(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109921
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】改変された多能性幹細胞並びに製造方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230801BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230801BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230801BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230801BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230801BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230801BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230801BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20230801BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20230801BHJP
C12N 5/0781 20100101ALN20230801BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230801BHJP
C12N 5/0784 20100101ALN20230801BHJP
C12N 5/0786 20100101ALN20230801BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230801BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/13
C07K14/705
C07K16/28
C12N15/09 110
C12N5/0735
C12N5/0789
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/0786
C12N15/113 Z
C07K19/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023085013
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2020543201の分割
【原出願日】2019-02-15
(31)【優先権主張番号】62/710,591
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/673,624
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514266932
【氏名又は名称】カイト ファーマ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Kite Pharma, Inc
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グシュウェン エリック エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン ラジュル
(72)【発明者】
【氏名】オウヤン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ガルシア アリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ マーゴ
(72)【発明者】
【氏名】アルバレス ロドリゲス ルーベン
(72)【発明者】
【氏名】スミス ドレイク
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ シンリャン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌細胞を特異的に標的として死滅させるためのCAR、TCR及び抗原受容体改変T細胞の作製方法を提供する。
【解決手段】操作された免疫療法のために自家又は同種異系の状況で使用される、操作された幹細胞から改変されたT細胞を作製する方法を提供する。内因性TCR発現又はHLA発現のノックアウトにより、移植片対宿主病(GVHD)のリスクを軽減又は排除し、レシピエントのT細胞及びNK細胞による排除に対する耐性をもたらし、制御可能なT細胞活性を可能にする改変された多能性幹細胞の操作が可能となる。したがって、本方法は、免疫反応性が低減されたT細胞の発生を可能にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性TCR発現又はHLA発現を排除するように操作された改変された多能性幹細胞。
【請求項2】
欠損TCRα定常(TRAC)遺伝子、欠損TCRβ定常(TRBC)遺伝子又は欠損β2ミクログロブリン(b2m)遺伝子を含み、任意に、前記欠損遺伝子はノックアウトによって作製される、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記欠損遺伝子は、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、MegaTAL、メガヌクレアーゼ、Cpf1、相同組換え又は一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を使用して編集される、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
単鎖HLA三量体(安定化ペプチドに連結されたβ2ミクログロブリンに連結されたHLAを含む単鎖HLA三量体)をコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記HLA三量体は、HLA-E、HLA-G又はHLA-E及びHLA-Gの組み合わせである、単鎖HLA三量体をコードする外因性コンストラクト;
腫瘍抗原を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)をコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記腫瘍抗原は、腫瘍関連表面抗原(5T4等)、アルファフェトプロテイン(AFP)、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、BCMA、B-ヒト絨毛膜性生殖腺刺激ホルモン、CA-125、癌胚抗原(CEA)、癌胚抗原(CEA)、CD123、CD133、CD138、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD25、CD30、CD33、CD34、CD4、CD40、CD44、CD56、CD70、CD8、CLL-1、c-Met、CMV特異抗原、CS-1、CSPG4、CTLA-4、DLL3、ジシアロガングリオシドGD2、膵管上皮ムチン、EBV特異抗原、EGFR変異体III(EGFRvIII)、ELF2M、エンドグリン、エフリンB2、上皮成長因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮性腫瘍抗原、ErbB2(HER2/neu)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、FLT3、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、神経膠腫関連抗原、スフィンゴ糖脂質、gp36、HBV特異抗原、HCV特異抗原、HER1-HER2、HER2-HER3の組み合わせ、HERV-K、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV-1型エンベロープ糖タンパク質gp41、HPV特異抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、IGFI受容体、IGF-II、IL-11Rα、IL-13R-a2、インフルエンザウイルス特異抗原;CD38、インスリン成長因子(IGFl)-1、腸カルボキシルエステラーゼ、カッパー鎖、LAGA-1a、ラムダ鎖、ラッサ熱ウイルス特異抗原、レクチン反応性AFP、系譜特異抗原又は組織特異抗原(CD3等)、MAGE、MAGE-A1、主要組織適合性複合体(MHC)分子、腫瘍特異的ペプチドエピトープを提示する主要組織適合性複合体(MHC)分子、M-CSF、黒色腫関連抗原、メソテリン、メソテリン、MN-CA IX、MUC-1、mut hsp70-2、変異p53、変異p53、変異ras、好中球エラスターゼ、NKG2D、Nkp30、NY-ESO-1、p53、PAP、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、前立腺特異抗原タンパク質、STEAP1、STEAP2、PSMA、RAGE-1、ROR1、RU1、RU2(AS)、表面接着分子、生存及びテロメラーゼ、TAG-72、フィブロネクチンのエクストラドメインA(EDA)及びエクストラドメインB(EDB)、並びにテネイシン-CのA1ドメイン(TnC A1)、チログロブリン、腫瘍間質抗原、血管内皮細胞成長因子受容体-2(VEGFR2)、ウイルス特異表面抗原(HIV特異抗原(例えばHIV gp120)等)、並びに、これらの表面マーカーの任意の誘導体又は変異体から選択される、CARをコードする外因性コンストラクト;
TCRをコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記TCRは、α/βTCR、γ/δTCR、癌抗原若しくは癌関連抗原に反応性のTCR、マウスMHC若しくは他の非ヒトMHCに対して反応性であるTCR、クラスI拘束性TCR若しくはクラスII拘束性TCR、HPV認識TCR、ウイルス反応性TCR、EBV TCR、CMV
TCR、若しくはインフルエンザTCR、HPV-16 E6 TCR、HPV-16
E7 TCR、若しくはMAGEA3/A6 TCR若しくは操作された変異体である、又はTCRは、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、CD4/8二重陽性T細胞、未成熟T細胞若しくは発達中のT細胞、Treg細胞、NKT細胞若しくはNK T細胞に由来する、TCRをコードする外因性コンストラクト;及び/又は、
遺伝子改変された細胞の排除を可能にする又は非侵襲的イメージングのためのPETレポーター遺伝子として使用される自殺遺伝子をコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記自殺遺伝子はsr39TKであり、化学誘導型カスパーゼ、小分子/化学誘導型二量体化因子(CID)によって誘導される二量体化、選択可能な表面マーカー、又はCD19、CD20、CD34、EGFR若しくはLNGFRから選択される選択可能な表面マーカーである、自殺遺伝子をコードする外因性コンストラクト;
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
改変された多能性幹細胞を作製する方法であって、
(a)内因性TCRの発現を排除する又はドナーHLAの発現を遮断するように遺伝子座を編集することと、
(b)CAR遺伝子、TCR遺伝子又はHLA遺伝子をコードする外因性コンストラクトを導入することと、
を含む、方法。
【請求項6】
造血幹細胞、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞を分離する工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象のT細胞系譜を作製する方法であって、
(a)請求項1~5のいずれか一項に記載の改変された多能性幹細胞を準備することと、(b)T細胞分化又はT細胞様分化を誘導することと、
を含む、方法。
【請求項8】
T細胞分化は、人工胸腺オルガノイド(ATO)システム、notchアゴニスト、OP9-DLL1、OP9-DLL4、胎児胸腺器官培養物(FTOC)、化学誘導、骨髄/肝臓/胸腺又はその他のヒト化マウス、胚様体(EB)を使用して誘導される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞系譜は、1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって選択され、任意に、前記対象のT細胞系譜は、CD8単一陽性T細胞、CD4単一陽性T細胞、CD4CD8二重陽性T細胞、二重陰性T細胞、CD3陽性細胞、NK細胞、proT細胞、pre-proT細胞、中胚葉前駆細胞、B細胞、リンパ球系共通前駆細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
対象のT細胞系譜を作製する方法であって、
(a)請求項1~5のいずれか一項に記載の改変された多能性幹細胞を準備することと、(b)特定の細胞系譜の生成を促進、減少又は排除するように、細胞運命調節因子をコードする遺伝子を編集することと、
(c)T細胞分化を誘導することと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記細胞運命調節因子は、転写因子、T-BET、STAT1、STAT4、STAT、RUNX3、GATA3、Stat5、Stat6、DEC2、MAF、THPOK、GATA3、Smads、Stat6、PU.1、RORgt、RORa、Stat3、AHR、Bcl-6、MAF、FoxP3、Smad3、Stat5、FOXO1、FOXO3、GRAIL又はPLZFである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記特定の系譜は、Th1、Th2、Th9、Th17、Th22、Tfh、Treg、ILC、NK又はNKTである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
改変されていないコントロール細胞と比較して、プレTCRα(pTa)タンパク質とTCRβタンパク質との間のペアリングが富化又は増大された改変された多能性幹細胞。
【請求項14】
前記改変された多能性幹細胞は、プレTCRα(pTa)タンパク質をコードする外因性コンストラクトを含み、任意に、前記外因性コンストラクトは、ウイルスコンストラクト、AAVコンストラクト、レンチウイルスコンストラクト又はレトロウイルスコンストラクトである、請求項13に記載の改変された多能性幹細胞。
【請求項15】
前記改変された多能性幹細胞は、欠損TCRα遺伝子を含み、任意に、前記欠損TCRα遺伝子は、操作されたヌクレアーゼ、TALEN、megaTAL、CRISPR、ZFNを使用したノックアウト、相同組換えを使用したノックアウト又はアンチセンスRNAによって作製される、請求項13又は14に記載の改変された多能性幹細胞。
【請求項16】
前記改変された多能性幹細胞は、TCRα及びTCRβのペアリングを実質的に含まない、請求項13~15のいずれか一項に記載の改変された多能性幹細胞。
【請求項17】
前記改変された多能性幹細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、外因性TCR及び/又は抗原受容体を更に含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の改変された多能性幹細胞。
【請求項18】
改変された多能性幹細胞を作製する方法であって、外因性プレTCRα(pTa)タンパク質を導入する工程及び/又は欠損TCRα遺伝子を作製する工程を含む、方法。
【請求項19】
対象のT細胞系譜を作製する方法であって、請求項13~17のいずれか一項に記載の改変された多能性幹細胞を準備する工程と、人工胸腺オルガノイドにおいてT細胞分化を誘導する工程とを含む、方法。
【請求項20】
対象のT細胞系譜を作製する方法であって、請求項13~17のいずれか一項に記載の改変された多能性幹細胞を準備する工程と、ペプチド:MHCの存在下又は不存在下でT細胞分化を誘導する工程とを含み、任意に、前記対象のT細胞系譜は、細胞傷害性CD8+T細胞、ヘルパーCD4+T細胞、Th1/Th2/Th17細胞であるヘルパーCD4+T細胞、制御性T細胞、上皮内リンパ球(IEL)又は成熟αβT細胞若しくはγδT細胞である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月16日付で出願された米国仮特許出願第62/710,591号及び2018年5月18日付で出願された米国仮特許出願第62/673,624号に対する優先権を主張し、その両方の開示全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。2019年2月14日付けで作製された上記ASCIIコピーの名前はK-1061_01_SL.txtであり、2.67キロバイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
ヒト癌は、本質的に正常細胞で構成され、この正常細胞が遺伝的又はエピジェネティックな変換を受けて異常な癌細胞となる。そうすることで、癌細胞は、正常細胞によって発現されるものとは明確に異なるタンパク質及び他の抗原を発現し始める。これらの異常な腫瘍抗原は、身体の自然免疫系によって、癌細胞を特異的に標的とし死滅させるのに使用され得る。しかしながら、癌細胞は、Tリンパ球及びBリンパ球等の免疫細胞が癌細胞を標的とすることに成功しないように様々な機構を利用する。
【0004】
現行のT細胞療法は、患者において癌細胞を標的とし、死滅させるために富化又は改変されたヒトT細胞に頼っている。T細胞が特定の癌細胞を標的とし死滅させる能力を増加するため、特定の標的癌細胞へとT細胞を方向づけるコンストラクトを発現するようT細胞を操作する方法が開発された。特定の腫瘍抗原と相互作用することができる結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)及び操作されたT細胞受容体(TCR)は、T細胞が特定の腫瘍抗原を発現する癌細胞を標的とし、死滅させることを可能とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
癌細胞を特異的に標的として死滅させるためのCAR、TCR及び抗原受容体改変T細胞の作製方法の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、とりわけT細胞へと効率的に分化する遺伝子操作された幹細胞及びそれらの派生物を含む組成物及び方法を提供することにより上記要求に取り組んでいる。特に、本開示は、操作された免疫療法のために自家又は同種異系の状況で使用され得る幹細胞の生成を提供する。細胞ベースの免疫療法で使用される場合に、本明細書に記載される改変された多能性幹細胞は、移植片対宿主病(GVHD)のリスクを軽減又は排除し、レシピエントのT細胞及びNK細胞による排除に対する耐性をもたらし、制御可能なT細胞活性を可能にし得る(例えば、自殺遺伝子又はキルスイッチを含むように操作される)。
【0007】
養子細胞療法からのT細胞応答はレシピエント由来のT細胞によって媒介され得る。移植片拒絶反応は、外因性導入遺伝子に対する免疫原性、ヒト組織適合性抗原(HLA)の不一致に対する反応性(非血縁/半合致)又はマイナー組織適合性抗原(MiHA)(例えば、HA-1、HA-2等)に対する反応性(血縁/非血縁HLA一致/半合致)に起因する場合がある。ドナーT細胞によって応答が媒介されることでも、HLA/MiHA
の不一致に対する反応性からGVHDにつながる場合があり、腫瘍抗原/腫瘍関連MiHAに対する反応性から抗腫瘍事象につながる場合がある。
【0008】
細胞療法に対する宿主免疫反応性(例えば、HLA又はMiHAの不一致により誘発されるGVHD)を防ぐために、一態様では、本開示は、内因性TCR発現を排除するように操作された改変された多能性幹細胞を提供する。幾つかの実施の形態では、内因性TCRの遺伝子編集はTCRα及び/又はTCRβ(TRAC及び/又はTRBC1/TRBC2)のノックアウト(KO)によって操作される。幾つかの実施形態では、細胞は(細胞源及び分化状態に依存して)RAG1/RAG2のKOによって操作される。
【0009】
移植片拒絶反応を防ぐために、本開示は、ドナーHLAの発現を遮断するように、及び/又は1つのHLA-クラスI「非多型」アレルを再導入してNK殺傷(例えば、単鎖HLA-E)を妨げるように操作された改変された多能性幹細胞を提供する。幾つかの実施の形態では、HLAクラスI分子(例えば、β2ミクログロブリン、個々のHLA分子(HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-G)、TAP1、TAP2及び/又は裸リンパ球症候群I型(BLSI)と関連する遺伝子)に改変が加えられる。幾つかの実施の形態では、HLAクラスII分子(例えば、転写因子(RFXANK又はRFX5又はRFXAP)又はトランス活性化因子(CIITA)、BLS IIに関連する遺伝子及び/又は個々のHLA分子(HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR、HLA-DM、HLA-DOのα鎖及びβ鎖))に改変が加えられる。幾つかの実施の形態では、腫瘍反応性を促進するように改変が加えられる(例えば、腫瘍特異的TCR又はCARの導入)。幾つかの実施の形態では、細胞は阻害受容体(例えば、PDCD1、CTLA4)を排除するように更に改変される。幾つかの実施の形態では、細胞は共刺激受容体(例えば、CD28、TNFRSF9)を導入するように改変される。
【0010】
一態様では、本開示は、内因性TCR発現又はHLA発現を排除するように操作された改変された多能性幹細胞を提供する。
【0011】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は、欠損TCRα定常(TRAC)遺伝子、欠損TCRβ定常(TRBC)遺伝子又は欠損β2ミクログロブリン(b2m)遺伝子を含み、任意に、前記欠損遺伝子はノックアウトによって作製される。幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は、欠損TCRα定常(TRAC)遺伝子を含む。
【0012】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は、欠損TCRβ定常(TRBC)遺伝子を含む。
【0013】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は、欠損β2ミクログロブリン(b2m)遺伝子を含む。
【0014】
幾つかの実施の形態では、前記欠損遺伝子はノックアウトによって作製される。
【0015】
幾つかの実施の形態では、前記欠損遺伝子は、CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、MegaTAL、メガヌクレアーゼ、Cpf1、相同組換え又は一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を使用して編集される。幾つかの実施の形態では、前記欠損遺伝子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用して編集される。
【0016】
幾つかの実施の形態では、前記細胞は、単鎖HLA三量体、すなわち安定化ペプチドに連結されたβ2ミクログロブリンに連結されたHLAを含む単鎖HLA三量体をコードす
る外因性コンストラクトであって、任意に、前記HLA三量体は、HLA-E、HLA-G又はHLA-E及びHLA-Gの組み合わせである、単鎖HLA三量体をコードする外因性コンストラクト、
腫瘍抗原を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)をコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記腫瘍抗原は、腫瘍関連表面抗原(5T4等)、アルファフェトプロテイン(AFP)、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、BCMA、B-ヒト絨毛膜性生殖腺刺激ホルモン、CA-125、癌胚抗原(CEA)、癌胚抗原(CEA)、CD123、CD133、CD138、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD25、CD30、CD33、CD34、CD4、CD40、CD44、CD56、CD70、CD8、CLL-1、c-Met、CMV特異抗原、CS-1、CSPG4、CTLA-4、DLL3、ジシアロガングリオシドGD2、膵管上皮ムチン(ductal-epithelial mucine)、EBV特異抗原、EGFR変異体III(EGFRvIII)、ELF2M、エンドグリン、エフリンB2、上皮成長因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮性腫瘍抗原、ErbB2(HER2/neu)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、FLT3、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、神経膠腫関連抗原、スフィンゴ糖脂質、gp36、HBV特異抗原、HCV特異抗原、HER1-HER2、HER2-HER3の組み合わせ、HERV-K、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV-1型エンベロープ糖タンパク質gp41、HPV特異抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、IGFI受容体、IGF-II、IL-11Rα、IL-13R-a2、インフルエンザウイルス特異抗原;CD38、インスリン成長因子(IGFl)-1、腸カルボキシルエステラーゼ、カッパー鎖、LAGA-1a、ラムダ鎖、ラッサ熱ウイルス特異抗原、レクチン反応性AFP、系譜特異抗原又は組織特異抗原(CD3等)、MAGE、MAGE-A1、主要組織適合性複合体(MHC)分子、腫瘍特異的ペプチドエピトープを提示する主要組織適合性複合体(MHC)分子、M-CSF、黒色腫関連抗原、メソテリン、メソテリン、MN-CA IX、MUC-1、mut hsp70-2、変異p53、変異p53、変異ras、好中球エラスターゼ、NKG2D、Nkp30、NY-ESO-1、p53、PAP、プロスターゼ(prostase)、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、前立腺特異抗原タンパク質、STEAP1、STEAP2、PSMA、RAGE-1、ROR1、RU1、RU2(AS)、表面接着分子、生存及びテロメラーゼ(surviving and telomerase)、TAG-72、フィブロネクチンのエクストラドメイン(extra domain)A(EDA)及びエクストラドメインB(EDB)、並びにテネイシン-CのA1ドメイン(TnC A1)、チログロブリン、腫瘍間質抗原、血管内皮細胞成長因子受容体-2(VEGFR2)、ウイルス特異表面抗原(HIV特異抗原(例えばHIV gp120)等)と並んで、これらの表面マーカーの任意の誘導体又は変異体から選択される、CARをコードする外因性コンストラクト、
TCRをコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記TCRは、α/βTCR、γ/δTCR、癌抗原若しくは癌関連抗原に反応性のTCR、マウスMHC若しくは他の非ヒトMHCに対して反応性であるTCR、クラスI拘束性TCR若しくはクラスII拘束性TCR、HPV認識TCR、ウイルス反応性TCR、EBV TCR、CMV
TCR、若しくはインフルエンザTCR、HPV-16 E6 TCR、HPV-16
E7 TCR、若しくはMAGEA3/A6 TCR若しくは操作された変異体である、又はTCRは、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、CD4/8二重陽性T細胞、未成熟T細胞若しくは発達中のT細胞、Treg細胞、NKT細胞若しくはNK T細胞に由来する、TCRをコードする外因性コンストラクト、及び/又は、
遺伝子改変された細胞の排除を可能にする又は非侵襲的イメージングのためのPETレポーター遺伝子として使用される自殺遺伝子をコードする外因性コンストラクトであって、任意に、前記自殺遺伝子はsr39TKであり、化学誘導型カスパーゼ、小分子/化学誘導型二量体化因子(CID)によって誘導される二量体化、選択可能な表面マーカー、又はCD19、CD20、CD34、EGFR若しくはLNGFRから選択される選択可
能な表面マーカーである、自殺遺伝子をコードする外因性コンストラクト、
を含む。
【0017】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は単鎖HLA三量体をコードする外因性コンストラクトを含む。幾つかの実施の形態では、単鎖HLA三量体はHLAクラスI HLA-Eを含む。幾つかの実施の形態では、単鎖HLA三量体は安定化ペプチドに連結されたβ2ミクログロブリンに連結されたHLAを含む。幾つかの実施の形態では、HLA三量体はHLA-E、HLA-G又はHLA-E及びHLA-Gの組み合わせである。
【0018】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はキメラ抗原受容体(CAR)をコードする外因性コンストラクトを含む。幾つかの実施の形態では、CARは腫瘍抗原を標的とする。幾つかの実施の形態では、前記腫瘍抗原は、腫瘍関連表面抗原(5T4等)、アルファフェトプロテイン(AFP)、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、BCMA、B-ヒト絨毛膜性生殖腺刺激ホルモン、CA-125、癌胚抗原(CEA)、癌胚抗原(CEA)、CD123、CD133、CD138、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD25、CD30、CD33、CD34、CD4、CD40、CD44、CD56、CD8、CLL-1、c-Met、CMV特異抗原、CS-1、CSPG4、CTLA-4、DLL3、ジシアロガングリオシドGD2、膵管上皮ムチン、EBV特異抗原、EGFR変異体III(EGFRvIII)、ELF2M、エンドグリン、エフリンB2、上皮成長因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮性腫瘍抗原、ErbB2(HER2/neu)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、FLT3、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、神経膠腫関連抗原、スフィンゴ糖脂質、gp36、HBV特異抗原、HCV特異抗原、HER1-HER2、HER2-HER3の組み合わせ、HERV-K、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV-1型エンベロープ糖タンパク質gp41、HPV特異抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、IGFI受容体、IGF-II、IL-11Rα、IL-13R-a2、インフルエンザウイルス特異抗原、CD38、インスリン成長因子(IGFl)-1、腸カルボキシルエステラーゼ、カッパー鎖、LAGA-1a、ラムダ鎖、ラッサ熱ウイルス特異抗原、レクチン反応性AFP、系譜特異抗原又は組織特異抗原(CD3等)、MAGE、MAGE-A1、主要組織適合性複合体(MHC)分子、腫瘍特異的ペプチドエピトープを提示する主要組織適合性複合体(MHC)分子、M-CSF、黒色腫関連抗原、メソテリン、メソテリン、MN-CA IX、MUC-1、mut hsp70-2、変異p53、変異p53、変異ras、好中球エラスターゼ、NKG2D、Nkp30、NY-ESO-1、p53、PAP、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、前立腺特異抗原タンパク質、STEAP1、STEAP2、PSMA、RAGE-1、ROR1、RU1、RU2(AS)、表面接着分子、生存及びテロメラーゼ、TAG-72、フィブロネクチンのエクストラドメインA(EDA)及びエクストラドメインB(EDB)、並びにテネイシンCのA1ドメイン(TnC A1)、チログロブリン、腫瘍間質抗原、血管内皮細胞成長因子受容体-2(VEGFR2)、ウイルス特異表面抗原(HIV特異抗原(例えばHIV gp120)等)と並んで、これらの表面マーカーの任意の誘導体又は変異体から選択される。
【0019】
幾つかの実施の形態では、CARはBCMA、CD19、CLL1、CS1、STEAP1、STEAP2、CD70及びCD20からなる群から選択される抗原を特異的に標的とする。幾つかの実施の形態では、CARはCD19を特異的に標的とする。
【0020】
幾つかの実施の形態では、CARは4-1BB/CD137、B7-H3、BAFFR、BLAME(SLAMF8)、BTLA、CD33、CD45、CD100(SEMA4D)、CD103、CD134、CD137、CD154、CD16、CD160(B
Y55)、CD18、CD19、CD19a、CD2、CD22、CD247、CD27、CD276(B7-H3)、CD28、CD29、CD3(α、β、δ、ε、γ、ζ)、CD30、CD37、CD4、CD4、CD40、CD49a、CD49D、CD49f、CD5、CD64、CD69、CD7、CD80、CD83リガンド、CD84、CD86、CD8α、CD8β、CD9、CD96(Tactile)、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDS、CEACAM1、CRT AM、DAP-10、DNAM1(CD226)、Fcγ受容体、GADS、GITR、HVEM(LIGHTR)、IA4、ICAM-1、ICAM-1、ICOS、Igα(CD79a)、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、インテグリン、ITGA4、ITGA4、ITGA6、ITGAD、ITGAE、ITGAL、ITGAM、ITGAX、ITGB2、ITGB7、ITGB1、KIRDS2、LAT、LFA-1、LFA-1、LIGHT、LIGHT(腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー14;TNFSF14)、LTBR、Ly9(CD229)、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1(CD11a/CD18))、MHCクラスI分子、NKG2C、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80(KLRF1)、OX40、PAG/Cbp、PD-1、PSGL1、SELPLG(CD162)、シグナル伝達リンパ球活性化分子、SLAM(SLAMF1;CD150;IPO-3)、SLAMF4(CD244;2B4)、SLAMF6(NTB-A;Ly108)、SLAMF7、SLP-76、TNF、TNFr、TNFR2、Tollリガンド受容体、TRANCE/RANKL、VLA1及びVLA-6又はそれらのフラグメント、短縮物(truncations)、若しくは組み合わせからなる群から
選択される分子に由来する共刺激ドメイン又はスペーサードメインを含む。
【0021】
幾つかの実施の形態では、CARはCD19 scFv、CD28スペーサー、CD28共刺激ドメイン及びCD3ζドメインを含む。
【0022】
幾つかの実施の形態では、CARは2つ以上の抗原を特異的に標的とする。
【0023】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はTCRをコードする外因性コンストラクトを含む。幾つかの実施の形態では、TCRはα/βTCR、γ/δTCR、癌抗原反応性TCR又は癌関連抗原反応性TCR、マウスMHC又は他の非ヒトMHCに対して反応性のTCR、クラスI拘束性TCR又はクラスII拘束性TCRである。幾つかの実施の形態では、TCRはCD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、CD4/8二重陽性T細胞、未成熟T細胞若しくは発達中のT細胞、Treg細胞、NKT細胞又はNK T細胞に由来する。
【0024】
幾つかの実施の形態では、TCRはHPV認識TCR、ウイルス反応性TCR、CMV
TCR、EBV TCR、インフルエンザTCRである。幾つかの実施の形態では、TCRはHPV-16 E7 TCRである。幾つかの実施の形態では、TCRはHPV-16 E6 TCR、MAGEA3/A6 TCR又は操作された変異体である。
【0025】
幾つかの実施の形態では、TCRはIRESエレメントによって連結されている。幾つかの実施の形態では、TCRは2Aエレメントによって連結されている。幾つかの実施の形態では、2AエレメントはP2A、T2A、E2A又はF2Aである。
【0026】
幾つかの実施の形態では、TCRは非バイシストロン性アプローチ(non-bicistronic approach)によって連結される。幾つかの実施の形態では、TCRは種々のゲノム位置で組み込まれる。
【0027】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は、遺伝子改変された細胞の排除を可能にする自殺遺伝子をコードする外因性コンストラクトを含む。幾つかの実施の形態で
は、自殺遺伝子はsr39TKである。幾つかの実施の形態では、sr39TKは非侵襲的イメージングのためのPETレポーター遺伝子として使用される。
【0028】
幾つかの実施の形態では、自殺遺伝子は化学誘導型カスパーゼ(chemically induced caspase)、小分子/化学誘導型二量体化因子(chemically induced dimerizer)(CID)によって誘導された二量体化又は選択可能な表面マーカーである。幾つかの実施の形態では、選択可能な表面マーカーはCD19、CD20、CD34、EGFR又はLNGFRである。幾つかの実施の形態では、自殺遺伝子は有害事象、注入細胞の自己反応性、癌の根絶又はその他の場合に活性化される。
【0029】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトはウイルスコンストラクトである。幾つかの実施の形態では、ウイルスコンストラクトはAAVコンストラクト、アデノウイルスコンストラクト、レンチウイルスコンストラクト又はレトロウイルスコンストラクトである。
【0030】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは幹細胞のゲノムへと組み込まれる。幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは幹細胞のゲノムへと組み込まれない。幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトはトランスポザーゼ、レトロトランスポザーゼ、エピソーマルプラスミド又はランダム組込みによって導入される。
【0031】
幾つかの実施の形態では、ノックアウトは相同組換えによってもたらされる。
【0032】
幾つかの実施の形態では、改変された細胞はT細胞又は非T細胞に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)である。幾つかの実施の形態では、T細胞はαβT細胞、γδT細胞、NK細胞、NKT細胞、ILC又はTregに由来する。
【0033】
幾つかの実施の形態では、改変された細胞はB細胞、末梢血単核細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、体細胞型又は胚性幹細胞に由来する。
【0034】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はMHC反応性を有しない。
【0035】
一態様では、本開示は、(a)内因性TCRの発現を排除する又はドナーHLAの発現を遮断するように遺伝子座を編集することと、(b)CAR遺伝子、TCR遺伝子又はHLA遺伝子をコードする外因性コンストラクトを導入することとを含む、改変された多能性幹細胞を作製する方法を提供する。
【0036】
幾つかの実施の形態では、上記方法は、最初に造血幹細胞、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞を分離する工程を更に含む。
【0037】
幾つかの実施の形態では、上記方法は、内因性TCRα定常(TRAC)遺伝子、TCRβ定常(TRBC)遺伝子又はβ2ミクログロブリン(b2m)遺伝子を編集することを含む。
【0038】
幾つかの実施の形態では、編集された遺伝子はノックアウトによって作製される。
【0039】
幾つかの実施の形態では、上記遺伝子はCRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、MegaTAL、メガヌクレアーゼ、Cpf1、相同組換え又は一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)を使用して編集される。幾つかの実施の形態では、上記遺伝子はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用して編集される。
【0040】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは単鎖HLA三量体をコードする。幾つかの実施の形態では、単鎖HLA三量体はHLAクラスI HLA-Eを含む。幾つかの実施の形態では、単鎖HLA三量体は安定化ペプチドに連結されたβ2ミクログロブリンに連結されたHLAを含む。幾つかの実施の形態では、HLA三量体はHLA-E、HLA-G又はHLA-E及びHLA-Gの組み合わせである。
【0041】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトはキメラ抗原受容体(CAR)をコードする。幾つかの実施の形態では、CARはBCMA、CD19、CLL1、CS1、STEAP1、STEAP2、CD70又はCD20からなる群から選択される抗原を特異的に標的とする。
【0042】
幾つかの実施の形態では、CARはCD19を特異的に標的とする。幾つかの実施の形態では、CARはCD19 scFv、CD28スペーサー、CD28共刺激ドメイン及びCD3ζを含む。
【0043】
幾つかの実施の形態では、CARは2つ以上の抗原を特異的に標的とする。
【0044】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトはTCRをコードする。
【0045】
幾つかの実施の形態では、TCRはα/βTCR、γ/δTCR、癌抗原反応性TCR又は癌関連抗原反応性TCR、マウスMHC又は他の非ヒトMHCに対して反応性のTCR、クラスI拘束性TCR又はクラスII拘束性TCRに由来する。幾つかの実施の形態では、TCRはハイブリッドTCR又は操作されたTCRである。
【0046】
幾つかの実施の形態では、TCRはHPV認識TCR、ウイルス反応性TCR、EBV
TCR、インフルエンザTCRである。
【0047】
幾つかの実施の形態では、TCRはHPV-16 E7 TCR、HPV-16 E6
TCR又はMAGEA3/A6 TCR又は操作された変異体である。
【0048】
幾つかの実施の形態では、TCRはIRESエレメントによって連結されている。
【0049】
幾つかの実施の形態では、TCRは2Aエレメントによって連結されている。
【0050】
幾つかの実施の形態では、2AエレメントはP2A、T2A、E2A又はF2Aである。
【0051】
幾つかの実施の形態では、TCRは非バイシストロン性アプローチによって連結される。
【0052】
幾つかの実施の形態では、TCRの各鎖は種々のゲノム位置で組み込まれる。
【0053】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは遺伝子改変された細胞の排除を可能にする自殺遺伝子をコードする。幾つかの実施の形態では、自殺遺伝子はsr39TKである。幾つかの実施の形態では、自殺遺伝子は化学誘導型カスパーゼ、小分子/化学誘導型二量体化因子(CID)によって誘導された二量体化又は選択可能な表面マーカーである。
【0054】
幾つかの実施の形態では、選択可能な表面マーカーはCD19、CD20、CD34、
EGFR又はLNGFRである。
【0055】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトはウイルスコンストラクトである。
【0056】
幾つかの実施の形態では、ウイルスコンストラクトはAAVコンストラクト、アデノウイルスコンストラクト、レンチウイルスコンストラクト又はレトロウイルスコンストラクトである。
【0057】
幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは幹細胞のゲノムへと組み込まれる。幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは幹細胞のゲノムへと組み込まれない。幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトは幹細胞のゲノムへと組み込まれない。幾つかの実施の形態では、外因性コンストラクトはトランスポザーゼ、レトロトランスポザーゼ、エピソーマルプラスミド又はランダム組込みによって導入される。
【0058】
幾つかの実施の形態では、ノックアウトは相同組換えによってもたらされる。
【0059】
幾つかの実施の形態では、改変された細胞はT細胞又は非T細胞に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)である。幾つかの実施の形態では、T細胞はαβT細胞、γδT細胞、NK細胞、NKT細胞、ILC又はTregに由来する。
【0060】
一態様では、本開示は、(a)本明細書に記載される改変された多能性幹細胞を準備する工程と、(b)T細胞分化又はT細胞様分化を誘導する工程とを含む、対象のT細胞系譜を作製する方法を提供する。
【0061】
幾つかの実施の形態では、T細胞分化は、人工胸腺オルガノイド(ATO)システム、notchアゴニスト、OP9-DLL1、OP9-DLL4、胎児胸腺器官培養物(FTOC)、化学誘導、骨髄/肝臓/胸腺又はその他のヒト化マウス、胚様体(EB)を使用して誘導される。
【0062】
幾つかの実施の形態では、T細胞系譜は1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって選択される。
【0063】
幾つかの実施の形態では、前記T細胞系譜は、1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって選択され、任意に、前記対象のT細胞系譜は、CD8単一陽性T細胞、CD4単一陽性T細胞、CD4CD8二重陽性T細胞、二重陰性T細胞、CD3陽性細胞、NK細胞、proT細胞、pre-proT細胞、中胚葉前駆細胞、B細胞、リンパ球系共通前駆細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞である。
【0064】
幾つかの実施の形態では、前記対象のT細胞系譜は、CD8単一陽性T細胞、CD4単一陽性T細胞、CD4CD8二重陽性T細胞、二重陰性T細胞、CD3陽性細胞、NK細胞、proT細胞、pre-proT細胞、中胚葉前駆細胞、B細胞、リンパ球系共通前駆細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞である。
【0065】
一態様では、本開示は、対象のT細胞系譜を作製する方法であって、
(a)本明細書に記載の改変された多能性幹細胞を準備することと、
(b)特定の細胞系譜の生成を促進、減少又は排除するように、細胞運命調節因子をコードする遺伝子を編集することと、
(c)T細胞分化を誘導することと、
を含む、方法を提供する。
【0066】
幾つかの実施の形態では、前記細胞運命調節因子は、転写因子、T-BET、STAT1、STAT4、STAT、RUNX3、GATA3、Stat5、Stat6、DEC2、MAF、THPOK、GATA3、Smads、Stat6、PU.1、RORgt、RORa、Stat3、AHR、Bcl-6、MAF、FoxP3、Smad3、Stat5、FOXO1、FOXO3、GRAIL又はPLZFである。
【0067】
幾つかの実施の形態では、前記特定の系譜は、Th1、Th2、Th9、Th17、Th22、Tfh、Treg、ILC、NK又はNKTである。
【0068】
一態様では、本開示は、対象のT細胞系譜を作製する方法であって、
(a)本明細書に記載の改変された多能性幹細胞を準備することと、
(b)不所望な細胞系譜の生成を減少又は排除するように、細胞運命調節因子を編集することと、
(c)T細胞分化を誘導することと、
を含む、方法を提供する。
【0069】
幾つかの実施の形態では、T細胞分化は人工胸腺オルガノイド(ATO)システム、notchアゴニスト、OP9-DLL1、OP9-DLL4、胎児胸腺器官培養物(FTOC)、化学誘導、骨髄/肝臓/胸腺又はその他のヒト化マウス、胚様体(EB)を使用して誘導される。
【0070】
幾つかの実施の形態では、T細胞系譜は1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって選択される。
【0071】
幾つかの実施の形態では、対象のT細胞系譜はCD8単一陽性T細胞、CD4単一陽性T細胞、CD4CD8二重陽性T細胞、二重陰性T細胞、CD3陽性細胞、NK細胞、NKT細胞、proT細胞、pre-proT細胞、中胚葉前駆細胞、B細胞、リンパ球系共通前駆細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞である。
【0072】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子は転写因子である。
【0073】
幾つかの実施の形態では、不所望な系譜はTh1、Th2、Th9、Th17、Th22、Tfh、Treg、ILC、NK又はNKTである。
【0074】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はT-BET、STAT1、STAT4、STAT、又はRUNX3である。
【0075】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はGATA3、Stat5、Stat6、DEC2、MAF、又はTHPOKである。
【0076】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はGATA3、Smads、Stat6、又はPU.1である。
【0077】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はRORgt、RORa、又はStat3である。
【0078】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はAHRである。
【0079】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はBcl-6、又はMAFである。
【0080】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はFoxP3、Smad3、Stat5、FOXO1、FOXO3、又はGRAILである。
【0081】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はPLZFである。
【0082】
一態様では、本開示は、対象のT細胞系譜を作製する方法であって、
(a)本明細書に記載の改変された多能性幹細胞を準備する工程と、
(b)所望の細胞系譜の生成を促進するように、細胞運命調節因子を編集する工程と、
(c)T細胞分化を誘導する工程と、
を含む、方法を提供する。
【0083】
幾つかの実施の形態では、T細胞分化は人工胸腺オルガノイド(ATO)システム、notchアゴニスト、OP9-DLL1、OP9-DLL4、胎児胸腺器官培養物(FTOC)、化学誘導、骨髄、肝臓、胸腺又はその他のヒト化マウス、胚様体(EB)を使用して誘導される。
【0084】
幾つかの実施の形態では、T細胞系譜は1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって選択される。
【0085】
幾つかの実施の形態では、対象のT細胞系譜はCD8単一陽性T細胞、CD4単一陽性T細胞、CD4CD8二重陽性T細胞、二重陰性T細胞、CD3陽性細胞、NK細胞、NKT細胞、proT細胞、pre-proT細胞、中胚葉前駆細胞、B細胞、リンパ球系共通前駆細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞である。
【0086】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子は転写因子である。
【0087】
幾つかの実施の形態では、所望の系譜はTh1、Th2、Th9、Th17、Th22、Tfh、Treg、ILC、NK又はNKTである。
【0088】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はT-BET、STAT1、STAT4、STAT、又はRUNX3である。
【0089】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はGATA3、Stat5、Stat6、DEC2、MAF、又はTHPOKである。
【0090】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はGATA3、Smads、Stat6、又はPU.1である。
【0091】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はRORgt、RORa、又はStat3である。
【0092】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はAHRである。
【0093】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はBcl-6、又はMAFである。
【0094】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はFoxP3、Smad3、Stat5、FOXO1、FOXO3、又はGRAILである。
【0095】
幾つかの実施の形態では、細胞運命調節因子はPLZFである。
【0096】
幾つかの実施の形態では、操作された幹細胞は癌細胞を特異的に標的として死滅させるキメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を更に発現する。
【0097】
CARは、例えば(i)抗原特異的成分(「抗原結合分子」)と、(ii)1つ以上の共刺激ドメイン(ヒンジドメインを含む)と、(iii)1つ以上の活性化ドメインとを含み得る。各ドメインは不均一であり得る、つまり、異なるタンパク質鎖に由来する配列から構成され得る。CARを発現する免疫細胞(例えば、T細胞)は癌療法を含む様々な療法に使用され得る。
【0098】
TCRはT細胞が癌細胞の表面又は癌細胞の内部に提示された癌標的を識別可能にするタンパク質である。癌に特異的な内因性TCRを単離し、その後に様々な型の固形癌及び血液癌を認識して攻撃する多数のT細胞へと操作することができる。
【0099】
幾つかの実施の形態では、CARは4-1BB/CD137、T細胞受容体のα鎖、T細胞受容体のβ鎖、T細胞受容体のγ鎖、T細胞受容体のδ鎖、CD3ε、CD3δ、CD3γ、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD19、CD22、CD33、CD34、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154若しくはT細胞受容体のζ鎖の膜貫通ドメイン又はそれらの任意の組み合わせの群から選択される膜貫通ドメインを含み得る。
【0100】
幾つかの実施の形態では、細胞内ドメインは4-1BB/CD137、活性化NK細胞受容体、B7-H3、BAFFR、BLAME(SLAMF8)、BTLA、CD100(SEMA4D)、CD103、CD160(BY55)、CD18、CD19、CD19a、CD2、CD247、CD27、CD276(B7-H3)、CD29、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD30、CD4、CD40、CD49a、CD49D、CD49f、CD69、CD7、CD84、CD8α、CD8β、CD96(Tactile)、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDS、CEACAM1、CRT
AM、サイトカイン受容体、DAP-10、DNAM1(CD226)、Fcγ受容体、GADS、GITR、HVEM(LIGHTR)、IA4、ICAM-1、ICAM-1、Igα(CD79a)、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、免疫グロブリン様タンパク質のシグナル伝達領域を含む。
【0101】
幾つかの実施の形態では、前記癌は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)(非T細胞ALLを含む)、急性骨髄白血病、B細胞前リンパ球性白血病、B細胞急性リンパ性白血病(「BALL」)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄白血病、慢性若しくは急性の白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、毛様細胞性白血病、ホジキン病、悪性リンパ増殖性状態、MALTリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、多発性骨髄腫、脊髄形成異常及び骨髄異形成症候群、非ホジキンリンパ腫(NHL)、形質細胞増殖性障害(無症候性骨髄腫(くすぶり型多発性骨髄腫又は無痛性骨髄腫)を含む)、形質芽球性リンパ腫、形質細胞様樹状細胞新生物、形質細胞腫(形質細胞異常増殖症;孤立性骨髄腫;孤立性形質細胞腫;髄外性形質細胞腫;及び多発性形質細胞腫を含む)、POEMS症候群(Crow-Fukase症候群、高月病、及びPEP症候群としても知られる)、縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫(PMBC)、小細胞若しくは大細胞濾胞性リンパ腫、脾辺縁帯リンパ腫(SMZL)、全身性アミロイド軽鎖アミロイドーシス、T細胞急性リンパ性白血病(「TALL」)、T細胞リンパ腫、形質転換後濾胞性リンパ腫、若しくはワルデンストレームマクログロブリン血症、又はそれらの組み合わせである。
【0102】
一態様では、本発明は、改変されていないコントロール細胞と比較して、プレTCRα(pTa)タンパク質とTCRβタンパク質との間のペアリングが富化された改変された多能性幹細胞を提供する。
【0103】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はプレTCRα(pTa)タンパク質をコードする外因性コンストラクトを含み、任意に、外因性コンストラクトはウイルスコンストラクト、AAVコンストラクト、レンチウイルスコンストラクト又はレトロウイルスコンストラクトである。
【0104】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はプレTCRα(pTa)タンパク質をコードする外因性コンストラクトを含む。
【0105】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はウイルスコンストラクトである外因性コンストラクトを含む。幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はAAVコンストラクト、レンチウイルスコンストラクト又はレトロウイルスコンストラクトである外因性ウイルスコンストラクトを含む。
【0106】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は幹細胞のゲノムへと組み込まれている外因性コンストラクトを含む。
【0107】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞は欠損TCRα遺伝子を含む。幾つかの実施の形態では、欠損TCRα遺伝子はノックアウトによって作製される。或る特定の実施の形態では、TCRα遺伝子ノックアウトは操作されたヌクレアーゼによってもたらされる。幾つかの実施の形態では、操作されたヌクレアーゼはTCRα遺伝子に特異的であり、TALEN、megaTAL、CRISPR、ZFNから選択される。
【0108】
他の実施の形態では、改変された多能性幹細胞は相同組換えによってもたらされるTCRα遺伝子ノックアウトを含む。或る特定の実施の形態では、欠損TCRα遺伝子はアンチセンスRNAによって作製される。
【0109】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はTCRα及びTCRβのペアリングを実質的に含まない。
【0110】
幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はキメラ抗原受容体(CAR)、外因性TCR及び/又は抗原受容体を更に含む。
【0111】
幾つかの実施の形態では、造血幹細胞、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞を使用して、改変された多能性幹細胞が作製される。幾つかの実施の形態では、改変された多能性幹細胞はMHC反応性を有しない。
【0112】
一態様では、本発明は、改変された多能性幹細胞を作製する方法であって、外因性プレTCRα(pTa)タンパク質を導入する工程及び/又は欠損TCRα遺伝子を作製する工程を含む、方法を提供する。
【0113】
幾つかの実施の形態では、外因性プレTCRα(pTa)タンパク質はプレTCRα(pTa)タンパク質をコードするDNAコンストラクト又はRNAコンストラクトのエレクトロポレーションによって導入される。
【0114】
幾つかの実施の形態では、欠損TCRα遺伝子はノックアウト又はアンチセンス技術によって作製される。或る特定の実施の形態では、上記方法は、対象のCARタンパク質を
コードするコンストラクトを導入する工程を更に含む。
【0115】
幾つかの実施の形態では、上記方法は、最初に患者又は健康なドナーから造血幹細胞、胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞を分離する工程を更に含む。
【0116】
一態様では、本発明は、対象のT細胞系譜を作製する方法であって、改変された多能性幹細胞を準備する工程と、人工胸腺オルガノイドにおいてT細胞分化を誘導する工程とを含む、方法を提供する。
【0117】
一態様では、本発明は、対象のT細胞系譜を作製する方法であって、本明細書に記載の改変された多能性幹細胞を準備することと、ペプチド:MHCの存在下又は不存在下でT細胞分化を誘導することとを含み、任意に、前記対象のT細胞系譜は、細胞傷害性CD8+T細胞、ヘルパーCD4+T細胞、Th1/Th2/Th17細胞であるヘルパーCD4+T細胞、制御性T細胞、上皮内リンパ球(IEL)又は成熟αβT細胞若しくはγδT細胞である、方法を提供する。
【0118】
一態様では、本発明は、改変された多能性幹細胞を準備する工程と、ペプチド:MHCの存在下でT細胞分化を誘導する工程とを含む、対象のT細胞系譜を作製する方法を提供する。一態様では、本発明は、改変された多能性幹細胞を準備する工程と、ペプチド:MHCの不存在下でT細胞分化を誘導する工程とを含む、対象のT細胞系譜を作製する方法を提供する。
【0119】
幾つかの実施の形態では、上記方法はT細胞系譜を選択することを更に含み、ここで、T細胞系譜は1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって選択される。幾つかの実施の形態では、対象のT細胞系譜は細胞傷害性CD8+T細胞である。幾つかの他の実施の形態では、対象のT細胞系譜はヘルパーCD4+T細胞である。或る特定の実施の形態では、ヘルパーCD4+T細胞はTh1/Th2/Th17細胞である。
【0120】
幾つかの実施の形態では、上記方法はT細胞系譜を選択することを含み、ここで、対象のT細胞系譜は制御性T細胞である。
【0121】
幾つかの実施の形態では、上記方法はT細胞系譜を選択することを含み、ここで、対象のT細胞系譜は上皮内リンパ球(IEL)である。
【0122】
幾つかの実施の形態では、上記方法はT細胞系譜を選択することを含み、ここで、対象のT細胞系譜は成熟αβT細胞又は成熟γδT細胞である。
【0123】
CARは、例えば(i)抗原特異的成分(「抗原結合分子」)と、(ii)1つ以上の共刺激ドメイン(ヒンジドメインを含む)と、(iii)1つ以上の活性化ドメインとを含み得る。各ドメインは不均一であり得る、つまり、異なるタンパク質鎖に由来する配列から構成され得る。CARを発現する免疫細胞(例えば、T細胞)は癌療法を含む様々な療法に使用され得る。
【0124】
短縮ヒンジドメイン(「THD」)を含む共刺激ドメインを含むCARは完全ヒンジドメイン(「CHD」)を含む共刺激ドメインを含むCARと比較して予想外に優れた特性をもたらす。そのようなCARをコードするポリヌクレオチドはpTA及びTCRαを含む本発明の操作された幹細胞又はTCRαを欠いた内因性幹細胞へと形質導入され得る。形質導入されたT細胞を患者に移植すると、CARは癌細胞の表面に存在するエピトープを認識して結合するようにT細胞を導くため、非癌性細胞ではなく癌細胞の結合が可能となる。この結合はT細胞における細胞溶解機構の活性化をもたらし、結合された癌細胞を
特異的に死滅させる。医学的合併症の移植片対宿主病(GvHD)は一般に幹細胞移植と関連しており、免疫抑制療法で治療することができる。本発明は、抗原特異性を保持するが、主要組織適合性複合体(MHC)分子に対する反応性を有しない改変されたT細胞を作製することにより、GvHDを発症する可能性を潜在的に排除する。したがって、本発明は、癌を治療するための新規の改善された療法に関して、存在する、満たされていない要求を満たす。
【0125】
TCRはT細胞が癌細胞の表面又は癌細胞の内部に提示された癌標的を識別可能にするタンパク質である。癌に特異的な内因性TCRを単離し、その後に様々な型の固形癌及び血液癌を認識して攻撃する多数のT細胞へと操作することができる。
【0126】
幾つかの実施の形態では、CARは4-1BB/CD137、T細胞受容体のα鎖、T細胞受容体のβ鎖、T細胞受容体のγ鎖、T細胞受容体のδ鎖、CD3ε、CD3δ、CD3γ、CD3ζ、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD19、CD22、CD33、CD34、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154若しくはT細胞受容体のζ鎖の膜貫通ドメイン又はそれらの任意の組み合わせの群から選択される膜貫通ドメインを含み得る。
【0127】
幾つかの実施の形態では、細胞内ドメインは4-1BB/CD137、活性化NK細胞受容体、B7-H3、BAFFR、BLAME(SLAMF8)、BTLA、CD100(SEMA4D)、CD103、CD160(BY55)、CD18、CD19、CD19a、CD2、CD247、CD27、CD276(B7-H3)、CD29、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD30、CD4、CD40、CD49a、CD49D、CD49f、CD69、CD7、CD84、CD8α、CD8β、CD96(Tactile)、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDS、CEACAM1、CRT
AM、サイトカイン受容体、DAP-10、DNAM1(CD226)、Fcγ受容体、GADS、GITR、HVEM(LIGHTR)、IA4、ICAM-1、ICAM-1、Igα(CD79a)、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、免疫グロブリン様タンパク質のシグナル伝達領域を含む。
【0128】
幾つかの実施の形態では、前記癌は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)(非T細胞ALLを含む)、急性骨髄白血病、B細胞前リンパ球性白血病、B細胞急性リンパ性白血病(「BALL」)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄白血病、慢性若しくは急性の白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、毛様細胞性白血病、ホジキン病、悪性リンパ増殖性状態、MALTリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、多発性骨髄腫、脊髄形成異常及び骨髄異形成症候群、非ホジキンリンパ腫(NHL)、形質細胞増殖性障害(無症候性骨髄腫(くすぶり型多発性骨髄腫又は無痛性骨髄腫)を含む)、形質芽球性リンパ腫、形質細胞様樹状細胞新生物、形質細胞腫(形質細胞異常増殖症;孤立性骨髄腫;孤立性形質細胞腫;髄外性形質細胞腫;及び多発性形質細胞腫を含む)、POEMS症候群(Crow-Fukase症候群、高月病、及びPEP症候群としても知られる)、縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫(PMBC)、小細胞若しくは大細胞濾胞性リンパ腫、脾辺縁帯リンパ腫(SMZL)、全身性アミロイド軽鎖アミロイドーシス、T細胞急性リンパ性白血病(「TALL」)、T細胞リンパ腫、形質転換後濾胞性リンパ腫、若しくはワルデンストレームマクログロブリン血症、又はそれらの組み合わせである。
【0129】
本明細書に記載されるように、改変された多能性幹細胞は、同種異系の状況、又は養子細胞移植(adoptive cell transfer)としても知られる「eACT(商標)」と略記され
る、操作された自己細胞療法(Engineered Autologous Cell Therapy)に使用することができる。eACT(商標)は、患者自身のT細胞を収集し、その後、1つ以上の特定の癌細胞の細胞表面に発現される1つ以上の抗原を認識し、標的とするように遺伝子操作するプロセスである。T細胞は、例えばCAR又はTCRを発現するように操作され得る。CAR陽性(CAR+)T細胞は、CARを発現するように操作される。CARは、例えば、特定の腫瘍抗原に対する特異性を有する細胞外単鎖可変フラグメント(scFv)を含み得て、該scFvは、少なくとも1つの活性化ドメインに直接又は間接に連結される、少なくとも1つの共刺激ドメインを含む細胞内シグナル伝達部分に直接又は間接に連結され、それらの成分は任意の順序で配列され得る。共刺激ドメインは、当該技術分野で知られている共刺激タンパク質に由来し得て、活性化ドメインは、例えばCD3-ζのいずれかの形態に由来し得る。幾つかの実施の形態では、CARは2個、3個、4個、又はそれ以上の共刺激ドメインを有するように設計される。幾つかの実施の形態では、CARは、共刺激ドメインが別々のポリペプチド鎖として発現されるように操作される。CAR T細胞療法及びコンストラクトの例は、米国特許出願公開第2013/0287748号、同第2014/0227237号、同第2014/0099309号、及び同第2014/0050708号、国際公開第2012033885号、国際公開第2012079000号、国際公開第2014127261号、国際公開第2014186469号、国際公開第2015080981号、国際公開第2015142675号、国際公開第2016044745号、及び国際公開第2016090369号;並びにSadelain et al, Cancer Discovery, 3: 388-398 (2013)に記載され、各々、その全体が引用することにより
本明細書の一部をなす。
【0130】
本明細書に記載される任意の態様又は実施の形態は、本明細書に開示される任意の他の態様又は実施の形態と組み合わせられ得る。本発明はその詳細な説明と併せて記載されているが、上述の記載は解説を意図するものであって、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものではない。他の態様、利点、及び変更形態は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0131】
本明細書で言及される特許及び科学文献は、当業者に利用可能な知識を確立する。本明細書で引用される米国特許、及び公開又は未公開の米国特許出願はいずれも、引用することにより本発明の一部をなす。本明細書で引用される公開された外国の特許及び特許出願はいずれも引用することにより本明細書の一部を成す。本明細書で引用される他の公開された参照文献、辞書、文書、原稿、ゲノムデータベース配列及び科学文献はいずれも、引用することにより本明細書の一部を成す。
【0132】
本発明の他の特徴及び利点は、図面、及び実施例を含む以下の詳細な説明、並びに特許請求の範囲から明らかとなる。
【0133】
添付の図面と併せて考慮された場合、上記及び更なる特徴は以下の詳細な記述からより明確に理解される。しかしながら、図面は限定ではなく、解説の目的であるにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【
図1】改変された多能性幹細胞からの操作されたT細胞の生成及び例示的な改変方略を示す図である。
【
図3】細胞副産物の排除を目的とする遺伝子編集の略図である。左側は正常な幹細胞からT細胞への正常な分化樹である。右側では、編集された幹細胞は不所望な細胞副産物を生成せずに、最終的なT細胞のみを生成する。
【
図4】ATOシステムの実験模式図である。多能性幹細胞は中胚葉前駆細胞へと誘導される。中胚葉前駆細胞をソーティングして、DLL1を発現するように操作されたMS5間質細胞と複合化する。集成した細胞複合体を空気-液体界面膜上に滴下して、8週間~12週間にわたってT細胞へと発生させる。
【
図5】ATOにおけるiPSCからのT細胞発生の動態を示す図である。iPSCはT系譜委任細胞に特徴的な表面マーカーCD45、CD5及びCD7を獲得する。最初に(2週目)細胞はCD4ISP又はCD4/8DPである。3週目に、全ての細胞はCD4/8DPである。5週目までに、細胞の大部分はαβT細胞受容体を発現しており、CD8SPである。
【
図6】ソーティングされた細胞の発現を示す図である。CD4単一陽性(CD4SP)細胞、CD4/8二重陽性(DP)細胞及びCD8単一陽性(CD8SP)細胞をATO発達の終わりにソーティングした。ソーティングされた集団を、IL2及びCD3/28ビーズを含むOptimizer培地中で2週間増殖させた。増殖の終わりに、細胞を計数して、増殖倍率を計算した。2つの反復実験が示されている(ATO20及びATO21)。
【
図7】活性化マーカーを示す図である。健康なドナーのコントロール細胞を未処理のプレート又はOKT3(CD3刺激抗体)でコーティングしたプレートで一晩培養した。CD4集団又はCD8集団のいずれかにおける表面マーカーの発現をフローサイトメトリーによって調査した。CD69及び4-1BBの上方調節はOKT3と一緒に培養した細胞で観察された。
【
図8】ATOからのiPSC由来T細胞における活性化マーカーを示す図である。健康なドナー細胞(
図7)と同様に、ATOにおけるiPSC由来のT細胞はOKT3でコーティングされたプレート上で一晩共培養した後に、表面マーカーCD69及び4-1BBの上方調節を示す。
【
図9】活性化マーカーの概要及び増殖を示す図である。左のグラフは、
図7及び
図8のデータをまとめたものである。右のグラフは、刺激された細胞におけるCellTrace Violetの希釈を示し、これは細胞をOKT3で培養した場合に増殖が誘導されたことを指摘している。刺激時の増殖はT細胞機能の証である。
【
図10】サイトカインの分泌を示す図である。免疫サイトカインIFNg、IL2、TNFa、IL-8及びIL-10は、健康なドナーのコントロール及びATOにおいてiPSCから生成されたT細胞からOKT3での刺激時に分泌された。刺激時のサイトカインの分泌はT細胞機能の証である。
【
図11】iPSC由来のCD19 CAR発現T細胞が標的に対して機能的であることを示す図である。Kite社の製造方法(AxiCel)においてCD19 CARを発現するように製造されたT細胞又はCD19-CARで形質導入されたiPSCから発生されたT細胞をCD19+白血病標的細胞(Raji)と一緒に一晩共培養した。細胞はクラスターを形成し(左)、エフェクター及び標的を共培養した場合に表面マーカー4-1BBは上方調節された(中央、右)。CD19 CARで形質導入されたiPSCからのT細胞は標的の癌系統の機能的認識を裏付けている。
【
図12】iPSCがCAR形質導入又は遺伝子編集の後に中胚葉前駆細胞を生成し得ることを示す図である。親(202i)iPSC系統にCD19 CAR(EFLbright)を形質導入して、クローン(クローン2、クローン5、クローン8、クローン11)にソーティングするか又はβ2ミクログロブリンの発現を排除するように遺伝子編集して、クローン(b2m R2、b2m R6、b2m R9、b2m Y3)にソーティングした。全ての形質導入又は遺伝子編集された系統又はクローンは親系統に匹敵する効率で中胚葉前駆細胞を形成することができた。
【
図14】二重陰性(DN)及び二重陽性(DP)の胸腺細胞発生の初期段階を示す図である。
【
図15】表面発現されたTCRの分子構成を表す図である。
【
図16A-16C】改変されていないiPSC(
図16A)、CAR-KI-TRAC iPSC(
図16B)及び改変されたiPSCからのCD45+CD56-CD3+CAR+E7TCRab+T細胞(
図16C)の5週目のT細胞分化を示すフローサイトメトリープロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0135】
定義
本発明がより容易に理解されるように、まず特定の用語を以下に定義する。以下の用語及び他の用語に対する更なる定義は、本明細書を通して記載される。
【0136】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、数量を特定していないもの(the singular forms "a," "an" and "the")は、文脈より別段の明確な指示がない限り複数の指示対象を含む。
【0137】
具体的に述べられない又は文脈より明らかでない限り、本明細書で使用される「又は」の用語は「又は」と「及び」の両方を含み、それらを包含すると理解される。
【0138】
本明細書において使用される場合、「及び/又は」の用語は、2つの指定される特徴又は成分の各々ともう一方とを含む、又はもう一方を含まない具体的な開示として理解される。したがって、本明細書において「A及び/又はB」等の句で使用される「及び/又は」の用語は、A及びB;A又はB;A(単独);及びB(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、B、及び/又はC」等の句において使用される「及び/又は」の用語は、A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)の態様の各々を包含することが意図される。
【0139】
本明細書で使用される「例えば」及び「すなわち」の用語は、限定を意図せずに例として使用されるにすぎず、本明細書において明らかに列挙されるそれらの項目のみを指すものと解釈されるべきではない。
【0140】
「以上」、「少なくとも」、「それよりも多く」等の用語、例えば「少なくとも1つ」は、限定されないが、示される値よりも少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149又は150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000以上多い値を含むと理解される。また、任意のより大きな数、又はその間の分数も含まれる。
【0141】
逆に、「以下」の用語は示される値よりも小さい各値を含む。例えば、「100ヌクレオチド以下」は、100個、99個、98個、97個、96個、95個、94個、93個、92個、91個、90個、89個、88個、87個、86個、85個、84個、83個、82個、81個、80個、79個、78個、77個、76個、75個、74個、73個
、72個、71個、70個、69個、68個、67個、66個、65個、64個、63個、62個、61個、60個、59個、58個、57個、56個、55個、54個、53個、52個、51個、50個、49個、48個、47個、46個、45個、44個、43個、42個、41個、40個、39個、38個、37個、36個、35個、34個、33個、32個、31個、30個、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個及び0個のヌクレオチドを含む。また、任意のより小さな数、又はその間の分数も含まれる。
【0142】
「複数」、「少なくとも2つ」、「2以上」、「少なくとも第2の」等の用語は、限定されないが、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149又は150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000以上を含むと理解される。また、任意のより大きな数、又はその間の分数も含まれる。
【0143】
明細書を通して、「含んでいる、含む(comprising)」の文言、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」等の変化形は、示される要素、整数若しく
は工程、又は要素、整数若しくは工程の群を含むことを含意するが、任意の他の要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程の群を排除しないと理解される。本明細書において「含んでいる、含む」の言葉と共に態様が記載される場合はいつでも、「からなる」及び/又は「から本質的になる」の用語で記載される他の類似の態様も提供されると理解される。
【0144】
具体的に述べられておらず又は文脈より明らかでない限り、本明細書で使用される「約」の用語は、当業者によって決定される特定の値又は組成に対する許容可能な誤差範囲に含まれる値又は組成を指し、その値又は組成がどのように測定され又は決定されるのか、すなわち測定システムの制限に部分的に依存する。例えば、「約」又は「を本質的に含む、を本質的に含んでいる(comprising essentially of)」は、当該技術分野における1
回の実施当たりの1つ以上の標準偏差の範囲内を意味し得る。「約」又は「を本質的に含む、を本質的に含んでいる」は、最大10%(すなわち±10%)の範囲を意味し得る。したがって、「約」は、示される値よりも10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、0.01%、又は0.001%大きい又は小さい範囲に含まれると理解され得る。例えば、約5mgは、4.5mg~5.5mgの間の任意の量を含み得る。さらに、特に生物学的なシステム又はプロセスに関して、上記用語は、或る値の最大10倍又は最大5倍を意味する場合がある。特定の値又は組成が本開示で提供される場合、別段の指示がない限り、「約」又は「を本質的に含む、を本質的に含んでいる」の意味は、その特定の値又は組成に対する許容可能な誤差の範囲に含まれるとされる。
【0145】
本明細書に記載されるように、任意の濃度範囲、パーセンテージの範囲、比率範囲、又は整数の範囲は、別段の指示がない限り、述べられる範囲に含まれる任意の整数、また適切な場合には、その分数(或る整数の10分の1、及び100分の1等)の値を含むものと理解される。
【0146】
本明細書で使用される単位、接頭辞及び記号は、それらの国際単位系(SI:Systeme International de Unites)の容認される形態で提示される。数値範囲は、その範囲を規
定する数字を含む。
【0147】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、この開示が関係する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、Juo, "The Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology", 2nd ed., (2001), CRC Press、"The Dictionary of Cell & Molecular Biology", 5th ed., (2013),
Academic Press、及び"The Oxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology", Cammack et al. eds., 2nd ed., (2006), Oxford University Pressは、この開示で
使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。
【0148】
「投与すること、投与する(Administering)」は、当業者に知られている様々な方法
及び送達システムのいずれかを使用する、被験体に対する薬剤の物理的な導入を指す。本明細書に開示される製剤に対する例示的な投与経路として、例えば注射又は点滴による静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊柱又は他の非経口的な(parenteral:腸管外)投与経路が挙げられる。本明細書で使用される「非経口投与」の句は、経腸及び局所の投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ管内、病巣内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外、及び胸骨内の注射及び点滴、また同様にin vivo電気穿孔を含む。幾つかの実施形態では、上記製剤は、非経口的ではない経路、例えば経口で投与される。他の非経口的ではない経路として、局所、表皮、又は粘膜の投与経路、例えば、鼻腔内、経膣的、直腸、舌下又は局所的なものが挙げられる。また、投与は、例えば1回、複数回、及び/又は1つ以上の延長された期間に亘って行われ得る。
【0149】
「抗体」(Ab)の用語は、限定されず、抗原に特異的に結合する糖タンパク質免疫グロブリンを含む。一般に、抗体は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖、又はそれらの抗原結合分子を含み得る。各H鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略記する)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つの定常ドメイン、すなわちCH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記する)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つの定常ドメイン、すなわちCLを含む。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存される領域が介在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に更に細分され得る。VH及びVLはそれぞれ、アミノ末端からカルボキシ末端にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4の順で並ぶ、3つのCDR及び4つのFRを含む。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。Abの定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主の組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0150】
抗体として、例えば、モノクローナル抗体、組み換えにより生成された抗体、単一特異的抗体、多重特異的抗体(二重特異的抗体を含む)、ヒト抗体、操作された抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、免疫グロブリン、合成抗体、2本の重鎖分子及び2本の軽鎖分子を含
む四量体抗体、抗体軽鎖単量体、抗体重鎖単量体、抗体軽鎖二量体、抗体重鎖二量体、抗体軽鎖-抗体重鎖対、イントラボディ(intrabodies)、抗体融合体(本明細書では「抗
体コンジュゲート」と称されることがある)、ヘテロコンジュゲート抗体、単一ドメイン抗体、一価抗体、単鎖抗体又は単鎖Fv(scFv)、ラクダ化抗体、アフィボディ(affybodies)、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば抗-抗-Id抗体を含む)、ミニボディ(minibodies)、ドメイン抗体、合成抗体(本明細書では「抗体模倣物」と称されることがある)、及び上記のいずれかの抗原結合フラグメントが挙げられ得る。或る特定の実施形態では、本明細書に記載される抗体は、ポリクローナル抗体集団を指す。
【0151】
免疫グロブリンは、限定されないが、IgA、分泌型IgA、IgG、及びIgMを含む、一般的に知られているアイソタイプのいずれかに由来し得る。IgGサブクラスもまた、当業者に良く知られており、限定されないが、ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む。「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされるAbクラス又はサブクラス(例えば、IgM又はIgG1)を指す。「抗体」の用語は、例として、天然起源と非天然起源の両方のAb、モノクローナル及びポリクローナルのAb;キメラAb及びヒト化Ab;ヒトAb又は非ヒトAb;全合成Ab;並びに単鎖Abを含む。非ヒトAbは、ヒトにおけるその免疫原性を減少させるため、組み換え法によってヒト化され得る。明確に述べられない場合、また別段の指示がない限り、「抗体」の用語は、前述の免疫グロブリンのいずれかの抗原結合フラグメント又は抗原結合部分も含み、一価及び二価のフラグメント又は部分、並びに単鎖Abを含む。
【0152】
「抗原結合分子」、「抗原結合部分」又は「抗体フラグメント」は、抗体の抗原結合部(例えばCDR)を含む任意の分子を指し、この分子は該抗体に由来する。抗原結合分子は、抗原相補性決定領域(CDR)を含み得る。抗体フラグメントの例として、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFvフラグメント、dAb、直鎖抗体、scFv抗体、並びに抗原結合分子から形成される多重特異性抗体が挙げられる。ペプチボディ(Peptibodies)(すなわち、ペプチド結合ドメインを含むFc融合分子)は、
好適な抗原結合分子の別の例である。幾つかの実施形態では、抗原結合分子は腫瘍細胞上の抗原に結合する。幾つかの実施形態では、抗原結合分子は、過剰増殖性疾患(hyperproliferative disease)に関与する細胞上の抗原、又はウイルス若しくは細菌の抗原に結合する。或る特定の実施形態では、抗原結合分子はBCMA、CLL-1又はFLT3に結合する。更なる実施形態では、抗原結合分子は、その1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む、抗原に特異的に結合する抗体フラグメントである。更なる実施形態では、抗原結合分子は単鎖可変フラグメント(scFv)である。幾つかの実施形態では、抗原結合分子は、アビマー(avimers)を含む、又はそれからなる。
【0153】
本明細書で使用される「可変領域」又は「可変ドメイン」の用語は、交換可能に使用され、当該技術分野において一般的である。可変領域は、典型的には抗体の一部、一般的には、軽鎖又は重鎖の一部、典型的には成熟重鎖中のアミノ末端の約110個~120個のアミノ酸、及び成熟軽鎖中の約90個~115個のアミノ酸を指し、それらは、抗体間で配列が広範囲に異なり、その特定の抗原に対する特定の抗体の結合及び特異性において使用される。配列における可変性は、相補性決定領域(CDR)と称される領域に濃縮されるのに対し、可変ドメイン中のより高度に保存された領域はフレームワーク領域(FR)と称される。いかなる特定の機構又は理論にも縛られることを望むものではないが、軽鎖及び重鎖のCDRは、抗体の抗原との相互作用及び特異性を主として担うものと考えられる。或る特定の実施形態では、可変領域はヒト可変領域である。或る特定の実施形態では、可変領域は、齧歯類又はネズミ科のCDR、及びヒトのフレームワーク領域(FR)を含む。特定の実施形態では、可変領域は霊長類(例えば非ヒト霊長類)の可変領域である。或る特定の実施形態では、可変領域は、齧歯類又はネズミ科のCDR、及び霊長類(例
えば非ヒト霊長類)のフレームワーク領域(FR)を含む。
【0154】
本明細書で使用されるように、抗原と、第1の結合分子、抗体又はその抗原結合分子との相互作用が、参照結合分子、参照抗体又はその抗原結合分子の抗原と相互作用する能力を遮断する、制限する、阻害する、又は減少させる場合、抗原結合分子、抗体又はその抗原結合分子は、参照抗体又はその抗原結合分子と「交差競合する」。交差競合は、完全なものであってもよく、例えば、抗原に対する結合分子の結合が、参照結合分子の抗原に結合する能力を完全に遮断するか、又は交差競合は、部分的であってもよく、例えば、抗原に対する結合分子の結合が、参照結合分子の抗原に結合する能力を減少させる。或る特定の実施形態では、参照抗原結合分子と交差競合する抗原結合分子は、参照抗原結合分子と同じ、又はそれと重複するエピトープを結合する。他の実施形態では、参照抗原結合分子と交差競合する抗原結合分子は、参照抗原結合分子とは異なるエピトープを結合する。多くの種類の競合結合アッセイ、例えば、固相直接又は間接ラジオイムノアッセイ(RIA);固相直接又は間接酵素免疫定量法(EIA);サンドイッチ競合アッセイ(Stahli et al., 1983, Methods in Enzymology 9:242-253);固相直接ビオチン-アビジンEIA(Kirkland et al., 1986, J. Immunol. 137:3614-3619);固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(Harlow and Lane, 1988, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press);I-125標識を使用する固相直接標識RIA(Morel et al., 1988, Molec. Immunol. 25:7-15);固相直接ビオチン-アビジンEIA(Cheung, et al., 1990, Virology 176:546-552);及び直接標識RIA(Moldenhauer et al., 1990, Scand. J. Immunol. 32:77-82)を使用して、或る一つの抗原結合分子が他方と競合するかどうかを判断することができる。
【0155】
「抗原」は、免疫応答を誘発する、又は抗体若しくは抗原結合分子によって結合されることが可能な任意の分子を指す。免疫応答は、抗体産生若しくは特定の免疫適格細胞(immunologically-competent cells)の活性化のいずれか、又はそれらの両方を含み得る。
当業者は、実質的に全てのタンパク質又はペプチドを含む任意の高分子が抗原としての役割を果たし得ることを容易に理解する。抗原は内因性に発現され得て、すなわちゲノムDNAによって発現され得るか、又は組み換えによって発現され得る。抗原は、癌細胞等の特定の組織に特異的となり得るか、又は広く発現され得る。さらに、より大きな分子のフラグメントが抗原として作用し得る。一実施形態では、抗原は腫瘍抗原である。
【0156】
「同種異系」の用語は、一個体に由来する任意の材料を指し、該材料はその後、同種の別の個体に導入される(例えば同種異系T細胞移植)。
【0157】
「形質導入」及び「形質導入された」の用語は、外来DNAがウイルスベクターによって細胞へと導入されるプロセスを指す(Jones et al., "Genetics: principles and analysis," Boston: Jones & Bartlett Publ. (1998)を参照されたい)。幾つかの実施形態では、ベクターは、レトロウイルスベクター、DNAベクター、RNAベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、エプスタイン-バールウイルスベクター、パポバウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルス随伴ベクター、レンチウイルスベクター、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0158】
「癌」は、身体における異常な細胞の制御されていない成長を特徴とする、幅広い各種疾患のグループを指す。制御されていない細胞の分裂及び成長は、隣接する組織に侵入して、またリンパ系又は血流によって身体の離れた部分へと転移し得る、悪性腫瘍の形成をもたらす。「癌」又は「癌組織」は、腫瘍を含む場合がある。本発明の方法によって治療され得る癌の例として、限定されないが、リンパ腫、白血病、骨髄腫、及び他の白血球の悪性腫瘍(leukocyte malignancies)を含む免疫系の癌が挙げられる。幾つかの実施形態
では、本発明の方法は、例えば、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頚部癌、皮膚又は眼内の悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頚癌、膣癌、外陰癌、多発性骨髄腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(NHL)、縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫(PMBC:primary mediastinal large B cell
lymphoma)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL:diffuse large B cell lymphoma)、濾胞性リンパ腫(FL)、形質転換後濾胞性リンパ腫(transformed follicular lymphoma)、脾辺縁帯リンパ腫(SMZL:splenic marginal zone lymphoma)、食
道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、慢性又は急性の白血病、急性骨髄白血病、慢性骨髄白血病(chronic myeloid leukemia)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)(非T細胞ALLを含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、幼少期の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓又は尿管の癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍(spinal axis tumor)、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮
癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、石綿によって誘導されるものを含む、環境によって誘導される癌、他のB細胞悪性腫瘍、及び上記癌の組み合わせに由来する腫瘍のサイズを減少するため使用され得る。特定の一実施形態では、癌は多発性骨髄腫である。特定の癌は、化学療法又は放射線療法に反応性となり得るが、そうでなければその癌は難治性となり得る。難治性癌は、外科的処置に適用できない癌を指し、その癌は最初に化学療法若しくは放射線療法に無反応であるか、又はその癌は経時的に無反応となるいずれかである。
【0159】
本発明の方法により治療され得る更なる癌の例には、再発性又は治療抵抗性大細胞型B細胞リンパ腫、特定不能のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫又は濾胞性リンパ腫に起因するDLBCLが含まれる。
【0160】
本明細書に使用される「抗腫瘍効果」は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍細胞増殖の減少、転移の数の減少、全体生存期間又は無増悪生存期間の増加、平均余命の増加、又は腫瘍と関係する様々な生理学的症状の改善として提示され得る、生物学的効果を指す。また、抗腫瘍効果は、腫瘍の発生の予防、例えばワクチンを指す場合がある。
【0161】
本明細書で使用される「サイトカイン」は、特異抗原との接触に反応して1つの細胞によって放出される非抗体タンパク質を指し、ここで、サイトカインは第2の細胞と相互作用して、第2の細胞における反応を媒介する。サイトカインは、細胞によって内因性に発現され得るか、又は被験体に投与され得る。サイトカインは、マクロファージ、B細胞、T細胞、及び肥満細胞を含む免疫細胞によって放出されて、免疫応答を伝播し得る。サイトカインは、レシピエント細胞において様々な反応を誘導し得る。サイトカインは、ホメオスタシスサイトカイン(homeostatic cytokines)、ケモカイン、炎症誘発性サイトカ
イン、エフェクター及び急性期タンパク質を含み得る。例えば、インターロイキン(IL)7及びIL-15を含むホメオスタシスサイトカインは、免疫細胞の生存及び増殖を促進し、炎症誘発性サイトカインは炎症反応を促進し得る。ホメオスタシスサイトカインの例として、限定されないが、IL-2、IL-4、IL-5、IL-7、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、IL-15及びインターフェロン(IFN)γが挙げられる。炎症誘発性サイトカインの例として、限定されないが、IL-1a、IL-1b、IL-6、IL-13、IL-17a、腫瘍壊死因子(TNF)-α、TNF-β、線維芽細胞成長因子(FGF)2、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、可溶性細胞間接着分子1(sICAM-1)、可溶性血管接着分子1(sVCAM-1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF-C、VEGF-D及び胎盤増殖因子(PLGF)が挙げられる。エフェクターの例として、限定されないが、グランザイムA、グランザイムB、可溶性Fasリガンド(sFasL)及びパーフォリンが挙げられる。急性期タンパク質の例として、限定されないが、C反応性タンパク質(CRP)及び血
清アミロイドA(SAA)が挙げられる。
【0162】
「ケモカイン」は細胞走化性又は指向性運動を媒介するサイトカインの一種である。ケモカインの例として、限定されないが、IL-8、IL-16、エオタキシン、エオタキシン-3、マクロファージ由来ケモカイン(MDC又はCCL22)、単球走化性タンパク質1(MCP-1又はCCL2)、MCP-4、マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP-1α、MIP-1a)、MIP-1β(MIP-1b)、ガンマ誘導性タンパク質10(IP-10)、並びに胸腺及び活性化制御ケモカイン(TARC又はCCL17)が挙げられる。
【0163】
「治療的有効量」、「有効用量」、「有効量」又は「治療的に有効な投薬量」の治療剤、例えば操作されたCAR T細胞は、単独で又は別の治療剤と組み合わせて使用された場合に、疾患の発症から被験体を保護する、又は疾患症状の重症度の減少、疾患症状のない期間の頻度及び持続期間の増加、若しくは疾患の罹患に起因する機能障害若しくは身体障害の予防によって明示される疾患の退縮を促進する、任意の量である。治療剤の疾患の退縮を促進する能力は、熟練した医師に知られている様々な方法を使用して、例えば、臨床試験中のヒト被験体において、ヒトにおける効能を予測する動物モデル系において、又はin vitroアッセイにおいて薬剤の活性をアッセイすることによって評価され得る。
【0164】
本明細書で使用される「リンパ球」の用語は、ナチュラルキラー(NK:natural killer)細胞、T細胞、又はB細胞を含む。NK細胞は、生得免疫系の主な成分を占める細胞傷害性(細胞毒性)リンパ球の一種である。NK細胞は腫瘍及びウイルスによって感染された細胞を拒絶する。NK細胞は、アポトーシス又はプログラム細胞死のプロセスによって作用する。NK細胞は、細胞を死滅させるために活性化を必要としないことから、「ナチュラルキラー」と名付けられた。T細胞は、細胞媒介免疫(抗体が関与しない)において主な役割を果たす。そのT細胞受容体(TCR)は、他の種類のリンパ球からそれら自体を分化させる。免疫系の特殊化された器官である胸腺は、主としてT細胞の成熟を担う。6種類のT細胞、すなわち、ヘルパーT細胞(例えばCD4+細胞)、細胞傷害性T細胞(TC、細胞傷害性Tリンパ球、CTL、T-キラー細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞又はキラーT細胞としても知られる)、メモリーT細胞((i)ナイーブ細胞のようなステムメモリーTSCM細胞は、CD45RO-、CCR7+、CD45RA+、CD62L+(L-セレクチン)、CD27+、CD28+及びIL-7Rα+であるが、それらは、大量のCD95、IL-2Rβ、CXCR3及びLFA-1を発現し、メモリー細胞に特有の多数の機能的な属性を示す;(ii)セントラルメモリーTCM細胞は、L-セレクチン及びCCR7を発現し、IFNγ又はIL-4ではなくIL-2を分泌する;並びに(iii)エフェクターメモリーTEM細胞はLセレクチンもCCR7も発現しないものの、IFNγ及びIL-4のようなエフェクターサイトカインを産生する)、調節性T細胞(Treg、サプレッサーT細胞又はCD4+CD25+調節性T細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT)及びγδT細胞が存在する。一方、B細胞は、液性免疫(抗体が関与する)で最も重要な役割を果たす。B細胞は抗体及び抗原を作製し、抗原提示細胞(APC)の役割を行い、抗原の相互作用による活性化の後、メモリーB細胞となる。哺乳動物では、未成熟B細胞は、骨髄で形成される。
【0165】
「遺伝子操作された」、「操作された」又は「改変された」の用語は、限定されるものではないが、コーディング領域若しくは非コーディング領域若しくはそれらの一部を欠失させることによる、又はアンチセンス技術による、又はコーディング領域若しくはそれらの一部を導入しているタンパク質の発現の増加による、遺伝子中の欠損の生成を含む細胞の改変方法を指す。幾つかの実施形態では、改変される細胞は、患者又はドナーのいずれかから取得することができる、幹細胞(例えば、造血幹細胞(HSC)、胚性幹細胞(E
S)、人工多能性幹(iPS)細胞)、リンパ球(例えば、T細胞)である。細胞を改変して、細胞のゲノムに組み込まれ得る、外因性コンストラクト、例えば、プレTCRαタンパク質、キメラ抗原受容体(CAR)、又はT細胞受容体(TCR)等を発現させてもよい。
【0166】
「免疫応答」は、侵入病原体、病原体に感染した細胞若しくは組織、癌性若しくは他の異常な細胞、又は自己免疫若しくは病理学的炎症の場合、正常なヒトの細胞若しくは組織の選択的な標的化、それらへの結合、それらに対する損傷、それらの破壊、及び/又は脊椎動物の身体からのそれらの排除をもたらす、免疫系の細胞(例えばTリンパ球、Bリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、樹状細胞、及び好中球)及びこれらの細胞のいずれか又は肝臓によって産生される可溶性高分子(Ab、サイトカイン、及び補体を含む)の作用を指す。
【0167】
「免疫療法」の用語は、免疫応答を誘導する、増強する、抑制する、又は修飾することを含む方法による、疾患に冒された、又は疾患にかかる若しくは疾患の再発を患うリスクがある被験体の治療を指す。免疫療法の例として、限定されないが、T細胞療法が挙げられる。T細胞療法は、養子T細胞療法(adoptive T cell therapy)、腫瘍浸潤リンパ球
(TIL)免疫療法、自己細胞治療、操作された自己細胞療法(eACT(商標))、及び同種異系T細胞移植を含み得る。しかしながら、当業者は、本明細書に開示されるコンディショニング法(conditioning methods)が任意の移植T細胞療法の有効性を増強し得ることを認識するであろう。T細胞療法の例は、米国特許出願公開第2014/0154228号及び同第2002/0006409号、米国特許第5,728,388号及び国際公開第2008/081035号に記載される。
【0168】
免疫療法のT細胞は、当該技術分野において知られている任意の供給源に由来し得る。例えば、T細胞は、造血幹細胞集団、人工多能性幹細胞(iPS)、胚性幹細胞(ES)からin vitroで分化されてもよく、又はT細胞は被験体から得られてもよい。T細胞を、例えば末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位に由来する組織、腹水、胸水、脾臓組織及び腫瘍から得ることができる。さらに、T細胞は、当該技術分野において利用可能な1つ以上のT細胞株に由来してもよい。また、T細胞は、FICOLL(商標)分離及び/又はアフェレーシス(apheresis)等の
当業者に知られている任意の多くの技術を使用して被験体から収集された血液単位から得ることもできる。T細胞療法用のT細胞を単離する更なる方法は、米国特許出願公開第2013/0287748号に開示され、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0169】
「eACT(商標)」と略記することができ、養子細胞移植としても知られる「操作された自己細胞療法」の用語は、患者自身のT細胞を収集し、その後、1つ以上の特定の腫瘍細胞又は悪性腫瘍の細胞表面上に発現される1つ以上の抗原を認識し、標的とするように遺伝的に変更するプロセスである。T細胞は、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)を発現するように操作され得る。CAR陽性(+)T細胞は、少なくとも1つの共刺激ドメイン及び少なくとも1つの活性化ドメインを含む細胞内シグナル伝達部に連結された特定の腫瘍抗原に対する特異性を有する細胞外単鎖可変フラグメント(scFv)を発現するように操作される。共刺激ドメインは、天然起源の共刺激ドメイン、又はその変異体、例えば短縮ヒンジドメイン(「THD」)を有する変異体に由来し得て、活性化ドメインは、例えばCD3-ζに由来し得る。或る特定の実施形態では、CARは2個、3個、4個又はそれ以上の共刺激ドメインを有するように設計される。CAR scFvは、例えば、全ての正常なB細胞、並びに限定されないがNHL、CLL、及び非T細胞ALLを含むB細胞悪性腫瘍を含む、B細胞系統の細胞によって発現される膜貫通タンパク質であるCD19を標的とするように設計され得る。幾つかの実施形
態では、CARは、共刺激ドメインが別々のポリペプチド鎖として発現されるように操作される。CAR T細胞療法及びコンストラクトの例は、米国特許出願公開第2013/0287748号、同第2014/0227237号、同第2014/0099309号、及び同第2014/0050708号に記載され、これらの引用文献はそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0170】
本明細書で使用される「患者」は、癌(例えばリンパ腫又は白血病)に冒された任意のヒトを含む。「被験体」及び「患者」の用語は、本明細書では区別なく使用される。
【0171】
本明細書で使用される「in vitro細胞」の用語は、ex vivoで培養される任意の細胞を指す。特に、in vitro細胞はT細胞を含み得る。
【0172】
「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」の用語は区別なく使用され、ペプチド結合によって共有結合的に連結されたアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質又はペプチドは、少なくとも2個のアミノ酸を含み、タンパク質又はペプチドの配列を含み得るアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いにつながれた2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチド又はタンパク質を含む。本明細書で使用されるように、上記用語はまた、当該技術分野において、例えばペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーと一般的に称される短い鎖と、当該技術分野において一般的にはタンパク質と称され、多くの種類が存在する、より長い鎖の両方を指す。「ポリペプチド」として、例えば、特に、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同性のポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、改変ポリペプチド、誘導体、類縁体、融合タンパク質が挙げられる。ポリペプチドは、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、又はそれらの組み合わせを含む。
【0173】
本明細書で使用される「刺激」は、その同族のリガンドと刺激分子を結合することによって誘導される一次応答を指し、ここで、その結合はシグナル伝達事象を媒介する。「刺激分子」は、T細胞上の分子、例えば、抗原提示細胞上に存在する同族の刺激リガンドと特異的に結合するT細胞受容体(TCR)/CD3複合体を指す。「刺激リガンド」は、抗原提示細胞(例えば、APC、樹状細胞、B細胞等)上に存在する場合、T細胞上の刺激分子と特異的に結合することができ、それによって、限定されないがT細胞の活性化、免疫応答の開始、増殖等を含むT細胞による一次応答を媒介するリガンドである。刺激リガンドとして、限定されないが、抗CD3抗体、ペプチドで充填されたMHCクラスI分子、スーパーアゴニスト抗CD2抗体、及びスーパーアゴニスト抗CD28抗体が挙げられる。
【0174】
本明細書で使用される「共刺激シグナル」は、TCR/CD3ライゲーション等の一次シグナルと組み合わせて、限定されないがT細胞の増殖及び/又は主要な分子の上方制御若しくは下方制御等のT細胞の応答をもたらすシグナルを指す。
【0175】
本明細書で使用される「共刺激リガンド」は、T細胞上の同族の共同刺激分子を特異的に結合する抗原提示細胞上の分子を含む。共刺激リガンドの結合は、限定されないが、T細胞の増殖、活性化、分化等を含むT細胞応答を媒介するシグナルを提供する。共刺激リガンドは、一次シグナルに加えて、刺激分子によって、例えば、ペプチドがロードされた主要組織適合複合体(MHC)分子とのT細胞受容体(TCR)/CD3複合体の結合によって提供されるシグナルを誘導する。共刺激リガンドとして、限定されないが、3/TR6、4-1BBリガンド、Tollリガンド受容体に結合するアゴニスト又は抗体、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、CD30リガンド、CD40、CD7、CD70、CD83、ヘルペスウイルスエントリーメディエーター(HVEM:herpes virus entry mediator)、ヒト白血球抗原G(HLA-G)、ILT4、免疫グロブリン様
転写物(ILT:immunoglobulin-like transcript)3、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、B7-H3と特異的に結合するリガンド、リンフォトキシンβ受容体、MHCクラスI鎖関連タンパク質A(MICA)、MHCクラスI鎖関連タンパク質B(MICB)、OX40リガンド、PD-L2、又はプログラム細胞死(PD)L1が挙げられ得る。共刺激リガンドとして、限定されず、4-1BB、B7-H3、CD2、CD27、CD28、CD30、CD40、CD7、ICOS、CD83と特異的に結合するリガンド、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、ナチュラルキラー細胞受容体C(NKG2C)、OX40、PD-1、又は腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー14(TNFSF14又はLIGHT)等のT細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
「共刺激分子」は、共刺激リガンドと特異的に結合することにより、限定されないが増殖等のT細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上の同族の結合パートナーである。共刺激分子として、限定されないが、「共刺激分子」は、共刺激リガンドと特異的に結合することにより、限定されないが増殖等のT細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上の同族の結合パートナーである。共刺激分子として、限定されないが、4-1BB/CD137、B7-H3、BAFFR、BLAME(SLAMF8)、BTLA、CD33、CD45、CD100(SEMA4D)、CD103、CD134、CD137、CD154、CD16、CD160(BY55)、CD18、CD19、CD19a、CD2、CD22、CD247、CD27、CD276(B7-H3)、CD28、CD29、CD3(α;β;δ;ε;γ;ζ)、CD30、CD37、CD4、CD4、CD40、CD49a、CD49D、CD49f、CD5、CD64、CD69、CD7、CD80、CD83リガンド、CD84、CD86、CD8α、CD8β、CD9、CD96(Tactile)、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDS、CEACAM1、CRT AM、DAP-10、DNAM1(CD226)、Fcγ受容体、GADS、GITR、HVEM(LIGHTR)、IA4、ICAM-1、ICAM-1、ICOS、Igα(CD79a)、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、インテグリン、ITGA4、ITGA4、ITGA6、ITGAD、ITGAE、ITGAL、ITGAM、ITGAX、ITGB2、ITGB7、ITGB1、KIRDS2、LAT、LFA-1、LFA-1、LIGHT、LIGHT(腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー14;TNFSF14)、LTBR、Ly9(CD229)、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1(CD11a/CD18))、MHCクラスI分子、NKG2C、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80(KLRF1)、OX40、PAG/Cbp、PD-1、PSGL1、SELPLG(CD162)、シグナル伝達リンパ球活性化分子、SLAM(SLAMF1;CD150;IPO-3)、SLAMF4(CD244;2B4)、SLAMF6(NTB-A;Ly108)、SLAMF7、SLP-76、TNF、TNFr、TNFR2、Tollリガンド受容体、TRANCE/RANKL、VLA1若しくはVLA-6、又はそれらのフラグメント、短縮物、若しくは組み合わせが挙げられる。
【0177】
「減少する、減少させる(reducing)」及び「減じる(decreasing)」の用語は、本明細書において区別なく使用され、本来よりも少ない、あらゆる変化を示す。「減少する、減少させる」及び「減じる」は測定前と測定後の比較を必要とする、相対的な用語である。「減少する、減少させる」及び「減じる」は完全な欠乏を含む。
【0178】
被験体の「治療(Treatment)」又は被験体を「治療する、治療すること(treating)
」は、症状、合併症若しくは病状の発症、進行、発現、重症度若しくは再発、又は疾患と関連する生化学的指標の転換、緩和、改善、阻害、遅延又は予防の目的で、被験体に対して行われる任意の種類の処置若しくはプロセス、又は被験体に対する有効成分の投与を指す。一実施形態では、「治療」又は「治療する、治療すること」は部分寛解を含む。別の
実施形態では、「治療」又は「治療する、治療すること」は完全寛解を含む。
【0179】
本明細書で使用される場合に、「TCR代用物(TCR proxy)」は、内因性TCR及び
/又はプレTCRの不存在下で幹細胞からのT細胞の発生を可能にする又は容易にする下流シグナル伝達エレメントを惹起する分子(例えば、ペプチド、タンパク質、合成分子等)である。幾つかの実施の形態では、TCR代用物は、規定されたTCR、プレTCR、pTa単量体、pTa/TCRβヘテロ二量体、TCRα分子、TCRβ分子、TCRγ分子、TCRδ分子、TCRα/βヘテロ二量体、TCRγ/δヘテロ二量体、先の分子のホモ二量体、TCR様分子又はTCRシグナルを惹起してT細胞発生を可能にする他の分子である。幾つかの実施の形態では、TCR代用物は1つ以上の分子(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ又はそれより多くの分子)を含む。幾つかの実施の形態では、1つ以上の分子はタンパク質である。幾つかの実施の形態では、TCR代用物はタンパク質複合体である。
【0180】
本明細書で使用される場合に、「選択可能」の用語は分子が抗体により標的化され得ることを意味する。幾つかの実施の形態では、選択可能な表面マーカーは抗原結合分子(例えば、抗体)によって標的化され得る表面上に発現される分子である。
【0181】
パーセント同一性を計算するため、典型的には、配列間の最も大きな一致を与える方法で比較される配列を整列させる。パーセント同一性を特定するために使用され得るコンピュータープログラムの一例は、GAP(Devereux et al., (1984), Nucl. Acid Res. 12:387、ウィスコンシン州マディソンのウィスコンシン大学、Genetics Computer Group)を含むGCGプログラムパッケージである。コンピューターアルゴリズムであるGAPを使用して、パーセント配列同一性が特定される2つのポリペプチド又はポリヌクレオチドを整列させる。配列を、それらの各アミノ酸又はヌクレオチドの最適なマッチング(アルゴリズムによって特定される、「一致スパン(matched span)」)について整列させる。また或る特定の実施形態では、上記アルゴリズムによって、標準的な比較マトリクス(Dayhoff et al., 1978, Atlas of Protein Sequence and Structure 5:345-352 for the PAM 250 comparison matrix、Henikoff et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:10915-10919 for the BLOSUM 62 comparison matrixを参照されたい)が使用される。
【0182】
本発明の様々な態様は、以下のサブセクションに更に詳細に記載される。
【0183】
詳細な説明
本開示は、とりわけ、T細胞へと効率的に分化する改変された多能性幹細胞、遺伝子操作された幹細胞及びそれらの派生物、並びにそれらの製造方法及び使用方法を提供する。特に、本開示は、操作された免疫療法のために自家又は同種異系の状況で使用され得る幹細胞の生成を提供する。細胞ベースの免疫療法で使用する場合に、本明細書に記載される改変された多能性幹細胞は、移植片対宿主病(GVHD)のリスクを軽減又は排除し、レシピエントのT細胞及びNK細胞による排除に対する耐性をもたらし、制御可能なT細胞活性を可能にし得る(例えば、自殺遺伝子又はキルスイッチを含むように操作される)。
【0184】
養子細胞療法からのT細胞応答はレシピエント由来のT細胞によって媒介され得る。移植片拒絶反応は、外因性導入遺伝子に対する免疫原性、ヒト組織適合性抗原(HLA)の不一致に対する反応性(非血縁/半合致)又はマイナー組織適合性抗原(MiHA)(例えば、HA-1、HA-2等)に対する反応性(血縁/非血縁HLA一致/半合致)に起因する場合がある。ドナーT細胞によって応答が媒介されることでも、HLA/MiHAの不一致に対する反応性からGVHDにつながる場合があり、腫瘍抗原/腫瘍関連MiHAに対する反応性から抗腫瘍事象につながる場合がある。
【0185】
細胞療法に対する宿主免疫反応性(例えば、HLA又はMiHAの不一致により誘発されるGVHD)を防ぐために、一態様では、本開示は、内因性TCR発現を排除するように操作された改変された多能性幹細胞を提供する。幾つかの実施形態では、内因性TCRの遺伝子編集はTCRα及び/又はTCRβ(TRAC及び/又はTRBC1/TRBC2)のノックアウト(KO)によって操作される。幾つかの実施形態では、細胞は(細胞源及び分化状態に依存して)RAG1/RAG2のKOによって操作される。
【0186】
移植片拒絶反応を防ぐために、本開示は、ドナーHLAの発現を遮断するように及び/又は1つのHLA-クラスI「非多型」アレルを再導入してNK殺傷(例えば、単鎖HLA-E)を防ぐように操作された改変された多能性幹細胞を提供する。幾つかの実施形態では、HLAクラスI分子(例えば、β2ミクログロブリン、個々のHLA分子(HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-G)、TAP1、TAP2及び/又は裸リンパ球症候群I型(BLSI)と関連する遺伝子)に改変が加えられる。幾つかの実施形態では、HLAクラスII分子(例えば、転写因子(RFXANK又はRFX5又はRFXAP)又はトランス活性化因子(CIITA)、BLS IIに関連する遺伝子及び/又は個々のHLA分子(HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR、HLA-DM、HLA-DOのα鎖及びβ鎖))に改変が加えられる。幾つかの実施形態では、腫瘍反応性を促進するように改変が加えられる(例えば、腫瘍特異的TCR又はCARの導入)。幾つかの実施形態では、細胞は阻害受容体(例えば、PDCD1、CTLA4)を排除するように更に改変される。幾つかの実施形態では、細胞は共刺激受容体(例えば、CD28、TNFRSF9)を導入するように改変される。
【0187】
多能性幹細胞
様々な多能性幹細胞を、本発明の実施のために使用することができる。例えば、骨髄(臍帯血又は末梢血も)中の造血幹細胞(HSC)は、他の全ての成熟血液細胞に加えて、拘束性胸腺始原体を生み出す。これらの胸腺始原体は胸腺に移動し、そこで成熟T細胞への発達を始める。Delta及びJagged、特に胸腺中のNotch1及びDelta様4というリガンドを介したNotch受容体のシグナル伝達は、転写カスケード(すなわち、Tcf7、Gata3、Bcl11b等)を駆動し、それがリコンビナーゼ活性化遺伝子RAG1及びRAG2によるTCR遺伝子座の再構成をもたらす。最初に産生的なTCRβの再構成(すなわち、TCRタンパク質を生ずる)は、pTaと対をなして表面に移動するタンパク質を生成する。この表面トラフィッキングはシグナルを細胞へと返送し、こうして更なる発達の進行が可能となる。表面のpTa-TCRβは、成熟TCRで起こるようにMHCと相互作用する必要はなく、生存シグナルは、ペプチド:MHCとは独立であり得る。次いで、細胞はTCRαの再構成に進み、α/βのペアリングの成功と自己ペプチド:MHCの弱い認識(すなわち、正の選択及び負の選択又は中枢性トレランス)とについて精査された後に、成熟ナイーブT細胞となり、末梢に循環する。生産的なTCRβ及び/又はTCRαを生成することができないT細胞は、表面TCR複合体を発現せず、細胞に発生又は成熟し続けるように指示するシグナルを受信しないこととなり、最終的には死に至る。本明細書に記載されるように、多能性幹細胞はT細胞応答を調節し、分化を制御するように改変される。
【0188】
幾つかの実施形態では、胚性幹細胞(ES)又は人工多能性幹細胞(iPS)が使用され得る。適切なHSC、ES細胞、iPS細胞及びその他の幹細胞は、培養された不死化細胞系統であっても又は患者から直接単離されてもよい。幹細胞の単離、発達及び/又は培養のための様々な方法は、当該技術分野において知られており、本発明の実施のために使用することができる。
【0189】
幾つかの実施形態では、幹細胞はリプログラムされたT細胞から作製された人工多能性幹細胞(iPSC)である。本明細書に記載されるように、幹細胞由来T細胞は操作され
た免疫療法のために自家又は同種異系の状況で使用され得る。
【0190】
幾つかの実施形態では、原料物質はT細胞又は非T細胞に由来する人工多能性幹細胞(iPSC)であり得る。原料物質は胚性幹細胞であり得る。原料物質はB細胞又は末梢血単核細胞分離株、造血前駆細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞からの任意の他の細胞又は任意の他の体細胞型であり得る。
【0191】
多能性幹細胞の改変
本発明によれば、iPSC又はその他の幹細胞(例えば、胚性幹細胞)の改変を用いて、多数の、ことによると無限の数の、所望の系譜を有する操作されたT細胞を作製することができる。本発明により、操作された幹細胞からT細胞に分化することが可能な改変された幹細胞が作製される。例示的な改変方略は
図1及び
図2に示されている。
【0192】
改変のために標的化される遺伝子座は内因性プロモーターを利用する又は抗原受容体の発現を駆動する外因性プロモーターを含む標的化方略を使用して決定され得る。幾つかの実施形態では、標的化される遺伝子座は内因性プロモーターを使用するαβT細胞の生産的に再構成されたTRAC遺伝子座又はTRBC遺伝子座である。幾つかの実施形態では、遺伝子座は内因性プロモーター又は外因性プロモーターを使用するTRGC又はTRDCである。
【0193】
幾つかの実施形態では、遺伝子座は外因性プロモーターを有する生産的/非生産的なTRAC又はTRBC又はTRGC又はTRDCである。標的化方略は外因性プロモーターを有する/有しない生産的/非生産的なTRAC又はTRBCの任意の組み合わせの1つ以上を利用することができる。
【0194】
本発明によれば、HSC又はその他の幹細胞(胚性幹(ES)細胞又は人工多能性幹(iPS)細胞)の改変を、多数の、ことによると無限の数の、所望の系譜を有する操作されたT細胞を作製するために使用することができる。
【0195】
本発明により、操作された幹細胞からT細胞に分化することが可能な改変された幹細胞が作製される。幾つかの実施形態では、細胞はATOシステムにおいて分化される。プレTCRα(pTa)の導入及び/又はTCRα(TCRα)のノックアウトは、強制的/持続的なTCRβ(TCRβ)とのpTaのペアリングをもたらす。pTa-TCRβペアは、TCRαの不存在下で幹細胞が成熟T細胞に発達するために必要なシグナルをもたらす。pTa-TCRβはT細胞の分化を促進するが、宿主ペプチド:MHC分子に対する反応性がない。pTaは細胞によって天然に提供され得る又は操作された外因性コンストラクトとして提供され得る。幹細胞は操作されたCAR又は外因性TCR、すなわち標的分子を認識する抗原受容体を有しても又は有しなくてもよい。標的分子は排除する組織(例えば、癌性病変又はその他)又は免疫寛容を誘導する組織(例えば、膵島細胞)で発現され得る。
【0196】
pTa-TCRβは(例えば、ATOによって)発生を駆動するのに十分であるが、一切抗原受容体の反応性を伝えない(すなわち、MHCに対する受容体の反応性がないため、TCRβを介してGvHDは起こらない)。したがって、本方法は表面発現されたTCR複合体を有するが、MHC反応性を有しないT細胞の発生を可能にする。
【0197】
本発明の別の実施形態は、pTa及び/又は相補鎖、すなわちペプチド:MHC若しくは他のリガンドを認識し得るpTaとは独立して抗原を認識することができるTCRβ又はペプチド:MHC若しくは他のリガンドを認識し得るTCRβの使用を含む。ペプチド:MHC又はリガンドは、幹細胞、発達中の胸腺細胞、成熟T細胞、共培養された細胞系
統、ATOにおいて幹細胞と複合化した間質細胞系統又はその他の分化システムによって、天然に又は操作された状態で提供される。pTa及び/又はTCRβはこのリガンドに天然に結合することができるか、pTa及び/又はTCRβはこのリガンドに結合するように改変若しくは操作され得るか、又はリガンドは天然若しくは操作されたpTA及び/若しくはTCRβに結合するように改変若しくは操作され得る。発生に対して得られた効果は、細胞増殖を増強又は妨害することができるか、T細胞の発生を加速又は減速することができるか、特定の発生段階でT細胞の発生を停止させることができるか、又は細胞傷害性CD8+T細胞、限定されるものではないが、Th1/Th2/Th17等を含むヘルパーCD4+T細胞、制御性T細胞(Treg)、上皮内リンパ球(IEL)、αβT細胞、γδT細胞、補助受容体非依存性(すなわち、CD4CD8二重陰性)の成熟αβT細胞又は成熟γδT細胞及びその他のような特定の系譜へと発生するように胸腺細胞を指向することができる。
【0198】
本発明の別の態様は、プレTCRα(pTa)を導入する及び/又はTCRα(TCRα)をノックアウトして、強制的又は持続的なTCRβ(TCRβ)とのpTaのペアリングをもたらすことを含む、CAR又はTCRを発現する細胞の作製方法に関する。pTa-TCRβペアはTCRαの不存在下で幹細胞が成熟T細胞に発達するために必要なシグナルをもたらす。pTaは細胞によって天然に提供され得る又は操作された外因性コンストラクトとして提供され得る。幹細胞は操作されたCAR又は外因性TCR、すなわち標的分子を認識する抗原受容体を有しても又は有しなくてもよい。標的分子は排除する組織(例えば、癌性病変又はその他)又は免疫寛容を誘導する組織(例えば、膵島細胞)で発現され得る。
【0199】
特定の標的遺伝子座のノックアウトは、操作されたヌクレアーゼ(TALEN、megaTAL、CRISPR、ZFN等)を用いて、ヌクレアーゼを用いずに、相同組換え(HR)又は当該技術分野で知られる他の遺伝子改変法によって達成され得る。標的遺伝子はCRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN、MegaTAL、メガヌクレアーゼ、Cpf1、相同組換え、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)又は他の技術を使用して編集され得る。
【0200】
遺伝子は上記の技術を使用してノックアウトされ得る。遺伝子をノックアウトして破壊されたままにすることもできる又は別の遺伝子を破壊された遺伝子の場所にノックインすることもできる。ノックインされる遺伝子は内因性遺伝子座の発現を利用するためにインフレームとなるように設計され得る。幾つかの実施形態では、外因性プロモーターをドナー(ノックイン)コンストラクトへと導入して、発現を駆動することができる。
【0201】
幹細胞は、操作されたCAR又は外因性TCR、すなわち標的分子を認識する抗原受容体を有しても又は有しなくてもよい。標的分子は排除する組織(例えば、癌性病変又はその他)又は免疫寛容を誘導する組織(例えば、膵島細胞)で発現され得る。
【0202】
ヌクレアーゼ、HRテンプレート、抗原受容体(すなわち、CAR又はTCR)及び外因性コンストラクトはDNA又はRNAのエレクトロポレーション、ウイルスを媒介した送達、受動移入等によって送達され得る。コンストラクトは生得の遺伝子調節エレメント、構成的な生理学的発現レベルを利用して内因性遺伝子座にノックインされ得る又は規定のプロモーターを含み得る。規定のプロモーターは、構成的に活性であり得る又は細胞発生及び/又は細胞周期等の別個の段階に限定され得る。
【0203】
MHCに関連する改変
幾つかの実施形態では、β2ミクログロブリンのノックアウトを使用することで、クラス1a HLA遺伝子の発現を排除して、操作された細胞のレシピエント(宿主)免疫系
による細胞の認識を排除することができる。
【0204】
幾つかの実施形態では、宿主免疫系による低減又は排除はMHC I複合体又はMHC
II複合体へのペプチドのプロセシング又はローディングに関連する細胞機構を含む遺伝子の破壊によって達成され得る。例としては、限定されるものではないが、カルネキシン、BiP、カルレティキュリン、ERp57、タパシン、TAP、ERAAP又はプロテアソーム若しくはイムノプロテアソームのタンパク質が含まれる。
【0205】
幾つかの実施形態では、遺伝子CIITA又はRFX5のノックアウトを使用して、MHCクラスIIの低減又は排除を達成することができる。標的細胞における特定の個々のMHC I遺伝子及びMHC II遺伝子の標的化を使用して、MHC Iタンパク質及び/又はMHC IIタンパク質の発現を低減させる又は排除することもできる。
【0206】
関連する抗原受容体
幾つかの実施形態では、内因性TCRα遺伝子、TCRβ遺伝子、TCRγ遺伝子、TCRδ遺伝子の組換えを防ぐために、組換え関連遺伝子、例えばRAG1、RAG2がノックアウトされる。幾つかの実施形態では、RAG1/2ノックアウトを使用して、B細胞受容体(BCR)の組換えを防ぐことができる。
【0207】
免疫認識を妨げるための遺伝子付加
NK細胞によるMHCのない細胞の認識を妨げるために、幾つかの実施形態では、セミインバリアントHLA-E分子の導入が使用される。この分子はネイティブのHLA-E配列、コドン最適化/縮重改変配列、1つ以上のアミノ酸の除去によって生成されるHLA-Eの短縮形、HLA-Eへの1つ以上のアミノ酸の付加によって生成されるHLA-Eの伸長形であり得る。HLA-E分子はネイティブのHLA-E又は上記の任意の変異体及びβ2ミクログロブリンの融合物であり得る。β2ミクログロブリンはネイティブの配列、コドン最適化/縮重改変配列、アミノ酸の付加又は除去等であり得る。HLA-E分子は、HLA-E分子において、特にペプチド溝に結合するペプチド配列を含むような更なる融合物であり得る。幾つかの実施形態では、融合物の任意のセグメント間にリンカーを使用することができる。
【0208】
内因性プロモーターを利用して遺伝子座へとHLA-E分子を任意の形で導入して発現を駆動することによって、発現が誘導され得る。代替的に、コンストラクトは発現の駆動のために外因性プロモーターを有し得る。
【0209】
細胞産物の制御/排除
自殺遺伝子として知られる遺伝子を細胞産物へと組み込むことができる。この遺伝子の目的は有害事象、注入細胞の自己反応性、癌の根絶又はその他の場合に、遺伝子改変された細胞の排除を可能にすることである。幾つかの実施形態では、自殺遺伝子はランダムなゲノム位置又は標的化された遺伝子座(例えば、代謝遺伝子座、DNA/RNA複製遺伝子座等)に導入される。
【0210】
自殺遺伝子は外因性プロモーターによって駆動され得る又は組み込まれた遺伝子座の内因性プロモーターを利用することができる。
【0211】
幾つかの実施形態では、自殺遺伝子はガンシクロビルの導入により細胞の排除が可能となるsr39TKである。この遺伝子を、陽電子放出断層撮影を使用して遺伝子改変された細胞をイメージングすることでレシピエント/宿主における細胞を局在化するために使用することもできる。
【0212】
自殺遺伝子はまた化学誘導型カスパーゼ、小分子/化学誘導型二量体化因子(CID)により誘導される二量体化であり得る。自殺遺伝子はまた抗体の導入によって抗体依存性細胞毒性、補体カスケード等により細胞を排除することができる選択可能な表面マーカー(CD19又はCD20又はCD34又はEGFR又はLNGFR等)であり得る。
【0213】
選択可能なマーカーの場合に、このマーカーは磁気ビーズ結合抗体、フローサイトメトリーによるソーティング、抗体による活性化等によって遺伝子改変された細胞を富化するために使用され得る。
【0214】
遺伝子改変された細胞は単一細胞クローンとして作製され得る。幾つかの実施形態では、細胞は1つの集団に由来し得る。
【0215】
ゲノムの全体又は一部をシーケンシングして、組込みの位置を特定及び/又は検証することができる。シーケンシングは最終的な細胞産物、マスターセルバンク等の作製の間の細胞系統のゲノムにおける変化を特定するために使用することもできる。
【0216】
TCR代用物
発達中のTリンパ球はαT細胞受容体及びβT細胞受容体(TCR)遺伝子座のゲノム再構成を受けて、各細胞に排他的なユニークなヘテロ二量体TCRが生成される。これらのTCRは、別の細胞の主要組織適合性複合体(MHC)にローディングされたペプチドとして提示されたあらゆる抗原を認識し得る。胸腺の発達における2つの別個の段階により、自己MHCと相互作用し得るが(ポジティブセレクション)、健康な自己抗原を認識しない(ネガティブセレクション)機能的な免疫細胞が身体を占めることが確実となる。これらの段階はTCRとMHCとの間の相互作用によって生成されるシグナルによって媒介される。シグナルが生成されない(例えば、TCRが自己MHCに結合し得ないため、免疫細胞が防御をもたらさない)場合には、細胞は「無視による細胞死」として知られるプロセスを経る。強いシグナルが生成される(例えば、TCRが自己MHCに強く結合する)場合に、細胞はアポトーシスを起こす。
【0217】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるユニバーサル同種異系T細胞免疫療法(allo)はレシピエント宿主に対する不所望な反応性を妨げるためにTRAC遺伝子座及び/又はTRBC遺伝子座について編集又は欠失されている細胞を含む。幹細胞由来のalloの文脈では、いずれかの遺伝子の損失は胸腺細胞の部分的な発生をもたらすが、完全に成熟したナイーブT細胞の発生をもたらさない。TRACのノックアウトはCD4CD8二重陽性段階で機能停止した細胞(例えば、内因性のプレTCRα(pTa)とペアリングし得る機能的なTCRβ遺伝子)を生ずる。TRBCのノックアウトは二重陰性(DN)段階で停止した細胞をもたらす(決してTCRシグナルを取得しない)。
【0218】
幾つかの実施形態では、細胞はTCR代用物を導入するように操作され得る。本明細書で使用される場合に、TCR代用物は内因性TCR及び/又はプレTCRの不存在下で幹細胞からのT細胞の発生を可能にする又は容易にする下流シグナル伝達エレメントを惹起する分子(例えば、タンパク質)である。幾つかの実施形態では、TCR代用物は規定されたTCR、プレTCR、pTa単量体、pTa/TCRβヘテロ二量体、TCRα分子、TCRβ分子、TCRγ分子、TCRδ分子、TCRα/βヘテロ二量体、TCRγ/δヘテロ二量体、先の分子の任意のホモ二量体、TCR様分子又はTCRシグナルを惹起してT細胞発生を可能にする他の分子である。
【0219】
幾つかの実施形態では、TCR代用物は遺伝子編集されていない細胞で発現され、それが内因性遺伝子座の再構成及び/又は発現を抑制する(対立遺伝子排除)。幾つかの実施形態では、内因性TCRを欠くように編集された細胞において、TCR代用物は正の生存
シグナルを惹起し、成熟ナイーブT細胞への発生を駆動する。幾つかの実施形態では、TCR代用物は、既知のペプチド-MHC(例えば、ウイルス抗原反応性TCR、癌/精巣抗原反応性TCR等)に対して反応性の、末梢T細胞からクローニングされたTCRである。幾つかの実施形態では、TCR代用物はpTa及びTCRβ等のキメラ分子である。
【0220】
幾つかの実施形態では、TCR代用物は下流TCRシグナル(例えば、CD3鎖)を惹起するTCRのサブコンポーネントである。幾つかの実施形態では、TCR代用物はTCRシグナルをT細胞に与える完全合成分子である。
【0221】
幾つかの実施形態では、TCR代用物は治療用TCR(例えば、T細胞で発現されると腫瘍抗原に結合することとなるTCR)である。幾つかの実施形態では、TCR代用物は治療用TCR(例えば、T細胞で発現されると腫瘍抗原に結合することとなるTCR)ではない。
【0222】
幾つかの実施形態では、TCR代用物はキメラの、マウスの及び/又は操作された治療用TCRである。幾つかの実施形態では、TCR代用物は非アロ反応性α/βTCR又はγ/δTCR、他のTCR鎖の1つを加えた/差し引いたプレTCR、単鎖TCRキメラ、Vドメインがない操作されたTCR変異体である。
【0223】
キメラ抗原受容体及びT細胞受容体
キメラ抗原受容体(CAR又はCAR-T)及びT細胞受容体(TCR)は、本発明により改変された多能性幹細胞へと導入され得る。これらの操作された受容体は、当該技術分野で知られる技術に従って、改変された多能性幹細胞に容易に挿入され、該多能性幹細胞により発現され得る。CARにより、単一の受容体は、特異抗原を認識するとともに、その抗原に結合した場合に免疫細胞を活性化させてその抗原を持っている細胞を攻撃して破壊するよう、プログラム化され得る。これらの抗原が腫瘍細胞上に存在する場合、CARを発現する免疫細胞は、腫瘍細胞を標的とし、死滅させることができる。キメラ抗原受容体は、共刺激(シグナル伝達)ドメインを含むことで、それらの効力が高められる。米国特許第7,741,465号及び同第6,319,494号、並びにKrause et al.及
びFinney et al.(上記参照)、Song et al., Blood 119:696-706 (2012)、Kalos et al., Sci. Transl. Med. 3:95 (2011)、Porter et al., N. Engl. J. Med. 365:725-33 (2011)、及びGross et al., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 56:59-83 (2016)を参照のこと。
【0224】
幾つかの実施形態では、短縮ヒンジドメイン(「THD」)を含む共刺激ドメインは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgD、IgE、IgM、又はそれらのフラグメント等の免疫グロブリンファミリーのメンバーの幾つか又は全てを更に含む。
【0225】
幾つかの実施形態では、THDは、ヒト完全ヒンジドメイン(「CHD」)に由来する。その他の実施形態では、THDは、共刺激タンパク質の齧歯類、マウス、又は霊長類(例えば、非ヒト霊長類)CHDに由来する。幾つかの実施形態では、THDは、共刺激タンパク質のキメラCHDに由来する。
【0226】
本発明のCAR又はTCRのための共刺激ドメインは、膜貫通ドメイン及び/又は細胞内シグナル伝達ドメインを更に含み得る。膜貫通ドメインは、CARの細胞外ドメインに融合されるように設計され得る。膜貫通ドメインは、同様にCARの細胞内ドメインに融合され得る。幾つかの実施形態では、CAR中のドメインの1つと本来関連性がある膜貫通ドメインが使用される。幾つかの場合においては、膜貫通ドメインは、そのようなドメインが同じ又は異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合することを避けることで
、受容体複合体のその他のメンバーとの相互作用を最小限にするように、選択され得るか、又はアミノ酸置換により修飾され得る。膜貫通ドメインは、天然源又は合成源のいずれかに由来し得る。その起源が天然である場合に、上記ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来し得る。本発明の特定の使用の膜貫通領域は、4-1BB/CD137、活性化NK細胞受容体、免疫グロブリンタンパク質、B7-H3、BAFFR、BLAME(SLAMF8)、BTLA、CD100(SEMA4D)、CD103、CD160(BY55)、CD18、CD19、CD19a、CD2、CD247、CD27、CD276(B7-H3)、CD28、CD29、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD3ζ、CD30、CD4、CD40、CD49a、CD49D、CD49f、CD69、CD7、CD84、CD8、CD8α、CD8β、CD96(Tactile)、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDS、CEACAM1、CRT AM、サイトカイン受容体、DAP-10、DNAM1(CD226)、Fcγ受容体、GADS、GITR、HVEM(LIGHTR)、IA4、ICAM-1、ICAM-1、Igα(CD79a)、IL-2Rβ、IL-2Rγ、IL-7Rα、誘導性T細胞共刺激分子(ICOS)、インテグリン、ITGA4、ITGA4、ITGA6、ITGAD、ITGAE、ITGAL、ITGAM、ITGAX、ITGB2、ITGB7、ITGBl、KIRDS2、LAT、LFA-1、LFA-1、CD83と特異的に結合するリガンド、LIGHT、LIGHT、LTBR、Ly9(CD229)、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1;CD11a/CD18)、MHCクラス1分子、NKG2C、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80(KLRF1)、OX-40、PAG/Cbp、プログラム細胞死-1(PD-1)、PSGL1、SELPLG(CD162)、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、SLAM(SLAMF1;CD150;IPO-3)、SLAMF4(CD244;2B4)、SLAMF6(NTB-A;Ly108)、SLAMF7、SLP-76、TNF受容体タンパク質、TNFR2、TNFSF14、Tollリガンド受容体、TRANCE/RANKL、VLA1、若しくはVLA-6、又はそれらのフラグメント、短縮形、若しくはそれらの組み合わせに由来し(すなわち含み)得る。
【0227】
任意に、短いリンカーは、CARの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインのいずれか又は幾つかの間で結合を形成し得る。幾つかの実施形態では、リンカーは、グリシン-グリシン-グリシン-グリシン-セリンの繰り返し(配列番号3)(G4S)n又はGSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号2)に由来し得る。幾つかの実施形態では、リンカーは、3個~20個のアミノ酸、及びGSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号2)と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一のアミノ酸配列を有する。
【0228】
本明細書に記載されるリンカーは、ペプチドタグとしても使用され得る。リンカーペプチド配列は、対象となる1つ以上のタンパク質を結合するための任意の適切な長さの配列であり得て、好ましくは、連結するペプチドの一方又は両方の適切な折り畳み及び/又は機能及び/又は活性を可能にするように十分に柔軟となるように設計される。したがって、リンカーペプチドは、10個以下、11個以下、12個以下、13個以下、14個以下、15個以下、16個以下、17個以下、18個以下、19個以下、又は20個以下のアミノ酸の長さを有し得る。幾つかの実施形態では、リンカーペプチドは、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、又は少なくとも20個のアミノ酸の長さを有し得る。幾つかの実施形態では、リンカーは、少なくとも7個かつ20個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ19個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ18個以下のアミノ酸、
少なくとも7個かつ17個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ16個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ15個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ14個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ13個以下のアミノ酸、少なくとも7個かつ12個以下のアミノ酸、又は少なくとも7個かつ11個以下のアミノ酸を有する。或る特定の実施形態では、リンカーは、15個~17個のアミノ酸を有し、特定の実施形態では、16個のアミノ酸を有する。幾つかの実施形態では、リンカーは、10個~20個のアミノ酸を有する。幾つかの実施形態では、リンカーは、14個~19個のアミノ酸を有する。幾つかの実施形態では、リンカーは、15個~17個のアミノ酸を有する。幾つかの実施形態では、リンカーは、15個又は16個のアミノ酸を有する。幾つかの実施形態では、リンカーは、16個のアミノ酸を有する。幾つかの実施形態では、リンカーは、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、又は20個のアミノ酸を有する。
【0229】
幾つかの実施形態では、スペーサードメインが使用される。幾つかの実施形態では、スペーサードメインは、CD4、CD8a、CD8b、CD28、CD28T、4-1BB、又は本明細書に記載されるその他の分子に由来する。幾つかの実施形態では、スペーサードメインは、小分子の添加に際して発現を制御するために、化学的に誘導されたダイマライザーを含み得る。幾つかの実施形態では、スペーサーは使用されない。
【0230】
本発明の操作されたT細胞の細胞内(シグナル伝達)ドメインは、活性化ドメインへのシグナル伝達をもたらし、次いでそれは免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つを活性化する。T細胞のエフェクター機能は、例えば、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性又はヘルパー活性であり得る。
【0231】
或る特定の実施形態では、好適な細胞内シグナル伝達ドメインは、4-1BB/CD137、活性化NK細胞受容体、免疫グロブリンタンパク質、B7-H3、BAFFR、BLAME(SLAMF8)、BTLA、CD100(SEMA4D)、CD103、CD160(BY55)、CD18、CD19、CD19a、CD2、CD247、CD27、CD276(B7-H3)、CD28、CD29、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD30、CD4、CD40、CD49a、CD49D、CD49f、CD69、CD7、CD84、CD8、CD8α、CD8β、CD96(Tactile)、CD11a、CD11b、CD11c、CD11d、CDS、CEACAM1、CRT AM、サイトカイン受容体、DAP-10、DNAM1(CD226)、Fcγ受容体、GADS、GITR、HVEM(LIGHTR)、IA4、ICAM-1、ICAM-1、Igα(CD79a)、IL-2Rβ、IL-2Rγ、IL-7Rα、誘導性T細胞共刺激分子(ICOS)、インテグリン、ITGA4、ITGA4、ITGA6、ITGAD、ITGAE、ITGAL、ITGAM、ITGAX、ITGB2、ITGB7、ITGBl、KIRDS2、LAT、LFA-1、LFA-1、CD83と特異的に結合するリガンド、LIGHT、LIGHT、LTBR、Ly9(CD229)、Ly108)、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1;CD11a/CD18)、MHCクラス1分子、NKG2C、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、NKp80(KLRF1)、OX-40、PAG/Cbp、プログラム細胞死-1(PD-1)、PSGL1、SELPLG(CD162)、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)、SLAM(SLAMF1;CD150;IPO-3)、SLAMF4(CD244;2B4)、SLAMF6(NTB-A、SLAMF7、SLP-76、TNF受容体タンパク質、TNFR2、TNFSF14、Tollリガンド受容体、TRANCE/RANKL、VLA1、若しくはVLA-6、又はそれらのフラグメント、短縮形、若しくはそれらの組み合わせを包含する(すなわち含む)が、それらに限定されない。
【0232】
TCRは、抗原反応性を伝えるために導入され得る。幾つかの実施形態では、抗原反応
性は、ペプチドのMHC提示により限定される。TCRは、α/βTCR、γ/δTCR等であり得る。幾つかの実施形態では、TCRは、マウス定常鎖(2A結合)を有するHPV-16E7 TCRである。幾つかの実施形態では、それらの鎖は、IRES又は任意の2Aファミリーのメンバーの配列(例えば、P2A、T2A、E2A、F2A等)によって連結され得る。幾つかの実施形態では、TCRは、HPV認識TCR、又はその他のウイルス性反応性TCR(例えば、EBV、インフルエンザ等)である。幾つかの実施形態では、癌反応性TCR又は癌関連抗原反応性TCRが使用され得る(例えば、NYESO、MART1、gp100等)。
【0233】
幾つかの実施形態では、TCRは、正常/健康なペプチド反応性又はその他の抗原反応性/拘束性のTCRである。幾つかの実施形態では、TCRは、マウスMHC又はその他の非ヒトMHCに対して反応性である。幾つかの実施形態では、TCRは、クラスI拘束性TCR又はクラスII拘束性TCRである。
【0234】
抗原結合分子
適切なCARは、抗原(例えば、細胞表面抗原)に結合するように、その標的となる抗原と相互作用する抗原結合分子を導入することによって操作され得る。幾つかの実施形態では、抗原結合分子は、その抗体フラグメント、例えば1種以上の単鎖抗体フラグメント(「scFv」)である。scFvは、互いに連結された抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を有する単鎖抗体フラグメントである。米国特許第7,741,465号及び同第6,319,494号、並びにEshhar et al., Cancer Immunol Immunotherapy (1997) 45: 131-136を参照のこと。scFvは、親抗体の標的抗原と特異的に相互作用する能力を維持している。scFvは、キメラ抗原受容体において有用である。それというのも、scFvは、その他のCAR成分と一緒に単鎖の一部として発現されるように操作され得るからである。同上。Krause et al., J. Exp. Med., Volume 188, No. 4, 1998 (619-626)、Finney et al., Journal of Immunology, 1998, 161: 2791-2797も参照のこと。抗原結合分子は、典型的には、対象となる抗原を認識して結合することができるようにCARの細胞外部分の範囲内に含まれることを理解されたい。対象となる2つ以上の標的に特異性を有する二重特異性及び多重特異性のCARが、本発明の範囲内で考慮される。
【0235】
幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、本発明のTHDと、標的抗原に特異的に結合する抗原結合分子とを含むCAR又はTCRをコードする。幾つかの実施形態では、標的抗原は、腫瘍抗原である。幾つかの実施の形態では、前記抗原は、腫瘍関連表面抗原(5T4等)、アルファフェトプロテイン(AFP)、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、BCMA、B-ヒト絨毛膜性生殖腺刺激ホルモン、CA-125、癌胚抗原(CEA)、癌胚抗原(CEA)、CD123、CD133、CD138、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD25、CD30、CD33、CD34、CD4、CD40、CD44、CD56、CD8、CLL-1、c-Met、CMV特異抗原、CS-1、CSPG4、CTLA-4、DLL3、ジシアロガングリオシドGD2、膵管上皮ムチン、EBV特異抗原、EGFR変異体III(EGFRvIII)、ELF2M、エンドグリン、エフリンB2、上皮成長因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮性腫瘍抗原、ErbB2(HER2/neu)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、FLT3、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、神経膠腫関連抗原、スフィンゴ糖脂質、gp36、HBV特異抗原、HCV特異抗原、HER1-HER2、HER2-HER3の組み合わせ、HERV-K、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV-1型エンベロープ糖タンパク質gp41、HPV特異抗原、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、IGFI受容体、IGF-II、IL-11Rα、IL-13R-a2、インフルエンザウイルス特異抗原、CD38、インスリン成長因子(IGFl)-1、腸カルボキシルエステラーゼ、カッパー鎖、LAGA-1a、ラムダ鎖、ラッサ熱ウイルス特異抗原、レクチン反応性AFP、系譜特異抗原又は組織特異抗原(CD3
等)、MAGE、MAGE-A1、主要組織適合性複合体(MHC)分子、腫瘍特異的ペプチドエピトープを提示する主要組織適合性複合体(MHC)分子、M-CSF、黒色腫関連抗原、メソテリン、メソテリン、MN-CA IX、MUC-1、mut hsp70-2、変異p53、変異p53、変異ras、好中球エラスターゼ、NKG2D、Nkp30、NY-ESO-1、p53、PAP、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、前立腺特異抗原タンパク質、STEAP1、STEAP2、PSMA、RAGE-1、ROR1、RU1、RU2(AS)、表面接着分子、生存及びテロメラーゼ、TAG-72、フィブロネクチンのエクストラドメインA(EDA)及びエクストラドメインB(EDB)、並びにテネイシンCのA1ドメイン(TnC A1)、チログロブリン、腫瘍間質抗原、血管内皮細胞成長因子受容体-2(VEGFR2)、ウイルス特異表面抗原(HIV特異抗原(例えばHIV gp120)等)と並んで、これらの表面マーカーの任意の誘導体又は変異体から選択される。
【0236】
ベクター、細胞及び医薬組成物
本明細書では、改変された多能性幹細胞の作製方法が提供される。様々なベクターを使用して、CAR、TCR、TCR代用物、pTaタンパク質又は任意のその他の対象の外因性タンパク質を導入することができる。
【0237】
当該技術分野において知られている任意のベクターが本発明に対して好適となり得る。幾つかの実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。幾つかの実施形態では、ベクターは、レトロウイルスベクター、DNAベクター、マウス白血病ウイルスベクター、SFGベクター、プラスミド、RNAベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、エプスタイン-バールウイルスベクター、パポバウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルス随伴ベクター(AAV)、レンチウイルスベクター、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0238】
外因性プロモーターはヒト配列、マウス配列又は任意の他の種の配列のユビキチンC、EF1a、PGK、β-アクチン等であり得る。プロモーターはこれらの配列のゲノムのインフレーム版、スプライスアウトされたイントロン、無傷のイントロン等のフラグメント、又はこれらの配列の任意の部分的接合物を使用することができる。プロモーターはLTR等のウイルス性エレメントから得ることもできる。プロモーターの起源となるウイルスはMPSV、MSGV、HTLV、HIV等であり得る。スペーサードメインは小分子の添加時に滴定可能に発現を制御するためにスロットル(throttle)/化学誘導型二量体化因子を含み得る。
【0239】
本発明の細胞を、当該技術分野で知られている任意の供給源によって得ることができる。例えば、T細胞は、in vitroで造血幹細胞集団から分化されてもよく、又はT細胞は被験体から得られてもよい。T細胞は、例えば末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位に由来する組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍から得られてもよい。さらに、T細胞は、当該技術分野において利用可能な1つ以上のT細胞株に由来し得る。また、T細胞は、FICOLL(商標)分離及び/又はアフェレーシス等の当業者に知られている数多くの技術を使用して被験体から収集された血液単位から得られてもよい。或る特定の実施形態では、アフェレーシスによって収集された細胞を洗浄して血漿画分を除去し、後の処理に適切なバッファー又は培地に入れる。幾つかの実施形態では、細胞をPBSで洗浄する。理解されるように、洗浄工程は、例えばCobe(商標)2991細胞処理装置、Baxter CytoMate(商標)等の半自動フロースルー遠心分離機等を使用することによって使用され得る。幾つかの実施形態では、洗浄された細胞を1つ以上の生体適合性のバッファー、又はバッファーを含む若しくは含まない他の生理食塩水溶液に再懸濁する。或る特定の実施形態では、アフェレーシス試料の望ましくない成分が除去される。T細胞療法用にT細胞を単離する追加の方法は、米国特許
出願公開第2013/0287748号に開示され、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0240】
或る特定の実施形態では、幹細胞は、例えばPERCOLL(商標)勾配による遠心分離を使用することによる赤血球の溶解及び単球の枯渇によってPBMCから単離される。幾つかの実施形態では、CD4+、CD8+、CD28+、CD45RA+及びCD45RO+のT細胞等のT細胞の特定の亜集団は、当該技術分野において知られている正又は負の選択技術によって更に単離される。例えば、負の選択によるT細胞集団の富化は、負に選択される細胞に特有の表面マーカーに対する抗体の組み合わせによって遂行され得る。幾つかの実施形態では、負に選択される細胞に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用する負の磁気免疫付着(negative magnetic immunoadherence)又はフローサイトメトリーによる細胞の選別及び/又は選択を使用することがで
きる。例えば、負の選択によってCD4+細胞を富化するため、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD8、CD11b、CD14、CD16、CD20及びHLA-DRに対する抗体を含む。或る特定の実施形態では、フローサイトメトリー及び細胞選別は、本発明における使用に対する目的の細胞集団を単離するために使用される。
【0241】
幾つかの実施形態では、PBMCは、本明細書に記載される方法を使用して、免疫細胞(CAR又はTCR等)により遺伝子修飾に直接使用される。或る特定の実施形態では、PBMCを単離した後、Tリンパ球を更に単離し、遺伝子修飾及び/又は拡大の前又は後のいずれかに、細胞傷害性Tリンパ球とヘルパーTリンパ球の両方を、ナイーブ、幹細胞メモリー、セントラルメモリー、エフェクターメモリー、及びエフェクターのT細胞亜集団へと選別する。
【0242】
幾つかの実施形態では、CD8+細胞は、これら各種のCD8+細胞と関連する細胞表面抗原を同定することによって、ナイーブ、幹細胞メモリー、セントラルメモリー細胞、エフェクターメモリー、及びエフェクター細胞へと更に選別される。幾つかの実施形態では、セントラルメモリーT細胞の表現型マーカーは、CCR7、CD3、CD28、CD45RO、CD62L、及びCD127を含み、グランザイムBに対して陰性である。幾つかの実施形態では、セントラルメモリーT細胞は、CD8+、CD45RO+及びCD62L+のT細胞である。幾つかの実施形態では、エフェクターT細胞は、CCR7、CD28、CD62L及びCD127に対して陰性であり、グランザイムB及びパーフォリンに対して陽性である。或る特定の実施形態では、CD4+T細胞は亜集団へと更に選別される。例えば、CD4+ヘルパーT細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を同定することによって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞及びエフェクター細胞へと選別され得る。
【0243】
幾つかの実施形態では、免疫細胞、例えばT細胞は、単離に続いて、既知の方法を使用して遺伝子修飾されるか、又は遺伝子修飾に先だってin vitroで免疫細胞が活性化され、拡大される(すなわち、前駆細胞の場合、分化される)。別の実施形態では、免疫細胞、例えばT細胞は、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体によって遺伝子修飾され(例えば、CARをコードする1つ以上のヌクレオチド配列を含むウイルスベクターによって形質導入される)、次いでin vitroで活性化及び/又は拡大される。T細胞を活性化及び拡大する方法は当該技術分野において知られており、例えば米国特許第6,905,874号、同第6,867,041号、及び同第6,797,514号、並びにPCT公報国際公開第2012/079000号に記載され、それらの内容は、それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。一般的には、かかる方法は、PBMC又は単離されたT細胞と、一般的にはビーズ又は他の表面に付着された抗CD3抗体及び抗CD28抗体等の刺激物質及び共刺激物質とを、IL-2等の適切なサイトカインを含む培養培地中で接触させることを含む。同じビーズに付着された抗CD3抗体及び抗C
D28抗体は、「代理」抗原提示細胞(APC)としての役割を果たす。一例は、ヒトT細胞の生理学的な活性化に対するCD3/CD28活性化因子/刺激因子システムである、Dynabeads(商標)システムである。他の実施形態では、米国特許第6,040,177号及び同第5,827,642号、並びにPCT公報国際公開第2012/129514号(それらの内容は、それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されるような方法を使用して、フィーダー細胞、並びに適切な抗体及びサイトカインによって、T細胞は活性化され、刺激されて増殖する。
【0244】
或る特定の実施形態では、T細胞はドナー被験体から得られる。幾つかの実施形態では、ドナー被験体は、癌又は腫瘍に冒されたヒト患者である。他の実施形態では、ドナー被験体は癌又は腫瘍に冒されていないヒト患者である。
【0245】
本発明の他の態様は、本明細書に記載されるポリヌクレオチドを含む組成物、本明細書に記載されるベクター、本明細書に記載されるポリペプチド、又は本明細書に記載されるin vitro細胞に関する。幾つかの実施形態では、上記組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、防腐剤、及び/又はアジュバントを含む。幾つかの実施形態では、上記組成物は賦形剤を含む。一実施形態では、上記組成物は、本明細書に記載される短縮ヒンジドメイン(「THD」)を含むCAR又はTCRをコードするポリヌクレオチドを含む。別の実施形態では、上記組成物は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるTCDを含むCAR又はTCRを含む。別の実施形態では、上記組成物は、本明細書に記載されるTCDを含むCAR又はTCRを含むT細胞を含む。
【0246】
他の実施形態では、上記組成物は、非経口的な送達に対し、吸入に対し、又は経口等の消化管による送達に対して選択される。かかる薬学的に許容可能な組成物の作製は、当業者の能力の範囲に含まれる。或る特定の実施形態では、バッファーを使用して上記組成物を生理学的pH又はわずかに低いpH、典型的には約5~約8の範囲のpHに維持する。或る特定の実施形態では、非経口投与が検討される場合、上記組成物は、薬学的に許容可能なビヒクル中、追加の治療剤と共に又はそれを伴わずに、本明細書に記載される組成物を含む、パイロジェンフリー(pyrogen-free)の非経口的に許容可能な水溶液の形態である。或る特定の実施形態では、非経口注射用のビヒクルは滅菌蒸留水であり、該蒸留水中において、少なくとも1つの追加の治療剤と共に又はそれを伴わずに、本明細書に記載される組成物が適切に保存される無菌の等張液として製剤化される。或る特定の実施形態では、上記作製は、所望の分子と、製品の制御放出又は持続放出を提供する、高分子化合物(ポリ乳酸又はポリグリコール酸等)、ビーズ、又はリポソームとの製剤化を含み、その後、デポー注射によって送達される。或る特定の実施形態では、所望の分子を導入するために、埋め込み可能な薬物送達デバイスが使用される。
【0247】
細胞分化
改変された多能性幹細胞産物は、人工胸腺オルガノイド(ATO)システム、notchアゴニスト、OP9-DLL1、OP9-DLL4、胎児胸腺器官培養物(FTOC)、化学誘導、骨髄/肝臓/胸腺又はその他のヒト化マウス、胚様体(EB)又は他の分化技術を使用して、T細胞へと分化され得る。
【0248】
分化される細胞型はCD8単一陽性T細胞、CD4単一陽性T細胞、CD4CD8二重陽性T細胞、二重陰性T細胞、CD3陽性細胞、NK細胞、proT細胞、pre-proT細胞、中胚葉前駆細胞、B細胞、リンパ球系共通前駆細胞、造血前駆細胞、造血幹細胞等であり得る。
【0249】
人工胸腺オルガノイド(ATO)
in vivoで遺伝子改変されたマウスモデル、ヒト化マウス、及びOP9-DLL
1又は最近記載された人工胸腺オルガノイド(ATO)等のin vitroシステムにより、癌抗原に対する抗原受容体を含む所望の成熟T細胞を生成するように幹細胞が改変又は培養され得る多くの手段が明らかになった。
【0250】
本発明による改変された多能性幹細胞はOP9-DLL1又は人工胸腺オルガノイド(ATO)細胞培養システムにおいて更に分化され得る。ATOはT細胞分化を再現する無血清の3次元細胞培養技術である。ATO技術は癌及びその他の疾患を治療するための既製の操作されたT細胞を作製する可能性を有する。
【0251】
適切な人工胸腺オルガノイド(ATO)システムは非常に効率的なin vitro分化と、臍帯血、骨髄及び末梢血HSPCからの天然の及びTCR操作されたヒトT細胞のポジティブセレクションとに対応する。ATO由来のT細胞はナイーブ表現型、多様なTCRレパートリー並びにTCR依存性の活性化及び増殖を示す。ATO由来の操作されたT細胞もナイーブ表現型に成熟し、in vitro及びin vivoでの抗原特異的な腫瘍の死滅を更に示す。したがって、ATOは養子細胞療法のためにナイーブT細胞及び潜在的に非アロ反応性の操作されたT細胞を作製する効率的な方法を提供する。ATO培養システムによる操作されたT細胞を生成する例示的な方法は、例えば米国仮特許出願第62/511,907号、同第62/514,467号、Evseenko et al., 2010 PNAS、Seet et al., 2017 Nature Methods(それらの内容は、引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。ATO培養システムに関連する他の例示的な方法は国際公開第2017/075389号の国際特許出願に記載されている。
【0252】
TCR操作された幹細胞はATOシステムにおいてT細胞を生成する。さらに、ATO由来のT細胞はTCRの多様性及び対立遺伝子排除を示す。ATOシステムにおける操作された幹細胞は、対立遺伝子排除の証拠を提供するVbeta抗体パネルのフローサイトメトリー調査によって著しく限定されたTCRを示す。
【0253】
所望のT細胞系譜を生成する方法
幾つかの実施形態では、改変された多能性細胞は、重要な発生遺伝子のゲノム編集のために、細胞不純物を排除して、ATOプラットフォームからのT細胞分化産物の活性を調節するように更に操作される。
【0254】
幹細胞を免疫細胞に分化させる過程の間に、不所望な細胞系譜副産物が生ずる可能性がある。例えば、幹細胞をαβT細胞に分化させる場合に、NK細胞、制御性T細胞(Treg)、γδT細胞及びその他の非免疫細胞型が培養物中で発生する場合もある。本明細書に記載される方法では、転写因子等の或る特定の重要なマスター細胞の運命調節因子をノックアウト又は改変すると共に、不所望な細胞副産物の生成を減少又は排除するために、あらゆるゲノム編集プラットフォーム(CRISPR/Cas9、TALEN、megaTAL、メガヌクレアーゼ、Cpf1、ZFN等)が利用される。
【0255】
癌治療
本明細書に記載の方法は、被験体において癌を治療するため、腫瘍のサイズを減少させるため、腫瘍細胞を死滅させるため、腫瘍細胞増殖を予防するため、腫瘍の成長を予防するため、患者から腫瘍を排除するため、腫瘍の再燃を予防するため、腫瘍転移を予防するため、患者において寛解を誘導するため、又はそれらの任意の組み合わせに使用され得る。或る特定の実施形態では、上記方法は完全奏功を誘導する。他の実施形態では、上記方法は部分奏功を誘導する。幾つかの実施形態では、治療は成人患者及び/又は小児患者を対象とする。
【0256】
幾つかの実施形態では、細胞産物は腫瘍学、免疫抑制、自己免疫制御、ワクチンにおい
て又は予防的手段として使用され得る。細胞は市販製品、臨床試験、前臨床研究、基礎研究として使用され得る。細胞はヒト医学及び/又は獣医学のために使用され得る。幾つかの実施形態では、細胞産物は検出試薬/創薬研究(discovery research)として使用され得る。
【0257】
治療され得る癌は、血管新生化されていない、まだ実質的に血管新生化されていない、又は血管新生化された腫瘍を含む。また、癌は固形腫瘍又は非固形腫瘍を含み得る。幾つかの実施形態では、癌は血液の癌である。幾つかの実施形態では、癌は白血球の癌である。他の実施形態では、癌は形質細胞の癌である。幾つかの実施形態では、癌は白血病、リンパ腫又は骨髄腫である。或る特定の実施形態では、上記癌は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)(非T細胞ALLを含む)、急性リンパ性白血病(ALL)、及び血球貪食リンパ組織球増多症(HLH))、B細胞前リンパ球性白血病、B細胞急性リンパ性白血病(「BALL」)、芽球性形質細胞様樹状細胞新生物、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄白血病(CML)、慢性若しくは急性の肉芽腫性疾患、慢性若しくは急性の白血病、大細胞型B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、濾胞性リンパ腫(FL)、毛様細胞性白血病、血球貪食症候群(マクロファージ活性化症候群(MAS))、ホジキン病、大細胞肉芽腫(large cell granuloma)、白血球接着不全症、悪性リンパ増殖性状態、MALTリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)、多発性骨髄腫、脊髄形成異常及び骨髄異形成症候群(MDS)、限定されないが急性骨髄白血病(AML)を含む骨髄疾患、非ホジキンリンパ腫(NHL)、形質細胞増殖性障害(例えば、無症候性骨髄腫(くすぶり型多発性骨髄腫又は無痛性骨髄腫))、形質芽球性リンパ腫、形質細胞様樹状細胞新生物、形質細胞腫(例えば、形質細胞異常増殖症;孤立性骨髄腫;孤立性形質細胞腫;髄外性形質細胞腫;及び多発性形質細胞腫)、POEMS症候群(Crow-Fukase症候群、高月病、及びPEP症候群)、縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫(PMBC)、小細胞若しくは大細胞濾胞性リンパ腫、脾辺縁帯リンパ腫(SMZL)、全身性アミロイド軽鎖アミロイドーシス、T細胞急性リンパ性白血病(「TALL」)、T細胞リンパ腫、形質転換後濾胞性リンパ腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、又はそれらの組み合わせである。
【0258】
幾つかの実施形態では、癌は骨髄腫である。特定の一実施形態では、癌は多発性骨髄腫である。幾つかの実施形態では、癌は白血病である。幾つかの実施形態では、癌は急性骨髄白血病である。
【0259】
幾つかの実施形態では、癌は再発性又は治療抵抗性大細胞型B細胞リンパ腫、特定不能のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫又は濾胞性リンパ腫に起因するDLBCLである。
【0260】
幾つかの実施形態では、上記方法は化学療法剤を投与することを更に含む。或る特定の実施形態では、選択される化学療法剤は、リンパ枯渇(lymphodepleting)(プレコンデ
ィショニング)化学療法剤である。有益なプレコンディショニング治療のレジメンは、相関的な有益なバイオマーカーと共に、米国仮特許出願第62/262,143号及び同第62/167,750号に記載され、それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。これらは、例えば、指定される有益な用量のシクロホスファミド(200mg/m2/日~2000mg/m2/日)及び指定される用量のフルダラビン(20mg/m2/日~900mg/m2/日)を患者に投与することを含むT細胞療法を必要とする患者をコンディショニングする方法を記載する。或る一つのかかる投薬レジメンは、治療的有効量の操作されたT細胞の患者への投与の3日前に、約500mg/m2/日のシクロホスファミド及び約60mg/m2/日のフルダラビンを毎日患者に投与することを含む
、患者を治療することを含む。
【0261】
他の実施形態では、抗原結合分子、形質導入された(又は操作された)細胞(CAR又はTCR等)、及び化学療法剤は、各々、被験体における疾患又は状態を治療するのに有効な量で投与される。
【0262】
或る特定の実施形態では、本明細書に開示されるCAR又はTCRを発現する免疫エフェクター細胞を含む組成物は、任意の数の化学療法剤と併せて投与され得る。化学療法剤の例として、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(商標))等のアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン等のアルキルスルホン酸塩;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレド
ーパ(uredopa)等のアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレ
ンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)、
及びトリメチロロメラミン(trimethylolomelamine)のレジメ(resume)を含む、エチレンイミン及びメチラメラミン(methylamelamines);クロラムブチル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビチン(novembichin)
、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロホスフ
ァミド(trofosfamide)、ウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン及びラニムスチン(ranimustine)等のニトロソウレア;アクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイ
シン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイ
シン、カリチアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジオリピ
ン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin
)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイト
マイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、
ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン(zorubicin)等の抗生物質;メトトレキセー
ト及び5-フルオロウラシル(5-FU)等の代謝拮抗薬;デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート等の葉酸類縁体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン等のプリン類縁体;アンシタ
ビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FU等のピリミジン類縁体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン等のアンドロゲン;アミノグルテチミド、マイトテイン、トリロスタン等の抗副腎剤;フロリン酸(frolinic acid)等の葉酸補液;アセグラトン;アルドホ
スファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビスアントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine
);デメコルチン;ジアジコン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキウレア;レンティナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(商標);ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2、2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシッド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(商標)、Bristol-Myers Squibb)及びドセタキセル(TAXOTERE(商
標)、Rhone-Poulenc Rorer);クロラムブチル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;シスプラチン及びカルボプラチン等の白金類縁体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオミチン(DMFO);Targretin(商標)(ベキサロテン)、Panretin(商標)(アリトレチノイン)等のレチノイン酸誘導体;ONTAK(商標)(デニロイキンジフチトクス);エスペラミシン;カペシタビン;並びに上記のいずれかの薬学的に許容可能な塩、酸又は誘導体が挙げられる。幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるCAR及び/又はTCRを発現する免疫エフェクター細胞を含む組成物は、腫瘍に対するホルモンの作用を調節又は阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリ
ストン、及びトレミフェン(フェアストン)を含む抗エストロゲン薬;並びにフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド及びゴセレリン等の抗アンドロゲン薬;並びに上記のいずれかの薬学的に許容可能な塩、酸又は誘導体と併せて投与され得る。また適切な場合には、限定されないが、CHOP、すなわち、シクロホスファミド(Cytoxan(商標))、ドキソルビシン(ヒドロキシドキソルビシン)、ビンクリスチン(Oncovin(商標))及びプレドニゾンを含む化学療法剤の組み合わせが投与される。
【0263】
幾つかの実施形態では、化学療法剤は、操作された細胞又は核酸の投与と同時に又は投与の1週以内に投与される。他の実施形態では、化学療法剤は、操作された細胞又は核酸の投与の後、1週間~4週間、すなわち1週間~1ヶ月、1週間~2ヶ月、1週間~3ヶ月、1週間~6ヶ月、1週間~9ヶ月、又は1週間~12ヶ月投与される。幾つかの実施形態では、化学療法剤は、細胞又は核酸を投与する少なくとも1ヶ月前に投与される。幾つかの実施形態では、上記方法は、2以上の化学療法剤を投与することを更に含む。
【0264】
様々な追加の治療剤が、本明細書に記載される組成物と併せて使用され得る。例えば、有用な可能性がある追加の治療剤として、ニボルマブ(OPDIVO(商標))、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA(商標))、ペンブロリズマブ、ピディリズマブ(CureTech)、及びアテゾリズマブ(Roche)等のPD-1阻害剤が挙げられる。他の潜在的な有
用な追加の治療剤には、ウレルマブ及びウトミルマブ等の4-1BB(CD137/TNFRSF9とも呼ばれ得る)阻害剤が含まれる。
【0265】
本発明との併用に適している追加の治療剤として、限定されないが、イブルチニブ(IMBRUVICA(商標))、オファツムマブ(ARZERRA(商標))、リツキシマブ(RITUXAN(商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(商標))、トラスツズマブ(HERCEPTIN(商標))、トラスツズマブエムタンシン(KADCYLA(商標))、イマチニブ(GLEEVEC(商標))、セツキシマブ(ERBITUX(商標))、パニツムマブ(VECTIBIX(商標))、カツマキソマブ、イブリツモマブ、オファツムマブ、トシツモマブ、ブレンツキシマブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ、アキシチニブ、マシチニブ、パゾパニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、トセラニブ、レスタウルチニブ、アキシチニブ、セジラニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、セマクサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、チボザニブ、トセラニブ、バンデタニブ、エントレクチニブ、カボザンチニブ、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ポナチニブ、ラドチニブ(radotinib)、ボスチニブ、レスタウルチニブ、ルキソリ
チニブ、パクリチニブ、コビメチニブ、セルメチニブ、トラメチニブ、ビニメチニブ、アレクチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ、アフリベルセプト、アジポチド、デニロイキン
ジフチトクス、エベロリムス及びテムシロリムス等のmTOR阻害剤、ソニデギブ及びビスモデギブ等のヘッジホッグ阻害剤、CDK阻害剤(パルボシクリブ)等のCDK阻害剤が挙げられる。
【0266】
追加の実施形態では、CAR及び/又はTCRを含む免疫を備える組成物は、抗炎症剤と共に投与される。抗炎症剤又は抗炎症薬として、限定されないが、ステロイド及びグルココルチコイド(ベタメタゾン、ブデソニド、デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、及びトリアムシノロンを含む)、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、メトトレキセート、スルファサラジン、レフルノミド、抗TNF薬、シクロホスファミド、及びミコフェノール酸(mycophenolate)を含む非ステロイド系抗炎症薬(NSAID
)が挙げられ得る。例示的なNSAIDとして、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、Cox-2阻害剤、及びシアリレート(sialylates)が挙げられる。例示的な鎮痛剤として、アセトアミノフェン、オキシコドン、及び塩酸プロポキシフェンのトラマドールが挙げられる。例示的なグルココルチコイドとして、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、又はプレドニゾンが挙げられる。例示的な生物学的応答修飾物質として、細胞表面マーカー(例えばCD4、CD5等)に対する分子、サイトカイン阻害剤(例えば、TNFアンタゴニスト(例えば、エタネルセプト(ENBREL(商標))、アダリムマブ(HUMIRA(商標))及びインフリキシマブ(REMICADE(商標)))、ケモカイン阻害剤、及び接着分子阻害剤が挙げられる。生物学的応答修飾物質は、分子の組み換え形態と並んで、モノクローナル抗体も含む。例示的なDMARDとして、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキセート、ペニシラミン、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、金(経口(オーラノフィン)及び筋肉内)、及びミノサイクリンが挙げられる。
【0267】
或る特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、サイトカインと併せて投与される。本明細書で使用される「サイトカイン」は、細胞間メディエーターとして別の細胞に対して作用する、1つの細胞集団によって放出されるタンパク質を指すことを意味する。サイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン及び従来のポリペプチドホルモンである。サイトカインの中でも、ヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモン等の成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)及び黄体形成ホルモン(LH)等の糖タンパク質ホルモン;肝臓増殖因子(HGF);線維芽細胞成長因子(FGF);プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;ミューラー阻害物質;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮細胞増殖因子;インテグリン;トロンボポイエチン(TPO);NGF-β等の神経成長因子(NGF);血小板増殖因子;TGF-α及びTGF-β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様増殖因子I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン-α、β及びγ等のインターフェロン;マクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球マクロファージ-CSF(GM-CSF);及び顆粒球-CSF(G-CSF)等のコロニー刺激因子(CSF);IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12;IL-15等のインターロイキン(IL)、TNF-α又はTNF-β等の腫瘍壊死因子;並びにLIF及びkitリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が挙げられる。本明細書で使用されるサイトカインの用語は、天然起源の又は組み換え細胞培養物由来のタンパク質、及び本来の配列のサイトカインの生物学的に活性な等価物を含む。
【0268】
本発明の別の態様は、有効量の本明細書に開示される改変されたT細胞を被験体に投与
することを含む、腫瘍に対する免疫を誘導する方法に関する。本発明の別の態様は、被験体において免疫応答を誘導する方法であって、有効量の本出願の操作された免疫細胞を投与することを含む、方法に関する。幾つかの実施形態では、免疫応答はT細胞媒介免疫応答である。幾つかの実施形態では、T細胞媒介免疫応答は、1つ以上の標的細胞に対するものである。幾つかの実施形態では、操作された免疫細胞はCAR又はTCRを含み、ここでCAR又はTCRは、本開示に記載されるTHDを含む。幾つかの実施形態では、標的細胞は腫瘍細胞である。
【0269】
本発明の別の態様は、悪性腫瘍を治療又は予防する方法であって、有効量の少なくとも1つの免疫細胞を、それを必要とする被験体に投与することを含み、該免疫細胞は少なくとも1つのCAR又はTCRを含む、方法に関する。
【0270】
本発明の別の態様は、癌の治療を必要とする被験体において癌を治療する方法であって、上記被験体に、本明細書に開示されるポリヌクレオチド、ベクター、CAR若しくはTCR、細胞、又は組成物を投与することを含む、方法に関する。1つの実施形態では、上記方法は、CAR又はTCRをコードするポリヌクレオチドを投与することを含む。別の実施形態では、上記方法は、CAR又はTCRをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを投与することを含む。別の実施形態では、上記方法は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドによってコードされるCAR又はTCRを投与することを含む。別の実施形態では、上記方法は、CAR又はTCRをコードするポリヌクレオチドを含む細胞、又は該ポリヌクレオチドを含むベクターを投与することを含む。
【0271】
幾つかの実施形態では、T細胞療法において使用するためのドナーT細胞は、(例えば自己T細胞療法のために)患者から得られる。他の実施形態では、T細胞療法においてT細胞へと分化するドナー幹細胞は、患者ではない被験体から得られる。
【0272】
T細胞は、治療的有効量で投与され得る。例えば、T細胞の治療的有効量は、少なくとも約104個の細胞、少なくとも約105個の細胞、少なくとも約106個の細胞、少なくとも約107個の細胞、少なくとも約108個の細胞、少なくとも約109個の細胞、又は少なくとも約1010個の細胞であり得る。別の実施形態では、T細胞の治療的有効量は、約104個の細胞、約105個の細胞、約106個の細胞、約107個の細胞、又は約108個の細胞である。特定の一実施形態では、CAR T細胞又はTCR T細胞の治療的有効量は、約2×106細胞/kg、約3×106細胞/kg、約4×106細胞/kg、約5×106細胞/kg、約6×106細胞/kg、約7×106細胞/kg、約8×106細胞/kg、約9×106細胞/kg、約1×107細胞/kg、約2×107細胞/kg、約3×107細胞/kg、約4×107細胞/kg、約5×107細胞/kg、約6×107細胞/kg、約7×107細胞/kg、約8×107細胞/kg、又は約9×107細胞/kgである。別の実施形態では、CAR T細胞又はTCR T細胞の治療的有効量は、約1×105細胞/kg、約2×105細胞/kg、約3×105細胞/kg、約4×105細胞/kg、約5×105細胞/kg、約6×105細胞/kg、約7×105細胞/kg、約8×105細胞/kg、又は約9×105細胞/kgである。
【0273】
免疫寛容
本発明の方法は、被験体における免疫寛容疾患を治療するために使用することができる。或る特定の実施形態では、上記方法は完全奏功を誘導する。他の実施形態では、上記方法は部分奏功を誘導する。
【0274】
中枢性寛容又は末梢性寛容の欠陥は、自己免疫疾患を引き起こして、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、1型糖尿病、自己免疫性多内分泌腺症候群1型(APS-1)及
び免疫調節異常、多腺内分泌障害、腸疾患、X連鎖症候群(IPEX)等の症候群を引き起こす場合があり、潜在的に喘息、アレルギー及び炎症性腸疾患の一因となる。免疫寛容は、移植拒絶反応、例えば幹細胞移植、腎臓移植、肝臓移植等の移植拒絶において問題となる場合もある。
【0275】
内因性TCR又はHLAの発現を排除するように操作されたHSC細胞、ES細胞又はiPS細胞は、治療標的に応じて特定のCAR、TCR又は他の抗原認識分子を発現するように更に操作され得る。
【0276】
本明細書で言及される全ての出版物、特許、及び特許出願は、個々の出版物、特許又は特許出願が各々、具体的かつ個別に引用することにより本明細書の一部をなすことが指示されるのと同じ程度に、引用することにより本明細書の一部をなす。しかしながら、本明細書における参照文献の引用は、かかる参照文献が本発明に対する先行技術の認識として解釈されるべきではない。引用することにより本明細書の一部をなす参照文献に提供される定義又は用語のいずれかが本明細書に提供される用語及び考察とは異なる場合は、本発明の用語及び定義を優先する。
【0277】
本発明は、以下の実施例によって更に説明されるが、更なる限定として解釈されるべきではない。本出願全体を通して引用される全ての参照文献の内容は、引用することにより明らかに本明細書の一部をなす。
【実施例0278】
実施例1:改変された多能性幹細胞の作製
この実施例は、iPSCにリプログラムするためのPBMC及び純化T細胞の特性評価、並びに内因性TCR又はHLAの発現を排除するように操作された改変された多能性幹細胞の調製を説明する。
【0279】
Ficollを使用して3つのアフェレーシス装置からPBMCを分離し、T細胞をMiltenyi社のPan T Cell Isolationキットを使用して同じアフェレーシス装置からネガティブセレクション(非接触選択(touchless selected))した。アフェレーシス装置のドナー(被験者A、被験者B及び被験者C)は女性で25歳未満の、非喫煙者、非飲酒者であり、血液又は他の組織の遺伝病の病歴はなかった。分離されたPBMC及び純化T細胞を、凍結保存前にCD56、CD14、CD19又はTCRα/βに対する抗体を使用してフローサイトメトリーによって分析した。T細胞の純度はTCRα/βの存在、並びにCD14、CD19及びCD56の不存在によって特徴付けられた。これらの結果は、該方法によりT細胞が単離及び純化されたことを示した(データは示していない)。
【0280】
PBMC及びT細胞を核型分析によって更に分析することで、リプログラミングの前に染色体異常(KaryoStatアッセイ、Thermofisher社)を評価した。3人のドナーからの全てのPBMC及びT細胞は正常な核型(すなわち、正常な染色体配列)を示した(データは示していない)。
【0281】
これらの細胞を、改変されたセンダイウイルス(CytoTune 2.0)を介して送達された山中因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を使用して人工多能性幹細胞(iPSC)にリプログラムした。10個のiPSCクローンを分離し、クローンiPSC系統へと増殖させ、それぞれのインプット細胞集団のためにバンク保存した。全てのクローンは、免疫蛍光染色によってTRA-1-60について陽性に染色された(データは示していない)。
【0282】
多能性スコアカードアッセイ(Pluripotency Scorecard Assay)によって、各iPSCクローン系統の多能性を評価した。多能性のパネル及び3つの一次胚葉マーカーの発現レベルを、一連の既知のヒトPSC及びそれらの分化した対応物からの発現レベルと比較した。正の値は、試料におけるマーカーの発現レベルが参照におけるマーカーの発現レベルと同等又はそれより高いことを示す。スコアカード分析における1.5より大きい値はマーカーが上方調節されたことを示す。負の値は、試料におけるマーカーの発現レベルが参照におけるマーカーの発現レベルより低いことを示す。全てのクローン系統は、多能性について陽性を示し、3つの一次胚葉について陰性を示した。PBMC及びT細胞由来のiPSCクローン及び胚様体(EB)のPSCスコアカード分析の代表的な結果を表2に示す。
【0283】
【0284】
リプログラムされた細胞をクローン細胞系統へと増殖させてバンク保存する。該細胞系統の全ゲノムシーケンシングを行うことで、標的とされる遺伝子編集のための遺伝子座、特にαT細胞受容体遺伝子座及びβT細胞受容体遺伝子座の同一性及び配列を確立する。
【0285】
TCRα定常(TRAC)遺伝子座を、Sangamo Therapeutics社によって設計されたジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して編集する。これらのZFNを、Thermo Fisher社
のNeonエレクトロポレーションシステムを使用したエレクトロポレーションによってiPSCに導入する。FMC63 CD19 CARと一緒にCD28共刺激ドメイン及びCD3ζをコードするコンストラクトを、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)を使用して細胞に送達する。該コンストラクトはTRAC遺伝子座を標的とし、内因性のTRACプロモーターを利用してCARの発現を駆動する。
【0286】
TCRβ定常(TRBC)遺伝子座を、Sangamo Therapeutics社によって設計されたジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して編集する。これらのZFNを、Thermo Fisher社
のNeonエレクトロポレーションシステムを使用したエレクトロポレーションによってiPSCに導入する。HPV-16 E7 TCRをコードするコンストラクトを、AAV6を使用して細胞に送達する。TCRをTRBC遺伝子座に挿入して、iPSCからのαβ(TCRαβ)T細胞の発生を駆動する。
【0287】
β2ミクログロブリン(b2m)遺伝子座を、Sangamo Therapeutics社によって設計されたジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して編集する。これらのZFNを、Thermo Fisher社のNeonエレクトロポレーションシステムを使用したエレクトロポレーションに
よってiPSCに導入する。HLA-E単鎖三量体(HLA-E SCT)をコードするコンストラクトを、AAV6を使用して細胞に送達する。b2m遺伝子座を、クラス1a
HLA分子の発現を排除し、これらの細胞のT細胞による認識を妨げるように編集する。HLA-E SCTをb2m遺伝子座に挿入して、ナチュラルキラー(NK)細胞によるこれらの細胞の認識を妨げる。
【0288】
遺伝子編集されたiPSCをマスターセルバンクとし、全ゲノムシーケンシングを行うことで、標的外の切断又は組込みを特定する。マスターセルバンクを核型分析する。後続の研究において、TCRα定常(TRAC)遺伝子座及びβ2ミクログロブリン(b2m)遺伝子座を編集及び改変した。TRAC研究において、FMC63 CD19 CARと一緒にCD28共刺激ドメイン及びCD3ζをコードするコンストラクト(配列番号1)を、ZFNを使用して179i及び/又は202iのヒトiPSCに送達した。得られたヒトiPSCプール集団を培養し、単一クローン作製の前にフローサイトメトリー分析(FACS)によって特性評価した。
【0289】
iPSCプール集団を8日間培養し、ゲノムDNA抽出のために採取した。コントロール(ZFN処理なし)及び編集されたプール(ZFN処理あり)からの標的部位に隣接する250bpの領域をPCRによって増幅し、シーケンシングして、TIDE(分解による挿入/欠失の追跡)(Brinkman et al. 2014 Nucl. Acids Res. 42(22): e168)によって分析した。TIDE分析では、スコア>0は挿入を示し、スコア<0は欠失を示す。3の倍数ではないサイズでの挿入又は欠失はフレームシフトを示し、TRACタンパク質の喪失につながり得る可能性がある。ポリクローナル集団のTIDE分析の結果を表3に示す。
【0290】
【0291】
単一のクローンを14日間培養し、ゲノムDNA抽出のために細胞を採取した。標的アレルを増幅し、ノーザンブロッティング分析によって特性評価した。202i PSC及び179i iPSCの単一クローンの結果は、幾つかの単一クローンでのTRAC遺伝子座へのCD19 CARの挿入を示している(データは示していない)。さらに、単一クローンをデジタルドロップレットPCR(ddPCR)及び標的化されるアレルに特異的なプライマー/プローブセットによって特性評価して、挿入のコピー数を決定した。2コピーのCD19 CARノックイン(CAR-KI-TRAC)アレル及び0コピーの野生型アレルを有する単一クローンを、更なる研究に選択した。b2m研究において、増
強緑色蛍光タンパク質(EGFP)を、標的化された切断部位に隣接する約800bpの相同アームの間に挿入した。得られたiPSC 202iプール集団を培養し、TIDE分析(表4)並びにβ2ミクログロブリン及びGFP発現のフローサイトメトリー分析によって特性評価した(データは示していない)。
【0292】
【0293】
実施例2:改変された多能性幹細胞からのT細胞分化
iPSCを誘導して、中胚葉前駆細胞(hEMP)に分化させる。hEMPを、hDLL4を発現するように形質導入されたMS5細胞と複合化させる。1×104個のhEMPを5×105個のMS5と混ぜ合わせる。細胞を遠心分離し、上清を除去し、細胞を液滴として0.4μmのPTFE膜に付着させる。
【0294】
ATOを6週間成長させる。ATOを膜から採取し、Miltenyi社のgentleMACS Cチューブ中に置き、Miltenyi社のgentleMACSディソシエーターでプログラムEB01を使用して実行する。70μmストレーナーを通して細胞懸濁液を濾過する。細胞をソーティングして、以下の集団:CD45+CD56(-)CD3+E7TCRαβ+CD19CAR+を純化する。
【0295】
細胞を計数し、2×105個の細胞を、300IU/mlのIL2及び6×105個のCD3/CD28刺激Dynabeads(Thermo Fisher社)を有する200μlのO
pTimiser培地中で成長させる。合計2週間にわたり培地を2日毎に交換して、細胞を増殖させる。1×106細胞/mlの細胞密度を維持して、細胞をより大きなウェルに2日毎に再プレーティングする。
【0296】
この実施例に記載される手順を使用して細胞を誘導した。iPSC細胞のT細胞への分化を評価するために、FACSを使用して、改変されていない及び改変された(CAR-KI-TRAC)iPSCを3週目、4週目及び5週目に分析し、CD56、CD45、CD5、CD7、CD4、CD8α、CD8β、TCRαβ、CD3又はCD19CAR等の表面マーカーで染色した。5週目の結果を
図16A~
図16Cに示す。
【0297】
実施例3:T細胞分化産物を制御する方法
転写因子等の或る特定の重要なマスター細胞の運命調節因子をノックアウト又は改変して、不所望な細胞副生成物の生成が減少又は排除されるように、iPSCを操作する(
図3)。
【0298】
標的遺伝子を、表1に示される細胞系譜の発生が排除されるようにノックアウトによって編集する。
【0299】
【0300】
実施例4:操作されたpTa陽性幹細胞の作製
この実施例は操作されたpTa陽性幹細胞の調製を説明する。
【0301】
胚性幹細胞(ES)を、ウイルス媒介送達によって送達された外因性pTaを発現するように改変する。コンストラクトは生得の遺伝子調節エレメント、構成的な生理学的発現レベルを利用して内因性遺伝子座にノックインされる又は規定のプロモーターを含む。規定のプロモーターは、構成的に活性であり得る又は細胞発生及び/又は細胞周期等の別個の段階に限定され得る。pTa-TCRβペアリングが富化されたpTaを発現するES細胞を特定し、当該技術分野において知られる細胞分離技術によって分離する。
【0302】
実施例5:操作されたTCRαノックアウト幹細胞の作製
この実施例は操作されたTCRαノックアウト幹細胞の調製を説明する。
【0303】
操作されたヌクレアーゼ(例えば、CRISPR)を使用して内因性TCRαをノックアウトするように、人工多能性幹細胞を操作する。pTa-TCRβペアリングが富化された表面発現されたTCRαを欠いたiPS細胞を特定し、当該技術分野において知られる細胞分離技術によって分離する。179i細胞及び202i細胞を、実施例6に記載される手順を使用して操作又は編集した。TIDE分析を使用して、プール集団及び後続の単一クローンを特性評価した(表5)。
【0304】
【0305】
実施例6:pTa改変されたES細胞からのT細胞分化
この実施例はES細胞から分化したT細胞の調製を説明する。
【0306】
実施例1に記載される分離されたpTa改変された細胞を刺激して、T細胞への分化を促進する。分離されたpTa改変された細胞を得て、人工胸腺オルガノイドにおいてT細胞分化を誘導した。1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することによって、T細胞系譜を選択する。本実施例では、対象のT細胞系譜は、細胞傷害性CD8+T細胞であり、表面発現されたFLT3、KIT、CD25、CD44、IL-7Rα、CD3ε、プレTCR、CD8及び/又はCD4の相対レベルによって特定される。