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特開2023-110068硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
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  • 特開-硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110068
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230801BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230801BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/58
C21D8/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094391
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2021522516の分割
【原出願日】2019-10-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129082
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129083
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129084
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コ,ソン‐ウン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨン‐ジョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホン‐ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョ‐シン
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ム‐ジョン
(57)【要約】
【課題】合金組成及び製造条件の最適化により、既存の厚板水冷材(TMCP)に比べて表面部の硬度を効果的に低減させることで、硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びこれを製造する方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.02~0.06%、Si:0.1~0.5%、Mn:0.8~1.8%、P:0.03%以下、S:0.003%以下、Al:0.06%以下、N:0.01%以下、Nb:0.005~0.08%、Ti:0.005~0.05%、Ca:0.0005~0.005%と;Ni:0.05~0.3%、Cr:0.05~0.3%、Mo:0.02~0.2%及びV:0.005~0.1%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなり、前記CaとSは下記関係式1を満たし、表層部の硬度値と中心部の硬度値との差(表層部の硬度-中心部の硬度)がビッカース硬度20Hv以下であることを特徴とする。
[関係式1] 0.5≦Ca/S≦5.0 (各元素は重量含量を意味する)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.02~0.06%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.003%以下、アルミニウム(Al):0.06%以下、窒素(N):0.01%以下、ニオブ(Nb):0.005~0.08%、チタン(Ti):0.005~0.05%、カルシウム(Ca):0.0005~0.005%と;ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなり、
前記CaとSは下記関係式1を満たし、
表層部の硬度値と中心部の硬度値との差(表層部の硬度-中心部の硬度)がビッカース硬度20Hv以下であることを特徴とする硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材。
[関係式1]
0.5≦Ca/S≦5.0 (ここで、各元素は重量含量を意味する)
【請求項2】
前記鋼材は、表層部の微細組織がフェライト及びパーライトの複合組織で構成され、中心部の微細組織がアシキュラーフェライトで構成されるものであることを特徴とする請求項1に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、450MPa以上の降伏強度を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、5~50mmの厚さを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材。
【請求項5】
重量%で、炭素(C):0.02~0.06%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.003%以下、アルミニウム(Al):0.06%以下、窒素(N):0.01%以下、ニオブ(Nb):0.005~0.08%、チタン(Ti):0.005~0.05%、カルシウム(Ca):0.0005~0.005%と;ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなり、前記CaとSは、下記関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階、前記加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延して熱延板材を製造する段階、及び前記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階を含み、
前記冷却は、1次冷却する段階、空冷する段階、及び2次冷却する段階を含み、
前記1次冷却は、前記熱延板材の表面温度がAr-50℃~Ar-50℃になるように5~40℃/sの冷却速度で行い、前記2次冷却は、前記熱延板材の表面温度が300~600℃になるように50~500℃/sの冷却速度で行うことを特徴とする硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
[関係式1]
0.5≦Ca/S≦5.0 (ここで、各元素は重量含量を意味する)
【請求項6】
前記仕上げ熱間圧延は、Ar+50℃~Ar+250℃の温度範囲で累積圧下率50%以上で行うものであることを特徴とする請求項5に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記1次冷却は、前記熱延板材の表面温度がAr-20℃~Ar+50℃のときに開始するものであることを特徴とする請求項5に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記1次冷却を完了した後、前記熱延板材の中心部の温度がAr-30℃~Ar+30℃であることを特徴とする請求項5に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記空冷を完了した後、前記熱延板材の表面部の温度がAr-10℃~Ar-50℃であることを特徴とする請求項5に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項10】
重量%で、炭素(C):0.02~0.06%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.003%以下、アルミニウム(Al):0.06%以下、窒素(N):0.01%以下、ニオブ(Nb):0.005~0.08%、チタン(Ti):0.005~0.05%、カルシウム(Ca):0.0005~0.005%と;ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなり、前記CaとSは、下記関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階、前記加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延して熱延板材を製造する段階、及び前記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階を含み、
前記冷却は、1次冷却する段階及び2次冷却する段階を含み、
前記1次冷却は、前記熱延板材の表面温度がAr-150℃~Ar-50℃になるように5~40℃/sの冷却速度で行い、前記2次冷却は、前記熱延板材の表面温度が300~600℃になるように50~500℃/sの冷却速度で行うことを特徴とする硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
[関係式1]
0.5≦Ca/S≦5.0 (ここで、各元素は重量含量を意味する)
【請求項11】
前記仕上げ熱間圧延は、Ar+50℃~Ar+250℃の温度範囲で累積圧下率50%以上で行うものであることを特徴とする請求項10に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記1次冷却は、前記熱延板材の表面温度がAr-20℃~Ar+50℃のときに開始するものであることを特徴とする請求項10に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項13】
前記1次冷却を完了した後、前記熱延板材の中心部の温度がAr-50℃~Ar+10℃であることを特徴とする請求項10に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項14】
重量%で、炭素(C):0.02~0.06%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.003%以下、アルミニウム(Al):0.06%以下、窒素(N):0.01%以下、ニオブ(Nb):0.005~0.08%、チタン(Ti):0.005~0.05%、カルシウム(Ca):0.0005~0.005%と;ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなり、上記CaとSは、下記関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階、
前記加熱された鋼スラブを粗圧延してバー(bar)を製造する段階、
前記粗圧延して得られたバー(bar)を冷却及び復熱する段階、
前記冷却及び復熱されたバー(bar)を仕上げ熱間圧延して熱延板材を製造する段階、及び
前記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階を含み、
前記バー(bar)の冷却はAr以下で行い、前記復熱は前記バー(bar)の温度がオーステナイト単相域になるように行うことを特徴とする硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
[関係式1]
0.5≦Ca/S≦5.0 (ここで、各元素は重量含量を意味する)
【請求項15】
前記バー(bar)の冷却は、少なくとも1回以上水冷で行うものであることを特徴とする請求項14に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項16】
前記仕上げ熱間圧延は、Ar+50℃~Ar+250℃の温度範囲で累積圧下率50%以上で行うものであることを特徴とする請求項14に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項17】
前記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階は、20~100℃/sの冷却速度で300~650℃まで行うものであることを特徴とする請求項14に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項18】
前記冷却は、Ar-50℃~Ar+50℃で開始するものであることを特徴とする請求項14に記載の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、ラインパイプ、耐サワー(sour)材などの用途に適した厚物鋼材に関するものであって、硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ラインパイプ鋼材の表面硬度に対する上限制限の要求が増加しているが、ラインパイプ鋼材の表面硬度が高い場合、パイプ加工時に真円度の不均一などの問題を招くだけでなく、パイプ表面の高硬度組織によりパイプ加工時の割れの発生や使用環境における靭性の不足といった問題を発生さている。また、表面部の高硬度組織は、硫化水素の多いサワー(sour)環境で使用される場合、水素による脆性割れを誘発して重大事故を引き起こす虞が高くなっている。
去る2013年には、カスピ海上での巨大原油/天然ガスの採掘プロジェクトにおいて、稼働2週以内のパイプ表面の高硬度部に硫化物応力腐食割れ(Sulfide Stress Cracking:以下、SSCと略す。)が発生し、200kmの海底パイプラインをクラッドパイプに交換した事例がある。このとき、SSCが発生した原因を分析した結果、パイプ表面部の高硬度組織であるハードスポット(hard spot)の形成が原因として推定した。
【0003】
API規格では、ハードスポットに対して長さ2インチ以上、Hv345以上と規定しており、DNV規格では、サイズ基準はAPI規格と同様であるが、硬度の上限をHV250と規定している。
一方、ラインパイプ用鋼材は、一般的に鋼スラブを再加熱して、熱間圧延を行い、加速冷却を行うことにより製造され、加速冷却時に表面部が不均一に急冷されることによって、ハードスポット(hard spot、高硬度組織が形成された部分)が発生すると判断している。
【0004】
通常の水冷却により製造された鋼板は、水の噴射が鋼板の表面で行われるため、表面部の冷却速度が中心部に比べて速く、このような冷却速度の差により、表面部の硬度が中心部の硬度より高くなる。
そこで、鋼材の表面部における高硬度組織の形成を抑制するための方案として、水冷却工程を緩和する方案を考慮することもできるが、水冷却緩和による表面硬度の減少は、鋼材全体の強度の減少を同時に発生させるため、より多くの合金元素を添加しなければならない等の問題を招く。また、このような合金元素の増加は表面硬度を増加させる原因にもなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、合金組成及び製造条件の最適化により、既存の厚板水冷材(TMCP)に比べて表面部の硬度を効果的に低減させることで、硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材及びこれを製造する方法を提供することにある。
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全般の内容から、本発明の更なる課題を理解する上で困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材は、重量%で、炭素(C):0.02~0.06%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.8~1.8%、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.003%以下、アルミニウム(Al):0.06%以下、窒素(N):0.01%以下、ニオブ(Nb):0.005~0.08%、チタン(Ti):0.005~0.05%、カルシウム(Ca):0.0005~0.005%と;ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなり、上記CaとSは下記関係式1を満たし、表層部の硬度と中心部の硬度との差(表層部の硬度-中心部の硬度)がビッカース硬度20Hv以下であることを特徴とする。
[関係式1]
0.5≦Ca/S≦5.0 (ここで、各元素は重量含量を意味する)
【0007】
本発明の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法は、上記の合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階、上記加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延して熱延板材を製造する段階、及び上記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階を含み、
上記冷却は、1次冷却する段階、空冷する段階、及び2次冷却する段階を含み、上記1次冷却は、上記熱延板材の表面温度がAr-50℃~Ar-50℃になるように5~40℃/sの冷却速度で行い、上記2次冷却は、上記熱延板材の表面温度が300~600℃になるように50~500℃/sの冷却速度で行うことを特徴とする。
【0008】
本発明の他の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法は、上記の合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階、上記加熱された鋼スラブを仕上げ熱間圧延して熱延板材を製造する段階、及び上記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階を含み、
上記冷却は、1次冷却する段階及び2次冷却する段階を含み、上記1次冷却は、上記熱延板材の表面温度がAr-150℃~Ar-50℃になるように5~40℃/sの冷却速度で行い、上記2次冷却は、上記熱延板材の表面温度が300~600℃になるように50~500℃/sの冷却速度で行うことを特徴とする。
【0009】
本発明のさらに他の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法は、上記の合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階、上記加熱された鋼スラブを粗圧延してバー(bar)を製造する段階、上記粗圧延して得られたバー(bar)を冷却及び復熱する段階、上記冷却及び復熱されたバー(bar)を仕上げ熱間圧延して熱延板材を製造する段階、及び上記仕上げ熱間圧延後に冷却する段階を含み、
上記バー(bar)の冷却は、Ar以下で行い、上記復熱は、上記バー(bar)の温度がオーステナイト単相域になるように行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、本発明の硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材の製造方法は、一定の厚さを有する厚物鋼材を提供するにあたり、表面部の硬度が効果的に低減され、硫化物応力腐食割れに対する抵抗性に優れた高強度鋼材を提供することができる。
本発明の鋼材は、ラインパイプなどのパイプ素材だけでなく、耐サワー(sour)材としても有利に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1における発明鋼と比較鋼の降伏強度と表面部硬度の関係をグラフ化して示したものである。
図2】本発明の実施例2における発明鋼と比較鋼の降伏強度と表面部硬度の関係をグラフ化して示したものである。
図3】本発明の実施例3における発明鋼と比較鋼の降伏強度と表面部硬度の関係をグラフ化して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
現在、厚板素材及び熱延市場などに供給されているTMCP(Thermo-Mechanical Control Process)素材は、熱間圧延後の冷却時に発生する必然的な現象(表面部の冷却速度が中心部より速くなる現象)によって、表面部の硬度が中心部に比べて高い特性を有する。これにより、素材の強度が増加するにつれて、表面部における硬度が中心部に比べて顕著に高くなり、このような表面部の硬度の増加は加工時に割れを招いたり、低温靭性を阻害したりする原因になるとともに、サワー(sour)環境に適用される鋼材の場合には、水素脆性の開始点となるという問題点がある。
【0013】
そこで、本発明の発明者らは、上記のような問題点を解決できる方案について鋭意研究した。特に、一定の厚さ以上を有する厚物鋼材において表面部の硬度を効果的に下げることにより、硫化物応力腐食割れに対する抵抗性はもちろん、高強度を有する鋼材を提供することを試みた。
その結果、上記厚物鋼材を製造するにあたり、表面部と中心部の相変態を分離して制御することができる方案を導出し、これを最適化して適用することにより、意図する鋼材を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の一側面による硫化物応力腐食割れ抵抗性に優れた高強度鋼材は、重量%で、炭素(C):0.02~0.06%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.8~1.8% 、リン(P):0.03%以下、硫黄(S):0.003%以下、アルミニウム(Al):0.06%以下、窒素(N):0.01%以下、ニオブ(Nb):0.005~0.08%、チタン(Ti):0.005~0.05%、カルシウム(Ca):0.0005~0.005%と;ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上を含むことを特徴とする。
【0015】
以下では、本発明で提供する鋼材の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
一方、本発明では、特に断らない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0016】
炭素(C):0.02~0.06%
炭素(C)は、鋼の物性に最も大きな影響を与える元素である。上記Cの含量が0.02%未満である場合、製鋼工程中に成分制御コストが過度に発生し、溶接熱影響部が必要以上に軟化されるという問題がある。一方、その含量が0.06%を超えると、鋼板の水素誘起割れ抵抗性を減少させ、溶接性を阻害する虞がある。
したがって、本発明では、上記Cを0.02~0.06%含むことがよく、より有利には0.03~0.05%含むことである。
【0017】
シリコン(Si):0.1~0.5%
シリコン(Si)は、製鋼工程の脱酸剤として使用されるだけでなく、鋼の強度を高める役割を果たす元素である。このようなSiの含量が0.5%を超えると、素材の低温靭性が劣化し、溶接性を阻害し、圧延時にスケール剥離性を低下させる。一方、上記Siの含量を0.1%未満に下げるためには、製造コストが増加することから、本発明では、上記Siの含量を0.1~0.5%に制限する。
【0018】
マンガン(Mn):0.8~1.8%
マンガン(Mn)は、低温靭性を阻害することなく、鋼の焼入れ性を向上させる元素であって、0.8%以上含むことができる。但し、その含量が1.8%を超えると、中心偏析(segregation)が発生し、低温靭性の劣化はもちろん、鋼の硬化能を高めて溶接性を阻害するという問題がある。また、Mn中心偏析は水素誘起割れを誘発する要因となる。
したがって、本発明では、上記Mnを0.8~1.8%含むことがよく、より有利には1.0~1.4%含むことである。
【0019】
リン(P):0.03%以下
リン(P)は、鋼中に不可避に添加される元素であって、その含量が0.03%を超えると、溶接性が著しく低下するだけでなく、低温靭性が減少するという問題がある。したがって、上記Pの含量を0.03%以下に制限する必要があり、低温靭性の確保の面からは、0.01%以下に制限することがより好ましい。但し、製鋼工程時の負荷を考慮して、0%は除くこととする。
【0020】
硫黄(S):0.003%以下
硫黄(S)は、鋼中に不可避に添加される元素であって、その含量が0.003%を超えると、鋼の延性、低温靭性、及び溶接性を減少させるという問題がある。したがって、上記Sの含量を0.003%以下に制限する必要がある。一方、上記Sは、鋼中のMnと結合してMnS介在物を形成し、この場合、鋼の水素誘起割れ抵抗性が低下するため、0.002%以下に制限することがより好ましい。但し、製鋼工程時の負荷を考慮して、0%は除くこととする。
【0021】
アルミニウム(Al):0.06%以下(0%を除く)
アルミニウム(Al)は、通常、溶鋼中に存在する酸素(O)と反応して酸素を除去する脱酸剤としての役割を果たす。したがって、上記Alは、鋼中で十分な脱酸力を有することができる程度に添加することがよい。但し、その含量が0.06%を超えると、酸化物系介在物が多量に形成されて素材の低温靭性及び水素誘起割れ抵抗性を阻害するため、好ましくない。
【0022】
窒素(N):0.01%以下
窒素(N)は、鋼中から工業的に完全に除去することが難しいため、製造工程において許容できる範囲である0.01%を上限とする。一方、上記Nは、鋼中のAl、Ti、Nb、V等と反応して窒化物を形成することにより、オーステナイト結晶粒の成長を抑制する。これにより、素材の靭性及び強度の向上に有利な影響を与えるが、その含量が0.01%を超えて過度に添加されると、固溶状態のNが存在し、これは低温靭性に悪影響を与える。したがって、上記Nは、その含量を0.01%以下に制限することが好ましいが、製鋼工程時の負荷を考慮して、0%は除くこととする。
【0023】
ニオブ(Nb):0.005~0.08%
ニオブ(Nb)は、スラブ加熱時に固溶されて、後続熱間圧延中にオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、その後、析出されて鋼の強度を向上させるのに有効な元素である。また、鋼中のCと結合して炭化物として析出することにより、降伏比の増加を最小化しながら、鋼の強度を向上させる役割を果たす。
このようなNbの含量が0.005%未満であると、上記の効果を十分に得ることができない。一方、その含量が0.08%を超えると、オーステナイト結晶粒が必要以上に微細化するだけでなく、粗大な析出物の形成により低温靭性及び水素誘起割れ抵抗性が劣化するという問題がある。
したがって、本発明では、上記Nbを0.005~0.08%に制限ことがよく、より有利には0.02~0.05%である。
【0024】
チタン(Ti):0.005~0.05%
チタン(Ti)は、スラブ加熱時にNと結合してTiNの形で析出することにより、オーステナイト結晶粒の成長を抑制するのに効果的である。
このようなTiが0.005%未満で添加された場合、オーステナイト結晶粒が粗大になり低温靭性を低下させる。一方、その含量が0.05%を超える場合にも、粗大なTi系析出物が形成されて低温靭性及び水素誘起割れ抵抗性を低下させる。
したがって、本発明では、上記Tiを0.005~0.05%含むことがよく、低温靭性の確保の面からは、0.03%以下であることがより有利である。
【0025】
カルシウム(Ca):0.0005~0.005%
カルシウム(Ca)は、製鋼工程中にSと結合してCaSを形成することにより、水素誘起割れを誘発させるMnSの偏析を抑制する役割を果たす。上記の効果を十分に得るためには、上記Caを0.0005%以上添加する必要があるが、その含量が0.005%を超えると、CaSの形成だけでなく、CaO介在物を形成して介在物による水素誘起割れを引き起こす虞がある。
したがって、本発明では、上記Caを0.0005~0.005%に制限することがよく、水素誘起割れ抵抗性の確保の面からは、0.001~0.003%であることがより有利である。
【0026】
上述のとおり、CaとSを含有するにあたり、CaとSの成分比(Ca/S)が下記関係式1を満たすことが好ましい。
上記CaとSの成分比は、MnSの中心偏析及び粗大介在物の形成を代表する指数であって、その値が0.5未満の場合には、MnSが鋼材の厚さの中心部に形成されて、水素誘起割れ抵抗性を低下させるのに対し、その値は5.0を超える場合には、Ca系粗大介在物が形成されて水素誘起割れ抵抗性を低下させる。したがって、上記CaとSの成分比(Ca/S)は、下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1]
0.5≦Ca/S≦5.0 (ここで、各元素は重量含量を意味する)
【0027】
一方、本発明の高強度鋼材は、上記の合金組成以外に物性をさらに向上させることができる元素をさらに含むことができる。具体的には、ニッケル(Ni):0.05~0.3%、クロム(Cr):0.05~0.3%、モリブデン(Mo):0.02~0.2%及びバナジウム(V):0.005~0.1%のうち1種以上をさらに含むことができる。
【0028】
ニッケル(Ni):0.05~0.3%
ニッケル(Ni)は、鋼の低温靭性の劣化なく強度を向上させるのに効果的な元素である。このような効果を得るためには、Niを0.05%以上添加する必要があるが、上記Niは高価な元素であり、その含量が0.3%を超えると、製造コストが大幅に上昇するという問題がある。
したがって、本発明では、上記Niの添加時に0.05~0.3%含むことにしている。
【0029】
クロム(Cr):0.05~0.3%
クロム(Cr)は、スラブ加熱時にオーステナイトに固溶されて鋼材の焼入れ性を向上させる役割を果たす。上記の効果を得るためには、Crを0.05%以上添加することが必要であるが、その含量が0.3%を超えると、溶接性が低下する虞がある。
したがって、本発明では、上記Crの添加時に0.05~0.3%含むことがよい。
【0030】
モリブデン(Mo):0.02~0.2%
モリブデン(Mo)は、上記Crと同様に、鋼材の焼入れ性を向上させ、強度を増加させる役割を果たす。上記の効果を得るためには、Moを0.02%以上添加することが必要であるが、その含量が0.2%を超えると、上部ベイナイト(upper bainite)のような低温靭性に脆弱な組織を形成させ、水素誘起割れ抵抗性を阻害するという問題がある。
したがって、本発明では、上記Moの添加時に0.02~0.2%に制限することがよい。
【0031】
バナジウム(V):0.005~0.1%
バナジウム(V)は、鋼材の焼入れ性を増加させて強度を向上させる元素であって、このような効果を得るためには、0.005%以上添加する必要がある。但し、その含量が0.1%を超えると、鋼の焼入れ性が過度に増加して低温靭性に脆弱な組織が形成され、水素誘起割れ抵抗性が減少する。
したがって、本発明では、上記Vの添加時に0.005~0.1%に制限することがよい。
【0032】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境からの意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
【0033】
上記の合金組成を有する本発明の高強度鋼材は、表層部の硬度と中心部の硬度との差(表層部の硬度-中心部の硬度)がビッカース硬度20Hv以下に制御されることが好ましい。このとき、表層部の硬度値が中心部の硬度値より低い場合も含む。
すなわち、本発明の鋼材は、従来のTMCP鋼材に比べて、強度は同等またはそれ以上に確保しながらも、表層部と中心部との硬度差を最小化させたものであって、加工時に割れの形成及び伝播などが抑制され、優れた水素誘起割れに対する抵抗性、及び硫化物応力腐食割れ抵抗性を有することができる。さらに本発明の鋼材は450MPa以上の降伏強度を有する好ましい。
ここで、表層部とは、表面から厚さ方向0.5mmの地点までを意味し、これは鋼材の両面に該当することができる。また、中心部とは、上記表層部を除く残りの領域を意味する。
【0034】
本発明において、上記表層部の硬度は、表面から厚さ方向0.5mmの地点までをビッカース硬度計を用いて1kgfの荷重で測定した最大硬度値を示し、中心部の平均硬度はt/2の地点で測定した硬度値の平均値を示す。通常、各位置別に5回前後で硬度を測定することができる。
本発明では、上記鋼材の微細組織について具体的に限定しておらず、表層部と中心部との硬度差が20Hv以下の組織構成であれば、如何なる相(phase)及び如何なる分率の範囲であってもよい。
【0035】
具体的に、上記鋼材の表層部の微細組織は、中心部の微細組織と同じか、より軟質の組織(soft phase)を有することができ、一例として、上記鋼材の表層部の微細組織がフェライト及びパーライトの複合組織で構成される場合には、中心部の微細組織がアシキュラーフェライトで構成されることができる。但し、これに限定されるものではないことを明らかにしておく。
【0036】
以下、表層部と中心部との硬度差が最小化した本発明の高強度鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
本発明の高強度鋼材は様々な方法によって製造することができ、下記では、その具現例について詳細に説明する。
一つの例として、[スラブ加熱-圧延-冷却(1次冷却、空冷、2次冷却)]の工程を経て製造することができる。
【0037】
〔スラブ加熱〕
本発明で提案する合金組成及び成分関係を満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができる。このとき、1100~1300℃で行うことが好ましい。
上記加熱時の温度が1300℃を超えると、スケール(scale)欠陥が増加するだけでなく、オーステナイト結晶粒が粗大化して鋼の焼入れ性を増加させる虞がある。また、中心部において上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な組織の分率を増加させることにより、水素誘起割れ抵抗性が低下するという問題がある。一方、その温度が1100℃未満であると、合金元素の再固溶率が低下する虞がある。
したがって、本発明では、上記鋼スラブの加熱時に1100~1300℃の温度範囲で行うことがよく、強度及び水素誘起割れ抵抗性の確保の面から、1150~1250℃の温度範囲で行うことがより好ましい。
【0038】
〔熱間圧延〕
上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延板材として製造することができ、このとき、Ar+50℃~Ar+250℃の温度範囲で累積圧下率50%以上で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
上記仕上げ熱間圧延時の温度がAr+250℃より高いと、結晶粒成長による焼入れ性の増加により、上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な組織が形成されて水素誘起割れ特性が低下するという問題がある。一方、その温度がAr+50℃より低いと、後続冷却が開始される温度が低すぎるようになり、空冷フェライトの分率が過度となるため、強度が低下する虞がある。
上記の温度範囲で仕上げ熱間圧延時に累積圧下率が50%未満であると、鋼材の中心部まで圧延による再結晶が発生せず、中心部の結晶粒が粗大化し、低温靭性が劣化するという問題がある。
【0039】
〔冷却〕
上記によって製造された熱延板材を冷却することができ、特に本発明では、表層部と中心部との硬度差が最小化した鋼材を得ることができる最適の冷却工程を提案することに技術的意義がある。
具体的に、上記冷却は、1次冷却する段階、空冷する段階、及び2次冷却する段階を含み、各工程の条件については下記に具体的に説明する。ここで、上記1次冷却と2次冷却は、特定の冷却手段を適用することで行うことができ、一例として、水冷を適用することができる。
【0040】
〔1次冷却〕
本発明では、上記の仕上げ熱間圧延を終了した直後、1次冷却を行うことができ、具体的には、上記仕上げ熱間圧延して得られた熱延板材の表面温度がAr-20℃~Ar+50℃のときに開始することが好ましい。
上記1次冷却の開始温度がAr+50℃を超えると、1次冷却中に表面部でフェライトへの相変態が十分に行われず、表面部の硬度の減少効果が得られなくなる。一方、その温度がAr-20℃未満であると、中心部まで過度にフェライト変態が発生して鋼の強度を低下させる原因となる。
【0041】
また、上記1次冷却は、上記熱延板材の表面温度がAr-50℃~Ar-50℃になるように5~40℃/sの冷却速度で行うことが好ましい。
すなわち、上記1次冷却の終了温度がAr-50℃を超えると、1次冷却された熱延板材の表面部において、フェライトに相変態する分率が低く、表面部の硬度の減少効果を効果的に得ることができない。一方、その温度がAr-50℃より低いと、中心部までフェライト相変態が過度に発生して目標レベルの強度の確保が難しくなる。
さらに、上記1次冷却時の冷却速度が5℃/s未満と、遅すぎる場合、上述した1次冷却の終了温度を確保しにくい。一方、40℃/sを超えると、表面部において、フェライトより硬質相、例えば、アシキュラーフェライト相に変態する分率が高くなり、中心部に比べて軟質な組織を確保しにくい。
【0042】
上記1次冷却を完了した後には、上記熱延板材の中心部の温度がAr-30℃~Ar+30℃に制御されることが好ましい。
上記1次冷却を終了した後、中心部の温度がAr+30℃を超えると、特定の温度範囲に冷却された表面部の温度が上昇して、表面部のフェライト相変態の分率が低くなる。一方、上記中心部の温度がAr-30℃未満であると、中心部が過度に冷却され、後続空冷時に表面部を復熱できる温度が低くなって焼戻し効果を得ることができず、これは結局、表面部の硬度の低減効果を低下させる。
【0043】
〔空冷〕
上述した条件で、1次冷却を完了した熱延板材を空冷することが好ましく、上記空冷工程を通じて、相対的に高温である中心部によって表面部が復熱される効果を得ることができる。
上記空冷は、上記熱延板材の表面部の温度がAr-10℃~Ar-50℃の温度範囲になったときに終了することが好ましい。
上記空冷を完了した後、表面部の温度がAr-50℃より低いと、空冷フェライトを形成するための時間が不足するだけでなく、表面部の復熱による焼戻し効果が不十分であり、表面部の硬度の減少に不利である。一方、その温度がAr-10℃を超えると、空冷時間が過剰となり、中心部でフェライト相変態が発生するため、目標レベルの強度の確保が難しくなる。
【0044】
〔2次冷却〕
上記空冷が上述の温度範囲(表面部の温度基準)で完了した直後に2次冷却を行うことが好ましく、上記2次冷却は、表面部の温度が300~600℃になるように50~500℃/sの冷却速度で行うことが好ましい。
すなわち、上記2次冷却の終了温度が300℃未満であると、中心部においてMA相の分率が高くなり、低温靭性の確保及び水素脆性の抑制に悪影響を及ぼす。一方、その温度が600℃を超えると、中心部での相変態が完了できず、強度の確保が難しくなる。
また、上記の温度範囲での2次冷却時に冷却速度が50℃/s未満であると、中心部の結晶粒が粗大化して目標レベルの強度の確保が難しい。一方、500℃/sを超えると、中心部の微細組織として上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な相の分率が高くなって水素誘起割れ抵抗性を劣化させるため、好ましくない。
他の例として、本発明の鋼材は、[スラブ加熱-圧延-冷却(1次冷却、2次冷却)]の工程を経て製造することができる。
【0045】
〔スラブ加熱〕
本発明で提案する合金組成及び成分関係を満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができる。このとき、1100~1300℃で行うことがよい。
上記加熱時の温度が1300℃を超えると、スケール(scale)欠陥が増加するだけでなく、オーステナイト結晶粒が粗大化して鋼の焼入れ性を増加させる虞がある。また、中心部において、上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な組織の分率を増加させることにより、水素誘起割れ抵抗性が劣化するという問題がある。一方、その温度が1100℃未満であると、合金元素の再固溶率が低下する虞がある。
したがって、本発明では、上記鋼スラブの加熱時に1100~1300℃の温度範囲で行うことができ、強度及び水素誘起割れ抵抗性の確保の面から、1150~1250℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0046】
〔熱間圧延〕
上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延板材として製造することができ、このとき、Ar+50℃~Ar+250℃の温度範囲で累積圧下率50%以上で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
上記仕上げ熱間圧延時の温度がAr+250℃より高いと、結晶粒成長による焼入れ性の増加により、上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な組織が形成されて水素誘起割れ特性が低下するという問題がある。一方、その温度がAr+50℃より低いと、後続冷却が開始される温度が低すぎるようになり、空冷フェライトの分率が過度になるため、強度が低下する虞がある。
上記の温度範囲で仕上げ熱間圧延時に累積圧下率が50%未満であると、鋼材の中心部まで圧延による再結晶が発生せず、中心部の結晶粒が粗大化し、低温靭性が劣化するという問題がある。
【0047】
〔冷却〕
上記によって製造された熱延板材を冷却することができ、特に本発明では、表層部と中心部との硬度差が最小化した鋼材を得ることができる最適の冷却工程を提案することに技術的意義がある。
具体的には、上記冷却は、1次冷却する段階及び2次冷却する段階を含み、各工程の条件については下記で具体的に説明する。ここで、上記1次冷却と2次冷却は、特定の冷却手段を適用することで行うことができ、一例として、水冷を適用することができる。
【0048】
〔1次冷却〕
本発明では、上記の仕上げ熱間圧延を終了した直後に1次冷却を行うことができ、具体的には、上記仕上げ熱間圧延して得られた熱延板材の表面部の温度がAr-20℃~Ar+50℃のときに開始することが好ましい。
上記1次冷却の開始温度がAr+50℃を超えると、1次冷却中に表面部においてフェライトへの相変態が十分に行われず、表面部の硬度の減少効果が得られなくなる。一方、その温度がAr-20℃未満であると、中心部まで過度にフェライト変態が発生して鋼の強度を低下させる原因となる。
また、上記1次冷却は、上記熱延板材の表面温度がAr-150℃~Ar-50℃になるように5~40℃/sの冷却速度で行うことが好ましい。
すなわち、上記1次冷却の終了温度がAr-50℃を超えると、1次冷却された鋼材の表面部において、フェライト相変態される分率が低く、表面部の硬度の減少効果を効果的に得ることができない。一方、その温度がAr-150℃より低いと、中心部までフェライト相変態が過度に発生して目標レベルの強度の確保が難しくなる。
【0049】
さらに、上記1次冷却時の冷却速度が5℃/s未満と、遅すぎる場合、上述した1次冷却の終了温度を確保しにくい。一方、40℃/sを超えると、表面部において、フェライトより硬質相、例えば、アシキュラーフェライト相に変態する分率が高くなり、中心部に比べて軟質な組織を確保しにくい。
一方、上記1次冷却を完了した後には、上記熱延板材の中心部の温度がAr-50℃~Ar+10℃に制御されることが好ましい。
上記1次冷却を終了した後、中心部の温度がAr+10℃を超えると、表面部の1次冷却終了温度が上昇して表面部のフェライト相変態の分率が低くなる。一方、上記中心部の温度がAr-50℃未満であると、中心部が過度に冷却され、相対的に温度の高い中心部による表面部の焼戻し効果を得ることができず、これは結局、表面部の硬度の低減効果を低下させる。
【0050】
〔2次冷却〕
上述した1次冷却を完了した直後に2次冷却を行うことが好ましく、上記2次冷却は、表面部の温度が300~600℃になるように50~500℃/sの冷却速度で行うことが好ましい。
すなわち、上記2次冷却の終了温度が300℃未満であると、中心部においてMA相の分率が高くなって低温靭性の確保及び水素脆性の抑制に悪影響を及ぼす。一方、その温度が600℃を超えると、中心部での相変態が完了できず、強度の確保が難しくなる。
また、上述した温度範囲での2次冷却時に冷却速度が50℃/s未満であると、中心部の結晶粒が粗大化して目標レベルの強度の確保が難しい。一方、500℃/sを超えると、中心部の微細組織として上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な相の分率が高くなって水素誘起割れ抵抗性を劣化させるため、好ましくない。
【0051】
他の例として、本発明の鋼材は、[スラブ加熱-粗圧延-冷却及び復熱-熱間圧延-冷却]の工程を経て製造することができる。
〔スラブ加熱〕
本発明で提案する合金組成及び成分関係を満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができ、このとき、1100~1300℃で行うことができる。
上記加熱時の温度が1300℃を超えると、スケール(scale)欠陥が増加するだけでなく、オーステナイト結晶粒が粗大化して鋼の焼入れ性を増加させる虞がある。また、中心部において、上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な組織の分率を増加させることにより、水素誘起割れ抵抗性が劣化するという問題がある。一方、その温度が1100℃未満であると、合金元素の再固溶率が低下する虞がある。
したがって、本発明では、上記鋼スラブの加熱時に1100~1300℃の温度範囲で行うことがよく、強度及び水素誘起割れ抵抗性の確保の面から、1150~1250℃の温度範囲で行うことがより好ましい。
【0052】
〔粗圧延されたバーの冷却及び復熱〕
上記によって加熱された鋼スラブを通常の条件で粗圧延してバー(bar)を製造した後、上記バー(bar)を冷却及び復熱する工程を経ることが好ましい。
本発明では、上記バー(bar)を仕上げ熱間圧延して熱延板材として製造するに先立ち、特定の温度に冷却し、復熱されるようにすることで、鋼の表面部のオーステナイト結晶粒を微細化させた。これにより、最終冷却(熱間圧延後の冷却工程を指す)時に、鋼の表面部の焼入れ性を効果的に下げることができるようになり、最終鋼材の表面部の硬度の大幅な低減効果を得ることができる。
【0053】
具体的に、上記冷却及び復熱によって鋼の表面部のオーステナイト結晶粒を微細化させるためには、上記表面部のみを選択的に変態-逆変態を発生させることができる条件で冷却を行う必要があり、好ましくは、表面部の温度がAr以下になるまで、冷却手段にかかわらず、少なくとも1回以上の冷却を行うことが必要である。より具体的に、上記冷却は、上記表面部のフェライトに変態する温度領域まで行うことがよい。
冷却手段としては特に限定しないが、一例として、水冷を行うことができる。
上記のとおり、表面部をAr以下に冷却した後、相対的に温度の高い中心部により表面部で復熱が起こり、このとき、上記復熱は、冷却によって変態したフェライトがオーステナイト単相に逆変態する温度領域であればよいため、その温度範囲については特に限定しない。
【0054】
〔仕上げ熱間圧延〕
上記によって冷却及び復熱されたバー(bar)を仕上げ熱間圧延して熱延板材として製造することができる。このとき、Ar+50℃~Ar+250℃の温度範囲で累積圧下率50%以上で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
上記仕上げ熱間圧延時の温度がAr+250℃より高いと、結晶粒成長による焼入れ性の増加により、上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な組織が形成されて水素誘起割れ特性が低下するという問題がある。一方、その温度がAr+50℃より低いと、後続冷却が開始される温度が低くなりすぎ、空冷フェライトの分率が過度となるため、強度が低下する虞がある。
上記の温度範囲で仕上げ熱間圧延時に累積圧下率が50%未満であると、鋼材の中心部まで圧延による再結晶が発生せず、中心部の結晶粒が粗大化し、低温靭性が劣化するという問題がある。
【0055】
〔冷却〕
上記で製造された熱延板材を冷却する。このとき、上記熱延板材の厚さ方向の平均温度または厚さ方向t/4の地点の温度がAr-50℃~Ar+50℃のときに開始することが好ましい。
上記冷却時に開始温度がAr+50℃を超えると、冷却中に表面部においてフェライトへの相変態が十分に行われず、表面部の硬度の減少効果が得られなくなる。一方、その温度がAr-50℃未満であると、中心部まで過度にフェライト変態が発生して鋼の強度を低下させる原因となる。
また、上記冷却は、300~650℃になるように20~100℃/sの冷却速度で行うことが好ましい。
上記冷却を終了する温度は、厚さ方向の平均温度または厚さ方向t/4の地点の温度を基準にすることができ、その温度が300℃未満であると、中心部において、MA相の分率が高くなり、低温靭性の確保及び水素脆性の抑制に悪影響を及ぼす。一方、その温度が650℃を超えると、中心部での相変態が完了できず、強度の確保が難しくなる。
そして、上述した温度範囲での冷却時に冷却速度が20℃/s未満であると、結晶粒が粗大化して目標レベルの強度の確保が難しい。一方、100℃/sを超えると、微細組織として上部ベイナイトのような低温靭性に脆弱な相の分率が高くなって水素誘起割れ抵抗性を劣化させるため、好ましくない。
【0056】
上記一連の工程を経て製造された本発明の鋼材は5~50mmの厚さを有することができる。このように、本発明の鋼材は、厚さが厚いにもかかわらず、表層部と中心部との硬度差(表層部の硬度-中心部の硬度)が20Hv以下に制御されることで、水素誘起割れに対する抵抗性及び硫化物応力腐食割れ抵抗性を良好に確保することができる。
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。これは、本発明の権利範囲が、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるからである。
【実施例0058】
下記表1の合金組成を有する鋼スラブを準備した。このとき、上記合金組成の含量は重量%であり、残りはFe及び不可避不純物からなる。準備された鋼スラブを表2に示した条件で加熱、熱間圧延及び冷却の工程を経て、それぞれの鋼材を製造した。
【0059】
【表1】
(表1において、P*、S*、N*、Ca*はppmで表したものである。また、Ar=910-310×C-80×Mn-20×Cu-15×Cr-55×Ni-80×Mo+0.35×(厚さ(mm)-8)、Ar=742-7.1×C-14.1×Mn+16.3×Si+11.5×Cr-49.7×Niによって計算される。)
【0060】
【表2】
【0061】
上述のとおり製造されたそれぞれの鋼材について、降伏強度(YS)、表面部と中心部におけるビッカース硬度、硫化物応力割れに対する抵抗性を測定し、微細組織を観察して、その結果を下記表3に示した。
このとき、降伏強度は0.5%under-load降伏強度を意味し、引張試験片は、API-5L規格試験片を圧延方向に垂直な方向に採取した後、試験を行った。
鋼材の位置別硬度の測定は、ビッカース硬度計を用いて1kgfの荷重で測定した。このとき、中心部硬度は、鋼材を厚さ方向に切断した後、t/2の位置で測定し、表面部の硬度は鋼材の表面で測定した。
【0062】
微細組織は、光学顕微鏡を用いて測定し、イメージ分析器(Image analyser)を用いて相(phase)の種類を観察した。
そして、硫化物応力割れに対する抵抗性は、NACE TM0177規定に従って1barのHSガスで飽和された強酸の標準溶液(5%NaCl+0.5%酢酸)中で試験片に降伏強度90%の印加応力を加えた後、720時間内に破断の有無を観察した。
【0063】
【表3】
(表3において、Fはフェライト、Pはパーライト、AFはアシキュラーフェライト、UPは上部ベイナイトを示す。)
【0064】
上記表1~3に示したとおり、本発明で提案する合金組成及び製造条件をすべて満たしている発明例1~3は、表面部の硬度が中心部に比べて著しく低いことが確認でき、硫化物応力腐食割れに対する抵抗性にも優れることが確認できる(図1参照)。
一方、本発明で提案する合金組成を満たしておらず、冷却工程も本発明の条件から外れている比較例1~3と、合金組成は本発明を満たしているものの、冷却工程が本発明の範囲から外れている比較例4は、表面部の硬度が中心部より過度に高く現れ、その差が30Hv以上であった。このうち、比較例1~3はSSC特性にも劣っていた。
【0065】
比較例5及び6は、本発明のように多段冷却が適用されたにもかかわらず、このうち、比較例5は、1次冷却時に表面部の終了温度が過度に低いため、中心部においてフェライト及びパーライトが形成され、降伏強度が450MPa未満となり、意図する強度の確保が困難であった。比較例6は、1次冷却時に冷却速度が過度に速く、表面部の基地組織として中心部に比べて軟質な組織が形成されなかったため、中心部より表面部の硬度が20Hvを超えて高かった。
【実施例0066】
下記表4の合金組成を有する鋼スラブを準備した。このとき、上記合金組成の含量は重量%であり、残りはFe及び不可避不純物を含む。準備された鋼スラブを表5に示した条件で加熱、熱間圧延、及び冷却の工程を経てそれぞれの鋼材を製造した。
【0067】
【表4】
(表4において、P*、S*、N*、Ca*はppmで表したものである。また、[Ar=910-310×C-80×Mn-20×Cu-15×Cr-55×Ni-80×Mo+0.35×(厚さ(mm)-8)]、[Ar=742-7.1×C-14.1×Mn+16.3×Si+11.5×Cr-49.7×Ni]によって計算される。)
【0068】
【表5】
【0069】
上記のとおり、製造されたそれぞれの鋼材について、降伏強度(YS)、表面部と中心部におけるビッカース硬度、硫化物応力割れに対する抵抗性を測定し、微細組織を観察して、その結果を下記表6に示した。
このとき、降伏強度は0.5%under-load降伏強度を意味し、引張試験片はAPI-5L規格の試験片を圧延方向に垂直な方向に採取した後、試験を行った。
鋼材の位置別硬度の測定は、ビッカース硬度計を用いて1kgfの荷重で測定した。このとき、中心部の硬度は、鋼材を厚さ方向に切断した後、t/2の位置で測定し、表面部の硬度は鋼材の表面で測定した。
【0070】
微細組織は光学顕微鏡を用いて測定し、イメージ分析器(Image analyser)を用いて相(phase)の種類を観察した。
そして、硫化物応力割れに対する抵抗性は、NACE TM0177規定に従って1barのHSガスで飽和された強酸の標準溶液(5%NaCl+0.5%酢酸)中で試験片に降伏強度の90%の印加応力を加えた後、720時間内に破断の有無を観察した。
【0071】
【表6】
(表6において、Fはフェライト、Pはパーライト、AFはアシキュラーフェライト、UPは上部ベイナイトを示す。)
【0072】
上記表4~6に示したとおり、本発明で提案する合金組成及び製造条件をすべて満たしている発明例1~3は、表面部の硬度が中心部に比べて低いことが確認でき、硫化物応力腐食割れに対する抵抗性にも優れることが確認できる(図2参照)。
これに対し、本発明で提案する合金組成を満たすことができず、冷却工程も本発明の条件から外れている比較例1~3と、合金組成は本発明を満たしているものの、冷却工程が本発明の範囲から外れている比較例4は、表面部の硬度が中心部より過度に高く現れ、その差が20Hvを超えた。このうち、比較例1~3はSSC特性にも劣っていた。
【0073】
比較例5及び6は、本発明のように多段冷却が適用されたにもかかわらず、このうち、比較例5は、1次冷却時に表面部の終了温度が過度に高く、表面部において中心部に比べて軟質の組織であるフェライト相が十分に形成されなかったため、中心部より表面部の硬度が高く現れた。比較例6は、1次冷却時に冷却速度が過度となって表面部の終了温度が過度に低く、中心部の終了温度も低くなった。これにより、中心部においてフェライト及びパーライトが形成され、降伏強度が450MPa未満となり、意図する強度の確保が困難であった。
【実施例0074】
下記表7の合金組成を有する鋼スラブを準備した。このとき、上記合金組成の含量は重量%であり、残りはFe及び不可避不純物を含む。準備された鋼スラブを表8に示す条件で加熱、熱間圧延、及び冷却の工程を経て、それぞれの鋼材を製造した。このとき、上記加熱が完了した鋼スラブに対して通常の条件で粗圧延を行い、バー(bar)を作製した後、一部の鋼種に対して上記バー(bar)を冷却した後、熱間圧延を行い、上記熱間圧延は上記冷却されたバー(bar)がオーステナイト単相域に復熱された後に行った。
【0075】
【表7】
(表7において、P*、S*、N*、Ca*はppmで表したものである。また、[Ar=910-310×C-80×Mn-20×Cu-15×Cr-55×Ni-80×Mo+0.35×(厚さ(mm)-8)]、[Ar=742-7.1×C-14.1×Mn+16.3×Si+11.5×Cr-49.7×Ni]によって計算される。)
【0076】
【表8】
【0077】
上記のとおり、製造されたそれぞれの鋼材について、降伏強度(YS)、表面部と中心部におけるビッカース硬度、硫化物応力割れに対する抵抗性を測定し、微細組織を観察して、その結果を下記表9に示した。
このとき、降伏強度は0.5%under-load降伏強度を意味し、引張試験片はAPI-5L規格の試験片を圧延方向に垂直な方向に採取した後、試験を行った。
鋼材の位置別硬度の測定は、ビッカース硬度計を用いて1kgfの荷重で測定した。このとき、中心部の硬度は、鋼材を厚さ方向に切断した後、t/2の位置で測定し、表面部の硬度は鋼材の表面で測定した。
【0078】
微細組織は光学顕微鏡を用いて測定し、イメージ分析器(Image analyser)を用いて相(phase)の種類を観察した。
そして、硫化物応力割れに対する抵抗性は、NACE TM0177規定に従って1barのHSガスで飽和された強酸の標準溶液(5%NaCl+0.5%酢酸)中で試験片に降伏強度の90%の印加応力を加えた後、720時間内に破断の有無を観察した。
【0079】
【表9】
(表9において、Fはフェライト、Pはパーライト、AFはアシキュラーフェライト、UPは上部ベイナイト(Upper Bainite)を示す。)
【0080】
上記表7~9に示したとおり、本発明で提案する合金組成及び製造条件をすべて満たしている発明例1及び2は、表面部の硬度が中心部に比べて著しく低いことが確認でき、硫化物応力腐食割れに対する抵抗性にも優れることが確認できる(図3参照)。
これに対し、本発明で提案する合金組成を満たすことができず、製造工程も本発明の条件から外れている比較例1及び2は、表面部の硬度が中心部より過度に高く現れ、その差が30Hvを超えてSSC特性も劣っていた。
【0081】
比較例3は、本発明で提案する製造工程によって製造されることで、表面部の硬度の低下効果を得ることができたが、合金組成中のCaの含量及びCa/Sの成分比が本発明の範囲から外れているため、SSC特性が劣っていた。
比較例4及び5は、合金組成が本発明を満たしているものの、製造工程、特に、粗圧延されたバー(bar)の冷却を行っていない場合であって、表面部の硬度が中心部より過度に高く現れ、その差が20Hvを超えていた。
図1
図2
図3