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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109952
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20230801BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L67/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086046
(22)【出願日】2023-05-25
(62)【分割の表示】P 2019514392の分割
【原出願日】2018-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017085823
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000104906
【氏名又は名称】クラレプラスチックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米田 祥和
(57)【要約】      (修正有)
【課題】柔軟性、耐油性、及び極性樹脂基材への二色成形性などの成形加工性に優れた熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物および成形品を提供する。
【解決手段】少なくとも分子中に芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)を2個以上有し、かつ、分子中に共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)を1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られる水素添加ブロック共重合体(イ)100質量部に対し、
(ロ)ポリエステルエラストマー80~270質量部
(ハ)ゴム用軟化剤50~270質量部
を含有してなる樹脂組成物において、(イ)成分と(ロ)成分がマクロ相分離した共連続構造を形成しており、さらに(ロ)成分がミクロ相分離構造を形成していることを特徴とする樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも分子中に芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)を2個以上有し、かつ、分子中に共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)を1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られる水素添加ブロック共重合体(イ)100質量部に対し、
(ロ)ポリエステルエラストマー 80~270質量部
(ハ)ゴム用軟化剤 50~270質量部
を含有してなる樹脂組成物において、(イ)成分と(ロ)成分がマクロ相分離した共連続構造を形成しており、さらに(ロ)成分がミクロ相分離構造を形成していることを特徴とする樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、耐油性、及び二色成形性などの成形加工性に優れる熱可塑性エラストマー樹脂組成物および成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム的な軟質材料であって、加硫工程を要せず、熱可塑性樹脂と同様な成形加工性を有する熱可塑性エラストマーが、自動車部品、工業製品、医療、食品用機器部品、雑貨等の分野で注目されている。
例えばシーリング部分には柔軟性に優れるポリスチレン系エラストマー、ペングリップ用途には二色成形性に優れるウレタン系エラストマー若しくはポリエステル系エラストマーが使用されている。二色成形法とは射出成形工程にてエラストマーなどの樹脂を基材にインサートするのみで、該樹脂が基材に融着し一体化する成形方法であり、従来の別個の樹脂と基材とをそれぞれ組み立てる製造法(以下、組み立て製造法と称す)に比べて、製造工程を簡略化及び低コスト化できるとともに、製品の強靭性、密閉性を付与できる製造方法である。二色成形法に適用するためには、該樹脂に基材樹脂との親和性が求められる。
一方で、従来の樹脂組成物では、二色成形法が可能で柔軟性かつ耐油性の性能を兼ね揃える材料がなく、組み立て製造法を実施せざるを得ない場合があった。
例えば、ポリスチレン系エラストマーは柔軟性に優れるが、ABSやPC等の極性樹脂に対する二色成形ができない。一方、シリコンゴムは耐油性に優れ、二色成形も可能であるが、二次加硫工程が必要となり、製造工程の簡略化及び、低コスト化を達成できない。またポリエステル系エラストマーは二色成形性に優れるが、硬度が高く柔軟性に劣る。
【0003】
上記した問題に鑑み、ポリスチレン系エラストマー、シリコンゴム、ポリエステル系エラストマーなどの樹脂の長所を組み合わせた樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1にて開示されている樹脂組成物は柔軟性に優れるが、耐油性や二色成形性に関して十分な性能を有するものではなかった。特許文献1において極性樹脂基材への二色成形性を課題とした場合、その課題に対して、極性エラストマーが必須成分となるが、柔軟化のために添加する可塑剤や無極性エラストマーの割合が多くなるにつれて基材への接着性が損なわれ、二色成形性と柔軟化を両立することが困難であった。また特許文献1の耐油性は皮脂の成分であるオレイン酸を対象としている。オレイン酸と極性エラストマーは親和性が良く、オレイン酸による物性低下の影響を受け
やすい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2817879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、柔軟性、オレイン酸に対する耐油性、及び極性樹脂基材への二色成形性などの成形加工性に優れた熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物および成形品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、モノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加誘導体、ゴム用軟化剤、及び特定のポリエステル系エラストマーを一定範囲内の添加率で配合することにより、柔軟性、耐油性、及び二色成形性などの成形加工性に優れる樹脂組成物が得られることを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、少なくとも分子中に芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)を2個以上有し、かつ、分子中に共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)を1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られる水素添加ブロック共重合体(イ)100質量部に対し、(ロ)ポリエステル系エラストマーを80~270質量部、(ハ)ゴム用軟化剤を50~270質量部含有してなる樹脂組成物において、(イ)成分と(ロ)成分がマクロ相分離した共連続構造を形成しており、さらに(ロ)成分がミクロ相分離構造を形成していることを特徴とする樹脂組成物、および該樹脂組成物を含む成形品、さらには該樹脂組成物と硬質樹脂からなり、前記樹脂組成物と前記硬質樹脂の少なくとも一部が熱融着されている成形品を提供することにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、柔軟性、オレイン酸に対する耐油性、及び極性樹脂基材への二色成形性などの成形加工性に優れているため、各種用途の密閉性や耐久性を付与できるとともに、二色成形による製造工程にも展開できるため工程の簡略化に寄与することができる。本発明の樹脂組成物は、例えばペンやカメラ、スポーツ用品等のグリップ、筐体、ローラー、クッション、ボタン被覆材、シール材等の成形品に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の樹脂組成物中の(イ)成分と(ロ)成分がマクロ相分離した共連続構造を示す電顕写真。
図2】本発明の樹脂組成物中の(ロ)成分のモルフォロジ-(ミクロ相分離構造有)を示す電顕写真。
図3】従来技術(比較例)の樹脂組成物中の(ロ)成分のモルフォロジ-(ミクロ相分離構造無)を示す電顕写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物において、水素添加ブロック共重合体(イ)成分とポリエステル系エラストマー(ロ)成分はマクロ相分離した共連続構造を形成し、さらにポリエステル系エラストマー(ロ)成分はミクロ相分離構造を有する。相分離構造の有無は後述する透過型電子顕微鏡によりモルフォロジーを観察することで判断が可能である。水素添加ブロック共重合体(イ)成分とポリエステル系エラストマー(ロ)成分がマクロ相分離した共連続構造を形成している状態を示す電顕写真を図1に、本実施例及び本比較例に使用してい
るポリエステル系エラストマー(ロ)成分のモルフォロジーを示す電顕写真をそれぞれ図2、3に示す。本実施例に使用しているポリエステルエラストマーの画像には明暗があり、官能基濃度の差に由来する相分離構造を有していることが分かる。一方で本比較例に使用しているポリエステルエラストマーの画像には明暗がなく一相状態であり、相分離していないことが分かる。本発明は、2種類以上のポリエステルエラストマーを使用して、それらの官能基濃度の差を利用することで相分離したポリエステル系エラストマーを使用することで、従来ではなし得なかった柔軟性、耐油性、二色成形性などの成形加工性の両立を達成した点にある。
【0011】
本発明に用いられる水添ブロック共重合体(イ)とは、分子中に芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)を2個以上有し、かつ、共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)を1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られるものをいう。
重合体ブロック(A)を構成する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。重合体ブロック(A)は、上記芳香族ビニル化合物の1種単独で構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。本発明では、重合体ブロック(A)は、これらのうちでもスチレンおよび/またはα-メチルスチレンから構成されているのが好ましい。
【0012】
該重合体ブロック(A)の数平均分子量は2500~80000の範囲であることが好ましく、より好ましくは10000~50000、特に好ましくは20000~40000である。2500を下回ると得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的強度が低下する場合があり、その一方、80000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて、本発明の他の成分との混合性に劣り、熱可塑性樹脂組成物の成形性に劣る場合がある。
【0013】
重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、フェニルブタジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエンなどが挙げられる。本発明では、重合体ブロック(B)は、これらの1種単独で構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。本発明では、特にゴム物性の改善効果の点から、重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン化合物として1,3-ブタジエンやイソプレンが好適に用いられる。該重合体ブロック(B)の数平均分子量は10000~300000の範囲であることが好ましく、より好ましくは20000~250000、特に好ましくは30000~170000である。10000を下回ると得られる熱可塑性樹脂組成物の弾性的性質が損なわれる場合があり、その一方、300000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて、本発明の他の成分との混合性に劣り、熱可塑性樹脂組成物の成形性に劣る場合がある。
また、水添ブロック共重合体の重合体ブロック(B)のミクロ構造は特に限定されない。従って、水添前の重合体ブロック(B)におけるビニル結合量、すなわち、1,3-ブタジエンを使用する場合における1,2-結合量や、イソプレンを使用する場合の1,2-結合量と3,4-結合量、更には1,3-ブタジエンとイソプレンとを混合使用した場合等の各ビニル結合量はいずれの範囲でも制限はない。
【0014】
水添ブロック共重合体(イ)における、芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)の含有率は、水添ブロック共重合体(イ)の5~70質量%、より好ましくは10~40質量%、特に好ましくは10~30質量%の範囲である。70質量%を越えると水添ブロック共重合体(イ)が硬くなって、熱可塑性樹脂組成物の柔軟性が損なわれ、脆くなり、その一方、5質量%を下回ると重合体ブロック(A)の含有量が少なく、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の力学的強度が十分でない。
水添ブロック共重合体(イ)の数平均分子量は、50000~400000、より好ましくは50000~300000、特に好ましくは50000~250000の範囲である。水添ブロック共重合体(イ)の数平均分子量が50000未満の場合には、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の力学的強度が十分でなく、一方、水添ブロック共重合体の数平均分子量が400000を超える場合には、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性が低下する。なお、本明細書でいう数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって求めたポリスチレン換算の分子量である。
また水添ブロック共重合体(イ)において、重合体ブロック(A)部の割合、及びまたはビニル結合量、及びまたは、数平均分子量が異なるものを2種類以上併用することもできる。
【0015】
水添ブロック共重合体(イ)は、2個以上の重合体ブロック(A)と1個以上の重合体ブロック(B)を有し、ブロックの結合様式には特に制限はないが、例えば、重合体ブロック(A)をAで、重合体ブロック(B)をBで表した場合に(A-B)n-A(nは1~10の整数を表す。)で表されるブロック共重合体や、カップリング剤の残基をXとした場合に、(A-B)m-X(mは2~15の整数を表す。)で表されるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体などが好ましく使用できる。
また、水添ブロック共重合体(イ)の形状は、直鎖状、分岐状、星型のいずれでもよく、各ブロックの結合順序、結合ブロック数にも特に制限はない。また、重合体ブロック(B)のミクロ構造を制御するには、重合の際に共触媒を用いればよい。この共触媒としては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N-メチルモルホリンなどのアミン系化合物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、または2種以上を併用することもできる。
【0016】
本発明で使用する水添ブロック共重合体(イ)としては、さらに、本発明の趣旨を損なわない限り分子鎖中、または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物、アミノ基、エポキシ基などの官能基を含有してもよい。従って、本発明で使用する水添ブロック共重合体(イ)としては、このような官能基を有するもの1種を単独で使用する場合のほか、このような官能基を有する水添ブロック共重合体の2種以上を併用することもできる。更に、分子末端および/または分子鎖中に官能基を有する水添ブロック共重合体に、このような官能基を持たない水添ブロック共重合体を併用することもできる。
【0017】
水添ブロック共重合体(イ)を得る方法としては、公知の方法を特に制限なく使用することができ、アニオン重合により得られた重合体を水素添加する方法、カチオン重合などのイオン重合法、チーグラー重合法、シングルサイト重合法、ラジカル重合法など、いずれの方法を用いてもよい。例えばメチルリチウム、エチルリチウム、ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどのアルキルリチウム化合物などを開始剤としてn-ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を遂次重合させてブロック共重合体を形成し、次いで、このブロック共重合体を公知の方法にしたがって、n-へキサン、シクロヘキサン、オクタンなどの不活性有機溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加して、共役ジエン化合物に由来する炭素-炭素二重結合の70モル%以上、より好ましくは90モル%以上を水素添加して、水添ブロック共重合体(イ)を得る。ここで、水素添加率が70モル%未満では、水素添加したことにより期待される耐熱性、耐候性の向上が不十分となる場合がある。耐熱性、耐候性の観点から、水素添加前のブロック共重合体における共役ジエン化合物に由来する不飽和二重結合の95モル%以上を水素添加することが特に好ましい。水添ブロック共重合体(イ)における共
役ジエン化合物に由来する炭素-炭素二重結合量は、ヨウ素価測定、赤外分光光度計、核磁気共鳴装置等により求めることができる。
なお、水素添加触媒としては、例えばニッケル、白金、パラジウム、ルテニウムまたはロジウムなどの金属をカーボン、シリカ、珪藻土などの単体に担持した固体触媒、ニッケル、コバルトなどの有機金属化合物とトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物などからなる均一系触媒、あるいはチタニウム、ハウニウムなどの遷移金属のシクロペンタジエニル化合物とリチウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムなどの有機金属化合物からなる均一触媒などが挙げられる。
このような水添ブロック共重合体(イ)としては、市販品を使用することもでき、例えば、シェル株式会社の商品名「クレイトン」や、旭化成工業株式会社の商品名「タフテック」、株式会社クラレの商品名「ハイブラー」「セプトン」が挙げられる。
【0018】
本発明に用いられるポリエステル系エラストマー(ロ)とは、ハードセグメントとソフトセグメントから構成される熱可塑性樹脂組成物を意味する。ハードセグメントは、芳香族ジカルボン酸とジオールからなるポリエステルが好ましい。ソフトセグメントは、芳香族ジカルボン酸とポリ(テトラメチレン)グリコールからなることが好ましい。
本発明にかかるポリエステル系エラストマー(ロ)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は、通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸であることが望ましい。その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0019】
また、本発明にかかるポリエステル系エラストマー(ロ)において、ハードセグメントのポリエステルを構成するジオールは、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマーグリコールなどが挙げられる。エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマーグリコールが好ましく、特に1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0020】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位あるいはブチレンナフタレート単位よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0021】
また、本発明に用いられるポリエステル系エラストマー(ロ)におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000~80000を有しているものが望ましい。
【0022】
また、本発明に用いられるポリエステル系エラストマー(ロ)におけるソフトセグメントを構成する成分として好ましいポリ(テトラメチレン)グリコールの数平均分子量は、下記する理由により、500~4000のものが望ましい。好ましい下限は600、より好ましくは800である。本発明の特性を損なわない範囲で、ソフトセグメントの一部として、他のポリ(アルキレン)グリコールや脂肪族ポリエステルグリコール等を用いても
良い。
【0023】
本発明にかかるポリエステル系エラストマー(ロ)は、ハードセグメントとソフトセグメントを反応させて得られるものである。ソフトセグメントの重量比率は、エラストマー性能を発現できる5~85重量%が好ましく、また40~80重量%がより好ましい。上記反応は、反応温度、触媒濃度、反応時間の組み合わせを任意に決定して行なうことができる。すなわち、反応条件は、用いるハードセグメント及びソフトセグメントの種類及び量比、用いる装置の形状、攪拌状況などの種々の要因によってその適正値が変化する。
【0024】
本発明に用いられるポリエステル系エラストマー(ロ)は、少量に限り三官能以上のポリカルボン酸、ポリオールを含んでもよい。例えば無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメチロールプロパン、グリセリンなどを使用できる。
【0025】
次に本発明にかかるポリエステル系エラストマー(ロ)を得る方法としては、公知の任意の方法を採用することができる。例えば、溶融重合法、溶液重合法、固相重合法などいずれも適宜用いられる。溶融重合法の場合、エステル交換法でも直接重合法であってもよい。 反応に用いる触媒としては、アンチモン触媒、ゲルマニウム触媒、チタン触媒が良好である。特にチタン触媒が好ましく、詳しくはテトラブチルチタネート、テトラメチルチタネートなどのテトラアルキルチタネート、シュウ酸チタンカリなどのシュウ酸金属塩などが好ましい。またその他の触媒としては公知の触媒であれば特に限定はしないが、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウリレートなどのスズ化合物、酢酸鉛などの鉛化合物が挙げられる。
さらに、ポリエステル系エラストマー(ロ)について、ハードセグメント及びソフトセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸成分、及びまたは、ハードセグメント及びソフトセグメントのポリエステルを構成する低分子量グリコール成分、及びまたは、ポリエステルエラストマー中のソフトセグメントの重量比率の異なるものを2種類以上併用することもできる。
このようなポリエステル系エラストマー(ロ)としては、市販品を使用することもでき、例えば、東洋紡株式会社の商品名「ペルプレン」や、東レ・デュポン株式会社の商品名「ハイトレル」が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられるゴム用軟化剤(ハ)としては、公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系、流動パラフィンなどの炭化水素系油、落花生油、ロジンなどの植物油、リン酸エステル、塩素化パラフィン、シリコンオイル、液状ポリイソプレンまたは水素添加物、液状ポリブタジエン、液状ポリイソブチレンなどの可塑化能を有する液状ポリマーまたはこれらの変性物などがある。可塑剤は1種を使用する場合のほか、2種以上を併用してもよい。このような可塑剤としては、市販品を使用することもでき、例えば、パラフィン系オイルである出光興産(株)製、商品名「ダイアナプロセスオイルPW-380」、「ダイアナプロセスオイルPW-90」、「ダイアナプロセスオイルPW-32」などを使用することができる。
【0027】
本発明は、少なくとも分子中に芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)を2個以上有し、かつ、分子中に共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)を1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られる水素添加ブロック共重合体(イ)100質量部に対し、成分(ロ)として、ポリエステル系エラストマーを80~270質量部、好ましくは90~180質量部、より好ましくは100~150質量部、成分(ハ)として、ゴム用軟化剤を50~270質量部、好ましくは100~190質量部、より好ましくは140~180質量部を含有してなることを特徴とし、後述する透過型電子顕微鏡にてモルフォロジー観察した際にポリエステル系エラストマー相内の明暗部発現により確認されるミクロ相分離構造を有する樹脂組成物である。
ポリエステルエラストマー(ロ)が270質量部を超えると柔軟性に劣る場合があり、80質量部未満であれば接着性に劣る場合がある。
ゴム用軟化剤(ハ)が270質量部を超えると接着性に劣る場合があり、50質量部未満であれば柔軟性に劣る場合がある。
【0028】
本発明の樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することができる。例えば、水添ブロック共重合体(イ)の変性物、アクリレート-スチレンなどの共重合体、スチレン系樹脂、オレフィン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、などを配合することができる。加えて、無機充填剤を添加することもできる。特に親水性ポリマーとのグラフト及びブロック共重合体は水添ブロック共重合体(イ)とポリエステルエラストマー(ロ)の相溶化剤として働くため、性能向上を図れることが知られている。かかる無機充填剤の具体例としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、酸化チタンなどが挙げられる。
【0029】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物は、その改質を目的として、ガラス繊維、カーボン繊維、難燃剤(ポリリン酸アンモニウム系化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル等)、発泡剤(アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなど)、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、光安定剤、紫外線吸収剤や耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、有機酸塩、クレー等)、アイオノマー、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)等を添加することができる。
【0030】
本発明で使用する熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、樹脂組成物やエラストマー組成物の製造に際して通常用いられる方法が採用でき、上記各成分を例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて混合する。溶融及び混練が可能であれば特に溶融温度の制限はないが、一般には150~240℃、より好ましくは180~220℃である。
【0031】
本発明は上記記載の樹脂組成物を含む成形品を供する。本発明の樹脂組成物は、押出成形、プレス成型、射出成形、真空成形、フィルム成形、ブロー成形などいずれの成形方法にて成形品を製造することが可能であり、且つABS、PC(ポリカーボネート)等の硬質樹脂と二色成形し、前記樹脂組成物と前記硬質樹脂との少なくとも一部が熱融着された成形品を製造することも可能である。
硬質樹脂は、AS樹脂、ABS樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PMMA(ポリメタクリル)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂等が使用できる。
【0032】
本発明の樹脂組成物を含む成形品は、自動車部品、家電部品、医療、食品用機器部品、シート、雑貨、工業部材、グリップ、クッション、パッド等の用途に用いることができる。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において硬度、耐油性、接着強度
、モルフォロジー観察による測定あるいは評価は次のようにして行った。
【0034】
<評価用サンプルの作成>
二軸押出機によって220℃のバレル温度で溶融混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出温度230℃、金型温度40℃で射出成することで厚さ2mmの評価用サンプルを得た。射出成型機は日精樹脂工業社製120t射出成型機を使用した。
【0035】
(1)硬度:JIS K 6253に準拠して測定し、硬度が70A以下であれば柔軟性有と評価した。
(2)耐油性:JIS K 6258に準拠して測定した。
試験片(幅2cm×長さ5cm×厚み2mm)を23℃×50%RHの環境下でオレイ
ン酸に1週間浸漬後、重量変化率及び目視観察による色調変化の有無を評価した。
重量変化率が60%以下で色調変化がない場合を必要性能とした。
(3)接着強度:JIS K 6256に準拠して測定した。
幅25mmのポリカーボネート基材に対し、溶融混練して得た樹脂組成物を230℃の
樹脂温度で射出し、二色成形接着サンプルを作製。射出成型機は日精樹脂工業社製120
t射出成型機を使用した。その接着サンプルを用いてインストロン万能試験機にて引張速
度5cm/分で剥離試験を行い、接着強度(N/25mm)を測定した。
接着強度が50(N/25mm)以上を必要性能とした。
【0036】
(4)TEMによるモルフォロジー観察
TEM観察用超薄切片の作製には、ライカ製ウルトラミクロトーム(型式:Ultracut S/FC-S)を用いて、厚み85nmの超薄切片を作製した。超薄切片は銅製のメッシュに回収した。RuO4水溶液を用いて、超薄切片に対して蒸気染色を行った。
構造観察には、LaB6電子銃を装備した日立ハイテクノロジーズ社製 透過型電子顕微鏡(型式:HT7700、3DTEM対応)を用いた。
加速電圧100KVの条件で、LaB6電子線照射量:10μA、電子線のスポットサイズ:1μmの条件でモルフォロジー観察を行った。
撮影記録用CCDカメラには、AMT社製ボトムマウントカメラ(型式:XR81B、8メガピクセルカメラ)を用いた。
【0037】
本発明に使用しているポリエステル系エラストマーは官能基濃度の差からミクロ相分離構造を有するため、モルフォロジー観察した際に明暗が発現する。その明暗の発現有無を評価することでミクロ相分離構造を評価した。尚、下記の画像解析方法でコントラストの数値差が30以上である場合にミクロ相分離構造を有していると判断した。
<画像解析方法>
画像解析には、株式会社三谷商事製 画像処理ソフト型式:Win ROOF(Ver7)を用いた。WinROOFの「濃度特徴」という画像処理項目を用いて、TEM観察画像の生データ中のポリマー相内の明るさの度合いを256諧調で表現して数値化した。
TEM画像に対して、明部と暗部について画像処理範囲を点線枠で指定した。画像の処理範囲は横の画素数150、縦の画素数150に設定して、計22500ピクセル分の領域を評価し輝度の平均値からコントラスト差を導出した。
【0038】
実施例1~6及び比較例1~6に用いた各配合成分は以下の通りである。
(イ)成分;
モノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加誘導体として、クラレ製「セプトン8006」を使用。
(ロ)成分;
ポリエステルエラストマーとして、東レ・デュポン社製「ハイトレル3046」、「ハイトレル4047N」、「ハイトレル7247」を使用。
(ハ)成分;
ゴム用軟化剤として、出光興産社製「PW-32」を使用。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
上記結果より、硬度70A以下の柔軟性、接着強度50N/25mm以上の接着強度、重量変化率60%以下で且つ色調変化なきことを確認する耐油性の必要性能に対して、実施例ではポリエステルエラストマー成分中にミクロ相分離構造を有しているため、上記の必要性能を全て満足する樹脂組成物および成形品が得られたが、比較例ではそれら必要性能を満たすことができなかった。
図1
図2
図3