(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109892
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極、蓄電デバイス、および蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230801BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230801BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20230801BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230801BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230801BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230801BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20230801BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230801BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230801BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20230801BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20230801BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230801BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20230801BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0585
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/0565
H01G11/24
H01G11/26
H01G11/30
H01G11/56
H01G11/86
H01M10/052
H01M10/054
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082257
(22)【出願日】2023-05-18
(62)【分割の表示】P 2019028821の分割
【原出願日】2019-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】518041928
【氏名又は名称】I&Tニューマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 俊治
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの電極の膨張収縮の影響を減少でき、その電池特性を維持する。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスの電極2,4は、金属繊維Aと、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉11,21であって、金属繊維Aに接触している吸着物質粉又は活物質粉11,21と、金属繊維Aに接触している粉末の固体電解質14,24と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、
前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、
平均直径が0.5μm以下であるカーボン繊維と、
を備える固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極。
【請求項2】
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、平均直径が0.5μm以下であるカーボン繊維と、を少なくとも有する正極層と、
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、を少なくとも有する負極層と、
粉末の固体電解質を有する固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に配置され、前記正極層および前記負極層に接触している、蓄電デバイス。
【請求項3】
前記金属繊維として、長繊維を使用した不織布もしく平均長さが5mm以下の短繊維を使用する、請求項2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
金属繊維と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、
前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、
を備える固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極であって、
前記金属繊維として、金属繊維を使用した不織布を使用する、
蓄電デバイスの電極。
【請求項5】
平均長さが25mm以下である短繊維の金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、平均直径が0.5μm以下であるカーボン繊維と、バインダーとを少なくとも含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、
前記スラリーを所定形状に成形する成形工程と、
前記所定形状に成形された前記スラリーを少なくとも乾燥させることによって正極層又は負極層を形成する乾燥工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項6】
平均長さが25mm以下である短繊維の金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、平均直径が0.5μm以下であるカーボン繊維と、バインダーとを少なくとも含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、
前記スラリーを少なくとも加圧して所定形状に成形することによって正極層又は負極層を形成する工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項7】
平均長さが25mmを超える長繊維の金属繊維をシート形状にするシート形成工程と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、バインダーとを含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、
前記シート形状の前記金属繊維の間に前記スラリーを導入する導入工程と、
前記スラリーを少なくとも乾燥させることによって正極層又は負極層を形成する乾燥工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項8】
平均長さが25mmを超える長繊維の金属繊維をシート形状にするシート形成工程と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、バインダーとを含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、
前記シート形状の前記金属繊維の間に前記スラリーを導入する導入工程と、
前記スラリーを少なくとも加圧して所定形状に成形することによって正極層又は負極層を形成する工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項9】
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、バインダーとを含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、
金属繊維の不織布の間に前記スラリーを導入する導入工程と、
前記スラリーを少なくとも乾燥させることによって正極層又は負極層を形成する乾燥工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項10】
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、バインダーとを含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、
金属繊維の不織布の間に前記スラリーを導入する導入工程と、
前記スラリーを少なくとも加圧して所定形状に成形することによって正極層又は負極層を形成する工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項11】
前記金属繊維を、溶解した金属を微細孔から空間中に吹き出して製造する、請求項5~10の何れかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記金属繊維を、ビビリ振動切削法を用いて製造する、請求項5~10の何れかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記金属繊維を、コイル切削法を用いて製造する、請求項5~10の何れかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記シート形状の前記金属繊維又は前記不織布に前記スラリーを押し込む又は前記スラリーの中に前記シート形状の前記金属繊維を押し込むことによって、前記シート形状の前記金属繊維の間に前記スラリーを導入する、請求項7~10の何れかに記載の製造方法。
【請求項15】
平均長さが3mm以下であり繊維の平均直径が30μm以下である前記金属繊維を用いて前記スラリーを作成し、前記スラリーを正極集電体又は負極集電体に塗布することによって前記スラリーを前記所定形状に成形する、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項16】
前記スラリー作成工程において、平均直径が0.5μm以下であるカーボン繊維を添加する、請求項5~15の何れかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極、蓄電デバイス、および蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギー削減や地球温暖化防止を目的に様々な分野で二次電池が使用されており、特に自動車産業において電気エネルギーが採用されたことにより、二次電池に関する研究・開発が加速している。そこで近年、次世代蓄電池の開発において、金属空気電池、ナトリウムイオン電池、リチウムイオン電池、マグネシウムイオン電池などの研究が盛んに行われている。
【0003】
リチウムイオン電池(以下LiBとも称する)は、従来のニッケル水素電池等に対して使用できる電圧が3.5~3.7Vと高く、近年最も採用されている二次電池である。
【0004】
LiBは、主に、正極、負極、セパレータ、電解液で構成されている。例えば、一般的に正極は、集電体である厚さ20μm程度のアルミニウム箔に活物質粉(通常リチウム含有金属酸化物)と添加物である導電助剤とバインダーを練り合わせ(以下、活材ペーストと呼ぶ)、これを100μm程度の厚さに塗布したものを製作する。負極は、集電体である銅箔に炭素材料を塗布したものである。これらを例えばポリエチレン等のセパレータで分離し、電解液に浸すことによりLiBは構成される。このようなリチウムイオン二次電池は、例えば、特許文献1などに開示されている。
【0005】
充放電は、リチウムイオンが正極と負極との間を移動することで行われ、充電時はリチウムイオンが正極から負極へ移動し、正極のリチウムイオンが無くなる状態又は負極にリチウムイオンが収蔵できなくなる状態に至った時に充電が完了する。放電時はこの逆となる。
【0006】
LiBは近年最も使用されているが、電解液溶媒が含有する電解質塩(通常LiPF6)が可燃性の液体であるため、発火や液漏れなどを起こさない構造が必要となり、更に、この有機系電解液が、正極との界面で陰イオンや様々な異分子の分解を引き起こし、LiBの寿命を短縮するとも言われている。そこで、電解液を固体電解質に置き換えようとする試みが行われている。このような電池は、正極層、負極層、および電解質層が全て固体で構成されるので全固体電池と呼ばれている。全固体電池は、本来LiBの構成物質に限られないが、一般にLiBの電解液を固体化する研究が多いため、一般に全固体LiBのことを指すことが多い。
【0007】
全固体電池のメリットは、電解質層が難燃性であるため安全であること、電解質層中をリチウムイオンのみが移動するため陰イオンや溶媒分子との副反応が発生しにくく、より長寿命であること、電解質層が液体でないため使用温度範囲が広い等である。
【0008】
また、LiBで高容量、高電圧の電池を得ようとする場合、一個のセルを複数個接続しなければならない。固体電解質層を用いれば、正極層、固体電解質層、負極層の順に重ねるだけで良いため、エネルギー密度の高い電池の製作が可能であるというメリットも有する。
【0009】
このようにLiBに比較して様々なメリットを有する為、近年、固体電池の電解質や正極負極に関する研究が数多くなされている。しかし、課題も存在する。例えば、充放電サイクル時の活物質の膨張収縮が引き起こす容量劣化の問題や集電体からの活物質の剥離に関する問題がある。
【0010】
全固体電池の充放電は、Li脱挿入によってなされるが、この際ホストである結晶格子は膨張収縮を繰り返す。それによる体積変化が大きいと活物質、固体電解質、および導電助剤の粒子間の接触が断ち切れ、有効な活物質の量が減少するが、全固体電池の場合、電池容量の10分の1~10分の2程度の電流で充放電を繰り返しても、1モルに近い量のLiが脱挿入することになりその体積膨張、収縮率は10%近くにも達する。そのため、その膨張収縮を抑える工夫が種々提案されている。
【0011】
これを解決するために、例えば、特許文献2では、単電池間に導電性の弾性体を配して膨張収縮を抑制し、特許文献3では、電池の周りに緩衝層を設け、特許文献4では、空隙率を制御するなど様々な工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007-123156号公報
【特許文献2】特開2008-311173号公報
【特許文献3】特開2015-111532号公報
【特許文献4】特許第5910737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2の短電池間の弾性体の配置では、正極もしくは負極と固体電解質の膨張収縮で発生する隙間を埋めることは困難である。集電体と固体正極層もしくは固体負極層の間に弾性体を配位する構造では、縦の膨張収縮は抑えることができるかもしれないが横の膨張収縮に問題があり、20~30μm程度の弾性体層を使用するために全体的な厚みが増すことになる。同様に特許文献3もガラス層や緩衝層を設ける必要があり全体的な厚みや製造上のコストの問題があり、特許文献4も空隙率を2層も制御しなければならない等、技術的な問題や時間、コストの問題が存在する。
【0014】
一方、近年LiBでも、容量を増やすためにSiを負極とする電池の開発も進められている。しかし、Siの充電時の体積膨張は約4倍にも達する。固体電池にもこのSiを利用しようとする研究がなされているが、こちらでもその体積膨張が課題となっている。
【0015】
例えば正極活物質としてLiCoO2を用いてSiを負極に用いると、そのエネルギー密度は400Wh/kg(650Wh/L)程度と予想される。このように大きなエネルギー密度を有する電池の開発が進められているが、上記の様に、充放電に伴う材料の膨張収縮が生じる。そのため、この構造でもバインダーや電極構造を変える必要に迫られている。
【0016】
上記事情に鑑み、本発明は、蓄電デバイスの電極の膨張収縮の影響を減少でき、その電池特性を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1態様の蓄電デバイスの電極は、金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、を備える。
当該構成は、電極が充放電によって膨張又は収縮した時に、活物質粉および固体電解質と金属繊維との電気的な接触を維持するために有利である。
【0018】
本発明の第2態様の蓄電デバイスは、金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、を有する正極層と、金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、を有する負極層と、粉末の固体電解質を有する固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に配置され、前記正極層および前記負極層に接触している。
【0019】
金属繊維は弾性変形するものであるから、正極層および負極層も金属繊維の弾性の影響が出る。つまり、正極層は負極層の膨張および収縮に追随しやすくなり、負極層も正極層の膨張および収縮に追随し易くなる。
【0020】
本発明の第3態様の蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法は、平均長さが25mm以下である短繊維の金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、バインダーとを少なくとも含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、前記スラリーを所定形状に成形する工程と、を有する。
【0021】
本発明の第4態様の蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法は、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、粉末の固体電解質と、バインダーとを含む液状又はゲル状のスラリーを作成するスラリー作成工程と、シート形状の金属繊維の間又は金属繊維の不織布の間に前記スラリーを導入する導入工程と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蓄電デバイスの電極の膨張収縮の影響を減少でき、その電池特性を維持することができる。また、導電性の金属繊維の混入は、集電体と活物質粉の電気的な接続を良好にすると共に、繊維自体の弾性力によって電極の膨張収縮による影響を減少する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】固体電解質を用いた一実施形態の蓄電デバイスの断面模式図である。
【
図2】本実施形態の金属繊維の製造方法の模式図である。
【
図3】本実施形態のスラリーの成形方法の模式図である。
【
図4】本実施形態のスラリーの他の成形方法の模式図である。 なお、これらの図は本実施形態の構成をわかりやすく示すための図であり、金属繊維、活物質粉、導電助剤、固体電解質等の大きさ、太さ、長さ等は実際と異なる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、全固体型リチウムイオン二次電池の例を挙げて、一実施形態の蓄電デバイス(全固体電池)を説明する。尚、この実施形態は、全固体型ナトリウムイオン二次電池、全固体型マグネシウムイオン二次電池、固体電解質を用いた空気電池等の全固体型電池、若しくはSi(シリコン)負極を用いた膨張収縮の激しい全固体型リチウムイオン二次電池に用いることが可能である。
【0025】
全固体型電池の構造の模式図の例は
図1の通りである。全固体電池は大まかに正極集電体1、正極層2、固体電解質層3、負極層4、負極集電体5で構成される。正極層2は例えば正極活物質、導電助剤、およびバインダーを含み、負極層4は例えば負極活物質、導電助剤、およびバインダーを含む。
【0026】
(集電体箔)
正極集電体1は、一般には金属箔であり、当該金属箔はアルミニウム、複数の金属から成る合金等で形成することができる。負極集電体5には一般的に銅箔が使用されることが多い。これは負極集電体5にアルミニウム箔を使用した場合、Al-Li合金の形成電位が負極黒鉛の作動電位より低いため、負極にAl-Li合金を形成してしまうことに起因している。したがって、負極活物質が作動電位より高い活物質又は反応しない活物質、例えばチタン酸リチウムのような活物質であれば、負極集電体5にアルミニウム箔を使用することが可能である。全固体電池の場合は、耐電圧性および耐食性の高いSUS(ステンレス鋼)、コバルト基合金等の導電性材料、その他の導電性素材、導電性セラミックス等が使用される場合もある。
【0027】
(正極層)
正極活物質粉11は、放電容量を高めるために、リチウムイオンを吸蔵しやすい物質、例えばLiCoPO、LiCoO2、LiMnO4、LiFePO4などが好ましい。必要に応じて、導電助剤12、バインダー13、イオン導電性を高めるための無機固体電解質、高分子電解質等の粉末の固体電解質14が添加され、焼結や加圧成形を経て正極層が構成される。本実施形態では、正極層はアルミニウム、銅等から成る金属繊維を含有している。以下、正極層の作成方法を具体的に説明する。
【0028】
(負極層)
負極活物質粉21の材質も、正極層と同様に放電容量を高めるために、イオンを吸蔵しやすい物質が好ましく、例えばLiFePO4、Li4Ti5O12、Li4Fe4(PO4)3、SiOx、Cu6Sn5、LiTiO4等の物質が挙げられる。負極層は、これらの負極活物質粉21、導電助剤22、バインダー23、およびイオンの導電性を上げるために無機固体電解質、高分子電解質等の粉末の固体電解質24を混合し、焼結や加圧成形することで構成される。本実施形態では、正極層および負極層は、アルミニウム、銅等から成る金属繊維Aを含有している。以下、正極層および負極層の作成方法を具体的に説明する。
【0029】
[金属繊維の成形]
特許第6209706号公報、特開2018-106846号公報等に記載された方法で、金属繊維を作成することができる。金属繊維として、平均長さが25mm以下の短繊維を用いることも可能であり、平均長さが25mmを超える長繊維を用いることも可能である。
【0030】
(短繊維の成形)
アルミニウム又は銅の短繊維である金属繊維Aは、一例として、平均長さが25mm以下、好ましくは15mm以下、より好ましくは5mm以下であり、平均線径が50μm以下、好ましくは25μm以下である。金属繊維Aは他の金属材質であってもよい。アルミニウム又は銅の金属繊維Aは、例えば、断面円形のアルミニウム又は銅の柱状部材に切削工具を当てるビビリ振動切削法や、フライス切削法により成形される。前記線径や長さを有するアルミニウム又は銅の金属繊維を他の方法で成形することも可能である。
【0031】
他の方法として、コイル切削法を用いることができる。コイル切削法を用いる場合、先ず、金属薄板をコイル状に巻き、その端面を切削することにより長尺の金属繊維を得る。そして、当該長尺の金属繊維Aを上記長さに切断することによって、短繊維である金属繊維Aが得られる。
【0032】
他の方法として、溶融したアルミニウム等の金属を微細孔から空間中に吹き出すことによって、上記長さを有する金属繊維Aを作成することも可能である。
例えば
図2に示すように、セラミック、ステンレス等から成り先端が曲がった曲がり管41の後方部が挿入された密閉容器40内に溶融したアルミニウムを準備し、曲がり管41の先端部が密閉容器40の外に出ている状態で、空気もしくは不活性ガスなどをガス導入管40aから注入して密閉容器内40の圧力を上げると、溶けたアルミニウムが曲がり管41の後方部から上昇して先端部に到達する。曲がり管41の先端の開口部41aに数μm~数mmの孔径の複数の微細孔42aを有するノズル42をセットしておくと、溶けたアルミニウムが微細孔42aから空間中に吹き出す。このアルミニウムとして、純度が99.9%以上のものを用いることが加工を容易にする上で好ましく、純度が99.99%以上のものを用いることが加工を容易にする上でより好ましいが、その他の金属との合金とすることも可能である。前記空間は空気で満たされていても良く、窒素等の不活性ガスで満たされていても良く、その他のガスで満たされていても良い。
【0033】
本実施形態では、略水平方向に向かってアルミニウムが吹き出すようにノズル42が配置されているが、下方等の他の方向に向かってアルミニウムを吹き出してもよい。これにより、ノズル42の微細孔42aから出たアルミニウムは空間中を横方向に飛びながら冷却されてアルミニウムの短繊維となる。
【0034】
(長繊維の成形)
アルミニウム又は銅の長繊維である金属繊維Aは、一例として、平均長さが25mmを超え、好ましくは35mmを超え、より好ましくは45mmを超え、平均線径が50μm以下、好ましくは25μm以下である。金属繊維Aは他の金属材質であってもよい。アルミニウム又は銅の金属繊維Aは、例えば、コイル切削法を用いて作成される。コイル切削法を用いる場合、先ず、金属薄板をコイル状に巻き、その端面を切削することにより長尺の金属繊維Aを得る。そして、当該長尺の金属繊維を上記長さに切断することによって、長繊維である金属繊維Aが得られる。前記線径や長さを有するアルミニウム又は銅の金属繊維Aを他の方法で成形することも可能である。
【0035】
他の方法として、溶融したアルミニウム等の金属を微細孔から空間中に吹き出すことによって長繊維である金属繊維Aを作成することも可能である。
アルミニウムの短繊維を作成した前記装置を用い、アルミニウムを吹き出す条件を変更することにより、上記長さを有する金属繊維Aを作成することができる。
【0036】
[短繊維である金属繊維Aを用いる場合の正極層の成形]
先ず、金属繊維Aと、充放電時に化学反応する正極活物質粉11と、導電助剤12と、バインダー13と、固体電解質14とを含む液状又はゲル状のスラリーSを作成する。当該スラリーSはアルミニウム又は銅の金属繊維Aと、正極活物質粉11と、導電助剤12と、希釈したバインダー13と、固体電解質14との混合物を混練することにより作成される。アルミニウム又は銅の金属繊維Aは平均長さが25mm以下であることから、スラリーS中においてアルミニウム又は銅の金属繊維A、正極活物質粉11、導電助剤12、および固体電解質14が混ざり易い。金属繊維Aの平均長さが15mm以下、より好ましくは5mm以下になると、より混ざり易くなる傾向がある。
【0037】
続いて、スラリーSの粘度を上げるために前乾燥を行う。前乾燥は、バインダー13が完全に硬化しない状態まで乾燥させ、これによりスラリーSを所定の形状に成形し易くするものであるため、バインダー13の粘度に応じて省くことができる。
続いて、
図3のようにスラリーSを型内に入れると共にスラリーSを加圧する。これにより、スラリーSを電極のサイズに応じた所定の厚さ等に成形する。なお、
図4に示すように一対のローラの間にスラリーSを通すことによりスラリーSを加圧し、これによりスラリーSを電極のサイズに応じた所定の厚さに成形することも可能である。型やローラによりスラリーSの厚さを調整した後に、スラリーSを切断して所定の形状(大きさ)に成形することも可能である。スラリーSを正極集電体1の厚さ方向一方の面に塗布することによってスラリーSを所定の形状に成形することも可能である。
【0038】
続いて、成形されたスラリーSを真空乾燥等により乾燥させる乾燥工程を行う。これにより、スラリーS中のバインダー13を硬化させる。これにより、スラリーS中の正極活物質粉11および固体電解質14が金属繊維Aに接触した状態となる。なお、前記接触した状態とは、全ての正極活物質粉11が金属繊維Aに接触していることを指す訳ではなく、一部の正極活物質粉11が金属繊維Aに接触していても、前記接触した状態である。同様に、一部の固体電解質14が金属繊維Aに接触していても、前記接触した状態である。
【0039】
なお、正極層2における正極活物質粉11と固体電解質14とを加えたものの含有率(重量%)は、85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。この中で、正極活物質粉11の含有率が70重量%以上であることが好ましく、75重量%以上であることがより好ましい。一方、固体電解質14の含有率が10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。正極層2における金属繊維Aの含有率(重量%)は、3重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、8%以下であることが好ましい。その他は導電助剤22、バインダー23等が占める。
【0040】
[短繊維である金属繊維Aを用いる場合の負極層の成形]
先ず、金属繊維Aと、充放電時に化学反応する負極活物質粉21と、導電助剤22と、バインダー23と、固体電解質24とを含む液状又はゲル状のスラリーSを作成する。当該スラリーSはアルミニウム又は銅の金属繊維Aと、負極活物質粉21と、導電助剤22と、希釈したバインダー23と、固体電解質24との混合物を混練することにより作成される。
【0041】
続いて、スラリーSの粘度を上げるために前乾燥を行う。前乾燥は、バインダー23が完全に硬化しない状態まで乾燥させ、これによりスラリーSを所定の形状に成形し易くするものであるため、バインダー23の粘度に応じて省くことができる。
続いて、
図3のようにスラリーSを型内に入れると共にスラリーSを加圧する。これにより、スラリーSを電極のサイズに応じた所定の厚さ等に成形する。なお、
図4に示すように一対のローラの間にスラリーSを通すことによりスラリーSを加圧し、これによりスラリーSを電極のサイズに応じた所定の厚さに成形することも可能である。型やローラによりスラリーSの厚さを調整した後に、スラリーSを切断して所定の形状(大きさ)に成形することも可能である。スラリーSを負極集電体5の厚さ方向一方の面に塗布することによってスラリーSを所定の形状に成形することも可能である。
【0042】
続いて、成形されたスラリーSを真空乾燥等により乾燥させる乾燥工程を行う。これにより、スラリーS中のバインダー13を硬化させる。これにより、スラリーS中の負極活物質粉21および固体電解質24が金属繊維Aに接触した状態となる。なお、前記接触した状態とは、全ての負極活物質粉21が金属繊維Aに接触していることを指す訳ではなく、一部の負極活物質粉21が金属繊維Aに接触していても、前記接触した状態である。同様に、一部の固体電解質24が金属繊維Aに接触していても、前記接触した状態である。
【0043】
なお、正極層2および負極層4において、活物質粉11,21の代わりに、充電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉を用いることも可能である。
【0044】
なお、負極層4における負極活物質粉21と固体電解質24とを加えたものの含有率(重量%)は、85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。この中で、活物質粉11の含有率が70重量%以上であることが好ましく、75重量%以上であることがより好ましい。一方、固体電解質24の含有率が10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。負極層4における金属繊維Aの含有率(重量%)は、3重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、8%以下であることが好ましい。その他は導電助剤22、バインダー23等が占める。
【0045】
[長繊維である金属繊維Aを用いる場合の正極層の成形]
先ず、金属繊維Aを不織布等のシート形状にする。そして、正極活物質粉11と、導電助剤12と、バインダー13と、固体電解質14との混合物を混練することによりスラリーを作成し、前記シート形状の金属繊維A同士の隙間にスラリーを押し込む(導入する)。スラリーの中にシート形状の金属繊維Aを押し込んでもよい。スラリーは乾燥前のものであってもよく、乾燥後のものであってもよい。当該導入は、加圧によって行われてもよい。導入後にスラリーを乾燥する乾燥工程が実施されてもよい。上記により、スラリーの正極活物質粉11および固体電解質14が金属繊維Aに接触した状態となる。
【0046】
なお、長繊維である金属繊維Aを用いる場合、前記シート形状の金属繊維Aが正極集電体1の一部又は全部として機能してもよい。
また、短繊維である金属繊維Aを用いる場合も、正極集電体1が金属繊維Aから成るシートであってもよい。
【0047】
なお、長繊維である金属繊維Aを用いる場合、正極層2における正極活物質粉11と固体電解質14とを加えたものの含有率(重量%)は、80重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。この中で、正極活物質粉11の含有率が65重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。一方、固体電解質14の含有率が10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。正極層2における金属繊維Aの含有率(重量%)は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、12%以下であることが好ましい。その他は導電助剤22、バインダー23等が占める。
【0048】
[長繊維である金属繊維Aを用いる場合の負極層の成形]
先ず、金属繊維Aを不織布等のシート形状にする。そして、負極活物質粉21と、導電助剤22と、バインダー23と、固体電解質24との混合物を混練することによりスラリーを作成し、前記シートの金属繊維A同士の間に形成される隙間にスラリーを押し込む(導入する)。スラリーの中にシート形状の金属繊維Aを押し込んでもよい。スラリーは乾燥前のものであってもよく、乾燥後のものであってもよい。当該導入は、加圧によって行われてもよい。導入後にスラリーを乾燥する乾燥工程が実施されてもよい。上記により、スラリーの負極活物質粉21および固体電解質24が金属繊維Aに接触した状態となる。
【0049】
なお、長繊維である金属繊維Aを用いる場合、前記シート形状の金属繊維Aが負極集電体5の一部又は全部として機能してもよい。
また、短繊維である金属繊維Aを用いる場合も、負極集電体5が金属繊維Aから成るシートであってもよい。
【0050】
なお、長繊維である金属繊維Aを用いる場合、負極層4における正極活物質粉11と固体電解質14とを加えたものの含有率(重量%)は、80重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。この中で、正極活物質粉11の含有率が65重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。一方、固体電解質14の含有率が10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。負極層4における金属繊維Aの含有率(重量%)は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、12%以下であることが好ましい。その他は導電助剤22、バインダー23等が占める。
【0051】
[固体電解質層の成形]
粉末の固体電解質34とバインダー33とを含む混合物を混練することにより液状又はゲル状のスラリーを作成し、乾燥、型内での加圧、ローラを用いた加圧等を行うことによって、所定の厚さを有する固体電解質層3を得る。固体電解質層3は周知の固体電解質層であってもよい。また、固体電解質層3は周知のゲル状の固体電解質層であってもよい。
【0052】
[蓄電要素の成形]
前述のように作成された正極層2、固体電解質層3、および負極層4を重ね合わせると共に加圧することによって、正極層2と固体電解質層3とを結合すると共に、固体電解質層3と負極層4とを結合する。また、必要に応じて、正極層2に正極集電体1を重ね合わせると共に、負極層4に負極集電体5を重ね合わせる。これにより、蓄電要素BEが形成される。
図1のように蓄電要素BEを必要な数だけ重ね合わせることによって、全固体型電池が形成される。
【0053】
(導電助剤)
導電助剤12,22は、正極および負極の導電性を向上するために殆どのケースで添加される。導電助剤12,22としては、導電性を有する粉末が用いられる。通常は黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック等から成る炭素系粉末が用いられ、その他に金属粉末、例えばNi、Fe、Co、Ag等が添加されるケースや、WO3、SnO3等の酸化物も添加されるケースもある。導電助剤12,22としては、二次電池およびキャパシタに用いられる周知の導電助剤を用いることが可能である。例えば、コークス類、有機高分子化合物の焼成体、炭素繊維、平均直径が0.5μm以下であるカーボンナノ繊維等を用いることも可能である。
【0054】
(固体電解質)
固体電解質14,24,34はLiBの電解液同様に、電池全体に存在し、正極層2と負極層4との間のイオンの伝達を行う。固体電解質14,24,34の材質としては、次のような無機固体電解質や高分子固体電解質を用いることができる。
【0055】
無機固体電解質としては、Li3N、LiI、Li3N-LiI―LiOH、LiSiO4、LiSoO4-LiI-LiOH、Li3PO4-Li4SiO4、Li2SiS3等のLi(リチウム)の窒化物やハロゲン化物、ケイ素化物などが使用でき、またナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、化学式LixMy(PO4)3が使用され得る。xは1≦x≦2、yは1≦y≦2であり、MはAl、Ti、Ge、Ga等で構成される物質等が使用できる。またPは、SiやBに置き替えることも可能である。
【0056】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリプロピレンオキサイド誘導体、リン酸エステルポリマーなどを用いることができる。
【0057】
(バインダー)
熱融着性のバインダー13,23,33の樹脂として、ポリエチレン、エチレンビニルアセテート、ポリフッ化ビニリデンなどを使用することができる。バインダー13,23,33として、例えば、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル化合物、スチレン・ブタジエン共重合ゴム等のゴム系バインダー等を用いることも可能である。その他、二次電池およびキャパシタに用いられる周知のバインダーを用いることが可能である。
本発明者は、より口径精度の高い短繊維の製造方法として、コイル切削法による長繊維を数mm程度に切断した繊維を使用できることを確認し、今回この方法よる短繊維を実施例で使用している。
【0058】
(実施例)
(正極層の作製)
正極活物質粉11として単純にLiBと同様に、粒径は10~15μmのLiCoO2を使用し、固体電解質14として、市販の上記LixMy(PO4)3系のもの(粒径5μm)を使用し、導電助剤12にアセチレンブラック、バインダー13にNMP(n-メチルピロリドン)で希釈したポリフッ化ビニリデンを使用し、これに平均直径20μm、平均長さ5mm以下(例えば2mm)のアルミニウム繊維を添加して、乾燥後の重量比で正極活物質粉11:固体電解質14:導電助剤12:バインダー13:アルミニウム短繊維A=70:18:5:2:5となるように正極材を製作した。
これを厚さ15μmのアルミニウム箔に50μmの厚さで塗布し正極層2とした。
【0059】
(負極層の作製)
負極活物質粉21として、粒径10~15μmのLiTiO4の粉末を使用し、正極層2と同じ固体電解質24、導電助剤22、NMP希釈バインダー23、アルミニウム短繊維Aを加えて、乾燥後の比重の比で負極活物質粉21:固体電解質24:導電助剤22:バインダー23:アルミニウム繊維A=70:18:5:2:5となるように負極材を製作した。
これを厚さ15μmのアルミニウム箔に50μm塗布し負極層4とした。
【0060】
(固体電解質層の作製)
固体電解質層3には市販の上記LixMy(PO4)3系のもの(粒径5μm)を使用し、これにNMPで希釈したポリフッ化ビニリデンのバインダー33を加え、乾燥後の重量比で固体電解質34:ポリフッ化ビニリデンのバインダー33=97:3となるように固体電解質ペーストを作成し、ポリイミドのシートに50μm塗布して固体電解質層3を作製した。
【0061】
(電池の作製)
正極層2、固体電解質層3、負極層4を重ね、約200℃でプレス後、これを1時間250℃の温度で加熱処理し、単電池(蓄電要素BE)を作製した。同様の単電池を複数個作成し、
図1のように積層して最上下面をSUS(ステンレス)箔(20μm)6で挟み、固定した後、これをラミネート容器に密閉した。単電池が3個積層することによって、約200mAhの固体電池を作製した。
【0062】
(比較例)
比較として、正極層2および負極層4に金属繊維Aを添加しない前記同様の全固体電池(3積層電池、同約200mAh)を製作した。
【0063】
(電池特性評価)
金属繊維Aの有無の試作電池にて、電圧範囲、上限4.2V、下限3Vにて100mAhを一定電流として充放電試験を実施した。
その結果、双方ともに理論容量に近い、約180mAhの電池であることが判明した。
その後、これらを用いて上記の条件にて、サイクル特性試験を実施し、その容量維持率を測定したところ、金属繊維(アルミニウム短繊維)Aの混入したものは約85%を維持したが入っていないものは60%に低下した。
これにより、本発明は、全固体電池の電池特性を向上できることを確認した。
【0064】
正極層2および負極層4に金属繊維Aが含まれていると、正極層2および負極層4が充放電によって膨張又は収縮した時でも、正極活物質粉11、負極活物質粉21、および固体電解質14,24と金属繊維Aとの電気的な接触が維持される。当該電気的な接触が導電助剤12,22を介して行われることもある。このため、金属繊維Aを含有する試作電池のサイクル特性が良好になっていると考えられる。
【0065】
ここで、金属繊維Aは弾性変形するものである。このため、正極層2および負極層4も金属繊維Aの弾性の影響が出る。つまり、正極層2は負極層4の膨張および収縮に追随しやすくなり、負極層4も正極層2の膨張および収縮に追随し易くなる。これも、金属繊維Aを含有する試作電池のサイクル特性が良好になっている理由の一つであると推定される。
【0066】
なお、正極層2および負極層4を少し圧縮変形させながら蓄電要素BE又は全固体型電池を作成することも可能である。この場合、正極層2および負極層4内の金属繊維Aに予変形が与えられ、金属繊維Aが予め弾性変形している。このため、正極層2は負極層4の膨張および収縮により追随しやすくなり、負極層4も正極層2の膨張および収縮により追随し易くなる。
【0067】
上記実施形態の蓄電デバイスの電極である正極層2および負極層4は、金属繊維Aと、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉11,21と、粉末の固体電解質14,24とを備えている。また、吸着物質粉又は活物質粉11,21が金属繊維Aに接触しており、固体電解質14,24も金属繊維Aに接触している。 当該構成は、正極層2および負極層4が充放電によって膨張又は収縮した時に、活物質粉11,21および固体電解質14,24と金属繊維Aとの電気的な接触を維持するために有利である。
【0068】
上記実施形態の蓄電デバイスの正極層2は、金属繊維Aと、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する正極活物質粉11と、粉末の固体電解質14とを有する。また、本実施形態の蓄電デバイスの負極層4は、金属繊維Aと、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する負極活物質粉21と、粉末の固体電解質24とを有する。また、本実施形態の蓄電デバイスは、粉末の固体電解質34を有する固体電解質層3を備え、固体電解質層3が正極層2と負極層4との間に配置されている。
【0069】
金属繊維Aは弾性変形するものであるから、正極層2および負極層4も金属繊維Aの弾性の影響が出る。つまり、正極層2は負極層4の膨張および収縮に追随しやすくなり、負極層4も正極層2の膨張および収縮に追随し易くなる。
【0070】
また、上記実施形態では、平均長さが25mm以下の短繊維である金属繊維Aを、溶解した金属を微細孔42aから空間中に吹き出して製造する。当該製造方法によれば、短繊維である金属繊維Aを容易且つ大量に製造することができる。これは、電極および蓄電デバイスの製造コストの低減のために有利である。
【0071】
また、上記実施形態では、コイル切削法を用いて短繊維又は長繊維である金属繊維Aを製造する。このため、金属繊維Aの直径が安定し、これにより金属繊維Aによって生ずる前述の弾性も安定する。これは、蓄電デバイスのサイクル特性を向上するために有利である。なお、本実施形態において、金属繊維Aの断面形状が円形でない場合は、直径の用語は金属繊維Aの太さを意味する。
【0072】
また、上記実施形態において、導電助剤として直径が0.5μm以下であるカーボン繊維を添加すると、活物質粉11,21および固体電解質14,24と金属繊維Aとが直接接触していない場合でも、活物質粉11,21および固体電解質14,24金属繊維Aとがカーボン繊維を介して電気的に接続される。当該構成は、蓄電デバイスのサイクル特性を向上するために有利である。
【0073】
なお、上記実施形態では、全固体型リチウムイオン二次電池の例を説明したが、上記構造を全固体型ナトリウムイオン二次電池に適用することも可能である。この場合、正極活物質粉11としてNaFe0.5Mn0.5O2等の遷移金属酸化物、セラミックス材料等を用いることができる。また、負極活物質粉21として、カーボンブラック等の炭素材料、チタン酸化物等を用いることができる。正極活物質粉11および負極活物質粉21として、ナトリウムイオン二次電池に用いられる公知の活物質粉を用いることが可能である。また、無機固体電解質として、ナトリウムイオン二次電池に用いられるNaPF6、NaTFSA等の公知の電解質を用いることが可能である。
【0074】
また、上記構造を全固体型マグネシウムイオン二次電池に適用することも可能である。この場合、正極活物質粉11としてMgFeSiO4を用い、負極活物質粉21としてマグネシウム金属を用いることができる。正極活物質粉11および負極活物質粉21として、ナトリウムイオン二次電池に用いられる公知の活物質粉を用いることが可能である。また、無機固体電解質として、マグネシウムイオン二次電池に用いられるMg(TFSI)2等の公知の電解質を用いることが可能である。
【0075】
また、上記構造を空気電池に適用することも可能である。
また、上記構造を蓄電デバイスである電気二重層キャパシタに適用することも可能である。この場合、正極活物質粉11の代わりに活性炭の粉末(吸着物質粉)が用いられ、負極活物質粉21の代わりに活性炭の粉末(吸着物質粉)が用いられる。また、個体電解質層3として、アルギン酸ゲル(Alg/EMImBF4)を用いることが可能である。活性炭の粉末の代わりに電気二重層キャパシタに用いられる公知の吸着物質粉を用いることも可能であり、電気二重層キャパシタに用いられる公知の電解質を用いることも可能である。
【0076】
また、上記構造を蓄電デバイスであるリチウムイオンキャパシタに適用することも可能である。この場合、正極活物質粉11の代わりに活性炭の粉末(吸着物質粉)が用いられ、負極活物質粉21の代わりにリチウムをブレードした黒鉛等の炭素系材料の粉末が用いられる。また、個体電解質層3として、アルギン酸ゲル(Alg/EMImBF4)を用いることが可能である。活性炭の粉末の代わりにリチウムイオンキャパシタに用い有れる公知の吸着物質粉を用いることも可能であり、リチウムイオンキャパシタに用いられる公知の電解質を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 正極集電体
2 正極層
3 固体電解質層
4 負極層
5 負極集電体
6 SUS箔
11 正極活物質粉
12 導電助剤
13 バインダー
14 固体電解質
21 負極活物質粉
22 導電助剤
23 バインダー
24 固体電解質
A 金属繊維
BE 蓄電要素
【手続補正書】
【提出日】2023-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電助剤と、
金属繊維と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、
前記金属繊維に接触している固体電解質と、
を備え、
前記金属繊維は、充放電時の前記吸着物質粉又は前記活物質粉の膨張時および収縮時に、前記吸着物質粉の粒子間又は前記活物質粉の粒子間の接触が断ち切られること、および、前記導電助剤の粒子間の接触が断ち切られることの少なくとも一方を減少させるためのものである固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極。
【請求項2】
導電助剤と、
金属繊維と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、
前記金属繊維に接触している固体電解質と、
を備え、
前記金属繊維は、金属部材に切削工具を当てて前記金属部材を切削することにより作製されたもの、又は、コイル切削法を用いることによって作製されたもの、又は、溶融した金属を微細孔から空中に吹き出すことによって作製されたものである固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極。
【請求項3】
導電助剤と、
金属繊維と、
充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、
前記金属繊維に接触している固体電解質と、
を備える固体電解質を用いた蓄電デバイスの電極。
【請求項4】
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、導電助剤と、を少なくとも有する正極層と、
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、導電助剤と、を少なくとも有する負極層と、
固体電解質を有する固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に配置され、前記正極層および前記負極層に接触しており、
前記金属繊維は、充放電時の前記吸着物質粉又は前記活物質粉の膨張時および収縮時に、前記吸着物質粉の粒子間又は前記活物質粉の粒子間の接触が断ち切られること、および、前記導電助剤の粒子間の接触が断ち切られることの少なくとも一方を減少させるためのものである蓄電デバイス。
【請求項5】
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、導電助剤と、を少なくとも有する正極層と、
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、導電助剤と、を少なくとも有する負極層と、
固体電解質を有する固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に配置され、前記正極層および前記負極層に接触しており、
前記金属繊維は、金属部材に切削工具を当てて前記金属部材を切削することにより作製されたもの、又は、コイル切削法を用いることによって作製されたもの、又は、溶融した金属を微細孔から空中に吹き出すことによって作製されたものである蓄電デバイス。
【請求項6】
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、導電助剤と、を少なくとも有する正極層と、
金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉であって、前記金属繊維に接触している吸着物質粉又は活物質粉と、前記金属繊維に接触している粉末の固体電解質と、導電助剤と、を少なくとも有する負極層と、
固体電解質を有する固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に配置され、前記正極層および前記負極層に接触している、蓄電デバイス。
【請求項7】
前記金属繊維として、平均長さが5mm以下の短繊維を使用する、請求項4~6の何れかに記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
平均長さが25mm以下である短繊維の金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、固体電解質と、導電助剤と、バインダーとを少なくとも含む液状又はゲル状のスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリーを所定形状に成形する成形工程と、
前記所定形状に成形された前記スラリーを少なくとも乾燥させることによって正極層又は負極層を形成する乾燥工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項9】
金属部材に切削工具を当てて前記金属部材を切削することによって、又は、コイル切削法を用いることによって、又は、溶融したアルミニウムを微細孔から空中に吹き出すことによって作製された、平均長さが25mm以下である短繊維の金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、固体電解質と、導電助剤と、バインダーとを少なくとも含む液状又はゲル状のスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリーを所定形状に成形する成形工程と、
前記所定形状に成形された前記スラリーを少なくとも乾燥させることによって正極層又は負極層を形成する乾燥工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項10】
平均長さが25mm以下である短繊維の金属繊維と、充放電時に電解質イオンが吸着する吸着物質粉又は充放電時に化学反応する活物質粉と、固体電解質と、導電助剤と、バインダーとを少なくとも含む液状又はゲル状のスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリーを少なくとも焼結して所定形状の正極層又は負極層を形成する工程と、
を有する蓄電デバイスの正極層又は負極層の製造方法。
【請求項11】
前記金属繊維を、溶解した金属を微細孔から空間中に吹き出して製造する、請求項8又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記金属繊維を、ビビリ振動切削法を用いて製造する、請求項8又は10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記金属繊維を、コイル切削法を用いて製造する、請求項8又は10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記金属繊維として、純度が99.9%以上のアルミニウムの繊維を用いる、請求項8~13の何れかに記載の製造方法。
【請求項15】
平均長さが3mm以下であり繊維の平均直径が30μm以下である前記金属繊維を用いて前記スラリーを作製し、前記スラリーを正極集電体又は負極集電体に塗布することによって前記スラリーを前記所定形状に成形する、請求項8~13の何れかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記スラリー作製工程において、平均直径が0.5μm以下であるカーボン繊維を添加する、請求項8~13の何れかに記載の製造方法。