(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109780
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】HER2二量体化阻害剤ペルツズマブの使用及びペルツズマブを含む製造品
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230801BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230801BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230801BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230801BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A61K39/395 T ZNA
A61K31/337
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023075391
(22)【出願日】2023-05-01
(62)【分割の表示】P 2022000876の分割
【原出願日】2012-10-11
(31)【優先権主張番号】61/547,535
(32)【優先日】2011-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/567,015
(32)【優先日】2011-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/657,669
(32)【優先日】2012-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/682,037
(32)【優先日】2012-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/694,584
(32)【優先日】2012-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アラバタム, スリードハラ
(72)【発明者】
【氏名】アムラー, ルーカス シー.
(72)【発明者】
【氏名】デ トレド ペリゾン, クリスティーナ エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ベニュネ, マーク シー.
(72)【発明者】
【氏名】クラーク, エマ エル.
(72)【発明者】
【氏名】クウォン グローヴァー, ツェファニア ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル, ラダ
(72)【発明者】
【氏名】ラトナヤケ, ジャヤンタ
(72)【発明者】
【氏名】ロス,グラハム エー.
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー, ル-アミール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ファーストインクラスのHER2二量体化阻害剤であるペルツズマブの使用及びそれを含む製造品を提供する。
【解決手段】トラスツズマブ及びドセタキセルと組み合わせて、内臓疾患を有するHER2陽性乳癌患者において無増悪生存期間を6カ月以上延長することに使用するための医薬であって、ペルツズマブを含み、前記HER2陽性乳癌が、転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌又はデノボのステージIVの疾患である、医薬を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2陽性乳癌患者集団において無増悪生存期間を6カ月以上延長するための方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記集団の患者において80%以上の奏効率をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化学療法剤がタキサンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
タキサンがドセタキセルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
乳癌が、転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌又はデノボのステージIVの疾患である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記集団の患者が、前治療歴がないか又はアジュバント療法後に再発している、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
HER2陽性乳癌が、免疫組織化学的検査(IHC)3+及び/又は蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)増幅比2.0以上と定義される、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記集団の患者が、ベースラインにおいて50%以上の左室駆出率(LVEF)を有する、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記集団の患者が、0又は1の米国東海岸癌臨床試験グループパフォーマンスステータス(ECOG PS)を有する、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
HER2陽性癌患者集団において心毒性を増加することなくHER2陽性癌を治療するために2種のHER2抗体を併用する方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含む、方法。
【請求項11】
前記患者集団の心毒性が、症候性左室収縮機能不全(LVSD)もしくはうっ血性心不全(CHF)の発生率又は左室駆出率(LVEF)の低下に関してモニターされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
HER2陽性癌が乳癌である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
乳癌が、転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌又はデノボのステージIVの疾患である、請求項10から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを含む製造品であって、添付文書が、表3又は表4の安全性データを提供する、製造品。
【請求項15】
添付文書が、表2、表5、
図8又は
図10の有効性データを提供する、請求項14に記載の製造品。
【請求項16】
バイアルが、約420mgのペルツズマブを含有する単回用量バイアルである、請求項14又は請求項15に記載の製造品。
【請求項17】
ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを一緒に包装することを含む製造品の製造方法であって、添付文書が、表3又は表4の安全性データを提供する、方法。
【請求項18】
ペルツズマブの安全かつ効果的な使用を確実にする方法であって、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを一緒に包装することを含み、添付文書が、表3又は表4の安全性データ及び表2、表5、
図8又は
図10の有効性データを提供する、方法。
【請求項19】
早期HER2陽性乳癌を治療する方法であって、乳癌患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含み、化学療法剤が、アントラサイクリン系化学療法剤又はカルボプラチン系化学療法剤を含む、方法。
【請求項20】
化学療法剤が、5-FU、エピルビシン及びシクロホスファミド(FEC)を含むアントラサイクリン系化学療法剤を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ペルツズマブが、アントラサイクリン系化学療法剤と同時に投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
化学療法剤が、ドセタキセル及びカルボプラチンを含むカルボプラチン系化学療法剤を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
ペルツズマブがカルボプラチン系化学療法剤と同時に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ペルツズマブの投与が、ペルツズマブを用いない治療と比較して心毒性を増加させない、請求項19から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
ネオアジュバント又はアジュバント療法を含む、請求項19から24の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
患者のHER2陽性癌を治療する方法であって、同一点滴静注バッグからペルツズマブとトラスツズマブの混合物を患者に同時投与することを含む、方法。
【請求項27】
化学療法剤を患者に投与することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
癌患者への投与に適した、ペルツズマブとトラスツズマブの安定な混合物を含有する点滴静注(IV)バッグ。
【請求項29】
混合物が生理食塩水溶液である、請求項28に記載のIVバッグ。
【請求項30】
生理食塩水溶液が、約0.9%のNaCl又は約0.45%のNaClを含む、請求項29に記載のIVバッグ。
【請求項31】
250mLの0.9%生理食塩水が入ったポリオレフィン製又はポリ塩化ビニル製の点滴バッグである、請求項28から30の何れか一項に記載のIVバッグ。
【請求項32】
ペルツズマブ約420mg又は約840mgとトラスツズマブ約200mg~約1000mgの混合物を含む、請求項28から31の何れか一項に記載のIVバッグ。
【請求項33】
混合物が、5℃又は30℃において最長24時間にわたって安定である、請求項28から32の何れか一項に記載のIVバッグ。
【請求項34】
安定性が、色、外観及び透明度(CAC)、濃度及び濁度分析、粒子分析、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、イメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)、及び効力アッセイからなる群から選択されるアッセイによって評価されている、請求項28から33の何れか一項に記載のIVバッグ。
【請求項35】
ヒト対象におけるHER2陽性胃癌を治療する方法であって、HER2陽性胃癌を有する対象にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含む、方法。
【請求項36】
胃癌が、既知の方法による治癒的療法に受け入れられない可能性がある切除不可能な局所進行性胃癌もしくは転移性胃癌もしくは進行性の術後再発性胃癌、又は胃もしくは胃食道接合部の腺癌を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
患者が、転移性胃癌のための抗癌治療の前治療歴がなく、0~1の米国東海岸癌臨床試験グループパフォーマンスステータススケール(ECOG PS)又はIHC3+もしくはIHC2+/ISH+のHER2陽性状態を有する、請求項35又は請求項36に記載の方法。
【請求項38】
化学療法剤が、プラチン(シスプラチン)及び/又はフルオロピリミジン(カペシタビンもしくは5-フルオロウラシル(5-FU))を含む、請求項35から37の何れか一項に記載の方法。
【請求項39】
ペルツズマブ、トラスツズマブ、シスプラチン及びカペシタビン又は5-FUが投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ペルツズマブが、全治療周期において840mgの用量で投与される、請求項35から39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
トラスツズマブ及び化学療法剤のみで治療された患者と比較して全生存期間(OS)を改善し、又はトラスツズマブ及び化学療法剤のみでの治療と比較して無増悪生存期間(PFS)又は奏効率(RR)を改善する、請求項35から40の何れか一項に記載の方法。
【請求項42】
ヒト対象における胃癌を治療する方法であって、胃癌を有する対象にペルツズマブを投与することを含み、ペルツズマブが全治療周期において840mgの用量で投与される、方法。
【請求項43】
ペルツズマブが、6つの治療周期に関して840mgの用量で投与される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
対象においてペルツズマブのトラフレベルを約20μg/mL超に維持する、請求項42又は請求項43に記載の方法。
【請求項45】
トラスツズマブ及び化学療法剤を対象に投与することをさらに含む、請求項42から44の何れか一項に記載の方法。
【請求項46】
現在の治療の6カ月より前に完了した以前のアジュバント又はネオアジュバント療法を除いて転移性疾患のための化学療法の前治療歴がないヒト患者における胃又は胃食道接合部のHER2陽性の切除不可能な又は転移性の腺癌を治療する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ、シスプラチン及びカペシタビン又はフルオロウラシル(5-FU)を、無増悪生存期間(PFS)及び/又は全生存期間(OS)を改善する量で患者に投与することを含み、患者が0~1の米国東海岸癌臨床試験グループパフォーマンスステータススケール(ECOG PS)を有する、方法。
【請求項47】
胃又は胃食道接合部のHER2陽性の切除不可能な又は転移性の腺癌を有するヒト患者において無増悪生存期間(PFS)を改善する方法であって、患者にペルツズマブをトラスツズマブ及び化学療法剤と併用投与することを含む、方法。
【請求項48】
患者のHER2陽性乳癌を治療する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ及びビノレルビンを患者に投与することを含む、方法。
【請求項49】
ペルツズマブ及びトラスツズマブが、単一点滴静注バッグから患者に同時投与される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
乳癌が、転移性又は局所進行性である、請求項48又は49に記載の方法。
【請求項51】
患者が、転移性の設定における全身的非ホルモン性抗癌療法の前治療歴がない、請求項48から50の何れか一項に記載の方法。
【請求項52】
患者のHER2陽性乳癌を治療する方法であって、患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及びアロマターゼ阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項53】
アロマターゼ阻害剤がアナストロゾール又はレトロゾールである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
乳癌が、ホルモン受容体陽性進行性乳癌である、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項55】
ホルモン受容体が、エストロゲン受容体(ER)及び/又はプロゲステロン受容体(PgR)である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
患者が、転移性の設定における全身的非ホルモン性抗癌療法の前治療歴がない、請求項52から55の何れか一項に記載の方法。
【請求項57】
患者が、導入化学療法を受ける、請求項52から56の何れか一項に記載の方法。
【請求項58】
導入化学療法がタキサンを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
添付文書が、実施例4の警告枠をさらに含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項60】
癌患者を治療する方法であって、初回量840mgのペルツズマブを、続いてその後3週間毎に用量420mgのペルツズマブを患者に投与することを含み、2つの逐次420mg用量の間隔が6週間以上となったら、840mg用量のペルツズマブを患者に再投与することをさらに含む、方法。
【請求項61】
840mg用量の再投与後3週間毎に420mgのペルツズマブを投与することをさらに含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
癌患者がHER2陽性乳癌を有する、請求項60又は請求項61に記載の方法。
【請求項63】
トラスツズマブ及び化学療法剤で治療された患者と比較して死亡リスクを約34%以上低下させる、請求項1から13の何れかに記載の方法。
【請求項64】
添付文書が、実施例9又は表14の全生存期間(OS)有効性データをさらに提供する、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項65】
患者のHER2陽性の転移性又は局所再発性乳癌を治療するための方法であって、患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及びタキソイドを投与することを含み、患者に、アジュバント療法又はネオアジュバント療法としてのトラスツズマブ及び/又はラパチニブによる前治療歴がある、方法。
【請求項66】
タキソイドが、ドセタキセル、パクリタキセル又はnab-パクリタキセルである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
タキソイドが、パクリタキセル又はnab-パクリタキセルである、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
患者に、ネオアジュバント療法としてトラスツズマブによる前治療歴がある、請求項65から67の何れか一項に記載の方法。
【請求項69】
患者の低HER3卵巣癌、原発性腹膜癌又は卵管癌を治療するための方法であって、患者にペルツズマブ及び化学療法剤を投与することを含み、低いHER3癌が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって評価された場合に、約2.81以下の濃度比でHER3 mRNAを発現する、方法。
【請求項70】
化学療法剤が、ゲムシタビン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、トポテカン又はペグ化リポソームドキソルビシン(PLD)を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
化学療法剤がパクリタキセル又はトポテカンを含む、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
癌が、白金抵抗性又は白金不応性の上皮性卵巣癌である、請求項69から71の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
37CFR§1.53(b)に基づいて出願されたこの非仮出願は、2011年10月14日に出願された米国特許仮出願第61/547,535号、2011年12月5日に出願された米国特許仮出願第61/567,015号、2012年6月8日に出願された米国特許仮出願第61/657,669号、2012年8月10日に出願された米国特許仮出願第61/682,037号及び2012年8月29日に出願された米国特許仮出願第61/694,584号の、35USC§119(e)に基づく利益を主張する。これらの出願全体を参照することによって本明細書中に組み込む。
【0002】
本発明は、ファーストインクラスのHER2二量体化阻害剤であるペルツズマブの使用及びペルツズマブを含む製造品に関する。
【0003】
詳細には、本発明は、HER2陽性乳癌患者集団において無増悪生存期間を延長すること;心毒性を増加することなくHER2陽性癌を治療するために2種のHER2抗体を併用すること;早期HER2陽性乳癌を治療すること;同一点滴静注バッグからペルツズマブとトラスツズマブの混合物を同時投与することによってHER2陽性癌を治療すること;HER2陽性転移性胃癌を治療すること;ペルツズマブ、トラスツズマブ及びビノレルビンでHER2陽性乳癌を治療すること;ペルツズマブ、トラスツズマブ及びアロマターゼ阻害剤でHER2陽性乳癌を治療すること;並びに低HER3卵巣癌、原発性腹膜癌又は卵管癌を治療することに関する。
【0004】
本発明はまた、ペルツズマブを含むバイアルと、安全性及び/又は有効性データを提供する添付文書とを含む製造品;前記製造品の製造方法;並びにそれに関連するペルツズマブの安全かつ効果的な使用を確実にする方法に関する。
【0005】
加えて、本発明は、癌患者への投与に好適な、ペルツズマブとトラスツズマブの安定な混合物を含む点滴静注(IV)バッグに関する。
【背景技術】
【0006】
受容体チロシンキナーゼのHERファミリーのメンバーは、細胞の増殖、分化及び生存の重要なメディエーターである。受容体ファミリーは、上皮成長因子受容体(EGFR、ErbB1又はHER1)、HER2(ErbB2又はp185neu)、HER3(ErbB3)及びHER4(ErbB4又はtyro2)を含む4つの異なるメンバーを含む。受容体ファミリーのメンバーは、種々のタイプのヒト悪性疾患に関与している。
【0007】
組換えヒト化型のマウス抗HER2抗体4D5(huMAb4D5-8、rhuMAbHER2、トラスツズマブ又はHERCEPTIN(登録商標);米国特許第5,821,337号)は、広範な抗癌療法の前治療歴がある、HER2を過剰発現する転移性乳癌の患者において臨床的に有効である(Baselgaら、J.Clin.Oncol. 14巻:737~744頁(1996年))。
【0008】
トラスツズマブは、腫瘍がHER2タンパク質を過剰発現させる転移性乳癌患者の治療に関して、1998年9月25日に食品医薬品局から販売承認を得ている。現在のところ、トラスツズマブは、転移性の設定においては単剤としての使用又は化学療法もしくはホルモン療法との併用が承認されており、早期HER2陽性乳癌患者に関しては単剤としての使用又はアジュバント治療としての化学療法との併用が承認されている。トラスツズマブをベースとする治療法は、現在、その使用に禁忌がないHER2陽性早期乳癌患者のための推奨治療である(ハーセプチン(登録商標)処方情報;NCCNガイドライン、2011年第2版)。トラスツズマブ+ドセタキセル(又はパクリタキセル)は、第一選択の転移性乳癌(MBC)治療の設定において登録されている標準治療である(Slamonら N Engl J Med.2001年;344巻(11号):783~792頁;Martyら J Clin Oncol. 2005年;23巻(19号):4265~4274頁)。
【0009】
トラスツズマブの投与は乳癌の治療において優れた結果につながっているが、ラパチニブの臨床試験からの最近のデータは、トラスツズマブの投与でもHER2は腫瘍生物学において積極的な役割を果たすことを示唆しているように思われる(Geyerら、N Engl J Med 2006年;355巻:2733~2743頁)。
【0010】
HER2抗体トラスツズマブで治療される患者は、HER2発現に基づいて治療法のために選択される。例えば、WO99/31140(Patonら)、US2003/0170234A1(Hellmann,S.)及びUS2003/0147884(Patonら);並びにWO01/89566、US2002/0064785及びUS2003/0134344(Massら)を参照のこと。また、HER2過剰発現及び増幅を検出するための免疫組織化学的検査(IHC)及び蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)に関する、米国特許第6,573,043号、米国特許第6,905,830号及びUS2003/0152987(Cohenら)を参照のこと。したがって、転移性乳癌の最適な管理は、現在、患者の全身状態、病歴及び受容体の状態だけでなく、HER2の状態も考慮に入れる。
【0011】
ペルツズマブ(組換えヒト化モノクローナル抗体2C4(rhuMAb 2C4)としても知られている;Genentech,Inc、South San Francisco)は、HER二量体化阻害剤(HDI)として知られる新種の薬剤において最初のものであり、他のHER受容体(例えば、EGFR/HER1、HER2、HER3及びHER4)と活性なヘテロ二量体又はホモ二量体を形成するHER2の能力を阻害する働きをする。例えば、Harari及びYarden Oncogene 19巻:6102~14頁(2000年);Yarden及びSliwkowski. Nat Rev Mol Cell Biol 2巻:127~37頁(2001年);Sliwkowski Nat Struct Biol 10巻:158~9頁(2003年);Choら Nature 421巻:756~60頁(2003年);並びにMalikら Pro Am Soc Cancer Res 44巻:176~7頁(2003年)を参照のこと。
【0012】
腫瘍細胞におけるHER2-HER3ヘテロ二量体の形成の、ペルツズマブによる遮断は、腫瘍の増殖及び生存を減少させる決定的な細胞シグナル伝達を阻害することが実証されている(Agusら Cancer Cell 2巻:127~37頁(2002年))。
【0013】
ペルツズマブは、進行癌の患者におけるフェーズIa試験と、卵巣癌及び乳癌並びに肺及び前立腺癌の患者におけるフェーズII試験において、診療所で単剤として試験された。フェーズIの研究においては、標準的な治療法の間又はその後に増悪した、不治の、局所進行性の、再発性の又は転移性の固形腫瘍の患者が、ペルツズマブを3週毎に静脈内投与することにより治療された。ペルツズマブは一般に忍容性が良好であった。奏効が評価可能な20例の患者のうち3例において、腫瘍縮小が達成された。2例の患者は、部分奏効を確認した。2.5カ月を超えて持続する安定(stable disease)が、21例の患者のうち6例において観察された(Agusら Pro Am Soc Clin Oncol 22巻:192頁(2003年))。2.0~15mg/kgの用量において、ペルツズマブの薬物動態は線形であり、平均クリアランスは2.69~3.74mL/日/kgの範囲であり、平均終末排出半減期は15.3~27.6日の範囲であった。ペルツズマブに対する抗体は検出されなかった(Allisonら Pro Am Soc Clin Oncol 22巻:197頁(2003年))。
【0014】
US2006/0034842は、抗ErbB2抗体の組合せによって、ErbBを発現する癌を治療するための方法を記載している。US2008/0102069は、HER2陽性転移性癌、例えば、乳癌の治療におけるトラスツズマブ及びペルツズマブの使用を記載している。Baselgaら(J Clin Oncol、2007 ASCO Annual Meeting Proceedings Part I、Col.25、No.18S(June 20 Supplement)、2007年:1004頁)は、トラスツズマブの治療中に増悪した、前治療歴があるHER2陽性乳癌患者の、トラスツズマブとペルツズマブの併用治療を報告している。Porteraら(J Clin Oncol,2007 ASCO Annual Meeting Proceedings Part I. Vol.25、No.18S(June 20 Supplement)、2007年:1028頁)は、トラスツズマブをベースとする治療法時に増悪(progressive disease)のあるHER2陽性乳癌患者において、トラスツズマブ+ペルツズマブの併用療法の有効性及び安全性を評価した。著者らは、この治療レジメンの全体的なリスク及びベネフィットを明確にするには、併用治療の有効性のさらなる評価が必要であると結論付けた。
【0015】
ペルツズマブは、フェーズII研究で、転移性疾患のためのトラスツズマブの前投与歴があるHER2陽性転移性乳癌患者において、トラスツズマブとの併用で評価された。国立癌研究所(NCI)によって実施された1つの研究は、前治療歴があるHER2陽性転移性乳癌の患者11例を登録した。11例の患者のうち2例が、部分奏効(PR)を示した(Baselgaら、J Clin Oncol 2007 ASCO Annual Meeting Proceedings;25:18S(June 20 Supplement):1004頁)。2010年12月8~12日にCTRC-AACR San Antonio Breast Cancer Symposium(SABCS)で発表された、早期HER2陽性乳癌女性においてペルツズマブ及びトラスツズマブ+化学療法剤(ドセタキセル)の新規併用レジメンの効果を評価するフェーズIIネオアジュバント研究の結果は、手術前のネオアジュバントの設定において投与された2種のHER2抗体+ドセタキセルが、乳房における腫瘍の完全消失率(病理学的完全奏効率(pCR)45.8%)を、トラスツズマブ+ドセタキセル(pCR29.0%)と比較して半分超、有意に改善することを示した(p=0.014)。
【0016】
HER2抗体に関連した特許公報は、以下の通りである:米国特許第5,677,171号;第5,720,937号;第5,720,954号;第5,725,856号;第5,770,195号;第5,772,997号;第6,165,464号;第6,387,371号;第6,399,063号;第6,015,567号;第6,333,169号;第4,968,603号;第5,821,337号;第6,054,297号;第6,407,213号;第6,639,055号;第6,719,971号;第6,800,738号;第8,075,890号;第5,648,237号;第7,018,809号;第6,267,958号;第6,685,940号;第6,821,515号;第7,060,268号;第7,682,609号;第7,371,376号;第6,127,526号;第6,333,398号;第6,797,814号;第6,339,142号;第6,417,335号;第6,489,447号;第7,074,404号;第7,531,645号;第7,846,441号;第7,892,549号;第8,075,892号;第6,573,043号;第6,905,830号;第7,129,051号;第7,344,840号;第7,468,252号;第7,674,589号;第7,919,254号;第6,949,245号;第7,485,302号;第7,498,030号;第7,501,122号;第7,537,931号;第7,618,631号;第7,862,817号;第7,041,292号;第6,627,196号;第7,371,379号;第6,632,979号;第7,097,840号;第7,575,748号;第6,984,494号;第7,279,287号;第7,811,773号;第7,993,834号;第8,076,066号;第8,044,017号;第7,435,797号;第7,850,966号;第7,485,704号;第7,807,799号;第8,142,784号;第7,560,111号;第7,879,325号;第8,241,630号;第7,449,184号;第8,163,287号;第7,700,299号;第7,981,418号;第8,247,397号;及びUS2010/0016556;US2005/0244929;US2001/0014326;US2003/0202972;US2006/0099201;US2010/0158899;US2011/0236383;US2011/0033460;US2008/0286280;US2005/0063972;US2006/0182739;US2009/0220492;US2003/0147884;US2004/0037823;US2005/0002928;US2007/0292419;US2008/0187533;US2011/0250194;US2012/0034213;US2003/0152987;US2005/0100944;US2006/0183150;US2008/0050748;US2009/0155803;US2010/0120053;US2005/0244417;US2007/0026001;US2008/0160026;US2008/0241146;US2005/0208043;US2005/0238640;US2006/0034842;US2006/0073143;US2006/0193854;US2006/0198843;US2011/0129464;US2007/0184055;US2007/0269429;US2008/0050373;US2006/0083739;US2009/0087432;US2006/0210561;US2002/0035736;US2002/0001587;US2008/0226659;US2002/0090662;US2006/0046270;US2008/0108096;US2007/0166753;US2008/0112958;US2009/0239236;US2012/0034609;US2012/0093838;US2004/0082047;US2012/0065381;US2009/0187007;US2011/0159014;US2004/0106161;US2011/0117096;US2004/0258685;US2009/0148402;US2009/0099344;US2006/0034840;US2011/0064737;US2005/0276812;US2008/0171040;US2009/0202536;US2006/0013819;US2012/0107391;US2006/0018899;US2009/0285837;US2011/0117097;US2006/0088523;US2010/0015157;US2006/0121044;US2008/0317753;US2006/0165702;US2009/0081223;US2006/0188509;US2009/0155259;US2011/0165157;US2006/0204505;US2006/0212956;US2006/0275305;US2012/0003217;US2007/0009976;US2007/0020261;US2007/0037228;US2010/0112603;US2006/0067930;US2007/0224203;US2011/0064736;US2008/0038271;US2008/0050385;US2010/0285010;US2011/0223159;US2008/0102069;US2010/0008975;US2011/0245103;US2011/0246399;US2011/0027190;US2010/0298156;US2011/0151454;US2011/0223619;US2012/0107302;US2009/0098135;US2009/0148435;US2009/0202546;US2009/0226455;US2009/0317387;US2011/0044977;US2012/0121586。
【発明の概要】
【0017】
第1の態様において、本発明は、HER2陽性乳癌患者集団において無増悪生存期間を6カ月以上延長するための方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤(例えば、タキサン、例えば、ドセタキセル)を投与することを含む、方法に関する。場合によっては、この方法は、前記集団の患者において80%以上の奏効率をもたらす。乳癌は場合によっては、転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌又はデノボのステージIVの疾患である。一実施形態において、集団の患者は、前治療歴がないかもしくはアジュバント療法後に再発している;ベースラインにおいて50%以上の左室駆出率(LVEF)を有する;かつ/又は0又は1の米国東海岸癌臨床試験グループパフォーマンスステータス(ECOG PS)を有する。場合によっては、HER2陽性乳癌は、免疫組織化学的検査(IHC)3+及び/又は蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)増幅比2.0以上と定義する。場合によっては、この方法は、トラスツズマブ及び化学療法剤で治療された患者と比較して死亡リスクを約34%以上低下させる。
【0018】
別の態様において、本発明は、HER2陽性癌患者集団において心毒性を増加することなくHER2陽性癌を治療するために2種のHER2抗体を併用する方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含む、方法に関する。場合によっては、前記患者集団の心毒性は、症候性左室収縮機能不全(LVSD)もしくはうっ血性心不全(CHF)の発生率又は左室駆出率(LVEF)の低下に関してモニターする。HER2陽性癌は場合によっては、乳癌、例えば、転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌又はデノボのステージIVの疾患である。
【0019】
別の態様において、本発明は、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを含む製造品であって、添付文書が、表3もしくは表4の安全性データ及び/又は表2、表5、
図8もしくは
図10の有効性データを提供する、製造品に関する。
【0020】
本発明はさらに、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを一緒に包装することを含む製造品の製造方法であって、添付文書が、表3もしくは表4の安全性データ及び/又は表2、表5、
図8もしくは
図10の有効性データを提供する、方法に関する。
【0021】
関連した態様において、本発明は、ペルツズマブの安全かつ効果的な使用を確実にする方法であって、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを一緒に包装することを含み、添付文書が、表3もしくは表4の安全性データ及び/又は表2、表5、
図8もしくは
図10の有効性データを提供する、方法に関連する。
【0022】
場合によっては、製造品は、約420mgのペルツズマブを含有する単回用量バイアルを含む。
【0023】
場合によっては、添付文書は、実施例4の警告枠をさらに含む。
【0024】
場合によっては、添付文書は、実施例9又は表14の全生存期間(OS)有効性データをさらに提供する。
【0025】
別の態様において、本発明は、早期HER2陽性乳癌を治療する方法であって、乳癌患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含み、化学療法剤が、アントラサイクリン系化学療法剤(例えば、5-FU、エピルビシン及びシクロホスファミド(FEC))又はカルボプラチン系化学療法剤(例えば、ドセタキセル及びカルボプラチン)を含む、方法に関する。場合によっては、ペルツズマブは、アントラサイクリン系化学療法剤又はカルボプラチン系化学療法剤と同時に投与する。この方法の一実施形態において、ペルツズマブの投与は、ペルツズマブを用いない治療と比較して心毒性を増加させない。早期HER2陽性乳癌のこのような治療は場合によっては、ネオアジュバント又はアジュバント療法を含む。
【0026】
本発明はさらに、患者のHER2陽性癌を治療する方法であって、同一点滴静注バッグからペルツズマブとトラスツズマブの混合物を患者に同時投与することを含む、方法に関する。このような方法は、場合によっては、患者に化学療法剤を投与することをさらに含む。
【0027】
関連した態様において、本発明は、癌患者への投与に好適な、ペルツズマブとトラスツズマブの安定な混合物を含有する点滴静注(IV)バッグを提供する。混合物は、場合によっては、生理食塩水溶液であり、生理食塩水は、例えば、約0.9%のNaCl又は約0.45%のNaClを含む。IVバッグは、場合によっては、250mLの0.9%生理食塩水が入ったポリオレフィン製又はポリ塩化ビニル製の点滴静注バッグである。一実施形態において、IVバッグは、ペルツズマブ約420mg又は約840mgとトラスツズマブ約200mg~約1000mgの混合物を含有する。一実施形態において、この混合物は、5℃又は30℃において最長24時間にわたって安定である。混合物の安定性は、色、外観及び透明度(CAC)、濃度及び濁度分析、粒子分析、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、イメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)並びに効力アッセイからなる群から選択される1種又は複数のアッセイによって評価し得る。
【0028】
本発明は、胃癌のための新しい治療レジメンを提供する。特に、本発明は、トラスツズマブ、ペルツズマブ及び少なくとも1種の化学療法剤の併用による、ヒト対象におけるHER2陽性胃癌の治療に関する。
【0029】
一態様において、本発明は、ヒト対象におけるHER2陽性胃癌を治療する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0030】
一態様において、本発明は、ヒト対象における胃癌を治療する方法であって、胃癌を有する対象にペルツズマブを投与することを含み、ペルツズマブが、全治療周期において840mgの用量で投与される、方法に関する。
【0031】
別の態様において、本発明は、HER2陽性胃癌を有するヒト対象における生存期間を改善する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0032】
さらに別の態様において、本発明は、ヒト対象におけるHER2陽性胃癌の治療に使用するためのペルツズマブとトラスツズマブ及び化学療法剤との併用に関する。
【0033】
さらなる態様において、本発明は、HER2陽性胃癌の治療のための医薬の調製におけるペルツズマブの使用であって、治療が、ペルツズマブをトラスツズマブ及び化学療法剤と併用投与することを含む、使用に関する。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、HER2陽性胃癌の治療のための医薬の調製におけるトラスツズマブの使用であって、治療が、トラスツズマブをペルツズマブ及び化学療法剤と併用投与することを含む、使用に関する。
【0035】
別の態様において、本発明は、ペルツズマブを含む容器と使用説明書とを含むキットであって、対象のHER2陽性胃癌を治療するためにペルツズマブをトラスツズマブ及び化学療法剤と併用投与するための、キットに関する。
【0036】
さらに別の態様において、本発明は、トラスツズマブを含む容器と使用説明書とを含むキットであって、対象のHER2陽性胃癌を治療するためにトラスツズマブをペルツズマブ及び化学療法剤と併用投与するための、キットに関する。
【0037】
全ての態様において、胃癌は、例えば、既知の方法による治癒的療法を受け入れられない可能性がある、切除不可能な局所進行性胃癌、もしくは転移性胃癌、もしくは進行性の術後再発性胃癌であり得る。全ての態様において、胃癌は、胃又は胃食道接合部の腺癌を含む。全ての態様において、特定の一実施形態において、患者は、転移性胃癌のための抗癌治療の前治療歴がなかった。全ての態様において、特定の一実施形態において、化学療法は、プラチン及び/又はフルオロピリミジンの投与を含む。特定の実施形態において、プラチンはシスプラチンである。他の実施形態において、フルオロピリミジンは、カペシタビン及び/又は5-フルオロウラシル(5-FU)を含む。全ての態様において、患者のHER2陽性状態は、例えば、IHC3+又はIHC2+/ISH+であり得る。全ての態様において、特定の実施形態において、治療は、全生存期間(OS)及び/もしくは無増悪生存期間(PFS)を含む生存期間並びに/又は奏効率(RR)を改善する。全ての態様において、特定の実施形態において、患者は0-1のECOG PSを有する。全ての態様において、治療周期は一般に、互いに4週間以下、又は3週間以下、又は2週間以下、又は1週間以下隔てる。
【0038】
特定の態様において、本発明は、現在の治療の6カ月より前に完了した以前のアジュバント又はネオアジュバント療法を除いて、転移性疾患のための化学療法の前治療歴がないヒト患者における胃又は胃食道接合部のHER2陽性の切除不可能な又は転移性の腺癌を治療する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ、シスプラチン並びにカペシタビン及び/又はフルオロウラシル(5-FU)を、無増悪生存期間(PFS)及び/又は全生存期間(OS)を改善する量で患者に投与することを含み、患者が0~1のECOG PSを有する、方法に関する。特定の実施形態において、患者は、プラチンによる前治療歴がない。
【0039】
別の態様において、本発明は、胃又は胃食道接合部のHER2陽性の切除不可能な又は転移性の腺癌を有する患者において無増悪生存期間を改善する方法であって、患者にペルツズマブをトラスツズマブ及び化学療法剤と併用投与することを含む、方法に関する。
【0040】
さらなる態様において、本発明は、患者のHER2陽性乳癌を治療する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ及びビノレルビンを患者に投与することを含む、方法に関する。場合によっては、ペルツズマブ及びトラスツズマブは、同一点滴静注バッグから患者に同時投与する。乳癌は、場合によっては転移性又は局所進行性である。一実施形態において、患者は、転移性の設定における全身的非ホルモン性抗癌療法の前治療歴がない。
【0041】
別の態様において、本発明は、患者のHER2陽性乳癌を治療する方法であって、患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及びアロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール(anastrazole)又はレトロゾール)を投与することを含む、方法に関する。場合によっては、乳癌はホルモン受容体陽性進行性乳癌であり、ホルモン受容体は、例えば、エストロゲン受容体(ER)及び/又はプロゲステロン受容体(PgR)である。本発明のこの実施形態によれば、患者は、転移性の設定における全身的非ホルモン性抗癌療法の前治療歴がない。さらに、場合によっては、この場合の患者は導入化学療法(例えば、タキサンを含む)を受ける。
【0042】
追加の実施形態において、本発明は、癌患者を治療する方法であって、初回量(initial dose)840mgのペルツズマブを、続いてその後3週間毎に用量420mgのペルツズマブを患者に投与することを含み、2つの逐次420mg用量の間隔が6週間以上となったら、840mg用量のペルツズマブを患者に再投与することをさらに含む、方法に関する。場合によっては、この方法は、840mg用量の再投与後3週間毎に420mgのペルツズマブを投与することをさらに含む。一実施形態において、癌患者は、HER2陽性乳癌を有する。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、患者のHER2陽性の転移性又は局所再発性乳癌を治療するための方法であって、患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及びタキソイド(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル又はnab-パクリタキセル)を投与することを含み、患者に、アジュバント療法又はネオアジュバント療法としてのトラスツズマブ及び/又はラパチニブによる前治療歴がある、方法に関する。
【0044】
さらなる態様において、本発明は、患者の低HER3卵巣癌、原発性腹膜癌又は卵管癌を治療するための方法であって、患者にペルツズマブ及び化学療法剤を投与することを含み、化学療法剤がタキソイド(例えば、パクリタキセル)又はトポテカンを含む、方法に関する。
【0045】
追加の態様において、本発明は、患者の低HER3卵巣癌、原発性腹膜癌又は卵管癌を治療するための方法であって、患者にペルツズマブ及び化学療法剤を投与することを含み、低いHER3癌が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって評価された場合に、約2.81以下の濃度比でHER3 mRNAを発現する、方法に関する。一実施形態において、化学療法剤は、ゲムシタビン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、トポテカン又はペグ化リポソームドキソルビシン(PLD)を含む。場合によっては、化学療法剤はパクリタキセル又はトポテカンを含む。一実施形態において、癌は、白金抵抗性又は白金不応性の上皮性卵巣癌である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】HER2タンパク質の構造、及びその細胞外ドメインのドメインI~IV(それぞれ、配列番号1~4)のアミノ酸配列を示す概略図である。
【
図2A】マウスモノクローナル抗体2C4の軽鎖可変(V
L)ドメイン(配列番号5);バリアント574/ペルツズマブのV
Lドメイン(配列番号7);及びヒトV
Lコンセンサスフレームワーク(hum κ1、軽鎖カッパサブグループI)(配列番号9)のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。星印は、ペルツズマブとマウスモノクローナル抗体2C4の可変ドメインの相違及びペルツズマブとヒトフレームワークの可変ドメインの相違を特定している。相補性決定領域(CDR)は、括弧内である。
【
図2B】マウスモノクローナル抗体2C4の重鎖可変(V
H)ドメイン(配列番号6);バリアント574/ペルツズマブのV
Hドメイン(配列番号8);及びヒトV
Hコンセンサスフレームワーク(humIII、重鎖サブグループIII)(配列番号10)のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。星印は、ペルツズマブとマウスモノクローナル抗体2C4の可変ドメインの相違及びペルツズマブとヒトフレームワークの可変ドメインの相違を特定している。相補性決定領域(CDR)は、括弧内である。
【
図3A】ペルツズマブ軽鎖のアミノ酸配列(配列番号11)を示す図である。CDRは、太字で示されている。軽鎖の算出分子質量は、23,526.22Da(システインは還元型である)である。
【
図3B】ペルツズマブ重鎖のアミノ酸配列(配列番号12)を示す図である。CDRは、太字で示されている。軽鎖の算出分子質量は、49,216.56Da(システインは還元型である)である。糖鎖は、重鎖のAsn299に結合している。
【
図4A】トラスツズマブ軽鎖のアミノ酸配列(配列番号13)を示す図である。軽鎖可変ドメインの境界が矢印で示されている。
【
図4B】トラスツズマブ重鎖のアミノ酸配列(配列番号14)を示す図である。重鎖可変ドメインの境界が矢印で示されている。
【
図5A】バリアントであるペルツズマブの軽鎖配列(配列番号15)を示す図である。
【
図5B】バリアントであるペルツズマブの重鎖配列(配列番号16)を示す図である。
【
図6】実施例1の研究スキーマを示す図である。ECOG=米国東海岸癌臨床試験グループ;PD=増悪。注:トラスツズマブ、ペルツズマブ及びシスプラチンは、各3週間周期の1日目にIV点滴によって投与する。カペシタビンは、各3週間周期の1日目の夕方から15日目の朝まで1日2回経口投与する。(a)IHC3+又はIHC2+とISH+の組合せ(即ち、IHC3+/ISH+又はICH2+/ISH+)と定義されたHER2陽性腫瘍;(b)トラスツズマブは、周期1で8mg/kgの負荷用量及びその後の周期で6mg/kgの用量;(c)ペルツズマブは、各周期の1日目に、周期1で840mgの負荷用量及び周期2~6で420mgの用量。
【
図7】実施例3の研究における登録集団、治療意図集団及び安全性集団並びに患者の離脱を示す図である。
【
図8】実施例3の研究に関する、独立審査機関(IRF)によって評価された無増悪生存期間(PFS)のカプランマイアー曲線を示すグラフである。
【
図9】実施例3の研究に関する患者サブグループによるPFSを示す図である。
【
図10】実施例3の研究に関する全生存期間を示すグラフである。
【
図11】実施例5における、心臓リスク因子が低いHER2陽性のネオアジュバント乳癌患者における投薬スケジュールの概要を示す図である。治験責任医師(investigator)が必要と考えた場合には、手術後及びアジュバントトラスツズマブ治療中に、追加の放射線療法、ホルモン療法及び化学療法が認められた。
【
図12】実施例5の研究に関するLVEF(中央読み取り値)の平均変化を示すグラフである。
【
図13】実施例5の研究に関する病理学的完全奏効(pCR)を示すグラフである。
【
図14】実施例5の研究におけるホルモン受容体の状態による病理学的完全奏効を示すグラフである。
【
図15】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物(840mg)のペルツズマブSECプロファイルを示すグラフである。拡大グラフ;グラフ全体(挿入グラフ)。
【
図16】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物(840mg)のトラスツズマブSECプロファイルを示すグラフである。拡大グラフ;グラフ全体(挿入グラフ)。
【
図17】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物のペルツズマブIECプロファイルを示すグラフである。グラフ全体。
【
図18】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物のトラスツズマブIECプロファイルを示すグラフである。拡大グラフ;グラフ全体(挿入グラフ)。
【
図19】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物のCE-SDS LIF非還元プロファイルを示すグラフである。拡大グラフ。
【
図20】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物のCE-SDS LIF還元プロファイルを示すグラフである。拡大グラフ。
【
図21】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物のCZEを示すグラフである。グラフ全体。
【
図22】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、30℃におけるペルツズマブ/トラスツズマブ混合物のiCIEFを示すグラフである。グラフ全体。
【
図23】0.9%生理食塩水PO製IV点滴バッグ(1)時間=0;(2)時間=24時間中での、ペルツズマブ/トラスツズマブ混合物、ペルツズマブ単独及びトラスツズマブ単独の効力-用量反応曲線(μg/mL対RFU)を示すグラフである。
【
図24】0.9%生理食塩水IV点滴バッグ(1)PO 5℃ T0;(2)PO 5℃ T24時間;(3)PO 30℃ T0;(4)PO 30℃ T24時間;(5)PVC 5℃ T0;(6)PVC 5℃ T24時間;(7)PVC 30℃ T0;(8)PVC 30℃ T24時間中でのペルツズマブ/トラスツズマブ混合物(1560mg)のペルツズマブSECプロファイルを示すグラフである。拡大グラフ;グラフ全体(挿入グラフ)。
【
図25】0.9%生理食塩水IV点滴バッグ(1)PO 5℃ T0;(2)PO 5℃ T24時間;(3)PO 30℃ T0;(4)PO 30℃ T24時間;(5)PVC 5℃ T0;(2)PVC 5℃ T24時間;(7)PVC 30℃ T0;(8)PVC 30℃ T24時間中でのペルツズマブ/トラスツズマブ混合物(1560mg)のトラスツズマブSECプロファイルを示すグラフである。拡大グラフ;グラフ全体(挿入グラフ)。
【
図26】0.9%生理食塩水IV点滴バッグ(1)PO 5℃ T0;(2)PO 5℃ T24時間;(3)PO 30℃ T0;(4)PO 30℃ T24時間;(5)PVC 5℃ T0;(6)PVC 5℃ T24時間;(7)PVC 30℃ T0;(8)PO 30℃ T24時間中でのペルツズマブ/トラスツズマブ混合物(1560mg)のペルツズマブIECプロファイル(ペルツズマブ-高速)を示すグラフである。グラフ全体。
【
図27】0.9%生理食塩水IV点滴バッグ(1)PO 5℃ T0;(2)PO 5℃ T24時間;(3)PO 30℃ T0;(4)PO 30℃ T24時間;(5)PVC 5℃ T0;(6)PVC 5℃ T24時間;(7)PVC 30℃ T0;(8)PO 30℃ T24時間中でのペルツズマブ/トラスツズマブ混合物(1560mg)のトラスツズマブIECプロファイルを示すグラフである。グラフ全体。
【
図30】実施例11のパート1の研究デザインを示す図である。
【
図31】実施例11のパート2の研究デザインを示す図である。
【
図32】実施例1のフェーズIIa胃癌(GC)研究に関する、採取した試料及び時点を示す表である。
【
図33】ペルツズマブ420mg(アームA)又は840mg(アームB)で治療された、GC研究の2つのアームの患者集団の人口統計を示す表である。
【
図34】アームA及びBそれぞれの患者のGCの病歴を示す表である。
【
図35】アームA及びBそれぞれのGC患者の内訳(patient disposition)を示す表である。
【
図36】GC研究の、アームA及びBそれぞれの全奏効率を示す表である。
【
図37】胃癌(GC)対転移性乳癌(MBC)の、ペルツズマブ42日目の濃度評価の結果を示すグラフ及び表である。42日目のC
トラフは、GC(JOSHUA 840/420mg)ではMBC(CLEO 840/420mg)と比べて約37%低い。JOSHUA 840/420mg及び840/840mgのレジメンはいずれも、90%の患者において20μg/mg以上のC
トラフをもたらす。JOSHUA 840/840mgのレジメンは、GCにおいて、MBC(CLEO 840/420mg)において観察されるC
トラフに匹敵するC
トラフをもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書中で使用する一部の略語の用語解説:薬物有害反応(ADR)、有害事象(AE)、アルカリホスファターゼ(ALP)、絶対好中球数(ANC)、濃度時間曲線下面積(AUC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、色、外観及び透明度(CAC)、ペルツズマブ及びトラスツズマブの臨床評価(CLinical Evaluation Of Pertuzumab And TRAstuzumab;CLEOPATRA)、信頼区間(CI)、発色性インサイツハイブリダイゼーション(CISH)、最大濃度(Cmax)、完全奏効(CR)、症例報告書(CRF)、コンピュータ断層撮影法(CT)、有害事象共通用語基準(CTCAE)、ドセタキセル(D)、用量制限毒性(DLT)、倫理委員会(EC)、エピルビシン、シスプラチン及び5-フルオロウラシル(ECF)、心エコー図(ECHO)、上皮成長因子受容体(EGFR)、欧州連合(EU)、エストロゲン受容体(ER)、5-フルオロウラシル、メトトレキサート及びドキソルビシン(FAMTX)、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)、5-フルオロウラシル(5-FU)、ハザード比(HR)、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)、胃癌(GC)、優良臨床試験基準(good clinical practice;GCP)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、免疫組織化学的検査(IHC)、独立審査機関(IRF)、施設内審査委員会(IRB)、インサイツハイブリダイゼーション(ISH)、静脈内又は点滴静注(IV)、イメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)、左室駆出率(LVEF)、マイトマイシンC、シスプラチン及び5-フルオロウラシル(MCF)、磁気共鳴画像法(MRI)、転移性乳癌(MBC)、マルチゲート収集(MUGA)、有意差なし(NS)、全生存期間(OS)、病理学的完全奏効(pCR)、ポリオレフィン(PO)、ポリ塩化ビニル(PVC)、増悪(PD)、無増悪生存期間(PFS)、薬物動態(PK)、部分奏効(PR)、プロゲステロン受容体(PgR)、固形癌の治療効果判定のためのガイドライン(response evaluation criteria in solid tumors;RECIST)、重篤有害事象(SAE)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、安定(SD)、研究管理チーム(SMT)、注射用滅菌水(SWFI)、最大血漿中濃度到達時間(tmax)、正常上限(ULN)。
【0048】
I.定義
本明細書中で使用する用語「化学療法(剤)」は、以下で定義する化学療法剤の投与を含む治療を指す。
【0049】
「生存(期間)」は、患者が生き続けていることを指し、全生存(期間)及び無増悪生存(期間)を含む。
【0050】
「全生存(期間)」又は「OS」は、診断又は治療の時から一定期間、例えば、1年、5年などの期間、患者が生き続けていることを指す。実施例中に記載する臨床試験の解釈上、全生存期間(OS)は、患者集団の無作為化の日から、全死因死亡(death from any cause)の日までの期間と定義する。
【0051】
「無増悪生存(期間)」又は「PFS」は、患者が、癌が増悪又はさらに悪化することなく生き続けていることを指す。実施例中に記載する臨床試験の解釈上、無増悪生存期間(PFS)は、研究対象集団の無作為化から、最初に実証された増悪もしくは管理不可能な毒性又は全死因死亡の何れか早く到来する方までの期間と定義する。増悪の実証は、臨床的に許容される任意の方法、例えば、固形癌の治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)(Therasseら、J Natl Ca Inst 2000年;92巻(3号):205~216頁)によって判定されるX線写真上の増悪、脳脊髄液の細胞学的評価によって診断される癌性髄膜炎、及び/又は皮下病変の胸壁再発をモニターするための医学写真撮影によって行い得る。
【0052】
「生存期間を延長する」とは、未治療の患者と比較して及び/又は1種もしくは複数の承認された抗腫瘍薬で治療されるが本発明に従う治療を受けない患者と比較して、本発明に従って治療される患者において全生存期間又は無増悪生存期間を増加させることを意味する。特定の例において、「生存期間を延長する」とは、トラスツズマブ及び化学療法剤のみで治療される患者と比較して、本発明の併用療法(例えば、ペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤による併用治療)を受ける癌患者の無増悪生存期間(PFS)及び/又は全生存期間(OS)を延長することを意味する。別の特定の例において、「生存期間を延長する」とは、ペルツズマブ及び化学療法剤のみで治療される患者と比較して、本発明の併用療法(例えば、ペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤による併用治療)を受ける癌患者の無増悪生存期間(PFS)及び/又は全生存期間(OS)を延長することを意味する。
【0053】
「客観的腫瘍縮小効果(objective response)」は、完全奏効(CR)又は部分奏効(PR)を含む測定可能な奏効を指す。
【0054】
「完全奏効」又は「CR」は、治療に応答して癌の全ての徴候が消失することを意図する。これは、癌が治癒したことを必ずしも意味しない。
【0055】
「部分奏効」又は「PR」は、1つもしくは複数の腫瘍もしくは病変のサイズ、又は体内の癌の程度が、治療に応答して減少することを指す。
【0056】
「HER受容体」は、HER受容体ファミリーに属する受容体タンパク質チロシンキナーゼであって、EGFR、HER2、HER3及びHER4受容体を含む。HER受容体は一般に、HERリガンドと結合しかつ及び/又は別のHER受容体分子と二量体化し得る細胞外ドメイン;親油性膜貫通ドメイン;保存された細胞内チロシンキナーゼドメイン;リン酸化され得るいくつかのチロシン残基を持つカルボキシル末端シグナル伝達ドメインを含む。HER受容体は、「ネイティブ配列」HER受容体又はその「アミノ酸配列バリアント」であることができる。好ましくは、HER受容体は、ネイティブ配列ヒトHER受容体である。
【0057】
「ErbB2」及び「HER2」という表現は、本明細書中において同義で使用し、例えば、Sembaら、PNAS(USA)82巻:6497~6501頁(1985年)及びYamamotoら Nature 319巻:230~234頁(1986年)に記載されたヒトHER2タンパク質(Genebank受託番号X03363)を指す。用語「erbB2」は、ヒトErbB2をコードする遺伝子を指し、「neu」は、ラットp185neuをコードする遺伝子を指す。好ましいHER2は、ネイティブ配列ヒトHER2である。
【0058】
本明細書中において、「HER2細胞外ドメイン」又は「HER2 ECD」は、細胞膜にアンカリングされているか又は循環中の何れかである、細胞の外側にあるHER2のドメインを指し、その断片を含む。HER2のアミノ酸配列は、
図1に示されている。一実施形態において、HER2の細胞外ドメインは、4つのドメイン:「ドメインI」(約1~195のアミノ酸残基;配列番号1)、「ドメインII」(約196~319のアミノ酸残基;配列番号2)、「ドメインIII」(320~488のアミノ酸残基:配列番号3)及び「ドメインIV」(約489~630のアミノ酸残基;配列番号4)を含み得る(残基のナンバリングはシグナルペプチドを含まない)。Garrettら Mol.Cell. 11巻:495~505頁(2003年);Choら Nature 421巻:756~760頁(2003年);Franklinら Cancer Cell 5巻:317~328頁(2004年);及びPlowmanら Proc.Natl.Acad.Sci. 90巻:1746~1750頁(1993年)、並びに本明細書中の
図6を参照のこと。
【0059】
本明細書中の「HER3」又は「ErbB3」は、例えば、米国特許第5,183,884号及び第5,480,968号並びにKrausら PNAS(USA)86巻:9193~9197頁(1989年)に開示されているような受容体を指す。
【0060】
「低HER3」癌は、HER3発現の中央値レベルより低いレベルでHER3を発現する癌型の癌である。一実施形態において、低HER3癌は、上皮性卵巣癌、腹膜癌又は卵管癌である。癌のHER3 DNA、タンパク質及び/又はmRNAレベルを評価して、癌が低HER3癌であるかどうかを判定できる。低HER3癌に関する追加情報については、例えば、米国特許第7,981,418号を参照のこと。場合によっては、癌が低HER3癌であることを判定するために、HER3 mRNA発現アッセイを行う。一実施形態において、癌のHER3 mRNAレベルの評価は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、例えば、定量逆転写PCR(qRT-PCR)を用いて行う。場合によっては、癌は、例えば、COBASz480(登録商標)装置を用いてqRT-PCRで評価された場合、約2.81以下の濃度比でHER3を発現する。
【0061】
本明細書中の「HER二量体」は、少なくとも2つのHER受容体を含む、非共有結合した二量体である。このような複合体は、2つ以上のHER受容体を発現する細胞がHERリガンドに曝露された場合に形成される可能性があり、免疫沈降法によって単離して、SDS-PAGEによって分析することができる(例えば、Sliwkowskiら、J.Biol.Chem.、269巻(20号)14661~14665頁(1994年)に記載)。他のタンパク質、例えば、サイトカイン受容体サブユニット(例えば、gp130)が、二量体と結合し得る。好ましくは、HER二量体は、HER2を含む。
【0062】
本明細書の「HERへテロ二量体」は、少なくとも2種の異なるHER受容体を含む非共有結合したヘテロ二量体、例えば、EGFR-HER2、HER2-HER3又はHER2-HER4ヘテロ二量体である。
【0063】
「HER抗体」は、HER受容体に結合する抗体である。場合によっては、HER抗体は、HERの活性化又は機能をさらに妨げる。好ましくは、HER抗体は、HER2受容体に結合する。本明細書中の、対象のHER2抗体は、ペルツズマブ及びトラスツズマブである。
【0064】
「HER(の)活性化」は、任意の1種又は複数の任意のHER受容体の活性化又はリン酸化を指す。一般に、HERの活性化は、シグナル伝達(例えば、HER受容体又は基質ポリペプチド中のチロシン残基をリン酸化するHER受容体の細胞内キナーゼドメインによって引き起こされるもの)をもたらす。HERの活性化は、対象のHER受容体を含むHER二量体に結合するHERリガンドによって媒介され得る。HER二量体に結合するHERリガンドは、二量体中の1種又は複数のHER受容体のキナーゼドメインを活性化し、それによって、1種もしくは複数のHER受容体中のチロシン残基のリン酸化及び/又はAktもしくはMAPK細胞内キナーゼなどのさらなる基質ポリペプチド(複数可)中のチロシン残基のリン酸化をもたらし得る。
【0065】
「リン酸化」は、タンパク質、例えば、HER受容体又はその基質への1つ又は複数のリン酸基の付加を指す。
【0066】
「HER二量体化を阻害する」抗体は、HER二量体の形成を阻害するか又は妨げる抗体である。好ましくは、このような抗体は、HER2と、そのヘテロ二量体結合部位において結合する。本発明において最も好ましい二量体化阻害抗体は、ペルツズマブ又はMAb 2C4である。HER二量体化を阻害する抗体の他の例としては、EGFRに結合して、1種又は複数の他のHER受容体とのその二量体化を阻害する抗体(例えば、活性化された又は「つながれていない(untethered)」EGFRに結合するEGFRモノクローナル抗体806、MAb 806;Johnsら、Biol.Chem.279巻(29号):30375~30384頁(2004年)を参照のこと);HER3と結合して、1種又は複数の他のHER受容体とのその二量体化を阻害する抗体;及びHER4と結合して、1種又は複数の他のHER受容体とのその二量体化を阻害する抗体が挙げられる。
【0067】
「HER2二量体化阻害剤」は、HER2を含む二量体又はヘテロ二量体の形成を阻害する薬剤である。
【0068】
HER2の「ヘテロ二量体結合部位」は、それらとの二量体の形成時に、EGFR、HER3又はHER4の細胞外ドメイン中の領域と接触又は連係するHER2の細胞外ドメイン中の領域を指す。この領域は、HER2のドメインIIにみられる(配列番号15)。Franklinら Cancer Cell 5巻:317~328頁(2004年)。
【0069】
HER2の「ヘテロ二量体結合部位に結合する」HER2抗体は、ドメインII(配列番号2)の残基に結合し、場合によっては、HER2細胞外ドメインの他のドメイン、例えば、ドメインI及びIII(配列番号1及び3)の残基にも結合し、HER2-EGFR、HER2-HER3又はHER2-HER4ヘテロ二量体の形成に少なくともある程度、立体障害をもたらし得る。Franklinら(Cancer Cell 5巻:317~328頁(2004年))は、RCSB Protein Data Bank(IDコードIS78)に寄託されたHER2-ペルツズマブの結晶構造を特定し、HER2のヘテロ二量体結合部位に結合する例示的な抗体を示している。
【0070】
HER2の「ドメインIIに結合する」抗体は、ドメインII(配列番号2)の残基並びに場合によってはHER2の他のドメイン(複数可)、例えば、ドメインI及びIII(それぞれ、配列番号1及び3)の残基に結合する。好ましくは、ドメインIIに結合する抗体は、HER2のドメインI、II及びIIIの間の接合部に結合する。
【0071】
本明細書中での解釈上、同義で使用する「ペルツズマブ」及び「rhuMAb 2C4」は、軽鎖可変アミノ酸配列及び重鎖可変アミノ酸配列(それぞれ、配列番号7及び8)を含む抗体を指す。ペルツズマブは、完全抗体である場合には、好ましくはIgG1抗体を含み;一実施形態において、配列番号11又は15の軽鎖アミノ酸配列及び配列番号12又は16の重鎖アミノ酸配列を含む。抗体は、場合によっては、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生される。本明細書中の用語「ペルツズマブ」及び「rhuMAb 2C4」は、米国一般名(United States Adopted Name;USAN)又は国際一般名(International Nonproprietary Name;INN):ペルツズマブを有する薬物のバイオシミラー版を包含する。
【0072】
本明細書中での解釈上、同義でする「トラスツズマブ」及びrhuMAb4D5」は、軽鎖可変アミノ酸配列及び重鎖可変アミノ酸配列(それぞれ、配列番号13及び14)を含む抗体を指す。トラスツズマブが完全抗体である場合には、好ましくはIgG1抗体を含み;一実施形態において、それは、配列番号13の軽鎖アミノ酸配列及び配列番号14の重鎖アミノ酸配列を含む。抗体は場合によっては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生される。本明細書中の用語「トラスツズマブ」及び「rhuMAb4D5」は、米国一般名(USAN)又は国際一般名(INN):トラスツズマブを有する薬物のバイオシミラー版を包含する。
【0073】
本明細書中の用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、所望の生物活性を示しさえすれば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体断片を包含する。
【0074】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、齧歯動物)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有する、非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ又はヒト以外の霊長類の超可変領域由来の残基に置き換えられている。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基に置き換えられている。さらにまた、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にもみられない残基を含み得る。これらの改変は、さらに抗体の性能をさらに精巧にするために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全て又は実質的に全ての超可変ループが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに相当しかつ全て又は実質的に全てのFRがヒト免疫グロブリン配列のFRである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。また、ヒト化抗体は場合によっては、少なくとも一部の免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域を含む。さらなる詳細については、Jonesら、Nature 321巻:522~525頁(1986年);Riechmannら、Nature 332巻:323~329頁(1988年);及びPresta、Curr.Op.Struct.Biol. 2巻:593~596頁(1992年)を参照のこと。ヒト化HER2抗体としては、具体的には、参照によって本明細書中に明示的に組み込まれる米国特許5,821,337号の表3に記載されかつ本明細書中で定義されるトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標));及び本明細書中に記載かつ定義されるヒト化2C4抗体、例えば、ペルツズマブが挙げられる。
【0075】
本明細書中の「完全抗体」は、2つの抗原結合領域及び1つのFc領域を含むものである。好ましくは、完全抗体は、機能的Fc領域を有する。
【0076】
「抗体断片」は、完全抗体の一部であり、好ましくはその抗原結合領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片;二重特異性抗体(diabody);線形抗体(linear antibodiy);単鎖抗体分子;及び抗体断片(複数可)から形成された多重特異的抗体が挙げられる。
【0077】
「ネイティブ抗体」は通常、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖とからなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されているが、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間では異なる。各重鎖及び軽鎖はまた、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)とそれに続く複数の定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を有し、他端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列しており、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。
【0078】
用語「超可変領域」は、本明細書中で使用する場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は一般に、「相補性決定領域」もしくは「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24~34(L1)、50~56(L2)及び89~97(L3)並びに重鎖可変ドメインの31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991年))、並びに/又は「超可変ループ」からのそれらの残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基26~32(L1)、50~52(L2)及び91~96(L3)並びに重鎖可変ドメインの26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia及びLesk J.Mol.Biol. 196巻:901~917頁(1987年))を含む。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書中で定義した超可変領域残基以外のそれらの可変ドメイン残基である。
【0079】
本明細書中の用語「Fc領域」は、Fc領域及びバリアントFc領域のネイティブ配列を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに用いる。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動する可能性があるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226位のアミノ酸残基から又はPro230位から、そのカルボキシル末端まで伸びると定義される。Fc領域のC末端リシン(EUナンバリングシステムによる残基447)は、例えば、抗体の産生もしくは精製の間に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組換え操作することによって、除去される可能性がある。したがって、完全抗体の組成物は、全てのK447残基が除去された抗体集団、K447残基が除去されていない抗体集団、及びK447残基を有する抗体とK447残基を有さない抗体の両方を有する抗体集団を含み得る。
【0080】
特に明記しない限り、本明細書中において、免疫グロブリン重鎖の残基のナンバリングは、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991年)(この文献を参照することによって本明細書中に明示的に組み込む)にみられるようなEUインデックスのナンバリングである。「KabatにみられるようなEUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基ナンバリングに指す。
【0081】
「機能的Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域の「エフェクター機能」を持っている。
例示的な「エフェクター機能」としては、C1q結合;補体依存細胞毒性;Fc受容体結合;抗体依存細胞媒介細胞毒性(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方制御などが挙げられる。このようなエフェクター機能は一般に、結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされるFc領域を必要とし、例えば、本明細書中に開示したような種々のアッセイを用いて評価できる。
【0082】
「ネイティブ配列Fc領域」は、自然界においてみられるアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。ネイティブ配列ヒトFc領域としては、ネイティブ配列ヒトIgG1 Fc領域(非Aアロタイプ及びAアロタイプ);ネイティブ配列ヒトIgG2 Fc領域;ネイティブ配列ヒトIgG3 Fc領域;及びネイティブ配列ヒトIgG4 Fc領域並びに天然に存在するそれらのバリアントが挙げられる。
【0083】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸改変(好ましくは1つ又は複数のアミノ酸置換)によって、ネイティブ配列Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、ネイティブ配列Fc領域と比較して又は親のポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、約1~約10個のアミノ酸置換、好ましくは約1~約5個のアミノ酸置換を、ネイティブ配列Fc領域に又は親のポリペプチドのFc領域に有する。本明細書中のバリアントFc領域は好ましくは、ネイティブ配列Fc領域及び/又は親のポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の、最も好ましくは少なくとも約90%の、より好ましくは少なくとも95%の相同性を有するであろう。
【0084】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全抗体は、異なる「クラス」に割り当てることができる。完全抗体には、5つの主要クラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかはさらに、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に分類できる。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α、δ、ε、γ及びμと称される。種々のクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び3次元配置は周知である。
【0085】
「裸の抗体」は、異種分子、例えば、細胞毒性部分又は放射標識にコンジュゲートされていない抗体である。
【0086】
「親和性成熟」抗体は、その1つ又は複数の超可変領域に、変更のない親の抗体と比較して抗原に対する抗体の親和性に改善をもたらす1つ又は複数の変更を有するものである。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はさらにはピコモル親和性を有するであろう。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の方法によって作製される。Marksら Bio/Technology 10巻:779~783頁(1992年)は、VHとVLドメインシャフリングによる親和性成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発が、Barbasら Proc Nat.Acad.Sci、USA91巻:3809~3813頁(1994年);Schierら Gene 169巻:147~155頁(1995年);Yeltonら J.Immunol. 155巻:1994~2004頁(1995年);Jacksonら、J.Immunol. 154巻(7号):3310~9頁(1995年);及びHawkinsら、J.Mol.Biol. 226巻:889~896頁(1992年)によって記載されている。
【0087】
「脱アミド化」抗体は、その1つ又は複数のアスパラギン残基が、例えば、アスパラギン酸、スクシンイミド又はイソアスパラギン酸に誘導体化されているものである。
【0088】
用語「癌」及び「癌性」は、制御されていない細胞増殖を典型的な特徴とする哺乳動物における生理的状態を指す又は記載する。
【0089】
「胃癌」は具体的には、転移性又は局所進行性の切除不可能な胃癌、例えば限定するものではないが、治癒的療法を受け入れられない、手術不能な(切除不可能な)局所進行性又は転移性疾患を有する胃又は胃食道接合部の組織学的に確認された腺癌、及び手術の意図が疾患を治癒されることであった場合の術後再発性の進行性胃癌、例えば、胃又は胃食道接合部の腺癌が挙げられる。
【0090】
「進行性(の)」癌は、局所浸潤又は転移の何れかによって元の部位又は器官の外側に広がったものである。したがって、「進行性(の)」癌という用語は、局所進行性疾患及び転移性疾患の両方を含む。
【0091】
「不応性」癌は、抗腫瘍薬、例えば、化学療法剤が癌患者に投与されていても、増悪する癌である。不応性癌の一例は、白金不応性の癌である。
【0092】
「再発性」癌は、初期療法、例えば、手術に対する応答後に初発部位又は遠隔部位で再成長した癌である。
【0093】
「局所再発性」癌は、以前に治療された癌と同一の場所に治療後に再び現れる癌である。
【0094】
「切除不可能な」又は「切除不能な」癌は、手術によって除去(切除)できない。
【0095】
本明細書中の「早期乳癌」は、乳房又は腋窩リンパ節を越えて広がっていない乳癌を指す。このような癌は一般に、ネオアジュバント又はアジュバント療法で治療される。
【0096】
「ネオアジュバント療法」は、手術前に施される全身療法を指す。
【0097】
「アジュバント療法」は、手術後に施される全身療法に指す。
【0098】
「転移性」癌は、身体(例えば、乳房)の一部から身体の別の部分に広がった癌を指す。
【0099】
本明細書中の「患者」又は「対象」は、ヒト患者である。患者は、「癌患者」、即ち、癌、特に胃又は乳房癌の1つ又は複数の症状が生じている又は生じるリスクがある患者であり得る。
【0100】
「患者集団」は、一群の癌患者に指す。このような集団は、薬物、例えばペルツズマブの統計的に有意な有効性及び/又は安全性を実証するのに使用できる。
【0101】
「再発」患者は、寛解後に癌の徴候又は症状がある患者である。場合によっては、患者は、アジュバント又はネオアジュバント療法後に再発している。
【0102】
「HER発現、増幅又は活性化を示す」癌又は生体試料は、診断検査においてHER受容体を発現(過剰発現を含む)し、HER遺伝子を増幅し、及び/又はそうでなければ、HER受容体の活性化もしくはリン酸化を示すものである。
【0103】
「HER活性化を示す」癌又は生体試料は、診断検査においてHER受容体の活性化又はリン酸化を示すものである。このような活性化は、直接的に(例えば、ELISAによってHERリン酸化を測定することによって)又は間接的に(例えば、遺伝子発現プロファイリングによって又は本明細書中に記載するHERへテロ二量体を検出することによって)判定できる。
【0104】
「HER受容体過剰発現又は増幅」のある癌細胞は、同じ組織型の非癌性細胞と比較して著しく高い、HER受容体タンパク質又は遺伝子レベルを有するものである。このような過剰発現は、遺伝子増幅によって又は転写もしくは翻訳の増加によって引き起こされる可能性がある。HER受容体過剰発現又は増幅は、診断アッセイ又は予後アッセイにおいて、細胞の表面に存在するHERタンパク質レベルの増加を評価することによって(例えば、免疫組織化学的検査アッセイ;IHCによって)判定できる。代替的に又は追加的に、HERをコードする核酸の細胞内レベルを、例えば、インサイツハイブリダイゼーション(ISH)、例えば、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH;1998年10月に公開されたWO98/45479を参照のこと)及び発色性インサイツハイブリダイゼーション(CISH;例えば、Tannerら、Am.J.Pathol. 157巻(5号):1467~1472頁(2000年);Bellaら、J.Clin.Oncol. 26巻:(May 20 suppl;abstr 22147)(2008年)を参照のこと)、サザンブロット法、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、例えば、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって測定することもできる。HER受容体過剰発現又は増幅は、体液、例えば、血清中のシェッド抗原(例えば、HER細胞外ドメイン)を測定することによっても研究し得る(例えば、1990年6月12日に発行された米国特許第4,933,294号;1991年4月18日に公開されたWO91/05264;1995年3月28日に発行された米国特許5,401,638号;及びSiasrら J.Immunol.Methods 132巻:73~80頁(1990年)を参照のこと)。上記のアッセイの他に、当業者ならば、種々のインビボアッセイを利用できる。例えば、患者体内の細胞を、検出可能な標識、例えば、放射性同位体で場合によっては標識された抗体に曝露してもよく、患者体内の細胞への抗体の結合は、例えば、放射能の外部スキャンによって、又は抗体に予め曝露された患者から採取された生検材料を分析することによって評価できる。
【0105】
「HER2陽性」癌は、正常レベルより高いHER2レベルを有する癌細胞を含む。HER2陽性癌の例としては、HER2陽性乳癌及びHER2陽性胃癌が挙げられる。場合によっては、HER2陽性癌は、免疫組織化学的検査(IHC)スコアが2+もしくは3+及び/又はインサイツハイブリダイゼーション(ISH)増幅比が2.0以上である。
【0106】
本明細書中の「抗腫瘍薬」は、癌の治療に使用される薬物を指す。本明細書中の抗腫瘍薬の非限定的な例としては、化学療法剤、HER二量体化阻害剤、HER抗体、腫瘍関連抗原に対する抗体、抗ホルモン化合物、サイトカイン、EGFR標的薬、抗血管新生薬、チロシンキナーゼ阻害剤、成長阻害剤及び抗体、細胞毒性薬、アポトーシスを誘発する抗体、COX阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、癌胎児性タンパク質CA 125と結合する抗体、HER2ワクチン、Raf又はras阻害剤、リポソームドキソルビシン、トポテカン、タキセン(taxene)、二重チロシンキナーゼ阻害剤、TLK286、EMD-7200、ペルツズマブ、トラスツズマブ、エルロチニブ及びベバシズマブが挙げられる。
【0107】
「エピトープ2C4」は、抗体2C4が結合する、HER2の細胞外ドメインの領域である。2C4エピトープと本質的に結合する抗体をスクリーニングするために、ルーチンの交差遮断アッセイ、例えば、Antibodies、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Ed Harlow and David Lane(1988年)に記載されているアッセイを行うことができる。好ましくは、抗体は、HER2との2C4の結合を約50%以上遮断する。別法として、エピトープマッピングを行って、抗体がHER2の2C4エピトープに本質的と結合するかどうかを評価することもできる。エピトープ2C4は、HER2の細胞外ドメイン中のドメインII(配列番号2)からの残基を含む。2C4及びペルツズマブは、ドメインI、II及びIII(それぞれ、配列番号1、2及び3)の接合部でHER2の細胞外ドメインと結合する。Franklinら Cancer Cell 5巻:317~328頁(2004年)。
【0108】
「エピトープ4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL 10463)及びトラスツズマブが結合する、HER2の細胞外ドメインの領域である。このエピトープは、HER2の膜貫通ドメインに近く、HER2のドメインIV(配列番号4)内にある。4D5 エピトープと本質的に結合する抗体をスクリーニングするために、ルーチンの交差遮断アッセイ、例えば、Antibodies、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Ed Harlow and David Lane(1988年)に記載されているアッセイを行うことができる。別法として、エピトープマッピングを行って、抗体がHER2の4D5エピトープ(例えば、HER2 ECDを含む、残基約625から残基約529までの領域中の任意の1つ又は複数の残基(残基のナンバリングはシグナルペプチドを含む))と本質的に結合するかどうかを評価することもできる。
【0109】
「治療(処置)」は、治療的処置(therapeutic treatment)及び予防対策又は防止対策を意味する。治療(処置)を必要とする者には、既に癌を持つ者及び癌が防止されるべき者が含まれる。したがって、本明細書中の、治療(処置)される患者は、癌を有すると診断された患者であってもよいし、又は癌に罹患しやすいもしくは癌にかかりやすい可能性がある患者であってもよい。
【0110】
用語「有効量」は、患者の癌を治療するのに有効な薬物の量を指す。薬物の有効量は、癌細胞の数を減少させ;腫瘍サイズを縮小し;周辺器官への癌細胞浸潤を阻害する(即ち、ある程度遅くし、好ましくは止める);腫瘍転移を阻害する(即ち、ある程度遅くし、好ましくは止める);腫瘍成長をある程度阻害する;及び/又は癌を伴う症状の1つもしくは複数をある程度軽減することができる。薬物が成長を防止し得る及び/又は存在する癌細胞を死滅させ得る範囲で、薬物は細胞増殖抑制性及び/又は細胞毒性であり得る。有効量は、無増悪生存期間(例えば、固形癌の治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)、又はCA-125変化によって測定される)を延長し、客観的腫瘍縮小効果(部分奏効(PR)又は完全奏効(CR)を含む)をもたらし、全生存期間を増加させ、かつ/又は癌の1つもしくは複数の症状(例えば、FOSIによって評価される)を改善することができる。
【0111】
本明細書中で使用する用語「細胞毒性薬」は、細胞の機能を阻害しもしくは妨げかつ/又は細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの複数の放射性同位体)、化学療法剤、並びに毒素、例えば、小分子毒素又は細菌、真菌、植物もしくは動物由来の酵素活性毒素(それらの断片及び/又はバリアントを含む)を含むことを意図するものである。
【0112】
「化学療法」は、癌の治療において有用な化合物の使用である。化学療法において使用される化学療法剤の例としては、以下のものが挙げられる:アルキル化剤、例えば、チオテパ及びCYTOXAN(登録商標)シクロホスファミド;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)及びウレドーパ(uredopa);エチレンイミン及びメチルアメルアミン(methylamelamine)、例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホラミド(triethiylenethiophosphoramide)及びトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine);TLK286(TELCYTA(商標));アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);δ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));β-ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成類似体トポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT-11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレチン及び9-アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体を含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189及びCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソウレア(nitrosurea)、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン及びラニムスチン(ranimnustine);ビスホスホネート、例えば、クロドロネート;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えば、Agnew、Chem Intl. Ed. Engl.、33巻:183~186頁(1994年)を参照のこと)並びにアントラサイクリン、例えば、アンナマイシン、AD 32、アクラルビシン(alcarubicin)、ダウノルビシン、デクスラゾキサン、DX-52-1、エピルビシン、GPX-100、イダルビシン、KRN5500、メノガリル、ダイネミシン、例えば、ダイネミシンA、エスペラミシン、ネオカルジノスタチンクロモフォア及び関連クロモプロテイン系エジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン(aclacinomysin)、アクチノマイシン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモミシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エソルビシン(esorubicin)、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン及びゾルビシン;葉酸類似体、例えば、デノプテリン、プテロプテリン及びトリメトレキセート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン及びチオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン及びフロキシウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン及びテストラクトン;抗副腎薬(anti-adrenal)、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン及びトリロスタン;葉酸補充薬、例えば、フォリン酸(ロイコボリン);アセグラトン;葉酸代謝拮抗性抗悪性腫瘍薬、例えば、ALIMTA(登録商標)、LY231514ペメトレキセド、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤、例えば、メトトレキサート、代謝拮抗薬、例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)とそのプロドラッグ例えば、UFT、S-1及びカペシタビン、並びにチミジル酸シンターゼ阻害剤及びグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ阻害剤、例えば、ラルチトレキセド(TOMUDEX(登録商標)、TDX);ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼの阻害剤、例えば、エニルウラシル;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エフロルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidainine);マイタンシノイド、例えば、マイタンシン及びアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products、Eugene、OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”-トリクロロトリエチラミン;トリコテセン(特にT-2トキシン、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA及びアングイジン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標);ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン;クロラムブシル(chloranbucil);ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標));6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金;白金類似体又は白金系類似体、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));ビンカアルカロイド;ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(difluorometlhylornithin)(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;前記の何れかの医薬として許容される塩、酸又は誘導体;並びに前記の2種以上の組合せ、例えば、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾロンの併用療法の略語)、及びFOLFOX(5-FU及びロイコボリンと併用されるオキサリプラチン(ELOXATINTM)による治療レジメンの略語)。
【0113】
この定義には、以下のものも含まれる:腫瘍に対するホルモン作用を制御又は阻害するように作用する抗ホルモン薬、例えば、抗エストロゲン薬及び選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、例えば、タモキシフェン(例えば、NOLVADEX(登録商標)タモキシフェン)、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン及びFARESTON(登録商標)トレミフェン;アロマターゼ阻害剤;並びに抗アンドロゲン薬、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド及びゴセレリン;並びにトロキサシタビン(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関与するシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えば、PKC-α、Raf、H-Ras及び上皮成長因子受容体(EGF-R)など;ワクチン、例えば、遺伝子療法ワクチン、例えば、ALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン及びVAXID(登録商標)ワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL-2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;並びに前記の何れかの医薬として許容される塩、酸又は誘導体。
【0114】
「タキサン」は、有糸分裂を阻害しかつ微小管に干渉する化学療法剤である。タキサンの例としては、パクリタキセル(TAXOL(登録商標);Bristol-Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.);クレモホアを含まない、パクリタキセルのアルブミン改変ナノ粒子製剤又はnab-パクリタキセル(ABRAXANE(商標);American Pharmaceutical Partners、Schaumberg、Illinois);及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標);Rhone-Poulenc Rorer、Antony、France)が挙げられる。
【0115】
「アントラサイクリン」は、真菌ストレプトコッカス・ピウセチウス(Streptococcus peucetius)に由来する種類の抗生物質であり、例としては、ダウノルビシン、ドキソルビシン及びエピルビシンなどが挙げられる。
【0116】
「アントラサイクリン系化学療法(剤)」は、1種又は複数のアントラサイクリンからなる又はそれを含む化学療法(剤)レジメンを指す。例としては、5-FU、エピルビシン及びシクロホスファミド(FEC);5-FU、ドキソルビシン及びシクロホスファミド(FAC);ドキソルビシン及びシクロホスファミド(AC);エピルビシン及びシクロホスファミド(EC)などが挙げられる。
【0117】
本明細書においては、「カルボプラチン系化学療法(剤)」は、1種又は複数のカルボプラチンからなる又はそれを含む化学療法(剤)レジメンを指す。一例は、TCH(ドセタキセル/TAXOL(登録商標)、カルボプラチン、及びトラスツズマブ/HERCEPTIN(登録商標))である。
【0118】
「アロマターゼ阻害剤」は、副腎においてエストロゲン産生を制御する酵素アロマターゼを阻害する。アロマターゼ阻害剤の例としては、4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エクセメスタン、ホルメスタン、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾールが挙げられる。一実施形態において、本明細書中のアロマターゼ阻害剤は、レトロゾール又はアナストロゾールである。
【0119】
「代謝拮抗薬化学療法」は、代謝産物と構造的に類似しているが、身体が増殖性に使用することができない薬剤の使用である。多くの代謝拮抗薬化学療法は、核酸、RNA及びDNAの産生を妨げる。代謝拮抗薬である化学療法剤の例としては、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、5-フルオロウラシル(5-FU),カペシタビン(XELODA(商標))、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、6-チオグアニン、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、アラビノシルシトシンARA-Cシタラビン(CYTOSAR U(登録商標))、ダカルバジン(DTIC-DOME(登録商標))、アゾシトシン、デオキシシトシン、ピリドミデン(pyridmidene)、フルダラビン(FLUDARA(登録商標))、クラドリビン(cladrabine)、2-デオキシ-D-グルコースなどが挙げられる。
【0120】
「化学療法抵抗性」癌とは、癌患者が、化学療法レジメンを受けている間に増悪していること(即ち、患者が「化学療法不応性」であること)、又は癌患者が、化学療法レジメンの完了後に12カ月以内に(例えば、6カ月以内に)以内に増悪していることを意味する。
【0121】
本明細書中において、用語「プラチン」は、白金系化学療法剤、例えばこれらに限定するものではないが、シスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチンを指すのに用いる。
【0122】
本明細書中において、用語「フルオロピリミジン」は、代謝拮抗薬である化学療法剤、例えばこれらに限定するものではないが、カペシタビン、フロキシウリジン及びフルオロウラシル(5-FU)を指す。
【0123】
本明細書中において、治療薬の「一定」又は「固定」用量は、ヒト患者の体重(WT)又は体表面積(BSA)を考慮せずにヒト患者に投与する用量を指す。したがって、一定用量又は固定用量は、mg/kg用量又はmg/m2用量として投与するのではなく、治療薬の絶対量として投与する。
【0124】
本明細書中の「負荷」用量は一般に、患者に投与される治療薬の初回量を含み、その1つ又は複数の維持用量がこれに続く。一般に、単回負荷用量が投与されるが、多回負荷用量も本明細書中において企図される。通常、投与される負荷用量(複数可)の量は、投与される維持用量(複数可)の量を上回り、かつ/又は負荷用量(複数可)は、維持用量(複数可)よりも頻繁に投与され、それによって、維持用量(複数可)よって到達し得るよりも早期に治療薬の所望の定常状態濃度に到達する。
【0125】
本明細書中の「維持」用量は、一定の治療期間にわたって患者に投与される治療薬の1種又は複数の用量を指す。通常、維持用量は、間隔をあけた治療間隔で、例えば、約1週間毎に、約2週間毎に、約3週間毎に又は約4週毎に、好ましくは3週間毎に投与される。
【0126】
「注入」又は「注入する」は、治療目的で静脈を経て体内に薬物含有溶液を導入することに指す。一般に、これは、点滴静注(IV)バッグを経て達成される。
【0127】
「点滴静注バッグ」又は「IVバッグ」は、患者の静脈を経て投与できる溶液を収容し得るバッグである。一実施形態において、この溶液は、生理食塩水溶液(例えば、約0.9%又は約0.45%のNaCl)である。場合によっては、IVバッグは、ポリオレフィン又はポリ塩化ビニルから形成される。
【0128】
「同時投与する」とは、2種以上の薬物の逐次注入ではなく、同一投与の間に2種(又はそれ以上)の薬物を静脈内に投与することを意味する。一般に、これは、同時投与の前に同一IVバッグ中に2種(又はそれ以上)の薬物を合わせ入れることを含む。
【0129】
「心毒性」は、薬物又は複合薬の投与によって生じるあらゆる毒性副作用を指す。心毒性は、症候性左室収縮機能不全(LVSD)もしくはうっ血性心不全(CHF)の発生率、又は左室駆出率(LVEF)の低下の何れか1つ又は複数に基づいて評価し得る。
【0130】
ペルツズマブを含む複合薬に関する「心毒性を増加することなく」という表現は、心毒性の発生率が、複合薬中のペルツズマブ以外の薬物で治療された患者において観察される心毒性の発生率以下である(例えば、トラスツズマブ及び化学療法剤、例えば、ドセタキセルの投与によって生じる心毒性の発生率以下である)ことを指す。
【0131】
「バイアル」は、液体又は凍結乾燥調合剤を収容するのに好適な容器である。一実施形態において、バイアルは、単回使用バイアル、例えば、栓付きの20cc単回使用バイアルである。
【0132】
「添付文書」は、食品医薬品局(FDA)又は他の規制当局の命令により、あらゆる処方薬のパッケージ内に入れなければならないリーフレットである。リーフレットは一般に、薬物の商標、その一般名及びその作用機序を含み;その効能、禁忌、警告、使用上の注意、有害作用及び剤形を記載し;投与の推奨用量、投与時間及び投与経路に関する指示を含む。
【0133】
「安全性データ」という表現は、薬物の安全性に関して使用者を指導する(薬物有害反応をモニター及び防止する方法についての指導を含む)ための、有害事象の出現率及び重症度が示す、対照臨床試験で得られるデータに関する。本明細書中の表3及び表4は、ペルツズマブに関する安全性データを提供する。安全性データは、表3及び4における最も多くみられた有害事象(AE)又は有害反応(ADR)の任意の1つ又は複数(例えば、2、3、4個又はそれ以上)を含む。例えば、安全性データは、ここに開示された好中球減少症、発熱性好中球減少症、下痢及び/又は心毒性に関する情報を含む。
【0134】
「有効性データ」は、薬物が疾患、例えば、癌を効果的に治療すること示す、対照臨床試験で得られるデータを指す。ペルツズマブの有効性データは、本明細書の実施例中に示す。HER2陽性転移性又は局所再発性の切除不能乳癌に関しては、ペルツズマブの有効性データは、本明細書中の表2、表5、図及び
図10に見出される。安全性データは、表2、表5、
図8及び
図10中の主要評価項目(IRFによる無増悪生存期間、PFS)及び/又は副次的評価項目(secondary enpoint)(全生存期間(OS);治験責任医師による無増悪生存期間(PFS);完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、安定(stable disease)(SD)及び増悪(PD)、及び/又は奏効期間を含む奏効率(objective response rate)(ORR))の任意の1つ又は複数(例えば、2、3、4個又はそれ以上)を含む。例えば、有効性データは、本明細書中に開示する無増悪生存期間(PFS)及び/又は全生存期間(OS)に関する情報を含む。
【0135】
「安定な混合物」とは、2種以上の薬物、例えば、ペルツズマブとトラスツズマブの混合物を指す場合、混合物中の各薬物が、1つ又は複数の分析アッセイによって評価された場合に、混合物中においてその物理的及び化学的安定性を本質的に保持していることを意味する。このための例示的な分析アッセイとしては、色、外観及び透明度(CAC)、濃度及び濁度分析、粒子分析、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、イメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)並びに効力アッセイが挙げられる。一実施形態において、混合物は、5℃又は30℃において最長24時間にわたって安定である。
【0136】
1種又は複数の他の薬物と「同時に」投与される薬物は、同一治療周期中に、1種又は複数の他の薬物と同一治療日に、及び場合によっては、1種又は複数の他の薬物と同一時間に投与される。例えば、3週間毎に施される癌療法の場合には、同時に投与される薬物はそれぞれ、3週間周期の1日目に投与される。
【0137】
II.抗体及び化学療法剤組成物
抗体の産生に使用されるHER2抗原は、例えば、所望のエピトープを含有する、HER2受容体の細胞外ドメイン又はその一部分の安定な形態であり得る。別法として、細胞表面でHER2を発現する細胞(例えば、HER2を過剰発現するように形質転換されたNIH-3T3細胞;又はSK-Br-3細胞などの癌細胞株、Stancovskiら PNAS(USA)88巻:8691~8695頁(1991年)を参照のこと)を、抗体の産生に使用できる。抗体の産生に有用な他の型のHER2受容体は、当業者には明白である。
【0138】
本明細書中における、モノクローナル抗体を作製するための種々の方法は、当技術分野において利用可能なものである。例えば、モノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature、256巻:495頁(1975年)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製し得る。
【0139】
本発明に従って使用する抗HER2抗体、トラスツズマブ及びペルツズマブは、市販されている。
【0140】
(i)ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当技術分野において文献記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1つ又は複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的には「インポート」可変ドメインに由来する「インポート」残基を指すことが多い。ヒト化は本質的には、Winter及び共同研究者の方法(Jonesら、Nature、321巻:522~525頁(1986年);Riechmannら、Nature、332巻:323~327頁(1988年);Verhoeyenら、Science、239巻:1534~1536頁(1988年))に従って、ヒト抗体の対応する配列の超可変領域配列を置換することによって行い得る。したがって、このような「ヒト化」抗体は、完全なヒト可変ドメインより実質的に少ない部分が非ヒト種からの対応する配列によって置換されているキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際には、ヒト化抗体は典型的には、一部の超可変領域残基及びことによると一部のFR残基が、齧歯動物抗体中の類似部位からの残基によって置換されている、ヒト抗体である。
【0141】
ヒト化抗体の作製に使用する、軽鎖及び重鎖の両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低下させるために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法に従って、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリと対照してスクリーニングする。次いで、齧歯動物の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Simら、J.Immunol.、151巻:2296頁(1993年);Chothiaら、J.Mol.Biol.、196巻:901頁(1987年))。別の方法は、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク領域を使用する。同一フレームワークを、いくつかの異なるヒト化抗体に使用し得る(Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89巻:4285頁(1992年);Prestaら、J.Immunol.、151巻:2623頁(1993年))。
【0142】
抗体は、抗原に対する高い親和性及び他の都合よい生物学的性質を保持しながらヒト化することがさらに重要である。この目標を達成するために、好ましい方法に従って、ヒト化抗体は、親配列及びヒト化配列の三次元モデルを使用する、親配列及び種々の概念的ヒト化生成物の分析のプロセスによって調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般に利用可能であり、当業者はそれらに精通している。選択された候補免疫グロブリン配列の推定三次元立体配座構造を例示し、表示するコンピュータープログラムが、利用可能である。これらの表示をチェックすることにより、候補免疫グロブリン配列の機能における、残基の考え得る役割を分析できる、即ち、候補免疫グロブリンがその抗原と結合する能力に影響を与える残基を分析できる。このようにして、所望の抗体特性、例えば、標的抗原(複数可)に対する増加された親和性が達成されるように、レシピエント及びインポート配列からFR残基を選択して合わせることができる。一般に、超可変領域残基は、抗原結合に直接的に影響を与えており、抗体結合への影響に最も実質的に関与する。
【0143】
米国特許第6,949,245号は、HER2を結合して、HER受容体のリガンド活性化を遮断する例示的なヒト化HER2抗体の作製を記載している。
【0144】
ヒト化HER2抗体としては具体的には、米国特許第5,821,337号(参照によって本明細書中に明示的に組み込む)の表3に記載されかつ本明細書中で定義したトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標));本明細書中に記載及び定義したペルツズマブなどのヒト化2C4抗体が挙げられる。
【0145】
本明細書中のヒト化抗体は、例えば、ヒト重鎖可変ドメインに組み込まれた非ヒト超可変領域残基を含むことができ、69H、71H及び73H(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991年)に記載された可変ドメインナンバリングシステムを利用)からなる群から選択される位置にフレームワーク領域(FR)置換をさらに含むことができる。一実施形態において、ヒト化抗体は、69H、71H及び73H位のうち2つ又は全てにFR置換を含む。
【0146】
本明細書中の対象の例示的ヒト化抗体は、重鎖可変ドメイン相補性決定残基GFTFTDYTMX(配列番号17)[Xは、好ましくはD又はSである];DVNPNSGGSIYNQRFKG(配列番号18);及び/又はNLGPSFYFDY(配列番号19)を含み、例えば、改変が抗体の親和性を本質的には維持又は改善する、それらのCDR残基のアミノ酸改変を場合によっては含む。例えば、本発明の方法に使用する抗体バリアントは、前記重鎖可変CDR配列中に約1個~約7個又は約5個のアミノ酸置換を有し得る。このような抗体バリアントは、例えば、後述するように、親和性成熟によって調製し得る。
【0147】
ヒト化抗体は、例えば、直前パラグラフのそれらの重鎖可変ドメインCDR残基に加えて、軽鎖可変ドメイン相補性決定残基KASQDVSIGVA(配列番号20);SASYX1X2X3[X1は、好ましくはR又はLであり、X2は好ましくはY又はEであり、X3は好ましくはT又はSである](配列番号21);及び/又はQQYYIYPYT(配列番号22)を含み得る。このようなヒト化抗体は、例えば、改変が抗体の親和性を本質的には維持又は改善する、前記CDR残基のアミノ酸改変を場合によっては含む。例えば、対象の抗体バリアントは、前記軽鎖可変CDR配列中に約1個~約7個又は約5個のアミノ酸置換を有し得る。このような抗体バリアントは、例えば、後述するように、親和性成熟によって調製し得る。
【0148】
本出願はまた、HER2と結合する親和性成熟抗体を企図する。親抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体、例えば、それぞれ配列番号7及び8の軽鎖可変配列及び/又は重鎖可変配列を含む(即ち、ペルツズマブのVL及び/又はVHを含む)ものであり得る。ペルツズマブの親和性成熟バリアントは、マウス2C4又はペルツズマブの親和性よりも優れた親和性(例えば、HER2-細胞外ドメイン(ECD)ELISAを用いて評価した場合に、約2倍又は約4倍~約10約倍又は約1000倍改善された親和性)を有するHER2受容体に好ましくは結合する。置換のための例示的な重鎖可変CDR残基としては、H28、H30、H34、H35、H64、H96、H99又はこれらの残基の2種以上(例えば、2種、3種、4種、5種、6種又は7種)の組合せを含む。変更のための軽鎖化可変CDR残基の例は、L28、L50、L53、L56、L91、L92、L93、L94、L96、L97又はこれらの残基の2種以上(例えば、2種もしくは3種、4種、5種又は約10種まで)の組合せを含む。
【0149】
トラスツズマブを含むそのヒト化バリアントを作製するためのマウス4D5抗体のヒト化は、米国特許第5,821,337号、第6,054,297号、第6,407,213号、第6,639,055号、第6,719,971号及び6,800,738号、並びにCarterら PNAS(USA)、89巻:4285~4289頁(1992年)に記載されている。HuMAb4D5-8(トラスツズマブ)はHER2抗原と、マウス4D5抗体より3倍強固に結合し、ヒトエフェクター細胞の存在下においてヒト化抗体の定方向(directed)細胞毒性活性を可能にする二次的な免疫機能(ADCC)を有していた。HuMAb4D5-8は、VLサブグループIコンセンサスフレームワークに組み込まれた軽鎖可変(VL)CDR残基、及びVHサブグループIIIコンセンサスフレームワークに組み込まれた重鎖可変(VH)CDR残基を含んでいた。抗体は、VHの71、73、78及び93位(FR残基のKabatナンバリング)にフレームワーク領域(FR)置換、及びVLの66位(FR残基のKabatナンバリング)にFR置換をさらに含んでいた。トラスツズマブは、非Aアロタイプヒトγ1Fc領域を含む。
【0150】
ヒト化抗体又は親和性成熟抗体の種々の形態が企図される。例えば、ヒト化抗体又は親和性成熟抗体は、抗体断片であり得る。代わりに、ヒト化抗体又は親和性成熟抗体は、完全抗体、例えば、完全IgG1抗体)であってもよい。
【0151】
(ii)ペルツズマブ組成物
HER2抗体組成物の一実施形態において、組成物は、主要種ペルツズマブ抗体とその1種又は複数のバリアントの混合物を含む。本明細書中における、ペルツズマブ主要種抗体の好ましい実施形態は、配列番号7及び8の軽鎖可変アミノ酸配列及び重鎖可変アミノ酸配列を含むものであり、最も好ましくは、配列番号11の軽鎖アミノ酸配列及び配列番号12の重鎖アミノ酸配列を含むものである(これらの配列の脱アミド化及び/又は酸化バリアントを含む)。一実施形態において、組成物は、主要種ペルツズマブ抗体とアミノ末端リーダー伸張を含むそのアミノ酸配列バリアントの混合物を含む。好ましくは、アミノ末端リーダー伸張は、抗体バリアントの軽鎖上(例えば、抗体バリアントの1つ又は2つの軽鎖上)にある。主要種HER2抗体又は抗体バリアントは、完全長抗体又は抗体断片(例えば、R(ab’)2断片のFab)であり得るが、好ましくは両方とも完全長抗体である。本明細書中の抗体バリアントは、その重鎖又は軽鎖の任意の1つ又は複数上にアミノ末端リーダー伸張を含み得る。好ましくは、アミノ末端リーダー伸張は、抗体の1つ又は2つの軽鎖上にある。アミノ末端リーダー伸張は好ましくはVHS-を含むか又はそれからなる。組成物中のアミノ末端リーダー伸張の存在は、種々の分析技術、例えばこれらに限定するものではないが、N末端配列分析、電荷不均一性のアッセイ(例えば、陽イオン交換クロマトグラフィー又はキャピラリーゾーン電気泳動)、質量分析法などによって検出できる。組成物中の抗体バリアントの量は一般に、バリアントを検出するのに使用される任意のアッセイ(好ましくは、N末端配列分析)の検出限界を構成する量から、主要種抗体の量未満の量までの範囲である。一般に、組成物中の抗体分子の約20%以下(例えば、約1%~約15%、例えば、5%~約15%)が、アミノ末端リーダー伸張を含む。このような百分率の量は好ましくは、定量的N末端配列分析又は陽イオン交換分析を用いて(好ましくは、高分解能弱陽イオン交換カラム、例えば、PROPAC WCX 10(商標)陽イオン交換カラムを用いて)決定する。アミノ末端リーダー伸張バリアントの他に、主要種抗体及び/又はバリアントのさらなるアミノ酸配列変更、例えばこれらに限定するものではないが、その一方又は両方の重鎖にC末端のリシン残基を含む抗体、脱アミド化抗体バリアントなどが企図される。
【0152】
さらに、主要種抗体又はバリアントは、グリコシル化バリエーションをさらに含んでいてもよく、その非限定的例としては、そのFc領域に結合したG1もしくはG2オリゴ糖構造を含む抗体、その軽鎖に結合した糖鎖(例えば、抗体の1つ又は2つの軽鎖に結合した、例えば、1種又は複数のリシン残基に結合した、1と又は2つの糖鎖、例えば、グルコース又はガラクトース)を含む抗体、1つもしくは2つの非グリコシル化重鎖を含む抗体、又はその1つもしくは2つの重鎖に結合したシアル化(sialidated)オリゴ糖を含む抗体などが挙げられる。
【0153】
組成物は、遺伝子改変細胞株、例えば、HER2抗体を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株から回収してもよいし、又はペプチド合成によって調製してもよい。
【0154】
例示的なペルツズマブ組成物に関するより詳細な情報については、米国特許第7,560,111号及び第7,879,325号並びにUS2009/0202546A1を参照のこと。
【0155】
(iii)トラスツズマブ組成物
トラスツズマブ組成物は一般に、主要種抗体(それぞれ13及び14の軽鎖配列及び重鎖配列を含む)とそのバリアント形態、特に酸性バリアント(脱アミド化バリアントを含む)の混合物を含む。好ましくは、組成物中のこのような酸性バリアントの量は、約25%未満、又は約20%未満、又は約15%未満である。米国特許第6,339,142号を参照のこと。陽イオン交換クロマトグラフィーによって分解可能なトラスツズマブの形態、例えば、ピークA(両軽鎖中においてAsn30がAspに脱アミド化されている);ピークB(1つの重鎖においてAsn55がisoAspに脱アミド化されている);ピーク1(1つの軽鎖においてAsn30がAspに脱アミド化されている);ピーク2(1つの軽鎖においてAsn30がAspに脱アミド化されており、1つの重鎖においてAsp102がisoAspに異性化されている);ピーク3(主ピーク形態、又は主要種抗体);ピーク4(1つの重鎖においてAsp102がisoAspに異性化されている);及びピークC(1つの重鎖中にAsp102スクシンイミド(Asu))に関する、Harrisら、J.Chromatography、B752:233~245頁(2001年)も参照のこと。このようなバリアント形態及び組成物を、本明細書中の本発明に含める。
【0156】
(iv)5-FU及びシスプラチン
進行性胃癌のための単一で標準的な世界的に認められている化学療法レジメンはないが、5-フルオロウラシル(5-FU)+シスプラチンがこの効能のために広範に使用されている。化学療法の前治療歴がない患者におけるフェーズII研究において、5-FU+シスプラスチンは、約40%の奏効率及び7~10.6カ月の全生存期間中央値をもたらした(Lacave AJ、Baron FJ、Anton LMら Ann Oncol 1991年;2巻:751~754頁;Rougier P、Ducreux M、Mahjoubi Mら Eur J Cancer 1994年;30A巻:1263~1269頁;Vanhoefer U、Wagner T、Lutz Mら Eur J Cancer 2001年;37 Suppl 6:abstract S27)。
【0157】
(v)カペシタビン
カペシタビンは、進行性胃癌患者において、広範に試験されている。カペシタビン単剤療法のフェーズII有効性の結果は、2003年のKoizumiらの研究(Koizumi W、Kurihara M、Sasai Tら Cancer 1993年;72巻:658~62頁; Sakamoto J、Chin K、Kondo Kら Anti-Cancer Drugs 2006年;17巻:2331~6頁)において、19%及び26%の奏効率並びに8.1カ月及び10.0カ月の全生存期間を示している。白金と併用されたカペシタビンに関しては、多くの研究が、28%~65%の範囲の奏効率、5.8~9カ月の無増悪期間(time to progression)及び10.1~12カ月の全生存期間を示している(Kang Y、Kang WK、Shin DBら J Clin Oncology 2006年;24 Suppl 18:abstract LBA4018;Park Y、Kim B、Ryoo Bら Proc Am Soc Clin Oncol 2006年;24 Suppl 18:abstract 4079;Kim TW、Kang YK、Ahn JHら Ann Oncol 2002年;13巻:1893~8頁;Park YH、Kim BS、Ryoo BYら Br J Cancer 2006年;94巻:959~63頁)。
【0158】
III.治療法のための患者の選択
本発明による治療のための患者の選択には、HER2の検出を使用できる。FDAに承認されているいくつかの商業アッセイを、HER2陽性癌患者の特定に利用できる。これらの方法としては、HERCEPTEST(登録商標)(Dako)及びPATHWAY(登録商標) HER2(免疫組織化学的検査(IHC)アッセイ)並びにPathVysion(登録商標)及びHER2 FISH pharmDx(商標)(FISHアッセイ)が挙げられる。使用者は、各アッセイの妥当性確認及び性能能力に関する情報について、特定のアッセイキットの添付文書を参照しなければならない。
【0159】
例えば、HER2過剰発現は、IHCによって、例えば、HERCEPTEST(登録商標)(Dako)を用いてによって分析し得る。腫瘍生検からのパラフィン包埋組織切片をIHCアッセイに供し、以下のようなHER2タンパク染色強度判定基準に適合させることができる:
スコア0 染色が全く観察されないか、又は腫瘍細胞の10%未満で膜染色が観察される。
スコア1+ 腫瘍細胞の10%より多くで、淡い/かろうじて知覚できる膜染色が検出される。細胞が、それらの膜の一部で染色されるだけである。
スコア2+ 腫瘍細胞の10%より多くで、弱~中の完全な膜染色が観察される。
スコア3+ 腫瘍細胞の10%より多くで、中~強の完全な膜染色が観察される。
【0160】
HER2過剰発現評価に関するスコアが0又は1+であるそれらの腫瘍は、HER2陰性と特徴付けることができ、スコアが2+又は3+であるそれらの腫瘍は、HER2陽性と特徴付けることができる。
【0161】
HER2を過剰発現させる腫瘍は、細胞1個当たりに発現されるHER2分子のコピーの数に相当する免疫組織化学的スコアによって等級付けすることができ、生化学的に判定できる:
0=コピー0~10,000個/細胞、
1+=コピー少なくとも約200,000個/細胞、
2+=コピー少なくとも約500,000個/細胞、
3+=コピー少なくとも約2,000,000個/細胞。
【0162】
チロシンキナーゼのリガンド非依存的活性化をもたらす3+レベルのHER2の過剰発現(Hudziakら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84巻:7159~7163頁(1987年))は、乳癌の約30%で起こり、これらの患者では、無再発生存期間及び全生存期間が減少する(Slamonら、Science、244巻:707~712頁(1989年);Slamonら、Science、235巻:177~182頁(1987年))。
【0163】
HER2タンパク質過剰発現の存在と遺伝子増幅とは相関性が高く、したがって、代わりに又は追加的に、遺伝子増幅を検出するためのインサイツハイブリダイゼーション(ISH)アッセイ、例えば、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)アッセイの使用も、本発明による治療に適切な患者の選択に用いることができる。FISHアッセイ、例えば、INFORM(商標)(Ventana(Arizona)によって販売)又はPathVysion(登録商標)(Vysis、Illinois)を、ホルマリン固定、パラフィン包埋腫瘍組織に対して実施して、腫瘍のHER2増幅の程度(もしあれば)を決定することができる。
【0164】
最も一般には、HER2陽性状態は、前述の方法の何れかを用いて、保管パラフィン包埋腫瘍組織を使用して確認する。
【0165】
好ましくは、2+もしくは3+IHCスコアを有する又はFISHもしくはISH陽性であるHER2陽性患者を、本発明による治療のために選択する。
【0166】
ペルツズマブを用いる療法を施す患者をスクリーニングするための代替的アッセイに関しては、米国特許第7,981,418号及び実施例11も参照のこと。
【0167】
IV.医薬製剤
本発明に従って使用するHER2抗体の治療製剤は、所望の純度を有する抗体を任意選択の医薬として許容される担体、賦形剤又は安定剤と混合する(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編(1980年))ことによって、一般には凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で、保存用に調製する。抗体の結晶も企図される(米国特許出願第2002/0136719号を参照のこと)。許容される担体、賦形剤又は安定剤は、使用する投与量及び濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、その例としては、以下のものが挙げられる:緩衝剤、例えば、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸及びメチオニン;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(残基約10個未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンもしくはリシン;単糖、二糖及び他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノースもしくはデキストリン;キレート化剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯塩(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又は非イオン界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はポリエチレングリコール(PEG)。凍結乾燥抗体製剤は、WO97/04801に記載されており、これを参照することによって本明細書中に明示的に組み込む。
【0168】
凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号、第6,685,940号及び第6,821,515号に記載されており、これらを参照することによって本明細書中に明示的に組み込む。好ましいHERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)製剤は、トラスツズマブ440mg、α、α-トレハロース脱水物(dehydrate)400mg、L-ヒスチジン-HCl 9.9mg、L-ヒスチジン6.4mg及びポリソルベート20(USP)1.8mgを含む、静脈内(IV)投与のための、保存剤を含まない白色~淡黄色の滅菌凍結乾燥粉末製剤である。保存剤として1.1%ベンジルアルコールを含有する静菌性注射用蒸留水(BWFI)20mLの再構成により、21mg/mLトラスツズマブを含有するpH約6.0の多回用量溶液が得られる。さらなる詳細については、トラスツズマブ処方情報を参照のこと。
【0169】
治療的使用のための好ましいペルツズマブ製剤は、20mMヒスチジン酢酸塩、120mMスクロース、0.02%ポリソルベート20中に30mg/mLペルツズマブを含む(pH6.0)。代替的ペルツズマブ製剤は、10mMヒスチジン-HCl緩衝剤、240mMスクロース、0.02%ポリソルベート20中に25mg/mLペルツズマブを含む(pH6.0)。
【0170】
実施例中に記載する臨床試験において使用するプラセボの製剤は、活性薬剤を含まないペルツズマブに等しい。
【0171】
本発明中の製剤はまた、治療する個々の適応症に必要な2種以上の活性化合物、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない補完的な活性を有する化合物を含有していてもよい。HER二量体化阻害剤と併用し得る種々の薬物は、以下の「方法」のセクションに記載する。このような分子は好適には、意図される目的のために有効な量で併存する。
【0172】
インビボ投与に使用する製剤は、無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に行われる。
【0173】
V.治療方法
本明細書中の治療方法の第1の態様において、HER2陽性乳癌患者集団において無増悪生存期間を6カ月以上延長するための方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤(例えば、タキサン、例えば、ドセタキセル)を投与することを含む、方法が提供される。集団におけるPFSの統計的に有意な延長が評価できるように、患者集団は場合によっては、好適な数の患者(例えば、200例以上、300例以上又は400例以上の患者)を含む。
【0174】
下記の実施例3におけるフェーズIII CLEOPATRA臨床データから、治験責任医師によって評価されたPFSの中央値が、プラセボ+トラスツズマブ+ドセタキセルでは12.4カ月、ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセルでは18.5カ月であり、したがって、PFS中央値の改善は、ペルツズマブを投与されなかった患者(即ち、トラスツズマブ及びドセタキセルのみを投与された患者)と比較して6カ月以上(例えば、6.1カ月)であったことが示される。
【0175】
追加の又は代替的な実施形態において、HER2陽性乳癌患者集団において80%以上の奏効率を得る方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤(例えば、タキサン、例えば、ドセタキセル)を投与することを含む、方法が提供される。
【0176】
関連した態様において、HER2陽性癌患者集団において心毒性を増加することなくHER2陽性癌を治療するために2種のHER2抗体を併用する方法であって、前記集団の患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含む、方法が提供される。併用によって生じる心毒性の欠如の統計学的に有意な評価を行えるように、患者集団は場合によっては、好適な数の患者(例えば、200例以上、300例以上又は400例以上の患者)を含む。下記の実施例3におけるフェーズIII CLEOPATRA臨床データから、ペルツズマブとトラスツズマブの併用は心毒性が悪化させないことが示される。心毒性は、例えば下記の実施例3で開示されるように、症候性左室収縮機能不全(LVSD)もしくはうっ血性心不全(CHF)の発生率、又は左室駆出率(LVEF)の低下に関してモニターできる。
【0177】
場合によっては、乳癌は、転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌又はデノボのステージIVの疾患であり、免疫組織化学的検査(IHC)3+及び/又は蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)増幅比2.0以上と定義される。
【0178】
場合によっては、集団の患者は、前治療歴がないかもしくはアジュバント療法後に再発している、ベースラインにおいて50%以上の左室駆出率(LVEF)を有する、かつ/又は0又は1の米国東海岸癌臨床試験グループパフォーマンスステータス(ECOG PS)を有する。
【0179】
代替的実施形態において、本発明は、早期HER2陽性乳癌を治療する方法であって、乳癌患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与することを含み、化学療法剤が、アントラサイクリン系化学療法剤又はカルボプラチン系化学療法剤を含む、方法に関する。本発明のこの態様は、実施例5の臨床データによって裏付けられる。一実施形態において、化学療法剤は、アントラサイクリン系化学療法剤、例えば、5-FU、エピルビシン及びシクロホスファミド(FEC)を含む。代替的実施形態において、化学療法剤は、HERCEPTIN(登録商標)/トラスツズマブに加えて、カルボプラチン系化学療法剤、例えば、タキサン(例えば、ドセタキセル)、カルボプラチンを含む(例えば、TCHレジメン)。一実施形態において、ペルツズマブは、アントラサイクリン系化学療法剤又はカルボプラチン系化学療法剤と同時に投与する。例えば、ペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤は、3週間周期で投与し、各周期の1日目にペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤を投与する。本明細書中の実施例のデータは、ペルツズマブ投与は、ペルツズマブを用いない治療と比較して(即ち、トラスツズマブ及びアントラサイクリン(anthrycline)系化学療法剤を含むがペルツズマブを含まない治療(例えば、FEC)と比較して);又はトラスツズマブ及びおカルボプラチン系化学療法剤を含むがペルツズマブを含まない治療(即ち、TCH)と比較して、心毒性を増加させないことを実証している。本明細書中で企図される早期HER2陽性乳癌療法は、ネオアジュバント療法及びアジュバント療法を含む。
【0180】
本明細書中の本発明はまた、患者のHER2陽性癌を治療する方法であって、同一点滴静注バッグからペルツズマブとトラスツズマブの混合物を患者に同時投与することを含む、方法に関する。この実施形態は、HER2陽性乳癌、HER2陽性胃癌、HER2陽性転移性もしくは局所再発性の切除不能乳癌、又はデノボのステージIVの疾患、早期HER2陽性乳癌などを含むあらゆるHER2陽性癌の治療に適用できる。場合によっては、この方法は、患者に化学療法剤を投与することをさらに含む。
【0181】
さらに別の実施形態において、本発明の治療方法は、HER2陽性胃癌を治療するための、ペルツズマブ、トラスツズマブ並びに化学療法剤、例えば、プラチン(例えば、シスプラチン)及び/又はフルオロプリミジン(fluoropurimidine)(例えば、カペシタビン及び/又は5-フルオロウラシル(5-FU))の投与を含む、それから本質的になる、又はそれからなる。
【0182】
特に、本発明の治療方法は、転移性胃癌、切除不可能な局所進行性胃癌又は術後再発性胃癌のヒト患者への、ペルツズマブとトラスツズマブと化学療法剤、例えば、プラチン並びに/又はフルオロプリミジン、例えば、シスプラチン並びに/又はカペシタビン及び/もしくは5-フルオロウラシル(5-FU)との投与を含む、それから本質的になる、又はそれからなる。特定の実施形態において、胃癌は、治癒的療法を受け入れられない。
【0183】
代替的実施形態において、患者のHER2陽性乳癌を治療する方法であって、ペルツズマブ、トラスツズマブ及びビノレルビンを患者に投与することを含む、方法が提供される。この実施形態による乳癌は、場合によっては転移性又は局所進行性である。場合によっては、患者に、転移性の設定における全身的非ホルモン性抗癌療法の前治療歴がない。
【0184】
別の態様において、本発明は、患者のHER2陽性乳癌を治療する方法であって、患者にペルツズマブ、トラスツズマブ及びアロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール又はレトロゾール)を投与することを含む、方法を提供する。この実施形態によれば、乳癌は、進行性乳癌、例えば、ホルモン受容体陽性乳癌、例えば、エストロゲン受容体(ER)陽性及び/又はプロゲステロン受容体(PgR)陽性乳癌である。場合によっては、患者に、転移性の設定における全身的非ホルモン性抗癌療法の前治療歴がない。この治療方法は、場合によっては、患者に導入化学療法剤(例えば、タキサンを含む)を投与することをさらに含む。
【0185】
本発明による療法は、治療される患者の無増悪生存期間(PFS)及び/又は全生存期間(OS)を延長する。
【0186】
抗体及び化学療法治療薬は、既知の方法を踏まえてヒト患者に投与する。特定の投与スケジュール及び製剤は、本明細書中の実施例において記載する。
【0187】
一実施形態によれば、ペルツズマブは、ペルツズマブ及びトラスツズマブを投与される患者の90%において20μg/mLの定常状態Cminをもたらす用量で投与する。
【0188】
本発明の特定の一実施形態によれば、約840mg(負荷用量)のペルツズマブを投与し、続いて約420mg(維持用量)の抗体の1用量又は複数用量を投与する。維持用量は好ましくは、臨床増悪又は管理不可能な毒性に至るまで、約3週間毎に合計少なくとも2用量にわたって、好ましくは約6用量以下、もしくは7用量、もしくは8用量、もしくは9用量、もしくは10用量、もしくは11用量、もしくは12用量、もしくは13用量、もしくは14用量、もしくは15用量、もしくは16用量、又は17用量もしくはそれ以上の用量を投与する。より多くの治療周期を含むより長い治療期間も企図される。
【0189】
別の特定の実施形態によれば、ペルツズマブは、全治療周期について840mgの用量で投与する。
【0190】
トラスツズマブは典型的には、約8mg/kgの静脈内負荷用量として投与し、続いてその後の周期で6mg/kgの用量を投与する。トラスツズマブは典型的には、臨床増悪又は管理不可能な毒性に至るまで、3週間毎に、好ましくは17用量以下又はそれ以上の用量を投与する。
【0191】
特定の一実施形態において、トラスツズマブは、各治療周期の1日目に静脈内(IV)点滴として、治験責任医師によって評価される増悪又は管理不可能な毒性に至るまで、周期1には8mg/kgの負荷用量で、その後の周期には6mg/kgの用量で投与する。
【0192】
別の特定の実施形態において、ペルツズマブは、各周期の1日目にIV点滴として、合計6周期にわたって又は治験責任医師に評価される増悪もしくは管理不可能な毒性に至るまで(何れか早く到来する方)、周期1に840mgの負荷用量及びその後の周期に420mgの用量、又は周期1に840mgの負荷用量及びその後の周期に840mgの用量の何れかで投与する。
【0193】
胃癌を治療するためには、シスプラチン80mg/m2は典型的には、IV点滴として各周期の1日目に、合計少なくとも6周期にわたって投与する。
【0194】
胃癌を治療するためには、カペシタビン1000mg/m2は典型的には、各周期の1日目の夕方から15日目の朝まで、合計少なくとも6周期にわたって、1日2回経口投与する。カペシタビンの投与は、個々の患者に関する慎重なリスク-ベネフィット評価の後に主治医の裁量で延長し得る。
【0195】
HER2陽性乳癌の治療に使用する化学療法剤の投与量及びスケジュールを下記の実施例中に開示するが、他の投与量及びスケジュールも周知であり、本明細書中の本発明によって企図される。
【0196】
VI.製造品
本明細書における製造品の一実施形態は、癌患者への投与に好適な、ペルツズマブとトラスツズマブの安定な混合物を含有する点滴静注(IV)バッグを含む。場合によっては、混合物は、約0.9%のNaCl又は約0.45%のNaClを含む生理食塩水溶液である。例示的IVバッグは、ポリオレフィン製又はポリ塩化ビニル製点滴バッグ、例えば、250mLのIVバッグである。本発明の一実施形態によれば、混合物は、約420mg又は約840mgのペルツズマブ及び約200mg~約1000mgのトラスツズマブ(例えば、約400mg~約900mgのトラスツズマブ)を含む。
【0197】
場合によっては、IVバッグ中の混合物は、5℃又は30℃において最長24時間にわたって安定である。混合物の安定性は、色、外観及び透明度(CAC)、濃度及び濁度分析、粒子分析、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、イメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)並びに効力アッセイからなる群から選択される1種又は複数のアッセイによって評価できる。
【0198】
代替的実施形態において、本発明は、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを含む製造品であって、添付文書が、表3もしくは表4の安全性データ及び/又は表2、表5、
図8もしくは
図10の有効性データを提供する、製造品を提供する。場合によっては、バイアルは、約420mgのペルツズマブを含有する単回用量バイアルである。一実施形態において、バイアルは、ボール紙カートンの内部に入れられる。
【0199】
関連した態様において、本発明は、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを一緒に包装することを含む製造品の製造方法であって、添付文書が、表3もしくは表4の安全性データ及び/又は表2、表5、
図8もしくは
図10の有効性データを提供する、方法に関する。
【0200】
さらなる関連した態様において、本発明は、ペルツズマブの安全かつ効果的な使用を確実にする方法であって、ペルツズマブを含むバイアルと添付文書とを一緒に包装することに含み、添付文書が、表3もしくは表4の安全性データ及び/又は表2、表5、
図8もしくは
図10の有効性データを提供する、方法に提供する。
【0201】
VII.生物学的物質の寄託
以下のハイブリドーマ細胞株を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)、10801 University Boulevard、Manassas、VA 20110-2209、USA(ATCC)に寄託した:
抗体記号表示 ATCC No. 寄託日
4D5 ATCC CRL 10463 1990年5月24日
2C4 ATCC HB-12697 1999年4月8日
【0202】
本発明のさらなる詳細を、以下の非限定的な実施例によって例示する。明細書中の全ての引用の開示を、参照によって本明細書中に明示的に組み込む。
【実施例0203】
HER2陽性進行性胃癌患者においてペルツズマブとトラスツズマブ及び化学療法剤との併用を評価するフェーズIIa研究
20世紀後半における発生率の急激な世界的低下及び死亡率の低下にもかかわらず、胃癌は依然として、肺癌に次いで世界第2位の癌死亡原因である(Parkin、D. Oncogene 23巻:6329~40頁(2004年))。胃癌の発生率は、地理的地域によって大きく異なる(Kelleyら J Clin Epidemiol 56巻:1~9頁(2003年);Plummerら Epidemiology of gastric cancer. Butletら編.Mechanisms of carcinogenesis:contribution of molecular epidemiology. Lyon:IARC Scientific Publications No 157、IARC(2004年))。日本、韓国、中国及び中南米の特定の国では、発生率は、男性100,000人当たり20~95例である。対照的に、米国、インド及びタイでは、発生率は、男性100,000人当たり4~8例である。西ヨーロッパでの発生率は、イタリアの一部地域における男性100,000人当たり37例~フランスにおける男性100,000人当たり12例の範囲である。女性における発生率は、同様な地理的パターンに従うが、男性の場合よりも約50%低い。胃噴門部(胃食道接合部)に限局される癌と胃の残りの部分に限局される癌との間には明確な疫学的格差がある。噴門部の癌は、米国白人男性の胃癌症例の39%を占めるが、日本の男性では胃癌のわずか4%となっている。理由は不明であるが、胃噴門部及び下部食道の癌は、1970年代以降、先進国で急増した。
【0204】
今日に至るまで、胃癌のための唯一の潜在的に治癒的な治療は、手術である。胃癌の生存率は、日本では近年、より早期の検出及びより良好な手術手技の結果として、著しく改善された(Inoueら Postgrad Med J 81巻:419~24頁(2005年))。しかし、西ヨーロッパ及び北アメリカで、胃癌は、切除がもはや可能でない後期に診断されることが多い。結果的に、これらの集団の5年全生存率は、25%以下である(Ajani,J. The Oncologist 10 Suppl 3:49~58頁(2005年);Catalanoら Clin Rev Oncol/Hematol 54巻:209~41頁(2005年))。
【0205】
それらの地理的地域に関係なく、局所進行性成長又は転移の拡大により切除不能な疾患を有する患者は、予後が不良であり、5年全生存率が5%~15%の範囲内である(Cunninghamら、Annals of Oncology 16 Suppl 1:i22~3頁(2005年))。診断時に切除不能の疾患を有する患者及び手術後の再発性疾患を有する患者に関して、主な治療法の選択肢は、化学療法である(National Comprehensive Cancer Network. NCCN clinical practice guidelines in oncology. Gastric cancer. Version 1. National Comprehensive Cancer Network(2006年))。症状緩和の意図で施される化学療法は、進行性胃癌患者における最善の対症療法より優れていることが示されている(Wagnerら J Clin Oncol 24巻:2903~9頁(2006年))。
【0206】
BO18255(ToGA)研究は、胃又は胃食道接合部の手術不能な、局所進行性もしくは再発性及び/又は転移性のHER2陽性腺癌を有する患者において、化学療法剤と併用したトラスツズマブの有効性及び安全性を、第一選択治療法としての化学療法単独と比較して評価するために設計された、国際的なフェーズIII多施設共同無作為非盲検比較試験であった。本研究の主目的は、トラスツズマブとフルオロピリミジン(5-FU又はカペシタビン)+シスプラチンで併用治療した患者の全生存期間を比較することであった。BO18255研究の結果から、胃癌患者においてトラスツズマブを化学療法と併用する場合の有意な臨床的ベネフィットが実証された。主要評価項目の全生存期間は、トラスツズマブ+化学療法アームでは、化学療法単独アームと比較して有意に改善された(p=0.0045、ログランク検定;ハザード比0.74)。生存期間の中央値は、トラスツズマブ+化学療法アームでは13.8カ月、化学療法単独アームでは11.1カ月であり、死亡リスクは、患者のためにトラスツズマブ+化学療法アームの患者では26%低下した。他の全ての副次的評価項目は、同様なハザード比及びオッズ比で臨床的有意性を示した(例えば、Bangら、Lancet 28;376(9742):687~97頁(2010年)を参照のこと)。
【0207】
本研究の結果として、トラスツズマブは今日では、EUと米国を含めて、シスプラチン+カペシタビン又は5-FUとの併用で、転移性疾患の前治療歴がないHER2陽性の転移性胃又は胃食道接合部腺癌の患者の治療に適応されている。
【0208】
現在のところ、進行性胃癌のための単一で標準的な世界的に認められている化学療法レジメンはない。ToGA試験の成功にもかかわらず、この重篤な状態のための新しい効果的な治療選択肢が非常に必要とされている。特に、胃癌患者において治療関連罹患を回避しかつ/又は生存期間を増加させることを目標とする新規治療的アプローチが必要とされている。したがって、この実施例は、胃又は胃食道接合部のHER2陽性腺癌患者においてペルツズマブの2つの異なる用量を評価する多施設共同無作為非盲検研究である。患者は、2つの治療アームに1:1の比率で無作為化する。アームAの患者には、周期1については840mgのペルツズマブ負荷用量及び周期2~6については420mgの用量を投与し、アームBの患者には、6つ全ての周期についてペルツズマブ840mgを投与する。両治療アームの患者に、トラスツズマブ、シスプラチン及びカペシタビンを投与する。研究スキーマは、
図6に示されている。本研究の期間は、約24カ月(リクルートに4カ月、最後の患者のリクルート後の追跡調査に20カ月)である。研究の終了は、全患者に増悪が起こったか、また全患者が研究から離脱もしくは研究を中止したか、何れか早い方の時点とする。
【0209】
標的集団
この試験には、約30例の患者を含める。
【0210】
患者は、以下の研究エントリー基準を満たさなければならない:
・ 治癒的療法を受け入れられない手術不能の局所進行性又は転移性疾患のある、胃又は胃食道接合部の組織学的に確認された慢性腺癌。
・ 術後(手術の意図が治癒であった場合)に再発を示している進行性疾患の患者も、エントリーに適格である。
・ 画像法(コンピュータ断層撮影法(CT)又は磁気共鳴画像法(MRI))を用いて評価される、固形癌の治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)、v1.1による測定可能な疾患、又は追跡できる測定不可能な疾患。
・ 原発性腫瘍又は転移性腫瘍に関して中央検査施設によって評価された場合に、IHC3+又はIHC2+とISH+との組合せの何れかと定義されるHER2陽性腫瘍。ISH陽性は、(HER2遺伝子コピー数)対(CEP17のシグナル数)が2.0の比と定義される。
・ 中央検査施設によるHER2適格性の確認のための、少なくとも5mmの浸潤性腫瘍を含むホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織が入手可能なことが、必須である。
・ 米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)パフォーマンスステータスが0又は1。
・ ベースライン左室駆出率(LVEF)55%以上(心エコー図(ECHO)又はマルチゲート収集(MUGA)スキャンによって測定)。
・ 平均余命が少なくとも3カ月。
・ 男性又は女性。
・ 年齢18歳以上。
・ インフォームドコンセントに署名済みである。
・ 妊娠可能性のある女性及び妊娠可能性のある女性のパートナーを有する男性参加者の場合:非常に効果的な非ホルモン形態の避妊又は患者及び/もしくはパートナーによる2つの効果的な形態の非ホルモン避妊を使用する合意。
・ 避妊使用は、研究治療期間中及び研究薬の最後の用量後少なくとも6カ月間は継続しなければならない。
【0211】
以下の判定基準の何れかを満たす患者は、研究エントリーから除外する:
・ 進行性又は転移性疾患に対する化学療法の前治療歴。ただし、アジュバント療法又はネオアジュバント療法の完了と研究への登録との間に少なくとも6カ月が経過している場合には、アジュバント療法又はネオアジュバント療法の前治療歴は認められる。
・ プラチンによるアジュバント療法又はネオアジュバント療法は、認められない。
・ 上部消化管の身体的完全性の欠如又は吸収不良症候群(例えば、胃部分切除又は胃全切除を受けた患者は研究にエントリーできるが、経皮空腸瘻プローブ(jejunostomy probe)を有する患者はエントリーできない)。
・ 活動性の(著しい又は止血不能の)胃腸管出血。
・ 以前の治療法から生じている残留関連毒性(例えば、グレード2以上の神経学的毒性(NCICTCAE))。ただし、脱毛症は除く。
・ 過去5年以内の他の悪性腫瘍。ただし、子宮頸部上皮内癌又は基底細胞癌は除く。
・ 無作為化直前の以下の異常な臨床検査の何れか:
血清総ビリルビンが正常上限(ULN)の1.5倍超、又は既知のギルバート症候群の患者の場合は、血清総ビリルビン>2×ULN
肝臓及び骨転移をいずれも有さない患者の場合:AST又はALT>2.5×ULN、及びアルカリホスファターゼ(ALP)>2.5×ULN
肝転移を有するが骨転移を有さない患者の場合:AST又はALT>5×ULN、及びALP>2.5×ULN
肝転移及び骨転移をいずれも有する患者の場合:AST又はALT>5×ULN、及びALP>10×ULN
骨転移を有するが肝転移を有さない患者の場合:AST又はALT>2.5×ULN、及びALP>10×ULN
アルブミン<25g/L
クレアチニンクリアランス<60mL/分
総白血球(WBC)数<2500/μL(<2.5×109/L)
絶対好中球数(ANC)<1500/μL(<1.5×109/L)
血小板<100,000/μL(<100×109/L)
・ 以下を含むがこれらに限定されない、重篤な心臓疾患又は医学的状態:
実証された心不全又は収縮機能不全(LVEF<50%)の病歴;
高リスクのコントロールされていない不整脈、例えば、安静時心拍数100/分の心房性頻拍;
重篤な心室性不整脈(心室性頻拍)又は高度AVブロック(第2度AVブロック2型(Mobitz II型)又は第3度AVブロック);
抗狭心症薬を必要とする狭心症;
臨床的に重要な心臓弁膜症;
ECG上での貫壁性梗塞の証拠;コントロール不良な高血圧(例えば、収縮期圧>180mmHg又は拡張期圧>100mmHg);
進行性の悪性疾患もしくは他の疾患の合併症による安静時呼吸困難又は支持酸素療法の必要性;
長期間又は高用量のコルチコステロイド療法による治療;
吸入ステロイド及び制吐のための又は食欲刺激薬としての短期間の経口ステロイドは認められる;
臨床的に重要な聴力異常;既知のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ欠乏症;
脳転移の病歴又は臨床的証拠;重篤な、コントロール不良の全身性介入性の疾患(例えば、感染症又は十分に制御されていない糖尿病)。
・ 妊娠中又は授乳中
妊娠可能性のある女性は、使用されている避妊法に関係なく、無作為化前7日以内の血清妊娠検査が陰性でなければならない。
・ 研究治療の開始前4週間以内の放射線療法、又は姑息的放射線療法が末梢的に骨転移部位に施されかつ患者があらゆる急性毒性から回復している場合には研究治療開始前2週間前以内の放射線療法。
・ 研究治療開始前4週間以内の大きな手術。ただし、完全に回復している場合は除く。
・ HIV、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスによる既知の活動性の感染症。
・ 研究薬の何れかに対する既知の過敏性。
・ 治験責任医師が判定した場合に、追跡検査又は手順に応ずることができないこと。
【0212】
治験医薬製品:用量、経路及びレジメン
治療周期の期間は、3週間である。
・ トラスツズマブは、各周期の1日目に静脈内(IV)点滴として、治験責任医師によって評価される増悪もしくは管理不可能な毒性に至るまで、周期1で8mg/kgの負荷用量及びその後の周期で6mg/kgの用量で投与する。
・ ペルツズマブは、各周期の1日目にIV点滴として合計6周期にわたって又は治験責任医師によって評価される増悪もしくは管理不可能な毒性に至るまで(何れか早く到来する方)、各アームについて以下のようにして投与する:
アームA:ペルツズマブを、周期1に840mgの負荷用量及び周期2~6に420mgの用量で患者に投与する。
アームB:ペルツズマブを、周期1~6に840mgで患者に投与する。
【0213】
非治験医薬製品
治療周期の期間は、3週間である。
・ シスプラチン80mg/m2を、IV点滴として各周期の1日目に、合計6周期にわたって投与する。
・ カペシタビン1000mg/m2を、各周期の1日目の夕方から15日目の朝まで、合計6周期にわたって、1日2回経口投与する。(カペシタビンは、個々の患者に関する慎重なリスク-ベネフィット評価の後に治験責任医師の裁量で延長し得る。)
・
【0214】
製剤
ペルツズマブの製剤
臨床目的で作製された組換え抗体の各ロットは、ウイルス安全性要件並びに米国薬局方及びヨーロッパ薬局方の無菌要件を満たす。各ロットは、同一性、純度及び効力に関する要求仕様を満たす。
【0215】
ペルツズマブは、20mM L-ヒスチジン-酢酸塩(pH6.0)、120mMスクロース及び0.02%ポリソルベート20中で製剤化された30mg/mLペルツズマブを含有する単回使用製剤として提供する。各20ccバイアル(バイアル当たり溶液14.0mL)は、約420mgのペルツズマブを含有する。
【0216】
トラスツズマブの製剤
治験トラスツズマブは、ほとんどの国でバイアル当たり150mgの名目含有量で凍結凍乾燥調合剤として供給される(バイアルサイズは国によって異なる)。
【0217】
トラスツズマブは、ヒスチジン、トレハロース及びポリソルベート20中で製剤化する。再構成した後は、各溶液は、pH約6.0で21mg/mLの活性薬物を含有する。
【0218】
評価
有効性
治験責任医師によって評価された腫瘍奏効を用いて、周期3及び6の最後に各治療アームについて、RECISTによって判定された場合に完全奏効又は部分奏効の患者として定義される最良総合効果を要約する。
【0219】
安全性
安全性は、有害事象、検査施設の検査結果の変化及びバイタルサインの変化の概要を踏まえて評価する。
【0220】
薬物動態/薬力学
43日目のペルツズマブのための最小(トラフ)血清濃度(Cmin)を評価する。加えて、PKパラメーター、例えば、CL、Vss、AUC及び半減期を推定する。43日目までに収集されたデータからのPKパラメーターの評価は、患者の90%において20μg/mL以上の定常状態トラフを予測する推定用量のモデリング及びシミュレーションを可能にする。
【0221】
統計分析
薬物動態分析
個々の及び平均の血清ペルツズマブ濃度-時間データを、表に記載し、用量レベルでプロットする。ペルツズマブの血清薬物動態は、総曝露(曲線下面積(AUC))、最大血清濃度(Cmax)、最小血清濃度(Cmin)、定常状態Cmax及びCminまでの時間、総血清クリアランス、分布容積及び排出半減期(t1/2)を推定することによって要約する。これらのパラメーターの推定値を、記述統計学によって、表に記載し、要約する(平均、標準偏差、最小値及び最大値)。観察されるペルツズマブ血清濃度-時間データによっては、母集団PKアプローチを使用して、PK標的濃度を達成する用量を推定し得る。
【0222】
トラスツズマブについて観察されたCmax及びCminを、指定した各PK試料採取時点について記述統計学によって、表に記載し、要約する。全てのPK分析に関して、試料収集の実際の時点(予定時点でなく)を使用する。
【0223】
ペルツズマブのPKパラメーター(AUC、Cmax、t1/2)は、ノンコンパートメント法を用いて算出し、全身クリアランスは、標準的な方法で血漿濃度から導き出す。
【0224】
分析集団
治療意図集団
研究薬の少なくとも1つの用量を投与する、無作為化した全ての患者を、治療意図集団に含める(患者を、分析目的で無作為化した治療群に割り付ける)。
【0225】
安全性集団
研究薬の少なくとも1つの用量を投与する全ての患者を、安全性評価可能集団に含める(患者を、治療される治療群に割り付ける)。
【0226】
標本サイズ:
本研究の目的は、2つの異なるペルツズマブ用量レジメンを投与される患者において43日目にペルツズマブのCminを評価することである。次いで、母集団PKモデルを用いてこれらのデータを分析して、進行性胃癌患者の約90%において20μg/mL以上のPK標的定常状態トラフ濃度を達成するペルツズマブの用量を特定する。ペルツズマブが進行性胃癌においてトラスツズマブと同様に挙動するという仮定を用いた分析は、アーム当たり患者15例の標本サイズ(本研究における総患者数は30例)に関しては、 所望の標的濃度を達成する用量が許容される精度(変動係数<15%)で推定できることを示唆している。
【0227】
臨床結果
フェーズIIa胃癌(GC)研究の臨床結果は、
図32~37に示されている。
【0228】
【0229】
図33は、ペルツズマブ420mg(アームA)又は840mg(アームB)で治療された、GC研究の2つのアームの患者集団の人口統計を示している。
【0230】
図34は、アームA及びBそれぞれの患者のGCの病歴を示している。
【0231】
図35は、アームA及びBそれぞれの患者の内訳を示している。
【0232】
図36は、アームA及びBそれぞれの全奏効率を示している。
【0233】
安全性データ
下痢は、対象の90%で起こる最も多くみられた事象であり、典型的には、周期1に発症するグレード1及び2であった。下痢のために治療法を中止した患者はいなかった。
【0234】
グレード3以上の有害事象(AE)(>13%)には、下痢、口内炎、疲労/無力症、食欲減退、低ナトリウム血症、貧血及び好中球減少症(neutopenia)が含まれた。好中球減少症及び低ナトリウム血症(アームAでより高い)並びに食欲減退(アームBでより高い)を除いて、これらの事象の発生率は、標準及び高用量ペルツズマブアームにおいて同様であった。
【0235】
駆出率(EF)、好中球減少性熱、発疹及び薬物過敏反応の無症候性変化は、ペルツズマブのより高用量と関連していなかった。
【0236】
重篤有害事象(SAE)は患者の60%で起こり、発生率は高用量ペルツズマブと関連していなかった。
【0237】
アームBにおいてより多くの患者が治療から離脱したが、治療中止に至る事象は均一でなかったので、これがより高いペルツズマブ用量に起因したかは不明である。
【0238】
薬物動態(PK)の結果
図37は、胃癌(GC)(JOSHUA) 対転移性乳癌(MBC)(CLEOPATRA)の、42日目のペルツズマブ濃度評価の結果を示している。
【0239】
結果の概要
- ペルツズマブトラフ濃度は、GCではMBCと比較して低い。
・ 周期間濃度(即ち、7日目、14日目)は、予想MBC濃度と一致している。これは、クリアランスがこれらのより高い濃度において線形であるためである。
・ 840/420mgの用量に関するトラフ濃度は、CLEOPATRA試験(実施例3)と比較して約37%低く、これは、より低濃度ではクリアランスが非線形である(受容体飽和が不完全である)ことによる可能性が高い。
- GCにおける840/840mg用量は、MBCにおける840/420mg用量と同様なトラフ濃度をもたらす。
- 共変量は、PKに影響を及ぼさない。
【0240】
結論
GCにおけるペルツズマブPKに基づき、胃癌の治療には840/840mg用量が使用される。この用量は、患者の90%において、20μg/mL超の、標的濃度を上回るトラフ濃度を維持すると予想され、MBCにおいて観察されるのと同様なトラフレベルをもたらす。
治療アームの患者に、トラスツズマブ、シスプラチン並びにカペシタビン及び/又は5-フルオロウラシルを投与する。他のアームにおいては、患者に、プラセボ又はペルツズマブの何れかを投与する。
ペルツズマブ、トラスツズマブ及び化学療法剤(複数可)(例えば、シスプラチン及びカペシタビン)の投与を含む、ここに記載する治療方法は、主要評価項目(OS)を満たすと予想される。特に、ここに記載する治療方法は、トラスツズマブ及び化学療法剤のみによる治療と比較して、例えば、生存期間、例えば、全生存期間(OS)及び/もしくは無増悪生存期間(PFS)並びに/又は無増悪期間(TTP)を延長しかつ/あるいは奏効率(ORR)を拡大することによって、治療される胃癌患者において治療的に有効であると予想される。