(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110069
(43)【公開日】2023-08-08
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、医用画像処理システムおよび医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20230801BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A61B6/03 360J
A61B6/00 350D
A61B6/00 331E
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094497
(22)【出願日】2023-06-08
(62)【分割の表示】P 2022006819の分割
【原出願日】2017-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】七戸 金吾
(57)【要約】
【課題】血管画像としての正確さを損なうことなく、障害陰影となり得る抹消側の血管を表示させないようにする。
【解決手段】医用画像処理装置10は、医用画像データを取得する画像データ取得部11と、取得した医用画像データから血管経路を検出する血管経路検出部12と、血管画像の作成条件の入力を受け付け、設定する作成条件設定部13と、検出された血管経路から血管画像を作成する血管画像作成部14と、を有する。血管画像作成部14は、作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、血管経路から血管画像を作成するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像データを取得する画像データ取得部と、
取得した前記医用画像データから血管経路を検出する血管経路検出部と、
前記血管経路検出部で検出された血管経路から血管画像を作成する血管画像作成部と、
血管画像の作成条件の入力を受け付け、受け付けた作成条件を設定する作成条件設定部と、
を有し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成するように構成されている医用画像処理装置。
【請求項2】
前記血管経路検出部は、血管が分岐した分岐点における分岐次数が特定された前記血管経路を検出し、
前記作成条件設定部は、前記作成条件の項目として前記血管の分岐次数の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で設定された分岐次数までの前記血管経路を用いて前記血管画像を作成する、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記血管経路検出部は、前記分岐点の下流側で、前記分岐点から延びる複数の血管の直径を求め、求めた複数の直径を比較し、最も直径の大きい血管を除く1つまたは複数の血管を、前記分岐点の上流側の血管から分岐した分岐血管と判断することによって前記分岐次数を特定するように構成されている請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記血管経路検出部は、取得した前記医用画像データから血管の中心線および輪郭を抽出し、抽出した前記中心線および前記輪郭から前記血管の直径を求めるように構成されている請求項3に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記血管経路検出部は、入力された前記分岐次数までの前記血管経路を検出する請求項2から4のいずれか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記血管経路検出部で検出された前記血管経路が疾患部を含んでおり、
前記作成条件設定部は、前記作成条件の項目として前記疾患部との関連度の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で設定された作成条件で、前記血管経路を用いて前記血管画像を作成する、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記血管画像作成部は、前記血管画像が作成された状態で前記作成条件設定部が作成条件の一つとして「末端消去」の入力を受け付けると、作成されている前記血管画像中の血管経路のうち最も末端の分岐血管を消去した血管画像を作成する請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記血管経路は起始部と複数の末端とを有し、
前記血管経路検出部は、前記起始部から前記複数の末端へ至る全ての血管経路のうち、最も長さの長い血管経路を一次血管と定める請求項1から5のいずれか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記作成条件設定部は、少なくとも一つの一次血管の指定を前記作成条件の一つとして受け付け、これによって前記一次血管を設定する請求項1から5のいずれか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の医用画像処理装置と、
前記医用画像データで構成された医用画像を撮像する透視撮像装置と、
を有する医用画像処理システム。
【請求項11】
造影剤を注入する薬液注入装置をさらに含む請求項10に記載の医用画像処理システム。
【請求項12】
画像データ取得部と、血管経路検出部と、作成条件設定部と、血管画像作成部とを有する医用画像処理装置を用いて医用画像データから血管画像を作成する医用画像処理方法であって、
前記画像データ取得部が前記医用画像データを取得するステップと、
前記血管経路検出部が、取得した前記医用画像データから血管経路を検出するステップと、
前記作成条件設定部が、血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件を設定するステップと、
前記血管画像作成部が、検出された前記血管経路から前記血管画像を作成するステップであって、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成するステップと、
を有する医用画像処理方法。
【請求項13】
前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、血管が分岐した分岐点における分岐次数が特定された前記血管経路を検出することを含み、
前記作成条件を設定するステップは、前記作成条件設定部が、前記作成条件の項目として前記血管の分岐次数の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定することを含み、
前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記設定された分岐次数までの前記血管経路を用いて前記血管画像を作成することを含む、
請求項12に記載の医用画像処理方法。
【請求項14】
前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、前記分岐点の下流側で、前記分岐点から延びる複数の血管の直径を求め、求めた複数の直径を比較し、最も直径の大きい血管を除く1つまたは複数の血管を、前記分岐点の上流側の血管から分岐した分岐血管と判断することによって前記分岐次数を特定することを含む、請求項13に記載の医用画像処理方法。
【請求項15】
前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、取得した前記医用画像データから血管の中心線および輪郭を抽出し、抽出した前記中心線および前記輪郭から前記血管の直径を求めることを含む、請求項14に記載の医用画像処理方法。
【請求項16】
前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、前記分岐次数が指定された後、指定された前記分岐次数までの前記血管経路を検出することを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の医用画像処理方法。
【請求項17】
前記血管経路検出部が検出した前記血管経路は疾患部を含んでおり、
前記作成条件を設定するステップは、前記作成条件設定部が、前記作成条件の項目として前記疾患部との関連度の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定することを含み、
前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記作成条件設定部で設定された作成条件で、前記血管経路を用いて前記血管画像を作成することを含む、
請求項12に記載の医用画像処理方法。
【請求項18】
前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記血管画像が作成された状態で前記作成条件設定部が作成条件の一つとして「末端消去」の入力を受け付けると、作成されている前記血管画像中の血管経路のうち最も末端の分岐血管を消去した血管画像を作成することを含む請求項12に記載の医用画像処理方法。
【請求項19】
前記血管経路は起始部と複数の末端とを有し、
前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、前記起始部から前記複数の末端へ至る全ての血管経路のうち、最も長さの長い血管経路を一次血管と定めることを含む請求項12から16のいずれか一項に記載の医用画像処理方法。
【請求項20】
前記作成条件を設定するステップは、前記作成条件設定部が、少なくとも一つの一次血管の指定を前記作成条件の一つとして受け付け、これによって前記一次血管を設定する請求項12から16のいずれか一項に記載の医用画像処理方法。
【請求項21】
医用画像データから血管画像を作成する医用画像処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータを、
前記医用画像データを取得する画像データ取得部、
取得した前記医用画像データから血管経路を検出する血管経路検出部、
血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件を設定する作成条件設定部、および
前記血管経路検出部で検出された前記血管経路から前記血管画像を作成する血管画像作成部であって、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成する血管画像作成部、
として機能させるコンピュータプログラム。
【請求項22】
請求項21に記載のコンピュータプログラムを記憶している、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像データから得られた血管画像の表示を処理する医用画像処理装置および医用画像処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓等の患部を切除する手術においては、摘出すべき腫瘍等に栄養を供給している血管(栄養血管)を含む領域を最小限の範囲で切除することが求められる。そこで、手術の前に切除部位を把握しておくために、透視撮像装置によって患者の医用画像を撮像し、撮像した医用画像から血管構造を精度よく抽出することが重要である。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014-171908号公報)には、三次元画像データから血管樹形図の分岐ポイントに代表されるランドマークを特定し、そのランドマークから、解剖学的情報に従って分岐構造のセグメントに対応する対のランドマークを選択し、選択された対のランドマークに基づいて、三次元画像データにおける血管樹形図に関するセグメントの空間的な配置を決定することが記載されている。また、特許文献2(特許第5391229号公報)には、線状構造物を含む医用画像データから、線状構造物を複数のノード(節点)と複数のエッジ(辺)によって定義した木構造の候補として抽出し、各ノードを所定のアルゴリズムに従って接続し、木構造を作成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-171908号公報
【特許文献2】特許第5391229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の血管構造抽出技術は、血管構造を精度良く抽出するものであるが、例えば、腫瘍の摘出に際して腫瘍と関連性の高い血管を判断するような場合、血管が末梢まで詳細に表示されることは、かえって診断や検査の障害陰影となる可能性がある。末梢の血管を表示させないようにするためには、例えば、画像データの表示閾値を高くすることが考えられる。造影剤を注入して撮像した場合は、太い血管ほど輝度が高く、抹消側にいくほど輝度が低い画像が得られるからである。しかし、表示閾値を高くすると、低輝度の領域では血管が細く表示されてしまい、血管画像としての正確さが欠けてしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は、血管画像としての正確さを損なうことなく障害陰影となり得る血管を表示させないようにすることのできる医用画像処理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の医用画像処理装置は、医用画像データを取得する画像データ取得部と、
取得した前記医用画像データから血管経路を検出する血管経路検出部と、
前記血管経路検出部で検出された血管経路から血管画像を作成する血管画像作成部と、
血管画像の作成条件の入力を受け付け、受け付けた作成条件を設定する作成条件設定部と、
を有し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成するように構成されている。
【0008】
本発明の医用画像処理システムは、上記本発明の医用画像処理装置と、医用画像データで構成された医用画像を撮像する透視撮像装置と、を有する。
【0009】
本発明の医用画像処理方法は、画像データ取得部と、血管経路検出部と、作成条件設定部と、血管画像作成部とを有する医用画像処理装置を用いて医用画像データから血管画像を作成する医用画像処理方法であって、
前記画像データ取得部が前記医用画像データを取得するステップと、
前記血管経路検出部が、取得した前記医用画像データから血管経路を検出するステップと、
前記作成条件設定部が、血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件を設定するステップと、
前記血管画像作成部が、検出された前記血管経路から前記血管画像を作成するステップであって、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成するステップと、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件に従って血管画像を作成することで、血管画像としての正確さを損なうことなく、診断や検査の障害陰影となり得る抹消側の血管を非表示とすることができ、結果的に、診断や検査を効率よくかつ正確に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態による医用画像処理システムのブロック図である。
【
図2】検出された血管経路を用いて作成された血管画像の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図1に示す医用画像処理装置による医用画像処理の大まかな流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】血管画像の作成条件として分岐次数が設定された場合の、
図2に示す血管経路のうち二次分岐血管までの血管経路を用いて作成された血管画像を模式的に示す図である。
【
図5A】実際に撮像された肝臓の血管画像の一部である。
【
図5B】
図4Aに示す血管画像において、三次血管までを表示した血管画像である。
【
図5C】
図4Aに示す血管画像において、閾値を高くして表示した血管画像である。
【
図6A】実際に撮像された肺の血管画像の一部である。
【
図6B】
図5Aに示す血管画像において、三次血管までを表示した血管画像である。
【
図7】血管画像の作成条件として疾患部に関する項目が設定された場合の血管画像の例を模式的に示す図である。
【
図8A】表示/消去制御用のユーザーインターフェースの一例を示す図である。
【
図8B】表示/消去制御用のユーザーインターフェースの一例を示す図である。
【
図9】
図2に示す血管画像において、起始点から末端までの全長に基づいて一次血管を決定する場合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、本発明の一実施形態による医用画像処理システムのブロック図が示されている。
【0013】
医用画像処理システムは、医用画像処理装置10と、医用画像処理装置10に接続された入力デバイス2および表示デバイス3と、を少なくとも有している。医用画像処理システムは、これらに加えて、データ格納部1および透視撮像装置100の少なくとも一方を含んでいてもよい。入力デバイス2は、例えば、キーボードやマウスなど、ユーザの操作により医用画像処理装置10にデータ等を入力できる任意のデバイスであってよい。
【0014】
表示デバイス3は、液晶ディスプレイなど、医用画像処理装置10で生成された画像を視覚的に表示させる任意のデバイスであってよい。また、入力デバイス2および表示デバイス3のそれぞれは、ディスプレイ上に透明電極を有するタッチスクリーンを配置したタッチパネルの一部を構成することもできる。
【0015】
医用画像処理装置10は、医用画像データを取得し、取得した医用画像データから所望の血管画像を作成する機能を備え、画像データ取得部11、血管経路検出部12、作成条件設定部13および血管画像作成部14を有している。このような医用画像処理装置10の機能は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Rad Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および他の機器とのインターフェースを備えたコンピュータユニットで構成することができる。コンピュータユニットは、この医用画像処理装置10に備えられたものであってもよいし、医用ワークステーションに備えられたものであってもよいし、透視撮像装置100に備えられたものであってもよいし、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータであってもよい。
【0016】
ROMには、コンピュータユニットが医用画像処理装置10として機能するように、画像データ取得部11、血管経路検出部12、作成条件設定部13および血管画像作成部14が行う一連の処理を実行させるコンピュータプログラムが実装されている。CPUは、そのコンピュータプログラムをRAMに読み出して実行させる。
【0017】
コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶させてもよい。ここで、コンピュータプログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は特に限定されず、例えば、メモリーカード、CD-ROM等の記録媒体であってもよい。記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムは、適宜のリーダを介してコンピュータユニットに実装することができる。適宜のリーダとは、例えば、記録媒体がメモリーカードである場合はカードリーダ、記録媒体がCD-ROMである場合はCDドライブ、などが挙げられる。
【0018】
または、コンピュータプログラムは、外部のサーバから通信ネットワークを介してコンピュータユニットにダウンロードされたものであってもよい。
【0019】
画像データ取得部11は、透視撮像装置100またはデータ格納部1から医用画像データを取得できるように、透視撮像装置100および/またはデータ格納部1と接続されている。透視撮像装置100は、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、PET(Positoron Emission Tomography)装置、超音波診断装置など、血管画像を生成できる医用画像データで構成された医用画像を撮像することのできる任意の装置であってよい。データ格納部1は、複数の被験者の医用画像データを格納するサーバであってもよいし、医用画像保存通信システム(PACS)の一部を構成していてもよい。データ格納部1から医用画像データを取得する場合、医用画像処理装置10は、取得する被験者を特定できる被験者特定情報(例えば被験者ID)の入力を受け付け、入力された被験者特定情報に従って、特定の被験者についての医用画像データをデータ格納部1から取得する。医用画像データは、ボリュームデータ等の三次元画像データであってもよい。
【0020】
また、透視撮像装置100によって被験者の医用画像を撮像する際、被験者に造影剤が注入されることが多い。よって、医用画像処理システムは、被験者に造影剤を注入する薬液注入装置200をさらに含んでいてもよい。造影剤を用いた医用画像データの取得では、注入された造影剤が関心領域に到達した適切なタイミングで透視撮像装置100を動作させることが好ましい。そこで、薬液注入装置200による造影剤の注入と、透視撮像装置100の動作とを連動させることができるように、薬液注入装置200は透視撮像装置100との間で電気信号を送受信可能に接続されることができる。
【0021】
血管経路検出部12は、取得した医用画像データから血管経路を検出するように構成されている。血管経路は、上流から下流へ向かって途中で分岐しながら延びており、したがって、最も上流側の端部である起始部と複数の末端とを有する。血管経路の検出には、公知の種々の手法を用いることができる。例えば、血管経路検出部12は、画像データの輝度分布を解析することによって血管の起始部から各末端までの中心線および輪郭を抽出し、また、血管の分岐点では分岐次数を特定する。また、検出した血管経路は、すべての分岐点を分岐次数ごとに区別したデータとして含んでいることが好ましい。本形態では、分岐次数は、次のように定めている。
(1)特定の血管を一次血管としたとき、一次血管から分岐した血管を二次血管とする。二次血管は、一次血管の分岐血管である。また、二次血管の始点を、一次血管からの分岐点という意味で一次分岐点とする。ここで、特定の血管、すなわち一次血管は、後述するように血管の太さおよび/または長さに基づいて定めることができる。
(2)同様に、二次血管から分岐した血管を三次血管とし、三次血管の始点を二次分岐点とする。
(3)以下、同様に、分岐するたびに次数が1つずつ増加する。
【0022】
また、血管経路検出部12は、分岐点の下流で、分岐点から下流側へ延びる複数の血管の直径を求め、求めた直径から分岐次数を特定することができる。より詳しくは、求めた複数の血管の直径を比較し、最も直径の大きい血管を除く1つまたは複数の血管を、分岐点の上流側の血管から分岐した分岐血管と判断する。例えば、起始点から延びる血管を一次血管としたとき、一次血管の分岐点の下流で、下流側へ延びる複数の血管の直径を求める。求めた複数の血管の直径を比較し、最も直径の大きい血管を、分岐点の上流の一次血管から連続する一次血管と判断し、それを除く他の血管を、一次血管から分岐した二次血管と判断する。血管の直径は、抽出した血管の中心線および輪郭から求めることができる。
【0023】
このような判断は、血管は分岐するごとに太さが細くなるという一般的な解剖学的構造に基づくものである。この観点から言えば、血管経路検出部12は、一次血管を定めるにあたり、検出したすべての血管経路から得られた血管のうち最も直径の大きい血管を一次血管と定めることができる。また、血管は、分岐するごとに長さが短くなるという解剖学的構造の特徴も有している。そこで、血管経路検出部12は、一次血管を定めるにあたり、検出したすべての血管経路から得られた血管のうち最も長さの長い血管を一次血管と定めることもできる。これら、血管の太さに基づく一次血管の認定および血管の長さに基づく一次血管の認定は、それぞれ単独で実施されてもよいし、組み合わせて実施されてもよい。なお、本明細書でいう「上流」および「下流」は、血管内での血液の流れ方向における「上流」および「下流」を意味する。
【0024】
血管経路検出部12が検出する血管経路は、例えば腫瘍といった疾患部をさらに含むことができる。血管経路検出部12は、例えば、画像データの輝度分布の解析によって、血管のような管状構造とは異なる塊状構造が抽出されたとき、これを疾患部として検出する。
【0025】
血管画像作成部14は、血管経路検出部12で検出された血管経路から血管画像を作成し、作成した血管画像を表示デバイス3に出力するように構成されている。血管画像の作成には公知の任意の手法を用いることができる。また、血管経路検出部12では血管の中心線および輪郭が抽出されているので、作成された血管画像は、血管の経路および太さが反映される。
【0026】
血管経路検出部12で検出された血管経路から作成された血管画像の一例を
図2に模式的に示す。
図2に示す例では、起始点SPから延びる一次血管は4か所の一次分岐点BR1で分岐し、各一次分岐点BR1からそれぞれ二次血管が延びている。これら二次血管は、それぞれ途中の二次分岐点BR2で再び分岐し、各二次分岐点BR2から三次血管が延び、さらに、三次血管の途中の三次分岐点BR3から四次血管が延び、四次血管の途中の四次分岐点BR4から五次血管が延びている。
【0027】
ここで、本形態の医用画像処理装置10は、入力デバイス2を通じて血管画像の作成条件の入力を受け付けることができる。その機能を有するのが、作成条件設定部13である。作成条件設定部13は、血管画像の作成条件の入力を受け付け、受け付けた作成条件を設定する。血管画像作成部14は、作成条件設定部13で作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、血管経路検出部12で検出された血管経路から血管画像を作成し、表示デバイス3に出力し、これによって、所望の血管画像が表示デバイス3に表示される。あるいは、血管画像作成部14は、作成した血管画像の表示デバイス3への出力に加えてさらに、作成した血管画像をデータ格納部1に送信してもよいし、このデータ格納部1への血管画像の送信のみを実施してもよい。
【0028】
作成条件設定部13が受け付けることのできる作成条件は、血管の分岐次数を項目として含むことができる。この場合、血管画像作成部14は、作成条件設定部13で設定された分岐次数までの血管画像を作成する。または、血管経路が疾患部を含む場合、その疾患部との関連度を項目として含むことができる。この場合、血管画像作成部14は、疾患部と、作成条件設定部13で設定された関連度に対応する血管とを含む血管画像を作成する。
【0029】
ここで、「作成条件設定部13が作成条件の入力を受け付ける」とは、例えば、表示デバイス3に作成条件の入力用画面を表示させるなど、操作者に対して作成条件の入力を可能とするようにすることを意味する。
【0030】
上述した医用画像処理装置10による医用画像処理の大まかな流れを
図3に示す。
【0031】
まず、画像データ取得部11が、医用画像データを取得する(S101)。次いで、血管経路検出部12が、取得した医用画像データから血管経路を検出する(S102)。血管経路の検出後、作成条件設定部13は血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件を設定する(S103)。作成条件設定部13で作成条件が設定されると、血管画像作成部14は、設定された作成条件に従って、血管経路検出部12により検出された血管経路から血管画像を作成する(S104)。作成された血管画像は、医用画像処理装置10によって表示デバイス3および/またはデータ格納部1に出力されることができる。その後、他の作成条件が受け付けられなければ、医用画像処理を終了し、他の作成条件が受け付けられれば、作成条件設定部13は再び作成条件を受け付ける(S106)。以降は、同様の処理が繰り返される。
【0032】
次に、上述した流れについて、作成条件として血管の分岐次数を設定する場合についてより詳しく説明する。
【0033】
まず、画像データ取得部11が、透視撮像装置100またはデータ格納部1から医用画像データを取得する。次いで、血管経路検出部12が、取得した医用画像データから血管経路を検出する。血管経路が検出されたら、作成条件設定部13は、ユーザによる、入力デバイス2からの、血管画像の分岐次数の入力を受け付ける。分岐次数が入力されることにより、作成条件設定部13は作成条件として分岐次数を設定する。血管画像作成部14は、設定された分岐次数までの血管経路を用いて血管画像を作成する。血管画像が作成されたら、血管画像作成部14は、作成した血管画像を表示デバイス3に出力する。これにより、入力した分岐次数までの血管画像が表示デバイス3に表示される。
【0034】
例えば、入力デバイス2から、「二次分岐」を意味する入力が行われ、作成条件設定部13により作成条件として「二次分岐」が設定されると、血管画像作成部14は、血管経路検出部12で検出された血管経路のうち、三次分岐点BR3およびそこより下流の分岐血管を用いずに血管画像を作成し、作成した画像を表示デバイス3に出力する。これにより、表示デバイス3には、
図4に示すように、起始点SPから三次血管までの血管画像が表示される。
【0035】
以上のように、表示したい分岐次数を操作者が指定し、指定した分岐次数より下流側の分岐血管を表示しないようにすることで、血管の太さや経路に影響を与えることなく、診断および検査等の障害陰影となり得る血管を表示させないようにすることができる。その結果、診断や検査を効率よくかつ正確に行うことができるようになる。
【0036】
上記の例では、血管経路検出部12は、すべての分岐次数について検出し、血管画像作成部14は、検出した血管経路のうち、入力された分岐次数までの血管経路を用いて血管画像を作成した。しかし、血管経路検出部12による血管経路の検出を、入力された分岐次数まで実行し、血管画像作成部14は、検出した特定の分岐次数までの血管経路から血管画像を作成し、出力するようにすることもできる。この場合、血管経路検出部12は、分岐次数が入力された後に血管経路を検出する。このように、分岐次数の入力後に、入力された分岐次数までの血管経路を検出するようにすることによって、血管経路検出部12は表示に必要な血管経路のみを検出すればよいので、血管経路の検出処理を簡略化でき、結果的に、医用画像処理装置10の処理時間の短縮化が可能となる。
【0037】
ここで、実際に撮像された血管画像を例に挙げて本形態を説明する。
【0038】
図5Aは、肝臓の血管画像の一部であり、撮像されたすべての血管が表示されている。また、この血管画像には腫瘍300が認められる。
図5Aに示す血管画像では、どの血管が腫瘍300への栄養血管であるかを特定するのは困難である。
【0039】
図5Bは、
図5Aにおいて、上述した画像処理を実施して三次血管までを表示した血管画像である。
図5Bに示す血管画像は、
図5Aに示す血管画像と比べてシンプルであり、三次血管301が腫瘍300に栄養を供給している栄養血管であることを明確に示している。
【0040】
図5Cは、
図5Aにおいて閾値を高くして表示した血管画像である。
図5Cに示す血管画像は分岐次数が増すにつれて実際より血管が細く表示され、
図5Bでは表示されていた腫瘍300の栄養血管である三次血管301が表示されていない。したがって、
図5Cに示す血管画像では、正確な診断はできない。
【0041】
図6Aは、肺の血管画像の一部であり、撮像されたすべての血管が表示されている。実際には腫瘍300が存在しているが、
図6Aでは血管が非常に細かく分岐しており、腫瘍300の存在を認めることも、腫瘍300への栄養血管を特定することも困難である。
【0042】
図6Bは、
図6Aにおいて、上述した画像処理を実施して三次血管までを表示した血管画像である。
図6Bに示す血管画像では、腫瘍300の存在を明確に認めることができ、また、腫瘍300への栄養血管も確認することができる。
【0043】
以上、本発明について代表的な実施形態を例に挙げて説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変更が可能である。
【0044】
(作成条件入力前の画像作成)
上述した実施形態では、作成条件が入力された後の、血管画像作成部14による血管画像の作成について説明した。しかし、血管画像作成部14は、作成条件設定部13が作成条件の入力を受け付ける前に、血管経路検出部12で検出されたすべての血管経路を用いて血管画像を作成することもできる。そして血管画像作成部14は、作成した血管画像を、表示デバイス3に出力して表示デバイス3に表示させることもできるし、データ格納部1へ送信してデータ格納部1に格納することもできるし、これらの両方を実行することもできる。
【0045】
上述した処理は、
図3に示すフローチャートにおいて、血管経路を検出する処理(S102)と作成条件を受け付け、設定する処理(S103)との間に、取得した医用画像データから血管画像を作成する処理および作製した血管画像を出力する処理を実行することに相当する。
【0046】
これにより、まず全体の状況を把握したうえで、作成条件を入力(設定)できるので、所望の血管画像を効率よく作成することができる。また、この場合、作成条件の入力を受け付ける前に表示された血管画像から操作者が目視で疾患部の有無を認識することができる。よって、血管画像中に疾患部が存在することが操作者によって認識された場合は、血管経路検出部12で検出された血管経路中に、操作者が疾患部を指定することができる。操作者により指定された疾患部と血管経路検出部12で検出された疾患部とが相違する場合、操作者により指定された疾患部を優先することが好ましい。
【0047】
このように、作成条件の入力を受け付ける前に血管画像を作成した場合でも、血管画像作成部14は、医用画像処理装置10に作成条件が入力されると、入力された作成条件に従って血管画像を作成する。ここで、すべての血管経路を用いて血管画像を作成した後に、入力された作成条件に従って血管画像を作成する処理として、例えば、以下の2つの処理が挙げられる。
【0048】
処理1: 前述したとおり、血管経路検出部12で検出した血管経路のうち、入力された作成条件で再度血管画像を作成する。この場合は、作成条件の入力を受け付けた後に作成される血管画像は、作成条件の入力を受け付ける前に作成した血管画像とは別に、新規に作成されることになる。
【0049】
処理2: この処理は、作成条件の入力前にすべての血管経路を用いて作成した血管画像を利用する処理である。すなわち、血管画像作成部14は、作成条件の入力前に作成した血管画像から、入力された作成条件から外れる血管経路を削除することによって、入力された作成条件に従った血管画像を作成する。この場合は、削除した血管経路についての補完処理が必要となる。このようにして作成された血管画像は、表示デバイス3に出力され、かつ/またはデータ格納部1に送信される。
【0050】
(他の作成条件1:疾患部との関連度)
また、上述した実施形態では、作成条件設定部13が作成条件として分岐次数の入力を受け付ける場合について説明した。しかし、血管画像の作成条件は分岐次数に限られず、「疾患部との関連度」とすることもできる。例えば、撮像された医用画像に腫瘍の存在が認められた場合、その腫瘍への栄養血管を特定したいという要求の他に、腫瘍付近の血管経路を詳細に知りたいという要求も存在する。
【0051】
このような要求に応えるために、血管経路検出部12で検出された血管経路が腫瘍等の疾患部を含んでいる場合、作成条件設定部13は、作成条件の項目として、血管の疾患部との関連度の入力を受け付けると、入力された項目に従って作成条件を設定し、血管画像作成部14は、作成条件設定部で設定された作成条件で、血管経路検出部12で検出された血管経路を用いて血管画像を作成することもできる。ここで、血管経路検出部12で検出された血管経路が疾患部を含んでいる場合とは、疾患部が血管経路検出部12によって検出された場合、および疾患部が操作者によって指定された場合のいずれであってもよい。
【0052】
以下、作成条件として疾患部との関連度を用いる場合について
図7を参照して説明する。
【0053】
図7に示すように、疾患部である腫瘍300が血管経路中に存在する場合、血管の腫瘍300との関連度として、例えば、以下の2つの関連度を考えることができる。
[関連度1]:血管が腫瘍300に接している。腫瘍300に接している血管B1は、栄養血管である可能性が高い。
[関連度2]:血管が腫瘍300の付近を通っている。腫瘍300の付近を通っている血管B2は、腫瘍300を切除する際に注意が必要である。
【0054】
血管と腫瘍300との位置関係は、血管経路検出部12で検出した血管および腫瘍300の輪郭の相対的位置関係から判断することができる。また、[関連度2]に関して、作成条件設定部13は、作成条件の項目の一つとして疾患部(腫瘍300)を含む立体的空間310の入力を受け付けることができる。よって、例えば、疾患部との関連度の入力において、疾患部(腫瘍300)が入力されれば、作成条件設定部13は、[関連度1]が入力されたとして、腫瘍300に接している血管B1を血管画像において作成の対象として設定し、立体的空間310が入力されれば、作成条件設定部13は、[関連度2]が入力されたとして、立体的空間310内に存在する血管B1、B2を血管画像において作成の対象として設定する。
【0055】
立体的空間310は、腫瘍300を基準として作成条件設定部13に予め設定されていてもよい。あるいは、作成条件設定部13は、作成条件の項目の一つとして、疾患部(腫瘍300)を基準としたマージンの入力を受け付け、入力されたマージンから立体的空間310を設定することもできる。立体的空間310は、腫瘍300の重心Oを中心とした球状の空間で与えることもできるし、腫瘍300の輪郭を基準とした空間で与えることもできる。
【0056】
立体的空間310を腫瘍300の重心Oを中心とした空間で与える場合、作成条件設定部13は、重心Oを中心とした半径M1の入力を受け付け、受け付けた半径M1の球状の立体的空間310内に存在する血管B1、B2を、血管画像において作成の対象とする血管として設定する。
【0057】
また、立体的空間310を腫瘍300の輪郭を基準とした空間で与える場合、作成条件設定部13は、腫瘍300の輪郭からの距離M2の入力を受け付け、受け付けた距離M2で規定される立体的空間310内に存在する血管B1、B2を、血管画像において作成の対象とする血管として設定する。
【0058】
なお、[関連度2]においては、[関連度1]との区別のため、腫瘍300に接している血管B1を除外し、立体的空間310内には存在するが腫瘍300と接していない血管B2のみを、作成の対象として設定するようにすることもできる。
【0059】
(他の作成条件2:末端消去)
画像の作成条件は、血管経路のうち最も末端の分岐血管を消去する「末端消去」であってもよい。この場合、血管画像作成部14によって血管画像が予め作成されており、その後、作成条件設定部13が、作成条件として「末端消去」の入力を受け付けると、血管画像作成部14は、予め作成した血管画像中の血管経路のうち最も末端の分岐血管を消去した血管画像を作成するようにすることが好ましい。血管画像作成部14は、作成した血管画像をその都度、表示デバイス3に出力することができる。予め作成された血管画像は、「末端消去」を実行した後の血管画像であってもよく、この「末端消去」を繰り返すことで、末端の分岐血管を所望の分岐血管まで消去していくことができる。こうすることで、操作者は、表示デバイス3に表示された血管画像を確認しながら、患部の処置等に求められる最適な画像が得られるように、陰影障害となり得る末端側の分岐血管を消去することができる。
【0060】
分岐血管の消去は、「段階的な消去」であってもよいし、「連続的な消去」であってもよい。「段階的な消去」とは、分岐血管単位で消去することを意味し、「連続的な消去」とは、消去対象の分岐血管について末端から分岐点に向かって長さが短くなるように徐々に消去していくことを意味する。
【0061】
分岐血管を連続的に消去する場合、血管画像作成部12は、入力デバイス2を通じた操作者による消去処理の停止または中断の入力を受け付け、その入力を受け付けた時点で消去処理を停止または中断し、その時点での血管画像を表示デバイス3に出力するようにしてもよい。こうすることで、表示デバイス3には、消去対象の分岐血管が、例えば途中から末端側が消去された状態で表示される。その結果、血管の分岐状態を把握しつつ、陰影障害となり得る血管の余分な部分が表示されなくなるので、例えば、疾患部の切除等においてより適切な判断が可能となる。
【0062】
ここで、消去する対象となる「末端」の分岐血管は、血管経路検出部12で検出された血管経路の全ての分岐血管のうち、分岐次数にかかわらず末端に位置する全ての分岐血管であってもよいし、または、最も分岐次数の高い全ての分岐血管であってもよい。前者の場合、
図2の血管画像を例に挙げると、消去される分岐血管は、四次分岐点BR4から分岐している全ての五次血管、および三次分岐点BR3から分岐している四次血管のうち、五次血管が分岐していない全ての四次血管である。後者の場合、同様に
図2の血管画像を例に挙げると、消去される分岐血管は、四次分岐点BR4から分岐している全ての五次血管である。
【0063】
「末端消去」において消去する分岐血管の例えば上記のような基準は、作成条件設定部13に予め設定されていてもよいし、作成条件設定部13に操作者が任意に設定できるようにされていてもよい。
【0064】
また、分岐血管を連続的に消去する場合、血管画像作成部14は、分岐血管の消去を操作者の入力操作によって任意に制御することもできる。そのためには、例えば、分岐血管の表示/消去制御用の入力を受け付けるユーザーインターフェースを用いることができる。作成条件設定部13はこのユーザーインターフェースを表示デバイス2に表示させ、このユーザーインターフェースを介して入力された情報に従って、血管画像作成部14が、入力された位置から下流側を消去した血管画像を作成し、表示デバイス3の出力することによって、分岐血管の表示および消去を任意に制御することができる。
【0065】
表示/消去制御用の入力を受け付けるユーザーインターフェースの一例を
図8Aに示す。このユーザーインターフェースは、表示デバイス3上に表示された画像(アイコン)で構成され、横方向に延びるスケール20と、スケール20上に重畳表示されるスライダアイコン21とを有する。スケール20は、一次血管から所定の次数までの分岐血管を模式的に直線状に表したものである。スライダアイコン21は、スケール20上での位置を表すものであり、例えば表示デバイス2がタッチパネルである場合はスケール20の延びる方向にスライダアイコン21をドラッグするといった所定の操作によりスケール20上での位置を変更することができる。
【0066】
ここで、初期状態では、スライダアイコン21が
図8Aにおいてスケール20上の最も右側に位置していたとする。この位置から操作者がスライダアイコン21を
図8Aに示す、三次血管の始点から四次血管に向かう約20%の位置までドラックすると、作成条件設定部13は、スケール20上でのスライダアイコン21の位置情報を血管画像作成部14に逐次出力し、血管画像作成部14は、スライダアイコン21の位置情報が入力される都度、その位置情報を用いて血管画像を作成し、表示デバイス3に出力する。これにより、表示デバイス3には、スライダアイコン21の移動に対応して、分岐血管が末端側から徐々に消去されていき、最終的に三次血管の長さの約20%の位置から先が消去された血管画像が得られる。
【0067】
上記のような表示処理を行うことで、操作者は、表示デバイス3に表示された画像を見ながら、消去される血管の範囲を任意に調整することができる。また、スライダアイコン21を起始部側から末端側へ移動させれば、消去とは逆に、表示される血管を分岐字数が高くなる方向に増やしていくこともできる。
【0068】
図8Bに、表示/消去制御用のユーザーインターフェースの他の例を示す。
図8Bに示す例も表示デバイス3に表示されるユーザーインターフェースであるが、操作方法が
図8Aに示したユーザーインターフェースと異なる。このユーザーインターフェースはダイヤルアイコン30を有しており、このダイヤルアイコン30を、ドラッグ等の所定の操作により回転させることで、
図8Aに示したスライダアイコン21と同様、表示/消去の制御を行うことができる。
【0069】
なお、上記の例ではソフトウェア的なユーザーインターフェースの一例として、スライダアイコン等を示したが、連続的な消去を実行させるための入力手段としては、上記に限らず連続値を入力できる一般的な手段を用いることもでき、例えば、リニアエンコーダやロータリーエンコーダ等のハードウェア的なユーザーインターフェースであってもよい。
【0070】
(起始点から末端までの全長に基づく一次血管の決定)
血管経路検出部12が検出した血管経路から一次血管をどのように決定するかについて、上述した形態では、最も直径の大きい血管を一次血管定めること、および最も長さの長い血管を一次血管と定めることを述べた。一次血管を定めるその他の手法として、起始部から途中の分岐点を経て各末端へ至る全ての血管経路のうち、最も長さの長い血管経路を一次血管と定めることもできる。この場合、血管経路検出部12は、検出された全ての血管経路について、起始点SPからの長さを算出し、算出した全ての血管経路の長さを比較し、そのうち最も長さの長い血管経路を一次血管と定める。この際、血管の太さは考慮しない。
【0071】
例えば、
図2に示した血管画像において、全ての血管経路について起始点SPから末端までの長さを比較した結果、
図9に示すように起始点SPから末端TM1までの長さが最長であったとすると、破線矢印で示した経路上の血管が一次血管と定められる。そして、定められた一次血管から分岐した血管が二次血管、二次血管から分岐した血管が三次血管とされ、以下、同様に、四次血管から先の分岐血管が定められる。
【0072】
このような起始点から末端までの全長に基づく一次血管の決定は、心臓の血管画像において特に有効である。心臓の血管は、冠動脈が最も主要な血管であり、そこから分岐する血管の太さは、必ずしも冠動脈より細いとは限らないからである。
【0073】
(操作者による一次血管の指定)
一次血管を操作者が指定することもできる。操作者による指定に基づく一次血管の決定は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0074】
血管経路検出部12が血管経路を検出した後、血管画像作成部14は、血管経路検出部12で検出した血管経路を用いて血管画像を作成し、表示デバイス2に出力する。これにより、血管経路検出部12が検出した全ての血管経路を用いた血管画像が表示デバイス3に表示される。この状態で、作成条件設定部13は、一次血管の指定を作成条件の一つとして受け付ける。
【0075】
一次血管の指定は、例えば、表示デバイス3に表示されている血管画像上で、操作者が一次血管に指定したい血管上にカーソルを位置させ、そのカーソルの位置を指定点として入力デバイス2により入力することにより行うことができる。あるいは、タッチパネルを入力デバイス2および表示デバイス3として用いている場合は、表示デバイス3に表示されている血管画像上で、操作者が一次血管に指定したい血管をタップすることによって、そのタップした位置を指定点として入力することができる。指定点の入力が受け付けられると、作成条件設定部13は、入力された指定点が含まれるように起始点SPから末端までの血管経路を一次血管に設定する。
【0076】
指定点として入力する位置は、血管経路上の起始点SPから末端までの間の任意の位置であってよい。起始点SPから指定点までの間、および/または指定点から末端までの間に分岐点が存在する場合は、作成条件設定部14は、予め定められたルールに従って、どちらを一次血管とし、どちらを分岐血管とするかを決定する。予め定められたルールとは、例えば、前述した分岐次数の特定手順と同様、血管の太さに基づくルールであってよい。
【0077】
一次血管を操作者が指定する場合、作成条件設定部12が入力を受け付ける指定点の数は、複数であってよい。複数の指定点が入力された場合、作成条件設定部13は、入力された全ての指定点が含まれるように、起始点SPから末端までの血管経路を一次血管と設定する。したがって、複数の指定点が、互いに異なる血管経路上に存在する場合は、複数の一次血管が得られることになる。例えば肝臓は、8つの亜区域に区分されており、それらの幾つかの亜区域に血液を供給する主要な血管を特定したい場合などは、このように複数の一次血管を設定することもある。
【0078】
なお、作成条件設定部13で設定された一次血管は、血管画像作成部14において表示のための適宜処理が施され、一次血管候補として、表示デバイス3に既に表示されている血管画像の他の血管と視覚的に区別できる方法で表示させることもできる。視覚的に区別できる方法とは、例えば、一次血管候補を他の血管と異なる色で表示する方法や、一次血管候補を点滅表示させる方法などが挙げられる。ここで、一次血管候補として表示された血管が、操作者が意図する血管経路と異なる場合は、操作者による指定点の追加、削除および/または位置変更といった修正がさらに受け付けられ、作成条件設定部13は、修正された指定点に基づいて再び一次血管を設定する。以上の処理を必要に応じて繰り返すことで、操作者の意図した血管経路を有する一次血管を設定することができる。
【0079】
一次血管が設定された後、作成条件設定部13は、他の作成条件を受け付けることができる。例えば、分岐次数の入力が受け付けられれば、作成条件設定部13は、入力された分岐次数を作成条件の1つとして設定し、血管画像作成部14は、決定した一次血管および入力された分岐次数までの血管経路を用いて血管画像を作成する。
【0080】
(付記)
以上、本発明について説明したが、本明細書は以下に記載された発明を開示する。ただし、本明細書の開示事項は以下の発明に限定されない。
【0081】
[A1] 医用画像データを取得する画像データ取得部と、
取得した前記医用画像データから血管経路を検出する血管経路検出部と、
前記血管経路検出部で検出された血管経路から血管画像を作成する血管画像作成部と、
血管画像の作成条件の入力を受け付け、受け付けた作成条件を設定する作成条件設定部と、
を有し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成するように構成されている医用画像処理装置。
【0082】
[A2] 前記血管経路検出部は、血管が分岐した分岐点における分岐次数が特定された前記血管経路を検出し、
前記作成条件設定部は、前記作成条件の項目として前記血管の分岐次数の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で設定された分岐次数までの前記血管経路を用いて前記血管画像を作成する、
[A1]に記載の医用画像処理装置。
【0083】
[A3] 前記血管経路検出部は、前記分岐点の下流側で、前記分岐点から延びる複数の血管の直径を求め、求めた複数の直径を比較し、最も直径の大きい血管を除く1つまたは複数の血管を、前記分岐点の上流側の血管から分岐した分岐血管と判断することによって前記分岐次数を特定するように構成されている[A2]に記載の医用画像処理装置。
【0084】
[A4] 前記血管経路検出部は、取得した前記医用画像データから血管の中心線および輪郭を抽出し、抽出した前記中心線および前記輪郭から前記血管の直径を求めるように構成されている[A3]に記載の医用画像処理装置。
【0085】
[A5] 前記血管経路検出部は、入力された前記分岐次数までの前記血管経路を検出する[A2]から[A4]のいずれかに記載の医用画像処理装置。
【0086】
[A6] 前記血管経路検出部で検出された前記血管経路が疾患部を含んでおり、
前記作成条件設定部は、前記作成条件の項目として前記疾患部との関連度の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定し、
前記血管画像作成部は、前記作成条件設定部で設定された作成条件で、前記血管経路を用いて前記血管画像を作成する、
[A1]に記載の医用画像処理装置。
【0087】
[A7] 前記血管画像作成部は、前記血管画像が作成された状態で前記作成条件設定部が作成条件の一つとして「末端消去」の入力を受け付けると、作成されている前記血管画像中の血管経路のうち最も末端の分岐血管を消去した血管画像を作成する[A1]に記載の医用画像処理装置。
【0088】
[A8] 前記血管画像作成部は、前記分岐血管を段階的に消去する[A7]に記載の医用画像処理装置。
【0089】
[A9] 前記血管画像作成部は、前記分岐血管を連続的に消去する[A7]に記載の医用画像処理装置。
【0090】
[A10] 連続的な入力を受け付ける、前記分岐血管の表示/消去制御用のユーザーインターフェースをさらに有する[A9]に記載の医用画像処理装置。
【0091】
[A11] 前記血管経路は起始部と複数の末端とを有し、
前記血管経路検出部は、前記起始部から前記複数の末端へ至る全ての血管経路のうち、最も長さの長い血管経路を一次血管と定める[A1]から[A5]のいずれかに記載の医用画像処理装置。
【0092】
[A12] 前記作成条件設定部は、少なくとも一つの一次血管の指定を前記作成条件の一つとして受け付け、これによって前記一次血管を設定する[A1]から[A5]のいずれかに記載の医用画像処理装置。
【0093】
[B1] [A1]から[A12]のいずれかに記載の医用画像処理装置と、
前記医用画像データで構成された医用画像を撮像する透視撮像装置と、
を有する医用画像処理システム。
【0094】
[B2] 造影剤を注入する薬液注入装置をさらに含む[B1]に記載の医用画像処理システム。
【0095】
[C1] 画像データ取得部と、血管経路検出部と、作成条件設定部と、血管画像作成部とを有する医用画像処理装置を用いて医用画像データから血管画像を作成する医用画像処理方法であって、
前記画像データ取得部が前記医用画像データを取得するステップと、
前記血管経路検出部が、取得した前記医用画像データから血管経路を検出するステップと、
前記作成条件設定部が、血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件を設定するステップと、
前記血管画像作成部が、検出された前記血管経路から前記血管画像を作成するステップであって、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成するステップと、
を有する医用画像処理方法。
【0096】
[C2] 前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、血管が分岐した分岐点における分岐次数が特定された前記血管経路を検出することを含み、
前記作成条件を設定するステップは、前記作成条件設定部が、前記作成条件の項目として前記血管の分岐次数の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定することを含み、
前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記設定された分岐次数までの前記血管経路を用いて前記血管画像を作成することを含む、
[C1]に記載の医用画像処理方法。
【0097】
[C3] 前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、前記分岐点の下流側で、前記分岐点から延びる複数の血管の直径を求め、求めた複数の直径を比較し、最も直径の大きい血管を除く1つまたは複数の血管を、前記分岐点の上流側の血管から分岐した分岐血管と判断することによって前記分岐次数を特定することを含む、[C2]に記載の医用画像処理方法。
【0098】
[C4] 前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、取得した前記医用画像データから血管の中心線および輪郭を抽出し、抽出した前記中心線および前記輪郭から前記血管の直径を求めることを含む、[C3]に記載の医用画像処理方法。
【0099】
[C5] 前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、前記分岐次数が指定された後、指定された前記分岐次数までの前記血管経路を検出することを含む、[C2]から[C4]のいずれかに記載の医用画像処理方法。
【0100】
[C6] 前記血管経路検出部が検出した前記血管経路は疾患部を含んでおり、
前記作成条件を設定するステップは、前記作成条件設定部が、前記作成条件の項目として前記疾患部との関連度の入力を受け付けると、入力された前記項目に従って前記作成条件を設定することを含み、
前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記作成条件設定部で設定された作成条件で、前記血管経路を用いて前記血管画像を作成することを含む、
[C1]に記載の医用画像処理方法。
【0101】
[C7] 前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記血管画像が作成された状態で前記作成条件設定部が作成条件の一つとして「末端消去」の入力を受け付けると、作成されている前記血管画像中の血管経路のうち最も末端の分岐血管を消去した血管画像を作成することを含む[C1]に記載の医用画像処理方法。
【0102】
[C8] 前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記分岐血管を段階的に消去することを含む[C7]に記載の医用画像処理方法。
【0103】
[C9] 前記血管画像を作成するステップは、前記血管画像作成部が、前記分岐血管を連続的に消去することを含む[C7]に記載の医用画像処理方法。
【0104】
[C10] 前記医用画像処理装置は、連続的な入力を受け付ける、前記分岐血管の表示/消去制御用のユーザーインターフェースをさらに含み、
前記血管画像を作成するステップは、前記ユーザーインターフェースからの入力に従って、前記血管画像作成部が前記分岐血管を連続的に消去または表示することを含む[C9]に記載の医用画像処理方法。
【0105】
[C11] 前記血管経路は起始部と複数の末端とを有し、
前記血管経路を検出するステップは、前記血管経路検出部が、前記起始部から前記複数の末端へ至る全ての血管経路のうち、最も長さの長い血管経路を一次血管と定めることを含む[C1]から[C5]のいずれかに記載の医用画像処理方法。
【0106】
[C12] 前記作成条件を設定するステップは、前記作成条件設定部が、少なくとも一つの一次血管の指定を前記作成条件の一つとして受け付け、これによって前記一次血管を設定する[C1]から[C5]のいずれかに記載の医用画像処理方法。
【0107】
[D1] 医用画像データから血管画像を作成する医用画像処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータを、
前記医用画像データを取得する画像データ取得部、
取得した前記医用画像データから血管経路を検出する血管経路検出部、
血管画像の作成条件を受け付け、受け付けた作成条件を設定する作成条件設定部、および
前記血管経路検出部で検出された前記血管経路から前記血管画像を作成する血管画像作成部であって、前記作成条件設定部で前記作成条件が設定されると、設定された作成条件に従って、前記血管経路から前記血管画像を作成する血管画像作成部、
として機能させるコンピュータプログラム。
【0108】
[E1] [D1]に記載のコンピュータプログラムを記憶している、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【符号の説明】
【0109】
1 データ格納部
2 入力デバイス
3 表示デバイス
10 医用画像処理装置
11 画像データ取得部
12 血管経路検出部
13 作成条件設定部
14 血管画像作成部
100 透視撮像装置
200 薬液注入装置