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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110037
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】電池用表面処理金属板
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20230801BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20230801BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20230801BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20230801BHJP
   H01M 50/145 20210101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M50/119
H01M50/124
H01M50/133
H01M50/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091930
(22)【出願日】2023-06-02
(62)【分割の表示】P 2023516592の分割
【原出願日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021142714
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022091139
(32)【優先日】2022-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 道雄
(72)【発明者】
【氏名】上原 香織
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】松重 大輔
(57)【要約】
【課題】ガス発生の抑制が可能であり、かつ、耐電解液性に優れた電池用表面処理金属板を提供すること。
【解決手段】電池用表面処理金属板であって、前記電池用表面処理金属板の基材が、鉄またはニッケルを基とする金属板であり、前記金属板の少なくとも片面にニッケル-スズ合金層を備え、前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、NiSnを含有することを特徴とする電池用表面処理金属板を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池用表面処理金属板であって、
前記電池用表面処理金属板の基材が、鉄またはニッケルを基とする金属板であり、
前記金属板の少なくとも片面にニッケル-スズ合金層を備え、
前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、NiSnを含有することを特徴とする、
電池用表面処理金属板。
【請求項2】
電池用表面処理金属板であって、
前記電池用表面処理金属板の基材が、鉄またはニッケルを基とする金属板であり、
前記金属板の少なくとも片面にニッケル-スズ合金層を備え、
前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、NiSnを含有することを特徴とする、
電池用表面処理金属板。
【請求項3】
高周波グロー放電発光表面分析(GDS)により測定した前記ニッケル-スズ合金層の厚みが、0.05~5.00μmである請求項1または2に記載の電池用表面処理金属板。
【請求項4】
前記ニッケル-スズ合金層の下層に、ニッケル層を備える請求項1または2に記載の電池用表面処理金属板。
【請求項5】
前記ニッケル-スズ合金層が形成されている面における、ニッケル付着量が2.1~65.0g/mである請求項1または2に記載の電池用表面処理金属板。
【請求項6】
前記ニッケル-スズ合金層が形成されている面における、スズ付着量が0.05~15.0g/mである請求項1または2に記載の電池用表面処理金属板。
【請求項7】
前記金属板が、低炭素鋼または極低炭素鋼からなる請求項1または2に記載の電池用表面処理金属板。
【請求項8】
前記金属板は、純鉄からなる電解箔、純ニッケルからなる電解箔、または鉄およびニッケルの二元合金からなる電解箔である請求項1または2に記載の電池用表面処理金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生の抑制が可能であり、かつ、耐電解液性に優れた電池用表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液がアルカリ水溶液からなる、いわゆるアルカリ電池の二次電池の種類としては、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などが実用化され、広く知られている。また、アルカリ二次電池において、空気電池や、正極に水酸化ニッケル等、負極活物質に亜鉛等を用い、電解液にアルカリ水溶液を用いるニッケル亜鉛電池は、次世代の電池として鋭意開発が行われている。
【0003】
ニッケル亜鉛電池の利点としては、水系電池としては高い起電力を有しエネルギー密度が大きいこと、亜鉛が安価であること、レアメタルレスであること、ニッケルと亜鉛が共にリサイクル可能な金属であること、水系電解液を使用しているためリチウムイオン電池よりも安全性に優れていること、等が挙げられる。
【0004】
一方で、二次電池としての空気亜鉛電池やニッケル亜鉛電池の実用化への課題の一つとして、充放電時(自然放電含む)における水素ガス発生の問題があった。水素ガス発生が生じ、その発生量が多くなりすぎると、電池性能の低下や、内圧上昇を引き起こし、電池の漏液につながるおそれがある。特に電池反応に亜鉛が関与する電池において、これらの問題は特に顕著に生じうる。
【0005】
上述のような水素ガス発生の問題は、負極集電体に水素過電圧の高い材料を適用することにより解決可能であることは、従来知られている。たとえば、特許文献1では、負極の集電体の材料として銅とスズの合金を用いることにより水素過電圧を高くして、上記のような水素ガス発生の問題を解決しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-75160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の技術は、実用的なアルカリ二次電池に用いる場合、耐食性(耐電解液性)が不十分であった。すなわち、アルカリ二次電池として十分な電池性能を発揮するためには、電解液中の水酸化カリウムの濃度が、20重量%以上であることが好ましく、より高性能とするためには25~40重量%とすることが望まれる。
一方で、上記特許文献1に記載のような銅と錫の合金では、銅単体に比べれば耐食性は改善するものの、上記したような高濃度の電解液環境下では溶解することには変わりなく、また、放電反応時にはさらに溶解が促進されてしまうため、実用には耐えない。
【0008】
一方で、一般的に耐アルカリ性に優れるとされるニッケルを用いた場合には、アルカリ電解液への溶解は抑制できるが、ニッケルは水素過電圧が小さく、水素ガスが発生しやすいという問題が生じる。特に電池反応に亜鉛が関与する場合には、亜鉛とのアルカリ電解液中における電位差も大きく、顕著に水素ガスが発生しやすくなってしまう。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明者らは、アルカリ二次電池の充放電時におけるガス発生を抑制し、かつ、電解液への溶解を抑制可能な、負極の集電体材料、電池タブ・リード材料や電池容器(電池外装材料)となる電池用表面処理金属板を開発すべく、鋭意検討した。その結果、電池用表面処理金属板を、特定の構成とすることにより、上記した複数の課題を両立させることが可能であることを見出し、本発明に想到したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、鉄またはニッケルを基とする金属板の少なくとも片面にニッケル-スズ合金層を備える電池用表面処理金属板によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の事項に関する。
[1]電池用表面処理金属板であって、前記電池用表面処理金属板の基材が、鉄またはニッケルを基とする金属板であり、前記金属板の少なくとも片面にニッケル-スズ合金層を備えることを特徴とする、電池用表面処理金属板。
【0012】
[2]高周波グロー放電発光表面分析(GDS)により測定した前記ニッケル-スズ合金層の厚みが、0.05~5.00μmである[1]に記載の電池用表面処理金属板。
[3]前記ニッケル-スズ合金層の下層に、ニッケル層を備える[1]または[2]に記載の電池用表面処理金属板。
[4]前記ニッケル-スズ合金層が形成されている面における、ニッケル付着量が2.1~65.0g/mである[1]~[3]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
[5]前記ニッケル-スズ合金層が形成されている面における、スズ付着量が0.05~15.0g/mである[1]~[4]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
【0013】
[6]前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、NiSnを含有する[1]~[5]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
[7]前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、CuKαを線源とするX線回折測定による、回折角2θ=40~42°の範囲、または回折角2θ=46~48°の範囲の少なくともいずれかの範囲に回折ピークが得られるニッケル-スズ合金を含有する[1]~[6]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
[8]前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、前記回折角2θ=40~42°の範囲および前記回折角2θ=46~48°の範囲に回折ピークが得られるニッケル-スズ合金を含有する[7]に記載の電池用表面処理金属板。
[9]前記ニッケル-スズ合金層が、合金相として、NiSnを含有する[1]~[8]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
[10]前記金属板が、低炭素鋼または極低炭素鋼からなる[1]~[9]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
[11]前記金属板は、純鉄からなる電解箔、純ニッケルからなる電解箔、または鉄およびニッケルの二元合金からなる電解箔である[1]~[10]のいずれかに記載の電池用表面処理金属板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガス発生の抑制が可能であり、かつ、耐電解液性に優れた電池用表面処理金属板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電池用表面処理金属板の断面図である。
図2図2は、本発明の別の実施形態に係る電池用表面処理金属板の断面図である。
図3A図3Aは、Ni-Sn40-42、又はNi-Sn46-48の回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートである。
図3B図3Bは、NiSnの回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートである。
図3C図3Cは、NiSnの回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートである。
図3D図3Dは、アノード反応試験の前後におけるNi-Sn40-42の回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートである。
図3E図3Eは、アノード反応試験の前後におけるNi-Sn46-48の回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートである。
図4図4は、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)による厚みの測定方法を説明するための図である。
図5図5(A)は、実施例1の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフであり、図5(B)、図5(C)は、実施例5の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電池用表面処理金属板は、電池用途に用いられる表面処理金属板であり、たとえば、正極用または負極用の集電体用途や、電池の発電要素を収容するための電池容器用途などに用いられる。電池としては、特に限定されないが、アルカリ電解液を用いた、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、空気亜鉛電池、ニッケル亜鉛電池などの水系電池や、リチウムイオン電池などの非水系電池などが挙げられるが、本発明の電池用表面処理金属板は、水系電池に好適に用いられ、水系電池の中でも特に、電池反応に亜鉛が関与する水系電池(例えばニッケル亜鉛電池など)を構成するための集電体用途や、電池容器用途として好適に用いられる。
なお、本発明は水系電池であれば一次電池または二次電池のどちらでも適用することが可能である。
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る電池用表面処理金属板10の断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る電池用表面処理金属板10は、基材20の両面に、ニッケル-スズ合金層40を備えている。なお、図1には、基材20上に形成されたニッケル層30を介して、ニッケル-スズ合金層40が形成された構成を例示したが、このような態様に特に限定されるものではなく、たとえば、基材20上に、直接、ニッケル-スズ合金層40が形成されたような構成であってもよい。
【0018】
また、図1には、基材20の両面に、ニッケル-スズ合金層40が形成された態様を例示したが、本実施形態においては、基材20の少なくとも一方の面に、ニッケル-スズ合金層40が形成されたものであればよく、両面に、ニッケル-スズ合金層40が形成されたものに特に限定されるものではない。また、本実施形態において、ニッケル-スズ合金層40は、ガス発生抑制が要求される面に形成すればよく、たとえば、本実施形態に係る電池用表面処理金属板10を、正極または負極の集電体用途(たとえば、ニッケル亜鉛電池の負極の集電体用途として用いる場合)やリード材、タブ材として用いる場合には、基材20の両面に、ニッケル-スズ合金層40が形成された態様とすることができる。また、本実施形態に係る電池用表面処理金属板10を、容器または電極缶といった電池容器用途として用いる場合には、基材20のうち、電池内面側となる面に、ニッケル-スズ合金層40が形成された態様とすることができ、特に電池内面側が負極電位にさらされるような構造の場合には、電池内面側にニッケル-スズ合金層40が形成された態様とすることが望ましい。また、電池外面側となる面については、特に限定されないが、表面処理を行っていないものとすることもできるし、あるいは、ニッケル層30やニッケル-スズ合金層40などの他の表面処理層を形成することもできる。
【0019】
<基材20>
基材20としては、鉄またはニッケルを基とする金属板であればよく、特に限定されないが、たとえば、低炭素鋼(炭素量0.01~0.15重量%)や、炭素量が0.003重量%以下の極低炭素鋼、極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼などの鋼板や、ニッケル板などを用いることができ、これらのなかでも、低炭素鋼、極低炭素鋼を好適に用いることができる。また、基材20としては、純鉄からなる電解箔(鉄の含有率が、99.9重量%以上である電解箔)、純ニッケルからなる電解箔(ニッケルの含有率が、99.9重量%以上である電解箔)、または鉄およびニッケルの二元合金からなる電解箔などが挙げられる。また、本実施形態に係る電池用表面処理金属板10を、正極または負極の集電体用途として用いる場合には、基材20は、貫通孔を有する有孔板あるいは有孔箔であってもよい。
【0020】
基材20の厚みは、特に限定されないが、たとえば、集電体用途として用いる場合には、好ましくは0.005~2.0mmであり、より好ましくは0.01~0.8mm、さらに好ましくは0.025~0.8mm、特に好ましくは0.025~0.3mmである。また、電池容器用途として用いる場合には、好ましくは0.1~2.0mmであり、より好ましくは0.15~0.8mm、さらに好ましくは0.15~0.5mmである。
【0021】
<ニッケル-スズ合金層40>
本実施形態の電池用表面処理金属板10は、基材20上に、ニッケル-スズ合金層40を備える。図1には、ニッケル-スズ合金層40が、ニッケル層30を介して、基材20上に形成された態様を示しているが、このような態様に特に限定されるものではなく、ニッケル層30を備えない構成としてもよい。なお、ここでいうニッケル-スズ合金層40とは、後述する高周波グロー放電発光表面分析(GDS)及びX線回折(XRD)測定を行うことにより、ニッケル-スズ合金層の有無を確認することができる。
【0022】
ニッケル-スズ合金層40は、ニッケルとスズとの合金で形成されたものであればよいが、本実施形態の効果を適切に奏するという観点より、ニッケルとスズとの二元合金であることが望ましく、鉄などの他の元素が実質的に含まれないものであることが望ましい。たとえば、本実施形態の電池用表面処理金属板10は、鉄-ニッケル-スズの三元合金層を有するものであってもよいが、ニッケルとスズとの二元合金からなる層を少なくとも有するものであることが望ましい。
【0023】
ニッケル-スズ合金層40は、ニッケルとスズとの二元合金であることが望ましく、その結晶構造等は特に限定されないが、合金相として、NiSn、またはNiSn、あるいは、CuKαを線源とするX線回折測定による、回折角2θ=40~42°の範囲に回折ピークが得られるニッケル-スズ合金(以下、このニッケル-スズ合金を「Ni-Sn40-42」とする)、または回折角2θ=46~48°の範囲に回折ピークが得られるニッケル-スズ合金(以下、このニッケル-スズ合金を「Ni-Sn46-48」とする。)を含有することが好ましい。
上述したNi-Sn40-42、およびNi-Sn46-48が、ニッケルとスズとの二元合金であることを確認するためには、後述する高周波グロー放電発光表面分析(GDS)や走査型オージェ電子分光分析(AES)などを用いて確認することができる。具体的には、基材20上に形成されたニッケル-スズ合金層40から、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)にて、Ni強度、Sn強度、およびFe強度が得られることを確認する。次いで、X線回折(XRD)測定にて、上述した回折角2θ=40~42°の範囲に回折ピーク、または回折角2θ=46~48°の範囲に回折ピークが得られることにより、ニッケルとスズとの二元合金が含有されているものと判断することができる。
なお、回折角2θ=40~42°の範囲における回折ピーク、および回折角2θ=46~48°の範囲における回折ピークは、純ニッケル、純スズ、純鉄の回折ピークとは異なることを確認した。
【0024】
合金相としてのNiSnは、CuKαを線源とするX線回折測定により、回折角2θ=31~32°の範囲に(310)面の回折ピークが得られるものである(ICDD PDFカード03-065-4553による)。なお、合金相としてNiSnについては、回折角2θ=32.5~33.5°の範囲における(-311)面の回折ピークと、回折角2θ=35~36°の範囲における(002)面の回折ピーク(ICDD PDFカード03-065-4553による)からも確認できる。
【0025】
合金相としてのNiSnは、CuKαを線源とするX線回折測定により、回折角2θ=54~55°の範囲に(201)面の回折ピークが得られるものである(ICDD PDFカード01-072-2561による)。なお、合金相としてNiSnについては、回折角2θ=34~35°の範囲における(002)面の回折ピーク(ICDD PDFカード01-072-2561による)からも確認できる。
【0026】
また、合金相としてのNi-Sn40-42は、CuKαを線源とするX線回折測定により、回折角2θ=40~42°の範囲に回折ピークが得られるものであり、合金相としてのNi-Sn46-48は、回折角2θ=46~48°の範囲に回折ピークが得られるものである。
【0027】
ニッケル-スズ合金層40は、合金相として、NiSn、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48のいずれかを含有することが好ましい。
なお、より詳細には耐電解液性をより高めるという観点から、合金相として、NiSn、およびNiSnの少なくとも一方を含有することが好ましく、ガス発生の抑制効果をより高めるという観点からは、合金相として、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48の少なくともいずれかを含有することが好ましい。特に、Ni-Sn40-42およびNi-Sn46-48の2つを含有する場合には、ガス発生の抑制効果が顕著に高まるため特に好ましい。また、ガス発生の抑制効果および耐電解液性をより高度に高めることができるという観点からは、合金相として、NiSnを含有することが、特に好ましい。なお、ニッケル-スズ合金層40は、合金相として、NiSn、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48のうち2以上を含有していてもよい。
なお、ニッケル-スズ合金層40は、NiSn、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48といった合金相以外の合金相(たとえば、NiSn)は含有されていないことが好ましく、つまりCuKαを線源とするX線回折測定で、回折角2θ=33~34°の範囲に回折ピークが得られないこと(より具体的には、NiSn、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48に対応するピークのうち、最も積分強度の大きいピークの積分強度に対して、1%以上の積分強度を有する回折ピークが得られないこと)が好ましい。
【0028】
本実施形態において、上記構成を有することが望ましい理由は以下の通りである。
すなわち上述したように、アルカリ二次電池の実用化への課題の一つとして、水素ガス発生の問題がある。水素ガスは例えば、電池の内部において異種金属間で局部電池が形成されることに起因して、電池反応以外の化学反応(自己放電)が起こる条件において、水素ガス発生の反応条件が満たされた場合に生じる。例えばニッケル亜鉛電池においては、充電時には亜鉛または酸化亜鉛の状態で亜鉛が析出し、放電時には当該亜鉛が溶解するが、亜鉛は水系電池に使用される金属の中でも電位が低い金属の一つであるため、電池に使用される他の金属との間で局部電池状態となったときの放電量が多く、水素ガス発生条件を満たしやすい。
【0029】
水素ガス発生が多く生じた場合、電池性能の低下や、漏液の問題に繋がる。具体的には、自己放電により水素ガス発生が起こった場合には、電池反応に寄与すべき電子が水素ガス発生により消費されてしまうため電池性能の低下につながる。そして、水素ガスの生成量が多くなるほど、電池性能としてはより低下してしまう。また、漏液は内圧上昇に起因して生じるおそれがあり、安全性の低下につながる。なお、ここでいう自己放電とは、充電・放電時の副反応(水素ガス発生プロセスを含む化学反応)および、充放電時以外、つまり自然放置状態で起こる化学反応の両方を含む。
【0030】
このような電池性能の低下や漏液の問題を回避するため、水素ガス発生量は極力抑制する必要がある。特に集電体材料は、その表面に、電解液中の亜鉛等が析出し直接接触することとなるため水素ガスがより発生しやすい部材であり、また自己放電が起こりやすい部材である。
【0031】
このようなガス発生を低減するための方法の一つとして、水素過電圧の高い材料を適用することが知られている。
本実施形態において、ニッケル-スズ合金層40中のスズは水素過電圧の高い材料といえる。しかしながらスズの性質として、耐電解液性としては低いものである。一方でニッケル-スズ合金層40中のニッケルは、水素過電圧は低いが、耐電解液性は優れている。
そのため本発明者らは、ニッケル-スズ合金層40を形成するためのめっき条件や熱処理条件等を変更して、ニッケルとスズそれぞれの含有量や合金の構造等の異なる合金層を得た。このように本発明者らが鋭意検討し実験を繰り返す中で、ニッケル-スズ合金層40を備えることにより、上述した耐電解液性や水素ガス発生の課題を同時に解決し得ることを見出したものである。さらに、ニッケル-スズ合金層40は、合金相としてNiSn、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48の少なくともいずれかを含有されていることが好ましく、上記合金相の中でも、NiSnの合金相を含有している場合に、耐電解液性やガス発生抑制効果がより優れることを見出した。
【0032】
ニッケル-スズ合金層40の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.05~5.00μm、より好ましくは0.05~3.00μm、さらに好ましくは0.10~2.50μmである。ニッケル-スズ合金層40の厚みを上記範囲とすることにより、ガス発生の抑制効果および耐電解液性をより高めることができる。
【0033】
なお、ニッケル-スズ合金層40の厚みは、高周波グロー放電発光分光分析装置(GDS測定装置)を用いて、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)を行うことにより、求めることができる。ここで、高周波グロー放電発光分光分析装置は、めっきや熱処理などの各種表面処理が施された試料の深さ方向元素分析を行う分析手法であり、スパッタリングによる破壊分析である。
【0034】
高周波グロー放電発光分光分析装置を用いた測定方法は、次の通りである。すなわち、まず、厚みが分かっている純Niめっき層を、鉄を基とする金属板上に形成した標準サンプルと、厚みが分かっている純Snめっき層を、ストライクNiめっきを施したステンレス板上に形成した標準サンプルの2つを準備する。次いで、上記2つの標準サンプルを用いて、高周波グロー放電発光分光分析装置により測定を行い、各深さ位置における、Ni強度データ、Sn強度データおよびFe強度データを得る。そして、得られたNi強度データ、Sn強度データおよびFe強度データより、スパッタリング深さとスパッタリング時間との関係(エッチングレート(単位:μm/秒))を求め、これをそれぞれ、純Niめっき層のエッチングレートRNi、純Snめっき層のエッチングレートRSnとする。また、純Niめっき層と、ニッケル-スズ合金層とは、硬度の値が近いという関係にあり、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いた測定では、エッチングレートと、硬度との間に相関関係があることから、純Niめっき層のエッチングレートRNiを、ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Snとする。
【0035】
次いで、上記2つの標準サンプルの測定により得られたNi強度データ、Sn強度データおよびFe強度データについて、それぞれの最大値が同等の値となるように、強度データの補正を行う。強度データの補正は、それぞれの最大値が同等の値となるような補正係数を求め、求めた補正係数を用いて、Ni強度データ、Sn強度データおよびFe強度データを補正することにより行う。補正係数として、たとえば、純Niめっき層を、鉄を基とする金属板上に形成した標準サンプルにおいては、Ni強度データおよびFe強度データの最大値を10となるような値に設定し、純Snめっき層を、ストライクNiめっきを施したステンレス板上に形成した標準サンプルにおいては、Sn強度データの最大値を10となるような値に設定することができる。
【0036】
本測定においては、上記各最大値が10となるように補正係数を設定する。そして、Ni強度が1以上である深さ位置について、Niが検出されたと判断し、また、Sn強度が0.2以上である深さ位置について、Snが検出されたと判断し、Fe強度が1以上である深さ位置について、Feが検出されたと判断と判断する。そのため、本測定においては、Ni強度が1以上、Fe強度が1未満、Sn強度が0.2未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、ニッケル層が形成されている領域であると判断する。同様に、Sn強度が0.2以上、Ni強度が1未満、Fe強度が1未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、スズ層が形成されている領域であると判断する。また、Fe強度が1以上、Ni強度が1未満、Sn強度が0.2未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、Feからなる領域(たとえば、基材20)と判断する。さらに、Ni強度が1以上、Sn強度が0.2以上、Fe強度が1未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、ニッケル-スズ合金層40が形成された領域として判断し、Ni強度が1以上、Fe強度が1以上、Sn強度が0.2未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、鉄-ニッケル合金層が形成された領域として判断する。
【0037】
ここで、図4(A)は、純Niめっき層を、鉄を基とする金属板上に形成した標準サンプルについて、GDS測定を行うことにより得られたグラフであり、図4(B)は、純Snめっき層を、ストライクNiめっきを施したステンレス板上に形成した標準サンプルについて、GDS測定を行うことにより得られたグラフである。なお、図4(A)、図4(B)に示すグラフは、上記した補正係数により補正を行った後のグラフである。図4(A)に示すように、Ni強度が1以上、Fe強度が1未満、Sn強度が0.2未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、ニッケル層が形成されている領域であると判断し、Ni強度が1以上、Fe強度が1以上、Sn強度が0.2未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、鉄-ニッケル合金層が形成された領域として判断する。また、図4(B)に示すように、Sn強度が0.2以上、Ni強度が1未満、Fe強度が1未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、スズ層が形成されている領域であると判断する。
【0038】
そして、電池用表面処理金属板10について、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、最表面から基材20へ深さ方向にNi強度、Sn強度、Fe強度の変化を連続的に測定し、ニッケル-スズ合金層40が形成されていると判断される領域におけるエッチング時間(単位:秒)を測定し、純Niめっき層のエッチングレートRNiを、ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Snとし、ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Sn(単位:μm/秒)と、ニッケル-スズ合金層40が形成されていると判断される領域におけるエッチング時間(単位:秒)とから、ニッケル-スズ合金層40の厚みを求めることができる。
【0039】
図5(A)は、後述する実施例1の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフであり、図5(B)は、後述する実施例5の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフであり、図5(C)は、図5(B)の測定初期におけるデータを拡大したグラフである。図5(C)に示すように、Ni強度が1以上、Sn強度が0.2以上、Fe強度が1未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、ニッケル-スズ合金層40が形成された領域として判断する。そして、この領域における横軸であるエッチング時間(単位:秒)と、ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Sn(単位:μm/秒)とより、下記式にしたがって、ニッケル-スズ合金層40の厚みを求めることができる。
GDS測定によるエッチング時間(単位:秒)×ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Sn(単位:μm/秒)=ニッケル-スズ合金層40の厚み(単位:μm)
【0040】
なお、本実施形態の電池用表面処理金属板10において、ニッケル-スズ合金層40は、上述したX線回折(XRD)測定、または高周波グロー放電発光表面分析(GDS)及びX線回折(XRD)測定の2つを行うことにより、ニッケル-スズ合金層40の有無を確認することができる。具体的には、X線回折(XRD)測定により、上述したニッケルとスズとの二元合金が含有されていれば、ニッケル-スズ合金層40を有するものと判断できる。
【0041】
本実施形態の電池用表面処理金属板10において、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のSnの割合(原子%)は、好ましくは40原子%以上である。上記範囲でSnの割合(原子%)を制御することで、ガス発生抑制の効果をより高めることができる。ガス発生抑制の効果をより一層高めるという観点から、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のSnの割合(原子%)は、より好ましくは45原子%以上、さらに好ましくは50原子%超である。また、耐電解液性という観点においては、ニッケル-スズ合金層40が表面、またはスズ層50の下層に形成されていればよいため、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のSnの割合(原子%)は、特に制限されず100%以下である。なお、後述するアノード反応試験後においても、表面のSnの割合を変化させずに維持するという観点から、より好ましくは90原子%以下、さらに好ましくは80原子%以下である。
なお、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のSnの割合(原子%)が上記範囲を満たすものであれば、電池用表面処理金属板10の最表面に形成されているものがニッケル-スズ合金層40やスズ層50であっても良い。また、ニッケル-スズ合金層40の上層に、スズ層50が形成されている2層構成であっても良い。
【0042】
なお、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のSnの割合(原子%)は、走査型オージェ電子分光分析(AES)により測定することができる。具体的には、まず、電池用表面処理金属板10の、ニッケル-スズ合金層40を形成した面の表面について、走査型オージェ電子分光分析装置を用いて、10nmの深さにてエッチングを行い、エッチング後の面について、走査型オージェ電子分光分析装置を用いて測定を行い、測定により得られたピーク強度のうち、830~860eVのピークをNiのピーク強度INiとし、415~445eVのピークをSnのピーク強度ISnとし、得られたピーク強度より、Niの割合(原子%)およびSnの割合(原子%)を算出することで、Snの割合を求めることできる。なお、この際には、Niのピーク強度INi、Snのピーク強度ISnを、各元素に対応した相対感度係数(RSF)で除することで、Niの割合(原子%)およびSnの割合(原子%)を算出することができる。すなわち、Niの相対感度係数、Snの相対感度係数を、それぞれ、RSFNi、RSFSnとし、以下の式にしたがって求めることができる。
Niの割合(原子%)=(INi/RSFNi)/(INi/RSFNi+ISn/RSFSn)×100
Snの割合(原子%)=(ISn/RSFSn)/(INi/RSFNi+ISn/RSFSn)×100
なお、ここでいう表面のNiの割合(原子%)およびSnの割合(原子%)とは、上述した走査型オージェ電子分光分析装置を用いて、10nmの深さにてエッチングした際の割合である。
【0043】
ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のSnの割合を制御する方法としては、特に限定されないが、後述するように、基材20上に、ニッケルめっき層、およびスズめっき層をこの順に形成し、常温拡散処理を行う方法、または熱拡散処理を行う方法が好適である。
【0044】
ニッケル-スズ合金層40の形成方法は、特に限定されないが、基材20上に、ニッケルめっき層、およびスズめっき層をこの順に形成し、常温にて、ニッケルめっき層と、スズめっき層との界面において拡散を起こさせる方法(常温拡散処理)や、ニッケルめっき層、およびスズめっき層をこの順に形成し、加熱することで、熱拡散処理を行う方法などが挙げられる。また、基材20がNiを基とする金属板(電解箔も含む)である場合には、基材20上にスズめっき層を形成し、上記と同様の方法にてニッケル-スズ合金層40を形成することも可能である。
【0045】
常温拡散処理を行う方法、または熱拡散処理を行う方法において、ニッケルめっき層を形成する方法としては、ニッケルめっき浴を用いて、基材20に対して、ニッケルめっきを行う方法が好適である。ニッケルめっき浴としては、ニッケルめっきで通常用いられているめっき浴、すなわち、ワット浴や、スルファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴などを用いることができる。たとえば、ニッケルめっき層は、ワット浴として、硫酸ニッケル200~350g/L、塩化ニッケル20~60g/L、ほう酸10~50g/Lの浴組成のものを用い、pH3.0~4.8(好ましくはpH3.6~4.6)、浴温50~70℃にて、電流密度10~40A/dm(好ましくは20~30A/dm)の条件で形成することができる。
【0046】
また、常温拡散処理を行う方法、または熱拡散処理を行う方法において、スズめっき層を形成する方法としては、スズめっき浴を用いて、ニッケルめっき層を形成した基材20に対して、スズめっきを行う方法が好適である。なおスズめっき浴としては、特に限定されず、公知のめっき浴であるフェロスタン浴、MSA浴、ハロゲン浴、硫酸浴などを用いた方法が挙げられる。
【0047】
常温拡散処理を行う際における処理温度は、特に限定されないが、好ましくは0℃以上~50℃未満であり、処理時間は、特に限定されないが、好ましくは5時間以上、より好ましくは120時間以上、さらに好ましくは360時間以上、特に好ましくは720時間以上であればよい。常温拡散処理を行うことにより、ニッケル-スズ合金層40を、合金相として、Ni-Sn40-42、又はNi-Sn46-48のいずれかを主として含有するものとするものとすることができる。なお、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つを含有させるためには、処理温度を25℃以上、処理時間を120時間以上とすることが好ましく、より好ましくは処理温度を25℃以上、処理時間を720時間以上である。
【0048】
また、熱拡散処理を行う方法として、箱型焼鈍により熱処理を行う際の熱処理条件は、好ましくは50℃以上~700℃以下、より好ましくは50℃以上~600℃以下である。また、箱型焼鈍により熱処理を行う際の均熱時間(温度が目標値に到達した後の時間)は、特に限定されないが、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは1~5時間であり、加熱、均熱および冷却時間を合わせた合計時間が3~80時間の範囲内で行うことが好ましい。
【0049】
なお、箱型焼鈍により熱処理を行う際には、ニッケル-スズ合金層40に含有させる、合金相の種類に応じて熱処理条件を選択してもよい。たとえば、ニッケル-スズ合金層40を、合金相として、Ni-Sn40-42、又はNi-Sn46-48のいずれかを主として含有するものとする場合には、比較的低温にて、箱型焼鈍による熱処理を行うことが好ましく、箱型焼鈍による熱処理温度を、好ましくは50℃以上~100℃未満、より好ましくは50℃以上~80℃未満とし、均熱時間を、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは1~5時間である。なお、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つを含有させるためには、熱処理温度を50℃以上~100℃未満、熱処理時間を1~8時間とすることが好ましく、より好ましくは熱処理温度を75℃以上~100℃未満、熱処理時間を0.5~5時間である。
【0050】
ニッケル-スズ合金層40を、合金相として、NiSnを主として含有するものとする場合には、上述した、Ni-Sn40-42、又はNi-Sn46-48のいずれかを主として含有させる場合と比較して高温の条件にて、箱型焼鈍による熱処理を行うことが好ましく、箱型焼鈍による熱処理温度を、好ましくは100℃以上~300℃未満、より好ましくは150℃以上~300℃未満、さらに好ましくは150℃以上~250℃未満とし、均熱時間を、好ましくは1~8時間、より好ましくは1~5時間とする。
【0051】
また、ニッケル-スズ合金層40を、合金相として、NiSnを主として含有するものとする場合には、上述した、NiSnを主として含有させる場合と比較して高温の条件にて、箱型焼鈍による熱処理を行うことが好ましく、箱型焼鈍による熱処理温度を、好ましくは300℃以上~700℃以下、より好ましくは300℃以上~600℃以下とし、均熱時間を、好ましくは1~8時間、より好ましくは1~5時間とする。
【0052】
なお、ニッケル-スズ合金層40に、NiSn、NiSn、Ni-Sn40-42、およびNi-Sn46-48のいずれかを含有させる方法として、上記の熱処理方法に限られるものではなく、連続焼鈍であっても良い。
【0053】
また、本実施形態においては、図2に示す電池用表面処理金属板10aのように、ニッケル-スズ合金層40の上に、さらにスズ層50を備えるような構成としてもよい。たとえば、スズ層50は、たとえば、上記した常温拡散処理を行う方法、または熱拡散処理を行う方法により、ニッケル-スズ合金層40を形成する際に、スズめっき層を一部残存させることにより形成することができる。すなわち、たとえば、基材20上に、ニッケルめっき層、およびスズめっき層をこの順に形成し、次いで、常温拡散処理を行う方法や、比較的低温にて、熱拡散処理を行う方法により形成することができる。
【0054】
スズ層50の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm未満、さらに好ましくは0.5μm未満、さらにより好ましくは0.3μm未満、特に好ましくは0.2μm未満である。スズ層50の厚みが上記範囲内であれば、電池性能への悪影響はないものと思われる。なお、スズ層50の厚みの下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、特に好ましくは0.1μm以上である。
スズ層50の厚みは、たとえば、常温拡散処理や熱拡散処理の条件を制御することにより調整することができる。
【0055】
なお、スズ層50の厚みは、X線回折(XRD)測定でSnの回折ピークが確認され、スズ層を有していると判断した電池用表面処理金属板10において、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、求めることができる。具体的には、上記したニッケル-スズ合金層40の厚みの測定と同様にして、電池用表面処理金属板10について、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、最表面から基材20へ深さ方向に測定したSn強度の測定結果より、スズ層50の形成領域を特定し、測定されたSn強度と、純Snめっき層のエッチングレートRSnとから、スズ層50の厚みを求めることができる。
【0056】
<ニッケル層30>
本実施形態の電池用表面処理金属板10は、図1に示すように、ニッケル-スズ合金層40の下層として、ニッケル層30をさらに備えている。なお、図1には、ニッケル層30をさらに備える構成を例示したが、このような構成に限定されるものではなく、ニッケル層30を有さないような構成としてもよい。
【0057】
ニッケル層30の厚みは、好ましくは0.05~5.00μm、より好ましくは0.15~3.00μm、さらに好ましくは0.25~3.00μmである。このような厚みでニッケル層30を形成することにより、電池用表面処理金属板10を、耐電解液性がより高められたものとすることができる。
【0058】
なお、ニッケル層30の厚みは、X線回折(XRD)測定でNiの回折ピークが確認され、ニッケル層を有していると判断した電池用表面処理金属板10において、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、求めることができる。具体的には、上記したニッケル-スズ合金層40の厚みの測定と同様にして、電池用表面処理金属板10について、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、最表面から基材20へ深さ方向に測定したNi強度の測定結果より、ニッケル層30の形成領域を特定し、測定されたNi強度と、純Niめっき層のエッチングレートRNiとから、ニッケル層30の厚みを求めることができる。
【0059】
ニッケル層30の形成方法としては、特に限定されないが、たとえば、上記した常温拡散処理を行う方法、または熱拡散処理を行う方法により、ニッケル-スズ合金層40を形成する際に、基材20上に形成したニッケルめっき層を一部残存させることにより形成することができる。すなわち、たとえば、基材20上に、ニッケルめっき層、およびスズめっき層をこの順に形成し、常温拡散処理や、熱拡散処理を行う際において、形成するニッケルめっき層の厚みや、処理条件を調整することで、ニッケル層30の形成の有無および厚みを制御することができる。
【0060】
また、本実施形態の電池用表面処理金属板10は、ニッケル層30の下層として、鉄-ニッケル拡散層をさらに備えていてもよい。鉄-ニッケル拡散層は、基材20として、鉄を基とする金属板を使用するとともに、基材20上に、ニッケルめっき層を形成し、熱処理を行うことで形成することができる。ニッケルめっき層を形成するためのニッケルめっき条件としては、特に限定されないが、たとえば、上述したニッケル-スズ合金層40を形成するために形成されるニッケルめっき層と同様の条件とすればよい。熱処理条件としては、特に限定されないが、箱型焼鈍により熱処理を行う場合には、熱処理温度を、好ましくは400℃越え~600℃以下、より好ましくは450℃以上~600℃以下とし、均熱時間を、好ましくは0.5~8時間とすればよい。また、連続焼鈍により熱処理を行う場合には、熱処理温度を、好ましくは600℃以上~900℃以下、より好ましくは600℃以上~800℃以下とし、熱処理時間を、好ましくは3~120秒とすればよい。なお、鉄-ニッケル拡散層を形成する場合には、鉄-ニッケル拡散層を形成するための熱処理条件は比較的高温であることから、予め鉄-ニッケル拡散層を形成した後(すなわち、鉄-ニッケル拡散層を形成するための熱処理を行った後)、ニッケル-スズ合金層40を形成することが望ましい。
【0061】
なお、本実施形態の電池用表面処理金属板10において、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における、スズ付着量(Sn付着量)は、好ましくは0.05~15.0g/mであり、より好ましくは0.5~15.0g/m、さらに好ましくは1.0~10.0g/m、特に好ましくは1.0~7.0g/mである。また、本実施形態の電池用表面処理金属板10において、基材20として、鉄を基とする金属板を使用した場合における、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における、ニッケル付着量(Ni付着量)は、好ましくは2.1~65.0g/mであり、より好ましくは3.0~50.0g/m、さらに好ましくは3.5~25.0g/mである。スズ付着量およびニッケル付着量は、電池用表面処理金属板10について、蛍光X線測定やICP発光分光分析装置等を行うことで、それぞれ求めることができる。なお、上記スズ付着量およびニッケル付着量は、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における付着量であるため、図1に示すように、ニッケル-スズ合金層40を両面に形成した場合には、両面における付着量ではなく、片面における付着量を上記範囲とすることが好ましい。また、図1図2に示すように、ニッケル-スズ合金層40を形成した面に、ニッケル層30やスズ層50を有する場合における総付着量は、上記範囲と同様である。
【0062】
本実施形態の電池用表面処理金属板10は、基材20が、鉄またはニッケルを基とする金属板であり、基材20となる金属板の少なくとも片面にニッケル-スズ合金層40を備えてなるものであり、ガス発生の抑制が可能であり、かつ、耐電解液性に優れたものであり、特に、電解液として、アルカリ電解液を使用した場合に、特に優れたガス発生の抑制効果および耐電解液性を発揮するものである。そのため、本実施形態の電池用表面処理金属板10は、このような特性を活かし、正極または負極の集電体や電池容器として、好ましく用いることができ、特に、アルカリ電解液を使用したアルカリ二次電池における、集電体や電池容器として、より好ましく用いることができ、とりわけ、ニッケル亜鉛電池における、集電体や電池容器として、特に好ましく用いることができる。
【実施例0063】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0064】
<ニッケル付着量、スズ付着量の測定>
各実施例、比較例において得られた表面処理金属板について、ニッケル付着量、およびスズ付着量を、蛍光X線(XRF)測定を用いて検量線法により定量した。蛍光X線装置は、リガク社製、ZSX100eを用いた。蛍光X線測定においては表面処理金属板の、ニッケル層、ニッケル-スズ合金層、スズ層の各層に含まれる金属元素の検量線法による定量が可能であることを確認した。
【0065】
<ニッケル層の厚み、ニッケル-スズ合金層の厚みの測定>
各実施例、比較例において得られた表面処理金属板について、ニッケル層の厚み、および、ニッケル-スズ合金層の厚みを、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)により測定した。なお、GDS測定は、下記の条件において行った。
・GDS測定装置:高周波グロー放電発光分光分析装置(堀場製作所社製、 GD-Profiler2)
・検出機能:HDDモード
・アノード径:4mm
・励起モード:ノーマル
・光源圧力:600Pa
・光源出力:35W
・検出波長:Ni=352nm、Sn=190nm、Fe=371nm
【0066】
各層の厚さの具体的な算出方法とは、以下のとおりとした。
まず、厚みが0.79μmとなる純Niめっき層を、鋼板(低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板)上に形成した標準サンプルと、厚みが1.37μmとなる純Snめっき層を、厚みが50nm以下となるようストライクNiめっきを施したステンレス板上に形成した標準サンプルの2つを準備した。次いで、上記2つの標準サンプルを用いて、GDS測定装置により、スパッタリングによるエッチングを行いながら、厚み方向のNi、Sn、Feのそれぞれの強度を測定した。図4(A)は、純Niめっき層を形成した標準サンプルについて、GDS測定を行うことにより得られたグラフであり、図4(B)は、純Snめっき層を形成した標準サンプルについて、GDS測定を行うことにより得られたグラフである。
【0067】
次いで、標準サンプルの測定により得られたNi強度データ、Sn強度データおよびFe強度データについて、それぞれの最大値がほぼ同等の値となるように、強度データの補正を行った。具体的には、上記2つの標準サンプルを用いて、Ni強度データ、Sn強度データおよびFe強度データの最大値が10となるような値となるような補正係数を求め、求めた補正係数を用いて、強度データの補正を行った。
【0068】
そして、得られた補正データについて、Ni強度が1以上である深さ位置について、Niが検出されたとみなし、また、Sn強度が0.2以上である深さ位置について、Snが検出されたとみなし、Fe強度が1以上である深さ位置について、Feが検出されたとみなし、これらの検出の有無に基づいて、各層の境界点を定め、ニッケル層が形成された領域におけるスパッタリング時間、および、スズ層が形成された領域におけるスパッタリング時間を求めた。また、上記方法により、蛍光X線測定を行うことにより、ニッケル層およびスズ層の付着量から換算した厚み(単位:μm)を、上記ニッケル層およびスズ層に対する、スパッタリング時間で除することによりで、ニッケル層およびスズ層のエッチングレート(単位:μm/秒)を、下記の通り算出した。
ニッケル層のエッチングレートRNi:0.08177μm/秒
スズ層のエッチングレートRSn:0.3263μm/秒
ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Sn(ニッケル層のエッチングレートRNiと同じ):0.08177μm/秒
【0069】
次いで、各実施例、比較例において得られた表面処理金属板に対して、GDS測定装置により、スパッタリングによるエッチングを行いながら、各深さ位置におけるNi強度、Sn強度、Fe強度を測定し、測定したNi強度、Sn強度、およびFe強度と、上記にて求めたニッケル層のエッチングレートRNi、スズ層のエッチングレートRSn、およびニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Snとから、ニッケル層30の厚み、および、ニッケル-スズ合金層40の厚みを求めた。
なお、ニッケル-スズ合金層40の厚みは、具体的には、次のように求めた。すなわち、Ni強度が1以上、Sn強度が0.2以上、Fe強度が1未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、ニッケル-スズ合金層40が形成された領域として判断した。そして、この領域における横軸であるエッチング時間(単位:秒)と、ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Sn(単位:μm/秒)とより、下記式にしたがって、ニッケル-スズ合金層40の厚みを求めた。
GDS測定によるエッチング時間(単位:秒)×ニッケル-スズ合金層のエッチングレートRNi-Sn(単位:μm/秒)=ニッケル-スズ合金層40の厚み(単位:μm)
【0070】
また、Ni強度が1以上、Sn強度が0.2未満、Fe強度が1未満の値を示す強度が検出された深さ位置について、ニッケル層30が形成された領域として判断し、この領域における横軸であるエッチング時間(単位:秒)と、ニッケル層のエッチングレートRNi(単位:μm/秒)とより、下記式にしたがって、ニッケル層30の厚みを求めた。
GDS測定によるエッチング時間(単位:秒)×ニッケル層のエッチングレートRNi(単位:μm/秒)=ニッケル層30の厚み(単位:μm)
【0071】
<X線回折(XRD)測定(合金相の同定)>
各実施例、比較例において得られた表面処理金属板について、X線回折(XRD)測定を行うことで、ニッケル-スズ合金層40中に含まれている合金相の同定を行った。なお、X線回折(XRD)測定では、合金化していないニッケル層およびスズ層の存在についても確認した。
X線回折測定装置としては、リガク社製 SmartLabを用い、得られた表面処理金属板を20mm×20mmに切断したものを測定サンプルとした。なお、X線回折(XRD)測定の具体的な測定条件は以下の通りとした。
(装置構成)
・X線源:CuKα
・ゴニオメータ半径:300nm
・光学系:集中法
(入射側スリット系)
・ソーラースリット:5°
・長手制限スリット:5mm
・発散スリット:1/2°
(受光側スリット系)
・散乱スリット:1/2°
・ソーラースリット:5°
・受光スリット:0.3mm
・単色化法:カウンターモノクロメーター法
・検出器:シンチレーションカウンタ
(測定パラメータ)
・管電圧-管電流:45kV 200mA
・走査軸:2θ/θ
・走査モード:連続
・測定範囲:2θ 30~100°
・走査速度:10°/min
・ステップ:0.05°
【0072】
なお、得られたピーク強度値に対しては、リガク社製 統合粉末X線解析ソフトウェア PDXLを用いてバックグラウンド除去を行い、データ解析を行った。
ここで、以下のデータは、ほぼ同様のピークパターンを有しているものの、たとえば、800℃で焼鈍を行った比較例3においては、FeNiSnの3元系の合金となっていることが確認でき、そのため、本実施例においては、このようなGDS測定により得られたデータを併用することで、合金相の同定を適切に行った。
NiSn:ICDD PDFカード01-072-2561
Fe2.5Ni2.5Sn:ICDD PDFカード03-065-7279
また、ニッケル層およびスズ層の有無については、Niの回折ピークおよびSnの回折ピークの有無に基づき判断した。Niのピークは、回折角2θ=51.5~52.5°に現れる(200)面のピーク、回折角2θ=76~77°に現れる(220)面のピーク、および回折角2θ=92.5~93.5°に現れる(311)面のピークに基づき判断した(ICDD PDFカード03-065-2865)。また、Snのピークは、回折角2θ=44.7~45.2°に現れる(211)面のピークに基づき判断した(ICDD PDFカード01-072-3240)。
【0073】
<走査型オージェ電子分光分析(AES)>
実施例において得られた表面処理金属板のうち、一部の例について、走査型オージェ電子分光分析(AES)により、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のNiの割合(原子%)とSnの割合(原子%)を測定した。具体的には、まず、電池用表面処理金属板10の、ニッケル-スズ合金層40を形成した面の表面について、走査型オージェ電子分光分析装置を用いて、10nmの深さにてエッチングを行い、エッチング後の面について、走査型オージェ電子分光分析装置を用いて測定を行った。そして、測定により得られたピーク強度のうち、830~860eVのピークをNiのピーク強度INiとし、415~445eVのピークをSnのピーク強度ISnとし、得られたピーク強度より、Niの割合(原子%)およびSnの割合(原子%)を算出した。なお、走査型オージェ電子分光分析(AES)の具体的な測定条件は以下の通りとした。
・加速電圧(Probe energy):10kV
・照射電流(Probe current):1.0×10^-8A
・電子プローブスキャンモード(Probe scan mode):スキャン
・電子プローブ径(Probe diameter):0μm
・サイズ(Size):60×48μm
・ステージ傾斜角度(Probe polar angle to sample normal):0°
・アナライザー分析モード(Analyzer mode):CRR(M5)
・測定開始エネルギー(Abscissa start):30eV
・測定終了エネルギー(Abscissa end):1000eV
・エネルギーステップ(Abscissa increment):0.35eV
・測定点数1点あたりの計測時(Collection time(Dwell time)):20ms
・積算回数(Number of scans):10回
・測定点数1点あたりの計測時(Neutralization active mode):OFF
【0074】
なお、本例においては、Niのピーク強度INi、Snのピーク強度ISnを、各元素に対応した相対感度係数(RSF)で除することで、Niの割合(原子%)およびSnの割合(原子%)を算出した。より詳細には、Niの相対感度係数、Snの相対感度係数を、それぞれ、RSFNi、RSFSnとし、以下の式にしたがって求めた。
Niの割合(原子%)=(INi/RSFNi)/(INi/RSFNi+ISn/RSFSn)×100
Snの割合(原子%)=(ISn/RSFSn)/(INi/RSFNi+ISn/RSFSn)×100
ここにおいて、RSFNiは0.469、RSFSnは0.718とした。
【0075】
<耐電解液性評価>
各実施例、比較例において得られた表面処理金属板について、表面処理金属板に含まれるNi付着量およびSn付着量を、アルカリ溶液(30重量%水酸化カリウム溶液)を用いたアノード反応試験の前後で測定し、そのアノード反応試験前後におけるSn付着量の溶解率を算出することにより、耐電解液性を評価した。具体的には、溶解反応が進行しやすい放電時の負極集電板のアノード反応を想定し、放電時のアルカリ溶液中における耐溶解性(耐電解液性)を評価するために、電気化学測定法を用いて通電しアノード反応試験を行った。なお、アノード反応試験前後におけるSn付着量は、上述した蛍光X線(XRF)測定により得た。
耐電解液性は、以下の評価基準1、または評価基準2にて評価した。なお、以下の評価基準1および評価基準2による評価のうち、いずれか一方において、「◎」あるいは「〇」である場合に、アノード反応試験後においても、Snの付着状態が十分に維持されており、十分な耐電解液性を示すと評価できる。なお、評価基準1による評価は、表1Aに示す各実施例、比較例について行い、評価基準2による評価は、表1Bに示す各実施例、比較例について行った。
【0076】
(評価基準1)
評価基準1では、上記測定より得られたアノード反応試験前後におけるSn付着量より、下記式に従って、Sn付着量の溶解率を算出し、下記の基準で評価した。
Sn付着量の溶解率(%)={(アノード反応前のSn付着量)-(アノード反応後のSn付着量)/(アノード反応前のSn付着量)}×100
アノード反応試験前後における、Sn付着量の溶解率が10%以下であった場合を「◎」とし、アノード反応試験前後における、Sn付着量の変化率が40%以下であった場合を「〇」とし、アノード反応試験前後における、Sn付着量の変化率が40%超であった場合を「×」とした。
【0077】
(評価基準2)
評価基準2では、上記測定より得られたアノード反応試験後におけるSn付着量から、下記の基準で評価した。
アノード反応試験後における、Sn付着量が1.0g/m以上であった場合を「○」とし、アノード反応試験後における、Sn付着量が1.0g/m未満であった場合を「×」とした。
【0078】
なお、アノード反応試験は、下記の条件において実施したものである。
・電気化学測定器:北斗電工社製 HZ5000
・試験極:測定サンプル(20mm×20mm)
・対極:Cu板
・参照極:Ag/AgCl(KCl飽和)
・電解液:30重量%水酸化カリウム溶液
・電流密度:50mA/cm
・測定方法:クロノポテンショメトリ
・電気量:21C/cm
【0079】
<腐食電流密度測定によるガス発生抑制評価>
各実施例、比較例において得られた表面処理金属板について、アルカリ溶液に浸漬した場合の腐食電流密度を測定することにより、ガス発生抑制効果について評価した。具体的には、上述した耐電解液性評価方法と同様のアノード反応試験にて、アノード反応後の表面処理金属板を得た。次いで、析出Znとの局部電池を模す試験として、対極にZn板を用い、得られた表面処理金属板を、アルカリ溶液中に浸漬させた上で電気化学測定システムを用いて腐食電流密度を測定することにより、ガス発生抑制について評価した。アルカリ溶液に浸漬して30秒経過時点での腐食電流密度が小さいほど、ガス発生抑制の効果が高いと判断できる。
腐食電流密度が20mA/cm以下を「◎」、腐食電流密度が50mA/cm以下を「〇」、腐食電流密度が50mA/cmを超えるものを「×」とした。
【0080】
なお、腐食電流密度測定は、下記の条件において実施し、30重量%水酸化カリウム溶液での下記試験極と対極間で発生する腐食電流密度(単位:mA/cm)を測定した。
・測定装置:北斗電工社製 HZ5000
・試験極:Zn板(20×20mm、厚み0.5mm)
・対極:測定サンプル(測定径φ6mm)
・測定方法:クロノクーロメトリ
【0081】
<実施例1>
まず、基材20として、下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ110μm)を準備した。
C:0.04重量%、Mn:0.32重量%、Si:0.01重量%、P:0.012重量%、S:0.014重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
【0082】
次いで、準備した基材20について、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてニッケルめっきを行うことで、基材20の両面に、ニッケルめっき層を形成した。なお、ニッケルめっきの条件は、以下の通りとした。また、ニッケルめっきの処理時間は、ニッケル付着量が表1A、表1Bに示す量となるような条件とした。
(浴組成:ワット浴)
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ほう酸:30g/L
(めっき条件)
浴温:60℃
pH:4.0~5.0
撹拌:空気撹拌または噴流撹拌
電流密度:10A/dm
【0083】
次いで、ニッケルめっき層を形成した基材20に対し、スズめっきを行うことで、ニッケルめっき層を形成した基材20の両面に、スズめっき層を形成した。なお、スズめっきの条件は、以下の通りとした。また、スズめっきの処理時間は、スズ付着量が表1A、表1Bに示す量となるような条件とした。
(浴組成)
硫酸第一錫:80g/L
フェノールスルホン酸:60g/L
添加剤A(エトキシ化-α-ナフトール):3g/L
添加剤B(エトキシナフトールスルホン酸):3g/L
(めっき条件)
pH:1以下
浴温:40℃
電流密度:3A/dm
【0084】
次いで、上記で形成したニッケルめっき層およびスズめっき層を有する鋼板を、温度85℃、0.5時間の条件で熱処理を行うことで、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1A、表1Bに示す。
【0085】
また、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のNiの割合(原子%)とSnの割合(原子%)を、上記した方法にしたがって、走査型オージェ電子分光分析(AES)にて測定した結果、Niの割合が18原子%であり、Snの割合が82原子%であった。結果を表2に示す。なお、得られた表面処理金属板のスズ層の厚みは、0.10μmであった。
【0086】
なお、表1A、表1Bに示すように、実施例1においては、ニッケル-スズ合金層40中に、合金相として、回折角2θ=40~42°の範囲と、回折角2θ=46~48°の範囲に回折ピークが得られるニッケル-スズ合金であり、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つを含有されるものと判断できる。
その理由は、次の通りである。すなわち、まず、図4(A)に示す純Niめっき層を、鉄を基とする金属板上に形成した標準サンプルについて、GDS測定を行うことにより得られたグラフにおいては、計算上では鉄-ニッケル層が存在するものと判断できるものの、XRD測定では、FeとNiのピークのみしか確認できず、鉄-ニッケル合金のピークは確認できなかった。このことから、FeとNiは常温拡散処理では拡散は起こらないと判断でき、そのため、この層は計算上の鉄-ニッケル層と判断した。すなわち、GDS測定では、ニッケル層と、鉄層との界面に、鉄-ニッケル層が形成されていると見えるものの、実際には、鉄-ニッケル層が形成されていないものと判断した。一方、図5(A)は、実施例1の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフであり、図5(A)より、GDS測定によると、Ni強度、Sn強度、およびFe強度が確認でき、さらには、XRD測定では、純鉄、純ニッケル、純スズのピーク以外に2θ=40~42°および46~48°に代表されるピークが観測されたことから、これらのピークは、ニッケル-スズ合金のピークであると判断することができ、これを、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つをピークとして同定した。
【0087】
<実施例2>
実施例1と同様にして、ニッケルめっき層およびスズめっき層を有する鋼板を得て、得られたニッケルめっき層およびスズめっき層を有する鋼板について、熱処理温度(保持温度)50℃、均熱時間(保持時間)3時間の条件にて、還元雰囲気の条件にて、箱型焼鈍による熱処理を行うことで、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。なお、箱型焼鈍による熱処理においては、昇温時間1時間、降温時間1時間とした。また、ニッケルめっき、スズめっきの処理時間は、ニッケル付着量、スズ付着量が表1A、表1Bに示す量となるような条件とした。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1A、表1Bに示す。なお、得られた表面処理金属板のスズ層の厚みは、0.16μmであった。
【0088】
<実施例3~9>
箱型焼鈍による熱処理温度(保持温度)を表1Aに示す温度に変更した以外は、実施例2と同様にして、箱型焼鈍による熱処理を行うことで、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。なお、箱型焼鈍による熱処理においては、昇温時間1時間、降温時間1時間とした。また、ニッケルめっき、スズめっきの処理時間は、ニッケル付着量、スズ付着量が表1Aに示す量となるような条件とした。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0089】
また、実施例5,8について、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のNiの割合(原子%)とSnの割合(原子%)を、上記した方法にしたがって、走査型オージェ電子分光分析(AES)にて測定した結果、実施例5はNiの割合が44原子%、Snの割合が56原子%であり、実施例8はNiの割合が58原子%、Snの割合が42原子%であった。結果を表2に示す。
【0090】
<実施例10~12>
ニッケルめっきおよびスズめっきの時間を変更し、これにより、ニッケル付着量およびスズ付着量を表1Aに示すように変更した以外は、実施例5と同様にして、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0091】
<実施例13>
基材20として、開口率が38%となる貫通孔を有し、厚さを60μmのものを使用した以外は、実施例5と同様にして、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。なお、ニッケルめっき、スズめっきの処理時間は、ニッケル付着量、スズ付着量が表1Aに示す量となるような条件とした。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0092】
<実施例14>
基材20として、厚さ6μmの純鉄からなる電解箔(鉄の含有率が、99.9重量%以上である電解箔)を使用し、ニッケルめっきおよびスズめっきの時間を変更し、これにより、ニッケル付着量およびスズ付着量を表1Aに示すように変更した以外は、実施例5と同様にして、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0093】
<実施例15>
基材20として、厚さ6μmの純ニッケルからなる電解箔(鉄の含有率が、99.9重量%以上である電解箔)を使用し、ニッケルめっきを行わず、かつ、スズめっきの時間を変更し、これにより、スズ付着量を表1Aに示すように変更した以外は、実施例5と同様にして、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0094】
<実施例16>
実施例1と同様に準備した基材にて、ニッケルめっき、スズめっきの処理時間は、ニッケル付着量、スズ付着量が表1Bに示す量となるような条件とした。なお、ニッケル付着量とスズ付着量においては、基材上にニッケルめっき層を形成した後、ニッケル付着量を測定し、次いで上記ニッケルめっき層上にスズめっき層を形成した後、スズ付着量を測定した。
次いで、上記で形成したニッケルめっき層およびスズめっき層を有する鋼板を、温度35℃、720時間の条件で静置することで、常温拡散処理を行うことで、ニッケル-スズ合金層40を有する表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Bに示す。なお、得られた表面処理金属板のスズ層の厚みは、0.20μmであった。また、実施例16においては、X線回折(XRD)測定において、Niのピークが検出されたことから、ニッケル層の存在は確認できたが、その厚みについては測定できる程度のものではなかった。
【0095】
また、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のNiの割合(原子%)とSnの割合(原子%)を、上記した方法にしたがって、走査型オージェ電子分光分析(AES)にて測定した結果、Niの割合が4原子%であり、Snの割合が96原子%であった。結果を表2に示す。
【0096】
<比較例1>
厚み100μmのニッケル板を準備し、比較例1においては、準備したニッケル板をそのまま使用し、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0097】
<比較例2>
実施例1において、ニッケルめっき層を形成せず、基材20上に、スズめっき層のみを形成した以外は、実施例1と同様にして、表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0098】
<比較例3>
箱型焼鈍による熱処理温度(保持温度)を800℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、箱型焼鈍による熱処理を行うことで、表面処理金属板を得た。なお、箱型焼鈍による熱処理においては、昇温時間1時間、降温時間1時間とした。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1A示す。
【0099】
<比較例4>
ニッケルめっきおよびスズめっきの時間を変更し、これにより、ニッケル付着量およびスズ付着量を表1に示すように変更した以外は、実施例5と同様にして、表面処理金属板を得た。そして、得られた表面処理金属板について、上記した各測定を行った。結果を表1Aに示す。
【0100】
<比較例5>
実施例1と同様にして、ニッケルめっき層およびスズめっき層を有する鋼板を得て、得られたニッケルめっき層およびスズめっき層を有する鋼板を、常温拡散処理または熱処理を行わずに上記した各測定を行った(すなわち、常温拡散処理または熱処理を行わずに、めっき直後の状態にて上記した各測定を行った)。結果を表1Bに示す。
【0101】
【表1A】
【0102】
【表1B】
【0103】
【表2】
なお、表1A、表1B、表2中の「積層めっき」とは、基材上にニッケルめっきおよびスズめっきをこの順に行ったことを意味する。
【0104】
表1A、表1Bに示すように、基材としての、鉄またはニッケルを基とする金属板上に、ニッケル-スズ合金層を形成してなる表面処理金属板によれば、耐電解液性に優れ、腐食電流密度が低減されており、ガス発生が有効に抑制されたものであった(実施例1~16)。
【0105】
なお、X線回折(XRD)測定の結果、実施例1,2,16は、ニッケル-スズ合金層40を構成する合金相として、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つを主として含有するものであり、実施例3~6,10~15は、ニッケル-スズ合金層40を構成する合金相として、NiSnを主として含有するものであり、また、実施例7~9は、ニッケル-スズ合金層40を構成する合金相として、NiSnを主として含有するものであった。実施例において検出された各合金相のX線回折(XRD)チャートを、図3A図3Eに示す。なお、図3Aは、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つの回折ピークを示すX線回折(XRD)チャート(実施例1)であり、図3Bは、NiSnの回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートであり(実施例5)、図3Cは、NiSnの回折ピークを示すX線回折(XRD)チャートである(実施例8)。また、図3D図3Eは、上述したアノード反応試験の前後におけるNi-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つの回折ピークをそれぞれ示すX線回折(XRD)チャートである(実施例16)。
【0106】
また、X線回折(XRD)測定の結果、実施例1,2は、ニッケル-スズ合金層40の上層に、スズ層50を、ニッケル-スズ合金層40の下層に、ニッケル層30を有するものであり、実施例3~15は、ニッケル-スズ合金層40の下層に、ニッケル層30を有するものであり、実施例16はニッケル-スズ合金層40の上層に、スズ層50を有するものであると確認された。
【0107】
各実施例のニッケル-スズ合金層40に含有される合金相として、より詳細には、実施例1,2,16のNi-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つを主として含有するものの場合、よりガス発生抑制の効果が優れることを確認した。また、図3D図3Eに示す通り、上述したアノード反応試験の前後におけるNi-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つの回折ピークを確認した結果、アノード反応試験後においても、Ni-Sn40-42とNi-Sn46-48の2つのピークがそれぞれ存在することを確認し、十分な耐電解液性を備えていることを確認した。
【0108】
一方、実施例7~9のNiSnを主として含有するものの場合、より耐電解液性に優れることを確認した。なお、実施例3~6,10~15のNiSnを主として含有するものの場合には、耐電解液性およびガス発生抑制効果の両方がより優れることを確認した。
【0109】
より詳細には、実施例1,5,8,16においては、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のNiの割合(原子%)とSnの割合(原子%)を走査型オージェ電子分光分析(AES)にて測定し、耐電解液性やガス発生抑制の効果が優れていることを確認した。特に、実施例5は、ニッケル-スズ合金層40を形成した面における表面のNiとSnの割合(原子%)が、それぞれ44原子%、56原子%であり、耐電解液性およびガス発生抑制効果の両方により一層優れることを確認した。
【0110】
さらに、比較例3は、X線回折(XRD)測定の結果、合金相として、Fe2.5Ni2.5Snが検出され、鉄-ニッケル-スズの三元合金層を有するものであることを確認し、また、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)の測定の結果、基材20に含有されるFe元素が表面まで拡散され、ニッケル-スズ合金層(ニッケル-スズの二元合金層)を有しないものであるため、腐食電流密度が大きく、ガス発生が顕著になるものであった。
【0111】
図5(A)~図5(C)に、実施例1、実施例5の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフをそれぞれ示す。図5(A)は、実施例1の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフであり、図5(B)は、実施例5の電池用表面処理金属板について、GDS測定により得られたグラフであり、図5(C)は、図5(B)の測定初期におけるデータを拡大したグラフである。
【符号の説明】
【0112】
10,10a…電池用表面処理金属板
20…基材
30…ニッケル層
40…ニッケル-スズ合金層
50…スズ層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5