(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109975
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】動物用製品
(51)【国際特許分類】
A61K 39/35 20060101AFI20230801BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230801BHJP
A61K 35/64 20150101ALI20230801BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A61K39/35
A61P37/02
A61K35/64
A61P37/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023088106
(22)【出願日】2023-05-29
(62)【分割の表示】P 2020528509の分割
【原出願日】2018-07-30
(31)【優先権主張番号】17382527.4
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520038415
【氏名又は名称】レティ・ファルマ・ソシエダ・リミタダ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス,ヘロニモ・カルネス
(72)【発明者】
【氏名】ロボ,ラケル・モヤ
(72)【発明者】
【氏名】リュク,ラウラ・ラミオ
(72)【発明者】
【氏名】カウベト,ピラル・ブラシス
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス,アンナ・プッチダモン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】動物用、特にイヌ用のイエダニに対する特異的免疫療法を提供する。
【解決手段】本発明は、精製された動物用の富化アレルゲンエキスに関する。特に、本発明は、Der f 15及びDer f 18に富む動物用精製アレルゲンエキスに関する。本発明はさらに、該アレルゲンエキスの動物用製品としての使用、ならびに、アレルギー、特に哺乳動物、さらに詳しくはイヌのイエダニアレルギーの治療におけるその使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50kDaより大きい分子量を有するタンパク質に富む動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項2】
エキスがコナヒョウヒダニから誘導される、請求項1に記載の動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項3】
エキスが、ヒト用エキスと比べてアレルゲンDer f 15及びDer f 18に富み、及び/又は、エキスが、ヒト用エキスと比べて低レベルのアレルゲンDer f 1及びDer f 2を有する、請求項1又は請求項2に記載の動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項4】
50%阻害 ELISA IgEアッセイにおいて、動物用ダニアレルゲンエキスが、ヒト用エキスより少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2.0倍、最も好ましくは2.0~2.5倍効力が高い、前記請求項のいずれかに記載の動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項5】
イムノブロットデンシトメトリー分析において、Der f 15の濃度が、ヒト用エキスより少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2.0倍、最も好ましくは2.0~3.0倍高い、及び/又はDer f 18の濃度が、ヒト用エキスより少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2.0倍、最も好ましくは2.0~3.5倍高い、前記請求項のいずれかに記載の動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項6】
動物用ダニアレルゲンエキスが、組換えDer f 15及びDer f 18を含み、好ましくはその組換えDer f 15及びDer f 18は、それぞれ非組換えDer f 15及びDer f 18と少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%の相同性を有し、動物用ダニアレルゲンエキスが、末梢血単核細胞中のIFN-γ及びIL-10の発現をアップレギュレートする、前記請求項のいずれか1項に記載の動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項7】
動物用ダニアレルゲンエキスの製造法であって、
a)ダニアレルゲンを含む原料物質をアレルゲン抽出剤と接触させて、液相中に溶解されたアレルゲンと、非アレルゲン残渣を含む固相との混合物を製造し;
b)該混合物を分離工程に付して、液相中に溶解されたアレルゲンを単離して粗アレルゲンエキスを製造し;
c)該粗アレルゲンエキスを中分子画分除去工程に付して、50kDa未満のサイズを有する分子を除去し、そして除去工程中1.8barの圧力を印加し;
d)工程c)を、3~5℃で、アレルゲンエキスが1050μs/cm未満の導電率を有するまで、及び/又は特定量の蒸留水が使用されるまで実施して、富化アレルゲンエキスを得る
ことを含む方法。
【請求項8】
ダニアレルゲンがコナヒョウヒダニである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
分離工程が遠心分離である、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
中分子画分除去工程が、限外ろ過工程、透析ろ過工程、透析工程、又はろ過を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載の方法に従って得られる又は得ることが可能な動物
用ダニアレルゲンエキス。
【請求項12】
原料物質がコナヒョウヒダニである、請求項11に記載の動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項13】
動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはイヌ及び/又はネコのダニアレルギーの治療に使用するための請求項1~6、11又は12のいずれか1項に定義された動物用ダニアレルゲンエキスであって、この場合、ネコは、イムノブロットアッセイで、分子量が40kDaより高く、Der f 15及びDer f 18又は組換えDer f 15及びDer f 18を含む(好ましくは、組換えDer f 15及びDer f 18は、非組換えDer f 15及びDer f 18とそれぞれ少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%の相同性を有する)コナヒョウヒダニアレルゲンと反応する血清IgE抗体を含む動物用ダニアレルゲンエキス。
【請求項14】
請求項1~6、11又は12のいずれか1項に記載の動物用ダニアレルゲンエキスを含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~6、11又は12のいずれか1項に記載の動物用ダニアレルゲンエキスを含むワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製された動物用の富化アレルゲンエキスに関する。特に、本発明は、Der f 15及びDer f 18に富む動物用精製アレルゲンエキスに関する。本発明はさらに、該アレルゲンエキスの動物用製品としての使用、ならびに、アレルギー、特に哺乳動物、さらに詳しくはイヌのイエダニアレルギーの治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、イヌのおよそ10%が罹患する掻痒性アレルギー性皮膚疾患で、環境アレルゲンに対するIgE抗体の産生に関連する。イヌにおける非季節性アレルギーの主因は、イエダニ(HDM)、特にコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)の種である。アレルギーのイヌは、症状をコントロールするための薬物で治療されるが、代替療法は、免疫寛容を誘導することを目的としてアレルゲンエキスを少しずつ増量して投与することを含む特異的免疫療法(SIT)などである。アレルゲン免疫療法は、アレルギー反応によって誘発される症状を改善するというより、アレルゲンに対する免疫応答を調節するので、薬物治療の必要性を低減する、症状の重症度を軽減する、又は過敏性を完全に取り除く、のいずれかが可能となる。
【0003】
ヒト及びイヌのHDMアレルゲンプロフィールに関する重要な差異が報告されている。ヒトの主アレルゲン(Der f 1及びDer f 2)は比較的低分子量のタンパク質であるが、アトピー犬におけるコナヒョウヒダニ(D.farinae)の最も重要なアレルゲン
(Der f 15及びDer f 18)は、ダニの高分子量画分に属するグループ15及び18に含まれる。このような差異にも関わらず、イヌのためのアレルゲン特異的免疫療法は常に、ヒトの免疫療法用に開発及び特徴付けされたアレルゲンエキスを用いて直接調製されている。ヒトの免疫療法用に開発及び特徴付けされたアレルゲンエキスでイヌを治療することの一つの問題は、Der f 1及びDer f 2のような、以前は問題を引き起こさなかったアレルゲンに感作される可能性が十分にあることである。
【0004】
そこで、動物用、特にイヌ用のイエダニに対する特異的免疫療法の開発が求められている。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、高分子量画分に富む動物用ダニエキスを開発した。この画分は、ダニに感作されたイヌの血清サンプルによって認識されるアレルゲンを含有している。
本発明の第一の側面において、50kDaより大きい分子量を有するタンパク質に富む動物用ダニエキスを提供する。
【0006】
一態様において、動物用ダニエキスは、ヒト用エキスと比べてアレルゲンDer f 15及びDer f 18に富む。
一態様において、該エキスは、ヒト用エキスと比べて、低レベルのアレルゲンDer f 1及びDer f 2を有する。
【0007】
本発明の更なる側面において、動物用ダニアレルゲンエキスの製造法を提供し、該方法は、
a)動物用ダニアレルゲンを含む原料物質(原料)をアレルゲン抽出剤と接触させて、液相中に溶解されたアレルゲンと、非アレルゲン残渣を含む固相との混合物を製造し;
b)該混合物を分離工程に付して、液相中に溶解されたアレルゲンを単離して粗アレルゲンエキスを製造し;
c)該粗アレルゲンエキスを中分子画分除去工程に付して、50kDa未満のサイズを有する分子を除去し、そして除去工程中1.8barの圧力を印加し;
d)工程c)を、3~5℃で、アレルゲンエキスが室温での測定で1050μs/cm未満の導電率を有するまで、及び/又は特定量の蒸留水が使用されるまで実施して、精製天然アレルゲンエキス(native allergen extract)を得る
ことを含む。
【0008】
本発明の第三の側面に従って、アレルギーの治療における活性治療物質として使用するための動物用ダニアレルゲンエキスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、コナヒョウヒダニエキスの10μgタンパク質のSDS-PAGEを示す。低領域MW標準(1);ヒト用エキス(2);エキス1(3);エキス2(4);及びエキス3(5)。
【
図2】
図2は、コナヒョウヒダニエキスの10μgタンパク質のAny kD TGXゲルでのSDS-PAGEを示す。HiMark予備染色マーカー(Life Technologies社)(1);ヒト用エキス(2);エキス1(3);エキス2(4);エキス3(5);及び広領域MW標準(Bio-Rad社)(6)。
【
図3】
図3は、浄化手順後のコナヒョウヒダニエキス5μlのSDS-PAGEを示す。低領域MW標準(1);エキス1(2);エキス2(3);及びエキス3(4)。
【
図4】
図4は、コナヒョウヒダニの170μgタンパク質の2Dを示す。エキス1(A);エキス2(B);エキス3(C);ヒト用エキス(D);低領域MW標準は各ゲル中に示されている。
【
図5】
図5は、コナヒョウヒダニエキスのクロマトグラフィープロフィールを示す。ヒト用エキス(A);エキス1(B);エキス2(C);及びエキス3(D)。
【
図6】
図6は、エキス1(A,B)、エキス2(C,D)及びエキス3(E,F)動物用エキス由来のDer f 15(A,C,E)(配列番号1)及びDer f 18(B,D,F)(配列番号2)の配列決定ペプチドを示す。
【
図7】
図7は、コナヒョウヒダニエキスの10μgタンパク質のイムノブロットを示す。低領域MW標準(1);ヒト用エキス(2);エキス1(3);エキス2(4)及びエキス3(5)。
【
図8】
図8は、ヒト用(PRI 6756LNバッチ)及び動物用(各エキス1、2及び3のそれぞれについて080616LN、090616LN、290616LN)コナヒョウヒダニエキスとインキュベートされたイヌ血清プールの特異的IgE光学濃度を示す。
【
図9】
図9は、動物用コナヒョウヒダニエキス4及びヒト用コナヒョウヒダニエキスに対する個別血清サンプルの特異的IgE光学濃度を示す。
【
図10】
図10は、動物用コナヒョウヒダニエキス4のELISA効力アッセイを示す(二重サンプル)。
【
図11】
図11は、ヒト用コナヒョウヒダニエキスと動物用コナヒョウヒダニエキス4のELISA効力アッセイを示す。
【
図12】
図12は、ImageQuantによって分析されたイムノブロット画像を示す。コナヒョウヒダニエキス:動物用エキス4(2)、ヒト用エキス(3)、及び動物用エキス2(4)。1:低領域MW標準(kDa)。Der f 15及びDer f 18に対応するバンドが指し示されている。
【
図13】
図13は、ImageQuantによって分析されたイムノブロット画像を示す。コナヒョウヒダニエキス:動物用エキス5(2)、動物用エキス4(3)、及びヒト用エキス(4)。1:低領域MW標準(kDa)。Der f 15及びDer f 18に対応するバンドが指し示されている。
【
図15】
図15は、ヒト用コナヒョウヒダニエキスと動物用コナヒョウヒダニエキス4の10μgタンパク質のイムノブロットを示す。STD:低領域MW標準。A)陽性血清1、2;B)陽性血清3、4と陰性対照C1;C)陽性血清5~7と陰性対照C2。
【
図16】
図16は、陰性対照、ヒト用エキス又は動物用エキス2と24時間(IL-10)又は48時間(IFN―γ)インキュベーション後のアトピー群及び対照群の末梢血単核細胞(PBMC)によって産生されたIL-10及びIFN―γを示す(有意差(p値)は中央値及び四分位範囲を示す各グラフ中に示されている)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中に記載の方法によって、コナヒョウヒダニ(D.farinae)に起因するアトピー
性皮膚炎を患う哺乳動物の血清サンプルのIgE結合増大を示す動物用ダニアレルゲンエキスが得られる。
【0011】
本発明のアレルゲンエキスは、動物においてIgE媒介性免疫反応を引き起こすことが知られているダニアレルゲンを含む任意の原料物質から誘導される。特に、該原料物質は、イヌにIgE媒介性免疫反応を引き起こすことが知られているダニアレルゲンである。
【0012】
本発明の第一の側面において、50kDaより大きい分子量を有するタンパク質に富む動物用ダニエキスを提供する。
一態様において、動物用ダニエキスは、コナヒョウヒダニから誘導される。
【0013】
一態様において、動物用ダニエキスは、ヒト用エキスに比べて、アレルゲンDer f
15及びDer f 18に富む。アレルゲンDer f 15及びDer f 18は、アトピー犬におけるコナヒョウヒダニの主アレルゲンであると共に、他のダニ種、例えばヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)中の重要なアレルゲンでもありうる。
【0014】
一態様において、該エキスは、ヒト用エキスに比べて、低レベルのアレルゲンDer f 1及びDer f 2を有する。エキス中に存在するアレルゲンのレベルは、SDSからデンシトメトリー分析によって決定できる。Der f 1及びDer f 2の場合、これらのアレルゲンは、Indoor Biotechnologies Inc社(米国バージニア州シャーロッツビル)から入手できるような市販のキットによって定量することもできる。
【0015】
“富化された”という用語は、ヒト用エキスと比べた場合に、50kDaより大きい分子量を有するタンパク質の濃度が高い、特にSDSからデンシトメトリー分析による決定で高レベルのアレルゲンDer f 15及びDer f 18を有する動物用ダニアレルゲンエキスを意味する。
【0016】
“ヒト用エキス”という用語は、本明細書中に開示された工程a)~d)から得られるエキスを意味するが、ここでは、工程c)で、3kDaの分子量カットオフ透析膜を使用し、およそわずか1barの圧力を印加することにより、3kDa未満のサイズを有する分子が除去される。
【0017】
一態様において、50%阻害ELISA IgEアッセイで、本発明の第一の側面の動物用ダニアレルゲンエキスは、ヒト用エキスより、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2.0倍、最も好ましくは2.0~2.5倍効果的である。
【0018】
別の態様において、イムノブロットデンシトメトリー分析で、動物用ダニアレルゲンエ
キス中のDer f 15の濃度は、ヒト用エキスより、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2.0倍、最も好ましくは2.0~3.0倍高く、及び/又はその場合においてDer f 18の濃度は、ヒト用エキスより、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2.0倍、最も好ましくは2.0~3.5倍高い。
【0019】
さらに別の態様において、動物用ダニアレルゲンエキスは、組換えDer f 15及びDer f 18を含み、好ましくはその組換えDer f 15及びDer f 18は、非組換えDer f 15及びDer f 18とそれぞれ少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%の相同性を有し、動物用ダニアレルゲンエキスは、末梢血単核細胞中のIFN-γ及びIL-10の発現をアップレギュレートする。
【0020】
組換えタンパク質は、本発明によれば、細菌、酵母、昆虫、植物、鳥類又は哺乳動物発現系などのタンパク質発現系を用いて発現させることができる。適切な系は当業者にはよく知られている。タンパク質の発現及び精製は、当業者に公知のように、例えば構造ゲノミクスコンソーシアム(Structural Genomics Consortium)らによる“タンパク質の製造と精製(Protein Production and Purification)”,Nature methods,5,
2,135(2008)に概説されているように実施される。
【0021】
本発明の更なる側面において、動物用ダニアレルゲンエキスの製造法を提供し、該方法は、
a)ダニアレルゲンを含む原料物質をアレルゲン抽出剤と接触させて、液相中に溶解されたアレルゲンと、非アレルゲン残渣を含む固相との混合物を製造し;
b)該混合物を分離工程に付して、液相中に溶解されたアレルゲンを単離して粗アレルゲンエキスを製造し;
c)該粗アレルゲンエキスを中分子画分除去工程に付して、50kDa未満のサイズを有する分子を除去し、そして除去工程中1.8barの圧力を印加し;
d)工程c)を、3~5℃で、アレルゲンエキスが1050μs/cm未満の導電率を有するまで、及び/又は特定量の蒸留水が使用されるまで実施して、富化アレルゲンエキスを得る
ことを含む。
【0022】
原料物質は、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ及びシワチリダニ(Euroglyphus maynei)の種を含むヒョウヒダニ科(family Pyroglyphidae)、及び/又はコナダニ科(family Acaridae)から選ぶことができる。
【0023】
一態様において、原料物質はコナヒョウヒダニである。
本発明の好適な態様において、原料物質は、>80%のコナヒョウヒダニ虫体を有するダニ培養物である。原料物質の残りのパーセンテージはダニの糞及び/又は培地を含みうる。ダニ虫体のパーセンテージは、顕微鏡下でダニ培養物を観察し、ダニ培養物中の他の粒子に対してダニ虫体の数を数えることによって決定できる。
【0024】
アレルゲンは、原料物質から、アレルゲン抽出剤で抽出して、液相中に溶解されたアレルゲンと“不要の”非アレルゲン残渣を含む固相とを含む粗アレルゲンエキスを製造することによって得られる。アレルゲン抽出剤は水溶液であり得、好ましくは緩衝剤を含む。アレルゲン抽出剤は、PBS及び/又はNaCl、例えば0.01MのPBS/0.15MのNaClの溶液、又は炭酸水素アンモニウム(NH4)HCO3及び/又はNaCl、例えば0.125Mの(NH4)HCO3/0.15MのNaClの溶液を含みうる。原料物質は、アレルゲン抽出剤中で、アレルゲン抽出剤の重量が原料物質の重量を上回る任意の比率、例えば1:2、1:3、1:5、1:10、1:20、1:50、1:80で抽出されうる。好ましくは、原料物質は、アレルゲン抽出剤中で、1:10の原料物質:アレルゲン抽出剤(wt/wt)の比率で抽出される。抽出工程(工程a)における原料物質対アレルゲン抽出剤の比率は変動しうるが、原料物質残渣中のアレルゲンがアレルゲン抽出剤中に溶解できるようなものにすべきである。アレルゲン抽出剤による原料物質の抽出は、好ましくは、原料物質残渣中のアレルゲンがアレルゲン抽出剤中に溶解するのに足る時間実施され、それは、30分~12時間、好ましくは1~6時間、さらに好ましくは2~5時間、最も好ましくはおよそ4時間でありうる。アレルゲン抽出工程は20~25℃で実施できるが、好ましくは2~6℃、最も好ましくは3~5℃の低温で実施される。アレルゲン抽出工程中、原料物質は好ましくはアレルゲン抽出剤と共にかき混ぜる又は撹拌される。
【0025】
アレルゲン抽出工程後、液相中に溶解されたアレルゲンを原料物質残渣から分離して、粗アレルゲンエキスを製造する。分離工程は、好ましくは遠心分離であるが、液体から固体を分離するための多くの技術が適用可能であり、これらは当業者に周知である。好ましくは、液相中に溶解されたアレルゲンは、2~6℃、好ましくは3~5℃で、原料物質残渣がペレットとして沈降するのに足る時間、例えば1分~1時間、又は1時間を超えて遠心分離される。粗アレルゲンエキス(すなわち溶解アレルゲンを含有する上清)は2~6℃で保存できる。原料物質残渣ペレットは、最初のアレルゲン抽出工程(工程a)と同じ条件を用い、好ましくはより長い抽出時間、例えば4~8時間、8~12時間、又は12時間を超えて、アレルゲン抽出剤でさらに抽出されてもよい。第二のアレルゲン抽出工程後、液相中に溶解されたアレルゲンを原料物質残渣から分離して、粗アレルゲンエキスを製造する。第一及び第二のアレルゲン抽出工程からの粗アレルゲンエキスは、好ましくは更なる処理のためにプールされる。
【0026】
粗アレルゲンエキスは、例えば0.8~1.2μm細孔径のフィルタを用いてろ過できる。粗アレルゲンエキスは、その後、中分子画分除去工程に付され、中分子サイズを有する分子、例えば低分子量アレルゲン、塩及びその他の非アレルゲン化合物が除去される。工程c)で、50kDa未満の分子サイズを有する分子が除去できる。
【0027】
中分子画分除去工程中、圧力は1.2~1.8barに固定される。中分子画分除去工程中に約1.2~1.8barの圧力を印加する工程は本発明にとって重要である。先行技術の1barでの抽出法と比べて高い圧力の印加は、工程の効率を改良する。好ましくは、圧力は1.8barに固定される。
【0028】
中分子画分除去工程は、好ましくは、アレルゲンエキスの導電率が1050μS/cm未満、又は900μS/cm未満、又は800μS/cm未満、又は700μS/cm未満、又は600μS/cm、又は好ましくは500μS/cm未満(室温での測定)になるまで3~5℃で継続される。さらに、又はあるいは、中分子画分除去工程は、特定量の蒸留水が使用されるまで継続される。透析ろ過に必要な蒸留水の適切な量(体積)は、次式:ろ過エキスのml数×10=蒸留水の量 を用いて計算できる。この結果、高分子量タンパク質に富む精製天然アレルゲンエキスが得られる。
【0029】
中分子量除去工程は、限外ろ過工程、透析ろ過工程、透析工程、又はろ過を含む。好ましくは、中分子量除去工程(工程c)は透析ろ過工程を含む。
得られた天然アレルゲンエキスは、例えば0.22μm細孔径を用いてろ過され、貯蔵のために凍結又は凍結乾燥されうる。
【0030】
本発明はさらに、動物のダニアレルギーの治療及び動物のダニアレルギーの診断用エキスも含み、どちらも活性成分として本発明の方法によって製造されるアレルゲンエキスを含む。動物のダニアレルギーは、本明細書中で論じているようにIgE媒介性アレルギー
反応を引き起こすコナヒョウヒダニなどのダニアレルゲンへの暴露と関連付けることができる。
【0031】
本発明の更なる側面に従って、本明細書中に記載の方法に従って得られる又は得ることが可能な動物用ダニアレルゲンエキスを提供する。
動物用ダニアレルゲンエキスは、動物のダニアレルギーの治療に使用できる。好適な態様において、該アレルゲンエキスはイヌのダニアレルギーの治療に使用できる。別の好適な態様において、該アレルゲンエキスはネコのダニアレルギーの治療にも使用できるが、この場合、ネコは、イムノブロットアッセイで、分子量が40kDaより高く、Der f 15及びDer f 18又は組換えDer f 15及びDer f 18を含む(好ましくは、組換えDer f 15及びDer f 18は、非組換えDer f 15及びDer f 18とそれぞれ少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%の相同性を有する)コナヒョウヒダニアレルゲンと反応する血清IgE抗体を含む。
【0032】
本発明のアレルゲンエキスは、下記の物理化学的及び生物学的性質によって特徴付けることができる。
i.コナヒョウヒダニヒト用エキスと比べて、Bradford法による測定で、タンパク質含量の増大;
ii.ヒト用エキスと比べて、30kDa未満の分子量を有するタンパク質含量の低減(還元条件下でのSDS-PAGEによりバンドとして識別)、ただし約20kDaのバンドは動物用エキスにも依然存在する;
iii.ヒト用エキスと比べて、Indoor社の定量ELISAキットによる測定で、D
er f 1(約30kDa)及びDer f 2(約15kDa)含量の低減;
iv.ヒト用エキスと比べて、還元条件下でのイムノブロットによる同定で、30kDa未満の分子量を有するIgE認識バンドの減少(約20kDaのバンドを除く);
v.ヒト用エキスと比べて、サイズ排除クロマトグラフィーによる測定で、分子量(MW)分布プロフィールの変更;
vi.ヒト用エキスと比べて、感作個人の特定血清プールを使用したIgE ELISA実験による測定で、IgE結合の増加;
vii.質量分析による同定で、イヌの主アレルゲンであるDer f 15及びDer
f 18の存在;
viii.ヒト用エキスと比べて、ターゲットプロテオミクスによる相対的タンパク質定量による測定で、Der f 15含量の増加;
ix.ヒト用エキスと比べて、感作個人の特定血清プールを使用したイムノブロットデンシトメトリー分析による測定で、Der f 15及びDer f 18含量の増加;
x.ヒト用エキスと比べて、感作個人の特定血清プールを使用したELISA 50%阻害アッセイによる測定で、生物学的効力(biological potency)の増大;
xi.コナヒョウヒダニに感作されたイヌの末梢血単核細胞におけるIL-10及びIFN-γサイトカイン産生の誘導。
【0033】
本発明のアレルゲンエキスは、ある種のダニアレルゲンに対する寛容を誘導することを目的として、アレルギー動物を治療するための医薬の活性成分として使用することができる。
【0034】
本発明によるアレルゲンエキスを、免疫障害の診断、好ましくはアレルギー性疾患の検出に使用することを提供する。本発明によるアレルゲンエキスを、ダニアレルギーの治療又はダニアレルギーの治療のための医薬の製造に使用することを提供する。使用は免疫療法のための使用でありうる。使用は、標準化、診断、合成及びワクチン接種を目的とした使用でありうる。使用は、動物の療法的治療、好ましくは免疫療法における使用でありう
る。使用は、免疫療法中の動物のモニタリングにおける使用でありうる。
【0035】
本発明の更なる側面に従って、本発明によるアレルゲンエキスを含む医薬組成物を提供する。また、活性成分として薬学的に有効な量の本発明による動物用ダニアレルゲンエキスと少なくとも一つの薬学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含むダニアレルギー治療のための医薬組成物を提供する。活性成分として診断学的に有効な量の本発明によるアレルゲンエキスを含むダニアレルギーの診断用組成物も提供する。
【0036】
本発明の更なる側面に従って、本発明による動物用ダニアレルゲンエキスを含むワクチンを提供する。医薬組成物及びワクチンはさらに、一つ又は複数のアジュバント、希釈剤、保存剤又はそれらの混合物を含みうる。医薬組成物又はワクチンは、生理学的に許容可能な担体を含みうる。本明細書において使用されている“薬学的に許容可能な”という語句は、好ましくは、政府の規制機関によって認可されているか、又は、欧州もしくは米国薬局方もしくは動物に使用するための別の一般的に承認されている薬局方に掲載されていることを意味する。
【0037】
そのような薬学的に許容可能な担体は、無菌の液体、例えば、水、及び石油由来、動物由来、植物由来又は合成由来のものを含む油、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などでありうる。生理食塩水及び水性デキストロース及びグリセロール溶液も液体担体として、特に注射用溶液として使用できる。適切な薬学的賦形剤は、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール水、エタノールなどである。
【0038】
本発明の第一の側面の方法に従って得ることができるワクチンを提供する。ワクチンは、皮下用、舌下用又は経皮(epicutaneous)用でありうる。
本発明によるワクチンの、ダニアレルギーの治療又はダニアレルギーを治療するための医薬の製造における使用を提供する。
【0039】
本発明の更なる側面に従って、アレルゲン感作の予防法を提供し、該方法は、動物を本発明の有効量のアレルゲンエキス、医薬組成物又はワクチンに暴露する手順を含む。
本発明の更なる側面に従って、感作哺乳動物におけるダニアレルギーの治療法を提供し、該方法は、該哺乳動物に、本発明の有効量のアレルゲンエキス、医薬組成物又はワクチンを投与することを含む。アレルゲンエキス、医薬組成物又はワクチンは、皮下又は舌下投与でき、増量しながら又は一定の投与量で投与できる。“哺乳動物”という用語はヒトを除く。
【0040】
好ましくは、哺乳動物はイヌである。好ましくは、哺乳動物はネコであるが、この場合、ネコは、イムノブロットアッセイで、分子量が40kDaより高く、Der f 15及びDer f 18又は組換えDer f 15及びDer f 18を含む(好ましくは、組換えDer f 15及びDer f 18は、非組換えDer f 15及びDer f 18とそれぞれ少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、なおさらに好ましくは少なくとも90%の相同性を有する)コナヒョウヒダニアレルゲンと反応する血清IgE抗体を含む。
【0041】
本発明を、アレルゲンを含むエキスの製造法について詳述した以下の実施例によって説明する。
【実施例0042】
エキス製造に使用される原料物質(原料と呼ぶこともできる)は、Laboratorios LETIによって培養され、市販されている>80%のコナヒョウヒダニ虫体を含むダニ培養物であった。以下の方法に従って3つの動物用エキスを製造した。
【0043】
A.抽出I
・抽出する原料を秤量し、重量を書き留めた;
・必要な抽出剤の体積を次式:
原料(g)×20=抽出剤(ml)
を用いて計算した;
・前の手順で計算した抽出剤体積の半量とともに原料を容器に入れ、3~5℃で4時間、磁気撹拌しながら抽出した:
抽出剤(全体積)(ml)÷2=抽出剤(体積I)(ml);
・混合物を、10,000rpm、5℃で、少なくとも30分間遠心分離した;
・次に、上清を回収し、その体積を書き留めた。上清はラベル付き密閉容器の中で3~5℃に維持した。最大透明度を確保するために、ペレットの残りが上清に移動しないように注意を払った。
【0044】
B.抽出II
・抽出Iのペレットを残りの抽出剤体積(体積II)とともに容器に加えた。混合物を3~5℃で少なくとも8時間、撹拌しながら抽出した;
・次に、混合物を、10,000rpm、5℃で、少なくとも30分間遠心分離した;
・上清を回収し、その体積を書き留め、ペレットを廃棄した;
・抽出I及びIIの上清を合わせ、合計体積を書き留めた;
・合わせた上清を0.8~1.2μmフィルタを通してろ過した。ろ過後に得られた体積を書き留めた。
【0045】
C.透析ろ過
・エキス溶液の透析ろ過を50kDaの限外ろ過カセット膜で実施した。この工程で、50kDa未満の分子サイズを有する分子は除去された;
・透析ろ過に必要な蒸留水の体積を、次式:
ろ過エキスのml数×10=蒸留水の体積
に従って計算した;
・透析ろ過の開始後は圧力を1.8barに固定し、エキス溶液は一定撹拌しながら氷上に維持した;
・次に、透析ろ過エキスの導電率をチェックし、1050μS/cm未満になっているかどうか調べた。導電率が高ければ、追加量の水を用いて透析ろ過を継続した;
・透析ろ過エキスを0.22μmフィルタを通してろ過した;
・次に、ろ過エキスを分割してトパーズクリスタルバイアルに入れ、その後-80℃に凍結した。バイアルは、最大15日間、-40℃以下に維持した;
・次に、エキスを凍結乾燥した。
【0046】
最終生成物は、凍結乾燥された動物用エキスからなり、凍結乾燥状態で4℃で保存される。
免疫化学的特性分析
タンパク質含量
タンパク質含量は、Bradford法により、製造業者の説明書に従って決定された。
【0047】
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
タンパク質プロフィールを、SDS-PAGEにより、アクリルアミド-ビスアクリルア
ミドゲル(2.67%C、15%T)中、還元条件下(サンプルをβ-メルカプトエタノールとインキュベート、95℃で10分間加熱)で同定した。サンプルと低分子量標準(BioRad Laboratories社、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を同じゲル中で泳動させた。ゲルを0.1%クマシーブリリアントブルーR-250(BioRad社)で染色した。タンパク質プロフィールは、Any kD TGXゲル(BioRad)でも分析された。サンプル、HiMark予備染色マーカー(Life Technologies社、米国カリフォルニア州)及び広領域分子量標準(Bio-Rad社)を同じゲル中で泳動させた。
【0048】
2D
2-D電気泳動の場合、エキスは、40%及び80%の飽和パーセントが達成されるまで、二つの別工程で硫酸アンモニウム溶液を用いて精製及び濃縮された。次に、サンプルを遠心分離し、ペレットを回収して、超純水中で再構成した。濃縮エキスを、ReadyPrep 2-D Cleanup Kit(BioRad社)を用い、製造業者の説明書に従って洗浄した。タンパク質を、Protean IEF Cell(BioRad社)を用い、3~10のpH範囲でReadyStrip IPGストリップ(BioRad社)上にそれらの等電点に従って分離した。一次元目の後、ストリップをReadyPrep 2-D Kit緩衝液(BioRad社)で平衡化し、二次元目でタンパク質をそれらの分子量に従って第二次元に分離した。ゲルを、製造業者の説明書に従って、Oriole蛍光溶液(BioRad社)で染色した。
【0049】
炭水化物含量
炭水化物含量の決定は“Current Protocols in Food Analytical Chemistry E.1.1.1.-E.1.1.8,Eric
Fourier(2001)”に記載の手順に基づく。簡潔に述べると、異なるグルコース濃度(0~1mg/ml)の標準曲線と、4mg/mlのダニエキスを起点とした少なくとも4種類の希釈を調製した。0.5ml体積の4%フェノールと2.5mlのH2SO4を全サンプルに加え、室温で20分間、渦撹拌及びインキュベートした。次に、495nmで吸光度を測定した。グルコースサンプルの結果を用いて標準曲線を得、サンプル濃度を補間して結果を得た。
【0050】
エンドトキシン含量
エンドトキシン含量(EU/ml)は、カブトガニ血球抽出物(Limulus Amebocyte Lysate)アッセイに基づく測色技術により、Endoscan Vシステム(Charles River Laboratories社)を用いて決定した。この目的のために、サンプルをエンドトキシンを含まない水中に1mg/mlで溶解し、1/100希釈及び1/500希釈を調製した。
【0051】
酵素活性
19種類の異なる酵素(後述)の酵素活性を、APY-Zym System(Biomerieux社)を用い、製造業者の説明書に従って、コナヒョウヒダニエキス中で評価した。さらに、キチナーゼ活性もChitinase Assay Kit(Sigma-Aldrich社)を用い、製造業者の説明書に従って分析した。
【0052】
イムノブロット
電気泳動的に分離されたタンパク質(SDS-PAGEによる)をPVDF(ポリビニリデンジフルオリド)膜(Trans-Blot(登録商標) Turbo TM Transfer Pack,BioRad社)に転写し、リン酸緩衝液(PBS)0.01mol/L-Tween 0.1%中5%スキムミルクで1時間ブロックし、0.01M
PBS-0.1%Tween中に希釈された、アレルゲンに陽性のイヌの血清と一晩イ
ンキュベートした。エキスに対する特異的IgE結合を、ペルオキシダーゼ結合抗体、抗イヌ-IgE-PO(Abd Serotec社)で検出し、ルミノール溶液(Western Immun-StarTM Western CTM Kit,Bio-Rad社)で発現させ、化学発光により検出した(ChemiDoc XRS,Bio-Rad社)。
【0053】
主アレルゲン定量
主アレルゲンは、酵素結合免疫吸着アッセイ検出キット(Indoor Biotechnologies社、米国バージニア州)を用い、ELISAサンドイッチ法を用いて定量した。簡潔に述べると、Nunc Maxisorpプレート(Thermo Scientific社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)に、炭酸塩/炭酸水素塩緩衝液(pH=9.6)中に希釈された特異的モノクローナル抗体をコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。その後、プレートを、PBS 0.01M-Tween 0.05%中のBSA(ウシ血清アルブミン)1%でブロックした。次に、サンプル及び標準をPBS 0.01M-Tween 0.05%中BSA 1%で段階的に1/2希釈して加えた。二次特異的モノクローナル抗体(ビオチン化)を加え、最後にストレプトアビジンを使用した。硫酸で停止後、発色溶液(色素源)との反応を光学濃度(OD)450nmで測定した。最小二乗法により4パラメーターロジスティックフィットを用いて標準曲線を得た。ここにサンプル濃度を補間して結果を得た。
【0054】
ELISAアッセイ
コナヒョウヒダニに対する特異的IgEを直接ELISA法によって血清プールで測定した。簡潔に述べると、マイクロプレート(Immulon IV;Thermo Scientific社)に、同量のコナヒョウヒダニエキスのタンパク質をコーティングし、室温で一晩インキュベートした。プレートを、PBS 0.01mol/L-Tween 0.1%中5%スキムミルクで1時間ブロックした。血清プールを段階的に希釈し、2時間インキュベートした。洗浄後、ヤギ抗イヌIgE:HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)からなる二次抗体(1:10000希釈)を加えた。最後に、マイクロプレートを洗浄し、反応を発色させ、ODを自動ELISAプレートリーダーで450nmで測定した。
【0055】
サイズ排除クロマトグラフィー
エキスを、40mMのpH7.4リン酸緩衝液;NaCl 150mMに溶解し、0.45μmフィルタを通してろ過した。エキスのタンパク質1mgをSuperdex 75 16/60(GE Healthcare社)カラムに装填し、AKTAエクスプローラーシステム(GE Healthcare社)で分析した。280nmにおける吸光度を120分間記録し、クロマトグラムをUnicornソフトウェアで解析した。
【0056】
アレルゲン同定
SDS-PAGEゲル(クマシー染色)からバンドを切り取り、DTT 10mMで還元し、ヨードアセトアミドで処理し、トリプシンで消化した。得られたペプチドを、5600 TRIPLE TOFF質量分光光度計に接続された液体クロマトグラフィーによって分析した。生データは、NCBIのダニ目(Acari)データベースに対してMASCOTサーバーを用いて分析された。
【0057】
相対的タンパク質定量
タンパク質消化:エキスを50mMのNH4HCO3(pH8.5)中に再懸濁させた。タンパク質を超音波プローブ分離-可溶化(ultrasonic probe disgregation-solubilization)によって抽出し、沈殿させ、ペレットを8Mの尿素/50mMのNH4HCO3(pH8.5)中に再懸濁させた。タンパク質を還元し(DTT 20mM)、アルキル化
した(ヨードアセトアミド 35mM)。その後、サンプルをブタトリプシンで消化し、浄化し、乾燥させ、次のナノUPLC-質量分析による分析まで-20℃で保存した。
【0058】
LC-MSMS分析:ペプチド混合物を、LTQ-Orbitrap Velos(Thermo Scientific社)質量分析計に接続されたnanoAcquity液体クロマトグラフィー装置(Waters社)で分析した。ペプチドはSymmetry C18TMトラップカラム(Waters社)にトラップされ、C18逆相キャピラリーカラム(Waters社)を用いて分離された。
【0059】
データ依存解析(DDA):溶出ペプチドを、エミッタニードル(PicoTipTM,New Objective社)でエレクトロスプレーイオン化に付した。ペプチド質量(m/z 300~1700)を、フルスキャンMSがOrbitrapに取得されるデータ依存モードで解析した。生成した生データファイルをThermo Xcalibur(v.2.2)で収集し、コナヒョウヒダニのデータベースに対して検索した。
【0060】
ターゲット分析:取得データと検索をSkyline(v.3.1)で評価した。試験期間中安定であると証明されたことが高い信頼性で確認されたペプチドが選択された。サンプルは、定量化の目的のために、並列反応モニタリング-ターゲットMS/MS (Parallel Reaction Monitoring-Targeted MS/MS)法で三重に取得された。標準化の目的のためにフィブリノペプチドB標準(Glufib)(Waters社)を各サンプルに加えた。
【0061】
照会(query)サンプル(動物用エキス)を、スチューデントT-検定を用い、ペプチド
レベルで95%の信頼度で、二つの条件間の統計的有意性を利用することにより、対照サンプル(ヒト用エキス)に対して比較した。
【0062】
ELISA効力アッセイ
簡潔に述べると、マイクロプレート(Immulon IV;Thermo Scientific社)に、動物用コナヒョウヒダニエキス(2μg/ウェル)をコーティングし、室温で一晩インキュベートした。プレートを、PBS 0.01mol/L;Tween 0.1%中5%スキムミルクで1時間ブロックした。阻害アッセイの場合、血清をNuncプレート(Thermo Scientific社)で2時間、段階希釈された阻害エキスとともにプレインキュベートした後、Immulon IVに加えた。血清プールを2時間インキュベートした。洗浄後、ヤギ抗イヌIgE:HRPからなる二次抗体(1:10000希釈)を加えた。最後に、マイクロプレートを洗浄し、反応を発色させ、自動ELISAプレートリーダーで450nmで光学濃度(OD)を測定した。血清の阻害パーセントは、50%阻害を生じるμgを計算するために、対数μgエキスに対して表された。
【0063】
ネコイムノブロット
動物用及びヒト用コナヒョウヒダニエキスを電気泳動的に分離し(SDS-PAGEによる)、PVDF(ポリビニリデンジフルオリド)膜(Trans-Blot(登録商標) Turbo TM Transfer Pack,BioRad社)に転写し、膜を室温で乾燥させることによって1時間ブロックし、0.01M PBS中1/6に希釈されたネコ由来血清と一晩インキュベートした。エキスに対する特異的IgE結合を、膜をビオチン化抗体抗ネコIgE(Greer社)と2時間インキュベートして検出し、次いでストレプトアビジンと1時間インキュベートし、ルミノール溶液(Western Immun-StarTM Western CTM Kit,Bio-Rad社)で発現させ、化学発光により検出した(ChemiDoc XRS,Bio-Rad社)。
【0064】
SDS-PAGE
凍結乾燥サンプルのタンパク質10μgを、SDS-PAGEにより、還元条件下、15%アクリルアミドゲル(
図1)及びTGX市販ゲル(Bio-Rad社)(
図2)を用いて分析した。サンプル中に確認された主アレルゲンを図に示す。
【0065】
動物用エキス1、2及び3に同じタンパク質プロフィールが観察され(
図1)、ヒト用エキスと比べて、Der f 2バンド(約15kDa)及びDer f 1バンド(約30kDa)に顕著な減少と、40kDaより高いタンパク質の強度に増加が見られた。以前の研究でフェリチンと確認された約20kDaのバンドも、ヒト用エキスと比べて3つの動物用エキスでさらに強かった。
【0066】
TGXゲル(
図2)に関しても、エキス1、2及び3に同じタンパク質プロフィールが観察された。さらに、ヒト用エキスと動物用エキスの間の関係アレルゲンに同じ差異も観察された。
【0067】
2D
動物用エキスのタンパク質プロフィールの分析に関する追加の研究として、2D電気泳動を実施した。各エキスの同量のタンパク質を浄化し、SDS-PAGEにより分析した(
図3)。
【0068】
次に、各サンプル170μgを一次元目の等電点分画電気泳動に付した。次に、全エキスをSDS-PAGE及びOriole染色により、二次元目に付した。
図4に示されている通り、3つの動物エキスについてほぼ同一のタンパク質プロフィールが得られた。ヒト用エキス(ヒト用エキスの2Dタンパク質プロフィールは以前の研究から得られた)に比べて、動物用エキスでは、酸性pHで20~100kDaのタンパク質の割合が高いことが観察された。
【0069】
サイズ排除クロマトグラフィー
最後に、ヒト用エキスと比較した動物用エキスのMW分布の変更についての追加分析として、全サンプルをサイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。各エキスの同量のタンパク質(1mg)をSuperdex 75 16/60カラムに注入し、AKTAエクスプローラーシステムで分析して、非還元条件下で各サンプルのMW分布を得た。エキスをリン酸緩衝液40mM pH7.4 NaCl 150mM中に溶解し、およそ2mlの体積をカラムに注入した。全エキスについて得られたクロマトグラフィープロフィールを
図5に示す。
【0070】
すべてのエキスで2つの主クロマトグラフィーピークが観察された。一つはおよそ56分時点で、二つ目は100分時点である。しかしながら、動物用エキスのクロマトグラフィープロフィール(
図5B~D)をヒト用エキスで得られたもの(
図5A)と比較すると、動物用エキスは、遅い方の溶出時間で280nmの吸光度シグナル(ピーク2)に低下を示した。これは低MWタンパク質に対応する。他方、高MWタンパク質を含有するピーク1は、ヒト用エキスと比べて動物用エキスで増大した。
【0071】
主アレルゲン定量
ヒトの主アレルゲンであるDer f 1及びDer f 2を、ヒト用エキスと比較して3つの動物用エキスで定量した。μg/mg凍結乾燥エキスで表された両アレルゲンの平均含量を表1に示す。
【0072】
表1:ヒト用エキスと動物用エキス(n=2)のDer f 1及びDer f 2含量(μg/mg±SD)
【0073】
【0074】
Der f 1は3つの動物用エキス中に4μg/mg未満で、ヒト用エキスに対して平均で4.5倍の減少を経験した。Der f 2はすべての動物エキス中で1.5μg/mg未満であることが見出され、ヒト用エキスと比べて22倍の減少を示した。
【0075】
炭水化物含量
全エキスについて、グルコースに相当する炭水化物含量は、硫酸とフェノールを試薬として用いる分光光度法によって決定された。μgグルコース/mg凍結乾燥エキスで得られた結果を表2に示す。
【0076】
表2:ヒト用エキスと動物用エキス(n=2)のグルコース含量(μg/mg±SD)
【0077】
【0078】
3つの動物用エキスはヒト用エキスと比べて非常に類似した炭水化物含量を示したが、エキス3はアッセイ間の変動(ばらつき)が大きかった。
エンドトキシン含量
エンドトキシン中のエキスの含量を決定した。4つのエキスを1mg/mlの濃度で溶解した。各ケースで1/100及び1/500の希釈を使用した。表3に、各希釈及び各エキスについて得られた、EU/ml及びEU/mg凍結乾燥エキスで表された平均エンドトキシン含量を示す。
【0079】
表3:ヒト用及び動物用エキス(n=2)のエンドトキシン含量
【0080】
【0081】
エキス1は、試験された二つの希釈間で大きい変動を示した。しかしながら、すべてのエンドトキシン含量値は、30~90EU/mg凍結乾燥エキスの類似範囲内にあり、エキス間の差異は、各エキスの製造に使用された異なる原料によるものと思われる。
【0082】
酵素活性
ほとんどのダニアレルゲンは酵素活性を有している。そのため、エキスの酵素活性を分析することは重要である。API-ZYMシステムを用いて19種類の異なる酵素、すなわち、アルカリホスファターゼ、エステラーゼ(C4)、エステラーゼリパーゼ(C8)、リパーゼ(C14)、ロイシンアリルアミダーゼ、バリンアリルアミダーゼ、シスチンアリルアミダーゼ、トリプシン、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、α-グルクロニダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ、α-マンノシダーゼ、及びα-フコシダーゼの活性を評価した。サンプルは蒸留水中タンパク質1mg/mlで調製した。各サンプルを基質とインキュベーション後、酵素活性を10分間発現させた。結果を、取扱説明書に従って0~5の範囲で光学的に解釈した(0は無色を意味し、5は非常に強い色を意味する)。2以下の結果は陰性と見なされた。様々な酵素活性の半定量的測定結果は、分析された酵素の種類に応じてグループ分けされた。
【0083】
ホスファターゼ(表4)は全エキスで陽性で、最も強い活性は酸ホスファターゼで見られた。ヒト用エキスと動物用エキスの間に差は見出されなかった。
表4:APIZYMによって測定されたヒト用及び動物用エキスのホスファターゼ活性
【0084】
【0085】
プロテアーゼに関しては(表5)、いずれのエキスにもシステインアリルアミダーゼ活性は見られなかったが、バリン及びロイシンアリルアミダーゼは全エキスで陽性かつ同様
であった。トリプシン活性は、ヒト用エキスに比べて動物用エキスでは低いか又はさらには陰性であり、α-キモトリプシンは全エキスで陽性であった(これは、ヒト用コナヒョウヒダニエキスでα-キモトリプシン活性を見出さなかったMoralesらの結果(Enzymatic Activity of Allergenic House Dust and Storage Mite Extracts,J.Med.Entonol.,2013,50,147-54)とは対照をなす)。
【0086】
表5.APIZYMによって測定されたヒト用及び動物用エキスのプロテアーゼ活性
【0087】
【0088】
表6にはリパーゼに関する情報が含まれている。リパーゼ活性はエキスに見出されなかったが、エステラーゼ及びエステラーゼリパーゼは、エキス2がエステラーゼに関して陰性であった以外、全エキスで陽性かつ同様であった。
【0089】
表6.APIZYMによって測定されたヒト用及び動物用エキスのリパーゼ活性
【0090】
【0091】
最後に、表7にグルコシダーゼ活性をまとめた。この活性は全エキスで明白であり、試験された酵素の全タイプについて陽性であった。ヒト用と動物用エキスの間に関連性のある差異は見出されなかったが、β-ガラクトシダーゼとα-グルクロニダーゼは、ヒト用エキス(レベル4)と比べて、すべての動物用エキスでAPIZYMレベル5を示した。
【0092】
表7.APIZYMによって測定されたヒト用及び動物用エキスのグルコシダーゼ活性
【0093】
【0094】
従って、一般に、酵素活性に関してヒト用エキスと動物用エキスとの間には何らかの差異があったと言うことができる。この結果は、動物用エキス中のある種のタンパク質(その多くはおそらく酵素活性を有していた)が透析過程中に失われたことによって説明される。他方、3つの動物用エキスは非常に類似した酵素活性プロフィールを示し、製品の高い一貫性を示している。
【0095】
APIZYMシステムに加えて、エキスのキチナーゼ活性も、キチナーゼアッセイキット(Sigma-Aldrich社)を用い、製造業者の説明書に従って評価した。このキットは、キチナーゼ基質の酵素的加水分解を基にしたもので、これによってp-ニトロフェノールが放出され、それが塩基性pHで405nmで測定できる。キットは、様々なタイプのキチン分解活性を検出するために、3種類の異なる基質を提供している。サンプルは試験のために5mg/mlの濃度で調製された。表8に、各サンプルについての及び加水分解された各基質に対するキチナーゼ活性を示す。
【0096】
表8.3種類の異なる基質に対するヒト用及び動物用エキスのキチナーゼ活性(n=2)
【0097】
【0098】
基質1:4-ニトロフェニル N-アセチル-β-D-グルコサミニド;基質2:4-ニトロフェニル N,N’-ジアセチル-β-D-キトビオシド;基質3:4-ニトロフェニル β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオース。
【0099】
基質1と3に関しては、エキス間で、キチナーゼ活性のmU/mgタンパク質に関連性のある差異はなかった。基質3については、アッセイ間で高い標準偏差が観察されたが、
おそらく異なるインキュベーション時間のためであろう。基質2は、エキソキチナーゼ活性検出に適切であるが、動物用エキスに比べてヒト用エキスで高かった。従って、Der
f 15及びDer f 18はキチナーゼであると説明されてきたという事実にも関わらず、動物用エキスにキチナーゼ活性の増大は検出されなかった。
【0100】
アレルゲン同定(質量分析配列決定)
3つの動物用エキス中にイヌの主アレルゲンDer f 15及びDer f 18が存在することを確認するために、109/96kDa(Der f 15)及び60kDa(Der f 18)の予想MWを有するタンパク質バンドをクマシー染色されたSDSゲルから切り取り、CSIC(“Centro Nacional de Biotecnologia”、スペイン、マドリード)のプロテオミクス部門に送った。タンパク質をトリプシンで消化し、得られたペプチドを質量分析により配列決定し、MASCOTにより知識ベースと比較した。
【0101】
図6に、Der f 15(配列番号1)及びDer f 18(配列番号2)から得られた配列を、一致したペプチドにアンダーラインを引いて示す。各動物用エキスの配列包括度(sequence coverage)のパーセンテージも示す。
【0102】
アレルゲンの相対的定量
動物用エキス中にイヌの主アレルゲンDer f 15及びDer f 18の増加が達成されたことを実証するために、ターゲットプロテオミクス(LC-MS/MS)による相対的タンパク質定量のための新しい方法論が開発された。この研究は、“Parc Cientific de Barcelona”(スペイン、バルセロナ)のプロテオミクス部門によって実施された。
【0103】
この目的のために、ヒト用エキスを標準として、動物用エキスのエキス2を照会(query)サンプルとして選択した。どちらのサンプルもトリプシンで消化し、得られたペプチド溶液を上記方法論に従ってナノUPLC-質量分析によって分析した。得られた生のデータファイルをUniprotのコナヒョウヒダニデータベースに対して検索した。Der f 15から3種類及びDer f 18から2種類のペプチド(表9)が、試験(sets)の間を通して安定であり、検出性、分解又は非最適イオン化に関する問題を提起しないことが証明されたので、定量アッセイのために選ばれた。3つの異なる分析で得られた各ペプチドのピーク面積を計算し、統計分析のために使用した。
【0104】
表9.定量アッセイのために獲得されたペプチドの特性分析
【0105】
【0106】
Der f 15については、ヒト用エキスと比べて動物用エキスのエキス2に顕著な
2.97倍の増加、すなわち×2.97があったが、Der f 18については、ヒト用エキスと比べてエキス2に0.24という顕著な倍数変化(fold change)、すなわち×
0.24があった。
【0107】
これらの結果から、動物用エキスは、ヒト用コナヒョウヒダニエキスと比べて、より高含量のDer f 15アレルゲンを含有することが確認された。
イムノブロット
各エキスのタンパク質10μgを、このダニに感作されたイヌの血清プール(1/5に希釈)を用いてイムノブロットによって分析した(
図7)。イムノブロットの結果、ヒト用エキスと動物用エキス間の認識タンパク質プロフィールの変更が確認され、3つのエキス間の一貫性が浮き彫りにされた。
【0108】
直接ELISA法
全エキスは、同じ血清プールを用い、直接ELISA法によっても分析された(各エキスのタンパク質8μg/mlをプレートのコーティングに使用した)。ヒト用エキスに比べて、3つの動物用エキスの場合、より高い特異的IgEレベルが見出された(
図8)。このことは、アトピー性皮膚炎を有するイヌ由来の血清プールの動物用エキスに対するより高い親和性を示している。
【0109】
まとめ
コナヒョウヒダニの3つの一貫性あるエキスの製造及び特性分析から得られた主な結果は次の通りである。
・50k Pellicon(登録商標)膜と高圧を使用した最適化限外ろ過法により、様々な分析法で実証されたような高い一貫性を有する3つのコナヒョウヒダニエキスを得ることができた;
・動物用エキスの製造法における収率は低かったが、ヒト用エキスと比べて高いタンパク質含量を有していた;
・3つのエキスは、ヒト用エキスと比べて、電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー及びヒト主アレルゲン定量によって実証されたように、高MWタンパク質の割合が高く、ヒト主アレルゲンが顕著に少ないという変更されたタンパク質プロフィールを示した;
・炭水化物含量及びエンドトキシン含量などのその他のエキス特性に関しては、ヒト用エキスと動物用エキスとの間に弁別的差異は見出されなかった。ヒト用エキスと動物用エキスとの間で一部の酵素活性にわずかな差異があったが、キチナーゼ活性に関しては、動物用エキスでこの酵素活性の増大はなかった;
・イヌの主アレルゲンDer f 15及びDer f 18は、質量分析により全エキスで確認された。さらに、エキスの特性分析にこれまで使用されたことのない新しい方法論が、ターゲットプロテオミクスによる相対的タンパク質定量のために最適化された。この技術により、動物用エキスの一つで、Der f 15がヒト用エキスと比べてこのサンプルで顕著に増加したことが実証できた;
・免疫学的観点から、このダニに感作されたイヌ由来の血清プールは、ヒト用天然エキスと比べて3つの動物用エキスに高い特異的IgEレベルを示した。
【0110】
動物用コナヒョウヒダニエキスの標準化
1.1 インビボ研究
先の動物用エキス1~3と同様にして製造された動物用エキス4を用いて、コナヒョウヒダニに感作されたイヌで皮内試験をするための溶液を調製した。この目的のために、エキスの溶液を1mg/mlの濃度でSSFA(アルブミン入り生理食塩水フェノール化溶液)中に調製し、撹拌下で2時間維持し、0.22μmフィルタでろ過した。動物用エキス4と共に、ヒスタミン塩酸塩(histamine chlorhydrate)0.05mg/ml(陽性対照)と、陰性対照としてSSFAでイヌを試験した。
【0111】
・研究に含められた動物
アトピー性皮膚炎と臨床診断され、コナヒョウヒダニに対する特異的IgEが>1000ELISA吸光度単位(EAU)(Greer Laboratories社のELISA試験)を示す1~6歳齢の14匹のイヌ。下記の特徴を有するイヌは除外された。すなわち、コルチコイド、シクロスポリンA、免疫抑制化合物で治療されたイヌ;免疫療法で治療されたイヌ;細菌、ウィルス又は寄生虫感染、免疫不全又は免疫病を患うイヌ。
【0112】
インビトロ分析用に各動物から5mlの血清サンプルを採取した。
・皮内試験手順:
50μlの1mg/mlエキス溶液又は対照を、事前に剃毛した動物の胸部に二重に皮内注射した。注射15分後、生じた膨疹を紙に写し取った。
【0113】
・膨疹サイズ分析
膨疹の面積をPC Draft(Microspot社)ソフトウェアを用いて測定した。膨疹サイズは、面積が≧7mm2の場合、陽性と見なされた。
【0114】
結果:
全動物とも動物用エキス4に対して陽性で、平均膨疹サイズは115.3±66.8mm2であった。
【0115】
1.2 インビトロ研究
・
血清サンプルの特性分析
各血清サンプルの特異的IgEを、直接ELISA法(方法論については前述)により、動物用エキス4及び以前使用されたヒト用エキスに対して分析した。すべての血清サンプルは、ヒト用コナヒョウヒダニエキスと比べて動物用エキス4で著しく高い特異的IgE値を示した(
図9)。
【0116】
・生物学的効力
全血清サンプルを用いてプールを作成し、ELISA効力アッセイによりインビトロ標準化を実施した。表10に、5つの異なるアッセイから得られた、血清プールの50%阻害を得るために必要な動物用エキス4の量(μg)を示す。
【0117】
表10:5つの異なるアッセイから得られた、イヌ血清プールの50%阻害を得るために必要な動物用エキス4の量(μg)
【0118】
【0119】
50%阻害のために得られた平均値は0.062±0.006μgであった。このアッセイで得られた曲線の一例を
図10に示す。50%阻害は、前述のようにして製造された
動物用エキスの異なるバッチ(エキス5)についても計算された。得られた値は0.066μgであった。この結果は、生物学的効力(IgE全アレルゲン活性)の観点から見て、異なる動物用エキスバッチの一貫性を実証している。
【0120】
ヒト用エキスと比較した動物用エキスの生物学的効力
前述のELISA効力アッセイを用いて、動物用エキス4の効力をヒト用エキスと比較して分析した。
図11に、このアッセイで得られた曲線を示す。
【0121】
アトピー犬(“動物用コナヒョウヒダニエキスの標準化”で述べられているのと同様にして選択)の血清プールの50%阻害を達成するのに必要なヒト用エキスの量は0.132μgであった。これは、動物用エキス4(0.062μg)と比べて、2.13倍の増加を示し、動物用エキス4が、生物学的効力の観点から見て、ヒト用エキスと比べておよそ2倍の効力があることを実証している。
【0122】
Der f 15及びDer f 18含量を推定するためのイムノブロットデンシトメトリー分析
デンシトメトリーによるタンパク質及びアレルゲンプロフィールの分析は、エキス中のアレルゲンの量を推定するための手段として使用することができる。このため、“ヒト用エキスと比較した動物用エキスの生物学的効力”に記載の血清プールで得られたアレルゲンプロフィールにおけるDer f 15及びDer f 18アレルゲンのバンド強度を分析した。様々な動物用エキスとヒト用コナヒョウヒダニエキスのイムノブロット実験に対応する画像をImageQuantソフトウェア(GE Healthcare社)によって分析した。各タンパク質バンドのデンシトメトリーボリュームならびにその分子量を分析し、様々なサンプルで比較した。
【0123】
図12及び
図13は、ImageQuantソフトウェアによって分析されたイムノブロット画像を示しており、分析に含められたサンプルと主アレルゲンDer f 15及びDer f 18を示している。
図14は、ImageQuantソフトウェアによって両画像に確認されたバンドを示している。分析された様々なパラメーター及び各サンプルについて得られた値を表11及び12に示す。
【0124】
表11.
図12の画像で確認された各バンドのボリューム及びMW。Der f 15(番号1及び2)及びDer f 18(バンド番号4)アレルゲンに対応するバンドを太字で示す。
【0125】
【0126】
表12.
図13の画像で確認された各バンドのボリューム及びMW。Der f 15(番号1及び2)及びDer f 18(バンド番号4)アレルゲンに対応するバンドを太字で示す。
【0127】
【0128】
表11及び12のバンド番号1及び2はすべてのサンプルでDer f 15アレルゲンに対応しているが、Der f 18はバンド番号4に対応している。表13及び14に、これらのアレルゲンのボリューム(強度)及びヒト用エキスと比べた増加倍数に対応する情報をまとめた。
【0129】
表13.Der f 15及びDer f 18のボリューム及びヒト用エキスと比べた増加倍数(括弧内)(
図12)
【0130】
【0131】
表14.Der f 15及びDer f 18のボリューム及びヒト用エキスに対する増加倍数(括弧内)(
図13)
【0132】
【0133】
Der f 15及びDer f 18アレルゲンの認識を示す強度のボリュームは、ヒト用エキスに比べて動物用エキスで高い増加を示した(2.2~3.4倍の増加、すなわち×2.2~×3.4)。これらの結果は、コナヒョウヒダニのヒト用エキスに比べて動物用エキスでこれらのアレルゲンの量が増加していることを裏付けている。
【0134】
他の哺乳動物:ネコのアレルギー治療のための動物用エキス
動物用エキスがイヌ以外の哺乳動物のアレルギーの治療に使用できるかどうかを評価するために、コナヒョウヒダニに感作されたネコの感作プロフィールを分析した。
【0135】
コナヒョウヒダニに対して陽性(EAU>150;Greer Laboratories社のELISA試験)の7匹の動物(1~7)及び2匹の陰性対照(C1、C2)(EAU<150)が本研究に含められた。
【0136】
図15に、本研究に含まれた異なる動物のアレルゲンプロフィールを示す。すべての陽性動物(1~7番)は、動物用エキス4及び/又はヒト用エキス中の14から100kDaを超える分子量を有するバンドを認識したが、陰性対照(C1、C2)は何のバンド認識も示さなかった。
【0137】
陽性動物の間で2つの主なアレルゲンプロフィールが見出され、認識バンドのMWに明らかな差があった。2匹の動物は低MWのバンドを認識したが、数匹の動物はほとんど40kDaより高いタンパク質を認識した。2番のネコは主に20kDaのバンドを認識し、7番のネコは、ヒトの主アレルゲンDer f 1及びDer f 2に対応しうる30及び14kDaのバンドを認識した。これに対し、1、3、4、及び6番のネコは、主にイヌの主アレルゲンDer f 15及びDer f 18を含む40kDaより高いタンパク質を認識した。最後に、5番のネコは、高及び低MWのタンパク質を認識した。
【0138】
この情報によれば、40kDaより高く、Der f 15及びDer f 18アレルゲンを含むバンドのアレルゲンプロフィールを示すネコは、動物用ダニアレルゲンエキスで治療できると考えられる。
【0139】
インビトロ細胞アッセイ
本研究の目的は、アトピー犬及び非アトピー犬の末梢血単核細胞(PBMC)でサイトカイン産生を誘導する動物用コナヒョウヒダニエキス2及びヒト用コナヒョウヒダニエキスの能力を評価することであった。
【0140】
1.1.方法論
PBMC培養物の上清を4匹のアトピー犬及び3匹の健常対照から得た。4匹のアトピー犬は、アトピー性皮膚炎の病歴と、コナヒョウヒダニに対して>1000EAU(Greer Laboratories社のELISA試験)という特異的IgEレベルを示していた。下記の特徴を有するイヌは除外された。すなわち、コルチコイド、シクロスポリンA、免疫抑制化合物で治療されたイヌ;免疫療法で治療されたイヌ;細菌、ウィルス又は寄生虫感染、免疫不全又は免疫病を患うイヌ。3匹の健常犬は何の臨床症状も示さず、コナヒョウヒダニに対して<150EAUという特異的IgEレベルを有していた。
【0141】
上清中のサイトカイン含量は、製造業者の説明書に従って実施されたELISAベースのMilliplex(登録商標)Mag Dogキット(Millipore社)によって測定された。簡潔に述べると、ドナー(4匹のアトピー犬と3匹の非アトピー対照)からのPBMC(2.5×106細胞/ウェル)を、ヒト用エキス又は動物用エキス2(40μgタンパク質/ml)で三重に刺激し、IFN―γ及びIL-10の産生を、5%CO2雰囲気中37℃で24及び48時間インキュベートした後、培養物上清中で二重に測定した。培地RPMI-1640(SigmaーAldrich社)を陰性対照として使用し、コンカナバリンA(Con A、3μg/ml)及びLPS(リポ多糖類、3μg/ml)を陽性対照として使用した。
【0142】
サイトカイン定量に関しては、標準データを5パラメーターロジスティック曲線に適合させ、U Mann-Whitney統計分析を実施した。p値<0.05が統計的に有意と見なされた。
【0143】
1.2.結果
細胞研究により、アトピー犬及び対照犬においてヒト用及び動物用エキスによるIFN―γ及びIL-10の同様の誘導が示された(
図16)。24時間後、ヒト用及び動物用エキスは、陰性対照より有意に高レベルのIL-10を誘導した(ヒト用エキスの場合、メジアン(IQ)1170[559-1502]pg/ml及び動物用エキスの場合1748[1122-1998]pg/ml)。48時間のインキュベーション後のIFN―γも、ヒト用(52.1[15-113.2]pg/ml)及び動物用エキス(50.4[20-76.3]pg/ml)で処置されたアトピー犬の細胞で陰性対照より有意に高かった。
【0144】
陽性対照(Con A及びLPS)からの結果は、すべての例で陰性対照より有意に高かった(p<0.05)(データ示さず)。
アトピー犬と非アトピー犬も比較した。ヒト用及び動物用エキスで処置された非アトピー犬に、アトピー犬と比べて高いレベルの両サイトカインが観察された。
【0145】
アレルゲン免疫療法の成功は、制御性T細胞(Treg)の誘導と、Th2応答からTh1応答へのシフトを伴うべきである。さらに、免疫療法の成功は、アレルゲンワクチンがIL-10及びIFN―γの産生(それぞれTreg及びTh1応答に関係する)及びIL-4の減少を特異的に刺激する能力にも関係していた。この研究は、ヒト用及び動物用コナヒョウヒダニエキスがこのダニに感作されたイヌのPBMCでIL-10及びIFN―γの産生を誘導する能力を実証しており、Th1及びTreg応答の誘導、従って寛容に導くことができる有益な免疫応答を示唆している。
【0146】
本研究に含められたイヌはこれまで免疫療法で治療されたことがないので、ヒト用エキスで処置されたイヌと比べて、動物用エキスで処置されたイヌのTh1能力の変更が今のところ観察されないのは当然である。しかしながら、IL-10のアップレギュレーションは、動物用エキスがTh1-Th2平衡を再確立する能力を有していることを実証している。動物用エキスで処置されたイヌのIFN―γレベルは、免疫療法による治療の後にヒト用エキスで処置されたイヌと比べて、著しく増加することが期待されるであろう。
【0147】
非アトピー動物は、Th1/Th2応答間のバランスが正しく取れている免疫学的状態にあるので、サイトカイン産生のプロフィールも異なる。従って、非アトピー犬でより高いレベルのIL-10及びIFN―γが観察されたのは、非アトピー犬が基礎状態でアトピー犬よりも多くのこれらの制御性サイトカインを産生するためであり、ヒト用及び動物用コナヒョウヒダニエキスによる刺激後は、産生がさらに増大する。