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特開2023-109996血清型3線毛を発現するボルデテラ(BORDETELLA)菌株
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023109996
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】血清型3線毛を発現するボルデテラ(BORDETELLA)菌株
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/10 20060101AFI20230801BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
A61K39/10
A61P11/14 ZNA
A61P37/04
A61P31/04
C12N1/20 E
C12N1/21
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023089684
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2020520777の分割
【原出願日】2018-10-18
(31)【優先権主張番号】62/574,068
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518344302
【氏名又は名称】アンスティチュ パスツール ドゥ リール
【氏名又は名称原語表記】Institut Pasteur de Lille
(71)【出願人】
【識別番号】518344313
【氏名又は名称】アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル(アンセルン)
【氏名又は名称原語表記】Institut National de la Sante et de la Recherche Medicale(INSERM)
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】デブリ,アン-ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】レイズ,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ロヒト,カミーレ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】百日咳予防ワクチンにおいて、無症候性ボルデテラ菌感染、特に、無症候性B.ペルツシス(B.pertussis)感染(無症候性コロニー形成)を低減させることが可能なワクチンを提供する。
【解決手段】血清型3線毛(Fim3)を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株を含むワクチン。前記生弱毒化ボルデテラ菌株は、哺乳動物対象の肺にコロニー形成し、ボルデテラ(Bordetella)感染に対する防御免疫応答を誘導する能力を保持する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬上許容される担体及びFim3を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株を含むワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、哺乳動物対象の肺にコロニー形成し、ボルデテラ(Bordetella)感染に対する防御免疫応答を誘導する能力を保持していることを特徴とするワクチン。
【請求項2】
請求項1に記載のワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、Fim2を安定的に産生することを特徴とするワクチン。
【請求項3】
請求項1に記載のワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的百日咳毒素(PTX)、機能的皮膚壊死毒素(DNT)及び機能的気管細胞毒素(TCT)から成る群から選択される少なくとも1種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とするワクチン。
【請求項4】
請求項1に記載のワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも2種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とするワクチン。
【請求項5】
請求項1に記載のワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、PTX、機能的DNT及び機能的TCTが欠失させられていることを特徴とするワクチン。
【請求項6】
請求項2に記載のワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも1種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とするワクチン。
【請求項7】
請求項2に記載のワクチンにおいて、前記弱毒化生ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも2種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とするワクチン。
【請求項8】
請求項2に記載のワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTが欠失させられていることを特徴とするワクチン。
【請求項9】
請求項1に記載のワクチンにおいて、前記ワクチンは、少なくとも1×10コロニー形成単位(CFU)の前記菌株を含む単回剤形で投与されることを特徴とするワクチン。
【請求項10】
BPZE1f3と指名されたボルデテラ(Bordetella)菌株。
【請求項11】
哺乳動物対象が百日咳を発生することから防御する方法において、前記哺乳動物対象に、医薬上許容される担体及びFim3を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株を含むワクチンを投与するステップを含み、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株が前記哺乳動物対象の肺にコロニー形成する、及びボルデテラ(Bordetella)感染に対する防御免疫応答を誘導する能力を保持していることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、Fim2を安定的に産生することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも1種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項11に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも2種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項11に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTが欠失させられていることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項12に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも1種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTから成る群から選択される少なくとも2種のビルレンス因子が欠失させられていることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項12に記載の方法において、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、機能的PTX、機能的DNT及び機能的TCTが欠失させられていることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項11に記載の方法において、前記菌株は、BPZE1f3であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月18日に出願された米国仮特許出願第62/574,068号明細書の優先権を主張するものである。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出されていて、参照により全体として本明細書に組み込まれる配列表を含有する。2018年10月10日に作成された上記のASCIIコピーは、7056-0091_SLと指名されており、サイズは1,833バイトである。
【0003】
連邦政府資金による研究開発に関する陳述
該当なし。
【0004】
本発明は、一般に微生物学、免疫学、ワクチン学、血清疫学、生化学及び医学の分野に関する。より特別には、本発明は、血清型3線毛を発現するように改変された生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株及びワクチンにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0005】
百日咳(whooping cough若しくはpertussis)は、特に年少乳児においては生命を脅かす可能性がある重篤な呼吸器疾患であり、WHO(世界保健機関)によると、世界的ワクチン接種率が85%を超えているにもかかわらず、数カ国ではその発生率が上昇中である。しかし百日咳は、青少年や成人にも影響を及ぼすが、この場合には症状が通例は非定型であるので、このためこれらの年齢群ではこの疾患は診断未確定のままとされることが多い。それでもなお、青少年や成人は、彼らが無症候性のままである場合でさえ、年少乳児が一連の最初のワクチン接種によって防御される前に原因病原菌であるボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)を年少乳児に感染させ得る。実際に、臨床分離株の系統動態解析と結び付けた、米国や英国におけるB.ペルツシス(B.pertussis)感染についての近年のウェーブレット解析は、無症候性伝染が近年の百日咳再燃の主因であることを証明した。更に、無症候性B.ペルツシス(B.pertussis)感染は、疫学的エビデンスがB.ペルツシス(B.pertussis)感染には自己免疫疾患、例えばセリアック病、多発性硬化症及びアルツハイマー病さえ関連している可能性があることを示唆しているので、安心できるものではない。
【0006】
現在利用可能な全細胞若しくは無細胞ワクチンは、最初の3回のワクチン投与後における百日咳の発生率を低減させることには極めて効果的であった。しかし、B.ペルツシス(B.pertussis)による以前の感染とは対照的に、近年確立されたヒヒモデルにおいて証明されたように、無症候性コロニー形成を低減させることにおいてははるかに有効性が低い。ワクチンが接種されたヒヒは、B.ペルツシス(B.pertussis)による実験的感染後には百日咳疾患から防御されたが、回復期のヒヒとは対照的に、症状の非存在下においてさえ同腹子へ微生物を容易に感染及び伝染することができた。これらの観察所見は完全に、現在利用可能なワクチンの欠点を例示しており、疾患及び感染のどちらも防御する新規なワクチンが必要とされる。
【0007】
B.ペルツシス(B.pertussis)のコロニー形成に対して防御するための最善の方法は以前の感染であるという観察に基づいて、疾患を惹起することなくできる限り自然感染を模倣するために、経鼻経路によって投与され得る生弱毒化ワクチンが開発されてきた。皮膚壊死毒素についての遺伝子コード化が欠如する、BPZE1と呼ばれるワクチン菌株は、遺伝的に解毒された百日咳毒素を産生し、B.ペルツシス(pertussis)ampG遺伝子と大腸菌(Escherichia coli)ampG遺伝子との置換によって気管細胞毒素産生が欠失している。BPZE1は、重度に免疫無防備状態のマウスを含む前臨床モデルでは安全であり、少なくとも12カ月間に渡りin vitro及びin vivoでの連続継代後に遺伝的に安定性であることが証明されている。BPZE1は、単回経鼻投与後のB.ペルツシス(B.pertussis)チャレンジ投与から防御的CD4+T細胞及び抗体の両方によってマウスを防御し、この防御は単回経鼻投与後にも永続することが証明された。BPZE1は更に近年、ヒヒにおけるB.ペルツシス(B.pertussis)による鼻咽喉感染を非ワクチン接種ヒヒと比較して99.992%まで低減させることもまた証明されている。BPZE1は現在、ファーストインマン第I相臨床試験を上首尾で完了し、ヒト成人において安全であり、ヒト上咽頭に一過性でコロニー形成することができ、全コロニー形成個人における全試験抗原に対する免疫応答を誘導することが見出された。
【0008】
B.ペルツシス(B.pertussis)は、主要な線毛サブユニットとしてのFim2若しくはFim3何れかから構成される2種の血清学的に別個の線毛を産生する。これらの線毛は、呼吸上皮細胞への細菌の付着に関係している。BPZE1はFim2だけを産生するが、更に数百種の他の抗原(例えば、百日咳毒素、FHA及びパータクチン)を産生する。従ってBPZE1は、Fim3だけを産生するものを含む多種多様なB.ペルツシス(B.pertussis)臨床分離株に対する有意な防御を誘導することが証明されている。
【発明の概要】
【0009】
本明細書に記載するのは、2017年10月11日にCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM,Institut Pasteur,25 rue du Docteur Roux,F-75724 Paris Cedex 15,FRANCE)に登録番号CNCM I-5247を付して寄託された、血清型2線毛(Fim2)及び血清型3線毛(Fim3)の両方を産生するBPZE1に由来するB.ペルツシス(B.pertussis)菌株であるBPZE1f3の開発である。BPZE1が免疫応答の標的とされ得るであろう数百種の非線毛抗原を産生することを前提にすると、単一の新規抗原を加えることが細菌の防御作用に大きな作用を及ぼすとは予期されなかった。従って、驚くべきことに、BPZE1f3によるワクチン接種が、Fim3を産生するがFim2を産生しない所定の臨床分離株に対する防御作用を有意に改善することが見出された。
【0010】
下記の実施例のセクションにおいて記載した試験では、鼻腔内マウスチャレンジ投与モデルを使用して、様々な血清型の臨床分離株に対して防御するためのFim2産生BPZE1及びFim2産生、Fim3産生BPZE1f3の防御潜在力を試験した。どちらのワクチン菌株も試験した全臨床分離株に対して有意な防御を誘導すると思われた。しかし、BPZE1f3は、Fim3だけを産生する臨床分離株に対してBPZE1よりも有意に良好な防御を提供したので、所定の程度までの血清特異的防御を確証した。
【0011】
多数のFim2及びFim3サブタイプが同定されている。これらには、単一アミノ酸相違によって相互に異なる2種のFim2のサブタイプであるFim2-1、Fim2-2が含まれる。Fim2-1は174位でアルギニンを有するが、他方これはFim2-2ではリシンに変化している。Fim3のサブタイプは、6個の異なる対立遺伝子によってコードされる。Fim3-2は、Fim3-1とは87位での単一アミノ酸置換:Fim3-1及びFim3-2について各々アラニン及びグルタミン酸塩によって異なる。Fim3-3は、87位でのグルタミン酸塩置換に加えて、Fim3-1でのトレオニンからFim3-3でのアラニンへの変化を有する。fim3-4対立遺伝子は、fim3-1とは単一サイレントヌクレオチド多型のみによって異なるが、他の5個の対立遺伝子は、各々が主要線毛サブユニットにおける1つのアミノ酸変化をもたらす3個のコドンによって異なる。様々なサブタイプ間のわずかな配列相違を前提とすると、BPZE1f3はそれらの全部に対して防御的である可能性が高い。
【0012】
線毛抗原に対する免疫応答を誘導するために、これらの抗原の産生は、生B.ペルツシス(B.pertussis)ワクチン菌株において十分に安定性でなければならない。Fim2及びFim3産生の安定性は、1つの血清型から他の血清型への特に感染中の相変異については記載されており、ワクチン圧によって駆動され得るので、特別の注目に値する。高から低線毛産生へのこの相転移は、fimプロモーター領域内のCストリング中に存在するシトシンの数に左右される。Cストリング内のシトシンの数は、fimプロモーターの-10ボックスとfim及び他のB.ペルツシス(B.pertussis)ビルレンス遺伝子の発現のために必要とされる転写活性化因子であるBvgAの結合部部位との間の距離に影響を及ぼす可能性がある。長年に渡り、大部分はCストリング内に反復塩基対配列を備えるDNA領域は、特に単一塩基の付加若しくは欠失が生じる傾向があることは公知であった。BPZE1f3は、fim3発現を可能にするためにプロモーター領域内での13Cのストレッチにおける単一C:G塩基対の付加によって構築されたので、fim3発現は不安定になるであろうと考えられた。しかし予想外にも、マウスを通してのBPZE1f3の数継代後に、第1継代後に回収された細菌の100%がFim3+並びにFim2+のままであった。その後の(3継代までの)継代中、細菌の90%近くは依然としてfim3及びfim2の両方を発現し、これは、Fim3だけを産生する臨床分離株に対するBPZE1f3の防御作用によって確証されたように、血清型特異的免疫を誘導するために十分に安定性であることを示した。
【0013】
従って、本明細書で記載するのは、Fim3を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株において、哺乳動物対象の肺にコロニー形成し、ボルデテラ(Bordetella)感染(例えば、BPZE1f3と指名されたボルデテラ(Bordetella)菌株)に対する防御免疫応答を誘導する能力を保持している生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株である。生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、Fim2をも安定的に産生する菌株であり得る。本明細書で記載した生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、更に次のビルレンス因子:機能的百日咳毒素(PTX)、機能的皮膚壊死毒素(DNT)及び機能的気管細胞毒素(TCT)の少なくとも1つ(1、2若しくは3つ)が欠失させられ得る。
【0014】
更に、本明細書で記載するのは、本明細書で言及したFim3を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株及び医薬上許容される担体を含むワクチンである。このワクチンは、少なくとも1×10(例えば、少なくとも1×10、5×10若しくは1×10)のコロニー形成単位(CFU)の菌株を含む単回剤形で提供され得る。
【0015】
更に本明細書で記載するのは、哺乳動物対象(例えば、ヒト)が百日咳を発生することから防御する方法において、哺乳動物対象に医薬上許容される担体及びFim3を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株を含むワクチンを投与するステップを含み、その生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株が哺乳動物対象の肺にコロニー形成する、及びボルデテラ(Bordetella)感染に対する防御免疫応答を誘導する能力を保持している方法である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本明細書で使用する、抗原を「安定的に産生する」細菌菌株とは、その抗原の発現の50%超(又は60、70、80、90、95、97、98若しくは99%)を失うことなく宿主動物を通して少なくとも1回(例えば、1、2、3、4、5回以上)継代され得る抗原である。例えば、Fim3を安定的に産生するように組み換えられている分離されたボルデテラ(Bordetella)細菌菌株は、Fim3を発現するように遺伝子改変されており、例えば、下記の実施例のセクションにおいて記載した方法によって1匹のマウスを通して継代された後に、Fim-3の発現の少なくとも50%(例えば、50、60、70、80、90、95、97、98若しくは99%)を維持する菌株である。
【0017】
「機能的」ビルレンス因子との言及は、ある細菌菌株が、そのビルレンス因子の野生型バージョンと比較して、そのビルレンス因子の少なくとも50%の酵素活性を有することを意味する。「少なくとも1種のビルレンス因子が欠失させられている」細菌菌株は、それに由来する親菌株と比較して、70、80、90、95、96、97、98若しくは99%未満のビルレンス因子の酵素活性若しくは機能的活性を発現するように組み換えられた菌株である。
【0018】
他に定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されるものと同様若しくは同等の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用できるが、好適な方法及び材料については以下に記載する。本明細書で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。不一致が生じた場合は用語の定義を含めて本明細書が優先されることになる。更に、下記で考察する特定の実施形態は例示に過ぎず、限定的であることは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1Aは、BPZE1(ダイヤモンド形)及びBPZE1f3(四角形)によるFim2の産生を示すグラフである。図1Bは、BPZE1(ダイヤモンド形)及びBPZE1f3(四角形)によるFim3の産生を示すグラフである。
図2図2Aは、改変Stainer-Scholte培地中でのBPZE1(ダイヤモンド形)及びBPZE1f3(四角形)のin vitro増殖を示すグラフである。図2Bは、完全合成Thijs培地中でのBPZE1(ダイヤモンド形)及びBPZE1f3(四角形)のin vitro増殖を示すグラフである。
図3図3は、10CFUのBPZE1(黒色)若しくはBPZE1f3(灰色)が経鼻接種されたマウスの肺コロニー形成を示しているグラフであり、肺内の細菌量は指示した時点で測定された。
図4図4は、臨床的B.ペルツシス(B.pertussis)分離株に対するBPZE1誘導性防御及びBPZE1f3誘導性防御を示している一連のグラフ(4A~4E)であり、マウスは10CFUのBPZE1(黒色バー)若しくはBPZE1f3(灰色バー)の何れかを経鼻的に受容した、又は未治療で放置された(白色バー)。ワクチン接種の4週間後、マウスには10CFUの1617pF1(A)、403pF1(B)、P134(C)、1412pF1(D)若しくは403pF3(E)がチャレンジ投与された。チャレンジ投与の3時間後(パネルの左側の部分、D0)又は7日後(パネルの右側の部分、D7)、肺内の細菌量を測定し、CFUの平均値及び標準偏差として提示した。1群当たりマウス(D0に対して)3匹又は(D7に対して)5匹が使用された。***、p<0.001。
図5図5は、B.パラペルツシス(B.parapertussis)に対するBPZE1誘導性防御及びBPZE1f3誘導性防御を比較しているグラフであり、マウスは10CFUのBPZE1(黒色バー)若しくはBPZE1f3(灰色バー)の何れかを経鼻的に受容した、又は未治療で放置された(白色バー)。ワクチン接種の2カ月後、マウスには10CFUのB.パラペルツシス(B.parapertussis)がチャレンジ投与された。チャレンジ投与の3時間後(パネルの左側の部分、D0)又は7日後(パネルの右側の部分、D7)、肺内の細菌量を測定し、CFUの平均値及び標準偏差として提示した。1群当たりマウス(D0に対して)3匹又は(D7に対して)5匹が使用された。***、p<0.001。
図6図6は、BPZE1f3によるFim2及びFim3の産生の安定性を示しているグラフであり、BPZE1f3はマウスにおいて3回継代され、各継代(P1~P3)では、抗Fim2及び抗Fim3モノクローナル抗体を使用して94コロニーがFim2(白色バー)及びFim3(黒色バー)の存在について全細胞ELISAによって解析された。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書では、マウスにおいてFim3だけを産生する臨床的B.ペルツシス(B.pertussis)分離株に対して改良された防御を提供するために十分に安定性のfim3発現を備えるFim3産生BPZE1誘導体について記載する。BPZE1f3におけるfim3発現は、Fim2+菌株に対する防御有効性を変化させず、更にFim2若しくはFim3のどちらも産生しない菌株に対しても防御有効性を変化させなかった。下記に記載する実施形態は、これらの方法の代表的な実施例を例示している。それでもなお、これらの実施形態の説明から、下記に提供した説明に基づいて本発明の他の態様を作成する、及び/又は実施することができる。
【0021】
一般的方法論
本明細書では、従来型の微生物学、免疫学、分子生物学及び医学技術を包含する方法について記載する。微生物学的方法は、Methods for General and Molecular Microbiology(3d Ed),Reddy et al.,ed.,ASM Pressに記載されている。免疫学的方法は、一般に当分野において公知であり、例えばCurrent Protocols in Immunology,Coligan et al.,ed.,John Wiley & Sons,New York等の方法論の論文に記載されている。分子生物学の技術は、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,vol.1-3,Sambrook et al.,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2001;及びCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,ed.,Greene Publishing and Wiley-Interscience,New Yorkなどの論文の中で詳細に記載されている。内科療法の一般的方法については、McPhee and Papadakis,Current Medical Diagnosis and Treatment 2010,49th Edition,McGraw-Hill Medical,2010;及びFauci et al.,Harrison’s Principles of Internal Medicine,17th Edition,McGraw-Hill Professional,2008に記載されている。
【0022】
Fim3産生ボルデテラ(Bordetella)菌株
Fim3発現が欠如するボルデテラ(Bordetella)種(例えば、ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)、ボルデテラ・パラペルツシス(Bordetella parapertussis)及びボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica))は、Fim3(例えば、Fim3-1、Fim3-2、Fim3-3若しくはFim3-4)を産生するように遺伝子組換えすることができる、及びさもなければ下記に記載するように弱毒化することができる。これらのFim3産生細菌は、ボルデテラ(Bordetella)種によって惹起される症候性若しくは無症候性呼吸器感染症、並びにBPZEIが有効であることが証明された他の状況(例えば、アレルギー及び喘息)を治療及び/又は予防するために使用され得る。Fim3を産生するように組み換えられたボルデテラ(Bordetella)菌株もまた、ボルデテラ(Bordetella)感染の伝染を予防するために使用され得る。弱毒化されたFim2/Fim3産生ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)は、ヒト対象において使用するために好ましい。Fim3産生細菌の作成に使用するためのボルデテラ(Bordetella)菌株は、自然源(例えば、コロニー形成対象)から分離できる、又は様々な培養コレクションから入手できる。Fim3を産生するように組み換えられているボルデテラ(Bordetella)菌株は、下記に記載する方法によって作成することができる。
【0023】
ボルデテラ(Bordetella)の病原性菌株の不十分な弱毒化は対象における病理学的感染を誘発し得るので、Fim3を産生するように組み換えられたボルデテラ(Bordetella)菌株が低レベルの他のビルレンス因子を有するのが好ましい。他方、Fim3産生ボルデテラ(Bordetella)菌株が対象にコロニー形成することができ、呼吸器炎症に防御作用を発揮できることを保証するためには、その菌株は、過度に弱毒化されてはならない。弱毒化は、その菌株を以下の:百日咳毒素(PTX)、皮膚壊死毒素(DNT)、気管細胞毒素(TCT)、アデニル酸シクラーゼ(AC)、リポ多糖(LPS)、線維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン又は何れかのbvg調節成分の1つ以上(例えば、1、2、3、4、5つ以上)の産生を低減させるために突然変異させることによって達成され得る。そのような突然変異体を作成するための方法は、本明細書及び米国特許第9,119,804号明細書及び米国特許出願第15/472,436号明細書に記載されている。下記に提示した実験では、ボルデテラ(Bordetella)菌株は、DNT及びTCT内で欠失するように組み換えられており、遺伝的に不活性のPTXを産生するFim3を産生した。その菌株は、対象の気道にコロニー形成し、対象における防御免疫応答を誘導することもできた。
【0024】
調製物/用量/投与
Fim3を産生するように組み換えられたボルデテラ(Bordetella)菌株は、対象に投与するためのワクチンとして調製することができる。好適な数の生細菌は、例えばリン酸緩衝生理食塩液、蒸留水等の医薬上好適な賦形剤若しくは担体、例えば水中油型エマルション等のエマルション、様々なタイプの湿潤化剤、無菌溶液等と混合される。一部の場合には、ワクチンは凍結乾燥し、次に投与前に再構成することができる。気道にコロニー形成させるためには、粘膜(特に鼻腔、気管支若しくは肺)投与と適合する医薬上好適な賦形剤若しくは担体の使用が好ましい。この分野及びUSP/NF(米国薬局方/国民医薬品集)における標準的な教科書であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。
【0025】
粘膜投与のために調製された場合、ワクチンの各用量は、それを摂取する哺乳動物の体重及び年齢に依存して、気道のコロニー形成を生じさせるために十分な数、例えば細菌およそ(即ち、±50%の)5×10~5×10個の生ボルデテラ(Bordetella)細菌を含むことができる。ヒト対象に投与するためには、用量はおよそ1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10若しくは1×1010の生Fim3産生ボルデテラ(Bordetella)細菌を含むことができる。用量は、1回又は複数回(2、3、4、5、6、7、8回以上)の機会に1、2、3、4、5若しくは6日間又は1、2、3、4、5若しくは6週間又は1、2、3、4、5、6若しくは12カ月間の間隔を空けて投与され得る。一般に、コロニー形成及び防御的応答を生じさせるために十分な量のワクチンが投与される。誘導された防御的応答が減弱した後には、追加量が投与される。
【0026】
百日咳から防御するための免疫応答を誘導する方法
本明細書に記載したワクチンは、哺乳動物対象(例えば、ヒト、ヒトの小児若しくは新生児、ヒト成人、百日咳からの合併症を発生する高リスク状態にあるヒト、肺疾患を有するヒト及び免疫が抑制されている、又は免疫が抑制されるようになるヒト)へワクチン内の細菌を気道内に堆積させる任意の好適な方法によって投与され得る。例えば、ワクチンは、吸入若しくは鼻腔内導入によって、例えば吸入器、シリンジ、注入器、スプレー装置等によって投与することができる。1×10~1×10(例えば、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10若しくは1×10±10、20、30、40、50、60、70、80若しくは90%)の生細菌の単回用量の投与は、例えば百日咳などのボルデテラ(Bordetella)感染を発生することに対して防御免疫を誘導するために典型的には十分であるが、十分に防御免疫応答が発生するまで、4日間以上(例えば、4、5、6若しくは7日間;又は1、2、3、4、5、6、7若しくは8週間)の間隔を空けて1回以上(1、2、3、4回以上)の追加の用量が投与されてよい。防御免疫応答の発生は、ボルデテラ(Bordetella)特異的抗体力価を定量するステップ及びボルデテラ(Bordetella)抗原特異的T細胞応答(例えば、ELISPOTアッセイを使用する)を測定するステップ等の当分野において公知の方法によって評価することができる。ワクチン誘導性防御免疫応答が(例えば、最終ワクチン接種から1、2、3、4、5、10年以上後に)減弱化されている場合には、対象には抗ボルデテラ(Bordetella)免疫応答をブーストするためにワクチンが再び投与され得る。
【実施例0027】
材料及び方法
培養条件
全B.ペルツシス(B.pertussis)菌株は、(Imaizumi et al.,Infect Immun 1983;41:1138-43)において記載されたように、攪拌下の改変Stainer Scholte(SS)培地中、又は完全合成Thijs培地(Thalen et al.,J Biotechnol 1999;75:147-59)中において、10%(v/v)のヒツジ血を含むBordet Gengou(BG)寒天上で増殖させた。培地には、適切な抗生物質(pFUS2 BctA1を有する菌株のために100μg/mLのストレプトマイシン若しくは10μg/mLのゲンタマイシン)を補給した。
【0028】
細菌菌株
本試験で使用したB.ペルツシス(B.pertussis)であるBPSM及びBPZE1並びにボルデテラ・パラペルツシス(Bordetella parapertussis)については、以前に記載されている(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65;Menozzi et al.,Infect Immun 1994;62:769-78)。B.ペルツシス(B.pertussis)菌株であるB0403、B1412、B1617及びB0005(菌株134 Pillmer)は、RIVMコレクション(Bilthoven,The Netherlands)から入手した。対抗選択のために、臨床分離菌株の一部は、Antoine et al.(J Mol Biol 2005;351:799-809)に記載されたゲンタマイシン耐性を獲得するためにpFUS2 BctA1自滅プラスミドを用いてエレクトロポレーションにかけた。エレクトロポレーション後のゲンタマイシン耐性誘導体は、染色体DNA内へのpFUS2 BctA1ベクターの挿入部位を検証するためにPCRによってチェックし、及び下記に説明するように表面曝露したFim2及び/又はFim3のレベルをELISAによってチェックした。菌株P134Sは、B.ペルツシス(B.pertussis)B0005のストレプトマイシン誘導体を選択することによって入手した。菌株P134Sは、rpsl遺伝子内の突然変異によって媒介されたストレプトマイシン耐性に加えて、線毛産生の消失をもたらすfimC遺伝子内の突然変異を有する。B.ペルツシス(B.pertussis)内への様々なプラスミド構築体のコンジュゲーションのために、大腸菌(Escherichia coli)SM10を使用した(Simon et al.,Bio/Technology 1983;1:784-91)。
【0029】
Fim3陽性BPZE1誘導体BPZE1f3の構築
BPZE1f3を構築するために、fim3 ATGコドンの75bp上流であるBPZE1のfim3遺伝子のプロモーター領域内に局在する13Cストレッチは、fim3の転写を誘発するために14Cストレッチと置換された。プロモーター領域を含有する全fim3遺伝子座は、親菌株内で最初に欠失させられ、その後14Cストレッチを備えるfim3遺伝子座によって置換された。この遺伝子座を包含する2265bpのPCR断片は、以下のオリゴヌクレオチド(SPfim3UP2:GAGCTCTTTACCGCGGCCGCCAGTTGTTCATCAATG及びASPfim3LO2:GGATCCATCATCGAGACCGACTGG)を使用することによって増幅させ、pBluescript II SK+プラスミド(Addgene)のSacI及びBamHI制限部位内にクローン化した。結果として生じたプラスミドから、全遺伝子座を含有する904bp断片は、pSKfim3UPLOを得るためにSphI制限によって除去した。pSKfim3UPLOの1351bpのSacI-BamHI断片は、pJQ200mp18rpsLのSacI及びBamHI部位内に挿入された(Antoine,J.Mol.Biol.(2005)351,799-809)。組換えプラスミドは、次に以前に記載されたように(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)、コンジュゲーションを使用するBPZE1内での二重相同組換えのために使用した。接合完了体は、オリゴヌクレオチドであるSPfim3UP2及びASPfim3LO2を使用するPCRによって全fim3遺伝子座の欠失についてチェックした。プロモーター内への14Cストレッチを備える全fim3遺伝子座の再導入は、以下の通りに実施した。14Cストレッチを備える全遺伝子座を包含する911bpの合成遺伝子は、GeneArt(登録商標)Gene Synthesis(ThermoFisher SCIENTIFIC)によって合成した。合成断片の先端にあるSphI部位を使用してそれをpSKfim3UPLOのSphI部位内に挿入すると、pSKfim3+が生じた。挿入物の正確な方向は、制限によってチェックした。このプラスミドの2256bpのSacI-BamHI断片は、pJQ200mp18rpsLの同一制限部位内に運ばれ、pJQfim3+をもたらした。このプラスミドを使用して、BPZE1f3を得るために二重相同組換えを実施した。この組換え菌株は、オリゴヌクレオチドであるSPfim3UP2及びASPfim3LO2を使用するPCRによって検証した。
【0030】
Fim2及びFim3産生の解析
B.ペルツシス(B.pertussis)菌株は、最初に30分間に渡り56℃で加熱することによって不活化した。熱不活化菌株は、次に96ウエルプレート(Nunc Maxi Sorp,)内で0.075の600nmでの光学密度(OD)でコーティングし、ウエルが乾燥するまで37℃で一晩インキュベートした。ウエルは次に、1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含有する100μLのPBS Tween 0.1%(PBST)を用いてブロックした。Fim2及びFim3モノクローナル抗体(NIBSC、各々04/154及び04/156)は、PBST中の1/50~1/36450(v/v)の連続希釈率で添加した。3回の洗浄後、プレートをPBST中の100μLのホースラディッシュ-ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG(Southern Biotech)を用いてインキュベートした。5回の洗浄後、プレートは、室温で30分間に渡り、100μLのHRP基質TMB溶液(Interchim)を用いてインキュベートした。反応は、50μLの1MのHPOの添加によって停止させた。ODは、BiokineticリーダーEL/340マイクロプレートを用いて450nmで測定した。
【0031】
DNAシーケンシング
染色体DNAのPCR増幅は、Phusion High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Thermofisher)又はKAPA HiFi DNAポリメラーゼ(Kapa Biosystems)を製造業者の取扱説明書に従って使用して実施した。PCR断片は、QiaQuick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、増幅のために使用したプライマーを用いてシーケンシングした。ptxPのPCR増幅のために使用したプライマーptxP Up及びptxP Lowについては、以前に記載されている(Mooi et al.,Emerg Infect Dis 2009;15:1206-13)。prnの部分的PCR増幅のために使用したプライマーprn AF及びprn ARについては、以前に記載されている(Mooi et al.,Infect Immun 1998;66:670-5)。プライマーfim2 Up 5’-AGCTAGGGGTAGACCACGGA-3’及びfim2 Low 5’-ATAACTCTTCTGGCGCCAAG-3’は、fim2の増幅及びシーケンシングのために使用した。プライマーfim3 Up 5’-CATGACGGCACCCCTCAGTA-3’及びfim3 Low 5’-TTCACGTACGAGGCGAGATA-3’は、fim3の増幅及びシーケンシングのために使用した。
【0032】
マウスの感染実験
BALB/cマウスは、Charles River(l’Abresle,France)から入手し、the Institut Pasteur de Lilleの動物飼育施設内で特異的無菌条件下で飼育した。6週齢のBALB/cマウスは、以前に記載されたように(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)、麻酔カクテル(ケタミン+アトロピン+バリウム)を含む腹腔内注射によって軽度に鎮静し、その後に10コロニー形成単位(CFU)のB.ペルツシス(B.pertussis)であるBPZE1若しくはBPZE1f3を含有する20μLのPBSによる鼻腔内(i.n.)投与を実施した。1群当たり3匹のマウスをi.n.投与後の選択した時点に安楽死させ、マウスの肺を摘出し、PBS中でホモジナイズし、連続希釈液中でBG血寒天上でプレーティングし、3~4日間に渡り37℃でインキュベーションした後にCFUを計数した。
【0033】
マウスの防御実験
6週齢のBALB/cマウスには、上述したように10CFUのB.ペルツシス(B.pertussis)であるBPZE1若しくはBPZE1f3をi.n.ワクチン接種した。4週間後、ナイーブ及びワクチン接種マウスには20μLのPBS中の10CFUのB.ペルツシス(B.pertussis)であるBPSM、指示した臨床的B.ペルツシス(B.pertussis)分離株若しくはB.パラペルツシス(B.parapertussis)をチャレンジ投与した。肺コロニー形成は、1群当たり各々3匹及び5匹のマウスを用いて3時間後及び7日後に決定した。
【0034】
Fim3及びFim2産生の安定性
20μLのPBS中の10CFUのBPZE1f3を鎮静したマウスに投与した。14日後、肺を摘出し、ホモジナイズし、BG寒天上にプレーティングした。3~4日後、94個の個別コロニーは、100μLのPBS/ウエルを含有する96ウエルプレート内に接種した。コントロールウエルは、陰性コントロールとしてのBPZE1及び陽性コントロールとしてのBPZE1f3を含有していた。各ウエル内に存在する細菌の量は、630nmでのOD測定によって決定した。乾燥させた後、Fim3及びFim2の存在は、上述したように全細胞ELISAによって評価した。1%のBSAを含有する100μLのPBSTを用いたブロッキングステップ後、1時間中に、細菌は1/1350の希釈率で100μLのPBST中の抗Fim3モノクローナル抗体04/156又は抗Fim2モノクローナル抗体04/154と共にインキュベートした。PBST中の100μLのホースラディッシュ-ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG(Southern Biotech)を用いた洗浄及びインキュベーション後、Fim3又はFim2の存在を100μLのHRP基質TMB溶液(Interchim)曝露を用いて評価した。反応は、50μLの1MのHPOの添加によって停止させた。ODは、BiokineticリーダーEL/340マイクロプレートを用いて450nmで測定した。
【0035】
結果
BPZE1f3の構築。
Fim3を産生するBPZE1誘導体を構築するために、最初にfim3遺伝子をBPZE1から欠失させた。fim3の上流及び下流隣接領域は、鋳型としてのBPZE1染色体DNAを使用するPCRによって増幅させ、非複製ベクターpJQ200mp 18rpsL内で一緒にスプライスした(Antoine,J.Mol.Biol.(2005)351,799-809)。BPZE1のfim3遺伝子は、次に組換えプラスミドを含有する大腸菌(E.coli)SM10とのコンジュゲーション後の対立遺伝子交換によって欠失させた。結果として生じた菌株BPZE1&#8710;fim3を使用してfim3遺伝子を機能的プロモーターと一緒に元のfim3遺伝子座内に再統合させた。元のプロモーターの13Cストレッチは、fim3発現を可能にする14Cストレッチと置換し、fim3オープンリーディングフレームと一緒にpSKfim3UPLO内に挿入した。生じたプラスミドpJQFim3+は、大腸菌(E.coli)SM10:pJQFim3+とのコンジュゲーションによってBPZE1&#8710;fim3内にコンジュゲート化した。これはBPZE1f3を生じさせた。
【0036】
BPZE1f3におけるFim2及びFim3の産生は、各々Fim2特異的及びFim3特異的モノクローナル抗体を使用して全細胞ELISAによって解析した。図1Aに示したように、BPZE1及びBPZE1f3はどちらも同等量のFim2を産生した。対照的に、Fim3はBPZE1f3によってのみ産生され、全BPZE1抽出物上でFim3特異的抗体を用いた場合はバックグラウンド吸光度しか検出されなかった(図1B)。どちらの菌株もStainer Scholte培地中及び完全合成Thijs培地中で同等に良好に増殖し(図2)、これはFim3の産生がBPZE1f3の増殖特性に影響を及ぼさないことを示していた。
【0037】
BPZE1f3によるマウスコロニー形成。
マウス気道におけるコロニー形成においてBPZE1f3によるFim3産生が果たす潜在的役割を評価するため、成体マウスを10CFUのBPZE1若しくはBPZE1f3の何れかで感染させ、1群当たり3匹のマウスを安楽死させて感染後第3、7、14、21及び28日後に彼らの肺内の細菌量を定量した。図3に示したように、マウス肺にコロニー形成する能力は解析した全時点において2種の菌株間で同一であったが、これはFim3の産生がBPZE1がマウス気道にコロニー形成する能力を増強も妨害もしないことを示していた。
【0038】
臨床的B.ペルツシス(B.pertussis)分離株に対するBPZE1媒介性及びBPZE1f3媒介性防御。
Fim2及びFim3のそれらの産生に関して相違する臨床分離株に対するBPZE1及びBPZE1f3の相対的防御作用を試験するために、本発明者らは、マウスを10CFUのワクチン菌株を用いて鼻腔内免疫し、10CFUのチャレンジ菌株を用いて1カ月後に感染させる準最適免疫化プロトコールを使用した。このプロトコールを使用したのは、10CFUのワクチン菌株を使用し、2カ月後に10CFUのチャレンジ菌株を用いた感染が続く標準ワクチン接種プロトコールは、通常は抗原投与7日後に総クリアランスを生じさせるので、このプロトコールがワクチンロット間の潜在的差を検出するために最も適合するためであった。
【0039】
2種のワクチン菌株の効力をRIVMのB.ペルツシス(B.pertussis)培養コレクション(Bilthoven,The Netherlands)由来の4種の異なる臨床分離株に対して試験した。5種の菌株は、Fim2及びFim3産生に関して下記の:1617F1(Fim2+Fim3-)、403pF1(Fim2+Fim3-)、P134(Fim2-Fim3-)、1412pF1(Fim2-Fim3+)及び403pF3(Fim2+Fim3+)の特徴を有していた。これらの菌株の遺伝的に重要な特徴は、下記の表Iに提示した。ワクチン接種及びチャレンジ感染後、チャレンジ菌株の細菌量は感染3時間後及び7日後に肺内で測定された。
【表1】
【0040】
BPZE1及びBPZE1f3は、1617pF1、403pF1、P134及び403pF3に対して同等に良好に防御し、非ワクチン接種マウスにおける細菌量と比較して、各場合において細菌量を感染7日後に4~5log減少させた(図4)。BPZE1ワクチン接種マウスとBPZE1f3ワクチン接種マウスとの間で統計的有意差は見られなかった。しかし、マウスに1412pF1をチャレンジ投与すると、Fim3だけを産生してFim2を産生しない菌株であるBPZE1f3は、BPZE1より有意に良好に防御すると思われた(図4D)。BPZE1ワクチン接種は非ワクチン接種マウスと比較して、細菌量において4logの差を生じさせたが、BPZE1f3はこの防御を5logの差へ増加させた。チャレンジ感染の3時間後にCFUを測定した場合に、ワクチン接種マウスと非ワクチン接種マウスとの間の細菌量の統計的有意な減少は観察されなかったが、これは、予想通りに、全マウスが同一チャレンジ用量を摂取していたことを示していた。これらの結果は、Fim3だけを産生する菌株に対してBPZE1に比してBPZE1f3の改良された効力を示しているが、他方Fim3と共に、又はFim3を伴わずにFim2を産生する菌株又は線毛を産生しない菌株に対する防御の改善は見られなかった。
【0041】
ボルデテラ・パラペルツシス(Bordetella parapertussis)に対するBPZE1媒介性及びBPZE1f3媒介性防御。
B.パラペルツシス(B.parapertussis)に対するBPZE1f3の効力についても試験した。この場合には、10CFUのワクチン菌株を使用し、その後にワクチン接種の2カ月後に10CFUのB.パラペルツシス(B.parapertussis)によりチャレンジ投与した。以前に、このプロトコールは強力な防御をもたらすが、チャレンジ感染の7日後に総クリアランスは生じないことが証明されている(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)。B.パラペルツシス(B.parapertussis)感染の7日後、BPZE1ワクチン接種マウスとBPZE1f3ワクチン接種マウスはどちらも、非ワクチン接種マウスと比較して、肺内の細菌量の強度の減少(4~5logの間)を示した(図5)。BPZE1ワクチン接種マウスとBPZE1f3ワクチン接種マウスとの間で統計的差は見られず、これはFim3の産生が利点を提供しないが、B.パラペルツシス(B.parapertussis)感染に対する防御にとって有害ではないことも示している。
【0042】
BPZE1f3によるFim3産生の安定性。
BPZE1とBPZE1f3との間の唯一の遺伝的相違は、fim3プロモーターのCストリング内のC(BPZE1内の13C及びBPZE1f3内の14C)の量であり、及びCストリングはB.ペルツシス(B.pertussis)内で位相変動を生じさせる傾向があるので(Willems et al.,EMBO J 1990;9:2803-9)、BPZE1f3によるFim3及びFim2両方の産生の安定性をマウスにおけるワクチン菌株のin vivo継代後に評価した。マウスを10CFUのBPZE1f3により感染させ、感染14日後の肺内に存在する細菌を採取し、BG寒天上でプレーティングした。増殖後、94個の個別コロニーを96ウエルプレート内に接種した。残留しているコロニーを採取し、第2継代のためにマウスに投与し、更に2週間後に第3継代を実施した。各継代時に、94個の個別コロニーは、100μLのPBS/ウエルを含有する96ウエルプレート内に接種した。コントロールウエルは、陰性コントロールとしてのBPZE1及び陽性コントロールとしてのBPZE1f3を含有していた。各ウエル内に存在する細菌の量は、630nmでのOD測定によって決定した。乾燥させた後、Fim3及びFim2の存在を全細胞ELISAによって評価した。クローン94個中94個が第1継代後にFim3及びFim2の両方を産生することが見出された。第2継代後、97.9%のコロニーはFim2を産生し、96.8%はFim3を産生し、第3継代後の数はFim3及びFim2について各々87.23%及び97.9%であったが(図6)、3回のin vivo継代後に12.77%の損失しか示さなかったので、これは相当に安定性のfim3発現を示した。
【0043】
その他の実施形態
本発明をその詳細な説明と結び付けて記載してきたが、上記の説明は具体的に説明することを意図するものであり、添付の請求項の範囲によって規定される本発明の範囲を限定することを意図していないことを理解されたい。他の態様、利点及び修飾は、以下の請求項の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2023109996000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-06-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬上許容される担体及びFim3を安定的に産生するように組み換えられた生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株を含むワクチンにおいて、前記生弱毒化ボルデテラ(Bordetella)菌株は、哺乳動物対象の肺にコロニー形成し、ボルデテラ(Bordetella)感染に対する防御免疫応答を誘導する能力を保持していることを特徴とするワクチン。
【外国語明細書】