】
決定手段130は、算出手段120が算出した第一指標を受け取るように構成されている。決定された特性値は、データ保管装置、判定手段140、判定手段140を備える他のデバイス、表示装置又は印刷装置に転送される。また、第二指標は、データ保管装置に保存されていてもよく、決定手段130に備わるメモリーに保存されていてもよい。
【0067】
判定手段140
判定手段140は、特性値に基づいてブドウ2の収穫時期を判定するように構成されていてもよい。収穫時期は、評価対象のブドウを収穫するタイミングとすることができる。言い換えれば、判定手段140は、評価対象のブドウを収穫するタイミングであるか否かを判定することができる。また、判定手段140は、評価対象のブドウを収穫するタイミングが過ぎたか否かも判定することができる。ブドウ2の収穫時期は、予め設定した収穫基準値(閾値)に基づいて判定することができる。
【0068】
収穫基準値は、評価対象のブドウの品種によって変更することが可能である。以下でシャインマスカットの場合を例示する。特性値が糖度の場合、収穫基準値は、好ましくは16 Brix以上、より好ましくは17 Brix以上、更に好ましくは18 Brix以上である。特性値がカラーチャート値の場合、収穫基準値は、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上である。特性値がクロロフィル濃度の場合、収穫基準値は、好ましくは2.0μg/cm2以下、より好ましくは1.5μg/cm2以下である。
【0069】
判定手段140は、決定手段130が決定した特性値を受け取るように構成されている。判定された収穫時期は、データ保管装置、他のデバイス、表示装置又は印刷装置に転送される。
【0070】
表示装置
一実施形態において、本ブドウ評価デバイス1は、第一指標、ブドウの特性値及びブドウの収穫時期からなる群より選択される少なくとも1つを表示する表示装置を備えていてもよい。
【0071】
印刷装置
一実施形態において、本ブドウ評価デバイス1は、第一指標、ブドウの特性値及びブドウの収穫時期からなる群より選択される少なくとも1つを表示する紙を出力可能な印刷装置を備えていてもよい。
【0072】
通信装置
一実施形態において、本ブドウ評価デバイス1は、第一指標、ブドウの特性値及びブドウの収穫時期からなる群より選択される少なくとも1つを他のデバイス(パーソナルコンピューターなど)に転送させることが可能な通信装置を備えていてもよい。通信装置は、有線方式であってもよく無線方式であってもよい。
【0073】
データ保管装置
一実施形態において、本ブドウ評価デバイス1は、データ保管装置を備えていてもよい。データ保管装置は、第二指標に関するデータが保管されていてもよい。データ保管装置は、検出部20が検出した蛍光おける蛍光スペクトルに関するデータ(各波長とそれに対応する蛍光強度)、第一指標に関するデータ、特性値に関するデータ及び収穫時期に関するデータを一時的に保管することができる。
【0074】
一時的に保管された蛍光スペクトルに関するデータは、求めに応じて、算出手段120に転送される。一時的に保管された第一指標に関するデータは、求めに応じて、決定手段130、決定手段130を備える他のデバイス、表示装置又は印刷装置に転送される。一時的に保管された特性値に関するデータは、求めに応じて、判定手段140、判定手段140を備える他のデバイス、表示装置又は印刷装置に転送される。一時的に保管された収穫時期に関するデータは、求めに応じて、他のデバイス、表示装置又は印刷装置に転送される。
【0075】
電源
本ブドウ評価デバイスへの電気の供給は、電源ケーブルを介して外部電源から行われてもよく、本ブドウ評価デバイスに内蔵された内部電源(充電可能な電池)から行われてもよい。内部電源を備える本ブドウ評価デバイスは、持ち運びが容易になる。
【0076】
4.ブドウ評価デバイス1の変形例
4-1.変形例1
図6Aは、光源1011が照射する励起光1003と、ブドウ1002で生じた蛍光1004が同一の光学系を介して導光される構成のブドウ評価デバイス1001Aを模式的に示している。ブドウ評価デバイス1001Aは、光源1011と、共通導光路1012と、共通集光部1013と、同軸光学系1014と、光検出器1024と、算出手段1120と、決定手段1130と、を備える。ブドウ評価デバイス1001Aは、制御回路1110と、判定手段1140と、を備えていてもよい。共通導光路1012は、光ファイバーであてもよい。ブドウ評価デバイス1001Aにおいて、ブドウ評価デバイス1における少なくとも1つの光発生装置10の要素の一部(即ち、出射光用導光路12と、出射光用集光部13)は、ブドウ評価デバイス1における検出部20の要素の一部(即ち、受光用集光部21と、受光用導光路22)が共通化されている。
【0077】
同軸光学系1014には、ダイクロイックミラー等の波長分離素子を設けられている。同軸光学系1014に入射した励起光1003は、共通導光路1012に導かれ、同軸光学系1014に入射した蛍光1004は、受光用光学フィルター1023を介して光検出器1024に導かれる。
【0078】
共通導光路1012は、光ファイバーであってもよい。共通導光路1012として光ファイバーを用いることによって、ブドウが含まれる袋の開口部を少し開けた状態でブドウに容易にアクセスすることができる。
【0079】
4-2.変形例2
図6Bは、ハーフミラー1025を備える点と、光検出器1024が第一光検出器1024Aと第二光検出器1024Bを備える点と、受光用光学フィルター1023が第一受光用光学フィルター1023Aと第二受光用光学フィルター1023Bを備える点でブドウ評価デバイス1001Aとは異なるブドウ評価デバイス1001Bを模式的に示している。
【0080】
光源1011から照射される励起光1003は、同軸光学系1014に入射される。同軸光学系1014に入射した励起光1003は、共通導光路1012に導かれ、同軸光学系1014に入射した蛍光1004は、ハーフミラー1025に導かれる。蛍光1004は、ハーフミラー1025によって第一受光用光学フィルター1023Aと第二受光用光学フィルター1023Bへ分岐される。分岐した蛍光1004における第一波長のみが第一受光用光学フィルター1023Aを介して第一光検出器1024Aに導かれ、分岐した蛍光1004における第二波長は、第二受光用光学フィルター1023Bを介して第二光検出器1024Bに導かれる。算出手段1120は、第一光検出器1024Aから第一波長のスペクトルを受け取り、第二光検出器1024Bから第二波長のスペクトルを受け取る。
【0081】
5.ブドウ評価方法
本実施形態によれば、ブドウ評価方法が提供される(
図3)。本ブドウ評価方法は、励起工程S1と、検出工程S2と、算出工程S3と、決定工程S4と、を有する。本ブドウ評価方法は、ブドウ評価デバイス1及び1001を用いることで実行してもよい。ブドウ評価デバイス1を用いた場合を例にして、各工程について説明する。励起工程S1において、光発生装置10からブドウ2に励起光3が照射される。検出工程S2において、ブドウ2から発せられた蛍光4が検出部20で検出される。算出工程S3において、蛍光4における第一波長に対応する第一蛍光強度と、上記蛍光における第二波長に対応する第二蛍光強度から第一指標が算出手段120で算出される。決定工程S4において、第一指標に基づいてブドウ2の特性値が決定手段130で決定される。本方法は、判定工程S5を更に備えていてもよい。判定工程S5において、特性値に基づいてブドウ2の収穫時期が判定される。
【0082】
6.効果
本実施形態による第一指標に基づいたブドウ評価デバイス及びブドウ評価方法を用いることで、ブドウの糖度などを非破壊的に正確に測定することができる。特に、励起光を照射し発した蛍光を測定するため、測定に経験を必要とせず、また、ブドウの温度の影響をほとんど受けない、励起光を使用するアクティブな方法であるため環境光(晴天や曇天、葉の影)の影響を受けない。更に、熟練の技術を要求するカラーチャートを用いたブドウの出荷時期の判断を、本実施形態によるブドウ評価デバイス及びブドウ評価方法によって判断することができる。
【0083】
また、袋掛けしたブドウの濃度などは、光ファイバー(出射光用導光路12及び受光用導光路22)を用いたブドウ評価デバイス1又は共通導光路1012を光ファイバーとして備えたブドウ評価デバイス1001を用いることで、袋を外すことなく測定することができる。ブドウ評価デバイスは、蛍光中における2つの特定の波長を用いることから、サイズが大きい分光放射計を必要としないことから、携帯式(ポケットサイズ)ブドウ評価デバイスとすることができる。
【実施例0084】
図7は、本実施例で使用したブドウ評価デバイスの構成を示している。本ブドウ評価デバイスでは、励起光として紫外線(波長:365nm)を発するLEDを備えた装置(光発生装置)を使用している。励起光は、ブドウの果実の表面に照射される。励起光により果実の色素が励起され、蛍光を発する。発した蛍光は、励起光を取り除くため、ロングパスフィルター(受光用光学フィルター)を透過させ、分光放射計(検出部)に導入される。分光放射計では350nmから1000nmの範囲を検出可能である。得られた蛍光スペクトルは、分光放射計に接続されたパーソナルコンピューター(算出手段、決定手段及び判定手段)に保存される。
【0085】
実施例1 連続照射
図8は、ブドウの果実の表面に励起光を連続照射して得られた蛍光スペクトルの測定結果を示す。凡例で示した数字は、「月-日」である。7月から8月に関するグラフは、実線で示しており、9月から10月に関するグラフは、破線で示している。同じ日に2回目の測定を実施した場合は、「月-日」の右側に「-2」を付加している。
【0086】
得られたスペクトルから、波長740nmにおける相対的蛍光強度(以下、740蛍光強度)と波長685nmにおける相対的蛍光強度(以下、685蛍光強度)に注目した。
図9は、
図8のグラフを740蛍光強度に基づいて正規化したグラフを示している。
図9に示す波長の範囲は、650nmから750nmである。740蛍光強度に基づいて正規化された685蛍光強度は、時間の経過と共に強くなることが明らかとなった。
【0087】
次に、685蛍光強度と740蛍光強度との比(以下、685/740強度比)とブドウの各特性値(カラーチャート値、糖度、果皮のクロロフィル濃度)とを比較した。
【0088】
図10は、685/740強度比とカラーチャート値との比較に関するグラフである。
図10において、近似線の式はy=1.447x-3.713であり、決定係数R
2値は0.881であったことから、685/740強度比は、カラーチャート値と高い相関にあることが明らかとなった。
【0089】
図11は、685/740強度比と糖度(BRIX)との比較に関するグラフである。
図11において、近似線の式はy=5.231x-5.583であり、決定係数R
2値は0.881であったことから、685/740強度比は、糖度と高い相関にあることが明らかとなった。
【0090】
図12は、685/740強度比と果皮のクロロフィル濃度との比較に関するグラフである。
図12において、近似線の式はlog(y)=-0.215x+1.133であり、決定係数R
2値は0.927であったことから、685/740強度比は、果皮のクロロフィル濃度と高い相関にあることが明らかとなった。
【0091】
以上の結果から、740蛍光強度と685蛍光強度の比から、カラーチャート値、糖度、果皮のクロロフィル濃度を導出することができると結論づけることができた。
【0092】
図13は、青色域の波長(470nm)と緑色域の波長(525nm)を励起波長として使用した場合の蛍光強度に関するグラフである。ポジティブコントロールとして紫外線(波長:365nm)を使用した。青色域の波長(470nm)と緑色域の波長(525nm)であっても、励起光として使用することができることが明らかとなった。
【0093】
実施例2 パルス照射
図14は、屋外光下でブドウの果実の表面に励起光をパルス照射して得られた750蛍光強度と685蛍光強度をプロットしたグラフである。励起光のパルス照射における周波数とディーティサイクルは、それぞれ5Hzと5%とした。各時間においてより高いピークが750蛍光強度に対応し、より低いピークが685蛍光強度に対応することから、パルス照射の励起光であっても750蛍光強度と685蛍光強度を区別することができる。
【0094】
図15は、同一のブドウの果実に対する屋外光下における蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)と暗室における蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)の散布図を示している(n=5)。
図15において、近似線の式はy=0.787x-1.541であり、決定係数R
2値は0.813であったことから、、屋外光下における蛍光強度比は、暗室における蛍光強度比と高い相関関係にあり、屋外光下であってもブドウの濃度を測定可能な蛍光強度を取得することが明らかとなった。
【0095】
実施例3 測定距離
図16は、ブドウの果実の表面と受光用集光部との間に一定の間隔を開けて、ブドウの果実の表面に励起光をパルス照射して得られた蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)を示したバーグラフである。一定の間隔は、30、40、50及び60mmとした。ブドウの果実として、糖度23.7%のブドウの果実(サンプル1)と糖度17.1%のブドウの果実(サンプル2)を用いた。間隔を30mmから60mmに変えても、蛍光強度比は、最大で14%しか減少しなかった。従って、ブドウの果実の表面と受光用集光部との間隔が一定でなくても、また、当該間隔が通常の測定作業で用いられる距離であれば、ブドウの濃度を測定可能な蛍光強度を取得することが明らかとなった。
【0096】
実施例4 袋の色
図17は、ブドウの果実を覆う緑色又は白色の袋の上からブドウの果実の表面に励起光をパルス照射して得られた蛍光強度比(685蛍光強度/750蛍光強度)を示したバーグラフである。従って、ブドウの果実を覆うために用いられる袋の色が当該技術分野で使用される緑及び白であってもブドウの濃度を測定可能な蛍光強度を取得することが明らかとなった。