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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010999
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】薬液注入コントローラ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/168 20060101AFI20230113BHJP
   A61M 5/148 20060101ALI20230113BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61M5/168 502
A61M5/168 506
A61M5/148
A61M5/142
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188003
(22)【出願日】2022-11-25
(62)【分割の表示】P 2019046504の分割
【原出願日】2019-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 慎吾
(57)【要約】
【課題】押圧操作部材及び主動部材を所定の位置に配置し易くなると共に、急速投与用の弁体の安定した作動を実現できる、新規な構造の薬液注入コントローラを提供すること。
【解決手段】自己操作による薬液の急速注入を実行可能とする薬液注入コントローラ10であって、サブリザーバー14を収容するハウジング12において急速の薬液投与を実行する押圧操作部材52が往復移動可能に組み付けられている。サブリザーバー14からの薬液の流出流路64上には、流出流路64を連通状態と遮断状態に切り替える急速投与用の弁体72が設けられている。押圧操作部材52及び弁体72とは別体の主動部材90が、押圧操作前の準備位置にある押圧操作部材52から隙間118を隔てて配置されている。押圧操作された押圧操作部材52が当接することで動かされた主動部材90が、流出流路64を遮断状態から連通状態とするように弁体72を移動させるようにした。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブリザーバーを収容するハウジングにおいて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、
該サブリザーバーからの薬液の流出流路上には、該流出流路を連通状態と遮断状態に切り替える急速投与用の弁体が設けられていると共に、
該押圧操作部材及び該弁体とは別体の主動部材が、押圧操作前の準備位置にある該押圧操作部材から隙間を隔てて配置されており、
押圧操作された該押圧操作部材が該主動部材に当接して動かされた該主動部材が、前記流出流路を遮断状態から連通状態とするように該弁体を移動させる薬液注入コントローラ。
【請求項2】
前記主動部材が、押圧操作前の準備位置にある前記押圧操作部材と前記流出流路の遮断位置にある前記弁体とに対してそれぞれ隙間を隔てて配置されている請求項1に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項3】
押圧操作された前記押圧操作部材の当接によって動かされた前記主動部材に対して、動かされる前の初期位置へ戻す方向の付勢力を及ぼす戻しばねが設けられている請求項1又は2に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項4】
前記戻しばねが、前記主動部材に一体形成されている請求項3に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項5】
前記主動部材が、前記押圧操作部材の往復移動方向と同じ方向に移動する請求項1~4の何れか一項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項6】
急速の薬液投与を実行するための押圧操作による前記押圧操作部材の全移動ストローク量に対して、該押圧操作部材が前記主動部材に当接した後の当接後移動ストローク量が、1/5以下とされている請求項1~5の何れか一項に記載の薬液注入コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液の持続投与を行う薬液投与装置において自己操作による薬液の急速注入を実行可能とする薬液注入コントローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、持続的な薬液投与を行う薬液投与装置が知られており、例えば鎮痛剤や麻酔剤などを少量ずつ体内へ投与する際に用いられている。また、薬液投与装置は、自己操作によって薬液の急速投与を実行可能とする薬液注入コントローラを備える場合がある。薬液注入コントローラは、薬液を貯留するサブリザーバーを備えており、例えば、患者が押圧操作部材を押し込むなどの自己操作をすることにより、メインラインから分岐したサブラインを通じて、薬液注入コントローラのサブリザーバーに貯留された薬液が患者の体内へ急速投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、薬液注入コントローラは、患者の自己操作に際して、サブリザーバーに接続された流出流路を開放して、薬液のサブリザーバーからの流出を可能とする機構を備えている。例えば、患者が押圧操作部材を押し込むと、押圧操作部材に一体形成された主動部材が急速投与用の弁体を押すことによって、弁体が流出流路から離れる方向に移動する。
【0004】
しかしながら、主動部材によって弁体を作動させるべく主動部材を弁体の近傍まで伸ばすと、押圧操作部材から延び出す主動部材が長尺となって、押圧操作部材の長さ寸法が主動部材の形成部分だけで大きくなってしまって形状対称性が大きく損なわれ、寸法精度が安定し難い。主動部材を短尺とすることで、寸法精度を向上させることもできるが、主動部材の移動ストロークが長くなって、微小な寸法誤差が主動部材の移動に影響を与えてしまう。また、薬液注入コントローラは、常時身に着けて使用されることから小型化が求められるが、薬液注入コントローラを構成する各部材の小型化は、それら各部材に対して高い作動精度が要求されることとなる。
【0005】
本発明の解決課題は、主動部材の移動安定性の向上を実現することができる、新規な構造の薬液注入コントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0007】
第1の態様は、サブリザーバーを収容するハウジングにおいて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、該サブリザーバーからの薬液の流出流路上には、該流出流路を連通状態と遮断状態に切り替える急速投与用の弁体が設けられていると共に、該押圧操作部材及び該弁体とは別体の主動部材が、押圧操作前の準備位置にある該押圧操作部材から隙間を隔てて配置されており、押圧操作された該押圧操作部材が該主動部材に当接して動かされた該主動部材が、前記流出流路を遮断状態から連通状態とするように該弁体を移動させるものである。
【0008】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、押圧操作部材の操作時に流出流路を連通状態とする位置まで急速投与用の弁体を移動させる主動部材が、押圧操作部材と弁体の何れに対しても別体とされていることにより、主動部材と押圧操作部材を何れも長尺の部品とする必要がない。それ故、主動部材や押圧操作部材といった各部材の寸法安定性の向上が図られる。また、押圧操作部材と主動部材が離間していることで、主動部材の移動ストロークを短く設定することができる。これらにより、主動部材の移動安定性や部材の作動精度の向上が図られる。
【0009】
また、主動部材と押圧操作部材を何れも長尺の部品とする必要がないことで、例えば主動部材と押圧操作部材が撓みによる寸法変化を生じ難く、押圧操作部材が主動部材を介して急速投与用の弁体を押すことによる弁体の開閉作動を、安定して実現することができる。
【0010】
さらに、主動部材が、押圧操作前の準備位置にある押圧操作部材に対して、隙間を隔てて配置されている。それ故、押圧操作された押圧操作部材が主動部材に当接する際に衝撃が生じて、この衝撃が押圧操作部材を操作する患者の手指などに伝わる。それ故、押圧操作部材を操作する患者は、押圧操作部材の操作量を手応えによっても把握することができる。
【0011】
第2の態様は、第1の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記主動部材が、押圧操作前の準備位置にある前記押圧操作部材と前記流出流路の遮断位置にある前記弁体とに対してそれぞれ隙間を隔てて配置されているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、押圧操作部材によって押し込まれた主動部材が急速投与用の弁体に当接する際にも、当接による衝撃が押圧操作部材を操作する患者の手指などに伝達される。それ故、押圧操作部材を操作する患者は、例えば、主動部材が弁体を移動させる位置まで押し込まれたことを、手応えによって把握することができる。
【0013】
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、押圧操作された前記押圧操作部材の当接によって動かされた前記主動部材に対して、動かされる前の初期位置へ戻す方向の付勢力を及ぼす戻しばねが設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、押圧操作部材の当接によって動かされた主動部材が、戻しばねによって動かされる前の初期位置へ戻す方向に付勢される。これにより、押圧操作部材による主動部材の押込みが解除されると、主動部材が戻しばねの付勢力によって急速投与用の弁体から速やかに離れて、主動部材から弁体へ及ぼされる力がより確実に解除される。その結果、急速投与用の弁体による流出流路の連通状態から遮断状態への切替えが、より確実に実現される。
【0015】
第4の態様は、第3の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記戻しばねが、前記主動部材に一体形成されているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、戻しばねが主動部材に一体形成されることで、部品点数を少なくすることができる。
【0017】
第5の態様は、第1~第4の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記主動部材が、前記押圧操作部材の往復移動方向と同じ方向に移動するものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、押圧操作部材の往復移動方向と直交する方向において、薬液注入コントローラの小型化が図られ得る。
【0019】
第6の態様は、第1~第5の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、急速の薬液投与を実行するための押圧操作による前記押圧操作部材の全移動ストローク量に対して、該押圧操作部材が前記主動部材に当接した後の当接後移動ストローク量が、1/5以下とされているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、押圧操作部材と主動部材が当たることによって患者に伝わる手応えが、押圧操作部材の移動ストロークの終盤に生じることから、患者は押圧操作部材の移動がほどなく完了することを手応えによっても把握することができる。しかも、患者が手応えを感じてから押圧操作の完了までの時間が十分に短く、押圧操作部材の押込み移動の完了がまもなくであることを、患者に適切なタイミングで知らせることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、押圧操作部材及び主動部材を所定の位置に配置し易くなると共に、急速投与用の弁体の安定した作動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態としての薬液注入コントローラを示す斜視図
図2図1に示す薬液注入コントローラにおいてハウジングの上半部分を取り除いて示す斜視図
図3図1に示す薬液注入コントローラの断面図であって、図4のIII-III断面に相当する図
図4図3のIV-IV断面図
図5図3のV-V断面図
図6図3のVI-VI断面図
図7図3のVII-VII断面図
図8図1に示す薬液注入コントローラを構成する主動部材の斜視図
図9図8の主動部材を別の角度で示す斜視図
図10図3に示す薬液注入コントローラにおいて、プライミングが完了した準備状態を示す断面図であって、図12のX-X断面に相当する図
図11図10のXI-XI断面図
図12図10のXII-XII断面図
図13図10のXIII-XIII断面図
図14図3に示す薬液注入コントローラにおいて、プッシュボタンが押圧操作された状態を示す断面図であって、図15のXIV-XIV断面に相当する図
図15図14のXV-XV断面図
図16図14のXVI-XVI断面図
図17図3に示す薬液注入コントローラにおいて、急速の薬液投与が完了した状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1には、本発明の第1の実施形態としての薬液注入コントローラ10が示されている。薬液注入コントローラ10は、使用者である患者が自己操作によって急速の薬液投与を行うためのものであって、図2~7に示すように、ハウジング12内にサブリザーバー14が収容状態で組み込まれた構造を有している。なお、薬液注入コントローラ10の内部構造を見易くするために、図2においてハウジング12の上半部分の図示が省略されている。以下の薬液注入コントローラ10の説明において、原則として、上下方向とは図4中の左右方向を、前後方向とは軸方向である図3中の上下方向を、左右方向とは図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0025】
より具体的には、ハウジング12は、硬質の合成樹脂などで形成されている。ハウジング12は、全体として前後方向を長手とされた中空形状、より具体的には略有底筒状とされている。ハウジング12は、後端部分を除く広い範囲に亘って扁平な中空断面形状を有しており、本実施形態では中空の略長円形断面を有している。これにより、ハウジング12は、断面における長手方向である長軸方向が上下方向とされていると共に、短軸方向が左右方向とされている。ここで言う扁平な断面形状は、長円形断面のみに限定されるものではなく、例えば、扁平な多角形断面などであってもよい。好適には、ハウジング12は、患者が片手で掴むことができる外径寸法とされており、外周面が患者によって把持される把持面16を備えている。
【0026】
また、ハウジング12には、サブリザーバー14が収容されている。サブリザーバー14は、図3~6に示すように、カップ状とされたダイヤフラム部18の開口がベース部材20で覆蓋されることによって構成されている。
【0027】
ダイヤフラム部18は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成されて可撓性を有している。ダイヤフラム部18は、外力の作用しない静置状態において略カップ状とされている。ダイヤフラム部18の開口部分には、外周へ突出するフランジ状の挟持部22が、全周に亘って一体形成されている。ダイヤフラム部18の底部24は、ダイヤフラム部18の周壁部よりも厚肉とされており、変形剛性が大きくされている。
【0028】
ダイヤフラム部18の底部24は、内周部分の前面が球冠状の湾曲面とされている。また、ダイヤフラム部18の底部24における球冠状の突出部分は、前面の曲率が、ベース部材20の後面を構成する凹面の曲率よりも小さくされている。これにより、収縮状態のサブリザーバー14において薬液の残留量が低減されると共に、ダイヤフラム部18の底部24がベース部材20の後面に張り付き難くなっている。
【0029】
ダイヤフラム部18の底部24には、中央から後方へ向けて突出する位置決め突起26が一体形成されている。位置決め突起26は、棒状とされており、先端部が先端に向けて小径となるテーパ部28とされている。テーパ部28の大径側端部は、テーパ部28を外れた位置決め突起26の基端部よりも大径とされて、段差が形成されている。
【0030】
ベース部材20は、硬質の合成樹脂などで形成されて、略円板形状とされている。ベース部材20は、筒状の薬液流入部30と薬液流出部32とが貫通状態で形成されている。ベース部材20には、複数の係合突起34が後方(図7中の上方)へ向けて突出している。それら係合突起34によって、ベース部材20がガイド部材36に連結されている。
【0031】
ガイド部材36は、硬質の合成樹脂などで形成されて、略円筒形状とされている。ガイド部材36は、前側の端部において外周へ向けて突出するフランジ状の係合部38が設けられている。そして、ベース部材20の係合突起34が、係合部38に対して引っ掛けられることにより、ベース部材20とガイド部材36が軸方向に連結されている。ガイド部材36の係合部38には、係止爪としての係止フック40が、周方向の2箇所にそれぞれ設けられている。係止フック40は、係合部38から後方へ延び出す板状の延出部と、当該延出部の先端から外周へ向けて突出する爪部とを、一体で備えている。係止フック40の後面は、外周へ向けて前方へ傾斜する傾斜形状とされている。
【0032】
このガイド部材36の内周側に、ダイヤフラム部18が差し入れられている。そして、ダイヤフラム部18の挟持部22が、ベース部材20とガイド部材36の軸方向(前後方向)間で挟まれて支持されることにより、ダイヤフラム部18がそれらベース部材20及びガイド部材36に組み付けられている。このような組付け状態において、ダイヤフラム部18の開口がベース部材20によって液密に塞がれて、サブリザーバー14が構成されている。更に、サブリザーバー14の内部空間に対して、ベース部材20を貫通する薬液流入部30と薬液流出部32の各内腔が連通されている。
【0033】
そして、ベース部材20とガイド部材36がハウジング12に取り付けられることにより、サブリザーバー14がハウジング12に対して位置決めされている。ダイヤフラム部18は、底部24がハウジング12に対して前後方向に移動可能とされており、前後方向の伸縮変形を許容されている。ダイヤフラム部18の外周への膨出変形は、ガイド部材36によって制限されている。
【0034】
また、ダイヤフラム部18の底部24には、プランジャ42が重ね合わされている。プランジャ42は、図3~6に示すように、プランジャ本体44と外周ガイド部46が後端部において一体的につながった構造を有している。
【0035】
プランジャ本体44は、後方に向けて開口する略有底円筒形状とされている。プランジャ本体44の前壁部には、中央部分を前後方向に貫通する嵌合孔48が形成されている。この嵌合孔48にダイヤフラム部18の位置決め突起26が嵌め入れられることにより、プランジャ42とダイヤフラム部18の底部24を相互に位置決めする位置決め機構が構成されている。
【0036】
外周ガイド部46は、円筒形状とされて、プランジャ本体44の外周を囲むように設けられている。外周ガイド部46は、周上の2箇所の前側端部において、外周へ突出する係止解除部50がそれぞれ形成されている。係止解除部50は、前方へ向けて外周へ傾斜しており、内周面が傾斜面とされている。係止解除部50は、後述するプッシュボタン52の係止孔58に挿入されている。係止解除部50,50は、周方向においてガイド部材36の係止フック40,40と対応する位置に設けられており、係止フック40,40の内周面よりも外周まで突出している。
【0037】
また、プランジャ42は、押圧操作部材としてのプッシュボタン52に内挿されている。プッシュボタン52は、前方へ向けて開口する略有底円筒形状とされている。プッシュボタン52の開口部分がハウジング12の後端部分に対して軸方向後方から差し入れられており、プッシュボタン52がハウジング12の長手方向(前後方向)に往復移動可能に組み付けられている。プッシュボタン52の底壁部側は、ハウジング12の後端開口から軸方向後方へ突出している。ハウジング12から露出したプッシュボタン52の後面は、指先押圧面としての押圧操作面54とされており、使用者である患者がハウジング12の把持面16を握りながら押圧操作面54を親指で押圧することが可能とされている。
【0038】
プッシュボタン52の底壁部の内周部分には、小径筒状のスプリング支持部56が一体形成されている。スプリング支持部56は、後述するコイルスプリング60の内周形状に対応する外周形状を備えており、プッシュボタン52の底壁部から前方へ向けて突出している。
【0039】
プッシュボタン52の周壁部には、周方向の2箇所において係止孔58がそれぞれ形成されている。係止孔58は、プッシュボタン52の周壁部を径方向に貫通して、前後方向に直線的に延びている。
【0040】
プランジャ42とプッシュボタン52の軸方向間には、コイルスプリング60が配設されている。コイルスプリング60は、前端部分がプランジャ本体44の内周に差し入れられている。コイルスプリング60は、後端部分がプッシュボタン52のスプリング支持部56に外挿されて、プッシュボタン52に対して軸直角方向で位置決めされている。これにより、コイルスプリング60は、プランジャ42とプッシュボタン52の前後方向間に延びる所定の配設状態に安定して保持されている。そして、プランジャ42とプッシュボタン52は、コイルスプリング60の弾性変形を伴って、前後方向で相対変位可能とされている。また、コイルスプリング60のばね力が、プランジャ42とプッシュボタン52の間に及ぼされるようになっている。即ち、コイルスプリング60が圧縮された状態において、コイルスプリング60の弾性に基づく反発力が、プランジャ42とプッシュボタン52を相対的に離隔させる方向で、プランジャ42とプッシュボタン52の間に及ぼされる。
【0041】
サブリザーバー14のベース部材20には、図3に示すように、流入流路62と流出流路64が接続されている。流入流路62は、閉止弁66によって連通状態から遮断状態へ切り替えが可能とされている。流入流路62には、図3,5に示すように、閉止弁66によって遮断される部分をバイパスする制限流路68が接続されている。制限流路68は、流入流路62よりも流路断面積が小さくされており、薬液の流量(流速)を制限するようになっている。
【0042】
流出流路64は、急速投与弁70によって連通状態と遮断状態に切り替えが可能とされている。急速投与弁70は、急速投与用の弁体72と、弁付勢手段としてのコイルスプリング74とを、含んで構成されている。
【0043】
弁体72は、弁本体部76と一対の従動片78,78とを、一体で備えている。弁本体部76は、図6に示すように、前後中央部分において下方へ突出する板状のクランプ突起80が、前後方向に対して略直交して広がるように設けられている。クランプ突起80は、先端部が先端に向けて徐々に薄肉とされている。また、弁本体部76は、上面に凹所81が開口しており、コイルスプリング74が凹所81に差し入れられている。コイルスプリング74は、弁本体部76とハウジング12の上壁部との間で圧縮されている。これにより、弁本体部76には、コイルスプリング74による下向きの付勢力が作用している。
【0044】
弁体72の一対の従動片78,78は、図3,7に示すように、上下方向に延びる板状とされている。各従動片78の下面は、前部が上下方向に対して直交して広がっていると共に、後部が後方に向けて上傾する従動側傾斜面82とされている。一対の従動片78,78は、左右方向で相互に所定の距離を隔てて配されている。それら一対の従動片78,78の間には、クランプ突起80が設けられている。クランプ突起80は、一対の従動片78,78と一体形成されており、左右両端が一対の従動片78,78につながっている。
【0045】
そして、流出流路64の一部が一対の従動片78,78の間を前後方向に延びており、クランプ突起80を備えた弁本体部76が流出流路64の上側に位置している。なお、流入流路62と流出流路64における閉止弁66及び急速投与弁70よりも前方には、それら流入流路62と流出流路64を相互に連通する流量制御部84が設けられている。流量制御部84は、流入流路62及び流出流路64よりも流路断面積が小さくされており、薬液の流量(流速)を制限するようになっている。
【0046】
急速投与弁70の弁体72は、一対の従動片78,78を含む下部が、ハウジング12の下壁部から上向きに延び出す円筒形状のガイド筒部86に差し入れられている。これにより、弁体72は、ハウジング12に対して、上下方向の移動が許容されていると共に、前後方向及び左右方向の移動が規制されている。ガイド筒部86は、図7に示すように、周壁の下端部に開口する貫通孔88を備えている。貫通孔88は、ガイド筒部86の周壁における後方部分を前後方向に貫通して設けられている。本実施形態では、後述する主動部材90の一対の当接片92,92に対応する一対の貫通孔88,88が形成されている。
【0047】
ガイド筒部86の貫通孔88は、主動部材90の先端部が挿通可能とされている。主動部材90は、ポリプロピレンやポリアミドなどの合成樹脂によって形成された硬質の部材であって、例えば合成樹脂の射出成形品とされている。主動部材90は、図8,9に示すように、左右方向で対向して相互に平行に広がる一対の当接片92,92を備えている。当接片92は、前面の上部が上方に向けて後傾する主動側傾斜面94とされている。一対の当接片92,92は、基端が本体部96によって相互に連結されている。本体部96には、後方へ向けて突出する入力部98が設けられている。入力部98は、ハウジング12の周壁に沿って湾曲して広がる板状とされている。本実施形態では、主動部材90がハウジング12の左右方向の中央に対して図3中の右側へ外れた位置に配置されることから、入力部98が左右方向で傾斜している。
【0048】
主動部材90の本体部96には、図8,9に示すように、戻しばね100が一体形成されている。戻しばね100は、板状とされており、前後方向に弾性変形可能とされている。戻しばね100は、一対の当接片92,92の間において、本体部96の前端から前方へ延び出している。戻しばね100は、本体部96につながる基端部分102が、前方へ向けて上傾する平板形状とされている。戻しばね100は、基端部分102から延び出す中間部分104が、円弧状の湾曲板形状とされている。戻しばね100は、中間部分104から延び出す先端部分106が、前方へ向けて下傾する平板形状とされている。戻しばね100の先端部分106の前端は、自由端とされており、一対の当接片92,92の間に位置している。そして、戻しばね100は、基端部分102と先端部分106の傾斜角度が小さくなるように中間部分104が変形することによって、弾性変形可能とされている。
【0049】
主動部材90は、プッシュボタン52及び弁体72とは別体とされており、図6,7に示すように、プッシュボタン52よりも前側に配置されている。主動部材90の肉厚がプッシュボタン52の周壁部の肉厚よりも厚くされていることで、主動部材90が高い強度を有している。主動部材90の一対の当接片92,92は、ガイド筒部86の貫通孔88,88に対して前後方向で抜き差し可能な位置に位置決めされている。主動部材90の入力部98は、プッシュボタン52の前端部108に対して前後方向で少なくとも一部が重なる位置に配されている。主動部材90の戻しばね100は、先端部分106の前端がガイド筒部86における一対の貫通孔88,88の間に対して後方に位置している。
【0050】
このように、主動部材90は、プッシュボタン52と、ガイド筒部86を備えるハウジング12との何れに対しても、独立した別部品とされている。主動部材90がプッシュボタン52と別体であることにより、主動部材がプッシュボタンと一体で設けられる場合に比して、部品の長尺化が回避される。それ故、主動部材90とプッシュボタン52の寸法誤差や歪などが抑えられて、急速投与弁70の開閉の切り替えが精度よく実現されると共に、主動部材90とプッシュボタン52がハウジング12に対して容易に組み付け可能となる。
【0051】
このような構造とされた薬液注入コントローラ10は、図2,3に示すように、流入流路62に上流側の外部ライン110が接続されると共に、流出流路64に下流側の外部ライン112が接続されることによって、薬液投与装置を構成する。上流側の外部ライン110と流入流路62と流量制御部84と流出流路64と下流側の外部ライン112とによって、メインライン114が構成されている。メインライン114は、サブリザーバー14を経由せずに、図示しないメインリザーバーと、患者側の留置針などに接続される図示しない投与ポートとをつなぐ流路である。また、流入流路62における流量制御部84の接続部分よりも下流側と、流出流路64における流量制御部84の接続部分よりも上流側とによって、サブライン116が構成されている。サブライン116は、メインライン114から分岐してサブリザーバー14に接続される流路である。
【0052】
使用前の薬液注入コントローラ10は、例えば、図3~6に示すように、薬液が充填されていないサブリザーバー14が、前後方向で収縮している。サブリザーバー14の底部24に位置決めされたプランジャ42は、前方に位置している。プッシュボタン52は、プランジャ42の係止解除部50,50が係止孔58,58の前端縁に係止されることで、前方に位置している。使用前の薬液注入コントローラ10において、プランジャ42とプッシュボタン52は、前後方向で最も離れた相対位置に配置されており、プランジャ42とプッシュボタン52の間に配されたコイルスプリング60の圧縮変形量が小さくされている。なお、プッシュボタン52がガイド部材36の係止フック40,40よりも後方に位置しており、係止フック40,40は係止孔58,58に差し入れられていない。
【0053】
薬液注入コントローラ10を備える薬液投与装置は、投薬の開始前に、メインライン114とサブライン116を薬液(プライミング液)で満たすプライミングが実施される。即ち、閉止弁66と急速投与弁70が何れも開放された薬液注入コントローラ10の初期状態(図3~7に示す状態)において、図示しないメインリザーバーから薬液が送り込まれる。これにより、メインライン114とサブライン116を含む薬液流路と、サブリザーバー14とが、薬液によって満たされる。そして、それら薬液流路とサブリザーバー14内の空気が、薬液によって下流側へ押し出されて、図示しない投与ポートなどから外部へ排出される。
【0054】
プライミングの完了によって、サブリザーバー14は、図10に示すように、薬液で満たされて膨らんだ状態とされる。これにより、プランジャ42がダイヤフラム部18によって押されることで後方へ移動する。プッシュボタン52は、プランジャ42と共に後方へ移動して、ハウジング12の後端から後方へ突出する。
【0055】
プライミングが完了し、且つプッシュボタン52が押し込まれる前の準備状態において、後方へ移動して準備位置にあるプッシュボタン52の前端部108と、主動部材90の入力部98は、前後方向で相互に離れている。これにより、プッシュボタン52の前端部108と、主動部材90の入力部98との間には、隙間118が設けられている。要するに、主動部材90は、準備位置のプッシュボタン52に対して、前後方向で隙間118を隔てて配置されている。
【0056】
プライミングが完了した後、閉止弁66と一体形成されたスイッチ部材120が下向きに押し込まれることにより、スイッチ部材120と一体の閉止弁66が下方へ移動する。これにより、図10,11に示すように、閉止弁66が流入流路62に流路直交方向で押し付けられて、流入流路62が閉止弁66を押し当てられた部分で押し潰されて遮断される。流入流路62は、閉止弁66による遮断部分に対する上流側と下流側が、制限流路68によって連通されており、薬液の単位時間当たりの流量が制限流路68によって制限されている。
【0057】
スイッチ部材120が下方へ移動することによって、図11に示すように、スイッチ部材120と急速投与弁70の弁体72との上下方向での係合が解除されて、急速投与弁70の下方への移動が許容される。これにより、弁体72がコイルスプリング74の付勢力によって下方へ移動して、弁体72のクランプ突起80が流出流路64に対して流出流路64の流路直交方向で押し付けられる。その結果、図10~12に示すように、流出流路64が弁体72によって部分的に押し潰されて、流出流路64が急速投与弁70によって部分的に閉塞されることから、サブリザーバー14からの薬液の流出が防止される。
【0058】
急速投与弁70の弁体72が下方に移動する際に、一対の従動片78,78は、図13に示すように、主動部材90の一対の当接片92,92に対して離隔している。これにより、一対の従動片78,78と一対の当接片92,92の間には、隙間122が形成されている。要するに、主動部材90は、流出流路64の遮断位置にある弁体72の一対の従動片78,78に対して、前後方向で隙間122を隔てて配置されている。それ故、弁体72の下方への移動が主動部材90によって妨げられることがない。従って、急速投与弁70による流出流路64の遮断が、主動部材90に妨げられることなく実現される。
【0059】
もっとも、仮に、弁体72の下方への移動に際して、一対の従動片78,78が主動部材90の一対の当接片92,92に接触したとしても、弁体72の下方への移動は、主動部材90によって妨げられない。即ち、プッシュボタン52の前端部108と主動部材90の入力部98との間に隙間118が形成されていることにより、主動部材90が後方への移動を許容されている。それ故、一対の従動片78,78が主動部材90の一対の当接片92,92に接触したとしても、主動部材90が後方へ逃げることによって、弁体72の下方への移動が主動部材90によって妨げられることなく許容される。
【0060】
閉止弁66と急速投与弁70が閉じた状態において、上流側の外部ライン110から流入流路62へ入った薬液は、流量制御部84を通じて、流出流路64に接続された下流側の外部ライン112へ流出する。これにより、薬液は、メインライン114と下流側の外部ライン112に接続された図示しない留置針などとを通じて、患者の体内へ少量ずつ持続的に投与される。なお、患者の体内へ持続投与される薬液の単位時間当たりの量は、流量制御部84の流量によって調節されている。
【0061】
患者は、薬液の投与量を一時的に増やす急速投与を行う場合に、薬液注入コントローラ10のプッシュボタン52を押し込む自己操作を実行する。プッシュボタン52が患者によって押し込まれると、図14に示すように、プッシュボタン52とプランジャ42の間で、コイルスプリング60が圧縮される。これにより、プランジャ42は、圧縮されたコイルスプリング60の弾性に基づく前向きの付勢力が及ぼされる。
【0062】
プッシュボタン52が押し込まれて前進することにより、ガイド部材36の係止フック40,40が、プッシュボタン52の係止孔58,58に差し入れられて、係止孔58,58の前端内面に対して軸方向で係止される。これにより、プッシュボタン52がコイルスプリング60の付勢力に抗して押し込まれた位置に保持されて、コイルスプリング60の付勢力がプランジャ42に対して効率的に及ぼされる。
【0063】
プッシュボタン52が押し込まれて前進することにより、図15に示すように、プッシュボタン52の前端部108が、主動部材90の入力部98に対して、後方から押し当てられる。これにより、主動部材90がプッシュボタン52と一体的に前進して、図16に示すように、主動部材90の一対の当接片92,92が、急速投与弁70における弁体72の一対の従動片78,78に押し当てられる。一対の当接片92,92と一対の従動片78,78は、各主動側傾斜面94と従動側傾斜面82において相互に当接する。それ故、プッシュボタン52に対して前向きに入力された力が、主動部材90から一対の従動片78,78へ伝達される際に上向きの力に変換されて、一対の従動片78,78を備える弁体72に及ぼされる。その結果、弁体72がコイルスプリング74の付勢力に抗して上側へ移動して、急速投与弁70による流出流路64の遮断が解除される。
【0064】
プッシュボタン52が押し込まれる前の準備状態において、プッシュボタン52の前端部108と、主動部材90の入力部98との間には、隙間118が形成されている。それ故、プッシュボタン52が押し込まれると、プッシュボタン52の前端部108と主動部材90の入力部98が離隔状態から接近して相互に当接し、当接時に衝撃が生じる。この当接時の衝撃がプッシュボタン52を操作する患者の手指に伝わることから、患者はプッシュボタン52の押圧操作量を手応えによっても把握することができる。更に、患者は、手指に伝わる手応えによって、患者の押圧操作が薬液の排出機構を作動させていることを感じ取ることができる。
【0065】
プッシュボタン52と主動部材90が前端部108と入力部98を接触させながら一体的に移動する移動量(移動ストローク)は、プッシュボタン52の押込みによる前進移動のストローク全体に対して、例えば1/5以下、より好適には1/10以下とされている。これにより、プッシュボタン52と主動部材90が隙間118を挟んで離隔した状態から接する際の衝撃が、プッシュボタン52が全移動ストロークの終盤まで移動してから発生する。それ故、患者が手応えを感じてから押圧操作が完了するまでの時間が、十分に短くされており、患者は、プッシュボタン52の押込み操作の完了が近いことを、適切なタイミングで手応えによって把握することができる。
【0066】
押圧操作前の準備状態において、準備位置にある主動部材90と弁体72の一対の従動片78,78との間には、隙間122が設けられている。これにより、主動部材90の一対の当接片92,92と弁体72の一対の従動片78,78との当接に際して、当接による衝撃がプッシュボタン52を操作する患者の手指に伝達される。それ故、プッシュボタン52を押圧操作した患者は、主動部材90が弁体72を押し上げて急速投与弁70による流出流路64の遮断を解除する位置まで移動したことを、手応えによって把握することができる。
【0067】
主動部材90がハウジング12に対して前進することによって、主動部材90の戻しばね100が、一対の貫通孔88,88の間でハウジング12のガイド筒部86に押し当てられて弾性変形する。これにより、初期位置から前進した位置にある主動部材90には、戻しばね100の弾性に基づいて、初期位置へ戻す向きである後方向きの付勢力が及ぼされている。
【0068】
プッシュボタン52が押し込まれて、コイルスプリング60が圧縮されると、プランジャ42が、コイルスプリング60の付勢力によって、サブリザーバー14のダイヤフラム部18に押し付けられる。これにより、ダイヤフラム部18の底部24が、プランジャ42によって前方へ押し込まれる。その結果、プランジャ42によって圧迫されたサブリザーバー14の内圧が高まって、サブリザーバー14内に貯留された薬液が、連通状態とされた流出流路64を介して下流側の外部ライン112へ流出する。そして、下流側の外部ライン112を通じて患者の体内へ投与される薬液の量が一時的に増加して、急速の薬液投与が実行される。なお、流入流路62が閉止弁66で遮断されていると共に、制限流路68の内腔が極めて小径とされている。それ故、サブリザーバー14の内圧上昇に際して、サブリザーバー14内の薬液は、流入流路62へ逆流することなく、流出流路64へ送り出される。
【0069】
このように、自己操作によって押し込まれたプッシュボタン52は、プランジャ42を直接的に押して力を伝達するのではなく、プランジャ42との間でコイルスプリング60を圧縮する。そして、圧縮されたコイルスプリング60の反発力がプランジャ42に及ぼされて、プランジャ42がサブリザーバー14を圧迫するようになっている。これにより、サブリザーバー14に過大な圧迫力が作用するのを防ぐことができて、サブリザーバー14の耐久性の向上が図られると共に、サブリザーバー14内の薬液を効率的に押し出すことができる。
【0070】
薬液注入コントローラ10は、プッシュボタン52が一度押し込まれると、薬液の投与が完了するまでプッシュボタン52が押し込まれた位置に保持される。それ故、短時間の押圧操作を1度行うことによって、サブリザーバー14に貯留された薬液の略全量が所定の時間をかけて投与される。従って、薬液注入コントローラ10を使用する患者は、プッシュボタン52を押し続けることなく、十分な量の薬液をワンプッシュで投与することができる。
【0071】
本実施形態では、プランジャ42とダイヤフラム部18の底部24が位置決め突起26によって相互に位置決めされている。それ故、プランジャ42の移動によって、サブリザーバー14のダイヤフラム部18が圧迫される際に、圧迫位置のずれが防止されて、ダイヤフラム部18が安定して圧迫される。
【0072】
薬液の急速投与が完了すると、図17に示すように、前方へ移動したプランジャ42の係止解除部50,50が、ガイド部材36の各係止フック40に当接して、各係止フック40を左右内側へ撓ませる。これにより、プッシュボタン52の係止孔58,58の内面に対する係止フック40,40の係止が解除されて、ハウジング12に対するプッシュボタン52の後方への移動が許容される。
【0073】
プッシュボタン52と主動部材90には、戻しばね100の弾性に基づく力が後方へ向けて作用している。それ故、係止フック40,40によるプッシュボタン52の移動制限が解除されると、プッシュボタン52と主動部材90は、戻しばね100が初期形状に復元する位置(図3参照)まで速やかに後方へ移動する。なお、プッシュボタン52と係止フック40,40の係止が解除された状態で、プッシュボタン52が戻しばね100の弾性によって後方へ移動することにより、係止フック40,40が係止孔58,58から抜け出してプッシュボタン52よりも前方に位置する。
【0074】
主動部材90は、プッシュボタン52の往復移動方向と同じ方向である前後方向に直線的に移動する。これにより、プッシュボタン52の往復移動方向である前後方向と直交する方向において、薬液注入コントローラ10の小型化が図られ得る。なお、主動部材90の移動方向がプッシュボタン52の往復移動方向と同じ方向であるとは、厳密に同じ方向である場合だけでなく、実質的に同じ方向とみなすことができる程度に相対傾斜する方向も含む。
【0075】
また、本実施形態の戻しばね100は、主動部材90に一体形成されている。それ故、主動部材90とは別体で戻しばねを設ける構造よりも部品点数が少なくされて、構造の簡略化が図られ得る。
【0076】
戻しばね100は、中間部分104が湾曲して折り曲げられた板形状であることによって、所定の弾性が付与されている。それ故、主動部材90を硬質な材料で形成しながら、主動部材90と一体形成された戻しばね100には弾性が付与されている。このように、戻しばね100と一体形成された主動部材90が硬質とされて、主動部材90の形状安定性が確保されていることにより、急速投与弁70の切替作動の精度が確保されている。
【0077】
プッシュボタン52が後方へ移動する際に、プランジャ42の係止解除部50,50がプッシュボタン52の係止孔58,58の内面に係止されることから、プランジャ42がプッシュボタン52と共に後方へ移動する。
【0078】
戻しばね100の弾性によって主動部材90が後方へ移動すると、主動部材90の一対の当接片92,92と、急速投与弁70を構成する弁体72の一対の従動片78,78との当接が解除される。これにより、弁体72のクランプ突起80が、コイルスプリング74の付勢力によって流出流路64に押し付けられて、流出流路64が急速投与弁70によって遮断状態に切り換えられる。このように、主動部材90に戻しばね100の弾性力が作用していることによって、急速の薬液投与が完了した際に、流出流路64が急速投与弁70によって速やかに且つ安定して遮断される。
【0079】
更にまた、プッシュボタン52が後方へ移動することにより、図示しないメインリザーバーから上流側の外部ライン110へ送り出される薬液の一部は、流入流路62及び制限流路68を通じてサブリザーバー14へ充填される。なお、薬液の急速投与後に所定量の薬液をサブリザーバー14に再充填するまでの所要時間が、制限流路68によって調節されており、サブリザーバー14への薬液の過剰な供給を防ぐことで、薬液の過剰投与が防止されている。
【0080】
サブリザーバー14内の薬液の量が増えるに従って、プランジャ42はサブリザーバー14のダイヤフラム部18に押されて後方へ移動する。そして、サブリザーバー14内に急速投与前と略同量の薬液が充填されることにより、プランジャ42とプッシュボタン52が図10に示す急速薬液投与を実行する前の準備位置まで移動せしめられる。これにより、自己操作による薬液の急速投与を再び実行することが可能になる。
【0081】
なお、図1に示すように、プランジャ42に設けられた突起部124が、目印としてハウジング12の周壁を貫通するスリット126に差し入れられている。そして、プランジャ42のハウジング12に対する軸方向での相対位置が、突起部124のスリット126内での位置によって、外部から把握できるようになっている。例えば、上側の突起部124がスリット126の後端付近まで移動した状態が、サブリザーバー14に薬液が充填された状態を示す。本実施形態のプランジャ42は、周方向で180°の回転対称形状とされており、プランジャ42を組み付ける際に、向きの制限が緩和されることで製造の容易化が図られる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、主動部材90の一対の当接片92,92と弁体72の一対の従動片78,78との間に設けられた隙間122は必須ではない。プッシュボタン52が押圧操作される前の準備位置において、主動部材90の一対の当接片92,92と弁体72の一対の従動片78,78が相互に接触していても良い。
【0083】
主動部材90は、必ずしも当接片92を一対だけ備えていなくても良く、当接片92を1つ又は3つ以上備える構造であっても良い。また、弁体72の従動片78も1つ又は3つ以上とされ得る。なお、当接片92の数と従動片78の数は、相互に異なっていても良い。弁体の種類、構成、形状などは、本発明において限定されるものではない。
【0084】
戻しばねは、主動部材と別体でも良い。具体的には、例えば、主動部材とガイド筒部との間に、コイルスプリングやゴムなどの弾性体で構成される戻しばねを別部材として配することによって、主動部材とは別体の戻しばねを設けることもできる。このように、主動部材と戻しばねを別体とすれば、主動部材と戻しばねに要求される異なる特性に応じて、それら主動部材と戻しばねの材質や形状を、それぞれ大きな自由度で設定することができる。
【符号の説明】
【0085】
10:薬液注入コントローラ、12:ハウジング、14:サブリザーバー、52:プッシュボタン(押圧操作部材)、64:流出流路、72:弁体、90:主動部材、100:戻しばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2022-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブリザーバーを収容するハウジングにおいて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、
該押圧操作部材の押圧操作に際して該サブリザーバーを圧迫するプランジャが設けられ、該プランジャが該サブリザーバーの底部に対して該押圧操作部材の移動方向において重ね合わされていると共に、該サブリザーバーの該底部から突出する位置決め突部が該プランジャを貫通する挿通孔に対して該押圧操作部材の移動方向において挿通されている薬液注入コントローラ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の第1の態様は、サブリザーバーを収容するハウジングにおいて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、該押圧操作部材の押圧操作に際して該サブリザーバーを圧迫するプランジャが設けられ、該プランジャが該サブリザーバーの底部に対して該押圧操作部材の移動方向において重ね合わされていると共に、該サブリザーバーの該底部から突出する位置決め突部が該プランジャを貫通する挿通孔に対して該押圧操作部材の移動方向において挿通されているものである。
また、親出願に係る発明の第1の態様は、サブリザーバーを収容するハウジングにおいて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、該サブリザーバーからの薬液の流出流路上には、該流出流路を連通状態と遮断状態に切り替える急速投与用の弁体が設けられていると共に、該押圧操作部材及び該弁体とは別体の主動部材が、押圧操作前の準備位置にある該押圧操作部材から隙間を隔てて配置されており、押圧操作された該押圧操作部材が該主動部材に当接して動かされた該主動部材が、前記流出流路を遮断状態から連通状態とするように該弁体を移動させるものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
親出願に係る発明の第2の態様は、親出願に係る発明の第1の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記主動部材が、押圧操作前の準備位置にある前記押圧操作部材と前記流出流路の遮断位置にある前記弁体とに対してそれぞれ隙間を隔てて配置されているものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
親出願に係る発明の第3の態様は、親出願に係る発明の第1又は第2の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、押圧操作された前記押圧操作部材の当接によって動かされた前記主動部材に対して、動かされる前の初期位置へ戻す方向の付勢力を及ぼす戻しばねが設けられているものである。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
親出願に係る発明の第4の態様は、親出願に係る発明の第3の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記戻しばねが、前記主動部材に一体形成されているものである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
親出願に係る発明の第5の態様は、親出願に係る発明の第1~第4の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記主動部材が、前記押圧操作部材の往復移動方向と同じ方向に移動するものである。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
親出願に係る発明の第6の態様は、親出願に係る発明の第1~第5の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、急速の薬液投与を実行するための押圧操作による前記押圧操作部材の全移動ストローク量に対して、該押圧操作部材が前記主動部材に当接した後の当接後移動ストローク量が、1/5以下とされているものである。