(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110162
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】SARSコロナウイルス2不活性化剤
(51)【国際特許分類】
A01N 41/04 20060101AFI20230802BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230802BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20230802BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
A01N41/04 Z
A01P1/00
A61K31/185
A61P31/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011421
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】野田 恵
(72)【発明者】
【氏名】八城 勢造
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
【テーマコード(参考)】
4C206
4H011
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JA06
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZB33
4H011AA04
4H011BB07
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】低濃度であっても、SARSコロナウイルス2に対して高い不活性効果を有する、SARSコロナウイルス2不活性化剤、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物、及びSARSコロナウイルス2の不活性化方法を提供する。
【解決手段】(a)炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩を有効成分として含有する、SARSコロナウイルス2不活性化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩〔以下、(a)成分という〕を有効成分として含有する、SARSコロナウイルス2不活性化剤。
【請求項2】
(a)成分が、炭素9又は10の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩である、請求項1に記載のSARSコロナウイルス2不活性化剤。
【請求項3】
(a)成分を、0.001質量%以上100質量%以下含有する、請求項1又は2に記載のSARSコロナウイルス2不活性化剤。
【請求項4】
(a)炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩〔以下、(a)成分という〕を有効成分として含有し、水を含有する、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物。
【請求項5】
(a)成分が、炭素9又は10の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩である、請求項4に記載のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物。
【請求項6】
(a)成分を10質量ppm以上30000質量ppm以下含有する、請求項4又は5に記載のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物。
【請求項7】
請求項4~6の何れか1項に記載のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、SARSコロナウイルス2が存在する対象表面に接触させる、SARSコロナウイルス2の不活性化方法。
【請求項8】
前記SARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、SARSコロナウイルス2が存在する対象表面に1分以上30分以下接触させる、請求項7に記載のSARSコロナウイルス2の不活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARSコロナウイルス2不活性化剤、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物、及びSARSコロナウイルス2の不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザや風邪等に代表されるウイルス性の感染症は、手指や生活環境における硬質表面の洗浄が重要な予防法の1つと考えられている。近年、SARSコロナウイルス2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)による感染症の拡大も深刻な問題となっている。病原性ウイルスは、細菌と異なり自己増殖能がなく、ヒトなどの動物や細菌などの細胞に寄生して、その細胞の機能を利用することにより増殖する。従って、細菌などに対する抗生物質のような、罹患後の抗ウイルス薬として有効なものは少なく、消毒剤などにより感染防止を行うのが有効である。
【0003】
この観点からのアプローチとして、ウイルスを不活性化することはウイルスによる感染防止に役立つと考えられる。従来、ドデシル硫酸ナトリウムのような陰イオン界面活性剤がウイルス不活性化能を有することは知られている。しかしながらその効果は陰イオン界面活性剤の濃度が高い溶液に30分以上接触させるような条件で得られるものであり、例えば手洗いなどの短時間で、しかも環境安全性の観点から陰イオン界面活性剤の濃度が低い溶液で、高いウイルス不活性化能を獲得する技術が強く求められる。
【0004】
特許文献1には、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸塩を含有するウイルス不活化剤が記載されている。
特許文献2には、スルホコハク酸型界面活性剤がウイルス不活化剤の補助成分として用いる技術が開示されているが、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-500524号公報
【特許文献2】特開昭58-135802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の第8表の通り、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸塩の濃度が0.01mg/mlの溶液を、ウイルスに1時間接触させても、ウイルス不活化能は19%と十分満足できるレベルではない。また、特許文献1及び2について、特定のアルキル基を有するスルホコハク酸エステルが低濃度でしかも短時間にウイルスを除去できる点については示唆がなく、また想起することもできない。
本発明は、低濃度であっても、SARSコロナウイルス2に対して高い不活性効果を有する、特に、SARSコロナウイルス2不活性化剤、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物、及びSARSコロナウイルス2の不活性化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩〔以下、(a)成分という〕を有効成分として含有する、SARSコロナウイルス2不活性化剤に関する。
【0008】
また本発明は、(a)成分を有効成分として含有し、水を含有する、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物に関する。
【0009】
また本発明は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を、SARSコロナウイルス2が存在する対象表面に接触させる、SARSコロナウイルス2の不活性化方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低濃度であっても、SARSコロナウイルス2に対して高い不活性効果を有する、SARSコロナウイルス2不活性化剤、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物、及びSARSコロナウイルス2の不活性化方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、SARSコロナウイルス2不活性化効果の検証は、評価サンプルと接触させたSARS-CoV-2をVero C1008細胞に感染させた系によって行われる。具体的には、実施例に記載した[Vero C1008 を用いた抗SARS-CoV-2検証試験]に記載の不活性化検証試験の判断による。
【0012】
〔SARSコロナウイルス2不活性化剤〕
<(a)成分>
本発明の(a)成分は、炭素数9以上12以下の分岐鎖アルキル基を有するスルホコハク酸分岐アルキルエステル又はその塩である。
(a)成分は、エステルがモノエステルであるもの、ジエステルであるものが挙げられる。好ましくは、分岐アルキル基が炭素数9以上12下の分岐アルキル基であるスルホコハク酸分岐アルキルジエステルである。
【0013】
(a)成分の分岐アルキル基は、炭素9又は10の分岐鎖アルキル基が好ましく、炭素数6又は7の主鎖と1以上の側鎖とを有し側鎖の炭素数の合計が3である分岐アルキル基がより好ましい。
(a)成分の分岐アルキル基は、2-プロピルヘプチル基及び3,5,5-トリメチルヘキシル基から選ばれる分岐アルキル基が好ましい。
【0014】
(a)成分としては、下記一般式(a1)で表されるスルホコハク酸分岐エステルが挙げられる。
【0015】
【0016】
〔式中、R1a、R2aは、それぞれ独立して、炭素数9以上12下の分岐アルキル基である。A1、A2はそれぞれ独立に炭素数2以上4以下のアルキレン基、x、yは平均付加モル数でありそれぞれ独立に0以上6以下である。M1は水素原子又は陽イオンである。〕
【0017】
更に(a)成分としては、下記一般式(a1-1)で表されるスルホコハク酸分岐アルキルエステルが挙げられる。この化合物は、一般式(a1)でx=0、y=0の化合物である。
【0018】
【0019】
〔式中、R1a、R2aは、それぞれ独立して、炭素数9以上12下の分岐アルキル基である。M1は水素原子又は陽イオンである。〕
【0020】
以下の説明は、一般式(a1)及び一般式(a1-1)のそれぞれについて適用できる。
R1a、R2aの炭素数は、同一あるいは異なっていてもよい。
本発明においては、第2級アルコールから水酸基を除去した炭化水素残基を、鎖式分岐炭化水素基に含める。
【0021】
本発明において、R1a、R2aの鎖式分岐炭化水素基のうち、酸素原子に結合している炭素原子から数えて炭素数が最も大きい炭化水素鎖を主鎖とし、主鎖から分岐して結合している炭化水素鎖を側鎖とする。
主鎖が2つ以上考えられる場合、即ち炭素数が最も大きい炭化水素鎖(以下、最長炭化水素鎖ともいう)が2つ以上ある場合、下記の順序で主鎖を決める。
1.最長炭化水素鎖から分岐する側鎖の炭素原子数が大きい方を主鎖とする。
2.次に、最長炭化水素鎖から分岐する側鎖の炭素原子数が同じである場合は、最長炭化水素鎖から分岐する側鎖の数が多い方を主鎖とする。
3.次に、最長炭化水素鎖から分岐する側鎖の数が同じである場合は、酸素原子に結合している炭素原子から数えて、酸素原子により近い炭素原子に側鎖を有する方を主鎖とする。
4.次に、酸素原子に最も近い、側鎖を有する炭素原子の位置が同じ場合は、酸素原子に最も近い側鎖の炭素原子数が多い方を主鎖とする。
なお、2つ以上の最長炭化水素鎖が、同一の対称構造を有する場合は、どちらを主鎖としてもよい。
【0022】
R1a、R2aのそれぞれの分岐アルキル基において、側鎖を構成する炭素数の合計は、同一あるいは異なっていてもよく、ウイルス不活性化性能の観点から、好ましくは3である。
本発明において、側鎖を構成する炭素数の合計とは、一つの分岐アルキル基において、主鎖以外の全側鎖の炭素数を合計したものであり、側鎖が複数ある場合は、それら全側鎖の炭素数の合計である。
【0023】
R1a、R2aの側鎖の数は、同一あるいは異なっていてもよく、ウイルス不活性化性能の観点から、1以上、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
本発明において、側鎖の数とは、主鎖から分岐する側鎖の数であり、側鎖が、更に当該側鎖から分岐する側鎖を有していても側鎖の数としては変わらない。但し、水溶性向上の観点から、側鎖が更に当該側鎖から分岐する側鎖を有していてもよい。
【0024】
R1a、R2aの分岐炭素の数は、同一あるいは異なっていてもよく、ウイルス不活性化性能の観点から、1以上、そして、好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下である。
本発明において、分岐炭素の数とは、鎖式分岐炭化水素基中の第3級炭素原子と第4級炭素原子の数の合計である。
【0025】
R1a、R2aの好ましい態様は、R1a、R2aの鎖式分岐炭化水素基の総炭素数が、それぞれ独立して、炭素数9以上12以下、更に9又は10、主鎖の炭素数が、それぞれ独立して、6又は7、側鎖を構成する炭素数が、それぞれ独立して、1以上3以下、側鎖の数が、それぞれ独立して、1である。
【0026】
R1a、R2aの具体的な分岐アルキル基は、それぞれ同一あるいは異なっていてもよく、2-プロピルヘプチル基及び3,5,5-トリメチルヘキシル基から選ばれる分岐アルキル基が好ましい。
【0027】
一般式(a1)中、A1、A2は、それぞれ独立に、炭素数2以上、そして、炭素数4以下、好ましくは3以下のアルキレン基である。
一般式(a1)中、x、yは、平均付加モル数であり、ウイルス不活性化性能の観点から、それぞれ独立に、0以上、そして、6以下、好ましくは4以下、より好ましくは2以下であり、更に好ましくは0である。
また、x+yは、ウイルス不活性化性能の観点から、好ましくは0以上、そして、好ましくは12以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは0である。
【0028】
一般式(a1)中、M1は、水素イオン、あるいはナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等の無機陽イオン、モノエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、モルホリニウムイオン等の有機陽イオンであり、好ましくはナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン及びマグネシウムイオンから選ばれる無機陽イオンである。
【0029】
一般式(a1)中、R1a、R2aが同一の化合物の調製方法としては、特に限定されるものではないが、例えば米国特許明細書第2,028,091号公報に記載の方法を参考にして製造することができ、また、R1a、R2aが異なる非対称の化合物の調製方法としては、例えば特開昭58-24555号公報を参考にして製造することができる。(a)成分の原料として、所定炭素数のアルコールにアルキレンオキシドを付加したものを用いることもできる。
本発明の(a)成分の製造に用いられる好適なアルコールとしては、
(1)3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール、2-プロピルヘプタン-1-オールなどに代表される第1級アルコール、
(2)5-ノナノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノールなどに代表される第2級アルコール
が挙げられる。
【0030】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤は、(a)成分を有効成分として含有する。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤は、(a)成分を、ウイルス不活性化性能の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に0.1質量%以上、更に0.3質量%以上、更に1質量%以上、更に5質量%以上、更に10質量%以上、更に25質量%以上、更に50質量%以上、更に75質量%以上、更に90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下含有する。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤は、(a)成分を100質量%含有してもよい。すなわち、本発明は、(a)成分からなるSARSコロナウイルス2不活性化剤であってよい。
なお本発明において、(a)成分の質量に関する規定は、ナトリウム塩に換算した値を用いるものとする。
【0031】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、(a)成分以外のその他の成分を含有することができる。
その他成分としては、水、界面活性剤、溶剤、防腐剤、色素、香料、消泡剤、金属封鎖剤、安定化剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0032】
本発明のコロナウイルス不活性化剤が対象とするSARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルスである。SARS-CoV-2は、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度で、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。また、ウイルス粒子(ビリオン)は、50~200nmほどの大きさである。一般的なコロナウイルスと同様に、スパイクタンパク質、ヌクレオタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質として知られる4つのタンパク質と、RNAより構成されている。このうちヌクレオタンパク質がRNAと結合してヌクレオカプシドを形成し、脂質と結合したスパイクタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する(Apneumoniaoutbreakassociatedwithanewcoronavirusofprobablebatorigin.Nature.2020Mar;579(7798):270-273.、AnewcoronavirusassociatedwithhumanrespiratorydiseaseinChina.Nature.2020Mar;579(7798):265-269.)
【0033】
スパイクタンパク質は、2つのサブユニット、S1及びS2からなる大きなI型膜貫通型タンパク質で、S1は主に、細胞表面の受容体を認識する受容体結合ドメイン(RBD)が、S2には膜融合に必要な要素が含まれている。S1に結合する既知の受容体には、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)、DPP4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)、APN(アミノペプチダーゼN)、CEACAM(癌胎児性抗原関連細胞接着分子1)、O-acSia(O-アセチル化シアル酸)があり、SARS-CoV-2は、ヒトACE2を介してヒト呼吸上皮細胞に感染することが報告されている(Structure,Function,andAntigenicityoftheSARS-CoV-2SpikeGlycoproteinCell.Volume181,Issue2,16April2020,Pages281-292.e6)
【0034】
SARS-CoV-2は2019年に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認され、その後、COVID-19の世界的流行(パンデミック)を引き起こしており、課題性の大きいウイルスである。
【0035】
本発明は、(a)成分を有効成分として含有する、SARSコロナウイルス2不活性化剤としての使用を提供する。
(a)成分は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤で記載した態様と同じである。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤としての使用は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤で記載した態様を適宜適用することができる。
【0036】
〔SARSコロナウイルス2不活性化用組成物〕
本発明は、(a)成分を有効成分として含有し、水を含有する、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物を提供する。
本発明では(a)成分、及び水を含有するSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を、SARSコロナウイルス2に接触させる、又はSARSコロナウイルス2が存在する対象表面に接触させる方法が簡便性および不活性化効果の点から好ましい。
(a)成分は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤で記載した態様と同じである。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤を配合させることで調製されてもよい。すなわち本発明は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤を有効成分として含有し、水を含有する、SARSコロナウイルス2不活性化用組成物であってもよい。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤で記載した態様を適宜適用することができる。
【0037】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、(a)成分を、ウイルス不活性化性能の観点から、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは20質量ppm以上、更に好ましくは30質量ppm以上、より更に好ましくは50質量ppm以上、そして、配合安定性の観点から、好ましくは30000質量ppm以下、より好ましくは20000質量ppm以下、更に好ましくは10000質量ppm以下、より更に好ましくは1000質量ppm以下、より更に好ましくは500質量ppm以下、より更に好ましくは250質量ppm以下、より更に好ましくは100質量ppm以下含有する。本発明のSARSコロナウイルス2不活化用組成物は、(a)成分を、好ましくは10質量ppm以上250ppm以下、より好ましくは10質量ppm以上100ppm以下の低濃度でも、短時間で該ウイルスを不活性化することができる点で好ましい。
【0038】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、水を含有する。すなわち、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、(a)成分、下記に示す任意成分以外の残部が水である。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、水を、好ましくは40質量%を超え、より好ましくは45質量%を超え、更に好ましくは50質量%を超え、特に好ましくは60質量%を超え、そして、好ましくは99.99質量%未満、より好ましくは99.9質量%未満、更に好ましくは99.7質量%未満、より更に好ましくは98質量%未満、特に好ましくは96質量%未満含有する。
【0039】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、対象物に接触させる方法に供される場合、対象物への濡れ性、及び浸透性、及び付着汚れの除去性の点から、(b)界面活性剤[但し、(a)成分を除く][以下、(b)成分という]を含有することができる。
【0040】
(b)成分としては、例えば、(b1)半極性界面活性剤〔以下、(b1)成分という〕、(b2)両性界面活性剤〔以下、(b2)成分という〕、(b3)陰イオン界面活性剤[但し、(a)成分を除く][以下、(b3)成分という〕、及び(b4)非イオン界面活性剤〔以下、(b4)成分という〕、から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0041】
(b1)成分としては、炭素数8以上22以下のアルキル基を1つ以上、好ましくは1つ有するアミンオキサイド型界面活性剤が挙げられる。
(b2)成分としては、炭素数8以上22以下のアルキル基を1つ以上、好ましくは1つ有するスルホベタイン型界面活性剤、又は炭素数8以上22以下のアルキル基を1つ以上、好ましくは1つ有するカルボベタイン型界面活性剤が挙げられる。
(b3)成分としては、アルキル基の炭素数8以上22以下のアルキル硫酸エステル、アルキル基の炭素数8以上22以下のアルキルベンゼンスルホン酸、アルキル基の炭素数8以上22以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(オキシアルキレン基は、炭素数は2又は3のオキシアルキレン基であり、好ましくはオキシエチレン基であり、オキシアルキレン基の平均付加モル数は、0.5以上5以下、好ましくは0.5以上3以下である。)、炭素数8以上14以下の脂肪酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
(b4)成分としては、アルキル基の炭素数8以上22以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテル(オキシアルキレン基は、炭素数2又は3のオキシアルキレン基、好ましくはオキシエチレン基であり、オキシアルキレン基の平均付加モル数は、3以上50以下、好ましくは3以上20以下である。)、及びアルキル基の炭素数が8以上22以下のアルキルグリコシド(グルコース等の糖骨格の平均縮合度は1以上5以下、好ましくは1以上2以下である。)から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0042】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、(b)成分を、対象物への濡れ性や浸透性、及び付着汚れの除去性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下含有する。
なお本発明において、(b)成分として、(b3)成分を用いる場合、(b3)成分の質量に関する規定は、ナトリウム塩に換算した値を用いるものとする。
【0043】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物において、(b)成分を含有する場合、(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)は、ウイルス不活性化性能や付着汚れの除去性の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.2以上、そして、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下である。
【0044】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、対象物への濡れ性、及び浸透性の点から、(c)水溶性有機溶剤〔以下、(c)成分という〕を含有することができる。
本発明の水溶性有機溶剤とは、100gの20℃の脱イオン水に対して20g以上溶解するものをいう。
【0045】
(c)成分としては、(c1)炭素数2以上4以下の多価アルコール、(c2)アルキレングリコール単位の炭素数が2以上4以下のジ又はトリアルキレングリコール、及び(c3)アルキレングリコール単位の炭素数が2以上4以下のジないしテトラアルキレングリコールのモノアルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ)エーテル、フェノキシ又はベンゾオキシエーテルから選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0046】
(c)成分としては、炭素数2以上、好ましくは炭素数3以上、そして、炭素数12以下、好ましくは炭素数8以下の水溶性有機溶剤が好ましい。
具体的には(c1)として、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、イソプレングリコール、(c2)として、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、(c3)として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコールなどとも称される)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシトリエチレングリコール、フェノキシイソプロパノールが挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。(c)成分としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、フェノキシエタノール、フェニルグリコール、及びフェノキシイソプロパノールから選ばれる1種以上の水溶性有機溶剤が好ましい。(c)成分は、アルコキシ基を有するものが好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
【0047】
なお、水溶性有機溶剤である炭素数1以上3以下の1価アルコール[以下、(c4)成分という]は、殺菌・消毒用アルコール類として用いられており、高濃度含有することで殺菌効果が得られるものであるが、皮膚などの人体に頻繁に接触させる商品用途に使える様に、処方面からマイルド性を担保することが望ましい。
【0048】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、(c4)成分の含有量が、皮膚への刺激性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下である。また本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、炭素数1以上3以下のアルコールを含有しなくともよい。
【0049】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、(c)成分(但し、(c4)成分を除く)、特に(c1)~(c3)成分を、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、より更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下含有することができる。
【0050】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、殺菌剤を含有しなくとも、SARSコロナウイルス2に対して高い不活性効果を有する。
殺菌剤の具体例としては、塩化ベンザルコニウム、アルキルリン酸ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩化合物;トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、レゾルシン、トリクロロカルバニド、塩化クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、ポピドンヨード、及びヨードチンキから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0051】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、(a)成分以外の殺菌剤、特に陽イオン性の殺菌剤を含有すると、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化効果を減じる場合があるため、使用する場合には注意を要する。本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、殺菌剤の含有量が、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.01質量%以下である。但し、殺菌剤からは(a)成分は除かれる。また本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、殺菌剤を含有しなくともよい。
【0052】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、例えば、無機塩、無機酸、キレート剤、香料(天然香料、合成香料)、増粘剤、ゲル化剤、高分子化合物(分散剤)、ハイドロトープ剤、保湿剤、保存料、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、緩衝剤、消泡剤などの成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0053】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、pHが酸性からアルカリ性領域であっても、SARSコロナウイルス2に対して高い不活性効果を有する。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物において、ガラス電極法によって測定される25℃におけるpHは、皮膚への刺激性の観点から、0以上、更に1以上、更に2以上、更に3以上、更に4以上、更に5以上、そして、13以下、更に12以下、更に11以下、更に10以下、更に9以下から選択できる。
【0054】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物は、例えば、液状、ゲル状、又はペースト状で用いることができる。それらの使用形態に応じて、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物、水、溶剤等の可溶化キャリア、ゲル化剤などを適宜含有させることができる。
【0055】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を用いる対象表面は、(1)身体、例えば人の皮膚、手指、毛髪及び口腔内など、(2)食品、例えば、野菜等の食品素材表面など、(3)硬質物品、(4)繊維製品、例えば、布、糸等の繊維素材及びこれらを用いて製造された製品など、を対象とすることができる。硬質物品としては、例えば、浴室、トイレ、台所、床、ドアノブ、食器、食品加工設備、机、いす、壁、などの硬質表面を有する硬質物品が挙げられる。これらの硬質物品は、家庭で用いられるものであっても、公共施設や工場、例えばプール、浴場、食堂、病院などで用いられるものであってよい。
【0056】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物が、対象とするSARSコロナウイルス2は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤で挙げたSARSコロナウイルス2と同じである。
【0057】
<SARSコロナウイルス2の不活性化方法>
本発明は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、SARSコロナウイルス2が存在する対象表面に接触させる、SARSコロナウイルス2の不活性化方法を提供する。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を対象表面に接触させる態様は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を水で希釈せずに原液で対象表面に接触させてもよいし、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を水で希釈した処理液で対象表面に接触させてもよい。
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を水で希釈した処理液を調製する場合は、希釈倍率は、ウイルス不活性化性能の観点から、好ましくは1000倍以下、より好ましくは500倍以下、更に好ましくは100倍以下、更に好ましくは50倍以下であり、また本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物を原液で使用してもよい。
【0058】
SARSコロナウイルス2の不活性化方法は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化剤、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物で記載した態様を適宜適用することができる。
対象表面は、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物で挙げたものと同じである。
【0059】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、SARSコロナウイルス2が存在する硬質表面に接触させるに際しての使用形態に特に制限はないが、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、スプレー、ローション等として用いることができる。例えば、トリガースプレー容器(直圧又は蓄圧型)やディスペンサータイプのポンプスプレー容器等の公知のスプレー容器に充填し、噴霧量を調整して、SARSコロナウイルス2が存在する、又は存在すると考えられる対象表面に噴霧できるようにしたもの等が挙げられる。
また、ウェット拭取り用品(ぬれナプキン等)として使用することもできる。例えば、天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成繊維、又は天然繊維と合成繊維との混合物の織布又は不織布ウェブを含む基材に、本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液、可溶化キャリア、及び必要に応じて各種添加剤を含ませて使用することができる。具体的には、皮膚コンディショナーや、ペットの手入れ用品、家庭の台所やバスルーム、トイレ、便座等の表面、運動器具等の表面の殺菌等に使用することができる。
【0060】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、水溶性ゲルや油性ゲルを用いてゲル状にしたり、ペースト状とした場合には、医療用品として、人体、ペット等に直接塗布して使用したり、紙や不織布等に担持させたものを、空気清浄器やエアーコンディショナーのフィルターとして用いることもできる。
【0061】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液の使用量は特に限定されるものではないが、例えば、対象物の単位面積1m2あたり、(a)成分の量として、ウイルス不活性化性能及び使用後の仕上がり性の観点から、好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上、そして、好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下とすることができる。
【0062】
本発明のSARSコロナウイルス2不活性化用組成物又はそれを水で希釈した処理液を、SARSコロナウイルス2が存在する対象表面に接触させる時間(放置させる時間)は、ウイルス不活性化性能の観点から、好ましくは15秒以上、より好ましくは30秒以上、更に好ましくは1分以上、そして、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、更に好ましくは30分以下、より更に好ましくは10分以下、より更に好ましくは5分以下、より更に好ましくは3分以下、より更に好ましくは1分以下である。
【実施例0063】
実施例1~4、比較例1~3
[VeroC1008 を用いた抗SARS-CoV-2検証試験]
VeroC1008を用いた抗SARS-CoV-2検証試験の概要は以下のとおりである。
【0064】
(材料)
SARS-CoV-2:JPN/TY/WK-521
細胞:Vero C1008 (ATCC CRL-1586)
培地:500mLMEM (Sigma-Aldrich, M4655)
5mL Penicillin-Streptomycin(10,000 U/mL)(Gibco,15140122)
FBS:biosera,FB-1365/500,Lot10259
非働化56℃、30分
通常培養時10%培地に添加
感染時2%培地に添加
Trypsin:TrypLE(登録商標) Select Enzyme (1X), no phenol red(Gibco,12563011)
RT-qPCR:SARS-CoV-2 Detection Kit-N2 set-(東洋紡, NCV-302)
【0065】
(プロトコル)
1.VeroC1008を96well plateに100%コンフルエントとなるようにまいた。
2.オートクレーブした水道水で(a)成分又は(a’)成分((a)成分の比較成分)を希釈し、表1の評価液を調製した。
3.評価液27μLとSARS-CoV-2液3μL(約4×105TCID50相当)を混合した。
4.室温で10分反応させた。
5.2%FBS培地 270μLを添加し、反応を停止させた。
6.5.の溶液20μLを180μLの2%FBS培地へと事前に培地交換したVero C1008の96plateに添加・混合した。
7.37℃/5%CO2下で1時間感染させた。
8.2%FBS 培地 200μLで2回洗浄した。
9.37℃/5%CO2下で3日間培養した。
10.ウイルス性細胞変性効果とRT-qPCRによりSARS-CoV-2不活性化を判断した。
IX73(オリンパス社)を用いた顕微鏡観察でウイルスによる細胞変性効果が認められず、かつ、培養上清のRT-qPCRでウイルスゲノムが検出できなかった場合にSARS-CoV-2を不活性化したと判断した。RT-qPCRではCt(Threshold Cycle)値が30未満となった場合にウイルスが増殖したと判断した。
【0066】
[試験結果]
結果を表1に示す。Vero C1008を用いた抗SARS-CoV-2検証試験でSARS-CoV-2不活性化が認められたものは「〇」、SARS-CoV-2不活性化が認められなかったものは「×」とした。
【0067】
【0068】
<ジ-(2-プロピルヘプチル)スルホコハク酸ナトリウムの製造方法>
表1に記載したジ-(2-プロピルへプチル)スルホコハク酸ナトリウムを以下の通り調製した。撹拌装置、加熱システム、蒸留カラム及び窒素/真空接続を備えた容量2Lの4首フラスコに、無水マレイン酸176.5g(1.8モル)及び2-プロピルヘプタノール626.6g(4.0モル)とp-トルエンスルホン酸一水和物2.5g(0.013モル)を仕込み、窒素置換後に窒素バブリング下、100~130℃で脱水しながら酸価がp-トルエンスルホン酸相当量に低下するまで反応させた。続けて反応容器内容物の総量に対し1質量%のキョーワード500SH(共和化学工業株式会社製)により触媒を吸着処理した。吸着剤を除去した後、余剰のアルコールをトッピングにより除去し、マレイン酸ジエステルを得た。
【0069】
次に、1Lのガラス製反応容器に上記で得られたマレイン酸ジエステル278g(0.70モル)、二亜硫酸ナトリウム73g(0.38モル)及びイオン交換水48g(2.7モル)を仕込み、アルコール系の極性溶媒を用い、公知の方法により、NMRでマレイン酸ジエステル由来の二重結合が消失するまで115℃で反応した。50~65℃に冷却し、残留する亜硫酸水素ナトリウムを30%過酸化水素で酸化処理した後に、10%NaOHでpHを5に調整した。減圧による留去、再沈殿、分液などにより、溶媒と芒硝を除去し、ジ-(2-プロピルへプチル)スルホコハク酸ナトリウムを得た。なお、ジ-(2-プロピルへプチル)スルホコハク酸ナトリウムの製造では、以下の成分を用いた。
・無水マレイン酸:富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級
・2-プロピルヘプタノール:富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級
・p-トルエンスルホン酸一水和物:富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級
・二亜硫酸ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級