(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110161
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/80 20060101AFI20230802BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
D01F6/80 331
D01F6/60 371Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011417
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹山 直彦
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035BB03
4L035BB16
4L035BB91
4L035CC20
4L035EE07
4L035EE09
4L035EE20
4L035MG04
(57)【要約】
【課題】優れた引張強度を有し、かつ、耐光性と、耐アルカリ性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】引張強度が3.5~7.0cN/dtexであり、以下に示す測定方法で示される耐アルカリ性が95%以上であり、且つ、JIS L 0843(光源:キセノン)における耐光性が4級以上であることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
(耐アルカリ性の測定方法)
繊維を75℃の水酸化ナトリウム10質量%水溶液中に浸漬、6時間静置したのち、流水で十分に水洗、乾燥する。浸漬処理前の引張強度(F0とする)と、浸漬処理後の引張強度(F1とする)を測定し、以下の式により耐アルカリ性を求める。
耐アルカリ性=(F1/F0)×100(%)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が3.5~7.0cN/dtexであり、以下に示す測定方法で示される耐アルカリ性が95%以上であり、且つ、JIS L 0843(光源:キセノン)における耐光性が4級以上であることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
(耐アルカリ性の測定方法)
繊維を75℃の水酸化ナトリウム10質量%水溶液中に浸漬、6時間静置したのち、流水で十分に水洗、乾燥する。浸漬処理前の引張強度(F0とする)と、浸漬処理後の引張強度(F1とする)を測定し、以下の式により耐アルカリ性を求める。
耐アルカリ性=(F1/F0)×100(%)
【請求項2】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、繊維の残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下となるように乾燥したのち、繊維表面温度が、100~350℃に加熱された状態で、不活性ガス雰囲気で波長250~400nmの紫外線を含む光を紫外線の照射強度が100~150mW/cm2で、20秒以上照射する工程を含むことを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた引張強度を有しつつ、耐光性と、耐アルカリ性が可及的に改善されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性及び難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸等の方法により繊維となし得ることもよく知られている。
【0003】
これら全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(「メタアラミド」と称されることもある)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品等の産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣等の防災安全衣料用途等に用いられている。
【0004】
そして、特に消火活動時に着用する消防服などの防護衣料においては耐薬品性の向上が求められている。つまり、酸アルカリ消火器や強化液消火器は、強アルカリ性の薬剤が用いられており、使用時に直接接触することは少ないが、消火作業時に飛沫などに暴露され防護服の劣化が進行することが考えられることから、防護衣料において難燃性・耐熱性だけでなく耐薬品性として耐アルカリ性も重要な物性となる。
【0005】
しかし、従来メタ型全芳香族ポリアミドにおける耐薬品性の改善としては、耐酸性に着目した検討がなされており、その手段としては、酸化性雰囲気下で高温、長時間処理による架橋(特許文献1参照)、ハロゲン化物、イオウ等による高温気相処理による架橋(特許文献2、3、4参照)、リン酸等の鉱酸の水溶液に浸漬した後、熱処理して架橋する方法(特許文献5参照)などがある。
【0006】
これらの手段は、主に分子鎖を架橋することで耐薬品性を改善しており、耐酸性以外に耐アルカリ性も改善されているものと考えられるが、これらの方法では耐薬品性は向上するものの、繊維の初期強度が低下するため実用に耐えないという問題があった。そこで、特定のフェノール樹脂を混合する方法が提案されている(特許文献6参照)。この方法は、芳香族ポリアミドと混合されたフェノール樹脂との間で一部架橋反応が進行するために耐薬品性が向上していると推定されているが、他に難燃剤を固定化するなどの目的で反応性の高いものが用いられることが多く、安定した性能を得ることが困難であった。
【0007】
一方、耐アルカリ性については、高温の亜硫酸ガス等の硫黄化合物蒸気下で繊維を処理し、芳香族ポリアミド中に硫黄を導入させることで耐アルカリ性を向上させる方法(特許文献7参照)が提案されている。しかしながら、この方法であっても依然として耐アルカリ性が不十分であり、さらなる改善が所望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭46-419号公報
【特許文献2】特公昭47-5433号公報
【特許文献3】特公昭47-5434号公報
【特許文献4】特公昭47-5436号公報
【特許文献5】特開昭50-62272号公報
【特許文献6】特開平4-23864号公報
【特許文献7】特開平1-95135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、優れた引張強度を有し、かつ、耐光性と、耐アルカリ性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、特定の条件下で繊維に紫外線を含む光を照射することにより、従来のメタ型全芳香族ポリアミド繊維対比引張強度を低下させることなく、耐光性と、耐アルカリ性に優れた繊維を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、
1.引張強度が3.5~7.0cN/dtexであり、以下に示す測定方法で示される耐アルカリ性が95%以上であり、且つ、JIS L 0843(光源:キセノン)における耐光性が4級以上であることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維、
(耐アルカリ性の測定方法)
繊維を75℃の水酸化ナトリウム10質量%水溶液中に浸漬、6時間静置したのち、流水で十分に水洗、乾燥する。浸漬処理前の引張強度(F0とする)と、浸漬処理後の引張強度(F1とする)を測定し、以下の式により耐アルカリ性を求める。
耐アルカリ性=(F1/F0)×100(%)、
及び、
2.メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、繊維の残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下となるように乾燥したのち、繊維表面温度が、100~350℃に加熱された状態で、不活性ガス雰囲気で波長250~400nmの紫外線を含む光を紫外線の照射強度が100~150mW/cm2で、20秒以上照射する工程を含むことを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた引張強度を有し、かつ、耐光性と、耐アルカリ性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明におけるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとを原料として、例えば溶液重合や界面重合させることにより製造されるポリアミドであるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばパラ型等の他の共重合成分を共重合したものであってもよい。
【0014】
上記メタ型芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼン等を使用することができる。なかでも、メタフェニレンジアミン又はメタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する上記の混合ジアミンが好ましい。
【0015】
また、上記メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライドを使用することができる。なかでも、イソフタル酸クロライド又はイソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する上記の混合カルボン酸ハライドが好ましい。
【0016】
上記のジアミンとジカルボン酸ハライド以外で使用し得る共重合成分としては、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、一方、芳香族ジカルボン酸ハライドとして、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
【0017】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいので、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下が好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、全繰返し単位の80モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位からなるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
かようなメタ型全芳香族ポリアミドの重合度は、30℃において97質量%濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)が1.3~3.0の範囲が適当である。
【0018】
次にここで得られたメタ型全芳香族ポリアミドを溶解する溶媒に溶解して紡糸ドープを調整するが、重合後メタ型全芳香族ポリアミドを単離せずそのまま紡糸ドープとすることも可能である。ここで用いる溶媒としてアミド系溶媒を一般的に用いることができ、主なアミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと称する場合がある)、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称する場合がある)、ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと称する場合がある)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0019】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0020】
本発明においては、市場が要求する明るい色の繊維を得るために、この紡糸ドープに、有機顔料をポリマー成分あたり0.1~2.0質量%となるよう添加して着色することができるが、所望の濃度の着色とするためには顔料の種類によって添加量を調整する必要がある。ここで使用される有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系等の顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
次に、上記のとおり顔料分散体溶液と連続的に混合されて作成された紡糸ドープを凝固液中へ紡出し凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500~30000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸ドープの温度は、10~90℃の範囲が適当である。
【0022】
本発明の繊維を得るために用いる凝固浴の例としては、無機塩を含まないアミド系溶媒の濃度45~60質量%の水溶液を、浴液の温度10~35℃の範囲で用いる。アミド系溶媒の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、最終繊維に溶媒が残存することとなる。また、アミド系溶媒の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このため、繊維成形加工時に単糸が切断するなどの不具合が多く発生する。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1~30秒の範囲が適当である。
【0023】
次に凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知の浴液を採用することができる。
【0024】
本発明の繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5~5.0倍の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは3.7~4.5倍の範囲とする。本発明の繊維の製造においては、可塑延伸浴中にて特定倍率の範囲で可塑延伸することにより、凝固糸中からの脱溶剤を促進することができる。
【0025】
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、凝固糸中からの脱溶剤が不十分となる場合がある。また、引張強度が不十分となり、紡績工程等の加工工程における取り扱いが困難となる場合がある。一方で、延伸倍率が5.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、工程安定性が悪くなることがある。
可塑延伸浴の温度は、10~90℃の範囲が好ましい。好ましくは温度20~90℃の範囲にあると、工程安定性がよい。
【0026】
次に、繊維中に残留している溶剤を洗浄する。この工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0027】
洗浄の温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば、特に限定されるものではない。ただし、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
【0028】
繊維中に溶媒が残っている場合、該繊維の耐アルカリ性や耐光性を低下させる上に、該繊維を用いた製品の加工、および当該繊維を用いて形成された製品の使用における難燃性や環境安全性においても好ましくない。このため、本発明に用いられる繊維に含まれる溶媒量は、0.2質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以下であり、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
【0029】
次に、乾熱処理工程においては、洗浄工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法を挙げることができる。
【0030】
本発明においては、この乾熱処理工程中で、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下となるように乾燥したのち、不活性ガス雰囲気で波長250~400nmの紫外線を含む光を照射することが肝要である。照射する光の波長が250nm未満の場合は特に未照射のものと変わらず、耐アルカリ性の向上がみられなくなり、一方、照射する光の波長が400nmを越える場合においても同様に耐アルカリ性の向上がみられなくなる。照射する光の波長は260~390nmがより好ましく、270~380nmが特に好ましい。
【0031】
このときの紫外線照射強度は、100~150mW/cm2であることが必要であり、好ましくは120~145mW/cm2であり、130~140mW/cm2が特に好ましい。
また、紫外線の照射時間は、20秒以上であることが必要であり、20~45秒行うことが好ましく、より好ましくは、20秒~40秒であり、20秒~35秒が特に好ましい。
【0032】
照射強度は、一般的に強いほど効果が得られるが、150mW/cm2での照射において耐アルカリ性の向上は十分に発現されておりそれ以上の強い照射を行っても大きな効果が期待されないため効率的でない。
照射時間は一般的に長いほど効果が得られるが、45秒以上の照射では効果の向上が小さくなるため効率的でない。さらに長時間の照射では、処理装置が大きくなってしまうため、不適切である。
【0033】
紫外線照射時の繊維表面温度は、100℃~350℃であることが必要であり、100~330℃がより好ましく、160~300℃が特に好ましい。
この際、繊維表面温度が100℃よりも低いと空気中の水分を吸着してしまう可能性が高く好ましくない。一方繊維表面温度が350℃よりも高いと変色等の変化がみられるようになりやすく好ましくない。
【0034】
なお、この紫外線照射は、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下となったあと、どの時点(工程)で実施してもよく、また、紫外線照射後にさらに熱処理を継続してもよい。
このように乾熱処理および紫外線照射を経ることにより、最終的に、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0035】
乾熱処理および紫外線照射が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
【0036】
かくして得られた本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、引張強度が3.5~7.0cN/dtexであり、後述の測定方法で示される耐アルカリ性が95%以上であり、且つ、JIS L 0843(光源:キセノン)における耐光性が4級以上であることが必要である。
【0037】
ここで、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度が3.5cN/dtex未満の場合は、防護衣料用途として十分な強度ではなくなり、一方、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度が7.0cN/dtexを越える場合は、繊維が固くなり防護衣料にした時の着用感が悪くなる。
【0038】
また、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の耐アルカリ性が95%未満の場合、防護衣料用途として十分な強度を維持できなくなり、防護衣料の寿命が短くなる。
さらに、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維のJIS L 0843(光源:キセノン)における耐光性が4級未満未満の場合、日光による変色が目立ち、屋外使用の多い防護衣料には不適切である。
【実施例0039】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。
なお、実施例中の「部」および「%」は特に断らない限りすべて質量基準に基づく値であり、量比は特に断らない限り質量比を示す。実施例および比較例における各物性値は下記の方法で測定した。
【0040】
<固有粘度(I.V.)>
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0041】
<繊度>
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0042】
<引張強度、引張伸度>
JIS L1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した引張破断強度、引張破断伸度の値を繊維の引張強度、引張伸度とした。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0043】
<明度L値>
得られた原綿をカード機で十分に開繊し、1.3グラム取り出して直径30mmの測定用の円形セルに詰め、分光色彩計 SD7000(日本電色工業製)を用いて測定した。
【0044】
<耐アルカリ性>
(耐アルカリ性の測定方法)
繊維を75℃の水酸化ナトリウム10質量%水溶液中に浸漬、6時間静置したのち、流水で十分に水洗、乾燥する。浸漬処理前の引張強度(F0とする)と、浸漬処理後の引張強度(F1とする)を測定し、以下の式により耐アルカリ性を求める。
耐アルカリ性=(F1/F0)×100(%)
【0045】
<耐光性>
JIS L 0843(光源:キセノン)に準じて測定を行い、ブルースケールを用いて級判定を行った。
【0046】
[実施例1]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。
【0047】
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌して、透明なポリマードープを得た。
得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.65であった。また、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
【0048】
上記で得られた透明なポリマードープをそのまま紡糸ドープとして孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量%)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出させ、紡糸した。
【0049】
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
【0050】
洗浄後、表面温度180℃の熱ローラーを用いて乾燥を行い、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下とした後、トウ温度を100℃に保ったまま不活性ガスとして窒素(N2)が充填されたゾーンにて波長250~400nmの紫外線を含む光を照射できるUV-Bランプを用いて紫外線の照射を30秒間行った。この時のUV照射強度は、100mW/cm2であった。
次いで、表面温度300℃の熱ローラーを用いて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態で紙管に巻き取った。
【0051】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.2dtex,引張強度3.9cN/dtex、破断伸度19%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。得られた原綿をよく開繊し、繊維方向を揃えて測定用のセルへ入れ、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて明度の測定を行った結果、明度Lは88であった。さらに、JIS L 0843(光源:キセノン)に準じて耐光性を測定し級判定を行った結果、4級と判断される変色しか確認されなかった。
【0052】
また、耐アルカリ性の評価として得られた繊維を75℃の水酸化ナトリウム10質量%水溶液中に浸漬、6時間静置したのち、流水で十分に水洗、乾燥した後の引張強度は、3.7cN/dtexとなり、耐アルカリ性は、95%と良好であった。よって、優れた引張強度を有し、かつ、耐光性と、耐アルカリ性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができた。
【0053】
[比較例1]
紫外線照射時に不活性ガスを用いず空気中で行った以外は、全て実施例1と同じ方法で実施し、51mmにカットされた原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.2dtex,引張強度3.4cN/dtex、破断伸度24%と防護衣料に用いるには引張強度が不足していた。明度Lは、86であった。耐光性は、3-4級と変色が実施例1より大きいものとなった。薬品処理後の引張強度は、2.9cN/dtex、耐アルカリ性は、85%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
【0054】
[比較例2]
紫外線照射を行わなかった以外は、全て実施例1と同じ方法で実施し、51mmにカットされた原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.2dtex,引張強度3.9cN/dtex、破断伸度26%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。明度Lは、91であった。耐光性3級と大きく変色が確認された。薬品処理後の引張強度は、3.4cN/dtex、耐アルカリ性は、87%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
得られたポリマー溶液に、Pigment Blue15の粉末をポリマー成分の質量に対し2.0質量%となるよう添加した後、該ポリマー溶液を十分に撹拌し顔料を均一に分散させた。これを減圧脱泡して紡糸ドープとした。
上記紡糸ドープを用い紡糸・延伸・洗浄は、実施例1と同様に実施した。
【0056】
洗浄後、表面温度180℃の熱ローラーを用いて乾燥を行い、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下とした後、トウ温度を100℃に保ったまま不活性ガスとして窒素(N2)が充填されたゾーンにて波長250~400nmの紫外線を含む光を照射できるUV-Bランプを実施例1より距離を近づけて紫外線の照射を25秒間行った。この時のUV照射強度は、120mW/cm2であった。
次いで、表面温度300℃の熱ローラーを用いて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態で紙管に巻き取った。
【0057】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。得られた原綿の繊度は、1.7dtex,引張強度3.3cN/dtex、破断伸度32%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。明度Lは40であった。耐光性は、4級と変色が少ないものであり、薬品処理後の引張強度は、3.1cN/dtex、耐アルカリ性は、94%と良好なものであった。よって、優れた引張強度を有し、かつ、耐光性と、耐アルカリ性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができた。
【0058】
[比較例3]
実施例2と同じ方法で紡糸ドープを作成し、紡糸・延伸・洗浄まで実施した。
洗浄後、表面温度180℃の熱ローラーを用いて乾燥を行い、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下とした後、トウ温度を45℃まで冷やしたのちに45℃に保ったまま不活性ガスとして窒素(N2)が充填されたゾーンにて波長250~400nmの紫外線を含む光を照射できるUV-Bランプを用いて紫外線の照射を25秒間行った。この時のUV照射強度は、120mW/cm2であった。
次いで、表面温度300℃の熱ローラーを用いて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態で紙管に巻き取った。
【0059】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。得られた原綿の繊度は、1.7dtex、引張強度3.5cN/dtex、破断伸度28%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。
明度Lは、40、耐光性は、3-4級の変色が確認された。薬品処理後の引張強度は、2.9cN/dtex、耐アルカリ性は、83%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
【0060】
[比較例4]
実施例2と同じ方法で紡糸ドープを作成し、紡糸・延伸・洗浄まで実施した。
洗浄後、表面温度180℃の熱ローラーを用いて乾燥を行い、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下とした後、トウ温度を100℃に保ったまま不活性ガスとして窒素(N2)が充填されたゾーンにて波長250~400nmの紫外線を含む光を照射できるUV-Bランプを実施例2より距離を開けて紫外線の照射を90秒間行った。この時のUV照射強度は、80mW/cm2であった。
次いで、表面温度300℃の熱ローラーを用いて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維をトウの状態で紙管に巻き取った。
【0061】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。得られた原綿の繊度は、1.7dtex、引張強度3.5cN/dtex、破断伸度33%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。
明度Lは40、耐光性は4級と変色の少ないものであったが、薬品処理後の引張強度は3.1cN/dtex、耐アルカリ性は89%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
【0062】
[実施例3]
実施例1と同じ方法で得られた透明なポリマー溶液よりポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離したのち、アミド系溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)にポリマー濃度24%となるよう溶解し、紡糸ドープとした。
得られたポリマー溶液を紡糸液として、孔径0.07mm、孔数300の口金より、凝固浴温度85℃の浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/塩化カルシウム/NMP(質量比)=55/41/4であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出し紡糸した。
次いで得られた凝固糸を、30℃の水浴(浸漬長8.0m)、98℃の温水浴(浸漬長5.2m)中で1.45倍に延伸し、さらに98℃の温水浴(浸漬長0.4m)中で洗浄を行った。
【0063】
洗浄後、表面温度180℃の熱ローラーを用いて乾燥を行い、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下とした後、表面温度350℃の熱ローラーを用いて乾熱処理を施しながら、トウ温度を345℃に保ったまま不活性ガスとして窒素(N2)が充填されたゾーンにて波長250~400nmの紫外線を含む光を照射できるUV-Bランプを実施例2より近い距離から紫外線の照射を20秒間行ったのち、トウの状態で紙管に巻き取った。この時のUV照射強度は、150mW/cm2であった。
【0064】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.2dtex,引張強度5.2cN/dtex、破断伸度36%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。明度Lは、86であった。耐光性は、4-5級と変色が僅かであった。また薬品処理後の引張強度は、5.1cN/dtex、耐アルカリ性は、98%と非常に良好なものであった。よって、優れた引張強度を有し、かつ、耐光性と、耐アルカリ性に優れたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができた。
【0065】
[比較例5]
紫外線照射時に不活性ガスを用いず空気中で行った以外は、全て実施例3と同じ方法で実施し、51mmにカットされた原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.2dtex,引張強度4.9cN/dtex、破断伸度33%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。明度Lは、85であった。耐光性は、3-4級の変色が確認された。薬品処理後の引張強度は、4.5cN/dtex、耐アルカリ性は、92%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
【0066】
[比較例6]
実施例3と同じ方法で紡糸ドープを作成し、紡糸・延伸・洗浄まで実施した。
洗浄後、表面温度180℃の熱ローラーを用いて乾燥を行い、残存水分量が繊維質量全体に対して0.1質量%以下とした後、表面温度370℃の熱ローラーを用いて乾熱処理を施しながら、トウ温度を365℃に保ったまま不活性ガスとして窒素(N2)が充填されたゾーンにて波長250~400nmの紫外線を含む光を照射できるUV-Bランプを実施例2より近い距離から紫外線の照射を20秒間行ったのち、トウの状態で紙管に巻き取った。この時のUV照射強度は、150mW/cm2であった。
【0067】
さらに得られたトウ状態の繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.1dtex,引張強度4.3cN/dtex、破断伸度27%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。明度Lは78であった。耐光性は3-4級の変色が確認された。薬品処理後の引張強度は3.8cN/dtex、耐アルカリ性は88%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
【0068】
[比較例7]
紫外線照射を行わなかった以外は、全て実施例3と同じ方法で実施し、51mmにカットされた原綿を得た。得られた原綿の繊度は、2.2dtex,引張強度5.3cN/dtex、破断伸度40%と防護衣料に用いるのに問題のない物性であった。明度Lは、88であり、耐光性3級の変色が確認された。薬品処理後の引張強度は、3.4cN/dtex、耐アルカリ性は、90%であり高い耐アルカリ性を得ることはできなかった。
実施例1~3、比較例1~7により得られたメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性をまとめて表1に示す。
【0069】