(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110107
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】スクラーゼ活性の測定方法およびスクラーゼ関連疾患の診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20230802BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
G01N33/497 A
C12Q1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020104493
(22)【出願日】2020-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】稲田 睦
(72)【発明者】
【氏名】川田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】井上 奈美
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB22
2G045DA20
2G045DB01
2G045FB08
4B063QA01
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4B063QR15
4B063QR43
4B063QS28
4B063QX07
(57)【要約】
【課題】本開示の目的の1つは、従来法よりも簡便なスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法およびスクラーゼ関連疾患の診断方法を提供することである。
【解決手段】対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法であって、
13C標識スクロースを経口投与された対象から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO
2量または総CO
2量に対する
13CO
2量の割合を、スクラーゼ活性の測定値として算出することを含み;
13C標識スクロースは、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が
13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が
13C標識されていないものであり;被験試料が、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において当該割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである、方法を提供する。また、この方法を利用するスクラーゼ関連疾患の診断方法を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法であって、
13C標識スクロースを経口投与された対象から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を、スクラーゼ活性の測定値として算出することを含み、
13C標識スクロースは、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていないものであり、
被験試料が、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において当該割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである、方法。
【請求項2】
被験試料が、健康な集団において当該割合が最大になる時点に基づいて決定された時点で採取されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験試料が、13C標識スクロースの投与から、健康な集団において当該割合が最大になる時点の10分後までのいずれかの時点で採取されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
被験試料が、健康な集団において当該割合が最大になる時点の近傍で採取されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
対象から複数の時点で排出された呼気を被験試料とし、各被験試料について当該割合を算出し、当該割合のピーク値をスクラーゼ活性の測定値とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
被験試料が、13C標識スクロースの投与から、投与の約20分後までのいずれかの時点で採取されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
対象が代謝性疾患に罹患しているか、罹患している疑いがある、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
代謝性疾患が、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害または薬剤性粘膜障害である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
13C標識スクロースが、フルクトース部分のすべての炭素原子が13C標識されているものである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定するための組成物。
【請求項11】
スクラーゼ関連疾患の診断方法であって、
(1)請求項1~9のいずれかに記載の方法により、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定する工程;および、
(2)工程(1)で測定されたスクラーゼ活性を指標値と比較し、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する工程、
を含む方法。
【請求項12】
指標値が、健康な集団において、請求項1~9のいずれかに記載の方法に従って測定されたスクラーゼ活性から得られる値である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
スクラーゼ関連疾患がスクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害または薬剤性粘膜障害である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
スクラーゼ関連疾患がスクラーゼ・イソマルターゼ欠損症である、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、スクラーゼ関連疾患を診断するための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象におけるスクラーゼ活性の測定方法およびスクラーゼ関連疾患の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症は、スクロースおよび/またはイソマルトースを小腸で分解して吸収することができず、砂糖や澱粉を摂取すると激しい下痢と腹部膨満をきたす先天性疾患である。スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症の原因として、スクラーゼ・イソマルターゼ遺伝子の変異が知られている。スクラーゼ・イソマルターゼ複合体は、小腸上皮の冊子縁(微絨毛)に発現する分解酵素であり、これによりスクロースはグルコースとフルクトースに、イソマルトースは2分子のグルコースに分解され、小腸上皮から吸収される。スクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性またはイソマルターゼ活性が変異によって損なわれると、それぞれスクロースまたはイソマルトースが単糖に分解されなくなる。その構造特性から、スクラーゼ活性が低下しやすく、イソマルターゼ活性は比較的保たれていることが多い。
【0003】
スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症の診断に関して、スクロース中の炭素原子が13Cで標識された13C-スクロースを被験者に摂取させ、呼気に排出される13CO2の量を測定することにより、スクラーゼ活性を評価する方法が知られている(非特許文献1)。13C-スクロースの摂取後に呼気に排出される13CO2の量はスクラーゼ活性を反映するが、被験者のグルコース代謝能によっても影響を受けるため、この方法では、13C-スクロースを用いる呼気試験とは別の日に13C-グルコースを用いて呼気試験を行い、13C-スクロースを用いる呼気試験の結果を補正する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Antone R. Opekun et al., BioMed Research International, Volume 2016, Article ID 7952891
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的の1つは、従来よりも簡便な、スクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法およびスクラーゼ関連疾患の診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フルクトース部分で13C標識されており、グルコース部分で13C標識されていない13C-スクロースを対象に経口投与し、その後採取された呼気中の13C標識されたCO2の量を測定することにより、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を従来法より簡便に測定できることを見いだした。
【0007】
従って、ある態様では、本開示は、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法であって、
13C標識スクロースを経口投与された対象から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を、スクラーゼ活性の測定値として算出することを含み、
13C標識スクロースは、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていないものであり、
被験試料が、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において当該割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである、方法を提供する。
【0008】
ある態様では、本開示は、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定するための組成物を提供する。
【0009】
ある態様では、本開示は、スクラーゼ関連疾患の診断方法であって、
(1)上記の方法により、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定する工程、および、
(2)工程(1)で測定されたスクラーゼ活性を指標値と比較し、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する工程、
を含む方法を提供する。
【0010】
ある態様では、本開示は、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、スクラーゼ関連疾患を診断するための組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によると、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を、従来の方法よりも簡便に測定することができる。このようなスクラーゼ活性の評価は、スクラーゼ関連疾患の診断に有用な情報を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)、
13C6-スクロース(
13C6-グルコース)および
13C12-スクロース(
13C6-フルクトース-
13C6-グルコース)の構造を示す。*は
13C標識された炭素原子を示す。
【
図2】
13C標識スクロースを経口投与したSprague-Dawley(SD)ラットの呼気中Δ
13C濃度を示す。
【
図3】α-グリコシダーゼ阻害剤および
13C標識スクロースを経口投与したSDラットの呼気中Δ
13C濃度を示す。
【
図4】
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)(上)または
13C6-スクロース(
13C6-グルコース)(下)を経口投与したSDラットおよびZucker Diabetic Fatty(ZDF fatty)ラットの呼気中Δ
13C濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0014】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間のすべての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0015】
スクラーゼ活性の測定方法
スクラーゼ・イソマルターゼ複合体は、スクロースをグルコースとフルクトースに分解するスクラーゼ活性と、イソマルトースを2分子のグルコースに分解するイソマルターゼ活性を有する。経口で摂取されたスクロースは、この分子のスクラーゼ活性により小腸で単糖に分解され、スクロース中の炭素原子は、最終的に二酸化炭素として呼気に排出される。従って、13Cで標識されたスクロースを摂取した後の呼気に含まれる13Cで標識された二酸化炭素の量は、スクラーゼ活性を反映する。
【0016】
対象は、ヒトであっても、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシおよびウマが例示される。
【0017】
対象は、健康であってもよく、代謝性疾患などの疾患に罹患しているか、または、罹患している疑いがあってもよい。代謝性疾患には、例えば、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害、薬剤性粘膜障害、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、脂肪肝、ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎、肝硬変等の肝疾患、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性、高血糖症、高インスリン血症、肥満、脂質異常症、高血圧等が含まれ、特にスクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害または薬剤性粘膜障害である。感染に起因する粘膜障害の原因微生物には、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス等のウイルス、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ等の細菌が含まれる。薬剤性粘膜障害には、アスピリン、インドメタシン等の非ステロイド性抗炎症薬、メトトレキサート、5-FU、ドセタキセル等の化学療法剤、シスプラチン等の重金属製剤に起因するものが含まれる。
【0018】
対象は、13C標識スクロースを投与する際に絶食状態であってもよく、非絶食状態であってもよい。13C標識スクロースを投与する際に対象を絶食状態とする場合、対象に13C標識スクロースを投与する少なくとも2時間以上前、好ましくは少なくとも4時間以上前、例えば試験の前日から、絶食であることが例示され、水分は摂取してもよい。13C標識スクロースを投与する際に対象を非絶食状態とする場合は、通常食を通常通り摂取させればよい。
【0019】
本開示において、
13C標識スクロースは、それから糖代謝経路を経て生成されるCO
2の少なくとも一部が
13Cで標識されるように、フルクトース部分で
13C標識されており、グルコース部分で
13C標識されていないことを特徴とする。スクロースの構造を下記に示し、フルクトース部分の炭素原子を*で示す。本開示における
13C標識スクロースは、*で示す炭素原子の少なくとも1つが
13Cで標識されたものであり、複数またはすべての*で示す炭素原子が
13Cで標識されていてもよい。
【化1】
【0020】
スクロースを13Cで標識する方法は、特に制限されず、通常使用される方法が広く採用される(佐々木、「5.1安定同位体の臨床診断への応用」:化学の領域107「安定同位体の医・薬学、生物学への応用」pp.149-163(1975)南江堂;梶原、RADIOISOTOPES,41,45-48(1992)等)。市販の13C標識スクロースを使用してもよい。
【0021】
13C標識スクロースは経口投与用の組成物の形態であり得る。組成物は、投与後、13C標識スクロースが体内に吸収され、代謝され、13C標識CO2が呼気に排出されるものであればよく、それを満たすものである限り、その形態、13C標識スクロース以外の成分、各成分の配合割合、組成物の調製方法等は特に制限されない。
【0022】
例えば、組成物の形態は、液剤(シロップ剤を含む)、懸濁剤および乳剤などの液状形態;錠剤(裸剤、被覆剤を含む)、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤および顆粒剤などの固形形態など、任意の経口投与形態を採用することができる。組成物は、製剤形態を有するものに限らず、上記13C標識スクロースを含み、スクロース活性の測定を妨げないものであればよく、上記13C標識スクロースを任意の食品素材と組み合わせて、固形食、流動食または液状食の形態としたものであってもよい。
【0023】
組成物は、実質的に13C標識スクロースのみからなるものであってもよく、各製剤形態(投与形態)に応じて、通常当業界において用いられる薬学上許容される任意の担体および添加物を配合した形態であってもよい。
【0024】
この場合、配合する13C標識スクロースの量は、特に制限されることなく、例えば、組成物100重量%中1~99重量%を挙げることができ、かかる範囲で適宜調整することができる。例えば、組成物に配合される13C標識スクロースの量は、1回あたりの投与量が適当な範囲になるように、適宜調節し得る。
【0025】
組成物を、例えば錠剤、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤、および顆粒剤などの固形形態に成形するに際しては、各種形態に応じて各種の担体または添加剤を用いることができる。
【0026】
担体または添加剤として、例えば乳糖、白糖、蔗糖、デキストリン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、リン酸二水素カルシウム、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、プルラン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、蔗糖、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポピドン等の崩壊剤;白糖、蔗糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;ポリソルベート80、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、蔗糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、ショ糖脂肪酸類、硬化油等の滑沢剤;クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のpH調整剤;酸化鉄、βカロテン、酸化チタン、食用色素、銅クロロフィル、リボフラビン等の着色剤;およびアスコルビン酸、塩化ナトリウム、各種甘味料等の矯味剤等を使用できる。
【0027】
錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。またカプセル剤は常法に従い、13C標識スクロースを上記で例示した各種の担体と混合して硬化ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0028】
対象に投与される13C標識スクロースの量は、適宜調節し得る。例えば、0.1~1000mg/kg体重、0.2~500mg/kg体重、1~100mg/kg体重または5~50mg/kg体重、例えば10mg/kg体重の量で投与し得る。例えば、対象がヒト(成人)である場合、5mg/体~50g/体、10mg/体~25g/体、50mg/体~5g/体または250mg/体~2.5g/体、例えば500mg/体の量で投与し得る。
【0029】
下記実施例により裏付けられる通り、グルコース代謝能が異なる集団において、13C標識スクロースを投与した後、呼気に含まれる13CO2量は、13C標識スクロース投与の直後から一定期間は同等であり、その後、グルコース代謝能よって異なる速度で減少する。従って、当該一定期間中に採取した被験試料を用いることにより、対象のグルコース代謝能に拘わらず、スクラーゼ活性を測定することができる。
【0030】
本開示において、被験試料は、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである。健康な集団とは、代謝性疾患の兆候および/または症状が認められない集団、特に、スクラーゼ活性およびグルコース代謝能が正常であることが判っている集団を意味する。グルコース代謝能が低下した集団とは、スクラーゼ活性が正常であり、グルコース代謝能が低下していることが判っている集団を意味する。例えば、スクラーゼ活性が正常であることは、スクラーゼ・イソマルターゼ遺伝子に変異がないことにより確認し得る。グルコース代謝能は、既知の方法のいずれを使用して判定してもよく、例えば、血糖値が正常な範囲内にあれば、グルコース代謝能が正常であると判定し得、血糖値が正常な範囲内になければ、グルコース代謝能が低下していると判定し得る。
【0031】
当該期間は、健康な集団およびグルコース代謝能が低下した集団に13C標識スクロースを経口投与し、経時的に呼気を採取し、各時点で呼気中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を算出し、集団間で当該割合が同等である期間を求めることにより、決定し得る。この期間は、対象の試験と並行して決定してもよく、予め定めてもよい。集団間で当該割合が「同等である」とは、健康な集団における当該割合の平均値に対して、グルコース代謝能が低下した集団における当該割合の平均値が、±約20%以内、好ましくは±約10%以内、特に好ましくは±約5%以内にあることを意味する。例えば、被験試料は、13C標識スクロースの投与から、投与の約20分後までのいずれかの時点で採取される。例えば、被験試料は、13C標識スクロース投与の約5分後から約30分後までのいずれかの時点、または、約10分後から約25分後までのいずれかの時点、例えば約20分後に採取される。
【0032】
ある実施態様では、グルコース代謝能が異なる集団において、13C標識スクロースを投与した後、呼気に含まれる13CO2量は、13C標識スクロース投与の直後から、13CO2量が最大に達するまでは同等である。従って、13C標識スクロースの投与から、呼気に含まれる13CO2量が最大に達するまで、または、13CO2量が最大に達する時点の近傍で採取した被験試料を用い得る。例えば、被験試料を採取する時点は、健康な集団において、被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合が最大になる時点に基づいて決定される。当該割合が最大になる時点は、健康な集団に13C標識スクロースを経口投与し、経時的に呼気を採取し、各時点で呼気中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を算出し、当該割合が最大に達する時点を求めることにより、決定し得る。例えば、健康な集団において13C標識スクロースの経口投与から当該割合が最大に達する時点までの時間の平均値を求め、被験試料を採取する時点を決定し得る。
【0033】
例えば、被験試料は、13C標識スクロースの投与から、健康な集団において当該割合が最大になる時点の10分後までのいずれかの時点で採取される。例えば、被験試料は、13C標識スクロースの投与から、健康な集団において当該割合が最大になる時点までのいずれかの時点で採取される。例えば、被験試料は、健康な集団において当該割合が最大になる時点で、または、その時点の近傍、例えば、その時点の約10分前から約10分後までの間に、その時点の約5分前から約5分後までの間に、もしくは、その時点の約3分前から約3分後までの間に、採取される。あるいは、対象から複数の被験試料を経時的に採取し、各被験試料について当該割合を算出し、当該割合のピーク値を対象のスクラーゼ活性の測定値としてもよい。
【0034】
被験試料、即ち、対象から排出された呼気は、従来公知の呼気試験の方法に基づいて採取し得る。呼気試料中に含まれる13CO2、非標識CO2、総CO2の測定、分析は従来公知の手順に基づいて行えばよく、当業者に公知である。例えば、13CO2の測定、分析は、通常、液体シンチレーションカウンター法、質量分析法、赤外分光分析法、発光分析法、磁気共鳴スペクトル法等の一般に使用される分析手法を用いて行うことができる。好ましくは、赤外分光分析法または質量分析法を用いる。
【0035】
被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を算出する手順は、従来公知の手順に従えばよく、例えば以下のように説明される(「13C-呼気試験の実際 基礎と実践的応用 第8項:13C-呼気試験データ解析法」、松林恒夫、松山渉、13C医学応用研究会、pp.102-111参照)。
【0036】
(1)δ
13C値(‰)
同位体の存在比を表す場合、同一元素の中で最も組成比の高い元素を分母にした同位体比(R)を用いる。従って、炭素13(
13C)のR値は、炭素12(
12C)を分母とした次式で表される。
【数1】
【0037】
Rは非常に小さい数値であるため、直接測定することは困難である。より正確に定量するため、質量分析計を用いる場合には、常に標準物質との比較が行われ、測定結果は、次式で定義されるδ値で表される。
【数2】
標準ガスとして、石灰石由来の炭酸ガス(PDB)を使用する場合、R
STDは、R
PDB=0.0112372である。
【0038】
(2)Δ
13C値(‰)
Δ
13C値(‰)は、下式で示すように、試薬投与前のδ
13C値(すなわち天然に存在する
13Cのδ値)をバックグラウンドとして、これを、試薬投与後のδ
13C値から差し引いた値(Δ
13C)を意味する。
【数3】
【0039】
(3)呼気中の
13C濃度(%
13C:atom%)
呼気中の
13C濃度(%
13C:atom%)は下式で定義される。
【数4】
【0040】
前記(1)で定義した相対値δ
13C値を、一般的な濃度の概念である総炭素中の
13C含量(%)の形に変換するには、下記の方法を用いることができる。
まず、上記式の右辺の分母子を
12Cで割り、(式1)に基づいてRに変換すると、下記の通りになる。
【数5】
【0041】
このRに、(式2)で求めたR
SAMを代入して整理すると、次式となり、δ
13C値を用いて
13C濃度(%
13C)を表すことができる。
【数6】
【0042】
(4)
13C濃度の変化量(Δ%
13C)
呼気中の
13C濃度(%
13C)の変化量(Δ%
13C)は、次式で定義されるように、試薬投与t時間後の
13C濃度〔(%
13C)
t〕から試薬投与前0時間の
13C濃度〔(%
13C)
0〕を差し引いて求められる。
【数7】
【0043】
(5)δ
13C値(‰)と
13C濃度変化量(Δ%
13C)との関係
13Cの天然存在比(R)は約0.011であり、標識試薬を投与した場合でも呼気中への増加量はわずかに+0.001~0.002程度である。そこで、天然存在比R→0とみなすことができ、%
13CをRで表した(式4)は、次式で近似することができる。
【数8】
【0044】
この近似式を用いて、まずδ
13Cの定義である(式2)よりR
SAMを求めて上記式のRに代入して整理すると、
13C濃度を求める近似(式7)が得られる。
【数9】
【0045】
これを(式6)に代入すると、下式(式8)に示すように、Δ
13CからΔ%
13Cを算出することができる。
【数10】
【0046】
本開示の方法では、採取した呼気に含まれる二酸化炭素の存在比(非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合)を、下記の方法に従って13C濃度の変化量(Δ%13C)として算出し得る。
【0047】
具体的には、下式に従って、対象に
13C標識スクロース投与した後の任意の時点tに採取された呼気に含まれる総炭素中の
13C濃度(呼気中の
13C濃度、
13C濃度atom%、(%
13C)
t)を求める。同様に、
13C標識スクロースの対象への投与前に予め採取された呼気、好ましくは投与前0時間に採取された呼気に含まれる総炭素中の
13C濃度(呼気中の
13C濃度、
13C濃度atom%、(%
13C)
0)を求める。更に、上記式6に従って、(%
13C)
tから(%
13C)
0を差し引いて、
13C濃度の変化量(Δ%
13C(atom%))を求める。
【数11】
【0048】
なお、必要に応じて前記13C濃度の変化量(Δ%13C)は、上記式5および式3に基づいて、Δ13C(‰)(δ13C値変化量(‰)またはDOB(‰))に換算してもよい。
【0049】
また、呼気に含まれる非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合は、Δ%13CまたはΔ13C(‰)の経時的変化を示すグラフにおける曲線下面積(Area under the curve;AUCt)として算出してもよい。曲線下面積の算出は、従来公知の算出方法に従って行えばよく、当業者であれば容易に理解できる。例えば、縦軸をΔ%13CまたはΔ13C(‰)とし、横軸を13C標識グルコース投与後の経過時間とした、Δ%13CまたはΔ13C(‰)の経時的変化を示すグラフにおいて、その曲線下面積を算出する。例えば、縦軸をΔ%13CまたはΔ13C(‰)とし、13C標識スクロースの投与からt時間後までの曲線下面積を、AUCt-0と表すことができる。また、縦軸をΔ%13CまたはΔ13C(‰)とし、13C標識スクロース投与のt1時間後からt2時間後までの曲線下面積を、AUCt2-t1と表すことができる。
【0050】
かくして算出された被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定値とし得る。
【0051】
ある態様では、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法であって、
(1)フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを、対象に経口投与する工程、
(2)対象から排出された呼気を採取し、被験試料とする工程、ここで、被験試料は、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において、被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである;および、
(3)被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を、スクラーゼ活性の測定値として算出する工程、
を含む方法が提供される。
【0052】
ある態様では、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定するための組成物が提供される。
ある態様では、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定するための、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースが提供される。
ある態様では、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定するための組成物を製造するための、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースの使用が提供される。
【0053】
スクラーゼ関連疾患の診断方法
ある態様では、上記のスクラーゼ活性の測定方法を利用して、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する方法が提供される。当該方法は、
(1)上記の方法により、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定する工程;および、
(2)工程(1)で測定されたスクラーゼ活性を指標値と比較し、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する工程、
を含む。当該方法を、スクラーゼ関連疾患の診断を補助する方法とすることもできる。
【0054】
「スクラーゼ関連疾患」は、スクラーゼ活性の欠損または低下に起因する疾患を意味する。スクラーゼ関連疾患の例には、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害および薬剤性粘膜障害が含まれる。粘膜障害の詳細は上記の通りである。
【0055】
「スクラーゼ関連疾患の診断」には、対象がスクラーゼ関連疾患に羅患しているか否かを判定すること、対象におけるスクラーゼ関連疾患の悪化または改善を判定すること、対象におけるスクラーゼ関連疾患の治療の効果を判定すること、あるいは、対象のスクラーゼ関連疾患の重症度を判定することが含まれる。
【0056】
工程(1)は、上記のスクラーゼ活性の測定方法に準じて実施し得る。工程(2)では、工程(1)で算出したスクラーゼ活性を指標値と比較し、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する。指標値は、健康な集団について、対象と同等の条件下で工程(1)を実施し、測定されたスクラーゼ活性から得られる値であり得る。例えば、健康な集団において測定されたスクラーゼ活性の平均値を求め、指標値を決定し得る。指標値は、対象におけるスクラーゼ活性(被験値)の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に、健康な集団について測定したスクラーゼ活性に基づく値であってもよく、予め定めた値であってもよい。被験値が指標値よりも低い場合に、対象がスクラーゼ関連疾患に罹患していると診断し得、指標値と同等であるかそれよりも高い場合に、対象がスクラーゼ関連疾患に罹患していないと診断し得る。また、指標値に対する被験値の高低の程度に基づいて、スクラーゼ関連疾患の重症度をさらに知ることができる。
【0057】
あるいは、指標値は、対象において以前に同等の条件下で工程(1)に従って測定されたスクラーゼ活性であってもよい。この場合、被験値が指標値よりも低い場合に、対象のスクラーゼ関連疾患が悪化したと判定し得、指標値よりも高い場合に、対象のスクラーゼ関連疾患が改善されたと判定し得る。
【0058】
ある態様では、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する方法であって、
(1)フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを、対象に経口投与する工程;
(2)対象から排出された呼気を採取し、被験試料とする工程、ここで、被験試料は、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において、被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである;
(3)被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を、スクラーゼ活性の測定値として算出する工程;および、
(4)工程(3)で測定されたスクラーゼ活性を指標値と比較し、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する工程、
を含む方法が提供される。
【0059】
ある態様では、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、対象のスクラーゼ関連疾患を診断するための組成物が提供される。
ある態様では、対象のスクラーゼ関連疾患を診断するための、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースが提供される。
ある態様では、対象のスクラーゼ関連疾患を診断するための組成物を製造するための、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースの使用が提供される。
【0060】
例えば、本開示は下記の実施態様を提供する。
[1]対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性の測定方法であって、
13C標識スクロースを経口投与された対象から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO2量または総CO2量に対する13CO2量の割合を、スクラーゼ活性の測定値として算出することを含み、
13C標識スクロースは、フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていないものであり、
被験試料が、健康な集団とグルコース代謝能が低下した集団において当該割合が同等である期間に基づいて決定された時点で採取されたものである、方法。
[2]被験試料が、健康な集団において当該割合が最大になる時点に基づいて決定された時点で採取されたものである、第1項に記載の方法。
[3]被験試料が、13C標識スクロースの投与から、健康な集団において当該割合が最大になる時点の10分後までのいずれかの時点で採取されたものである、第1項または第2項に記載の方法。
[4]被験試料が、13C標識スクロースの投与から、健康な集団において当該割合が最大になる時点までの間のいずれかの時点で採取されたものである、第1項~第3項のいずれかに記載の方法。
[5]被験試料が、健康な集団において当該割合が最大になる時点の近傍で採取されたものである、第1項または第2項に記載の方法。
[6]被験試料が、健康な集団において当該割合が最大になる時点で採取されたものである、第1項~第5項のいずれかに記載の方法。
[7]対象から複数の時点で排出された呼気を被験試料とし、各被験試料について当該割合を算出し、当該割合のピーク値をスクラーゼ活性の測定値とする、第1項または第2項に記載の方法。
[8]被験試料が、13C標識スクロースの投与から、投与の約20分後までのいずれかの時点で採取されたものである、第1項または第2項に記載の方法。
【0061】
[9]対象が絶食状態である、第1項~第8項のいずれかに記載の方法。
[10]対象が非絶食状態である、第1項~第8項のいずれかに記載の方法。
[11]対象が代謝性疾患に罹患しているか、罹患している疑いがある、第1項~第10項のいずれかに記載の方法。
[12]代謝性疾患が、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害、薬剤性粘膜障害、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、脂肪肝、ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎、肝疾患、糖尿病、境界型糖尿病、インスリン抵抗性、高血糖症、高インスリン血症、肥満、脂質異常症または高血圧である、第11項に記載の方法。
[13]代謝性疾患が、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害または薬剤性粘膜障害である、第11項または第12項に記載の方法。
[14]対象がヒトである、第1項~第13項のいずれかに記載の方法。
[15]13C標識スクロースが、フルクトース部分のすべての炭素原子が13C標識されているものである、第1項~第14項のいずれかに記載の方法。
[16]フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定するための組成物。
[17]13C標識スクロースが、フルクトース部分のすべての炭素原子が13C標識されているものである、第16項に記載の組成物。
【0062】
[18]スクラーゼ関連疾患の診断方法であって、
(1)第1項~第15項のいずれかに記載の方法により、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を測定する工程、および、
(2)工程(1)で測定されたスクラーゼ活性を指標値と比較し、対象のスクラーゼ関連疾患を診断する工程、
を含む方法。
[19]指標値が、健康な集団において、第1項~第15項のいずれかに記載の方法に従って測定されたスクラーゼ活性から得られる値である、第18項に記載の方法。
[20]被験値が指標値よりも低い場合に、対象がスクラーゼ関連疾患に罹患していると診断し、指標値と同等であるかそれよりも高い場合に、対象がスクラーゼ関連疾患に罹患していないと診断する、第18項または第19項に記載の方法。
[21]スクラーゼ関連疾患が、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症、過敏性腸症候群、感染に起因する粘膜障害または薬剤性粘膜障害である、第18項~第20項のいずれかに記載の方法。
[22]スクラーゼ関連疾患がスクラーゼ・イソマルターゼ欠損症である、第18項~第21項のいずれかに記載の方法。
[23]フルクトース部分の少なくとも1つの炭素原子が13C標識されており、グルコース部分の炭素原子が13C標識されていない13C標識スクロースを含む、スクラーゼ関連疾患を診断するための組成物。
[24]13C標識スクロースが、フルクトース部分のすべての炭素原子が13C標識されているものである、第23項に記載の組成物。
【0063】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例0064】
13
C標識スクロース
図1に示す3種類の
13C標識スクロースを実施例で使用した。
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)は、スクロースのフルクトース部分の炭素原子が
13Cで標識されており、
13C6-スクロース(
13C6-グルコース)は、スクロースのグルコース部分の炭素原子が
13Cで標識されており、
13C12-スクロース(
13C6-フルクトース-
13C6-グルコース)は、すべての炭素原子が
13Cで標識されている。これらはすべて Cambridge Isotope Laboratories, Inc.から購入した。
【0065】
実施例1:
13C6-スクロース(13C6-フルクトース)、13C6-スクロース(13C6-グルコース)および13C12-スクロース(13C6-フルクトース-13C6-グルコース)10mg/4mL/kgを、前日より絶食した Sprague-Dawley(SD)ラット(健常モデル、n=6)に経口投与し呼気を採取した。Gas Chromatography Mass Spectrometry(GC/MS)を用いて呼気中Δ13Cを測定した。
【0066】
図2に呼気中Δ
13C濃度を示す。
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)、
13C6-スクロース(
13C6-グルコース)および
13C12-スクロース(
13C6-フルクトース-
13C6-グルコース)のTmax/Cmaxは、それぞれ、20分/88.4‰、60分/68.5‰および40分/118.4‰であった。
13C6-スクロース(
13C6-グルコース)および
13C12-スクロース(
13C6-フルクトース-
13C6-グルコース)に比べ、
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)のTmaxが早いことが示された。
【0067】
実施例2:
前日より絶食したSDラット(n=6)にα-グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース(10mg/4mL/kg)を経口ゾンデを用い経口投与した。30分後に13C12-スクロース(13C6-フルクトース-13C6-グルコース)10mg/4mL/kgを経口投与し呼気を採取した。なお、対照(Control)群(n=6)はアカルボースの代わりに生理食塩水を4mL/kg経口投与した。GC/MSを用いて呼気中Δ13Cを測定した。
【0068】
図3に呼気中Δ
13C濃度を示す。α-グリコシダーゼ阻害剤を前処理することで、
13CO
2は呼気に排出されなくなった。そのことにより、
13C標識スクロースの投与後の呼気中Δ
13C濃度でスクラーゼ活性をモニターできることが確認された。
【0069】
実施例3:
13C6-スクロース(13C6-フルクトース)または13C6-スクロース(13C6-グルコース)10mg/4mL/kgを前日より絶食したSDラット(n=6)および Zucker Diabetic Fatty(ZDF fatty)ラット(糖尿病モデル、n=6)に経口投与し、呼気を採取した。GC/MSを用いて呼気中Δ13Cを測定した。
【0070】
図4に呼気中Δ
13C濃度を示す。上図は、
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)を投与した後の呼気中Δ
13C濃度を示す。SDラットのTmaxは20分、Cmaxは88.4‰、ZDF fatty ラットのTmaxは10分、Cmaxは89.4‰であり、Tmax近傍では両群間の呼気反応に大きな差は認められなかった。下図は、
13C6-スクロース(
13C6-グルコース)を投与した後の呼気中Δ
13C濃度を示す。SDラット及びZDF fatty ラットのTmaxに関しては両群ともに60分であったが、Cmaxはそれぞれ70.2‰、40.7‰で、ZDF fatty ラットの呼気反応がSDラットに比べ有意に低かった。従って、
13C6-スクロース(
13C6-フルクトース)を投与した後のTmax近傍の呼気中Δ
13C濃度は、耐糖能の影響を受けにくいことが示された。
本開示により、対象のスクラーゼ・イソマルターゼ複合体のスクラーゼ活性を、従来の方法よりも簡便に測定することができる。かくして得られるスクラーゼ活性の測定値は、スクラーゼ・イソマルターゼ欠損症などのスクラーゼ関連疾患の診断に利用できる。