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特開2023-109761改善された造血幹細胞および前駆細胞療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109761
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】改善された造血幹細胞および前駆細胞療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230801BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20230801BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20230801BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20230801BHJP
【FI】
A61K35/28 ZNA
A61K9/10
A61K35/51
A61K35/14
A61P35/02
A61P7/04
A61P7/00
A61P7/06
A61P35/00
C12N5/0789
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023071598
(22)【出願日】2023-04-25
(62)【分割の表示】P 2021172986の分割
【原出願日】2011-08-12
(31)【優先権主張番号】61/373,212
(32)【優先日】2010-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】312000284
【氏名又は名称】フェイト セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル シューメーカー
(72)【発明者】
【氏名】プラティク ムルタニ
(72)【発明者】
【氏名】キャロライン デスポンツ
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド エル. ロビンス
(72)【発明者】
【氏名】ポール グレイソン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン メンドレイン
(57)【要約】
【課題】改善された造血幹細胞および前駆細胞療法を提供すること。
【解決手段】本発明は、細胞療法の改善法を提供する。特に、本発明は、生着特性およびホーミング特性が改善、改変された造血幹細胞および/または前駆細胞による治療用組成物、ならびに治療用組成物を作製する方法を提供する。本発明は、造血幹細胞移植および前駆細胞移植の有効性を改善する方法であって、造血系再構築を必要とする被験体に治療用組成物を移植するステップを包含する方法もさらに提供する。一実施形態において、本発明は、少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を含む治療用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の組成物または方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、米国特許法§119(e)の下、2010年8月12日に出願された米国仮特許出願第61/373,212号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は一般に、細胞療法に関する。特に、本発明は、造血系のための細胞療法の改善に関する。より具体的に述べると、本発明は、個体の造血系を再構築するための改善法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
再生医療とは、体内の特定の細胞、組織、および臓器を修復するかまたは回復させるための処置を開発する医療研究の分野である。究明されている再生療法の1つの側面は、増え続ける一連のがんおよび変性障害を処置するための造血幹細胞移植の使用である。米国国立骨髄ドナープログラム(登録商標)(NMDP)によれば、致死性の悪性疾患および非悪性疾患を伴う患者を処置するために、毎年世界中で、約20,000例の同種異系造血細胞移植を含めた、推定45,000~50,000例の造血細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞(PBSC)移植、または臍帯血移植)が実施されている(非特許文献1)。さらに、毎年約4,800例の患者が、NMDPを介する非血縁ドナーまたは臍帯血ユニット(cord blood unit)を用いて移植を受けている。
【0004】
1987年の創始以来、NMDPは、患者に第2の生存チャンスを与えるために、38,000例を超える骨髄移植および臍帯血移植を推進してきた。従来は、多様な種類の白血病、貧血、リンパ腫、骨髄腫、免疫不全障害、および充実性腫瘍、例えば、乳がんおよび卵巣がんを患う患者を処置するのに、骨髄からの造血幹細胞移植が用いられた。しかし、骨髄移植は、ドナーにとって苦痛であり、さらに、とりわけ、特定の民族集団において必須の程度のHLAドナー適合組織を見出すことは、しばしば困難であり、かつ時間を要する。加えて、同種異系の骨髄移植は、移植片対宿主病(GVHD)の著明な発症率と関連することが多い。
【0005】
多くの場合、造血幹細胞移植を受ける患者は、致死性の進行がんまたは他の代謝性障害を有する。したがって、適切に適合したHLA組織型を有するドナーを見出すのに遅延が生じると、患者の転帰(outcome)が損なわれる可能性があり、しばしば致死性をもたらす。したがって、近年、NMDPによる非血縁ドナー移植数の増大は、とりわけ劇的であり、2008年における4,300例と比較して、2009年だけでも4,800例を超える移植がなされている。加えて、非血縁ドナーまたは臍帯血ユニットを用いる同種異系移植の比率も、着実に増大している。2006年には、世界中で実施された同種異系移植のうちの3分の1超において、非血縁ドナーが用いられた。2009年には、成人ドナーのうちの75%(2,800例を超える)が、NMDPを介して患者にPBSCを提供した。2009年には、NMDPにより1,056例の臍帯血移植が推進されたが、これは、2009年におけるNMDPによる総移植数のうちの22%を占める。これは、NMDPが898例の臍帯血移植を推進した2008年より18%の増大である。
【0006】
臍帯血は容易に入手可能であり、レシピエントに対する移植片対宿主病の危険性が低く、ドナーにとって痛みがなく、ドナーとレシピエントとの間におけるHLA組織型の適合がそれほど必要とされないために、臍帯血を用いる同種異系の造血幹細胞移植が実施されている。
【0007】
しかし、臍帯血移植に由来する造血幹細胞および前駆細胞が生着(engraft)しえない危険性を含め、ヒト臍帯血移植を用いることには2~3の欠点が存在することが認知されている。
【0008】
臍帯血移植を用いることの別の欠点は、患者において臍帯血細胞が生着するのにより長時間を要し、これにより、患者を感染症の高い危険性に置くことである。加えて、臍帯血移植は、より新規な処置アプローチである。したがって、医療者は、臍帯血移植後における患者の長期にわたる成果について、骨髄移植について有するほど多くの情報を有さないために、臍帯血移植を用いることを思いとどまらせる場合がある。さらに、臍帯血移植はまた、骨髄移植および末梢血移植と全く同じ危険性も有する。
【0009】
加えて、臍帯血をヒト血液移植のための細胞供給源として用いることに対する著明な障壁は、患者のサイズに対して、または特定の適応を処置するのに、単一の臍帯血ユニット中の血液形成細胞では十分でないことが多いことでもある。単一の臍帯のサイズ(すなわち、単一の臍帯中の血液形成細胞数)は、血液移植に不十分であることが多いため、2つの臍帯が必要とされる場合があり、このことは、GVHDおよび生着失敗の危険性を増大させる。したがって、多くの手法が、単離された移植片内における臍帯血中のヒト造血幹細胞および前駆細胞の数を、ex vivoの環境で増大させようと試みており、これにより、単一の臍帯を用いる移植が可能となる可能性もあるが、これらの努力が収めた成功は限定されたものである。
【0010】
したがって、部分的には、有望な動物モデルのプロトコールをヒトにおける臨床実践へと移行させるのが困難であること、既存の臨床プロトコールの有効性が低いこと、合併症、例えば、移植片対宿主病の発症率が高いこと、および十分に適合したドナーが比較的少ないことのために、回復または再生のための造血幹細胞療法の見込みは実感されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Horowitz MM.、「Uses and Growth of Hematopoietic Cell Transplantation」、Blume KG、Forman SJ、Appelbaum FR編、「Thomas’Hematopoietic Cell Transplantation」、3版、Malden、Mass:Blackwell;2004年:9~15頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、当技術分野では、造血幹細胞移植の適用可能性を拡大し、その成功を増大させるために、造血幹細胞および前駆細胞の骨髄への生着の効率を高めうる方法が必要とされている。本発明は、これらの問題に対する解決法を提供し、当業者に明らかとなる他の使用および利点もさらに提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、改善された造血幹細胞移植法および前駆細胞移植法を提供する。さらに、本発明は、生着/生着の潜在能を増大させ、かつ/または増殖を増大させた、優れた造血幹細胞または前駆細胞の調製物も提供する。多様な実施形態では、細胞を、in vivoにおいて増殖させる(expandedまたはproliferated)。他の多様な実施形態では、細胞をex vivoにおいて処理し、被験体に投与し、in vivoにおいて増殖させる(expandedまたはproliferated)。
【0014】
一態様では、本発明は、少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を含む治療用組成物であって、a)造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤と接触しており、b)造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、c)治療用組成物が、患者への投与の準備ができた造血幹細胞または前駆細胞の、無菌で治療的に許容される懸濁液を含む、治療用組成物を提供する。
【0015】
具体的な実施形態では、治療用組成物の造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約3倍増大している。
【0016】
一実施形態では、細胞集団が、CD34細胞の収集物を含み、CD34細胞の収集物におけるCXCR4の遺伝子発現が、CD34細胞の接触していない収集物と比較して少なくとも約3倍増大している。
【0017】
別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して約3倍~約8倍増大している。
【0018】
治療用組成物のなお別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約4倍増大している。
【0019】
治療用組成物のなお別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約6倍増大している。治療用組成物のさらに別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約7倍増大している。
【0020】
治療用組成物の別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約8倍増大している。治療用組成物のなお別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約10倍増大している。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約12倍増大している。
【0022】
本発明の付加的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約16倍増大している。
【0023】
一部の実施形態では、治療用組成物を構成する造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して約8~約18倍増大している。
【0024】
本発明の多様な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤が、cAMPエンハンサー、Gα-s活性化因子、およびPGEEP受容体に選択的に結合する化合物からなる群より選択される。
【0025】
具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤が、PGE、またはPGE類似体もしくはPGE誘導体である。より具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤が、16,16-ジメチルPGEである。
【0026】
本発明の治療用組成物の一実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、少なくとも約1時間にわたり薬剤と接触させている。多様な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、約1時間~約6時間にわたり薬剤と接触させている。具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、約2時間~約6時間にわたり薬剤と接触させている。より具体的な実施形態では、治療用組成物に含まれる造血幹細胞または前駆細胞を、約2時間にわたり薬剤と接触させている。
【0027】
本発明の具体的な実施形態では、治療用組成物に含まれる造血幹細胞または前駆細胞が、遺伝子発現シグネチャーを含み、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における1または複数のシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、シグネチャー遺伝子が、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(amphiregulin)(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される。
【0028】
より具体的な実施形態では、シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つの発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における2つのシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも5、10、15、または20倍増大している。より具体的な実施形態では、シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大している。
【0029】
多様な実施形態では、治療用組成物に含まれる細胞集団が、約0.10、0.50、1.0、3、5、10、15、20、または30%未満のCD34細胞を含む。一部の実施形態では、細胞集団が、少なくとも約0.01%かつ約50%以下のCD34細胞を含む。
【0030】
一部の実施形態では、細胞集団をex vivoにおいて増殖させない。
【0031】
多様な実施形態では、治療用組成物を、細胞集団を培養せずにポイントオブケア(point-of-care)で生成させ、患者に投与する。一部の実施形態では、治療用組成物を、患者に組成物を投与して24時間以内に生成させる。一部の実施形態では、治療用組成物を、患者に組成物を投与して12時間以内に生成させる。一部の実施形態では、治療用組成物を、患者に組成物を投与して6時間以内に生成させる。一部の実施形態では、治療用組成物を、組成物の注入日に生成させる。
【0032】
一部の実施形態では、治療用組成物が、薬剤を実質的に含まない。多様な実施形態では、治療用組成物が、5%ヒト血清アルブミンおよびデキストランの溶液中に懸濁させた造血幹細胞または前駆細胞を含む。
【0033】
一部の実施形態では、治療用組成物が、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の間葉系幹細胞を含む。具体的な実施形態では、治療用組成物が、約10%以下の間葉系幹細胞を含む。
【0034】
一部の実施形態では、治療用組成物が、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の内皮前駆細胞を含む。具体的な実施形態では、治療用組成物が、約10%以下の内皮前駆細胞を含む。
【0035】
本発明の具体的な実施形態では、細胞集団が、細胞表面マーカーのCD34について陽性である細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の、CD73、CD140B、CD14、およびVWFからなる群より選択される細胞表面マーカーについて陽性である細胞を含む。
【0036】
具体的な実施形態では、本発明の治療用組成物に含まれる細胞集団は、CD34細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のCD14/CD45細胞を含む。本発明の他の実施形態では 、細胞集団が、CD34細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のVWF細胞を含む。本発明の他の実施形態では 、細胞集団が、CD34細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のCD140B+細胞を含む。
【0037】
より具体的な実施形態では、細胞集団が、CD34造血幹細胞または前駆細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の、CD14+/CD45-細胞、VWF細胞、CD73細胞、およびCD140B細胞を含む。一部の実施形態では、細胞集団が、細胞表面マーカーのCD34について陽性であり、CD14、VWF、CD73、およびCD140Bからなる群より選択される少なくとも1つの細胞表面マーカーについて陰性である。他の実施形態では、細胞集団が、細胞表面マーカーのCD34について陽性であり、細胞表面マーカーのCD14、VWF、CD73、およびCD140Bについて陰性である。
【0038】
本発明の多様な実施形態では、細胞集団内の細胞のうちの少なくとも約15%が、CXCR4タンパク質を発現する。
【0039】
一部の実施形態では、細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血(mobilized peripheral blood)から得られる。
【0040】
具体的な実施形態では、細胞集団がHLAハプロタイピング(HLA haplotyped)されている。より具体的な実施形態では、細胞集団が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-DRB1からなる群に基づきHLAハプロタイピングされている。一部の実施形態では、HLAハプロタイピングされている細胞集団が、特定のヒト被験体と適合する。一部の実施形態では、HLAハプロタイピングされている細胞集団が、6つのHLAのうちの4つで特定のヒト被験体と適合する。
【0041】
別の実施形態では、本発明が、少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を含む治療用組成物であって、a)造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で約2時間にわたり、16,16-dmPGEと接触しており、b)造血幹細胞または前駆細胞が、CD34細胞の収集物を含み、CD34細胞の収集物におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していないCD34細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約3倍増大しており、c)治療用組成物が、患者への投与の準備ができた造血幹細胞または前駆細胞の、無菌で治療的に許容される懸濁液を含む、治療用組成物を提供する。
【0042】
一部の実施形態では、細胞集団が、CD34細胞の収集物を含み、CD34細胞の収集物におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していないCD34細胞の収集物と比較して少なくとも約3倍増大している。
【0043】
多様な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して約3倍~約8倍増大している。より具体的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約4倍増大している。
【0044】
他の具体的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約6倍増大している。他の具体的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約7倍増大している。さらなる実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約8倍増大している。他の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約10倍増大している。他の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約12倍増大している。他の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約16倍増大している。他の実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して約8~約18倍増大している。
【0045】
一部の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞が、遺伝子発現シグネチャーを含み、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における1または複数のシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、シグネチャー遺伝子が、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される。
【0046】
他の実施形態では、シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つの発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における2つのシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも5、10、15、または20倍増大している。
【0047】
具体的な実施形態では、シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大している。
【0048】
他の実施形態では、細胞集団が、約0.10、0.50、1.0、3、5、10、15、20、または30%を超えるCD34細胞を含まない。より具体的な実施形態では、細胞集団が、少なくとも約0.01%かつ約50%以下のCD34細胞を含む。
【0049】
多様な実施形態では、細胞集団をex vivoにおいて増殖させない。
【0050】
具体的な実施形態では、細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる。
【0051】
一部の実施形態では、細胞集団がHLAハプロタイピングされている。
【0052】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含むハプロタイピングされている細胞集団を含む治療用組成物であって、a)造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤と接触しており、b)造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、c)治療用組成物が、患者への投与の準備ができた造血幹細胞または前駆細胞の、無菌で治療的に許容される懸濁液を含む、治療用組成物を提供する。
【0053】
具体的な実施形態では、ハプロタイピングされている細胞集団が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-DRB1からなる群に基づきハプロタイピングされている。より具体的な実施形態では、ハプロタイピングされている細胞集団が、HLA-DRB3/4/5、HLA-DQB1、およびDPB1からなる群に基づきハプロタイピングされている。一部の実施形態では、ハプロタイピングされている細胞集団が、特定のヒト被験体と適合する。多様な実施形態では、HLAハプロタイピングされている細胞集団が、6つのHLAのうちの4つで特定のヒト被験体と適合する。
【0054】
一部の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約3倍増大している。具体的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現と比較して約3倍~約8倍増大している。他の具体的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約4倍増大している。
【0055】
具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤が、cAMP類似体またはcAMPエンハンサー、Gα-s活性化因子、およびPGEEP受容体に選択的に結合する化合物からなる群より選択される。より具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤が、16,16-ジメチルPGEである。
【0056】
多様な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、約1時間~約6時間にわたり薬剤と接触させている。
【0057】
一部の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞が、遺伝子発現シグネチャーを含み、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における1または複数のシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、シグネチャー遺伝子が、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される。
【0058】
具体的な実施形態では、シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つの発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における2つのシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも5、10、15、または20倍増大している。
【0059】
他の実施形態では、シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大している。他の実施形態では、シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約4倍増大している。他の実施形態では、シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約6倍増大している。
【0060】
なお他の実施形態では、細胞集団が、約0.10、0.50、1.0、3、5、10、15、20、または30%未満のCD34細胞を含む。
【0061】
より具体的な実施形態では、細胞集団が、少なくとも約0.01%かつ約50%以下のCD34細胞を含む。
【0062】
一部の実施形態では、細胞集団をex vivoにおいて増殖させない。
【0063】
他の実施形態では、治療用組成物を、細胞集団を培養せずにポイントオブケアで生成させ、患者に投与する。一部の実施形態では、治療用組成物を、患者に組成物を投与する約24時間前より後に生成させる。一部の実施形態では、治療用組成物を、患者に組成物を投与する約12時間前より後に生成させる。一部の実施形態では、治療用組成物を、患者に組成物を投与する約6時間前より後に生成させる。一部の実施形態では、治療用組成物を、組成物の注入日に生成させる。
【0064】
他の実施形態では、治療用組成物に含まれる細胞集団を、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得る。
【0065】
別の実施形態では、本発明が、部分的に、造血幹細胞移植または前駆細胞移植において用いられる治療用組成物を調製する方法であって、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoまたはin vitroにおいて、約37℃の温度で、造血幹細胞または前駆細胞の遺伝子発現を改変するのに十分な条件下で接触させるステップを含み、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して、以下の遺伝子:ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、またはCXCケモカイン受容体4(CXCR4)のうちの1または複数の発現の増大を含む遺伝子発現シグネチャーを含む造血幹細胞または前駆細胞を結果としてもたらす、方法を意図する。
【0066】
別の実施形態では、本発明が、部分的に、被験体における造血幹細胞または前駆細胞の生着を増大させる方法であって、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、PGEおよびdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、細胞集団を洗浄して薬剤を実質的に除去するステップと、接触させた細胞集団を被験体に投与するステップとを含み、被験体における接触させた造血幹細胞または前駆細胞の生着を、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、細胞集団を薬剤と接触させる、方法を意図する。
【0067】
一実施形態では、本発明が、部分的に、造血系再構築(hematopoietic system reconstruction)を必要とする被験体を処置する方法であって、造血系再構築を必要とする被験体を選択するステップと、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、PGEおよびdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、細胞集団を洗浄して薬剤を実質的に除去するステップと、接触させた細胞集団を被験体に投与するステップとを含み、細胞集団を、被験体における接触させた造血幹細胞または前駆細胞の生着を、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、薬剤と接触させ、これにより、造血系再構築を必要とする被験体を処置する方法を意図する。
【0068】
付加的な実施形態では、本発明が、部分的に、造血系再構築を必要とする被験体を処置する方法であって、造血系再構築を必要とする被験体を選択するステップと、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、約37℃の温度で、プロスタグランジンE(PGE)またはdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、細胞集団を洗浄して薬剤を実質的に除去するステップと、接触させた細胞集団を被験体に投与するステップとを含み、被験体における接触させた造血幹細胞または前駆細胞の生着を、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、細胞集団を薬剤と接触させ、これにより、造血系再構築を必要とする被験体を処置する、方法を意図する。
【0069】
さらなる実施形態では、本発明が、部分的に、in vivoにおいて造血幹細胞または前駆細胞の増殖を増大させるための細胞集団を調製する方法であって、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoまたはin vitroにおいて、約37℃の温度で、プロスタグランジンE(PGE)またはdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップを含み、in vivoにおける接触させた造血幹細胞または前駆細胞の増殖を、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、細胞集団を薬剤と接触させる、方法を意図する。
【0070】
本発明の方法の具体的な実施形態では、細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる。
【0071】
本発明の他の具体的な実施形態では、dmPGE活性を有する薬剤が、dmPGE、cAMP類似体もしくはcAMPエンハンサー、またはGα-s活性化因子である。
【0072】
特定の実施形態では、薬剤がPGEまたはその類似体である。
【0073】
特定の具体的な実施形態では、PGE類似体が16,16-ジメチルPGEである。
【0074】
他の具体的な実施形態では、薬剤がcAMPエンハンサーである。
【0075】
本発明の特定の実施形態では、接触させた造血幹細胞または前駆細胞集団の遺伝子発現を改変する、生着または生着の潜在能を増大させる、または増殖を増大させるのに十分な条件が、細胞集団を、約1時間~約6時間にわたり、1または複数の薬剤と接触させることを含み、薬剤のうちの少なくとも1つが、造血幹細胞または前駆細胞におけるPGEまたはPGER4のシグナル伝達を増大させる薬剤を含む。特定の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、約37℃の温度で、約2時間にわたり、約10μMの濃度の、造血幹細胞または前駆細胞におけるPGEまたはPGER4のシグナル伝達を増大させる薬剤と接触させる。
【0076】
他の実施形態では、造血幹細胞集団または前駆細胞集団を、約10μM以上の濃度の16,16-ジメチルPGEと、約1時間~約6時間にわたり接触させる。
【0077】
付加的な実施形態では、細胞集団を、約10μMの濃度の16,16-ジメチルPGEと、約2時間にわたり接触させる。
【0078】
具体的な実施形態では、細胞集団における接触させた造血幹細胞または前駆細胞の生着の潜在能の増大は、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較したときの、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、またはCXCケモカイン受容体4(CXCR4)のうちの1または複数の遺伝子発現の増大、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較したときの自己再生能の増大、および、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して細胞生存度の実質的な低下がないことを含む。
【0079】
本発明の一部の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団が、内毒素を含まない容器において調製され、ここで、この容器は、容器の温度を示す信号をもたらす、少なくとも1つの温度計を備える温度表示デバイスと、少なくとも1つの経過時間表示器を備える経過時間表示デバイスとを備え、容器が、細胞の保存、細胞の処理、細胞の洗浄、および細胞の注入に適する。
【0080】
造血幹細胞移植または前駆細胞移植のための細胞集団を調製するための方法、および造血幹細胞または前駆細胞の増殖を増大させるための細胞集団を調製するための方法を含め、本発明のこれらの方法を含めた本発明の特定の実施形態では、接触させた細胞集団を、細胞療法を必要とする被験体など、それを必要とする被験体に投与するが、本発明の方法は、接触させた細胞集団を、それを必要とする被験体に投与するステップをさらに含む。
【0081】
特定の具体的な実施形態では、被験体が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、若年性骨髄単球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、重症再生不良性貧血、ファンコニー貧血、発作性夜間血色素尿症(PNH)、赤芽球ろう、無巨核球症(amegakaryocytosis)/先天性血小板減少症、重症複合型免疫不全症(severe combined immunodeficiency syndrome)(SCID)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、ベータサラセミアメジャー(beta-thalassemia major)、鎌状赤血球症、ハーラー症候群、副腎脳白質ジストロフィー、異染性白質萎縮症、脊髄形成異常症、不応性貧血、慢性骨髄単球性白血病、原因不明骨髄様化生、家族性血球貪食性リンパ組織球症、充実性腫瘍、慢性肉芽腫症、ムコ多糖症、またはダイアモンドブラックファン貧血を有する。
【0082】
特定の他の具体的な実施形態では、被験体が、乳がん、卵巣がん、脳のがん、前立腺がん、肺がん、結腸がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、または肉腫を有する。
【0083】
他の特定の実施形態では、被験体に、骨髄除去的化学療法(bone marrow ablative chemotherapy)もしくは骨髄除去的放射線療法(bone marrow ablative radiation therapy)、または非骨髄破壊的化学療法(non-myeolablative chemotherapy)もしくは非骨髄破壊的放射線療法(non-myeolablative radiation therapy)を施している。
【0084】
さらなる実施形態では、被験体が骨髄ドナーである。
【0085】
具体的な実施形態では、細胞集団が、1または複数の臍帯血ユニットを含む。特定の実施形態では、被験体に、1または複数の臍帯血ユニットを投与する。他の実施形態では、被験体に、部分臍帯血ユニットを投与する。他の具体的な実施形態では、被験体に、1臍帯血ユニットを投与する。
【0086】
他の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団が、被験体と同体(autogeneic)である。
【0087】
特定の実施形態では、細胞集団が、被験体の末梢血または骨髄から動員される。
【0088】
さらなる実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団が、被験体に対して同種異系である。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を含む治療用組成物であって、
a)上記造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、上記細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤と接触しており、
b)上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、
c)上記治療用組成物が、患者への投与の準備ができた造血幹細胞または前駆細胞の、無菌で治療的に許容される懸濁液を含む、
治療用組成物。
(項目2)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約3倍増大している、項目1に記載の治療用組成物。
(項目3)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる上記薬剤が、cAMP類似体またはcAMPエンハンサー、Gα-s活性化因子、およびPGEEP受容体に選択的に結合する化合物からなる群より選択される、項目1に記載の治療用組成物。
(項目4)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる上記薬剤が、PGE、またはPGE類似体もしくはPGE誘導体である、項目1に記載の治療用組成物。
(項目5)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる上記薬剤が、16,16-ジメチルPGEである、項目1に記載の治療用組成物。
(項目6)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、少なくとも約1時間にわたり上記薬剤と接触していた、項目1に記載の治療用組成物。
(項目7)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、約1時間~約6時間にわたり上記薬剤と接触していた、項目1に記載の治療用組成物。
(項目8)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、約2時間~約6時間にわたり上記薬剤と接触していた、項目1に記載の治療用組成物。
(項目9)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、約2時間にわたり上記薬剤と接触していた、項目1に記載の治療用組成物。
(項目10)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、遺伝子発現シグネチャーを含み、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記1または複数のシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、上記シグネチャー遺伝子が、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される、項目1に記載の治療用組成物。
(項目11)
上記シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つの発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記2つのシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも5、10、15、または20倍増大している、項目10に記載の治療用組成物。
(項目12)
上記シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記シグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大している、項目10に記載の治療用組成物。
(項目13)
上記細胞集団が、約0.10、0.50、1.0、3、5、10、15、20、または30%未満のCD34細胞を含む、項目1に記載の治療用組成物。
(項目14)
上記細胞集団が、少なくとも約0.01%かつ約50%以下のCD34細胞を含む、項目1に記載の治療用組成物。
(項目15)
上記細胞集団をex vivoにおいて増殖させない、項目1に記載の治療用組成物。(項目16)
上記細胞集団を培養せずにポイントオブケアで生成させ、患者に投与する、項目1に記載の治療用組成物。
(項目17)
上記薬剤を実質的に含まない、項目1に記載の治療用組成物。
(項目18)
上記細胞集団が、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の間葉系幹細胞を含む、項目1に記載の治療用組成物。
(項目19)
上記細胞集団が、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の内皮前駆細胞を含む、項目1に記載の治療用組成物。
(項目20)
上記細胞集団内の細胞のうちの少なくとも約15%が、CXCR4タンパク質を発現する、項目1に記載の治療用組成物。
(項目21)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目1に記載の治療用組成物。
(項目22)
上記細胞集団がHLAハプロタイピングされている、項目1に記載の治療用組成物。
(項目23)
上記細胞集団が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-DRB1からなる群に基づきHLAハプロタイピングされている、項目1に記載の治療用組成物。
(項目24)
上記HLAハプロタイピングされている細胞集団が、特定のヒト被験体と適合する、項目1に記載の治療用組成物。
(項目25)
上記HLAハプロタイピングされている細胞集団が、6つのHLAのうちの4つで特定のヒト被験体と適合する、項目1に記載の治療用組成物。
(項目26)
少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を含む治療用組成物であって、
a)上記造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で約2時間にわたり、16,16-dmPGEと接触しており、
b)上記造血幹細胞または前駆細胞が、CD34細胞の収集物を含み、上記CD34細胞の収集物におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していないCD34細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約3倍増大しており、
c)上記治療用組成物が、患者への投与の準備ができた造血幹細胞または前駆細胞の、無菌で治療的に許容される懸濁液を含む、
治療用組成物。
(項目27)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、遺伝子発現シグネチャーを含み、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記1または複数のシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、上記シグネチャー遺伝子が、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される、項目26に記載の治療用組成物。
(項目28)
上記シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つの発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記2つのシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも5、10、15、または20倍増大している、項目26に記載の治療用組成物。
(項目29)
上記シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記シグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大している、項目26に記載の治療用組成物。
(項目30)
上記細胞集団が、約0.10、0.50、1.0、3、5、10、15、20、または30%未満のCD34細胞を含む、項目26に記載の治療用組成物。
(項目31)
上記細胞集団が、少なくとも約0.01%かつ約50%以下のCD34細胞を含む、項目26に記載の治療用組成物。
(項目32)
上記細胞集団をex vivoにおいて増殖させない、項目26に記載の治療用組成物。
(項目33)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目26に記載の治療用組成物。
(項目34)
上記細胞集団がHLAハプロタイピングされている、項目26に記載の治療用組成物。(項目35)
少なくとも約百万個のヒト造血幹細胞または前駆細胞を含むハプロタイピングされている細胞集団を含む治療用組成物であって、
a)上記造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、上記細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤と接触しており、
b)上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、
c)上記治療用組成物が、患者への投与の準備ができた造血幹細胞または前駆細胞の、無菌で治療的に許容される懸濁液を含む、
治療用組成物。
(項目36)
上記ハプロタイピングされている細胞集団が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-DRB1からなる群に基づきハプロタイピングされている、項目35に記載の治療用組成物。
(項目37)
上記ハプロタイピングされている細胞集団が、HLA-DRB3/4/5、HLA-DQB1、およびDPB1からなる群に基づきハプロタイピングされている、項目35に記載の治療用組成物。
(項目38)
上記ハプロタイピングされている細胞集団が、特定のヒト被験体と適合する、項目35に記載の治療用組成物。
(項目39)
上記HLAハプロタイピングされている細胞集団が、6つのHLAのうちの4つで特定のヒト被験体と適合する、項目37に記載の治療用組成物。
(項目40)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも約3倍増大している、項目35に記載の治療用組成物。
(項目41)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる上記薬剤が、cAMP類似体またはcAMPエンハンサー、Gα-s活性化因子、およびPGEEP受容体に選択的に結合する化合物からなる群より選択される、項目35に記載の治療用組成物。
(項目42)
上記造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる上記薬剤が、16,16-ジメチルPGEである、項目35に記載の治療用組成物。
(項目43)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、約1時間~約6時間にわたり上記薬剤と接触していた、項目35に記載の治療用組成物。
(項目44)
上記造血幹細胞または前駆細胞が、遺伝子発現シグネチャーを含み、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記1または複数のシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大しており、上記シグネチャー遺伝子が、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される、項目35に記載の治療用組成物。
(項目45)
上記シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つの発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記2つのシグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも5、10、15、または20倍増大している、項目35に記載の治療用組成物。
(項目46)
上記シグネチャー遺伝子の各々の発現が、接触していない造血幹細胞または前駆細胞における上記シグネチャー遺伝子の発現と比較して少なくとも約2倍増大している、項目35に記載の治療用組成物。
(項目47)
上記細胞集団が、約0.10、0.50、1.0、3、5、10、15、20、または30%未満のCD34細胞を含む、項目35に記載の治療用組成物。
(項目48)
上記細胞集団が、少なくとも約0.01%かつ約50%以下のCD34細胞を含む、項目35に記載の治療用組成物。
(項目49)
上記細胞集団をex vivoにおいて増殖させない、項目35に記載の治療用組成物。
(項目50)
上記細胞集団を培養せずにポイントオブケアで生成させ、患者に投与する、項目35に記載の治療用組成物。
(項目51)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目35に記載の治療用組成物。
(項目52)
治療用組成物を調製する方法であって、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、1または複数の薬剤と、約37℃の温度で、上記造血幹細胞または前駆細胞の遺伝子発現を改変するのに十分な条件下で接触させ、接触していない造血幹細胞または前駆細胞と比較して、以下の遺伝子:ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、またはCXCケモカイン受容体4(CXCR4)のうちの1または複数の発現の増大を含む遺伝子発現シグネチャーを含む造血幹細胞または前駆細胞を結果としてもたらすステップを含む、方法。
(項目53)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目52に記載の方法。
(項目54)
上記1または複数の薬剤のうちの少なくとも1つが、上記造血幹細胞または前駆細胞におけるPGEまたはPGEのシグナル伝達を増大させる、項目52に記載の方法。
(項目55)
上記1または複数の薬剤のうちの少なくとも1つが、cAMPエンハンサー、Gα-s活性化因子、およびPGEEP受容体に選択的に結合する薬剤からなる群より選択される、項目52に記載の方法。
(項目56)
上記1または複数の薬剤が、PGEまたはその類似体を含む、項目52に記載の方法。
(項目57)
上記PGE類似体が、16,16-ジメチルPGEを含む、項目56に記載の方法。
(項目58)
上記造血幹細胞または前駆細胞の上記遺伝子発現を改変するのに十分な上記条件が、上記造血幹細胞および前駆細胞を、約1時間~約6時間にわたり、上記1または複数の薬剤と接触させることを含み、上記薬剤のうちの少なくとも1つが、上記造血幹細胞または前駆細胞におけるPGEまたはPGEのシグナル伝達を増大させる薬剤を含む、項目52に記載の方法。
(項目59)
上記造血幹細胞および前駆細胞を、約37℃の温度で、約2時間にわたり、約10μMの濃度の、上記造血幹細胞または前駆細胞におけるPGEまたはPGEのシグナル伝達を増大させる上記薬剤と接触させる、項目58に記載の方法。
(項目60)
上記治療用組成物が、内毒素を含まない容器において調製され、上記容器が、上記容器の温度を示す信号をもたらす、少なくとも1つの温度計を備える温度表示デバイスと、少なくとも1つの経過時間表示器を備える経過時間表示デバイスとを備え、上記容器が、細胞の保存、細胞の処理、細胞の洗浄、および細胞の注入に適する、項目52に記載の方法。
(項目61)
上記治療用組成物を、細胞療法を必要とする被験体に投与する、項目52に記載の方法。
(項目62)
上記被験体が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、若年性骨髄単球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、重症再生不良性貧血、ファンコニー貧血、発作性夜間血色素尿症(PNH)、赤芽球ろう、無巨核球症/先天性血小板減少症、重症複合型免疫不全症(SCID)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、ベータサラセミアメジャー、鎌状赤血球症、ハーラー症候群、副腎脳白質ジストロフィー、異染性白質萎縮症、脊髄形成異常症、不応性貧血、慢性骨髄単球性白血病、原因不明骨髄様化生、家族性血球貪食性リンパ組織球症、充実性腫瘍、慢性肉芽腫症、ムコ多糖症、またはダイアモンドブラックファン貧血を有する、項目61に記載の方法。
(項目63)
上記被験体が、乳がん、卵巣がん、脳のがん、前立腺がん、肺がん、結腸がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、または肉腫を有する、項目61に記載の方法。
(項目64)
上記被験体が、骨髄除去的化学療法もしくは骨髄除去的放射線療法、または非骨髄破壊的化学療法もしくは非骨髄破壊的放射線療法を受けた、項目61に記載の方法。
(項目65)
上記被験体が骨髄ドナーである、項目61に記載の方法。
(項目66)
被験体における造血幹細胞および前駆細胞の生着を増大させる方法であって、
(a)造血幹細胞および前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、プロスタグランジンE(PGE)およびdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、
(b)上記細胞集団を洗浄して上記薬剤を実質的に除去するステップと、
(c)上記細胞集団を被験体に投与するステップと
を含み、
上記被験体における上記接触させた造血幹細胞および前駆細胞の生着を、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、上記細胞集団を上記薬剤と接触させる、方法。
(項目67)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目66に記載の方法。
(項目68)
上記薬剤がPGEまたはその類似体である、項目66に記載の方法。
(項目69)
上記PGE類似体が16,16-ジメチルPGEである、項目68に記載の方法。(項目70)
生着を増大させるのに十分な上記条件が、上記造血幹細胞および前駆細胞を、
(a)約10μM以上の16,16-ジメチルPGE濃度で、
(b)約1時間~約6時間にわたり
接触させることを含む、項目66に記載の方法。
(項目71)
上記造血幹細胞および前駆細胞を、約10μMの16,16-ジメチルPGE濃度で、約2時間にわたり接触させる、項目66に記載の方法。
(項目72)
上記接触させた造血幹細胞および前駆細胞が、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、またはCXCケモカイン受容体4(CXCR4)のうちの1または複数の遺伝子発現の増大を含む、項目66に記載の方法。
(項目73)
上記細胞集団が、内毒素を含まない容器において上記1または複数の薬剤と接触し、上記容器が、上記容器の温度を示す信号をもたらす、少なくとも1つの温度計を備える温度表示デバイスと、少なくとも1つの経過時間表示器を備える経過時間表示デバイスとを備え、上記容器が、細胞の保存、細胞の処理、細胞の洗浄、および細胞の注入に適する、項目52または66に記載の方法。
(項目74)
上記細胞集団が、1または複数の臍帯血ユニットを含む、項目66に記載の方法。
(項目75)
上記被験体に、1または複数の臍帯血ユニットを投与する、項目74に記載の方法。
(項目76)
上記被験体に、1臍帯血ユニットまたは部分臍帯血ユニットを投与する、項目74に記載の方法。
(項目77)
上記被験体が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、若年性骨髄単球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、重症再生不良性貧血、ファンコニー貧血、発作性夜間血色素尿症(PNH)、赤芽球ろう、無巨核球症/先天性血小板減少症、重症複合型免疫不全症(SCID)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、ベータサラセミアメジャー、鎌状赤血球症、ハーラー症候群、副腎脳白質ジストロフィー、異染性白質萎縮症、脊髄形成異常症、不応性貧血、慢性骨髄単球性白血病、原因不明骨髄様化生、家族性血球貪食性リンパ組織球症、または充実性腫瘍を有する、項目66に記載の方法。
(項目78)
上記被験体が、乳がん、卵巣がん、脳のがん、前立腺がん、肺がん、結腸がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、または肉腫を有する、項目66に記載の方法。
(項目79)
上記被験体が、骨髄除去的化学療法もしくは骨髄除去的放射線療法、または非骨髄破壊的化学療法もしくは非骨髄破壊的放射線療法を受けた、項目66に記載の方法。
(項目80)
上記被験体が骨髄ドナーである、項目66に記載の方法。
(項目81)
上記細胞集団が、上記被験体と同体である、項目66に記載の方法。
(項目82)
上記細胞集団が、上記被験体の末梢血または骨髄から動員される、項目81に記載の方法。
(項目83)
上記細胞集団が、上記被験体に対して同種異系である、項目66に記載の方法。
(項目84)
造血系再構築を必要とする被験体を処置する方法であって、
(a)造血系再構築を必要とする被験体を選択するステップと、
(b)造血幹細胞および前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、プロスタグランジンE(PGE)およびdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、
(c)上記細胞集団を洗浄して上記薬剤を実質的に除去するステップと、
(d)上記細胞集団を上記被験体に投与するステップと
を含み、
上記被験体における上記接触させた造血幹細胞および前駆細胞の生着を、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、上記細胞集団を上記薬剤と接触させ、これにより、造血系再構築を必要とする上記被験体を処置する、方法。
(項目85)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目84に記載の方法。
(項目86)
上記薬剤がPGEまたはその類似体である、項目84に記載の方法。
(項目87)
上記PGE類似体が16,16-ジメチルPGEである、項目84に記載の方法。(項目88)
上記生着を増大させるのに十分な上記条件が、上記造血幹細胞および前駆細胞を、
(a)約10μM以上の16,16-ジメチルPGE濃度で、
(b)約1時間~約6時間にわたり
接触させることを含む、項目84に記載の方法。
(項目89)
上記造血幹細胞および前駆細胞を、約10μMの16,16-ジメチルPGE濃度で、約2時間にわたり接触させる、項目88に記載の方法。
(項目90)
上記接触させた造血幹細胞および前駆細胞が、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、またはCXCケモカイン受容体4(CXCR4)のうちの1または複数の遺伝子発現の増大を含み、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して自己再生能の増大を含み、かつ、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して細胞生存度の実質的な低下を含まない、項目84に記載の方法。
(項目91)
上記細胞集団が、内毒素を含まない容器において調製され、上記容器が、上記容器の温度を示す信号をもたらす、少なくとも1つの温度計を備える温度表示デバイスと、少なくとも1つの経過時間表示器を備える経過時間表示デバイスとを備え、上記容器が、細胞の保存、細胞の処理、細胞の洗浄、および細胞の注入に適する、項目84に記載の方法。
(項目92)
上記細胞集団が、1または複数の臍帯血ユニットを含む、項目84に記載の方法。
(項目93)
上記被験体に、部分臍帯血ユニットまたは1または複数の臍帯血ユニットを投与する、項目92に記載の方法。
(項目94)
上記被験体が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、若年性骨髄単球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、重症再生不良性貧血、ファンコニー貧血、発作性夜間血色素尿症(PNH)、赤芽球ろう、無巨核球症/先天性血小板減少症、重症複合型免疫不全症(SCID)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、ベータサラセミアメジャー、鎌状赤血球症、ハーラー症候群、副腎脳白質ジストロフィー、異染性白質萎縮症、脊髄形成異常症、不応性貧血、慢性骨髄単球性白血病、原因不明骨髄様化生、家族性血球貪食性リンパ組織球症、または充実性腫瘍を有する、項目84に記載の方法。
(項目95)
上記被験体が、乳がん、卵巣がん、脳のがん、前立腺がん、肺がん、結腸がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、または肉腫を有する、項目84に記載の方法。
(項目96)
上記被験体が、骨髄除去的化学療法もしくは骨髄除去的放射線療法、または非骨髄破壊的化学療法もしくは非骨髄破壊的放射線療法を受けた、項目84に記載の方法。
(項目97)
上記被験体が骨髄ドナーである、項目84に記載の方法。
(項目98)
上記細胞集団が、上記被験体と同体である項目84に記載の方法。
(項目99)
上記細胞集団が、上記被験体の末梢血または骨髄から動員される、項目98に記載の方法。
(項目100)
上記細胞集団が、上記被験体に対して同種異系である、項目84に記載の方法。
(項目101)
in vivoにおいて造血幹細胞および前駆細胞の増殖を増大させるための細胞集団を調製する方法であって、造血幹細胞および前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、プロスタグランジンE(PGE)およびdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップを含み、in vivoにおける上記接触させた造血幹細胞および前駆細胞の増殖を、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、上記細胞集団を上記薬剤と接触させる、方法。
(項目102)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目101に記載の方法。
(項目103)
上記薬剤がPGEまたはその類似体である、項目101に記載の方法。
(項目104)
上記PGE類似体が16,16-ジメチルPGEである、項目101に記載の方法。
(項目105)
上記薬剤がcAMPエンハンサーである、項目101に記載の方法。
(項目106)
in vivoにおける上記造血幹細胞および前駆細胞の増殖を増大させるのに十分な上記条件が、上記造血幹細胞および前駆細胞を、
(a)約10μM以上の16,16-ジメチルPGE濃度で、
(b)約1時間~約6時間にわたり
接触させることを含む、項目101に記載の方法。
(項目107)
上記造血幹細胞および前駆細胞を、約10μMの16,16-ジメチルPGE濃度で、約2時間にわたり接触させる、項目106に記載の方法。
(項目108)
上記細胞集団が、内毒素を含まない容器において調製され、上記容器が、上記容器の温度を示す信号をもたらす、少なくとも1つの温度計を備える温度表示デバイスと、少なくとも1つの経過時間表示器を備える経過時間表示デバイスとを備え、上記容器が、細胞の保存、細胞の処理、細胞の洗浄、および細胞の注入に適する、項目106に記載の方法。(項目109)
上記細胞集団を、細胞療法を必要とする被験体に投与する、項目106に記載の方法。(項目110)
in vivoの被験体における造血幹細胞および前駆細胞の増殖を増大させる方法であって、
(a)造血幹細胞および前駆細胞を含む細胞集団を、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、プロスタグランジンE(PGE)またはdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、
(b)上記細胞集団を被験体に投与するステップと
を含み、
in vivoの上記被験体における上記接触させた造血幹細胞および前駆細胞の増殖を、接触していない造血幹細胞および前駆細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、上記細胞集団を上記薬剤と接触させる、方法。
(項目111)
上記細胞集団が、骨髄、臍帯血、または動員末梢血から得られる、項目110に記載の方法。
(項目112)
上記薬剤がPGEまたはその類似体である、項目110に記載の方法。
(項目113)
上記PGE類似体が16,16-ジメチルPGEである、項目110に記載の方法。
(項目114)
上記薬剤がcAMPエンハンサーである、項目110に記載の方法。
(項目115)
in vivoにおける上記造血幹細胞および前駆細胞の増殖を増大させるのに十分な上記条件が、上記造血幹細胞および前駆細胞を、
(a)約10μM以上の16,16-ジメチルPGE濃度で、
(b)約1時間~約6時間にわたり
接触させることを含む、項目112に記載の方法。
(項目116)
上記造血幹細胞および前駆細胞を、約10μMの16,16-ジメチルPGE濃度で、約2時間にわたり接触させる、項目115に記載の方法。
(項目117)
上記細胞集団が、内毒素を含まない容器において調製され、上記容器が、上記容器の温度を示す信号をもたらす、少なくとも1つの温度計を備える温度表示デバイスと、少なくとも1つの経過時間表示器を備える経過時間表示デバイスとを備え、上記容器が、細胞の保存、細胞の処理、細胞の洗浄、および細胞の注入に適する、項目110に記載の方法。(項目118)
上記細胞集団が、1または複数の臍帯血ユニットを含む、項目110に記載の方法。
(項目119)
上記被験体に、1または複数の臍帯血ユニットを投与する、項目118に記載の方法。(項目120)
上記被験体に、1臍帯血ユニットまたは部分臍帯血ユニットを投与する、項目118に記載の方法。
(項目121)
上記被験体が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、若年性骨髄単球性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、重症再生不良性貧血、ファンコニー貧血、発作性夜間血色素尿症(PNH)、赤芽球ろう、無巨核球症/先天性血小板減少症、重症複合型免疫不全症(SCID)、ウィスコット-アルドリッチ症候群、ベータサラセミアメジャー、鎌状赤血球症、ハーラー症候群、副腎脳白質ジストロフィー、異染性白質萎縮症、脊髄形成異常症、不応性貧血、慢性骨髄単球性白血病、原因不明骨髄様化生、家族性血球貪食性リンパ組織球症、または充実性腫瘍を有する、項目110に記載の方法。
(項目122)
上記被験体が、乳がん、卵巣がん、脳のがん、前立腺がん、肺がん、結腸がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、または肉腫を有する、項目110に記載の方法。
(項目123)
上記患者が、骨髄除去的化学療法もしくは骨髄除去的放射線療法、または非骨髄破壊的化学療法もしくは非骨髄破壊的放射線療法を受けた、項目110に記載の方法。
(項目124)
上記被験体が骨髄ドナーである、項目110に記載の方法。
(項目125)
上記細胞集団が、上記被験体と同体である項目110に記載の方法。
(項目126)
上記細胞集団が、上記被験体の末梢血または骨髄から動員される、項目125に記載の方法。
(項目127)
上記細胞集団が、上記被験体に対して同種異系である、項目110に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1図1は、造血幹細胞および前駆細胞に存在するプロスタグランジンE受容体/受容体4によるGタンパク質結合型受容体細胞シグナル伝達経路についての概略図を示す。
図2図2は、異なるセットの実験条件下において16,16-ジメチルPGEで処理した、精製されたCD34細胞集団またはヒト臍帯血の解析についての実験フローチャートを示す。
図3図3は、異なるセットの実験条件下において16,16-ジメチルPGEで処理したCD34細胞でのcAMPアッセイについての結果を示す。
図4図4は、x軸におけるビヒクルで処理したCD34細胞の遺伝子発現データを、y軸における10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34細胞の遺伝子発現データと対比させる散布図(scatterplot)である。ビヒクルで処理した細胞と比較して、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34細胞においては、CREMの発現が8倍増大し、CXCR4の発現が18倍増大することが注目される。
図5図5は、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34細胞の遺伝子発現における処理時間の解析についての実験フローチャートを示す。
図6図6は、10μMの16,16-ジメチルPGEで5、15、30、60、および120分間の処理時間にわたり処理したCD34細胞(y軸)を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比させる遺伝子発現プロファイルを示す。遺伝子発現プロファイルは、120分間のインキュベーション期間の後に得た。
図7図7は、37℃、100nM、1μM、10μM、または100μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理したCD34細胞(y軸)を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比させる遺伝子発現プロファイルを示す。
図8図8は、37℃、100nM、1μM、10μM、25μM、または50μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理した、臍帯血から精製されたCD34細胞(y軸)を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比させる遺伝子発現プロファイルを示す。
図9図9は、37℃(左パネル)または4℃(右上パネル)または25℃(右下パネル)、10μMの16,16-ジメチルPGEで60分間(上パネル)または120分間(下パネル)にわたり処理したCD34細胞(y軸)を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比させる遺伝子発現プロファイルを示す。
図10図10は、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEと共に120分間にわたりインキュベートしたCD34細胞が、ビヒクルで処理した細胞、または4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理した細胞と比較して細胞生存度を低下させないことを示す。
図11図11は、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEと共に120分間にわたりインキュベートしたCD34細胞が、ビヒクルで処理した細胞、または4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理した細胞と比較して、細胞がコロニー形成単位を形成する能力を低下させないことを示す。顆粒球-単球のコロニー形成単位(CFU-GM)、赤血球のコロニー形成単位(CFU- E)、赤芽球バースト形成単位(burst forming unit erythroid)(BFU-E)、多系統のコロニー形成単位ミックス(CFU-GM/M/Eosi)。
図12図12は、16,16-ジメチルPGEで処理したヒト臍帯血を用いる臨床試験の概略図である。
図13図13は、16,16-ジメチルPGEによる処理プロトコールのゲノム全体の発現解析を示す。図13Aは、4℃で1時間にわたり処理した細胞における遺伝子発現を示す。細胞は、DMSO対照(N=3)と比較される、10μMの16,16-ジメチルPGE(y軸、N=3)で処理した。図13Bは、37℃で2時間にわたり処理した細胞における遺伝子発現を示す。細胞は、DMSO対照(N=3)と比較される、10μMの16,16-ジメチルPGE(y軸、N=3)で処理した。
図14A図14は、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いる37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEによるインキュベーションで処理した細胞についての遺伝子発現解析検証研究を示す。図14Aは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞における選択された遺伝子群の遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。図14Bは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ARPC2、CXCL5、CXCL6、FGF9、GNAL、GULP1、LRIG2、PDE4D、PLAT(1)、PLAT(2)、SSTR1、SYT4、およびTMCC3は、発現挙動が思わしくなく、図14Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。パネルBに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、GAPDH、HPTR1、およびQARSを用いた。図14Cは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞におけるCXCR4の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。図14のための全ての遺伝子発現プロファイルは、指定された時間にわたる細胞の処理後において、処理後におけるさらなる細胞のインキュベーションを伴わずに得た。
図14B図14は、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いる37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEによるインキュベーションで処理した細胞についての遺伝子発現解析検証研究を示す。図14Aは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞における選択された遺伝子群の遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。図14Bは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ARPC2、CXCL5、CXCL6、FGF9、GNAL、GULP1、LRIG2、PDE4D、PLAT(1)、PLAT(2)、SSTR1、SYT4、およびTMCC3は、発現挙動が思わしくなく、図14Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。パネルBに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、GAPDH、HPTR1、およびQARSを用いた。図14Cは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞におけるCXCR4の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。図14のための全ての遺伝子発現プロファイルは、指定された時間にわたる細胞の処理後において、処理後におけるさらなる細胞のインキュベーションを伴わずに得た。
図14C図14は、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いる37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEによるインキュベーションで処理した細胞についての遺伝子発現解析検証研究を示す。図14Aは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞における選択された遺伝子群の遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。図14Bは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ARPC2、CXCL5、CXCL6、FGF9、GNAL、GULP1、LRIG2、PDE4D、PLAT(1)、PLAT(2)、SSTR1、SYT4、およびTMCC3は、発現挙動が思わしくなく、図14Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。パネルBに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、GAPDH、HPTR1、およびQARSを用いた。図14Cは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで0、20、40、60、80、120、180、および240分間にわたり処理したCD34細胞におけるCXCR4の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。図14のための全ての遺伝子発現プロファイルは、指定された時間にわたる細胞の処理後において、処理後におけるさらなる細胞のインキュベーションを伴わずに得た。
図15A図15は、完全な生物学的効果を駆動するのに十分な、10μMの16,16-ジメチルPGEのパルス処理で処理した細胞、またはDMSOで処理した細胞を示す。CD34+細胞を、10μMの16,16-ジメチルPGEと共に、示される通りの異なる時間(0、20、40、80、および120分間)にわたりインキュベートした後、全インキュベーション時間が120分間となるように、37℃で16,16-ジメチルPGEを伴わない回復時間を置いた。データは、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いて解析した。図15Aおよび15Bは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで5、15、30、60、および120分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ACDY7、CCND1、CREB5、GULP1、MPPE1、PDE3B、PTGER2、RGS2、およびYPEL4は、発現挙動が思わしくなく、図15Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。図15Bに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、ARPC2、GAPDG、HPRT1、LRIG2、およびQARSを用いた。遺伝子発現プロファイルは、120分間のインキュベーション期間後に得た。
図15B図15は、完全な生物学的効果を駆動するのに十分な、10μMの16,16-ジメチルPGEのパルス処理で処理した細胞、またはDMSOで処理した細胞を示す。CD34+細胞を、10μMの16,16-ジメチルPGEと共に、示される通りの異なる時間(0、20、40、80、および120分間)にわたりインキュベートした後、全インキュベーション時間が120分間となるように、37℃で16,16-ジメチルPGEを伴わない回復時間を置いた。データは、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いて解析した。図15Aおよび15Bは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで5、15、30、60、および120分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ACDY7、CCND1、CREB5、GULP1、MPPE1、PDE3B、PTGER2、RGS2、およびYPEL4は、発現挙動が思わしくなく、図15Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。図15Bに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、ARPC2、GAPDG、HPRT1、LRIG2、およびQARSを用いた。遺伝子発現プロファイルは、120分間のインキュベーション期間後に得た。
図16A図16は、16,16-ジメチルPGEの濃度またはDMSOによる処理の、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いる遺伝子発現に対する効果を示す。図16Aおよび16Bは、37℃、0、0.1、1、10、50、および100μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで120分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ACDY7、CCND1、CREB5、GULP1、FGFR1、FLJ27352、MPPE1、PDE4D、PTGER2、PDG3B、およびYPEL4は発現挙動が思わしくなく、図16Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。図16Bに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、ARPC2、GAPDH、HPRT1、LRIG2、およびQARSを用いた。
図16B図16は、16,16-ジメチルPGEの濃度またはDMSOによる処理の、Fluidigm遺伝子発現プラットフォームを用いる遺伝子発現に対する効果を示す。図16Aおよび16Bは、37℃、0、0.1、1、10、50、および100μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで120分間にわたり処理したCD34細胞における、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子の平均遺伝子発現を、ビヒクルで処理した対照と比較して示す。以下の遺伝子:ACDY7、CCND1、CREB5、GULP1、FGFR1、FLJ27352、MPPE1、PDE4D、PTGER2、PDG3B、およびYPEL4は発現挙動が思わしくなく、図16Bに示される平均遺伝子発現の決定からは除外した。図16Bに示される平均遺伝子発現の決定における正規化のために、以下のハウスキーピング遺伝子:ACTB、ARPC2、GAPDH、HPRT1、LRIG2、およびQARSを用いた。
図17図17は、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理した細胞についての遺伝子発現解析を、DMSOで処理した細胞と比較して示す。図17Aは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理した全臍帯血細胞についてのゲノム全体の発現解析を、DMSOで処理した臍帯血細胞と比較して示す。図17Bは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理したLin+CD34細胞についてのゲノム全体の発現解析を、DMSOで処理したLin(+)CD34細胞と比較して示す。図17Cは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理したLin(-)CD34CD38細胞についてのゲノム全体の発現解析を、DMSOで処理したLin(-)CD34CD38細胞と比較して示す。図17Dは、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理したLin(-)CD34CD38CD90細胞についてのゲノム全体の発現解析を、DMSOで処理したLin(-)CD34CD38CD90細胞と比較して示す。
図18A図18は、異なる温度、10μMの16,16-ジメチルPGEで異なる長さの時間にわたり処理した細胞におけるCXCR4の発現を示す。図18Aは、この実験系列で比較した実験条件を示す。図18Bは、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで1時間にわたり処理した細胞、および37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり処理した細胞の、処理の1、6、および24時間後の細胞表面におけるCXCR4の発現を示す。図18Cは、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで1時間にわたり処理した細胞、および37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり処理した細胞の、処理の1、6、および24時間後の細胞表面におけるCXCR4を発現する細胞の百分率を示す。
図18B図18は、異なる温度、10μMの16,16-ジメチルPGEで異なる長さの時間にわたり処理した細胞におけるCXCR4の発現を示す。図18Aは、この実験系列で比較した実験条件を示す。図18Bは、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで1時間にわたり処理した細胞、および37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり処理した細胞の、処理の1、6、および24時間後の細胞表面におけるCXCR4の発現を示す。図18Cは、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで1時間にわたり処理した細胞、および37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり処理した細胞の、処理の1、6、および24時間後の細胞表面におけるCXCR4を発現する細胞の百分率を示す。
図18C図18は、異なる温度、10μMの16,16-ジメチルPGEで異なる長さの時間にわたり処理した細胞におけるCXCR4の発現を示す。図18Aは、この実験系列で比較した実験条件を示す。図18Bは、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで1時間にわたり処理した細胞、および37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり処理した細胞の、処理の1、6、および24時間後の細胞表面におけるCXCR4の発現を示す。図18Cは、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで1時間にわたり処理した細胞、および37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり処理した細胞の、処理の1、6、および24時間後の細胞表面におけるCXCR4を発現する細胞の百分率を示す。
図19-1】図19は、表示される温度、10μMの16,16-ジメチルPGEで表示される時間にわたり処理したCD34細胞についての生存度解析および増殖解析を示す。次いで、処理した細胞を、in vivoにおけるCFU-Sアッセイを用いて解析した。図19Aは、37℃におけるインキュベーションにより、造血前駆細胞数が増大することを示す。図19Bは、4℃、25℃、および37℃、多様な濃度の16,16-ジメチルPGEと共に120分間にわたりインキュベートしたヒト全臍帯血細胞についての細胞生存度データを示す。図19Cは、4℃および37℃、多様な濃度の16,16-ジメチルPGEと共に120分間にわたりインキュベートしたヒトCD34+細胞についての細胞生存度データを示す。図19Dは、37℃、dmPGEで処理したCD34細胞におけるCFU-Cコロニー形成の増大を、4℃、DMSOまたはdmPGEで処理したCD34細胞と比較して示す。
図19-2】図19は、表示される温度、10μMの16,16-ジメチルPGEで表示される時間にわたり処理したCD34細胞についての生存度解析および増殖解析を示す。次いで、処理した細胞を、in vivoにおけるCFU-Sアッセイを用いて解析した。図19Aは、37℃におけるインキュベーションにより、造血前駆細胞数が増大することを示す。図19Bは、4℃、25℃、および37℃、多様な濃度の16,16-ジメチルPGEと共に120分間にわたりインキュベートしたヒト全臍帯血細胞についての細胞生存度データを示す。図19Cは、4℃および37℃、多様な濃度の16,16-ジメチルPGEと共に120分間にわたりインキュベートしたヒトCD34+細胞についての細胞生存度データを示す。図19Dは、37℃、dmPGEで処理したCD34細胞におけるCFU-Cコロニー形成の増大を、4℃、DMSOまたはdmPGEで処理したCD34細胞と比較して示す。
図20図20は、in vitroにおける走化性機能アッセイについての実験フローチャートを示す。CD34細胞を、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSO対照で4時間にわたり処理し、次いで、4時間にわたり0~50ng/mlのSDF1αの存在下の遊走ウェルアッセイへと移した。
図21図21は、in vitroにおける走化性機能アッセイについての代表的なデータを示す。CD34細胞を、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSO対照で4時間にわたり処理し、次いで、4時間にわたり0~50ng/mlのSDF1αの存在下の遊走ウェルアッセイへと移した。
図22A図22Aは、4℃、25℃、または37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理したCD34細胞(y軸)についてのゲノム全体の発現解析を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比して示す。図22Bは、細胞における、図22Aで例示される発現解析に由来するシグネチャー遺伝子のサブセットについての平均倍変化(average fold change)を提示する。
図22B図22Aは、4℃、25℃、または37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理したCD34細胞(y軸)についてのゲノム全体の発現解析を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比して示す。図22Bは、細胞における、図22Aで例示される発現解析に由来するシグネチャー遺伝子のサブセットについての平均倍変化(average fold change)を提示する。
図23A図23Aは、37℃、10μMのdmPGEまたはフォルスコリンで120分間にわたり処理したCD34細胞(y軸)についてのゲノム全体の発現解析を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比させて示す。図23B(上パネル)は、dmPGEまたはフォルスコリンで処理した細胞における、図23Aで例示されるシグネチャー遺伝子のサブセットについての平均倍変化を示す。図23B(下パネル)は、37℃、1mMのdbcAMPで120分間にわたり処理するか、または37℃、1mMのdmPGE2で120分間にわたり処理したCD34細胞におけるシグネチャー遺伝子のサブセットについての、Fluidigm qPCRによる平均倍変化を示す。
図23B図23Aは、37℃、10μMのdmPGEまたはフォルスコリンで120分間にわたり処理したCD34細胞(y軸)についてのゲノム全体の発現解析を、ビヒクルで処理した細胞(x軸)と対比させて示す。図23B(上パネル)は、dmPGEまたはフォルスコリンで処理した細胞における、図23Aで例示されるシグネチャー遺伝子のサブセットについての平均倍変化を示す。図23B(下パネル)は、37℃、1mMのdbcAMPで120分間にわたり処理するか、または37℃、1mMのdmPGE2で120分間にわたり処理したCD34細胞におけるシグネチャー遺伝子のサブセットについての、Fluidigm qPCRによる平均倍変化を示す。
図24図24は、本発明の治療用組成物を用いてマウスにおける造血細胞移植を実施するための実験戦略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0090】
A.序説
本発明は、治療用組成物および造血幹細胞移植または前駆細胞移植の有効性を改善し、再生細胞療法の分野における医療従事者が直面する多面的な難題に取り組む方法を提供する。本発明者らは、幹細胞移植において用いられる造血幹細胞および前駆細胞の有効性を増大させる方法を開発するために、プロスタグランジン経路を刺激し、CXCR4の遺伝子発現および細胞表面におけるCXCR4の発現を上方制御する薬剤を含めた、細胞の遺伝子発現を改変する薬剤で処理した造血幹細胞集団および前駆細胞集団についての複数の生物学的パラメータを解析した。移植時における被験体の造血系を再構築するときの細胞集団の有効性は、細胞集団が、in vivoにおいて骨髄にホーミングおよび生着し、自己再生し、増殖する能力などの特性に依存する。本発明は、細胞集団を調節して、このような細胞特性を改善し、結果としてもたらされる、造血再構築における治療的改善をもたらす方法を提供する。
【0091】
特に、本発明は、増強されたヒト造血幹細胞集団または前駆細胞集団を含む治療用組成物、および増強された治療用組成物を作製し、幹細胞移植においてこれを用いる方法を提供する。本発明の治療用組成物は、移植療法において細胞集団を用いる前に、ex vivoにおいて細胞集団の治療的特性を増強するように改変されたヒト造血幹細胞集団または前駆細胞集団を含む。治療用組成物の改変された細胞は、骨髄にホーミングおよび生着する能力の増大を実証し、加えて、改善された細胞生存度および自己再生能を保有する。
【0092】
細胞の生着能およびホーミング能を含めた、治療用組成物の造血幹細胞および前駆細胞の治療的特性は、細胞集団を、ex vivoにおいて、細胞における、CXCR4を含めた、細胞のホーミングおよび生着と関連すると考えられる遺伝子の発現を改変する薬剤で処理した方法を介して増大させる。したがって、本発明の方法は、細胞移植時において最も有益な治療効果を達成するための、治療用組成物に含まれる細胞を予備刺激する(prime)。本発明の方法では、治療用組成物の造血幹細胞または前駆細胞を、ex vivoにおいて、ホーミング、生着、およびin vivoにおける細胞集団の増殖など、細胞の有益な生物学的特性と関連する遺伝子の発現を結果として増大させる、生理学的に適切な温度で、薬剤により処理する。増強された造血幹細胞または前駆細胞を含む治療用組成物は、以下で記載される例において、ホーミング、生着、および増殖の利点を有することが実証される。
【0093】
したがって、治療用組成物は、採取された血液細胞、および、明確のために述べると、臍帯血を含めた血液細胞の生着の潜在能を改善する方法、ならびに移植された造血細胞におけるホーミング、生存度、および自己再生を増大させる方法を提供する。加えて、本発明は、in vivoにおいて造血幹細胞および前駆細胞を増殖させる方法も提供する。本発明で記載される治療用組成物および方法は、臍帯血移植における部分臍帯ユニットまたは単一の臍帯ユニットの使用を可能としうる。
【0094】
移植の前に造血幹細胞を操作するための注意についての最新の基準では、移植時における細胞生存度および生着の成功を最大化するために、4℃における厳密な温度制御が必要とされている。本発明は、細胞生存度の低下および薬剤半減期の短縮と関連すると考えられている条件下で、造血幹細胞および前駆細胞におけるプロスタグランジンによる細胞シグナル伝達経路を刺激すること(37℃で2時間の期間にわたる細胞の操作など)により、予測外にも、細胞生存度に負の影響を及ぼすことなく、細胞が骨髄にホーミングする能力の増大、自己再生の増大、および幹細胞/前駆細胞の生着の潜在能の増大が結果としてもたらされることを実証する。より具体的に述べると、本発明者らは、完全な生物学的効果を達成するには、体温など、生理学的に適切な温度においてPGE活性を及ぼす処理薬剤での、造血幹細胞および前駆細胞の曝露の延長(少なくとも1時間にわたる)が必要とされることを発見した。とりわけ、短い持続時間にわたり、生理学的に適切な温度で造血幹細胞または前駆細胞を処理する結果、cAMPの生成の増大はもたらされるが、細胞のホーミングおよび生着と関連すると考えられている遺伝子の発現の増大はもたらされないことは予測外である。遺伝子発現の増大を達成するには、生理学的に適切な温度でのより長い細胞の処理が必要とされ、これは、細胞のホーミングおよび生着を増大させる所望の生物学的効果を達成するのに必要であることが、本発明により実証される。任意の任意の特定の理論に拘束されることは望まないが、本明細書で記載される方法は、被験体への投与の際に造血幹細胞および前駆細胞の増殖および生着の潜在能の増大を結果としてもたらす。
【0095】
プロスタグランジンE(PGE)は、多様な細胞型における多数の異なるプロスタグランジン受容体に作用し、限定なしに述べると、PI3-キナーゼ(PI3-KまたはPI3K)経路を含めた、多様なシグナル伝達経路を活性化させることにより、その機能を果たす。これらのプロスタグランジン受容体は、Gタンパク質結合型受容体(GPCR)と称する細胞表面7回膜貫通型受容体のサブファミリーを代表する。4つのサブタイプのプロスタグランジンE受容体、PGER1、PGE、PGE、およびPGEが存在する。プロスタグランジンまたはその類似体、例えば、PGEまたはPGEアゴニストなど、適切なリガンドまたはアゴニストにより活性化されると、これらのプロスタグランジン受容体は、多様な下流の生物学的機能を開始する。例えば、造血幹細胞および前駆細胞におけるPGEおよび/またはPGEによる細胞シグナル伝達の刺激/活性化は、部分的に、Gタンパク質アルファ-s(またはGα-s)の活性化およびアデニル酸シクラーゼの刺激と共役している。
【0096】
アデニリルシクラーゼが活性化されると、ATPのcAMPへの転換が触媒される。第2メッセンジャーであるcAMPの濃度を増大させると、環状ヌクレオチド依存性イオンチャネルの活性化がもたらされ、RAPGEF3など、cAMPにより活性化されるタンパク質に交換される可能性がある。cAMP依存性経路を介する、GPCRとその最終的な分子標的との間のシグナル伝達の特異性は、GPCR、アデニリルシクラーゼ、およびエフェクタータンパク質を含めた、多重タンパク質複合体の形成を介して達成されうる。
【0097】
上記で言及した通り、環状AMPは、プロテインキナーゼA(PKA、また、cAMP依存性プロテインキナーゼとしても公知である)を活性化させる。PKAは通常、2つの触媒性ユニットと2つの制御性ユニットとからなる四量体のホロ酵素(C)として不活性であり、制御性ユニットにより触媒性ユニットの触媒性の中心部がブロックされる。環状AMPは、PKAの制御性ユニットにおける特異的な位置に結合し、制御性サブユニットと触媒性サブユニットとを解離させ、これにより、基質タンパク質をリン酸化することを可能とする触媒性ユニットを活性化させる。例えば、プロテインキナーゼCを含めた、いくつかのタイプのプロテインキナーゼはcAMP依存性ではないので、全てのプロテインキナーゼがcAMPに応答するわけではない。
【0098】
PKAの活性サブユニットは、ATPからタンパク質基質の特定のセリン残基またはトレオニン残基へのリン酸イオンの移動を触媒しうる。リン酸化されたプロテインキナーゼは、細胞におけるイオンチャネルに直接作用する場合もあり、他の酵素を活性化させるかまたは阻害する場合もある。PKAはまた、DNAのプロモーター領域に結合する特定のタンパク質もリン酸化し、特異的遺伝子の発現の増大を引き起こす。さらなる下流の効果は、PKAの多様な役割に依存し、これらは、細胞型に基づき異なりうる。例えば、活性化されたPKAは、例えば、グリコーゲンをグルコースへと転換するタンパク質、心臓における筋収縮を促進して、心拍数の増大をもたらすタンパク質、および遺伝子発現を制御する転写因子を含めた、他の多数のタンパク質をリン酸化しうる。
【0099】
したがって、PGEおよびPGER4による細胞シグナル伝達経路の刺激は、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)およびCREBの標的遺伝子、例えば、cAMP応答エレメントモジュレーター(CREM)などの転写因子の活性化を増大させうる(図1を参照されたい)。cAMPを増大させた造血幹細胞および前駆細胞を投与することにより、造血幹細胞/前駆細胞の生存度を維持し、ホーミングを増大させ、自己再生を増大させ、生着の増大および移植された細胞集団のin vivoにおける増殖の増大をもたらすことができる。
【0100】
PGEおよびPGEによる細胞シグナル伝達の刺激/活性化はまた、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)のリン酸化の増大およびB-カテニンのシグナル伝達の増大とも関連し(Hullら、2004年; Regan、2003年)、これらのいずれもがWnt経路の活性化を示す。PGEによるWnt経路の刺激は、造血幹細胞/前駆細胞の増殖、ならびに幹細胞ニッチからのシグナル伝達のほか、細胞自体の内部におけるシグナル伝達も介する自己再生を活発に増強しうる(Northら、447巻(7147号)、Nature、1007~11頁(2007年))。造血幹細胞および前駆細胞におけるWnt経路の活性化はまた、in vivoにおける細胞集団の増殖も増大させうる。
【0101】
PGEによる刺激はまた、PI3K経路も活性化させることが示されており、また、幹細胞のホーミング、増殖、生存、および生着の増大という所望の生物学的効果を達成するのにも重要でありうる。PGEおよびPGEによる、PI3K経路などの細胞シグナル伝達経路の刺激/活性化はまた、幹細胞のホーミングおよび生着に重要な遺伝子、例えば、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)、セレクチン、インテグリンの発現も増大させうる。
【0102】
本発見以前には、EP受容体を、細胞の生存度およびまた処理化合物の安定性を最大化する条件下において被験化合物で完全に飽和させうるであろうという考えのもとに、造血幹細胞および前駆細胞を化合物で処理した。造血幹細胞移植についての最新のケア基準によれば、4℃における処理により、処理した細胞の細胞生存度が改善されるほか、この温度における被験化合物の半減期について予測される延長も、より高い温度、例えば、25℃または37℃、およびより長いインキュベーション時間、例えば、2、3、4時間以上の場合と比較して改善されると考えられていた。
【0103】
任意の特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明は、部分的に、細胞を、ホーミングおよび生着と関連する遺伝子の発現を増大させる薬剤で、高温で長いインキュベーション期間にわたり処理することにより造血幹細胞および前駆細胞の生着、細胞が骨髄にホーミングする能力、および細胞の自己再生を増大させ、細胞生存度は維持しうることを意図する。
【0104】
適切な薬剤には、例えば、プロスタグランジンEならびにcAMP類似体およびcAMPエンハンサーおよび/またはGα-s活性化因子を含めたdmPGE活性を有する薬剤の改善された組成物が含まれる。さらに、本発明は、生理学的に適切な温度(体温または37℃など)のプロスタグランジンEおよびdmPGE活性を有する薬剤を含めたこのような薬剤で長いインキュベーション期間(すなわち、少なくとも1時間)にわたり処理した細胞を投与することにより、細胞の生着が増大するだけでなく、造血幹細胞および前駆細胞集団のin vivoにおける増殖も結果としてもたらされることを実証する。
【0105】
したがって、多様な実施形態では、本発明が、ex vivoにおいて、約37℃の温度で、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である薬剤と接触させたヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む治療用組成物を提供する。本発明はまた、造血再構築のための治療用組成物として用いられる造血幹細胞および前駆細胞を調製する方法であって、ヒト造血幹細胞集団および/または前駆細胞集団を、プロスタグランジン経路を刺激する薬剤など、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である薬剤と、造血幹細胞集団または前駆細胞集団の生着および増殖を最適化する条件下で接触させるステップを含む方法も提供する。
【0106】
本明細書では、「ある(a)」、「ある(an)」、および「その」という冠詞が、その冠詞の文法的目的語のうちの1つまたは1つより多く(すなわち、少なくとも1つの)を指すのに用いられる。例として述べると、「ある要素」とは、1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0107】
選択肢(例えば、「または」)の使用は、選択肢のうちの1つ、両方、またはこれらの任意の組合せを意味すると理解されたい。本明細書で用いられる「包含する」という用語と「含む」という用語とは、同義に用いられる。
【0108】
本明細書で用いられる「約(about)」という用語または「約(approximately)」という用語は、基準の量(quantity)、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量(amount)、重量、または長さに照らして最大で15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%変化する、量(quantity)、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量(amount)、重量、または長さを指す。一実施形態では、用語「約(about)」または「約(approximately)」が、基準の量(quantity)、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量(amount)、重量、または長さについて±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%となる、ある範囲の量(quantity)、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量(amount)、重量、または長さを指す。
【0109】
本明細書を通して、文脈により別段に要求されない限り、「~を含む(comprise)」、「~を含む(comprises)」、および「~を含む(comprising)」という語は、言及されたステップもしくは要素またはステップもしくは要素の群の包含は示唆するが、他の任意のステップもしくは要素またはステップもしくは要素の群の除外は示唆しないことが理解される。「~からなる」とは、「~からなる」という語句に後続するあらゆる語句を包含し、かつ、これに限定されることを意味する。したがって、「~からなる」という語句は、列挙された要素が要求されるかまたは必須であり、他の要素は存在しえないことを示す。「~から本質的になる」とは、この語句の後に列挙された任意の要素を包含し、かつ、列挙された要素についての本開示で特定された活性または作用に干渉または寄与しない他の要素に限定されることを意味する。したがって、「~から本質的になる」という語句は、列挙された要素が要求されるかまたは必須であるが、他の要素は任意選択であり、それらが列挙された要素の活性または作用に影響を及ぼすかどうかに応じて、存在させる場合もあり、存在させない場合もあることを示す。
【0110】
本明細書の全体における「一実施形態」または「ある実施形態」に対する言及は、この実施形態との関連において記載されている特定の特徴(feature)、構造、または特徴(characteristic)が、本発明の少なくとも1つの実施形態に包含されていることを意味する。したがって、本明細書全体の多様な箇所における「一実施形態では」または「ある実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではない。さらに、特定の特徴(feature)、構造、または特徴(characteristic)を、任意の適切な形で1または複数の実施形態において組み合わせることもできる。
【0111】
B.本発明の治療用組成物
本発明は、患者への投与に適する無菌で治療的に許容される溶液中に懸濁させたヒト造血幹細胞集団または前駆細胞集団を含む治療用組成物を提供する。本発明の治療用組成物は、ヒト造血幹細胞集団または前駆細胞集団であって、造血幹細胞または前駆細胞が、ex vivoにおいて細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である1または複数の薬剤と接触しており、細胞が、接触していない幹細胞または前駆細胞と比べたCXCR4の発現の増大を含む遺伝子発現シグネチャーにより特徴づけられる、ヒト造血幹細胞集団または前駆細胞集団を含む。造血幹細胞または前駆細胞は、CXCR4の遺伝子発現レベルおよび細胞表面におけるCXCR4の発現レベルの増大に基づき特徴づけることができる。
【0112】
本発明の治療用組成物では、造血幹細胞または前駆細胞におけるCXCR4の遺伝子発現が、接触していない細胞におけるCXCR4の発現と比較して少なくとも2、3、4、5、10、15、または20倍増大している。
【0113】
本発明の治療用組成物は、遺伝子発現シグネチャーであって、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、およびFos関連抗原2(FOSL2)からなる群より選択される1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、接触していない細胞と比べて増大する遺伝子発現シグネチャーによってもさらに特徴づけることができる。
【0114】
本明細書で用いられる「接触していない」細胞とは、対照薬剤以外の薬剤で処理されていない(例えば、それと共に培養されていない、それと接触させない、またはそれと共にインキュベートされていない)細胞である。DMSO(対照薬剤)と接触させた細胞、または別のビヒクルと接触させた細胞が、接触していない細胞である。
【0115】
本明細書で用いられる「シグネチャー遺伝子」とは、表3に示されるシグネチャー遺伝子のセット中の任意の遺伝子を意味する。例えば、シグネチャー遺伝子には、ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、およびCXCケモカイン受容体4(CXCR4)が含まれる。明確のために述べると、シグネチャー遺伝子は、ハウスキーピング遺伝子を包含しない。
【0116】
シグネチャー遺伝子の発現は、接触していない細胞と比較して2倍以上増大する可能性があり、具体的な実施形態では、少なくとも2、3、4、5、6、10、15、または20倍増大している。一部の実施形態では、1または複数のシグネチャー遺伝子の発現が、本発明の治療用組成物を構成する細胞において増大する。具体的な実施形態では、シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも2つ、3つ、4つ以上の発現が、接触していない細胞と比較して、少なくとも2、3、4、5、6、10、15、または20倍増大している。多様な実施形態では、シグネチャー遺伝子の発現が、接触していない細胞と比較して少なくとも6倍増大している可能性がある。
【0117】
本発明の具体的な実施形態では、CXCR4の遺伝子発現が、少なくとも約4倍増大し、CREMの遺伝子発現が、少なくとも約10倍増大している。
【0118】
治療用組成物を構成するヒト造血幹細胞または前駆細胞はまた、全てのシグネチャー遺伝子の平均倍数変化(average fold change)が少なくとも約2、4、または6倍である遺伝子発現プロファイルにより特徴づけることもできる。一部の実施形態では、全てのシグネチャー遺伝子の平均倍数変化が、少なくとも約4である。一部の実施形態では、全てのシグネチャー遺伝子の平均倍数変化が、少なくとも約6である。一部の実施形態では、シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、または90%の平均倍数変化が、少なくとも6倍である。一部の実施形態では、シグネチャー遺伝子のうちの少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、または90%の平均倍数変化が、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、または10倍である。具体的な実施形態では、治療用組成物を、図14(B)、図15(B)、または図16(B)で示される、全てのシグネチャー遺伝子についての平均倍数変化を有する遺伝子発現プロファイルにより特徴づけることができる。
【0119】
治療用組成物を構成するヒト造血幹細胞または前駆細胞の遺伝子発現シグネチャーは解析することができる、すなわち、細胞を薬剤で処理した後で得ることもでき、または細胞を、処理後、ある期間にわたりインキュベートしてから、細胞の遺伝子発現シグネチャーを解析することもできる。例えば、細胞は、ex vivoにおいて薬剤で処理し、洗浄して薬剤を除去し、さらなる細胞のインキュベーションを伴わずに遺伝子発現を解析することができる。あるいは、一部の実施形態では細胞を薬剤で処理し、洗浄して細胞集団から薬剤を除去し、次いで、細胞を、ex vivoにおいて、ある時間にわたりインキュベートしてから、細胞の遺伝子発現シグネチャーを解析する。
【0120】
一部の実施形態では、細胞を洗浄して薬剤を除去し、次いで、1~6時間にわたりインキュベートしてから、細胞の遺伝子発現シグネチャーを解析する。一部の実施形態では、細胞を洗浄し、次いで、少なくとも約1時間にわたりインキュベートしてから、細胞の遺伝子発現シグネチャーを解析する。一部の実施形態では、細胞を洗浄し、次いで、約2時間にわたりインキュベートしてから、細胞の遺伝子発現シグネチャーを解析する。
【0121】
本明細書で用いられる「遺伝子発現」とは、本発明の治療用組成物における造血幹細胞および前駆細胞、または造血幹細胞集団もしくは前駆細胞集団などの生物学的試料における遺伝子発現の相対的なレベルおよび/または遺伝子の発現パターンを指す。遺伝子の発現は、cDNA、RNA、mRNA、またはこれらの組合せのレベルで測定することができる。「遺伝子発現プロファイル」または「遺伝子発現シグネチャー」とは、同じ試料、すなわち、細胞集団について測定される複数の異なる遺伝子の発現レベルを指す。
【0122】
本明細書では、本発明の治療用組成物を構成する細胞を特徴づける遺伝子の発現を検出するのに当技術分野において利用可能な任意の方法が包含される。本明細書で用いられる「発現を検出する」という用語は、RNA転写物またはその遺伝子の発現産物の量または存在を決定することを意味する。遺伝子の発現を検出する方法、すなわち、遺伝子発現プロファイリングには、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション解析に基づく方法、ポリヌクレオチドの配列決定に基づく方法、免疫組織化学法、およびプロテオミクスベースの方法が含まれる。方法は一般に、目的の遺伝子の発現産物(例えば、mRNA)を検出する。一部の実施形態では、逆転写PCR(RT-PCR)など、PCRベースの方法(Weisら、TIG、8巻:263~64頁、1992年)、およびマイクロアレイなど、アレイベースの方法(Schenaら、Science、270巻:467~70頁、1995年)を用いる。「マイクロアレイ」とは、例えば、担体(substrate)上のポリヌクレオチドプローブなど、ハイブリダイズ可能なアレイエレメントの秩序のある配置を意図する。「プローブ」という用語は、特別に意図された標的の生体分子、例えば、内因性遺伝子によりコードされるかまたはこれに対応するヌクレオチド転写物またはタンパク質に選択的に結合することが可能である任意の分子を指す。プローブは、当業者が合成することもでき、適切な生物学的調製物から誘導することもできる。標識化するために、プローブを特別にデザインすることができる。プローブとして用いうる分子の例には、RNA、DNA、アプタマー、タンパク質、抗体、および有機分子が含まれるがこれらに限定されない。
【0123】
RNA抽出のための一般的な方法は、当技術分野において周知であり、Ausubelら編、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、1987~1999年を含めた分子生物学の標準的な教科書において開示されている。パラフィンで包埋された組織からRNAを抽出するための方法は、例えば、RuppおよびLocker(Lab Invest.、56巻:A67頁、1987年)ならびにDe Andresら(Biotechniques、18巻:42~44頁、1995年)において開示されている。特に、RNAの単離は、製造元の指示書に従い、Qiagen(Valencia、Calif.)など、商業上の製造者からの精製用キット、緩衝液セット、およびプロテアーゼを用いて実施することができる。例えば、培養物中の細胞に由来する全RNAは、Qiagen製のRNeasy mini-columnsを用いて単離することができる。他の市販されるRNA単離キットには、MASTERPURE、Complete
DNA and RNA Purification Kit(Epicentre、Madison、Wis.)、およびParaffin Block RNA Isolation Kit(Ambion、Austin、Tex.)が含まれる。組織試料に由来する全RNAは、例えば、RNA Stat-60(Tel-Test、Friendswood、Tex.)を用いて単離することができる。加えて、多数の組織試料は、例えば、Chomczynski(米国特許第4,843,155号)による単一ステップのRNA単離工程など、当業者に周知の技法を用いて、容易に加工することもできる。
【0124】
単離されたRNAは、PCR解析およびプローブアレイが含まれるがこれらに限定されない、ハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイにおいて用いることができる。RNAレベルを検出する1つの方法は、単離されたRNAを、検出される遺伝子によりコードされるmRNAとハイブリダイズしうる核酸分子(プローブ)と接触させるステップを伴う。核酸プローブは、例えば、全長cDNAの場合もあり、少なくとも7、15、30、60、100、250、または500ヌクレオチドの長さであり、とりわけ、ストリンジェントな条件下で、本発明の内因性遺伝子、または任意の誘導体DNAもしくは誘導体RNAと特異的にハイブリダイズするのに十分であるオリゴヌクレオチドなど、その一部の場合もある。mRNAのプローブとのハイブリダイゼーションは、問題の内因性遺伝子が発現していることを示す。
【0125】
一実施形態では、mRNAを固体表面に固定化し、例えば、単離されたmRNAを、アガロースゲル上で泳動させ、このmRNAを、ゲルからニトロセルロースなどの膜へと転写することにより、プローブと接触させる。代替的な実施形態では、プローブを固体表面に固定化し、mRNAを、例えば、Agilent製の遺伝子チップアレイにおいて、プローブと接触させる。当業者は、公知のmRNA検出方法を、本発明の内因性遺伝子の発現レベルを検出するのに用いるのに容易に適合させることができる。
【0126】
試料における遺伝子発現レベルを決定する代替的な方法は、例えば、RT-PCR(米国特許第4,683,202号)、リガーゼ連鎖反応(Barany、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88巻:189~93頁、1991年)、自家持続配列複製(Guatelliら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、87巻:1874~78頁、1990年)、転写による増幅システム(Kwohら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86巻:1173~77頁、1989年)、Q-Beta Replicase法(Lizardiら、Bio/Technology、6巻:1197頁、1988年)、ローリングサークル複製(米国特許第5,854,033号)、または他の任意の核酸増幅法を介する核酸増幅工程の後で、当業者に周知の技法を用いる、増幅された分子の検出を伴う。これらの検出スキームは、このような分子が極めて少数で存在する場合に核酸分子を検出するのにとりわけ有用である。
【0127】
本発明の具体的な態様では、遺伝子発現を、定量的RT-PCRにより評価する。当技術分野では、多くの異なるPCRプロトコールまたはQPCRプロトコールが公知であり、これらは本明細書の以下でも例示され、先に記載した組成物を用いる、表3で列挙される遺伝子を検出および/または定量化するための使用に直接適用するかまたは適合させることができる。一般に、PCRでは、標的のポリヌクレオチド配列を、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプライマー対を伴う反応により増幅する。プライマー(複数可)は、標的核酸の相補性領域とハイブリダイズし、DNAポリメラーゼが、プライマー(複数可)を伸長させて、標的配列を増幅する。ポリメラーゼベースの核酸増幅産物をもたらすのに十分な条件下では、1つのサイズの核酸断片が、反応産物(増幅産物である標的ポリヌクレオチド配列)の大半を占める。増幅サイクルを繰り返して、単一の標的ポリヌクレオチド配列の濃度を増大させる。反応は、PCRに一般的に用いられる任意のサーマルサイクラーにより実施できる。しかし、リアルタイムの蛍光測定能力を有するサイクラー、例えば、SMARTCYCLER(Cepheid、Sunnyvale、Calif.)、ABI PRISM 7700(Applied
Biosystems、Foster City、Calif.)、ROTOR-GENE(Corbett Research、Sydney、Australia)、LIGHTCYCLER(Roche Diagnostics Corp、Indianapolis、Ind.)、ICYCLER(Biorad Laboratories、Hercules、Calif.)、およびMX4000(Stratagene、La
Jolla、Calif.)が好ましい。
【0128】
一部の状況下では、定量的PCR(QPCR)(また、リアルタイムPCRとも称する)が、定量的測定だけでなく、時間の短縮および汚染の低減をもたらすために好ましい。場合によっては、新鮮な凍結させた組織および専用の実験装置に対する要件のために、完全な遺伝子発現プロファイリング技術の利用可能性は限定されており、臨床状況下におけるこのような技法の日常的な使用は困難となっている。本明細書で用いられる「定量的PCR」(または「リアルタイム QPCR」)とは、それが反応産物を繰り返してサンプリングする必要なしに行われるので、PCR増幅の進行を直接的にモニタリングすることを指す。定量的PCRにおいて、反応産物が生成され、追跡されるのは、シグナルがバックグラウンドレベルを上回って上昇した後であるが、反応がプラトー状態に到達する前であるので、シグナル発生機構(例えば、蛍光)を介して反応産物をモニタリングすることができる。検出可能レベルまたは「閾値」レベルの蛍光を達成するのに必要とされるサイクル数は、PCR工程の開始時における増幅可能な標的の濃度により直接変化し、シグナル強度の尺度により、試料中の標的核酸の量の尺度をリアルタイムでもたらすことを可能としている。
【0129】
本発明の別の実施形態では、発現プロファイリングのためにマイクロアレイを用いる。マイクロアレイは、異なる実験間における再現性のために、特にこの目的に十分に適する。DNAマイクロアレイは、多数の遺伝子の発現レベルを同時に測定する1つの方法を提供する。各アレイは、固体の支持体に結合させた捕捉プローブの再現可能なパターンからなる。標識化されたRNAまたはDNAは、アレイ上の相補的なプローブとハイブリダイズし、次いで、レーザー走査により検出される。アレイ上の各プローブについてのハイブリダイゼーション強度を決定し、相対遺伝子発現レベルを表す定量的な値に変換する。例えば、米国特許第6,040,138号、同第5,800,992号、および同第6,020,135号、同第6,033,860号、および同第6,344,316号を参照されたい。高密度のオリゴヌクレオチドアレイは、試料中の多数のRNAについての遺伝子発現プロファイルを決定するのに特に有用である。
【0130】
マイクロアレイ解析は、Affymetrix GenChip技術、Illumina Bead Array技術、またはAgilentインクジェットマイクロアレイ技術などを用いることにより、製造元のプロトコールに従う市販の装置を介して実施することができる。
【0131】
「正規化」は、試料間の変動を取り除くのに用いることができる。マイクロアレイデータの場合、正規化の工程は、2つの標識化色素の蛍光強度を比較することにより、系統的誤差を除去することを目的とする。色素の偏りは、色素の標識化効率、熱感受性および光感受性のほか、2つのチャネルを走査するためのスキャナーの設定における差違を含めた多様な発生源から生じうる。正規化因子(normalization factor)を計算するのに一般に用いられる一部の方法には、(i)対数目盛による頑健な多重アレイ解析(RMA)などにより、アレイ上の全ての遺伝子を用いる、包括的正規化(global normalization)、(ii)一定に発現されるハウスキーピング遺伝子/不変遺伝子を用いる、ハウスキーピング遺伝子による正規化、および(iii)ハイブリダイゼーション時に添加される既知量の外因性対照遺伝子を用いる、内部対照による正規化(Quackenbush(2002年)、Nat. Genet.、32巻(増刊号)、496~501頁)が含まれる。一実施形態では、本明細書で開示される遺伝子の発現を、対照のハウスキーピング遺伝子に対して、または対数目盛の頑健な多重アレイ解析(RMA)を介して正規化することができる。
【0132】
多様な例示的実施形態では、本発明が、部分的に、移植、例えば、骨髄移植において用いられる細胞集団を含む治療用組成物を提供する。本明細書で用いられる「細胞集団」とは、造血幹細胞および/または前駆細胞を含む不均質な細胞集団または均質な細胞集団を指す。造血幹細胞および/または前駆細胞を含む細胞集団は、骨髄細胞、臍帯血細胞、または動員末梢血細胞の場合もあり、とりわけ、骨髄、動員末梢血、および臍帯血を含めた、任意の適切な供給源から得られた細胞集団の場合もある。「細胞収集物」という用語はまた、細胞集団も指し、一部の実施形態では、「細胞集団」と同義である。しかし、細胞収集物が、任意の特定の細胞集団を指す必要はない。
【0133】
造血幹細胞および/または前駆細胞は、臍帯血、骨髄、末梢血、または他の供給源のいずれから得られたものであれ、所望に応じて血清を伴うかまたは伴わない、任意の適切な市販の培地中またはカスタムで規定される培地中で成長させるか、処理するか、または増殖させることができる(例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Hartshornら、Cell Technology for Cell products、221~224頁; R. Smith編、Springer Netherlands、2007年を参照されたい)。例えば、特定の実施形態では、無血清培地では、無血清培地におけるCD34細胞の成長および増殖に有用であることが示されている、アルブミンおよび/またはトランスフェリンを用いることができる。とりわけまた、Flt-3リガンド、幹細胞因子(SCF)、およびトロンボポエチン(TPO)などのサイトカインも包含されうる。HSCは、バイオリアクターなどの容器内で成長させることもできる(例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Liuら、Journal of Biotechnology、124巻:592~601頁、2006年を参照されたい)。ex vivoにおけるHSCの増殖に適する培地はまた、例えば、リンパ組織の解離から誘導することができ、in vitro、ex vivo、およびin vivoにおけるHSCのならびにそれらの後代の維持、成長、および分化を支持することが示されている、間質細胞(例えば、リンパ網内系間質細胞)などのHSC支持細胞も含みうる。
【0134】
具体的な実施形態では、細胞集団を、被験体に投与する前に、ex vivoまたはin vitroにおいて増殖させない。具体的な実施形態では、増殖させていない細胞集団を得、この細胞集団を、本明細書で示されるプロトコールに従い、ex vivoにおいて処理し、洗浄して処理薬剤を除去し、ex vivoにおいて細胞集団を増殖させることなしに患者に投与することができる。一部の実施形態では、細胞を、臍帯血を含めたドナーから得、そして細胞の処理前もしくは処理後に、または患者に治療用組成物を投与する前の任意の時点において増殖させない。一実施形態では、増殖させていない細胞集団を処理し、集団内の細胞のex vivoにおける任意の実質的な細胞分裂の前に、またはex vivoにおける任意の実質的な細胞分裂に必要とされる時間の前に患者に投与する。他の実施形態では、増殖させていない細胞集団を処理し、集団内の細胞のex vivoにおける任意の実質的な有糸分裂の前に、またはex vivoにおける任意の実質的な有糸分裂に必要とされる時間の前に患者に投与する。一部の実施形態では、増殖させていない細胞集団を処理し、集団内の細胞の倍化時間の前に患者に投与する。一実施形態では、増殖させていない細胞集団を処理し、集団内の細胞の倍化時間の前に患者に投与する。一部の実施形態では、増殖させていない細胞集団を処理し、細胞を処理して6、12、または24時間以内に患者に投与する。他の実施形態では、増殖させていない細胞集団を処理し、細胞を処理して2時間以内に患者に投与する。
【0135】
多様な実施形態では、細胞集団を、ex vivoにおいて薬剤で処理する前に、または患者に投与する前の任意の時点において培養しない。一部の実施形態では、細胞集団を、約24時間未満にわたり培養する。他の実施形態では、細胞集団を、約12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、または2時間未満にわたり培養する。
【0136】
多様な実施形態では、本明細書の別の個所で記載される薬剤で処理され、その後被験体に投与する細胞集団が、全骨髄、臍帯血、動員末梢血、造血幹細胞、造血前駆細胞、ならびに顆粒球(例えば、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、血小板(例えば、巨核芽球、血小板を生成する巨核球、血小板)、および単球(例えば、単球、マクロファージ)を含めた、造血幹細胞および前駆細胞の後代を含めた、不均質な細胞集団である。
【0137】
一実施形態では、治療用組成物が、約100%の造血幹細胞および前駆細胞である細胞集団を含む。一部の実施形態では、治療用組成物における細胞集団が、約0.1%、0.5%、1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、または30%未満の造血幹細胞および前駆細胞である。一部の実施形態では、細胞集団が、約0.1%、0.5%、1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、または30%未満のCD34細胞である。他の実施形態では、細胞集団が、約0.1%~約1%、約1%~約3%、約3%~約5%、約10%~約15%、約15%~20%、約20%~25%、約25%~30%、約30%~35%、約35%~40%、約40%~45%、約45%~50%、約60%~70%、約70%~80%、約80%~90%、約90%~95%、または約95%~約100%の造血幹細胞および前駆細胞である。具体的な実施形態では、細胞集団が、約0.1%~約1%、約1%~約3%、約3%~約5%、約10%~約15%、約15%~20%、約20%~25%、約25%~30%、約30%~35%、約35%~40%、約40%~45%、約45%~50%、約60%~70%、約70%~80%、約80%~90%、約90%~95%、または約95%~約100%のCD34細胞である。
【0138】
本発明の治療用組成物における細胞は、自系/同体(「自己」)の場合もあり、非自系(「非自己」、例えば、同系異種、同系、または異種)の場合もある。本明細書で用いられる「自系」とは、同じ被験体に由来する細胞を指す。本明細書で用いられる「同系異種」とは、比較される細胞とは遺伝子的に異なる、同じ種の細胞を指す。本明細書で用いられる「同系」とは、比較される細胞と遺伝子的に同一である、異なる被験体の細胞を指す。本明細書で用いられる「異種」とは、比較される細胞とは異なる種の細胞を指す。具体的な実施形態では、本発明の細胞が同系異種である。
【0139】
「幹細胞」とは、分化していない細胞であって、(1)長期にわたる自己再生、または元の細胞の少なくとも1つの同一のコピーを生成させる能力、(2)単一の細胞レベルにおける、複数の特化した細胞型への分化、および、場合によって、唯一の特化した細胞型への分化、ならびに(3)in vivoにおける組織の機能的再生が可能な細胞を指す。幹細胞は、それらの発生上の能力により、全能性、多能性(pluripotent)、多分化能(multipotent)、および少能性/単能性と下位分類される。「前駆細胞」もまた、自己再生能およびより成熟した細胞へ分化する能力を有するが、系統(例えば、造血前駆細胞は、血液系統に拘束され、骨髄前駆細胞は、骨髄系統に拘束され、リンパ前駆細胞は、リンパ系統に拘束される)に拘束されるのに対し、幹細胞は、必ずしもそのようには限定されない。「自己再生」とは、変化していない娘細胞をもたらし、したがって、その集団数を補充および維持し、特化した細胞型を生成させる固有の能力(効力)を有する細胞を指す。自己再生は、2つの方法で達成されうる。非対称性の細胞分裂は、親細胞と同一である1つの娘細胞と、親細胞とは異なり、より拘束された前駆細胞またはより分化した細胞である今1つの娘細胞とをもたらす。対称性の細胞分裂は、2つの同一な娘細胞をもたらす。細胞の「増殖(proliferation)」または「増殖(expansion)」とは、対称的に分裂する細胞を指す。
【0140】
造血幹細胞(HSC)は、生体の生存期間にわたり、成熟血液細胞のレパートリー全体を生成させることが可能な、拘束された造血前駆細胞(HPC)をもたらす。「造血幹細胞」または「HSC」という用語は、骨髄系統(例えば、単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)およびリンパ系統(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞)、ならびに当技術分野において公知である他の系統(Fei, R.ら、米国特許第5,635,387号; McGlaveら、米国特許第5,460,964号; Simmons, P.ら、米国特許第5,677,136号;
Tsukamotoら、米国特許第5,750,397号; Schwartzら、米国特許第5,759,793号; DiGuistoら、米国特許第5,681,599号; Tsukamotoら、米国特許第5,716,827号を参照されたい)を含めた、生体の全ての血液細胞型をもたらす、多分化能幹細胞を指す。致死的に照射された動物またはヒトへと移植されると、造血幹細胞は、赤血球プール、好中球-マクロファージプール、巨核球プール、およびリンパ造血細胞プールを再配置させる(repopulate)ことが可能である。
【0141】
HSCは、特定の表現型マーカーまたは遺伝子型マーカーに従い同定することができる。例えば、HSCは、それらのサイズが小型であること、系統(lin)マーカーが欠如していること、ロダミン123(また、rholoとも呼ばれる、ロダミンDULL)またはHoechst 33342などの生体色素によってあまり染色されないこと(サイドポピュレーション(side population))、およびそれらの表面における多様な抗原性マーカー(そのうちの多くが分化系列のクラスター(例えば、CD34、CD38、CD90、CD133、CD105、CD45、およびc-kit、幹細胞因子の受容体)に属する)が存在することにより同定することができる。HSCは、主に、系統への拘束を検出するのに用いられることが典型的であるマーカーについて陰性であり、したがって、Lin(-)細胞と称することが多い。大半のヒトHSCは、CD34、CD59、Thy1/CD90、CD38lo/-、C-kit/CD117、およびLin(-)として特徴づけることができる。しかし、あるHSCは、CD34/CD38であるので、全ての幹細胞がこれらの組合せにより網羅されるわけではない。また、一部の研究は、最初期の幹細胞が、細胞表面におけるc-kitを欠く場合があることを示唆する。ヒトHSCでは、CD34HSCおよびCD34HSCの両方がCD133であることが示されているので、CD133が、初期マーカーを表しうる。当技術分野では、CD34およびLin(-)細胞がまた、造血前駆細胞も包含することが公知である。
【0142】
本発明の方法において用いられる造血幹細胞および前駆細胞の適切な供給源には、造血起源の細胞を含有する体内の臓器から単離されるかまたは得られる細胞が含まれるがこれらに限定されない。「単離される」とは、その元の環境から取り出される材料を意味する。例えば、細胞が、通常はその天然状態においてそれに随伴する一部または全ての構成要素から分離される場合に、その細胞は単離される。例えば、本明細書で用いられる「単離された細胞集団」、「単離された細胞の供給源」、または「単離された造血幹細胞および前駆細胞」などは、in vitroまたはex vivoにおいて、1または複数の細胞を、それらの天然の細胞環境から、かつ、組織または臓器の他の構成要素との関連から分離すること、すなわち、それがin vivoにおける物質と著明に関連するわけではないことを指す。
【0143】
本発明の方法において用いられる造血幹細胞および前駆細胞からは、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、顆粒球、赤血球細胞などの成熟造血細胞、および骨髄吸引物、臍帯血、または動員末梢血(動員された白血球搬出産物)に由来するそれらの拘束された前駆細胞を枯渇させることができる。成熟した、系統に拘束された細胞は、免疫枯渇により、例えば、固体担体を、いわゆる「系統」抗原:CD2、CD3、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD19、CD56、CD123、およびCD235aのパネルに結合する抗体で標識化することにより枯渇させる。CD34抗原に結合する抗体で標識した担体を用いて未分化の造血幹細胞および前駆細胞を単離する後続のステップを実施して、細胞集団をさらに精製することができる。造血幹細胞および前駆細胞を、多様な細胞供給源から精製するためのキットが市販されており、具体的な実施形態では、これらのキットが、本発明の方法と共に用いるのに適する。造血幹細胞および前駆細胞を精製するための例示的な市販のキットには、Lineage(Lin)Depletion Kit(Miltenyi Biotec)、CD34 enrichment kit(Miltenyi Biotec)、RosettaSep(Stem Cell Technologies)が含まれるがこれらに限定されない。
【0144】
一部の実施形態では、本発明の治療用組成物を構成する細胞集団が、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の間葉系幹細胞を含む。具体的な実施形態では、細胞集団が、約10%以下の間葉系幹細胞を含む。間葉系幹細胞(MSC)とは、骨芽細胞、筋細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞を含めた系統へと容易に分化しうる多分化能幹細胞である(Pittengerら、Science、284巻、143頁(1999年); Haynesworthら、Bone、13巻、69頁(1992年); Prockop、Science、276巻、71頁(1997年))。
【0145】
他の実施形態では、本発明の治療用組成物を構成する細胞集団が、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の内皮前駆細胞を含む。他の実施形態では、細胞集団が、約10%未満の内皮前駆細胞を含む。本明細書で用いられる「内皮前駆細胞」とは、血管内皮細胞へと分化する能力を有する多分化能細胞または単能性細胞を指す。
【0146】
より具体的な実施形態では、細胞集団が、約10%以下の間葉系幹細胞または内皮前駆細胞を含む。
【0147】
ドナーから得られるかまたは別の形で提供される細胞集団は、間葉系幹細胞および/または内皮前駆細胞を実質的に含まない場合があり、具体的な実施形態では、約10%未満の間葉系幹細胞および約10%未満の内皮前駆細胞を含む場合がある。代替的に、当技術分野において公知の方法を用いて、例えば、免疫磁気選択技術(immunomagnetic selection technique)、蛍光活性化細胞分取、またはこれらの組合せを用いて、間葉系幹細胞および/または内皮前駆細胞を枯渇させることもできる。枯渇法は、本明細書で記載される細胞表面マーカーのうちの少なくとも1つに特異的な少なくとも1つの抗体の使用をさらに含みうる。
【0148】
一部の実施形態では、細胞集団から、CD14細胞表面マーカーについて陽性であり、かつ、CD45について陰性である(CD14+/CD45-)細胞、および/またはVWF(フォンウィレブランド因子)について陽性である(VWF+)細胞を含めた、内皮前駆細胞を枯渇させる。他の実施形態では、細胞集団から、CD73および/またはCD140B細胞表面マーカーについて陽性である細胞を枯渇させる。本発明の具体的な実施形態では、細胞集団が、細胞表面マーカーのCD34について陽性である細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満の、CD73、CD140B、CD14、およびVWFからなる群より選択される細胞表面マーカーについて陽性である細胞を含む。
【0149】
具体的な実施形態では、本発明の治療用組成物を構成する細胞集団が、CD34細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のCD14/CD45細胞を含む。本発明の他の実施形態では、細胞集団が、CD34細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のVWF細胞を含む。本発明の他の実施形態では 、細胞集団が、CD34細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のCD140B細胞を含む。
【0150】
より具体的な実施形態では、細胞集団が、CD34造血幹細胞またはCD34前駆細胞を含み、約30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満のCD14/CD45細胞、VWF細胞、CD73細胞、およびCD140B細胞を含む。一部の実施形態では、細胞集団が、細胞表面マーカーのCD34について陽性であり、CD14、VWF、CD73、およびCD140Bからなる群より選択される少なくとも1つの細胞表面マーカーについて陰性である。他の実施形態では、細胞集団が、細胞表面マーカーのCD34について陽性であり、細胞表面マーカーであるCD14、VWF、CD73、およびCD140Bについて陰性である。
【0151】
造血幹細胞および前駆細胞は、成体の分画されていない骨髄または分画された骨髄から得ることもでき、これらから単離することもでき、これらには大腿骨、寛骨、肋骨、胸骨、および他の骨が含まれる。造血幹細胞および前駆細胞は、注射針およびシリンジを用いて寛骨から取り出すことにより、直接得るかまたは単離することもでき、しばしば、細胞が骨髄コンパートメントから放出または動員されるように誘導する、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などのサイトカインによる前処理の後で、血液から得るかまたは単離することもできる。造血幹細胞および前駆細胞の他の供給源には、臍帯血、胎盤血(placental blood)、および動員末梢血が含まれる。実験目的では、動物の胎仔肝臓、胎仔脾臓、腎臓髄質(kidney marrow)、およびAGM(Aorta-gonad-mesonephros)もまた、造血幹細胞および前駆細胞の有用な供給源である。
【0152】
具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、造血源、例えば、骨髄細胞、臍帯血、または動員末梢血細胞から採取する。造血幹細胞および前駆細胞を「採取する」とは、マトリックスからの細胞の脱離または分離と定義される。これは、酵素的方法、非酵素的方法、遠心分離法、電気的方法、もしくはサイズベースの方法など、多数の方法を用いて達成することもでき、好ましくは、培地(例えば、細胞がインキュベートされる培地)を用いて細胞をフラッシングすることにより達成することもできる。具体的な実施形態では、移植に十分な量の細胞を採取することが、ドナーにおいて幹細胞および前駆細胞を動員するステップを必要としうる。
【0153】
「造血幹細胞の動員」とは、幹細胞移植の前の白血球搬出を目的とする、幹細胞の骨髄から末梢血循環への放出を指す。動員を刺激するために、造血性増殖因子、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)または化学療法剤を用いることが多い。幹細胞動員薬が市販されており、これをG-CSFと組み合わせて用いて、被験体への移植に十分な量の造血幹細胞および前駆細胞を動員することができる。例えば、移植に十分な数の造血細胞を採取するために、G-CSFおよびMozobil(商標)(Genzyme Corporation)をドナーに投与することができる。
【0154】
ドナーから採取される幹細胞数、被験体に戻して移植するのに利用可能な幹細胞数を増大させることにより、被験体の転帰を顕著に改善し、これにより、生着までの時間を短縮することを可能とし、その結果、被験体が有する好中球および血小板が不十分となる時間を短縮し、このために、感染、出血、または他の合併症を防止することができる。当業者には、造血幹細胞および前駆細胞を動員する他の方法が明らかであろう。
【0155】
具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を、臍帯血から得る。臍帯血は、当技術分野において公知の技法(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,147,626号および同第7,131,958号を参照されたい)に従い採取することができる。
【0156】
一実施形態では、治療用組成物および本発明の方法において用いられる造血幹細胞および前駆細胞を、多能性幹細胞の供給源、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)および胚性幹細胞(ESC)から得ることができる。本明細書で用いられる用語「人工多能性幹細胞」または「iPSC」とは、多能性状態へと再プログラム化された非多能性細胞を指す。被験体の細胞を多能性状態へと再プログラム化したら、細胞を、造血幹細胞または前駆細胞など、所望の細胞型へとプログラム化することができる。本明細書で用いられる「再プログラム化する」という用語は、細胞がより分化していない状態を指向する能力を増大させる方法を指す。本明細書で用いられる「プログラム化する」とは、細胞のこの能力を減少させるか、または細胞をより分化した状態へと分化させる方法を指す。
【0157】
多様な実施形態では、本発明が、治療用組成物の、ヒト患者、または療法を必要とする被験体への投与を意図する。治療用組成物に含有され、患者に投与される造血幹細胞または前駆細胞の量は、細胞の供給源、個体の疾患状態(disease state)、年齢、性別、および体重、ならびに造血幹細胞および前駆細胞が個体において所望の応答を誘発する能力と共に変化する。
【0158】
一実施形態では、被験体に投与する治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞(例えば、CD34細胞、Lin(-))の量が、部分的な臍帯血もしくは単一の臍帯血における造血幹細胞もしくは前駆細胞の量、または少なくとも0.1×10個の細胞、少なくとも0.5×10個の細胞、少なくとも1×10個の細胞、少なくとも5×10個の細胞、少なくとも10×10個の細胞、少なくとも0.5×10個の細胞、少なくとも0.75×10個の細胞、少なくとも1×10個の細胞、少なくとも1.25×10個の細胞、少なくとも1.5×10個の細胞、少なくとも1.75×10個の細胞、少なくとも2×10個の細胞、少なくとも2.5×10個の細胞、少なくとも3×10個の細胞、少なくとも4×10個の細胞、少なくとも5×10個の細胞、少なくとも10×10個の細胞、少なくとも15×10個の細胞、少なくとも20×10個の細胞、少なくとも25×10個の細胞、もしくは少なくとも30×10個の細胞である。
【0159】
具体的な実施形態では、治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞(例えば、CD34細胞、Lin(-))の量が、部分的な臍帯血もしくは単一の臍帯血における造血幹細胞もしくは前駆細胞の量、または約0.1×10個の細胞~約10×10個の細胞、約0.5×10個の細胞~約5×10個の細胞、約1×10個の細胞~約3×10個の細胞、約1.5×10個の細胞~約2.5×10個の細胞、もしくは約2×10個の細胞~約2.5×10個の細胞である。
【0160】
具体的な実施形態では、治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞の量が、部分的な臍帯血もしくは単一の臍帯血における造血幹細胞もしくは前駆細胞の量、または約1×10個の細胞~約3×10個の細胞、約1.0×10個の細胞~約5×10個の細胞、約1.0×10個の細胞~約10×10個の細胞、約10×10個の細胞~約20×10個の細胞、約10×10個の細胞~約30×10個の細胞、もしくは約20×10個の細胞~約30×10個の細胞である。
【0161】
別の実施形態では、治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞の量が、部分的な臍帯血もしくは単一の臍帯血における造血幹細胞もしくは前駆細胞の量、または約1×10個の細胞~約30×10個の細胞; 約1.0×10個の細胞~約20×10個の細胞、約1.0×10個の細胞~約10×10個の細胞、約2.0×10個の細胞~約30×10個の細胞、約2.0×10個の細胞~約20×10個の細胞、もしくは約2.0×10個の細胞~約10×10個の細胞である。
【0162】
具体的な実施形態では、治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞の量が、約1×10個の造血幹細胞または前駆細胞、約2×10個の細胞、約5×10個の細胞、約7×10個の細胞、約10×10個の細胞、約15×10個の細胞、約17×10個の細胞、約20×10個の細胞、約25×10個の細胞、または約30×10個の細胞である。
【0163】
一実施形態では、被験体に投与する、治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞の量が、部分的な臍帯血もしくは単一の臍帯血における造血幹細胞もしくは前駆細胞の量、または体重1kg当たり少なくとも0.1×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも0.5×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも1×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも5×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも10×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも0.5×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも0.75×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも1×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも1.25×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも1.5×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも1.75×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも2×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも2.5×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも3×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも4×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも5×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも10×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも15×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも20×10個の細胞、体重1kg当たり少なくとも25×10個の細胞、もしくは体重1kg当たり少なくとも30×10個の細胞である。
【0164】
任意の特定の理論に拘束されることは望まないが、本発明は、部分的に、本方法の利点のうちの1つが、本発明の治療用組成物における、増強された造血幹細胞および前駆細胞は、対照の処理した細胞、および、例えば、4℃において薬剤で処理した細胞と比較して、生着の潜在能を増大させ、ホーミングを改善し、in vivoにおける増殖能を増大させているために、移植において用いる造血幹細胞および前駆細胞を少なくし得ることであることを意図する。
【0165】
C.本発明の方法
本発明者らは、幹細胞移植において用いられる造血幹細胞および前駆細胞の有効性を増大させるために、プロスタグランジン経路を刺激し、CXCR4の遺伝子発現および細胞表面におけるCXCR4の発現を上方制御する薬剤を含めた、細胞の遺伝子発現を改変する薬剤で処理した造血幹細胞集団および前駆細胞集団についての複数の生物学的パラメータを解析した。移植時における被験体の造血系を再構築するときの細胞集団の有効性は、細胞集団が、in vivoにおいて骨髄にホーミングおよび生着し、自己再生し、増殖する能力などの特性に依存する。本発明は、細胞集団を調節して、このような細胞特性を改善し、結果としてもたらされる、造血再構築における治療的改善をもたらす方法を提供する。
【0166】
「生着の潜在能」とは、細胞が生着する能力を指す。具体的な実施形態では、CD34細胞、Lin(-)細胞など、造血幹細胞または前駆細胞の生着の潜在能を、例えば、PGE/R細胞シグナル伝達経路の活性、細胞におけるホーミングまたは生着、細胞生存度、および細胞の自己再生能と関連する遺伝子の発現を測定することにより、決定することができる。当然ながら、当業者は、また、造血幹細胞または前駆細胞における生着の潜在能の増大も示す、他の適切なアッセイについても理解するであろう。本明細書で用いられる用語「生着する」とは、細胞が組織などの位置へと組み込まれ、ある時間にわたり、特定の位置に残存する能力、例えば、造血幹細胞または前駆細胞が骨髄に組み込まれ、残存する能力を指す。「ホーミング」とは、造血幹細胞または前駆細胞が局在化する能力、すなわち、移植された幹細胞の骨髄への局在化など、特定の領域または組織に移動する能力を指す。
【0167】
多様な実施形態では、本発明が、プロスタグランジン経路、例えば、PGE/R細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤を含めた、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である1または複数の薬剤と接触させたヒト造血幹細胞または前駆細胞を含む治療用組成物を提供する。処理した細胞の治療用組成物は、例えば、in vivoにおける細胞集団のホーミング、生着、および増殖の増大など、幹細胞移植において既に用いられている細胞を凌駕する多くの利点をもたらす。本明細書で用いられる「薬剤」とは、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である薬剤を指す。このような薬剤には、例えば、しかし限定なしに述べると、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤、限定なしに述べると、本明細書の別の個所で記載される、PGE類似体、cAMP類似体もしくはcAMP活性化因子、および/またはGα-s活性化因子を含めた、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤が含まれる。具体的な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、任意に組み合わされた1つ、2つ、3つ、4つ、5つ以上の薬剤と、同時的または逐次的に接触させることができる。
【0168】
PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤など、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である薬剤と、生着および/または生着の潜在能および/または増殖を増大させるのに十分な条件下で接触させたヒト造血幹細胞または前駆細胞は、生化学的アッセイにより決定される、細胞内のcAMPのシグナル伝達レベル、例えば、CREBのリン酸化レベルの増大により、遺伝子発現アッセイ、例えば、マイクロアレイにより決定される、PGE/R4細胞シグナル伝達経路に関与する遺伝子(、例えば、CREM)、および造血幹細胞および前駆細胞のホーミングおよび生着を増大させる遺伝子(例えば、CXCR4遺伝子)の上方制御を示す遺伝子発現シグネチャーにより、細胞生存度アッセイ、例えば、7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)染色により決定される、造血幹細胞生存度および前駆細胞生存度において測定可能な減少がないこと、および/または、例えば、in vitroにおけるコロニー形成単位(CFU-C)アッセイにより決定される、造血幹細胞の自己再生能の増大など、複数で多様にわたる方法により特徴づけることができる。
【0169】
一実施形態では、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤など、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である薬剤と、生着および/または生着の潜在能および/または増殖を増大させるのに十分な条件下で接触させた造血幹細胞または前駆細胞は、接触させた(処理した)細胞の遺伝子発現シグネチャーを、ビヒクルで処理した細胞、または4℃において薬剤で処理した細胞と比較して検討することにより同定することができる。
【0170】
具体的な実施形態では、生着および/もしくは生着の潜在能を増大させ、かつ/またはin vivoにおける増殖を増大させた、処理した造血幹細胞または前駆細胞が、以下の遺伝子:ヒアルロナンシンターゼ1(HAS1)、GTP結合タンパク質GEM(GEM)、二重特異性プロテインホスファターゼ4(DUSP4)、アンフィレグリン(AREG)、核内受容体関連1タンパク質(NR4A2)、レニン(REN)、cAMP応答性エレメントモジュレーター(CREM)、I型コラーゲンアルファ1(COL1A1)、Fos関連抗原2(FOSL2)、およびCXCケモカイン受容体4(CXCR4)のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または全ての発現を、ビヒクルで処理した細胞、または4℃において薬剤で処理した細胞と比較して増大させている。本発明の特定の実施形態では、CXCR4が、治療用組成物における造血幹細胞または前駆細胞において、処理されていない細胞におけるCXCR4の発現レベルと比較して、少なくとも4倍上方制御される。
【0171】
前臨床研究に由来する観察とは対照的に、本発明者らは、プロスタグランジン経路を刺激する薬剤と、本明細書で記載される特定の条件下で接触させた造血幹細胞および前駆細胞が、細胞の増殖および生着の潜在能を増大させることを発見した。これらの条件は、プロスタグランジン経路を刺激する薬剤による処理の、幹細胞のホーミング、生存、増殖、および生着を含めた所望の生物学的応答を最適化する。
【0172】
したがって、本発明者らは、造血幹細胞および前駆細胞の生存度を低下させ、dmPGEの半減期を短縮すると考えられている条件が、細胞生存度を保持する、骨髄へのホーミングおよび生着を増大させ(例えば、CXCR4発現の増大)、細胞の自己再生能を増大させるために、予測外にも、生着および/またはin vivoにおける増殖の潜在能の増大を示す造血幹細胞または前駆細胞を結果としてもたらすことを発見した。
【0173】
したがって、本発明は、骨髄移植、末梢血移植、および臍帯血移植を、部分的には、造血幹細胞集団または前駆細胞集団を、dmPGEなど、PGE/R細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤を含めた、細胞におけるCXCR4の発現を上方制御する、本明細書で記載される薬剤で、造血幹細胞および前駆細胞の生着、またはin vivoにおける造血幹細胞および前駆細胞の増殖を増大させるのに好ましいとは予測されていない条件下において処理することにより実施するための新規の方法を意図する。
【0174】
本明細書で用いられる「十分な条件」または「十分な条件下で」という用語は、移植材料、例えば、骨髄細胞、末梢血細胞、もしくは臍帯血細胞、ならびに/または造血幹細胞および/もしくは前駆細胞を含む他の細胞集団、ならびに/または濃縮もしくは選択された造血幹細胞集団および前駆細胞集団の供給源を、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤で処理するためのインキュベーション条件を指す。一実施形態では、条件が、被験体に投与する造血幹細胞および前駆細胞の生着を増大させるのに十分な条件である。一実施形態では、この条件は、被験体に投与する造血幹細胞または前駆細胞の増殖を増大させるのに十分なものである。別の実施形態では、条件が、被験体に投与する造血幹細胞集団または前駆細胞集団の生着および増殖を増大させるのに十分である。インキュベーション条件には、細胞の供給源、薬剤の濃度、細胞と薬剤とのインキュベーションの持続時間、およびインキュベーションの温度が含まれるがこれらに限定されない。具体的な実施形態では、薬剤が、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤である。一実施形態では、薬剤が、16,16-ジメチルPGEである。
【0175】
多様な実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞の生着および/または増殖を増大させるのに十分な条件には:約22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、および39℃の温度が含まれるがこれらに限定されない、約39℃の温度範囲(ほぼ室温~ほぼ体温)など、生理学的に適切な温度;約100nM、約500nM、約1μM、約10μM、約20μM、約30μM、約40μM、約50μM、約60μM、約70μM、約80μM、約90μM、約100μM、約110μM、もしくは約120μM、または他の任意の中間の濃度の16,16-ジメチルPGE(例えば、0.1μM、1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM)が含まれるがこれらに限定されない、約10nM~約120μMの16,16-ジメチルPGEの最終濃度において;ならびに約60分間、約70分間、約80分間、約90分間、約100分間、約110分間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約3.5時間、もしくは約4時間の持続時間、またはインキュベーションの他の任意の中間の持続時間(例えば、111分間、112分間、113分間、114分間、115分間、116分間、117分間、118分間、119分間)にわたるインキュベーションが含まれるがこれらに限定されない、約60分間~約4時間にわたるインキュベーションが含まれる。
【0176】
本明細書で用いられる「約(about)」または「約(approximately)」という用語は、基準の濃度、温度、持続時間、量(quantity)、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量(amount)、重量、または長さに対して、最大で30、25、20、25、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%変化する濃度、温度、持続時間、量(quantity)、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量(amount)、重量、または長さを意味する。例えば、好ましい実施形態では、この用語が、ほぼ特定の量±10%を中心とする量の範囲を指す、例えば、約37℃という温度が、33℃~41℃の温度範囲を指す。別の好ましい実施形態では、この用語が、ほぼ特定の量±5%を中心とする量の範囲を指す。別の好ましい実施形態では、この用語が、ほぼ特定の量±1%を中心とする量の範囲を指す。
【0177】
具体的な実施形態では、造血幹細胞および前駆細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な条件には、約35℃~約39℃の温度範囲、約10μM~約25μMの16,16-ジメチルPGEの最終濃度におけるインキュベーション、および約1時間~約4時間にわたる、約2時間~約3時間にわたる、約2時間~約4時間にわたる、または約3時間~約4時間にわたるインキュベーションが含まれる。
【0178】
別の実施形態では、造血幹細胞または前駆細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な条件には、約37℃(ほぼ体温)の温度、約10μM以上の16,16-ジメチルPGEの最終濃度におけるインキュベーション、および約2時間にわたるインキュベーションが含まれる。
【0179】
別の実施形態では、造血幹細胞もしくは前駆細胞を含むヒト臍帯血、骨髄細胞、もしくは動員末梢血細胞、またはLin(-)CD34、造血幹細胞もしくは前駆細胞の精製された集団を、120分間以上にわたり、37℃の温度で、最終濃度を10μMとする16,16-dmPGE(dmPGE)と接触させることにより、造血幹細胞または前駆細胞の、被験体の骨髄における生着の潜在能を増大させる。接触させた細胞は、細胞生存度の統計学的に有意な低下を示さず、造血幹細胞または前駆細胞のホーミングおよび生着ならびに自己再生能と関連する遺伝子発現の統計学的に有意な増大を示す。
【0180】
別の実施形態では、造血幹細胞もしくは前駆細胞を含むヒト臍帯血、骨髄細胞、もしくは動員末梢血細胞、またはLin(-)CD34、造血幹細胞もしくは前駆細胞の精製された集団を、120分間以上にわたり、37℃の温度で、最終濃度を10μMとする16,16-dmPGE(dmPGE)と接触させることにより、被験体に投与する造血幹細胞集団または前駆細胞集団のin vivoにおける増殖を増大させる。
【0181】
多様な実施形態では、本発明が、部分的に、造血幹細胞移植および前駆細胞移植のための細胞集団を取得および調製するための方法であって、細胞集団を、細胞の生着の潜在能および/または生着を増大させるのに十分な条件下で、PGEおよび/またはPGE細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤を含めた、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる1または複数の薬剤と接触させるステップを含む方法を提供する。
【0182】
具体的な実施形態では、本発明が、部分的に、被験体における造血幹細胞および前駆細胞の量を増大させるための細胞集団を取得および調製するための方法であって、細胞集団を、in vivoにおける細胞集団の増殖を増大させるのに十分な条件下で、PGEおよび/またはPGE細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤を含めた、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる1または複数の薬剤と接触させるステップを含む方法を提供する。
【0183】
他の多様な実施形態では、本発明が、部分的に、被験体における造血幹細胞および前駆細胞の生着を増大させる方法であって、CD34は発現するがLinは発現しない造血細胞(例えば、Lin(-)CD34細胞)を含む細胞集団を、プロスタグランジンE(PGE)またはdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、細胞集団を被験体に投与するステップとを含む方法を提供する。細胞は、本明細書の別の個所で記載される、被験体における接触させた造血幹細胞および前駆細胞の生着を増大させるのに十分な条件下で薬剤と接触させる。
【0184】
特定の実施形態では、本発明が、部分的に、in vivoの被験体における造血幹細胞および前駆細胞集団を増殖させる方法であって、CD34は発現するがLinは発現しない造血細胞(例えば、Lin(-)CD34細胞)を含む細胞集団を、プロスタグランジンE(PGE)またはdmPGE活性を有する薬剤からなる群より選択される1または複数の薬剤と接触させるステップと、細胞集団を被験体に投与するステップとを含む方法を提供する。細胞は、本明細書の別の個所で記載される、被験体における、接触させた造血幹細胞集団および前駆細胞集団を増殖させるのに十分な条件下で薬剤と接触させる。
【0185】
本発明は、部分的に、それを必要とする被験体(例えば、ヒト)における幹細胞の生着を増大させる方法であって、造血幹細胞および/または前駆細胞(例えば、骨髄細胞、末梢血細胞、および/または臍帯血細胞)を含む細胞集団を、PGEまたはその類似体、例えば、16,16-ジメチルPGE(dmPGE)またはdmPGE活性を有する薬剤と接触させるステップと、細胞を被験体に投与するステップとを含む方法を意図する。一実施形態では、造血幹細胞および/または前駆細胞を含む細胞の供給源を、dmPGEなどのPGE類似体と接触させる。多様な実施形態では、造血幹細胞および/または前駆細胞を含む細胞の供給源を、dmPGEなど、dmPGE活性を有する薬剤、cAMP類似体もしくはcAMPエンハンサー、またはGα-s活性化因子と接触させる。
【0186】
特定の実施形態では、造血幹細胞および/または前駆細胞を含む細胞集団を、dmPGEなどのPGE類似体およびdmPGE活性を有する薬剤、例えば、cAMP類似体もしくはcAMPエンハンサー、またはGα-s活性化因子と接触させる。別の実施形態では、造血幹細胞および/または前駆細胞を含む細胞の供給源を、1または複数のPGE類似体、1もしくは複数のcAMP類似体もしくはcAMPエンハンサー、および/または1もしくは複数のGα-s活性化因子と接触させる。
【0187】
他の多様な実施形態では、本発明が、それを必要とする被験体を処置する方法であって、必要のある被験体を同定するステップと、プロスタグランジンE(PGE)、dmPGE活性を有する薬剤、例えば、cAMP類似体またはcAMPエンハンサー、およびGα-s活性化因子からなる群より選択される1または複数の薬剤と、被験体における、接触させた造血幹細胞または前駆細胞の生着またはin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な条件下で接触させた造血幹細胞および/または前駆細胞を含む細胞集団を、被験体に投与し、これにより、必要のある被験体を処置するステップとを含む方法を提供する。
【0188】
「増強する」または「促進する」または「増大させる」または「活性化させる」とは、一般に、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤が、細胞において、ビヒクルまたは対照の分子/組成物のいずれかにより引き起こされる応答と比較して、より大きな生理学的応答(すなわち、下流における効果)、例えば、幹細胞および/または前駆細胞の生着/生着の潜在能の増大、ならびにin vivoにおける幹細胞の増殖の増大をもたらすかまたは引き起こす能力を指す。測定可能な生理学的応答には、当技術分野における理解および本明細書における記載から明らかな応答の中でも、造血幹細胞および/または前駆細胞の生着、生存度、ホーミング、自己再生、および/または増殖の増大が含まれうる。一実施形態では、増大が、CREBリン酸化の増大、CREM発現の増大、およびCXCR4の増大が含まれるがこれらに限定されない、PGEおよび/またはPGE細胞シグナル伝達経路を介するシグナル伝達の増大の結果としての遺伝子発現の増大でありうる。造血幹細胞および/または前駆細胞の生着、生存度、ホーミング、自己再生および/またはin vivoにおける増殖の増大はまた、とりわけ、遺伝子発現、CFU-Cアッセイ、CFU-Sアッセイ、CAFCアッセイ、および細胞表面タンパク質の発現など、当技術分野において公知の方法を用いて確認することもできる。「増大された」または「増強された」量とは、典型的には、「統計学的に有意な」量であり、ビヒクル(薬剤の非存在)または対照の組成物によりもたらされる応答の1.1、1.2、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30倍以上(例えば、500、1000倍)(全ての整数ならびにそれらの間および1を超える全ての小数、例えば、1.5、1.6、1.7.1.8などを含めた)である増大を包含しうる。例えば、具体的な実施形態では、本発明の方法が、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、約37℃でdmPGEと接触させるステップを含む。これらの細胞は、約4℃で接触させた細胞と比較して、生着の潜在能および増殖を増大させている。
【0189】
「減少させる」または「低下させる」または「低める」または「低減する」または「減らす」とは、一般に、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤が、細胞において、ビヒクルまたは対照の分子/組成物のいずれかにより引き起こされる応答と比較して、より小さな生理学的応答(すなわち、下流における効果)、例えば、アポトーシスの減少をもたらすかまたは引き起こす能力を指す。一実施形態では、減少が、通常は細胞生存度の低減と関連する、遺伝子発現の減少または細胞シグナル伝達の減少でありうる。「減少」または「低減された」量とは、典型的には、「統計学的に有意な」 量であり、ビヒクル(薬剤の非存在)または対照の組成物によりもたらされる応答の1/1.1、1/1.2、1/1.5、1/2、1/3、1/4、1/5、1/6、1/7、1/8、1/9、1/10、1/15、1/20、1/30以下(例えば、1/500、1/1000)(全ての整数ならびにそれらの間および1を超える全ての小数、例えば、1/1.5、1/1.6、1/1.7.1/1.8などを含めた)である減少を包含しうる。例えば、具体的な実施形態では、本発明の方法が、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、約37℃でdmPGEと接触させるステップを含む。接触させた細胞は、約4℃でdmPGEと接触させた細胞と比較して、統計学的に有意な細胞生存度の低下を示さない。
【0190】
「維持する」または「保持する」または「維持」または「変化なし」または「実質的に変化なし」または「実質的に減少なし」とは、一般に、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤が、細胞において、ビヒクルまたは対照の分子/組成物のいずれかにより引き起こされる応答(基準の応答)と比較して、同等の生理学的応答(すなわち、下流における効果)をもたらすかまたは引き起こす能力を指す。同等の応答とは、基準の応答と有意に異なるかまたは測定可能に異なることがない応答である(図13Aを参照されたい)。一実施形態では、造血幹細胞および前駆細胞を含む細胞集団を、dmPGE活性を有する薬剤、例えば、dmPGE、cAMP類似体またはcAMPエンハンサー、およびGα-s活性化因子など、PGEおよび/またはPGE細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤と、約37℃で約2時間にわたり接触させる。処理した細胞は、約4℃で接触させた細胞と比較して、統計学的に有意な細胞生存度の低下を示さない。言い換えれば、本明細書で記載される方法は、約4℃で接触させた細胞と比較して、造血幹細胞および前駆細胞の生存度を維持し、実質的に減少させず、統計学的に有意な減少を結果としてもたらさず、喪失を引き起こさず、かつ/または、実質的に変化させない。
【0191】
具体的な実施形態では、細胞を薬剤、例えば、dmPGEである期間にわたり処理する。関連する実施形態では、細胞を、それらが薬剤を実質的に含まないように、細胞培養培地における処理後に洗浄する。例えば、一実施形態では、ヒト造血幹細胞または前駆細胞、例えば、骨髄細胞、動員末梢血細胞、または臍帯血細胞を含む細胞集団を、約37℃で120分間にわたり、16,16-ジメチルPGEと接触させる。インキュベーション後であるが、注入または後続の処理または保存の前に、細胞を、5%のヒト血清アルブミン培地(LMD/5%のHSA)またはStem Span培地(Stem Cells Technology Inc.)を伴う低分子量のデキストランなどの細胞培養培地で洗浄する。
【0192】
多様な例示的実施形態では、本発明が、部分的に、in vitroまたはex vivoにおける処理法であって、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団を、幹細胞/前駆細胞の生存度を維持し、生着、ホーミング、自己再生、およびin vivoにおける増殖を増大させる、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤と接触させるステップを含む処理法を提供する。
【0193】
「ex vivo」という用語は一般に、生体外の人工的な環境、好ましくは、天然条件の変化を最小とする環境における生組織内または生組織上でなされる実験または測定など、生体の外部で生じる活動を指す。具体的な実施形態では、「ex vivo」における手順が、生体から採取され、通常は無菌条件下にある実験装置内で、典型的には、状況に応じて、数時間または最長で約24時間であるが、最長で48または72時間を含めた時間にわたり培養された生細胞または生組織を伴う。特定の実施形態では、このような組織または細胞を回収して凍結させ、その後、ex vivoにおける処理のために解凍することができる。生細胞または生組織を用いる、数日間より長くかかる組織培養の実験または手順は、典型的には、「in vitro」であると考えられるが、特定の実施形態では、この用語を、「ex vivo」と互換的に用いることができる。
【0194】
「ex vivoにおける投与」、「ex vivoにおける処理」、または「ex vivoにおける治療的な使用」という記載は一般に、1または複数の臓器、細胞、または組織を、生存しているかまたは死亡して間もない被験体から得、場合によって、精製/濃縮し、処理または手順(例えば、細胞を本発明の組成物または薬剤と共にインキュベートして、造血幹細胞または前駆細胞など、所望の細胞の増殖を増強することを伴う、ex
vivoにおける投与ステップ)に曝露する医療手順に関する。ex vivoにおいて処理した細胞は、同じ生存する被験体に投与することもでき、異なる生存する被験体に投与することもできる。
【0195】
このようなex vivoにおける治療的適用にはまた、本発明の接触させた細胞を、1回または複数回にわたり、生存する被験体に投与することなどを介する、任意選択のin vivoにおける処理または手順ステップも包含しうる。当技術分野において周知であり、本明細書の別の個所で記載される技法によるこれらの実施形態には、局所投与および全身投与の両方が意図される。被験体に投与する細胞の量は、健康状態、年齢、性別、体重、および薬物に対する耐性のほか、薬物および/または細胞移植に対する反応の程度、重症度、および種類など、その被験体の特徴に依存する。
【0196】
「in vivo」という用語は一般に、細胞の生着、細胞のホーミング、細胞の自己再生、および細胞の増殖など、生体内で生じる活動を指す。一実施形態では、「in vivoにおける増殖」という用語が、細胞集団がin vivoにおける数を増大させる能力を指す。具体的な実施形態では、in vivoにおける増殖には、幹細胞の自己再生および/または増殖が含まれる。
【0197】
一実施形態では、本発明が、部分的に、移植、例えば、骨髄移植のための細胞集団、例えば、骨髄細胞、動員末梢血細胞、臍帯血細胞を調製する方法であって、ex vivoにおける細胞を、被験体に投与すると、接触させた細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な温度で、かつ十分な時間にわたり、dmPGEまたはdmPGE活性を有する薬剤と接触させるステップを含む方法を提供する。
【0198】
具体的な実施形態では、本発明が、造血再構築または造血系の再構築を必要とする被験体を処置する方法であって、造血再構築を必要とする被験体を同定するステップと、接触させた造血幹細胞および前駆細胞の生着を被験体において増大させるのに十分な条件下でdmPGEなど、CXCR4の遺伝子発現を増大させることが可能である薬剤と接触させた、ある量の造血幹細胞および/または前駆細胞を被験体に投与し、これにより造血再構築を必要とする被験体を処置するステップとを含む方法を提供する。
【0199】
別の具体的な実施形態では、本発明が、造血再構築、造血系の再構築、造血幹細胞もしくは前駆細胞の数の増大、および/またはin vivoにおける造血幹細胞もしくは前駆細胞の増殖を必要とする被験体を処置する方法であって、造血再構築を必要とする被験体を同定するステップと、接触させた造血幹細胞または前駆細胞のin vivoにおける増殖を被験体において増大させるのに十分な条件下でdmPGEなど、CXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤と接触させた、ある量の造血幹細胞または前駆細胞を被験体に投与し、これにより造血再構築を必要とする被験体を処置するステップとを含む方法を提供する。
【0200】
本明細書で用いられる「被験体」は、本発明の薬剤もしくは組成物もしくはデバイスにより処置しうるか、またはex vivoにおいて、本発明の薬剤もしくは組成物で処理したHSCもしくは臍帯血により処置しうる症状を呈示する任意の動物を包含する。造血再構築、造血系の再構築、造血幹細胞もしくは前駆細胞の数の増大、および/またはin
vivoにおける造血幹細胞もしくは前駆細胞の増殖を「必要とする被験体」には、本明細書の別の個所で論じられる、多様な種類の白血病、貧血、リンパ腫、骨髄腫、免疫不全障害、および充実性腫瘍を有する、またはそれらを伴うと診断された被験体が含まれるがこれらに限定されない。「被験体」にはまた、悪性疾患の処置の過程にある幹細胞移植もしくは骨髄移植または遺伝子治療の構成要素である幹細胞移植もしくは骨髄移植の候補であるヒトも含まれる。被験体にはまた、同種異系移植のために幹細胞または骨髄を提供する個体または動物も含まれうる。特定の実施形態では、被験体が、多様ながん処置などにおいて、放射線照射療法または化学療法を経ている可能性がある。適切な被験体(例えば、患者)には、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモット)、農場動物、および家畜動物、またはペット(例えば、ネコまたはイヌ)が含まれる。非ヒト霊長動物、および、好ましくは、ヒト患者も含まれる。典型的な被験体には、薬剤または幹細胞移植もしくは骨髄移植により調節されうる、異常な量(「正常な」被験体または「健康な」被験体よりも低い量または高い量)の1または複数の生理学的活性を呈示する動物が含まれる。
【0201】
本明細書で記載される方法において用いられている細胞集団を投与するのに適切な方法には、静脈内投与および動脈内投与などの血管内投与法が含まれるがこれらに限定されない非経口投与が含まれる。本発明の細胞を投与するさらに例示的な方法には、筋肉内注射および筋肉内注入、髄腔内注射および髄腔内注入、嚢内(intracapsular)注射および嚢内注入、眼窩内注射および眼窩内注入、心臓内注射および心臓内注入、皮内注射および皮内注入、腹腔内注射および腹腔内注入、経気管注射および経気管注入、皮下注射および皮下注入、表皮下注射および表皮下注入、関節内注射および関節内注入、嚢下(subcapsular)注射および嚢下注入、くも膜下注射およびくも膜下注入、脊髄内注射および脊髄内注入、ならびに胸骨下(intrasternal)注射および胸骨下注入も含まれる。
【0202】
ある「量」の造血幹細胞および前駆細胞の、被験体への投与とは、限定なしに述べると、被験体の処置を含めた、所望の治療的結果または予防的結果を達成するのに「有効な量」の投与を指す。したがって、本明細書における目的のための造血幹細胞または前駆細胞の「治療有効量」とは、当技術分野において公知であるような検討事項により決定され、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに造血幹細胞および前駆細胞が個体において所望の応答を誘発する能力などの要因に従い変化しうる。「治療有効量」には、被験体(例えば、患者)を「処置する」のに有効な量が含まれる。治療有効量とはまた、造血幹細胞または前駆細胞の任意の毒性作用または有害作用が、治療的に有益な効果により凌駕される量でもある。
【0203】
「予防有効量」とは、所望の予防的結果を達成するのに有効な造血幹細胞または前駆細胞の量を指す。予防用量は、疾患の前または早い病期にある被験体において用いられるので、予防有効量は、治療有効量よりも少ないことが典型的ではあるが、必ずしもそうではない。
【0204】
別の具体的な実施形態では、本発明が、幹細胞移植/前駆細胞移植を必要とする被験体を処置する方法であって、幹細胞移植/前駆細胞移植を必要とする被験体を選択するステップと、ex vivoにおいて、dmPGEまたはdmPGE活性を有する薬剤と、被験体における接触させた細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を、接触させていない細胞と比較して増大させるのに十分な温度で、かつ十分な時間にわたり接触させた細胞集団を被験体に投与するステップとを含む方法を意図する。具体的な実施形態では、被験体が、造血再構築を必要とする。
【0205】
本明細書で用いられる「処置」「処置すること」などの用語は、限定なしに述べると、疾患の症状の改善または消失を達成することを含めた、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防止することとの関係で予防的な場合もあり、かつ/あるいは症状の改善もしくは消失を達成すること、または疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用の部分的もしくは完全な治癒をもたらすこととの関係で治療的な場合もある。本明細書で用いられる「処置」とは、哺乳動物、特に、ヒトにおける疾患の任意の処置を網羅し、これには、(a)疾患の素因を示しうるが、いまだそれを有すると診断されたわけではない被験体において疾患が生じることを防止すること、(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発症を停止させること、(c)疾患を緩和すること、例えば、疾患の後退を引き起こし、例えば、疾患の症状を完全にまたは部分的に消失させること、(d)個体を疾患前の状態に回復させること、例えば、造血系を再構築することが含まれる。
【0206】
本明細書で用いられる「処置」または「処置すること」は、疾患または病態の症状または病理に対する任意の所望の効果を包含し、これには、処置される疾患または状態についての1または複数の測定可能なマーカーが最小限であれ低減されることが含まれる。「処置」とは、必ずしも疾患もしくは状態または関連するその症状の完全な根絶または治癒を示すわけではない。本発明の具体的な方法では、処置または処置することが、被験体における細胞集団の生着の改善、被験体における造血再構築の改善、または被験体における生存の改善を提供する。
【0207】
この種の処置を必要とする被験体には、非悪性血液障害、特に、免疫不全症(例えば、SCID、ファンコニー貧血、重症再生不良性貧血、または先天性異常ヘモグロビン症(congenital hemoglobinopathies))、または、とりわけ、ハーラー病、ハンター病、マンノシドーシスなどの代謝性蓄積症(metabolic
storage disease)、あるいはがん、特に、急性白血病、慢性白血病(骨髄性白血病またはリンパ性白血病)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫)、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome)などの血液悪性疾患、または、乳がん、結腸がん、神経芽細胞種、もしくは腎細胞がんなどの非血液がんを患う(例えば、これらに罹患する)被験体が含まれる。
【0208】
本発明の方法は、骨髄における造血幹細胞または前駆細胞の量を増大させるか、または造血幹細胞または前駆細胞を骨髄へと動員することが所望である任意の疾患または障害を処置するのに用いることができる。例えば、本発明の方法は、化学療法および/または放射線療法を受けるがん患者など、骨髄移植または造血幹細胞移植もしくは前駆細胞移植を必要とする患者を処置するのに用いることができる。本発明の方法は、骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、および充実性腫瘍(乳がん、卵巣がん、脳のがん、前立腺がん、肺がん、結腸がん、皮膚がん、肝臓がん、または膵臓がん)を患う患者を含め、がんのための化学療法または放射線療法を受ける患者を処置するのに特に有用である。本発明の方法はまた、再生不良性貧血、免疫性障害(重症複合型免疫不全症候群またはループス)、脊髄形成異常症、サラセミア、鎌状赤血球症、またはウィスコット-アルドリッチ症候群を患う患者を処置するのにも用いることができる。本発明の方法により処置される障害は、放射線療法、化学療法、またはジドブジン(zidovadine)、クロラムフェニコール(chloramphenical)、もしくはガングシクロビルなどの骨髄抑制薬による処置など、別の一次処置の望ましくない副作用または合併症の結果でありうる。このような障害には、好中球減少症、貧血、血小板減少症、および免疫機能不全(immune dysfunction)が含まれる。加えて、本発明の方法は、毒性作用物質または放射線への意図しない曝露により引き起こされる骨髄への損傷を処置するのにも用いることができる。
【0209】
処置される障害はまた、骨髄の幹細胞または前駆細胞に損傷を引き起こす感染(例えば、ウイルス感染、細菌感染、または真菌感染)の結果でもありうる。
【0210】
上記に加えて、本発明の方法を用いる処置から利益を受けうるさらなる状態には、リンパ球減少症、リンパ漏、リンパうっ滞、赤血球減少症(erythrocytopenia)、赤血球変性障害(erthrodegenerative disorder)、赤芽球減少症、白赤芽球症;赤血球崩壊(erythroclasis)、サラセミア、骨髄線維症、血小板減少症、播種性血管内凝固(DIC)、免疫性(自己免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)、HIV誘導性ITP、脊髄形成異常症;血小板増多性疾患(thrombocytotic disease)、血小板増多症、先天性好中球減少症(コストマン症候群およびシュバッハマン-ダイアモンド症候群など)、新生物関連性好中球減少症、小児性周期性好中球減少症および成人性周期性好中球減少症;感染後好中球減少症;骨髄異形成症候群;化学療法および放射線療法と関連する好中球減少症;慢性肉芽腫症;ムコ多糖症;ダイアモンドブラックファン貧血;鎌状赤血球症;またはベータサラセミアメジャーが含まれるがこれらに限定されない。
【0211】
具体的な実施形態では、移植を必要とする患者が、骨髄を提供した骨髄ドナーであるか、いまだ骨髄を提供していない骨髄ドナーであるか、骨髄ドナーによる移植のレシピエントであるか、造血前駆細胞が環境ストレス下に置かれているか、貧血を有するか、正常な被験体と比較して免疫細胞機能のレベルが低下しているか、または免疫系不全症を有する。
【0212】
特定の実施形態では、移植を必要とする患者が、骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性(myeloid)白血病、慢性骨髄性(myelogenous)白血病、慢性顆粒球性白血病(chronic granulocytic leukemia)、急性リンパ芽球性白血病、急性非リンパ芽球性白血病、または前白血病を有する。
【0213】
D.本発明の方法で用いられる薬剤
多様な実施形態では、本発明が、PGEおよび/またはPGE細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤など、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる1または複数の薬剤と接触させた、造血幹細胞または前駆細胞を含む細胞集団の治療用組成物を意図する。
【0214】
cGMPの実践を用いて、本発明の治療用組成物を調製するのに有用な薬剤を、本発明の細胞を接触させるステップにおいて用いられ、内毒素を含まない容器により供給されうる、酢酸メチルなどの有機溶媒中で処方することができる。本発明により意図される薬剤は、ex vivoにおいて、本明細書で記載される哺乳動物細胞に投与するのに適する。特定の実施形態では、溶媒が、典型的に、本明細書で記載される適切な有機溶媒(例えば、これらの組合せまたは混合物を含めたDMSO、DMF、DMEなど)である。1または複数の溶媒は、特定の比率で組み合わせることができる。例えば、2つの溶媒の混合物は、全ての整数および小数を含めた、9.5:0.5、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5などの比率で組み合わせることができる。
【0215】
記載「有機溶媒」または「適切な有機溶媒」は一般に、固体、液体、または気体の溶質を溶解させ、結果として溶液をもたらす炭素を含有する液体または気体に関する。「適切な」有機溶媒とは、選択された濃度の、ex vivoの条件下における(例えば、細胞培養物における)またはin vivoにおけるインキュベーション時間または投与時間にわたり、毒性または他の阻害効果が最小であることなどにより、ex vivoにおける哺乳動物細胞への投与または哺乳動物細胞とのインキュベーションに適切であり、また、in vivoにおける被験体への投与にも適切でありうる有機溶媒である。適切な有機溶媒はまた、本明細書で記載される薬剤の保存安定性および取り扱いにも適切であるべきである。適切な有機溶媒の例には、これらの混合物または組合せを含めた、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメトキシエタン(DME)、およびジメチルアセトアミドが含まれるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、組成物または有機溶媒が酢酸メチル「を実質的に含まない」とは、組成物または溶媒中に存在する酢酸メチルが痕跡量を超えず、好ましくは、検出不可能な量(例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)などにより測定したときに)であるべきことを意味する。
【0216】
本明細書で用いられる「内毒素を含まない」という用語は、含有する内毒素が多くとも痕跡量(すなわち、被験体に対して生理学的に有害な効果を及ぼさない量)であり、好ましくは含有する内毒素が検出不可能な量である容器および/または組成物を指す。「内毒素を実質的に含まない」とは、生物学的製剤について、細胞の1用量当たりに存在する内毒素が、FDAにより許容される内毒素より少ないことであり、1日当たり、体重1kg当たりの全内毒素が5EUであり、平均的な70kgのヒトの場合、全細胞用量当たり350EUであることを意味する。一実施形態では、「内毒素を含まない」という用語が、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%内毒素を含まない容器および/または組成物を指す。内毒素とは、特定の細菌、典型的に、グラム陰性菌と関連する毒素であるが、内毒素は、Listeria monocytogenesなどのグラム陽性菌においても見い出すことができる。最もよく見られる内毒素は、多様なグラム陰性菌の外膜において見い出されるリポ多糖(LPS)またはリポオリゴ糖(LOS)であり、これらは、これらの細菌が疾患を引き起こす能力において中心的な病原性の特徴を表す。ヒトでは、少量の内毒素が、生理学的に有害な作用の中でも、発熱、血圧の低下、ならびに炎症および凝固の活性化をもたらしうる。したがって、少量であっても、ヒトにおいて有害な作用を引き起こしうるために、大半または全ての微量の内毒素を医薬品の容器から除去することが所望であることが多い。内毒素は、当技術分野において公知の方法を用いて、容器から除去することができる。例えば、容器は、HEPAフィルターを備えた洗浄装置内で、内毒素を含まない水により洗浄し、250℃で発熱物質除去処理(depyrogenate)をし、クラス100/10のクリーンルーム(例えば、1立方フィートの空気中に含有する0.5ミクロンより大きい粒子が100個以下である、クラス100のクリーンルーム)内に設置された、HEPAフィルターを備えたワークステーション内で無菌パッケージングすることができる。
【0217】
本明細書で用いられる「医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(good manufacturing practice)(GMP)」という用語は、食品、医薬品、および医療機器の製造および品質管理試験の制御および管理を指す。GMPは、必ずしもサンプリングに依拠せず、代わりに、薬物および医療機器の製造に関与する工程、活動、および操作の全ての側面についての文書化に依拠する。製品がどのように作製され、調べられたか(これによりトレーサビリティーが可能となり、将来問題が生じた場合は、市場からのリコールが可能となる)を示す文書化が適正でなく、秩序立てられていない場合、その製品は、要請される規格を満たさず、汚染されていると考えられる(すなわち、米国では、不良品と考えられる)。加えて、GMPは典型的に、全ての製造装置および試験装置が、使用に適するものとして適格性を保証されており、薬物製造工程において用いられる全ての操作法および操作手順(例えば、製造、洗浄、および分析試験)が、それらの意図される機能(複数可)を果たしうることを実証する所定の規格に従い検証されていることも要請する。米国では、「最新版医薬品の製造管理および品質管理に関する基準」が、1938年制定の食品医薬品化粧品法(21 U.S.C.§351)の501(B)に記載されている。
【0218】
本発明の治療用組成物を調製するのに用いられうる薬剤は、ヒト造血幹細胞集団または前駆細胞集団のホーミングおよび生着の潜在能を増強することが可能な薬剤である。このような薬剤には、PGEおよび/またはPGEによる細胞シグナル伝達経路を刺激する薬剤を含めた、細胞におけるCXCR4の遺伝子発現を増大させる薬剤が含まれる。有用な薬剤には、PGEおよびdmPGE活性を有する薬剤、例えば、PGE類似体、cAMP類似体またはcAMPエンハンサー、およびGα-s活性化因子が含まれるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、PGE特異的類似体が、特に興味深く、一部の実施形態では、この薬剤は、PGE受容体に優先的に結合してそして活性化させる。
【0219】
本明細書で用いられる「プロスタグランジンE」または「PGE」という用語には、限定なしに述べると、任意の天然のPGE分子または化学合成されるPGE分子のほか、その「類似体」も含まれる。本明細書で用いられる「類似体」という用語は、構造および機能において、別の化学物質、例えば、PGEと類似する化学的分子であって、単一の元素または基により構造的に異なることが多いが、それが親化学物質と同じ機能を保持する場合は、複数の基(例えば、2つ、3つ、または4つの基)の修飾により異なる場合もある化学的分子に関する。当業者にはこのような修飾が日常的であり、これらには、例えば、酸、アルコールもしくはチオールに対するベンジル基およびアミンに対するtert-ブトキシルカルボニル基などの保護基のエステルまたはアミドなど、付加的な化学的部分または置換された化学的部分が含まれる。また、アルキル置換(例えば、メチル置換、ジメチル置換、エチル置換など)など、アルキル側鎖基に対する修飾、側鎖の飽和レベルまたは不飽和レベルに対する修飾、および置換フェニルおよび置換フェノキシなど、修飾基の付加も含まれる。類似体にはまた、ビオチン部分またはアビジン部分などのコンジュゲート、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素も含まれる場合があり、放射能標識部分、生物発光部分、化学発光部分、または蛍光部分も含まれる。また、本明細書で記載される薬剤に部分を添加して、他の所望の特性の中でも、in vivoまたはex vivoにおける半減期を延長するか、またはそれらの細胞の透過特性を増大させるなど、それらの薬物動態特性を変化させることもできる。また、医薬品の多くの所望の品質(例えば、可溶性、バイオアベイラビリティー、製造など)を増強することが公知であるプロドラッグ(例えば、このようなアゴニストのその開示について参照により組み込まれる、例示的なEPアゴニストであるプロドラッグについてのWO/2006/047476を参照されたい)も含まれる。
【0220】
例示的なPGE「類似体」およびdmPGE活性を有する薬剤の例には、限定なしに述べると、16,16-ジメチルPGE(dmPGE)、16,16-ジメチルPGE p-(p-アセトアミドベンザミド)フェニルエステル、11-デオキシ-16,16-ジメチルPGE、9-デオキシ-9-メチレン-16、16-ジメチルPGE、9-デオキシ-9-メチレンPGE、9-ケトフルプロステノール、5-trans PGE、17-フェニル-オメガ-トリノル(trinor)PGE、PGEセリノール(serinol)アミド、PGEメチルエステル、16-フェニルテトラノル(tetranor)PGE、15(S)-15-メチルPGE、15(R)-15-メチルPGE、8-イソ-15-ケトPGE、8-イソPGEイソプロピルエステル、20-ヒドロキシPGE、11-デオキシPGE1、ノクロプロスト(nocloprost)、スルプロストン(sulprostone)、ブタプロスト(butaprost)、15-ケトPGE、および19(R)ヒドロキシPGEが含まれる。また、9位においてハロゲンで置換された、PGEと類似の構造を有するPG類似体または誘導体(例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、WO2001/12596を参照されたい)のほか、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、米国出願公開第2006/0247214号において記載されている誘導体など、2-デカルボキシ-2-ホスフィニコプロスタグランジン誘導体も含まれる。
【0221】
限定なしに述べると、アルプロスタジルが含まれるPGE1類似体はまた、PGE(EP)およびPGE(EP)による細胞シグナル伝達経路を活性化させるのにも用いることができ、本発明の方法において有用な薬剤として意図される。
【0222】
PGE(EP)およびPGE(EP)による細胞シグナル伝達経路の刺激/活性化は、造血幹細胞および前駆細胞において生着を増大させ、細胞生存度を維持し、ホーミングおよび細胞の増殖を増大させる生理学的応答の根底をなすことが意図される。したがって、一実施形態では、PGE受容体およびPGER4受容体に結合してこれらを刺激する(すなわち、PGE/PGEアゴニストである)「非PGEベースのリガンド」が、本発明の方法において用いられることを意図される。
【0223】
非PGEベースのEP受容体アゴニストの例示的な例には、WO2007/071456において開示されている、CAY10399、ONO_8815Ly、ONO-AE1~259、CP-533、536、ならびにカルバゾールおよびフルオレンが含まれる。
【0224】
非PGEベースのEPアゴニストの例示的な例には、WO/2000/038663、米国特許第6,747,037号、および米国特許第6,610,719号において開示されている、ONO-4819、APS-999 Na、AH23848、ONO-AE1~329、および他の非PGEベースのEPアゴニストが含まれる。
【0225】
PGEEP受容体に選択的な薬剤は、PGEEP受容体に優先的に結合する。このような薬剤のEP受容体に対するアフィニティーは、他の3つのEP受容体、すなわち、EP、EP、およびEPのうちのいずれに対するアフィニティーより大きい。PGEEP受容体に選択的に結合する薬剤には、5-[(1E,3R)-4,4-ジフルオロ-3-ヒドロキシ-4-フェニル-1-ブテン-1-イル]-1-[6-(2H-テトラゾール-5R-イル)ヘキシル]-2-ピロリジノン、2-[3-[(1R,2S,3R)-3-ヒドロキシ-2-[(E,3S)-3-ヒドロキシ-5-[2-(メトキシメチル)フェニル]ペント-1-エニル]-5-オキソシクロペンチル]スルファニルプロピルスルファニル]酢酸、メチル4-[2-[(1R,2R,3R)-3-ヒドロキシ-2-[(E,3S)-3-ヒドロキシ-4-[3-(メトキシメチル)フェニル]ブト-1-エニル]-5-オキソシクロペンチル]エチルスルファニル]ブタノエート、16-(3-メトキシメチル)フェニル-ロ(ro)-テトラノル-5-チアPGE、5-{3-[(2S)-2-{(3R)-3-ヒドロキシ-4-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ブチル}-5-オキソピロリジン-1-イル]プロピル]チオフェン-2-カルボキシレート、[4’-[3-ブチル-5-オキソ-1-(2-トリフルオロメチル-フェニル)-1,5-ジヒドロ-[1,2,4]トリアゾール-4-イルメチル]-ビフェニル-2-スルホン酸(3-メチル-チオフェン-2-カルボニル)-アミド]、および((Z)-7-{(1R,4S,5R)-5-[(E)-5-(3-クロロ-ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-3-ヒドロキシ-ペント-1-エニル]-4-ヒドロキシ-3,3-ジメチル-2-オキソ-シクロペンチル}-ヘプト-5-エノイン酸)、ならびにこれらの薬剤のうちのいずれかの薬学的に許容される塩からなる群より選択される薬剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0226】
「環状AMP(cAMP)エンハンサー」とは、薬剤なしまたは対照の分子/組成物と比較して、細胞におけるより多量のcAMP、あるいは細胞におけるより大きなcAMP活性、またはcAMPに関連するシグナル伝達経路の他の任意の関与する構成要素、またはcAMPシグナル伝達経路の下流における測定可能な生理学的応答もしくは効果の増大をもたらすかまたは引き起こす分子を指す。具体的な実施形態では、dmPGE活性を有する薬剤が、cAMP類似体またはcAMPエンハンサーである。
【0227】
本発明のcAMPエンハンサーは、典型的に、cAMPの細胞内レベルおよび/または活性を増大させるかまたは維持する。最も一般的には、環状アデノシン一リン酸(cAMP、環状AMP、または3’-5’-環状アデノシン一リン酸)が、多くの生物学的過程において重要な二次的メッセンジャーとして作用する。二次的メッセンジャー系とは、細胞シグナル伝達の方法であって、特定の活性化シグナルに応じて拡散性のシグナル伝達分子が迅速に産生/分泌され、次いで、これにより、細胞内のエフェクタータンパク質が活性化されて、細胞応答がなされうる方法に関する。例えば、他の応答の中でも、cAMPのシグナル伝達は、これによらなければ細胞膜を通過することができないプロスタグランジンの効果を伝達する。cAMPはまた、Ca2+のイオンチャネルを介する通過も制御する。
【0228】
測定可能な下流の効果には、当技術分野における理解および本明細書における記載から明らかな効果の中でも、より程度の大きな幹細胞の生存度、増殖(proliferationまたはexpansion)、ならびに自己再生および生着が含まれうる。cAMPエンハンサーには、典型的に、細胞の受容体または他の分子に結合して細胞による応答を誘発する「アゴニスト」、および典型的に、cAMPの分解を遮断する(例えば、ホスホジエステラーゼを遮断する)ことによるなど、ある作用に反対に作用する、作用を遮断/阻害する、「アンタゴニスト」が含まれうる。また、cAMP類似体も意図される。
【0229】
cAMP活性はまた、多様な機構を介して負に制御される場合もある。例えば、Gα-sサブユニットにより、GTPのGDPへの加水分解が緩徐に触媒され、これがGタンパク質を不活性化させ、これにより、cAMP経路が遮断される。cAMP経路はまた、アデニリルシクラーゼを直接阻害することを介して、またはPKAによりリン酸化されたタンパク質を脱リン酸化することを介して、下流で不活性化する場合もある。アデニリルシクラーゼの産生、および、したがって、cAMPの産生は、アデニリルシクラーゼ阻害性G(G)タンパク質結合型受容体のアゴニストにより阻害される場合がある。cAMPのAMPへの分解は、cAMPのシグナル伝達の負の制御因子としても作用しうる酵素であるホスホジエステラーゼにより触媒される。
【0230】
cAMP経路を阻害する分子の例示的な例には、例えば、cAMPをAMPへと脱リン酸化し、cAMPレベルを低減するcAMPホスホジエステラーゼ、アデニリルシクラーゼを阻害し、これにより、cAMPレベルを低減するGタンパク質、およびcAMPレベルを低下させる百日咳毒素が含まれる。
【0231】
本発明のcAMPエンハンサーは、典型的に、cAMP経路を、この経路の任意の段階において活性化させることが可能であるか、またはcAMPの負の制御(例えば、分解)を阻止することが可能であり、これらには、このような機能的効果を有する化学物質、ポリペプチド、抗体、および他の分子が含まれる。cAMP経路を活性化させる例示的な分子または薬剤には、例えば、cAMPレベルを上昇させるコレラ毒素、フォルスコリン、アデニリルシクラーゼを活性化させるジテルペン(diterpine)天然生成物、ならびにcAMPホスホジエステラーゼを阻害して、Gタンパク質を活性化させ、次いで、これにより、cAMP経路を活性化させるカフェインおよびテオフィリンが含まれうる。
【0232】
cAMPエンハンサーの例示的な例には、当技術分野において公知であるcAMPエンハンサーの中でも、フォルボールエステル、フォルスコリン、スクラレリン、8-ブロモ-cAMP、コレラ毒素(CTx)、アミノフィリン、2,4ジニトロフェノール(DNP)、ノルエピネフリン、エピネフリン、イソプロテレノール、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、カフェイン、テオフィリン(ジメチルキサンチン)、ドパミン、ロリプラム(rolipram)、イロプロスト(iloprost)、プロスタグランジンE、プロスタグランジンE、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、および血管作動性腸管ポリペプチド(VIP)が含まれるがこれらに限定されない。上記で例示した通り、cAMPエンハンサーの例にはまた、とりわけ、sp-5,6-DCl-BIMPS(BIMPS)およびジブチリルcAMP(dbcAMP)などのcAMPおよびcAMP類似体も含まれる。
【0233】
cAMPは、培養物中の造血幹細胞の成長および/または生存に関与する(例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Negrottoら、Experimental Hematology 34巻:1420~1428頁、2006年を参照されたい)。例えば、ジブチリルcAMPおよびBIMPSなど、2つの異なるcAMP類似体が、一酸化窒素(NO)または血清枯渇により誘導されるアポトーシスを抑制することにより、ヒト臍帯血に由来するCD34細胞の生存を促進することが観察された。PKA経路およびPI3K経路の関与は、それらの特異的阻害剤であるRp-cAMPおよびウォルトマンニンまたはLY294002のそれぞれが、BIMPSの抗アポトーシス効果を逆転させる能力により実証された。トロンボポエチン(TPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、または幹細胞因子(SCF)が、cAMPレベルを増大させなかったのに対し、これらの増殖因子により及ぼされる抗アポトーシス活性は、アデニル酸シクラーゼの阻害により遮断され、BIMPSと協同した。したがって、環状AMP類似体が、NOまたは血清枯渇に曝露した細胞におけるコロニー形成の低下を抑制することから、cAMPは、CD34の生存を制御する重要な経路であるだけでなく、また、TPO、G-CSF、およびSCFを介する細胞保護作用のメディエーターでもあると考えられることが示される。
【0234】
同様に、骨髄細胞の移植後すぐに、イソプロテレノール(アデニリルシクラーゼを刺激する)またはジブチリル環状アデノシン3’,5’-一リン酸を注射することなどによりcAMPを活性化させると、ほとんど即時的に、DNAの合成を誘導することを介して、移植された幹細胞のS期への参入が誘発される(例えば、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる、Necasら、Cell Proliferation、9巻:223~230頁、2008年を参照されたい)。
【0235】
「Gα-s活性化因子もしくはGα-s活性化剤」または「Gタンパク質アルファ-s活性化因子もしくはGタンパク質アルファ-s活性化剤」には、刺激性G-タンパク質(「Gα-s」)またはGα-sの変異体のアルファサブユニットを活性化させることが可能である任意の分子が含まれる。Gα-s活性化因子の例示的な例には、PGEならびにそのアゴニストおよび誘導体、ならびにコレラ毒素が含まれる。具体的な実施形態では、dmPGE活性を有する薬剤が、Gα-s活性化因子である。
【0236】
したがって、PGEおよびdmPGE活性を有する薬剤、例えば、dmPGE類似体、cAMP類似体、もしくはcAMPエンハンサー、および/またはGα-s活性化因子を含む本発明の組成物を用いて、造血幹細胞の細胞生存度を保持または維持し、生着、ホーミング、自己再生、および/またはin vivoにおける増殖を増大させることができる。
【0237】
したがって、具体的な実施形態では、細胞を、ex vivoまたはin vitroにおいて、限定なしに述べると、任意の具体的な形で組み合わされた、PGEおよびその類似体(例えば、dmPGE)ならびにdmPGE活性を有する薬剤と接触させることにより、造血幹細胞/前駆細胞の生着/生着の潜在能/および/またはin vivoにおける増殖を増大させる。
【0238】
具体的な実施形態では、細胞集団を、各々の最終濃度を約1μM~約100μMとする1または複数の薬剤で処理する(例えば、これらと接触させる)。特定の実施形態では、細胞集団を、各々の最終濃度を約1×10-14M~約1×10-3M、約1×10-13M~約1×10-4M、約1×10-12M~約1×10-5M、約1×10-11M~約1×10-4M、約1×10-11M~約1×10-5M、約1×10-10M~約1×10-4M、約1×10-10M~約1×10-5M、約1×10-9M~約1×10-4M、約1×10-9M~約1×10-5M、約1×10-8M~約1×10-4M、約1×10-7M~約1×10-4M、約1×10-6M~約1×10-4M、または任意の中間の範囲にある最終濃度とする1または複数の薬学的作用因子で処理する。
【0239】
別の具体的な実施形態では、細胞集団を、各々の最終濃度を約1×10-14M、約1×10-13M、約1×10-12M、約1×10-10M、約1×10-9M、約1×10-8M、約1×10-7M~約1×10-6M、約1×10-5M、約1×10-4M、約1×10-3M、または任意の中間の最終濃度とする1または複数の薬剤で処理する。1または複数の薬剤を含む処理では、アゴニストが、互いと異なる濃度の場合もあり、同じ濃度の場合もある。
【0240】
具体的な実施形態では、細胞集団を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上処理する(例えば、1または複数の薬剤と接触させる)。細胞集団は、1または複数の薬剤と、同じ容器内で間欠的に接触させることもでき、挿間的に接触させることもでき、逐次的に接触させることもできる(例えば、細胞集団を、1つの薬物とある時間にわたり接触させ、培養培地を交換し、かつ/または細胞集団を洗浄し、次いで、薬学的作用因子の同じ組合せまたは異なる組合せを使用するサイクルを、同じ所定の時間または異なる所定の時間にわたり繰り返す)。
【0241】
好ましい実施形態では、細胞集団を、約37℃、最終濃度を約10μMとするPGEまたはPGEアゴニスト、例えば、16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理する。
【0242】
例示的な処理持続時間には、一般的に、約1時間、約2時間、または約3時間の処理時間が含まれる。
【0243】
具体的な実施形態では、本発明において有用な薬剤を、第1の容器から第2の容器へと移すことができ、第2の容器が、内毒素を含まないテフロン製のキャップを伴う2mlのバイアルであり、薬剤の保存またはex vivoにおける投与に適し、薬剤が酢酸メチルを実質的に含まないジメチルスルホキシド(DMSO)中に供給される、ストック濃度を約10mMとする16,16-ジメチルPGEであり、バイアル内には空気のオーバーレイを置く。容器および溶媒を含めた組成物の全体は、無菌で内毒素を含まないことが好ましい。
【0244】
特定の実施形態では、第2の容器または他の容器が、骨髄細胞、末梢血細胞、または臍帯血細胞などの造血幹細胞または前駆細胞を含めた細胞を含みうる。したがって、これらの実施形態および他の実施形態は、組成物を、第1の容器または最初の容器から、ex vivoにおける処理条件に適し、造血幹細胞または前駆細胞を適切な培地中に含む第2の容器へと移すことを伴いうる。代替的に、ヒト細胞集団を、PEバッグまたはチューブなど、既に組成物を含有し、既にex vivoにおける処理条件またはインキュベーション条件に適する第1の容器または第2の容器へと移すこともできる。
【0245】
E.本発明の投与準備ができた組成物
本発明の治療用組成物は、無菌であり、投与に適切であり、かつ、ヒト患者への投与の準備ができている(すなわち、さらなる加工なしに投与しうる)。一部の実施形態では、治療用組成物は、患者への注入の準備ができている。本明細書で用いられる「投与準備ができている」、「投与の準備ができている」、または「注入の準備ができている」という用語は、被験体への移植または投与の前にさらなる処理または操作を必要としない、本発明の細胞ベースの組成物を指す。
【0246】
患者への投与に適する無菌の治療的に許容される組成物は、1または複数の薬学的に許容される担体(添加剤)および/もしくは希釈剤(例えば、薬学的に許容される培地、例えば、細胞培養培地)、または薬学的に許容される他の構成要素を含みうる。薬学的に許容される担体および/または希釈剤は、投与される具体的な組成物により部分的に決定されるほか、治療用組成物を投与するのに用いられる具体的な方法によっても決定される。したがって、本発明の治療用組成物には、適切な処方物が多種多様に存在する(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、17版、1985年を参照されたい)。
【0247】
具体的な実施形態では、造血幹細胞および/または前駆細胞を含む治療的な細胞組成物が、薬学的に許容される細胞培養培地を含む。本発明の細胞ベースの組成物を含む治療用組成物は、経口投与法または非経口投与法を介して別個に投与することもでき、所望の処置目標を実現するのに適切な他の化合物と組み合わせて投与することもできる。
【0248】
薬学的に許容される担体および/または希釈剤は、それを、処置されるヒト被験体への投与に適するために十分に純度が高く、十分に毒性が低くなければならない。それはさらに、治療用組成物の安定性を維持するかまたは増大させるものとする。薬学的に許容される担体は、液体の場合もあり、固体の場合もあり、本発明の治療用組成物の他の構成要素と組み合わせた場合に、所望のバルク、コンシステンシーなどをもたらすように、計画された投与方式で選択される。例えば、薬学的に許容される担体は、限定なしに述べると、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシ(maize)デンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、充填剤(例えば、ラクトースおよび他の糖、微晶質セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリレート、リン酸水素カルシウムなど)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石、シリカ、コロイド状の二酸化ケイ素、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、水素化した植物油、トウモロコシ(corn)デンプン、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなど)、崩壊剤(例えば、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなど)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)でありうる。本発明の組成物に適する他の薬学的に許容される担体には、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ケイ酸、粘稠性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが含まれるがこれらに限定されない。
【0249】
このような担体溶液はまた、緩衝液、希釈剤、および他の適切な添加剤も含有しうる。本明細書で使用される「緩衝液」という用語は、その化学的組成により、pHの著明な変化なしに酸または塩基が中和される溶液または液体を指す。本発明により想定される緩衝液の例には、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩液(PBS)、リンゲル液、水中に5%のデキストロース(D5W)、通常/生理食塩液(0.9%のNaCl)が含まれるがこれらに限定されない。
【0250】
これらの薬学的に許容される担体および/または希釈剤は、治療用組成物のpHを約3~約10に維持するのに十分な量で存在しうる。それ自体、緩衝剤は、全組成の重量対重量ベースで最大約5%でありうる。また、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどであるがこれらに限定されない電解質も、治療用組成物に包含されうる。
【0251】
一態様では、治療用組成物のpHが、約4~約10の範囲にある。代替的に、治療用組成物のpHは、約5~約9、約6~約9、または約6.5~約8の範囲にある。別の実施形態では、治療用組成物が、前記pH範囲のうちの1つのpHを有する緩衝液を含む。別の実施形態では、治療用組成物のpHが約7である。代替的に、治療用組成物のpHは約6.8~約7.4の範囲にある。さらに別の実施形態では、治療用組成物のpHが約7.4である。
【0252】
本発明の無菌組成物は、薬学的に許容される非毒性培地中の無菌溶液または無菌懸濁液でありうる。本明細書で用いられる「懸濁液」という用語は、細胞を固体の支持体に結合させない非付着状態を指しうる。例えば、懸濁液中で維持されている細胞は、撹拌することができ、培養ディッシュなどの支持体に付着していない。
【0253】
懸濁液とは、微細に分割された種を別の種と組み合わせた分散液(混合物)であって、前者がすぐには沈殿しない程度まで微細に分割され、混合されている分散液(混合物)である。懸濁液は、溶液を含めた液体培地などのビヒクルを用いて調製することができる。具体的な実施形態では、本発明の治療用組成物が懸濁液であり、造血幹細胞および/または前駆細胞を、許容される液体培地または溶液、例えば、生理食塩液または無血清培地内に分散させており、固体の支持体には結合させていない。日常で最も一般的な懸濁液は、液体の水における固体の懸濁液である。用いられうる許容される希釈剤、例えば、ビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液、等張性の塩化ナトリウム溶液(生理食塩液)、および無血清細胞培養培地がある。一部の実施形態では、懸濁液を作製するのに高張性の溶液を用いる。加えて、従来は、溶媒または懸濁培地として無菌の固定油が用いられている。非経口適用では、特に適切なビヒクルが、溶液、好ましくは油性溶液または水性溶液のほか、懸濁液、エマルジョン、またはインプラントからなる。水性の懸濁液は、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有する場合があり、これには、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランが含まれる。一部の実施形態では、注入溶液が、対象組織に対して等張性である。一部の実施形態では、注入溶液が、対象組織に対して高張性である。
【0254】
本発明の投与準備ができている治療用組成物を構成する、薬学的に許容される担体、希釈剤、および他の構成要素は、治療用組成物が臨床レジメンで用いられることを可能とする米国薬局方グレードの試薬に由来する。典型的に、任意の培地、溶液、または他の薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含めたこれらの完成試薬は、濾過滅菌するなど、当技術分野における従来の方式で滅菌し、使用の前に、Mycoplasma属汚染、内毒素汚染、またはウイルス汚染など、多様な望ましくない汚染物質について調べる。一実施形態では、薬学的に許容される担体が、ヒトまたは動物由来の天然のタンパク質を実質的に含まず、造血幹細胞および前駆細胞を含めた治療用組成物の細胞集団を保存するのに適する。治療用組成物は、ヒト患者へと投与されることを意図し、したがって、ウシ血清アルブミン、ウマ血清、およびウシ胎仔血清などの細胞培養成分を実質的に含まない。
【0255】
本発明はまた、部分的に、本発明の具体的な組成物および/または培養物における薬学的に許容される細胞培養培地の使用も意図する。このような組成物は、ヒト被験体への投与に適する。一般的に述べると、本発明の所望の再プログラム化された細胞および/またはプログラム化された細胞の維持、成長、および/または健康を支持する任意の培地が、医薬用細胞の培養培地として用いるのに適する。具体的な実施形態では、薬学的に許容される細胞培養培地が、無血清培地である。
【0256】
治療用組成物は、組成物に含まれる細胞集団を保存するのに適する無血清培地を含みうる。無血清培地は、簡素化されかつより良好な規定された組成、低減された程度の汚染物質、感染性作用物質の潜在的な供給源の除去、および費用の低減を含め、血清を含有する培地を凌駕する複数の利点を有する。多様な実施形態では、無血清培地が非動物性であり、場合によって、タンパク質非含有でありうる。場合によって、培地は、生物薬学的に許容される組換えタンパク質を含有しうる。「非動物性」培地とは、構成要素が動物以外の供給源に由来する培地を指す。非動物性培地では、組換えタンパク質により天然の動物タンパク質を置換し、栄養素は、合成供給源、植物供給源、または微生物供給源から得る。これに対し、タンパク質非含有培地、とは、タンパク質を実質的に含まない培地として定義される。
【0257】
本発明において用いられる無血清培地は、ヒトのための治療プロトコールおよび治療用製品において用いるのに適する処方物である。1つの無血清培地は、米国特許第5,945,337号において記載されている、QBSF-60(Quality Biological,Inc.)である。QBSF-60は、米国薬局方グレードの構成要素で最適化されており、基礎培地であるIMDMに加えて、2mMのL-グルタミン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、ヒト注射用グレードの血清アルブミン(4mg/ml)(Alpha Therapeutic Corporation)、部分的に鉄飽和させたヒトトランスフェリン(300μg/ml)(Sigma Chemical CorporationまたはBayer Corporation)、およびヒト組換えインスリンナトリウム(0.48U/ml)(Sigma)からなる。当技術分野において公知である他の無血清培地には、Life Technologies社のカタログ StemPro-34無血清培養培地:Capmanayら、「Short-term、serum-free、static culture of
cord blood-derived CD34 cells: effects
of FLT3-L and MIP-1α on in vitro expansion of hematopoietic progenitor cells」、Haematologica、84巻:675~682頁(1999年); Daley,
J Pら、「Ex vivo expansion of human hematopoietic progenitor cells in serum-free StemProTM-34 Medium」、Focus、18巻(3号):62~67頁;Life Technologies社のカタログ AIM V無血清培養培地についての情報、BioWhittaker社のカタログ X-VIVO 10無血清培養培地についての情報、「Serum-free basal and culture medium for hematopoietic and leukemia cell」と題された米国特許第5,397,706号; Kurtzbergら、18巻:153~4頁(2000年); Kurtzbergら、Exp Hematol 26巻(4号):288~98頁(1998年4月)が含まれるがこれらに限定されない。
【0258】
当業者は、上記の培地の例が例示的なものであり、本発明において用いるのに適する培地の処方を限定するものではなく、多くのこのような培地が当業者に公知であり利用可能であることを理解するであろう。
【0259】
多様な実施形態では、本発明の治療用組成物が、5%のHSAなど、ヒト血清アルブミン(HSA)および低分子量(LMW)デキストランの無菌溶液を含む。
【0260】
治療用組成物は、Mycoplasma属汚染、内毒素汚染、および微生物汚染を実質的に含まない。具体的な実施形態では、治療用組成物が、約10、5、4、3、2、1、0.1、0.05μg/ml未満のウシ血清アルブミンを含有する。
【0261】
内毒素に関して「~を実質的に含まない」とは、生物学的製剤について、細胞の1用量当たりに存在する内毒素が、FDAにより許容される内毒素より少ないことであり、1日当たり、体重1kg当たりの全内毒素が5EUであり、平均的な70kgのヒトの場合、全細胞用量当たり350EUであることを意味する。
【0262】
Mycoplasma属汚染および微生物汚染に関して本明細書で用いられる「~を実質的に含まない」とは、当業者に公知である、一般に受容されている検査についての陰性の読み取り値を意味する。例えば、Mycoplasma属汚染は、治療用組成物の試料をブロス培地中で継代培養し、1、3、7、および14日目に、適切な陽性対照および陰性対照と共に、37℃で寒天プレート上に分配することにより、決定する。試料の外見を、100倍の顕微鏡により陽性対照および陰性対照の外見と比較する。加えて、指標細胞培養物の接種物を3~5日間にわたりインキュベートし、DNAに結合する蛍光色素を用いる落射蛍光顕微鏡法により、Mycoplasma属の存在について600倍で検討する。寒天および/またはブロス培地による手順ならびに指標細胞の培養による手順がMycoplasma属汚染の証拠を示さなければ、試料を良好なものと考える。
【0263】
本発明の治療用組成物を、HLAタイピングし、移植について特定の患者に適合する場合もあり、部分適合する場合もある。HLAタイプとは、ヒト白血球抗原と呼ばれるタンパク質の固有のセットを指す。これらのタンパク質は、各個体の細胞に存在し、免疫系が「異物」から「自己」を認識することを可能とする。異物として認識される細胞または組織を投与すると、免疫拒絶または移植片対宿主病(GVHD)など、適合性の問題がもたらされる可能性がある。したがって、臓器移植および組織移植では、HLAタイプおよび適合が特に重要である。
【0264】
6つの主要なHLA(HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、およびHLA-DQ)が存在する。ヒト集団では、各HLA抗原が複数のアイソフォームを有し、各個体は、各HLAについて、ヒトゲノムの二倍体の性質のために、2つの異なるアイソフォームを有しうる。したがって、完全な適合であれば、12のアイソフォーム中12に適合するであろう。意図されるレシピエントと同じ個体、またはその一卵性双生児から提供された細胞または組織は完全なHLAタイプを有し、これを同系または自系と称する。また、民族的背景および人種が含まれるがこれらに限定されない特定の因子が、特定のHLAタイプと相関することも理解される。
【0265】
多くの主要なHLAアイソフォームおよび副次的なHLAアイソフォームが存在し、適切な適合には、主要なHLAのサブセット、全ての主要なHLA、一部もしくは全ての主要なHLAおよび副次的なHLA、または当技術分野に公知である、免疫拒絶またはGVDHを軽減する任意の組合せの間における適合が含まれうることが理解される。また、何が良好なHLAタイプの適合を構成するかについての特定の指針は、多くの因子に依存することも理解される。したがって、所与の細胞試料または組織試料の所与の個体への移植についての適性を評価するには、当業者による判断が不可欠である。
【0266】
HLAタイプは、いわゆる低分解能法を用いて、例えば、血清型別により決定することもでき、抗体ベースの方法を用いて決定することもできる。血清型別は、抗体によるHLAタイプの認識に基づく。血清型別では、28の異なるHLA-A遺伝子、59のHLA-B遺伝子および21のHLA-C遺伝子を識別することができる。血清型別法による完全な適合であれば、各個体に存在する各HLA(A、B、およびC)について2つずつの対立遺伝子に言及するので、いわゆる6個中6個の適合となろう。特定の場合には、6個中5個以下の適合も、当業者により良好な適合として決定される場合がある。
【0267】
HLAタイプを決定する他の低分解能法または中程度分解能法では、個体のHLAアイソフォームは検討するが、個体のHLA対立遺伝子の実際の配列決定には依拠しない。ドナーが試料を受容する個体と血縁であることが多く、この場合は、血清型別単独でまたは他の低分解能法または中程度分解能法との組合せでも、試料が移植に適するかどうかを決定するのに十分でありうる。他の場合、6個中5個以下の適合は容易に見出されるが、完全な適合は見出されない。このような場合は、より良好なHLAタイプの適合を見出すのに時間および労力を浪費するより、適合がより低い細胞または組織を用いる方が有利でありうる。
【0268】
高分解能法は、HLA遺伝子または遺伝子発現産物(タンパク質またはRNA)の具体的な配列を調べることを伴う。高分解能法は、数千個の異なるアイソフォームを識別しうる。
【0269】
少なくとも、治療用組成物のHLAタイピングを、6つのHLA遺伝子座、HLA-A、HLA-B、およびHLA-DRについて、例えば、低分解能/スプリット抗原レベルで実施する。
【0270】
HLA-DR遺伝子タイピングには、DNAベースの試験法を用いることができる。DNAベースの試験は、HLA-AおよびHLA-Bに用いることができる。患者、家族にタイピングを施し、潜在的な非血縁ドナーのHLAタイプを確認するための移植センターのガイドラインは、主にDNAベースの試験法を、DRBlには対立遺伝子レベルの分解能で、HLA-AおよびHLA-Bには低分解能/スプリット抗原レベルで用いて、HLA-A遺伝子座、HLA-B遺伝子座、およびHLA-DR遺伝子座にタイピングを施すことを包含する。患者および選択されたドナーのタイピングは、同じ試薬、方法、および解釈基準のセットを新鮮な組織試料と共に用いて実施して、HLAの同一性を確実にすることができる。HLA検査のための品質保証および品質管理を順守する。
【0271】
多様な実施形態では、細胞集団が、ハプロタイピングされている造血幹細胞または前駆細胞を含む。一部の実施形態では、治療用組成物を構成する細胞集団が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-DRB1に基づき、HLAタイピングされている。具体的な実施形態では、細胞集団が、HLA-DRB3/4/5、HLA-DQB1、およびDPB1からなる群に基づきHLAタイピングされている。一部の実施形態では、治療用組成物を構成する細胞集団が、特定のヒト患者と適合する。一部の実施形態では、HLAハプロタイピングされている細胞集団が、6つのHLAのうちの4つで特定のヒト被験体と適合する。HLAの適合は、対立遺伝子または抗原およびこれらの組合せに基づく。一部の実施形態では、HLAハプロタイピングされている細胞集団が、治療用組成物が投与される被験体など、特定のヒト被験体と部分的に不適合である。
【0272】
本発明の治療用組成物は、FDAによる製品の免許下付(すなわち、FDAの承認)ならびに他の諸国および規制地域における他の保健当局による製品の免許下付のほか、製品の適応、製品の有効性、安全性、および純度に関する特徴づけの情報を伴う製品の表示を得ることが可能である。FDAによる免許下付は、細胞用量およびHLAの不適合に基づく可能性が高い。一部の実施形態では、本発明の治療用組成物を、公認の基準に従い無菌で加工および低温保存し、例えば、RHおよびABO分類、HLAタイピング、ならびにA遺伝子座、B遺伝子座、およびDR-ベータ-1遺伝子座、ならびに加工後のカウント、CD34細胞カウント、CFU-GMカウント、感染性疾患についてのスクリーニング、家族歴、および母体による供出同意の証拠について表示する。移植に用いられる治療用組成物であれば、少なくとも4/6の抗原または3/6の対立遺伝子に適合する細胞、および本明細書で記載される細胞用量が含まれるであろう。
【0273】
F.スマートバイオ容器
多様な実施形態では、本発明が、部分的に、細胞療法であって、細胞集団を、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、被験体における接触させた細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な条件下で1または複数の薬学的作用因子と接触させるステップと、接触させた細胞を被験体に投与するステップとを含む細胞療法、例えば、幹細胞移植/前駆細胞移植を意図する。
【0274】
本発明は、部分的に、被験体(例えば、ヒト)における幹細胞の生着を増大させる方法であって、造血幹細胞および/または前駆細胞(例えば、骨髄細胞、末梢血細胞、および/または臍帯血細胞)を含む細胞集団を、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、被験体における接触させた細胞の生着を増大させるのに十分な条件下でPGE、dmPGE、またはdmPGE活性を有する薬剤など、造血幹細胞および/または前駆細胞におけるCXCR4の発現を増大させる薬剤と接触させるステップと、接触させた細胞を被験体に投与するステップとを含む方法をさらに意図する。
【0275】
本発明は、部分的に、被験体(例えば、ヒト)における造血幹細胞数または前駆細胞数を増大させる方法であって、造血幹細胞および/または前駆細胞(例えば、骨髄細胞、末梢血細胞、および/または臍帯血細胞)を含む細胞集団を、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、被験体における接触させた細胞のin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な条件下でPGE、またはその類似体、例えば16,16-ジメチルPGE(dmPGE)、またはdmPGE活性を有する薬剤など、造血幹細胞および/または前駆細胞におけるCXCR4の発現を増大させる薬剤と接触させるステップと、接触させた細胞を被験体に投与するステップとを含む方法をさらに意図する。
【0276】
多様な例示的実施形態では、本発明が、部分的に、造血幹細胞または前駆細胞を、PGEまたはその類似体、例えば、16,16-ジメチルPGE(dmPGE)またはdmPGE活性を有する薬剤と、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、幹細胞/前駆細胞の生存度を維持し、生着、ホーミング、およびin vivoにおける増殖を増大させるのに十分な条件下で接触させる方法を提供する。
【0277】
一実施形態では、本発明が、部分的に、移植、例えば、骨髄移植のための細胞集団、例えば、骨髄細胞、動員末梢血細胞、臍帯血細胞を調製する方法であって、細胞を、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、被験体における接触させた細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を接触していない細胞と比較して増大させるのに十分な条件下でdmPGE2またはdmPGE活性を有する薬剤と接触させるステップを含む方法を提供する。
【0278】
具体的な実施形態では、本発明が、被験体における造血幹細胞または前駆細胞の生着を増大させる方法であって、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、被験体における接触させた細胞の生着を、接触していない細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、dmPGEまたはdmPGE活性を有する薬剤と接触させた細胞供給源または細胞集団を被験体に投与するステップを含む方法を意図する。
【0279】
別の具体的な実施形態では、本発明が、造血幹細胞移植/前駆細胞移植を必要とする被験体を処置する方法であって、造血幹細胞移植/前駆細胞移植を必要とする被験体を選択するステップと、本明細書で記載される内毒素を含まない容器において、被験体における接触させた細胞の生着および/またはin vivoにおける増殖を、接触していない細胞と比較して増大させるのに十分な条件下で、dmPGEまたはdmPGE活性を有する薬剤と接触させた細胞集団を被験体に投与するステップとを含む方法を意図する。
【0280】
本明細書で用いられる「容器」という用語は一般に、本明細書で提示され、意図される多様な目的で、造血幹細胞または前駆細胞およびこれらの副産物を含む細胞集団を、ex
vivoにおいてもしくはin vitroにおいて、または別の形で培養する目的、取り扱う目的、操作する目的、保存する目的、解析する目的、インキュベートする目的、投与する目的、および別の形で樹立する目的、支持する目的、採取する目的のために用いることが可能である任意の品目に関する。
【0281】
容器(vessel)の例示的な実施形態には、バッグ(例えば、静脈内(IV)バッグ;細胞培養バッグ、例えば、VueLife(商標)、KryoSure(商標)、KryoVue(商標)、Lifecell(登録商標)、PermaLife(商標)、X-Fold(商標)、Si-Culture(商標)、VectraCell(商標))、バイオリアクター、細胞培養デバイスまたは組織培養デバイス、パウチ、カプセル、培養バイアル、装置、細胞ファクトリー(cell factory)、容器(container)、培養チューブ(例えば、微量遠心用チューブ、EPPENDORF TUBES(登録商標)、FALCON(登録商標)円錐形チューブなど)、培養ディッシュ(例えば、ペトリディッシュ)、培養フラスコ、スピナーフラスコ、ローラーボトル、マルチウェルプレート(例えば、2ウェルプレート、4ウェルプレート、6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、および384ウェルプレート)、マイクロインキュベーター、マイクロキャリア、マイクロプレート、マイクロスライド、およびチャンバースライド、および植え込み用デバイス(例えば、コラーゲンスポンジ)が含まれるがこれらに限定されない。容器は、複数回にわたり用いる場合もあり、単回使用容器の場合もある。
【0282】
本発明の容器は、内毒素を含まないことが好ましく、本明細書の別の個所で論じたGMPの実務に従い製造される。
【0283】
具体的な実施形態では、容器を以下の特徴:ガス透過性(酸素、二酸化炭素、および窒素のガス移動速度が適切な材料)、水分喪失率が無視できる程度であること(水に対して事実上不透過性の材料)、化学的および生物学的に不活性であること(容器内容物と反応しない材料)、多様な条件下で可撓性および強度を保持すること(容器をマイクロウェーブ処理すること、UV照射で処理すること、遠心分離すること、または広範な温度範囲内、例えば、-100℃~+100℃で用いることを可能とする材料)のうちの1または複数を備える材料から作製することができる。
【0284】
当業者は、所望の透過性、生物反応特性、および生物適合特性、温度耐性、可撓性、熱伝導性、および強度を伴う適切なポリマー材料を選択しうる。
【0285】
本発明の容器を作製するのに適する例示的な材料には、ガラス、セラミックス、金属、熱硬化性のモノマーおよびならびにエラストマーのモノマーおよびポリマー、ならびにモノマーおよびポリマーの熱可塑性プラスチックが含まれるがこれらに限定されない。限定なしに述べると、本発明の容器を作製するのに適する例示的な熱可塑性材料には、アセタール樹脂、デルリン(delrin)、フルオロカーボン、ポリエステル、ポリエステルによるエラストマー、メタロセン、ポリアミド、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、シリコーン樹脂、ABS(「アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン」の頭字語)、ポリカーボネート(プラスチック業界ではまた、「PC」とも称する)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、合金、ならびにこれらの組合せおよび混合物および複合材、ならびに強化合金、ならびにこれらの組合せおよび混合物および複合材が含まれる。
【0286】
具体的な実施形態では、容器を、フタル酸ジエチルヘキシル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびフッ化エチレンプロピレンからなる群より選択される1または複数の材料から作製することができる。
【0287】
多様な例示的実施形態では、壁断面厚が、選択された材料および意図される適用に基づき、その潜在的な関数となるように、容器を作製することができる。限定なしに述べると、例示的な壁断面厚には、約0.25mm~約2.0mmの厚さ、約0.5mm~約1.5mmの厚さ、および約0.75mm~約1.25mmの厚さが含まれる。具体的な実施形態では容器の壁断面厚が、少なくとも0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、もしくは2.0mm、または任意の中間の厚さである。
【0288】
具体的な例示的実施形態では、本発明の容器を、特定の容量を収容するようにデザインする。限定なしに述べると、本発明の容器の例示的な容量には、任意の中間の容量を含めた、約10mL、約25mL、約50mL、約75mL、約100mL、約150mL、約250mL、約500mL、約750mL、約1000mL、約1250mL、約1500mL、約1750mL、約2000mL以上の容量が含まれる。例えば、10mL~25mLの中間の容量には、11mL、12mL、13mL、14mL、15mL、16mL、17mL、18mL、19mL、20mL、21mL、22mL、23mL、および24mLが含まれる。
【0289】
特定の実施形態では、本明細書で意図される容器が、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つのコンパートメントを備える。コンパートメントは、同じサイズの場合もあり、異なるサイズの場合もあり、同じ多孔度の場合もあり、異なる多孔度の場合もある。一実施形態では、隣接するコンパートメントの多孔度が、小分子、栄養素、ポリペプチド、および/または増殖因子は、コンパートメント間で自由に交換されうるが、各コンパートメントの細胞は、それらの各々のコンパートメントに制約されるような多孔度である。
【0290】
当業者は、容器の作製材料および意図される使用についての知識に基づき、所望の厚さ、容量、およびコンパートメント数を有する容器を作製することができる。
【0291】
具体的な実施形態では、容器を、特定のコーティング、フィルム、もしくは他の薬剤、例えば、PGEまたはdmPGE活性を有する薬剤、またはこれらの適切な組合せを収容する材料から作製することができる。
【0292】
容器の内面は、当業者に公知の方法を用いて、多様な疎水性の分子、親水性の分子、または両親媒性の分子によるコーティングを収容するようにデザインすることができる。例えば、熱硬化性材料、エラストマー、ゴム、ならびに、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS、および本明細書で開示される他のポリマー材料などの熱可塑性プラスチックなど、例えば、一般に用いられる疎水性材料は、疎水性分子(例えば、1または複数の疎水性領域を有するタンパク質)に対する結合を有する。さらに、特定の実験的適用、産業的適用、または臨床的適用は、例えば、核酸、タンパク質、炭水化物など、多様な種類の分子に対する結合を必要とする場合もあり、これを除外する場合もあり、これらに対して中立である場合もある。また、具体的な適用の目的に応じて、担体への分子の結合を阻止することが所望の場合もあり、これを最小化することが所望の場合もあり、かつ/またはこれを最大化することが所望の場合もある。
【0293】
具体的な例示的実施形態では、本明細書で意図される容器が、化合物、細胞、細胞培養培地などを導入、交換、または除去するための、1または複数の入力ポートおよび/または出力ポートを含む。ポートは、適切な場合、針なしのアクセスをもたらす場合もあり、針のためのアクセスポイントを包含する場合もある。各ポートは、1または複数のアダプター(例えば、ルアーアダプター)、バルブ、および/またはフィルターを含有する場合もある。
【0294】
本発明は、部分的に、例えば、容器内容物の温度、容器が任意の所与の温度にあった時間、および多様な環境条件(例えば、pH、酸素濃度、二酸化炭素濃度、グルコース濃度)を示す、任意の適切な組み合わせおよび構成での、1または複数のデバイスを備える容器を意図する。本発明は、カード、ストリップ、ディスク、スティッカー、ラベル、プローブ、センサー、および小型の電子デバイスなどの形態にあるデバイスを意図する。意図されるデバイスは、容器の材料へと統合することもでき、代替的に、容器とは別個に製造し、その後、容器の外面に恒久的にまたは非恒久的に固定または接着することもできる。
【0295】
一実施形態では、容器が、温度表示デバイスを備える。好ましい実施形態では、容器が、温度表示デバイスおよび経過時間表示デバイスの両方を、個別のデバイスとして別個に備えるか、または単一のデバイスとして組み合わせて備える。さらなる実施形態では、容器が、温度表示デバイス、経過時間表示デバイス、および環境条件を示す1または複数のデバイスを備える。複数のデバイスを、個別のデバイスとして別個に作製することもでき、単一のデバイスとして作製することもできる。
【0296】
本明細書で用いられる「温度表示デバイス」という用語とは、容器および/または容器内容物の温度を感知、測定、および/または表示し、1または複数の「温度計」を備えるデバイスを指す。本明細書で用いられる「温度計」という用語は、温度を示す信号をもたらすインジケーターを指す。温度計は、リアルタイムの温度、または任意の所定の長さの時間にわたる特定の温度への曝露に対応する信号をもたらしうる。具体的な実施形態では、温度計が、可逆的である。他の実施形態では、1または複数の温度計が、容器および/または容器内容物が所定温度に到達したか、または特定の長さの時間にわたり所定温度にあったことを不可逆的に示す。さらなる実施形態では、温度表示デバイスが、1または複数の可逆的温度計および不可逆的温度計を、任意の数または組合せで備える。
【0297】
温度表示デバイスは、使用者が作動させる場合もあり、所定温度へと曝露されると作動する場合もある。本明細書で用いられる「所定温度」という用語は、使用者によりモニタリングのために選択された温度または温度範囲を指す。多様な実施形態では、所定温度が、容器が使用のために意図される所望の温度または温度範囲を示す「標的温度」である。多様な実施形態では、温度表示デバイスが、1または複数の所定温度、すなわち、標的温度にあるか、これを上回るか、もしくはこれを下回るか、または標的温度範囲を上回るか、これを下回るか、もしくはこの範囲内にある容器および/または容器内容物の温度を示す温度計を提供する。限定なしに述べると、本発明は、多様な標的温度および標的温度範囲を意図する。
【0298】
各種の信号が、本発明の温度計において用いられることを意図されている。例えば、温度計は、視覚信号(例えば、デジタル表示、色の変化、グラフ)、聴覚信号、赤外線信号、ラジオ波信号、アナログ信号、デジタル信号、またはこれらの組合せを生成することにより、温度を示しうる。例えば、温度表示デバイスには、温度を示す液晶ディスプレイ(LCD)、温度を示すかもしくはこの品目が所定の標的温度未満にあるかもしくはこれを超えることを特定する音声(voice)または発話(speech)合成装置、音波、超音波、もしくは他の波を介して温度を示す、アナログ信号、赤外線信号、またはラジオ波信号、および/または温度を電子的に示すデジタル信号のうちの1または複数が含まれうる。
【0299】
温度の視覚的表示をもたらす温度計は、標的温度にあるか、これを上回るか、もしくはこれを下回るか、または標的温度範囲を上回るか、これを下回るか、もしくはこの範囲内にある容器および/または容器内容物の温度に対応する色を含む信号をもたらしうる。本発明は、限定なしに述べると、任意の色の組合せを、任意の温度計の数および組合せと共に用いうることを意図する。当業者であれば、特定の温度において特定の色を反映する任意の数の化学物質を用いうるであろうし、特定の温度に対応する所望の色を反映するこのような化学物質を選択しうるであろう。
【0300】
さらなる例示的な実施形態では、温度表示デバイスが、各々が所定の温度または温度範囲を示す1または複数の温度計を含む1または複数の温度目盛を備えうる。温度目盛内の各温度計は、信号(例えば、視覚信号、デジタル信号)をもたらしうる。
【0301】
例示的に述べると、温度目盛には、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、100℃、110℃、125℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、または200℃以上の範囲にわたり増分を1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃とする温度計が含まれる。
【0302】
例示的な温度範囲には、限定なしに述べると、約4℃~約65℃、約4℃~約50℃、約4℃~約42℃、約4℃~約37℃の範囲、または任意の中間の温度範囲が含まれる。
【0303】
本発明は、限定なしに述べると、温度表示デバイスが、1または複数の温度目盛を含むことが可能であり、各目盛が所定の温度または温度範囲を示す任意の温度範囲にわたる任意の増分において、任意の数および組合せの温度計を含むことを意図する。
【0304】
一実施形態では、温度表示デバイスが、各々が特異的な温度範囲と関連する複数の可逆的温度計、および1または複数の所定温度に到達したか、または任意の所定の長さの時間にわたりこの温度にあったときを示す、1または複数の不可逆的温度計を備える。可逆的インジケーターは、温度の視覚的表示を、個別にリアルタイムで提示する。温度の視覚的表示は、標的温度にあるか、これを上回るか、もしくはこれを下回るか、または標的の温度範囲を上回るか、これを下回るか、もしくはこれ以内にある容器および/または容器の内容物の温度に対応する。不可逆的インジケーターは、一たび所定温度に到達すると、視覚的表示を維持する。
【0305】
本発明は、1もしくは複数の温度表示デバイスおよび1もしくは複数の経過時間表示デバイス、または多様な環境条件を表示するデバイスを含む容器をさらに意図する。
【0306】
本明細書で用いられる「経過時間表示デバイス」いう用語は、1または複数の「経過時間インジケーター」を含むデバイスを指す。本明細書で用いられる「経過時間インジケーター」という用語は、所定の長さの時間が経過したときを測定し、モニタリングし、これを示すインジケーターを指す。各経過時間インジケーターは、使用者が個別に作動させる場合もあり、具体的な所定の温度または温度範囲へと曝露されると作動する場合もある。
【0307】
作動させると、経過時間インジケーターは、作動からの時間を示す。一実施形態では、所与の経過時間インジケーターが、所定量の時間を測定し、次いで、所定量の時間が経過したときを示す信号をもたらす。多様な例示的実施形態では、経過時間表示デバイスが、1、2、3、4、5つ以上の経過時間インジケーターを含み、各々の経過時間インジケーターを使用者が個別に作動させる場合もあり、同じであるかまたは異なる所定の温度または温度範囲への曝露によりこれが作動する場合もある。
【0308】
多様な実施形態では、本発明が、部分的に、容器および/または内容物が、1または複数の所定の温度もしくは温度範囲に曝露されていたか、この温度もしくは温度範囲にあったか、またはこの温度もしくは温度範囲に維持されていた時間を示す経過時間インジケーターを備える容器を意図する。関連する実施形態では、経過時間インジケーターが、容器および/または内容物が、1または複数の所定の温度もしくは温度範囲に曝露されていたか、この温度もしくは温度範囲にあったか、またはこの温度もしくは温度範囲に維持されていた所定量の時間を示す。経過時間インジケーターは、持続的信号をもたらす場合もあり、総所定時間のうちの所定の百分率が経過した時点において1または複数の信号をもたらす場合もあり、例えば、一定間隔で、測定される総経過時間の信号をもたらす。
【0309】
一実施形態では、経過時間インジケーターが、一定間隔で、測定される総経過時間の信号をもたらす。例えば、経過時間インジケーターを、1時間の総経過時間を測定し、示すようにデザインする場合、インジケーターは、15分間、30分間、45分間、および1時間が経過した時点を示す信号をもたらしうる。例示的な一定間隔には、1分間の間隔、2分間の間隔、5分間の間隔、10分間の間隔、15分間の間隔、20分間の間隔、30分間の間隔、45分間の間隔、60分間の間隔、90分間の間隔、120分間以上の間隔が含まれる。任意の総経過時間内における例示的な一定間隔の数には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の間隔が含まれる。
【0310】
別の実施形態では、経過時間インジケーターが、経過した時間の量、またはいまだ経過していない時間(すなわち、残り時間)の量を示す持続的信号をもたらす。例えば、1時間の総経過時間を測定し、示すようにデザインされる経過時間インジケーターは、プログレスバー、円グラフ、または時計の形態であり、作動すると信号がもたらされ、これが経過した総経過時間の部分に照らして直線的に増大する。一実施形態では、全時間が経過すると、経過時間インジケーターは、信号をもたらすことを中断する場合もあり、全時間が経過したことを示す異なる信号をもたらす場合もある。
【0311】
具体的な例示的実施形態では、経過時間表示デバイスが、経過時間インジケーターの1または複数の任意の組合せを備える。各経過時間インジケーターは、使用者が個別に作動させる場合もあり、異なる所定温度へと曝露されると作動する場合もある。加えて、各経過時間インジケーターは、異なる所定の長さの時間にわたり信号を測定し、発生させることも可能である。
【0312】
例示だけを目的として述べると、単一の経過時間表示デバイスは、使用者が作動させ、1時間の経過時間を測定および表示する経過時間インジケーター、使用者が作動させ、2時間の経過時間を測定および表示する経過時間インジケーター、使用者が作動させ、10分間の経過時間を測定および表示する経過時間インジケーター、4℃の所定温度へと曝露されると作動し、作動させてから1時間、2時間以上の経過時間を測定し、これを示す経過時間インジケーター、および/または30℃~40℃の範囲にある、好ましくは37℃である所定温度へと曝露されると作動し、作動させてから1時間、2時間以上の経過時間を測定し、これを示す経過時間インジケーターを備えうる。
【0313】
経過時間インジケーターによりもたらされる例示的な種類の信号には、視覚信号、聴覚信号、赤外線信号、ラジオ波信号、デジタル信号、アナログ信号、およびこれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない。
【0314】
本発明は、部分的に、例えば、容器内容物のpH、二酸化炭素濃度、酸素濃度、浸透圧、またはグルコース濃度を測定し、モニタリングし、表示する1または複数の環境インジケーターを備える表示デバイスを含む容器をさらに意図する。一実施形態では、環境インジケーターが、環境条件を示す信号を持続的にモニタリングし、発生させる。別の実施形態では、環境インジケーターが、1または複数の所定の時間および/または一定間隔で、信号をモニタリングし、発生させる。信号は、視覚信号であることが好ましく、LED、OLED、またはLCD上で発生する英数字の信号であることがより好ましい。
【0315】
多様な実施形態では、環境インジケーターが、容器内の環境条件を測定し、モニタリングし、表示するデジタルセンサーを備える。加えて、限定なしに述べると、センサーを、任意の範囲の環境条件を測定するように較正しうることも意図される。したがって、各環境条件のための通常の範囲を、各環境表示デバイスへとあらかじめプログラム化することができる。範囲には、最小閾値、最適条件、または最大閾値のうちの1または複数が含まれうる。具体的な実施形態では、測定またはモニタリングされる環境条件が最小閾値または最大閾値の外側にある場合、環境インジケーターが、環境条件が許容される範囲内にないことを示す聴覚信号をもたらす。
【0316】
他の例示的な環境インジケーターには、Ca++濃度、カリウム濃度、ナトリウム濃度、マグネシウム濃度、マンガン濃度、硫酸濃度、リン酸濃度、および塩化物濃度が含まれるがこれらに限定されない。
【0317】
本発明は、部分的に、例えば、容器内容物の温度、容器を任意の所与の温度、および場合によって、1または複数の多様な環境条件(例えば、pH、酸素濃度、グルコース濃度)に置いた時間を示す表示デバイスの組合せを備える容器を意図する。好ましい実施形態では、組合せデバイスが、本明細書で開示される個別のデバイスおよびインジケーターの特徴を包含しうる。当業者ならば、環境表示デバイスが、容器の内容物と接触していることが好ましいことを理解するであろう。意図されるデバイスは、容器の透過性が、特定の環境感知デバイスを容器内腔または容器の内容物と接触させるような地点で容器の材料へと統合されうる。別の実施形態では、環境表示デバイスを、容器とは別個に製造し、その後、容器の外面に恒久的にまたは非恒久的に固定または接着することができる。関連する一実施形態では、固定または接着されたデバイスが、特定の環境感知デバイスを容器内腔または容器の内容物と接触させるように、容器を穿通する。関連する別の実施形態では、特定の環境感知デバイスを容器内腔または容器の内容物と接触させるように、固定または接着されたデバイスを、透過性となるデバイスの部分へと適用する。
【0318】
好ましい実施形態では、容器が、温度表示デバイスおよび経過時間表示デバイスの組合せを、個別のデバイスとして、または単一のデバイスとして別個に備える。さらなる実施形態では、温度表示デバイス、経過時間表示デバイス、および1または複数の環境条件表示デバイスの組合せを、個別のデバイスとして、または単一のデバイスとして別個に備える。
【0319】
組合せ表示デバイスは、容器と統合的に作製することもでき、容器外面に恒久的にまたは非恒久的に結合させることもでき、容器外面に積層化することもでき、容器により容器の内法内に包み込むこともできる。デバイスは、小型の電子デバイス、プローブ、センサー、またはこれらの組合せでありうる。
【0320】
組合せ表示デバイスは、任意のサイズまたは形状でありうる。組合せ表示デバイスの例示的な形状には、カード、ストリップ、ディスク、スティッカー、ラベル、プローブ、またはこれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない。例えば、カードまたはストリップの形態にある温度表示デバイスが、1または複数の温度表示ディスクを含む場合もあり、この逆の場合もある。
【0321】
当業者に明らかとなる通り、容器の経過時間および温度を視覚化するために、多様な直線、曲線、楕円、矩形、または点が含まれるがこれらに限定されない、多様な種類の図形デザインを用いることができる。同様にまた、異なるサイズの多様な矢印、曲線、直線、および点が含まれるがこれらに限定されない、液体移動前線の進行を示す標徴も用いることができる。例えば、特定の間隔の経過時間における特定の温度またはある範囲の温度についての視覚的な信号を、連続的なウィンドウにおける進行バー上の進行として、または複数のウィンドウにおいて視認することができる。さらに、各実施形態を、容器の時間インジケーターまたは温度の状態を示す多くのさらなる標徴を包含するように適合させることもできる。このような標徴には、総経過時間までの漸進的な進行を温度と対比させて示す図形記号が含まれる。
【0322】
より好ましい実施形態では、容器が、温度表示デバイスと経過時間表示デバイスとの組合せを含む。
【0323】
本明細書で用いられる単数形である「ある(a)」「ある(an)」、および「その」は、別段に指示されることが文脈により明らかでない限り、複数に対する言及を包含する。
【0324】
本明細書の全体では、文脈により別段に要請されない限り、「~を含む(comprise)」、「~を含む(comprises)」、および「~を含む(comprising)」という語は、言及されたステップもしくは要素またはステップもしくは要素の群の包含は示唆するが、他の任意のステップもしくは要素またはステップもしくは要素の群の除外は示唆しないことが理解される。「~からなる」とは、「~からなる」という語句に後続するあらゆる語句を包含し、かつ、これに限定されることを意味する。したがって、「~からなる」という語句は、列挙された要素が要請されるかまたは必須であり、他の要素は存在しえないことを示す。「~から本質的になる」とは、この語句の後に列挙された任意の要素を包含し、かつ、列挙された要素についての本開示で特定された活性または作用に干渉または寄与しない他の要素に限定されることを意味する。したがって、「~から本質的になる」という語句は、列挙された要素が要請されるかまたは必須であるが、他の要素は任意選択であり、それらが列挙された要素の活性または作用に影響を及ぼすかどうかに応じて、存在させる場合もあり、存在させない場合もあることを示す。
【0325】
本明細書の全体における「一実施形態」または「ある実施形態」に対する言及は、この実施形態との関連において記載されている特定の特徴、構造、または特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態に包含されていることを意味する。したがって、本明細書全体の多様な箇所における「一実施形態では」または「ある実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではない。さらに、特定の特徴(features)、構造、または特徴(characteristics)を、任意の適切な形で1または複数の実施形態において組み合わせることもできる。
【実施例0326】
細胞の生着の潜在能および増殖を増大させる臨床的方法を開発するために、プロスタグランジン経路を刺激する薬剤で処理した造血幹細胞集団および前駆細胞集団についての複数の生物学的パラメータの解析を実施した(図2を参照されたい)。これらの実験の結果および第1b相臨床試験についての結果は、以下で記載される。
【0327】
(実施例1)
競合的cAMPアッセイ
製造元の指示書に従い、LANCE(登録商標)cAMP検出キット(Perkin Elmer Inc.、Waltham、MA)を用いて、CD34細胞についてのcAMPアッセイを実施した。略述すると、3,000個のCD34細胞(Stem Cell Technologies、Vancouver、Canada)を、推奨される刺激緩衝液中で384ウェル不透明白色プレートの各ウェル内に分注した。アッセイは、全ての条件について3連で実施した。
【0328】
CD34細胞は、4℃のDMSOまたは16,16-ジメチルPGEで刺激する前に、氷上に置いた。他の温度、例えば、25℃または37℃で実施するアッセイでは、DMSOまたは16,16-ジメチルPGEを、CD34細胞に室温で添加し、次いで、プレートを、DMSOまたは16,16-dmPGEと共に、実験温度(25℃または37℃)でインキュベートした。
【0329】
CD34細胞は、5、15、30、60、または120分間にわたりインキュベートした。インキュベーション期間の後、検出緩衝液を刺激された細胞に添加し、刺激温度に関わらず、細胞を、室温の検出緩衝液中でさらに1時間にわたりインキュベートした。製造元の指示書に従い、EnVision(登録商標)2104 Multilabel Reader(Perkin Elmer)を用いて、アッセイプレートを解析した。
【0330】
時間(15、30、60、または120分間にわたるインキュベーション)、温度(4℃、25℃、または37℃におけるインキュベーション)、および16,16-ジメチルPGEの最終濃度(1μM、10μM、50μM、または100μM)の、細胞におけるcAMPの生成に対する効果を決定するために、CD34細胞を用いる競合的cAMPアッセイを実施した。
【0331】
結果は、最大のcAMP応答が、約30~60分のインキュベーションで生じること、インキュベーション温度を高くすると、結果としてより頑健なcAMP活性がもたらされること、cAMP応答が、10μMの閾値濃度を超えると、比較的用量に非感受性であることを示した(図3を参照されたい)。cAMP活性の、DMSO対照と比較して統計学的に有意な増大は、CD34細胞を、16,16-ジメチルPGEと共に、37℃および25℃、16,16-ジメチルPGEの全ての被験濃度(1、10、50、および100μM)で、最短で5分間~最長で2時間の持続時間にわたりインキュベートしたときに観察された(p<0.001)。16,16-ジメチルPGEと共に4℃でインキュベートしたCD34細胞では、時間についての同様の条件下で、かつ、全ての被験濃度(1、10、50、および100μM)にわたり、cAMP生成の、DMSO対照と比較して統計学的に有意な増大が観察されなかった(全ての試料についてp>0.05)。
【0332】
より高い温度でより長い持続時間にわたるインキュベーション(これらの条件は、かつて、CD34細胞生存度の低下および16,16-ジメチルPGE半減期の短縮と関連すると考えられていた)は、細胞生存度に負の影響を及ぼすことなしに、cAMPに対する優れた刺激を示した。さらに、本明細書で記載される通り、16,16-ジメチルPGEによる、4℃でより短い持続時間にわたる細胞の処理は、結果としてcAMP生成の増大をもたらしたが、幹細胞のホーミング、生存、増殖、および生着を制御するのに重要であると考えられている遺伝子発現の増大は結果としてもたらさなかった。このような遺伝子の上方制御、およびしたがって、最も頑健な生物学的応答の達成は、16,16-ジメチルPGEによる、37℃など、生理学的に適切な温度で少なくとも約1時間の長い持続時間にわたる細胞の処理を必要とした。
【0333】
(実施例2)
遺伝子発現
全ゲノム発現アレイ
ヒト臍帯血およびヒト臍帯血からあらかじめ単離されたCD34細胞を、Stem Cell Technologies Inc.(Vancouver、BC、Canada)から購入した。ex vivoにおける16,16-ジメチルPGEによる処理のために、5%のヒト血清アルブミン培地(LMD/5%のHSA)またはStem Span培地(Stem Cells Technology Inc.)を伴う低分子量のデキストラン中で、細胞をインキュベートした。全RNAは、Pico Pure RNA Isolation Kit(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて、インキュベートされた細胞から単離した。
【0334】
MessageAmp II aRNA Amplification Kit(Applied Biosystems/Ambion、Austin、TX)および任意選択のSecond Round Amplificationのための標準的なプロトコールを用いて、ビオチン化した増幅されたRNA(aRNA)を調製した。製造元の指示書に従い、MessageAMP II Biotin Enhanced Kit(Applied Biosystems/Ambion、Austin、TX)を用いて、コピーRNA(cRNA)を、ビオチンで標識化したaRNAへと転写した。Applied Biosystemsのプロトコールに従い、ビオチンで標識化したaRNAを、精製し、断片化させた。断片化させたaRNA20μgを、45℃で16時間にわたり、Human Genome U133 Plus 2.0 GeneChip(Affymetrix Inc.、Santa Clara、CA)とハイブリダイズさせた。
【0335】
Affymetrix Fluidics Station 450においてGeneChipを洗浄、および染色し、Affymetrix GeneChip Scanner 3000 7Gを用いて走査した。Affymetrix Expression
Consoleソフトウェアおよびデフォルトの解析設定を用いて、画像データを解析した。GeneChipの発現データは、対数目盛による頑健な多重アレイ解析(RMA)を介して正規化し、Spotfire for Genomics 3.1(Tibco Spotfire、Palo Alto、CA)により視覚化した。MetaCore(GeneGo、St. Joseph、MI)により、経路解析を実施した。
【0336】
GeneChip技術を用いて、時間(5、15、20、30、40、60、80、100、120、180、または240分間にわたるインキュベーション)、温度(4℃、25℃、または37℃におけるインキュベーション)、および16,16-ジメチルPGEの最終濃度(0.1μM、1μM、10μM、50μM、または100μM)の、細胞における遺伝子発現に対する効果を決定した。
【0337】
Fluidigmプラットフォームを用いるマイクロ流体qPCR
BioMark Dyanamic Array microfluidics system(Fluidigm Corporation、South San Francisco、CA、USA)を用いて、ex vivoにおいて16,16-ジメチルPGEで処理したCD34+細胞試料からのリアルタイムPCR転写物の定量を実施した。全RNAは、Pico Pure RNA Isolation Kit(Molecular Devices、Sunnyvale、CA、USA)を用いて、処理した細胞から単離した。相補性DNA(cDNA)は、High-Capacity cDNA
Reverse Transcription Kit(Life Technologies Corporation、Carlsbad、CA、USA)を用いて、単離された全RNA 50ngから逆転写させた。
【0338】
TaqMan PreAmp Master Mix Kit(Life Technologies)プロトコールを用い、6つの基準対照遺伝子を含めた96の遺伝子特異的プライマー対の200nMの混合物(表1を参照されたい)を用いて、特異的標的遺伝子(96)のcDNAをあらかじめ増幅した。製造元のプロトコールを用いる、標準的なサイクリング条件を伴う、14サイクルの増幅を用いて、cDNAからの特異的標的増幅(STA)を実施した。Fluidigm EvaGreenプロトコールに従い、EvaGreen dye(Biotium,Inc. Hayward、CA、USA)を添加して、増幅された産物を検出した。試料について、反応ミックスは、96.96 Dynamic Array(Fluidigm)の試料入口へのローディングのために、3.0μLのGene Expression Master Mix(Life Tech.)、0.3μLのSample Loading Buffer(Fluidigm)、0.3μLの20X EvaGreen dye(Biotium,Inc.)、1.5μLの希釈した(無菌nH2Oで1:5に希釈した)STA cDNA、および0.9μLの無菌diH2Oを含有した。
【0339】
試料は、5~9つのウェルにより多連で処理した。プライマー対について、反応ミックスは、96.96 Dynamic Array(Fluidigm)のアッセイ入口へのローディングのために、2.5μLの遺伝子特異的プライマー対(20μM)および2.5μLのAssay Loading Buffer(Fluidigm)を含有した。96.96 Dynamicアレイには、NanoFlex IFC Controller HX(Fluidigm)を用いてロードし、リアルタイム反応は、BioMark Real-Time PCR System(Fluidigm)を用いて実施した。
【0340】
BioMark Real-Time PCR Analysisソフトウェアを用いて、結果を解析した。平均Ctは、試料の反復物により計算し、デルタ-デルタCt(ΔΔCt)は、6つの基準遺伝子(ACTB、GAPDH、HPRT1、QARS、ARPC2、およびLRIG2)の平均を用いて、ビヒクルだけの試料に対して計算した。28を超えるCt、または不適切な融解曲線特性を伴う増幅産物は、計算から除外した。結果は、ヒートマップフォーマットでのSpotfire for Genomics 3.1(Tibco Spotfire、Palo Alto、CA、USA)においてか、またはExcelによるグラフプロット(Microsoft Corp.、Redmond、WA、USA)として表示する。
【0341】
【表1-1】
【0342】
【表1-2】
【0343】
【表1-3】
【0344】
【表1-4】
16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャー
ビヒクルで処理したCD34細胞と比較した、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理したCD34細胞のベースラインにおける遺伝子発現シグネチャーを得た(図4を参照されたい)。これらの条件下で処理したCD34細胞では、合計608の遺伝子が、統計学的に有意なレベルで調節された(365が上方制御されるか、または243が下方制御された)。SDF-1αとの相互作用を介する骨髄ニッチへのHSCのホーミングの公知なメディエーターであるCXCR4は、DMSOで処理した対照と比べて18倍に上方制御された。また、多くの公知のcAMP応答性遺伝子のうちの1つであるCREMも上方制御された。PGEシグナル伝達経路、細胞の接着、およびケモカインのシグナル伝達と関連する遺伝子発現の調節もまた観察された。しかし、アポトーシスまたは細胞死と関連する遺伝子発現には増大は観察されなかった。
【0345】
DMSO対照と比較した、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理したCD34細胞の遺伝子発現プロファイルにより、本発明の細胞が他の公知の細胞から区別される。本発明の方法は、処理されていない対照、または4℃で処理した細胞と比較して、生着の潜在能/生着の増強または増大、およびin vivoにおける増殖の増大を示す細胞をもたらす。本発明の細胞の遺伝子発現シグネチャーにおいて高度な増幅の制御を示す遺伝子の表を以下に示す。
【0346】
【表2】
したがって、前臨床プロトコールとは対照的に、かつてはCD34細胞生存度の低下および16,16-ジメチルPGE半減期の短縮と関連すると考えられていた37℃におけるインキュベーションにより、予測外にも、PGE/R4細胞シグナル伝達経路と関連する遺伝子発現、細胞のホーミング、および増殖の増大が示された。さらに、細胞生存度の低下を示す遺伝子発現の変化は観察されなかった。
【0347】
さらなる実験を実施して、細胞を全臍帯血の臨床処理プロトコールの背景で処理する場合に、CD34細胞が16,16-ジメチルPGEに応答するかどうかを決定した。ヒト臍帯血細胞を、37℃で120分間にわたり、ビヒクルまたは10μMの16,16-ジメチルPGEと共にインキュベートした(図17を参照されたい)。インキュベーション後、Miltenyi磁気分取を用いて、Lin(-)CD34細胞を単離した。ビオチンで標識化したaRNAは、細胞から調製し、遺伝子発現プロファイルを解析した。ヒト臍帯血から単離されたLin(-)CD34細胞により16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーが再現されたことは、異なる濃度の16,16-ジメチルPGEと共にインキュベートしたCD34臍帯血細胞についての結果と一致する。処理した全臍帯血に由来するaRNA、Lin(+)CD34細胞に由来するaRNA、Lin(-)CD34CD38細胞に由来するaRNA、およびLin(-)CD34CD38CD90細胞に由来するaRNAもまた調製した。図17は、全臍帯血(99%を超える系統+細胞)が、全臍帯血またはLin(+)CD34細胞から単離されたLin(-)CD34細胞と同じ形では16,16-ジメチルPGEに応答しなかったことを示す。
【0348】
時間パラメータ
10μMの16,16-ジメチルPGEと共に、37℃で5、15、30、60、または120分間にわたりインキュベートしたCD34細胞について、遺伝子発現プロファイルを解析した。120分間未満のインキュベーション(例えば、処理)期間の場合は、細胞を培地で洗浄して16,16-ジメチルPGEを除去し、次いで、細胞を、残りの時間にわたり培地中でインキュベートして、遺伝子発現の変化が生じるための時間をもたらした(図5を参照されたい)。
【0349】
結果は、16,16-ジメチルPGEへの曝露を長くすると、16,16-ジメチルPGEの発現シグネチャーにおいて、より大きな遺伝子発現が得られることを示した(図6を参照されたい)。これに対し、インキュベーション時間を極めて短く(5~15分間と)すると、16,16-ジメチルPGEの発現シグネチャーと関連する遺伝子における遺伝子発現の変化が結果として最小となった。遺伝子発現の変化は、16,16-ジメチルPGEとの30分間のインキュベーション後に現れたが、全ての実験を全120分間の経過時間後において評価した事実に関わりなく、120分間のインキュベーションまで増大し続けた。
【0350】
これは、下流の生物学的反応が生じると考えられていた短いインキュベーション時間で、移植の前に薬物でのEP/4受容体を負荷するのに十分であるべきことを示唆したかつての観察と対照的である。本発明による結果は、生物学的利益を達成するには、37℃など生理学的に適切な温度における、より長いインキュベーション時間(30分間より長い)が必要とされることを実証する。
【0351】
また、異なるインキュベーション時間によるヒトCD34細胞における、表3で列挙される遺伝子の16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーにおける発現変化を測定するのに、マイクロ流体qPCRプラットフォームも用いた。遺伝子発現解析は、表3で列挙される遺伝子を検出するための96ウェルフォーマットを包含する。
【0352】
【表3】
図14Aは、適切な遺伝子発現シグネチャーが、37℃、少なくとも約60分間にわたる、16,16-ジメチルPGEへの持続的な曝露、および37℃、最長で約4時間にわたる、16,16-ジメチルPGEへの持続的な曝露の後において検出可能であったことを示す。しかし、最大の遺伝子発現応答は、37℃、少なくとも約2時間にわたる、16,16-ジメチルPGEへの持続的な曝露の後において観察された。図14Bは、表3で列挙されるシグネチャー遺伝子についての平均遺伝子発現を示し、最大の遺伝子発現の変化が、37℃で少なくとも約2時間後において観察されたことを示す。図14Cは、骨髄ニッチへのホーミングの一因となるCXCR4についての発現データを示す。興味深いことに、遺伝子発現応答の動力学は、37℃、15分間だけで最大レベルに到達したcAMP応答と比較してはるかに緩徐であることが注目される。図14に示されるデータでは、以下の遺伝子群:ARPC2、SSTR1、CXCL5、SYT4、CXCL6、TMCC3、FGF9、GNAL、GULP1、LRIG2、PDE4D、PLAT(1)、およびPLAT(2)についての遺伝子発現の検出反応が失敗し、この解析から除外した。図14に示されるデータでは、以下の対照のハウスキーピング遺伝子:ACTB、GAPDH、HPRT1、およびQARSを用いた。
【0353】
さらに、16,16-ジメチルPGEによる短いパルス処理の後、薬物の非存在下における回復時間を施した細胞において、遺伝子発現シグネチャーを測定した。ヒトCD34細胞を、16,16-ジメチルPGEの存在で異なる時間にわたりインキュベートした後、in vivoにおける状況を反映するようにデザインした培地による洗浄および回復時間を施した。実験デザインは、細胞を処理し、洗浄して薬物を除去し、次いで、患者に投与する、ex vivoにおける処理パラダイムに適合した。CD34細胞を、16,16-ジメチルPGEと共に、37℃で5、15、30、60、または120分間にわたりインキュベートし、遺伝子発現シグネチャーを解析した。120分間未満のインキュベーション期間では、細胞を培地中で洗浄して16,16-ジメチルPGEを除去し、次いで、細胞を、遺伝子発現が生じることを可能とする残余の期間にわたり培地中でインキュベートした。
【0354】
図15は、16,16-ジメチルPGEによる短いパルス処理(5~15分間)が、「完全な」遺伝子発現応答を生成させるのに十分ではないことを示す。遺伝子発現の変化および認識可能な遺伝子発現シグネチャーは、16,16-ジメチルPGEとの約30分間にわたるインキュベーション後においてのみ観察され、約2時間後において最大となったが、これは、迅速なcAMP応答(図3を参照されたい)とは対照的である。したがって、具体的な臨床的実施形態では、生理学的条件下において(例えば、37℃で)、16,16-ジメチルPGEで120分間にわたり処理した臍帯血が、「頑健な」遺伝子発現シグネチャーを達成することから、処理した細胞の臨床的有効性の改善が示される。
【0355】
図15に示されるデータでは、以下の遺伝子群:ADCY7、CCND1、CREB5、GULP1、MPPE1、PDE3B、PTGER2、RGS2およびYPEL4についての遺伝子発現の検出反応が失敗し、これらを、この解析から除外した。図15に示されるデータでは、以下の対照のハウスキーピング遺伝子:ACTB、ARPC2、GAPDH、HPRT1、LRIG2、およびQARSを用いた。
【0356】
16,16-ジメチルPGEの濃度
異なる濃度の16,16-ジメチルPGE(ビヒクル、100nM、1μM、10μM、または100μM、図7を参照されたい)と共に、37℃で120分間にわたりインキュベートしたCD34細胞について、遺伝子発現プロファイルを解析した。結果は、完全な16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーが10μMで再現されるが、10μMを上回る16,16-ジメチルPGEにより遺伝子発現シグネチャーにさらなる実質的な変化が生じるわけではないことを示したことから、10μMが最適の処理用量であることが示唆される。
【0357】
ヒト全臍帯血細胞を用いてこれらの実験を繰り返し、CD34細胞についての発現結果を臨床的状況へと翻訳しうるかどうかを決定した。全臍帯血を処理するときは、(1)全臍帯血中に存在する細胞の複雑性が増大すること、(2)タンパク質が薬物に結合するために薬物レベルが低減されること、および(3)傍分泌効果の可能性があることを考慮に入れる。ヒト臍帯血細胞を、ビヒクル、100nM、1μM、10μM、25μM、または50μMの16,16-ジメチルPGEと共に、37℃で120分間にわたりインキュベートした(図8を参照されたい)。インキュベーション後、Lin(-)CD34細胞を単離し、標識化したaRNAを細胞から調製し、遺伝子発現プロファイルを解析した。ヒト臍帯血から単離されたLin(-)CD34細胞により、10μMでの16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーが再現され、10μMにより最大のシグネチャーがもたらされ、濃度を増大させても実質的な改善が観察されるわけではないことは、異なる濃度の16,16-ジメチルPGEと共にインキュベートしたCD34細胞についての結果と一致する。
【0358】
37℃、異なる濃度の16,16-ジメチルPGE(ビヒクル、100nM、1μM、10μM、50μM、または100μM)で2時間にわたり処理したヒトCD34細胞における、16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャー(遺伝子については表3を参照されたい)の発現変化を測定するにはまた、マイクロ流体qPCRプラットフォームも用いた。図16は、16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーは、10μMで最大となるが、10μMを上回る16,16-ジメチルPGEにより遺伝子発現シグネチャーにさらなる実質的な変化が生じることはないことを示す。
【0359】
図16に示されるデータでは、以下の遺伝子群:ADCY7、CCND1、CREB5、GULP1、FGFR1、FLJ27352、MPPE1、PDE4D、PTGER2、PDE3B、およびYPEL4についての遺伝子発現の検出反応が失敗し、これらを、この解析から除外した。図16に示されるデータでは、以下の対照のハウスキーピング遺伝子:ACTB、ARPC2、GAPDH、HPRT1、LRIG2、およびQARSを用いた。
【0360】
インキュベーション温度
4℃、25℃、または37℃で16,16-ジメチルPGEと共にインキュベートしたCD34細胞について、遺伝子発現プロファイルを解析した(図9および22を参照されたい)。これらの結果は、16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーと関連する遺伝子発現の変化が、37℃で60~120分間にわたるインキュベーションにおいて生じ、遺伝子発現の変化が最も頑健となるのは120分間のときであることを示した。加えて、濃度および温度を共に変化させたところ、より低い温度およびより高い濃度の16,16-ジメチルPGEを、より高い温度の効果を再現するのに用いることはできないことが決定された(データは示さない)。したがって、4℃および25℃で100μMの16,16-ジメチルPGEにおける処理では、得られる遺伝子発現の変化が、37℃で10μMの16,16-ジメチルPGEによる場合より小さくなる。
【0361】
したがって、結果は、ヒト臍帯血中で単離されたCD34細胞またはLin(-)CD34細胞における遺伝子発現の結果として、HSCのホーミングおよび生着に関与する遺伝子、例えば、CXCR4、cAMP応答性遺伝子、例えば、CREMの上方制御、ならびにPGEのシグナル伝達経路、細胞の接着、およびケモカインのシグナル伝達と関連する遺伝子発現の調節がもたらされることを示した。37℃で10μMの16,16-ジメチルPGEとのインキュベーション後には、25℃または4℃におけるインキュベーションと比較して、有意により多くの遺伝子が、少なくとも2倍遺伝子発現を増大または減少させた(t検定:各遺伝子/プローブについて、p<0.05)。特に、37℃では、25℃または4℃におけるインキュベーションと比較して、造血幹細胞および前駆細胞のホーミングと関連する遺伝子、例えば、CXCR4における遺伝子発現の統計学的に有意な変化(p=0.00014)、ならびにPGE/R4による細胞シグナル伝達経路の増大と関連する遺伝子、例えば、CREMにおける遺伝子発現の統計学的に有意な変化(p=0.0012)が見られた。
【0362】
さらに、前臨床的予測とは対照的に、かつてはCD34細胞生存度の低下および16,16-ジメチルPGE半減期の短縮と関連すると考えられていた、37℃でインキュベートした細胞において、アポトーシスまたは細胞死と関連する遺伝子の遺伝子発現の増大が観察さることはなかった。
【0363】
(実施例3)
細胞生存度アッセイ
Stem Cell Technologies(Vancouver、Canada)から得た全臍帯血細胞またはCD34細胞を、Eppendorfチューブにより均等に分注し、ex vivoにおいて、LMD/5%HSA培地中、ある範囲の16,16-ジメチルPGE濃度(10μM~100μM)またはDMSO対照、温度(4℃、22℃、または37℃)で、60、または120分間にわたり処理した。処理後、インキュベートされた細胞のアリコートを、7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)染色を細胞死の指標として用いてアッセイした。百万個の全臍帯血細胞を、5μLの7AAD染色溶液(BD Bioscience、San Jose、CA)で染色するか、または200,000個のCD34臍帯血細胞を、1μLの7-AAD溶液で染色した。細胞をGuava EasyCyte 8HT System(Millipore)上でFlowJoソフトウェアパッケージ(Tree Star Inc.、Ashland、OR)により解析した。また、CFU-Cアッセイ(以下の実施例4で論じられる)を用いて増殖の潜在能を評価するために、同じ細胞の別個のアリコートも採取した。
【0364】
結果は、16,16-ジメチルPGEと共に、高温で比較的長いインキュベーション時間にわたりインキュベートした全臍帯血細胞またはCD34細胞が、かつての前臨床実験から予測されることとは対照的に、他の条件でインキュベートした細胞と比較して、細胞生存度を低下させないことを示した。したがって、4℃から37℃で、7-AADにより評価された生細胞において統計学的に有意な減少が見られることはなかった(図10および19B~Cを参照されたい)。
【0365】
(実施例4)
細胞増殖アッセイ
メチルセルロースアッセイキットであるMethoCult(登録商標)GF H4034(Stem Cell Technologies、Vancouver、CA)を用いて、コロニー形成単位の細胞アッセイ(CFU-C)を実施した。Stem Cell Technologies(Vancouver、Canada)から得た全臍帯血細胞またはCD34細胞を、Eppendorfチューブにより均等に分注し、ex vivoにおいて、LMD/5%HSA培地中、ある範囲の16,16-ジメチルPGE濃度(10μM~100μM)またはDMSO対照、温度(4℃、22℃、または37℃)で、120分間にわたり処理した。処理後、細胞をLMD/5%HSA培地中で洗浄し、2%のウシ胎仔血清(FBS)(Stem Cell Technologies)を含有するイスコフ培地中で再懸濁させた。次いで、製造元の指示書に従い、細胞を、MethoCult(登録商標)アッセイチューブへと添加し、混合し、35mmの組織培養プレートにおいて平板培養した。別段に言及しない限り、WCB細胞10,000個およびCD34細胞250個の同等物を各プレートへと添加した。
【0366】
結果は、16,16-ジメチルPGEと共に、高温で比較的長いインキュベーション時間にわたりインキュベートした全臍帯血細胞またはCD34細胞が、かつての前臨床実験から予測されることとは対照的に、他の条件でインキュベートした細胞より増殖の潜在能(例えば、自己再生能)が高いことを示した。したがって、4℃から37℃で、統計学的に有意な細胞増殖の潜在能の増大が見られた(図11を参照されたい)。
【0367】
(実施例5)
16,16-ジメチルPGE2で処理した細胞におけるCXCR4の細胞表面発現
フローサイトメトリー
CD34臍帯血細胞(Stem Cell TechnologiesまたはAll
Cells)を、37℃、LMD/5%HSA中に10μMの16,16-ジメチルPGEまたは対照としてのDMSOで2時間にわたり処理した。処理後、細胞をLMD/5%HSAで洗浄し、650×gで10分間にわたり遠心分離した。次いで、他所で公表されているプロトコール(Parkら、2008年)に従い、細胞を分取して、長期前駆細胞、短期前駆細胞、および多分化能前駆細胞を単離した。次いで、細胞を染色用培地(上記で言及した)中で再懸濁させ、抗体色素を添加した。別段に言及しない限り、全ての抗体は、BD Biosciences製とした。系統枯渇抗体パネルは、CD2、CD3、CD4、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD14、CD19、CD20、CD56、CD235を包含し、全ての抗体をFITCに直接コンジュゲートした。用いた他の抗体は、CD34(8G12)-APC、CD38-PerCPCy5.5、CD45RA-V450、およびCD90-PEであった。細胞は、氷上で20分間にわたり推奨量の抗体で染色し、次いで、染色用培地で2回にわたり洗浄した。次いで、細胞を、細胞2百万個/mlで再懸濁させ、DiVaソフトウェア(BD Biosciences)を用いて、FACS Aria II上で分取した。細胞は、StemSpan培地中で回収し、RNAの抽出を実施するまで4℃で保存した。
CXCR4の表面発現解析
CD34臍帯血細胞を、37℃、StemSpan培地中10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOで2時間にわたり、または4℃で1時間にわたり処理した。処理後、細胞をStemSpan培地中で洗浄し、300×gで10分間にわたり遠心分離し、CD34細胞の生存を促進するサイトカイン(例えば、CC100)を含有するStemSpan培地中で再懸濁させ、37℃で1、6、および24時間にわたりインキュベートした。1、6、または24時間にわたるインキュベーション後において、細胞を遠心分離し、系統カクテル、1-FITC、CD34APC、CXCR4(CD184)-PEを含有する染色用培地中で再懸濁させ、氷上で15分間にわたりインキュベートした。次いで、新鮮な染色用培地を細胞に添加し、細胞を300gで10分間ずつ2回にわたり遠心分離した。染色した細胞をGuava EasyCyte 8HT上に取り込み、FloJoソフトウェアパッケージ(Treestar)を用いて解析を実施した。
【0368】
37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで2時間にわたり処理した全臍帯血(WCB)またはCD34細胞では、DMSOで処理した細胞または4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで1時間にわたり処理した細胞と比較して、CXCR4 RNA発現の増大が観察された。細胞表面におけるCXCR4の発現は、骨髄造血ニッチへの幹細胞のホーミングに重要である。図18は、特定の条件下、16,16-ジメチルPGEの存在下において、CXCR4タンパク質の表面発現が増大したことを示す。StemSpan培地中10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSO対照で37℃、2時間にわたり、または4℃、1時間にわたり、細胞を処理した。CXCR4細胞表面タンパク質の発現は、処理が終了した1、6、および24時間後においてフローサイトメトリーにより評価した。
【0369】
処理の1時間後、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34臍帯血細胞では、DMSOで処理した細胞のうちの3.5%と比較して、そのうちの48%でCXCR4発現が検出可能であった。処理の6時間後、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34臍帯血細胞では、DMSOで処理した細胞の1.7%と比較して、そのうちの34.7%が検出可能なレベルのCXCR4を発現した。処理の24時間後、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34臍帯血細胞に存在するCXCR4のレベルは、DMSOで処理した細胞と比較して実質的に同じであった。
【0370】
これに対し、4℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理したCD34臍帯血細胞は、CXCR4発現の増大を結果としてもたらさなかった。したがって、10μMの16,16-ジメチルPGEで処理した細胞におけるCXCR4 mRNAの発現は、細胞におけるCXCR4細胞表面タンパク質の発現を忠実に表す。したがって、具体的な臨床的実施形態では、HSCのホーミングおよび機能をもたらすHSCの最大の活性化を得るために、細胞を37℃の16,16-ジメチルPGEで処理することが、4℃における処理と比較して好ましい。
【0371】
(実施例6)
コロニー形成単位脾臓アッセイ
12日目におけるコロニー形成単位脾臓(CFU-S12)アッセイは、Northら、Nature.、2007年6月21日;447巻(7147号):1007~11頁において記載されている通りに実施した。8週齢のC57Bl/6ドナーマウスから全骨髄を単離し、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOとともに4℃、1時間または37℃、2時間にわたり、あるいはPBS中で処理した。処理後、細胞を遠心分離により洗浄し、既に10.5Gyの致死的に照射したC57Bl/6レシピエント(2×5/処置)への尾静脈注射のためにPBS中で再懸濁させた。レシピエント1匹当たりの細胞50,000個を注射した。
【0372】
37℃の16,16-ジメチルPGEで2時間にわたる処理後に、4℃の16,16-ジメチルPGEで1時間にわたる処理と比較して観察される、16,16-ジメチルPGEの遺伝子発現シグネチャーの増大を、CFU-Sアッセイでさらに確証した。
【0373】
マウスの骨髄を、4℃で1時間または37℃で2時間にわたる16,16-ジメチルPGEまたはDMSOによる10μMの処理に曝露し、照射したマウスに投与した。14日後、脾臓を切除し、コロニーをカウントした。結果は、4℃における処理により、cAMP応答または遺伝子発現シグナルの増大は誘発されなかったが、DMSOで処理した細胞と比較してCFU-S数のわずかな増大が結果としてもたらされることを示した。しかし、この増大は、細胞を37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEと共にインキュベートした場合より統計学的に有意に低い。
【0374】
マウスの全骨髄(WBM)細胞を、4℃または37℃で1または2時間にわたり、10μMの16,16-ジメチルPGEまたはDMSOに曝露した。細胞を10μMの16,16-ジメチルPGEで処理した場合に、温度に関わらず、DMSOで処理した細胞と比較してCFU-S12数の統計学的に有意な増大が観察された(図19A)。37℃で2時間にわたる10μMの16,16-ジメチルPGEへの曝露により、結果として11.5±1.4個のコロニーの形成がもたらされ、これは、4℃で1時間にわたる16,16-ジメチルPGEによる10μMの処理に曝露したWBMにおける8.5±1.3個のコロニー(p<0.005)、または37℃で2時間にわたるDMSOによる処理に曝露した場合の4.0±0.8個のコロニー(p<0.001)より有意に高かった。さらに、37℃、10μMの16,16-ジメチルPGEで1時間(11.2±1.5)または2時間(11.5±1.4)にわたり処理したWBMからも、同様の結果が得られた。4℃の16,16-ジメチルPGEによるWBMの処理でも同じ結果が観察され、1または2時間にわたる曝露により、それぞれ、8.5±1.3個および8.4±1.0個のコロニーという同様の結果が得られた。
【0375】
(実施例7)
16,16-ジメチルPGE2で処理した細胞の走化性の増強
製造元の指示書に従い96ウェル走化性チャンバー、小孔サイズを5μMとするポリカーボネート膜(Corning Inc.、Corning、NY)を用いて、走化性アッセイを実施した。略述すると、ヒトCD34臍帯血(hCD34CB)細胞をAll Cellsから得、製造元の指示書に従い解凍した。次いで、細胞を、37℃、StemSpan培地(Stem Cell Technology、Vancouver、Canada)中の濃度を10μMとする16,16-ジメチルPGEまたはDMSO対照で4時間にわたり処理した。次いで、細胞を遠心分離(300gで10分間にわたる)により洗浄し、Transwellアッセイ緩衝液(Phenol Red Free
RPMI培地(Mediatech)、0.5%の脂質非含有BSA(Sigma-Aldrich)中、75ul当たりの濃度を細胞40,000~60,000個として再懸濁させた。75μlの細胞懸濁液をプレートの上部チャンバーに添加する一方、0または50ng/mlのSDF1α(R&D system、Minneapolis、MN)を含有する235μlのTranswellアッセイ培地を下部ウェルに添加した。37℃、5%のCOにおける4時間のインキュベーションの後に7AAD(BD Biosciences)を用いて死細胞を除外するフローサイトメトリーにより、下部ウェルにおける全細胞数を得た。図20は、これらの実験において用いられるin vitroにおける走化性機能アッセイのフローチャートを示す。遊走のパーセントは、下部ウェルにおける細胞数を、投入された全細胞数で除し、100を乗じることにより計算した。試料は3連で解析し、次いで、統計学的な解析のためにデータを平均した。
【0376】
図21は、50ng/mlのSDF1αに曝露した場合、16,16-ジメチルPGEと共にインキュベートした、遊走するCD34細胞の数が、DMSOまたは陰性対照(SDF1αを0ng/mlとする)と共にインキュベートした、遊走するCD34細胞の数と比較して著明に増大することを示す。したがって、16,16-ジメチルPGEで処理したCD34細胞は、幹細胞のホーミング特性を、DMSOまたは処理されていない対照細胞と比較して増大させた。
【0377】
(実施例8)
第1b相臨床研究
概要
本発明者らが作成した前臨床データは、16,16-ジメチルPGEのHSCのホーミング、増殖、生存、および分化のプロモーターとしての使用を支持した。前臨床データに基づき、強度を低減する条件づけレジメンの後に二倍の(double)(臍帯血)CB移植を受ける、血液悪性疾患を伴う成人において、第Ib相臨床試験を開始した。研究の1つの主要目的は、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBの安全性を、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBユニットのキメラ現象を>5%とする42日目までの生着に基づき決定することであった。第2の目的は、生着までの時間、非血液学的な毒性の比率、移植の失敗、急性および慢性のGVHD、再発、処置関連死亡率(TRM)、キメラ現象率、ならびに無再発生存(overall survival)および全生存(overall survival)を包含した。二倍のUCB移植についての競合的生着動態により、dmPGEにより改変されたHSCが、調節されていないHSCを凌駕しうるかどうかの決定が可能となる。
【0378】
方法
臍帯血の選択基準は、各臍帯血ユニットの、被験体ならびに他の臍帯血ユニットに対する少なくとも4/6のHLA適合からなった。同胞ドナーも適合した非血縁ドナーもいない患者は、フルダラビン(-8~-3日目における静脈内の30mg/m2/日)、メルファラン(-2日目における静脈内の100mg/m2/日)、およびウサギATG(-7、-5、-3、および-1日目における1mg/kg/日)により条件づけた。免疫抑制レジメンは、シロリムス(標的:3~12ng/mL)およびタクロリムス(標的:5~10ng/mL)を包含した。0日目には、2つの臍帯血(UCB)ユニットを患者に施した:第1のUCBユニット(16,16-ジメチルPGEで処理したUCB)を温水浴中で解凍し、5%のヒト血清アルブミン(HSA)および低分子量(LMW)デキストランの溶液を用いて洗浄した。細胞を16,16-ジメチルPGEと共に、37℃で2時間にわたりインキュベートした。残留16,16-ジメチルPGEを除去するための最終洗浄後において、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBを、さらなる細胞操作を伴わずに注入することにより、患者に投与した。第2の処理されていないUCBユニットを解凍し、洗浄し、2~6時間後に、細胞を調節または操作することなしに注入した。
【0379】
結果
全12例の被験体を登録し、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBユニットを施したところ、このうち11例の被験体が、評価可能であった。年齢の中央値は、57.5歳(範囲:19~66歳)であり、67%が男性であった。診断には、AML(5例)、MDS(4例)、およびNHL/CLL(3例)が含まれた。0日目に、16,16-ジメチルPGEで処理される全てのUCBユニットを処理し、注入した。前低温保存時のUCBサイズの中央値は、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBユニット:1kg当たりのTNC細胞2.7×10個(範囲:2.0~5.1)および1kg当たりのCD34細胞1.3×10個(範囲:0.3~6.3)、処理されていないUCB:1kg当たりのTNC細胞2.0×10個(範囲:1.8~5)および1kg当たりのCD34細胞1.1×10個(範囲:0.5~3.4)であり、組み合わせた細胞用量の中央値は、1kg当たりのTNC細胞4.7×10個(範囲:3.9~10.1)および1kg当たりのCD34細胞2.1×10個(範囲:1.4~9.7)であった。
【0380】
16,16-ジメチルPGEによるUCBの処理は、著明な細胞喪失を結果としてもたらさず、CD34生細胞の平均回収率は90%であった。16,16-ジメチルPGEで処理したUCBに起因する有害事象には、悪寒、潮紅、腹痛、または咳からなる、4例の被験体におけるグレード1の注入関連事象5件が含まれた。公知の冠動脈疾患を伴うさらに1例の被験体では、注入によるグレード4の一過性ST上昇、および心筋トロポニンアッセイによる心筋虚血の証拠が認められた。
【0381】
好中球回復(1μL当たりの細胞>500個)までの時間の中央値は、17日間(範囲:15~27日間)であり、好ましくも同じ施設で同様に処置した患者の過去の対照群についての中央値である21日間と同等である(n=53、p=0.025)。これらのデータはまた好ましくも、ここでもまた、代替的なインキュベーションレジメン:16,16-ジメチルPGEによる、氷上で(温度を4℃とする)60分間にわたる処理を用いて調製した、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBと組み合わせた、処理されていないUCBユニットを施した、かつての患者9例のコホートとも同等である。これらの患者は、好中球回復までの時間の中央値が22日間であった。
【0382】
支持されていない血小板カウントがμL当たり20,000個となるまでの時間の中央値は、42日間(n=9(評価可能))であった。一次移植または二次移植の失敗例はなかった。評価可能な被験体11例中9例において、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBは、主要な造血供給源であり、14日目における16,16-ジメチルPGEで処理したUCBの全キメラ現象の中央値は90%であり、ここでもまた、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBユニットによる長期にわたる優越性が見られた。比較において、処理されていないUCBと、4℃/60分間のインキュベーションレジメンを用いて調製した、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBとを施された患者9例についてのかつての試験では、16,16-ジメチルPGEで処理したUCBが主要な造血供給源となったのは、9例中2例に過ぎなかった。
【0383】
現在のところ、グレード2の急性GvHDが観察されているのは2例だけであり、慢性GvHDの症例は観察されていない。加えて、EBVによるリンパ増殖性疾患の症例も認められなかった。追跡期間の中央値5.0カ月間(範囲:1.6~9.4カ月間)で、TRMは9%(1例の被験体)であり、1例の患者が再発し、9例の被験体が再発なしに生存する。
【0384】
結論
これらのデータは、UCB移植を受ける患者における生着を改善するためのex vivoにおける新規の調節法の利益を支持する。さらに、これらの実験からの結果は、インキュベーション温度を4℃から37℃へと高め、インキュベーション時間を60分間から120分間へと延長する結果として、16,16-ジメチルPGEで処理した細胞の生物学的活性が大幅に増大することを明らかに実証した。この一連の研究は、分子プロファイリングがいかにして臨床医学に直接的な影響を及ぼすかということの重要な例を示し、ex vivoにおける小分子による短時間にわたる処理により、細胞療法が増強されうることを実証する。
【0385】
(実施例9)
ex vivoにおいてDMPGE2で処理したマウス骨髄細胞の再配置活性についての4℃対37℃の直接対比(head to head)解析
本発明では、37℃で細胞をパルスしたときの、赤血球カウント、血小板カウント、および好中球カウントの回復の増強を含めたWBC回復に対するdmPGEの効果を、対照と比較して実証する。本研究は、ex vivoにおいてdmPGEで処理した細胞の生着についての4℃対37℃の直接比較である。類遺伝子性のCD45.1マウスおよびCD45.2マウスに由来する骨髄細胞を、ex vivoにおいて、10uMの16,16-dmPGEで2時間にわたり処理し、致死的に照射したCD45.1/CD45.2ハイブリッドレシピエントマウスへと共移植した。10匹のハイブリッドマウス群に、4℃の16,16-dmPGEで処理した100,000個のCD45.1骨髄細胞、および37℃の16,16-dmPGEで処理した100,000個のCD45.2骨髄細胞を施す。10匹のマウスの第2のコホートに、4℃の16,16-dmPGEで処理した100,000個のCD45.2骨髄細胞、および37℃の16,16-dmPGEで処理した100,000個のCD45.1骨髄細胞を施して、系統の偏りを補償する。移植の1、2、3、および4カ月間後にマウスから採血し、CD45.1陽性末梢血細胞およびCD45.2陽性末梢血細胞を決定する。4カ月間後に、三系統(tri-lineage)の再構築を評価して、任意の系統の再構築における偏りまたは差違を決定する。マウスを安楽死させ、移植の4カ月間後に骨髄キメラ現象の評価を実施する。50%/50%のキメラ現象からの逸脱は、処置プロトコールから結果として生じる生着能の変化を反映する。この研究についての図解による概要を、図24に示す。
【0386】
(実施例10)
方法
処理された全臍帯血からのLin(-)CD34細胞の単離
ヒト全臍帯血単核細胞は、Stem Cell Technologies(Vancouver、Canada)から得た。解凍したら、細胞を、LMD/5%HSA培地中の16,16-ジメチルPGEまたは適切な対照、例えば、DMSOで処理した。
【0387】
処理後、細胞をLMD/5%HSA培地で洗浄し、室温、650×gで10分間にわたり遠心分離し、低温の選択緩衝液(CaもMgも含まないリン酸緩衝生理食塩液(PBS)(2mMのEDTA、および0.5%のHSAを含む))中で再懸濁させた。Lineage(Lin)Depletion Kit(Miltenyi Biotec、abrun、CA)の後で、CD34enrichment kit(Miltenyi Biotec)を用いて磁気選択を実施した。系統の枯渇およびCD34細胞の濃縮は、製造元の指示書に従い、QuadroMACS(商標)分離器を用いて実施した。この工程の間、細胞を4℃に保った。処理された全臍帯血からLin-CD34細胞を単離したら、フローサイトメトリーによりアリコートを解析して、純度を評価した。細胞の純度は、90%を超えた。細胞の大半は、Affymetrix解析のためのPico Pure RNA Isolation Kit(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いるRNAの抽出に用いた。
【0388】
上記で記載した多様な実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。本明細書で参照され、かつ/または出願データシートで列挙される全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物は、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる。多様な特許、出願、および刊行物の概念を用いてなおさらなる実施形態を提供することが必要である場合は、実施形態の態様を改変することができる。
【0389】
上記の詳細な説明に照らして、これらの変化および他の変化を実施形態に施すことができる。一般に、以下の特許請求の範囲では、用いられる用語を、特許請求の範囲を本明細書において開示される特定の実施形態に限定するように解釈すべきではなく、このような特許請求の範囲が権利を付与される全範囲と共に、可能な全ての実施形態を包含するように解釈すべきである。したがって、特許請求の範囲は、本開示により限定されるものではない。
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図19-2】
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【配列表】
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【外国語明細書】