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特開2023-109944新規化合物、及びカスパーゼ-2の選択的阻害剤としての使用
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  • 特開-新規化合物、及びカスパーゼ-2の選択的阻害剤としての使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109944
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】新規化合物、及びカスパーゼ-2の選択的阻害剤としての使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/083 20060101AFI20230801BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230801BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C07K5/083
A61K38/06
A61K38/07
A61K38/08
A61P1/16
A61P3/04
A61P9/00
A61P9/10
A61P13/12
A61P17/00
A61P19/02
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/00
A61P27/02
A61P27/06
A61P29/00
A61P31/04
A61P31/14
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085689
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2020518617の分割
【原出願日】2018-09-26
(31)【優先権主張番号】17306270.4
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジャコト エチエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ボスク エロディ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カスパーゼ-2活性が関与する疾患および/または傷害の予防および/または治療に用いるための、より選択的で効率的なカスパーゼ-2阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明は、式(I)で表わされる化合物に関する。(式中、P、P、P及びPはアミノ酸残基またはアミノ酸様構造である)また、本発明は、カスパーゼ-2阻害剤としての式(I)の化合物の使用及びその治療的使用に関する。また、本発明は、カスパーゼ-2活性を選択的に検出するための活性依存型プローブとしての式(I)の化合物の使用に関する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表わされる化合物又はその塩の1つであり、
式(I)で表わされる化合物は、全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体である化合物。
【化1】
(式中、Z及びZは同一又は異なるものであり、水素原子、(C-C)アルキル基及び(C-C)アルコキシ基から選択され;
-Pは下記アミノ酸残基又はアミノ酸様構造から選択される)
【化2】
及び
-P及びPは同一又は異なるものであり、下記アミノ酸様構造から選択され;
【化3】
及び
(式中、Z及びZは同一又は異なるものであり、水素原子及び(C-C)アルキル基から選択される)
-Pは下記アミノ酸残基から選択され;
【化4】
及び
-Rは以下の式から選択され;
【化5】
及び
-Rは以下の式から選択され:
【化6】
及び
(式中、
・mは0、1又は2であり;
・pは1、2、3又は4であり;
・Zはハロゲン原子であり;
・qは0又は1であり;
・Zは(C-C)アルキル及びフェニル基から選択され、前記フェニル基はアミノ基で置換されていてもよく;
・Z、Z及びZ11は同一又は異なるものであり、水素原子、(C-C)アルキル、テトラヒドロキノリニル、及び-(CH)i-アリール基から選択され、iは0、1又は2であり、前記アリール基は1、2、3若しくは4個のハロゲン原子又は1個の(C-C)アルキル基で置換されていてもよく、
・Z及びZ10は同一又は異なるものであり、ハロゲン原子及び(C-C)アルキル基から選択される)
【請求項2】
前記化合物は、式(II)で表わされる化合物又はその塩の1つであり、
式(II)で表わされる前記化合物は、全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体である、請求項1に記載の化合物。
【化7】
(式中、
-R及びRは請求項1に記載の前記式(I)で定義された通りであり;
-Z及びZは請求項1に記載の前記式(I)で定義された通りであり;
-Rは、-CH、-CH(CH、-CHCH(CH、-CH(CH)CHCH、及び4-ヒドロキシフェニル基から選択され;
-A及びBは同一又は異なるものであり、窒素原子及び-CH-基から選択され、
-R及びRは同一又は異なるものであり、水素原子及び(C-C)アルキル基から選択され;
-Rは、-CH、-CH(CH、-CHCH(CH、-CH(CH)CHCH及び-(CHCOH基から選択される)
【請求項3】
前記化合物は、前記式(II)で表わされる化合物のA及びBの少なくとも1つが-CH基であり、好ましくはA及びBが-CH基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物は、式(III)で表わされる化合物又はその塩の1つであり、
式(III)で表わされる前記化合物は全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【化8】
(式中、R及びRは請求項1に記載の前記式(I)で定義された通りである)
【請求項5】
前記Rが以下の式で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【化9】
【請求項6】
前記Rが以下の式から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【化10】
(式中、Z’はフッ素原子であり、jは0、1又は2であり、前記Rは好ましくは以下の式で表される)
【化11】
【請求項7】
少なくとも1つ、好ましくは少なくとも3つの(S)立体配置の不斉炭素原子を有し、更に好ましくは全ての不斉炭素原子が(S)立体配置である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物が以下の式から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物。
【化12】
【請求項9】
前記化合物は、選択的カスパーゼ-2阻害剤として使用される、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
前記Rが、以下の式から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含有する医薬組成物。
【化13】
(式中、m、p、q、Z、Z、Z、Z、Z、Z10及びZ11は請求項1に記載の前記式(I)で定義された通りである)
【請求項11】
前記Rが、以下の式から選択される、医薬として使用される、請求項1~8のいずれか1項の記載の化合物。
【化14】
(式中、m、p、q、Z、Z、Z、Z、Z、Z10及びZ11は請求項1に記載の式(1)で定義された通りである)
【請求項12】
前記Rが、以下の式から選択される、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療に使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物。
【化15】
(式中、m、p、q、Z、Z、Z、Z、Z、Z10及びZ11は請求項1に記載の式(1)で定義された通りである)
【請求項13】
細胞死を伴う病態、特にアルツハイマー病又はタウオパチー、ハンチントン病及びパーキンソン病等の慢性退行性疾患;新生児脳障害、特に新生児脳虚血;外傷性脳障害;腎虚血;低酸素性(H-I)虚血;脳卒中様状況の脳障害;心虚血;心筋梗塞;筋萎縮性側索硬化症(ALS);網膜障害;鈍的眼障害、虚血性視神経症及び緑内障等の眼疾患;皮膚損傷;糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心虚血、痛風、偽痛風、関節のゆるみ、アテローム性動脈硬化症、アルミニウム塩に誘発される症候群、非動脈性前部虚血性視神経症(NAION)、緑内障及び代謝疾患等の無菌性炎症性疾患;細菌感染、特に膜孔形成毒素を産生する細菌による感染、インフルエンザウイルス感染及び一本鎖(ss)RNA、例えばマラバウイルス又は水疱性口内炎ウイルス(VSV)等のラブドウイルス感染のような非無菌性炎症性疾患;ブルセラ、黄色ブドウ球菌及びサルモネラ等の病原菌に起因する疾患;脂質異常症;肥満症;メタボリックシンドローム;及び非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療に使用するための、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
アルツハイマー病の予防及び/又は治療に使用するための、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
神経細胞を、Aβ誘発性機能不全、又はAβが誘発する好ましくない作用、特にAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、請求項12に記載の化合物。
【請求項16】
前記Rが、以下の式から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の、カスパーゼ-2活性を選択的に検出するための活性依存型プローブとしての使用。
【化16】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カスパーゼ-2の選択的阻害剤として有用な新規化合物に関する。また、本発明は、前記化合物の治療的使用、及びカスパーゼ-2に対する活性依存型プローブ(ABP)としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カスパーゼは、ペプチド基質の開裂の開始時にシステイン残基を使用する細胞内エンドプロテアーゼのファミリーである。カスパーゼは、炎症の調節における重要な意味を有するとともに、アポトーシスによってプログラムされた細胞死の制御で重要な役割を有することが広く知られている。
【0003】
カスパーゼは、2つの主要な群:炎症過程の調整に関与するもの(-1、-4、-5、-11、-12)と、アポトーシスの開始及び実行において中心となるものに分類されている。アポトーシスカスパーゼには2つの群、すなわち長いN-末端プロドメインを有する「イニシエータ」(カスパーゼ-2、-8、-9、-10)と、アポトーシスの「エグゼクター」である、短いプロドメイン(20~30残基)を有するもの(カスパーゼ-3、-6、-7)がある。炎症及びアポトーシスの開始に関与するカスパーゼは、「細胞死エフェクタードメイン」(DED)及び「カスパーゼ誘引ドメイン」(CARD)のようなアポトーシスシグナルの伝達に関与する構造単位を有している。これらのドメインの各々により、他のタンパク質パートナーとの同型相互作用が可能となる。
【0004】
カスパーゼの酵素特性は、システインがペプチド結合の切断開始のための求核剤として作用する触媒性二分子(システイン、ヒスチジン)の存在に影響される。カスパーゼの活性部位、ペプチド配列QACXG(Xは、アルギニン(R)、グルタミン(Q)又はグリシン(G)である)中に含まれる触媒性システインと、アスパラギン酸残基後の基質切断の特異性を付与し、セリンプロテアーゼグランザイムBを除いて哺乳類プロテアーゼの中では独特である塩基性サブサイト(S1)とは高度に保存されている。一般に、カスパーゼは、酵素のサブサイトS1-S4によってそれぞれ認識される、切断可能な結合のN-末端のテトラペプチドモチーフP1-P4を認識する。下流に位置するアスパラギン酸(P’1及びP’2)も、カスパーゼの認識及び特異性に関与している。
【0005】
カスパーゼは、優先的に認識する基質ペプチド配列に基づいて3つのグループに分類される。グループIカスパーゼ(-1、-4及び-5)はP4中の疎水性残基を優先的に認識する。グループIIの酵素(-2、-3、-7)は、この位置でアスパラギン酸を非常に優先的に認識するが、グループIII(-6、-8、-9、-10)は低分子量の脂肪族鎖P4を優先的に認識する。グループIIでは、カスパーゼ-2は独特の認識様式を有している。実際、その触媒活性を発揮するためには、P5部位(好ましくはロイシン、イソロイシン、バリンまたはアラニン)の残基の認識が必要である。また、カスパーゼ-3及び-7は必須でない方法でP5残基を認識する。
【0006】
最初にNedd-2と命名されたマウスの「神経前駆細胞発現発生的ダウンレギュレート2」、ヒトのIch-1、ICEおよびCED3相同体、遺伝子CASP2(染色体7q34-q35)によりコード化されるカスパーゼ-2は、この酵素ファミリーの中でも最も保存されたメンバーである。その活性は、ヒトの神経発達中に細かく調節されている。2つのカスパーゼ-2アイソフォーム、すなわちアポトーシス促進性のもの(2L)及び抗アポトーシス性のもの(2S)が存在する。アイソフォーム2Lはほとんどの組織において優勢な形態であるが、アイソフォーム2Sは、脳、骨格筋及び心臓において同様のレベルで発現される。
【0007】
カスパーゼ-2は、他のカスパーゼをほとんど分解しないが、ミトコンドリア外膜透過を開始することができ、熱ショック、DNA損傷、ミトコンドリア酸化ストレス、及び細胞骨格破壊を含む多様なストレス誘導シグナル伝達経路を調節するイニシエータカスパーゼとして作用する。
【0008】
アポトーシス以外に、カスパーゼ-2は酸化的ストレスの調節に関与している。例えば、高齢のCasp-2-/-マウスは、スーパーオキシドジスムターゼ及びグルタチオンペルオキシダーゼ活性の低下を示す。ある特定の環境においては、カスパーゼ-2は腫瘍抑制因子として作用し得る。実際、(Eμ-Myc遺伝子導入マウスモデルにおけるような)発癌性ストレスの下で、カスパーゼ-2欠損は腫瘍形成を増強する。ある種のデータはまた、カスパーゼ2がオートファジーを阻害する可能性があることを示唆している(Tiwari Mら,J Biol Chem 2011;286:8493-8506;Tiwari Mら.Autophagy 2014;10:1054-070)。
【0009】
カスパーゼ-2の遺伝的阻害は、低酸素虚血又は興奮毒性曝露にさらされた新生仔マウスにおいて神経保護的であることがわかった。これは、周産期脳傷害の病態生理にカスパーゼ2仲介細胞死が関与する可能性があることを示唆している(Carlssonら、Annals of Neurology 2011,70(5):781-9)。更に、カスパーゼ-2の遺伝的阻害により眼の神経が保護されており(Amhed Zら、Cell Death Dis.2011 Jun 16;2:e173)、最近、カスパーゼ-2が鈍的眼損傷後の部位特異的網膜神経節細胞死を媒介することが示されている(Thomas CNら,Invest Ophthalmol Vis Sci.2018 Sep 4;59(11):4453-4462)。
【0010】
アルツハイマー病の細胞モデルにおいて(Carol M.Troyら、The Journal of Neuroscience,February 15,2000,20(4):1386-1392)、カスパーゼ-2は、アミロイドペプチドAβにより誘導される神経細胞死の重要なエフェクターである(Ribe EMら、Biochem J.2012 444(3):591-9)。
【0011】
更に、Pozuetaら(Nat Commun.2013;4:1939)はアミロイド前駆体タンパク質遺伝子導入マウスを使用し、
(i)カスパーゼ-2が、このアルツハイマー動物モデルにおける認知機能低下に必要であることと、
(ii)カスパーゼ-2を欠損している培養海馬ニューロンが、Aβのシナプス毒性効果に対して免疫性があることと、
(iii)カスパーゼ-2が、RhoA/ROCK-IIシグナル伝達経路の活性化における重要なメディエーターであり、樹状突起棘の崩壊につながることを示し、したがって、カスパーゼ-2は、アルツハイマー病におけるシナプス機能不全の重要な要因であることが示唆された。
【0012】
カスパーゼ-2がタウタンパク質を直接切断することもわかったため、Δtau314の生成に関与していると思われ、アルツハイマー病や他のタウオパチーで認められたシナプス機能障害に影響を及ぼしている可能性がある(Zhaoら,Nat.Med. 2016).
【0013】
カスパーゼ-2はハンチントン病の行動障害にも関係していると思われる(Carollら,Mol. Neurodegener.2011 Aug 19;6:59)。
【0014】
また、カスパーゼ-2は、肥満、メタボリックシンドロームおよび非アルコール性脂肪肝疾患を促進すると考えられる。実際、カスパーゼ-2欠損マウスは、このような状態から保護されていることが示されている(Machado MVら、Cell Death Dis.2016 Feb 18;7:e2096)。
【0015】
第一世代のカスパーゼ阻害剤は、可逆的にカスパーゼを阻害するアルデヒドペプチドであった。Ac-DEVD-CHO(カスパーゼ-3及びカスパーゼ-7の優先的阻害剤)及びAc-VDVAD-CHO(カスパーゼ-2、-3及び-7の優先的阻害剤)を含むカスパーゼファミリーのある種のメンバーが優先的に効果を発揮すると考えられる、いくつかの配列が開発された。
【0016】
第二世代のカスパーゼ阻害剤では、アルデヒド基は、フルオロメチルケトン基(fmk)を有するα置換ケトンに置換されている。この種の阻害剤は、活性部位システインとの付加物を形成することによって酵素を不活性化する。Z(ベンジルオキシルカルボニル)-VAD-fmkは、この世代の広域スペクトル阻害剤である。これらの分子は、特に肝臓におけるフルオロアセテート基の放出がアコニターゼの阻害につながるので、生体内では毒性である。したがって、fmk基を有する阻害剤の開発は、その肝毒性のために前臨床段階で断念された。次いで、当該技術分野において、いくつかのカスパーゼ阻害剤が合成されている(Porebaら、Chem Rev.2015 Nov 25;115(22):12546-629)。特に、カスパーゼ-2活性を阻害し得る化合物は、例えばWO 2005/105829及びEP2670774に報告されている。しかし、これらの公知のカスパーゼ-2阻害剤は、カスパーゼ-3に対しても非常に高い活性を有する。したがって、前記化合物は選択的カスパーゼ-2阻害剤としての能力を有し得ない。
【0017】
最近になって、一連の可逆的なカスパーゼ-2阻害剤が報告されている。生体外でヒト組換えカスパーゼで評価した場合、これらの化合物はカスパーゼ-2を優先的に阻害することがわかったが、生体内での使用と適合しない細胞アッセイおよび構造特性において中程度の効果を有していた(Maillardら、Biorganic &Medicinal Chemistry 19(2011)5833-5851)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO2005/105829
【特許文献2】EP2670774
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Tiwari Mら,J Biol Chem 2011;286:8493-8506
【非特許文献2】Tiwari Mら.Autophagy 2014;10:1054-070)。
【非特許文献3】Carlssonら、Annals of Neurology 2011,70(5):781-9)。
【非特許文献4】Amhed Zら、Cell Death Dis.2011 Jun 16;2:e173
【非特許文献5】Thomas CNら,Invest Ophthalmol Vis Sci.2018 Sep 4;59(11):4453-4462
【非特許文献6】Carol M.Troyら、The Journal of Neuroscience,February 15,2000,20(4):1386-1392
【非特許文献7】Ribe EMら、Biochem J.2012 444(3):591-9
【非特許文献8】Pozuetaら,Nat Commun.2013;4:1939
【非特許文献9】Zhaoら,Nat.Med.2016.
【非特許文献10】Carollら,Mol. Neurodegener.2011 Aug 19;6:59
【非特許文献11】Machado MVら、Cell Death Dis.2016 Feb 18;7:e2096
【非特許文献12】Porebaら、Chem Rev.2015 Nov 25;115(22):12546-629
【非特許文献13】Maillardら、Biorganic &Medicinal Chemistry 19(2011)5833-5851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、カスパーゼ-3に対する活性が有意に低下した、強力かつ選択的なカスパーゼ-2阻害剤の必要性が依然として存在している。特に、新生児脳虚血、心臓虚血及びアルツハイマー病等の慢性退行性疾患のようなカスパーゼ-2活性が関与する疾患および/または傷害の予防および/または治療に用いるための、より選択的で効率的なカスパーゼ-2阻害剤を提供することが非常に有利であろう。
【0021】
また、カスパーゼ-2活性を特異的に検出するための活性依存型プローブとして使用するための、より有効かつ選択的なカスパーゼ-2阻害剤を提供することも、非常に有利であろう。
【0022】
本発明の化合物は、これらの必要性を満たすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
したがって、その態様の1つによれば、本発明は、式(I)で表わされる化合物又はその塩の1つであり、
式(I)で表わされる前記化合物は、全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体である化合物に関する。
【0024】
【化1】
(式中、Z及びZは同一又は異なるものであり、水素原子、(C-C)アルキル基及び(C-C)アルコキシ基から選択される)
-Pは下記アミノ酸残基又はアミノ酸様構造から選択され;
【0025】
【化2】
-P及びPは同一又は異なるものであり、下記アミノ酸様構造から選択され;
【0026】
【化3】
(式中、Z及びZは同一又は異なるものであり、水素原子及び(C-C)アルキル基から選択される)
-Pは下記アミノ酸残基から選択され;
【0027】
【化4】
-Rは以下の式から選択され;
【0028】
【化5】
-Rは以下の式から選択され:
【0029】
【化6】
(式中、
・mは0、1又は2であり;
・pは1、2、3又は4であり;
・Zはハロゲン原子であり;
・qは0又は1であり;
・Zは(C-C)アルキル及びフェニル基から選択され、前記フェニル基はアミノ基で置換されていてもよく;
・Z、Z及びZ11は同一又は異なるものであり、水素原子、(C-C)アルキル、テトラヒドロキノリニル、及び-(CH)i-アリール基から選択され、iは0、1又は2であり、前記アリール基は1、2、3若しくは4個のハロゲン原子又は1個の(C-C)アルキル基で置換されていてもよく、
・Z及びZ10は同一又は異なるものであり、ハロゲン原子及び(C-C)アルキル基から選択される)
【0030】
広範な研究の後、本発明者は、前記式(I)の化合物が、以下の実施例に示されるように、カスパーゼ-2活性の選択的かつ効果的な阻害剤として作用することを見出した。
【0031】
実際、本発明の化合物は、カスパーゼ-3を阻害するよりも、より効率的にカスパーゼ-2を阻害する。
【0032】
特に、以下の実施例に示すように、本発明のいくつかの化合物は、カスパーゼ3に対する阻害効果よりも、カスパーゼ-2に対して少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらにより好ましくは少なくとも15倍高い阻害効果を示す。
【0033】
カスパーゼ-2およびカスパーゼ-3に対する本発明の化合物の阻害効果は、ヒト組換え型カスパーゼを用いる動力学的アプローチによって評価することができる。不可逆的阻害剤については、後述する実施例2に示される方法を用いてkinact/K比を測定する。可逆的阻害剤についてはIC50及びkを測定する。
【0034】
さらに、前記阻害剤のいくつかが不可逆的であるという事実は、このタイプの阻害剤が、ターンオーバーとも呼ばれるタンパク質再合成の通常の速度によってのみ制限されるカスパーゼ-2の持続的な抑制において使用し得るので、非常に有利である。
【0035】
本明細書の意味において:
-「カスパーゼ阻害剤」は、前記阻害剤なしで測定された前記活性と比較し、目標とするカスパーゼの活性を低下又は抑制する化合物を意味することを意図する。
-「選択的カスパーゼ-2阻害剤」は、他のカスパーゼ、特にカスパーゼ-3の活性よりもカスパーゼ-2の活性を低下させる化合物を意味することを意図する。
【0036】
したがって、第2の態様によれば、本発明は選択的カスパーゼ-2阻害剤としてのその使用のための本発明の化合物に向けたものである。
【0037】
一実施態様によれば、本発明の化合物のR基は以下の式から選択される。
【0038】
【化7】
(式中、m、p、q、Z、Z、Z、Z、Z、Z10及びZ11は前記で定義した通りである。)
【0039】
前記化合物は、有利には医薬組成物中に導入することができる。前記化合物は医薬として使用することができる。更に具体的には、前記化合物は、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は傷害の予防及び/又は治療において使用することができる。
【0040】
本発明の目的では、「予防」という用語は、所与の現象、すなわち本発明において、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害の発現のリスクを少なくとも部分的に低減することを意味する。部分的な低減とは、リスクが残っているが、本発明を実施する前よりも程度は低いことを意味する。
【0041】
本発明の目的では、「治療」という用語は、所与の現象、すなわち、本発明において、前記所定の現象の減少、最小化、または低減を含む、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害を完全または部分的に治癒することを意味することを意図する。
【0042】
したがって、第3の態様によれば、本発明は、Rが上記定義の少なくとも1種の本発明の化合物と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に向けたものである。
【0043】
第4の態様によれば、本発明は、医薬として使用するための、Rが上記定義の本発明の化合物に向けたものである。
【0044】
第5の態様によれば、本発明は、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療に使用するための、Rが上記定義の本発明の化合物に向けたものである。
【0045】
第6の態様によれば、本発明は、神経細胞を、Aβ誘発性機能不全、又はAβが誘発する好ましくない作用、特にAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、Rが上記定義の本発明の化合物に向けたものである。
【0046】
他の実施態様によれば、本発明の化合物のR基は以下の式から選択される。
【0047】
【化8】
【0048】
前記化合物は、有利にはカスパーゼ-2活性を選択的に検出するための活性依存型プローブとして使用することができる。
【0049】
したがって、第6の態様によれば、本発明は、Rが上記定義の本発明の化合物のカスパーゼ-2活性を選択的に検出するための活性依存型プローブとしての使用に向けたものである。
【0050】
本発明の関連で、以下の略語及び実験式が使用される。
-Boc Tert-ブチルオキシカルボニル
-℃ セ氏温度
-Me メチル
-Bn ベンジル
-AMC 7-アミノ-4-メチルクマリン
-PBS リン酸緩衝食塩水
-Ac アセチル
-RFU 相対蛍光単位
-HEPES 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸
-DTT ジチオスレイトール
-EDTA エチレンジアミン四酢酸
-CHAPS (3-((3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ)-1-プロパンスルホン酸
-DMSO ジメチルスルホキシド
【0051】
前記の略語を使用することによって本発明で表されるすべてのアミノ酸様配列において、左右の配向は、アミノ末端からカルボキシ末端への従来の方向であることにさらに留意されたい。
【0052】
したがって、本発明のペプチド様構造を定義する式において、R-P-又は-P-Rのような配列が示されている場合、以下のことが明らかである:
(i)P5アミノ酸残基又はアミノ酸様残基の
【0053】
【化9】
部がRと結合しており;
アミノ酸様残基の一方がPアミノ酸残基又はアミノ酸様残基と結合しており;
アミノ酸残基の一方がPアミノ酸様残基と結合しており;
アミノ酸残基の一方が、式(I)に表わされるようにRの反対側で
【0054】
【化10】
と結合しており;
(ii)Pアミノ酸残基又はアミノ酸様残基の
【0055】
【化11】
部がPアミノ酸様残基と結合しており;
アミノ酸残基の一方がPアミノ酸残基と結合しており;
アミノ酸残基の一方が、式(I)に表わされるようにPアミノ酸様残基の反対側で
【0056】
【化12】
と結合しており;
アミノ酸残基の一方がRと結合している。
【0057】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明、非限定的な例として与えられる以下の実施例からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】化合物2によるアミロイドベータペプチド[1-42]オリゴマー毒性に対するシナプス保護を示す。Co:コントロール;[Aβ]nβ:10nMのアミロイドベータペプチド[1-42]オリゴマーとインキュベートした神経細胞;Aβ:0.1μM又は1μMの化合物2の鏡像異性体とともにあらかじめ処理し、10nMのアミロイドベータペプチド[1-42]オリゴマーと毒性化した神経細胞。(**p<0.01(クラスカル・ウォリス・ダンの事後検定))
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の化合物
前述したように、本発明の化合物は、式(I)で表わされる化合物又はその塩の1つであり、
式(I)で表わされる前記化合物は、全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体である化合物。
【0060】
【化13】
(式中、Z及びZは同一又は異なるものであり、水素原子、(C-C)アルキル基及び(C-C)アルコキシ基から選択され;
-Pは下記アミノ酸残基又はアミノ酸様構造から選択され;
【0061】
【化14】
及び
-P及びPは同一又は異なるものであり、下記アミノ酸様構造から選択され;
【0062】
【化15】
及び
(式中、Z及びZは同一又は異なるものであり、水素原子及び(C-C)アルキル基から選択される)
-Pは下記アミノ酸残基から選択され;
【0063】
【化16】
及び
-Rは以下の式から選択され;
【0064】
【化17】
及び
-Rは以下の式から選択され:
【0065】
【化18】
及び
(式中、
・mは0、1又は2であり;
・pは1、2、3又は4であり;
・Zはハロゲン原子であり;
・qは0又は1であり;
・Zは(C-C)アルキル及びフェニル基から選択され、前記フェニル基はアミノ基で置換されていてもよく;
・Z、Z及びZ11は同一又は異なるものであり、水素原子、(C-C)アルキル、テトラヒドロキノリニル、及び-(CH-アリール基から選択され、iは0、1又は2であり、前記アリール基は1、2、3若しくは4個のハロゲン原子又は1個の(C-C)アルキル基で置換されていてもよく、
・Z及びZ10は同一又は異なるものであり、ハロゲン原子及び(C-C)アルキル基から選択される)
【0066】
特定の実施態様では、
【0067】
【化19】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子は(S)立体配置であり、P1、P3、P4及びP5のようなアミノ酸の他の不斉アルファ炭素原子は(S)立体配置である。
【0068】
更に特定の実施態様では、
【0069】
【化20】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子は(R)立体配置であり、P1、P3、P4及びP5のようなアミノ酸の他の不斉アルファ炭素原子は(S)立体配置である。
【0070】
したがって、本発明の化合物は、いくつかの不斉炭素原子を含む。よって、本発明の化合物は、鏡像異性体又はジアステレオ異性体の形態で存在し得る。これらの鏡像異性体及びジアステレオ異性体、ならびにラセミ混合物を含むそれらの混合物は、本発明の一部を形成する。
【0071】
また、本発明の化合物は、塩基又は酸付加塩の形態で存在することもできる。これらの塩は、薬学的に許容される酸で調製することができるが、例えば式(I)の化合物を精製又は単離するのに有用な他の酸の塩も本発明の一部を形成する。
【0072】
「薬学的に許容される」という用語は、一般的に安全、非毒性、かつ生物学的にもその他の点でも望ましくないものではない医薬組成物を調製するのに有用なものを意味し、獣医学及びヒトの医薬用途に許容できるものを含む。
【0073】
また、本発明の化合物は、水和物又は溶媒和物の形態、すなわち1又は複数の水分子又は溶媒との会合または組み合わせの形態で存在してもよい。このような水和物及び溶媒和物も本発明の一部を形成する。
【0074】
本発明の関連で、以下の定義が適用される:
-ハロゲン原子:フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子。ハロゲン原子は特にフッ素原子であってもよい。
-C-C:おそらくt~zの炭素原子を含み、t及びzが1~10の値をとり得る炭素系鎖;例えば、C-Cは、おそらく1~3個の炭素原子を含有する炭素系鎖。
-アルキル:特に1~6個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状飽和脂肪族基。言及され得る例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル等が挙げられる。
-アルコキシ:アルキル基が前記に定義した通りであるO-アルキル基。
-アリール:5~10個の炭素原子、特に6~10個の炭素原子を含む単環式又は二環式の芳香族基。アリール基の例としては、フェニル基又はナフチル基が挙げられる。好ましくは、アリール基はフェニルである。
【0075】
本発明の一般式(I)の化合物のうち、化合物のサブグループは、式(II)の化合物であり、上述した式(II)で表される前記化合物は、全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体である化合物によって構成される。
【0076】
【化21】
(式中、
-R及びRは前記式(I)で定義された通りであり;
-Z及びZは前記式(I)で定義された通りであり;
-Rは、-CH、-CH(CH、-CHCH(CH、-CH(CH)CHCH、及び4-ヒドロキシフェニル基から選択され;
-A及びBは同一又は異なるものであり、窒素原子及び-CH-基から選択され、
-R及びRは同一又は異なるものであり、水素原子及び(C-C)アルキル基から選択され;
-Rは、-CH、-CH(CH、-CHCH(CH、-CH(CH)CHCH及び-(CHCOH基から選択される)
【0077】
特定の実施態様では、
【0078】
【化22】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子は(S)立体配置であり、P1、P3、P4及びP5のようなアミノ酸の他の不斉アルファ炭素は(S)立体配置である。
【0079】
更に特定の実施態様では、
【0080】
【化23】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子は(R)立体配置であり、P1、P3、P4及びP5のようなアミノ酸の他の不斉アルファ炭素は(S)立体配置である。
【0081】
好ましくは、式(II)において、A及びBの少なくとも1つは-CH基であり、より好ましくはA及びBは-CH基である。
【0082】
本発明の好ましい様式によれば、本発明の化合物は式(III)又はその塩の一つであり、前記式(III)で表される化合物は、全ての想定可能なラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオマー異性体であってもよい。
【0083】
【化24】
(式中、R及びRは前記式(I)で定義された通りである)
【0084】
他の好ましい実施態様によれば、式(I)、(II)及び/又は(III)において、Rは以下の式で表される。
【0085】
【化25】
【0086】
他の好ましい実施態様によれば、式(I)、(II)及び/又は(III)において、Rは以下の式で表される。
【0087】
【化26】
【0088】
他の好ましい実施態様によれば、式(I)、(II)及び/又は(III)において、Rは以下の式から選択される。
【0089】
【化27】
(式中、Z’はフッ素原子であり、jは0、1又は2であり、好ましくはRは以下の式で表される)
【0090】
【化28】
【0091】
特定の実施態様においては、Rが前述したようにメトキシフェニルであるとき、フェニル環は2、3、4又は5個のハロゲン原子で置換され、好ましくはハロゲンはフッ素又は塩素原子から選択される。
【0092】
更に好ましい実施態様によれば、本発明の化合物は、少なくとも1個、好ましくは少なくとも3個の(S)立体配置の不斉炭素を有する。
【0093】
特定の実施態様では、
【0094】
【化29】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子は(S)立体配置であり、P1、P3、P4及びP5のようなアミノ酸の他の不斉アルファ炭素原子は(S)立体配置である。
【0095】
更に好ましくは、本発明の化合物の全ての不斉炭素原子は(S)立体配置である。
【0096】
更に特定の実施態様では、
【0097】
【化30】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子は(R)立体配置であり、P1、P3、P4及びP5のようなアミノ酸の他の不斉アルファ炭素原子は(S)立体配置である。
【0098】
本発明の一般式(I)の化合物のうち、特に以下の化合物を挙げることができる:
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
したがって、特定の実施態様では、本発明の化合物は、本明細書で前述した化合物1~6から選択される。
【0102】
本発明の化合物の調製
本発明の化合物は、有機合成及びペプチド合成によって調製することができる。ペプチド合成による構造の構築は、当業者の一般的知識に属し、更なる詳細は、Lintonら、J.Med.Chem.2005,48,6779-6782及びChauvierら、Cell Death Dis 2011,2:e203に開示されている。本発明の化合物につながるR、R、P、X、P、P及びPの前駆体は、方法の複数の異なる工程で導入される。
【0103】
前駆体は、市販製品、又は当業者にとって周知のプロトコルによって官能基が付された市販製品のいずれかであってもよい。更なる詳細及び参照は、「Design of Caspase inhibitors as potential clinical agents;CRC press;CRC Enzyme inhibitors series,Edired by Tom O’Brien & Steven D.Linton chapter 7 by BR Ullman.に見ることができる。
【0104】
特に、本発明の実施例1は、本発明の化合物2の調製のプロトコルを例示する。
【0105】
応用
前に明記されており、以下の実施例によって明らかに示されるように、本発明の化合物は選択的カスパーゼ-2阻害剤として有用である。
【0106】
実際、実施例で指摘されるように、カスパーゼ-3及びカスパーゼ-2が全てのカスパーゼの中で最も類似した活性部位を有するにもかかわらず、本発明の化合物は、カスパーゼ-3向けよりもカスパーゼ-2向けの阻害効果が優れていることが示される。結果として、それらは選択的にカスパーゼ-2を阻害するのに効率的である。
【0107】
a)治療分野
前記の観点から、本発明の化合物、特に、R基が
【0108】
【化31】
(式中、m、p、q、Z、Z、Z、Z、Z、Z10及びZ11は前記で定義された通りである)から選択される化合物は治療分野で使用することができる。
【0109】
したがって、その態様の1つによれば、本発明は、医薬、特にカスパーゼ-2を選択的に阻害することが意図される医薬に使用するための、Rが前記で定義された通りである本発明の化合物に関する。
【0110】
言い換えると、本発明は、医薬、特にカスパーゼ-2の活性を選択的に阻害ための医薬の調製のための、Rが前記で定義された通りである本発明の化合物の使用に関する。
【0111】
言い換えると、本発明は、Rが前記で定義された通りである、少なくとも1種の本発明の化合物を含む医薬、特にカスパーゼ-2の活性を選択的に阻害するための医薬に関する。
【0112】
したがって、他の態様によれば、本発明は、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療に使用するための、Rが上述した定義された通りである本発明の化合物に向けたものである。
【0113】
言い換えると、本発明は、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療を意図する医薬の調製のための、Rが上述した定義された通りである本発明の化合物に関する。
【0114】
特に、前記疾患及び/又は障害は、細胞死を伴う病状、特に以下から選択することができる:
-アルツハイマー病又は他のタウオパチー、ハンチントン病及びパーキンソン病等の慢性退行性疾患;
-新生児脳障害、特に新生児脳虚血;
-外傷性脳障害;
-腎虚血;
-低酸素性(H-I)虚血;
-脳卒中様状況の脳障害;
-心虚血;
-心筋梗塞;
-筋萎縮性側索硬化症(ALS);
-網膜障害;
-鈍的眼障害、虚血性視神経症及び緑内障等の眼疾患;
-皮膚損傷;
-糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心虚血、痛風、偽痛風、関節のゆるみ、アテローム性動脈硬化症、アルミニウム塩に誘発される症候群、非動脈性前部虚血性視神経症(NAION)、緑内障及び代謝疾患等の無菌性炎症性疾患;
-細菌感染、特に膜孔形成毒素を産生する細菌による感染、インフルエンザウイルス感染及び一本鎖(ss)RNA、例えばマラバウイルス又は水疱性口内炎ウイルス(VSV)等のラブドウイルス感染のような非無菌性炎症性疾患;
-ブルセラ、黄色ブドウ球菌及びサルモネラ等の病原菌に起因する疾患;
-脂質異常症;
-肥満症;
-メタボリックシンドローム;及び
-非アルコール性脂肪性肝疾患
【0115】
より詳細には、前記疾患及び/又は障害は慢性神経変性疾患から選択される。好ましくは、それらは、アルツハイマー病、他の公知のタウオパチー(原発性年齢関連タウオパチー、慢性外傷性脳障害、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性章、前頭側頭型認知症、第17染色体と関連するパーキンソン病、痴呆コンプレックス疾患、神経節膠腫及び神経節細胞種、髄膜血管腫症、脳炎後パーキンソニズム、亜急性硬化性全脳炎、鉛脳症、結節性硬化症、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症、リポフスチン沈着症等)、ハンチントン病及びパーキンソン病から選択され、特にアルツハイマー病である。
【0116】
他の態様によれば、本発明は、シナプス保護、より具体的には神経変性疾患、さらにより具体的にはアルツハイマー病またはタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、Rが上述した定義されたとおりである本発明の化合物に向けたものである。
【0117】
本発明の一実施態様では、本発明は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、前述の化合物2、化合物3、化合物4、化合物5及び/又は化合物6から選択される化合物に向けたものである。
【0118】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、前記で定義された化合物2に向けたものである。
【0119】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、前記で定義された化合物3に向けたものである。
【0120】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、前記で定義された化合物4に向けたものである。
【0121】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、前記で定義された化合物5に向けたものである。
【0122】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病又は他のタウオパチーの予防及び/又は治療において使用するための、前記で定義された化合物6に向けたものである。
【0123】
特定の実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記化合物に関する。
【0124】
本発明の一実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記で定義された化合物2、化合物3、化合物4、化合物5及び/又は化合物6から選択される化合物に向けたものである。
【0125】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記で定義された化合物2に向けたものである。
【0126】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記で定義された化合物3に向けたものである。
【0127】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記で定義された化合物4に向けたものである。
【0128】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記で定義された化合物5に向けたものである。
【0129】
更なる実施態様では、本発明は、アルツハイマー病の予防及び/又は治療において使用するための前記で定義された化合物6に向けたものである。
【0130】
更に具体的には、実験の項で示すように、Rが前記で定義される本発明の化合物は、神経細胞を、Aβオリゴマー誘発性機能障害又は好ましくない作用から保護するのに有効である。
【0131】
したがって、更なる態様によれば、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発性機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、R2が前記で定義される本発明の化合物に向けたものである。
【0132】
本発明の一実施態様では、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発する機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、前記で定義された、化合物2、化合物3、化合物4、化合物5及び/又は化合物6から選択される化合物に向けたものである。
【0133】
更なる実施態様では、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発する機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、前記で定義された化合物2に向けたものである。
【0134】
更なる実施態様では、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発する機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、前記で定義された化合物3に向けたものである。
【0135】
更なる実施態様では、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発する機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、前記で定義された化合物4に向けたものである。
【0136】
更なる実施態様では、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発する機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、前記で定義された化合物5に向けたものである。
【0137】
更なる実施態様では、本発明は、神経細胞を、Aβが誘発する機能障害又は好ましくない作用、更に具体的にはAβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理的機能不全、及び/又はAβ誘発性シナプス損失から保護するのに使用するための、前記で定義された化合物6に向けたものである。
【0138】
他の態様によれば、本発明は、R2が前記で定義された通りである本発明の化合物の少なくとも1種の少なくとも有効量を予防及び/又は治療を必要とする個体に投与する工程を少なくとも含む、カスパーゼ-2活性が関与する疾患及び/又は障害を予防及び/又は治療する方法に向けたものである。
【0139】
他の態様によれば、本発明は、Rが前記で定義された通りである本発明の化合物の少なくとも1種と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0140】
本発明の医薬組成物は、より詳細には、Rが上述した定義された通りである本発明の化合物の少なくとも1種の有効量を含有し得る。
【0141】
「有効量」とは、制御または治療をする状態又は障害においてプラスの改善を誘発するのに十分であるが、重篤な副作用を避けるのに十分に低い量を意味する。有効量は、得られる医薬作用、または治療する特定の状態、最終使用者の年齢及び健康状態、治療/予防される状態又は障害の重症度、治療の期間、他の治療の性質、用いられる特定の化合物もしくは生成物/組成物、投与経路、及び同様の要因によって変化し得る。
【0142】
が前記で定義された通りである本発明の式(I)の化合物は、当該技術分野で認められているいずれかの様式により有効量を投与することができる。
【0143】
一実施態様では、本化合物は、経口、経鼻、舌下、眼科用、局所、直腸、経膣、経尿道、非経口投与により投与することが意図される組成物で使用することができる。
【0144】
投与経路およびガレヌス製剤は、所望の薬学的効果に従って、当業者によって適合される。
【0145】
当業者は、過度の実験及び個人的な知識に依拠することなく、所与の適応症に対する本発明の化合物の治療上有効な用量を確認することができる。
【0146】
本発明の医薬組成物は、投与量、ガレヌス形態、投与経路等に応じて、任意の既知の適切な薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化することができる。
【0147】
本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される賦形剤」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。任意の従来の賦形剤が活性化合物と不適合である場合を除いて、本発明の医薬又は医薬組成物におけるその使用が意図される。
【0148】
本発明の医薬又は医薬組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ剤、エアゾール、スプレー剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、スティック、ローション剤、ペースト剤、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、坐剤、無菌注射剤、無菌パッケージ化散剤等の形態であってもよい。
【0149】
一実施態様によれば、本発明の医薬組成物は、病状、特にアルツハイマー病の予防及び/又は治療に有用な、本発明の式(I)の化合物とは異なる薬剤と別個に、または連続的に、または同時に投与することが意図される。
【0150】
b)活性依存型プローブ
本発明の化合物、より具体的にはR基が
【0151】
【化32】
から選択される化合物はカスパーゼ2を選択的に検出するための活性依存型プローブとして使用することができる。
【0152】
したがって、一態様によれば、本発明は、Rが前記で定義された通りである本発明の化合物の、カスパーゼ-2活性を選択的に検出するための活性依存型プローブ(ABP)としての使用に関する。
【0153】
本発明は、例示の目的のみのために提供され、かついかなる方法によっても本発明を限定すると解釈すべきではない下記の実施例に言及することによってよりよく理解されるであろう。
【実施例0154】
実施例1:本発明の化合物2の調製
本発明の化合物の合成は、以下に示す化合物TRP601の調製法により得られる。
【0155】
【化33】
【0156】
TRP601の合成は、D.Chauvierら、Cell Death and Disease(2011)2,e203に開示されている。
【0157】
例えば、本発明の化合物2は、TRP601とは、以下の点で異なっている。
及びPがTRP601における下記[化35]に代えて下記[化34]により表わされこと;
【0158】
【化34】
【0159】
【化35】
及び
TRP601における下記[化37]に代えて下記[化36]のプロリン様が使用されていること。
【0160】
【化36】
【0161】
【化37】
【0162】
したがって、化合物2は、P及びP残基を導入するために、下記[化39]に代えて下記前駆体[化38]を用い、
【0163】
【化38】
【0164】
【化39】
下記[化40]と結合する、いずれかの立体配置(R又はS)の不斉炭素原子を有するプロリン様残基を導入するために、下記[化42]に代えて下記前駆体[化41]を用いることを除き、
【0165】
【化40】
【0166】
【化41】
【0167】
【化42】
TRP601をもたらすために前記文献に開示されている工程を再現することによって、化合物2は得られる。
【0168】
及びPの前駆体は、当業者に周知のプロトコルに従って、アミン官能基がBoc基によって保護されている市販の(S)-アスパラギン酸から出発して調製した。
【0169】
プロリンの前駆体は、Maillardら,in Bioorganic & Medicinal Chemistry 19(2011):5833-5851によって記載された通りにして得た。
【0170】
化合物2の他の構成要素は、前記刊行物中のTRP601と同じ方法で、すなわち同じ試薬で、同じ条件で同じ量で導入されている。
【0171】
したがって、化合物2は
【0172】
【化43】
と結合したピロリジンの不斉炭素原子のいずれかの立体配置(R又はS)のいずれかを有し、90%を超える収率で得られ、HPLCによって特徴付けられる。
【0173】
実施例2:不可逆的阻害についてのカスパーゼ-2及びカスパーゼ-3阻害アッセイ(生体外)
カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3の不可逆的阻害剤である、本発明の化合物の阻害効率は、以下に説明するプロトコルを用いて評価できる。化合物2,並びに化合物4、5、6は不可逆的阻害剤であり、状況に応じて評価を行った。
【0174】
既知のグループIIカスパーゼ阻害剤(カスパーゼ-2、カスパーゼ-3及びカスパーゼ7の阻害剤)である比較化合物Δ2Me-TRP601の効率を、Chauvierら、2011 Cell Death Dis 2011,2:e203に開示されたのと同様のプロトコルで評価した。
【0175】
前記2種の試験化合物を以下に示す:
【0176】
【化44】
【0177】
本実施例では、カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3は、それぞれEnzo Life(登録商標)(ALX-201-057-U100)及びR&D Systems(登録商標)(707-C3-010/CF)により供給されるヒト組換え型活性酵素である。
【0178】
カスパーゼ-2は、20mM HEPES(pH7.4)、5mM DTT,2mM EDTA、0.1% CHAPS及び800mMコハク酸を含む「カスパーゼ-2緩衝液」中、最終濃度0.1nMで使用される。カスパーゼ-3は、20mM HEPES(pH7.4)、0.1% CHAPS、5mM DTT及び2mM EDTAを含む「カスパーゼ-3緩衝液」中、最終濃度0.5nMで使用される。
【0179】
酵素活性測定のために使用されるペプチド基質は、EnzoLife(登録商標)により市販されているAc-DEVD-AMC及びAc-VDVAD-AMC(それぞれALX-260-031-M005及びALX-260-060-M005として言及される)である。前記化合物は、AMC(7-アミノ-4-メチルクマリン)末端基の存在により蛍光性である。AMCの遊離により、96ウェルマイクロプレート中の経時的な蛍光単位RFUにおける酵素活性を追跡することが可能となる。
【0180】
蛍光値は、マイクロプレートリーダーBMG FLUOstar OPTIMAを用いて、分光蛍光光度計により37℃で測定する。この装置は、ソフトウェアBiolise(登録商標)で駆動し、ペルチェ効果による熱電冷却装置を備えている。実験データの数学的解析はソフトウェアKaleidagraph(登録商標)により行なう。
【0181】
試験化合物の阻害特性を、カスパーゼ-2又はカスパーゼ-3のいずれかに関するkinact/K比の決定により評価する。
【0182】
【数1】
前記式において、
-kinactは最大不活性化速度定数であり、
-Kは、酵素に対する阻害剤の親和性を反映する以下の式による解離定数である。
【0183】
したがって、比が高いほど、阻害剤はより効果的である。
【0184】
前記比は連続法(Allison RD.Curr Protoc Protein Sci.2001 May;Chapter 3:Unit 3.5.;Chauvierら、2011 Cell Death Dis 2:e203;Tanら、J Med Chem 2015,58:598-312)によって測定される。
【0185】
手短に言えば、カスパーゼ活性は、未処理のカスパーゼ(対照)又は試験化合物とインキュベートしたカスパーゼの存在下、時間の関数としての蛍光発生基質(λexc=355nm、λem=460nm)の加水分解をモニターすることにより、BMG Fluostarマイクロプレートリーダー(ブラック96穴マイクロプレート)を用い、37℃で30分間、測定し、進行速度曲線の直線部分から初速度(V)を測定した。
【0186】
基質および化合物はあらかじめDMSOで10mMに溶解し、最終溶媒濃度は4%(v/v)未満に維持した。V0、相対速度、K及びIC50は、Mars datas Analysis 2.0及びKaleidagraphソフトウェアを用いて実験データから求めた。
【0187】
化合物2としての不可逆的な阻害剤については、不活性化は、EおよびIが酵素及び阻害剤の遊離形態であり、E*Iがミカエリス複合体の動態キメラであり、E-Iが共有結合複合体または不活性化酵素である最小動力学スキームによって表すことができる。
【0188】
【数2】
【0189】
カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3を目的に、阻害剤結合親和性(解離定数、K)及び一次速度定数(k)パラメータを、進行曲線法を用いて求めた。比k/Kは、実験データを式(F.U.、蛍光単位)に適合させることによって得た。
【0190】
【数3】
【0191】
実験データの式への線形及び非線形回帰適合は、Kaleidagraphソフトウェアで実施した。
【0192】
カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3活性のk inact /K 比の測定
inact/K比測定の連続法を用いて、カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3に対する試験化合物の阻害活性を評価した。
【0193】
反応混合物は、酵素及び緩衝液を37℃でインキュベートすることによって調製する。
【0194】
試験阻害化合物は、複数の異なる濃度(IC50の1/4;IC50の1/2;IC0;IC50の2倍;IC50の4倍)で調製し、マイクロプレートに入れる。
【0195】
次いで、酵素、緩衝液及び基質を含む反応混合物をウェルに迅速に添加する。
【0196】
酵素活性は45~60分の間で測定する。
【0197】
RFU(相対蛍光単位)=f(時間)曲線を、以下の式に従い、試験分子の各濃度について追跡する:
((((-V)*(exp(-kobs*m0)))+V)/kobs*)+RFU
式中、
-Vは、試験阻害性化合物の濃度0における初速度(RFU.s-1)に対応し;
-kobsは不活性化速度定数であり;
-RFUはt=0における蛍光値であり;
-m0は変数、すなわち阻害剤濃度である。
【0198】
Kaleigagraphソフトウェアを用いて双曲線の曲線f([I])= kobsを調整し、以下の式に基づいてkinact/k比を得る。
obs=kinact×[I]/(K×[I])
【0199】
化合物、2、3、5及び6、並びにΔ2Me-TRP601について、カスパーゼ2及び3に関してそのようにして得られたkinact/K比の比較により、それらの選択性の評価が可能である。
【0200】
【表3】
【0201】
試験した化合物は、カスパーゼ-2を阻害する効果があることがわかる。
【0202】
しかし、化合物2は、カスパーゼ3に関してΔ2Me-TRP-601とは全く異なる反応をする(以下の表2を参照)。
【0203】
【表4】
【0204】
ND:阻害活性は検出されない。+++:casp3に対して阻害活性が検出されないため、選択性は非常に顕著である(>>1000)。
【0205】
実際、化合物2は、カスパーゼ-3を不活性化するよりも、はるかに効率的にカスパーゼ-2を不活性化するが、Δ2Me-TRP601はこの選択性を示さない。
【0206】
結論として、化合物2は、カスパーゼ-2を阻害するのに効率的であるだけでなく、カスパーゼ-3と比較し、カスパーゼ-2について選択的である。興味深いことに、
【0207】
【化45】
と結合したピロリジン環の不斉炭素原子の立体配置(R又はS)に依存して、カスパーゼ-2阻害レベルが非常に異なることが認められることは注目に値する。本発明の化合物は、中程度又は強力であるが、非常に特異的な特に興味深いカスパーゼ-2の阻害剤を提供する(表2)。
【0208】
実施例3:カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3活性検出
個々のカスパーゼに対する基質の効率を測定するために、本発明者らは、触媒効率を示すKcat/Kを測定する。Kcat(s-1)は、触媒定数、又は酵素が飽和している時の各活性部位による単位時間あたりの生成物に変換した基質分子の数であり、酵素基質親和性を示すKMはミカエリスメンテン定数であり、v=Vmax/2のための基質濃度である。
【0209】
カスパーゼ-2(又はカスパーゼ-3)を、酵素及びミカエリス-メンテン複合体に溶解した阻害剤又はバッファーのみと共に、37℃で30分間インキュベートする。バッファー-基質混合物を加え、全量100μLで反応を開始する。その後、酵素活性を20分間に渡り測定する。蛍光発生AMC基の遊離を、以下の波長、すなわち、λexc=360nm及びλem=460nmを使用して検出する。
【0210】
【表5】
【0211】
酵素活性は、式(eq.1)から定義される初速度値(V)によって特徴づけられる。
ここで、Vmaxは酵素が基質で飽和する速度、[S]は基質濃度である。ここで、RFU.min-1で表される初速度は、Biolise(登録商標)ソフトウェアによって直接計算された値、F(時間)=RFU曲線の線形部分の勾配値から実験的に得られる。
Vi=Vmax×[S]/(Km+[S])(eq.1)
対照について得られた初速度(V0)は酵素活性の100%とみなされる。阻害は、阻害剤による処理後の活性が100%未満であることを特徴とする。阻害率は式2(eq.2)から計算される。ここで、V0は因性コントロールの初速度、Viは阻害剤の存在下での初期速度である。
阻害率(%)=(1-(V0/Vi))×100(eq.2)
【0212】
実施例4:可逆的阻害剤についてのカスパーゼ-2及びカスパーゼ-3阻害アッセイ
カスパーゼ-2及びカスパーゼ-3の可逆的阻害剤である本発明の化合物の阻害効率は、以下に説明するプロトコルを使用して評価することができる。化合物3は可逆的阻害剤であり、それに応じて評価される。
【0213】
阻害剤の特性評価の予備段階は、そのIC50を決定することである。IC50は、酵素活性をその最大かつ抑制されていない値の50%まで低下させるために必要な阻害剤の濃度である。
【0214】
複数の異なる濃度の化合物を酵素とバッファーと共に37℃で30分間インキュベートして、酵素-阻害剤複合体を形成させる。緩衝液及び基質を添加することにより反応が開始し、15分間に渡って活性を測定し、初速度を決定する。その濃度の関数としての分析された化合物の阻害率(%)は、一般に、双曲線を変換する方程式3(eq.3)に従う。
曲線f([I])=阻害率(%)を調整するために式をKaleidagraphソフトウェアに入力し、IC50を得る(式中、[I]は阻害剤の濃度である)。
阻害率(%)=100×[I]/(IC50+[I])(eq.3)
【0215】
可逆的阻害剤の評価
Ac-VDVAD-CHO、Ac-DEVD-CHO、および化合物3の阻害の可逆性は希釈法によって分析する。酵素及び阻害剤(又は対照としてのDMSO)を37℃で30分間インキュベートする。このようにして形成された複合体を、バッファー/基質混合物で100分の1に希釈し、その後、20分間かけて活性測定を開始する。DMSOで得られた初速度は100%の活性を表し、阻害剤の存在下での酵素の残存活性の定量化の基準となる。
【0216】
可逆的阻害剤を特徴付けるために、解離定数Kiを決定する。解離定数は、酵素に対する阻害剤の親和性の根拠を付与する。このために、阻害剤は酵素の活性部位について基質と競合する。希釈後、活性が50%以上に回復した場合、阻害剤は「可逆的」であると言われる。
【0217】
阻害剤を、複数の異なる濃度で(IC50の1/4;IC50の1/2;IC50;IC50の2倍;IC50の4倍)で、カスパーゼバッファー混合物と37℃で30分間インキュベートする。反応は、バッファー-基質混合物を加えることによって開始し、20分間実施する。
【0218】
RFU.min-1で表わされる初速度値は、AMC標準範囲から比活性(SA)値(pmol/分/酵素1μg)まで低下する(1RFU→0.02pmol)。
【0219】
1/[S]の関数としての比率1/SAの展開により、式4(eq.4)からラインウィーバーバークのいわゆる二重逆グラフを取得できる。ここで、Vmaxapp及びKMappは、阻害の種類や阻害剤濃度の関数によって異なるパラメータである。阻害剤濃度を増加させて得られた線の交点により、異なるタイプの阻害剤を区別することが可能になる。
【0220】
【数4】
【0221】
ラインウィーバーバークプロットの傾きの値から、阻害剤の濃度の関数として取得した2次グラフにより、Ki値を得ることができる。その値は、原点における横座標点によって与えられる。
【0222】
Casp-2および-3に関する化合物の阻害力は、IC50を測定することで定量化される。結果を表3(左)に示す。Casp-2に対する有効性の観点から、化合物3のIC50値は、基準化合物Ac-VDVAD-CHO(IC50=6.9nM)に次ぐ位置に置かれる。Casp-2に効率的に作用することに加えて、化合物3は、Ac-VDVAD-CHO(IC50=7.23nM)よりも、Caspase-3での効力がはるかに低いと思われる。したがって、化合物3はCasp-2選択的である。
【0223】
阻害メカニズムの詳細な研究は以下のように行われた。
【0224】
初期速度V0は、式8で表される。以下の式において、Vmaxは最大反応速度(酵素が基質で飽和した時に到達する)、[S]は基質濃度、KMはミカエリスメンテンの定数(Vmax/2に対応する基質濃度)、Kは、酵素に対する阻害剤の親和性を示す解離定数である。Kにより阻害力を定量化することができ、その値が低いほど抑制剤は強力である。
【0225】
【数5】
【0226】
ラインウィーバーバークのグラフデータから取得した二次トラックにより、K値を決定することができた。種々の阻害剤のK値と選択指数を表4(右側)に示す。
【0227】
【表6】
【0228】
【表7】
【0229】
阻害効率は、Ac-DEVD-CHO及びAc-VDVAD-CHO基準阻害剤、並びにP2変異体Ac-VDVAD-CHO誘導体についてIC50値で表される(表4)。阻害の定量化は、酵素に対する阻害剤の親和性を示すKi定数の値によって示される。その値が低いことは、その標的に対して強力な阻害剤であることを示す。定数の比率により、選択性を定量化でき(表5)、この比率が高いほど、阻害剤はCasp-2に対してより選択的である。
【0230】
Ki値により、IC50データから提供される情報が確認および補足される。したがって、化合物3は、Casp-2に対して依然として強力な阻害剤であり、後者に関する選択性はAc-VDVAD-CHOと比較して著しく上昇している(表5)。
【0231】
実施例5:細胞死アッセイに対する保護
本実施例においては、ビンクリスチン(ビンカアルカロイド)によって誘導される細胞死に対する本発明の化合物2の保護効果を、ヨウ化プロピジウム染色に基づく周知のフローサイトメトリー細胞死アッセイを用いて試験を行なう。
【0232】
a)細胞モデル
化合物2及び3の保護効果を評価するために、カスパーゼ依存性細胞モデルを使用する。
【0233】
本モデルではヒトHeLa細胞を用いる。HeLa細胞(子宮頸癌細胞株)はアメリカンタイプ細胞コレクション(ATCC)から入手し、10%FCS及び抗生物質(Gibco,Life technologies)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,High Glucose, GlutaMAX(商標)、Pyruvate)(Gibco, Life technologies)で培養した。
【0234】
ヒトHeLa細胞を、ビンクリスチン(Sigma Aldrich)溶液(水で5mMに希釈)で処理する。ビンクリスチンは、部分的にチューブリンタンパク質に結合し、分裂中に細胞が染色体を分離するのを止めるように機能する。その後、細胞はカスパーゼ依存過程を介してアポトーシスを受ける。
【0235】
ヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma Aldrich)を用いて、細胞膜透過性、細胞死の徴候を評価する。
【0236】
b)治療及びマーキングの条件
薬物治療の24時間前に、HeLa細胞を24ウェルプレートに播種した。次いで培養培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、複数の異なる濃度の化合物2又は3を含む新鮮な培地をビンクリスチンの添加の1時間前に加えた。細胞を20nMのビンクリスチンに48時間曝露したか、又は曝露していない(対照)。
【0237】
各ウェルの内容物を集め、PBSに加え、次いで遠心分離する(900rpm;5分)。
【0238】
得られたペレットを、ヨウ化プロピジウムを含む培地300μLに入れ、暗所で5分間インキュベートし(37℃、5%CO)、次いでフローサイトメトリー分析を行なう。
【0239】
c)細胞分析
次いで、細胞を561nmの励起を用いてフローサイトメトリーで分析する。
【0240】
蛍光標識細胞分取は、FACSCaliburサイトメーター(Becton Dickinson,San Jose,CA)を用いて実施した。各試料について、5000個の細胞からのデータを登録し、CellQuest ProTMソフトウェア(Becton Dickinson)で分析した。分析には、FL-1およびFL-3チャネルとともにFSC(前方散乱/細胞のサイズに関する)及びSSC(細胞散乱/細胞の粒状性に関する)パラメータが含まれていた。
【0241】
【表8】
【0242】
ヨウ化プロピジウム陽性細胞の割合から細胞死が推定される。
【0243】
ビンクリスチンも阻害剤も含まない対照組成物により、自然に死んだ細胞の量を推定することが可能である。
【0244】
ビンクリスチンを含むが阻害剤を含まない組成物により、自然死細胞とビンクリスチンによって誘導されるアポトーシス細胞の合計に対応する死細胞の総数が提供される。
【0245】
本発明者らは、化合物2及び3が、ビンクリスチンにより用量依存的に誘導されるアポトーシス死から細胞を保護することを明確に観察している。
【0246】
実施例6:β神経毒性に対する保護
a)初代神経培養
海馬を、0.1%グルコース(Life technologies)を添加した、低温のゲイ平衡塩類溶液(GBSS、Sigma)でC57B16/J wtマウス(Rene Janvier、フランス)のE16胚から顕微解剖する。
【0247】
解剖した構造体をパパイン(20U/MLのDMEM溶液、Sigma、米国ミズーリ州セントルイス)で消化し、DNAseの存在下、機械的に分離する。次いで、海馬細胞をすすぎ、DMEM(Life Technologies、Inc.、米国メリーランド州ゲーサーズバーグ)に再懸濁し、B27(1/50)及びペニシリン/ストレプトマイシン1%(Gibco)を添加したNeurobasal(Life Technologies)及びlutamax(0.1%LifeTechnologies)で洗浄し、最終密度がを1800万細胞/mLになるように再懸濁する。
【0248】
次いで、この細胞懸濁液を使用して、開示されたように(Peyrinら,2011 Lab Chips 11(21):3663;Delegliseら,2014 Acta Neuropathologica Comm.2:145)、マイクロ流体チャンバーのリザーバーを満たす。マイクロ流体チップをH20-EDTAを含むプラスチック製のペトリ皿に入れ、蒸発を防ぐために、湿度の高い5%CO2雰囲気で37℃でインキュベートする。培地は7日ごとに交換する。
【0249】
b)Aβペプチドオリゴマーの調製
オリゴマー型のAβ1-42(Tocris Bioscience,MN,USA)は、J Biol Chem 278,pp 11612-11622に記載のStine WBら(2003)に従って製造され、Acta Neuropathol Commun.2014;2:145に記載のDeleglise Bらに記載されたようにして電子顕微鏡により制御することができる。
【0250】
手短に言うと、Αβ1-42凍結乾燥ペプチドを1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP、Sigma Aldrich)に1mMの濃度で溶解する。室温で30分間インキュベーションした後、HFIPをケミカルフード下で12時間蒸発させ、ペプチドを1時間乾燥させる(4℃でSpeed Vacを使用する)。
次いで、ジメチルスルホキシド(DMSO、Sigma Aldrich)に再溶解することにより、5mM濃度のペプチド保存溶液を得る。オリゴマーを得るには、Αβペプチド原液を、フェノールを含まない冷却したDMEM-F12培地(Life Technologies)で希釈して、最終濃度を100μΜにする。次いで、溶液を4℃で24時間インキュベートする。可溶性atβオリゴマー画分は、20000g(10分;4°C)での遠心分離ステップの後、上清から収集し、使用するまで-80°Cで保存する。
【0251】
c)毒性試験
マイクロ流体チャンバーで18日間培養した後、海馬細胞を、フェノールを含まないDMEM-F12培地であらかじめ希釈した本発明の化合物と、又は対照溶液としてフェノールを含まないDMEM-F12培地と1時間プレインキュベートする。次いで、細胞を10または100nmのΑβ1-42オリゴマー(または対照溶液としてフェノールを含まないDMEM-F12培地のみ)で3時間~6時間または24時間毒性化する。毒性化を行った後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA、Sigma;St.Louis、MO、USA)で室温で20分間固定し、以下で説明するように標識化し、シナプスの状態、細胞死、又は軸索変性を評価する。
【0252】
d)免疫蛍光法
手短に言うと、固定化工程の後、培養細胞をPBS +0.1%アジドで5分間2回洗浄し、0.2% Triton X-100及び0.1%BSA(ウシ血清アルブミン、Sigma)の0.1%アジドを含むPBSの溶液で10分間、透過処理を行う。次いで、0.1%アジド及び1% BSAを含むPBSで30分間、細胞をインキュベートすることにより、飽和工程を実施する。次いで、一次抗体を加え、試料をPBS中、4℃で一晩インキュベートする。その後、試料を、0.1%アジドを含むPBSで5分間、2回洗浄し、Alexa Fluor 555に結合したファロイジンと一緒に、対応する二次抗体とインキュベートする。次いで、チップを、0.1%アジドを含むPBSで2回洗浄した。
【0253】
以下の抗体、すなわち、ウサギポリクローナル抗MAP-2(AB5622; 1/400,MILLIPORE)、マウスモノクローナル抗Bassoon SAP7F407;(1:400,Enzo LifeSciences)を使用する。Alexa 350、488又は500に結合した種特異的二次抗体(1/500,Life Technologies,Inc.,Gaithersburg,MD,USA)を使用する。
Alexa Fluor 555に結合したファロイジン(1/500、EnzoLifeTechnologies)を使用してF-アクチンを染色する。
【0254】
e)画像収集
画像は、冷却CCDカメラ(CoolsnapHQ2,Ropert Scientific)を装備したAxio-observer Zl(Zeiss、ドイツ)で取得する。顕微鏡はMetamorph及びMicro-managerソフトウェアで制御する。ImageJソフトウェアを使用して画像を分析した。
【0255】
f)結果
本発明の化合物で前処理されていないAβ毒性化細胞では、非毒性化試料と比較した場合、毒性化の6時間後すぐに抗Bassoon標識の顕著な減少が認められる。この樹状突起棘は海馬ニューロンマウスにおいて減少するが、これによって、Αβシナプス毒性により神経変性があることが証明され、シナプス数が著しく減少する(ほぼ50%、図1)。更に、Aβ処理の24時間後には、本発明の化合物で前処理されていない海馬ニューロンの軸索変性が認められる。本発明の化合物は、Aβ誘発性細胞死、Aβ誘発性軸索変性、Aβ誘発性電気生理学的機能不全、及び/又はAβ-30誘発性シナプス喪失から海馬細胞を保護するのに効果的であることがわかる(表7及び図1)。
【0256】
【表9】
【0257】
上記実験により、カスパーゼ-2の活性を調節可能な本発明の化合物(表1及び5)が、Aβ神経毒性に関連する障害の発生を治療又は予防するのに有効であることの証拠が提供される。
【0258】
結論:
したがって、本発明の化合物は、カスパーゼ2活性によって媒介される細胞死又は機能不全に関連する疾患の治療に有用な化合物である。より具体的には、本発明の化合物は、Aβシナプス毒性(synaptotoxicity)が疾患の病態生理において重要であることが知られているアルツハイマー病(AD)等の神経変性疾患の治療に有効であることが判明する。更に、当該技術分野において、カスパーゼ2は、Δtau314を生成するタウの切断を媒介することが知られており、ADの認知減衰に含まれているため、本発明の化合物は、タウ及び/又はΑβ毒性のいずれかが関与する疾患の治療または予防に使用するための価値のある化合物となる
図1