(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110110
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2感染症の治療、予防または緩和用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20230802BHJP
A61K 31/7012 20060101ALI20230802BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230802BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230802BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
A61K31/12
A61K31/7012
A61P31/14
A61P37/06
A61P11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020106018
(22)【出願日】2020-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】517110874
【氏名又は名称】株式会社セラバイオファーマ
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今泉 厚
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】金井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】渡士 幸一
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA05
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB08
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206KA01
4C206KA14
4C206KA15
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA59
4C206ZB08
4C206ZB33
(57)【要約】
【課題】本発明は、SARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物を提供する。
【解決手段】クルクミン類を有効成分として含有する、SARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物、及び治療剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミン類を有効成分として含有する、SARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物。
【請求項2】
クルクミン類が、クルクミン、クルクミン誘導体、及びそれらと水溶性物質との抱合体から選ばれる1種以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記クルクミン誘導体が、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミン及びテトラヒドロクルクミンから選ばれる1種以上である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記水溶性物質が、グルクロン酸、硫酸、グルタチオン及びアミノ酸から選ばれる1種以上である請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記水溶性物質が、グルクロン酸及び硫酸から選ばれる1種以上である請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記クルクミン類がクルクミンモノグルクロニドである請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記SARS-CoV-2感染症が、サイトカインストーム症候群又は急性呼吸窮迫症候群である、請求項1~6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
非経口投与用である、請求項1~7のいずれか1項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認された、新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2のヒト細胞内侵入により発症する感染症である。2020年4月現在、感染者数(死亡者数)は世界で約250万例(約17万例)を超え、200カ国以上に広がっている。主な症状は、発熱、咳、咳以外の急性呼吸器症状・肺炎で、重症化すると、過剰な免疫反応に基づく重篤な臓器障害「サイトカインストーム症候群」や重度の呼吸不全「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」が引き起こされ死に至ることがある。
SARS-CoV-2は新興ウイルスであるため、国内外とも承認薬が存在しない。SARS-CoV-2感染症の治療のため、既承認薬である抗ウイルス薬等、例えばレムデシビル、ネルフィナビル、ファビピラビル等を転用する治療候補薬の開発がなされている。
レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウイルス薬である。このレムデシビルについて、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)は2020年4月29日、臨床試験の予備的な解析の結果として、プラセボに比べてCOVID-19からの回復までの期間を有意に短縮した等と公表している。
ネルフィナビルはHIVの治療薬として開発された抗ウイルス薬である。このネルフィナビルについて、非臨床試験の結果として、抗SARS-CoV-2活性を示すこと、ネルフィナビルと白血球減少症治療薬セファランチンの併用効果が認められることが報告されている。
ファビピラビルは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害する抗ウイルス薬である。RNAウイルスであるSARS-CoV-2にも効果を示す可能性があると期待されている。
また、SARS-CoV-2感染症が重症化したサイトカインストーム症候群や急性呼吸窮迫症候群に対する治療薬候補としては、サイトカイン・インターロイキン-6(IL-6)抑制作用を有する抗IL抗体薬や、サイトカイン受容体に結合するヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬がある。
【0003】
クルクミンは、近年、腫瘍形成阻害作用、抗酸化作用、抗炎症作用、コレステロ-ル低下作用、抗アレルギー作用(抗IL-6作用等)、脳疾患予防作用、心疾患予防治療作用等の薬理作用を有することが明らかとなり、医薬品、食品や化粧品等への利用が検討されている(特許文献1)。
またMazumdar A.らは、クルクミンのHIV阻害作用に関して報告している(非特許文献1)。
しかしながら、クルクミンの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する効果や、SARS-CoV-2感染阻害効果、ましてやクルクミンを有効成分として含む組成物によるSARS-CoV-2感染症の治療、予防または緩和効果についての知見はない。
一方、クルクミンを水溶性物質(例えばグルクロン酸、硫酸、グルタチオン及びアミノ酸等)との抱合体とし、この抱合体を有効成分とする非経口投与用医薬組成物が、水難溶性なクルクミンの吸収性を改善した結果、クルクミンが有する抗腫瘍作用などの薬理作用が十分に得られることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-95723号公報
【特許文献2】WO2018/003857号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cur.Biochem.Pharmacol.1995,49:1165-1170
【非特許文献2】Influenza Other Respi Viruses. 2017,11:457-463
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、SARS-CoV-2感染症の治療薬候補として、抗ウイルス薬レムデシビル、ネルフィナビル、及びファビピラビル等が開発されているものの、治療薬としての効果向上、治療薬の選択自由度の確保、副作用の低減化等の観点から、これらに加えて、新たなSARS-CoV-2感染症の治療薬が求められている。
すなわち本発明は、新規な、SARS-CoV-2感染症の治療用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、種々の成分のSARS-CoV-2感染阻害作用を検討したところ、クルクミン類が優れたSARS-CoV-2感染阻害効果を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明としては、以下のものが挙げられる。
[1]クルクミン類を有効成分として含有する、SARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物。
[2]クルクミン類が、クルクミン、クルクミン誘導体、及びそれらと水溶性物質との抱合体から選ばれる1種以上である上記[1]記載の組成物。
[3]前記クルクミン誘導体が、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミン及びテトラヒドロクルクミンから選ばれる1種以上である上記[2]記載の組成物。
[4]前記水溶性物質が、グルクロン酸、硫酸、グルタチオン及びアミノ酸から選ばれる1種以上である上記[2]記載の組成物。
[5]前記水溶性物質が、グルクロン酸及び硫酸から選ばれる1種以上である上記[2]記載の組成物。
[6]前記クルクミン類がクルクミンモノグルクロニドである上記[1]記載の組成物。
[7]前記SARS-CoV-2感染症が、サイトカインストーム症候群又は急性呼吸窮迫症候群である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]非経口投与用である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクルクミン類を有効成分として含むSARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物は、後記実施例に示すように、その優れた抗SARS-CoV-2活性により、副作用が低減化されたSARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和効果を得ることができる。
クルクミン類の抗ウイルス効果発現の結果として、またクルクミン類の有する抗アレルギー作用等により、SARS-CoV-2感染症の重症化によるサイトカインストーム症候群または急性呼吸窮迫症候群に対しても抑制効果が期待できる(非特許文献2)。
本発明の組成物は、その用途が限定されることなく、例えば、医薬組成物、サプリメント、機能性食品などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のSARS-CoV-2感染阻害効果の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のSARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用組成物の有効成分は、クルクミン類である。
当該クルクミン類としては、クルクミン、クルクミン誘導体、及びそれらと水溶性物質との抱合体から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0012】
クルクミンは、ウコン色素に含まれるクルクミノイドの主成分であり、下記構造式(1)で表される化合物である。
【0013】
【0014】
クルクミンの誘導体としては、ビスデメトキシクルクミン、デメトキシクルクミン及びテトラヒドロクルクミンが挙げられる。
本発明においてクルクミンは、化学合成されたクルクミンを用いてもよいし、ウコン色素として流通しているものを用いてもよい。ウコン色素としては、ショウガ科ウコン(Curcuma longa LINNE)の根茎の乾燥物を粉末にしたウコン末、該ウコン末を適当な溶媒(例えば、エタノール、油脂、プロピレングリコール、ヘキサン、アセトンなど)を用いて抽出して得られる粗製クルクミン或いはオレオレジン(ターメリックオレオレジン)、及び精製したクルクミンを挙げることができる。
なお、クルクミンには、互変異性体であるケト型及びエノール型のいずれも含まれる。
【0015】
本発明のクルクミン又はクルクミン誘導体と、水溶性物質との抱合体における水溶性物質としては、グルクロン酸、硫酸、グルタチオン及びアミノ酸から選ばれる1種以上が挙げられる。アミノ酸としては、生体内に存在するアミノ酸、例えば必須アミノ酸が挙げられる。
例えばクルクミンと水溶性物質との抱合体は、遊離型クルクミンの血中濃度を高い値で維持することができる。これにより、クルクミンが有する薬理作用が十分に得られる。またクルクミンと水溶性物質との抱合体はクルクミンの生体内代謝産物であることから、安全性が非常に高いので好ましい。
クルクミンと前記水溶性物質との結合モル比は、クルクミン:水溶性物質=1:1~1:3であるのが好ましく、1:1~1:2がより好ましく、1:1がさらに好ましい。
【0016】
クルクミンと前記水溶性物質の抱合形態(結合形態)は、例えば式(2)の形態である。
【0017】
【0018】
(式中、R1及びR2の少なくとも一方は前記水溶性物質の残基であり、残余は水素原子である。)
【0019】
前記式(2)中、R1及びR2の一方または両方はグルクロン酸残基又は硫酸残基が好ましく、残余は水素原子が好ましい。なかでも、R1がグルクロン酸残基でR2が水素原子であるクルクミンモノグルクロニドがより好ましい。
クルクミンと水溶性物質との抱合体は、前記特許文献2記載の方法によって製造することができる。
【0020】
本発明の組成物が対象とするSARS-CoV-2感染症としては、例えば、サイトカインストーム症候群又は急性呼吸窮迫症候群等を例示することができる。
【0021】
本発明の組成物中のクルクミン類の水溶性物質抱合体の含有量は、SARS-CoV-2感染症の治療、予防又は緩和用治療剤として用いる場合を含め、SARS-CoV-2感染症の種類、患者の性別、年齢、症状などに応じて適宜決定されるため、一概に決定することはできないが、例えば、1~100質量%が好ましく、5~100質量%がより好ましく、10~100質量%がさらに好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、治療剤の形態で用いる場合の剤形としては、特に限定されない。例えば、液状製剤として、あるいは凍結乾燥したもの用時調製した製剤として使用することもできる。また持続性剤形及び徐放性剤形であってもよい。また、製剤に通常用いられる担体、賦形剤等の添加剤を用いて調製することもできる。
本発明の治療剤の投与経路は、疾患、症状等に応じて、全身投与及び局所投与や、経口経路及び非経口経路のいずれも選択することができ、その投与方法や経路により、好適な剤形、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の形態での経口投与、又は注射剤(例えば、静注、筋注等)、坐剤、経皮剤、経鼻剤、吸入剤等の形態での非経口投与を選択できる。
【0023】
本発明による経口投与のための治療剤は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の固体製剤であり得る。このような製剤は、一つまたはそれ以上の活性物質を不活性な賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、または溶解補助剤等と混合することにより常法に従って製造される。賦形剤は、例えば、乳糖(ラクトース)、セルロース、マンニトール、ブドウ糖であり得る。滑沢剤は、例えば、ステアリン酸マグネシウムであり得る。崩壊剤は、例えば、カルボキシメチルスターチナトリウムであり得る。錠剤または丸剤は、必要により糖衣または胃溶性若しくは腸溶性コーティング剤で被膜してもよい。
【0024】
経口投与のための治療剤は、薬理的に許容されるエキス剤、乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、酒精剤、またはエリキシル剤等の液体製剤であり得る。このような製剤は、一般的に用いられる不活性な溶剤(例えば、精製水、エタノール等)を含有し、さらに可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、緩衝剤(例えば、クエン酸ナトリウム等)、安定化剤または防腐剤を含有してもよい。
【0025】
非経口投与のための治療剤は、無菌の水性若しくは非水性の液剤、懸濁剤、若しくは乳剤等の注射剤、軟膏及びローション、口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤、経鼻投与のためのエアゾール剤または坐剤であり得る。
注射剤の場合、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、関節内、皮下、皮内、筋肉内等への注射により投与できる。注射剤用の水性の溶剤は、例えば、蒸留水または生理食塩水であり得る。注射剤用の非水性の溶剤は、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、またはポリソルベート80(局方名)であり得る。このような製剤は、さらに等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖等)、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、pH調節剤(例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等)、緩衝剤、局所麻酔剤(例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等)または溶解補助剤を含有してもよい。
これらの製剤は、例えば、バクテリア保留フィルターによる濾過、殺菌剤の配合、又は放射線照射によって無菌化され得る。また、無菌の固体組成物を使用前に無菌の水又は注射用溶媒に溶解または懸濁して得られた組成物をこれらの製剤として使用することもできる。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0026】
本発明の組成物が、治療剤、予防または緩和用治療剤である場合、注射剤として投与するのが好ましい。この場合、本発明の組成物の形態は用時溶解型の粉末充填剤でもよいし、水溶液でもよい。非経口投与用組成物には、クルクミン類の水溶性物質抱合体の他、水、生理食塩水、pH調整剤、糖類、酸、アルカリ、緩衝剤、等張化剤、安定剤、無痛化剤、防腐剤等を配合することができる。
糖類としては、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール等が挙げられる。酸、アルカリとしては、水溶性無機酸、水溶性無機酸塩、水溶性有機酸、水溶性有機酸塩、アミノ酸、アミノ酸塩等が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物には、さらに他の医薬を有効成分の一部として組み合わせて含ませることができる。そのような医薬としてはSARS-CoV-2感染症の治療用の医薬;レムデシビル、ネルフィナビル、ファビビラビル、ロピナビル、リトナビル等の抗ウイルス薬、シクレソニド等のステロイド薬、クロロキン、ヒドロキシクロロキン等の抗炎症薬、ナファモスタット、カモスタット等のたんぱく分解酵素阻害薬の抗ウイルス活性を有する医薬;例えば、トシリズマブ、サリルマブ等の抗IL-6R抗体、バリシチニブ、ルキソリチニブ等のJAK阻害薬、アカラブルチニブ等のBTK阻害薬、ラブリズマブ等の抗補体抗体等の重症化したサイトカインストーム症候群や急性呼吸窮迫症候群の治療用の医薬等が挙げられる。
これら他の医薬の含有量は、SARS-CoV-2感染症の種類、患者の性別、年齢、症状などに応じて適宜決定する。SARS-CoV-2感染症の予防又は緩和用医薬組成物して用いる場合も同様である。
【実施例0028】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は下記に説明する特定の態様に限定されない。
【0029】
製造例1
(クルクミンと水溶性物質であるグルクロン酸との抱合体(クルクミンモノグルクロニド)の調製方法)
WO2018/03857号公報記載の方法に準じて、クルクミンモノグルクロニドを合成した。すなわち、アセトブロモ-α-D-グルクロン酸メチルエステル1.0g(2.52mmol)とバニリン326.0mg(2.15mmol)を原料として反応させて得られた化合物(1)(β-D-グルコピラノシドウロン酸,4-ホルミル-2-メトキシフェニル,メチルエステル,トリアセタート)491.6mg(収率49%)と、2,4-ペンタジオン3.3mL(32.07mmol)とバニリン2.2gを原料として反応させて得られた化合物(2)(5-ヒドロキシ-1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1,4-ヘキサジエン-3-オン)とを反応させて、得られた化合物(3)(クルクミンβ-D-グルコピラノシドウロン酸2,3,4-トリ-O-アセチル,メチルエステル)の脱アセチル化・精製によりクルクミンモノグルクロニド(253.1mg)を得た。
【0030】
実施例1
(クルクミン(curcumin)のSARS-CoV-2感染in vitro阻害効果)
Matsuyama, S. et al. PNAS, 117, 7001 (2020)“Enhanced isolation of SARS-CoV-2 by TMPRSS2”に従い、VeroE6/TMPRSS2細胞を用いてSARS-CoV-2感染に対するクルクミンによる阻害効果(in vitro)を確認した。VeroE6/TMPRSS2細胞は(JCRB no. JCRB1819)に保存されている。
(1)TMPRSS2過剰発現Vero6細胞株をIWAKI社製の96穴の細胞培養プレートの各ウェルに単層培養した。次いで、被験薬物として、
・本発明のクルクミン類(製造例1で得たクルクミンモノグルクロニド)の各濃度50μM、16.7μM、5.56μM、1.85μM、
・ポジティブ薬物対照群として、レムデシビル10μM(MedChemExpress社製)とネルフィナビル8μM(日本たばこ産業社製)、及び
・ウィルス対照群として、ジメチルスルホキシド 0.5%(Sigma社製)
を添加し、5%CO
2条件下、37℃で1時間培養した。培養には、Life Technologies社製のDMEM培地及びウシ胎仔血清を用いた。
(2)上記培養後の各ウェル中の細胞に、SARS-CoV-2(国立感染症研究所ウイルス第3部より入手)を感染多重度MOI=0.01で投与した。次いで洗浄し過剰のSARS-CoV-2を除去した後、上記薬物等の共存下、37℃で24時間培養した。
(3)培養終了後、各ウェルの培養液上清中のSARS-CoV-2のRNAをリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)を用いて定量し、relative viral RNA(相対的ウイルスRNA 黒抜き)とcell viability(細胞生存率 白抜き)を求めた。
なお、SARS-CoV-2無添加で同様に処理したものを正常細胞対照群とし、同様に計算した。
(4)結果を
図1に示す。(
図1中、クルクミンはCurcumin 、レムデシビルはremdesivir、ネルフィナビルはnelfinavir、ジメチルスルホキシドはDMSOと表示し、正常細胞対照群はvirus(-)と記載した。)
図1から、クルクミン50μMで、同等の細胞生存率を保ちつつ、ポジティブ薬物対照群を上回るrelative viral RNA 抑制効果を示し、クルクミンのTMPRSS2過剰発現VeroE6細胞株に対するEC
50=25.2μMと算出された。これは、ファビピラビルのEC
50=>64 μM (in vitro)よりも優れている(https://doi.org/10.1101/2020.04.14.039925.)。クルクミンのEC
50=25.2μMという濃度は、特許文献2に記載された発明のとおり、クルクミンモノグルクロニドの静脈内で十分に達成できる濃度である。したがって、本発明の組成物はSARS-CoV-2感染に対する十分な効果が得られる。